(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151108
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F01P 3/06 20060101AFI20220929BHJP
F02F 3/22 20060101ALI20220929BHJP
F01M 1/08 20060101ALI20220929BHJP
F01P 3/02 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F01P3/06
F02F3/22 Z
F01M1/08 B
F01P3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054024
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】高木 登
(72)【発明者】
【氏名】秋山 翔一
(72)【発明者】
【氏名】高岡 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩和
(72)【発明者】
【氏名】青▲柳▼ 貴彦
【テーマコード(参考)】
3G313
【Fターム(参考)】
3G313AB02
3G313BC04
3G313BD32
3G313EA05
3G313EA25
3G313FA09
(57)【要約】
【課題】ピストンとシリンダボア壁との隙間を制御することで燃費性能を向上させることを課題とする。
【解決手段】内燃機関の制御装置は、ピストンを冷却するピストン冷却装置と、冷却水を循環させてシリンダボア壁を冷却する冷却水循環装置と、を備えた内燃機関の制御装置であって、ピストン推定温度が予め定められたピストン温度に関する閾値以上であるときに前記ピストン冷却装置による前記ピストンの冷却を実行するピストン冷却装置制御部と、シリンダボア壁温度が予め定められたシリンダボア壁温度に関する閾値以下であるときに前記冷却水循環装置による前記冷却水の循環を抑制する冷却水循環装置制御部と、を備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンを冷却するピストン冷却装置と、冷却水を循環させてシリンダボア壁を冷却する冷却水循環装置と、を備えた内燃機関の制御装置であって、
ピストン推定温度が予め定められたピストン温度に関する閾値以上であるときに前記ピストン冷却装置による前記ピストンの冷却を実行するピストン冷却装置制御部と、シリンダボア壁温度が予め定められたシリンダボア壁温度に関する閾値以下であるときに前記冷却水循環装置による前記冷却水の循環を抑制する冷却水循環装置制御部と、
を備えた内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ピストンに向けてオイルを噴射してピストンを冷却するピストンジェットを備えた内燃機関の冷却装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1は、冷却水温度がオイル温度よりも高く、その差が所定値以上であるときにピストンジェットを停止してピストンとシリンダボア壁との間の隙間拡大を回避し、これによりピストンとシリンダボア壁との間の打音発生を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ピストンとシリンダボア壁との隙間が狭くなると、両者間の摩擦が高まる。このため、ピストンとシリンダボア壁との隙間が狭くなり過ぎると燃費性能が低下すると考えられる。特許文献1は、ピストンとシリンダボア壁との間の打音の発生を抑制すべく、ピストンとシリンダボア壁との隙間拡大を回避する制御を行っているのみであり、ピストンとシリンダボア壁との隙間の燃費性能への影響は考慮されていない。ここで、ピストンとシリンダボア壁との間の打音は、例えば、内燃機関の暖機時に燃焼室付近の早期暖気完了を狙って冷却水の循環が抑制されたような場合に生じやすい。このため、内燃機関がこのような特定の状態の場合に、ピストンとシリンダボア壁との隙間拡大を回避すれば、打音の発生の抑制に効果的である。しかしながら、打音が発生しにくい状況では、燃費性能を重視したピストンとシリンダボア壁との隙間に制御することも可能となる。
【0005】
