(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151270
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】試験片移送治具
(51)【国際特許分類】
G01N 3/04 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
G01N3/04 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054256
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲井 卓三
(72)【発明者】
【氏名】玉木 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】西川 裕俊
(72)【発明者】
【氏名】伏木 一夫
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AB01
2G061BA02
2G061BA07
2G061CB02
2G061CC14
(57)【要約】
【課題】低コスト、かつ、簡単な操作で試験片を掴み位置に設置することが可能な試験片移送治具を提供すること。
【解決手段】試験片移送治具1は、試験片Sを挟持するグリップ機構2と、スライド方向D2にグリップ機構2を移動させるスライド機構3とを備える。グリップ機構2は、挟持方向D3で試験片Sを挟持する挟持部21と、挟持方向D3での挟持部21の間隔を操作する把持部22とを備える。挟持部21は、挟持方向D3での挟持部21の間隔を狭めることで、試験片Sを挟持可能な挟持状態となり、挟持方向D3での挟持部21の間隔を広げることで、試験片Sを解放可能な解放状態となる。把持部22が把持されることで、挟持部21が、スライド方向D2に押圧されることで、試験片Sが挟持部21の挟持位置P2から引張試験機Mの掴み位置P1に移送されるように、挟持部21が移動する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片を引張方向に引張って試験する引張試験機に取り付け可能であり、前記試験片を引張る前記引張試験機の掴み具に前記試験片の両端部を掴ませる掴み位置に、前記試験片を移送させるための試験片移送治具であって、
前記試験片移送治具は、
前記試験片を挟持するためのグリップ機構と、
前記引張方向と交差するスライド方向に前記グリップ機構を移動させるためのスライド機構と
を備え、
前記グリップ機構は、前記引張方向および前記スライド方向と交差する挟持方向で前記試験片を挟持する挟持部と、前記挟持方向における前記挟持部の間隔を操作する把持部とを備え、
前記挟持部は、前記挟持方向における前記挟持部の間隔を狭めることで、前記試験片を挟持可能な挟持状態となり、前記挟持方向における前記挟持部の間隔を広げることで、前記試験片を解放可能な解放状態となり、
前記把持部が把持されることで、前記挟持部が、前記解放状態から前記挟持状態に遷移し、
前記把持部が前記スライド方向に押圧されることで、前記試験片が前記挟持部に前記試験片を挟持させる挟持位置から前記掴み位置に移送されるように、前記挟持部が移動する、
試験片移送治具。
【請求項2】
前記把持部は、前記挟持方向に離間する第1把持部および第2把持部を有し、
前記第1把持部および第2把持部を前記挟持方向で互いに近付く方向に移動させることによって、前記挟持部が前記挟持状態となり、
前記グリップ機構はさらに、前記挟持状態のままとなった前記挟持部を強制的に前記解放状態に遷移させるリリース機構を有し、
前記リリース機構は、前記挟持部が前記挟持状態のときに、前記第1把持部および前記第2把持部の間に入り込むことが可能なくさび形状のリリース部材を備え、
前記リリース部材は、前記第1把持部および前記第2把持部の間を通るように、前記挟持方向に交差する操作方向に移動可能であり、
前記リリース部材が前記操作方向に移動したときに、前記第1把持部および前記第2把持部の間の間隔が前記リリース部材によって広がることで、前記挟持部が前記挟持状態から前記解放状態に遷移する、
請求項1に記載の試験片移送治具。
【請求項3】
前記試験片は、前記引張方向に延びる長尺形状を有し、前記引張方向の両端部に前記掴み具に掴まれる掴み部と、前記引張方向の中央部に前記引張方向に垂直な断面が掴み部より小さい括れ部と、前記掴み部から前記括れ部に移行する移行部を備え、
前記挟持部は、前記移行部と当接するように前記試験片を挟持することで、前記グリップ機構が前記スライド方向に移動したときに、前記試験片が前記引張方向で前記掴み位置に配置されるように、前記試験片を前記引張方向で位置決めする、
請求項1または2記載の試験片移送治具。
【請求項4】
前記スライド機構は、
前記スライド方向に延び、前記挟持方向において互いに離間して配置されるガイド部材と、
前記ガイド部材によって前記スライド方向に移動するように案内される移動部材と
を備え、
前記ガイド部材は、前記引張試験機に固定され、
前記グリップ機構は、前記移動部材に固定され、
前記挟持部は、前記グリップ機構が前記スライド方向に移動したときに、前記試験片が前記挟持方向で前記掴み位置に配置されるように、前記試験片を前記挟持方向で位置決めする、
請求項1~3のいずれか1項に記載の試験片移送治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験片移送治具に関する。
【背景技術】
【0002】
試験片の弾性や強度などを測定する引張試験機において、試験片は、両端が掴み具に掴まれることで引張られる。試験片が引張によって変形するように、掴み具は、かなりの荷重で試験片を把持するため、安全面から、作業者が掴み具に直接触れないように、遠隔から試験片を掴み具に設置することが望まれている。特許文献1では、ロボットアームによって試験片を掴み位置に設置する引張試験機が開示されている。特許文献1の引張試験機によれば、作業者が掴み具に直接触れないように、遠隔から試験片を掴み具に設置することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の引張試験機では、ロボットアームを装備しているので、引張試験機が大掛かりになり、引張試験を低コストで行うことができない。また、特許文献1の引張試験機では、ロボットアームによって試験片を掴み具に掴ませることができるように、ロボットアームの動作をプログラムなどで設定する必要があり、簡単な操作で試験片を掴み具に掴ませることができない。
