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特開2022-151316クロマトグラフィー管およびその製造方法ならびに高速液体クロマトグラフ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151316
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】クロマトグラフィー管およびその製造方法ならびに高速液体クロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/60 20060101AFI20220929BHJP
   C04B 35/486 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
G01N30/60 A
C04B35/486
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054333
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 万平
(72)【発明者】
【氏名】太田 翔一
(57)【要約】
【課題】移動相が貫通孔を通過しても、内周面を起点とする脱粒が抑制されたクロマトグラフィー管およびその製造方法を提供する。
【解決手段】貫通孔を軸方向に備え、酸化ジルコニウムまたはジルコニウムアルミニウム複合酸化物を主成分とするセラミックスの筒状体からなる、クロマトグラフィー管である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を軸方向に備え、酸化ジルコニウムまたはジルコニウムアルミニウム複合酸化物を主成分とするセラミックスの筒状体を含む、クロマトグラフィー管。
【請求項2】
前記筒状体の内周面と、前記筒状体の外周面から軸心に向かう研磨面である観察対象面との稜線を起点とする、深さが10μm以上20μm以下の凹部の個数が、稜線の長さ1mm当たり2個以下である、請求項1に記載のクロマトグラフィー管。
【請求項3】
前記観察対象面において、前記稜線の真直度は20μm以下である、請求項2に記載のクロマトグラフィー管。
【請求項4】
前記観察対象面において、前記稜線から前記筒状体の外周面と前記観察対象面との境界である外縁に向かって、0.1mm以内の範囲における閉気孔の最大径は、0.9μm以下である、請求項2または3に記載のクロマトグラフィー管。
【請求項5】
前記筒状体の内周面は、2乗平均平方根傾斜(RΔqi)が1.3以下の焼成面である、請求項1~4のいずれかに記載のクロマトグラフィー管。
【請求項6】
前記筒状体の内周面は、粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、前記粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す、切断レベル差(Rδci)が1.7μm以下の焼成面である、請求項1~5のいずれかに記載のクロマトグラフィー管。
【請求項7】
前記筒状体の外周面は、2乗平均平方根傾斜(RΔqo)が0.04以上の焼成面である、請求項1~6のいずれかに記載のクロマトグラフィー管。
【請求項8】
前記筒状体の外周面は、粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、前記粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す、切断レベル差(Rδco)が0.04μm以上の焼成面である、請求項1~7のいずれかに記載のクロマトグラフィー管。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のクロマトグラフィー管の製造方法であって、
累積分布曲線における累積95体積%の粒径が6.5μm以下の酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくともいずれかを主成分とする粉末、ワックス、分散剤および可塑剤を容器に収容し、撹拌してスラリーを得る工程と、
前記スラリーを予備加熱する工程と、
予備加熱した前記スラリーを脱泡処理する工程と、
前記スラリーを成形して円筒状の成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成する工程とを含む、クロマトグラフィー管の製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載のクロマトグラフィー管を備えた、高速液体クロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クロマトグラフィー管およびその製造方法ならびに高速液体クロマトグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
