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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151381
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】耐熱用シーラントフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20220929BHJP
   B32B 7/02 20190101ALI20220929BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20220929BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B7/02
C08L23/08
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054421
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】足立 菜摘
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB41
3E086BB85
3E086CA01
4F100AB10
4F100AB10C
4F100AK01
4F100AK01C
4F100AK04
4F100AK04A
4F100AK07
4F100AK07C
4F100AK42
4F100AK42C
4F100AK46
4F100AK46C
4F100AK63
4F100AK63B
4F100AT00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100EH20
4F100EJ17
4F100EJ42
4F100GB15
4F100JA06
4F100JA06A
4F100JA06B
4F100JA13
4F100JA13A
4F100JA13B
4F100JJ03
4F100JK03
4J002BB051
4J002FD170
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】 耐熱性を有し、更に、フィルムの流れ方向(MD)の引裂性に優れる耐熱用シーラントフィルム、及びそれを用いた食品包装用フィルムを提供する
【解決手段】 少なくとも、最内層と、それ以外の層とを有する多層フィルムであって、最内層に(a-1)密度が0.925~0.940g/cm、(a-2)MFRが0.1~20g/10分のエチレンと炭素数が6以上のαオレフィンを共重合させた直鎖状中密度ポリエチレン(A)を65~100重量%を含有し、最内層に接する層に(b-1)密度が0.910~0.950g/cm、(b-2)MFRが0.1~15g/10分のエチレンと炭素数が4個のαオレフィンを共重合させた直鎖状低密度ポリエチレン(B)を含有することを特徴とする耐熱用シーラントフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、最内層と、それ以外の層とを有する多層フィルムであって、最内層に(a-1)密度が0.925~0.940g/cm、(a-2)MFRが0.1~20g/10分のエチレンと炭素数が6以上のαオレフィンを共重合させた直鎖状中密度ポリエチレン(A)を65~100重量%を含有し、最内層に接する層に(b-1)密度が0.910~0.950g/cm、(b-2)MFRが0.1~15g/10分のエチレンと炭素数が4個のαオレフィンを共重合させた直鎖状低密度ポリエチレン(B)を含有することを特徴とする耐熱用シーラントフィルム。
【請求項2】
該直鎖状中密度ポリエチレン(A)は、更に下記物性(a-3)及び(a-4)を有するエチレン・α-オレフィン共重合体であることを特徴とする、請求項1に記載の耐熱用シーラントフィルム。
(a-3)分子量分布(Mw/Mn)が1.8~3.5
(a-4)連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度-溶出量曲線のピークが複数個である
【請求項3】
JIS K7128-2に準拠し測定されるエルメンドルフ引裂試験において、フィルムの流れ方向(MD)の引裂強度が20N/mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐熱用シーラントフィルム。
【請求項4】
JIS K7128-2に準拠し測定されるエルメンドルフ引裂試験において、フィルムの流れ方向(MD)の引裂強度(SMD)と垂直方向(TD)の引裂強度(STD)の比がSMD/STD<0.5であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の耐熱用シーラントフィルム。
