(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151328
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】固体粒子燃焼解析方法、固体粒子燃焼解析装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
F23N 5/00 20060101AFI20220929BHJP
F23G 5/50 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F23N5/00 Z
F23G5/50 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054351
(22)【出願日】2021-03-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】596120717
【氏名又は名称】株式会社アールフロー
(74)【代理人】
【識別番号】100182349
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 誠治
(72)【発明者】
【氏名】竹田 宏
【テーマコード(参考)】
3K003
3K062
【Fターム(参考)】
3K003EA10
3K003GA05
3K062AA01
3K062AA24
3K062AB01
3K062AC01
(57)【要約】
【課題】固体の燃焼反応をより短時間で効率的に解析することの可能な新規かつ改良された固体粒子燃焼解析方法、固体粒子燃焼解析装置及びコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】固体粒子を含む燃焼解析方法であって、流体に対する運動量保存則と質量保存則である第1の支配方程式と、流体に対するエネルギー保存則とガス濃度成分に対する保存則である第2の支配方程式と、固体粒子に対する運動方程式である第3の支配方程式と、固体粒子に対する温度方程式とスカラー方程式である第4の支配方程式と、により燃焼解析を行うにあたり、第4の支配方程式について、第1~第3の支配方程式で用いる時間tとは別の時間t’を用い、第1~第3の支配方程式については時間刻み巾Δtを用いて離散化し、第4の支配方程式については時間刻み巾Δt’(>Δt)を用いて離散化することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体粒子を含む燃焼解析方法であって、
流体に対する運動量保存則と質量保存則である第1の支配方程式と、
流体に対するエネルギー保存則とガス濃度成分に対する保存則である第2の支配方程式と、
固体粒子に対する運動方程式である第3の支配方程式と、
固体粒子に対する温度方程式とスカラー方程式である第4の支配方程式と、
により燃焼解析を行うにあたり、
前記第4の支配方程式について、前記第1~第3の支配方程式で用いる時間tとは別の時間t’を用い、
前記第1~第3の支配方程式については時間刻み巾Δtを用いて離散化し、前記第4の支配方程式については時間刻み巾Δt’(>Δt)を用いて離散化することを特徴とする、固体粒子燃焼解析方法。
【請求項2】
前記第1の支配方程式は、
αcρc Dvc/Dt=-αc∇p+αcρcg+αc(1-αc)β(vp-vc)+∇・(αcμ∇vc)
∂αc/∂t+∇・(αcvc)=0
で記述され、
前記第2の支配方程式は、
ρcCc DTp/Dt=STc
∂(αcfc)/∂t+∇・(αcfcvc)=Sfc
で記述され、
前記第3の支配方程式は、
ρpdvp/dt=(ρp-ρc)g+β(vc-vp)+Fp
dxp/dt=vp
で記述され、
前記第4の支配方程式は、
ρpCp dTp/dt=STp
dfp/dt=Sfp
で記述され、
前記第4の支配方程式を時間t’を用いて、
ρpCp dTp/dt’=STp
dFp/dt’=SFp
の第5の支配方程式で記述され、
前記第3、第5の支配方程式を離散化すると、
前記第3の支配方程式に対応する差分方程式は、
ρp(vp
n+1-vp
n)/Δt=(ρp-ρc)g+β(vc-vp)+Fp
(xp
n+1-xp
n)/Δt=vp
で記述され、
