(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151327
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】イヌ模擬臭用組成物
(51)【国際特許分類】
G01N 33/497 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
G01N33/497 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054350
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000121512
【氏名又は名称】塩野香料株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000133445
【氏名又は名称】株式会社ダスキン
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】龍山 恭
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 普克
(72)【発明者】
【氏名】徳田 皓平
(72)【発明者】
【氏名】田島 岳留
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
(57)【要約】
【課題】より本物のイヌの体臭の特徴を捕えて再現したイヌ模擬臭用組成物を提供すること。
【解決手段】(a)2-アセチル-1-ピロール、2-アセチルピラジンとその類似化合物及び所望により(b)脂肪酸を含有させたイヌの体臭の特徴をよく捕えたイヌ模擬臭用組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)成分を含有することを特徴とするイヌ模擬臭用組成物:
(a)2-アセチル-1-ピロリン、2-アセチルピリジン、2,3,5-トリメチルピラジン、2-アセチルピラジン及び2-アセチル-3-エチルピラジンからなる群から選ばれる1種以上。
【請求項2】
前記(a)成分の含有量が0.0004質量%以上である請求項1に記載のイヌ模擬臭用組成物。
【請求項3】
さらに(b)脂肪酸を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のイヌ模擬臭用組成物。
【請求項4】
前記(b)脂肪酸が、炭素数2~16の脂肪酸からなる群から選ばれる1種以上である請求項3に記載のイヌ模擬臭用組成物。
【請求項5】
前記(b)脂肪酸の含有量が0.0002~10質量%である請求項3又は4に記載のイヌ模擬臭用組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載されるイヌ模擬臭用組成物を用いた、イヌ臭評価用指標剤。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載されるイヌ模擬臭用組成物を、イヌ模擬臭を発生する組成物として、イヌ臭の消臭効果の検証に使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イヌ模擬臭用組成物に関する。
【0002】
近年のペット市場は拡大の一途をたどっており、自宅で動物を飼育している家庭は日本では全世帯の三割にのぼると言い、ペット関連市場は1.5兆円規模で、依然拡大を続けている。自宅で飼育される動物の多くはイヌ、ネコ、ハムスター、モルモット及びウサギなどの哺乳類;熱帯魚、金魚などの魚類;カエル、アホロートルなどの両生類;カメ、トカゲ、ヘビなどの爬虫類;インコ、オウム、九官鳥などの鳥類;カブトムシなどの昆虫類など、中小型の大人しい動物であり、飼育環境を一般家庭でも用意することができる動物は何でも愛玩目的のペットとして飼育されている。
【0003】
特にイヌとネコの飼育数は多く、2019年、日本国内でイヌは約880万頭、ネコは約980万頭飼育されているとの報告があり、ペット飼育数全体に対する割合においては20%以上にも及ぶ。さらに、近年は集合住宅であってもペット飼育が許可されていることも多く、ペットを主に室内で飼育する家庭は9割近くに上がり増加傾向である。
【0004】
ここで問題になるのが、ペットの悪臭対策である。従来、ペットは屋外で飼育することが一般的であり、悪臭対策はあまり求められていなかった。しかし近年は前述の住宅事情や、愛玩の嗜好の変化によりヒトと同じ居室で飼育することが一般的となりつつあり、ペットを飼っていても室内環境を清潔、快適に維持することのニーズが高まっている。
【背景技術】
【0005】
一般に室内環境を清潔、快適に維持するニーズ、特に悪臭の消臭については様々な消臭剤が提案されている。一般に消臭剤の開発に当たっては、消臭対象物・悪臭原因物を用意し消臭剤を作用させて消臭効果を検証することが行われている。しかし、排泄物や腐敗物など悪臭原因物の実物を取扱うことは衛生上の問題、入手の容易さの問題、品質標準化の問題がある。このため、これらの問題に対処するため「模擬臭」といわれる疑似的な組成物を調製して、この模擬臭に対する消臭剤の消臭効果を検証することで実際の消臭効果を評価することが行われてきた。