【請求項5】
最内層の反対側の層にPET、Ny、OPP、Alから選ばれる基材層を少なくとも1層以上積層することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の耐熱用シーラントフィルム。
【請求項6】
最内層同士を密着させて、115℃の加熱加圧処理後に、最内層同士の融着がみられない請求項1~5のいずれかに記載の耐熱用シーラントフィルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の耐熱用シーラントフィルムを用いた食品包装用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの流れ方向(MD)の易引裂性に優れる耐熱用シーラントフィルム、及びこれを用いた食品包装用フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、個食文化の浸透やコンビニエンスストアの増加により、食品包装袋に対する要求性能も時代に応じて変化してきている。たとえば、食品包装袋には、ロングライフ化のための高温加熱滅菌に耐え、冷凍やチルドでの低温流通を経た後に、電子レンジやレトルトで加熱されるという幅広い温度帯での強度適性が要求されてきている。このような食品は、冷蔵または冷凍輸送保管後加熱されるため、包装袋には耐寒性も耐熱性も要求されるようになっている。更に、ボイルや電子レンジ等の加熱調理後の高温状態での袋の開封はフィルムが伸びやすくなり、手で開封しづらいという問題もある。
また、店頭での視認性や加熱調理時の形態保持の面で、スタンドパウチ形式の包装デザインが採用されており、構成するフィルムとして高剛性化が求められる。
従来、電子レンジやレトルトへ対応する包装袋にはシール層に融点の高いポリプロピレン系樹脂が多く用いられてきた。しかし、ポリプロピレンには耐寒性がなく、輸送時に破袋が発生するという問題がある。一方、シーラントフィルムに多く用いられるポリエチレンは耐寒性に優れていることが知られているが(特許文献1)、ポリプロピレンに比べて融点が低く、耐熱性に劣り、レトルト後にフィルム同士が融着するという問題がある。
さらに、少子高齢化が急激に進むなか、包装袋の易開封性等のバリアフリー化への要求も強くなってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-15804
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、耐熱性を有し、更に、フィルムの流れ方向(MD)の引裂性に優れる耐熱用シーラントフィルム、及びそれを用いた食品包装用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するため種々の研究を重ねた結果、近年、新たに製造開発した、特定物性を有する直鎖状中密度ポリエチレン樹脂を使用し、更に最内層とそれ以外の層を有する多層フィルムにおいて、特定の樹脂層構成によるフィルムを用いることにより、上記課題を解決することができることを見出し、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、少なくとも、最内層と、それ以外の層とを有する多層フィルムであって、最内層に(a-1)密度が0.925~0.940g/cm、(a-2)MFRが0.1~20g/10分のエチレンと炭素数が6以上のαオレフィンを共重合させた直鎖状中密度ポリエチレン(A)を65~100重量%を含有し、最内層に接する層に(b-1)密度が0.910~0.950g/cm、(b-2)MFRが0.1~15g/10分のエチレンと炭素数が4個のαオレフィンを共重合させた直鎖状低密度ポリエチレン(B)を含有することを特徴とする耐熱用シーラントフィルムが提供される。
第2の発明によれば、該直鎖状中密度ポリエチレン(A)は、更に下記物性(a-3)及び(a-4)を有するエチレン・α-オレフィン共重合体であることを特徴とする、第1の発明に記載の耐熱用シーラントフィルムが提供される。
(a-3)分子量分布(Mw/Mn)が1.8~3.5
(a-4)連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度-溶出量曲線のピークが複数個である
第3の発明によれば、JIS K7128-2に準拠し測定されるエルメンドルフ引裂試験において、フィルムの流れ方向(MD)の引裂強度が20N/mm以下であることを特徴とする第1又は2の発明に記載の耐熱用シーラントフィルムが提供される。
第4の発明によれば、JIS K7128-2に準拠し測定されるエルメンドルフ引裂試験において、フィルムの流れ方向(MD)の引裂強度(SMD)と垂直方向(TD)の引裂強度(STD)の比が、SMD/STD<0.5であることを特徴とする第1~3のいずれかの発明に記載の耐熱用シーラントフィルムが提供される。