前記第5の支配方程式に対応する差分方程式は、
ρpCp(Tp
n+1-Tp
n)/Δt’=STp (7a)
(Fp
n+1-Fp
n)/Δt’=SFp (7a)
で記述され、
ここで、v:速度,p:圧力,T:温度,f:濃度又はスカラー変数,ST:発熱・吸熱項,SF:スカラーFの生成・消滅項,ρ:密度,μ:流体粘度,C:比熱,αc:流体(連続相)の体積占有率,β:粒子流体間運動量交換係数,dp:粒子径、Fp:粒子に対する外力であることを特徴とする、請求項1に記載の固体粒子燃焼解析方法。
【請求項3】
前記時間刻み巾Δt’は、前記時間刻み巾Δtの60倍以上360倍未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の固体粒子燃焼解析方法。
【請求項4】
固体粒子を含む燃焼解析解析を行うための固体粒子燃焼解析装置であって、
請求項1~3のいずれかに記載の固体粒子燃焼解析方法を実行可能な演算部を備えたことを特徴とする、固体粒子燃焼解析装置。
【請求項5】
コンピュータを請求項4に記載の固体粒子燃焼解析装置として機能させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体粒子燃焼解析を高速近似可能な固体粒子燃焼解析方法、固体粒子燃焼解析装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
焼却炉内のごみ燃焼解析を始めとする固体の燃焼解析では、ごみ等の固体粒子の燃焼反応及び燃焼に伴って発生するさまざまなガスの燃焼反応を、熱流動とともに解析する必要がある。一般的に、焼却炉内に流入又は発生したガスが炉外に出ていくまでの滞留時間は数秒からせいぜい十数秒と短く、また、ガス反応が進行するタイムスケールも数秒以下と短い。これに対し、固体の燃焼反応は数時間をかけてゆっくりと進行する。
【0003】
このため、ごみ等の固体粒子の燃焼解析では、短いタイムスケールのガス流動反応とゆっくりと進行する長いタイムスケールのごみ燃焼反応とを同時に解析することが必要となるが、解析に用いる時間刻み巾(Δt)としては、タイムスケールの短いガス流動反応の方にあわせて小さく設定しなければならない。
【0004】
さらに、ごみ等の固体粒子挙動の解析では、一般的に粒子間接触及び粒子壁間接触を考慮しなければならず、離散要素法(DEM)を用いて解析する必要があるが、DEMでは、Δtを数ミリ秒以下とさらに小さく設定しなければ安定に解析することができない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】粉体工学会誌 Vol.50 264-271(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のような事情のため、従来のごみ等の燃焼解析では、数時間以上の長時間にわたる燃焼プロセスを、数ミリ秒以下の小さなΔtを用いて解析する必要があり、膨大な計算時間を要する原因となっていた。
【0007】
そこで本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ゆっくりと進行する固体の燃焼反応をより短時間で効率的に解析することの可能な新規かつ改良された固体粒子燃焼解析方法、固体粒子燃焼解析装置及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点によれば、固体粒子を含む燃焼解析方法であって、流体に対する運動量保存則と質量保存則である第1の支配方程式と、流体に対するエネルギー保存則とガス濃度成分に対する保存則である第2の支配方程式と、固体粒子に対する運動方程式である第3の支配方程式と、固体粒子に対する温度方程式とスカラー方程式である第4の支配方程式と、により燃焼解析を行うにあたり、前記第4の支配方程式について、前記第1~第3の支配方程式で用いる時間tとは別の時間t’を用い、前記第1~第3の支配方程式については時間刻み巾Δtを用いて離散化し、前記第4の支配方程式については時間刻み巾Δt’(>Δt)を用いて離散化することを特徴とする、固体粒子燃焼解析方法が提供される。
【0009】
本発明は様々な応用が可能である。例えば、具体的な数式として以下のようなものを用いることができる。
