(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151400
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】高いゲル強度及び改善された風味を有する卵白粉末
(51)【国際特許分類】
A23L 15/00 20160101AFI20220929BHJP
【FI】
A23L15/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021064075
(22)【出願日】2021-04-05
(31)【優先権主張番号】10 2021 203 055.6
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】521143468
【氏名又は名称】オヴォベスト・アイプロドゥクテ・ゲーエムベーハー・ウント・コー・カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ベルナルト・シュネッペ
(72)【発明者】
【氏名】シーナ・テニェス
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC03
4B042AC10
4B042AD40
4B042AE01
4B042AG06
4B042AH11
4B042AP02
4B042AP15
4B042AP17
(57)【要約】
【課題】水中への溶解後に、低い塩分に起因する改善された、特に中立的な風味を有する卵白粉末の製造方法を提供すること。
【解決手段】本方法では、脱塩及び噴霧乾燥後に、熱処理は、60~90℃において1~5又は1~4週間の処理期間行い、低温側の場合、処理期間はより長い。好ましくは高温側での熱処理を介して、脱塩又は脱ミネラル化された卵白粉末の溶解及び加熱により製造されるゲルが、それでも高いゲル強度、及びわずかな水漏れとして測定可能である高い水分結合を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵白粉末を製造する方法であって、
a)卵白から卵黄を分離することにより、鳥の卵から液状生卵白を準備する工程、
b)任意選択で、この液状卵白のpH値を、4~10へ調整する工程、
c)任意選択で液状生卵白を低温殺菌する工程、
d)乾燥物質に対して2.6質量%の最高塩分まで、液状卵白の塩を分離し、脱糖して、脱塩し、脱糖された液状卵白を製造する工程、
e)任意選択で、脱塩し、脱糖された液状卵白のpH値を、pH4~8へ調整する工程、
f)脱塩し、脱糖された液状卵白を噴霧乾燥して、噴霧乾燥卵白粉末を製造する工程、
g)噴霧乾燥卵白粉末を、60℃~90℃の温度で1~5週間、特に60℃で4~5週間、65~77℃又は65~75℃で3~4週間、77℃~90℃の温度で1~3週間、熱処理する工程
を有する方法。
【請求項2】
工程g)において、熱処理を、少なくとも77℃で少なくとも2週間、又はより高温で1~3週間行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程d)において、塩の分離を、乾燥質量の最高2.4質量%の塩分まで行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程d)において、塩の分離を、乾燥質量の最高1.0質量%の塩分まで行うことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程g)において、空気と接触した状態で、最高4.6質量%の水分まで卵白粉末を更に乾燥させて、熱処理を行うことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程b)においてpH値を4.0~7.5に、及び/又は工程e)においてpH値を4.0~8.0に調整することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも12質量%のタンパク質含有量まで、液状卵白の塩の分離を行うことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
18~23質量%のタンパク質含有量まで、液状卵白の塩の分離を行うことを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
噴霧乾燥を121~232℃で行うことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
熱処理を、少なくとも77℃で3週間、又は少なくとも80℃で少なくとも1週間行うことを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
