(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151268
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】水素分離膜構造体及び水素分離膜構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20220929BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20220929BHJP
B01D 71/10 20060101ALI20220929BHJP
B01D 71/46 20060101ALI20220929BHJP
B01D 71/50 20060101ALI20220929BHJP
B01D 71/48 20060101ALI20220929BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20220929BHJP
B01D 71/64 20060101ALI20220929BHJP
B01D 71/28 20060101ALI20220929BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20220929BHJP
B01D 71/62 20060101ALI20220929BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20220929BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20220929BHJP
B01D 71/52 20060101ALI20220929BHJP
B01D 71/30 20060101ALI20220929BHJP
B01D 71/40 20060101ALI20220929BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20220929BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220929BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B01D71/02 500
B01D69/02
B01D71/10
B01D71/46
B01D71/50
B01D71/48
B01D71/56
B01D71/64
B01D71/28
B01D71/34
B01D71/62
B01D71/26
B01D71/68
B01D71/52
B01D71/30
B01D71/40
B01D69/10
B01D69/12
B01D69/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054254
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鳥井 淳史
(72)【発明者】
【氏名】菱木 達也
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006MA09
4D006MA22
4D006MB03
4D006MC01X
4D006MC02
4D006MC03
4D006MC11
4D006MC23
4D006MC24
4D006MC27
4D006MC29
4D006MC36
4D006MC45
4D006MC48
4D006MC49
4D006MC54
4D006MC57
4D006MC58
4D006MC63
4D006NA31
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB66
(57)【要約】
【課題】多孔質基体の収縮を抑制可能な水素分離膜構造体及び水素分離膜構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】水素分離膜構造体10は、多孔質基体20と、水素分離膜30とを備える。多孔質基体20は、有機高分子材料によって構成される。多孔質基体20の引張弾性率は、1GPa以上である。水素分離膜30は、多孔質基体20によって支持され、TiNx(0<x)によって構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子材料によって構成される多孔質基体と、
前記多孔質基体によって支持され、TiNx(0<x)によって構成される水素分離膜と、
を備え、
前記多孔質基体の引張弾性率は、1GPa以上である、
水素分離膜構造体。
【請求項2】
前記多孔質基体の引張弾性率は、6GPa以下である、
請求項1に記載の水素分離膜構造体。
【請求項3】
前記多孔質基体と前記水素分離膜との間に配置される多孔質中間膜を備え、
前記多孔質中間膜は、前記多孔質基体の構成材料よりも熱伝導性の高い材料によって構成される、
請求項1又は2に記載の水素分離膜構造体。
【請求項4】
前記多孔質基体の構成材料は、セルロース、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、エポキシ、ポリエーテルサルフォン(ポリエーテルスルホン)、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリ塩化ビニル、メラミン、アクリルから選択される少なくとも1つである、
