(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151063
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】清掃用の粘着ロール及び清掃ローラー
(51)【国際特許分類】
A47L 25/00 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
A47L25/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053960
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】592070580
【氏名又は名称】アイム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086346
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 武信
(72)【発明者】
【氏名】田畑 仁平
(72)【発明者】
【氏名】白石 厚志
(72)【発明者】
【氏名】篠永 宗一郎
(57)【要約】
【課題】
清掃用の粘着ロール及びこれを用いた清掃ローラーに抗菌性を付与するにあたり、現実的で有効な手段を提供する。
【解決手段】粘着ロールは、捲回された帯状の基材シート14と、その表面側に配置された粘着体23とを備える。基材シート14は、その表面に抗菌性物質による抗菌機能が付与された抗菌剤層22を備える。基材シート14は、粘着体23が配置されている粘着部分17と、粘着体23が配置されていない非粘着部分18とを備え、非粘着部分18には、抗菌剤層22が露出している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被清掃面上を転動させられる清掃用の粘着ロールにおいて、
前記粘着ロールは、捲回された帯状の基材シートと、前記基材シートの表面側に配置された粘着体とを備え、
前記基材シートは、その表面の一少なくとも一部に、抗菌性物質による抗菌機能が付与された抗菌性部分を備え、
前記基材シートは、前記粘着体が配置されている粘着部分と、前記粘着体が配置されていない非粘着部分とを備え、
前記非粘着部分には、前記抗菌性部分が露出していることを特徴とする清掃用の粘着ロール。
【請求項2】
前記抗菌性部分は、抗菌活性値2以上の抗菌機能を備えたことを特徴とする請求項1に記載の清掃用の粘着ロール。
【請求項3】
前記抗菌性物質を含む溶液の塗工目付が10g/m2以下であることを特徴とする請求項2に記載の清掃用の粘着ロール。
【請求項4】
前記基材シートは、その両端辺に沿って前記非粘着部分であるドライエッジと、前記の両ドライエッジ間に配置された清掃領域とを備え、前記清掃領域には前記粘着部分及び前記非粘着部分、又は前記粘着部分のみを備えるものであり、
前記ドライエッジに前記抗菌性部分が露出していることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の清掃用の粘着ロール。
【請求項5】
被清掃面上に粘着ロールを転動させて清掃を行うようにした清掃ローラーにおいて、前記粘着ロールが請求項1~4の何れかに記載の清掃用の粘着ロールであることを特徴とする清掃ローラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清掃用の粘着ロール及び清掃ローラーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、清掃用の粘着ロール及びこれを用いた清掃ローラーについては、特許文献1から3に示すものが提案されている。ところが市場においては、抗菌性を高めた粘着ロールが商品化されていないのが現状である。
【0003】
清掃用の粘着ロール及び清掃ローラーの開発に際して、本発明者が検討したところ、特許文献1から3に示す粘着ロールについては、何れも、粘着体に抗菌剤を含有させるものであり、次の課題があることが判明した。
【0004】
1.粘着体に抗菌剤を入れることで粘着性能に影響を及ぼすため、粘着ロールの本来の機能である粘着性能のコントロールが難しい。
【0005】
2.粘着体に用いられる粘着剤の多くは通常ホットメルトと呼ばれる熱可塑性の樹脂であるが、このホットメルトを基材上に塗工する前には一定の熱を加える必要がある。ところが、有機系の抗菌剤ではホットメルトと反応してしまう恐れがあり、所期の抗菌性を発揮することができない恐れがある。
