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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151117
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】コンタクトレンズ用保存液
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/04 20060101AFI20220929BHJP
   G02C 13/00 20060101ALI20220929BHJP
   C08F 20/18 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
G02C7/04
G02C13/00
C08F20/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054036
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【弁理士】
【氏名又は名称】潮 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢
(72)【発明者】
【氏名】小林 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】高橋 将智
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
(72)【発明者】
【氏名】川崎 寛子
【テーマコード(参考)】
2H006
4J100
【Fターム(参考)】
2H006BB01
2H006BB02
2H006DA08
4J100AL08P
4J100BA08P
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA36
4J100DA47
4J100DA71
4J100FA03
4J100FA19
4J100FA28
4J100GC07
4J100GC26
4J100JA34
(57)【要約】
【課題】簡便にコンタクトレンズ表面へ親水性及び潤滑性を付与でき、かつ、コンタクトレンズの耐久性を向上させるコンタクトレンズ用保存液を提供する。
【解決手段】下記式(a)で表される構成単位を含み、数平均分子量が1,000~1,000,000である重合体(P)を0.001~5.0w/v%含むコンタクトレンズ用保存液。
【化1】

式(a)において、R及びnは、本願明細書に記載の通りである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(a)で表される構成単位を含み、数平均分子量が1,000~1,000,000である重合体(P)を0.001~5.0w/v%含むことを特徴とするコンタクトレンズ用保存液。
【化1】

(式(a)において、
Rは、水素原子又はメチル基を表し、
nは、2または3である。)
【請求項2】
前記重合体(P)が、直鎖または分岐鎖のアルキル(メタ)アクリレート、環状アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有(メタ)アクリレート、スチレン系単量体、ビニルエーテル単量体、ビニルエステル単量体、水酸基含有(メタ)アクリレートのいずれかの重合性単量体に由来する付加構成単位をさらに有する、請求項1に記載のコンタクトレンズ用保存液。
【請求項3】
前記付加構成単位の割合が、モル比において前記式(a)で表される構成単位の50%以下である、請求項2に記載のコンタクトレンズ用保存液。
【請求項4】
FDA分類によってグループIIIまたはグループIVに分類されるソフトコンタクトレンズへと適用する、請求項1~3のいずれかに記載のコンタクトレンズ用保存液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有する重合体を含むコンタクトレンズ用保存液に関する。
【背景技術】
【0002】
ソフトコンタクトレンズを始めとするコンタクトレンズは、同じ視力矯正器具のメガネと比較して快適な点があり、その人気がますます高まっている。一方、ソフトコンタクトレンズの長時間にわたる装用では、ソフトコンタクトレンズ表面の乾燥に起因する不快感が問題となっている。この問題を解決するべく、これまでにソフトコンタクトレンズ表面の乾燥を防止する技術が開発されてきた。
例えば、ソフトコンタクトレンズにプラズマ処理を施す技術(特許文献1)や、反応性基を表面に有するソフトコンタクトレンズと反応性を有する親水性ポリマーとを化学的に結合させてソフトコンタクトレンズ表面を親水化する技術(特許文献2)や、ソフトコンタクトレンズ用出荷液へポロキサマーを配合することでソフトコンタクトレンズ表面の親水性を増強する技術(特許文献3)が開発されてきた。
【0003】
しかし、いずれの技術にも問題があった。特許文献1の技術は、高度に管理された製造設備が必要なため経済的に不利となることがあった。特許文献2の技術は、ソフトコンタクトレンズ表面に特定の置換基を備える必要があるため汎用性に劣ることがあった。特許文献3の技術は、簡便に行うことができ汎用性も高いが、必ずしも満足する効果が得られるものではなかった。
【0004】
