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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151119
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】密閉弁
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/08 20060101AFI20220929BHJP
   F02M 37/00 20060101ALI20220929BHJP
   F16K 31/06 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F02M25/08 D
F02M37/00 301H
F02M37/00 311K
F16K31/06 305L
F16K31/06 385A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054039
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】592056908
【氏名又は名称】浜名湖電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096998
【弁理士】
【氏名又は名称】碓氷 裕彦
(72)【発明者】
【氏名】岩井 一弘
(72)【発明者】
【氏名】木村 潤
【テーマコード(参考)】
3G144
3H106
【Fターム(参考)】
3G144BA40
3G144DA03
3G144EA05
3G144EA08
3G144EA18
3G144FA04
3G144GA03
3G144GA05
3G144GA06
3G144GA15
3G144GA23
3H106DA05
3H106DA07
3H106DA13
3H106DC02
3H106DC17
3H106DD03
3H106EE34
3H106EE40
3H106GC14
3H106KK20
(57)【要約】
【課題】密閉弁自体に2段切り替え機能を持たせ、密閉弁の体格を小さくする。
【解決手段】ムービングコアが開方向へ第2距離移動する際にはムービングコアの移動をシール部材に非伝達とし、第2距離以上移動するとシール部材を弁座から離脱させる。ムービングコアが変位しても、第2距離分の移動はキャンセルされて、シール部材は弁座から少ししか離れない。通路室に面するシール部材の受圧面積の方が、通路室に面する係合部材の受圧面積より大きくしているので、通路室内の圧力が高い状態ではシール部材の開度は少なく、弁座とシール部材との間からキャニスタ側ポートに流れる空気の流量は少なくなる。一方で、通路室内の圧力が低くなると、係合バネの付勢力で収納部は第2距離移動し、シール部材は第1距離弁座から離れ、弁座とシール部材との間からキャニスタ側ポートに大量の空気を流す。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガソリン燃料を貯蔵する燃料タンクと、蒸発燃料を吸着するキャニスタと、このキャニスタと前記燃料タンクの空気空間とを結ぶパージ通路と共に用いられ、前記パージ通路を流れる空気の遮断を行う密閉弁であって、
前記パージ通路を介して前記燃料タンクと連通するタンク側ポート(111)と、前記パージ通路を介して前記キャニスタと連通するキャニスタ側ポート(112)と、このキャニスタ側ポート及び前記タンク側ポートと連通す通路室(113)と、この通路室に形成される弁座(114)とを備えるハウジング(110)と、
通電により励磁するコイル(202)と、このコイルの励磁時に磁気回路を構成するステータコア(204)と、このステータコアと磁気ギャップを介して対向配置され前記コイルの励磁時に前記ステータコア側の第1方向に第1距離吸引されるムービングコア(205)と、このムービングコアを前記ステータコアの吸引方向とは逆方向の第2方向に付勢するバネ(207)とを備える電磁弁(200)と、