高速液体クロマトグラフは、ステンレス製あるいはガラス製のクロマトグラフィー管に充填剤を充填し、適切な移動相(溶離液)を供給して多種の成分を含む試料を搬送し、充填剤と試料中の成分との相互作用により分離する装置である。このような高速液体クロマトグラフは、温和な条件で一斉に試料を分離および分析できるため、生化学、医学、薬学などの分野で広く用いられている。
【0003】
しかしながら、ステンレス製のクロマトグラフィー管を用いてタンパク質や酵素等の生理活性成分を分析する場合、生理活性成分がステンレスに吸着して回収率が著しく低下することがある。ガラス製のクロマトグラフィー管を用いた場合、ガラス表面に存在するシラノール基への吸着という問題がある。さらに、ガラス製のクロマトグラフィー管は使用可能なpH範囲が狭く、強アルカリ性では使用できないという問題がある。
【0004】
このため、近年、耐薬品性、耐腐蝕性、耐吸着性等の点でステンレス製やガラス製のクロマトグラフィー管よりも優れた樹脂製のクロマトグラフィー管が開発されている。特許文献1では、樹脂製パイプと、樹脂製パイプの外周面に密着する樹脂製外套管とを有するクロマトグラフィー管が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-64725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の課題は、移動相が貫通孔を通過しても、内周面を起点とする脱粒が抑制されたクロマトグラフィー管およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るクロマトグラフィー管は、貫通孔を軸方向に備え、酸化ジルコニウムまたはジルコニウムアルミニウム複合酸化物を主成分とするセラミックスの筒状体を含む。
【0008】
本開示に係る上記クロマトグラフィー管の製造方法は、累積分布曲線における累積95体積%の粒径が6.5μm以下の酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの少なくともいずれかを主成分とする粉末、ワックス、分散剤および可塑剤を容器に収容し撹拌してスラリーを得る工程と、スラリーを予備加熱する工程と、予備加熱したスラリーを脱泡処理する工程と、スラリーを成形して円筒状の成形体を得る工程と、成形体を焼成する工程とを含む。
【0009】
本開示の高速液体クロマトグラフは、上記クロマトグラフィー管を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係るクロマトグラフィー管は、耐薬品性および機械的強度に優れ、移動相が筒状体の貫通孔を通過しても、内周面を起点とする脱粒のおそれが少ない。したがって、本開示によれば、この脱粒による移動相の汚染が抑制され、長期間に亘って、精度の高い分析をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示のクロマトグラフィー管が装着された高速液体クロマトグラフの概要の一例を示す模式図である。
図2】(A)は本開示の一実施形態に係るクロマトグラフィー管を示す部分破断斜視図であり、(B)はそのB部の拡大図である。
図3】(A)は実施例の試料No.1のクロマトグラフィー管の観察対象面を示す顕微鏡写真(倍率20倍)であり、(B)はそのD部を拡大した顕微鏡写真(倍率200倍)である。
図4】(A)は実施例の試料No.4(比較例)のクロマトグラフィー管の観察対象面を示す顕微鏡写真(倍率20倍)であり、(B)はそのE部を拡大した顕微鏡写真(倍率200倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本開示のクロマトグラフィー管およびその製造方法ならびに高速液体クロマトグラフを説明する。図1は、本開示のクロマトグラフィー管を用いた高速液体クロマトグラフの概要の一例を示す模式図である。
【0013】
図1に示す高速液体クロマトグラフ10は、電磁弁2a、2b、ポンプ3、試料導入装置4、カラム5、検出器6、データ処理装置7およびフィルタ8を備える装置である。高速液体クロマトグラフ10を構成する電磁弁2a、2b、ポンプ3などの各機器は、制御部(図示しない)によって制御されている。
【0014】
