(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151405
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】粒子入り飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/62 20060101AFI20220929BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20220929BHJP
A23C 9/00 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
A23L2/62
A23L2/38 P
A23C9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069837
(22)【出願日】2021-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2021050995
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西島 和弘
(72)【発明者】
【氏名】藤田 裕
【テーマコード(参考)】
4B001
4B117
【Fターム(参考)】
4B001AC03
4B001AC06
4B001AC20
4B001AC46
4B001BC03
4B001EC99
4B117LC15
4B117LK01
4B117LK13
4B117LK18
4B117LP14
4B117LP17
4B117LP20
(57)【要約】
【課題】粒子径が微細な不溶性粒子の入った飲料についてその分散性を維持すること。
【解決手段】以下の特徴を有するカラギナン
1)ι-カラギナンを主成分とする
2)1.5質量%の水溶液が25℃条件下でゲル化する
を0.02質量%以上を含有させることを特徴とする飲料。
また、平均粒子径0.2μm以下の不溶性微粒子を含有する飲料の製造方法であって、以下の特徴を有するカラギナン
1)ι-カラギナンを主成分とする
2)1.5質量%の水溶液が25℃条件下でゲル化する
を0.02質量%以上添加する工程を含む、ことを特長とする飲料の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径0.2μm以下の不溶性微粒子を分散させた飲料であって、以下の特徴を有するカラギナン
1)ι-カラギナンを主成分とする
2)1.5質量%の水溶液が25℃条件下でゲル化する
を0.02質量%以上を含有することを特徴とする飲料。
【請求項2】
5℃における粘度が30mPa・s以下である請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
平均粒子径0.2μm以下の不溶性微粒子を含有する飲料の製造方法であって、以下の特徴を有するカラギナン
1)ι-カラギナンを主成分とする
2)1.5質量%の水溶液が25℃条件下でゲル化する
を0.02質量%以上添加する工程を含む、飲料の製造方法。
【請求項4】
飲料の5℃における粘度が30mPa・s以下とする、請求項3に記載の飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細な不溶性の粒子の入った飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の栄養志向に伴い、様々な食品素材が食品に添加される。このような食品素材は、飲料に完全に溶解している水溶性のものもあるが、飲料に溶解せずに粒子の状態で存在する不溶性の食品素材(不溶性粒子)が使用される場合がある。飲料の形態は食品素材を摂取する上で非常に手軽であるが、その食品素材が水溶性ではなく不溶性粒子である場合は、保存中に不溶性粒子が沈殿する可能性がある。消費者が飲料として摂取する際は、不溶性粒子は可及的に沈殿せずに分散していることが好ましい。
不溶性粒子については、その粒子径が小さいほどざらつきを感じにくく、また小さいほど飲料に多く含有させることができる利点があることが知られている。
【0003】
一般的に粒子径が小さい不溶性粒子の微粒子を製造するためには、原料である粗粒子を機械的な力で粉砕する。その粉砕方法については、湿式粉砕、乾式粉砕に大別されるが、1μm以下の微粒子を得るためには湿式粉砕が用いられることが多い。湿式粉砕方式の装置としては例えば、アジザワ・ファインテック株式会社のビーズミルを例示することができる。ビーズミルは、粉砕室内に貯留しているビーズ(粉砕メディア、ジルコニア)に回転軸で運動を与え、この中に原料粒子を通過させると、ビーズ間の衝突やせん断等によって原料粒子が微細化されるものである。
