(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151053
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】切削インサート及び刃先交換式回転切削工具
(51)【国際特許分類】
B23C 5/20 20060101AFI20220929BHJP
B23C 5/06 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B23C5/20
B23C5/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053949
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】株式会社MOLDINO
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】野下 雅史
(72)【発明者】
【氏名】小林 由幸
(72)【発明者】
【氏名】植元 晶
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022HH01
3C022HH13
3C022LL01
(57)【要約】
【課題】本発明は、加工能率を下げることなく、コーナ部の剛性を高めることが可能な切削インサート、このような切削インサートを備えた刃先交換式切削工具を提供する。
【解決手段】本発明の切削インサートは、すくい面と、着座面と、すくい面と着座面との間を繋ぐ側面と、工具本体に取り付けるためのネジ穴とを備える。すくい面は着座面と平行な基準面を含み、すくい面と側面との交差稜線には、すくい面の辺部に位置する主切刃と、主切刃に連なりすくい面のコーナ部に位置するコーナ刃とを含む切刃部が設けられる。前記コーナ刃の円弧の中点におけるコーナ刃稜線の法線方向の断面において、前記側面は、前記コーナ刃の前記円弧の前記中点を一方の端点とする凸部を有し、凸部は前記中点から離れるに従い、取付孔側に近付く曲線状で形成される。凸部は中点から着座面へ向かって垂直に伸びる直線よりも取付孔側にある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸回りに回転する工具本体に取り付けられ、厚さ方向に延びる回転軸に対し回転対称な多角形板状の切削インサートであって、
一対の多角形面の一方を構成するすくい面と、
一対の多角形面の他方を構成する着座面と、
前記すくい面と前記着座面との間を繋ぐ側面と、
前記工具本体に取り付けるための取付孔と、
を備え、
前記すくい面は前記着座面と平行な基準面を含み、
前記すくい面と前記側面との交差稜線には、前記すくい面の辺部に位置する主切刃と、前記主切刃に連なり前記すくい面のコーナ部に位置するコーナ刃と、を含む切刃部が設けられ、
前記コーナ刃の円弧の中点におけるコーナ刃稜線の法線方向の断面において、
前記側面は、前記コーナ刃の前記円弧の前記中点を一方の端点とする凸部を有し、
前記凸部は前記中点から離れるに従い、前記取付孔に近付く曲線状で形成されるとともに、前記凸部は前記中点から前記着座面へ向かって垂直に伸びる直線よりも前記取付孔側にある、
ことを特徴とする切削インサート。
【請求項2】
前記断面において、前記凸部は、一定の曲率で形成されるとともに、
前記コーナ刃の前記中点を通る前記凸部の第1接線と、前記基準面との成す角をαとし、
前記凸部と前記着座面の交点、または前記凸部の延長線と前記着座面との交点を通る前記凸部の第2接線と前記着座面との成す角をβとしたとき、
α>βの関係を満たす、
ことを特徴とする請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記断面において、前記交点と前記コーナ刃の前記中点を結んだ第1直線と、前記コーナ刃の前記中点を通る前記着座面に垂直な第2直線との成す角をθとしたとき、前記αおよび前記βは、α=β+(90-2θ)の関係を満たす、
ことを特徴とする、請求項2に記載の切削インサート。
【請求項4】
前記断面において、前記凸部の他方の端点は前記着座面の端点と一致することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の切削インサート。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の切削インサートと、
前記切削インサートが着脱可能に取り付けられ回転軸回りに回転する前記工具本体と、を備え、