【0005】
そこで、本発明は、かかる問題点に鑑みて、低コスト、かつ、簡単な操作で試験片を掴み位置に設置することが可能な試験片移送治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係る試験片移送治具は、試験片を引張方向に引張って試験する引張試験機に取り付け可能であり、前記試験片を引張る前記引張試験機の掴み具に前記試験片の両端部を掴ませる掴み位置に、前記試験片を移送させるための試験片移送治具であって、前記試験片移送治具は、前記試験片を挟持するためのグリップ機構と、前記引張方向と交差するスライド方向に前記グリップ機構を移動させるためのスライド機構とを備え、前記グリップ機構は、前記引張方向および前記スライド方向と交差する挟持方向で前記試験片を挟持する挟持部と、前記挟持方向における前記挟持部の間隔を操作する把持部とを備え、前記挟持部は、前記挟持方向における前記挟持部の間隔を狭めることで、前記試験片を挟持可能な挟持状態となり、前記挟持方向における前記挟持部の間隔を広げることで、前記試験片を解放可能な解放状態となり、前記把持部が把持されることで、前記挟持部が、前記解放状態から前記挟持状態に遷移し、前記把持部が前記スライド方向に押圧されることで、前記試験片が前記挟持部に前記試験片を挟持させる挟持位置から前記掴み位置に移送されるように、前記挟持部が移動する。
【0007】
前記把持部は、前記挟持方向に離間する第1把持部および第2把持部を有し、前記第1把持部および第2把持部を前記挟持方向で互いに近付く方向に移動させることによって、前記挟持部が前記挟持状態となり、前記グリップ機構はさらに、前記挟持状態のままとなった前記挟持部を強制的に前記解放状態に遷移させるリリース機構を有し、前記リリース機構は、前記挟持部が前記挟持状態のときに、前記第1把持部および前記第2把持部の間に入り込むことが可能なくさび形状のリリース部材を備え、前記リリース部材は、前記第1把持部および前記第2把持部の間を通るように、前記挟持方向に交差する操作方向に移動可能であり、前記リリース部材が前記操作方向に移動したときに、前記第1把持部および前記第2把持部の間の間隔が前記リリース部材によって広がることで、前記挟持部が前記挟持状態から前記解放状態に遷移してもよい。
【0008】
前記試験片は、前記引張方向に延びる長尺形状を有し、前記引張方向の両端部に前記掴み具に掴まれる掴み部と、前記引張方向の中央部に前記引張方向に垂直な断面が掴み部より小さい括れ部と、前記掴み部から前記括れ部に移行する移行部を備え、前記挟持部は、前記移行部と当接するように前記試験片を挟持することで、前記グリップ機構が前記スライド方向に移動したときに、前記試験片が前記引張方向で前記掴み位置に配置されるように、前記試験片を前記引張方向で位置決めしてもよい。
【0009】
前記スライド機構は、前記スライド方向に延び、前記挟持方向において互いに離間して配置されるガイド部材と、前記ガイド部材によって前記スライド方向に移動するように案内される移動部材とを備え、前記ガイド部材は、前記引張試験機に固定され、前記グリップ機構は、前記移動部材に固定され、前記挟持部は、前記グリップ機構が前記スライド方向に移動したときに、前記試験片が前記挟持方向で前記掴み位置に配置されるように、前記試験片を前記挟持方向で位置決めしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態に係る試験片移送治具によれば、低コスト、かつ、簡単な操作で試験片を掴み位置に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】本発明の第1実施形態に係る試験片移送治具を示す、模式的な上面図である。
【
図1B】本発明の第1実施形態に係る試験片移送治具の一部を示す、模式的な拡大上面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る試験片移送治具が取り付けられる引張試験機の一例を示す、正面から見た模式的な立体図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る試験片移送治具が移送する試験片の一例を示す、模式的な斜視図である。
【
図4A】本発明の第1実施形態に係る試験片移送治具に設けられる挟持部の一例を示す、模式的な側面図である。
【
図4B】本発明の第1実施形態に係る試験片移送治具に設けられる挟持部の他の例を示す、模式的な側面図である。
【
図5A】本発明の第1実施形態に係る試験片移送治具に設けられるリリース機構を示す、模式的な側面図である。
【
図5B】
図4に示されるリリース機構が操作された後の状態を示す、模式的な側面図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る試験片移送治具を示す、模式的な上面図である。
【
図7】本発明のその他の実施形態に係る試験片移送治具を示す、模式的な上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係る試験片移送治具を説明する。なお、以下に示す実施形態は、あくまで一例であり、本発明の試験片移送治具は、以下の実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において、「Aに垂直」およびこれに類する表現は、Aに対して完全に垂直な方向のみを指すのではなく、Aに対して略垂直であることを含んで指すものとする。また、本明細書において、「Bに平行」およびこれに類する表現は、Bに対して完全に平行な方向のみを指すのではなく、Bに対して略平行であることを含んで指すものとする。また、本明細書において、「C形状」およびこれに類する表現は、完全なC形状のみを指すのではなく、C形状の角部が面取りされた形状など、見た目にC形状を連想させる形状(略C形状)を含んで指すものとする。
【0013】
[第1実施形態に係る試験片移送治具]
