(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151445
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】真空圧密工法と真空圧密浚渫工法及び真空圧密試験のシステムと鉛直ドレーン打設機と気密載荷函体
(51)【国際特許分類】
E02D 3/10 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
E02D3/10 103
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021081972
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】506101805
【氏名又は名称】近藤 正佳
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正佳
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043CA04
(57)【要約】
【課題】真空沸騰圧密工法の急激な圧密促進効果は、メカニズムが明確でないため、その特性を十分に活かしきれていない。例えば、海底のヘドロ地盤等である。また、海底地盤の当該工法及び真空圧密浚渫工法に使用する気密載荷函体は、巨大化すると専用作業船も超巨大化して建造費が巨額となる。
【解決手段】急激な圧密促進効果は、減圧沸騰により間隙水中に発生するファインバブル効果であることを突き止めた。必要なファインバブル量はその地盤の陽イオン交換容量に左右され、ファインバブル量は沸騰時間に依存する。そこで有効沸騰時間を真空圧密試験で求めて真空圧密の工程に組み入れた。また、短時間の沸騰で必要なファインバブル量が確保できない場合は、ファインバブル水を発生装置で製造して不足分を補充する。また、巨大な気密載荷函体は、専用作業船を使わずに自潜航式の気密載荷函体とすることで建造費の大幅な縮減化を図り、ひいては沿岸海域の公共事業費の縮減化とした。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性土地盤等の間隙水を減圧沸騰させる真空圧密工法において、前記粘性土地盤等の粘土鉱物,腐植の負電荷とこれが引き付ける陽イオンが形成する拡散イオン層の電気的平衡を大きく崩すために、前記粘性土地盤等の陽イオン交換容量及び真空圧密試験を基にして設定された必要なファインバブルの相当量を発生させる有効沸騰時間を別枠で真空圧密工程に組み入れ、ファインバブル効果により粘土の骨格を形成するペッド間の電気的引力を一時的に消失させ、合わせて粘土の透水性を向上させて急速真空圧密を行うことで、粘土地盤等の圧密時間の短縮と圧密沈下の増大を図る地盤改良、あるいは殺菌,有害なイオン等を圧密排水と共に除去する土壌浄化を特徴とする真空圧密工法。
【請求項2】
請求項1の粘性土地盤等の高水圧状態の間隙水を減圧沸騰させる真空圧密工法において、設定する減圧による高真空圧は通常のミリバブルが発生する激しい沸騰とはならないで、ファインバブルのみが発生する静かな沸騰とすることで、沸騰による蒸発の発生を極力抑えて高真空圧を安定に維持し、ファインバブル効果により、粘土の骨格を形成するペッド間の電気的引力を一時的に消失させ、合わせて粘土の透水性を向上させて急速真空圧密を行うことで、粘土地盤等の圧密時間の短縮と圧密沈下の増大を図る地盤改良、あるいは殺菌,有害なイオン等を圧密排水と共に除去する土壌浄化を特徴とする真空圧密工法。
【請求項3】
請求項1の真空圧密試験のシステムにおいて、各試験機器の接続は真空圧密試験器,気水分離タンク,コールドトラップ,真空ポンプの直列とし、真空圧密試験器の圧密リングはガイドリングと一体となる圧密リングとし、圧密リングの内径と加圧板の外径の差は0.1mm以上,0.2mm未満の範囲とし、真空圧密試験器の気密保持は底版と圧密リング間をガスケットとし、相対移動する圧密リングと加圧板間を柔軟で弾性の大きな材質のキャップとし、当該キャップを圧密リングと加圧板に被せ、このキャップを真空圧で吸引密着させることで気密保持をする仕組を特徴とする真空圧密試験のシステム。