前記工具本体が、前記切削インサートの逃げ面および前記着座面が接触するインサート取付座を有する、刃先交換式回転切削工具。
【請求項6】
前記切削インサートが、前記切刃部の半径方向すくい角を負角とするように前記工具本体に取り付けられている、請求項5に記載の刃先交換式回転切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサート及び刃先交換式回転切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、製品の多様化により、金型形状は従来よりも複雑な形状を求められている。金型を複雑な形状に加工する際、金型との干渉を防ぐために、刃先交換式回転切削工具の突き出し量を大きくして使用することがある。この場合、工作機械の主軸や工具保持具、切削インサートやホルダを含んだ工具系全体の剛性不足に起因したびびり振動が発生しやすくなり、切削インサートの剛性不足から突発的に損傷するなど極端な短寿命となってしまう問題が発生する。
【0003】
そこで、特許文献1には、切削インサート1の側面を逃げ面と連結面からなる二段構成とし、着座面側を肉盛りするように形成することで、切削インサートの剛性を高めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の切削工具は、主切刃および副切刃を通る断面における連結面は十分な大きさを確保しているが、その一方で、コーナ刃を通る断面における連結面はわずかにしか形成されておらず、局所的に切削インサートの剛性が低下してしまう恐れがある。また、コーナ部は工具本体に切削インサートが取り付けられた状態において工具の最外周に位置することから、切刃部のうちコーナ部が最もびびり振動の影響を受けやすい。そのため、切削インサートのコーナ部は、刃先交換式回転工具の突き出し量を大きく設定した際に、切削時の突発的な工具損傷の発生が懸念される。
【0006】
さらに、被削材がL字のような立壁形状を切削加工する場合、コーナ刃は被削材に対して強い断続加工状態となるため、受ける衝撃も大きく損傷しやすい。そこで、切削インサートにおけるコーナ刃の剛性をより一層高めることが求められている。
【0007】
一般的に、切削インサートの剛性を高めるためには、逃げ角を小さくすることで刃先強度を増す方法が知られているが、逃げ角を小さくすることで刃先強度が増すとともに、1刃当たりの送り速度を高く設定した加工を行うと、切屑が厚くなり、切刃部の軌跡が切削インサートの底面側に接近してしまう。その結果、切削インサートが加工面に擦過する可能性がある。また、逃げ面が摩耗した際に、逃げ部における被削材との擦過面積が大きくなるため、切削抵抗の増大と工具寿命の低下を招き易くなってしまう。
【0008】
他にも、一般的な切削インサートの剛性を向上させるため、ネガホーニングを刃先に形成する方法が知られている。しかしながら、ネガホーニングを刃先に形成することで刃先先端のすくい角が負角となることから、切削抵抗が大きくなってしまう。その結果、びびり振動を誘発し易くなるため、主軸動力が低く低剛性な工作機械では使用が難しい。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、加工能率を下げることなく、コーナ部の剛性を高めることが可能な切削インサート、このような切削インサートを備えた刃先交換式切削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様の切削インサートは、回転軸回りに回転する工具本体に取り付けられ、厚さ方向に延びる回転軸に対し回転対称な多角形板状の切削インサートであって、一対の多角形面の一方を構成するすくい面と、一対の多角形面の他方を構成する着座面と、前記すくい面と前記着座面との間を繋ぐ側面と、前記工具本体に取り付けるための取付孔と、を備え、前記すくい面は前記着座面と平行な基準面を含み、前記すくい面と前記側面との交差稜線には、前記すくい面の辺部に位置する主切刃と、前記主切刃に連なり前記すくい面のコーナ部に位置するコーナ刃と、を含む切刃部が設けられ、前記コーナ刃の円弧の中点におけるコーナ刃稜線の法線方向の断面において、前記側面は、前記コーナ刃の前記円弧の中点を一方の端点とする凸部を有し、前記凸部は前記中点から離れるに従い、前記取付孔に近付く曲線状で形成されるとともに、前記凸部は前記中点から着座面へ向かって垂直に伸びる直線よりも前記取付孔側にあることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、コーナ部における側面に凸部を設けてコーナ部における側面を肉盛りし、コーナ部の刃物角が大きく確保できることで、コーナ部の剛性を高めることができるので、コーナ刃の損傷や破損を防ぐことが可能である。また、主切れ刃部の逃げ角を変える必要がなく、コーナ部において着座面側の逃げ角を確保できるとともに、中点から着座面へ向かって垂直に伸びる直線よりも取付孔側に凸部を設けることで、1刃当たりの送り速度を高く設定した場合であっても切削インサートが加工面に擦過することがなく、加工効率を向上させることができる。このように、加工効率を下げることなく、コーナ部の剛性を高めることができる切削インサートを提供することが可能である。
