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  • 特開-変位制限装置 図1
  • 特開-変位制限装置 図2
  • 特開-変位制限装置 図3
  • 特開-変位制限装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022015125
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】変位制限装置
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20220114BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
E04H9/02 331A
F16F15/04 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020117781
(22)【出願日】2020-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】509199007
【氏名又は名称】株式会社川金コアテック
(74)【代理人】
【識別番号】100104363
【弁理士】
【氏名又は名称】端山 博孝
(72)【発明者】
【氏名】比志島 康久
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB11
2E139AC01
2E139CA02
2E139CB04
2E139CC02
3J048AA01
3J048AD11
3J048BA08
3J048CB05
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】例えば免震建物に設置されることにより、コンパクトな構造で、建物周囲全方向に亘って大きな緩衝効果を期待することができる、変位制限装置を提供する。
【解決手段】一方の構造物10の面に固定された第1部材15と、他方の構造物11の面に固定された環状の第2部材16と、第1部材15と第2部材16との間に配置された第3部材18とを備え、第1部材15及び第3部材18は、両部材間に挟まれた環状の積層ゴム17を介して連結され、第3部材18には、第2部材16の内方に延びる柱状の第1突起21が設けられ、第1部材15には、積層ゴム17の内方に延びる柱状の第2突起20が設けられ、第2部材16は第1突起21が当接可能な第1ストッパーを構成し、第3部材18には第2突起20が当接可能な第2ストッパー22bが設けられている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する面を持つ2つの構造物に生じる、前記面に平行な方向の相対変位を制限する装置であって、
一方の前記構造物の前記面に固定された第1部材と、
他方の前記構造物の前記面に固定された環状の第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間に配置された第3部材とを備え、
前記第1部材及び前記第3部材は、両部材間に挟まれた環状の積層ゴムを介して連結され、
前記第3部材には、前記第2部材の内方に延びる柱状の第1突起が設けられ、
前記第1部材には、前記積層ゴムの内方に延びる柱状の第2突起が設けられ、
前記第2部材は、該第2部材と前記第3部材との間に相対変位が生じたとき、前記第1突起が当接可能な第1ストッパーを構成し、
前記第3部材には、該第3部材と前記第1部材との間に相対変位が生じたとき、前記第2突起が当接可能な第2ストッパーが設けられていることを特徴とする変位制限装置。
【請求項2】
前記2つの構造物は免震建物における建物及び基礎である、請求項1記載の変位制限装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、変位制限装置に関し、より詳細には、例えば免震装置が設置された建物に過大な変位が発生するのを抑制するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建物と基礎との間に免震装置が設置された免震建物が知られている。免震装置は積層ゴム支承などからなり、建物の荷重を支持するとともに、地震時にはせん断変形することにより建物への地震力の伝達を軽減している。
【0003】
しかしながら、想定外の大地震が発生すると、設計で予想した変位量を超えて積層ゴムが大変形して損傷したり、建物が倒壊する危険性がある。また、想定される移動量を確保するために、建物とその下部周囲の側壁との間に隙間を設けているが、想定外の地震動ではこの隙間を超えて建物が側壁に衝突し、建物や側壁を破損させる危険がある。
【0004】
このようなことから、一般には建物の基礎にコンクリート製のストッパーを立ち上げ、建物の変位を制限するようにしている。そして、建物がストッパーに衝突するときにその衝撃を緩和するために、ストッパーにゴム板を設置する等しているが、大きな緩衝効果は期待できない。また、ストッパーは建物の前後方向及び左右方向の計4方向に設置されるため、これら方向間の45度方向への建物変位に対しては衝突を緩和させることが難しい。
【0005】
この発明に関する先行技術が記載されたものとして、例えば特許文献1~3を挙げることができるが、これら文献に記載された技術はいずれもこの発明と技術思想を異にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-283288号公報