そこで、本明細書開示の内燃機関の制御装置は、ピストンとシリンダボア壁との隙間を制御することで燃費性能を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書開示の内燃機関の制御装置は、ピストンを冷却するピストン冷却装置と、冷却水を循環させてシリンダボア壁を冷却する冷却水循環装置と、を備えた内燃機関の制御装置であって、ピストン推定温度が予め定められたピストン温度に関する閾値以上であるときに前記ピストン冷却装置による前記ピストンの冷却を実行するピストン冷却装置制御部と、シリンダボア壁温度が予め定められたシリンダボア壁温度に関する閾値以下であるときに前記冷却水循環装置による前記冷却水の循環を抑制する冷却水循環装置制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本明細書開示の内燃機関の制御装置は、ピストンとシリンダボア壁との隙間を制御することで燃費性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は実施形態の内燃機関の制御装置を備えたエンジンシステムを示す模式図である。
【
図2】
図2は実施形態の内燃機関の制御装置を示すブロック図である。
【
図3】
図3(A)はシリンダボア壁温度推定マップの一例であり、
図3(B)はピストン温度推定マップの一例である。
【
図4】
図4は実施形態の内燃機関が搭載される車両の駆動系統を示す図である。
【
図5】
図5は実施形態のエンジンシステムが備えるECUが実行する冷却水循環制御の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は実施形態のエンジンシステムが備えるECUが実行するピストンオイルジェット制御の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は実施形態のヒートマネージメントが実行された場合と実施形態のヒートマネージメントが実行されない場合(比較例)における各種数値の変化を示すタイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。ただし、図面中、各部の寸法、比率等は、実際のものと完全に一致するようには図示されていない場合がある。また、図面によっては細部が省略されて描かれている場合もある。
【0010】
(実施形態)
[エンジンシステムの構成]
まず、
図1を参照して、実施形態のエンジンシステム50の概略構成について説明する。エンジンシステム50は、ガソリンを燃料とする内燃機関1と制御装置を有する。制御装置は、ECU(Electronic Control Unit)や水温センサ101、油温センサ102、クランクポジションセンサ103等を含む。制御装置については、後に詳細に説明する。
【0011】
内燃機関1は、エンジン本体10となるシリンダブロック11とシリンダヘッド20を備える。シリンダブロック11には、シリンダボア壁11aは、シリンダを形成している。シリンダボア壁11a内にオープンデッキ型のウォータジャケット12が設けられている。ウォータジャケット12は、内燃機関1の冷却水循環経路13と接続されている。冷却水循環経路13には、ウォータポンプ14が配設されている。ウォータポンプ14は、電動式であり、ECU100に電気的に接続されており、ECU100の指令に基づいて任意の回転数で駆動される。ウォータジャケット12、冷却水循環経路13及びウォータポンプ14は、冷却水循環装置に含まれる。なお、ウォータジャケット12は、クローズドデッキ型であってもよい。冷却水循環経路13には、ラジエータが装備されているが、
図1では、省略されている。
【0012】
図1には、一気筒分のシリンダが表れているが、本実施形態の内燃機関1は直列4気筒内燃機関であり、紙面垂直方向に沿って4つのシリンダが設けられている。各シリンダ内には、ピストン15がシリンダの軸方向に沿って摺動可能に収納されている。ピストン15は、コネクティングロッド16を介してクランクシャフト17と接続されている。本実施形態を適用することができる内燃機関の気筒数は、4気筒に限定されるものでなく、他の気筒数であってもよい。また、その配列方式も、直列に限定されず、V型等、従来公知の配列方式としてもよい。
【0013】
シリンダヘッド20は、シリンダブロック11の上側に搭載されている。シリンダヘッド20には、吸気弁21aが装着された吸気ポート22aと、排気弁21bが装着された排気ポート22bが設けられている。さらに、シリンダヘッド20には、燃焼室23が設けられている。燃焼室23には、点火プラグ24が設けられている。
【0014】
シリンダブロック11の下側には、オイルパン25が設けられている。オイルパン25内には、内燃機関1の各部の潤滑や冷却に用いられるオイルが貯留される。オイルパン25内には、オイルストレーナ26が配設されている。オイルストレーナ26は、オイルの吸込口26aを備え、接続パイプ26bを介してオイルギャラリ27と接続されている。オイルギャラリ27には、オイルポンプ28が設けられており、オイルポンプ28の下流側には、オイルフィルタ29が設けられている。オイルポンプ28は、電動式であり、ECU100に電気的に接続されており、ECU100の指令に基づいて任意の回転数で駆動される。オイルポンプ28の回転数が高まると、オイルギャラリ27内の油圧が上昇する。なお、オイルポンプ28は、吐出量を変化させることができる機械式のオイルポンプとしてもよい。このような機械式のオイルポンプには、例えば、トロコイドギアを用いたオイルポンプやベーンを用いたオイルポンプがある。