前記ムービングコアの変位に応じて前記弁座と当接して前記通路室と前記キャニスタ側ポートとを非連通とするシール部材(301)と、前記ムービングコアの移動を前記シール部材に伝える係合部材(310)と、この係合部材及び前記シール部材に形成され前記キャニスタ側ポートと前記電磁弁とを連通する連通通路(305)と、前記係合部材の外周に配置され前記通路室と前記電磁弁との間を仕切るダイヤフラム(320)とを備える弁体部材(300)とを備え、
前記係合部材は、前記ムービングコアの移動を受けて移動する移動部(313)と、この移動部を前記第1方向及び前記第2方向に前記第1距離より短い第2距離移動可能に収納する収納部(315)と、この収納部に配置され前記移動部を前記第2方向に付勢する係合バネ(316)とを備え、
前記通路室に面する前記シール部材の受圧面(301a)の面積の方が、前記通路室に面する前記係合部材の受圧面(311a)の面積より前記ダイヤフラムの受圧面を加味しても大きい
ことを特徴とする密閉弁。
【請求項2】
前記収納部は、前記移動部の前記第2方向の移動時に当接する当接部と、前記移動部の前記第1方向の移動時に係合する係合部とを備える
ことを特徴とする請求項1記載の密閉弁。
【請求項3】
前記収納部は内部に前記移動部を収納する円筒形状の筒部材であり、
前記係合部材は、前記収納部の内周側に突出形成され、前記移動部の外周に突出形成された移動側係合爪と係合する収納側係合爪である
ことを特徴とする請求項2記載の密閉弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガソリン燃料を貯蔵する燃料タンクと、蒸発燃料を吸着するキャニスタと、このキャニスタと燃料タンクの空気空間とを結ぶキャニスタ通路と共に用いられ、キャニスタ通路を流れる空気の遮断を行う密閉弁に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料タンクとキャニスタとの間はキャニスタ通路により連通しているが、燃料タンクから蒸発燃料が漏出しないよう、キャニスタ通路を確実にシールすることが求められる。そのため、密閉弁の全閉時にはシール性能が要求される。
【0003】
また、密閉弁の全開時には所定流量の空気が流れる。ここで、燃料タンクの内圧が高い状態で密閉弁がキャニスタ通路を全開すると、大量の蒸発燃料がキャニスタに送られ、キャニスタの処理能力を超えてしまう恐れがある。一方で、燃料タンクに燃料を給油する前の待ち時間を短縮するためには、蒸発燃料を含む大量の空気をキャニスタ側に送る必要がある。
【0004】
そこで、特許文献1では、燃料タンク内の圧力が高い時には小開度として流量を制限し、燃料タンク内の圧力が低くなると大開度として大量の空気を流す2段切り替え弁を密閉弁に組み合わせていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-151189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ただ、特許文献1では、密閉弁の弁体とは別に2段切り替え弁を配置していたので、全体としての体格が大きくなっていた。そこで、本開示は、密閉弁自体に2段切り替え機能を持たせ、密閉弁の体格を小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1は、ガソリン燃料を貯蔵する燃料タンクと、蒸発燃料を吸着するキャニスタと、このキャニスタと燃料タンクの空気空間とを結ぶキャニスタ通路と共に用いられ、キャニスタ通路を流れる空気の遮断を行う密閉弁である。
【0008】
そして、本開示の第1は、キャニスタ通路を介して燃料タンクと連通するタンク側ポートと、キャニスタ通路を介してキャニスタと連通するキャニスタ側ポートと、このキャニスタ側ポート及びタンク側ポートと連通す通路室と、この通路室に形成される弁座とを備えるハウジングを有している。
【0009】
また、本開示の第1は、通電により励磁するコイルと、このコイルの励磁時に磁気回路を構成するステータコアと、このステータコアと磁気ギャップを介して対向配置されコイルの励磁時にステータコア側の第1方向に吸引されるムービングコアと、このムービングコアをステータコアの吸引方向とは逆方向の第2方向に付勢するバネとを備える電磁弁も有している。
【0010】