【0006】
3.無機系の抗菌剤を用いた場合は、ホットメルト内での加温による粘度低下により、比重差によりアプリケーターと呼ばれる加温機構を備えたタンクの中で抗菌剤が沈殿する恐れがあり、均質な抗菌性を発揮することができない恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08-024206号公報
【特許文献2】特開2002-085323号公報
【特許文献3】特開2016-116795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、清掃用の粘着ロール及び清掃ローラーに抗菌性を付与するにあたり、現実的で有効な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、被清掃面上を転動させられる清掃用の粘着ロールにおいて、次の手段を備えたものを提供する。
本発明に係る前記粘着ロールは、捲回された帯状の基材シートと、前記基材シートの表面側に配置された粘着体とを備える。
【0010】
前記基材シートは、その表面の一少なくとも一部に、抗菌性物質による抗菌機能が付与された抗菌性部分を備える。前記基材シートは、前記粘着体が配置されている粘着部分と、前記粘着体が配置されていない非粘着部分とを備え、前記非粘着部分の少なくとも一部には、前記抗菌性部分が、露出している。
本発明の実施に際しては、前記抗菌性部分は抗菌活性値2以上の抗菌機能を備えていることが望ましい。
また本発明の実施に際しては、前記抗菌性物質を含む溶液の塗工目付が10g/m2以下であることが、基材への影響が少ない点で好ましい。
【0011】
さらに本発明の実施に際しては、前記基材シートは、その両端に前記非粘着部分であるドライエッジを備え、前記ドライエッジの少なくとも一部に前記抗菌性部分が露出していることが望ましい。一般に清掃用の粘着ロールにあっては、新しい清掃面を露出させるために、帯状の基材シートにはミシン目などの易切断部分が、長手方向に所定の間隔で設けられており、使用者はこの易切断部分から基材シートを破り取って、新しい表面を露出させる。その際、ドライエッジをつまんで、基材シートを破りとる。従って、ドライエッジに抗菌性を付与することが、最も現実的に有効な手段である。
【0012】
またさらに本発明は、被清掃面上に粘着ロールを転動させて清掃を行うようにした清掃ローラーにおいて、上記の粘着ロールを用いた清掃ローラーを提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、有効な抗菌機能を備えた清掃用の粘着ロールを提供することができたものである。
また本発明は、有効な抗菌機能を備えた清掃用の清掃ローラーを提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(A)は本発明の実施の形態にかかる清掃ローラーの正面図、(B)は本発明の他の実施の形態にかかる清掃ローラーの正面図。
【
図2】同実施の形態にかかる粘着ロールの層構造の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
(清掃ローラーの概要)
この実施の形態にかかる清掃ローラー10は、粘着ロール11が支持部12に回転可能に支持された状態で被清掃面上を転動することによって、清掃領域15に塵やごみを付着させて取り除くものである。
図1(A)の例では、粘着ロール11は、その両端を支持する支持部12を備えたカバー13に取り付けられたものを示したが、
図1(B)の例のように、片持ちで支持しても構わないし、長いハンドル19の先端に取り付けたものであっても構わない。また粘着ロール11は、支持部12に対して着脱可能であり、交換用品としても販売される。
【0016】
(粘着シートの概要)
粘着ロール11は、帯状の粘着シート14を捲回したものであり、中央の清掃領域15と両端辺に沿って設けられたドライエッジ16とを備える。清掃領域15の表面には、粘着体23が配置されており、この粘着体23に塵やごみを付着させて取り除く。付着した塵やごみが多くなりそれ以上の清掃が困難になると、ほぼ一周おきに設けられたミシン目などの切り取り線から先端側の部分を破りとって、新たな粘着体23を露出させて清掃が行われる。その際、粘着体23を備えていないドライエッジ16を摘まんで切り取り作業を行うことによって、手を汚さず又粘着することなく清潔に作業を行うことができる。