図1Aは、第1実施形態に係る試験片移送治具1を示している。本実施形態に係る試験片移送治具1は、引張試験の作業者が手動で試験片Sを引張試験機Mに移送するための治具である。そのため、ロボットアームによって試験片Sを引張試験機Mに移送する場合のように、ロボットアームの動作をプログラムで設定するなどの作業を行う必要がない。試験片移送治具1は、試験片Sを引張方向D1に引張って試験する引張試験機Mに取り付け可能に構成されている。具体的には、試験片移送治具1は、ボルトなどの公知の固定具Bによって引張試験機Mに固定することができる。試験片移送治具1を引張試験機Mに固定することで、試験片移送治具1は、引張試験機Mに正確に位置決めされる。試験片移送治具1は、後述するように、試験片Sを引張る引張試験機Mの掴み具M11、M21に試験片Sの両端部を掴ませる掴み位置P1に、試験片Sを移送可能に構成されている。そのため、作業者は、掴み具M11、M21に直接触れるおそれのない、掴み位置P1から離れた挟持位置P2において、試験片移送治具1に試験片Sを挟持させ、その後に、試験片移送治具1によって試験片Sを掴み位置P1に試験片Sを移送させることで、試験片Sを安全に引張試験機Mに設置することができる。
【0014】
なお、本明細書において、「掴む」およびこれに類する表現は、引張試験時に、試験片を引張り可能に保持し、引張試験が終了した後に、試験片の保持を解除して、試験片を取り外すことが可能なことを指す。つまり、本明細書において、「掴む」およびこれに類する表現は、試験片を引張ることが可能であるように、試験片を取り外し可能に保持することを指す。
図1Aでは、掴み具M11、M21は、試験片Sを挟持または把持することで、試験片Sを「掴む」動作を行っている(
図2も参照)。しかし、掴み具M11、M21は、試験片Sが括れている場合(たとえば、
図3参照)、径が太い部分(たとえば、
図3の掴み部S1参照)と径が細い部分(たとえば、
図3の括れ部S2参照)との間の段差部(たとえば、
図3の移行部S3参照)で試験片Sと係止することで、試験片Sを「掴む」動作を行ってもよい。また、たとえば、試験片Sに貫通孔が設けられている場合、貫通孔に掴み具M11、M21を挿通することで、試験片Sを「掴む」動作を行ってもよい。
【0015】
また、本明細書において、引張試験機Mの掴み具M11、M21が試験片Sを引張るときに移動する方向を引張方向D1と呼ぶ。本実施形態では、引張方向D1は、鉛直方向に沿う方向である。本明細書において、引張試験機Mが水平面に載置され、掴み具M11、M21が鉛直方向に移動することを想定して、「上」および「下」という用語を、鉛直方向の「上」および「下」を意味するものとして用いることがあるが、これは、引張試験機Mの形態を限定するものではない。なお、本明細書において、試験片移送治具1が試験片Sを移送させる方向をスライド方向D2と呼ぶ。スライド方向D2は、引張方向D1と交差する方向であり、本実施形態では、引張方向D1に対して垂直な方向である。具体的には、スライド方向D2は、水平方向と平行な一方向(換言すれば、鉛直方向に垂直な一方向)である。なお、本明細書において、試験片移送治具1が試験片Sを挟持する方向を挟持方向D3と呼ぶ。挟持方向D3は、引張方向D1およびスライド方向D2と交差する方向であり、本実施形態では、引張方向D1およびスライド方向D2に対して垂直な方向である。具体的には、挟持方向D3は、水平方向と平行な一方向(換言すれば、鉛直方向に垂直な一方向)である。
【0016】
試験片移送治具1を取り付ける対象となる引張試験機Mは、様々な種類の引張試験機から選択され得る。たとえば、引張試験機Mは、
図2に示されるように、引張方向D1の一方側(具体的には、鉛直上方側)に設けられる第1基台M1(たとえば、第1基台M1は、「上部クロスヘッド」と呼ばれる)と、引張方向D1の他方側(具体的には、鉛直下方側)に設けられる第2基台M2(たとえば、第2基台M2は、「下部クロスヘッド」と呼ばれる)と、第1基台M1と第2基台M2との間の間隔を可変に、第1基台M1および第2基台M2を接続する支柱M3(たとえば、支柱M3は、「シリンダ」と呼ばれる)とを備えている。たとえば、第1基台M1は、引張方向D1における試験片Sの一端を掴む第1掴み具M11を有し、第2基台M2は、引張方向D1における試験片Sの他端を掴む第2掴み具M21を有している。たとえば、引張試験機Mは、第1掴み具M11および第2掴み具M21が試験片Sを掴んだ状態で、第1基台M1と第2基台M2との間の間隔が広がるように、第1基台M1および第2基台M2の少なくとも一方を引張方向D1に移動させて試験片Sに引張応力を加える。これにより、たとえば、引張試験機Mは、試験片Sを引張方向D1で変形させて、弾性や強度などの、試験片Sの物理特性を測定する。
【0017】
引張試験機Mにおける試験片移送治具1の取付位置は、特に限定されない。本実施形態では、
図2に示されるように、試験片移送治具1は、引張試験機Mにおいて、第2基台M2(具体的には、第1基台M1と対向する第2基台M2の平坦な表面)に取り付けられる。しかし、試験片移送治具1は、引張試験機Mの動作に支障がない限り、第2基台M2や支柱M3など、引張試験機Mのその他の部位に取り付けられてもよい。
【0018】
試験片移送治具1に移送され、引張試験機Mに設置される試験片Sは、引張試験が可能な形状であれば、特に限定されない、本実施形態では、試験片Sは、
図3に示されるように、引張方向D1に延びる長尺形状を有している。具体的には、試験片Sは、引張方向D1の両端部に、掴み具M11、M21に掴まれる掴み部S1と、引張方向D1の中央部に、引張方向D1に垂直な断面が掴み部S1より小さい括れ部S2と、掴み部S1と括れ部S2との間に、掴み部S1から括れ部S2に移行する移行部S3を備えている。
図3では、試験片Sは、引張方向D1に延びる円柱形状を有している。しかし、試験片Sは、たとえば、引張方向D1に延びる平板形状を有していてもよく、たとえば、試験片Sは、括れ部S2および移行部S3を有さない円柱形状や平板形状など、その他の形状を有していてもよい。
【0019】
試験片移送治具1は、
図1Aに示されるように、試験片Sを挟持するためのグリップ機構2と、グリップ機構2をスライド方向D2に移動させるためのスライド機構3とを備えている。
【0020】
グリップ機構2は、作業者が試験片Sを試験片移送治具1に挟持させるために設けられる。グリップ機構2の配置は、特に限定されないが、本実施形態では、
