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  • 特開-水素製造装置及び水素製造方法 図1
  • 特開-水素製造装置及び水素製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151265
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】水素製造装置及び水素製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/24 20060101AFI20220929BHJP
   C01B 3/34 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C01B3/24
C01B3/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054251
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鳥井 淳史
【テーマコード(参考)】
4G140
【Fターム(参考)】
4G140DA03
4G140DB03
(57)【要約】
【課題】炭化水素ガスの熱分解効率を向上可能な水素製造装置及び水素製造方法を提供する。
【解決手段】水素製造装置10は、炭化水素ガスを水素及び炭素に直接熱分解する。水素製造装置10は、金属溶湯12を貯留する反応器11と、金属溶湯12中に炭化水素ガスを含む複数の気泡20を吹き出す複数の吹き出し口を有するガス供給部13とを備える。複数の気泡20のうち50体積%以上の気泡20の直径が、0.25mm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素ガスを水素及び炭素に直接熱分解する水素製造装置であって、
金属溶湯を貯留する反応器と、
前記金属溶湯中に前記炭化水素ガスを含む複数の気泡を吹き出す複数の吹き出し口を有するガス供給部と、
を備え、
前記複数の吹き出し口から吹き出る前記複数の気泡のうち50体積%以上の気泡の直径が、0.25mm以下である、
水素製造装置。
【請求項2】
前記複数の吹き出し口は、鉛直方向に分布する、
請求項1に記載の水素製造装置。
【請求項3】
前記反応器内から漏出する輻射熱を前記反応器に向かって反射する反射部材を更に備える、
請求項1又は2に記載の水素製造装置。
【請求項4】
前記反応器と前記反射部材との間に配置され、大気圧より気圧の低い減圧空間を更に備える、
請求項3に記載の水素製造装置。
【請求項5】
炭化水素ガスを水素及び炭素に直接熱分解することによって水素製造装置であって、
反応器に貯留された金属溶湯中に炭化水素ガスを含む複数の気泡を複数の吹き出し口から吹き出すことによって、前記炭化水素ガスを水素及び炭素に直接熱分解する工程を備え、
前記複数の吹き出し口から吹き出る前記複数の気泡のうち50体積%以上の気泡の直径は、0.25mm以下である、
水素製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造装置及び水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素は、各種水素添加反応の還元剤、アンモニアやメタノールの製造用原料、或いは、燃料電池などの燃料として広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、反応器内に貯留された金属溶湯中に炭化水素ガスを供給することによって炭化水素ガスを水素及び炭素に直接熱分解する水素製造装置が開示されている。炭化水素ガスは、反応器の底面から金属溶湯中に供給された後、金属溶湯中を浮上しながら徐々に熱分解される。
【0004】
特許文献1において、炭化水素ガスの熱分解効率は、金属溶湯中における炭化水素ガスの滞留時間に依存し、滞留時間は、金属溶湯の温度と反応器の高さとによって決まるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019154732号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、炭化水素ガスの熱分解効率をより向上させることによって、水素製造装置をダウンサイジングしたいという要望がある。
【0007】
本発明の課題は、炭化水素ガスの熱分解効率を向上可能な水素製造装置及び水素製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る水素製造装置は、炭化水素ガスを水素及び炭素に直接熱分解する水素製造装置であって、反応器とガス供給部とを備える。反応器は、金属溶湯を貯留する。ガス供給部は、金属溶湯中に炭化水素ガスを含む複数の気泡を吹き出す複数の吹き出し口を有する。複数の吹き出し口から吹き出る複数の気泡のうち50体積%以上の気泡の直径が、0.25mm以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、炭化水素ガスの熱分解効率を向上可能な水素製造装置及び水素製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】水素製造装置の断面を示す模式図である。