第5の発明によれば、最内層の反対側の層にPET、Ny、OPP、ALから選ばれる基材層を少なくとも1層以上積層することを特徴とする第1~4のいずれかの発明に記載の耐熱用シーラントフィルムが提供される。
第6の発明によれば、最内層同士を密着させて、115℃の加熱加圧処理後に、最内層同士の融着がみられない第1~5のいずれかの発明に記載の耐熱用シーラントフィルムが提供される。
第7の発明によれば、第1~6のいずれかの発明に記載の耐熱用シーラントフィルムを用いた食品包装用フィルムが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の耐熱用シーラントフィルムは、フィルムの流れ方向(MD)の易引裂性に優れると共に、115℃の加熱加圧処理後においてフィルム同士の融着が見られず、かつ易引裂性を保持し続けるという特徴を有する。そのため、該耐熱用シーラントフィルムを用いることにより、加熱加圧殺菌処理やレトルト処理後も易開封性を有する食品包装用フィルム、医療品包装用フィルムを提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、直鎖状中密度ポリエチレン(A)からなる最内層と、C4LLDPE(B)からなる最内層に接する層を含む耐熱用シーラントフィルムである。以下に、各エチレン系共重合体組成物を構成する成分、各エチレン系共重合体組成物、その特性、それらを用いた食品包装用フィルムについて詳細に説明する。
【0009】
(1)直鎖状中密度ポリエチレン(A)
本発明の直鎖状中密度ポリエチレン(A)とは、具体的にはエチレンと炭素数6~18のα-オレフィンとを触媒重合法により共重合して得られる、中密度かつ直鎖状の分子構造を有するエチレン・α-オレフィン共重合体である。
ここで、炭素数6~18のα-オレフィンとしては、例えば、1-ヘキセン、4-メチル-1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-オクタデセン等が挙げられ、中でも、炭素数6~12であるのが好ましく、1-ヘキセン、4-メチル-1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン等の炭素数6~10であるものが特に好ましい。
【0010】
また、エチレン・α-オレフィン共重合体におけるα-オレフィンの含有量は、好ましくは3~24重量%、より好ましくは5~20重量%、さらに好ましくは7~15重量%である。α-オレフィンの含有量が3重量%未満では、フィルムとしての耐ピンホール性に劣りやすくなる。
【0011】
さらに、本発明における成分(A)の直鎖状中密度ポリエチレンは、下記の特性(a-1)~(a-2)を満たすことが必要である。
(a-1)密度
成分(A)の密度は、0.925~0.940g/cmであり、好ましくは0.928~0.940g/cm、更に好ましくは0.930g/cm超~0.938g/cm以下である。ここで、密度は、JIS K7112-1999の「プラスチック-非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法」のD法(密度こうばい管法)に準拠して測定する値である。
【0012】
(a-2)メルトフローレイト(MFR)
成分(A)のMFRは、0.1~20g/10分であり、好ましくは0.3~15g/10分であり、より好ましくは0.5~10g/10分である。MFRが0.1g/10分未満では、フィルムへ成形加工するとき、樹脂圧が上がる等して加工性が劣ることとなり、一方、MFRが20g/10分超では、包装用フィルムとしての機械的強度、フィルム成形加工時のバブル安定性等の加工性が劣ることとなる。
ここで、MFRは、JIS K7210-1999の「プラスチック―熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に準拠して、試験条件:190℃、21.18N(2.16kg)荷重で測定する値である。
【0013】
本発明で用いる直鎖状中密度ポリエチレン(A)としては、チーグラー・ナッタ型触媒やフィリップス型触媒等の存在下に共重合されたものより、カミンスキー型触媒の存在下に共重合されたものであるのが好ましい。
カミンスキー型触媒によるエチレン・α-オレフィン共重合体は、例えば、特開昭58-19309号、特開昭59-95292号、特開昭60-35005号、特開昭60-35006号、特開昭60-35007号、特開昭60-35008号、特開昭60-35009号、特開昭61-130314号、特開平3-163088号の各公報、欧州特許公開第420436号公報、米国特許第5055438号明細書、及び国際公開WO91/04257号公報等に記載されている、メタロセン系触媒、特にメタロセン・アルモキサン系触媒を用い、又は例えば、国際公開WO92/07123号公報等に記載されている、メタロセン化合物と該化合物と反応して安定なアニオンとなる化合物からなる触媒を用い、例えば、気相法、スラリー法、溶液法、高圧イオン重合法等の重合法によって製造することができる。