図1Aに示されるように、グリップ機構2は、後述するスライド機構3の移動部材32に固定されている。グリップ機構2は、試験片Sを挟持する挟持部21と、挟持部21の間隔を変えるために把持される把持部22とを備えている。本実施形態では、グリップ機構2はさらに、挟持部21の間隔が広がるように挟持部21を付勢する付勢機構23と、挟持部21を強制的に解放状態に遷移させるリリース機構24とを備えている。
【0021】
挟持部21は、作業者による把持部22の把持操作によって、挟持方向D3で試験片Sを挟持する。挟持部21は、
図1Aに示されるように、挟持方向D3における挟持部21の間隔を狭めることで、試験片Sを挟持可能な挟持状態となり、挟持方向D3における挟持部21の間隔を広げることで、試験片Sを解放可能な解放状態となる。本実施形態では、挟持部21は、挟持方向D3に離間する第1挟持部21aおよび第2挟持部21bを有し、第1挟持部21aと第2挟持部21bとの間で試験片Sを挟持する。
【0022】
本実施形態では、挟持部21は、作業者が把持部22を把持することで、解放状態から挟持状態に遷移する。また、本実施形態では、挟持部21は、解放状態となるように付勢されている。挟持部21が解放状態となるように付勢されることで、作業者は、把持部22を把持するかしないかだけの単純な操作で、挟持部21の解放状態および挟持状態を遷移させることができる。具体的には、挟持部21は、付勢機構23によって発生する付勢力によって、解放状態となるように付勢されている。
【0023】
本実施形態では、挟持部21は、
図4Aに示される側面図のように、試験片Sの移行部S3と当接するように試験片Sを挟持することで、グリップ機構2をスライド方向D2に移動させたときに、試験片Sが引張方向D1で掴み位置P1に配置されるように、試験片Sを引張方向D1で位置決めする。挟持部21が試験片Sを引張方向D1で位置決めすることで、作業者が、試験片Sを挟持部21に挟持させる際に、試験片Sが適切に引張試験機Mに設置されるように、引張方向D1で試験片Sを目視などで位置合わせする労力が低減される。このような試験片Sの引張方向D1での位置決めを行うために、
図1Aおよび
図4Aでは、挟持部21は、引張方向D1に平行な面(具体的には、引張方向D1およびスライド方向D2を含む面に平行な面)に対して、面対称な形状を有しており、第1挟持部21aおよび第2挟持部21bのそれぞれの対向面に引張方向D1に延びる直線状の溝部A1、A2(具体的には、引張方向D1から見て、V字形状に凹む溝部(
図1A参照))をそれぞれ備えている。この場合、挟持部21は、第1挟持部21aおよび第2挟持部21bのそれぞれの溝部A1、A2において、試験片Sの移行部S3が引張方向D1の一端側(具体的には、鉛直上方側)の縁部で点接触または線接触して当接することで、試験片Sを引張方向D1で位置決めする。
【0024】
挟持部21は、
図4Bに示される側面図のように、第1挟持部21aと第2挟持部21bとの対向面の少なくとも一方に試験片Sの移行部S3の形状と対応する形状(具体的には、引張方向D1で移行部S3の湾曲面に沿って湾曲する形状)を有する溝部A10を有していてもよい(
図4Bでは、溝部A20は、試験片Sの移行部S3の形状と対応する形状を有していない)。この場合、挟持部21は、第1挟持部21aおよび第2挟持部21bの溝部A10において、試験片Sの移行部S3が面接触して当接することで、試験片Sを引張方向D1で位置決めするので、引張方向D1での試験片Sの位置決め精度が向上する。また、
図4Bに示されるように、第1挟持部21aおよび第2挟持部21bが、対称な形状を有さなくてもよい。たとえば、引張試験機Mの掴み具M11、M21に試験片Sを掴ませるときに、グリップ機構2などの試験片移送治具1の可動部位に、試験片Sの掴持による掴み具M11、M21からの荷重が伝達することによって、後述するように、挟持部21が意図せずに挟持状態のままとなることがある。このような事態は、たとえば、掴み具M11、M21に試験片Sを掴ませるときに、試験片Sの掴持による掴み具M11、M21からの荷重が引張方向D1でも僅かながら発生し、この引張方向D1の荷重が、付勢機構23に伝達されて付勢機構23(具体的には、付勢部材231)を拗らせることで引き起こされると想定される。本発明者は、
図4Bに示されるように、第1挟持部21aおよび第2挟持部21bの引張方向D1の長さが異なる場合(第2挟持部21bが第1挟持部21aより引張方向D1で短い場合)、第1挟持部21aおよび第2挟持部21bのうちの片側(たとえば、引張方向D1の長さが短い側)から、引張方向D1の荷重が逃がされ、挟持部21が意図せずに挟持状態のままとなるといった事態が抑制されることを見出した。また、この場合、挟持部21に試験片Sを挟持させた際に、たとえば、作業者が第2挟持部21b側で露出する試験片Sを目視することで、試験片Sが移行部S3で位置決めされているかどうかを確認することができる。また、第1挟持部21aおよび第2挟持部21bの形状は、試験片Sを引張方向D1で精緻に位置決めする必要がなければ、引張方向D1において、試験片Sを位置決めするような形状を有さなくてもよい。たとえば、第1挟持部21aおよび第2挟持部21bの対向面はそれぞれ、平坦面であってもよい。
【0025】
本実施形態では、挟持部21は、
図1Aに示されるように、グリップ機構2をスライド方向D2に移動させたときに、試験片Sが挟持方向D3で掴み位置P1に配置されるように、試験片Sを挟持方向D3で位置決めする。挟持部21が試験片Sを挟持方向D3で位置決めすることで、作業者が、試験片Sを挟持部21に挟持させる際に、試験片Sが適切に引張試験機Mに設置されるように、挟持方向D3で試験片Sを目視などで位置合わせする労力が低減される。このような試験片Sの挟持方向D3での位置決めを行うために、
図1Aでは、引張試験機Mの掴み位置P1および試験片移送治具1の挟持位置P2が、挟持方向D3で一致するように、試験片移送治具1(具体的には、後述するスライド機構3のガイド部材31)が、固定具Bによって引張試験機M(具体的には、第2基台M2)に固定されている。
【0026】
挟持部21に試験片Sを挟持させる挟持位置P2は、作業者が掴み具M11、M21に直接触れるおそれのない、掴み位置P1から離れた位置であれば、特に限定されない。本実施形態では、