前記第1の支配方程式は、
αcρc Dvc/Dt=-αc∇p+αcρcg+αc(1-αc)β(vp-vc)+∇・(αcμ∇vc)
∂αc/∂t+∇・(αcvc)=0
で記述され、
前記第2の支配方程式は、
ρcCc DTp/Dt=STc
∂(αcfc)/∂t+∇・(αcfcvc)=Sfc
で記述され、
前記第3の支配方程式は、
ρpdvp/dt=(ρp-ρc)g+β(vc-vp)+Fp
dxp/dt=vp
で記述され、
前記第4の支配方程式は、
ρpCp dTp/dt=STp
dfp/dt=Sfp
で記述され、
前記第4の支配方程式を時間t’を用いて、
ρpCp dTp/dt’=STp
dFp/dt’=SFp
の第5の支配方程式で記述され、
前記第3、第5の支配方程式を離散化すると、
前記第3の支配方程式に対応する差分方程式は、
ρp(vp
n+1-vp
n)/Δt=(ρp-ρc)g+β(vc-vp)+Fp
(xp
n+1-xp
n)/Δt=vp
で記述され、
前記第5の支配方程式に対応する差分方程式は、
ρpCp(Tp
n+1-Tp
n)/Δt’=STp (7a)
(Fp
n+1-Fp
n)/Δt’=SFp (7a)
で記述され、
ここで、v:速度,p:圧力,T:温度,f:濃度又はスカラー変数,ST:発熱・吸熱項,SF:スカラーFの生成・消滅項,ρ:密度,μ:流体粘度,C:比熱,αc:流体(連続相)の体積占有率,β:粒子流体間運動量交換係数,dp:粒子径、Fp:粒子に対する外力であってもよい。
【0010】
かかる方法によれば、計算時間のボトルネックとなっていた固体粒子に対する解析を短時間で近似することができる。従来の方法に比べてt/t’の計算時間(例えば、数十分の1から百分の1の計算時間)でもって固体粒子の燃焼解析を実現することが可能となり、計算時間の大幅な短縮化が図れる。このようにして、ゆっくりと進行する固体の燃焼反応をより短時間で効率的に解析することが可能である。
【0011】
また、前記時間刻み巾Δt’は、前記時間刻み巾Δtの60倍以上360倍未満であってもよい。解析結果が影響を受けない範囲内で、Δt’をできるだけ大きく設定することが効果的であると考えられるが、実験結果からこの範囲が最適である。
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の第2の観点によれば、固体粒子を含む燃焼解析を行うための固体粒子燃焼解析装置であって、本発明の第1の観点にかかる固体粒子燃焼解析方法を実行可能な演算部を備えたことを特徴とする、固体粒子燃焼解析装置が提供される。
【0013】
本発明の第3の観点によれば、コンピュータを本発明の第2の観点にかかる固体粒子燃焼解析装置として機能させるためのコンピュータプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ゆっくりと進行する固体の燃焼反応をより短時間で効率的に解析することの可能な固体粒子燃焼解析方法、固体粒子燃焼解析装置及びコンピュータプログラムを提供が提供される。本発明のその他の効果については、以下の発明を実施するための形態の項でも説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ストーカー式ごみ焼却炉内でのごみ燃焼プロセスを概説した模式図である。
【
図2】ストーカー式ごみ焼却炉内に投入されたごみが燃焼していく様子を解析した事例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
図1は、典型的なストーカー式ごみ焼却炉内でのごみ燃焼プロセスを概説した模式図である。
図1中左上から投入されたごみは、焼却炉内のストーカー(火格子)の上を、
図1中右下の灰排出口に向かって、2~3時間かけてゆっくりと移動する。その間、ごみは乾燥、熱分解、チャー燃焼の各燃焼プロセスを経て小さな灰に分解され、最終的に、主灰として灰排出口から排出されるか、もしくは飛灰として焼却炉上部から排出される。また、焼却炉内では、外部から吹き込まれる空気に加えて、水蒸気等のさまざまなガスが燃焼に伴って発生する。
【0018】
ごみ等の固体粒子を含む燃焼解析の支配方程式は、大きく下記の4つの式から構成される。
(1)流体(ガス)に対する運動量保存則と質量保存則