【0015】
オイルギャラリ27は、内燃機関1内を巡っており、内燃機関1内において、潤滑剤としてオイルの供給が必要である箇所や冷却材としてオイルの供給が必要となる箇所に向けて分岐している。
【0016】
内燃機関1は、オイルギャラリ27から分岐してオイルが供給されるオイルジェット装置30を備えている。オイルジェット装置30は、ピストン冷却装置として機能するものであり、各ピストン15の下面に向かってオイルを噴射するピストンジェットノズル31を備える。ピストンジェットノズル31の基端部には、チェック弁32が組み込まれている。オイルポンプ28の回転数が高まり、オイルギャラリ27内の油圧が所定の値まで高まるとチェック弁32が開弁し、ピストンジェットノズル31からピストン15の下面に向かってオイルが噴射され、ピストン15が冷却される。
【0017】
なお、内燃機関1は、ガソリンに替えて、エタノールや天然ガス等の従来公知のガソリン代替燃料を用いることができる。また、内燃機関は、ディーゼル機関であってもよい。また、オイルパン25に替えてオイルタンク内にオイルを貯留するドライサンプ方式を採用してもよい。
【0018】
つぎに、
図2から
図3(B)を参照して、制御装置に含まれる各種センサ及びECU100の機能について説明する。制御装置には、内燃機関1に設置された各種のセンサと、内燃機関1を搭載した車両の各部に設置された各種のセンサとが含まれる。具体的に、各種センサには、
図1にも示されている水温センサ101、油温センサ102及びクランクポジションセンサ103の他に、エアフロメータ104、アクセル開度センサ105及びA/Fセンサ106等が含まれる。水温センサ101は、
図1に示すようにシリンダブロック11に装着され、ウォータジャケット12内を流通する冷却水の温度を検出する。油温センサ102は、オイルパン25に装着され、オイルパン25内に貯留されたオイルの温度を検出する。クランクポジションセンサ103は、クランクシャフト(
図1参照)の回転数、つまり、エンジン回転数を検出するのに用いられる。エアフロメータ104は、吸気ポート22aと接続されている吸気管内を流れる空気の量(吸入空気量)を検出する。吸入空気量を検出することでエンジン負荷が検出される。アクセル開度センサ105は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量を検出する。A/Fセンサ106は排気ガス中の酸素濃度に基いて空燃比(A/F)を検出する。
【0019】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、バックアップRAM及びその他の記憶装置等を備える。CPU、ROMやその他の記憶装置に記憶されたプログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。RAMは、CPUによる演算結果や各種センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMは内燃機関1の停止時などにおいて保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0020】
ECU100は、
図2に示すシリンダボア壁温度推定部100a、ピストン温度推定部100b、負荷判定部100c、沸騰判定部100d、ウォータポンプ制御部100eとして機能する。ECU100は、また、駆動状態判定部100f、過冷却判定部100g及びオイルポンプ制御部100hとして機能する。シリンダボア壁温度推定部100aは、
図3(A)にマップの一例を示すように、エンジン回転数とエンジン負荷とに基づいてシリンダボア壁温度を推定する。ピストン温度推定部100bも同様に、
図3(B)にマップの一例を示すように、エンジン回転数とエンジン負荷とに基づいてピストン温度を推定する。
図3(A)や
図3(B)に示すマップは、実験やシミュレーション等に基づいて予め作成しておく。シリンダボア壁温度やピストン温度を、マップを用いて推定する方法は、一例であって、他の演算等によってこれらの温度を推定するようにしてもよい。
【0021】
負荷判定部100cは、エアフロメータ104によって検出した吸入空気量に基づいて、内燃機関1の負荷状態を判定する。沸騰判定部100dは、シリンダボア壁温度推定部100aによって推定されたシリンダボア壁温度が予め定められたシリンダボア壁温度に関する閾値Tcy0以下であるか否かを判定する。閾値Tcy0は、冷却水が沸騰することがない温度として予め実験やシミュレーションによって定められている。ウォータポンプ制御部100eは、沸騰判定部100dの判定結果に基づいてウォータポンプ14の稼働状態を制御する。