【0006】
これらの模擬臭についても様々な提案がなされている。
【0007】
例えば特許文献1では、空間の模擬臭組成物及びそれを用いた評価方法としてアセトアルデヒドを主成分とした模擬臭組成物が報告されている。
【0008】
一方で、「ペット臭」については、その多くが糞尿臭を想定しており、多くの消臭剤は排泄物の悪臭成分であるアンモニアの消臭を目的に開発が行われている。しかしながら、一括りに「ペット臭」といっても、ペットの体表面から発生する汗臭・体臭それが付着した毛臭、さらには口臭など、ヒトと同様にペットにも様々な臭気源があり、そこから生じる悪臭に関する知見は少ないのが現状である。
【0009】
例えば特許文献2では動物の皮膚及び体毛、羽毛に付いた皮脂やタンパク質、外的要因による汚れに起因する臭気をペット臭としている。
【0010】
また、特許文献3ではペットに寄生するノミやダニなどの害虫、ブドウ球菌などの細菌、アレルギーなどに起因して起こる皮膚炎による膿や老廃物による体表の汚れをペットの悪臭 原因としている。
【0011】
そして、特許文献4ではペット臭の原因化合物としてトリメチルアミン、アンモニアなどの窒素系化合物、メチルメルカプタンなどのメルカプタン類、硫化水素などの硫黄系化合物やアルデヒド類、有機酸類を挙げている。
【0012】
非特許文献1では、炭化水素類、アルデヒド類及びケトン類化合物の存在を確認しているがこれらの実験結果は、実際にヒトが感じる動物としての臭いとは異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2015―163852号公報
【特許文献2】特開2009-227897号公報
【特許文献3】特開2005-170919号公報
【特許文献4】特開2002-710号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Analytical and Bioanalytical Chemistry,406,6691-6700(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、これら従来の知見に基づいた模擬臭はペット臭以外の生活空間臭気としての複合臭や、動物の糞便臭に着目して作られた汎用的なものであり、糞便臭のみをもって動物臭とはいえない。汗や皮脂に由来する体臭及び毛を含めた体表臭に着目して作られたリアルな動物臭の模擬臭に関しては十分な検討がなされておらず、よって従来の模擬臭では糞便臭を再現することはできても特定の動物の体臭も含めた消臭効果を検証する被検体としては不十分なものであり、従来の消臭剤もペット汎用の域を出ないものであった。現在のペット用品はイヌ用、ネコ用などと用途の細分化ニーズがある中、消臭剤にもそれぞれの動物に特化した消臭剤が必要であり、その開発のため、より実物に近い模擬臭の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、2-アセチル-1-ピロリンがイヌの体臭を特徴づける成分であることを見出し、また、2-アセチル-1-ピロリンに類似する香調を有する成分である、2-アセチルピラジン、並びに、2-アセチルピリジン、2,3,5-トリメチルピラジン及び2-アセチル-3-エチルピラジンが、2-アセチル-1-ピロリンと同様にイヌの体臭の模擬臭として使用できることを確認した。さらに本発明者らは、これらのアセチルピラジン類に脂肪酸を併用することで、イヌの体臭により近づけることができ、より実物に近いイヌ臭を再現することができることを見出した。本発明はこれらの知見を元に、さらに研究を重ねて完成したものである。
【0017】
すなわち、本発明には、以下の実施態様が含まれる。
【0018】
<1>
以下の(a)成分を含有することを特徴とするイヌ模擬臭用組成物:
(a)2-アセチル-1-ピロリン、2-アセチルピリジン、2,3,5-トリメチルピラジン、2-アセチルピラジン及び2-アセチル-3-エチルピラジンからなる群から選ばれる1種以上。
【0019】
<2>
前記(a)成分の含有量が0.0004質量%以上である<1>に記載のイヌ模擬臭用組成物。
【0020】
<3>
さらに(b)脂肪酸を含有することを特徴とする<1>又は<2>に記載のイヌ模擬臭用組成物。
【0021】
<4>
前記(b)脂肪酸が、炭素数2~16の脂肪酸からなる群から選ばれる1種以上である<3>に記載のイヌ模擬臭用組成物。
【0022】
<5>
前記(b)脂肪酸の含有量が0.0002~10質量%である<3>又は<4>に記載のイヌ模擬臭用組成物。
【0023】
<6>
<1>~<5>のいずれかに記載されるイヌ模擬臭用組成物を用いた、イヌ臭評価用指標剤。
【0024】
<7>