かつ、本開示の第1は、ムービングコアの変位に応じて弁座と当接して通路室とキャニスタ側ポートとを非連通とするシール部材と、ムービングコアの移動をシール部材に伝える係合部材と、この係合部材及びシール部材に形成されキャニスタ側ポートと電磁弁とを連通する連通通路と、係合部材の外周に配置され通路室と電磁弁との間を仕切るダイヤフラムとを備える弁体部材も有している。
【0011】
そして、本開示の第1は、ムービングコアの移動を受けて移動する移動部と、この移動部を第1方向及び第2方向に第1距離より短い第2距離移動可能に収納する収納部と、この収納部に配置され移動部を第2方向に付勢する係合バネとを備えており、通路室に面するシール部材の受圧面積の方が、通路室に面する係合部材の受圧面積よりダイヤフラムの受圧面を加味しても大きくしている。
【0012】
本開示の第1によれば、係合部材の移動部が収納部の当接部と当接して、ムービングコアの第2方向(閉方向)の移動をシール部材に伝え、シール部材はハウジングに形成された弁座を閉じることができる。
【0013】
本開示の第1では、ムービングコアが第1方向へ第2距離移動する際にはムービングコアの移動をシール部材に非伝達とし、第2距離以上移動するとムービングコアの移動をシール部材に伝達してシール部材を弁座から離脱させるようにしている。そのため、コイルの励磁時にムービングコアが第1距離変位しても、第2距離分の移動はキャンセルされて、シール部材は弁座から少ししか離れない。
【0014】
本開示の第1では、通路室に面するシール部材の受圧面積の方が、通路室に面する係合部材の受圧面積よりダイヤフラムの受圧面を加味しても大きくしているので、通路室内の圧力が高い状態ではシール部材の開度は少なく、弁座とシール部材との間からキャニスタ側ポートに流れる空気の流量は少なくなる。
【0015】
一方で、通路室内の圧力が低くなると、係合バネの付勢力で収納部は第2距離移動することができる。そのため、シール部材はムービングコアの移動量である第1距離弁座から離れ、弁座とシール部材との間からキャニスタ側ポートに大量の空気を流すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の密閉弁が用いられるシステムを示す構成図である。
図2】本開示の密閉弁の正面図である。
図3図2の右側面図である。
図4図3のIV-IV線に沿う断面図でシール部材閉状態を示す。
図5図4図示密閉弁の断面図でシール部材開(差圧大)状態を示す。
図6図4図示密閉弁の断面図でシール部材開(差圧小)状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本開示の密閉弁100が用いられるシステムを示している。密閉弁100は、ガソリンを貯蔵する燃料タンク10の上面の気相空間とキャニスタ20とを連通するパージ通路30に配置される。キャニスタ20は、活性炭により燃料タンク10から流入した空気に含まれる蒸発燃料を吸着する。キャニスタ20には大気導入口21が開口しており、内部は大気圧である。なお、図示していないが、大気導入口21には大気導入口21を閉じる大気導入弁が配置されている。
【0018】
密閉弁100と並列に高圧側リリーフ通路31及び低圧側リリーフ通路32が配置されている。高圧側リリーフ通路31には燃料タンク10内の圧力が大気圧より所定圧、例えば15キロパスカル程度高くなったときに高圧側リリーフ通路31を開いて、蒸発燃料と空気をキャニスタ20側に流す高圧側リリーフ弁33が配置されている。また、低圧側リリーフ通路32には燃料タンク10内の圧力が大気圧より所定圧、例えば8キロパスカル程度低くなったときに低圧側リリーフ通路32を開いて、空気をキャニスタ20から燃料タンク10側に流して、燃料タンク10内を大気圧とする低圧側リリーフ弁34が配置されている。
【0019】
キャニスタ20に吸着された燃料は、出口側パージ通路40を介して、エンジン50のスロットルバルブ51下流の吸気通路52に供給される。出口側パージ通路40にはパージバルブ41が配置され、パージバルブ41により出口側パージ通路40の開閉、及び出口側パージ通路40を流れる蒸発燃料の量が制御される。
【0020】
