(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151018
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】積層体、包装材、包装体および積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/10 20060101AFI20220929BHJP
B32B 27/28 20060101ALI20220929BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B32B27/10
B32B27/28 101
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053888
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・ダウポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】橋本 秀則
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】奥山 祥吾
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA14
3E086BA15
3E086BA16
3E086BB01
3E086BB51
3E086CA01
3E086CA28
3E086CA35
3E086DA08
4F100AK70A
4F100BA02
4F100DG10B
4F100EH23A
4F100EJ61
4F100GB15
4F100JA13B
4F100JK06
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】樹脂層を薄膜にしても、当該樹脂層と紙基材とがダイレクト接着され、かつ、得られた積層体において、紙基材と樹脂層との間の良好な接着強度が得られる積層体を提供する。
【解決手段】積層体10は、紙基材1と、紙基材1の片面または両面に隣接して設けられた樹脂層2と、を備え、紙基材1は、坪量が10g/m
2以上200g/m
2未満であり、樹脂層2は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を含み、樹脂層2は、厚みが1μm以上15μm未満である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材と、
前記紙基材の片面または両面に隣接して設けられた樹脂層と、
を備える積層体であって、
前記紙基材は、坪量が10g/m2以上200g/m2未満であり、
前記樹脂層は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を含み、
前記樹脂層は、厚みが1μm以上15μm未満である積層体。
【請求項2】
請求項1記載の積層体において、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を構成する共重合体の全構成単位に対して、不飽和カルボン酸に由来する構成単位を1質量%以上25質量%以下含む積層体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の積層体において、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の中和度が5%以上50%以下である積層体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の積層体において、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の一部または全部が、二価の金属イオンで中和されている積層体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の積層体において、
前記紙基材の前記樹脂層側の面がコロナ処理されている積層体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の積層体において、
前記樹脂層が、押出コーティング加工層である積層体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の積層体により構成された層を少なくとも備える包装材。
【請求項8】
請求項7に記載の包装材と、前記包装材により包装された物品と、を備える包装体。
【請求項9】
紙基材と、前記紙基材の片面または両面に隣接して設けられた樹脂層と、を備える積層体の製造方法であって、
前記紙基材は、坪量が10g/m2以上200g/m2未満であり、
前記樹脂層は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を含み、
前記樹脂層は、厚みが1μm以上15μm未満である積層体であり、
前記紙基材上に前記樹脂層を構成する樹脂組成物を溶融押出コーティングすることにより、前記紙基材上に前記樹脂層を形成する押出工程を含む積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、包装材、包装体および積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的に環境問題に対する取り組みが広がっており、中でもプラスチック使用量の削減や、有機溶剤使用量の削減が注目されている。プラスチック使用量の削減の取り組みの一つとして、包装材料としてバイオマス材料のひとつである紙の活用検討が増加している。紙自体にシール性能は無く、紙のみを包装材料として使用することができるのは、ごく限られた用途、目的、被包装物にとどまる。そのため、一般的には、紙にシール性能などを付与するため、紙とプラスチックとを積層した複合材料が使用されている。
【0003】