熱処理の際に、卵白粉末と接触している空気を交換する及び/又は乾燥させることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
熱処理後の卵白粉末を、水と混合し、水中に溶解し、溶解した卵白が変性し、ゲルを形成する温度に少なくとも加熱することを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
乾燥物質に対して最高2.6質量%の塩分、及び最高10質量%の水分を有することを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法により得ることができる卵白粉末。
【請求項14】
水中で100%の溶解度を有しており、水中15質量%に溶解し、続いて75℃へ加熱することにより製造されたゲルが、最高6質量%の水分放出及び少なくとも490g/cm2のゲル強度を有することを特徴とする、請求項13に記載の卵白粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中で水に戻し、変性した後に高いゲル強度を有する卵白粉末、並びに鳥の卵の卵白、特に鶏卵の卵白から該卵白粉末を製造するための方法に関する。中立的風味(neutraler Geschmack)とも呼ばれる改善された風味は、本発明による卵白粉末の低い塩分に起因する。
【0002】
本発明による方法を用いて得ることができる本発明による卵白粉末は、食品用添加物としての使用に適切であり、水中に溶解し、食品用混合物中で変性した後にゲルを形成する。本方法を用いて製造された卵白粉末は、食品中での二次加工用に想定されている。該卵白粉末は、上記に従った水戻しと加熱により変性して製造されたゲルの高いゲル強度に加えて、特に、脱塩又は脱ミネラル化されていることで風味が著しく改善されており、それでも二次加工において特に優れた機能性を有することが顕著である。ゲル強度は、特に、水性ゲルのゲル強度に関する。更に、本発明は、該卵白粉末の水中への溶解、特に完全な溶解に続く加熱によって得ることができる水性ゲル、及び本発明により製造された卵白粉末の溶解による、該ゲルの製造方法に関する。その上、該卵白粉末は、優れた水分結合能及び優れた泡立ち性を有する。これらの特性の組み合わせは、目下、本発明による方法を用いて製造された卵白粉末の水中での溶解度及び分散能力に起因するものと見なされている。該卵白粉末の利点は、添加物を有していない上、例えば、卵白タンパク質と低下した塩分と水分からなることである。
【背景技術】
【0003】
Egg Science and Technology、編集者Stadelman等、1995、180頁(非特許文献1)は、基本的に、液状卵白(水分87.9%)に関して、174mg/100gの天然の塩化物含有量を記載し、それは、換算すると0.29%のNaCl含有量に相当する。それに応じて、卵白粉末は、およそ3.4%の塩分を有する(水分7.5%)。
【0004】
Baron等、Journal of Food Protection 825~832(2003)(非特許文献2)は、従来通りに製造した卵白粉末を15日間67℃に対して、15日間75℃で処理した。より高温ではゲル強度及び泡立ち性が、より低温よりもかなり著しく改善されるのに対して、溶解度はわずかに低下する。その上、より高温ではサルモネラ菌に対する静菌性も改善した。
【0005】
Egg Science and Biotechnology、編集者Mine、2008、307~325頁(非特許文献3)は、特に121~232℃における噴霧乾燥による卵の乾燥との関連で、費用を削減する目的で、限外ろ過又は逆浸透により泡立ち性を損なうことなしに水を分離できることを記載する。卵白のゲル強度は増加したが、それは、増加したタンパク質濃度に起因する。卵白に関しては、天然カタラーゼを不活性化するための51.7℃、1.5分間、続くH2O2の添加、51.7℃での2分間の維持、続く7℃への冷却、及びH2O2を除去するためのカタラーゼの添加が記載される。この処理は、熱感受性の卵白タンパク質を破壊することなしにリステリア菌を不活性化するものである。乾燥後、サルモネラ菌を不活性化するために乾燥卵白を54.4℃で7~10日間インキュベートすると、泡立ち性及びゲル強度も改善する。
【0006】