【0004】
このような湿式粉砕装置を利用することで、平均粒子径0.2μm以下の微粉体の不溶性粒子を得ることができる。なお、以下の記載においては、平均粒子径0.2μm以下の微粉体である不溶性粒子を「不溶性微粒子」と記載し、単なる不溶性粒子とは区別することがある。
【0005】
これまでは、一般に不溶性粒子は、短時間であれば良好に分散しているが、数日の時間経過においては沈殿が生じることが避けられないとされていた。このため、沈殿を防止するための様々な技術が案出されている。
【0006】
例えば、セルロースやグアーガム、アラビアガム等の多糖類では短時間の沈殿防止効果は得られるものの数日間での効果を得るために配合を強化すると、飲料が高粘度になる等の好ましくない特性が生じることがある。ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤においても食品に風味の影響を与えない範囲の添加量では沈殿防止の効果が得られない。
【0007】
特許文献1では、液相に対して不溶性粒子の分散性を安定化する手段として、その1.5質量%水溶液が25℃条件下でゲル化しない、カルシウムイオンを0.1質量%以下の割合で含有するなどの性質を有する水溶性カラギナンを用いることを特徴とした分散安定剤が開示されている。しかしながら、特許文献1では粒子の粒子径に関する記載は無く、平均粒子径が0.2μm以下である不溶性微粒子に対しての効果は明らかにされていない。
【0008】
特許文献2では、不溶性ミネラル強化乳入り飲料として、κ-カラギナンを含む分散剤を含有し、不溶性粒子の沈殿量を一定量以下に抑える発明が開示されている。しかしながらκ-カラギナンは比較的高いゲル化力を有しているため、飲料に大量に配合すると飲料が増粘するという問題があった。このため飲料に対しては配合量の限界があり、それゆえに沈殿量を抑えるほどの配合量までは増やせないという問題があった。とくに特許文献2においては、粒子径に関しては100μm以下であることが好ましいとされ、実際に2μmの実施例は開示されているものの、それ以下のとくに小さな粒径の場合、すなわち不溶性微粒子についての具体的言及は無い。
【0009】
以上のような従来技術においては、不溶性粒子の分散はなされているものの、粒子径が0.2μm以下の不溶性微粒子に対してはその効果は明らかにされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002-186431号公報
【特許文献2】WO2013/115257公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、不溶性微粒子の入った飲料について粘度を上げることなくその分散性を維持することを課題とし、とくに低粘度でありながら、保存期間が長期にわたっても不溶性微粒子が可及的に沈殿することがない飲料およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するための本発明は、以下のとおりである。
[1]
平均粒子径0.2μm以下の不溶性微粒子を分散させた飲料であって、以下の特徴を有するカラギナン
1)ι-カラギナンを主成分とする
2)1.5質量%の水溶液が25℃条件下でゲル化する
を0.02質量%以上を含有することを特徴とする飲料。
[2]
5℃における粘度が30mPa・s以下である[1]に記載の飲料。
[3]
平均粒子径0.2μm以下の不溶性微粒子を含有する飲料の製造方法であって、以下の特徴を有するカラギナン
1)ι-カラギナンを主成分とする
2)1.5質量%の水溶液が25℃条件下でゲル化する
を0.02質量%以上添加する工程を含む、飲料の製造方法。
[4]
飲料の5℃における粘度が30mPa・s以下とする、[3]に記載の飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、粒子径が微細な不溶性微粒子の入った飲料について、低粘度にしながらもその分散性を維持することができる。従って、低粘度であるにもかかわらず保存期間が長期にわたっても不溶性微粒子が可及的に沈殿することがない飲料およびその製造方法を提供することができる。さらに、飲料に配合される不溶性粒子が微細な不溶性微粒子であるために、飲んだ際にざらつき等が感じられにくく、より多く不溶性微粒子を添加することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】試料の沈殿の度合いを評価するための評価指標を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[飲料]