【特許文献2】特開2010-270569号公報
【特許文献3】特開2017-2621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、例えば免震建物に設置されることにより、コンパクトな構造で、建物周囲全方向に亘って大きな緩衝効果を期待することができる、変位制限装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、互いに対向する面を持つ2つの構造物に生じる、前記面に平行な方向の相対変位を制限する装置であって、
一方の前記構造物の前記面に固定された第1部材と、
他方の前記構造物の前記面に固定された環状の第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間に配置された第3部材とを備え、
前記第1部材及び前記第3部材は、両部材間に挟まれた環状の積層ゴムを介して連結され、
前記第3部材には、前記第2部材の内方に延びる柱状の第1突起が設けられ、
前記第1部材には、前記積層ゴムの内方に延びる柱状の第2突起が設けられ、
前記第2部材は、該第2部材と前記第3部材との間に相対変位が生じたとき、前記第1突起が当接可能な第1ストッパーを構成し、
前記第3部材には、該第3部材と前記第1部材との間に相対変位が生じたとき、前記第2突起が当接可能な第2ストッパーが設けられていることを特徴とする変位制限装置にある。
【0009】
上記変位制限装置において、前記2つの構造物は、例えば免震建物における建物及び基礎である。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、例えば免震建物に設置されることにより、コンパクトな構造で、建物周囲全方向に亘って大きな緩衝効果を期待することができる、変位制限装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】免震建物の概略を示す正面図である。
図2】この発明による変位制限装置の実施形態を示す鉛直方向の断面図である。
図3図2のA矢視及びB矢視によるそれぞれの半断面を併せて示す図である。
図4】実施形態のものの作用を示す鉛直方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、免震建物の概略を示す正面図である。周囲に側壁12が形成された基礎11と建物10の間には複数の免震装置13が設置され、建物10の荷重はこれらの免震装置13によって支持されている。
【0013】
免震装置13は例えばゴム層と鋼板とを交互に積層して形成される周知の積層ゴム支承で構成される。地震時には積層ゴム支承がせん断変形することにより、振動が建物に伝達するのを軽減する。建物10と側壁12との間には、地震時における建物10の水平変位を許容するために所要の隙間が設けられている。
【0014】
変位制限装置14は、地震時における建物10の過大な変位すなわち免震装置13の過大な変位を抑止するためのものであり、建物10と基礎11との間に設置されている。
【0015】
図2は、変位制限装置14を示す鉛直方向の断面図である。図3は、図2のA矢視及びB矢視によるそれぞれの半断面を併せて示す図である。変位制限装置14は、建物10の下面に固定された第1部材を構成する上部構造体15と、基礎11の上面に固定された第2部材を構成する下部構造体16と、上部構造体15と下部構造体16との間に配置された第3部材を構成する中間部構造体18とを備えている。
【0016】
上部構造体15、下部構造体16及び中間部構造体18は、いずれも鋼製のものである。また、上部構造体15及び中間部構造体18はいずれも円形状に作られ、下部構造体16は所要の高さ寸法を持つ円環状に作られ、これら構造体15、16、18は中心軸線が一致するように配置されている。
【0017】
上部構造体15は、アンカーボルト19により建物10に固定されている。この上部構造体15の下面中央には、第2突起を構成する円柱状の突起20が設けられている。上述のように上部構造体15及び中間部構造体18はいずれも円形状に作られているが、中間部構造体18は上部構造体15よりも幾分か小さい外径寸法を有している。この中間部構造体18も下面中央に、第1突起を構成する円柱状の突起21が設けられている。
【0018】
上部構造体15及び中間部構造体18は、両構造体15、18間に挟まれた積層ゴム17を介して連結されている。積層ゴム17は所要の幅寸法を持つ円環状に作られている。積層ゴム17はゴム層と鋼板とを積層し加硫接着して形成され、上下部に厚肉の鋼板22a、22bを有している。
【0019】
積層ゴム17の上部は、上部構造体15に取り付けられて上部鋼板22aに螺着される複数のボルト23により上部構造体15に固定されている。また、積層ゴム17の下部は、中間部構造体18に取り付けられて下部鋼板22bに螺着されるボルト24により中間部構造体18に固定されている。
【0020】
積層ゴム17はその中心軸線が構造体15、16、18の中心軸線と一致するように配置されている。したがって、上部構造体15の下面中央に設けられた突起20は、積層ゴム17と中心軸線が一致している。この突起20は積層ゴム17の内方であって、下部鋼板22bの高さレベルまで延びている。
【0021】
これにより、積層ゴム17がせん断変形して上部構造体15と中間部構造体18との間で水平方向の相対変位が生じると、突起20は下部鋼板22bの内周に当接(衝突)することとなる。すなわち、積層ゴム17の下部鋼板22bは上部構造体15の変位を制限するストッパー(第2ストッパー)として機能する。