図2】熱分解効率のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(水素製造装置10)
図1は、本実施形態に係る水素製造装置10の断面を示す模式図である。水素製造装置10は、炭化水素ガスを水素(H)及び炭素(C)に直接熱分解する。炭化水素ガスの直接熱分解反応は、次の反応式(1)によって表される。
【0012】
CH→C+2H ・・・(1)
【0013】
水素製造装置10は、反応器11、金属溶湯12、ガス供給部13、ガス供給路14、水素回収部15、炭素回収部16、反射部材17及び減圧空間18を備える。
【0014】
反応器11は、中空状の容器である。反応器11の内部空間11Sには、金属溶湯12が貯留される。反応器11は、金属溶湯12の熱に耐えられる材料によって構成される。反応器11の構成材料としては、例えば二酸化ケイ素(SiO)が挙げられる。反応器11の内部空間11Sには、金属溶湯12を加熱するための加熱装置(ガスバーナー、カーボン電極の電気ヒータなど)が配置されてもよい。
【0015】
金属溶湯12は、反応器11内に貯留される。金属溶湯12としては、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、ガリウム(Ga)、及びこれらの金属合金、さらに、これらの金属や合金に触媒となる元素(ニッケルなど)を添加した合金、溶融塩(例えば、NaCO)などを用いることができ、蒸気圧が低い観点からスズが特に好適である。貯留された金属溶湯12は、900℃以上1200℃以下に加熱される。
【0016】
ガス供給部13は、反応器11の底面11Tに配置される。ガス供給部13は、反応器11の底面11Tから内部空間11Sに向かって突出する。ガス供給部13は、中空状に形成される。
【0017】
ガス供給部13は、多数の開気孔を内部に有する多孔体である。ガス供給部13の気孔率は特に制限されないが、例えば30%以上70%以下とすることができる。ガス供給部13の気孔率は、アルキメデス法に依って測定される。ガス供給部13の構成材料としては、例えばアルミナや炭化ケイ素が挙げられる。
【0018】
ガス供給部13は、金属溶湯12と接触するガス供給面13Sを有する。ガス供給面13Sには、各開気孔の開口が形成されている。ガス供給面13Sに形成された開口は、炭化水素ガスの「吹き出し口」として機能する。本明細書では、ガス供給面13Sに形成された開口のことを「吹き出し口」と称する。
【0019】
ガス供給部13は、金属溶湯12中に炭化水素ガスを含む複数の気泡20を供給する。具体的には、ガス供給路14からガス供給部13の内側に供給される炭化水素ガスは、ガス供給部13内部の開気孔を通った後、ガス供給面13Sの吹き出し口から気泡20となって金属溶湯12中に吹き出る。ガス供給面13Sから吹き出た気泡20は、金属溶湯中を浮力によって上方に移動する。金属溶湯12中を浮上する気泡20に含まれる炭化水素ガスは、上記反応式(1)に従って徐々に熱分解される。
【0020】
ここで、本実施形態において、ガス供給面13Sに形成された各吹き出し口から吹き出す複数の気泡20のうち50体積%以上の気泡20の直径は0.25mm以下である。これによって、所定体積の炭化水素ガスと金属溶湯12との接触面積を大きくすることができるため、炭化水素ガスの熱分解効率を向上させることができる。その結果、水素製造装置10をダウンサイジングすることができる。
【0021】
ガス供給面13Sの吹き出し口から吹き出る気泡20の直径分布は、吹き出し口から炭化水素ガスを吹き出しながら吹き出し口付近で採取した金属溶湯12を急冷固化し、固化したサンプルの一断面を顕微鏡で観察することによって計測することができる。気泡20の直径とは、断面に表れる気泡20と同じ面積を有する円の直径(いわゆる、円相当径)である。金属溶湯12の採取には、溶湯のサンプラー(日本ミンコ社製)を使用する。サンプルは、水(通常の水道水など)中にサンプルを浸漬することで冷却する。
【0022】
また、本実施形態において、ガス供給面13Sの少なくとも一部は、鉛直方向に広がる。ガス供給面13Sに形成された吹き出し口は、鉛直方向に広がるように分布している。これによって、金属溶湯12中に気泡20を均一に分布させやすくなる。特に、気泡20の直径が小さくなるにつれて気泡20自体の浮力も小さくなるため、気泡20はなかなか浮上せずに吹き出し口付近に滞留しやすいため、吹き出し口を鉛直方向に分布させることは気泡20を均一に分布させる効果が高い。その結果、反応器11の設計を容易にすることができる。
