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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151164
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】インダクタ
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/29 20060101AFI20220929BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20220929BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H01F27/29 Q
H01F17/04 A
H01F27/28 152
H01F17/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054099
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 工
(72)【発明者】
【氏名】遠山 元気
【テーマコード(参考)】
5E043
5E070
【Fターム(参考)】
5E043AA06
5E070AA01
5E070AB01
5E070BB03
5E070CA07
5E070EA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】十分な特性を維持しつつも、低背化を実現可能にするインダクタを提供する。
【解決手段】磁性粉を含むコア30に、所定の板厚GTの導体20が埋設されたインダクタ1であって、コアは、実装時に実装基板の側に向けられる実装面10と、実装面に対向する上面12と、実装面に直交する一対の端面14と、を備える。導体は、コアの内部を一対の端面に亘って延びる導線22と、一対の電極端子24と、を備える。電極端子は、導線の両側の端部22Aのそれぞれに設けられ、実装面に露出する電極部27と、導線の端部と電極部との間に設けられ、第1曲げRを有する第1曲部70及び第2曲げRを有する第2曲部72と、を備える。第1曲げR及び第2曲げRは、導体の板厚の2.0倍以上3.0倍以下であり、なおかつ、第1曲げR及び第2曲げRのいずれか一方が導体の板厚の2.0倍以上のとき、他方が導体の板厚の3.0倍未満である。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉を含むコアに、所定の板厚の導体が埋設されたインダクタであって、
前記コアは、
実装時に実装基板の側に向けられる実装面と、前記実装面に対向する上面と、前記実装面に直交する一対の端面と、
を備え、
前記導体は、
前記コアの内部を前記一対の端面に亘って延びる導線と、一対の電極端子と、
を備え、
前記電極端子は、
前記導線の両側の端部のそれぞれに設けられ、前記実装面に露出する電極部と、
前記導線の端部と前記電極部との間に設けられ、第1曲げRを有する第1曲部、及び、第2曲げRを有する第2曲部と、
を備え、
前記第1曲げR及び前記第2曲げRは、前記導体の板厚の2.0倍以上3.0倍以下であり、なおかつ、前記第1曲げR及び前記第2曲げRのいずれか一方が前記導体の板厚の2.0倍以上のとき他方は前記導体の板厚の3.0倍未満である
ことを特徴とするインダクタ。
【請求項2】
前記電極部の電極幅は、前記導線の導線幅よりも広い
ことを特徴とする請求項1に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記導体の板厚は、0.1mm以上、かつ、0.12mm以下である、
ことを特徴とする請求項2に記載のインダクタ。
【請求項4】
前記導体は、
前記第1曲部と前記第2曲部との間に、前記導体の板厚に等しい長さの中間部を有する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のインダクタ。
【請求項5】
前記第1曲部、及び前記第2曲部の曲げRがいずれも前記導体の板厚の2.0倍であり、
前記コアは、
前記導体の前記導線から前記実装面までの厚みである下部コア厚みと、前記導線から前記上面までの厚みである上部コア厚みとの差が前記導体の板厚以下である
ことを特徴とする請求項4に記載のインダクタ。
【請求項6】
前記上部コア厚みは前記下部コア厚みよりも厚く、かつ、前記上部コア厚みと前記下部コア厚みとの差が前記導体の板厚未満である