図1Aに示されるように、スライド機構3によるグリップ機構2の移動範囲(可動域)の一端(掴み具M11、M21に近付く側)における挟持部21の位置に、掴み位置P1が設定され、グリップ機構2の移動範囲(可動域)の他端(掴み具M11、M21から遠ざかる側)における挟持部21の位置に、挟持位置P2が設定されている。しかし、掴み位置P1および挟持位置P2は、グリップ機構2の移動範囲内における挟持部21の位置に設定されれば、特に限定されない。
【0027】
把持部22は、作業者が挟持方向D3における挟持部21の間隔を変えるように把持操作するために設けられる。本実施形態では、把持部22は、
図1Aに示されるように、第1挟持部21aに連結される第1把持部22aと、第2挟持部21bに連結される第2把持部22bとを備えている。
図1Aでは、第1把持部22aおよび第2把持部22bを挟持方向D3で互いに近付く方向に移動させることによって、挟持部21は、挟持状態となり、第1把持部22aおよび第2把持部22bを挟持方向D3で互いに遠ざかる方向に移動させることによって、挟持部21は、解放状態となる。換言すれば、作業者が第1把持部22aおよび第2把持部22bを把持することで、挟持部21は、挟持状態となり、第1把持部22aおよび第2把持部22bに対する把持を緩めるか、または解放することで、挟持部21は、解放状態となる。
【0028】
第1把持部22aおよび第2把持部22bの形状は、作業者が把持可能であれば、特に限定されない。本実施形態では、
図1Aに示されるように、第1把持部22aおよび第2把持部22bは、スライド方向D2に沿って延びるアーム形状(具体的には、棒形状)を有し、第1挟持部21aおよび第2挟持部21bはそれぞれ、スライド方向D2における第1把持部22aおよび第2把持部22bの掴み位置P1側の端部で連結されている。この場合、スライド方向D2に長い第1把持部22aおよび第2把持部22bを挟持位置P2側で把持することで、作業者は、挟持部21から離れた位置で把持部22を把持することができる。そのため、引張試験機Mに試験片Sを設置するために、試験片Sを掴み位置P1に移送させたときにも、作業者の手が掴み位置P1からより離れて位置することになる。これにより、作業者が掴み具M11、M21に直接触れるおそれが低減され、試験片Sを安全に引張試験機Mに設置することができる。
【0029】
把持部22はまた、作業者が押し引き操作をすることで、スライド方向D2におけるグリップ機構2の位置を調整するために設けられる。つまり、把持部22がスライド方向D2(掴み位置P1側)に押圧されることで、挟持部21は、試験片Sが挟持位置P2から掴み位置P1に移送されるように移動する。これとは逆に、把持部22がスライド方向D2(挟持位置P2側)に引張られることで、挟持部21は、元の位置(挟持位置P2)戻るように移動する。これにより、作業者は、試験片Sを挟持部21に挟持させる操作と、挟持部21に挟持させた試験片Sを掴み位置P1に移送させる操作とを片手で連続的に行うことができる。そのため、作業者は、試験片Sを引張試験機Mに容易に設置することが可能となる。
【0030】
付勢機構23は、本実施形態では、
図1Aに示されるように、挟持部21が解放状態となるように付勢する付勢部材231を有している。付勢部材231の配置は、挟持部21の間隔が広がるように挟持部21を付勢することができれば、特に限定されない。本実施形態では、
図1Bに示されるように、付勢部材231は、第1把持部22aおよび第2把持部22bとの間に設けられ、第1把持部22aと第2把持部22bとの間の間隔が広がるように把持部22を付勢することで、把持部22に連結される挟持部21を間接的に付勢している。付勢部材231は、特に限定されないが、本実施形態では、弾性部材によって構成され、付勢部材231の弾性力によって、第1挟持部21aと第2挟持部21bとの間の間隔が広がるように、挟持部21を付勢する(具体的には、上述のように、挟持部21を間接的に付勢する)。付勢部材231として、たとえば、ばねやゴムなどの公知の弾性体を採用することができる。しかし、付勢部材231は、特に限定されず、付勢部材231として、挟持部21が解放状態となるように、磁力によって付勢する磁性体や、圧縮空気の圧力によって付勢するエアシリンダなど、その他の公知の付勢体を採用することができる。
【0031】
付勢機構23は、
図1Bに示されるように、付勢部材231の付勢力によって、第1挟持部21aおよび第2挟持部21bを均等に挟持方向D3に移動させる移動量調整部232を備えていてもよい。第1挟持部21aおよび第2挟持部21bが挟持方向D3で均等に移動することで、挟持位置P2が把持部22の把持の仕方によって、第1挟持部21aおよび第2挟持部21bの移動量が挟持方向D3でばらつくことが抑制されるので、挟持方向D3での試験片Sの位置決めが正確になる。具体的には、移動量調整部232は、第1把持部22aに連結され、第2把持部22bに向かって挟持方向D3に延びる第1ラック232aと、第2把持部22bに連結され、第1把持部22aに向かって挟持方向D3に延びる第2ラック232bと、スライド方向D2において第1ラック232aおよび第2ラック232bの間に設けられ、第1ラック232aおよび第2ラック232bとそれぞれ噛み合うことで、引張方向D1に延びる回転軸周りで回転する歯車232c(ピニオン)とを備えるラック・ピニオン機構によって構成することができる。
図1Bでは、移動量調整部232は、歯車232cを収容し、第1ラック232aおよび第2ラック232bが挟持方向D3から挿入される筐体2320を備えている。筐体2320は、第1ラック232aおよび第2ラック232bの把持被案内部Pa、Pb(
図1Bでは、引張方向D1に突出する突起)を挟持方向D3にそれぞれ案内する把持案内部Ga、Gb(
図1Bでは、挟持方向D3に延びる案内溝(具体的には、筐体2320の側壁を引張方向D1で貫通する貫通溝))を有しており、付勢部材231は、第1把持部22aおよび筐体2320、ならびに第2把持部22bおよび筐体2320を挟持方向D3で連結している。この場合、把持部22を把持すると、把持被案内部Paが把持案内部Gaによって挟持方向D3に案内されることで、第1把持部22aが挟持方向D3の一方向(第2把持部22bに近付く方向)に移動し、第1ラック232aが歯車232cを回転軸周りで回転させる。そうすると、歯車232cが、第1ラック232aと同じ移動量で、第2ラック232bを移動させ、把持被案内部Paが把持案内部Gbによって挟持方向D3に案内されることで、第2把持部22bが挟持方向D3の他方向(第1把持部22aに近付く方向)に移動する。