【0023】
なお、本実施形態では、ガス供給部13が2つ設けられているが、ガス供給部13の本数は特に限られない。
【0024】
水素回収部15は、反応器11の内部空間11Sに接続される。水素回収部15は、金属溶湯12から中で炭化水素ガスから生成された水素を回収する。水素回収部15は、金属溶湯12中で炭化水素ガスが完全には熱分解されない場合、残留した炭化水素ガスを水素とともに回収してもよい。
【0025】
炭素回収部16は、反応器11の内部空間11Sに接続される。水素回収部15は、金属溶湯12中で炭化水素ガスから生成され、金属溶湯12の液面に浮上した炭素を回収する。
【0026】
反射部材17は、反応器11の外側に配置される。本実施形態において、反射部材17は、反応器11を取り囲むように配置されている。反射部材17は、反応器11内から漏出する輻射熱(すなわち、赤外線)を反応器11に向かって反射する。これによって、反応器11の温度低下を抑制することができ、金属溶湯12の温度を維持するのに必要なエネルギーを節約することができる。更に、熱が外部に漏出しにくくなるため、図示しない断熱材の使用量を減らすことによって、水素製造装置10をよりダウンサイジングできる。
【0027】
減圧空間18は、反応器11と反射部材17との間に配置される。減圧空間18の気圧は、大気圧より低い。これによって、減圧空間18の伝熱性を低くすることができるため、反応器11の温度低下を抑制することができる。従って、断熱材の使用量を更に減らすことによって、水素製造装置10を更にダウンサイジングできる。
【0028】
本実施形態では、反応器11と反射部材17との隙間全体が減圧空間18となっているが、減圧空間18は、反応器11と反射部材17との間に配置されていればよい。例えば、反応器11と反射部材17との間に中空部材を配置し、当該中空部材の内部空間を減圧空間18として利用してもよい。
【実施例0029】
以下において本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例には限定されない。
【0030】
本実施例では、ガス供給部として炭化ケイ素製の多孔基板を用いてメタンを直接熱分解したときの分解効率のシミュレーションを行った。ガス供給部のガス供給面に形成された吹き出し口(開口)の口径は、実施例1では0.25mm、実施例2では0.10mm、比較例では0.50mmに設定した。従来、メタンの直接熱分解分野における基礎的な実験では、口径(直径)0.5mmの単一の孔が吹き出し口として用いられてきたため、比較例は従来例に相当する。
【0031】
メタンの気泡と金属溶湯との界面において反応が一定の反応速度で起こると考えられるため、公知の研究例(SCIENCE,17Nov.2017,Vol.358issue6365, 917-921)に基づき、本シミュレーションにおける反応速度を設定した。具体的には、本シミュレーションでは金属溶湯としてスズを用いる点において先の研究例と異なるため、反応速度λ(mol/cm・sec)をLn(λ)=-18.0と低めに設定した。なお、本シミュレーションは、メタンの気泡径の変化に応じた反応量の変化を相対的に比較するものであるので、反応速度が実際と多少異なるものであっても問題はない。
【0032】
そして、経過時間に対してメタン気泡が徐々に小さくなってゆくことを考慮しつつ、実施例1,2及び比較例それぞれの多孔基板の吹き出し口から一定量のメタンを吹き出した場合における未反応メタンの量と経過時間との関係をシミュレートした。
【0033】
図2は、シミュレーション結果を示すグラフである。図2では、熱分解によってメタンの量が減少していく様子が図示されている。図2において、横軸はメタンが反応器内に供給されてからの経過時間を示しており、縦軸は反応器内のメタンの量を示している。
【0034】
図2に示すように、90体積%のメタンが熱分解されるまでに必要な時間は、比較例では約6秒であったのに対して、実施例1では約3秒であり、実施例2では約1.2秒であった。このような結果が得られたのは、実施例1,2において、メタンの気泡と金属溶湯との接触面積を大きくすることによって熱分解効率を向上できたためである。
【0035】
そして、吹き出し口から吹き出る気泡の直径は吹き出し口の口径と同じであると考えることができ、気泡の直径を0.25mm以下にすることによって十分な熱分解効率が得られたことから、吹き出し口から吹き出る全気泡のうち50体積%以上の気泡の直径を0.25mm以下にすれば十分な熱分解効率を得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0036】
10 水素製造装置
11 反応器
11S 内部空間
11T 底面
12 金属溶湯
13 ガス供給部
13S ガス供給面
14 ガス供給路
15 水素回収部
16 炭素回収部
17 反射部材
18 減圧空間
20 気泡
図1
図2