図1では、複数の溶離液である移動相1a、1bとして、グラジェント溶出の例を示している。グラジェント溶出とは、溶離液の組成比を溶出時間の経過とともに連続的または段階的に変化させて溶出する方法をいう。電磁弁2a、2bは、それぞれ移動相1a、1bに対応して設けられ、移動相1a、1bの供給を選択的に切り替える。ポンプ3は、各電磁弁2a、2bの切り替えにより選択された移動相1a、1bを一定の圧力で試料導入装置4に供給する。試料導入装置4は、ポンプ3によって供給された試料を移動相1a、1bとともに異物を除去するフィルタ8を介してカラム5に導入する。
【0015】
カラム5は、クロマトグラフィー管5aと、クロマトグラフィー管5a内に充填された充填剤5bとからなる。クロマトグラフィー管5aの内周面は移動相1a、1bおよび充填剤5bと接触する面となる。クロマトグラフィー管5aは、例えば、外径が2mm以上20mm以下、内径が0.5mm以上15mm以下、長さが50mm以上250mm以下である。
【0016】
充填剤5bは粒状の固定相、固定相を保持させた粒子およびモノリス状の固定相である。試料に含まれる分析対象となる成分は、移動相1a、1bをカラム5に供給することによってカラム5内で成分毎に分離され、カラム5から順次検出器6に向かって排出される。検出器6は、カラム5から排出される成分を検出する。データ処理装置7は、検出器6による成分の検出結果に基づいて、試料を定性的あるいは定量的に分析する。
【0017】
図2(A)に示すように、高速液体クロマトグラフ10で用いられるクロマトグラフィー管5aは、貫通孔5hを軸方向に備え、酸化ジルコニウムまたはジルコニウムアルミニウム複合酸化物を主成分とするセラミックスの筒状体からなる。このような構成を有することによって、耐薬品性および機械的強度に優れるクロマトグラフィー管5aが得られる。その結果、移動相1a、1bが貫通孔5hを通過しても、脱粒のおそれが少なくなる。したがって、この脱粒による移動相1a、1bの汚染が抑制され、長期間に亘って、精度の高い分析をすることが可能となる。
【0018】
本開示において主成分とは、セラミックスを構成する成分の合計100質量%における80質量%以上を占める成分を意味する。例えば、ジルコニウムアルミニウム複合酸化物が主成分である場合、ジルコニウムを酸化物(ZrO)に換算した含有量およびアルミニウムを酸化物(Al)に換算した含有量が、合計で80質量%以上である。ジルコニウムアルミニウム複合酸化物は、例えば、ジルコニア強化アルミナ(ZTA)、アルミナ強化ジルコニア(ATZ)である。
【0019】
酸化ジルコニウムやジルコニウムアルミニウム複合酸化物の存在は、CuKα線を用いたX線回折装置で同定して確認できる。各成分の含有量は、例えばICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置または蛍光X線分析装置により求めればよい。
【0020】
図2(A)およびその部分拡大図である図2(B)は、本開示のクロマトグラフィー管5aの外周面から軸心Cに向かって研磨した状態を示している。本開示によれば、得られた研磨面を観察対象面5dとしたとき、クロマトグラフィー管5aの内周面5cと観察対象面5dとの稜線5eを起点とする、深さdが10μm以上20μm以下の凹部5fの個数が、稜線5eの長さ1mm当たり2個以下、好ましくは1個以下である。凹部5fは、例えば、陥没状である。クロマトグラフィー管5aの外周面から軸心Cに向かって研磨するのは、凹部5fの深さdの測定を容易にするためである。深さdの方向は、観察対象面5d内において、稜線5eを起点として外周面と観察対象面5dとの境界である外縁5jに向かう方向である。
【0021】
観察対象面5dの算術平均粗さ(Ra)は、例えば、0.01μm以上0.1μm以下であり、算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601:2013に準拠して求めればよい。観察対象面5dを得るには、研磨材は平均粒径(D50)が1μmのWA(ホワイトアランダム)を、研磨盤はピッチからなるポリッシャをそれぞれ用いればよい。肉厚が3mm以上あるクロマトグラフィー管の場合、クロマトグラフィー管5aの外周面から軸心Cに向かって研磨代を0.1mm以上0.2mm以下残して研削した後、研磨してもよい。
【0022】
走査型電子顕微鏡で観察対象面5dを撮影した画像(例えば、横方向2.3mm、縦方向1.7mm)を対象に、例えば、「挟むものさし」というフリーソフトを用いて、凹部5fの深さdを測定し、深さdが10μm以上20μm以下の凹部5fの個数を数えればよい。凹部5fの深さを10μm以上としたのは、深さ10μmが、脱粒して浮遊するパーティクルが移動相1a、1bに顕著な悪影響を与える最小の値、すなわち、しきい値であるためである。
【0023】