紙とプラスチックとは、一般的に接着し難いことから、紙基材とプラスチックフィルムとを有機溶剤を含む接着剤を介して積層されることが多い。例えば、特許文献1では、純白紙と2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとを2液硬化型ドライラミネート接着剤を介して積層することが記載されている。また、特許文献2、特許文献3では、ポリエステルポリオールとポリイソシアネート化合物を含有してなるガスバリア性接着剤層を介して、紙層とシーラントフィルムである未延伸ポリエチレンフィルム(LLDPE)とを積層することが記載されている。
【0004】
一方で、有機溶剤を含む接着剤を使用することなく紙とプラスチックとを直接積層させる技術(いわゆるダイレクト接着)も知られている。
【0005】
例えば、特許文献4では、コロナ処理を施した紙基材に、高圧法低密度ポリエチレンを積層することが記載されている。特許文献5では、クラフト紙に、エチレン-αオレフィン共重合体とプロピレン-エチレン共重合体との樹脂組成物を積層することが記載されている。特許文献6では、純白ロール紙に、低密度ポリエチレン樹脂とポリエステル樹脂とに相溶化剤を添加した樹脂組成物を積層することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-24372号公報
【特許文献2】特開2017-226186号公報
【特許文献3】特開2018-1539号公報
【特許文献4】特開2015-51632号公報
【特許文献5】特開2017-132134号公報
【特許文献6】特開2007-276194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有機溶剤の使用量を減少させるという観点から、上記のとおり、有機溶剤を含む接着剤を使用する事なく、紙とプラスチックとを直接積層することが好ましい。さらに、紙とプラスチックとを直接積層する場合においても、プラスチック使用量の削減という観点から、可能な限りプラスチック使用量が少ないことが好ましい。そのため、プラスチックは薄膜であることが望まれる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、紙基材とプラスチックとが直接積層され、かつ、薄膜とすることができる積層体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意研究したところ、積層体の樹脂層として、アイオノマーを使用すると、樹脂層を薄膜にしても当該樹脂層と紙基材とがダイレクト接着され、かつ、得られた積層体において、紙基材と樹脂層との間の接着強度が高く、紙剥け状態も良好であることを見出した。
すなわち、本発明によれば、以下に示す積層体等が提供される。
【0010】
[1]
紙基材と、
上記紙基材の片面または両面に隣接して設けられた樹脂層と、
を備える積層体であって、
上記紙基材は、坪量が10g/m2以上200g/m2未満であり、
上記樹脂層は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を含み、
上記樹脂層は、厚みが1μm以上15μm未満である積層体。
[2]
[1]記載の積層体において、
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を構成する共重合体の全構成単位に対して、不飽和カルボン酸に由来する構成単位を1質量%以上25質量%以下含む積層体。
[3]
[1]または[2]に記載の積層体において、
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の中和度が5%以上50%以下である積層体。
[4]
[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の積層体において、
上記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の一部または全部が、二価の金属イオンで中和されている積層体。
[5]
[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の積層体において、
上記紙基材の上記樹脂層側の面がコロナ処理されている積層体。
[6]
[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の積層体において、
上記樹脂層が、押出コーティング加工層である積層体。
[7]
[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の積層体により構成された層を少なくとも備える包装材。
[8]
[7]に記載の包装材と、上記包装材により包装された物品と、を備える包装体。
[9]
紙基材と、上記紙基材の片面または両面に隣接して設けられた樹脂層と、を備える積層体の製造方法であって、
上記紙基材は、坪量が10g/m2以上200g/m2未満であり、
上記樹脂層は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を含み、
上記樹脂層は、厚みが1μm以上15μm未満である積層体であり、
上記紙基材上に上記樹脂層を構成する樹脂組成物を溶融押出コーティングすることにより、上記紙基材上に上記樹脂層を形成する押出工程を含む積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂層を薄膜にしても、当該樹脂層と紙基材とがダイレクト接着され、かつ、得られた積層体において、紙基材と樹脂層との間の良好な接着強度が得られる積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の積層体の断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、数値範囲の「X~Y」は特に断りがなければ、X以上Y以下を表す。
【0014】
1. 積層体について