【請求項4】
減圧沸騰を起こす高真空を長時間維持するのが困難な条件下における請求項1の真空圧密工法において、短時間の減圧沸騰だけでは必要なファインバブル量の確保ができない場合、ファインバブル量の不足分のファインバブル水の供給工程を真空圧密工程に組み入れ、ファインバブル量を補充することで、多種多様な粘土地盤等の圧密時間の短縮と圧密沈下の増大を図る地盤改良、あるいは殺菌,有害なイオン等を圧密排水により除去する土壌浄化を特徴とする真空圧密工法。
【請求項5】
鉛直ドレーン工法を併用する請求項4の真空圧密工法の鉛直ドレーン材の打設機において、ドレーン材を保持するマンドレル先端部にはウルトラファインバブル水を水平方向,下方向に高圧噴射させるノズル装置を備え、ドレーン材の打設時に、ドレーン材打設と同時にウルトラファインバブル水を必要な方向の地盤に高圧噴射、あるいはウルトラファインバブル水のみを地盤に高圧噴射するウルトラファインバブル水の供給機能を備えていることを特徴とする鉛直ドレーン打設機。
【請求項6】
鉛直ドレーン工法を併用する請求項4の真空圧密工法において、鉛直ドレーンの地盤の平面位置に対するウルトラファインバブル水の供給位置は、鉛直ドレーンと同じ位置、さらには必要に応じて鉛直ドレーン位置に囲まれた中央位置とし、作業工程はドレーン打設とウルトラファインバブル水の供給を兼ねた工程、次にウルトラファインバブルのブラウン拡散時間とする拡散工程を経てから、真空圧密工程へと移行することで、ウルトラファインバブルの地盤分布の均等化を図り、ウルトラファインバブル効果を斑なく活用することを特徴とする真空圧密工法。
【請求項7】
海底等の浮泥地盤,ヘドロ地盤,軟弱地盤に適用する請求項4の真空圧密工法において、当該工法に使用する底面開口の気密載荷函体の底面部にはファインバブル水を高圧噴射させる無数のノズルの機能を果たす有孔管を張り巡らして、この気密載荷函体を軟弱地盤等に据え付ける工程と併行するファインバブル水の供給工程で、ファインバブル水を高圧噴射させることで軟弱地盤等に必要量のファインバブルを均一に混合し、ファインバブル効果で軟弱地盤の圧密時間の短縮と圧密沈下の増大を図ると共に、ヘドロ地盤においては殺菌,有機物の分解,土壌浄化を図ることを特徴とする海底等の真空圧密工法。
【請求項8】
請求項7に使用する気密載荷函体において、剛性浮体を当該函体の上面のほぼ全面に取り付け、当該函体の上昇・下降は潜水操作装置によって前記浮体の内部空間を空気と水の入れ換えで自在に行い、且つ、先端部に鉛直伸縮スパッドを固定した複数のスパッド付き水平伸縮ビームを当該函体の上面の2方向の外縁部に取り付け、当該函体の海底での前後左右の水平移動は前記潜水操作装置と水平伸縮ビームの水平移動操作装置によって自在に行い、これらの操作装置で潜水及び海底水平移動を自在に行うことを特徴とする自潜航式の気密載荷函体。
【請求項9】
請求項7に使用する気密載荷函体において、フレキシブル浮体を当該函体の上面のほぼ全面に取り付け、当該函体の上昇・下降は潜水操作装置で前記浮体の内部空間に圧縮空気の出し入れによる浮体容積の増減で自在に行い、且つ、先端部に鉛直伸縮スパッドを固定した複数のスパッド付き水平伸縮ビームを当該函体の上面の2方向の外縁部に取り付け、当該函体の海底での前後左右の水平移動は前記潜水操作装置と水平伸縮ビームの水平移動操作装置によって自在に行い、これらの操作装置で潜水及び海底水平移動を自在に行うことを特徴とする自潜航式の気密載荷函体。
【請求項10】
請求項8及び9に使用する標準深度用の気密載荷函体において、当該函体の稼動関連設備及び装置を搭載した函体タワーを当該函体の上面中央部に取り付け、当該函体の稼動装置等が完結形式の構造を特徴とする自潜航式の気密載荷函体。
【請求項11】