このように、筒状体の内周面5cに凹部5fが殆ど存在しないので、内周面5cを起点とする脱粒の発生が抑制された状態になっている。そのため、移動相1a、1bが貫通孔5hを通過しても、内周面5cを起点とする脱粒のおそれが少ないので、この脱粒による移動相1a、1bの汚染がさらに抑制される。凹部5fとは、筒状体の内周面5cに開口している窪みをいう。
【0024】
観察対象面5dにおいて、稜線5eの真直度は20μm以下であるのがよい。真直度とは、稜線5eの幾何学的に正しい直線からの狂いの大きさをいい、光学顕微鏡で観察対象面5dを撮影した画像(例えば、横方向1.2mm、縦方向1.4mm)を対象に、例えば、「挟むものさし」というフリーソフトを用いて稜線5eの真直度を測定することができる。クロマトグラフィー管5aの軸方向を画像の縦方向に合わせ、内周面5cを挟んだ左右の稜線5eの少なくともいずれかが画像に含まれるようにし、幾何学的に正しい直線の長さは、1.4mmとすればよい。
【0025】
本開示では、稜線5eの真直度が20μm以下であれば、大きな陥没状の凹部5fが内周面5cにない状態になっている。そのため、移動相1a、1bの流れが乱流であっても、内周面5cを起点とする脱粒のおそれが少ない。その結果、この脱粒による移動相1a、1bの汚染が抑制される。
【0026】
さらに、観察対象面5dにおいて、稜線5eからクロマトグラフィー管5aの外周面と観察対象面5dとの境界である外縁5jに向かって、0.1mm以内の範囲における閉気孔5gの最大径mは0.9μm以下であるのがよい。すなわち、内周面5cの近傍で大きな閉気孔5gが存在しないので、加熱および冷却を繰り返しても、閉気孔5gから内周面5cに向かってクラックが発生しにくくなる。その結果、このクラックによって生じる脱粒も発生しにくくなるので、この脱粒による移動相1a、1bの汚染が抑制される。
【0027】
閉気孔5gの最大径mは、例えば、観察対象面5dを光学顕微鏡で撮影した画像(例えば、横方向1.2mm、縦方向1.4mm)を対象に「挟むものさし」というフリーソフトを用いて測定することができる。クロマトグラフィー管5aの軸方向を画像の縦方向に合わせ、内周面5cを挟んだ左右の稜線5eの少なくともいずれかが画像に含まれるようにする。
【0028】
筒状体の内周面5cは、2乗平均平方根傾斜(RΔqi)が1.3以下の焼成面であってもよい。このような構成を有することによって、内周面5cは破砕層がなく、2乗平均平方根傾斜(RΔqi)が制御された状態になっている。その結果、移動相1a、1bが貫通孔5hを通過しても脱粒が生じにくく、移動相1a、1bの汚染が抑制される。
【0029】
筒状体の内周面5cは、粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す、切断レベル差(Rδci)が1.7μm以下の焼成面であってもよい。このような構成を有することによって、内周面5cは破砕層がなく、切断レベル差(Rδci)が制御された状態になっている。その結果、移動相1a、1bが貫通孔5hを通過しても脱粒が生じにくく、移動相1a、1bの汚染がさらに抑制される。特に、内周面5cの切断レベル差(Rδci)は1.4μm以下の焼成面であるとよい。
【0030】
筒状体の外周面は、粗さ曲線における25%の負荷長さ率での切断レベルと、粗さ曲線における75%の負荷長さ率での切断レベルとの差を表す、切断レベル差(Rδco)が0.04μm以上の焼成面であってもよい。このような構成を有することによって、外周面は破砕層がないので、筒状体を取り付け、取り外し、洗浄を繰り返しても、外周面から脱粒が生じにくい。さらに、親水性も向上しているので、汚れも付着しにくい。特に、外周面の切断レベル差(Rδco)は、0.26μm以上の焼成面であるとよい。
【0031】
2乗平均平方根傾斜(RΔqi、RΔqo)および切断レベル差(Rδci、Rδco)は、JIS B 0601:2001に準拠し、形状解析レーザ顕微鏡((株)キーエンス製、VK-X1100またはその後継機種)を用いて測定することができる。測定条件としては、まず、照明方式を同軸落射方式、倍率を480倍、カットオフ値λsを無し、カットオフ値λcを0.08mm、カットオフ値λfを無し、終端効果の補正を有り、測定対象とする内周面5cおよび外周面から1か所当たりの測定範囲を、例えば、710μm×533μmに設定する。各測定範囲毎に、測定範囲の長手方向に沿って測定対象とする線を略等間隔に4本引いて、線粗さ計測を行えばよい。測定範囲はそれぞれ軸方向の中央部1箇所、合計2箇所とし、計測の対象とする長さは、例えば、560μmである。
【0032】
