(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151136
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】検査対象物の状態診断方法および装置ならびに状態診断システム
(51)【国際特許分類】
G01N 29/04 20060101AFI20220929BHJP
G01N 29/265 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
G01N29/04
G01N29/265
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054061
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(71)【出願人】
【識別番号】591280197
【氏名又は名称】株式会社構造計画研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】富田 泰宇
(72)【発明者】
【氏名】添田 智美
(72)【発明者】
【氏名】日村 みのり
(72)【発明者】
【氏名】千葉 拓史
(72)【発明者】
【氏名】相川 梓
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA10
2G047BC09
2G047CA03
2G047DB12
2G047EA12
2G047GD02
(57)【要約】
【課題】検査対象物の水平面の状態評価情報を効率的かつ精度良く生成することができる状態診断方法および装置ならびに状態診断システムを提供する。
【解決手段】検査対象物10の状態を診断する状態診断装置100は、装置本体を検査対象物10の検査対象面上で移動可能な車輪部104と、フレームに設けられ外部の少なくとも2つの指標21~24を検出することでフレーム101の全体位置を検出する全体位置検出部200と、フレーム101の全体位置における検査対象物10の状態を検出する検出部を含む診断ユニット400と、フレーム101の全体位置と検出部による検出信号とを対応付けて検査対象面の診断情報を生成するデータ処理部を含むコンピュータ500とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平面に沿って延在する検査対象物の状態を診断する状態診断装置であって、
前記状態診断装置の装置本体を前記検査対象物の検査対象面上で移動可能にする車輪部と、
外部の少なくとも2つの指標を検出することで前記検査対象面上における前記装置本体の全体位置を検出する全体位置検出部と、
前記装置本体の全体位置における前記検査対象物の状態を検出する検出部と、
前記装置本体の全体位置と前記検出部による検出信号とを対応付けて前記検査対象面の診断情報を生成するデータ処理部と、
を有する検査対象物の状態診断装置。
【請求項2】
前記データ処理部は、前記全体位置検出部が検出した少なくとも2つの指標から基準方向を決定し、前記基準方向に従って前記装置本体の全体位置を特定するための全体座標を決定することを特徴とする請求項1に記載の状態診断装置。
【請求項3】
前記データ処理部に接続された表示部を更に有し、前記データ処理部は前記装置本体の全体位置をモニタ用の画面に表示することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の状態診断装置。
【請求項4】
前記データ処理部は、前記全体位置検出部が全体位置を検出するナビゲーションモードにおいて前記装置本体の静止状態で前記検出部により前記装置本体内の状態検出を実行させることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の状態診断装置。
【請求項5】
前記検出部を前記装置本体内の所望の位置に移動させる検出部移動機構を更に有し、
前記データ処理部は、前記検出部の前記装置本体内位置と前記装置本体の全体位置と前記検出部による検出信号とを対応付けて前記検査対象面の診断情報を生成することを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載の検査対象物の状態診断装置。
【請求項6】
水平面に沿って延在する検査対象物の状態を診断する状態診断システムであって、
前記検査対象物の水平面上に設置され検査対象面を特定するための複数の指標と、
前記検査対象面上を前記複数の指標を検出しながら移動し、前記検査対象物の状態を診断する状態診断装置と、
からなり、
前記状態診断装置が、
少なくとも2つの指標を検出することで前記検査対象面上の全体位置を検出する全体位置検出部と、
前記全体位置における前記検査対象物の状態を検出する検出部と、
前記全体位置と前記検出部による検出信号とを対応付けて前記検査対象面の診断情報を生成するデータ処理部と、
からなる、ことを特徴とする検査対象物の状態診断システム。
【請求項7】
前記データ処理部は、前記全体位置検出部が検出した少なくとも2つの指標から基準方向を決定し、前記基準方向に従って前記全体位置を特定するための全体座標を決定することを特徴とする請求項6に記載の状態診断システム。
【請求項8】
前記データ処理部に接続された表示部を更に有し、前記データ処理部は前記全体位置をモニタ用の画面に表示することを特徴とする請求項6または7に記載の状態診断システム。
【請求項9】
水平面に沿って延在する検査対象物の状態を診断する状態診断方法であって、
全体位置検出部が外部の少なくとも2つの指標を検出することで前記検査対象面上における前記状態診断装置の全体位置を取得し、
検出部が前記状態診断装置の全体位置における前記検査対象物の状態を検出し、
データ処理部が前記状態診断装置の全体位置と前記検出部による検出信号とを対応付けて前記検査対象面の診断情報を生成する、
ことを特徴とする状態診断方法。
【請求項10】
水平面に沿って延在する検査対象物の状態を診断する状態診断装置としてコンピュータを制御するプログラムであって、
全体位置検出部が外部の少なくとも2つの指標を検出することで前記検査対象面上における前記状態診断装置の全体位置を取得する機能と、
検出部が前記状態診断装置の全体位置における前記検査対象物の状態を検出する機能と、
データ処理部が前記状態診断装置の全体位置と前記検出部による検出信号とを対応付けて前記検査対象面の診断情報を生成する機能と、
を前記コンピュータに実現することを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検査対象物の状態を診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の外装材(外壁材)の剥離、剥落などを未然に防止するために、建物の状態を診断する方法が種々提案されている。たとえば特許文献1には、検査対象物の表面を打撃した時の打音を検出し、打音検出信号の波形に基づいて検査対象物の状態を評価する状態評価装置が開示されている。
【0003】
また特許文献2には、ビルの外壁など広い面積の外装材を低コストかつ効率的に診断するために、打撃により検査を行う検出部を外壁平面に沿って移動させ、検査を行った位置情報と検査結果とを関連付けて外壁全体の状態評価情報を生成する状態評価装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-205900号公報