請求項10に使用する高深度用の気密載荷函体において、当該函体の稼動関連設備及び装置は気密載荷函体の操作船に搭載し、前記函体タワーの役割は当該函体の位置表示と稼動関連装置の作動用の電源ケーブル,信号ケーブル、及び各種パイプの添架用とすることで函体タワーの軽量化を図り、当該函体の重心位置を下げることで浮体としての安定性を高めたことを特徴とする自潜航式の気密載荷函体。
【請求項12】
海底等のヘドロ地盤,軟弱地盤の真空圧密浚渫工法において、請求項7の真空圧密工法のファインバブルの供給工程を当該工程に取り入れ、ファインバブル効果により、前記底面開口の気密載荷函体で軟弱地盤等を浚渫可能な強度まで極めて短い時間で急速真空圧密し、圧密沈下の増大により浚渫土の発生を大幅に抑制し、さらにはファインバブル効果によりヘドロ地盤の殺菌,有機物の分解,土壌浄化を図ることを特徴とする真空圧密浚渫工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たに確認されたファインバブル効果を活用した急速真空圧密工法の地盤改良、さらに急速真空圧密と浚渫を一連の工程で実施する海底土等の真空圧密浚渫工法。そして、前記工法の実施計画に供する真空圧密試験のシステム、それぞれの工法に使用する鉛直ドレーン材の打設機,気密載荷函体に関する。また、すでに知られているファインバブル効果との複合効果による、ヘドロ地盤等の殺菌,有機物の分解,土壌浄化を図ることに関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱な粘性土地盤上に重量の大きな構造物を構築する場合、事前に地盤の沈下,変形や強度の面での改良をするのが一般的である。これの対策工法としてプレロード工法がある。この工法は地盤上にあらかじめ構造物と同等もしくはそれ以上の盛土荷重を載荷し、圧密沈下を生じさせるとともに、地盤の強度増加を図り、その後にこの盛土荷重を除去して構造物を建設する工法である。通常、プレロード工法は圧密排水距離を短縮して圧密促進を図る鉛直ドレーン工法を併用する。
【0003】
真空圧密工法は1949年頃、スウェーデンのKjellmanが盛土荷重の代わりに大気圧を用いた大気圧載荷工法を発案したことに始まる。現在は真空ポンプを排気専用として排気と排水を分離した気水分離タンク方式へと進化している。真空圧密工法は盛土載荷工法にない優れた特徴がある。特徴1は盛土材の搬入・盛土構築・盛土撤去の工程を必要としない。特徴2は改良域の地盤沈下・収縮が進むにつれて外周地盤は内側に引き込まれる安定型の変形である。このため、載荷盛土ができないような軟弱地盤にも容易に適用される。反面、真空圧密工法の真空載荷圧(大気圧と真空圧との差)は101.3kPaの理論限界値がある。真空圧密工法で最も重要な課題はドレーン内の流体圧を極力低く、且つ安定に保つことである。現在の減圧の実績は、気密シート下で-70~-80kPaである。
【0004】
海底地盤の真空圧を活用した工法として真空圧密浚渫工法がある。これは真空圧密と浚渫を一連とした工法である。この工法は気密載荷函体と称する鋼製箱型で地盤の気密性の確保,圧密載荷及び浚渫のバケットの役割をする装置が使用される。気密載荷函体の構造は底面開口の箱型構造で内部天井面に薄型の水平排水のためのタンクを設け、これの直下にドレーン機能のある函体隔壁で分割して複数の隔室を形成し、隔室上面には透水性蓋を設け、前記函体の外部上面の中央部分には気水分離気密タンク及び函体タワーが取付けられている。(特許文献1参照)(特許文献2参照)(特許文献3参照)(特許文献6参照)
【0005】
真空圧密浚渫工法の作業工程は、気密載荷函体を海底にセットする据付け工程、次に圧密工程,浚渫工程,浚渫土の運搬工程に分けられる。浚渫工程は当該函体が抱え込んだ中詰土を海底から吊り上げ,そして函体から押出す工程である。この吊り上げを浚渫土の積み込み、中詰土の押し出しを浚渫土の積み下ろしに相当する。
【0006】
