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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151359
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】光電変換層の除去方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/44 20060101AFI20220929BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20220929BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220929BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H01L31/04 124
H01L31/04 112Z
H05B33/10
H05B33/14 A
H05B33/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054395
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】519259342
【氏名又は名称】株式会社エネコートテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】河村 達朗
(72)【発明者】
【氏名】藪本 利彦
【テーマコード(参考)】
3K107
5F151
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107AA05
3K107CC45
3K107GG14
5F151AA11
5F151CB13
5F151CB22
5F151CB24
5F151EA09
5F151EA10
5F151EA11
5F151EA16
5F151FA02
5F151FA03
5F151FA04
5F151FA06
5F151GA02
5F151GA03
5F151GA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電極を除去せずに光電変換層を除去する方法を提供する。
【解決手段】基板3上に第1の電極5と光電変換層7,9,11とを有する積層体の第1の領域について、第1の電極5を除去せずに前記光電変換層7,9,11をパルス光24を用いて除去する方法であって、パルス光24の最大強度を,パルス光を2回照射した際に光電変換層7,9,11を除去する強度であって、第1の電極5を除去しない強度以上、パルス光24を1回照射した際に、光電変換層7,9,11を除去する強度であって、第1の電極5を除去しない強度以下の設定強度範囲とし,パルス光のうち設定強度範囲にある領域が重複せず隣接するように,光パルスを第1の領域に複数回照射する方法。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(3)上に第1の電極(5)と光電変換層(7,9,11)とを有する積層体の第1の領域について,前記第1の電極(5)を除去せずに前記光電変換層(7,9,11)をパルス光を用いて除去する方法であって,
前記パルス光の最大強度を,
前記パルス光を2回照射した際に,前記光電変換層(7,9,11)を除去する強度であって,前記第1の電極(5)を除去しない強度以上,
前記パルス光を1回照射した際に,前記光電変換層(7,9,11)を除去する強度であって,前記第1の電極(5)を除去しない強度以下の設定強度範囲とし,
前記パルス光のうち前記設定強度範囲にある領域が重複せず隣接するように,前記光パルスを第1の領域に複数回照射する,方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって,
前記光電変換層(7,9,11)は,ペロブスカイト層を含む,方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって,
前記パルス光は,透明電極(5)側から照射される,方法
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって,
前記パルス光の波長は,光電変換層(7,9,11)の吸光度が,透明電極(5)の吸光度より大きいものである,方法
【請求項5】
請求項1に記載の方法を用いた太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,太陽電池などの素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2018-163938号公報には,太陽電池が記載されている。
【0003】
例えば,高い電圧を有する太陽電池モジュールを得るためには,同一基板内でセルを直列に接続し,集積型構造を有する太陽電池モジュールとすることが望ましい。
そして,集積型構造を有するモジュールを得るために発電層を分離する場合,レーザを用いてエッチングを行い,ペロブスカイト層,正孔輸送層及び電子輸送層の一部を除去することが想定された。しかし,そのようなエッチングを行うと,透明電極まで除去されたり,光電変換層の除去が過小になったりすることがある。その場合,当該モジュールが,太陽電池として機能しなくなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-163938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この明細書に記載されるある発明は,電極を除去せずに光電変換層を除去する方法を提供することを目的とする。