【特許文献2】特開2019-178953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ビルの外壁のような鉛直面を検査する場合、検出部を搭載したフレームをワイヤで吊すことにより重力方向を基準として利用することができる。すなわち、ワイヤを巻き取りあるいは巻き戻すだけで検出部を容易に垂直方向に移動させることができ、ワイヤ巻取装置自体を水平移動させることで検出部を容易に水平方向に移動させることができる。
【0006】
このように壁診断システムでは、水平・鉛直方向を基準にして全体座標のX、Y軸方向の設定およびX、Y軸方向に対する診断装置の傾き(X、Y軸方向とx、y軸方向の傾き)の把握が容易であった。これに対してビルの床や屋上面のような水平面に沿って検出部を移動させながら診断する床診断システムでは、鉛直方向のような基準となるものがないため、全体座標の軸の方向の設定および全体座標と診断装置の傾きを認識することが容易ではなく、診断器の正確な座標を計測することが難しい。
【0007】
そこで、本発明の目的は、検査対象物の水平面の状態評価情報を効率的かつ精度良く生成することができる状態診断方法および装置ならびに状態診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため本発明の一実施の形態は、水平面に沿って延在する検査対象物の状態を診断する状態診断装置であって、前記状態診断装置の装置本体を前記検査対象物の検査対象面上で移動可能にする車輪部と、外部の少なくとも2つの指標を検出することで前記検査対象面上における前記装置本体の全体位置を検出する全体位置検出部と、前記装置本体の全体位置における前記検査対象物の状態を検出する検出部と、前記装置本体の全体位置と前記検出部による検出信号とを対応付けて前記検査対象面の診断情報を生成するデータ処理部と、を有することを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記データ処理部は、前記全体位置検出部が検出した少なくとも2つの指標から基準方向を決定し、前記基準方向に従って前記装置本体の全体位置を特定するための全体座標を決定することを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記データ処理部に接続された表示部を更に有し、前記データ処理部は前記装置本体の全体位置をモニタ用の画面に表示することを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記データ処理部は、前記全体位置検出部が全体位置を検出するナビゲーションモードにおいて前記装置本体の静止状態で前記検出部により前記装置本体内の状態検出を実行させることを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記検出部を前記装置本体内の所望の位置に移動させる検出部移動機構を更に有し、前記データ処理部は、前記検出部の前記装置本体内位置と前記装置本体の全体位置と前記検出部による検出信号とを対応付けて前記検査対象面の診断情報を生成することを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、水平面に沿って延在する検査対象物の状態を診断する状態診断システムであって、前記検査対象物の水平面上に設置され検査対象面を特定するための複数の指標と、前記検査対象面上を前記複数の指標を検出しながら移動し、前記検査対象物の状態を診断する状態診断装置と、からなり、前記状態診断装置が、少なくとも2つの指標を検出することで前記検査対象面上の全体位置を検出する全体位置検出部と、前記全体位置における前記検査対象物の状態を検出する検出部と、前記全体位置と前記検出部による検出信号とを対応付けて前記検査対象面の診断情報を生成するデータ処理部と、からなる、ことを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記データ処理部は、前記全体位置検出部が検出した少なくとも2つの指標から基準方向を決定し、前記基準方向に従って前記全体位置を特定するための全体座標を決定することを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、前記データ処理部に接続された表示部を更に有し、前記データ処理部は前記全体位置をモニタ用の画面に表示することを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、水平面に沿って延在する検査対象物の状態を診断する状態診断方法であって、全体位置検出部が外部の少なくとも2つの指標を検出することで前記検査対象面上における前記状態診断装置の全体位置を取得し、検出部が前記状態診断装置の全体位置における前記検査対象物の状態を検出し、データ処理部が前記状態診断装置の全体位置と前記検出部による検出信号とを対応付けて前記検査対象面の診断情報を生成する、ことを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態は、水平面に沿って延在する検査対象物の状態を診断する状態診断装置としてコンピュータを制御するプログラムであって、全体位置検出部が外部の少なくとも2つの指標を検出することで前記検査対象面上における前記状態診断装置の全体位置を取得する機能と、検出部が前記状態診断装置の全体位置における前記検査対象物の状態を検出する機能と、データ処理部が前記状態診断装置の全体位置と前記検出部による検出信号とを対応付けて前記検査対象面の診断情報を生成する機能と、を前記コンピュータに実現することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施の形態によれば、検査対象物の水平な検査対象面に基準点となる指標を複数個設置することで、これらの指標を手がかりに状態診断装置の検査対象面上の位置を検知でき、水平な検査対象物であっても状態評価情報を効率的かつ精度良く生成することができる。
また、本発明の一実施の形態によれば、少なくとも2つの指標から基準方向を決定することで装置本体の全体位置を特定する全体座標を得ることができ、装置本体の移動方向を容易に決定することができる。
また、本発明の一実施の形態によれば、装置本体の全体位置をモニタ用の画面に表示することができるのでモニタを見ながら装置本体を移動させることができ、広い検査対象面であっても状態診断動作が容易になる。
また、本発明の一実施の形態によれば、状態診断装置のナビゲーションモードにおいて状態検査を実行することができ、広い検査対象面を効率的に状態診断することができる。
また、本発明の一実施の形態によれば、検出部を装置本体内で移動させる検出部移動機構を有するので、より解像度の高い診断情報を生成することができる。
また、本発明の一実施の形態によれば、複数の指標と複数の指標を検出しながら移動し状態診断を行う状態診断装置とを設けたことで、複数の指標を検査対象面に従って設置することにより任意の形状の検査対象面に対応することができるという利点がある。
また、本発明の一実施の形態によれば、少なくとも2つの指標から基準方向を決定することで状態診断装置の全体位置を特定する全体座標を得ることができ、任意の形状の検査対象面であっても状態診断装置の移動方向を容易に決定することができる。
また、本発明の一実施の形態によれば、全体位置をモニタ用の画面を見ながら状態診断装置を移動させることができ、任意の形状の検査対象面に対して状態診断動作が容易になる。