本発明の飲料は粘度が高くないため、誰にでも抵抗なく飲用できるものである。そして、不溶性微粒子を含有する。かかる飲料としては、乳飲料、乳酸菌飲料、乳製品乳酸菌飲料、清涼飲料、野菜飲料、果汁飲料、ココア飲料、チョコレート飲料、抹茶飲料等の飲料を例示することができる。この中でもとくに乳に由来する乳成分を含む飲料が好ましく、乳飲料、とくにカルシウムを配合した加工乳がもっとも好ましい。
【0016】
[平均粒子径]
本発明における平均粒子径は、体積基準のメジアン径である。本発明における平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置LA-950(株式会社堀場製作所製)によって測定・算出することができる。
【0017】
[不溶性微粒子]
本発明で用いられる不溶性微粒子とは、炭酸カルシウム、ミルクカルシウム等のカルシウム素材、ココア、チョコレート、抹茶、野菜、果実、豆類等の繊維分、たんぱく質等の不溶性固形分について、微細化処理を施して、平均粒子径を0.2μm以下まで細かくしたものである。
【0018】
微細化処理については、空気中で粉砕を行う乾式粉砕と、水中、液中で粉砕を行う湿式粉砕とに大別されるが、1μm以下の微粒子を得るには湿式粉砕が望ましい。例えば、アジザワ・ファインテック株式会社のビーズミルを用いて粒子を粉砕することで、粒子径0.2μm以下の不溶性微粒子を得ることができる。
【0019】
[カラギナン]
本発明で用いられるカラギナンは、下記の特徴を有する。
1)ι-カラギナンを主成分とする
本発明ではι-カラギナンを活用する。
2)1.5質量%の水溶液が25℃条件下でゲル化する。
【0020】
これに対して、1.5質量%の水溶液が25℃条件下でゲル化しないι-カラギナンは、ゲル化能が低いため、特に不溶性微粒子に対しては沈殿を防止させるほどのネットワークが十分に形成されず、その沈殿防止効果は充分ではなかった。適度なゲル可能をもつものとして、1.5質量%の水溶液が25℃条件下でゲルを形成する性質を持つものが必要である。
【0021】
本発明で用いられる上記の性質を有するι-カラギナンは、商業的に入手でき、例えば、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製カラギニンCSI-1が挙げられる。これを用いる際には、25℃程度の温度の水で溶解は可能であるが、そのカラギナンの効果を充分に発揮させるためには50~80℃の範囲で加熱溶解することが好ましい。
【0022】
本発明に用いるι-カラギナンの配合量は、不溶性粒子を分散させた飲料の5℃における粘度が30mPa・s以下、好ましくは25mPa・s以下、より好ましくは20mPa・s以下、とくに好ましくは15mPa・s以下となるように、対象となる内容成分に応じて適宜選択することができる。飲料の粘度が5℃で30mPa・s以下であると、スッキリとした飲み心地がより確実に得られるため好ましい。この条件を満たすために望まれるι-カラギナンの配合量は0.02~0.1質量%、好ましくは0.04~0.08質量%である。
【0023】
[製造方法]
本発明の飲料の製造方法としては、基本的には公知の方法を用いることができる。すなわち、原料を溶解する工程、殺菌する工程、充填する工程を基本的な工程とし、必要におうじてこれに均質化する工程、追加の原料や香料を混合する工程、発酵する工程などを組み合わせてもよい。
【0024】
<試験例>
以下に本発明をさらに具体的に説明するが、これらの試験例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0025】
a)試験例1
(試験目的)
この試験は、様々な沈降抑制剤について、不溶性微粒子に対する沈殿防止の効果の程度を調べるために行った。
(試料の調製)
使用した沈降抑制剤の内訳を表1に示す。
【0026】
【0027】
以上の表1の沈降抑制剤を使用し、表2に示す配合でミルクカルシウム入りの乳飲料を調製した。表2において、例1~3は実施例、例4~8は比較例である。
【0028】
【0029】
ミルクカルシウムは、原料カルシウム粒子(Fonterra Limited社製、Natural Milk Salts 996 (NMS996))をアジサワファインテック株式会社のラボスターミニLMZ015を用いて湿式のビーズミルにて粉砕し平均粒子径0.2μm以下にしたものである。また、脱脂粉乳、無塩バターはいずれも森永乳業社製の市販品を使用した。
【0030】
実施例である例1~3に配合した沈降抑制剤TS1としては、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製カラギニンCSI-1を使用した。この商品はι-カラギナンを主成分とするものであり、その1.5質量%水溶液が25%条件下でゲル化するものである。比較例である例4~例8の沈降抑制剤にはι-カラギナンは含まれていない。