【0006】
この明細書に記載されるある発明は,上記の方法を用いた太陽電池の製造方法を提供することを上記とは別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この明細書に記載されるある発明は,照射するパルス光の強度を調節することで,電極を除去せずに,光電変換層の除去することができるという知見に基づく。
【0008】
この明細書に記載されるある第一の発明の方法は,基板3上に第1の電極5と光電変換層7,9,11とを有する積層体の第1の領域について,前記第1の電極5を除去せずに前記光電変換層7,9,11をパルス光を用いて除去する方法であって,
前記パルス光の最大強度を,前記パルス光を2回照射した際に,前記光電変換層7,9,11を除去する強度であって,前記第1の電極5を除去しない強度以上,前記パルス光を1回照射した際に,前記光電変換層7,9,11を除去する強度であって,前記第1の電極5を除去しない強度以下の設定強度範囲とし,前記パルス光のうち前記設定強度範囲にある領域が重複せず隣接するように,前記光パルスを第1の領域に複数回照射する,方法である。
【0009】
この方法の好ましい例は,光電変換層7,9,11は,ペロブスカイト層9を含む,方法である。
【0010】
この方法の好ましい例は,パルス光は,透明電極5側から照射される,方法である。
【0011】
この方法の好ましい例は,パルス光は,前記パルス光の波長は,光電変換層7,9,11の吸光度が,透明電極5の吸光度より大きい場合の方法である。
【0012】
この明細書に記載されるある発明の方法は,第一の発明の方法を用いた太陽電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
この明細書に記載されるある発明は,電極を除去せずに光電変換層を除去する方法を提供できる。この明細書に記載されるある発明は,上記の方法を用いた太陽電池の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は,素子の製造方法の例を示すフローチャートである。
図2図2は,素子材料の例を示す概念図である。
図3図3は,素子材料の例を示す,図2とは別の概念図である。
図4図4は,電子輸送層形成工程の後の段階にある製造途中の素子材料を示す概念図である。
図5図5は,正孔輸送形成工程の後の素子材料を示す概念図である。
図6図6は,レーザ加工の模式図である。
図7図7は,基板面に照射されるパルスレーザビームの従来のパターン例を示す概念図である。
図8図8は,正常に加工された場合の素子材料の例を示す概念図である。
図9図9は,加工が過剰の場合の素子材料の例を示す概念図である。
図10図10は,加工が過少の場合の素子材料の例を示す概念図である。
図11図11は,レーザビームのプロファイルの例を示す概念図である。
図12図12は,レーザビームのプロファイルを考慮した基板面に照射されるパルスレーザビームの従来のパターン例1を示す概念図である。
図13図13は,レーザビームのプロファイルを考慮した基板面に照射されるパルスレーザビームの従来の他のパターン例2を示す概念図である。
図14図14は,レーザビームのプロファイルを考慮した基板面に照射されるパルスレーザビームの本発明のパターン例1を示す概念図である。
図15図15は,レーザビームのプロファイルを考慮した基板面に照射されるパルスレーザビームの本発明のパターン例2を示す概念図である。
図16図16は,裏面電極及び取出電極形成工程の後であり製造途中の素子を示す概念図である。
図17図17は,実施例1における太陽電池を説明するための概念図である。
図18図18は,実施例2及び3における太陽電池を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0016】
図1は,素子の製造方法の例を示すフローチャートである。図1に示されるように,この素子の製造方法は,電極形成工程(S1)と,電子輸送層形成工程(S2)と,ペロブスカイト層形成工程(S3)と,正孔輸送形成工程(S4)と,レーザ加工工程(S5)と,裏面電極及び取出電極形成工程(S6)とを含む。
【0017】
図2図3は,素子材料21の例を示す概念図である。図2図3に示されるように,素子材料は,基板3と,第1電極5a及び第2電極5bを含む電極5と,第1電子輸送層7a及び第2電子輸送層7bと,ペロブスカイト層9と,正孔輸送層11と,裏面電極13と取出電極14を有する。この例では,第1電子輸送層7a,第2電子輸送層7b,ペロブスカイト層9及び正孔輸送層11が,光電変換層として機能する。素子材料は,第1正孔輸送層,第2正孔輸送層,ペロブスカイト層及び電子輸送層をこの順で含む光電変換層を有するものであってもよい。
【0018】
素子の例は,太陽電池,集積型構造を有する太陽電池モジュール及び有機EL素子である。これらは,以下に説明するそれぞれの構成以外に,太陽電池や有機EL素子が有する公知の要素を適宜採用してもよい。
【0019】
基板3(透明基板)
基板3として,ペロブスカイト太陽電池や有機EL素子における公知の基板を適宜用いることができる。基板の例は,ガラス基板,絶縁体基板,半導体基板,金属基板及び導電性基板(導電性フィルムも含む)である。また,これらの表面の一部又は全部の上に,金属膜,半導体膜,導電性膜及び絶縁性膜の少なくとも1種の膜が形成されている基板も好適に用いることができる。
【0020】