また、本発明の一実施の形態によれば、外部の少なくとも2つの指標を検出することで状態診断装置の全体位置を取得することで、装置構成に依存することなく任意の形状の検査対象面に対して状態評価情報を効率的かつ精度良く生成することができる。
また、本発明の一実施の形態によれば、コンピュータにプログラムを実行させることで装置構成に依存することなく任意の形状の検査対象面に対して状態評価情報を効率的かつ精度良く生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態による状態診断システムの全体的構成を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態による状態診断システムの全体位置検出器の動作を説明するための模式図である。
【
図3】本実施形態による状態診断装置の動作を説明するための模式図である。
【
図4】本実施形態による状態診断装置におけるフレーム全体座標系とフレーム内座標系との関係を説明するための図である。
【
図5】本実施形態による状態診断装置が傾斜した検査対象面を診断する場合の動作を説明するための模式図である。
【
図6】本発明の一実施例による状態診断装置およびリフレクタの構成を示す図である。
【
図7】本実施例による状態診断装置の平面図である。
【
図8】本実施例による状態診断装置の側面図である。
【
図9】本実施例による状態診断装置におけるxyアクチュエータの平面図である。
【
図10】本実施例による状態診断装置におけるxyアクチュエータの正面図である。
【
図11】本実施例による状態診断装置におけるxyアクチュエータの一部破断の側面図である。
【
図12】本実施例による状態診断装置における診断ユニットの側面図である。
【
図13】本実施例による状態診断装置における診断ユニットの正面図である。
【
図14】本実施例による状態診断装置における診断ユニットの平面図である。
【
図15】本実施例による状態診断装置における診断ユニットの上昇時(A)と下降時(B)を示す正面図である。
【
図16】本実施例による状態診断装置における検出部の構成を示す模式的断面図である。
【
図17】本実施例による状態診断装置の制御系および診断情報生成系を示すブロック図である。
【
図18】本実施例による状態診断装置の動作を示すフローチャートである。
【
図19】本実施例による状態診断装置の初期設定の一例を説明するための床面および基準点配置の模式図である。
【
図20】本実施例による状態診断装置のモニタ画面の一例を示す図である。
【
図21】本実施例による状態診断装置の診断動作における基準点移動の一例を示す図である。
【
図22】本実施例による状態診断装置の診断動作における基準点移動の他の例を示す図である。
【
図23】本発明の他の実施例における状態診断装置の動作の第1例を説明するための模式図である。
【
図24】本発明の他の実施例における状態診断装置の動作の第2例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態および実施例に記載されている構成要素は単なる例示であって、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨ではない。
【0012】
1.実施形態
1.1)システム構成
図1に例示するように、本発明の一実施形態による状態診断システムは、水平面に沿って延在する検査対象物10上に複数の基準点Rを設定し、これらの基準点を指標として状態診断装置100の装置本体を順次移動させながら検査対象物10の診断を行う。ここでは一例として検査対象物10の検査対象面が四角形であり、その四隅を4つの基準点R1~R4に設定し、これらの基準点に指標21~24がそれぞれ配置されているものとする。なお、検査対象面の形状は四角形に限定されるものではなく、後述するように指標の設置方法により任意の形状に適用可能である。また基準点(指標)の個数も限定されるものでなく、後述するように少なくとも2個の基準点(指標)があればよい。
【0013】
状態診断装置100の装置本体は人力あるいはモータ駆動により移動可能である。装置本体を構成するフレーム101の上部には全体位置検出器200が固定され、全体位置検出器200が周囲の複数の指標との距離および方向を検出することで自己の位置を決定することができる。以下、全体位置検出器200により決定される位置を全体座標系の座標(X,Y)で表記する。この全体座標系の原点は基準点R1~R4のいずれでも良いし、基準点R1~R4以外の任意の地点を設定してもよい。全体位置検出器200としてはレーザ光、超音波、電波等を利用した種々の方式のものが市販されており、位置検出精度や環境に応じて最適な方式を採用することができる。
【0014】
状態診断装置100はフレーム101の底面に固定された検出部移動機構としてxyアクチュエータ300を有し、xyアクチュエータ300に取り付けられた診断ユニット400は装置本体のフレーム底面内で任意の位置に移動可能である。xyアクチュエータ300はキャスタあるいは駆動輪等の車輪部104により検査対象物10の平面との間で所定の距離が確保される。図示された一つのフレーム内検査範囲11は、後述するようにxyアクチュエータ300が診断ユニット400をスキャン可能な装置本体のフレーム内可動範囲である。ここでは、xyアクチュエータ300により決定される診断ユニット400の位置を装置本体におけるフレーム内座標(x,y)で表記する。このフレーム内座標系の原点はフレーム内検査範囲11の四隅の何れかに予め決めておく。なお、上述した全体位置検出器200とxyアクチュエータ300とはフレーム101のそれぞれの所定位置に固定されているので、これらの位置関係は一定である。
【0015】
状態診断装置100は、少なくとも2つの基準点により基準方向を決定し、全体座標系における移動方向および装置の向きを決定することができる。ここでは状態診断装置100の移動方向および向きは全体座標系のX軸およびフレーム内座標系のx軸または全体座標系のY軸およびフレーム内座標系のy軸に一致させるものとする。状態診断装置100はΔYずつ移動して停止し、停止した全体位置を検出すると共に、xyアクチュエータ300が各フレーム内検査範囲11で診断ユニット400をx方向およびy方向に順次移動させる。
【0016】
状態診断装置100にはコンピュータ500および操作部600が設けられ、全体位置検出器200および診断ユニット400と中継器を介してローカルなネットワークを形成しているものとする。後述するように、コンピュータ500はプログラム制御により全体位置検出器200からの全体位置情報、xyアクチュエータ300からの診断ユニット400のフレーム内位置情報および診断ユニット400からの検査情報に基づいて状態診断制御を行い、状態診断情報のマッピングおよびモニタ表示を実行する。
【0017】
操作部600は、後述するように、ユーザ操作により診断時あるいは移動時に応じてxyアクチュエータ300の起動あるいはリセット、また診断ユニット400の昇降動作を制御する。また、状態診断装置100が電動である場合、操作部600に前進/後退および左折/右折を制御するジョイスティックを設けてもよい。
【0018】
またxyアクチュエータ300、診断ユニット400およびコンピュータ500等からなる本システムの電源はフレーム101に搭載した電源ユニット650から供給しても良いし、外部から延長ケーブルを用いて供給してもよい。またコンピュータ500を外部システムに無線接続するための中継器を設け、外部システムの制御の下で上述した制御および状態診断を実行することも可能である。
【0019】