【0017】
中央の清掃領域15は、粘着体23が露出した粘着部分17をその全面に配置したものでも構わないが、この例では、粘着部分17と、粘着体23を備えていない非粘着部分18とが、交互にストライプ状に配列されている。
図1の例では、粘着シート14の長手方向にストライプが伸びるものを示したが、その伸びる方向は適宜変更することができるし、ストライプ以外の形態に変更することもできる。
【0018】
このように清掃領域15において粘着部分17と非粘着部分18を混在させることによって、清掃効果の低減を抑制しながら、フローリングなどの平らな被清掃面に粘着シート14が付着してしまって粘着ロール11から剥がれてしまうことを防止することができる。さらに、フローリングなどの平らな被清掃面へ粘着シート14が付着してしまわないようにするため、粘着力を弱めた、あるいはなくした第二の粘着部分を粘着シート14上に配置することもできる。
【0019】
(粘着シートの層構造)
粘着シート14は、
図2に示すように、紙や合成樹脂製等の基材シート21の表面の全面に抗菌性部分としての抗菌剤層22が積層され、その表面に合成ゴム系やアクリル系のホットメルト熱可塑性樹脂製等の粘着体23が部分的に配置されている。粘着体23が配置された部分が粘着部分17であり、粘着体23が配置されていない部分が非粘着部分18であって、非粘着部分18では抗菌剤層22が表面に露出している。
【0020】
基材シート21の裏面には、一例としてはPE(ポリエチレン)やPVA(ポリビニルアルコール)などの合成樹脂製の目止め層24が全面に積層され、さらにその裏面にはシリコーン系や非シリコーン系の剥離層25が積層されている。この剥離層25によって、粘着シート14がロール状に捲回された際に、内周側の粘着体23との付着が抑制される。これらの各層は基材シート21に対して順次塗布され積層される。
【0021】
(抗菌剤層22について)
抗菌剤層22は、有機系(パラベン、塩化ベンザルコニウム、CPC(塩化セチルピリジニウム))や無機系(銀イオン、銅イオン)などの抗菌成分を含有している。その他、ヒノキチオールなどの天然成分由来の抗菌成分を含むものであっても構わないし、複数種類の抗菌成分を併用しても構わない。また、これらの抗菌成分はゼオライトなどの担体に担持させたものであっても構わないし、必要に応じて合成樹脂系やシリコーン系などのバインダーを用いて定着させても構わないが、いずれの場合にあってもJIS Z 2801 に規定される抗菌性試験方法により、抗菌活性値2以上の抗菌機能を備えていることが望ましい。
【0022】
この抗菌剤層22は、基材シート21に対して、粘着体23とは別工程で積層されるもので、従来の特許文献に示されたもののように抗菌剤層22と粘着体23とを混合するものではなく、粘着体23は抗菌剤層22の上に付着している止まるため、粘着体23の本来の機能である粘着性能には悪影響が生ずることはない。
【0023】
また、抗菌剤層22に有機系の抗菌成分を用い、粘着体23にホットメルトと呼ばれる熱可塑性の樹脂を用いた場合にあっても、塗工時に抗菌成分が直接加熱されることはないため、抗菌性能の低下を抑制することができる。抗菌剤層22に無機系の抗菌成分を用いた場合にも、ホットメルトなどの熱可塑性の樹脂と混合することなく別々に調製することができるため、調製タンク中で抗菌成分が沈殿することがなく、均質な抗菌性を発揮することができる。
【0024】
この抗菌剤層22の前記抗菌性物質を含む溶液の塗工目付は、抗菌成分の種類や含有量にもよるが、0.1g/m2以上、より好ましくは1g/m2以上であることが抗菌性の観点から好ましい。但し、抗菌活性値2以上を示すのであればその塗工量に関わらず好適に実施することができる。
【0025】
他方、この抗菌剤層22の塗工量は、粘着性能に関係することが、本発明者の研究によって知見された。すなわち、そのメカニズムは必ずしも明らかではないが、抗菌剤層22の塗工量が多すぎる場合には、基材シート21と粘着体23との密着性が低下することが本発明者によって知見され、抗菌剤層22の塗工目付は、10g/m2以下、より好ましくは5g/m2以下、であることが好ましい。
従って、抗菌剤層22の塗工量は、抗菌活性値2以上の抗菌機能を示すことを条件に、10g/m2以下、より好ましくは5g/m2以下、であることが好ましい。
【0026】