金属膜の構成金属の例は,ガリウム,鉄,インジウム,アルミニウム,バナジウム,チタン,クロム,ロジウム,ニッケル,コバルト,亜鉛,マグネシウム,カルシウム,シリコン,イットリウム,ストロンチウム及びバリウムから選ばれる1種又は2種以上の金属である。半導体膜の構成材料の例は,シリコン,ゲルマニウム等の元素単体,周期表の第3族~第5族,第13族~第15族の元素を有する化合物,金属酸化物,金属硫化物,金属セレン化物,金属窒化物等が挙げられる。また,前期導電性膜の構成材料の例は,スズドープ酸化インジウム(ITO),フッ素ドープ酸化インジウム(FTO),酸化亜鉛(ZnO),アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO),ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO),酸化スズ(SnO),酸化インジウム(In),酸化タングステン(WO)である。前期絶縁性膜の構成材料の例は,酸化アルミニウム(Al),酸化チタン(TiO),酸化シリコン(SiO),窒化シリコン(Si),酸窒化シリコン(Si)である。
【0021】
基板の形状の例は,平板や円板等の板状,繊維状,棒状,円柱状,角柱状,筒状,螺旋状,球状,リング状であり,多孔質構造体であってもよい。これらのうちでは板状の基板が好ましい。基板の厚さの例は,0.1μm~100mmが好ましく,1μm~10mmがより好ましい。
【0022】
電極5(透明電極5a,5b)
透明電極5a,5bは,上記の基板3上に設けられる。このとき,透明電極5a,5bは,基板3の上に直接設けられてもよいし,何らかの層を介して基板3の上に設けられてもよい。電極5は,電子輸送層の支持体であるとともに,(正孔)ブロッキング層を介してペロブスカイト層(光吸収層)より電流(電子)を取り出す機能を有する層である。このため,透明電極は,導電性基板や,光電変換に寄与する光を透過可能な透光性を有する透明導電層であることが好ましい。
【0023】
透明導電層としては,例えば,スズドープ酸化インジウム(ITO)膜,不純物ドープの酸化インジウム(In)膜,不純物ドープの酸化亜鉛(ZnO)膜,フッ素ドープ二酸化スズ(FTO)膜,これらを積層してなる積層膜等が挙げられる。これら透明導電層の厚みは特に制限されず,通常,シート抵抗が5~15Ω/□(単位面積当たり)となるように調整することが好ましい。当該透明導電層は,成形する材料に応じ,公知の成膜方法により得ることができる。
また,透明導電層は,外部から保護するために,必要に応じて,透光性被覆体により覆われ得る。当該透光性被覆体としては,例えば,フッ素樹脂,ポリ塩化ビニル,ポリイミド等の樹脂シート,白板ガラス,ソーダガラス等の無機シート,これらの素材を組合せてなるハイブリッドシート等が挙げられる。これら透光性被覆体の厚みは特に制限されず,通常,抵抗が5~15Ω/□となるように調整することが好ましい。
【0024】
透明電極層と電子輸送層との間に正孔ブロッキング層が設けられてもよい。(正孔)ブロッキング層は,正孔の漏れを防ぎ,逆電流を抑制して太陽電池特性(特に光電変換効率)を向上させるために設けられる層であり,透明電極とペロブスカイト層(光吸収層)との間に設けられることが好ましい。(正孔)ブロッキング層は,酸化チタン等の金属酸化物からなる層が好ましく,コンパクトTiO等のn型半導体で透明電極の表面を平滑且つ緻密に覆った層がより好ましい。「緻密」とは,電子輸送層中の金属化合物の充填密度より高密度で金属化合物が充填されていることを意味する。なお,透明電極と電子輸送層とが電気的に接続されなければ,ピンホール,クラック等が存在していてもよい。
【0025】
(正孔)ブロッキング層の膜厚は,例えば,5~300nmである。(正孔)ブロッキング層の膜厚は,電極への電子注入効率の観点より,10~200nmがより好ましい。
【0026】
(正孔)ブロッキング層は上記透明電極上に形成される。金属酸化物を(正孔)ブロッキング層に用いる場合,既知の方法に従って(例えば,非特許文献4,J. Phys. D: Appl. Phys. 2008, 41, 102002.等),例えばスプレーパイロリシスを行うことにより作製できる。例えば,200~550℃(特に300~500℃)に加熱したホットプレート上に置いた透明電極に0.01~0.40M(特に0.02~0.20M)の金属アルコキシド(チタンジ(イソプロポキシド)ビス(アセチルアセトナート)等のチタンアルコキシド等)のアルコール溶液(例えばイソプロピルアルコール溶液等)をスプレーで吹き付けて作製できる。
【0027】
その後,得られた基板を,酸化チタン(TiO等),チタンアルコキシド(チタンイソプロポキシド等),チタンハロゲン化物(TiCl等)の水溶液中に浸漬して加熱することで,より緻密な膜とすることもできる。
【0028】
(正孔)ブロッキング層の原料を含む水溶液における原料の濃度は,0.1~1.0mMが好ましく,0.2~0.7mMがより好ましい。また,浸漬温度は30~100℃が好ましく,50~80℃がより好ましい。さらに,加熱条件は200~1000℃(特に300~700℃)で5~60分(特に10~30分)が好ましい。
【0029】
電子輸送層7
電子輸送層7は,ペロブスカイト層(光吸収層)の活性表面積を増加させ,光電変換効率を向上させるとともに,電子収集しやすくするために形成される。電子輸送層は,基板上に形成してもよいが,(正孔)ブロッキング層の上に形成しても良い。また,上記の(正孔)ブロッキング層が,電子輸送層として機能してもよいし,電子輸送層が(正孔)ブロッキング層を兼ねてもよい。電子輸送層はフラーレン誘導体等有機半導体材料を用いた平坦な層でもよい。また,電子輸送層は,酸化チタン(TiO)(メソポーラスTiOを含む),酸化スズ(SnO),酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物からなる層であってもよい。