図2に例示するように、全体位置検出器200がレーザ光を利用した方式であれば、レーザ光を所定角度ステップで周囲360°を所定周期でスキャンし、その反射光を検出することで全体位置を検出することができる。すなわち、ある角度で発射されたレーザ光が反射して戻るまでの時間を計測することで周囲の指標との距離および方向を計算することができ、自己の位置および向きを決定可能である。全体位置検出器200の計測可能範囲200aはレーザ光の広がりや反射光の受光感度等により制限される。複数の指標21~24は計測可能範囲200a内に配置され、その間隔は全体位置検出器200の性能に応じて設定される。他の物体を指標と誤認しないために、指標21~24としてはスキャンレーザ光に対して高い反射率を有するリフレクタを用いるのが望ましい。なお全体位置検出器200は十分な解像度で全体位置を検出できる方式であればよく、レーザ光を利用した光学方式に限定されない。後述するように電波や超音波を利用して全体位置を検出することもできる。
【0020】
このように全体位置検出器200が検出可能な範囲200aに複数の基準点(指標)を設定することで、状態診断装置100の検査対象面における位置および向きを検出することができ、検査対象面の位置と診断ユニット400による検出情報とを対応づけることが可能となる。詳しくは後述するが、検査対象物10の検査対象面が任意の形状であっても、複数の指標を形状に沿って設置することで状態診断が可能である。
【0021】
1.2)検査対象面への状態診断結果のマッピング
図3に例示するように、検査対象面を規定する複数の基準点(指標)R1~R4を設置したものと仮定する。まず適当な隣接する基準点を選択し、それらを結ぶ線を基準として状態診断装置100の移動方向および向きを決定する。
図3では基準点R1およびR2を結ぶ線を全体座標のY軸とし、このY軸の方向および向きに状態診断装置100の移動方向および向きを一致させる。ここでは、一例として基準点R2が全体座標の原点に対応し、ここを初期位置P(0,0)として状態診断装置100の移動を開始するものとする。状態診断装置100の1ステップのY方向移動距離ΔYおよびX方向移動距離ΔXはフレーム内検査範囲11のy方向の長さおよびx方向の長さに相当する。状態診断装置100の全体座標P(X,Y)は全体位置検出器200が基準点R1~R4の指標を検出することにより算出される。なお、Y方向移動距離ΔYおよびX方向移動距離ΔX、すなわちフレーム内検査範囲11のサイズは検査対象面の大きさや検査点の数などを考慮して決定すれば良い。たとえば状態診断装置100がX方向あるいはY方向に多少ずれたり傾いたりする場合を考慮して、診断範囲よりフレーム内検査範囲11のサイズを大きくし、フレーム内検査範囲11の周辺部が互いに重なるように状態診断を実行することが望ましい。すなわち、Y方向移動距離ΔYおよびX方向移動距離ΔXはフレーム内検査範囲11が移動前と移動後で重なるように設定されてもよい。一例として、診断範囲であるタイルの大きさを60cm×60cmとした場合、フレーム内検査範囲11のサイズを70cm×70cmとし、Y方向移動距離ΔYを60cmとすることができる。
【0022】
また状態診断装置100の底面に設けられたxyアクチュエータ300はフレーム内座標系の原点を診断ユニット400の初期位置p(0,0)として診断動作を開始するものとする。状態診断装置100が停止した状態で、xyアクチュエータ300は診断ユニット400を初期位置p(0,0)からx方向に所定間隔Δxで移動させながら、後述する打診動作により検査対象面の状態診断を行い、x方向の移動が終了するとy方向に所定間隔Δyで移動し、以下同様にx方向に移動しながら診断ユニット400による打診動作が繰り返される。診断ユニット400のフレーム内座標p(x,y)は後述するようにxyアクチュエータ300から取得できる。なお、診断ユニット400の可動範囲であるフレーム内検査範囲11は、状態診断装置100のフレーム101の進行方向側へシフトしている方が望ましい。その理由は検査対象物10の検査対象面の端部が壁であることが多く、その際まで検査しやすくするためである。
【0023】
このように状態診断装置100を全体座標のΔYごとに停止させ、停止した状態でxyアクチュエータ300により診断ユニット400をxyスキャンすることでフレーム内検査範囲11の診断情報をΔxおよびΔyの解像度で取得することができる。なお、診断ユニット400のxyスキャンは自動ではなくリモートコントロールまたは手動によるマニュアル操作で行うことも可能である。たとえばフレーム内検査範囲11の診断情報を取得した後、リモートコントロールまたは手動によるマニュアル操作によりxyアクチュエータ300を操作して診断ユニット400を所望のフレーム内座標に移動させ、追加で状態診断を行っても良い。また、診断情報の解像度を決定するΔxおよびΔyは、検査対象物10の材質、検査対象面の大きさや検査点数、また後述するコンピュータ500の能力や容量などを考慮して決定すれば良い。各フレーム内検査範囲11における診断ユニット400により得られる診断情報は以下に述べるように検査対象面上にマッピングされる。なお、リモートコントロールによるマニュアル操作によりxyアクチュエータ300を操作する場合は、操作面をモニタすることが望ましく、たとえば操作面をモニタできるカメラが装備されてもよい。
【0024】
図4に示すように、状態診断装置100の全体座標P(X,Y)は原点となる基準点に対する全体位置検出器200の位置を示すが、全体位置検出器200とxyアクチュエータ300との位置関係は一定であるから、その位置ずれを計算に入れた座標(X’,Y’)をxyアクチュエータ300の位置情報として利用できる。したがって、状態診断装置100の位置ずれを考慮した全体座標P(X’,Y’)と診断ユニット400のフレーム内座標p(x,y)とを合成することで、診断ユニット400の検査対象面上の位置は合成座標(X’+x,Y’+y)として計算することができる。なお、全体位置検出器200の平面上の位置をxyアクチュエータ300の原点p(0,0)と一致させれば全体座標P(X,Y)をそのまま用いることができる。
【0025】
このように診断ユニット400により得られる診断情報を検査対象面上の合成座標(X’+x,Y’+y)に対応付けることができ、検査対象面全体の診断情報マップを生成することが可能となる。なお、全体座標系のY軸とフレーム内座標系のy軸とが傾いている場合には、その傾き角度θを用いて幾何学的な計算により座標値を補正すれば良い。たとえば全体座標をP(X’,Y’)、角度θだけ傾いたフレーム内座標系の座標をp(x’,y’)とすれば、上記合成座標(X’+x,Y’+y)は、そのxおよびyを
x=x’cosθ-y’sinθおよびy=x’sinθ+y’cosθにそれぞれ置き換えることで計算される。また、検査対象面が傾斜している場合にも同様の幾何学的計算により座標値の補正をすることができる。以下、
図5を参照して簡単に説明する。
【0026】
図5に例示するように、全体座標系を3次元のXYZ軸で表し、フレーム内座標系を同様にxyz軸で表すとすれば、検査対象面が状態診断装置100の進行方向に水平面(XY平面)に対して角度φだけ傾斜している場合、上述した幾何学的計算により合成座標(X’+x,Y’+y)を補正することができる。なお、全体位置検出器200は検査対象面が水平であるか傾斜であるかを検出する機能を有してもよい。また全体位置検出器200とは別個に傾斜計210を設けて傾斜を検出しても良い。
【0027】
1.3)効果