<1>~<5>のいずれかに記載されるイヌ模擬臭用組成物、イヌ臭の消臭効果の検証に使用する方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明のイヌ模擬臭用組成物によれば、イヌ臭を再現することができることから、イヌ臭を評価するための指標剤として使用することができる。また本発明のイヌ模擬臭用組成物を用いることにより、より効果的なイヌ臭の消臭効果の検証を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施例の欄で実験した結果をもとに、比較例1と実施例1について作成した箱ひげ図を示す。図中、○はパネル7名の評点の平均値を示す(
図2も同じ)。
【
図2】実施例の欄で実験した結果をもとに、比較例2と実施例12について作成した箱ひげ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のイヌ模擬臭用組成物は、アセチル-1-ピロリン、2-アセチルピリジン、2,3,5-トリメチルピラジン、2-アセチルピラジン及び2-アセチル-3-エチルピラジンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とする。本明細書において、これらの化合物を「アセチルピラジン類」と総称する場合がある。
【0028】
このうち、2-アセチル-1-ピロリンの閾値は0.02ng/L in Airと非常に低く(J.Agric. Food.Chem, 39, 1141- (1991)参照)、パン、米、枝豆などの食品中や、ジャコウネコ、トラ、ヒョウの尿にも含有されていることが知られている。2-アセチルー1ーピロリンは、メチルプロリネート、ピロリジン、ジアセチルなどを出発物質とする合成法が知られており、化学合成により入手可能である。
【0029】
前記2-アセチル-1-ピロリンと香調が類似する化合物として、2-アセチルピラジン、2-アセチルピリジン、2,3,5-トリメチルピラジン及び2-アセチル-3-エチルピラジンを挙げることができる。これらの化合物は、いずれも複素環中に窒素原子を1以上有し、アセチル基又は複数のアルキル基を持つという点で2-アセチル-1-ピロリンと共通した構造的特徴を有する化合物であり、この共通構造に起因して香調が類似するものと考えられる。これらの化合物は、2-アセチル-1-ピロリンよりも化学的に安定であり、取り扱い易いという利点がある。
【0030】
特に2-アセチルピラジンは、取扱いが容易で入手しやすいという利点がある。2-アセチルピラジンは、市販品を購入しても良いし、エーテル溶媒中で2-シアノピラジンからグリニヤ反応で得る方法や、特開平6-172327号公報で紹介されているように2-アルコキシカルボニルメチルカルボニルピラジン類を水との反応させる方法で合成しても良い。
【0031】
本発明のイヌ模擬臭用組成物は、前記2-アセチル-1-ピロリン、 2-アセチルピリジン、2,3,5-トリメチルピラジン、2-アセチルピラジン及び2-アセチル-3-エチルピラジンからなる群から選ばれる化合物のうち、1種の化合物を単独で使用してもよいし、1種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。好ましくは安定で取り扱い易い化合物である2-アセチルピラジンを、単独で使用するか、または他の化合物と組み合わせて用いることが望ましい。
【0032】
本発明のイヌ模擬臭用組成物における前記アセチルピラジン類の含有量は、本発明の組成物がイヌ模擬臭を発揮することを限度として、特に制限されない。好ましくは0.0004質量%以上である。より好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上である。上限値としても、前記の限り、限定されないものの、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、特に好ましくは5質量%以下を例示することができる。
【0033】
また、本発明のイヌ模擬臭用組成物は、前記アセチルピラジン類に加え、脂肪酸を含有してもよい。アセチルピラジン類と脂肪酸を併存させると、より実物のイヌの臭いに近いイヌ模擬臭用組成物を調製することができる。これは脂肪酸に特有の油脂や酸に起因する香気が、イヌの体臭を特徴づけ再現するのに適しているためと推測される。
【0034】
本発明のイヌ模擬臭用組成物に用いられる脂肪酸は、揮発性を有し、ヒトにとってはやや不快と感じる酸臭を有するものであればいずれも使用できるが、炭素数2~16の直鎖状または分岐鎖状の脂肪酸が好ましい。かかる脂肪酸には、制限されないものの、酢酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ベラルゴン酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、及びパルミチンン酸等の脂肪酸が含まれる。制限はされないものの、中でも炭素数2~6の中鎖以下の脂肪酸は、香気、揮発性及び扱いやすさのバランスが良く、より好ましい。これらは1種単独で、または2種以上を任意に組み合わせて、前述するアセチルピラジン類に組み合わせて使用される。