図1に示すように、本実施形態の積層体10は、紙基材1と、紙基材1の片面に隣接して設けられた樹脂層2と、を備え、紙基材1は、坪量が10g/m
2以上200g/m
2未満であり、樹脂層2は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を含み、樹脂層2は、厚みが1μm以上15μm未満である。
これにより、樹脂層2を薄膜としても、樹脂層2と紙基材1とがダイレクト接着されるとともに、紙基材1と樹脂層2との間の良好な接着強度が得られる。さらには、紙剥け状態を良好にすることができる。
すなわち、紙基材1と樹脂層2との間の接着強度が良好であれば、紙剥け状態が良好になりやすい。紙剥け状態が良好とは、積層体10を紙基材1側の面と樹脂層2側の面とに引き剥がそうとした場合、紙基材1と樹脂層2との間で剥離せず、紙基材1が破壊されながら樹脂層2から剥離することを示す。すなわち、紙基材1と樹脂層2とが良好な接着強度により接着されていることにより、紙基材1と樹脂層2との間で剥離できる程度の接着強度に至る前に、紙基材1が破壊する状態で樹脂層2から剥離する。紙剥け状態として、紙基材1と樹脂層2との間で剥離せず、紙基材1が破壊する状態で樹脂層2から剥離する方が、積層体を裁断、折り曲げ、穴開けなどの二次加工する場合及び包装材などへ使用する場合に切断不良などのトラブルを回避可能である点で好ましい。
なお、本実施形態においては、紙基材1の片面に樹脂層2が隣接して設けられた例について説明するが、樹脂層2は紙基材1の両面に隣接して設けられてもよい。
【0015】
本実施形態の積層体10は、紙基材1と樹脂層2とが有機溶剤を含む接着剤などを介さずに接着されたものであり、いわゆるダイレクト接着されたものである。
積層体10全体の厚みは、積層体10の用途に応じて適宜設定することができるが、好ましくは15μm以上250μm以下であり、より好ましくは30μm以上200μm以下であり、さらに好ましくは50μm以上150μm以下である。
【0016】
以下、積層体10を構成する各層の詳細について説明する。
【0017】
<紙基材>
紙基材1は、坪量が10g/m2以上200g/m2未満であり、好ましくは20g/m2以上150g/m2以下であり、より好ましくは25g/m2以上100g/m2以下であり、さらに好ましくは30g/m2以上80g/m2以下である。
紙基材1の坪量を上記下限値以上とすることにより、積層体の適度な強度が得られる。
紙基材1の坪量を上記上限値以下とすることにより、積層体の加工性を良好にできる。
【0018】
紙基材1としては、上記の坪量を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、上質紙、純白ロール紙、コート紙、クラフト紙、片面アート紙、両面アート紙、および混抄紙などが好適に使用できるが、これらに制限されない。また、必要に応じて紙基材1の外表面に印刷層を設けることができる。
【0019】
紙基材1は、樹脂層2が隣接する側の面において、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、およびオゾン処理等の物理的処理がなされてもよい。なかでも、コロナ処理されていることが好ましい。これにより、接着強度を高めることができる。
また、紙基材1は、その片面または両面がコロナ処理されていてもよい。
【0020】
<樹脂層>
本実施形態の樹脂層2の厚さは、1μm以上15μm未満であり、好ましくは3μm以上13μm以下、さらに好ましくは5μm以上11μm以下である。
樹脂層2の厚さを上記下限値以上とすることにより、押出コーティング時の良好な製膜を確保することができる。一方、樹脂層2の厚さを上記上限値以下とすることにより、紙基材1への接着性を維持しつつ、プラスチック使用量を削減できる。
【0021】
樹脂層2は、紙基材1が隣接する側の面において、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、およびオゾン処理等の物理的処理がなされてもよい。なかでも、オゾン処理されていることが好ましい。これにより、接着強度を高めることができる。
【0022】
樹脂層2は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を含む。これにより、紙基材1への接着性が得られる。
【0023】
樹脂層2中のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の含有量は、樹脂層2の全体を100質量%としたとき、接着性の観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上である。エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の含有量の上限は特に限定されないが、例えば、100質量%である。
【0024】
[エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)]
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)のベース樹脂であるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)は、少なくとも、エチレンと、不飽和カルボン酸から選ばれるモノマーとを共重合成分として共重合させた重合体であり、必要に応じて、エチレンおよび不飽和カルボン酸系以外のモノマーが共重合されてもよい。
【0025】