上述したように本実施形態によれば、検査対象物10の水平な検査対象面に基準点となる指標を複数個設定あるいは設置し、これらの指標を全体位置検出器200が検出することで状態診断装置100の検査対象面上の位置および向きを知ることができる。したがって、少なくとも2つの指標を検出することで検査対象面の基準線を決定することができ、その基準線に基づいて状態診断装置100を移動/停止させながらxyアクチュエータ300および診断ユニット400を駆動し、フレーム内検査範囲11ごとに検査対象面全体の診断情報を取得することができる。こうして重力方向を移動方向の基準として利用できない水平な検査対象面であっても位置情報と検査結果とを関連付けることができ、検査対象物の水平面の状態評価情報を効率的かつ精度良く生成することができる。
【0028】
2.実施例
以下、本発明の一実施例による状態診断装置100の詳細な構成および動作について図面を参照しながら説明する。本実施例による状態診断装置100が状態診断を行う対象は床タイル等の水平方向に延在する検査対象物10である。
【0029】
2.1)構成
図6、
図7および
図8に例示するように、本実施例による状態診断装置100のフレーム101の上面には天板102が固定され、天板102の所定位置に、あるいはフレーム101に支柱103が設置されている。支柱103は伸縮可能であり、その先端には全体位置検出器200が固定されている。全体位置検出器200は、支柱103を伸縮させることで、指標20からの反射光を障害物なしに受光できる高さに調整可能である。ユーザの身長を考慮すれば、全体位置検出器200の高さは2m程度とする。
【0030】
全体位置検出器200は所定波長のレーザ光を所定周期(たとえば8Hz)および所定角度ステップ(たとえば0.25°)で周囲360°回転させ、その反射光を検出する。レーザ光の発射角度と発射から反射光の到達までの時間とを計測することで指標20が存在する方向とその距離とを所定の精度で検出することができる。また全体位置検出器200の計測可能範囲200aはたとえば半径30m程度である。このような全体位置検出器200としては、たとえばSICK AG社製のレーザ測位センサであるNAV350(商標)を用いることができる。
【0031】
レーザ測位以外に、WiFiのアクセスポイントを指標として用い複数のアクセスポイントからの電波強度あるいは電波到達角度を検出して位置を計算する方法、ビーコンを指標として用いる測位方法、ID情報をのせた超音波の発信源を指標に用いる方法など、必要な解像度が得られる方式を環境に応じて採用すれば良い。
【0032】
指標20は所定の高さのポール20aに高反射率のリフレクタ20bを貼り付けたものを使用する。リフレクタ20bは、筒状にして壁や柱等に貼り付けてもよいし、一定の面積(レーザ光を十分に受光して反射できる程度の面積)にカットして壁や柱等に貼り付けてもよい。リフレクタ20bの高さを全体位置検出器200の高さに合わせて調整できるものが望ましい。ポール20aの直径は、全体位置検出器200からのレーザ光ができるだけ効率的に反射して戻るように、ある程度大きくすることが有利であり、ここでは直径8~10cm程度のポールが用いられる。またリフレクタ20bの長さも全体位置検出器200との距離に応じて長くすることが望ましく、ここでは40~60cm程度である。
【0033】
フレーム101の底面の四隅にはキャスタ104が取り付けられ、状態診断装置100の装置本体を手動で前後左右に移動させることができる。あるいは左右のキャスタ104をモータ駆動の車輪に代えて、ユーザが操作部600のジョイスティックを操作して移動方向を制御してもよい。
【0034】
フレーム101の底面にはキャスタ104により検査対象物10の平面から所定距離離れてxyアクチュエータ300が配置される。xyアクチュエータ300については後述するが、xステージのxキャリッジに診断ユニット400が取り付けられている。診断ユニット400は昇降機構401により検査ユニット402を上昇あるいは下降させることができる。
【0035】
状態診断装置100の天板102上には、モニタ用の表示部508を有するコンピュータ500および操作部600が設けられ、全体位置検出器200および診断ユニット400と共にローカルエリアネットワークを構成している。なお、コンピュータ500の機能構成については後述する。
【0036】
また、
図7および
図8に例示されているように、フレーム101の後方上端部にはバー105が水平に設けられ、ユーザはバー105を掴んで操作することで状態診断装置100を所望の方向へ移動させることができる。あるいは
図7に明示されるように、操作部600にジョイスティック600aを設け、状態診断装置100を電動により所望の方向へ移動させても良い。
【0037】
またバー105の下側の後方(ユーザ側)のキャスタ104はストッパ104aを有するものが望ましい。ユーザが足でストッパ104aを操作することで状態診断装置l00を確実に静止させることができ、診断ユニット400による診断動作を安定的に実行できる。
【0038】
2.2)xyアクチュエータ(検出部移動機構)
図9、
図10および
図11に例示するように、xyアクチュエータ300は一対の平行なyフレーム301とそれらに直交するxステージ302とからなり、一対のyフレーム301がフレーム101の底面フレームに固定されている。xステージ302は各yフレーム301上で移動可能なyキャリッジ303上に固定され、一対のyキャリッジ303はy軸ステッピングモータ304の回転によりy軸方向に移動する。したがって、xステージ302はy軸ステッピングモータ304によりy軸方向の所望位置に移動可能である。
【0039】
xステージ302にはxキャリッジ305が移動可能に設けられ、xキャリッジ305に診断ユニット400が固定されている。より詳しくは、xキャリッジ305に昇降機構401が固定され、昇降機構401に検査ユニット402が昇降可能に連結されている。xキャリッジ305はx軸ステッピングモータ306の回転によりxステージ302上を移動する。したがって、xキャリッジ305に固定された診断ユニット400はx軸ステッピングモータ306によりx軸方向の所望位置に移動可能である。
【0040】
こうしてy軸ステッピングモータ304およびx軸ステッピングモータ306のそれぞれの回転を制御することで、xキャリッジ305に固定された診断ユニット400を
図9のハッチング部で示すフレーム内検査範囲11内で所定ステップごとに順次移動させことができる。すなわち、x軸ステッピングモータ306を所定角度だけ回転させることで診断ユニット400をx軸方向に所定距離Δxだけ移動させ、y軸ステッピングモータ304を所定角度だけ回転させることで診断ユニット400をy軸方向に所定距離Δyだけ移動させることができる(
図3参照)。移動距離ΔxおよびΔyの精度については、y軸ステッピングモータ304およびx軸ステッピングモータ306に付加されたエンコーダにより十分な位置決め精度を得ることができる。
【0041】
y軸ステッピングモータ304およびx軸ステッピングモータ306によるyキャリッジ303およびxキャリッジ305の移動手段は方式を問わない。送りネジ方式であってもベルト送り方式であってもよいが、本実施例ではベルト送り方式が用いられている。このようなxyアクチュエータとしては市販されている製品を利用することができ、たとえばFESTO社製の平面ガントリ(EXCM-40)を用いることができる。診断ユニット400の有効可動範囲、すなわちフレーム内検査範囲11のサイズはたとえば70×70cm程度である。