【0030】
なお,金属化合物が半導体である場合には,ドナーをドープすることもできる。これにより,電子輸送層がペロブスカイト層(光吸収層)に導入するための窓層となり,且つ,ペロブスカイト層(光吸収層)から得られた電力をより効率よく取り出すことができる。
【0031】
電子輸送層の厚みは,特に制限されず,ペロブスカイト層(光吸収層)からの電子をより収集できる観点から,10~300nm程度が好ましく,10~50nm程度がより好ましい。電子輸送層は,成形する材料に応じて公知の成膜方法を用いて得ることができる。例えば,透明電極の上に,3~15質量%(特に5~10質量%)の酸化スズ微粒子の水分散液を塗布して作製することができる。酸化スズ微粒子水分散液は公知又は市販品を用いることができる。塗布の方法は,スピンコート法が好ましい。なお,塗布は例えば15~30℃程度で行うことができる。
【0032】
ペロブスカイト層9
ペロブスカイト太陽電池におけるペロブスカイト層(光活性層,光吸収層)9は,光を吸収し,励起された電子と正孔を移動させることにより,光電変換を行う層である。ペロブスカイト層(光吸収層)9は,ペロブスカイト材料や,ペロブスカイト錯体を含む。混合液をスピンコート,ディップコート,スクリーン印刷法,ロールコート,ダイコート法,転写印刷法,スプレー法,スリットコート法等,好ましくはスピンコートにより基板上に塗布することが好ましい。
【0033】
ペロブスカイト層(光活性層,光吸収層)9の膜厚は,光吸収効率と励起子拡散長とのバランス及び透明電極で反射した光の吸収効率の観点から,例えば,50~1000nmが好ましく,200~800nmがより好ましい。なお,本発明のペロブスカイト層(光吸収層)9の膜厚は,100~1000nmの範囲内であることが好ましく,250~500nmの範囲内であることがより好ましい。本発明のペロブスカイト層(光活性層,光吸収層)9の膜厚は,膜の断面走査型電子顕微鏡(断面SEM)により測定する。
【0034】
また,本発明のペロブスカイト層(光活性層,光吸収層)9の平坦性は,走査型電子顕微鏡により測定した表面の水平方向500nm×500nmの範囲において高低差が50nm以下(-25nm~+25nm)であるものが好ましく,高低差が40nm以下(-20nm~+20nm)であるのがより好ましい。これにより,光吸収効率と励起子拡散長とのバランスをより取りやすくし,裏面電極で反射した光の吸収効率をより向上させることができる。なお,ペロブスカイト層(光吸収層)9の平坦性とは,任意に決定した測定点を基準点とし,測定範囲内において最も膜厚が大きいところとの差を上限値,最も小さいところとの差を下限値としており,本発明のペロブスカイト層(光吸収層)9の断面走査型電子顕微鏡(断面SEM)により測定する。
【0035】
スズ系ペロブスカイト層は,0価のスズ,ピラジン系化合物,ケイ素系化合物,及びゲルマニウム系化合物から選ばれる1種又は2種以上を合計で0.01ppm以上1000ppm以下含む。このスズ系ペロブスカイト層は,上記のスズ系ペロブスカイト層の製造方法に基づいて得ることができ,還元剤などの残留物が所定量存在する。所定量の特定の物質が残留することで,スズ系ペロブスカイト層は,パッシベーションに優れたものとなる。これらの物質の含有量は,スズ系ペロブスカイト層を成分分析することにより分析できる。以下に説明する実施例において実際にスズ系ペロブスカイト層が得られている。そして,上記の含有量には,臨界性がある(上記の数値の範囲外と範囲内とではパッシベーションに有意差がある)。ピラジン系化合物及びケイ素系化合物の例は,式(I)~式(V)で示される化合物である。ゲルマニウム系化合物は,先に説明したゲルマニウム系還元剤や,それらの還元剤と,溶液中の化合物が反応して生成された化合物である。上記の合計量は,0.1ppm以上500ppm以下でもよいし,1ppm以上500ppm以下でもよい。このようなスズ系ペロブスカイト層を有する発光性材料や,光電変換素子は,上記の特性を生かし,良好な特性を有することとなる。なお,ペロブスカイト層9はスズ系のペロブスカイト層に限らず,鉛系など他の材料からなるペロブスカイト層を用いてもよい。
【0036】
正孔輸送層11
正孔輸送層11は,電荷を輸送する機能を有する層である。正孔輸送層には,例えば,導電体,半導体,有機正孔輸送材料等を用いることができる。当該材料は,ペロブスカイト層(光吸収層)から正孔を受け取り,正孔を輸送する正孔輸送材料として機能し得る。正孔輸送層はペロブスカイト層(光吸収層)上に形成される。当該導電体及び半導体としては,例えば,CuI,CuInSe,CuS等の1価銅を含む化合物半導体;GaP,NiO,CoO,FeO,Bi,MoO,Cr等の銅以外の金属を含む化合物が挙げられる。なかでも,より効率的に正孔のみを受け取り,より高い正孔移動度を得る観点から,1価銅を含む半導体が好ましく,CuIがより好ましい。有機正孔輸送材料としては,例えば,ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT),ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体;2,2’,7,7’-テトラキス-(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレン(Spiro-OMeTAD)等のフルオレン誘導体;ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール誘導体;ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン](PTAA)等のトリフェニルアミン誘導体;ジフェニルアミン誘導体;ポリシラン誘導体;ポリアニリン誘導体等が挙げられる。なかでも,より効率的に正孔のみを受け取り,より高い正孔移動度を得る観点から,トリフェニルアミン誘導体,フルオレン誘導体等が好ましく,PTAA,Spiro-OMeTADなどがより好ましい。