【0012】
さらに、凸部の一方の端点がコーナ刃の円弧の中点と一致していることから、上記断面において、凸部とコーナ刃との間に段差が生じず、凸部がコーナ刃に滑らかに接続された形状となり、コーナ部における肉厚が十分に確保されて剛性をより一層高めることができる。
【0013】
本発明の一態様の切削インサートは、前記断面において、前記凸部は、一定の曲率で形成されるとともに、前記コーナ刃の前記中点を通る前記凸部の第1接線と前記基準面との成す角をαとし、前記凸部と前記着座面の交点、または前記凸部の延長線と前記着座面との交点を通る前記凸部の第2接線と前記着座面との成す角をβとしたとき、α>βの関係を満たす、構成としてもよい。
【0014】
この構成によれば、上記関係を満たすことにより、着座面側よりもすくい面側が肉盛りされた形状を実現することができる。
【0015】
本発明の一態様の切削インサートは、前記断面において、前記交点と前記コーナ刃の前記中点を結んだ第1直線と、前記コーナ刃の前記中点を通る前記着座面に垂直な第2直線との成す角をθとしたとき、前記αおよび前記βは、α=β+(90-2θ)の関係を満たす構成としてもよい。
【0016】
この構成によれば、上記関係を満たすことにより、着座面側よりもすくい面側が肉盛りされた形状を実現しつつ、所望の逃げ角を設定することができる。
【0017】
本発明の一態様の切削インサートは、前記断面において、前記凸部の他方の端点は前記着座面の端点と一致する構成としてもよい。
【0018】
この構成によれば、上記断面において、凸部の全体が上記第1直線よりも外側に存在することになり、コーナ部における側面全体が肉盛りされた形状となる。これにより、コーナ部における厚さ方向全体の剛性を高めることができる。
【0019】
また、本発明の一態様の刃先交換式回転切削工具は、上記の切削インサートと、前記切削インサートが着脱可能に取り付けられ回転軸回りに回転する前記工具本体と、を備え、前記工具本体が、前記切削インサートの前記拘束部が接触するインサート取付座を有する。
【0020】
この構成によれば、上述の効果を奏する刃先交換式回転切削工具を提供できる。
【0021】
また、上述の刃先交換式回転切削工具において、前記切削インサートが、前記切刃部の半径方向すくい角を負角とするように前記工具本体に取り付けられている、構成としてもよい。
【0022】
この構成によれば、切刃部の半径方向すくい角を負角とした場合であっても、切刃部の逃げを十分に確保した刃先交換式回転切削工具を提供できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、加工能率を下げることなく、コーナ部の剛性を高めることが可能な切削インサート、このような切削インサートを備えた刃先交換式切削工具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】一実施形態における切削インサートの斜視図。
【
図2】一実施形態における切削インサートの平面図。
【
図3】一実施形態における切削インサートの側面図。
【
図4】
図2のVI-VI線に沿うインサートの断面図であり、インサートのコーナ刃の稜線と、その接線の法線とが交差する断面図。
【
図6】一実施形態における刃先交換式回転切削工具の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明を適用した実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴部分をわかりやすくするために、特徴とならない部分を便宜上省略して図示している場合がある。
【0026】
図1は、切削インサート1についてその一実施形態を示す斜視図である。
図2は、
図1に示す切削インサート1のすくい面2の構成を示す平面図である。
図3は、切削インサート1の側面10の構成を示す側面図である。
【0027】