WO2017/136119A1(特許文献1)は、卵タンパク質から、例えば卵白からの、ナノろ過又は限外ろ過を利用したミネラル及び糖の除去は、低いゲル強度及び低い泡立ち性を有するため酸性飲料への添加物として適切な卵粉末をもたらすことを記載している。脱ミネラル化又は脱灰は卵白粉末の溶解度の低下及び分散能力の低下をもたらし、それは、例えば、レシチンによるカプセル化により改善できることが、更に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Egg Science and Technology、編集者Stadelman等、1995、180頁
【非特許文献2】Baron等、Journal of Food Protection 825~832(2003)
【非特許文献3】Egg Science and Biotechnology、編集者Mine、2008、307~325頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、卵白粉末の別法としての製造方法、並びに好ましくは、優れた機能特性、特に水性加熱ゲルの高いゲル強度及び高い水分結合を伴う高い溶解度、より好ましくは、風味の改善をもたらす低塩分での高い泡立ち性を有する、対応じて得られる卵白粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、請求項の特徴を用いて、特に、
a)卵白から卵黄を分離することにより、鳥の卵から液状生卵白を準備する工程、
b)任意選択で、液状生卵白のpH値を、4から10の間、例えば、pH4~8.5、4~8.0、又は4~7.5、特にpH6.0~7.0又はpH6.5~7.0の値へ調整する工程、
c)任意選択で液状生卵白を低温殺菌する工程、
d) 液状卵白の塩を分離し、脱糖して、脱塩され、脱糖された液状卵白を製造する工程であって、特に、乾燥質量に対して、それぞれ最高2.6質量%、最高2.4質量%、最高2.2質量%、最高2.0質量%、最高1.8質量%、最高1.6質量%、最高1.4質量%、最高1.2質量%、最高1.0質量%、最高0.8質量%、最高0.6質量%、更に好ましくは最高0.4質量%、例えば0.3~0.4質量%、特に好ましくは0.3~0.31質量%の塩の残存塩分とし、任意選択で好ましくは、少なくとも12質量%、更に好ましくは18~23質量%のタンパク質含有量へ卵白から水を分離する、工程
e)任意選択で、脱塩され、脱糖された液状卵白のpH値を、例えば、pH4~8、好ましくはpH5~7、更に好ましくはpH6へ調整する工程、
f)脱塩され、脱糖された液状卵白を噴霧乾燥して、噴霧乾燥卵白粉末を製造する工程であって、好ましくは、乾燥質量に対して、最高2.6質量%、好ましくは最高2.4質量%、最高2.2質量%、最高2.0質量%、最高1.8質量%、最高1.6質量%、最高1.4質量%、最高1.2質量%、最高1.0質量%、最高0.8質量%、最高0.6質量%の塩の塩分を有する、工程
g)60~90℃の温度で1~5週間又は1~4週間、噴霧乾燥卵白粉末を熱処理する工程であって、熱処理は、好ましくは60~77℃未満の温度で4~5週間、77~90℃の温度で1~3週間行い、及び/又は熱処理は、特に60℃で4~5週間、65~77℃又は65~75℃で3~4週間、好ましくは75~90℃、更に好ましくは77~90℃で1~最長3週間行い、任意選択で、空気と接触した状態で、卵白粉末を更に乾燥し、任意選択で1~10質量%、好ましくは最高6質量%の水分、例えば最高4.6質量%までの水分が達成される、工程
を有するか、或いはそれらの工程からなる方法、並びに本方法を用いて得ることができる卵白粉末により課題を解決する。60~90℃の温度での1~4週間又は1~5週間の、噴霧乾燥卵白粉末の熱処理は、その溶解度が好ましくは少なくとも80%、更に好ましくは少なくとも90%、更に好ましくは100%である、並びに水戻し及び加熱によって製造される、ゲル強度の高い、より好ましくは水分結合の高いゲルを形成する、水溶性卵白粉末の製造をもたらす。
【0011】
液状卵白からの塩の分離に続く噴霧乾燥は、噴霧乾燥卵白粉末をもたらし、続く、蒸気透過性容器中又は開放空気中での、微生物学的安全性に関しては十分であり通常である60~70℃で10日間の熱処理は、生成物の溶解度の著しい低下をもたらすことが判明した。噴霧乾燥前に卵白の塩分を低下させない場合は、この熱処理により溶解度はより低い程度に低下する。予備実験では、噴霧乾燥前、及びこの60~70℃で10日間の熱処理前の、乾燥質量に対して最高2.6質量%への、卵白からの塩の分離が、溶解度を著しく低下させることが判明した。
【0012】