共重合体においては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよいが、生産性を考慮すると2元ランダム共重合体、3元ランダム共重合体、2元ランダム共重合体のグラフト共重合体あるいは3元ランダム共重合体のグラフト共重合体を使用するのが好ましく、より好ましくは2元ランダム共重合体又は3元ランダム共重合体である。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)としては、エチレン・不飽和カルボン酸2元共重合体及びエチレン・不飽和カルボン酸アルキルエステル・不飽和カルボン酸3元共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0026】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)は、少なくともエチレンと不飽和カルボン酸とが共重合した共重合体であり、さらに第3の共重合成分が共重合した3元以上の多元共重合体であってもよい。
【0027】
多元共重合体において、エチレン及び該エチレンと共重合可能な(メタ)アクリル酸のほかに、第3の共重合成分として、不飽和カルボン酸エステル(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、不飽和炭化水素(例えば、プロピレン、ブテン、1,3-ブタジエン、ペンテン、1,3-ペンタジエン、1-ヘキセン等)、ビニル硫酸やビニル硝酸等の酸化物、ハロゲン化合物(例えば、塩化ビニル、フッ化ビニル等)、ビニル基含有1,2級アミン化合物、一酸化炭素、二酸化硫黄等が共重合されていてもよい。
これらの中でも、第3の共重合成分としては、不飽和カルボン酸エステルが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(アルキル部位の好ましい炭素数は1~4)がより好ましい。
第3の共重合成分に由来の構成単位のエチレン・(メタ)アクリル酸系共重合体中における含有比率は、25質量%以下の範囲が好ましい。
第3の共重合成分に由来の構成単位の含有比率が上記上限値以下であると、生産・混合の点で好ましい。
【0028】
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエステル(マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル等)、無水マレイン酸モノエステル(無水マレイン酸モノメチル、無水マレイン酸モノエチル等)等の炭素数4~8の不飽和カルボン酸又はハーフエステルが挙げられる。
これらの中でも、上記不飽和カルボン酸は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)の生産性等の観点から、アクリル酸およびメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの不飽和カルボン酸は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)において、エチレンに由来する構成単位の含有量は、好ましくは65質量%以上95質量%以下、より好ましくは75質量%以上93質量%以下、さらに好ましくは80質量%以上92質量%以下である。
【0030】
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)において、不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量(すなわち、不飽和カルボン酸の含有量X)は、好ましくは1質量%以上25質量%以下、より好ましくは4質量%以上21質量%以下、さらに好ましくは8質量%以上18質量%以下であり、ことさらに好ましくは10質量%以上17質量%以下である。
【0031】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(A1)中の不飽和カルボン酸の含有量(X)は、例えば、フーリエ変換赤外吸収分光法(FT-IR)により測定することができる。
【0032】
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を構成する金属イオンとしては、リチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン等のアルカリ金属イオン;カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、バリウムイオン等の多価金属イオン等が挙げられる。これらの金属イオンは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なかでも、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、及びバリウムイオン等の二価の金属イオンであることが好ましく、マグネシウムイオン及び亜鉛イオンがより好ましく、亜鉛イオンであることがさらに好ましい。
【0033】
本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の中和度は特に限定されないが、加工性や成形性をより向上させる観点から、50%以下が好ましく、45%以下がより好ましく、40%以下がさらに好ましい。
また、本実施形態に係るエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の中和度は特に限定されないが、積層体をラミネートする際の加工適性をより向上させる観点から、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましい。
【0034】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の中和度は、例えば、焼却残渣分析法により測定することができる。
【0035】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)において、不飽和カルボン酸含有量(X:質量%)と金属中和度(Y:%)を用いてX×Y/100で表される金属イオン含有量は、成膜性を向上させる観点から、0.5以上10以下であることが好ましく、より好ましくは0.6以上8以下であり、さらに好ましくは0.7以上6以下、ことさらに好ましくは0.9以上5以下である。