請求項1又は2に記載の水素分離膜構造体。
【請求項5】
前記多孔質基体は、前記水素分離膜と対向する第1面から前記第1面とは異なる第2面まで連通する複数の細孔を有し、
前記第1面における前記複数の細孔の平均開口径は、200nm以下である、
請求項1乃至4のいずれかに記載の水素分離膜構造体。
【請求項6】
有機高分子材料によって構成され、引張弾性率が1GPa以上である多孔質基体に対して、スパッタリングでTiNx(0<x)によって構成される水素分離膜を形成する工程を備える、
水素分離膜構造体の製造方法。
【請求項7】
前記多孔質基体の引張弾性率は、6GPa以下である、
請求項6に記載の水素分離膜構造体の製造方法。
【請求項8】
前記多孔質基体の構成材料よりも熱伝導性の高い材料によって構成される多孔質中間膜を前記多孔質基体上に形成する工程を更に備え、
前記水素分離膜は、前記多孔質中間膜上に形成される、
請求項6又は7に記載の水素分離膜構造体の製造方法。
【請求項9】
前記多孔質基体の構成材料は、セルロース、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、エポキシ、ポリエーテルサルフォン(ポリエーテルスルホン)、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリ塩化ビニル、メラミン、アクリルから選択される少なくとも1つである、
請求項6乃至8のいずれかに記載の水素分離膜構造体の製造方法。
【請求項10】
前記多孔質基体は、前記水素分離膜と対向する前記第1面から前記第1面とは異なる第2面まで連通する複数の細孔を有し、
前記第1面における前記複数の細孔の平均開口径は、200nm以下である、
請求項6乃至9のいずれかに記載の水素分離膜構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素分離膜構造体及び水素分離膜構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素を含有するガスから水素を選択的に透過させて分離する水素分離膜として、パラジウム(Pd)系合金膜が工業用水素の精製のために実用化されている。しかしながら、パラジウム系合金膜は製造コストが高いだけでなく、水素透過性を発現させるために高温(例えば、500℃以上)で使用する必要がある。
【0003】
一方、特許文献1では、200℃未満の多孔質基体上にスパッタリングにより、結晶子が岩塩型構造有し、かつ、(111)配向を示すTiNx膜(xは岩塩型構造を取り得る範囲である。)を形成する手法が提案されている。このTiNx膜は、500℃以でPd0.8Ag0.2膜と同等の水素フラックスを発現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、アルミナ、ニッケル-ジルコニアサーメット、ゼオライト、有機材料及び高分子材料などの多孔質材料によって多孔質基体を構成できるとされているが、これらのうちフレキシブル性の高い有機材料及び高分子材料が特に好適である。
【0006】
しかしながら、本発明者らが有機材料や高分子材料によって構成される多孔質基体上にTiNx膜(0<x)をスパッタリングで形成すると、多孔質基体が収縮してしまうという問題が発生した。本発明者らが鋭意検討した結果、多孔質基体が収縮する原因の一つは、多孔質基体の表面にスパッタ粒子が衝突することによって局所的に発生する熱で有機材料や高分子材料が融着してしまうことにあるという新たな知見を得た。
【0007】
本発明は、上述した新たな知見に基づいてなされたものであり、多孔質基体の収縮を抑制可能な水素分離膜構造体及び水素分離膜構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る水素分離膜構造体は、多孔質基体と、水素分離膜とを備える。多孔質基体は、有機高分子材料によって構成される。多孔質基体の引張弾性率は、1GPa以上である。水素分離膜は、多孔質基体によって支持され、TiNx(0<x)によって構成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多孔質基体の収縮を抑制可能な水素分離膜構造体及び水素分離膜構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る水素分離膜構造体の断面を示す模式図である。
【
図2】実施形態の変形例に係る水素分離膜構造体の断面を示す模式図である。
【
図3】実施例1及び比較例2に係る水素分離膜構造体の上面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(水素分離膜構造体10)
本実施形態に係る水素分離膜構造体10は、水素を含有するガスから水素を選択的に透過させて分離するために用いられる。
【0012】
図1は、水素分離膜構造体10の断面を示す模式図である。水素分離膜構造体10は、多孔質基体20と水素分離膜30とを備える。
【0013】
1.多孔質基体20