一方、ポリメトキシエチルアクリレートやオリゴエチレングリコール(メタ)アクリレート系単量体を有する重合体は血液適合性を示すため、血液処理用分離膜等に利用されてきた(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2010/092686
【特許文献2】WO2001/074932
【特許文献3】特開2008-304944A
【特許文献4】WO2016/208642
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、簡便にコンタクトレンズ表面へ親水性及び潤滑性を付与でき、かつ、耐久性に優れるコンタクトレンズ用保存液を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前述の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定のオリゴエチレングリコール(メタ)アクリレート系単量体を有する重合体を、特定の濃度で水に溶解させることにより、優れたコンタクトレンズ用保存液、例えばソフトコンタクトレンズ用出荷液等を得ることができることを見出した。そして本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下に記載のコンタクトレンズ用保存液である。
(1)式(a)で表される構成単位を含み、数平均分子量が1,000~1,000,000である重合体(P)を0.001~5.0w/v%含むことを特徴とするコンタクトレンズ用保存液。
【化1】

(式(a)において、
Rは、水素原子又はメチル基を表し、
nは、2または3である。)
(2)前記重合体(P)が、直鎖または分岐鎖のアルキル(メタ)アクリレート、環状アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有(メタ)アクリレート、スチレン系単量体、ビニルエーテル単量体、ビニルエステル単量体、水酸基含有(メタ)アクリレートのいずれかの重合性単量体に由来する付加構成単位をさらに有する、上記(1)に記載のコンタクトレンズ用保存液。
(3)前記付加構成単位の割合が、モル比において前記式(a)で表される構成単位の50%以下である、上記(2)に記載のコンタクトレンズ用保存液。
(4)FDA分類によってグループIIIまたはグループIVに分類されるソフトコンタクトレンズへと適用する、上記(1)~(3)のいずれかに記載のコンタクトレンズ用保存液。
【発明を実施するための形態】
【0009】
これから本発明の実施形態について詳細に記述する。まず、本明細書における用語の意味は以下の通りである。
「ソフトコンタクトレンズ」とは、ハイドロゲル材料からなるコンタクトレンズのことをいい、FDA分類によってグループIIIまたはグループIVに分類されるコンタクトレンズを含む。
「コンタクトレンズ用保存液」とは、コンタクトレンズ製品の出荷時にコンタクトレンズを浸漬する溶液、コンタクトレンズを一時保存する際に浸漬する溶液、コンタクトレンズを洗浄する際に用いる溶液、コンタクトレンズを装着する際に用いる溶液等のことをいう。
「オリゴエチレングリコール」とは、少数のエチレングリコールが重合した分子構造のことをいう。
「(メタ)アクリレート」とはメタクリレート及び/又はアクリレートのことをいう。
【0010】
次に、本発明のコンタクトレンズ用保存液及びその各成分について説明する。
【0011】
<コンタクトレンズ用保存液及び水性組成物>
本発明のコンタクトレンズ用保存液は、後述する重合体(P)及び水を含む水性組成物を主成分として含有する。
コンタクトレンズ用保存液は、ソフトコンタクトレンズを始めとするコンタクトレンズに適用される。コンタクトレンズ用保存液は、コンタクトレンズとともに用いられている従来の水溶液の用途で幅広く用いられ得るものであり、その形態は特に限定されない。コンタクトレンズ用保存液は、例えば、コンタクトレンズ用の出荷液、洗浄液、装着液等として用いられ、特にコンタクトレンズ用出荷液として好適に用いられる。
また、コンタクトレンズ用保存液はハードコンタクトレンズに適用されてもよい。
【0012】
<重合体(P)及び特定構成単位>
コンタクトレンズ用保存液の水性組成物に含まれる重合体(P)は、特定の構成単位、すなわち、以下の式(a)で表される構成単位(n)を含む。構成単位(n)は、式(a-1)で表される単量体由来の構成単位であり、当該単量体を含み得る。なお、構成単位(n)を特定構成単位ともいう。
【化2】

【化3】

式(a)及び(a-1)において、Rは水素原子又はメチル基を表す。
式(a)及び(a-1)において、nは、2または3のいずれかの整数である。
【0013】
式(a)及び(a-1)において、上述のように、Rは水素原子又はメチル基を表し、nは2または3である。
Rが水素原子、nが2の化合物は、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレートであり、例えばBOC Sciencesがカタログ番号7328-18-9で取り扱っている。Rがメチル基、nが2の化合物は、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートであり、例えば東京化成工業株式会社がカタログ番号D1531で取り扱っている。Rが水素原子、nが3の化合物は、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレートであり、例えば共栄社化学株式会社がライトアクリレートMTG-Aの商品名で取り扱っている。Rがメチル基、nが3の化合物は、トリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートであり、例えばシグマアルドリッチがカタログ番号729841で取り扱っている。