本発明の利点は、本方法を用いて得ることができる卵白粉末が、続く、水中への溶解後に、低塩分に起因する改善された、特に中立的風味を有することにある。熱処理は、60~90℃で1~5又は1~4週間の処理期間行い、ただし、低温側の場合は処理期間がより長く、例えば、60~75℃又は60~70℃の場合は期間が4~5週間であり、高温側の場合は処理期間がより短く、例えば、70℃~77℃の場合は3週間、特に75℃~77℃の場合は3週間、好ましくは少なくとも77℃の場合は期間が3週間から1週間であり、より高温の場合は期間がより短く、例えば、80~90℃では1~3週間、好ましくは1~2週間でもよい。好ましくは高温側、特に少なくとも77℃、好ましくは少なくとも80℃、例えば最高90℃まででの熱処理を介して、脱塩又は脱ミネラル化された卵白粉末の溶解及び加熱により製造されるゲルが、それでも、高いゲル強度、及びわずかな水漏れとして測定可能である高い水分結合を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本方法には、それにより得られた卵白粉末が、保存安定性であり、優れた機能特性を有し、及び天然の塩分を有する卵白粉末と比べて中立的な風味、特に卵白粉末から製造されたゲルのより中立的な風味を有するという利点がある。より中立的な風味は、より少ない塩味及び卵味に相当する。それに応じて、本発明は、本発明により製造された卵白粉末を、好ましくは卵白粉末の溶解、特に完全な溶解まで、混合物の水画分中に混ぜ込んでから、少なくとも、溶解した卵白が変性するか又はゲルを形成する温度に混合物を加熱することによる、食品の製造方法にも関する。
【0014】
本方法は、特に、噴霧乾燥卵白粉末を、空気と接触した状態で及び換気しながら、すなわち噴霧乾燥卵白粉末を蒸気不透過性及び/又は気密性の容器中に封入せずに熱処理できることにより、工業的規模での適用に適切であるという利点を有する。工程g)での熱処理には、噴霧乾燥卵白粉末が、蒸気透過性及び/又は通気性の容器中に ばらけて(in loser Schuettung)存在してもよい。容器は、形状安定性であっても又は変形可能、例えば、袋若しくは大袋であってもよい。熱処理中、噴霧乾燥卵白粉末は積み替えてもよいか、又は、特に容器中に充填した卵白粉末の熱処理時には動かさずに置いてあってもよい。熱処理中、卵白粉末と接触している空気は、卵白粉末に沿って移動させても又は能動的循環なしにとどまっていてもよい。その際、好ましくは空気から水蒸気を分離してもよい。好ましくは、卵白粉末を噴霧乾燥後に容器に充填し、容器中で熱処理する。任意選択で、本方法における卵白粉末を、工程g)での、空気と接触した状態での、噴霧乾燥卵白粉末の熱処理に続いてはじめて気密及び/又は耐水蒸気性の容器に充填する。
【0015】
液状生卵白を分離するための鳥の卵は、好ましくはニワトリ(Gallus domesticus)の卵であり、a)での分離は、殻を割って卵黄を卵白から分離することにより行う。
【0016】
液状生卵白のpH値は、好ましくは、食品用に適切な酸又はアルカリ液の添加により、例えば、工程b)及び/又は工程e)において、好ましくは4~10の値、例えばpH6.0~7.5に調整する。
【0017】
工程c)での任意選択の低温殺菌は、移動させながら、特に、熱交換器を貫流させて、好ましくは53℃~60℃への250秒~450秒間の加熱により行う。
【0018】
加熱による低温殺菌の別法として、低温殺菌は、高圧処理、例えば、卵白への、少なくとも200bar、例えば500barまで又は400barまでの印加によって行うことができる。この高圧処理による低温殺菌は、卵白を、例えば容器中での撹拌又は配管を通す圧送により移動させながら、好ましくは高圧処理前の卵白の25℃未満、更に好ましくは20℃未満の温度で行う。高圧処理は、好ましくは2分間、60秒間、45秒間、更に好ましくは30秒間又は20秒間行う。好ましくは、高圧処理前に卵白を最高25℃、更に好ましくは最高20℃に調温する。この高圧処理中も、好ましくは移動が乱流状である。その代わりに高電圧パルス法(pulsed electric fields:パルス電界)も使用できる。
【0019】
d)での塩及び水の分離は、膜分離法、例えば限外ろ過によって行い得る。
【0020】
本発明の目的には、塩分をNaCl含有量として測定している。この方法は、塩化物含有量を、Mohr(§64 LFGB L 05.02-1)に従った滴定により測定する。それには、卵白試料3gに蒸留水を加えて100mLに希釈し、0.25Mクロム酸カリウム水溶液5mLを混合し、0.1M硝酸銀水溶液を加えて、薄いピンク色の変色点まで滴定し、以下の式を用いて計算する:
【数1】
【0021】