当該函体は海底にセットされると気密性が確保される。そして、海底土は気密載荷函体の中詰状態となる。圧密工程では海底土を底面開口の当該函体で浚渫可能な強度以上にする。すなわち、浚渫対象となる海底粘性土等の含水比が液性限界以下になるように圧密の進行を図り、浚渫工程では中詰土の上下面の真空圧力差(真空吸引)を利用する。このとき中詰土は上面だけが吊り上げられて残り全部が落下しては意味がない。従って、中詰土は自重で分離して落下しない強度が必要となる。この中詰土の一体条件は模型実験で検証した結果、中詰土の含水比を液性限界以下まで圧密することで得られる強度である。これにより底面開口の気密載荷函体によって圧密と浚渫を一連の工程とする工法を実現している。当該工法は航路の維持浚渫にも利用される。従って、圧密時間のさらなる短縮が課題となっている。
【0007】
2019年に真空圧の有効活用において、気密シート下の減圧が限りなく-100kPaに迫る高真空圧密システムが発明された。従来の減圧は-70~-80kPaである。減圧を安定的に98kPa持続させると、これだけで減圧が25%~40%向上する。この高真空圧密システムの威力は、粘土地盤の間隙水の現状温度が沸点となるまで減圧することで、間隙水を沸騰させることができる。間隙水を沸騰させたならば、沸騰を起こさない範囲で最も高い高真空圧を継続させることで粘土地盤の圧密沈下が急激に進行する。(高真空圧密システムは特許文献5参照)以降、この減圧沸騰で急激に圧密沈下が進行する現象を真空沸騰圧密と称する。以降、前記高真空圧密システムは極めて重要なシステムなのでシステム機能,特性を記述する。
【0008】
周知のように水は沸騰しなくても蒸発する。特に水蒸気は真空中では活発に発生する。水が気体(水蒸気)に変わるときは体積が激増する。それ故に水蒸気の発生は減圧の真空圧に対して反対の極めて大きな加圧として作用する。従来の真空圧密システムはこの水蒸気圧の影響を見逃していた。このため、従来の真空圧密システムの減圧は70~80kPa程度が限界となっている。この水蒸気圧の解決手段が真空圧密システムの真空経路にコールドトラップを組み込んだものである。
【0009】
真空沸騰圧密を可能とする高真空圧密システムの真空関連装置は、気水分離真空タンクと真空ポンプの間に高真空圧貯留タンク,コールドトラップの順番で設置する。コールドトラップの役割は、真空経路に発生する水蒸気をコールドトラップで霜(氷)として捕集することで真空ポンプを最大限に機能させるものである。この高真空圧密システムは海底等の真空圧密浚渫工法の圧密工程にも組み込まれる。当該工法は底面開口の気密載荷函体で浚渫可能な強度までできるだけ短い時間で圧密する必要がある。このとき、真空(減圧)沸騰圧密が威力を発揮する。
【0010】
真空圧密工法による地盤改良深度の限界は理論的に10mである。鉛直ドレーンが水に満たされ、水位面から10mの深度までしか真空ポンプで水を吸い上げられない。粘土地盤の間隙水を沸騰させるためには、高真空圧を直接粘性土地盤に伝達させる必要がある。そこで、鉛直ドレーンに滞留した粘性土地盤の間隙水を空気と置き換えることで、真空圧密工法による地盤改良の限界深度10mを大きく拡大する高深度の真空圧密工法が発明された。(特許文献4参照)(特許文献5参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第6582361号(PCT/JP2017/010246)
【特許文献2】PCT/JP2018/014036
【特許文献3】PCT/JP2018/019707
【特許文献4】特願2019-213667
【特許文献5】PCT/JP2020/036153
【特許文献6】PCT/JP2020/036152
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
現時点で真空沸騰圧密工法は、極めて有効な地盤(土壌)とそうでない地盤がある。例えば腐植を多く含むヘドロ地盤等が有効な結果が出ていない。これらの対策はまだ確立されていない。また、海底地盤は大気圧に加えて水圧が加わる。この場合の減圧沸騰現象が明確でない。根本的な課題は、真空沸騰圧密工法の急速圧密の原理,メカニズムが解明されていないことである。このため、この工法の特性を十分に活かしきれていない。