重合体(P)は式(a)で表される単量体の単独重合体であってよく、共重合体であってもよい。また、重合体(P)においては、複数の種類の特定構成単位が含まれていてもよい。
【0014】
<付加構造単位(特定構成単位以外の構成単位)>
本発明に用いる重合体(P)は、本発明の効果を損なわない範囲において、式(a)で表される構成単位(すなわち特定構成単位)以外の他の構成単位(付加構成単位ともいう)を含んでもよい。付加構成単位の量は、本発明の効果に影響を与えない範囲で適宜選択できるが、重合体(P)において、式(a)で示される特定構成単位(n)を100とした場合に、他の構成単位はモル比で50以下(特定構成単位に対するモル比で50%以下)であることが好ましく、10以下(モル比で10%以下)であることがより好ましい。
重合体(P)においては全構成単位のモル数、すなわち、特定構成単位と付加構成単位の合計モル数を基準として、50%以上の特定構成単位が含まれることが好ましく、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上、例えば90%以上の特定構成単位が含まれる。
また、重合体(P)においては、全構成単位のモル数を基準として、40%以下の付加構成単位が含まれることが好ましく、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下、特に好ましくは10%以下の付加構成単位が含まれる。
【0015】
他の重合性単量体としては、例えば、直鎖または分岐鎖のアルキル(メタ)アクリレート、環状アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有(メタ)アクリレート、スチレン系単量体、ビニルエーテル単量体、ビニルエステル単量体、親水性の水酸基含有(メタ)アクリレートを挙げることができる。
直鎖または分岐鎖のアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
環状アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
芳香族含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等が挙げられる。
ビニルエーテル単量体としては、例えば、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等が挙げられる。
ビニルエステル単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
親水性の水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0016】
<重合体(P)の分子量>
本発明に用いる重合体(P)の数平均分子量は1,000~1,000,000であり、好ましくは5,000~500,000であり、より好ましくは5,000~100,000、さらに好ましくは7,000~50,000、特に好ましくは10,000~30,000である。数平均分子量が1,000未満の場合は、重合体のコンタクトレンズ表面への吸着力が十分でないため潤滑性と親水性の向上効果が見込めないおそれがあり、1,000,000を超える場合は、コンタクトレンズ用溶液を製造する際に必要となる無菌ろ過が困難となるおそれがある。
重合体(P)の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による値をいい、実施例に記載の方法で測定できる。
【0017】
<重合体(P)の合成方法>
本発明のコンタクトレンズ用保存液に用いられる重合体(P)は、上記各単量体をラジカル重合することによって得ることができる。重合体(P)は、例えば、上記各単量体の組成物を、ラジカル重合開始剤の存在下、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス置換または雰囲気下においてラジカル重合することにより合成できる。ラジカル重合方法は、例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合などの公知の方法が挙げられ、精製などの観点から溶液重合が好ましい。重合体(P)の精製は、再沈殿法、透析法、限外濾過法等の公知の精製方法により行うことができる。
重合体(P)は、各単量体のランダム共重合体であることが好ましいが、特定の単量体によるホモポリマー、あるいはブロック共重合体であってもよい。
【0018】
ラジカル重合開始剤としては、アゾ系ラジカル重合開始剤、有機過酸化物、過硫酸化物等を挙げることができる。
アゾ系ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2-アゾビス(2-ジアミノプロピル)二塩酸塩、2,2-アゾビス(2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン)二塩酸塩、4,4-アゾビス-(4-シアノ吉草酸)、2,2-アゾビスイソブチロニトリルアミド二水和物、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えば、t-ブチルペルオキシネオデカネート、過酸化ベンゾイル、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシジイソブチレート、過酸化ラウロイル、t-ブチルペルオキシデカネート、コハク酸ペルオキシド(=サクシニルペルオキシド)等が挙げられる。