多孔質基体20は、水素分離膜30を支持する。本実施形態において、多孔質基体20は、水素分離膜30と直接接触する。多孔質基体20の外形は特に限定されず、シート状であってもよいし、塊状であってもよい。
【0014】
多孔質基体20は、多孔質体である。多孔質基体20は、第1面S1から第2面S2まで連通する複数の細孔を有する。第1面S1は、多孔質基体20の表面のうち水素分離膜30と対向する領域である。第2面S2は、多孔質基体20の表面のうち第1面S1とは異なる面である。多孔質基体20の細孔は、第1面S1の少なくとも一部から第2面S2の少なくとも一部まで連通していればよい。
【0015】
第1面S1における複数の細孔の平均開口径は、200nm以下であることが好ましい。これによって、後述するようにスパッタリングで水素分離膜30を形成する際、水素分離膜30に欠陥が生じることを抑制できる。この観点から、第1面S1における複数の細孔の平均開口径は、200nm以下がより好ましく、100nm以下が特に好ましい。
【0016】
第1面S1における複数の細孔の平均開口径は、第1面S1上において無作為に選択した10か所をSEM(走査電子顕微鏡)で撮影した画像10枚に対し、グレースケールへの変更後、白と黒の2値化処理を行い、黒色部(孔)の数と円相当径の分布から得られるメディアン径D50である。円相当径とは、孔と同じ面積を有する円の直径である。
【0017】
多孔質基体20は、有機高分子材料によって構成される。有機高分子材料は、金属やセラミックスに比べてフレキシブル性が高く、スパイラル構造のような単位体積当たりの膜表面積が大きい構造を実現できるため、水素分離膜構造体10の水素透過量を向上させることができる。
【0018】
本実施形態において、多孔質基体20の引張弾性率は、1GPa以上である。これによって、スパッタリングで水素分離膜30を形成する際に多孔質基体20が収縮してしまうことを抑制できる。
【0019】
具体的には、TiNxによって構成される水素分離膜30を形成するとき、多孔質基体20の表面にスパッタ粒子が衝突して、水素分離膜30に物理的な収縮応力が発生するところ、多孔質基体20の引張弾性率が1GPa以上であるであることによって、多孔質基体20の収縮が抑制される。
【0020】
多孔質基体20の引張弾性率は、JIS K 7127:1999に準拠して測定する。
【0021】
多孔質基体20の引張弾性率は、6GPa以下であることがより好ましい。これによって、多孔質基体20のフレキシブル性を確保することができる。
【0022】
引張弾性率が1GPa以上6GPa以下の有機高分子材料としては、例えばセルロース、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、エポキシ、ポリエーテルサルフォン(ポリエーテルスルホン)、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリ塩化ビニル、メラミン、アクリルを用いることができる。
【0023】
多孔質基体20を構成する有機高分子材料は、非繊維状であることが好ましい。これにより、スパッタリング時に局所的に発生する熱を多孔質基体20の内部に速やかに拡散できるため多孔質基体20の収縮をより抑制することができる。
【0024】
本明細書において、「非繊維状」とは、繊維で構成されていないことを意味する。より詳細には、「繊維」とは、ASTMインターナショナルにて定義されている通り、長さが直径あるいは巾の100倍以上あるものを意味し、繊維で構成されていないもの或いは繊維を含まないものを「非繊維状」という。
【0025】
非繊維状の有機高分子材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリサルフォン(ポリスルホン)、ポリエーテルサルフォン(ポリエーテルスルホン)、ポリアミドイミド、ポリイミド、フェノール、ウレタン、アリル、エポキシ、不飽和ポリエステルおよびセルロースを用いることができる。
【0026】
多孔質基体20を構成する非繊維状有機高分子材料は、実質的に融点が存在しない材料であることが好ましい。これによって、スパッタリングで水素分離膜30を形成する際に多孔質基体20が収縮してしまうことをより抑制できる。実質的に融点が存在しない非繊維状有機高分子材料としては、例えばポリイミド、フェノール、ウレタン、アリル、エポキシ及び不飽和ポリエステルが挙げられる。
【0027】
また、多孔質基体20を構成する非繊維状有機高分子材料に融点が存在する場合、多孔質基体20の荷重たわみ温度は80℃以上であることが好ましい。これによって、スパッタリングで水素分離膜30を形成する際に多孔質基体20が収縮してしまうことをより抑制できる。多孔質基体20の荷重たわみ温度は、ASTM-D648-56に準拠し、熱変形温度測定装置を使用して、荷重1820kPaにて測定する。
【0028】
2.水素分離膜30
水素分離膜30は、多孔質基体20によって支持される。水素分離膜30は、TiNxによって構成される。
【0029】
Ti(チタン)に対するN(窒素)の比率xは、0より大きい値である。比率xの上限値は、特に限られない。比率xは、例えば0.6以上1.2以下とすることができる。比率xが小さいほど結晶子表面のTi/Nモル比が大きくなって水素透過性は大きくなる傾向がある一方で、岩塩型構造の形成は困難になる傾向がある。よって、比率xは、水素透過性と岩塩型構造の形成度合いとを考慮して適宜設定すればよい。