切削インサート1は、厚さ方向に延びる中心線COに対して回転対称な多角形板状(本実施形態では四角形板状)をなしている。なお、以下の説明において、中心線COに沿う方向のことを単に厚さ方向と呼ぶ場合がある。また、中心線COに直交する方向を単に径方向と呼ぶ場合がある。同様に、中心線COを中心とする軸周りの周方向を単に周方向と呼ぶ場合がある。
【0028】
切削インサート1は、一対の多角形面の一方を構成するすくい面2と、一対の多角形面の他方を構成する着座面3と、すくい面2と着座面3との間を繋ぐ側面10と、工具本体に取り付けるための取付孔7と、を備える。
図2に示すように、すくい面2および着座面3は、略正方形状に形成されている。着座面3は、すくい面2の厚さ方向への投影領域の内側に内包される。
【0029】
後段に説明する
図6に示すように、切削インサート1は、工具本体31の先端部にクランプネジ38により着脱可能に取り付けられる。そのため、すくい面2及び着座面3には、切削インサート1を厚さ方向に貫通する取付孔7が形成されており、当該取付孔7内にクランプネジ38が挿通される。取付孔7は、切削インサート1の中心線COに沿って延びる。
【0030】
すくい面2は、着座面3と平行な基準面2aを含む。このようなすくい面2と側面10との交差稜線には、切刃部20が設けられている。
【0031】
切刃部20は、主切刃21と、主切刃21に連なる副切刃22と、副切刃22に連なるコーナ刃23とを含む。主切刃21、副切刃22およびコーナ刃23は、すくい面2の平面視において、右回り(時計回り)にこの順で配置される。
【0032】
本実施形態の切削インサート1において、主切刃21、副切刃22およびコーナ刃23から構成される切刃部20は、中心線COを中心とする周方向に90°毎に4つ設けられている。4つの切刃部20は、中心線COを中心とする回転対称に配置されている。周方向に沿って互いに隣り合う一対の切刃部20は連続的に延びる。
【0033】
主切刃21は、すくい面2の辺部に位置し、すくい面2の平面視において、直線状に延びる。主切刃21は、切刃部20の大部分を構成する。主切刃21は、切削インサート1を工具本体31に取り付けた状態(
図5参照)において、工具本体31の回転方向TD側を向き被削材と対向する。
【0034】
コーナ刃23は、主切刃21に連なりすくい面2のコーナ部に位置する。コーナ刃23は、
図2に示す平面視において円弧形状を有する。一方で、主切刃21および副切刃22は、直線状に延びる。そのため、コーナ刃23と、主切刃21および副切刃22との境界は、切刃部20における直線形状の部分と円弧形状の部分との境界によって判断される。
【0035】
副切刃22は、主切刃21とコーナ刃23との間に位置する。副切刃22は、主切刃21とコーナ刃23との間で直線状に延びる。副切刃22は、主切刃21の延在方向に対して、主切刃21からコーナ刃23へ行くにしたがって中心線COに近づくように傾斜して延びる。したがって、主切刃21と副切刃22との境界部は、外側に向かってわずかに突出する形状となっている。
【0036】
本実施形態における切削インサート1は、ポジタイプの切削インサートであることから、
図1及び
図3に示すように、側面10を構成する逃げ面11および連結面15は、略逃げ角に沿った傾斜面となっている。逃げ面11と連結面15との間には、境界線14が位置する。すなわち、側面10は、境界線14により逃げ面11と連結面15とに区画されている。
【0037】
逃げ面11と連結面15とは、切削インサート1の中心線COに沿う方向で互いに隣り合う。逃げ面11は、側面10において境界線14よりすくい面2側に位置する。また、連結面15は、側面10において、境界線14より着座面3側に位置する。
【0038】
逃げ面11は、主切刃21に連なる第1領域11Aと、副切刃22に連なる第2領域11Bと、コーナ刃に連なる第3領域11Cとに区画される。第1領域11A、第2領域11Bおよび第3領域11Cは、中心線COの周方向に沿って並んでいる。逃げ面11のうち第1領域11Aは、主切刃21に沿って延びる。第2領域11Bは、副切刃22に沿って延びる。第3領域11Cは、コーナ刃23に沿って延びる。逃げ面11は、これら1領域11A,第2領域および第3領域11Cを一組として、周方向に4組並んで構成される。
【0039】
境界線14は、側面10において、厚さ方向に湾曲しながら中心線COの周方向に沿って延びる。境界線14は、主切刃21に沿って延びる第1区間14aと、副切刃22に沿って延びる第2区間14bと、コーナ刃23に沿って延びる第3区間14cと、を含む。
【0040】