過硫酸化物としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等が挙げられる。
これらのラジカル重合開始剤は、単独で用いることができ、また、2種以上を混合して用いることもできる。
【0019】
重合体(P)の合成は、溶媒の存在下で行うことができる。溶媒としては、単量体組成物を溶解し、反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に制限されず、例えば、水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、直鎖または環状のエーテル系溶媒、含窒素系溶媒を挙げることができる。好ましくは、水若しくはアルコール、又はこれらの混合溶媒が挙げられる。
アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等が挙げられる。
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等が挙げられる。
エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル等が挙げられる。
直鎖または環状のエーテル系溶媒としては、例えば、エチルセルソルブ、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
含窒素系溶媒としては、例えば、アセトニトリル、ニトロメタン、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0020】
<重合体(P)の濃度>
本発明のコンタクトレンズ用保存液の重合体(P)の濃度は、0.001~5.0w/v%(重量/容積%)であり、好ましくは0.01~2.0w/v%、例えば0.05~1.5w/v%あるいは0.07~0.5w/v%である。
重合体(P)の濃度が0.001w/v%未満ではコンタクトレンズに潤滑性を付与する効果が十分ではなく、5.0w/v%を超えるとコンタクトレンズ用溶液を製造する際に行う無菌ろ過が困難となるおそれがある。溶媒としては、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等のアルコールまたはこれらの混合溶媒を用いることができる。
【0021】
<その他の成分>
本発明のコンタクトレンズ用保存液には、重合体(P)及び水が含まれる。
コンタクトレンズ用保存液に含まれる水としては、精製水、例えば、イオン交換水、RO水(逆浸透膜(RO膜)によるろ過水)、日本薬局方精製水等が好ましいものの、水道水などの常水であってもよい。
コンタクトレンズ用保存液には、重合体(P)及び水以外にも必要に応じてビタミン類、アミノ酸類、糖類、粘稠化剤、清涼化剤、無機塩類、有機酸の塩、酸、塩基、酸化防止剤、安定化剤、防腐剤等のその他の成分を配合することができる。
【0022】
ビタミン類としては、例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸ナトリウム、パントテン酸カルシウム等を挙げられる。
アミノ酸類としては、例えば、アスパラギン酸またはその塩、アミノエチルスルホン酸などが挙げられる。
糖類としては、例えば、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、トレハロース等が挙げられる。
粘稠化剤(増粘剤)としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロール、ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられる。
清涼化剤としては、例えば、メントール、カンフル等が挙げられる。
無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム等が挙げられる。
有機酸の塩としては、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
酸としては、例えば、リン酸、クエン酸、硫酸、酢酸、塩酸、ホウ酸などが挙げられる。
塩基としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ホウ砂、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、モノエタノールアミン等が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、酢酸トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。
安定化剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、グリシン等が挙げられる。
防腐剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジングルコン酸塩、ソルビン酸カリウム、塩酸ポリヘキサニド等が挙げられる。
【0023】