なお、清掃領域15については粘着体23を塗工した粘着部分17をその全面に配置しても構わないが、粘着部分17と非粘着部分18を混在させる場合には隣り合う粘着部分17同士の間隔を0.5~1.5mmとしておくことが粘着性と抗菌機能の観点から好ましい。また、同様の理由から粘着部分17の幅は1.5~3.5mmとしておくことが好ましい。
【0027】
(必要な箇所の抗菌性)
本発明の清掃ローラー10にあっては、各構成部品の表面にも上記のような抗菌機能を付与しておくことが望ましい。
粘着ロール11については、粘着シート14を捲回する巻き芯の内周面(図示せず)など、使用者が触るおそれのある面にも抗菌機能を付与しておくことが望ましい。
【0028】
粘着シート14については、粘着体23によって覆われた粘着部分17は抗菌機能を発揮することができないが、粘着体23によって覆われていない非粘着部分18については抗菌剤層22が露出するため抗菌機能が発揮される。
清掃時には一般的に、使用者は粘着部分17を含む清掃領域15に触れることなく、清掃ローラー10のハンドルなどを持って清掃作業を行う。
【0029】
また、古くなった粘着シート14を破りとって、新たな粘着シート14を露出させる場合には、本願出願人の特許6153809号公報などにも詳細に示されているように、粘着シート14のドライエッジ16を摘まんで切り取り作業を行う。このドライエッジ16は非粘着部分18であるため、抗菌剤層22が露出している。従って、細菌などで汚染された被清掃面上を粘着ロール11が転動しても、ドライエッジ16の抗菌機能によって清潔な状態が維持されている。その結果、古くなった粘着シート14の切り取り作業にあっても、使用者が細菌などに接触することが抑制される。
【0030】
なお、この切り取り作業にあっては、粘着シート14の裏側の剥離層25にも使用者の指先が触れるが、剥離層25は切り取り作業の直前まで一周内側の粘着シート14の抗菌剤層22に接触しているため、清潔な状態が維持されて使用者が細菌などに接触することが防止されている。
【0031】
この非粘着部分18によるドライエッジ16は、切り取り作業の円滑性から5mm以上の幅とすることが好ましい。ただし、ドライエッジ16の幅を大きくすると必要以上に清掃領域15の面積を小さくするため、15mm以下とすることが好ましい。
【0032】
なお、抗菌剤層22は基材シート21の全面に設けることが、生産性の観点から好ましい。但し、非粘着部分18のみに限定して設けたり、さらにはドライエッジ16の部分のみに限定して抗菌剤層22を塗工配置して実施しても構わない。このように限定的に抗菌剤層22を塗工配置する場合にも、粘着部分17と抗菌剤層22とが部分的にオーバーラップして塗布されたものでも勿論構わない。
【実施例0033】
以下本発明の理解を高めるために実施例を示すが、本発明はこの実施例に限定して理解されるべきではない。
【0034】
(抗菌機能の確認)
文末の表1に示すように4種類の試料1~4を作成して、JIS Z 2801:2012に準ずる試験(黄色ブドウ球菌使用)を実施した。試料1~3は、紙製の基材シート21の全表面上に、CPC(塩化セチルピリジニウム)を抗菌成分として含む抗菌剤層22を塗工して積層したものであり、試料1は抗菌剤層22の塗工量を27.6g/m2、試料2は同塗工量を18.4g/m2、試料3は同塗工量を4.6g/m2、試料4は抗菌剤層22を塗工せずに紙製の基材シート21のみを試料とした。
その結果、試料1~3は何れも抗菌活性値2以上の良好な結果を示したのに対して、試料4では抗菌活性値1を下回った。
【0035】
次に試料1~4について、
図1及び
図2に示すような粘着シート14を作製して、基材シートと粘着体との密着性を評価した。
粘着体23の塗工条件等は全て同じとした。具体的には、下記の条件で作製した。
粘着体23の平均塗工膜厚:約5μm
清掃領域15の幅:約146mm
ドライエッジ16の幅:約7mm
粘着部分17の幅:約2mm
清掃領域15における非粘着部分18の幅:約1mm
【0036】
(粘着剤の剥がれやすさの試験)
試験方法としては、粘着テープから幅25mmの試験片を用意して行った。試験方法は、これらの試験片を平滑なステンレス板へ貼り付け、2kgの荷重を下方に加えた押圧ローラーで1 0 往復させて均一に荷重を加えて粘着させた後、試験片の端から手で剥がして粘着体の剥がれ方を目視で観察して、表1の右端列に示すように、評価したものである。
〇:基材シートと粘着体の間で剥離が生じなかった。
×:基材シートと粘着体の間で剥離が生じステンレス板へ粘着体が引き付けられる現象がみられた。
【0037】