【0013】
高真空圧密システムとして確立したのは、特許文献5に示す高真空圧密システムである。本発明に使用する高真空圧密システムは、前記既存のシステムの高真空貯留タンクとコールドトラップを一体化したもので、システムとしての基本的機能は変わらない。これらのシステムは減圧による真空を限りなく100kPaに迫るシステムである。このシステムは密閉された粘土地盤等の間隙水の現状温度が沸点となる飽和蒸気圧まで確実に減圧させ、間隙水を沸騰させることができる。ただし、特許文献5の評価は水深の大きい海底地盤の真空沸騰圧密工法に当該高真空圧密システムを適用しても粘土の間隙水を沸騰させるのは困難であるとしている。その理由は粘性土地盤には大気圧に加えて水深相当の水圧が発生しているためとしている。(特許文献5には過剰間隙水圧としているが、水深相当の水圧の記載ミス)このため、間隙水の現状温度が沸点となる限界の真空圧を超えない高真空圧による真空圧密工法で実施するのが良いとしている。つまり、海底地盤では真空沸騰圧密工法は効果がないとしている。
【0014】
以降、粘土地盤を代表させて記述する。真空沸騰圧密工法は必要な沸騰時間を確保できれば、沸騰を止めても圧密促進効果が持続する特性を利用している。この沸騰時間と圧密促進効果の関係については、真空圧密試験装置がなければ検証できない。従来、このような装置は存在しない。特許文献5は真空圧密試験装置で検証したものである。ただし、開発途上の初期の不完全な真空圧密試験装置によるものである。従って、検証そのものも十分なものではない。特許文献5の真空圧密試験で得られた成果は、「真空沸騰圧密工法は極めて有効な地盤(土壌)とそうでない地盤があること、真空沸騰圧密工法は必要な沸騰時間を確保できれば、沸騰を止めても圧密促進効果が持続する」の2点である。
【0015】
課題1は信頼に値する真空圧密試験装置の開発である。課題2はいろいろな粘土試料で真空沸騰圧密試験を実施して、真空沸騰圧密工法のメカニズムを明らかにする。効果がある地盤とない地盤の違いは何か。これの対策はあるのかないのか。海底地盤には効果がないと考察しているが事実か。などの検証実験である。課題3は真空沸騰圧密工法の原理,メカニズムに基づいて、既存の真空沸騰圧密工法,これを取り入れた真空圧密浚渫工法の見直し検討,さらにはこれ等の工法に関する設備,装置の見直し検討である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
課題1は信頼に値する真空圧密試験器及び真空圧密試験のシステムの開発である。真空圧密試験のシステムは真空圧密試験器と高真空圧密システムから構成される。高真空圧密システムは水蒸気対策で既に実績がある。課題は真空圧密試験器の気密の保持である。保持すべき箇所は2箇所ある。真空圧密試験器の底版と圧密リングの間、そして、圧密リングと加圧板の間である。特に加圧板と圧密リングは相対移動するので気密保持が極めて困難である。一般的な方法は加圧板側面の外周面上に溝を切り、Oリングの半分程を度埋め込む方法である。真空圧密試験器は真空時に容器内に大気を吸い込まないぎりぎりの状態でOリングを取り付けても圧密リングとの周面摩擦が過大となる。この試験器は摩擦の影響で、測定値の沈下量が真値よりも低くなり精度が低い。また、100kPaに近い真空圧はOリングを強力に吸引する。Oリングの一部が溝から少しでもずれたりすると加圧板はまったく沈下不能となる。このため、初期の真空圧密試験器は不完全な試験器である。
【0017】