ことを特徴とする請求項5に記載のインダクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、インダクタンス値を低くすることが可能となると共に、小型化が容易となる磁性素子を開示する。この磁性素子は、コア部材の内部に直線状の導体が設けられ、また、コア部材の外面に端子電極を具備している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2006/070544号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、高密度実装化への対応のために、小型だけではなく低背なインダクタが求められているものの、特許文献1の技術は、低背化に関して不十分であった。
本発明は、十分な特性を維持しつつも、低背化を実現可能なインダクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、磁性粉を含むコアに、所定の板厚の導体が埋設されたインダクタであって、前記コアは、実装時に実装基板の側に向けられる実装面と、前記実装面に対向する上面と、前記実装面に直交する一対の端面と、を備え、前記導体は、前記コアの内部を前記一対の端面に亘って延びる導線と、一対の電極端子と、を備え、前記電極端子は、前記導線の両側の端部のそれぞれに設けられ、前記実装面に露出する電極部と、前記導線の端部と前記電極部との間に設けられ、第1曲げRを有する第1曲部、及び、第2曲げRを有する第2曲部と、を備え、前記第1曲げR及び前記第2曲げRは、前記導体の板厚の2.0倍以上3.0倍以下であり、なおかつ、前記第1曲げR及び前記第2曲げRのいずれか一方が前記導体の板厚の2.0倍以上のとき他方は前記導体の板厚の3.0倍未満であることを特徴とするインダクタ。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、十分な特性を維持しつつも、低背化を実現可能なインダクタが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係るインダクタを上面の側から視た斜視図である。
図2】インダクタの側面を視た平面図である。
図3】インダクタの端面を視た平面図である。
図4】インダクタの実装面を視た平面図である。
図5】インダクタの内部構成を示す透視斜視図である。
図6】インダクタの製造工程の概要図である。
図7】インダクタのLT断面を模式的に示す図である。
図8】導体の各部の寸法が異なるインダクタの特性評価結果を示す図である。
図9】上部コア厚み及び下部コア厚みが異なるインダクタの特性評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は本実施形態に係るインダクタ1を上面12の側から視た斜視図である。図2はインダクタ1の側面16を視た平面図、図3はインダクタ1の端面14を視た平面図、図4はインダクタ1の実装面10を視た平面図である。
本実施形態のインダクタ1は、表面実装型の電子部品として構成されており、略直方体形状の素体2と、当該素体2の表面に設けられた一対の外部電極4とを備えている。
以下、素体2において、実装時に図示しない実装基板に向けられる面を実装面10(図4)と定義し、実装面10に対向する面を上面12と言い、実装面10に直交する一対の面を端面14と言い、これら実装面10、及び一対の端面14に直交する一対の面を側面16と言う。
また、図1に示すように、実装面10から上面12までの距離を素体2の厚みTと定義し、一対の側面16の間の距離を素体2の幅Wと定義し、一対の端面14の間の距離を素体2の長さLと定義する。
【0009】
図5はインダクタ1の内部構成を示す透視斜視図である。
素体2は、導体20と、当該導体20が埋設された略直方形状のコア30と、を備え、かかる導体20をコア30に封入した導体封入型磁性部品として構成されている。
【0010】
コア30は、磁性粉と樹脂を混合した混合粉を、導体20を内包した状態で加圧及び加熱することで略直方体形状に圧縮成型された成型体である。コア30の表面には、コア30の内部よりも酸化された酸化膜を含んでいる。また本実施形態の混合粉には、磁性粉及び樹脂以外に硫酸バリウムが滑剤として混合されている。
【0011】
本実施形態の混合粉は、磁性粉に対する樹脂量が約3.1wt%となっている。
また本実施形態の磁性粉は、平均粒径が比較的大きな大粒子の第1磁性粒子と、平均粒径が比較的小さな小粒子の第2磁性粒子との2種の粒度の粒子を含み、圧縮成型時において、大粒子の第1磁性粒子の間に、小粒子である第2磁性粒子が樹脂とともに入り込むことでコア30の充填率を大きくし、また透磁率も高めることができる。