コンタクトレンズ用保存液に含まれる重合体(P)の含有量は、コンタクトレンズ用保存液の全重量を基準として好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下であり、さらに好ましくは3重量%以下であり、特に好ましくは1重量%以下である。また、コンタクトレンズ用保存液に含まれる重合体(P)の含有量は、例えば0.1重量ppm以上であり、1.0重量ppm以上であることが好ましく、10重量ppm以上であることがより好ましく、50重量ppm以上(0.005重量%以上)あるいは100重量ppm以上(0.01重量%以上)であることがさらに好ましい。
なお、コンタクトレンズ用保存液においては、その全重量を基準として例えば90重量%以上、95重量%以上、97重量%以上の水が含まれる。
【0024】
<コンタクトレンズ用保存液の製造方法>
本発明のコンタクトレンズ用保存液は、一般的なコンタクトレンズ用溶液の製造方法により製造することができる。例えば、重合体(P)に、必要に応じて溶媒及びその他の成分を混合して攪拌することにより製造できる。なお、得られたコンタクトレンズ用保存液に対して、必要に応じて無菌ろ過等の操作を行ってもよい。
【実施例0025】
本発明について実施例および比較例により、本発明のコンタクトレンズ用保存液を説明するが、これらの説明の目的は例証であり限定ではない。
【0026】
<重合体の分子量測定>
重合体の数平均分子量は、ポリエチレングリコールを標準サンプルとしてゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定した値である。得られた重合体をTHFで希釈して重合体濃度が0.5質量%になるようにした。この液を0.45μmメンブランフィルターでろ過し測定した。重合体の分子量分析には以下の条件を用いた。
カラム:TSKgelGMHHR-H
移動相:THF
標準物質:ポリエチレングリコール
検出器:示差屈折計RI-8020(東ソー株式会社製)
数平均分子量の算出法:分子量計算プログラム(SC-8020用GPCプログラム)
流量:毎分1mL
注入量:100μL
カラムオーブン:40℃付近の一定温度
【0027】
<重合体の合成>
[合成例1]
ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(Me2MA、東京化成工業株式会社製)41.7g、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート(Me3A、共栄社化学株式会社製)48.3gを4つ口フラスコへ入れ、エタノール715.2gで溶解させ、30分間、窒素ガスの吹き込みを行った。この後、重合開始剤(t-ブチルペルオキシネオデカネートであるパーブチル(登録商標)ND(PB-ND)、日油株式会社製)0.535gを混合液に加えて55℃で6時間、重合反応を行った。重合反応後、重合液を3リットルのジエチルエーテル中にかき混ぜながら滴下し、析出した沈殿をろ過し、48時間室温で真空乾燥を行い、粉末を得た。収量は66.8gであった。これを共重合体1(重合体1)とした。
共重合体1のGPC測定に基づく数平均分子量は13,000であり、共重合体成分のモル比率はMe2MA 57モル%、Me3A 43モル%である。
【0028】
[合成例2~5]
下表の表1に示す種類および量の成分を使用した以外は、合成例1と同様の手順に従って、重合体2~5をそれぞれ合成した。併せて、重合成分のモル比率(%)、数平均分子量を表1に示す。
【表1】
【0029】
<比較例に用いた重合体>
ポロキサマー:ポリオキシエチレン部位200に対してポリオキシプロピレン部位70の重合体である、日油株式会社の製品(製品名:ユニルーブ(登録商標)70DP-950B)を用いた。
【0030】
<生理食塩液の調製>
文献(ISO 18369-3:2006,Ophthalmic Optics-Contact Lenses Part3:Measurement Methods.)を参考に、生理食塩液を調製した。塩化ナトリウム8.3g、リン酸水素ナトリウム十二水和物5.993g、リン酸二水素ナトリウム二水和物0.528gを量り、水に溶かして1000mLとして、ろ過して生理食塩液とした。
【0031】
<コンタクトレンズ用保存液の調製>
以下の実施例、比較例の欄に記載する方法で、コンタクトレンズ用保存液を調製した。
【0032】
[実施例1]
精製水約80gを量り、これに重合体1(1g)を加え、攪拌し、溶解させた。この後、これに全量100mLとなるように精製水を加えた(重合体溶液とする)。この後、この重合体溶液10mLを取り出し、生理食塩液を用いて全量100mLとし、滅菌ろ過を行い、コンタクトレンズ用保存液とした。このコンタクトレンズ用保存液の外観・性状を表2に示す。
【0033】
[実施例2~5]
表2に示す種類及び量の成分を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って調製し、コンタクトレンズ用保存液とした。各実施例の外観・性状を表2に示す。
【表2】
【0034】
[比較例1、2]
下記表3に示す種類及び量の成分を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って調製し、無菌のコンタクトレンズ用保存液とした。各比較例の外観・性状を表3に示す。
【表3】
【0035】
<コンタクトレンズの潤滑性評価>