【0032】
リリース機構24は、意図せずに挟持状態のままとなった挟持部21を強制的に解放状態に遷移させる。挟持部21が意図せずに挟持状態のままとなる場合として、たとえば、付勢機構23(具体的には、付勢部材231)が拗れている場合が想定される。また、たとえば、付勢機構23が移動量調整部232を備えている場合には、移動量調整部232(具体的には、ラック・ピニオン機構)において噛み歯同士がうまく噛み合っていない場合も想定される。本実施形態では、
図1Aに示されるように、リリース機構24は、作業者がリリース機構24を操作しやすくするために、引張試験機Mから遠ざかるグリップ機構2の端部に設けられている。
図5Aに示される側面図では、リリース機構24は、挟持部21が挟持状態のときに、第1把持部22aと第2把持部22bとの間に入り込むことが可能なくさび形状のリリース部材241を備えている。また、
図5Aでは、リリース部材241は、第1把持部22aと第2把持部22bとの間を通るように、挟持方向D3に交差する操作方向D4(
図5Aでは、操作方向D4は引張方向D1に平行な方向)に移動可能に構成されている。この場合、
図5Aに示されるように、リリース部材241が操作方向D4に移動したときに、
図5Bに示されるように、第1把持部22aと第2把持部22bとの間隔がリリース部材241によって広がることで、挟持部21が挟持状態から解放状態に遷移することができる。
図5Aでは、グリップ機構2(具体的には、筐体2320)は、リリース部材241のリリース被案内部241a(具体的には、操作方向D4に直線状に延び、リリース部材241をスライド方向D2で貫通する貫通孔)を操作方向D4に案内するリリース案内部242(具体的には、スライド方向D2に突出する突起)を有している。この場合、リリース部材241が操作方向D4に押圧されると、リリース部材241がリリース被案内部241aの内側壁でリリース案内部242と摺動しながら移動することで、リリース部材241が操作方向D4に案内される。
【0033】
スライド機構3は、作業者の把持部22への押し引き操作に応じて、グリップ機構2をスライド方向D2に移動させる。本実施形態では、
図1Aに示されるように、スライド機構3は、スライド方向D2に延びるガイド部材31と、ガイド部材31によってスライド方向D2に移動するように案内される移動部材32とを備えている。
【0034】
ガイド部材31は、移動部材32がスライド方向D2に移動するように、移動部材32を案内する。ガイド部材31による移動部材32の案内方法は、特に限定されない。本実施形態では、
図1Aに示されるように、ガイド部材31は、スライド方向D2に延びる棒形状を有するレール部材311を備え、レール部材311に挿通される移動部材32(具体的には、後述する軸受部321)をスライド方向D2に案内する。しかし、ガイド部材31がスライド方向D2に延びるガイド溝を有し、移動部材32がガイド部材31の溝形状に対応するガイド突条を有することで、ガイド部材31がスライド方向D2に移動部材32を案内するなど、その他の形態で、ガイド部材31が移動部材32を案内してもよい。
図1Aでは、レール部材311は、挟持方向D3に離間するように複数(具体的には、2つ)設けられている。しかし、レール部材311は、1つのみ設けられてもよい。
【0035】
本実施形態では、
図1Aに示されるように、ガイド部材31が引張試験機Mに固定されることで、試験片移送治具1が引張試験機Mに取り付けられている。ガイド部材31の固定方法は、特に限定されないが、本実施形態では、レール部材311のスライド方向D2の両端部に設けられる固定部312(
図1Aでは、4つ)が、固定具B(
図1Aでは、ボルト)によって引張試験機M(具体的には、第1基台M1と対向する第2基台M2の平坦な表面)に固定されている。レール部材311のスライド方向D2の両端部でガイド部材31が固定されることで、試験片移送治具1がスライド方向D2でぐらつくことなく安定して固定されるので、移動部材32をスライド方向D2に移動させやすくなる。しかし、ガイド部材31は、引張試験機Mに強固に固定されれば、レール部材311のスライド方向D2の一端部でのみ固定されるなど、より少ない固定位置で固定されてもよい。なお、固定部312は、移動部材32がスライド方向D2の所定の移動範囲(設定された可動域)を超えて移動することを妨げるストッパとして機能してもよい。この場合、固定部312は、レール部材311のスライド方向D2の両端部で、移動部材32が固定部312に当接して移動部材32の移動の妨げとなるように、スライド方向D2と交差する方向(
図1Aでは、挟持方向D3)でレール部材311から突出するように設けられる。
【0036】
移動部材32は、
図1Aに示されるように、グリップ機構2を固定し、挟持部21に挟持される試験片Sを挟持位置P2から掴み位置P1にスライド方向D2で移送させる。本実施形態では、移動部材32は、公知の滑り軸受や玉軸受などから構成される軸受部321を有し、ガイド部材31に対して軸受部321が摺動することで、移動部材32がスライド方向D2に移動する。
図1Aでは、移動部材32は、引張方向D1から見て、スライド方向D2の一方向(掴み具M11、M21から遠ざかる側)に突出するV字形状を有しており、レール部材311と対応して、V字形状の両端部に軸受部321が設けられ、V字形状の突出部分(挟持方向D3の中央部)にグリップ機構2が固定されている。V字形状の突出部分にグリップ機構2を固定することで、把持部22が掴み具M11、M21から遠ざかるので、作業者が掴み具M11、M21に直接触れるおそれが低減され、試験片Sを安全に引張試験機Mに設置することができる。
【0037】
[第1実施形態に係る試験片移送治具による試験片の移送方法]
次に、
図1Aを参照して、上述の試験片移送治具1による試験片Sの移送方法を説明する。なお、以下に示す実施形態は、あくまで一例であり、本発明の試験片移送治具による試験片の移送方法は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0038】