次に、本開示のクロマトグラフィー管の製造方法を説明する。まず、セラミックスの主成分が酸化ジルコニウムである場合について説明する。酸化ジルコニウムを主成分とする粉末(以下、酸化ジルコニウム粉末と記載する場合がある)、酸化イットリウムを主成分とする粉末(以下、酸化イットリウム粉末と記載する場合がある)、ワックス、分散剤および可塑剤を準備する。酸化イットリウム粉末は、安定化剤である。
【0033】
酸化ジルコニウム粉末としては、純度が99.9質量%以上であり、かつ累積分布曲線における累積95体積%の粒径が6.5μm以下、好ましくは6μm以下であるのがよい。累積95体積%の粒径がこの範囲であると、得られる筒状体内の気孔が少なく、かつ凹部5fが内周面5cに発生するのが抑制される。
【0034】
累積分布曲線とは、2次元のグラフで横軸を粒径、縦軸を粒径の累積百分率とした場合における粒径の累積分布を示す曲線を意味する。累積分布曲線は、レーザー回折散乱法により、例えば、マイクロトラック・ベル社製の粒子径分布測定装置(MT3300またはその後継機種)を用いて求めることができる。
【0035】
上記酸化ジルコニウム粉末および酸化イットリウム粉末の合計100質量部に対して、ワックスを13質量部以上14質量部以下、分散剤を0.4質量部以上0.5質量部以下、可塑剤を1.4質量部以上1.5質量部以下とする。酸化ジルコニウム粉末および酸化イットリウム粉末の合計100モル%における酸化イットリウム粉末は、例えば、2モル%以上4モル%以下である。酸化ジルコニウム粉末、酸化イットリウム粉末、ワックス、分散剤および可塑剤を、90℃以上140℃以下に加熱された樹脂製の容器内に収容する。このとき、ワックス、分散剤および可塑剤は、液体となっている。
【0036】
次に、容器を攪拌機にセットし、容器を3分間自公転させること(自公転混練処理)により酸化ジルコニウム粉末、酸化イットリウム粉末、ワックス、分散剤および可塑剤が撹拌されて、スラリーを得ることができる。次に、得られたスラリーをシリンジに充填し、脱泡治具を用いて、シリンジを1分間自公転させながらスラリーの脱泡処理を行う。脱泡処理をする前に、スラリーを120℃以上180℃以下で予備加熱を行うのがよい。
【0037】
次に、脱泡したスラリーが充填されたシリンジを射出成形機に取り付け、スラリーの温度を90℃以上に維持した状態で成形して円筒状の成形体を得る。成形するに当たり、円筒状の成形体の内周面を形成する円柱状の中子を、予め、射出成形機に取り付けておく。射出成形機のスラリーが通過する流路も90℃以上に維持するとよい。
【0038】
得られた成形体を順次、脱脂、焼成することで、酸化ジルコニウムを主成分とするセラミックスからなる筒状体を得ることができる。焼成雰囲気は大気雰囲気、焼成温度は1400℃以上1800℃以下とし、保持時間は2時間以上4時間以下とすればよい。観察対象面において、稜線から筒状体の外周面と観察対象面との境界である外縁に向かって、0.1mm以内の範囲における閉気孔の最大径が0.9μm以下である筒状体を得るには、焼成温度を1500℃以上1800℃以下とし、保持時間を3時間以上4時間以下とすればよい。
【0039】
以上の製造方法によって得られた筒状体は、稜線5eからの深さが10μm以上20μm以下の凹部5fの個数が、稜線5eの長さ1mm当たり2個以下である。成形で用いる中子の外周面の真直度を15μm以下にすることにより、稜線5eの真直度を20μm以下にすることができる。そのため、上述したクロマトグラフィー管5aをカラム5の筒状体として使用した場合には、内周面5cを起点とする脱粒の発生を抑制することができる。
【0040】
セラミックスの主成分がジルコニウムアルミニウム複合酸化物である場合、以下のようにしてクロマトグラフィー管を得ることができる。
【0041】
純度が99.9質量%以上で平均粒径が0.3~0.7μmの酸化アルミニウムを主成分とする粉末(以下、酸化アルミニウム粉末と記載する場合がある)と、純度が99.9質量%以上で平均粒径が0.1μm~0.3μmの酸化ジルコニウム粉末と、酸化イットリウム粉末と、純度がいずれも99.5質量%以上で、平均粒径がいずれも0.5~1.0μmの酸化珪素、酸化チタンおよび水酸化マグネシウムの各粉末と、ワックスと、分散剤と、可塑剤とを準備する。酸化イットリウム粉末は、安定化剤である。酸化珪素、酸化チタンおよび水酸化マグネシウムの各粉末は、焼結を促進させる焼結助剤である。
【0042】
例えば、上記各粉末の合計100質量%における酸化アルミニウム粉末の含有量は65質量%以上96質量%以下である。上記各粉末の合計100質量%における酸化ジルコニウム粉末の含有量は4質量%以上34.4質量%以下である。酸化ジルコニウム粉末および酸化イットリウム粉末の合計100モル%における酸化イットリウム粉末の含有量は、例えば、3モル%以下である。
【0043】