60はエンジン50を制御するコントローラで、スロットルバルブ51の開度や、インジェクタ53よりエンジン50に供給する燃料量を制御する。パージバルブ41の流量もこのコントローラ60により制御される。
【0021】
燃料タンク10の上面には圧力センサ11が配置され、燃料タンク10内の蒸発燃料及び空気の圧力を測定している。圧力センサ11の信号もコントローラ60に送信される。コントローラ60は、燃料タンク10への給油の状況や、圧力センサ11からの信号、パージバルブ41の制御状況等に応じて密閉弁100の開閉を制御する。
【0022】
密閉弁100は、図2及び図3に示すようにポリブチレンテレフタレートPBT製のハウジング110と電磁弁200を備えている。ハウジング110には、パージ通路30を介して燃料タンク10と連通するタンク側ポート111と、パージ通路30を介してキャニスタ20と連通するキャニスタ側ポート112が設けられている。タンク側ポート111及びキャニスタ側ポート112は共に径が20ミリメートル程度、長さが50ミリメートル程度である。
【0023】
電磁弁200は、後述する各部材が電磁弁ハウジング250内に収納されている。電磁弁ハウジング250もポリブチレンテレフタレートPBT製である。そして、ハウジング110とはOリング254を介在させて、金属製結合板251によりカシメ固定されている。電磁弁ハウジング250には、密閉弁を自動車の車体にボルト止めするためのボルト通し穴252が設けられている。
【0024】
図4に示すように、ハウジング110はタンク側ポート111とキャニスタ側ポート112との間に円筒状の通路室113が形成され、キャニスタ側ポート112よりこの通路室113に向けて円環状に弁座114が3ミリメートル程度突出形成されている。
【0025】
電磁弁200は、ハウジング110の通路室113の弁座114とは反対側に配置されている。電磁弁200は、ポリブチレンテレフタレートPBT等の樹脂製のボビン201に多数回巻装されたコイル202を備えている。コネクタ253より駆動電圧を受けてコイル202に通電された際にはコイル202は励磁する。その際の磁気回路を形成するようにコイル202の外側には鉄製のヨーク203が配置され、コイル202の内周側には同じく鉄製のステータコア204が配置されている。
【0026】
ステータコア204は円筒形状をしており、内部には鉄製で円柱形状をしたムービングコア205が移動可能に配置されている。ステータコア204には、絞り部204aが形成され、この絞り部204aにより、ステータコア204とムービングコア205との間に磁気ギャップ206が形成される。コイル202の励磁時にはこの磁気ギャップ206を縮めるべく、ムービングコア205は図中下方(第1方向a)に吸引される。そして、バネ207はムービングコア205を吸引方向と反する方向(第2方向b)に付勢している。バネ207は一方をムービングコア205に支持され、他方はバネ受け部材208によって支持されている。バネ受け部材208はステータコア204の内周に配置されている。
【0027】
ハウジング110の通路室113には、弁座114と対向する位置に円盤状のシール部材301が配置される。シール部材301はPBT樹脂製で、弁座114とのシール性を高めるため、弁座114と接する位置にリング状のシール部302が突出形成されている。
【0028】
ムービングコア205の移動をシール部材301に伝達するのが係合部材310で、係合部材310は通路室113内でシール部材301と対向配置された円盤状部材311を有している。この円盤状部材311は、連結部312と共にシール部材301と樹脂で一体成形されている。円盤状部材311の通路室113に露出する受圧面311aの面積は、シール部材301の通路室113に露出する受圧面301aの面積より小さくなっている。
【0029】
係合部材310は、ムービングコア205と一体に移動する移動部313も備えている。移動部313もPBT等の樹脂製で、同じく樹脂製の固定部材314がムービングコア205に形成された結合孔205aに圧入されることによって、ムービングコア205に固定されている。
【0030】