【0022】
円環状の下部構造体16は、中間部構造体18の外径とほぼ等しい内径寸法を有し、外周に基礎11への取付部25が設けられている。下部構造体16は取付部25に取り付けられた複数のアンカーボルト26により基礎11に固定されている。下部構造体16は有底のものであってもよい。
【0023】
中間部構造体18のの下面中央に設けられた突起21は、下部構造体16と中心軸線が一致し、下部構造体16の内方に延びている。これにより、中間部構造体18と下部構造体16との間で水平方向の相対変位が生じると、突起21は下部構造体16の内周に当接(衝突)することとなる。すなわち、下部構造体16は中間部構造体18の変位を制限するストッパー(第1ストッパー)として機能する。
【0024】
次に上記変位制限装置14の作用について説明する。図1に示した積層ゴム支承13の設計最大変位以下の地震動に対しては、変位制限装置14は積層ゴム支承13を拘束せずにせん断変形するのを許容し、免震機能を発揮させる。このとき、変位制限装置14の上部構造体15及び中間部構造体18は建物10とともに水平変位するが、積層ゴム17にはせん断変形が生じない。
【0025】
一方、積層ゴム支承13の設計最大変位を超える想定外の地震動が発生すると、図4に示すように、上部構造体15及び中間部構造体18が水平変位し、まず中間部構造体18の突起21が下部構造体16の内周に衝突して、中間部構造体18の変位が制限される。
【0026】
次に、上部構造体15は建物10とともに変位を続けるので、中間部構造体18との間で相対変位が生じ、積層ゴム17がせん断変形する。そして、ついには上部構造体15の突起20が積層ゴム17の下部鋼板22bに衝突して、上部構造体15の変位すなわち建物10の変位が制限される。このようにして、変位制限装置14により建物10の過大な変位が制限されるので、免震装置13を構成する積層ゴム支承が損傷することがなく、また建物が側壁に衝突するのが防止される。
【0027】
そして、変位制限作用時には積層ゴム17がせん断変形して、そのばね力により衝撃を緩和するので、大きな緩衝効果を得ることができる。また、変位制限作用時にストッパーとして寄与する下部構造体16及び積層ゴム17の下部鋼板22bは、いずれも環状のものであるので、建物全方向に亘って緩衝効果を期待できる。なお、積層ゴム17のばね力は自由に設計することができる。
【0028】
さらに、変位制限は、まず中間部構造体18の突起21と下部構造体16との衝突、次いで上部構造体15の突起20と積層ゴム17の下部鋼板22bとの衝突というように、高さレベルが異なる2か所で順に行われる。しかも、これらの突起20、21はいずれも柱状で径を小さく設計できるので、変位制限装置全体の構造をコンパクトなものとすることができる。
【0029】
なお、中間部構造体18の突起21の外周には、先端に向けて径が漸減するテーパー27が形成されている。これに対応して、下部構造体16の内周にも上端に向けて径が漸増するテーパー28が形成されている。このようなテーパー27、28を設けることにより、突起21と下部構造体16との衝突の際に、中間部構造体18を押し上げる力が働くので、積層ゴムに上下方向の引張り力が働くのを阻止することができる。
【0030】
上記実施形態は例示にすぎず、この発明は以下に示すように種々の態様を採ることができ、いずれの態様もこの発明の概念に包含される。
(1)上記実施形態では免震装置として積層ゴム支承が示されているが、滑り支承を使用する場合もある。
(2)上記実施形態では、この発明による変位制限装置を免震建物における建物と基礎との間に設置しているが、免震層が形成される建物の中間層において上部躯体と下部躯体との間に設置するするようにしてもよい。
【0031】
(3)上記実施形態では第1部材を構成する構造体15を建物10に、第2部材を構成する構造体16を基礎11にそれぞれ固定しているが、これとは逆の配置、すなわち図1に示した部材配置を天地逆にして、第2部材を構成する構造体16を建物10に、第1部材を構成する構造体15を基礎11にそれぞれ固定するようにしてもよい。
(4)上記実施形態では第2部材を構成する構造体16を円環状のものとしたが、構造体16は多角環状であってもよい。同様に積層ゴム17も円環状に限らず、多角環状としてもよい。
【0032】
(5)上記実施形態では積層ゴム17は周方向に連続した環状に形成されているが、積層ゴムは周方向に複数に分割したものであってもよい。
(6)上記実施形態では積層ゴム17は、第1部材を構成する構造体15及び第3部材を構成する構造体18と別途成形し、これらの部材に固定されているが、これらの部材の一方と一体成形するようにしてもよい。
【0033】
(7)上記実施形態では第2突起20が当接する第2ストッパーとして、第3部材を構成する構造体18に設けられた積層ゴム17の厚肉の鋼板にその機能を持たせているが、第3部材を構成する構造体18に独自のストッパーを設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0034】
10:建物
11:基礎
12:側壁
13:免震装置(積層ゴム支承)
14:変位制限装置
15:上部構造体(第1部材)
16:下部構造体(第2部材)
17:積層ゴム
18:中間部構造体(第3部材)
20:第2突起
21:第1突起
22a:上部鋼板
22b:下部鋼板
図1
図2
図3
図4