【0036】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。また、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)は市販されているものを用いてもよい。
【0037】
本実施形態において、JIS K7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)のメルトフローレート(MFR)は、0.1g/10分以上10g/10分以下であることが好ましく、1g/10分以上8g/10分以下であることがより好ましく、2g/10分以上7g/10分以下であることがより好ましい。MFRが上記範囲内であると、紙基材1と樹脂層2との層間接着性が一層良好となる。
【0038】
[その他]
樹脂層2には、本発明の目的を損なわない範囲内において、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)以外の成分を含有させることができる。その他の成分としては特に限定されないが、例えば、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、着色剤、光安定剤、発泡剤、潤滑剤、結晶核剤、結晶化促進剤、結晶化遅延剤、触媒失活剤、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)以外の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、無機充填剤、有機充填剤、耐衝撃性改良剤、スリップ剤、架橋剤、架橋助剤、粘着付与剤、シランカップリング剤、加工助剤、離型剤、加水分解防止剤、耐熱安定剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、難燃剤、難燃助剤、光拡散剤、抗菌剤、防黴剤、分散剤やその他の樹脂等を挙げることができる。その他の成分は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
本実施形態の樹脂層2は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)よびその他の成分を含む樹脂組成物から構成される。本実施形態の樹脂層2の製造方法としては、後述の積層体10の製造方法で説明されるように、当該樹脂組成物を溶融した押出ラミネート法等が好適に挙げられる。この場合、樹脂層2は、押出コーティング加工層である。
【0040】
<その他の層>
積層体10は、紙基材1、および樹脂層2のみで構成されていてもよいし、積層体10に様々な機能を付与する観点から、上記以外の層(以下、その他の層とも呼ぶ。)を有していてもよい。
その他の層としては、例えば、バリア層、シーラント層、発泡層、無機物層、ハードコート層、反射防止層、および防汚層等を挙げることができる。その他の層は1層単独で用いてもよいし、2層以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
<用途>
本実施形態の積層体10は、例えば、食品、医薬品、工業用品、日用品、化粧品等を包装するために用いられる包装材として好適に用いることができる。
【0042】
<製造方法>
積層体10の製造方法としては、紙基材1上に樹脂層2を構成する樹脂組成物を溶融押出コーティングすることにより、紙基材1上に樹脂層2を形成する押出工程を少なくとも含む。すなわち、積層体10の樹脂層2は押出コーティング法によって形成された押出コーティング加工層であることが好ましい。
押出コーティング法を用いると、他の成膜法等に比べて、成形時の樹脂温度を高めることができ、紙基材1上にエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を含む樹脂組成物を溶融状態でコーティングでき、良好な積層状態が得られる。
すなわち、本実施形態に係る積層体10体の製造方法によれば、紙基材1上に、樹脂層2を精度よく安定的に形成することができる。
【0043】
上記押出工程における成形装置および成形条件としては特に限定されず、従来公知の成形装置および成形条件を採用することができる。成形装置としては、T-ダイ押出機等を用いることができる。また、成形条件としては、公知の押出コーティング方法の成形条件を採用することができる。
【0044】
積層体10の製造方法において、押出工程における押出コーティング温度は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の種類や配合によって適宜設定されるため特に限定されないが、製膜性を良好にする観点から、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、280℃以上であることがさらに好ましい。
押出工程における押出コーティング温度の上限は特に限定されないが、例えば、350℃以下である。
【0045】
2.包装材
本実施形態に係る包装材は、上記の積層体10により構成された層を備える。また、本実施形態に係る包装材は、その一部に積層体10を使用してもよいし、包装材の全体に積層体10を使用してもよい。
本実施形態に係る包装材の形状は、特に限定されないが、例えば、シート状、フィルム状、および袋状等の形状が挙げられる。また、上記の袋状の形態は、特に限定されないが、例えば、三方袋、四方袋、ピロー袋、ガセット袋、およびスティック袋等が挙げられる。
本実施形態に係る包装材は、例えば、食品、医薬品、工業用品、日用品、および化粧品等を包装するために用いられる包装材として好適に用いることができ、食品包装材としてさらに好適に用いることができる。
【0046】
3.包装体
本実施形態に係る包装体は、上記の包装材と、包装材により包装された物品と、を備える。物品としては、例えば、食品、医薬品、工業用品、日用品、および化粧品等が挙げられる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0048】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