【0022】
駆動状態判定部100fは、内燃機関1を搭載した車両の駆動系統の状態について判定する。車両の駆動系統については、後に説明する。過冷却判定部100gは、ピストン温度推定部100bによって推定されたピストン温度が予め定められたピストン温度に関する閾値Tpi0以上であるか否かを判定する。閾値Tpi0は、予め実験やシミュレーションによって定められている。オイルポンプ制御部100hは、過冷却判定部100gの判定結果に基づいてオイルポンプ28の稼働状態を制御する。
【0023】
[車両の駆動系統]
つぎに、
図4を参照して内燃機関1を搭載した車両の駆動系統について説明する。内燃機関1が備えるクランクシャフト17は、トランスミッション41、ドライブシャフト42を介して車輪43と接続されている。このため、クランクシャフト17の回転出力は、トランスミッション41及びドライブシャフト42を介して車輪43に伝達される。クランクシャフト17は、また、オルタネータ51と駆動ベルトを介して接続されている。オルタネータ51は、クランクシャフト17の回転出力によって回転し、発電する。オルタネータ51は、バッテリー52と電気的に結線されており、オルタネータ51によって発電された電力は、バッテリー52に蓄えられる。バッテリー52は、電力を必要とする車両の各部と結線されているが、電動式であるオイルポンプ28もバッテリー52と結線され、電力の供給を受ける。機械式のオイルポンプを採用した場合には、オイルポンプの駆動に電力は不要となる。なお、駆動系統には、クラッチ装置が介在することがあるが、ここでは、その説明は省略する。
【0024】
このような駆動系統は、例えば、アクセルがオフ状態とされ、車両が減速状態となっているときは、
図4において、矢示で示すように車輪43からクランクシャフト17へ向かう慣性駆動力の回収経路を形成する。車両が走行しており、車輪43が回転している状態のときに、アクセルがオフとされ、クランクシャフト17の回転出力が発揮されていない状態となると、車輪43の慣性駆動力がクランクシャフト17に伝達される。つまり、クランクシャフト17は、新規に燃料を消費することなく回転する。クランクシャフト17が慣性駆動力によって回転している場合であっても、オルタネータ51は発電し、その電力は、バッテリー52に回収、蓄えられる。このようにしてバッテリー52に蓄えられた電力を使用してオイルポンプ28を稼働させれば、燃費の面で有利となる。オイルポンプが機械式である場合は、オイルポンプは、クランクシャフト17の慣性駆動力によって駆動される。
【0025】
[シリンダボア壁温度とシリンダボア径との関係]
実施形態の内燃機関1は、ウォータジャケット12、冷却水循環経路13及びウォータポンプ14を含む冷却水循環装置を備えており、ウォータポンプ14を稼働させて冷却水を循環させることでシリンダボア壁11aを冷却する。これに対し、ウォータポンプ14の稼働を停止させたり、その稼働を抑制したりして冷却水の流量を低下させると、シリンダボア壁11aの温度は上昇する。シリンダボア壁11aは、その温度が高くなるとシリンダボア径が拡大し、その温度が低下するとシリンダボア径が収縮する。シリンダボア径の拡大は、ピストン15とシリンダボア壁11aとの隙間(以下、「ピストンクリアランス」という)を拡大させる方向に作用し、シリンダボア径の収縮は、ピストンクリアランスを収縮させる方向に作用する。
【0026】
[ピストン温度とピストン径との関係]
実施形態の内燃機関1は、オイルジェット装置30を備えており、オイルポンプ28を稼働させて油圧を上昇させることでピストンオイルジェットをピストン15に向かって噴射し、ピストン15を冷却する。これに対し、オイルポンプ28の稼働を抑制し、油圧を低下させるとピストンオイルジェットの噴射が停止し、ピストン15の温度が上昇する。ピストン15は、その温度が高くなるとピストン径が拡大し、その温度が低下するとピストン径が収縮する。ピストン径の拡大は、ピストンクリアランスを収縮させる方向に作用し、ピストン径の収縮は、ピストンクリアランスを拡大させる方向に作用する。
【0027】
[ヒートマネージメント制御]
本実施形態では、ピストンクリアランスを拡大し、燃費性能の向上を図るためのヒートマネージメント制御を実行する。ヒートマネージメント制御には、シリンダボア径の制御に関わる冷却水循環制御と、ピストン径の制御に関わるピストンオイルジェット制御が含まれる。以下、これらの制御について説明する。これらの制御は基本的に別個に実行される。以下の説明では、それぞれ、制御の一例を示すフローチャートを参照しつつ説明する。なお、これらの制御に関連する各種数値の推移や、ピストンクリアランスの推移は、