【0012】
ここで、第1磁性粒子と第2磁性粒子との配合比(重量比)は、70:30から85:15、好ましくは70:30から80:20であり、本実施形態では75:25となっている。
また、第1磁性粒子と第2磁性粒子の平均粒径の比は5.0以上であることが好ましい。
なお、磁性粉が第1磁性粒子と第2磁性粒子の間の平均粒径の粒子を含むことで、3種以上の粒度の粒子を含んでもよい。
【0013】
本実施形態において、第1磁性粒子及び第2磁性粒子はいずれも、金属粒子と、その表面を覆う絶縁膜とを有した粒子であり、金属粒子にはFe-Si系アモルファス合金粉が用いられ、絶縁膜にはリン酸亜鉛が用いられている。金属粒子が絶縁膜で覆われることで、絶縁抵抗と耐電圧とが高められる。
【0014】
なお、第1磁性粒子において、金属粒子には、CrレスのFe-C-Si合金粉、Fe-Ni-Al合金粉、Fe-Cr-Al合金粉、Fe-Si-Al合金粉、Fe-Ni合金粉、Fe-Ni-Mo合金粉を用いてもよい。
【0015】
また、第1磁性粒子及び第2磁性粒子において、絶縁膜には、他のリン酸塩(リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸マンガン、リン酸カドミウムなど)、又は、樹脂材料(シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂など)を用いてもよい。
【0016】
本実施形態の混合粉において、樹脂の材料には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を主剤としたエポキシ樹脂が用いられている。
なお、エポキシ樹脂は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂であってもよい。
また、樹脂の材料は、エポキシ樹脂以外であってもよく、また、1種ではなく2種以上であってもよい。例えば、樹脂の材料には、エポキシ樹脂の他にも、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0017】
導体20は、図5に示すように、コア30の内部を一対の端面14に亘って延びる導線22と、当該導線22の両端に一体形成された電極端子24と、を備えている。
電極端子24は、その表面24Aがコア30の端面14及び実装面10のそれぞれから露出し、実装性を確保するために、それらの表面24Aにニッケル(Ni)めっき、及びスズ(Sn)めっきが順に施されことで上記外部電極4が構成されている。そして、実装面10に構成された外部電極4が回路基板の配線に、はんだなどの適宜の実装手段によって電気的に接続される。
【0018】
本実施形態において、図1から図5に示すように、導体20の電極端子24は、実装面10及び端面14において、概ね表面24Aのみを露出させた状態でコア30に埋もれ、コア30からの突出量が抑えられるように構成されている。これにより、電極端子24の突出を殆ど考慮する必要がないため、コア30をインダクタ1の規定サイズと同程度まで大きくすることができ、小型かつ低背でありながらも高性能なインダクタ1を実現できる。
【0019】
コア30の幅Wの方向における導線22の長さを導線幅WAと定義し、電極端子24の長さを電極幅WBと定義すると、本実施形態の電極端子24の電極幅WBは、図5に示すように、導線幅WAよりも広くなっており、直流抵抗の低抵抗化が図られている。
【0020】
かかる電極端子24は、コア30の長さL及び厚みTのそれぞれの方向を含むLT面でのLT切断面において略L字状に形成されている。
詳細には、電極端子24は、導線22の端部22Aで略垂直に折れ曲がって延びるリード部26と、当該リード部26の下端部26Aで略垂直に折れ曲がって延びる電極部27とを有し、これらリード部26及び電極部27がL字形状を構成している。そして、これらリード部26及び電極部27の表面24Aがコア30の端面14及び実装面10から露出し、外部電極4を構成している。また、本実施形態の導体20は、後述する折曲加工によって形成されることで、導線22の端部22Aと電極部27とのリード部26が、第1曲げRを有する第1曲部70(図7)、及び、第2曲げRを有する第2曲部72(図7)を有している。
かかる電極端子24によれば、導線22と電極端子24(外部電極4)とを別体で構成した場合に比べ、外部電極4のうち、主に電流が流れる低電気抵抗な領域である導線22と電極端子24(外部電極4)との間に接合面が存在しないため抵抗値を抑えることができ、大きな電流を流すことができる。