【0030】
TiNxの結晶子サイズは特に限定されないが、10nm以下とすることができる。結晶子サイズが小さいほど水素透過性は増大する傾向がある。結晶子サイズは、8nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましい。特に、結晶子サイズを5nm以下にすると急激に水素透過性が増大する。結晶子サイズは、0.2nm以下の空間分解能を有する透過電子顕微鏡(TEM)観察により測定される。
【0031】
TiNxの結晶子は、岩塩型構造を有し、(111)配向を示すとともに(100)配向を実質的に示さないことが好ましい。これによって、ヒドリドイオン(H-)-電子混合伝導性を高めることができるため、水素透過性を向上させることができる。
【0032】
水素分離膜30の厚みは特に限定されないが、例えば100nm以上5000nm以下とすることができる。
【0033】
水素分離膜30は、製造過程で不可避的に混入する不純物として酸素を含んでいてもよい。ただし、酸素はヒドリドイオン(H-)-電子混合伝導性に影響を与えるため、水素分離膜30における酸素の含有量は、O/Ti原子比で0.1以下が好ましく、0.05以下がより好ましい。
【0034】
(水素分離膜構造体10の製造方法)
次に、水素分離膜構造体10の製造方法について説明する。
【0035】
まず、有機高分子材料によって構成される多孔質基体20を準備する。多孔質基体20には、引張弾性率が1GPa以上であるものを用いる。
【0036】
次に、チャンバー内のステージに多孔質基体20を取り付けた後、多孔質基体20に対してスパッタリングでTiNxを成膜することによって水素分離膜30を形成する。この際、多孔質基体20の表面にスパッタ粒子が衝突することによって局所的に熱が発生するが、多孔質基体20の引張弾性率が1GPa以上であるため、多孔質基体20の収縮は抑制される。
【0037】
スパッタリングする際、多孔質基体20の温度を200℃未満にすることによって、TiNxの結晶子が、岩塩型構造を有し、(111)配向を示すとともに(100)配向を実質的に示さないようにできる。多孔質基体20の温度は、例えば、ステージに水冷機構を装着することによって適宜調整可能である。
【0038】
スパッタリングに用いる金属ターゲット、スパッタリング装置、スパッタリング条件は特に限定されず、公知の材料、装置及び条件を利用できる。また、プロセスガスとしては、例えばAr/N2混合ガスを用いることができる。ArとN2の混合比は、TiとNの比率xに応じて適宜決定することができる。
【0039】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0040】
例えば、上記実施形態において、多孔質基体20は、水素分離膜30と直接接触することとしたが、
図2に示すように、多孔質基体20と水素分離膜30との間には多孔質中間膜40が配置されていてもよい。
【0041】
多孔質中間膜40は、多孔質基体20を構成する非繊維状材料よりも熱伝導性の高い材料によって構成されることが好ましい。具体的には、多孔質中間膜40の構成材料としては、SiO2(シリカ)、Al2O3(アルミナ)、ZrO2(ジルコニア)及びTiO2(チタニア)などが挙げられる。
【0042】
多孔質中間膜40は、多孔質体である。多孔質中間膜40は、水素分離膜30に接触する面から多孔質基体20に接触する面まで連通する複数の細孔を有する。多孔質中間膜40における平均細孔径は、0.1nm以上50nm以下とすることができる。多孔質中間膜40における平均細孔径は、西華産業製ナノパームポロメータを用いた細孔径分布測定試験において測定される。
【0043】
多孔質中間膜40の製造方法としては公知の手法を用いることができ、例えば特許第5033670号に記載された多孔質SiO2膜の製造方法を参考に用いることができる。なお、水素分離膜30については、上記実施形態にて説明したのと同様、多孔質中間膜40が成膜された多孔質基体20に対してスパッタリングすることで形成できる。
【実施例0044】
以下において本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例には限定されない。
【0045】
(実施例1~12及び比較例1~3)
まず、多孔質基体を準備した。実施例1~12及び比較例2~3では、表1に記載した有機高分子材料によって構成される多孔質基板(50mm角、厚さ0.3mm)を準備した。一方、比較例1では、多孔質αアルミナ支持体(50mm角、厚さ2mm、平均細孔径1μm)上に、多孔質αアルミナ中間膜(厚さ200μm、平均細孔径0.1μm)とγアルミナ層(厚さ1μm、平均細孔径6nm)とを順次積層した積層体を多孔質基板として準備した。多孔質基体の引張弾性率をJIS K 7127:1999に準拠して測定したところ、実施例1~12では1GPa以上であり、比較例1~3では1GPa未満であった。
【0046】