図7に示す一つのタイムチャート上に示す。
【0028】
図7には、内燃機関1の稼働状況を示す数値として吸入空気量GA、エンジン回転数NEの推移が示されている。そして、これらの数値の推移に伴う冷却水流量の変化及び油圧の変化が、ヒートマネージメント制御が実行された場合とヒートマネージメント制御が実行されなかった場合について示されている。さらに、
図7には、ヒートマネージメント制御が実行された場合とヒートマネージメント制御が実行されなかった場合のシリンダボア壁温度差DTcyとピストン温度差DTpiが示されている。また、
図7には、ヒートマネージメント制御が実行された場合とヒートマネージメント制御が実行されなかった場合のピストンクリアランス差DCが示されている。
図7では、ヒートマネージメント制御が実行された場合の数値の推移は点線で示され、ヒートマネージメント制御が実行されなかった場合の数値の推移は実線で示されている。
【0029】
図7において、時刻t1は、アクセルが踏み込まれ、吸入空気量GAが増加し始めるタイミングを示している。時刻t2は、吸入空気量GAの増加に伴って、エンジン回転数NEが上昇に転じたことを判断したタイミングを示している。また、時刻t2は、エンジン回転数NEが上昇に転じたことに伴って、ピストンオイルジェット噴射を停止するタイミングを示している。時刻t3は、冷却水循環を開始するタイミング、換言すると、それまで行っていた冷却水循環停止を終了するタイミングを示している。時刻t4は、アクセルオフが検知されたタイミングを示している。また、時刻t4は、アクセルオフが検知されたことに伴って、その後エンジン回転数NEが低下することを予測して冷却水循環停止を実施するタイミングを示している。時刻t5は、吸入空気量GAの減少に伴って、エンジン回転数NEが低下に転じたことを判断したタイミングを示している。また、時刻t5は、エンジン回転数NEが低下に転じたことに伴って、ピストンオイルジェット噴射を開始するタイミングを示している。
【0030】
なお、後に説明するように、シリンダボア壁温度が閾値Tcy0以上となった場合には、冷却水循環停止を終了するが、
図7には、説明の都合上、シリンダボア壁温度が閾値Tcy0以上となった状態については示されていない。同様に、ピストン温度が閾値Tpi0よりも低くなった場合には、ピストンオイルジェット噴射を停止するが、
図7には、ピストン温度が閾値Tpi0よりも低くなった状態は示されていない。
【0031】
[冷却水循環制御]
まず、冷却水循環制御について、
図5に示すフローチャートと
図7に示すタイムチャートとを参照して説明する。ステップS11では、ECU100は、シリンダボア壁温度を推定する。具体的に、シリンダボア壁温度推定部100aは、クランクポジションセンサ103が取得したエンジン回転数NEとエアフロメータ104が検出した吸入空気量に基づくエンジン負荷を、
図3(A)に示すマップに当て嵌める。これによりシリンダボア壁温度推定部100aは、シリンダボア壁温度の推定値を得る。
【0032】
ステップS12では、ECU100は、時定数Τ(タウ)の吸入空気量を算出する。具体的に、負荷判定部100cはエアフロメータ104が検出した吸入空気量GAに基づいて時定数Τの吸入空気量を算出する。ここで、時定数Τの吸入空気量を算出する理由について説明する。
【0033】
時定数Τの吸入空気量を算出するのは、車両の走行状態の変化、言い換えると、吸入空気量GAの変化を考慮した緻密な制御を行うためである。例えば、
図7に示すタイミングチャートのように、時刻t1において吸入空気量GAが上昇し始め、それ以前の吸入空気量GAが少ない状態から多い状態へ推移する過渡期を迎える場合を想定する。時定数Τの吸入空気量を算出することで、このような吸入空気量GAの推移を把握することができるようになる。
図7に示すように時刻t1で吸入空気量GAが増加する場合、時刻t1から少し遅れた時刻t2からエンジン回転数NEが上昇し始め、車両が加速状態に移行したことがわかる。
【0034】
図7に例示するタイミングチャートでは、時刻t1以前において、ウォータポンプ14の稼働を停止して冷却水の循環を停止している状態となっている。エンジン回転数NEが上昇する加速中の状態に移行すると、その後、シリンダボア壁温度の上昇が予測されるが、そのまま冷却水の循環の停止状態を継続すると、冷却水が沸騰してしまう可能性がある。このため、冷却水の循環停止を終了すべく、ウォータポンプ14の稼働を開始することが求められる。ここで、時刻t1以前の状態では、吸入空気量GAが少ない軽負荷状態である。このため、冷却水温は低く、冷却水の熱容量には余裕があり、車両の加速初期の段階まで冷却水の循環の停止を継続しても冷却水の沸騰は回避される。本実施形態は、シリンダボア壁温度を高い状態に維持し、シリンダボア径を拡大してピストンクリアランスを大きくすることで燃費向上を目指すものである。このため、冷却水循環停止の状態をできるだけ継続することが望ましい。