さらに本実施形態の導体20はタフピッチ銅から形成されており、より大きな電流を流すことを可能にしている。
【0021】
かかるインダクタ1は、コンデンサとスイッチとによって電圧を昇圧するチャージポンプ方式のDCDCコンバータ及びLCフィルタを有した電源回路や、高周波回路のインピーダンス整合用コイル(マッチングコイル)として用いられ、パソコン、DVDプレーヤー、デジカメ、TV、携帯電話、スマートフォン、カーエレクトロニクス、医療用・産業用機械などの電子機器に用いられる。ただし、インダクタ1の用途はこれに限られず、例えば、同調回路、フィルタ回路や整流平滑回路などにも用いることもできる。
【0022】
なお、インダクタ1において、外部電極4の範囲を除く素体2の表面全体に、素体保護層を形成してもよい。素体保護層の材料には、例えばエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂、又は、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができる。なお、これらの樹脂は酸化ケイ素、酸化チタン等を含むフィラーを更に含んでいても良い。
【0023】
図6は、インダクタ1の製造工程の概要図である。
同図に示すように、インダクタ1の製造工程は、導体部材成型工程、素体用タブレット成型工程、第1タブレット挿入工程、第2タブレット配置工程、熱成型・硬化工程、バレル研磨工程、前処理工程、及び、めっき工程を含んでいる。
【0024】
導体部材成型工程は、上記導体20を成型する工程である。
本実施形態では、先ず、所定厚みの銅板の打抜加工によって所定形状の銅片が形成され、次いで、この銅片の折曲加工によって上記導体20が形成される。このとき、電極端子24のリード部26及び電極部27も折曲加工される。すなわち、この導体部材成型工程により、上記導線22及び電極端子24を一体に有し、なおかつ、コア30に埋設される前に、電極端子24のリード部26及び電極部27も予め成型された(すなわちプリフォーミングされた)導体20が形成される。
【0025】
タブレット成型工程は、第1タブレット40及び第2タブレット42の2つの予備成型体を成型する工程である。
予備成型体は、素体2の材料である上記混合粉を加圧することで、取り扱いが容易な固形状に成型したものである。第1タブレット40及び第2タブレット42はそれぞれ、導体20の導線22の下側及び上側に配置される予備成型体であり、いずれも略板状に成型されている。
【0026】
第1タブレット挿入工程は、成型金型に導体20をセットした後、当該導体20の導線22の下側であって、一対の電極端子24の間に第1タブレット40を挿入する工程である。より詳細には、導体20は、導線22の両側の端部22Aに、LT断面においてLの字状を成す電極端子24が設けられることで、このLT断面の形状が略Cの字状を成しており、これら導線22及び一対の電極端子24で包囲される空間内に、第1タブレット40が挿入される。
第2タブレット配置工程は、導体20の導線22の上に第2タブレット42を載せる工程である。
【0027】
熱成型・硬化工程は、成型金型にセットした第1タブレット40及び第2タブレット42に熱を加えながら、第1タブレット40と第2タブレット42の重なり方向に加圧し、これらを硬化させることとで、第1タブレット40、導体20、及び第2タブレット42を一体化する。これにより、導体20を内包した成型体が成型される。
上述の通り、導線22及び一対の電極端子24で包囲される空間内に第1タブレット40を収めた状態で成型されるため、導線22が成型体に埋設され、リード部26及び電極部27からなる電極端子24の表面がコア30と概ね面一に露出した成型体が得られる。また、電極端子24のリード部26及び電極部27は、事前の上記導体部材成型工程で形成されているため、成型後の成型体に対し、これらリード部26及び電極部27を形成するための加工が不要となる。
【0028】
バレル研磨工程は、この成型体をバレル研磨する工程であり、当該工程により、成型体の角部へのR付けが行われる。
【0029】
前処理工程は、電極端子24の表面24Aに、めっきを施すために行われる前処理であり、加熱工程と洗浄工程とを含んでいる。
加熱工程は、バレル研磨後の成型体を加熱して、成型体の表面を酸化させる工程である。
洗浄工程は、電極端子24(導体20)の部材のみを溶解する液剤に成型体を浸すことで(すなわちウエットエッチングすることで)、電極端子24の表面24Aを洗浄する工程である。