αcρc Dvc/Dt=-αc∇p+αcρcg+αc(1-αc)β(vp-vc)+∇・(αcμ∇vc) (1a)
∂αc/∂t+∇・(αcvc)=0 (1b)
(2)流体(ガス)に対するエネルギー保存則とガス濃度成分(fc)に対する保存則
ρcCc DTp/Dt=STc (2a)
∂(αcfc)/∂t+∇・(αcfcvc)=Sfc (2b)
(3)固体粒子に対する運動方程式(運動量保存則)
ρpdvp/dt=(ρp-ρc)g+β(vc-vp)+Fp (3a)
dxp/dt=vp (3b)
(4)固体粒子に対する温度方程式(エネルギー保存則)とスカラー方程式
ρpCp dTp/dt=STp (4a)
dfp/dt=Sfp (4b)
【0019】
ここで、v:速度,p:圧力,T:温度,f:濃度又はスカラー変数,ST:発熱・吸熱項,SF:スカラーFの生成・消滅項,ρ:密度,μ:流体粘度,C:比熱,αc:流体(連続相)の体積占有率,β:粒子流体間運動量交換係数,dp:粒子径、Fp:粒子に対する外力である。
【0020】
上式において、下付き添え字cは流体(連続相)、下付き添え字pは粒子に対する物理量を表す。また、式(4b)の固体粒子に対するスカラー変数fpは、ごみ粒子に含まれる水分の蒸発率、熱分解率、チャー燃焼率等に対応する。
【0021】
(固体粒子燃焼解析における高速近似解法)
上記の支配方程式(1)~(4)は時間t及び空間xを独立変数とする偏微分方程式となっており、与えられた初期値と境界条件の下で解くことができるが、本解法は時間に関する近似解法のため、以下、時間に関わる部分に限定して説明する。
【0022】
時間に関して式(1)~(4)を数値的に解く際、適当な時間刻み巾(Δt)を与えて、差分法等の離散化手法を用いて解き進むことになるが、その際に、式(4)は、式(1)~(3)とは異なる時間スケールに支配されるものと仮定し、式(4)については式(1)~(3)の時間tとは別の時間t’を用いて下記のように記述する。
【0023】
(5)式(4)を時間tとは別の時間t’を用い
ρpCp dTp/dt’=STp (5a)
dFp/dt’=SFp (5b)
【0024】
その上で、式(1)~(3)については時間刻み巾Δtを用いて離散化し、式(4)については時間刻み巾Δt’を用いて離散化するものとすると、式(3)及び(5)に対応する差分方程式は次のように記述される。
【0025】
(6)式(3)に対応する差分方程式
ρp(vp
n+1-vp
n)/Δt=(ρp-ρc)g+β(vc-vp)+Fp (6a)
(xp
n+1-xp
n)/Δt=vp (6b)
(7)式(5)に対応する差分方程式
ρpCp(Tp
n+1-Tp
n)/Δt’=STp (7a)
(Fp
n+1-Fp
n)/Δt’=SFp (7a)
【0026】
ここに、上付き添え字nは、離散化された時間の時間レベル(時間ステップ)を表す。なお、式(6)、(7)の右辺の時間レベルは、用いる差分スキームにより異なってくるため、ここでは右辺の項に対する添え字nの記述は省略してある。また、式(1)及び(2)に対する差分方程式については、式(3)と同様Δtを用いて離散化することになるため、記載を省略した。
【0027】
本高速近似解法では、時間に関して離散化した固体粒子の温度及びスカラーに関する差分方程式(7)を解く際に用いる時間刻み巾Δt’を、その他の差分方程式(6)等を解く際に用いる時間刻み巾Δtよりも大きく設定して、時間レベルnを更新する。これにより、Δt’をΔtと等しく取る従来の解法に比べて、1時間レベルあたりの粒子反応の進行度変化がΔt’/Δt倍になり、固体粒子が燃焼し切るまでに要する総時間レベル数がΔt/Δt’倍少なくなる。その結果、燃焼解析全体に要する計算時間が従来の解法のΔt/Δt’倍になり、計算時間の短縮化が図れる。
【0028】
図2はストーカー式ごみ焼却炉内に投入されたごみが燃焼していく様子を本高速近似解法手法を用いて解析した事例である。なお、焼却装置のスケール、ごみ投入量等の諸条件については、焼却炉の奥行きを実炉の10分の1程度に小さくしている他は、ストーカー炉の一般的な値を用いている。また、本高速近似解法以外の解析手法については、引用文献1)に記載の一般的な手法を用いて解析している。
【0029】