【0042】
また本実施例によれば、
図9に示すように、状態診断装置100の進行方向はフレーム内座標系のy軸方向に一致し、診断ユニット400はxステージ302の進行方向側(前側)に連結されている。したがってxステージ302のy軸方向のストローク302aに対して、フレーム内検査範囲11はxyアクチュエータ300の進行方向側へシフトしている。これにより検査対象物10の検査対象面の端部まで診断しやすくなる。
【0043】
2.3)診断ユニット
図12に例示するように、本実施例における診断ユニット400は昇降機構401と検査ユニット402とからなり、昇降機構401がxステージ302のxキャリッジ305に固定されている。検査ユニット402は昇降機構401と上下方向にスライド可能に連結されている。以下、昇降機構401および検査ユニット402について詳細に説明する。
【0044】
<昇降機構>
図12~
図14において、昇降機構401はxキャリッジ305に固定された板状のブラケット410を有し、ブラケット410の裏側に駆動手段としてDCモータを含むアクチュエータ411が設けられている。アクチュエータ411の回転軸412はブラケット410の開口部を通して表側へ回転可能に貫通し、回転軸412の先端にカム413が固定されている。カム413は、
図13に示すように、回転軸412が偏心している円板カムである。また、ブラケット410の表面には、カム413の上方に一対のフック414が設けられ、それぞれにコイルバネ415の一端が掛かっている。これらコイルバネ415の他端には以下に述べる検査ユニット402が掛かり、検査ユニット402はコイルバネ415により上方へ付勢され、それによってカム413に押しつけられた状態にある。
【0045】
<検査ユニット>
検査ユニット402は、カム413の外周に当接した従節板420を有し、従節板420の両側には一対のフック421が延びており、それらに一対のコイルバネ415の他端がそれぞれ掛かっている。従節板420は連結部422により断面が矩形の検出部423に固定されることで一体として検査ユニット402を構成している。さらに連結部422は昇降機構401のブラケット410に固定されたレールと上下方向にスライド可能に連結したスライダからなる。
【0046】
図13および
図14に示すように、検出部423には水平方向に延伸した取り付け具424が固定されており、取り付け具424の裏面に4つの自在キャスタ425が固定されている。自在キャスタ425は360°旋回可能であり、自在キャスタ425が検査対象物10の表面に接触した状態で、検出部423の底面426と検査対象物10の表面の間に所定の間隙が生じるように設計されている。この所定の間隙の距離は検出部423の打撃による診断動作が適切に行われるように設定される。検出部423の下端部の4方向の側面にはマイクロフォンを覆うマイクロフォンカバー427が突出して設けられ、また底面部には打撃ハンマ(図示せず)が設けられている。このような検出部423の詳細な構成については後述する。
【0047】
また、
図13に明示的に示されているように、ブラケット410の下端部には上下方向に2つの検知スイッチ416および417が設けられ、連結部422に突起部428が検知スイッチ416あるいは417と接触可能に設けられている。突起部428が上側の検知スイッチ416に接触してスイッチをオンにしているときは検査ユニット402が上昇位置にあり、この上昇位置で状態診断装置100は移動することができる。また突起部428が下側の検知スイッチ417に接触してスイッチをオンにしているときは検査ユニット402が下降位置にあり、この下降位置でxyアクチュエータ300を駆動し検出部423を順次移動させながらフレーム内検査範囲11で打診動作を実行することができる。
【0048】
<昇降動作>
図15を参照しながら、昇降機構401による検査ユニット402の昇降動作について説明する。上述したように、検査ユニット402の従節板420はコイルバネ415により上方へ付勢され、カム413の外周に当接している。
【0049】
図15(A)に示すように、アクチュエータ411の回転により回転軸412とカム413の外周との垂直方向の距離が最短になると、カム413に当接した従節板420がコイルバネ415により引き上げられ、それにより検査ユニット402の全体が上昇し、突起部428が上側の検知スイッチ416に接触して停止する。この上昇位置で検出部423は自在キャスタ425と共に検査対象物10から離れるので、ユーザは状態診断装置100を移動させることができる。
【0050】
図15(B)に示すように、アクチュエータ411の回転により回転軸412とカム413の外周との垂直方向の距離が最長になると、カム413に当接した従節板420がコイルバネ415に抗して押し下げられ、それにより検査ユニット402の全体が下降し、突起部428が下側の検知スイッチ417に接触して停止する。この下降位置で自在キャスタ425が検査対象物10に接触し、検出部423の底面426と検査対象物10の表面との間が後述する打診に適した距離に維持される。この下降状態において、診断ユニット400は自在キャスタ425により検査対象物10の表面に接触しているので、xyアックチュエータ300の動作に応じて前後左右に自在に移動可能である。
【0051】
このようにアクチュエータ411の回転制御によりカム413を回転させて検査ユニット402を上昇あるいは下降させることができる。
【0052】
2.4)検出部
本実施例における検出部423は検査対象物10の表面を打撃することで診断情報を取得するセンサ部であり、基本的には上述した特許文献1の検出ユニットを採用することができる。以下、検出部423の構成および動作を説明する。
【0053】
図16に例示するように、検出部423は四角柱形状の筐体450内に打撃部451が固定されており、打撃部451はソレノイドからなり、たとえばソレノイドが通電されるとプランジャ452を所定の力で下方に押し出し、通電が停止されるとバネ等の手段でプランジャ452を上方へ引き込む。プランジャ452の下端には打撃ハンマ453が設けられ、筐体450の底面にあるベース454の中央に設けられた開口部455を移動可能に貫通している。ソレノイドの通電により打撃ハンマ453は開口部455を通して検査対象物10の検査面に打撃を与えることができる。既に述べたように、診断ユニット400が下降すると自在キャスタ425が検査対象物10に接触し、検出部423の底面と検査対象物10の表面との間に打撃ハンマ453の駆動に適した距離が維持される。
【0054】
打撃ハンマ453には振動センサ456が設けられ、打撃ハンマ453の打撃時の振動を検出する。筐体450の下端部の4方向の側面には防振ゴム457を介してマイクロフォン458が設けられ、これらの上にマイクロフォンカバー427が設けられている。マイクロフォン458は打撃時の検査面からの打音を検出する。なお、本実施例では4個のマイクロフォン458が設けられているが、これに限定されるものではない。
【0055】
検出部423の検出動作は次のように実行される。まず検出器423がxyアクチュエータ300により検査すべき位置に移動すると、打撃ハンマ453が検査面を打撃する。このときの打撃ハンマ453の振動は振動センサ456により検出され、検査面の打撃による打音をマイクロフォン458により検出する。特許文献1によれば、こうして得られた振動検出信号により基準時刻を決定し、それに基づいて打音検出信号から検査面の剥離等の状態を評価することができる。ただし、検出部423は本実施例に限定されるものではなく、検査対象物10の状態評価が可能な任意の方式を採用することができる。たとえば同じく特許文献1に記載されたように、マイクロフォン453からの打音検出信号と、打撃ハンマ453の打撃による検査面の振動を検出した検査面振動検出信号とを用いて検査面の剥離等の状態を評価してもよい。