本実施形態において、試験片移送治具1を操作する際に、まず、作業者は、たとえば、把持部22を一方の手で把持することで、挟持部21を解放状態から挟持状態にするとともに、もう一方の手で試験片Sを挟持部21の間に配置させることで、試験片Sを挟持部21に挟持させる。その際に、作業者は、たとえば、試験片Sの移行部S3が挟持部21の溝部において引張方向D1の一端側(鉛直上方側)の縁部で当接するように、試験片Sを挟持部21に挟持させることで(
図4Aおよび
図4B参照)、試験片Sを引張方向D1で位置決めすることができる。また、本実施形態では、試験片移送治具1を引張試験機Mの所定の位置に固定することで、挟持位置P2を中心として挟持位置P2を挟むように、第1挟持部21aおよび第2挟持部21bが予め配置されている。そのため、試験片Sを挟持部21に挟持させることで、試験片Sを引張方向D1で自動的に位置決めすることができる。
【0039】
本実施形態において、作業者は、試験片Sを挟持部21に挟持させた状態で、把持部22を把持した手で、そのままスライド方向D2に把持部22を押圧することで、グリップ機構2がスライド方向D2に移動する。これにより、試験片Sを掴み位置P1に移送させることができる。ガイド部材31の固定部312が所定の移動範囲外への移動部材32の移動を妨げるストッパとして機能する場合には、作業者は、移動部材32が固定部312に当接するまで移動させることで、目視などを行うことなく、試験片Sを掴み位置P1に容易に移送させることができる。
【0040】
以上のように構成される本実施形態に係る試験片移送治具1によれば、把持部22が把持されることで、挟持部21が、解放状態から挟持状態に遷移し、把持部22がスライド方向D2に押圧されることで、試験片Sが挟持部21に試験片Sを挟持させる挟持位置P2から掴み位置P1に移送されるように、挟持部21が移動する。つまり、引張試験の作業者は、把持部22を把持し、挟持部21を解放状態から挟持状態とすることで、試験片Sを把持させ、その後に、把持した把持部22をそのままスライド方向D2に押圧することで、試験片Sを挟持位置P1から掴み位置P1に移送することができる。そのため、大掛かりなロボットアームなどを用いずに、低コスト、かつ、簡単な操作で試験片Sを掴み位置P1に設置することができる。挟持部21が解放状態となるように付勢されている場合には、作業者は、把持部22を把持するかしないかだけの単純な操作で、挟持部21の解放状態および挟持状態を遷移させることができる。
【0041】
本実施形態において、試験片移送治具1は、第1把持部22aと第2把持部22bとの間に入り込むことが可能なくさび形状のリリース部材241を備えるリリース機構24を有している。そのため、挟持部21が意図せずに挟持状態のままとなった場合に、第1把持部22aと第2把持部22bとの間を通るように、挟持方向D3に交差する操作方向D4にリリース部材241を押圧することで、相互の間隔が広がるように、第1把持部22aおよび第2把持部22bが挟持方向D3に押し広げられるので、第1把持部22aおよび第2把持部22bにそれぞれ連結される第1挟持部21aおよび第2挟持部21bを挟持状態から解放状態に強制的に戻すことができる。
【0042】
本実施形態において、挟持部21は、試験片Sの移行部S3と当接するように試験片Sを挟持することで、グリップ機構2をスライド方向D2に移動させたときに、試験片Sが引張方向D1で掴み位置P1に配置されるように、試験片Sを引張方向D1で位置決めする。この場合、試験片Sを挟持部21に挟持させる際に、試験片Sが適切に引張試験機Mに設置されるように、引張方向D1で試験片Sを目視などで位置合わせする労力が低減される。
【0043】
本実施形態において、挟持部21は、グリップ機構2をスライド方向D2に移動させたときに、試験片Sが挟持方向D3で掴み位置P1に配置されるように、試験片Sを挟持方向D3で位置決めする。この場合、試験片Sを挟持部21に挟持させる際に、試験片Sが適切に引張試験機Mに設置されるように、挟持方向D3で試験片Sを目視などで位置合わせする労力が低減される。
【0044】
[第2実施形態に係る試験片移送治具および試験片の移送方法]
次に、
図6を参照して、本発明の第2実施形態に係る試験片移送治具および試験片の移送方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、あくまで一例であり、本発明の試験片移送治具による試験片の移送方法は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0045】
図6は、第2実施形態に係る試験片移送治具10を示している。本実施形態に係る試験片移送治具10は、グリップ機構20およびスライド機構30の形態が、第1実施形態のグリップ機構2およびスライド機構3(
図1Aおよび
図1Bなど参照)の形態と異なる。
【0046】
本実施形態において、
図6に示されるように、挟持部210は、第1実施形態と同様に、挟持方向D3に離間する第1挟持部210aおよび第2挟持部210bを有し、第1挟持部210aと第2挟持部210bとの間で試験片Sを挟持する。本実施形態では、挟持部210(第1挟持部210aおよび第2挟持部210b)は、スライド方向D2の掴み位置P1側で、ねじなどの公知の固定具によって、把持部220(第1把持部220aおよび第2把持部220b)に連結されている。
【0047】
本実施形態において、
図6に示されるように、第1把持部220aおよび第2把持部220bは、挟持方向D3で交差するようにスライド方向D2に延びるアーム形状を有している。本実施形態では、第1把持部220aと第2把持部220aとの交差部分に、引張方向D1で軸棒220cが挿通されており、第1把持部220aと第2把持部220aは、軸棒220cを中心軸として、回転可能となっている。
【0048】
本実施形態において、
図6に示されるように、付勢機構230は、第1実施形態と同様に、第1把持部220aと第2把持部220bとの間隔が広がるように把持部220を付勢することで、把持部220に連結される挟持部210を間接的に付勢している。本実施形態では、付勢機構230は、第1実施形態のように、移動量調整部232(
図1Aおよび