係合部材310は、この移動部313を収納する収納部315も備えている。収納部315もPBT等の樹脂製で、円筒形状をしており、円盤状部材311に溶着されている。円盤状部材311のうち、収納部315側の面は移動部313が当接する当接面311bとなっている。
【0031】
係合部材310は、収納部315に係合バネ316を備えている。係合バネ316は、その一端が移動部313に形成された移動側バネ受け部313aに係止され、他端が収納部315に形成された係止部315aに係止されている。従って、係合バネ316は、移動部313が収納部315内で第1方向aに移動することを許容すると共に、第1方向aの移動に応じて移動に反する荷重が増える構造である。
【0032】
収納部315の係止部315aは、移動部313の外周に形成された係止爪313bとも係合可能に形成されている。図4に示すように、移動部313が当接面311bに当接している状態では、係止部315aは係止爪313bとは2ミリメートル程度の所定距離(第2距離)離れており、係合していない。その状態から、ムービングコア205がステータコア204との磁気ギャップ206の方向(第1方向a)に吸引されると、図5に示すように、係止部315aは係止爪313bと係合する。
【0033】
ここで、コイル202の励磁時のムービングコア205の移動量(第1距離)は3ミリメートル程度で、それに対し、係止部315aと係止爪313bと距離(第2距離)は第1距離より短く設定されている。そのため、図5に示すように、コイル202が励磁してムービングコア205が第1距離移動すると、シール部材301は弁座114から第1距離と第2距離との差分離脱することとなる。本開示では、この際の離脱量は1ミリメートル程度である。
【0034】
上述の通り、シール部材301、連結部312及び円盤状部材311は樹脂で一体成形されており、中心軸位置に1ミリメートル程度の連通通路305が形成されている。また、ハウジング110の通路室113と電磁弁200との間には、フッ素ゴム製のダイヤフラム320が配置されている。ダイヤフラム320はリング状をしており、その内周321は係合部材310の円盤状部材311と収納部315に挟持されている。ダイヤフラム320の外周322はハウジング110と電磁弁ハウジング250とによって挟持されている。
【0035】
従って、ハウジング110の通路室113と電磁弁200とはダイヤフラム320によって仕切られている。また、電磁弁200の配置される空間の圧力は連通通路305によってハウジング110のキャニスタ側ポート112内の圧力と同一となっている。本開示では、固定部材314、ムービングコア205及びバネ受け部材208にも、それぞれボルト連通通路314a、ムービングコア連通通路205b及びバネ受け部材連通通路208aを設けて、電磁弁200とキャニスタ側ポート112との均圧化を行っている。
【0036】
本開示では、上述のように、連結部312、円盤状部材311、移動部313、収納部315、及び係合バネ316で係合部材310を構成している。そして、この係合部材310とシール部材301及びダイヤフラム320で弁体部材300を構成し、弁体部材300には、キャニスタ側ポート112と電磁弁200側とを連通する連通通路305が形成されている。
【0037】
次に、上記構成よりなる密閉弁100の作動を説明する。密閉弁100には、燃料タンク10内の空気や蒸発燃料がキャニスタ20に漏出しないよう燃料タンク10内に閉じ込めておく機能が求められる。このシール機能はエンジン50が運転していない駐車時にも求められる。この密閉時には、コイル202には通電されていなく、ムービングコア205はバネ207の付勢力を受けて、図4の上方に押圧される。このムービングコア205の移動は、係合部材310を介してシール部材301に伝達される。より具体的には、移動部313が円盤状部材311の当接面311bに当接し、連結部312を介してムービングコア205の移動がシール部材301に伝達される。
【0038】
その結果、シール部302はバネ207の付勢力を受けて弁座114側に着座する。燃料タンク10は密閉されているので、燃料タンク10内の圧力は外部環境の温度変化を受けて変動する。外部温度が高くなったり、振動を受けたりして、燃料タンク10内の圧力が大気圧以上に上昇すると、タンク側ポート111から燃料タンク10内の通路室113に伝達され、通路室113内の圧力も大気圧以上となる。一方、キャニスタ20は大気圧の状態であるので、キャニスタ側ポート112の圧力は大気圧である。