また、めっき工程は、バレルめっきによって、電極端子24の表面24Aにニッケル(Ni)めっき、及びスズ(Sn)めっきを順に施す工程である。ここで、成型体の表面が上記加熱工程において酸化さることで、めっき工程において、電極端子24の表面24Aから成型体の表面にまで、めっきが伸びる、いわゆる「めっき伸び」の発生が抑えられる。
【0030】
次いで、かかるインダクタ1の低背化について更に詳述する。
【0031】
図7は、インダクタ1のLT断面を模式的に示す図である。
インダクタ1(コア30)のLT断面形状は、上記厚みTを短辺とし、上記長さLを長辺とした略矩形状である。
また導体20は、実装時の底面に相当する実装面10に略平行に、長さLの方向に向かって直線状に延びる導線22と、当該導線22の両側の端部22Aに繋がる略Lの字状の電極端子24とを備え、当該電極端子24が端面14及び実装面10に沿って延在することで、導体20は、LT断面において、実装面10の側で開放した略Cの字状形状を成している。
【0032】
かかる導体20は、上述の通り、コア30に埋設される前に、金属片の折曲加工によって形成されている。かかる折曲加工は、金属片において、Lの字状に折り曲げる箇所に、曲げR(曲率半径)を有する曲げ工具を当接させた状態で、当該当接箇所をLの字状に折り曲げる加工である。かかる折曲加工が導線22の端部22Aと電極端子24のリード部26との接続部、及び、リード部26の下端部26Aと電極部27との接続部のそれぞれに施されることで、それぞれの箇所が曲げR(曲率半径)を有したLの字状の第1曲部70及び第2曲部72として形成される。そして、かかる折曲加工によって導体20が形成されることで、上述したように、導体20は、導線22の端部22Aと電極部27との間に、順に第1曲部70、及び第2曲部72の2つの曲げ部を備えることとなる。
【0033】
以下では、第1曲部70の曲げRを第1曲げR1と称し、第2曲部72の曲げRを第2曲げR2と称する。本実施形態において、第1曲げR1及び第2曲げR2は、いわゆる外Rを指し、導体20のLT断面において、コア30の表面側の面である外周面23の曲率である。
これら第1曲げR1及び第2曲げR2の値は、導体20のLT断面において、インダクタ1の長さL方向、厚みT方向、及び、長さL方向と厚みT方向の中間方向(長さL方向から厚みT方向に45度だけ傾いた方向)のそれぞれにおける、曲げの中心から外周面23までの距離の測定値に基づいて計算によって求められる。
また、本実施形態において、導体20の板厚GTは、第1曲部70における導線22の端部22Aとの接続箇所の厚みである。
【0034】
ここで、本実施形態のインダクタ1は、導体20の電極端子24がプリフォーミング(コア30への埋設前の事前形成)されることで、実装面10と電極部27の表面24Aが概ね面一となっている。
したがって、図7に示すように、導体20の厚みを導体厚みGとし、当該導体20よりも上側のコア30の厚みを上部コア厚みTUとした場合、インダクタ1の厚みTは、(導体厚みG+上部コア厚みTU)となり、導体厚みGを小さくするほど低背化される。
【0035】
第1曲部70と第2曲部72との間を中間部80と定義し、当該中間部80の長さをGBとした場合、導体厚みGは、図7に示すように、第1曲げR1、第2曲げR2、及び、中間部80の長さGBを加算した長さに等しくなる。したがって、例えば中間部80の長さGBをゼロとし、第1曲げR1及び第2曲げR2を最小とすることで、導体厚みGは最小に抑えられる。なお、第1曲部70、第2曲部72、及び中間部80のうち、端面14に露出する箇所が上記リード部26に対応する。
【0036】
ここで、曲加工において、導体20の板厚GTの薄肉化を曲げ部に生じさせることなく曲げることが可能な最小曲げRは当該板厚GTの約2倍である、との知見が得られている。すなわち、第1曲げR1及び第2曲げR2の曲げRが板厚GTの2倍未満であると、第1曲部70及び第2曲部72において板厚が薄く変形するため抵抗値が高くなり、インダクタ1の直流抵抗特性が劣化することになる。
したがって、第1曲げR1及び第2曲げR2を、導体20の板厚GTの2倍以上とすることで、直流抵抗特性の劣化を回避することができ、加えて、第1曲げR1及び第2曲げR2を、板厚GTの2倍とすることで、直流抵抗特性の劣化を回避しつつ、導体厚みGを最小にすることができ、インダクタ1を低背化できる。
【0037】