図1B参照)を有しておらず、第1把持部220aと第2把持部220bとを挟持方向D3で連結する弾性体(
図6では、ばね)のみによって構成されている。このように、本実施形態では、付勢機構230は、第1実施形態のように、歯車を用いて第1把持部220aおよび第2把持部220bを挟持方向D3に移動させないため、把持部220は、意図せずに解放状態のままとなりにくい。そのため、本実施形態では、グリップ機構20は、第1実施形態のように、リリース機構24(
図1Aおよび
図1B参照)を有さなくてもよい。
【0049】
本実施形態において、
図6に示されるように、ガイド部材310は、スライド方向D2に延びる棒形状を有するレール部材3110を備え、移動部材320は、第1実施形態と同様に、軸受部3210を備え、レール部材3110に対して軸受部3210が摺動することで、移動部材320がスライド方向D2に移動する。具体的には、移動部材320は、引張方向D1から見て、挟持方向D3に直線状に延びる帯形状を有しており、挟持方向D3の両端部に軸受部3210が設けられ、挟持方向D3の中央部にグリップ機構20が固定されている。
図6では、把持部22の軸棒220cが、移動部材320に固定されている。軸棒220cを移動部材320に固定することで、第1把持部220aおよび第2把持部220aは、軸棒220cを中心軸として回転可能であるように、移動部材320に固定される。
【0050】
本実施形態に係る試験片移送治具10による試験片Sの移送方法は、第1実施形態に係る試験片移送治具1による試験片Sの移送方法と同様であるため、ここでは、説明を省略する。
【0051】
以上のように構成される本実施形態に係る試験片移送治具10によれば、第1実施形態に係る試験片移送治具1と同様に、挟持部210を解放状態から挟持状態とすることで、試験片Sを把持させ、その後に、把持した把持部220をそのまま押圧することで、試験片Sを挟持位置P2から掴み位置P1に移送することができる。そのため、大掛かりなロボットアームなどを用いずに、低コスト、かつ、簡単な操作で試験片Sを掴み位置P1に設置することができる。また、本実施形態では、試験片移送治具10は、移動量調整部232およびリリース機構24を有していないので、より簡単な構造で試験片移送治具10を作製することができる。挟持部210が解放状態となるように付勢されている場合には、作業者は、把持部220を把持するかしないかだけの単純な操作で、挟持部210の解放状態および挟持状態を遷移させることができる。
【0052】
[その他の実施形態に係る試験片移送治具および試験片の移送方法]
本発明に係る試験片移送治具は、以上の実施形態に限定されるものではない。たとえば、第1実施形態に係る試験片移送治具1では、挟持部21は、解放状態となるように付勢されている。しかし、
図7(
図7では、
図1Aと同じ機能を有する部位には、
図1Aと同じ符号が付されている)に示される試験片移送治具100のように、挟持部21は、挟持状態となるように付勢されてもよい。具体的には、
図7の例では、付勢機構2300(グリップ機構200)に備えられる付勢部材2310は、第1挟持部21aと第2挟持部21bとの間の間隔が狭まるように、挟持部21を付勢する。このような付勢部材2310として、たとえば、第1実施形態と同様に、ばねやゴムなどの公知の弾性体を採用することができる。
【0053】
図7に示される試験片移送治具100により試験片Sを移送する場合、作業者は、第1挟持部21aと第2挟持部21bとの間の間隔が広がるように、挟持方向D3の内向きではなく、挟持方向D3の外向きの力を加えることで、把持部2200を操作する。このような操作を容易にするために、
図7の例では、把持部2200は、引張方向D1から見て、リング形状(具体的には、楕円形状)を有する第1把持部2200aおよび第2把持部2200bを備えている。この場合、作業者は、第1把持部2200aおよび第2把持部2200bのリング内に片手の指を挿入して指を開いた際に、第1把持部2200aおよび第2把持部2200bの挟持方向D3の内向き内面に手を当接させることで、挟持方向D3の外向きの力を把持部2200に加えることができる。このように、
図7に示される試験片移送治具100では、作業者は、把持部2200に手を挿入して指を開くか開けないだけの単純な操作で、挟持部21の解放状態および挟持状態を遷移させることができる。また、
図7に示される試験片移送治具100では、把持部2200から手を離した状態でも、挟持部21に試験片Sを挟持させることができる。
【0054】
なお、
図7に示される試験片移送治具100では、把持部2200を操作しないときに、挟持部21が付勢部材2310の付勢力によって挟持状態となっているため、試験片移送治具100は、第1実施形態のように、リリース機構を必ずしも備えなくてもよい。
【0055】
第1実施形態および第2実施形態に係る試験片移送治具1、10は、付勢機構23、230を備えている。しかし、試験片移送治具は、必ずしも付勢機構を備えなくてもよい。この場合、作業者は、付勢機構の付勢力に依らずに、自ら加える押し引き力のみによって把持部を操作するので、把持部への操作の力加減を調整しやすくなる。
【符号の説明】
【0056】
1、10、100 試験片移送治具
2、20、200 グリップ機構
21、210 挟持部
21a、210a 第1挟持部
21b、210b 第2挟持部
22、220、2200 把持部
220c 軸棒
22a、220a、2200a 第1把持部
22b、220b、2200b 第2把持部
23、230、2300 付勢機構
231、2310 付勢部材
232 移動量調整部
232a 第1ラック
232b 第2ラック
232c 歯車
2320 筐体
24 リリース機構
241 リリース部材
241a リリース被案内部
242 リリース案内部
3、30 スライド機構
31、310 ガイド部材
311、3110 レール部材
312 固定部
32、320 移動部材
321、3210 軸受部
A1、A2、A10、A20 溝部
B 固定具
D1 引張方向
D2 スライド方向
D3 挟持方向
D4 操作方向
Ga、Gb 把持案内部
M 引張試験機
M1 第1基台
M11、M21 掴み具
M2 第2基台
M3 支柱
P1 掴み位置
P2 挟持位置
Pa、Pb 把持被案内部
S 試験片
S1 掴み部
S2 括れ部
S3 移行部