【0039】
ここで、キャニスタ側ポート112側の圧力は連通通路305を介して電磁弁200側にも伝達されるので、通路室113内の圧力とキャニスタ側ポート112側の圧力との差圧は円盤状部材311の受圧面311aにも加わる。即ち、シール部材301には、差圧と受圧面301aの面積との積で得られる力が弁座114を閉じる方向に加わり、円盤状部材311には、差圧と円盤状部材311の受圧面311aの面積との積の力が弁座114を開く方向に加わる。ただ、シール部材301の受圧面301aの面積の方が、円盤状部材311の受圧面311aの面積より大きいので、通路室113内の圧力はシール部材301を弁座114側に押圧する方向に作用し、シール部材301は弁座114を確実にシールする。なお、通路室113内の圧力はダイヤフラム320にも差圧として加わる。この差圧はダイヤフラム320の頂点を境として、頂点より電磁弁ハウジング250側の差圧は電磁弁ハウジング250が受け持ち、頂点より円盤状部材311側は弁体部材300が受け持つ。そのため、本開示では受圧面311aの面積には、ダイヤフラム320の頂点より円盤状部材311側の面積も含んでいる。上記のシール部材301の受圧面301aの面積の方が、円盤状部材311の受圧面311aの面積より大きいとは、このダイヤフラム320の頂点より円盤状部材311側の面積を含んでも、まだ、シール部材301の受圧面301aの面積の方が大きいことを表現している。
【0040】
一方、外部温度が低くなったりして、燃料タンク10内の圧力が負圧となると、通路室113内の圧力も大気圧以下に低下する。この場合には、通路室113内の圧力は、シール部材301の受圧面301aの面積と円盤状部材311の受圧面311aの面積との関係から、シール部材301を弁座114から離脱させる方向に作用する。従って、バネ207の付勢力はこの際の通路室113の負圧に打ち勝つ大きさに設定されている。例えば、3ニュートン程度に設定されている。
【0041】
駐車時のように、圧力センサ11やコントローラ60が作動していなく、密閉弁100も作動しない状態で、燃料タンク10内の圧力が所定値以上高くなったり、低くなったりした場合には、高圧側リリーフ弁33や低圧側リリーフ弁34が開いて、燃料タンク10内の圧力が異常に変動するのを抑えている。なお、高圧側リリーフ弁33や低圧側リリーフ弁34は、燃料タンク10内圧力の異常変動を回避するものであるため、その設定圧は、弁体部材300の開弁圧より数倍程度大きくなっている。
【0042】
燃料タンク10に給油する際には、燃料タンク10上方部に存在する蒸発燃料を急速にキャニスタ20側に逃がす必要がある。そこで、密閉弁100はシール部材301の開弁時には、弁座との間で充分な距離(第1距離)を確保できるようにしている。本開示では、ムービングコア205の移動距離である第1距離は、上述のように、3ミリメートル程度としている。この場合1700リットル程度のパージ空気を1分で流すことができる。
【0043】
ただ、燃料タンク10内の圧力が高い状態でシール部材301が第1距離移動したのでは、大量の蒸発燃料がキャニスタ20側に流れることとなり、キャニスタ20の蒸着能力を上回る恐れがある。そこで、本開示では、係合部材310の移動部313と収納部315との間で第1距離より短い第2距離の移動を逃がす構造を採用している。図5に示すように、移動部313が第2距離移動してから、移動部313の係止爪313bが収納部315の係止部315aに当接する。
【0044】
上述の通り、シール部材301の受圧面301aの面積の方が、円盤状部材311の受圧面311aの面積より大きいので、通路室113内の圧力がキャニスタ側ポート112側の圧力よりも高い時は、シール部材301は所定の力で弁座114側に押されている。上述のとおり、本開示では、円盤状部材311の受圧面311aの面積はダイヤフラム320の頂点より円盤状部材311側の受圧面を含めている。従って、移動部313の移動時には、係合バネ316は差圧により生じる力を受けて第2距離縮む。その結果、移動部313の係止爪313bが収納部315の係止部315aに当接した後に、収納部315、円盤状部材311、連結部312、及びシール部材301が移動する。本開示では、係合バネ316の設定圧を、燃料タンク10(通路室113)内の圧力が大気圧より10キロパスカル程度高い状態としている。