【0031】
沈降抑制剤TS1~TS6の配合量は、5℃における粘度が12mPa・s以下になることを目安にして設定している。
【0032】
各試料については、表2の配合に示す原料をすべてミキサーに投入した後、60~70℃で攪拌しながら溶解し、三丸機械工業(株)製の一段ホモゲナイザーに通液して60℃の条件で20MPaで均質化した。その後80℃で10分間保持して殺菌し、5℃まで冷却した後に軽量瓶へ180mLずつ充填し、軽量瓶入りの飲料を調製した。
【0033】
(評価の方法)
各試料の沈殿の度合いを以下の方法で評価した。
【0034】
軽量瓶入りの飲料を4日間10℃にて保管した後に、可能な限り軽量瓶に衝撃を与えないように軽量瓶中の飲料を他の容器に移し、移した飲料をまた衝撃を与えないように容器から軽量瓶へ戻し、再度衝撃を与えないように軽量瓶から容器へ移す。その後、空になった軽量瓶を逆さまの状態で静置し、軽量瓶の底および内面に残った不溶性粒子の状態を肉眼にて観察し、
図1の例(a)~(e)に示す以下の評価指標に従って評価した。
[評価指標]
例(a) ◎:ほぼ沈殿無し
例(b) 〇:僅かに沈殿有り
例(c) △:少し沈殿有り
例(d) ×:多くの沈殿有り
例(e) ▲:液体粘度高く飲料として不適
【0035】
(結果)
この試験の評価結果を表2に示す。TS1を使用した例1~3は、例4~8に比して沈殿防止の効果が高く、かつこの沈殿防止の効果は、例1、例2に比して例3が高かった。
【0036】
以上の試験の結果、本発明の沈降抑制剤であるTS1の沈殿防止効果がもっとも高く、またその配合量が多いほど沈殿防止効果も高まることが判明した。
【0037】
b)試験例2
(試験目的)
この試験は、本発明で使用する沈降抑制剤TS1の沈殿防止効果が、不溶性粒子の平均粒子径によってどのように影響を受けるか、を確認するために行った。
(試料)
使用したカルシウム原料の内訳を表3に示す。表3において、Ca1は本発明に使用される不溶性微粒子である。
【0038】
【0039】
(試料の調製)
以上の表3のカルシウム原料を使用し、表4に示す配合で前記試験例1と同様に不溶性粒子が入った乳飲料を調製した。脱脂粉乳、無塩バターは試験例1と同一である。表4において、例9は実施例、例10~12は比較例である。
【0040】
【0041】
(評価)
前記試験例1と同様に各試料の沈殿の程度を評価した。
(結果)
結果を表4に示す。カルシウム原料として本発明の不溶性微粒子であるCa1を配合した例9は、例10~12に比して沈殿が防止されていた。
【0042】
以上の試験の結果、平均粒子径0.2μm以下の不溶性微粒子は、平均粒子径が大きい不溶性粒子に比して、より効果が高いことが判明した。すなわち、本発明で使用する沈降抑制剤は、平均粒子径0.2μm以下の不溶性微粒子に対して効果が高いことが判明した。
【0043】
c)試験例3
(試験目的)
この試験は、κ-カラギナンおよびポリグリセリン脂肪酸エステルについて、本発明との効果の差異を確認するために行った。
(試料)
使用した沈降抑制剤の内訳を表5に示す。
【0044】
【0045】
以上の表5の沈降抑制剤を使用し、表6に示す配合でミルクカルシウム入りの乳飲料を前記試験例1と同様に調製した。脱脂粉乳、無塩バター、およびミルクカルシウムは、前記試験例1と同一である。表2において、例13は実施例、例14~16は比較例である。
【0046】
【0047】
(評価の方法)
前記試験例1と同様に各試料の沈殿の度合いを評価した。そのほかに、以下の方法で軽量瓶に充填する時の飲料の粘度を測定した。
・東機産業製 RB80 モデルL(ブルックフィールド型回転粘度計)を使用。
・回転数:60回転/分
・使用ローター:測定粘度が0~100mPa・sの場合は、ローター番号1、測定粘度が100~500mPa・sの場合は、ローター番号2
・測定温度:5℃
(結果)
この試験の結果を表6に示す。TS1を使用した例13は、例14~16に比して沈殿防止の効果が高かった。κ-カラギナンを主成分とする沈降抑制剤TS7を使用した例14、例15においては、例15は粘度が高くなりすぎて飲料としての用を足さない状態であった。すなわち、κ-カラギナンは配合量が少ないと沈殿防止の効果が小さく(例14)、配合量を増やすと飲料が増粘した(例15)。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルを成分とするTS8は、大量に配合しても沈殿防止の効果は小さかった。
【0048】
以上の結果から、本発明のカラギナンは、κ-カラギナン、ポリグリセリン脂肪酸エステルに比して沈殿防止効果が優れていることが判明した。とくにκ-カラギナンは、配合量を増やすと飲料が増粘してしまうため、不溶性微粒子に対する沈殿防止効果は十分に得られないことが判明した。