工程d)での脱糖は、塩及び水の分離前、分離中又は分離後に、例えば、塩及び水の分離中に限外ろ過を利用して行い得る。脱糖は、グルコースオキシダーゼ及び酸素及び/若しくはオゾンの添加といった通常の方法により、又は乳酸菌、例えば、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)及び/若しくはラクトバチルス・クレモリス(Lactobacillus cremoris)及び/若しくは酵母、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の添加、及び例えば30~35℃での、好ましくは卵白中にグルコースが含有されなくなるまでの発酵により行うことができる。脱糖は、食品の保存性を高め、後続の乾燥及び熱処理中のメイラード反応を最低限に抑える。噴霧乾燥は、好ましくは121~232℃で行う。
【0022】
噴霧乾燥は、例えば、最高10質量%の水分まで、好ましくは最高8.0質量%、最高7.5質量%、最高7.0質量%、更に好ましくは最高6.5質量%、最高6質量%まで行い得て、例えば、少なくとも1質量又は少なくとも2質量又は少なくとも3質量又は少なくとも4質量%の水、更に好ましくは最高5.5質量%、最高5.0質量%、最高4.5質量%、最高4.0質量%、最高3.5質量%、最高3.0質量%、最高2.5質量%、最高2.0質量%、最高1.5質量%、最高1.0質量又は最高0.5質量%の水分まで行い得る。
【0023】
熱処理は、例えば、最高4.3質量%、更に好ましくは最高4.1質量%、最高3.9質量%、最高3.7質量%、最高3.5質量%、最高3.3質量%、最高3.1質量%、最高2.9質量%、最高2.7質量%、最高2.5質量%、最高2.3質量%、最高2.1質量%、最高1.9質量%、最高1.7質量%、最高1.5質量%、最高1.3質量又は最高1.1質量%の水分の達成まで、最高1.0質量%、最高0.8質量%、最高0.6質量%、最高0.4質量%又は最高0.2質量%まで、例えば0.2質量%まで行う。
【0024】
本発明の目的には、塩分をNaCl含有量として、特に卵白粉末の乾燥質量の質量%として測定している。
【0025】
本方法を用いて得ることができる卵白粉末は、噴霧乾燥及び熱処理後に、最高2.6質量%、好ましくは最高2質量%、最高1.5質量%、更に好ましくは最高1.2質量%、更に好ましくは最高1.0質量%、最高0.8質量%、最高0.6質量%、最高0.4質量%又は最高0.3質量%の塩分を、より好ましくは最高4.3質量%の、例えば0.2質量%までの水分を有する。
【0026】
本方法は、工程g)の熱処理後に得られる卵白粉末を、食品用混合物の成分となり得る水の中に溶解する工程、及び続いて、該食品用混合物中の水を場合により含むゲルを形成するために加熱する工程を有してもよい。該加熱は、卵白粉末のタンパク質が変性する温度、例えば58~100℃へと行う。
【0027】
工程g)での、噴霧乾燥卵白粉末の熱処理は、60℃~75℃で4~5週間行い、好ましくは高温側においてより短期間、例えば、75℃で好ましくは少なくとも3週間、77.5℃で少なくとも2週間、好ましくは少なくとも3週間、80℃~90℃で少なくとも1週間、例えば、1、2又は3週間行う。好ましくは工程g)での熱処理を、少なくとも77.5℃で少なくとも3週間、より高温の場合少なくとも1週間、例えば1~3週間行う。工程g)での少なくとも80℃の温度では、熱処理を好ましくは少なくとも1週間、例えば、1~3週間、例えば1、2又は3週間行う。
【0028】
溶解度は、次のように測定した:卵白粉末15gを、水105mLを含む容器中、例えばホモジナイズバッグ(Stomacher)中で1分間混合し、続いてガラス製メスシリンダーに充填し、30分間静置し、底に及び任意選択で混合物の表面に集積する不溶成分の体積分率を測定、加算し、百分率として計算する。本方法により工程g)の熱処理後に得られる卵白粉末は、食品用混合物の成分となり得る水の中に溶解してからゲルを形成するために加熱してもよい。該卵白粉末は、水中への溶解に続く、水中に溶解した卵白が変性する温度への加熱後に、高い水分結合及び高いゲル強度を有する平滑、つまり均質な固形ゲルを形成するという利点を有する。
【0029】
ゲル強度は、次のように測定する:卵白粉末30gに再蒸留水170gを混合し、2時間静置してから、気泡を閉じ込めずに、好ましくは水浴中で60分間、75℃に加熱する。卵白粉末の水中混合物を、好ましくは気泡を閉じ込めずにプラスチックチューブ(Krehalon Seam DX390 Clear、PVDC、直径38.2mm)に充填し、その中で加熱する。続いて、一晩(12時間)、2~7℃で冷却してから、空気中で室温へ温める。ゲルから厚さ15mm、直径38.2mmのシリンダーを切り取る。
【0030】