側面10において、第1区間14aは、連結面15と逃げ面11の第1領域11Aとを区画する。第2区間14bは、連結面15と第2領域11Bとを区画する。第3区間14cは、連結面15と第3領域11Cとを区画する。
図3に示すように、第2区間14bは、第1区間14aよりすくい面2側に位置する。また、第3区間14cは、第1区間14aより着座面3側に位置する。
【0041】
図6に示すように、切削インサート1は、クランプネジ38の締め付けにより工具本体31に取り付けられる。切削インサート1を工具本体31に取り付ける際、逃げ面11の第1領域11A及び着座面3は、インサート取付座33に接触する拘束部として機能する。すなわち、クランプネジ38の締めつけにより、切削インサート1における逃げ面11の第1領域11A(拘束部)と着座面3(拘束部)とが、工具本体31のインサート取付座33に対して押し付けられる。これにより、工具本体31における軸回り及び径方向において切削インサート1が位置決めされる。
【0042】
本実施形態の切削インサート1は、4コーナ型の形状をなす切削インサートである。切削インサート1は、回転対称に配置された切刃部20が所定の摩耗量に達した際に、中心線COの周りに90°回転されて他の切刃部20を被削材に対向させるように工具本体31に再装着される。
【0043】
本実施形態では、切削インサート1が多角形状であるため、多角形面からなるすくい面2と側面10との交差稜線には、4つの辺稜部のそれぞれに形成された切刃(主切刃21、副切刃22)と、4つのコーナ部のそれぞれにコーナ刃23とが形成されることになる。これにより、切削インサート1をすくい面2の周方向に回転させて工具本体31に取り付け直すことによって、1つの切削インサートで4回の切刃の使い回しが可能である。
【0044】
切削インサート1は、側面10のうち、すくい面2側に位置する逃げ面11の一部であって主切刃21に沿う第1領域11Aが、工具本体31(
図5)のインサート取付座33に接触することで工具本体31に拘束される。また、側面10のうち、切刃部20に近い第1領域11Aが工具本体31に拘束されることにより、切刃部20に付与する切削力に対して切削インサート1を十分に強固に拘束することが可能となる。
【0045】
図4は、
図2のC-C線に沿う切削インサート1の断面図である。C-C線は、コーナ刃23の接線の法線として切れ刃稜線と交差する。したがって、
図4は、切削インサート1のコーナ刃23の稜線と、その接線の法線とが交差する断面図である。
【0046】
本実施形態における切削インサート1は、ポジタイプの切削インサートであることから、
図3に示すように、逃げ面11および連結面15は、略逃げ角に沿った傾斜面となっている。したがって、側面10は、すくい面2から着座面3に向かってポジタイプの傾斜面となっており、
図5に示す断面において、側面10の傾斜角は、点Mにおいて変化している。点Mは、
図3に示す境界線14上に位置する。
【0047】
ここで、本実施形態の切削インサート1は、4つのコーナ部における逃げ面11(第3領域11C)の形状が互いに等しいことから、
図4に示した1つのコーナ部の断面を用いて、コーナ部における側面形状を説明する。
【0048】
図4に示すように、コーナ刃23の円弧の中点Pを通る凸部18の第1接線L3と、基準面2aとの成す角をαとする。また、凸部18の延長線と着座面3の交点Q’を通る凸部18の第2接線L4と、着座面3の延長線VSとの成す角をβとする。
このとき、本実施形態においては、α>βの関係を満たす。
【0049】
さらに、
図4に示すように、コーナ刃23の円弧の中点Pと上記交点Q’とを結んだ第1直線L1と、コーナ刃23の円弧の中点Pを通るとともに着座面3に垂直な第2直線L2との成す角をθとする。
このとき、角度αおよび角度βは、α=β+(90-2θ)の関係を満たす。
【0050】
本実施形態の切削インサート1は、
図4に示した断面視における側面10のうち、すくい面2側に位置する凸部18が第1直線L1より外側に存在し、着座面3側に位置する平面部19が第1直線L1よりも内側に存在した形状とされている。このように、切削インサート1の断面視における側面10のうち、すくい面2側に、着座面3側の平面部19よりも外側に凸状曲線をなす凸部18(逃げ面11)を形成したことにより、切削インサート1のコーナ部における逃げ面11をすくい面2側で肉盛りした形状となる。これにより、切削インサート1のコーナ部における剛性が高まり、コーナ刃23の破損等を抑制することができる。
【0051】