【0014】
中でも、本発明における前記エチレン・α-オレフィン共重合体は、モノ-、ジ-、又はトリ-シクロペンタジエニル環若しくは置換シクロペンタジエニル環を配位子とした、チタン、ジルコニウム、ニッケル、パラジウム、ハフニウム、又は白金等の4価の遷移金属化合物をメタロセン化合物とする触媒を用いて重合されたもの、特にハフニウム化合物を中心金属とした遷移金属化合物をメタロセン化合物とする触媒を用いて重合されたものであるのが好ましい。
更に好ましくは、特許3539801号等に記載されているような、特別な触媒種により製造されるエチレン・α-オレフィン共重合体が好ましい。
該直鎖状中密度ポリエチレン(A)としては、下記物性(a-3)を有するエチレン・α-オレフィン共重合体が好ましい。
(a-3)分子量分布(Mw/Mn)が1.8~3.5
(a-4)連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度-溶出量曲線のピークが複数個である
かかる(a-3)及び(a-4)を満たす共重合体は、通常のチーグラー・ナッタ型触媒により得られる重合体よりも分子量分布が狭いことに加えて、典型的なメタロセン触媒による共重合体が通常1つのピークを有するのに対して、溶出温度-溶出量曲線のピークを複数個有することを特徴とする共重合体であり、そのエチレン・α-オレフィン共重合体の製造に用いる触媒及びその製造方法、並びに、分子量分布及びTREFの測定方法は特許3539801号等に記載のとおりである。
【0015】
本出願人は、近年、上記触媒種を用いて、製造コントロールが難しいとされる中密度領域の、上記物性を有する直鎖状中密度ポリエチレンを製造することに成功した。
本発明に用いる直鎖状中密度ポリエチレン(A)としては、例えば、本出願人(日本ポリエチレン社)による「ハーモレックス」(商標名)シリーズの中密度領域の新樹脂として、入手可能である。かかる共重合体は、通常のチーグラー・ナッタ型触媒により得られる重合体よりも分子量分布が狭いことに加えて、幅広い温度領域において強度と高剛性を有し、かつポリエチレン製フィルムに求められるヒートシール性、衝撃強度、更に低臭や低フィッシュアイなどの基本品質を最適化した、ポリエチレン樹脂である。
【0016】
(2)直鎖状低密度ポリエチレン(B)
本発明の直鎖状低密度ポリエチレン(B)とは、具体的にはエチレンと炭素数4のα-オレフィンとを触媒重合法により共重合して得られるエチレン・α-オレフィン共重合体である。以下、C4LLDPEとも称する。
直鎖状低密度ポリエチレン(B)として、コモノマー種が、炭素数4のα-オレフィンに限定されたエチレン・α-オレフィンを用いることにより、耐熱性を満たしつつ、MD方向への易引裂性に優れる耐熱用シーラントフィルムを得ることができるので好ましい。
また、直鎖状低密度ポリエチレン(B)における炭素数4のα-オレフィン(C4と称する)の含有量は、好ましくは3~24重量%、より好ましくは5~20重量%、さらに好ましくは7~15重量%である。α-オレフィンの含有量が3重量%未満では、フィルムとしての耐ピンホール性に劣りやすくなる。
【0017】
さらに、本発明における直鎖状低密度ポリエチレン(B)は、以下の特性(b-1)、(b-2)を満たすと好ましい。
(b-1)密度
成分(B)の密度は、0.910~0.950g/cmであり、好ましくは0.915~0.940g/cmである。更に好ましくは、0.915~0.938g/cm以下である。ここで、密度は、JIS K7112-1999の「プラスチック-非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法」のD法(密度こうばい管法)に準拠して測定する値である。
【0018】
(b-2)メルトフローレイト(MFR)
直鎖状低密度ポリエチレン(B)のMFRは、0.1~15g/10分であり、好ましくは0.3~10g/10分である。MFRが0.1g/10分未満では、フィルムへ成形加工するとき、樹脂圧が上がる等して加工性が劣ることとなり、一方、MFRが15g/10分超では、包装用フィルムとしての機械的強度、フィルム成形加工時のバブル安定性等の加工性が劣ることとなる。
ここで、MFRは、JIS K7210-1999の「プラスチック―熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に準拠して、試験条件:190℃、21.18N(2.16kg)荷重で測定する値である。