例えば、酸化珪素粉末の含有量は、0.2質量%以上1.8質量%以下、酸化チタン粉末の含有量は、0.22質量%以上2質量%以下、水酸化マグネシウム粉末の含有量は、0.17質量%以上1.2質量%以下であり、これら焼結助剤の含有量の合計は、0.6質量%以上4.5質量%以下となるように調整される。焼結助剤がこの範囲であれば、共晶温度が1300℃以下になり、焼結が大きく促進され、緻密性の高いセラミックスを得ることができる。
【0044】
酸化アルミニウム粉末および酸化ジルコニウム粉末は、累積分布曲線における累積95体積%の粒径がいずれも6.5μm以下、好ましくは6μm以下であるのがよい。累積95体積%の粒径がこの範囲であると、得られる筒状体内の気孔が少なく、かつ凹部5fが内周面5cに発生するのが抑制される。
【0045】
樹脂製の容器内への上記各粉末、ワックス、分散剤および可塑剤の収容、撹拌、脱泡処理、成形、脱脂については上述した方法と同じ方法を用いればよい。
【0046】
焼成については、焼成雰囲気を大気雰囲気、焼成温度を1300℃以上1450℃以下とし、保持時間を1時間以上4時間以下とすればよい。観察対象面において、稜線から筒状体の外周面と観察対象面との境界である外縁に向かって、0.1mm以内の範囲における閉気孔の最大径は0.9μm以下である酸化アルミニウム質焼結体を得るには、焼成温度を1350℃以上1450℃以下とし、保持時間を2時間以上4時間以下とすればよい。
【0047】
以上の製造方法によって得られた筒状体は、稜線5eからの深さが10μm以上20μm以下の凹部5fの個数が、稜線5eの長さ1mm当たり2個以下である。成形で用いる中子の外周面の真直度を15μm以下にすることにより、稜線5eの真直度を20μm以下にすることができる。そのため、上述したクロマトグラフィー管5aをカラム5の筒状体として使用した場合には、内周面5cを起点とする脱粒の発生を抑制することができる
【0048】
本開示は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良、組合せ等が可能である。
【実施例0049】
以下、実施例を具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
原料粉末として、純度が99.99質量%である酸化ジルコニウム粉末および酸化イットリウム粉末を用い、累積分布曲線における累積95体積%の粒径が表1に示す値の原料粉末を用いた。この原料粉末100モル%における酸化イットリウム粉末は、3モル%とした。この原料粉末と、ワックス、分散剤および可塑剤を90℃に加熱した後、樹脂製の容器内に収容し、混合した。次に、撹拌機の所定位置に容器を載置し、容器を3分間自公転させること(自公転混練処理)により、スラリーを得た。原料粉末100質量部に対して、ワックスを13.5質量部、分散剤を0.45質量部、可塑剤を1.45質量部とした。
【0051】
得られたスラリーをシリンジに充填し、脱泡治具を用いて、シリンジを1分間自公転させながら、スラリーの脱泡処理を行った。次に、シリンジを射出成形機に取り付け、スラリーの温度を90℃以上に維持した状態で成形して円筒状の成形体を得た。成形するに際し、円筒状の成形体の内周面を形成する円柱状の中子を、予め、射出成形機に取り付けておいた。中子の外周面の真直度はいずれも20μm以上25μm以下とした。このとき、射出成形機のスラリーの流路も90℃以上に維持した。
【0052】
得られた成形体を順次、脱脂、焼成することで、円筒状のクロマトグラフィー管(試料No.1~4)を得た。焼成雰囲気は大気雰囲気とし、焼成温度は1450℃、保持時間は3時間とした。
【0053】
各試料をCuKα線を用いたX線回折装置で調べた結果、酸化ジルコニウムおよび酸化イットリウムの存在が確認された。各金属元素の含有量を、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置で測定した結果、いずれの試料もジルコニウムの含有量が最も多いことがわかった。
【0054】
表1に示す各試料について、原料粉末の累積分布曲線における累積95体積%の粒径、観察対象面5dとの稜線5eを起点とする凹部5fの個数、ならびに各試料の貫通孔5hに純水を供給および排出したときに発生するパーティクルの個数を以下の方法にて測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0055】
(1)累積分布曲線における累積95体積%の粒径
マイクロトラック・ベル社製粒子径分布測定装置(MT3300)を用いて、累積分布曲線における累積95体積%の粒径を測定した。
【0056】
(2)観察対象面との稜線を起点とする凹部の個数