【0035】
本実施形態のECU100は、時定数Τの吸入空気量を算出することで、エンジン回転数NEが上昇に転じ、加速状態に移行することを予測する。そして、このような加速状態が予測された場合には、加速の初期段階において、冷却水の循環が停止された状態を維持するために、冷却水の循環停止の終了のタイミングを後倒し(ディレー)させる。比較例では、エンジン回転数NEが上昇に転じたことを判断した時刻t2に合わせて冷却水の循環停止を終了させているが、本実施形態では、時刻t2から遅らせた時刻t3で冷却水循環停止を終了している。
【0036】
なお、ステップS11とステップS12の順番の前後は問わず、同じタイミングで実施してもよい。
【0037】
ステップS12に引き続いて行われるステップS13では、負荷判定部100cは、ステップS12で算出した時定数Τの吸入空気量が、予め定めた負荷(吸入空気量)に関する閾値Ga0(g/sec)よりも少ないか否かを判定する。冷却水の循環を停止すると、シリンダボア径が拡大し、燃費面で有利となるが、その一方で、シリンダボア壁温度上昇に起因する冷却水の沸騰や、ヘッドガスケットの耐久性への影響を考慮する必要がある。このため、本実施形態では、内燃機関1が軽負荷状態であることを冷却水循環停止の条件としている。閾値Ga0は、冷却水の沸騰や、ヘッドガスケットの耐久性への影響を考慮して、内燃機関1が軽負荷状態であると判断できる値に設定されている。
【0038】
ECU100は、ステップS13で肯定判定(Yes判定)をした場合は、ステップS14へ進む。ステップS14では、沸騰判定部100dは、ステップS11で推定したシリンダボア壁温度が予め定めた閾値Tcy0よりも低いか否かを判定する。閾値Tcy0は冷却水が沸騰することがないことを判定できる温度に設定されており、シリンダボア壁温度が閾値Tcy0以上となる場合は、冷却水が沸騰し、内燃機関1の冷却が適切に行われなくなる可能性がある。そこで、これを回避すべく、シリンダボア壁温と閾値Tcy0との比較を行う。ECU100は、ステップS14で肯定判定を行ったときは、ステップS15へ進み、ステップS14で否定判定(No判定)を行ったときは、ステップS17へ進む。
【0039】
つぎに、ECU100が、ステップS13で否定判定(No判定)を行った場合について説明する。ECU100が、ステップS13で否定判定をするのは、例えば、
図7に示すタイムチャートで時刻t1から増加し始めた吸入空気量GAが増加された状態で定常状態となっているような場合であり、
図7において、時刻t3から時刻t4の間のような状態である。このような状態のとき、冷却水の循環は行われている。ステップS13で否定判定を行ったECU100は、ステップS16に進み、ステップS16においてアクセル開度センサ105の検出値に基づいてアクセルが全閉か否かを判定する。ECU100は、ステップS16において、肯定判定をした場合、つまり、アクセルが全閉されたと判断した場合、ステップS14へ進む。そして、ECU100は、ステップS14で肯定判定した場合、ステップS15へ進む。一方、ECU100は、ステップS16で否定判定した場合、ステップS17へ進む。
【0040】
つぎに、ステップS15について説明する。ECU100がステップS15へ進むのは、つぎの2つのパターンが想定される。第1のパターンは、ステップS13からステップS15の間にステップS14のみを経由するパターンである。第2のパターンは、ステップS13からステップS15の間にステップS16とステップS14の双方を経由するパターンである。
【0041】
第1のパターンである場合、ウォータポンプ制御部100eは、ステップS15においてウォータポンプ14の停止フラグを維持する。例えば
図7のタイムチャートにおける時刻t1以前の状態が継続しているような場合である。
【0042】
一方、第2のパターンである場合、ウォータポンプ制御部100eは、ステップS15においてウォータポンプ14に対して停止信号を発信する。ステップS16とステップS14を経由してステップS15へ進んだ場合、ウォータポンプ制御部100eは、例えば
図7のタイムチャートでアクセルオフが確認された時刻t4のタイミングで先読みして即座に冷却水の循環停止を実施する。ここで、先読みとは、アクセルが全閉とされた場合、その後、エンジン回転数NEが低下することを予測して冷却水の循環停止を前倒しで実行するものである。比較例では、時刻t4以降に吸入空気量GAが低下し始めたことが確認された後にウォータポンプを停止している。このため、
図7において実線で示した冷却水流量は、吸入空気量GAの低下に少し遅れて低下している。これに対し、本実施形態のように、先読みで冷却水の循環停止を行うことで、シリンダボア壁温度が高く、ピストンクリアランスが大きい期間を長くすることができるため、燃費向上を図ることができる。