測定は、Texture Analyzer ZwickiLine Z 0.5 TNにより、200Nのロードセル及びSoftware testXpert III(メーカー:Zwick Roell、ウルム、ドイツ)を用いて行い、測定スタンプ(Messstempel)は:球形、直径8mm、前面1.005cm2、ゲルに向かう測定スタンプの速度は1mm/秒。各試料を1回測定し、試料の90%の圧縮(13.5mm)を達成する。ゲル強度は、測定スタンプの前面に対する破断荷重として示し(g/cm2)、ここでは少なくとも5回の測定からの平均値を示してある。
【0031】
本発明により製造された卵白粉末から製造したゲルは、好ましくは少なくとも490g/cm2、特に少なくとも600g/cm2、更に好ましくは少なくとも800g/cm2のゲル強度を有する。
【0032】
水分結合は、次の方法により測定した。水分結合は、水分放出(%)として示す:卵白粉末20gを水120g中に溶解し、無気泡に40分間、80℃に加熱し、好ましくはプラスチックチューブ(Krehalon Seam DX390 Clear、PVDC、直径38.2mm)への充填後に5℃で24時間保管してから、ゲルを室温にするために少なくとも3時間、室温で保管して、シリンダー(直径38.2mm、厚さ3cm)に切断し、そのシリンダーの質量を測定し、平坦な切断面をろ紙上に置き(5層、直径110mm)、1時間後にシリンダーの質量を測定し、水分放出を計算する:
【数2】
【0033】
本発明により製造された卵白粉末から製造した、水120g中の卵白粉末20gの含有量を有するゲルは、好ましくは最高6質量%、好ましくは最高4.5質量%、更に好ましくは最高1質量%の水分放出を有する。
【0034】
本方法は、工業的規模での適用に適切であるという利点を有する。工程g)での熱処理には、噴霧乾燥卵白粉末が、任意選択で蒸気透過性及び/又は通気性であってもよい様々な容器中に存在し得る。容器は、形状安定性であっても又は変形可能、例えば、1~25kgの可変の充填質量を有する袋若しくは大袋であってもよい。処理は、好ましくは加熱可能な空間内で行う。熱処理中、容器は、個別であっても又はパレット上に積み重ねてあってもよく、卵白粉末と接触している空気は、卵白粉末の容器に沿って移動させても又は能動的循環なしにとどまっていてもよい。
【実施例0035】
本発明による、高いゲル強度を有する卵白粉末の製造:
機械的に割って卵黄を分離することにより鶏卵から得た生卵白を、酸の添加によりpH7.0~7.5に調整し、続いて任意選択で熱交換器を貫流させて低温殺菌した。膜分離法により、NaClとして測定して乾燥物質に対する0.2~0.4質量%の残存塩分へ、好ましくは、液状卵白の24質量%のタンパク質含有量の達成まで水及び塩を分離した。脱糖には、乳酸菌、例えば、ラクトバチルス・プランタルム及び/若しくはラクトバチルス・クレモリス及び/若しくは酵母、例えばサッカロミセス・セレビシエを添加して、例えば30~35℃で、好ましくは卵白中にグルコースが含有されなくなるまで発酵させ、任意選択でインキュベーション後に遠心分離により分離するか、又はグルコースオキシダーゼ及び酸素及び/若しくはオゾンを添加した。そのように製造した脱塩及び脱糖された液状卵白中のpH値を6に調整した。噴霧乾燥卵白粉末を製造するために、121~232℃で、およそ5.7質量%の残存水分まで噴霧乾燥を行った。
【0036】
噴霧乾燥卵白粉末を、各1kgずつ水蒸気透過性大袋に入れ、ボール箱中、異なる温度で1~3週間の範囲で熱処理して、本発明による卵白粉末を製造した。表は、熱処理の温度、並びに1週間(W1)、2週間(W2)又は3週間(W3)の異なる処理期間後に測定された水分(質量%)、ゲル強度及び水中への溶解度を示す。
【0037】
【0038】
これらの結果は、塩分の低い卵白粉末が、噴霧乾燥及び60~75℃における1~3週間の熱処理後に、低い溶解度しか有していないことを示す。塩分は、熱処理前におよそ1.3質量%である。卵白粉末の水分は、熱処理の期間の延長及び温度の上昇と共に低下する。驚くべきことに、少なくとも77℃で3週間又はより高温で1~3週間、熱処理した卵白粉末は、100%の溶解度及び著しくより高いゲル強度を示す。60~70℃における熱処理の場合、より高い溶解度及びゲル強度は、4~5週間の処理期間後にはじめて達成される。
【0039】
水分結合も同じく著しく上昇させることができた。60℃、1~3週間の処理では、水分放出が15%超であるのに対して、少なくとも77℃、3週間の処理ではすでに4%未満であり、より高温での1~3週間の処理では最高2.5%まで又はそれ未満である。
したがって、本発明による卵白粉末は、粉末の増加した泡立ち特性を前提とする食品中に、その際含有されるNaClに起因する知覚上の損失を甘受する必要なしに混ぜ込むことができる。そのような食品中において、該卵白粉末を水中に溶解してから泡立てる。