【0019】
本発明で用いる直鎖状低密度ポリエチレン(B)としては、チーグラー・ナッタ型触媒の存在下に共重合されたものなどの公知の直鎖状低密度ポリエチレンから選択しうる。その中から、C4成分を必須とする直鎖状低密度ポリエチレンを選ぶことができる。例えば、日本ポリエチレン社製の「ノバテックLL」(商標名)の中から、C4成分を必須とする樹脂を例示することができる。
【0020】
(3)その他の添加剤
本発明の各層を構成するエチレン系共重合体組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂やゴム、並びに、熱可塑性樹脂に通常用いられる各種の添加剤、例えば、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、造核剤、中和剤、滑剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、スリップ剤、防曇剤、分散剤、流動性改良剤、離型剤、接着性付与剤、難燃剤、着色剤、充填材等が添加されていてもよい。これらの成分は、各成分に含まれていても良いし、エチレン系共重合体組成物の製造時に配合しても良い。
【0021】
(4)フィルムの成形
フィルムの製造方法は、多層ダイを用いて押出機で溶融された樹脂をダイス先端で接合させ積層構造とする多層インフレーション成形法、多層Tダイ成形法等の共押出成形法の他に、多層ブロー成形法等の通常の成形法が適用され特に限定されない。
【0022】
(5)多層フィルムの構成
本願発明の耐熱用シーラントフィルムは、少なくとも、最内層と、最内層に接する層の2層以上で構成される。最内層とは、多層フィルム表面に位置する層であり、該フィルムで袋等を構成する際には内側に位置する層を最内層という。
多層構成においては、最内層とその他の層の間に、バリア性又は接着性等を有する他の任意の層を設けてもよいが、好ましくはシンプルな構成である。また、最内層とその他の層における層比は特に限定されない。多層フィルムの全体厚さは10~500μm、好ましくは20~200μmである。
【0023】
(6)最内層
本発明の最内層は(a-1)密度が0.925~0.940g/cm、(a-2)MFRが0.1~20g/10分の直鎖状中密度ポリエチレン(A)を65~100重量%を含有することを特徴とし、加熱加圧処理後も易引裂性に優れたフィルムを得る上で好ましい。特に、直鎖状中密度ポリエチレン(A)を70~100重量%含有すると好ましい。直鎖状中密度ポリエチレン(A)の好ましい特性は前記のとおりである。
【0024】
(7)最内層に接する層
本発明の最内層に接する層は(b-1)密度が0.910~0.950g/cm、(b-2)MFRが0.1~15g/10分のC4LLDPE(B)を50~100重量%含むと好ましい。
この構成により、耐熱用シーラントフィルムに要求される耐熱性を維持しつつ、易引裂性を付与することが可能となる。
【0025】
(8)引裂特性
本発明の耐熱用シーラントフィルムは好ましい特性として、特定のエレメンドルフ引裂強度を有することを特徴とする。すなわち、JIS K7128-2に準拠して測定したエルメンドルフ引裂強度が、フィルムの流れ方向(MD)において、20N/mm以下であると好ましい。下限は特に限定されない。
また、JIS K7128-2に準拠し測定されるエルメンドルフ引裂試験において、フィルムの流れ方向(MD)の引裂強度(SMD)と垂直方向(TD)の引裂強度(STD)の比がSMD/STD<0.5であると、MD方向への易引裂性を示すこととなるため、好ましい。
【0026】
(9)耐熱性
本発明の耐熱用シーラントフィルムは好ましい特性として、115℃の加熱加圧処理後も最内層同士が融着しないことを特徴とする。この加熱時の圧力、処理時間は特に限定されないが、例えば115℃で30分の加熱を行う。
【0027】
(10)他の基材との組み合わせ
本発明の耐熱用シーラントフィルムを用いて、酸素バリア性を有する基材フィルムの内容物側に該シーラントフィルムを配して、パウチを構成してもよい。具体的には、耐熱用シーラントフィルムの、最内層を設ける側とは反対側の層に、PET、Ny,OPP、Alから選ばれる基材層を積層する。他の機能を有する基材と組み合わせることによって、レトルト食品用パッケージ、ロングライフ食品パッケージとして好適な態様となる。
【実施例0028】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して、さらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例で用いた試験・評価方法、材料は以下の通りである。
【0029】
1.試験、評価方法