まず、クロマトグラフィー管5aの外周面から軸心Cに向かって研磨し、算術平均粗さRaが0.01μm以上0.1μm以下である観察対象面5dを得た。走査型電子顕微鏡で観察対象面5dを撮影した画像(横方向2.3mm、縦方向1.7mm)を対象に、フリーソフト「挟むものさし」を用いて、凹部5fの深さdを測定した。深さdが10μm以上20μm以下の凹部5fの個数を数えた。
【0057】
(3)各試料の貫通孔に純水を供給、排出したときに発生するパーティクルの個数
各試料の貫通孔5hの排出側の開口部に容器を接続した。次に、貫通孔5hの供給側の開口部から流速を5mL/秒として、純水を100秒間供給し、容器に排出された純水に含まれる、パーティクルの個数を液中パーティクルカウンタ-(LPC)を用いて測定した。なお、測定の対象とするパーティクルは、直径が0.2μmを超えるものとした。また、容器は、接続する前に、超音波洗浄を行い、直径が0.2μmを超えるパーティクルの個数が20個以下であることが確認されたものを用いた。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、試料No.1~3は、深さが10μm以上20μm以下の凹部の個数が2個/mm以下である。したがって、試料No.1~3は、発生するパーティクルの個数が少なく、移動相を汚染しにくいと言える。
【0060】
(実施例2)
実施例1で示した方法と同じ方法で、主成分が酸化ジルコニウムである円筒状の成形体を得た。成形するに際し、円筒状の成形体の内周面を形成する円柱状の中子を、予め、射出成形機に取り付けておいた。マイクロトラック・ベル社製粒子径分布測定装置(MT3300)を用いた累積分布曲線における累積95体積%の粒径が6μmである酸化ジルコニウム粉末を成形した。中子の外周面の真直度は、表2に示す通りとした。
【0061】
得られた成形体を順次、脱脂および焼成することで、円筒状のクロマトグラフィー管(試料No.5~8)を得た。焼成雰囲気は大気雰囲気とし、焼成温度は1450℃、保持時間は3時間とした。
【0062】
観察対象面5dを光学顕微鏡で撮影した画像(横方向1.2mm、縦方向1.4mm)を対象にフリーソフト「挟むものさし」を用いて稜線5eの真直度を測定した。クロマトグラフィー管の軸方向を画像の縦方向に合わせ、内周面5cを挟んだ左右の稜線5eが画像に含まれるようにした。幾何学的に正しい直線の長さは1.4mmとする。左右の稜線5eの真直度のうち、真直度が大きい値を、表2に示す。純水を各試料の貫通孔5hに供給および排出したときに発生するパーティクルの個数を実施例1で示した方法と同じ方法で測定した。結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2に示すように、No.5~7は、稜線の真直度が20μm以下である。したがって、発生するパーティクルの個数が少なく、No.8よりも移動相を汚染するおそれが低いと言える。
【0065】
(実施例3)
実施例1で示した方法と同じ方法で、主成分が酸化ジルコニウムである円筒状の成形体を得た。成形するに際し、円筒状の成形体の内周面を形成する円柱状の中子を、予め、射出成形機に取り付けておいた。マイクロトラック・ベル社製粒子径分布測定装置(MT3300)を用いた累積分布曲線における累積95体積%の粒径が5.5μmである酸化ジルコニウム粉末を成形した。中子の外周面の真直度は、いずれも20μm以上25μm以下とした。
【0066】
得られた成形体を順次、脱脂および焼成することで、円筒状のクロマトグラフィー管(試料No.17~20)を得た。焼成雰囲気は大気雰囲気とし、焼成温度は表3に示す通り、保持時間は3.5時間とした。
【0067】
観察対象面5dを光学顕微鏡で撮影した画像(横方向1.2mm、縦方向1.4mm)を対象にフリーソフト「挟むものさし」を用いて、閉気孔5gの最大径mを測定した。純水を各試料の貫通孔5hに供給および排出したときに発生するパーティクルの個数を実施例1で示した方法と同じ方法で測定した。結果を表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
表3に示すように、試料No.9~11は、稜線5eから外縁に向かって、0.1mm以内の範囲における閉気孔5gの最大径mが0.9μm以下である。したがって、発生するパーティクルの個数が少なく、No.12よりも移動相を汚染するおそれが低いと言える。
【符号の説明】
【0070】
1a、1b 移動相
2a、2b 電磁弁
3 ポンプ
4 試料導入装置
5 カラム
5a クロマトグラフィー管
5b 充填剤
5c 内周面
5d 観察対象面
5e 稜線
5f 凹部
5g 閉気孔
5h 貫通孔
5j 外縁
6 検出器
7 データ処理装置
8 フィルタ
10 高速液体クロマトグラフ
図1
図2
図3
図4