【0045】
そのため、シール部材301の移動量は、第1距離から第2距離を差し引いた値となり、本開示では、1ミリメートル程度である。その結果、シール部302と弁座114との間は絞られて、燃料タンク10内の圧力が高圧であったとしても、蒸発燃料がキャニスタ20に大量に流れ込むことは無くなる。この場合60リットル程度のパージ空気を1分で流すことができる。
【0046】
小流量であれ、燃料タンク10内の蒸発燃料がキャニスタ20側に流れると、燃料タンク10内の圧力は低下する。それに伴い、ハウジング110の通路室113内の圧力も低下する。その結果、シール部材301の受圧面301aの面積と円盤状部材311の受圧面311aの面積との差により生じる力より、係合バネ316の力の方が上回ることとなる。すると、図6に示すように、係合バネ316が伸び、移動部313はムービングコア205の移動量である第1距離移動する。
【0047】
それに伴い、シール部材301と弁座114との間の隙間も第1距離となって、蒸発燃料や空気が流れやすくなる。この状態では、燃料タンク10内の圧力も低下しているので、シール部材301が大きく開いてもキャニスタ20に処理能力を超える蒸発燃料が流入することは無い。
【0048】
このように、本開示では、給油の開始前にまずシール部材301を少ない距離(第1距離―第2距離)開いて燃料タンク10内の圧力をさげ、圧力が下がってからシール部材301を大きな距離(第1距離)開く。そのため、キャニスタ20にその処理能力を上回らない量の蒸発燃料を早期に送ることができる。
【0049】
給油中は、燃料タンク10内の圧力は大気圧であるので、係合バネ316が圧縮されることはない。従って、シール部材301は弁座114から第1距離離脱している。弁座114とシール部材301との間で空気流れに大きな圧力損失が生じることもなく、給油はスムーズに行われる。
【0050】
特に、本開示では、シール部材301の離脱距離を可変する機構を、シール部材301を含む弁体部材300自体で構成しているので、密閉弁100全体の体格を大きくすることが無く、小型軽量化を達成することができる。
【0051】
キャニスタ20に吸着された蒸発燃料は、エンジン50の運転中に、スロットルバルブ51下流の吸気通路52に、吸気負圧を利用して戻される。出口側パージ通路40を流れる蒸発燃料の量はパージバルブ41により制御される。その際に、燃料タンク10上方部の蒸発燃料をキャニスタ20側に流すべく、密閉弁100も所定タイミングで開閉する。パージバルブ41の流量制御や密閉弁100の開閉制御は、コントローラ60によりなされる。
【0052】
この状態で、燃料タンク10内の圧力によっては、シール部材301の弁座114からの離脱距離が小距離(第1距離-第2距離)となる可能性もあるが、パージバルブ41より吸気通路52に流れる流量は少量であるので、シール部材301の離脱距離が小さくても圧力損失が問題となることは無い。
【0053】
なお、上述したのは、本開示の望ましい例であるが、本開示は種々に変更可能である。上述した材料や大きさは一例であり、求められる性能等に応じて設計すればよい。
【0054】
また、上述の開示では、係合部材310の移動部313を固定部材314でムービングコア205に固定したが、他の方法で固定しても良く、ムービングコア205自体を移動部313として利用することも可能である。
【0055】
また、上述の開示では、シール部材301、円盤状部材311、連結部312を一体成形したが、別体として成形してもよい。逆に、円盤状部材311と収納部315を一体成形してもよい。
【符号の説明】
【0056】
100 密閉弁
110 ハウジング
111 タンク側ポート
112 キャニスタ側ポート
113 通路室
114 弁座
200 電磁弁
301 シール部材
310 係合部材
313 移動部
315 収納部
316 係合バネ
320 ダイヤフラム
図1
図2
図3
図4
図5
図6