(1)密度:JIS K7112-1999の「プラスチック-非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法」のD法(密度こうばい管法)に準拠して測定した。
(2)MFR:JIS K7210-1999の「プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に準拠して、試験条件:190℃、21.18N(2.16kg)荷重で測定した。
(3)エルメンドルフ引裂強度
JIS K7128-2に準拠して下記装置、条件にて測定した。MDは流れ方向(MD:Machine Direction)であり、TDは垂直方向(TD:Transverse Direction)の値である。
装置:デジタルエルメンドルフ引裂試験機 型式SA(株式会社東洋精機製作所製)
測定環境:温度23℃、湿度50%
(4)加熱加圧処理
下記装置、条件にて加熱加圧処理を実施した。処理には、該耐熱用シーラントフィルムのユニチカ株式会社製ナイロンフィルム「EMBLEM(ONM)」を組み合わせ、中に水を適量入れたパウチを作製した。
装置:高温高圧シャワー滅菌(殺菌)装置 YRF-40/50E(サクラエスアイ株式会社製)
処理条件:115℃×30分処理
耐熱性については、次の基準で判断した。
〇:目視にて、最内層同士の融着が見られない
×:目視にて、最内層同士の融着が見られる
【0030】
2.材料
(1)成分(A)
(i)A:密度が0.935g/cm、MFRが1.5g/10分、Mw/Mnが3.42、メタロセン系直鎖状中密度ポリエチレンLL(A)
(メタロセン系触媒を用いて、所定の密度及びMFR範囲を有するように製造条件を設定し、製造されたポリエチレン樹脂を用いた。この樹脂の、連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度-溶出量曲線のピークは複数個であった。)
(2)成分(B)
(B-1)
密度が0.927g/cm、MFRが2.1g/10分である直鎖状低密度ポリオレフィンLL(日本ポリエチレン社製「UF641」)
(B-2)
密度が0.938g/cm、MFRが2.1g/10分である直鎖状低密度ポリオレフィンLL(日本ポリエチレン社製「UF943」)
(3)AB剤(アンチブロッキング剤)
日本ポリエチレン社製「ハーモレックス MBN560B」
(4)スリップ剤
日本ポリエチレン社製「ハーモレックス MBN560S」
【0031】
(実施例1)
表1の配合に従い多層Tダイ成形機(ダイリップ;1mm、ダイス温度;220℃)を用い、3層の合計厚み50μmのシート状フィルムを成形した。最内層:中間層:最外層の厚みは10μm:30μm:10μmであった。得られたフィルムにおいてエルメンドルフ引裂強度、耐熱性を評価した。その結果を表3に示す。
【0032】
(実施例2)
表1の配合に従い、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。結果を表3に示す。
【0033】
(実施例3)
表1の配合に従い、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。結果を表3に示す。
【0034】
(実施例4)
表1の配合に従い、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。結果を表3に示す。
【0035】
(比較例1)
表2の配合に従い、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。結果を表3に示す。
【0036】
(比較例2)
表2の配合に従い、実施例1と同様にしてフィルムを作製した。結果を表3に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
表3より、実施例1~4は比較例1、2と比較して、耐熱性を有し、かつフィルムの流れ方向(MD)の易引裂性に優れる(フィルムの横方向(TD)の引裂強度STDに対する、フィルムの流れ方向(MD)のエレメンドルフ引裂強度SMDの比SMD/STD(表中ではTD、MD、MD/TDで表記)が0.5より小さい)ことがわかる。
したがって、本発明の耐熱用シーラントフィルムは、レトルト殺菌処理に相当する温度での加熱加圧処理に対する耐熱性と、手で容易に引裂くことの出来る易引裂性の両方を備えており、大きな技術的意義を持つことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のエチレン系共重合体組成物の多層構成からなる耐熱用シーラントフィルムは、115℃の加熱加圧処理後でも最内層同士の融着が生じず、かつ易引裂性(易開封性)に優れているので、加熱加圧殺菌処理が必要なレトルト食品をはじめとする食品包装用フィルムや医療品包装として好適に用いられる。