【0035】
さらに中鎖以下の脂肪酸の中でも特にヒトの汗臭、足裏臭、口臭などの生活環境中での悪臭物質の1つとしてよく知られている酪酸、及びイソ吉草酸は、本発明のイヌ模擬臭用組成物を特徴づけるのに最適であり、入手も容易であるので特に好ましい。
【0036】
本発明のイヌ模擬臭用組成物における前記脂肪酸の含有量は、前述するアセチルピラジン類に組み合わせることで、アセチルピラジン類によるイヌ模擬臭を妨げることなく、好ましくは、より一層イヌ臭を再現できることを限度として、特に制限されない。その限りで制限されないものの、好ましくは0.0002~10質量%の範囲から適宜選択することができる。制限されないが、下限値として好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上を、上限値として好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下を例示することができる。
【0037】
本発明のイヌ模擬臭用組成物の調製方法としては、制限されないが、上記成分を適宜溶剤に添加し、必要に応じて撹拌して、溶解し調製する。その際、成分を溶解する過程で熱を加えても良い。
【0038】
溶剤としては、前記成分を溶解しえる相溶性の高いものであり、しかも人体に安全で環境に優しいものであればよく、制限されないものの、例えば、ジプロピレングリコール(以下、DPGともいう)、エタノール、ジエチルフタレート、3-メトキシ-3-メチルブタノール、プロピレングリコール、流動性パラフィンなどがあげられる。
【0039】
本発明のイヌ模擬臭用組成物は、本発明の効果を妨げないことを限度として、さらに溶剤で希釈したり、又は界面活性剤、酸化防止剤、安定剤などの添加剤を配合したり、所望の形に製剤化したりしてもよく、消臭試験等の目的に応じて適宜、調製することができる。
【0040】
斯くして調製される本発明のイヌ模擬臭用組成物は、イヌ臭様の臭いを発生することから、イヌ模擬臭としてイヌ臭を再現する用途に使用することができる。具体的には、制限されないものの、イヌ臭を評価するための指標剤として使用することができる。より具体的には、例えば、イヌ臭用の消臭剤を研究開発する過程で、被験試料のイヌ臭に対する消臭効果を検証する際に、実際のイヌ臭に代えて、本発明のイヌ模擬臭用組成物を用いることができる。こうすることで、イヌ臭を用意する負担も少ないだけでなく、イヌ臭に対する消臭効果をバラツキなく評価することができるため、高い精度で再現性のよい結果を得ることができる。
【実施例0041】
以下、本発明に関して実施例を挙げて記述するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。なお、下記の実験は、特に言及しないかぎり、室温条件で実施した。
【0042】
(イヌ体表臭の成分分析の同定)
イヌ体表臭に関わる2種類の試料から揮発成分を捕集し、GC/MS及び、におい嗅ぎGC分析をした。その分析結果を、表1に示す。
【0043】
分析1:(試料1)イヌの飼育に使用したペットシート
イヌの飼育に使用したペットシートを細断し、セパレート型ガラス容器に入れた。Tenaxを材質とする捕集管を接続し、内部成分をポンプで捕集管へ約8時間、循環吸着させた。得られた捕集成分をエーテルで溶出し、におい嗅ぎGC分析したところ2つの特徴的な臭気を確認した。
【0044】
分析2:(試料2)イヌの体毛
イヌをトリミングして得た体毛を電気集塵機で集積し、そのクリーナーパックの臭気を、分析1と同様の手法で捕集管へ26時間循環吸着させた。得られた捕集成分をエーテル溶出し、におい嗅ぎGC分析したところ、分析1と同じく特徴的な臭気が確認できた。
【0045】
分析結果:イヌ臭成分の同定
前記分析1及び2のにおい嗅ぎGC分析の結果とGC/MSとを照合し、イヌ体表臭の特徴的な香気成分を同定した。
表1には、各分析実験において、DB1カラムで成分確認時間を「リテンションインデックス」として示した。リテンションインデックスとは、直鎖炭化水素の検出時間を基にした、分析カラムの特徴に依存する数値であり、例えばオクタンは800、ノナンは900となる。
【0046】
各分析の分析条件は以下の通りである。
使用機器:GC/MS(Agilent社製:6890N-MSD5973)
カラムDB1:0.25mm(i.d.)×0.25mm(film)×60m(Agilent社製),
GC条件
オーブン:50℃(5分保持)-3℃/min(上昇レート)-230℃,
キャリアガス:He(1mL/min),
試料導入スプリット比 2:1-適時,
導入温度250℃),
MS条件(EI(70eV),m/Zスキャン29-350,イオン源230℃).
GC-O実験(GLサイエンス社製:型番GC4000-OP275)
カラムInertCap1:0.53mm(i.d.)×1.0mm(film)×30m),
GC条件
オーブン:50℃(5分保持)-3℃/min(上昇レート)-230℃,
キャリアガス:He,スプリットレス,
試料導入温度250℃),
検出器:FID(250℃).