【0037】
正孔輸送層中には,正孔輸送特性をさらに向上させることを目的として,リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI),銀ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド,トリフルオロメチルスルホニルオキシ銀,NOSbF,SbCl,SbF,トリス(2-(1H-ピラゾール-1-イル)-4-tert-ブチルピリジン)コバルト(III)トリ[ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド]等の酸化剤を含むこともできる。また,正孔輸送層中には,t-ブチルピリジン(TBP),2-ピコリン,2,6-ルチジン等の塩基性化合物を含むこともできる。酸化剤及び塩基性化合物の含有量は,従来から通常使用される量とすることができる。正孔輸送層の膜厚は,より効率的に正孔のみを受け取り,より高い正孔移動度を得る観点から,例えば,50~500nmが好ましく,100~300nmがより好ましい。正孔輸送層を成膜する方法は,例えば,乾燥雰囲気下で行うことが好ましい。例えば,有機正孔輸送材料を含む溶液を,乾燥雰囲気下,ペロブスカイト層(光吸収層)上に塗布(スピンコート等)し,30~180℃(特に100~150℃)で加熱することが好ましい。
【0038】
電子輸送層7,ペロブスカイト層9,及び正孔輸送層11は,透明電極5a,5b上にこの順で形成されてもよい。また,電子輸送層7,ペロブスカイト層9,及び正孔輸送層13は,透明電極5a,5b上に,正孔輸送層11,ペロブスカイト層9,及び電子輸送層7の順で形成されてもよい。光電変換層は,電子輸送層7,ペロブスカイト層9,及び正孔輸送層11のみから構成されていてもよいし,電子輸送層7,ペロブスカイト層9,及び正孔輸送層11以外の層が適宜含まれていてもよい。
【0039】
裏面電極13
裏面電極13は,それが金属のものの場合,金属電極ともよばれる電極である。裏面電極は,透明電極に対向配置され,正孔輸送層の上に形成されることで,正孔輸送層と電荷のやり取りが可能である。裏面電極としては,当業界で用いられる公知の素材を用いることが可能であり,例えば,白金,チタン,ステンレス,アルミニウム,金,銀,ニッケル等の金属又はこれらの合金が挙げられる。これらの中でも金属電極は,乾燥雰囲気下で電極を形成することができる点から,蒸着等の方法で形成できる材料が好ましい。
【0040】
取出電極14
取出電極14は,例えば,基板1における光の照射に応じた光電変換で得られたキャリアを素子1から取り出すことができる。取出電極14は,電極5の上に位置してよい。取出電極としては,当業界で用いられる公知の素材を用いることが可能であり,例えば,白金,チタン,ステンレス,アルミニウム,金,銀,ニッケル等の金属又はこれらの合金が挙げられる。これらの中でも金属電極は,乾燥雰囲気下で電極を形成することができる点から,蒸着等の方法で形成できる材料が好ましい。
【0041】
図1に示されるように,素子材料を,透明電極形成工程(S1)と,電子輸送層形成工程(S2)と,ペロブスカイト層形成工程(S3)と,正孔輸送層形成工程(S4)と,レーザ加工工程(S5)と,裏面電極及び取出電極形成工程(S6)とを含む方法により製造してもよい。また,素子材料を,第1電極及び第2電極上に第1正孔輸送層及び第2正孔輸送層をそれぞれ形成する工程と,第1正孔輸送層及び第2正孔輸送層上にペロブスカイト層を形成する工程と,ペロブスカイト層上に電子輸送層を形成する工程と,光電変換層を削るレーザ工程と,裏面電極及び取出電極を形成する工程と,を含む工程により製造してもよい。
【0042】
透明電極形成工程(S1)
透明電極形成工程(S1)は,基板上に電極を形成する工程である。電極は,離間した2つの電極を含む。基板上に電極を形成する方法は公知である。公知の方法の例は,レジストパターンによるエッチングを行うものや,レーザを用いたパターニングである。
【0043】
電子輸送層形成工程(S2)
電子輸送層形成工程は,電極3(第1電極5a及び第2電極5b)上に電子輸送層(第1電子輸送層7a及び第2電子輸送層7b)を形成する工程である。電子輸送層は,形成する材料に応じた公知の成膜方法を用いて得ることができる。例えば,電極の上に,3~15質量%(特に5~10質量%)の酸化スズ微粒子の水分散液を塗布して作製することができる。酸化スズ微粒子水分散液は公知又は市販品を用いることができる。塗布の方法は,スピンコート法が好ましい。なお,塗布は例えば15~30℃程度で行うことができる。基板上に電極及び電子輸送層を形成した後に,レジストパターンによるエッチングを行うものや,レーザを用いたパターニングを行ってもよい。
【0044】
図4は,電子輸送層形成工程の後の段階にある製造途中の素子材料を示す概念図である。図4に示されるように,複数の部分に分割された電極上に,電子輸送層(第1~第2電子輸送層7a,7b)が形成されている。この例では,2つの部分に分割された電極の例を記載している。一方,電極は3つ以上の部分に分割されていてもよい。
【0045】
ペロブスカイト層形成工程(S3)