【0056】
3.コンピュータシステム
以上述べた状態診断装置100のオペレーションはコンピュータ500に所定のプログラムを実行させることで実現することができる。以下、コンピュータ500により実現される機能構成について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全体位置検出器200、xyアクチュエータ300、診断ユニット400、昇降機構401のアクチュエータ411および検査ユニット402の検出器423の構成および動作については既に説明した通りであるから詳細は省略する。
【0057】
3.1)機能構成
図17はコンピュータ500により実現される機能構成を図示したものである。
図17に例示するように、コンピュータ500は図示しないメモリに格納されたプログラムをプロセッサ上で実行することにより各種機能を実現する。全体位置検出器200、診断ユニット400およびxyアクチュエータ300は位置検出制御部501、診断制御部502およびxy移動制御部503によりそれぞれ制御され、状態診断動作の全体的制御は制御部504により行われる。
【0058】
位置検出制御部501は操作部600のユーザ操作に従って全体位置検出器200を制御し、既に述べたように全体位置検出器200の検出データに基づいて指標(リフレクタ)の位置情報、状態診断装置100のフレーム全体位置情報等を取得する。診断制御部502は操作部600のユーザ操作および制御部504の制御の下で昇降機構401のアクチュエータ411を動作させ、上述したように検出器423から打音検出信号および振動検出信号等からなる検出信号Sを取得する。xy移動制御部503はxyアクチュエータ300を制御し、診断ユニット400のフレーム内位置を示す座標p(x、y)を出力する。
【0059】
検査点位置合成部505は、
図4あるいは
図5に示すように、状態診断装置100のフレーム全体座標P(X,Y)と診断ユニット400のフレーム内座標p(x、y)と、傾きがあれば傾き角度θ、検査対象面の傾斜があれば傾斜角度φと、を用いて検査点合成座標(X’+x,Y’+y)を生成する。診断情報生成部506は、検査点合成座標(X’+x,Y’+y)と検出信号Sとを入力し、検出信号Sから評価した当該座標p(x、y)での評価結果を検査点合成座標(X’+x,Y’+y)にマッピングして集計し、検査対象物10の検査対象面の診断情報を生成する。こうして得られた診断情報が診断情報蓄積部507に蓄積される。したがって、検査点位置合成部505および診断情報生成部506とそれらを制御する制御部504とは診断情報生成のためのデータ処理部510を構成する。
【0060】
制御部504は、ナビゲーションモードにおいて状態診断装置100の全体位置を常時検出しながら検査対象物10の状態検査を実行する。より詳しくは、ナビゲーションモードでは全体位置検出器200により周囲の指標を検出しながら状態診断装置100の全体位置を認識し、所定位置に達すると状態診断装置100を停止して測定モードに移行する。測定モードでは状態診断装置100を動かないようにストッパ104aを掛けた後、制御部504はユーザ操作により検査ユニット402を降下させ、xyアクチュエータ300により検出器423をフレーム内検査範囲11でスキャンさせる。こうしてフレーム内検査範囲11の状態検査を実行し、診断情報生成部506が検査結果をマッピングして診断情報蓄積部507に蓄積する。
【0061】
診断情報蓄積部507に蓄積された診断情報はユーザ指示によりあるいはリアルタイムで表示部508に表示され得る。表示部508には周囲の指標により認識された検査対象面が表示され、状態診断装置100の移動に従って状態診断が完了する毎に診断が完了したフレーム内検査範囲11の診断結果がリアルタイムで表示されても良い。以下、本実施例による状態診断動作について
図18~
図20を参照しながら説明する。
【0062】
3.2)状態診断動作
図18に例示するように、制御部504は配置された複数の基準点(指標)を検出してそのうち少なくとも2つの指標を用いてフレーム全体座標系を決定する(動作701)。
【0063】
図19に例示するように、検査対象物10の検査対象面801は任意の形状であってもよい。たとえば全体位置検出器200が検出可能な範囲200a内に検査対象面801に沿って複数の基準点(指標)R1~Rnを設置することで、検査対象面801上での状態診断装置100の位置および向きを決定することができる。その際、任意の2つの基準点R1とR2とを結ぶ線のうち、建物の通り芯や検査対象物の目地など診断作業をする際に基準としやすい線と平行な線を基準線802および基準方向として決定し、それをフレーム全体座標のY軸とし、それに直交する方向をX軸として決定する。そのため、診断作業開始前に建物の通り芯や検査対象物の目地などを参考にして基準線の方向をあらかじめ設定し、基準線に平行となるように基準点R1とR2を設置することが望ましい。
【0064】
続いて制御部504はナビゲーションモードに移行し(動作702)、既に述べたように全体位置検出器200がレーザ光を全方位に射出し、その反射光を検出して自己の位置をリアルタイムで検出する。状態診断装置100を移動させる場合には、診断制御部502は昇降機構401のアクチュエータ411を駆動し、
図15(A)に示すように検査ユニット402を検査対象物10から離間させ、xy移動制御部503は診断ユニット400をフレーム内座標系の原点p(0,0)にリセットする。
【0065】
状態診断装置100が測定位置、すなわちフレーム全体座標P(X,Y)に所定向きで配置されると、ユーザはストッパ104aを掛けて状態診断装置100を固定し、操作部600を操作して測定を開始する(動作703;測定モード)。測定モードでは、まず診断制御部502がアクチュエータ411を駆動し、
図15(B)に示すように検査ユニット402を自在キャスタ425が検査対象物10と接触するまで下降させる。続いてxy移動制御部503はxyアクチュエータ300を駆動し、
図3および
図9に示すように、検査ユニット402をフレーム内検査範囲11で順次移動させながら打診動作を繰り返す。検査ユニット402の検出部423から得られた検査信号Sは診断情報生成部506により検査対象面にマッピングされ、こうして得られた診断情報が診断情報蓄積部507に蓄積される。
【0066】
続いて制御部504は指標により規定された検査対象物10の全範囲を測定完了したか否かを判断し(動作704)、未完であれば(動作704のNO)、動作702に戻りナビゲーションモードを維持する。状態診断装置100が次の測定位置P(X,Y)へ移動すると、新たな位置で測定モードに移行し検査ユニット402により測定を実行する(動作703)。以上の動作702~704を検査対象物10の全範囲の測定が完了するまで繰り返し、測定が完了すると(動作704のYES)、全体位置検出器200により基準点(指標)の移動あるいは追加があるか否かを判断する(動作705)。指標の移動/追加があると(動作705のYES)、移動あるいは追加された基準点を検出して再登録する(動作706)。以下同様に上記ナビゲーションモードへ戻って動作702~706を繰り返す。こうして全ての測定範囲が完了すると(動作705のNO)、制御部504は処理を終了する。