また、本実施形態のインダクタ1は、第1曲げR1及び第2曲げR2を板厚GTの2倍とした上で、長さLが2.5±0.2mm、幅Wが2.0±0.2mm、厚みTが1.0mm未満という小型かつ低背なサイズでありながらも、直流抵抗値が1mΩ未満であり、インダクタンス値が10nHを超え、温度上昇定格電流(40度温度上昇時)が15A以上、かつ、直流重畳電流値(周波数1MHz時)が15A以上という優れた特性を実現するように構成されている。
以下、かかる構成について詳述する。
【0038】
図8は、導体20の各部の寸法が異なるインダクタ1の特性評価結果を示す図である。
同図において、下部コア厚みTDは、導体20よりも下のコア30の厚みであり、特性評価結果は、低背、インダクタンス値、及び直流抵抗値の評価結果である。低背評価においては、1mm未満の厚みTのインダクタ1が「G」(良品)と評価され、インダクタンス値評価においては、10nHよりも大きなインダクタンス値のインダクタ1が「G」(良品)と評価され、直流抵抗値評価においては、1mΩ未満の直流抵抗値のインダクタ1が「G」(良品)と評価されている。なお、いずれのインダクタ1においてもコア30の比透磁率は23.5から29.5の範囲である。
【0039】
インダクタ1の直流抵抗は、板厚GTが薄くなるほど上昇するため、直流抵抗を所望値以下に抑えるためには、当該所望値に対応する最小板厚よりも板厚GTを厚くする必要がある。そして、インダクタ1が上記サイズに形成され、かつ、電極端子24(電極部27)の電極幅WBが導線22の導線幅WAよりも広い構成において、直流抵抗値を1mΩ未満に抑え、比較的大きさ温度上昇定格電流を実現するためには、少なくとも0.1mm以上の板厚GTが必要であることが、図8におけるサンプルA1からサンプルB3までのサンプル群と、サンプルC1からサンプルD2までサンプル群との直流抵抗値評価の比較によって分かる。
ただし、板厚GTが0.1mmよりも厚くなるほど低背化は困難となるものの、サンプルD1についての低背評価結果によれば、少なくとも0.12mmの板厚GTであれば1mm未満の厚みTを実現できることが分かる。
【0040】
またサンプルC1、C2、C3、C4及び、サンプルD1、D2の低背評価結果によれば、板厚GTが0.1mm以上かつ0.12mm以下であっても、第1曲げR1及び第2曲げR2が板厚GTの3.0倍以上になると厚みTが1mmを超えてしまうため、1mm未満の厚みTを実現するためには、これら第1曲げR1及び第2曲げR2は、一方が板厚GTの2.0倍以上のとき、他方は板厚GTの3.0倍未満とする必要があることが分かる。
【0041】
図9は、上部コア厚みTU及び下部コア厚みTDが異なるインダクタ1の特性評価結果を示す図である。なお、同図において、インダクタ1のサンプルは全て、板厚GTが0.1mmであり、第1曲げR1及び第2曲げR2が板厚GTの2.0倍である。
本実施形態のインダクタ1において下部コア厚みTDは、前掲図7に示すように、導体厚みGから板厚GTを引いた厚みに相当するため、導体20の寸法が同一であれば下部コア厚みTDも略一定となる。
これに対し、上部コア厚みTUは導体20の寸法によらずに変更可能であり、図9に示されるように、上部コア厚みTUが厚くなるほど高いインダクタンス値が得られることが分かる。したがって、低背評価が「G」となる範囲(すなわち、厚みTが1mm未満となる範囲)で上部コア厚みTUを大きくすることでインダクタンス値を高めることができる。
【0042】
また、導体20において、中間部80の長さGBをゼロから長くするほど、下部コア厚みTDが厚くなり、インダクタ1における上部コア厚みTUと下部コア厚みTDとのバランスが変わることでインダクタンス値にも影響が生じる。
具体的には、図9において、中間部80の長さGBがゼロの場合と、0.1mm(概ね板厚GT)の場合とでインダクタンス値を比較すると、上部コア厚みTUが同じであれば、中間部80の長さGBが0.1mmである場合の方がインダクタンス値は大きくなることが分かる。
すなわち、板厚GT相当の長さGBの中間部80を導体20に設けることで、より大きなインダクタンス値が得られることとなる。特に、インダクタ1が、0.1mmの長さGBの中間部80を備える場合、下部コア厚みTDと、上部コア厚みTUとの差が板厚GTに相当する0.1mmであれば、12nHを超えるインダクタンス値が得られることが、サンプルCA5からサンプルCA7、及びサンプルCA9の結果から分かる。
ただし、上部コア厚みTUが下部コア厚みTDよりも厚い場合、両者の差が板厚GT以上になると、厚みTが1mmとなって低背評価が「NG」になることがサンプルCA9の結果から分かる。換言すれば、上部コア厚みTUが下部コア厚みTDよりも大きい場合には、両者の差を板厚GT未満とすることで、厚みTを1mm未満に抑えることができる。
【0043】