(1)積層体の材料
なお、メルトフローレート(MFR)は、JIS K7210:1999に準拠して測定した。
<紙基材>
・片面アート紙(三菱製紙株式会社製、坪量79.5g/m2、厚み95μm)
・クラフト紙(大興製紙株式会社製、坪量50g/m2、厚み60μm)
<アイオノマー>
・アイオノマー1:エチレン・メタクリル酸共重合体のZn中和物(エチレン単位含有量85質量%、メタクリル酸単位含有量15質量%、Zn中和度23%、MFR(190℃、2160g荷重)5.0g/10分、密度950kg/m3)
<その他の樹脂>
・LDPE1:低密度ポリエチレン(MFR(190℃、2160g荷重)23g/10分、密度923kg/m3)
・LDPE2:低密度ポリエチレン(MFR(190℃、2160g荷重)7g/10分、密度921kg/m3)
・LLDPE1:直鎖状低密度ポリエチレン(三井化学株式会社製、ウルトゼックス15100C、MFR(190℃、2160g荷重)11g/10分、密度914kg/m3)
【0050】
(2)積層体の作製および評価
上記(1)の材料を用いて、以下の手順で積層体を作製した。
【0051】
<実施例1>
65mmФ押出機(L/D=28)を有する押出ラミネーターを使用し、加工条件(ダイ下温度295℃、エアーギャップ120mm、加工速度120m/分、加工幅500mm)で片面アート紙(紙基材:坪量79.5g/m2)の一方の面上に、インラインでコロナ処理(115W・min/m2)を施した後、アイオノマー1の溶融膜を押出すことにより押出コーティング加工し、積層体を作製した(樹脂層の厚み10μm)。
得られた積層体を用いて、以下の(3)の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0052】
<実施例2>
溶融膜が押し出された直後に、その溶融膜の片面アート紙に接する側の面にオゾン処理(25g/m2・1m3/m2)を施したことを追加した以外は実施例1と同様に押出コーティング加工し、積層体を作製した。
得られた積層体を用いて、以下の(3)の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0053】
<比較例1>
ダイ下温度を300℃、溶融膜としてLDPE1の溶融膜を使用したこと以外は実施例1と同様に押出コーティング加工した。しかし、溶融膜が切断してしまい、積層体を得ることができなかった。
【0054】
<比較例2>
溶融膜が押し出された直後に、その溶融膜の片面アート紙に接する側の面にオゾン処理(25g/m2・1m3/m2)を追加して施したこと以外は比較例1と同様に押出コーティング加工した。しかし、溶融膜が切断してしまい、積層体を得ることができなかった。
【0055】
<比較例3>
ダイ下温度を320℃、溶融膜としてLDPE2の溶融膜を使用したこと以外は実施例1と同様に押出コーティング加工した。しかし、溶融膜が切断してしまい、積層体を得ることができなかった。
【0056】
<比較例4>
溶融膜が押し出された直後に、その溶融膜の片面アート紙に接する側の面にオゾン処理(25g/m2・1m3/m2)を追加して施したこと以外は比較例3と同様に押出コーティング加工した。しかし、溶融膜が切断してしまい、積層体を得ることができなかった。
【0057】
(3)評価
[加工性]
積層体の加工性を以下の基準で評価した。
(基準)
A:積層体の加工時に溶融膜を紙基材上に積層でき、積層体を作製できた。
B:積層体の加工時に溶融膜が切断してしまい、紙基材へ積層することができず、積層体を作製できなかった。
【0058】
[接着強度]
得られた積層体を、23℃かつ50%RH雰囲気で7日間静置保管した後、樹脂層と紙基材との層間の接着強度[N/15mm]について、剥離強度試験機(インテスコ社製、IM-20X-ST型引張試験機)を用いて以下の条件で測定した。
なお、接着強度[N/15mm]は、包装材料として使用する場合の実用上の基準として、0.7N/15mm以上であることが好ましい。
(条件)
・形状:流れ方向(MD方向)へ15mm幅短冊状
・剥離速度:300mm/分
・剥離角度:T剥離
【0059】
[紙剥け状態]
上記の接着強度の測定に使用した接着強度測定後の積層体(樹脂層と紙基材とが剥離されたサンプル)を顕微鏡で熟練した技術者が観察した。紙剥け状態は、以下の基準で評価した。
(基準)
A:紙基材と樹脂層との間で剥離せず、紙基材が破壊する状態で剥離していた(紙剥け)。
B:紙基材と樹脂層との間で剥離していた。
【0060】
【0061】
(4)積層体の作製および評価
上記(1)の材料を用いて、以下の手順で積層体を作製した。
<実施例3>
紙基材として、クラフト紙(坪量50g/m2)を用いたこと以外は実施例1と同様に押出コーティング加工した。
得られた積層体を用いて、上記の(3)の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0062】
<比較例5>
ダイ下温度を300℃、溶融膜としてLDPE1の溶融膜を使用したこと以外は実施例3と同様に押出コーティング加工した。しかし、溶融膜が切断してしまい、積層体を得ることができなかった。
【0063】
<比較例6>
ダイ下温度を320℃、溶融膜としてLLDPE1の溶融膜を使用したこと以外は実施例3と同様に押出コーティング加工した。
得られた積層体を用いて、上記の(3)の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0064】
【0065】
表1~2から、実施例1~3は、加工性が良好であり、得られた積層体は、十分な接着強度および良好な紙剥け状態を示した。これに対し、比較例1~5は、積層体の加工時に溶融膜が切断してしまい、紙基材へ積層することができず、積層体を作製できなかった 。比較例6は、積層体は作製できたものの、高い接着強度および良好な紙剥け状態を示さなかった。