ペロブスカイト層形成工程は,電子輸送層(第1電子輸送層7a及び第2電子輸送層7b)上にペロブスカイト層9を形成する工程である。ペロブスカイト層は,公知の方法に基づいて製造すればよい。
【0046】
ペロブスカイト層形成工程の例は,ペロブスカイト化合物を含む溶液を基板に塗布する工程と,基板に貧溶媒を塗布する工程と,基板をアニール処理する工程と,をこの順で含むものである。ペロブスカイト化合物を含む溶液を基板に塗布するためには,スピンコート,ディップコート,スクリーン印刷法,ロールコート,ダイコート法,転写印刷法,スプレー法,又はスリットコートを用いればよい。これらの中では,スピンコートにより基板上に溶液を塗布することが好ましい。スピンコートは,溶液を滴下しつつ,基板を回転させ,基板上に溶液を塗布する方法である。また,溶液を搭載した基板を回転させ,さらに基板に溶液を塗布してもよい。回転速度は,最大速度が1000~1万rpmを30秒から5分,最高速度までを2秒から15秒,最大速度から停止までを2秒から15秒とすればよい。
【0047】
次に,基板に貧溶媒を塗布する工程について説明する。
貧溶媒とは,溶質を溶かす能力はあるものの,溶質の溶解度が高くない溶媒を意味する。貧溶媒の例は,ジクロロメタン,クロロホルム等の置換脂肪族炭化水素;トルエン,ベンゼン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン,オルトジクロロベンゼン,ニトロベンゼン等の置換芳香族炭化水素;酢酸,ジエチルエーテル,テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル;メタノール,エタノール,イソプロパノール,ブタノール,オクタノール等のアルコール;ヘキサン等の長鎖炭化水素(特にC4-10炭化水素);アセトニトリル等が挙げられる。これら貧溶媒は,単独で使用することもできるし,2種以上を組合せて使用することもできる。これらの中では,クロロベンゼン又はトルエンが好ましい。
【0048】
次に,基板をアニール処理する工程について説明する。アニール処理とは,基板を加熱等する工程を意味する。アニール工程は,貧溶媒の滴下後,又はスピンコートが終了した後に基板が停止した後,速やかに行うことが好ましい。アニール処理する工程は,後述する実施例により示された通り,溶媒蒸気を含む密閉系にて,段階的に基板加熱する工程を含むものが好ましい。そして,密閉系では,Sn系ペロブスカイト化合物を含む溶液に含まれる溶媒の蒸気が存在することが好ましく,密閉系内ではその溶媒が飽和蒸気圧又は飽和蒸気圧の90%以上の分圧となっていることが好ましい。
【0049】
正孔輸送層形成工程(S4)
正孔輸送層形成工程は,ペロブスカイト層9上に正孔輸送層11を形成する工程である。正孔輸送層を成膜する方法は,公知の方法を適宜採用すればよい。例えば,有機正孔輸送材料を含む溶液を,乾燥雰囲気下,ペロブスカイト層(光吸収層)上に塗布(スピンコート,インクジェット,ダイコータ等)し,30~150℃(特に50~100℃)で加熱することにより正孔輸送層11を成膜することが好ましい。正孔輸送層を形成することにより素子材料21を得ることができる。
【0050】
図5は,正孔輸送層形成工程の後の素子材料を示す概念図である。図5に示されるように,ペロブスカイト層9の全体を覆うように正孔輸送層11が形成されている。
【0051】
レーザ加工工程(S5)
図1は,ペロブスカイト太陽電池を形成する工程を表したフローチャートである。
S5のレーザ加工工程は,パルスレーザビームを用いてS2からS4で形成された光電変換層(電子輸送層,ペロブスカイト層,正孔輸送層)を除去する工程である。
【0052】
図6は,図1のS4正孔輸送層形成までの工程で形成された被加工物4をレーザ加工する際の模式図である。レーザビーム24は,例えば図6に示す様にz軸正の方向にパルス状に照射されることが好ましい。また,例えば,被加工物4を載せたステージ又はレーザ照射機25を図6のx,y方向に移動させてよい。これにより,その移動箇所に応じた任意の領域にレーザビーム24を照射することができる。
【0053】
図7は,基板面に照射されるパルスレーザビームの,従来のパターンを示した図である。図7のx軸,y軸,z軸は,図5のx軸,y軸,z軸にそれぞれ対応する。
図7では,レーザビーム24の周波数をfとして,レーザビーム24をパルス照射しながら,x方向に速度vで移動した場合の照射パターンが図示されている。図7のレーザビームパルスの間隔をIntすると,その間隔は,Int=v/fとしてよい。また,図7にて,レーザビームの半径はDとする。図7の複数の円による像は,加工ラインy1-y2とy3-y4に沿ってレーザ照射した場合の,レーザビーム24の照射範囲を表している。光電変換層7,9,11を面上に除去,加工する場合は,除去できない領域をなくすために,Int<Dとしてよい。さらに,例えば,図7のy1-y2とy3-y4の間隔Pは,P<Dを満たすとする。その結果,複数回レーザビームパルスが照射される領域(図7で円が重複する部分)ができてしまう。
なおパルス幅をτとした場合,パルス幅τは,1/fに比べてかなり小さい(パルス幅τ<<(1/f))ので,パルス照射中の移動は無視できる程小さい。例えば,多くの場合,パルス幅τは1ns以下であり,速度vは~1m/sであり,パルス照射中の移動距離は1×10-9m以下なので無視可能である。
【0054】
図8は,光電変換層7,9,11が正常に加工された場合の図である。例えば,図8で示す通り,光電変換層7,9,11が完全に除去されるので,S6で形成された取出電極14と透明電極5が直接接触する。この場合,直接抵抗をつなげた場合にその抵抗を十分低減できる。
【0055】