実施例及び比較例のコンタクトレンズ用保存液において、コンタクトレンズの潤滑性評価を、以下の手順に従って行った。なお、試験ではコンタクトレンズを想定し、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)―メタクリル酸(MAA)ゲル板を作成し、使用した。
【0036】
(手順)
(1)1mm厚のフッ素樹脂(PTFE)スペーサーを、ポリプロピレン(PP)板で挟み、さらに外側からガラス板で挟んで重合用セルとした。
(2)HEMA99.0%wt/v、MAA1.0%wt/v、エチレングリコールジメタクリレート0.5%wt/v、AIBN0.5%wt/vを均一溶解し、混合溶液として重合用セルに流し込んだ。
(3)100℃、2時間、窒素雰囲気下で上述の混合溶液の重合を行った。
(4)重合用セルから重合物を取り出し、精製水で膨潤させた後、4cm×7cmの短冊状に切断した。
(5)ゲル板を生理食塩液50mLに浸漬し、終夜、振とうさせた。
(6)生理食塩液で満たした10cmシャーレにゲル板を固定し、摩擦感テスターKES-SE(カトーテック)を用いて、摩擦係数を測定した。以下の条件を用いて測定した。該評価は空試験とした。
プローブ速度:1mm/秒
プローブ材質:シリコーン
荷重:25g
(7)ゲル板を取り出し、コンタクトレンズ用保存液50mLに浸漬し、終夜、振とうさせた。
(8)ゲル板をコンタクトレンズ用保存液に浸漬し、手順(6)と同様に摩擦係数を測定した。空試験の摩擦係数を100として、得られた摩擦係数の比率を算出し、これをコンタクトレンズの装用開始時を想定した潤滑性評価とした。
(9)同じゲル板を生理食塩液に浸漬し、手順(6)と同様に摩擦係数を測定した。空試験の摩擦係数を100として、得られた摩擦係数の比率を摩擦係数比とした。これをコンタクトレンズの装用開始中を想定した潤滑性評価とした。
摩擦係数比が85未満のものを「潤滑性に優れる」とし、70未満のものを「潤滑性に特に優れる」とした。
実施例2~実施例7及び比較例1~比較例2のコンタクトレンズ用保存液についても上記手順に従って測定を行った。結果を以下の表4及び表5に示す。
【0037】
<コンタクトレンズの表面親水性評価>
実施例及び比較例において、コンタクトレンズの表面親水性評価を、以下の手順に従って行った。なお、コンタクトレンズの表面親水性評価には、コンタクトレンズとしてワンデーアキュビュー(登録商標)モイスト(登録商標)(ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社製)を用いた。親水性評価で用いた生理食塩液は、上記潤滑性評価の場合と同様に調製した。
【0038】
(1)試験コンタクトレンズをブリスターパックから1枚取り出し、コンタクトレンズケースへ入れた。このとき、ブリスターパック中の保存液はコンタクトレンズケースに入れなかった。
(2)コンタクトレンズケースに1mLの生理食塩液を入れ、上記コンタクトレンズと生理食塩液とがなじむように十分に浸漬した。
(3)生理食塩液を取り除き、再度、新しい生理食塩液を1mL入れ、コンタクトレンズと生理食塩液とがなじむよう十分に浸漬した。
(4)コンタクトレンズを取り出し、レンズ表面の水膜が切れるまでの時間(BUT)をストップウォッチで計測した。該評価は空試験とした。このBUTを「表面親水性」として表4及び表5に示す。BUTが10秒以上15秒未満のものを「表面親水性に優れる」とし、15秒以上のものを「表面親水性に特に優れる」とした。コンタクトレンズの表面親水性評価を下記表4及び表5に示す。
(5)生理食塩液を取り除き、コンタクトレンズケースに実施例及び比較例の各溶液を1mL入れ、オートクレーブ処理(121℃、20分間)を行った。
(6)コンタクトレンズを取り出し、レンズ表面の水膜が切れるまでの時間(BUT)をストップウォッチで計測した。該評価は、コンタクトレンズの装用開始時を想定した表面親水性評価とした。
【表4】

【表5】
【0039】
実施例における装用開始時を想定した評価では摩擦係数比が69~47、実施例における装用中を想定した評価では摩擦係数比が82~68であった。
一方、比較例における装用開始時を想定した評価では摩擦係数比が93~87、比較例における装用中を想定した評価では摩擦係数比が100~94であった。
以上の結果から、実施例のコンタクトレンズ用保存液は、ポロキサマーを使用した比較例と比較して、コンタクトレンズ表面に潤滑性を付与し、耐久性向上効果に優れることがわかった。
【0040】
また、実施例におけるコンタクトレンズの表面親水性評価(空試験)では、BUTが2~5秒であり、実施例におけるコンタクトレンズの表面親水性評価(装用開始時を想定した評価)ではBUTが10~19秒であった。
一方、比較例におけるコンタクトレンズの表面親水性評価(空試験)ではBUTが5~7秒であり、比較例におけるコンタクトレンズの表面親水性評価(装用開始時を想定した評価)ではBUTが25~34秒であった。
以上の結果から実施例のコンタクトレンズ用保存液は、ポロキサマーを使用した比較例と比較して、親水性は劣るものの、同様の改善効果を示すことがわかった。
以上より、実施例のコンタクトレンズ用保存液は、比較例と比較して、コンタクトレンズ表面に潤滑性、表面親水性を付与する効果に優れることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のコンタクトレンズ用保存液は、コンタクトレンズに対して簡便に、親水性向上効果、潤滑性向上効果を付与することができる。更に、この良好な装用感を長時間にわたって持続させることができる。