次に、実施例11~12では、多孔質基板の表面(第1面)上に多孔質のSiO2中間膜を次のように形成した。まず、テトラエトシキシランを硝酸の存在下で加水分解して得たシリカゾル液をエタノールで希釈することによって成膜用コーティング液(シリカ換算で1.0質量%)を調製した。続いて、ガラス基板に粘着テープで固定した多孔質基体を垂直方向に保持し、成膜用コーティング液を表面に流した後に送風乾燥を行うプロセスを数回行った。そして、100℃で乾燥することによってSiO2中間膜を形成した。SiO2中間膜の厚みは200nmであった。西華産業製ナノパームポロメータにより測定したSiO2中間膜の平均細孔径は1nmであった。なお、実施例1~10では、多孔質基板上にSiO2中間膜を形成しなかった。
【0047】
次に、反応性RFスパッタリング法により高真空チャンバー内でTiNx膜を成膜することによって水素分離膜構造体を形成した。実施例1~10及び比較例1~3では多孔質基体の表面(第1面)上にTiNx膜を直接成膜し、実施例11~12ではSiO2中間膜の表面上にTiNx膜を成膜した。多孔質基体は、ステージ上に四隅を粘着テープでステージに固定して、20℃~30℃に冷却した。ターゲットには、Ti(99.99%純度)ディスクを用いた。プロセスガスとしては、Ar/N2混合ガスを流した。
【0048】
そして、実施例1~12及び比較例1~3におけるTiNx膜の成膜性を評価した。成膜性については、TiNx膜の成膜前後における多孔質基体の向かい合う2辺の中央部を結ぶ直線長さの収縮率が2%以下であったものを「◎(収縮が極めて小さい)」と評価し、2%超5%以下であったものを「〇(収縮が小さい)」と評価し、収縮率が5%超であったものを「×(収縮が大きい)」と評価した。なお、
図3は、実施例1及び比較例2に係る水素分離膜構造体の上面写真である。
【0049】
また、実施例1~12及び比較例1~3に係る水素分離膜構造体のフレキシブル性を評価した。フレキシブル性については、直径32mmのマンドレルを用いた耐屈曲性試験JIS K5600-5-1の前後における水素透過度の変化率が±5%以下であったものを「◎(フレキシブル性が高い)」と評価し、水素透過度の変化率が±5%超10%以下であったものを「〇(フレキシブル性あり)」と評価し、水素透過度の変化率が±10%超であったものを「×(フレキシブル性なし)」と評価した。
【0050】
【0051】
表1に示す通り、アルミナによって構成される多孔質基体を用いた比較例1では、水素分離膜構造体にフレキシブル性がなく、多孔質基体の引張弾性率が1GPa未満であった比較例1~3では、TiNx膜が大きく収縮した。
【0052】
一方、多孔質基体の引張弾性率が1GPa以上であった実施例1~12では、水素分離膜構造体にフレキシブル性があり、かつ、TiNx膜の収縮は小さかった。実施例1~12においてTiNx膜の収縮を抑制できたのは、多孔質基体の引張弾性率を1GPa以上とすることで、多孔質基体の表面に衝突するスパッタ粒子によるTiNx膜の物理的な収縮応力に耐えることができたためである。
【0053】
特に、実施例11~12では、TiNx膜の収縮を極めて小さくすることができた。実施例11~12においてTiNx膜の収縮を顕著に抑制できたのは、有機高分子材料よりも熱伝導性の高いSiO2によって構成されるSiO2中間膜を多孔質基体とTiNx膜との間に介挿することで、スパッタ粒子の衝突で多孔質基体に熱が発生することを抑制できたためである。
【0054】
また、多孔質基体の引張弾性率が6GPa以下であった実施例2~12では、フレキシブル性をより向上させることができた。
【0055】
(実施例13~21)
実施例13~21では、表2に示す有機高分子材料によって構成される多孔質基板(50mm角、厚さ0.3mm)を用いて、実施例1~10と同様の工程で水素分離膜構造体を形成した。
【0056】
ただし、実施例13~21では、表2に示すように、多孔質基板の表面に開口する細孔の平均開口径を変更した。細孔の平均開口径は、多孔質基板の表面上において無作為に選択した10か所でSEM画像を取得し、各画像を2値化処理したときの黒色部(孔)の円相当径の分布から得られるメディアン径D50である。
【0057】
そして、実施例13~21に係る水素分離膜構造体のガス透過性を次のように測定した。まず、実施例13~21に係る水素分離膜構造体をガスケットで試料ホルダーに固定して、TiNx膜側にH2/N2混合ガス(1:1)を流通させた。次に、多孔質基体側からの排出ガスをGC(Gas Chromatograph)で分析して窒素フラックス(JN2)及び水素フラックス(JH2)を決定した。そして、窒素フラックスから水素分離係数を算出し、水素フラックスから水素透過度を算出した。
【0058】
【0059】
表2に示す通り、多孔質基体の表面(第1面)における細孔の平均開口径を200nm以下とした実施例13~19では、水素分離係数を向上させ、かつ、水素透過度を抑制することができた。特に、細孔の平均開口径を100nm以下とした実施例14~15,17~19では、水素分離係数を更に向上させ、かつ、水素透過度を更に抑制することができた。このような結果が得られたのは、細孔の平均開口径を小さくすることによってTiNx膜の欠陥を抑制できたためである。
【0060】
なお、実施例13~21についても、上述した実施例1~12と同様、フレキシブル性があり、かつ、TiNx膜の収縮が小さいことは確認済みである。