また、着座面3側の逃げ角を確保できるため、1刃当たりの送り速度を高く設定した場合であっても切削インサート1が加工面(被削材)に擦過しないため、加工効率を向上させることができる。このように、加工効率を下げることなく、コーナ部の剛性を高めることができる切削インサートを提供することが可能である。
【0052】
なお、本実施形態では、側面10が境界線14を境にして逃げ面11及び連結面15を有した二段逃げ面構造となっており、凸部18のうち、一方の端点18aだけがコーナ刃23の円弧の中点Pに一致しているが、このような構造に限らない。
例えば、凸部18の他方の端点18bが、側面10と着座面3との交点Qに一致していてもよい。つまり、
図5に示す断面視において、切削インサート1の各コーナ部に存在する側面10が凸部18だけで構成され、平面部19が存在しない形状であってもよい。この場合、
図5に示す断面視において、コーナ部における全ての側面10、すなわち凸部18が直線L0よりも外側に位置することになる。このような形状とすることによって、4つのコーナ部における側面全体が肉盛りされた形状となる。これにより、コーナ部における厚さ方向全体の剛性を高めることができる。
【0053】
(刃先交換式回転切削工具の構成)
図6は、複数の切削インサート1と、これらの切削インサート1が着脱可能に取り付けられた工具本体31とを有する刃先交換式回転切削工具30の構成を示す斜視図である。
【0054】
刃先交換式回転切削工具30は、工具本体31が回転軸JOを中心として回転方向TDに回転することで、フライス加工を行う。
図6に示すように、刃先交換式回転切削工具30は、回転軸JOの軸回りに回転する工具本体31と、工具本体31に取り付けられる5つの切削インサート1と、を有する。
【0055】
工具本体31の先端部には、
図5及び
図6に示すように、5つのインサート取付座33が設けられている。インサート取付座33は、
図5に示すように、取付座底面33aと、一対の取付座壁面33bと、有する。
【0056】
取付座底面33aは、切削インサート1の着座面3と略等しい面積の正方形状をなすとともに回転方向TDを向く。一対の取付座壁面33bは、取付座底面33aの2辺から回転方向TD側にそれぞれ延びる。取付座底面33aの略中央には、ネジ孔33cが形成されている。
【0057】
取付座底面33aは、切削インサート1の着座面3に対向して接触する。また、取付座壁面33bは、切削インサート1の四方に形成された側面10に対向して接触する。すなわち、インサート取付座33における取付座底面33aおよび取付座壁面33bは、切削インサート1の着座面3および逃げ面11と接触する。
【0058】
切削インサート1は、工具本体31のインサート取付座33に対してクランプネジ38を用いて取り付けられている。具体的に切削インサート1は、取付孔7内に挿入されたクランプネジ38が、取付座底面33aの中央に形成されたネジ孔33cに締め付けられることで、工具本体31に取り付けられる。
【0059】
また、刃先交換式回転切削工具30には、
図6に示すように、切削インサート1のすくい面2側を抑えるクランプ駒34が設けられている。クランプ駒34は、切削加工時の切削インサート1の浮き上がりを抑制する。
【0060】
本実施形態の切削インサート1は、着座面3を工具本体31の取付座底面33aに密着させるとともに、周方向に隣接する2つの逃げ面11を取付座壁面33bに当接させて着座させられる。さらに、クランプネジ38をネジ孔33cに挿入することにより、着座面3が取付座底面33aに押し付けられ、逃げ面11(第1領域11A)が取付座壁面33bに押し付けられる。
【0061】
このように、工具本体31に対して、上述した本実施形態の複数の切削インサート1が取り付けられた刃先交換式回転切削工具30によれば、例えば、複雑な金型形状を加工するために突出し量を大きく設定した場合であっても、切削インサート1が十分な剛性を有することから、切刃の突発的な損傷が発生しにくい。
つまり、複数の切削インサート1が工具本体31に取り付けられた状態においては、刃先交換式回転切削工具30の最外周に各切削インサート1のコーナ部(コーナ刃23)が位置することから、切刃部20のうち、コーナ刃23がびびり振動の影響を受けやすいが、本実施形態の切削インサート1の各コーナ部には、上記直線L0よりも外側に存在する凸部18が形成されており、逃げ面11のうちコーナ部に位置する第3領域11Cが肉盛りされた形状となっているため、切削インサート1における各コーナ刃23の剛性をより一層高めることができる。
これにより、例えば、立ち壁を切削加工する場合に被削材に対して強い断続加工状態となるコーナ刃23の損傷や破損を抑制することができる。