図9は,光電変換層7,9,11だけでなく,透明電極5の層まで過剰に削り取られた場合の図である。図9で示す通り,光電変換層7,9,11だけでなく,透明電極5も除去される。そのため,取出電極14と電極5が直接接触する面積が低減するだけでなく,透明電極5の面抵抗が増加する。そして直列抵抗Rsが増加する。更に,場合によっては,取出電極14と透明電極5が接触できないので太陽電池として動作できなくなる。
【0056】
図10は,光電変換層7,9,11が完全に除去されずに加工された場合の図である。図10で示すように,光電変換層7,9,11が完全には,除去されずに残存している。そのため,S6で形成された取出電極14と透明電極5が,直接接触できず場合によっては太陽電池として動作できなくなる。
【0057】
図11は,レーザビーム24のプロファイルの例を示した図である。
図11の横軸は,レーザビーム2の中心からの距離r,縦軸はパワー密度を示す。図10のr1は,図11の点線の円の半径を表している。その実線の円で囲まれた領域は,レーザビーム24を1回照射した際,透明電極5を削らない領域である。
また,r2は図11の実線の円の半径を表している。その点線の円で囲まれた領域は,レーザビーム24を2回以上照射した際,透明電極5を削らず,光電変換層7,9,11を削る領域である。
なお,以下でも述べるr1,r2は上記のものを示すとする。また,以下では,照射するレーザビーム24のパワー密度をIで表す。
図11で示した領域(r1≦4×10-5(m))は,1回照射であれば透明電極5(ITO)を削らないパワー密度(3.9×10≦I≦ 1.4×1010(W/m))で照射されることが好ましい。
図11の実線で示した領域(r2≦5×10-5(m))は,2回以上照射しても透明電極5(ITO)を削らず,光電変換層7,9,11を削るパワー密度(1.9×10≦I<3.9×1010(W/m))で照射されることが好ましい。
【0058】
図12は,レーザビーム24のプロファイルを考慮した基板面に照射されるパルスレーザビームの,従来のパターンを示した図である。また図12は,図11で示した領域(r1≦4×10-5(m))を点線で図6に追加したものである。図12のある点線の円と他の点線の円が重なった領域が2回照射される領域である。その場合,過剰加工になり透明電極5(ITO)が削られてしまう。図12で示すように,加工ラインy1-y2とy3-y4の間隔はP1で表されており,P1=D/2としてよい。
【0059】
図13は,レーザビーム24のプロファイルを考慮した,基板面に照射されるパルスレーザビームの,従来の他パターン2を示した図である。
図12では,ある点線の円と他の点線の円が重なる領域が生じないように,加工ラインy1-y2とy3-y4の間隔P2を図12のP1より大きくした場合の照射パターンが示されている。また,例えばP2は,P2=2*r1を満たすとしてよい。この場合,過剰加工される領域は生じないが,加工されない領域が生じてしまう。
【0060】
図14は,レーザビーム24のプロファイルを考慮した,基板面に照射されるパルスレーザビームの,本発明の照射パターン1を示した図である。
図14は,図14で示した点線領域(r1≦4×10-5(m))が重ならないよう,交互にレーザビーム24を照射したパターンの図である。このように照射することで,過剰加工される領域と加工されない領域が共に生じない。また,図14は,照射するパルスの位相を半周期ずらして照射した場合である。このように,本発明の基板面に照射されるパルスレーザビームは,パルスの位相を半周期ずらしてよい。加工ラインy1-y2とy3-y4の間隔は,図13のP3で表されており,P1<P3<P2であることが好ましい。
【0061】
図15は,レーザビーム24のプロファイルを考慮した,基板面に照射されるパルスレーザビームの,本発明の照射パターン2を示した図である。
図15の照射パターンは,パルスの位相を半周期未満ずらして照射した場合である。図14の照射パターンでは,図14と同様に過剰加工される領域と加工されない領域が共に生じない。また,図15の場合の様に,パルスの位相のずらし幅は,その半周期に限定されず,半周期未満であってよい。また,図15の様に,P3<P4と設定することで,全体の加工速度を向上させることもできる。
【0062】
またレーザビーム24を図6のz軸正方向に照射する場合,照射するレーザビーム24の波長は,光電変換層7,9,11の吸光度が透明電極5の吸光度よりも大きくなるものであることが好ましい。上記の波長における,光電変換層7,9,11の吸光度をIo,透明電極5の吸光度をIeとすると,Io/Ieは,1.5以上1×10以下でもよいし,1×10以上5×10以下でもよいし,1×10以上1×10以下でもよいし,2以上5×10以下でもよい。また,レーザビーム24の波長は,100nm以上1500nm以下でもよいし,200nm以上1000nm以下でもよいし,300nm以上900nm以下でもよい。より具体的には,光電変換層7,9,11にペロブスカイト層を含み,透明電極5が酸化インジウムスズ(ITO)の場合,レーザビーム24の波長は,532nmであることが好ましい。レーザは公知のレーザを用いることができ,適宜倍波,3倍波,又は4倍波を用いてもよい。レーザの例は,YAGレーザである。
【0063】
裏面電極及び取出電極形成工程(S6)
裏面電極及び取出電極形成工程は,素子材料21に対し,正孔輸送層11上であって,第1電極5a及び第2電極5bに対応する位置にそれぞれ裏面電極13(13a,13b)及び取出電極14を形成する工程である。図16は,裏面電極及び取出電極形成工程の後であり製造途中の素子を示す概念図である。
【0064】