【0043】
ステップS15の後、ECU100は、ステップS11からの処理を繰り返す。
【0044】
つぎに、ステップS17について、説明する。ECU100がステップS17へ進むのは、つぎの3つのパターンが想定される。第1のパターンは、ステップS13からステップS17の間にステップS16を経由せず、ステップS14のみを経由しているパターンである。第2のパターンは、ステップS13からステップS17の間にステップS14とステップS16の双方を経由している場合である。第3のパターンは、ステップS13からステップS17の間にステップS14を経由せず、ステップS16のみを経由しているパターンである。
【0045】
第1のパターンである場合、ウォータポンプ制御部100eは、内燃機関1が適切に冷却されることを重視し、冷却水の沸騰を回避すべく、ステップS17においてウォータポンプ14の稼働を開始し、冷却水循環を行う。例えば、
図7において、時刻t1以前のように冷却水の循環停止が行われている状態で、シリンダボア壁温度が閾値Tcy0以上となったような場合である。
【0046】
第2のパターンである場合、この場合もウォータポンプ制御部100eは、内燃機関1が適切に冷却されることを重視し、冷却水の沸騰を回避すべく、ステップS17においてウォータポンプ14の稼働フラグを維持する。例えば、
図7において、時刻t3から時刻t4の間のように冷却水循環が行われている状態で、シリンダボア壁温度が閾値Tcy0以上となったような場合である。なお、上述したように、
図7には、第1のパターンや第2のパターンのようにステップS14で否定判定される状態、つまり、シリンダボア壁温度が閾値Tcy0以上となった状態については示されていない。
【0047】
第3のパターンである場合、内燃機関1は軽負荷の状態ではないことから、ウォータポンプ制御部100eは、冷却水の沸騰や、ヘッドガスケットの耐久性への影響を考慮してウォータポンプ14を稼働させ、冷却水を循環させる。ここで、第3のパターンに該当する状況の中で、特に、冷却水の循環停止が実行されていた状況でステップS13における否定判定がされた場合について説明する。この場合、ウォータポンプ制御部100eは、上述した冷却水の循環停止の終了のタイミングの後倒しを実施する。つまり、冷却水の循環停止が実行されていた状況でステップS13における否定判定がされた場合というのは、内燃機関1が加速状態に移行した状態であるため、加速初期の状態において冷却水循環停止の状態を継続する。これにより、ピストンクリアランスを大きくして燃費向上を図ることできる。
【0048】
ステップS17の後、ECU100は、ステップS11からの処理を繰り返す。
【0049】
[ピストンオイルジェット制御]
つぎに、ピストンオイルジェット制御について、
図6に示すフローチャートと
図7に示すタイムチャートとを参照して説明する。まず、ステップS21では、ECU100は、ピストン温度を推定する。具体的に、ピストン温度推定部100bは、クランクポジションセンサ103が取得したエンジン回転数NEとエアフロメータ104が検出した吸入空気量に基づくエンジン負荷を、
図3(B)に示すマップに当て嵌める。これによりピストン温度推定部100bは、ピストン温度の推定値を得る。
【0050】
ステップS22では、駆動状態判定部100fが車両の駆動トルクを算出する。駆動トルクは、アクセル開度センサ105により取得したアクセル開度、エアフロメータ104によって取得した吸入空気量、水温センサ101によって取得した冷却水温をパラメータとしたマップによって推定される。
【0051】
なお、ステップS21とステップS22の順番の前後は問わず、同じタイミングで実施してもよい。
【0052】
ステップS23では、駆動状態判定部100fは、内燃機関1の駆動トルクが0Nmよりも小さいか否か、つまり、内燃機関1が駆動トルクを発揮しておらず、車両が惰性で走行している状態であるか否かを判定する。ここで、駆動トルクが0Nmよりも小さいか否かを判定するのは、車両の駆動系統が減速時の慣性駆動力を回収する状態となっているか否かを判定するためである。本実施形態のオイルポンプ28は、電動式であるため、オイルポンプ28を駆動することで電力が消費される。ここで、単に電力を消費するのでは、燃費が悪化してしまう。そこで、本実施形態では、駆動系統の慣性駆動力を回収することで得られた電力によってオイルポンプ28を駆動することで、燃費の悪化を回避している。例えば、
図7に示す時刻t2以前や時刻t5以降のように、アクセルが踏み込まれていないような場合である。
【0053】