【0067】
図20に例示するように、診断情報蓄積部507に蓄積された診断情報は表示部508に表示されることが望ましい。たとえば表示部508には周囲の指標により認識された検査対象面がフレーム内検査範囲11の区画で表示される。そして状態診断装置100の移動に従って状態診断が完了する毎に、診断が完了したフレーム内検査範囲11が測定済みとしてリアルタイムで表示される。その際、測定されたフレーム内検査範囲11の診断結果が同時に表示されても良い。ユーザは、表示部508のモニタ画面を見ながら状態診断装置100を初期設定された基準線に沿って容易に移動させることができる。
【0068】
3.3)効果
以上述べたように、本実施例におけるコンピュータ500は、検査対象物10の水平な検査対象面に設定あるいは設置された複数の指標を全体位置検出器200が検出することで状態診断装置100の検査対象面上の位置および向きを取得できる。また、少なくとも2つの指標を検出することで検査対象面の基準線を決定することができ、その基準線に基づいてフレーム内検査範囲11ごとに検査対象面全体の診断情報を取得することができる。こうして水平な検査対象面であっても状態診断装置100の位置情報と検出器200による検査結果とを容易に関連付けることができ、検査対象物の水平面の状態評価情報を効率的かつ精度良く生成することができる。
【0069】
4.適用例
上記実施形態および実施例では、全体位置検出器200が複数の指標を検知して検査対象面の全体を認識する場合を例示したが、全体位置検出器200の検出範囲を超える広さあるいは複雑な形状の検査対象物10であっても、指標の追加あるいは配置変更をしながら上記状態診断方法を繰り返し適用することで測定可能である。以下、正方形状の検査対象物10を例示し、それを4つの測定面に分割して状態診断する場合を説明する。
【0070】
図21(A)に示すように、大きな検査対象面の一部である測定面901を4つの指標(リフレクタ)21~24により規定し、上述したように指標を登録して座標系を決定し、状態診断装置100を移動させながら測定面901の状態診断情報を取得する。続いて、
図21(B)に示すように、リフレクタ21および24のみを移動させ、4つのリフレクタ21~24により測定面902を規定し、指標を再登録した後、同様にして状態診断装置100を移動させながら測定面902の状態診断情報を取得する。続いて、
図21(C)に示すように、リフレクタ21および22のみを移動させ、4つのリフレクタ21~24により測定面903を規定し、指標を再登録した後、同様にして測定面903の状態診断情報を取得する。続いて、
図21(D)に示すように、リフレクタ21および24のみを移動させ、4つのリフレクタ21~24により測定面904を規定し、指標を再登録した後、同様にして測定面904の状態診断情報を取得する。このように取得された測定面901~904の状態診断情報を診断情報蓄積部507に格納することで、検査対象面全体の状態診断情報を表示することができる。このようにリフレクタ(指標)の配置を順次変更しながら上記状態診断方法を繰り返し適用することで、任意の大きさの検査対象物10の状態診断が可能となる。なお、
図21(B)~(D)のリフレクタ配置は、配置変更ではなく、リフレクタの追加であってもよい。
【0071】
さらに
図22に例示するように、上記
図21(D)のリフレクタ配置からリフレクタ23および24のみを移動させ、あるいはリフレクタを追加して、4つのリフレクタ21~24により測定面905を規定し、指標を再登録した後、同様にして状態診断装置100を移動させながら測定面905の状態診断情報を取得する。このようなリフレクタの配置変更あるいは追加により、どのような形状の検査対象面であっても対応可能となる。
【0072】
また
図3に例示するような形状の検査対象面であっても、また
図19に例示するような検査対象面801であっても、少なくとも2つのリフレクタを基準として基準線を決定すれば検査対象物10の全面の測定がフレーム内検査範囲11のΔxおよびΔyの解像度で可能となる。
【0073】
5.他の実施例
上述した実施形態および実施例では状態診断装置100の装置本体が人力あるいはモータ駆動により移動可能であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の方式で移動させることもできる。
【0074】
<例1>
図23に例示するように、追従式牽引装置150に状態診断装置100の装置本体を連結し、追従式牽引装置150が作業者160に追従して状態診断装置100を牽引してもよい。状態診断装置100は
図6~
図20で例示した実施例と同様の構成を有するので、同様の参照番号を付して説明は省略する。追従式牽引装置150は状態診断装置100の進行方向側に連結されている。追従式牽引装置150は追従センサあるいはカメラ等の追従対象物検知手段151を用いて進行方向側を移動する作業者160の距離および方向を検知しながら追従する。なお、追従式牽引装置150としては種々の方式のものが提案されており、たとえば特開2019-003241号公報に記載された追従式台車を採用することができる。このように追従式牽引装置150により状態診断装置100を移動/停止させながら、上記実施形態で説明したようにフレーム内検査範囲11ごとに検査対象面全体の診断情報を取得することができる。
【0075】
<例2>
図24に例示するように、牽引装置155に状態診断装置100の装置本体を連結し、運転者が牽引装置155を操縦することで、あるいは無線による遠隔操作により、状態診断装置100を牽引してもよい。この場合、全体位置検出器200は状態診断装置100あるいは牽引装置155のいずれに設けられてもよい。このような牽引装置155を用いても状態診断装置100を移動/停止させながらフレーム内検査範囲11ごとに検査対象面全体の診断情報を取得することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は建物の床あるいは屋上のような水平面の剥離等の状態診断に適用可能である。
【符号の説明】
【0077】
10 検査対象物
11 フレーム内検査範囲
20 指標
20a ポール
20b リフレクタ
21~24 指標(リフレクタ)
100 状態診断装置
101 フレーム
102 天板
103 支柱
104 キャスタ
104a ストッパ
105 バー
200 全体位置検出器
200a 計測可能範囲
300 xyアクチュエータ(フレーム内移動機構)
301 yフレーム
302 xステージ
303 yキャリッジ
304 y軸ステッピングモータ
305 xキャリッジ
306 x軸ステッピングモータ
400 診断ユニット
401 昇降機構
402 検査ユニット
410 ブラケット
411 アクチュエータ
412 回転軸
413 カム
414 フック
415 コイルバネ
416、417 検知スイッチ
420 従節板
421 フック
422 連結部
423 検出部
424 取り付け具
425 自在キャスタ
426 底面
427 マイクロフォンカバー
428 突起部
450 筐体
451 打撃部
452 プランジャ
453 打撃ハンマ
454 ベース
455 開口部
456 振動センサ
457 防振ゴム
458 マイクロフォン
500 コンピュータ
504 制御部
505 検査点位置合成部
506 診断情報生成部
507 診断情報蓄積部
508 表示部
510 データ処理部
600 操作部
600a ジョイスティック
801 検査対象面
802 基準線