本実施形態によれば、次の効果を奏する。
【0044】
本実施形態のインダクタ1は、磁性粉を含むコア30に、所定の板厚GTの導体20が埋設されたインダクタ1である。コア30は、実装時に実装基板の側に向けられる実装面10と、実装面10に対向する上面12と、実装面10に直交する一対の端面14と、を備える。また導体20は、コア30の内部を一対の端面14に亘って延びる導線22と、一対の電極端子24と、を備えている。一対の電極端子24は、導線22の両方の端部22Aのそれぞれに設けられ、実装面10に露出する電極部27と、導線22の両側の端部22Aと、一対の電極部27とのそれぞれの間に設けられ、第1曲げR1を有する第1曲部70、及び、第2曲げR2を有する第2曲部72と、を備える。これら第1曲げR1、及び、第2曲げR2は、導体20の板厚GTの2.0倍以上3.0倍以下であり、なおかつ、第1曲げR1、及び、第2曲げR2のいずれか一方が導体20の板厚GTの2.0倍以上のとき他方は導体20の板厚GTの3.0倍未満となっている。
【0045】
この構成によれば、第1曲げR及び前記第2曲げRは、導体20の板厚GTの2.0倍以上3.0倍以下であり、なおかつ、第1曲げR及び第2曲げRのいずれか一方が導体20の板厚GTの2.0倍以上のとき他方は導体20の板厚GTの3.0倍未満であるため、第1曲部70及び第2曲部72における抵抗値の増加による直流抵抗特性の劣化を回避しつつ導体20の導体厚みGを制限し、インダクタ1の低背化を実現できる。
また、かかるインダクタ1において、下部コア厚みTDは導体厚みGから板厚GTを差し引いた厚みとなるものの、インダクタ1の厚みTが許す限りにおいて(低背化が損なわれない範囲で)上部コア厚みTUを厚くすることで、インダクタンス値を適宜に高めることができる。
【0046】
本実施形態のインダクタ1は、上記電極部27の電極幅WBが導線22の導線幅WAよりも広いため、直流抵抗値を下げることができる。
【0047】
本実施形態のインダクタ1は、上記導体20の板厚GTが0.1mm以上、かつ、0.12mm以下である。
これにより、十分に低い直流抵抗値を実現しながらも、インダクタ1の厚みTを1mm未満に抑えることができる。
【0048】
本実施形態のインダクタ1は、上記第1曲部70と第2曲部72との間に、導体20の板厚GTに等しい長さの中間部80を有する。
これにより、中間部80を設けない(中間部80の長さGBが略ゼロ)の場合に比べ、インダクタンス値を高めることができる。
【0049】
本実施形態のインダクタ1は、上記第1曲部70及び第2曲部72の曲げRがいずれも導体20の板厚GTの2.0倍であり、また、コア30は、下部コア厚みTDと上部コア厚みTUとの差が当該板厚GT以下となっている。
この構成によれば、導体20が導体20の板厚GTに等しい長さの中間部80を有する場合でも、第1曲部70及び第2曲部72の曲げRが導体20の板厚GTの2.0倍に設定されることで、直流抵抗特性の劣化を回避可能な範囲で導体厚みGが最小に抑えられ、インダクタ1の低背化を実現できる。
【0050】
本実施形態のインダクタ1は、上記上部コア厚みTUが下部コア厚みTDよりも厚く、かつ、上部コア厚みTUと下部コア厚みTDとの差が導体20の板厚GT未満となっている。
これにより、上部コア厚みTUが下部コア厚みTDよりも厚い場合であっても、厚みTを1mm未満に収めることができる。
【0051】
なお、上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様の例示であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲において任意に変形、及び応用が可能である。
【0052】
例えば、上述した実施形態において、導体20は、第1曲部70の第1曲げR1の大きさと第2曲部72の第2曲げR2の大きさとが入れ替わってもよい。
【0053】
上述した実施形態における水平、及び垂直等の方向や各種の数値、形状、材料は、特段の断りがない限り、それら方向や数値、形状、材料と同じ作用効果を奏する範囲(いわゆる均等の範囲)を含む。
【符号の説明】
【0054】
1 インダクタ
2 素体
4 外部電極
10 実装面
12 上面
14 端面
16 側面
20 導体
22 導線
24 電極端子
27 電極部
30 コア
70 第1曲部
72 第2曲部
80 中間部
T 厚み
GT 板厚
TD 下部コア厚み
TU 上部コア厚み
WA 導線幅
WB 電極幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9