図2中、(a)がガス中酸素濃度(体積割合)、(b)がごみに含まれる水分蒸発によって発生した水蒸気濃度(体積割合)、(c)がごみ粒子温度、(d)がごみに含まれるチャーの減少率(ごみ投入時が0で燃焼完了時が1)を表している。また、
図2左列には、比較のため、Δt’をΔt(=0.003秒)と等しく設定した(Δt’=0.003秒)従来手法による解析結果を示してある。一方、
図2中列は、ΔtはそのままでΔt’=0.18秒(Δtの60倍)と設定した場合の解析結果、
図2右列は、Δt’=1.08秒(Δtの360倍)と設定した場合の解析結果に対応している。
【0030】
図2中列の解析結果を左列の解析結果と比較すると、Δt’をΔtの60倍と大きく取っても、Δt’がΔtに等しく取る従来の解析手法とほぼ同様の解析結果が得られることがわかる。一方、Δt’をΔtの360倍に設定した場合には、ガス中酸素濃度分布、ごみ粒子の挙動等が、Δt’をΔtと等しく取った従来手法による解析結果と比べるとわずかながらずれてくるようになる。
【0031】
このように、Δt’をΔtに対して大きく取る程、本高速近似解法による解析結果がΔt’をΔtと等しく取る従来の解析手法による解析結果とはずれてくる。このことから、本高速近似解法を用いる場合、解析結果が影響を受けない範囲内で、Δt’をできるだけ大きく設定することが効果的であると考えられる。
【0032】
なお、本解析においては、Δt’をΔtよりも大きく取った場合に、時間t’の時空間において本来の燃焼速度が保たれるよう、ストーカーの移動速度及びごみ粒子の投入流量が時間t’の時空間上で変化しないように設定してある。そのため、時間tの時空間上では、ストーカーの移動速度及びごみ粒子の投入流量は、Δt’がΔtの60倍(360倍)の場合は、Δt’をΔtに等しく設定した場合の60倍(360倍)となっている。その結果、Δt’がΔtの60倍(360倍)の場合は、1時間レベル(時間ステップ)でのストーカー上での粒子移動距離、燃焼進行度合いともに、Δt=Δt’の場合の60倍(360倍)となっている。
【0033】
本燃焼解析にかかる計算時間は、Δt’がΔtの60倍(360倍)の場合、Δt’をΔtに等しく取る従来手法の60分の1(360分の1)に短縮化される。なお、実際の解析に要する計算時間は、焼却炉のスケールあるいは形状、運転条件、解析に用いるPC等、さまざまな要因に依存するため一概には言えないが、仮に、Δt’をΔtに等しく取る従来の解析手法で、ストーカー上に投入されたごみが燃焼して主灰もしくは飛灰として排出されるまでの解析に2か月かかっていたとすると、Δt’をΔtの60倍と設定した本高速近似解法の場合、わずか1日の計算で解析結果が出ることになる。そのため、本高速近似解法の適用により大幅な計算時間の短縮化が図れ、実用上の効果はきわめて大きい。
【0034】
(本実施形態の効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、計算時間のボトルネックとなっていた固体粒子に対する解析を短時間で近似することができる。従来の方法に比べてt/t’の計算時間(例えば、数十分の1から百分の1の計算時間)でもって固体粒子の燃焼解析を実現することが可能となり、計算時間の大幅な短縮化が図れる。このようにして、ゆっくりと進行する固体の燃焼反応をより短時間で効率的に解析することが可能である。
【0035】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0036】
例えば、上記実施形態では、第1~第4の支配方程式として、式(1)~(4)を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。他の式でもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、時間刻み巾Δt’が時間刻み巾Δtの60倍(360倍)の場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。Δt’/Δtについては、上記実施形態に示した実験結果からは、60以上360未満が最適であるが、これ以外の範囲でもよい。
【0038】
上記実施形態、応用例、変形例は、任意に組み合わせて実施することができる。