裏面電極13a,裏面電極13bは,それが金属のものの場合,金属電極ともよばれる電極である。裏面電極は,電極に対向配置され,正孔輸送層の上に形成されることで,正孔輸送層と電荷のやり取りが可能である。裏面電極としては,当業界で用いられる公知の素材を用いることが可能であり,例えば,白金,チタン,ステンレス,アルミニウム,金,銀,ニッケル等の金属又はこれらの合金が挙げられる。これらの中でも金属電極は,乾燥雰囲気下で電極を形成することができる点から,蒸着等の方法で形成できる材料が好ましい。取出電極14は,例えば,基板3における光の照射に応じた光電変換で得られたキャリアを素子1から取り出すことができる。例えば,取出電極14は,正孔輸送層11の上に位置してよい。
【0065】
上記の方法に公知の方法を適宜組み合わせることで,上記層構成以外の構成を有するペロブスカイト太陽電池についても製造することができる。
【0066】
図16図17に示されるように,裏面電極13及び取出電極14は,電極や電子輸送層と同じ形状でなくてもよい。図16中,下図の例では,裏面電極13と取出電極14が形成されている。図17の接続電極15により導通可能に接続を行うことができるように,裏面電極13及び取出電極14のある部分は,電極や電子輸送層を覆っていなくてもよい。また,裏面電極13及び取出電極14のある部分は,電極や電子輸送層が設けられていない部分に存在してもよい。例えば,第1裏面電極13aは,本体部分と,本体部分から飛び出した突起部分とを有している。そして,その突起部分の下部(基板方向)には,電極や電子輸送層が設けられていない。一方,第1電極5aや第1電子輸送層7aの中心付近にある突起部は,第1裏面電極13aにより覆われていない。
【0067】
有機EL素子は,例えば特開2017-123352号公報,特開2015-071619号公報に記載される通り,公知の素子であり,その製造方法も公知である。有機EL素子の例は,基板と,陽極と,陰極と,陽極と陰極との間に配置された有機層と,を有する。そして,有機層は,陽極側から順に,正孔注入層,正孔輸送層,発光層,電子輸送層,および電子注入層が,この順番で積層されて構成される。
【実施例0068】
以下,実施例を用いてこの明細書に記載された発明の例を具体的に説明する。この明細書に記載された発明は,以下の実施例に限定されず,公知の要素を適宜追加したものを含む。
【0069】
図17は,実施例1における太陽電池を説明するための概念図である。
ガラス基板3にあらかじめ所定の形状にパターン化された電極5のITO(酸化インジウムスズ)があり,電子輸送層7,ペロブスカイト層9,正孔輸送層11を順次塗布する。電子輸送層7は,コロイド状のSnO水溶液をスピンコートし,乾燥させることで形成できる。ペロブスカイト層9は,前述のスピンコートにより所定の材料を塗布後,貧溶媒をさらにコートすることで高品質なものが得られる。正孔輸送層11はSpiro-MeOTADを含む溶液をスピンコートし,乾燥させることによって得られる。
上記の層は,スピンコートを基本にしているので基板全面に積層される。
【0070】
従来技術では,裏面電極13の形成前に積層した層のパターン化のプロセスを行うことが多いが,本実施例では行わない。高精度のパターンには,次の裏面電極も併せて位置精度を必要とするため,適さないためである。
【0071】
先に,裏面電極13を形成する。裏面電極を形成する方法として,パターンをあらかじめ作るために,メタルマスクを使用し,所望の材料をターゲットにしたスパッタ装置で形成する。メタルマスクは上記積層された基板3に密着させて形成する。ターゲット材料は酸化モリブデン(MoO),銅(Cu),酸化インジウムスズ(ITO)を使用した。
【0072】
次に,裏面電極13がない領域の積層膜を除去するために,CFとOを使用したドライエッチングを行う。この時,裏面電極がマスクとなり正孔輸送層11やペロブスカイト層9の一部が除去される。これにより,裏面電極13の無い部分に電極5の一部を露出させることができる。積層膜の除去方法としては,パルスレーザーを使用してもよい。
次に,接続電極15を形成する。裏面電極13と同じ方法で,メタルマスクを使用したスパッタ装置により形成する。また,導電性ペーストをスクリーン印刷によって形成することもできる。以上により,集積型構造の太陽電池モジュールを得ることができる。
【0073】
図17の例では,3つの表面電極に光活性層を含む光電変換層(6a,6b)が形成され,光活性層上に,裏面電極が形成されている。そして,裏面電極は,図17の上部領域において互いに接続されるとともに,左端の電極はプラス電極と接続され,右端の電極はマイナス電極と接続されている。
【0074】
図18は,実施例2及び3における太陽電池を説明するための概念図である。
図18(a)に示される実施例2は,各表面電極の隣接する中央領域に裏面電極の接続領域が設けられ,互いに接続されている。図18(b)に示される実施例3は,各表面電極の隣接する領域に裏面電極の接続領域が設けられ,互いに接続されている。
【産業上の利用可能性】
【0075】
この発明は,太陽電池や有機EL素子に関する技術分野において利用され得る。
【符号の説明】
【0076】
1 素子
3 基板
4 被加工物
5 電極
5a 第1透明電極部
5b 第2透明電極部
6a 第1光電変換層
6b 第2光電変換層
7 電子輸送層
7a 第1電子輸送層
7b 第2電子輸送層
9 ペロブスカイト層
11 正孔輸送層
13a 第1裏面電極
13b 第2裏面電極
14 取出電極
15 接続電極
21 素子材料
24 レーザビーム
25 レーザ照射機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18