ECU100は、ステップS23で肯定判定したときは、ステップS24へ進む。ステップS24では、過冷却判定部100gは、ステップS21で取得したピストン推定温度が予め定めた閾値Tpi0以上であるか否かの判定を行う。ここで、このようなピストン推定温度と閾値Tpi0との比較(過冷却判定)を行うのは、内燃機関1において燃料の適切な燃焼を行うためである。内燃機関1では、ピストン15の温度が低くなりすぎると、燃料の気化が悪化し、適切な混合気の形成に影響が及ぶ。そして、内燃機関1における燃料の燃焼が不安定となったり、黒鉛(PM)や炭化水素(HC)が発生したりする。そこで、本実施形態では、ピストン推定温度が閾値Tpi0よりも高い場合ことをオイルピストンジェット噴射の条件としている。閾値Tpi0は内燃機関1における燃料の適切な燃焼が保証された値に設定されている。
【0054】
ECU100は、ステップS24で肯定判定したときは、ステップS25へ進む。ステップS25では、オイルポンプ制御部100hは、オイルポンプ28に対し、オイルギャラリ27内の油圧が上昇するオイル吐出量となるように稼働信号を発信する。これにより、オイルギャラリ27内の油圧が、オイルジェット装置30のチェック弁32の開弁圧を超えると、チェック弁32が開弁し、ピストンジェットノズル31からピストン15の下面に向かってオイルが噴射され、ピストン15が冷却される(ステップS26)。この結果、ピストン径が縮小し、ピストンクリアランスが拡大して燃費の向上が図られる。
【0055】
一方、ECU100は、ステップS23で否定判定した場合やステップS24で否定判定した場合には、ステップS27へ進む。ステップS27では、オイルポンプ制御部100hは、オイルポンプ28に対し、オイルギャラリ27内の油圧が通常油圧となるオイル吐出量となるように稼働信号を発信する。ここで、通常油圧とは、内燃機関1内においてオイルの供給が必要となる箇所にオイルが行き渡らせることができるが、オイルジェット装置30のチェック弁32の開弁圧を超えない圧力である。これによりオイルピストンジェットは停止され、ピストン15の過度な冷却が回避される。この結果、内燃機関1における燃料の安定した燃焼が実現される。ステップS23で否定判定されるのは、例えば、
図7における時刻t5のようにエンジン回転数NEが低下し始めたタイミングと一致する。なお、上述したように、
図7には、ステップS24で否定判定される状態、つまり、ピストン温度が閾値Tpi0よりも低くなった状態は示されていない。
【0056】
ステップS26及びステップS27の後、ECU100は、ステップS21からの処理を繰り返す。
【0057】
[ヒートマネージメント制御の効果]
つぎに、本実施形態のヒートマネージメント制御の効果について説明する。
図7に示したタイムチャートに表れている全タイミングにおいて、実施形態のシリンダボア壁温度が比較例のシリンダボア壁温度よりも高く、シリンダボア壁温度差DTcyが生じている。また、実施形態のピストン温度が比較例のピストン温度よりも低く、ピストン温度差DTpiが生じている。この結果、実施形態のピストンクリアランスが比較例のピストンクリアランスよりも大きく、ピストンクリアランス差DCが生じている。このように、ピストンクリアランスが大きくなることで、シリンダボア壁11aとピストン15との間の摩擦が低減され、燃費の向上が達成される。
【0058】
本実施形態によれば、冷却水の循環を抑制することでシリンダボア径を拡大し、ピストン15に向かってピストンオイルジェット噴射をすることでピストン径を収縮させることでピストンクリアランスを拡大し、燃費向上が図られる。また、冷却水の循環の抑制は、シリンダボア壁温度が閾値Tcy0よりも低いときに実行されるため、冷却水の沸騰が回避される。また、ピストン冷却装置によるピストンの冷却は、ピストン温度が閾値Tpi0よりも高いときに実行されるため、内燃機関1における燃料の適切な燃焼が図られる。
【0059】
なお、上記の実施例ではウォータポンプ14の稼働状態を制御し、冷却水の循環を行ったり停止したりしたが、冷却水の循環を完全に停止するのではなく、冷却水流量を絞るなどの調整をしてシリンダボア壁温度をコントロールするようにしてもよい。また、内燃機関1に例えば多機能弁を装備し、多機能弁の開度を調整することで、冷却水流量を調整するようにしてもよい。
【0060】
上記実施形態は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、更に本発明の範囲内において、他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。
【符号の説明】
【0061】
1 内燃機関 11 シリンダブロック
11a シリンダボア壁 12 ウォータジャケット
13 循環経路 14 ウォータポンプ
15 ピストン 17 クランクシャフト
28 オイルポンプ 30 オイルジェット装置
31 ピストンジェットノズル 32 チェック弁
50 エンジンシステム 100 ECU