【0062】
また、凸部18の一方の端点18aがコーナ刃23の円弧の中点Pと一致していることから、
図4に示す断面視において、凸部18とコーナ刃23との間に段差が生じず、凸部18がコーナ刃23に滑らかに接続された形状となっている。これにより、コーナ部における肉厚が十分に確保されて剛性をより一層高めることができる。
【0063】
また、凸部18の第1接線L3と基準面2aとの成す角αと、凸部18の延長線VTと着座面3との交点Q’を通る凸部18の第2接線L4と着座面3との成す角βとが、α>βの関係を満たすことにより、着座面3側よりもすくい面2側が肉盛りされた形状を実現することができる。
【0064】
また、
図4に示す断面において、コーナ刃23の円弧の中点Pと、凸部18の円弧の延長線VTと着座面3との交点Q’とを結んだ第1直線と、コーナ刃23の円弧の中点Pを通る着座面3に垂直な第2直線L2との成す角をθとしたとき、αおよびβが、α=β+(90-2θ)の関係を満たすことにより、着座面側よりもすくい面側が肉盛りされた形状を実現しつつ、所望の逃げ角を設定することができる。
【0065】
さらに、
図4に示す断面において、第2直線L2と着座面3の延長線VSとの交点をJ、第1接線L3と第2接線L4との交点をK、交点Kの位置において第2直線L2に垂直な線分L5と第2直線L2との交点をK1、交点Kを着座面3の延長線VSに向かって伸ばした線分L6と着座面3の延長線VSとの交点をK2とする。
このとき、交点K1は中点Pと交点Jとを端点とする第2直線L2の1/2の距離((1/2)L2)にある点I1よりも交点J側に位置しているとともに、交点K2は交点Qと交点Jを端点とする線分L7の2/3の距離((2/3)L7)にある点I2よりも交点J側に位置している。
【0066】
本実施形態の切削インサート1は、コーナ部における剛性が高められているため、刃先強度向上のために逃げ角を小さくしなくてもコーナ刃23における十分な刃先強度が得られ、1刃当たりの送り速度を高く設定した加工を行うことが可能である。これにより、加工効率が向上する。また、コーナ部における切削インサート1の逃げ面11側の強度が得られることですくい角を確保することができる為、主軸動力が低く低剛性な工作機械を用いた場合であってもびびり振動を誘発しにくくすることができる。例えば、被削材がL字のような立壁形状を切削する場合に、コーナ刃23が被削材に対して強い断続加工を行う状態でも、切削インサート1の突発的な損傷を防ぐことができる。
【0067】
また、コーナ刃23の近傍の逃げ角を小さく設定しても、着座面3側に向かうに従って暫時逃げ角が拡大するため、コーナ刃23の刃先強度が得られるとともに摩耗した場合の損傷拡大を抑えることができる。これにより、切削抵抗の増大と工具寿命の低下を抑制することができる。
【0068】
さらに、本実施形態の切削インサート1は、コーナ部における剛性が高められているため、刃先強度向上のためにネガホーニングを形成しなくてもコーナ刃23における十分な刃先強度が得られるので、切削抵抗を抑えた加工が可能となり、被削材の面粗さが荒くなるのを抑えることができる。
【0069】
このように、コーナ部(コーナ刃23)の剛性を高めた本実施形態の切削インサート1、およびこのような切削インサート1を複数備える刃先交換式回転切削工具30によれば、加工効率を下げることなく、切削時の突発的な工具損傷の発生を防ぐことが可能である。
【0070】
また、本実施形態の切削インサート1が、切刃部20の半径方向すくい角を負角とするように工具本体31に取り付けられていることにより、切刃部20の半径方向におけるすくい角を負角とした場合であっても、切刃部20の逃げを十分に確保した刃先交換式回転切削工具30を提供することができる。
【0071】
以上に、本発明の実施形態を説明したが、実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0072】
1…切削インサート
2…すくい面
2a…基準面
3…着座面
7…取付孔
10…側面
11…逃げ面
18…凸部
18a,18b…端点
20…切刃部
21…主切刃
23…コーナ刃
30…刃先交換式回転切削工具
31…工具本体
33…インサート取付座
JO…回転軸
L0…直線
L1…第1直線
L2…第2直線
L3…第1接線
L4…第2接線
M…点
P…中点
Q…交点
VS…着座面3の延長線
VT…凸部18の延長線
α…凸部18の第1接線L3と基準面2aとの成す角
β…凸部18の延長線VTと着座面3との交点Q’を通る凸部18の第2接線L4と着座面3との成す角