【0047】
同定の結果、2つの特徴的な成分は2-アセチル-1-ピロリン及びイソ吉草酸と判明した。
【表1】
【0048】
イヌ模擬臭用組成物の調製とその評価
前記2成分のうち、2-アセチル-1-ピロリンは化学的に不安定な化合物であるため、2-アセチル-1-ピロリンと同濃度で、同様の香調の臭いを発揮する化合物を探索した。その結果、2-アセチル-1-ピロリンと同様に、複素環中に窒素原子を1以上有し、アセチル基又は複数のアルキル基を有しており、この共通構造に起因して同様の香調の臭いを有することが確認された。なかでも2-アセチルピラジンは、化学的に安定で、商業的に入手しやすい化合物であることから、これを(a)アセチルピラジン類を代表する含有する化合物として、表2に記載する含有量になるように、残余をジプロピレングリコール(DPG)を溶媒として配合し、21種類のイヌ模擬臭用組成物(実施例1~21)を調製した。
【0049】
【0050】
このイヌ模擬臭用組成物(実施例1~21、比較例1及び2)を匂い紙に塗布したものを提示し、体系的な香気評価訓練を修了した後、香料調合の経験を十分に積み、香気評価技術に熟練した7名のパネラーにより官能評価を行った。官能評価は、上記試料1(イヌの飼育に使用したペットシート)の臭い(対照臭)と調製した模擬臭用組成物の臭い(被験臭)とを嗅いで、以下の三段階にポイント化して、各パネラーのスコアの平均値により試料1の対照臭と模擬臭用組成物の被験臭との類似及び非類似を評価した。なお、パネラー間の感覚の個人差、先入観を排除するため、サンプルの試験区番号や成分の比率についてはパネラーには知らせず、順不同に嗅がせた。ここでの判定基準は、臭気の強度に関係なく、同等の香調・香りの質を有するか否かの2点識別法による評価である。
【0051】
(スコア)
3点:試料1と香調が同等である
2点:試料1の香調に類似する
1点:試料1の香調とは異なる。
【0052】
評価結果(パネラー数(評価数)、その平均値、標準偏差)を表3に示す。
【表3】
【0053】
表3の結果から、実施例1~21の組成物はいずれもスコア2点以上と評価され、イヌの体臭が染みついた試料1の臭いと類似又は同等の臭いを有すると判断された。なかでも(a)成分に加えて(b)脂肪酸を含有する組成物はイヌ臭により近い臭いを有すると評価され、特に(b)脂肪酸として酪酸、イソ吉草酸、またはトランス-2-ヘキセニル酸を併用することで、一層イヌ臭に近い臭いを呈する組成物が調製できることが確認された。
【0054】
(a)成分の有効性を確認するため、比較例1と実施例1についての箱ひげ図を
図1に、比較例2と実施例12についての箱ひげ図を
図2に示す。
【0055】
図1及び2中の〇印はいずれも平均値を示す。
図1に示すように、比較例1はパネラー全員が1点のスコアを挙げており、実施例1はパネラー7名中2名が3点のスコアを挙げた。比較例1と実施例1の評価の結果、両平均値の差に対し、対応のある2群の検定(標準偏差の異なる)を実施した。その結果、平均値差1.143点、t値(4.38)、p値=0.005(p<0.01)、効果量(ヘッジズの効果量)2.34であった。比較例1と実施例1の平均値が等しいとする帰無仮説は、1%の有意水準をもって棄却された。
【0056】
図2に示すように、比較例2に対して3点のスコアを挙げたパネラーはいなかったのに対して、実施例12はパネラー7名中6名が3点のスコアを挙げた。
【0057】
比較例2と実施例12の評価の結果、両平均値の差に対し、対応のある2群の検定(標準偏差の異なる)を実施した。その結果、平均値差1.286点、t値(4.50)、p値=0.004(p<0.01)、効果量(ヘッジズの効果量)2.78であった。比較例2と実施例12の平均値が等しいとする帰無仮説は、1%の有意水準をもって棄却された。
【0058】
以上の結果より、(a)成分を用いた香気はイヌ模擬臭として有効であることと、また(a)成分に脂肪酸を共存させることによって、より実際のイヌ臭に近い臭いを再現でいるイヌ模擬臭用組成物が調製できることが確認できた。
本発明のイヌ模擬臭用組成物をイヌ臭評価用指標剤として用いることにより、より実際のイヌの臭気に近い消臭実験環境を容易に再現することもでき、より正確に消臭効果を評価ができることで効果的なイヌ臭の消臭剤開発に貢献することもできる。
消臭効果の評価試験例として、本発明のイヌ模擬臭用組成物を、任意に希釈し、濾紙、布または空間に塗布、噴霧、揮散、拡散したものをイヌ臭発生源とし、それに消臭剤を任意の方法で塗布または噴霧することで、簡便に消臭効果を確認することができる。