本発明の請求項3の圧密リングと加圧板間の対策は、柔軟で弾性の大きな材質のキャップ方式である。このキャップの内面にグリースを塗って圧密リングと加圧板にぴったりと被せる。これが仮密閉となる。真空圧密試験時はこのキャップを真空圧で吸引密着させることで気密保持をする仕組である。これの利点はOリングのように圧密リングの周面摩擦を発生させないことである。ただし、キャップが真空圧で加圧板と圧密リングの隙間に吸込まれることを避けるために、圧密リングの内径と加圧板の外径の差の上限を0.2mm未満とした。また、一方で隙間が極端に狭いことによる加圧板と圧密リングとの周面摩擦を避けるために下限を0.1mm以上とした。また、圧密リングとガイドリングを一体としたのは真空漏れとなる継ぎ目を避けたものである。ただし、これの対策がとれていれば物理的に一体でなくても良い。本発明の真空圧密試験器を高真空圧システムの装置に連結したのが本発明の請求項3の真空圧密試験のシステムである。
【0018】
改良した本発明の真空圧密試験のシステムを用いて、重錘載荷圧密試験との比較実験を実施した。粘土試料は主要粘土鉱物がカオリナイト,スメクタイト,腐植(有機化合物)を含むヘドロ試料である。粘土試料の温度は約15℃。これを沸点とする粘土試料の間隙水の飽和蒸気圧は1.7kPa(ゲージ圧:99.6kPa)である。従って、沸騰時の減圧は-99.6kPa,沸騰後の圧密時の減圧は-98.0kPaとした。また、重錘載荷圧密試験の載荷重量は98.0kPaとした。沸騰時間は試験結果を見ながら延長して、試験を繰返し行った。重錘載荷圧密試験曲線の圧密速度と比較して、沸騰時の真空圧密試験曲線の圧密速度は、ほぼ同じかむしろ遅い。沸騰が起こらない高真空(-98.0kPa)とすると急激に圧密が進行する。
【0019】
真空沸騰圧密による圧密沈下の促進効果は、粘土の種類によって大きく異なることが実験で確認された。主要粘土鉱物がカオリナイトの粘土試料の沸騰時間は僅か1分~2分で格段の効果があった。スメクタイトは5分間~10分間の沸騰時間で効果が見られた。そして、沸騰時間の長い方は明らかに効果が大きい。腐植を多く含むヘドロは、50分間の沸騰時間であるが促進効果は小さい。特許文献5において、当該真空圧密工法の必要な沸騰時間は数十秒~数分で良いとされている。これは主要粘土鉱物がカオリナイトの粘土試料の場合である。
【0020】
真空沸騰圧密工法で、十分な圧密促進効果を得るためには主要粘土鉱物がカオリナイト,スメクタイト,さらには腐植を多く含むヘドロの順に、沸騰時間が長くなる傾向にある。これ等の陽イオン交換容量CEC(meq/100g)を比べると、カオリナイトは2~10,スメクタイトは60~100,腐植は150~300である。実験の沸騰時間をカオリナイトの沸騰時間を基準に比較すると、スメクタイトは10倍~30倍,ヘドロは30倍~75倍である。主要粘土鉱物がスメクタイトの試料は、必要な沸騰時間が若干不足のようである。腐植を多く含むヘドロは沸騰時間が大きく不足したようである。このことから、真空沸騰圧密工法の沸騰時間は土壌の陽イオン交換容量と大きく関係していることになる。
【0021】
飽和粘土の粘土粒子(粘土鉱物)は、板状で表面は負、端部は正に帯電し、負の帯電が大きく卓越している。粘土粒子の表面に水分子を吸着し、さらに多くの陽イオンを静電気的に引き付けて拡散イオン層(電気二重層)を形成する。粘土の構造は粘土粒子がペッド(団粒)を形成し、ペッドが粘土骨格及び間隙(マクロポア)を形成する階層構造である。ここで、粘土粒子,吸着水層,これを取り巻く拡散イオン層は電気的平衡を保ち安定し、さらにペットどうしの接触面においても電気的平衡を保って粘土構造は安定している。すなわち、負に帯電している粘土粒子と陽イオン間に引力が作用して安定している。ペットどうしの接触面の拡散イオン層は対応する粘土粒子が共有状態にあって安定していると考えられる。
【0022】
粘土の間隙水が沸騰すると無数の微細な気泡が発生する。この気泡は負に帯電したファインバブルと推察される。何故ならば粘土の間隙は通常のミリバブルが発生するほどの広さがないからである。ファインバブルは拡散イオン層の陽イオンと吸着して電気的平衡を大きく崩す。つまり、ペットどうしの接触面の対応する粘土粒子は、共有状態の拡散イオン層を介して電気的引力により結び付き安定している。この拡散イオン層の陽イオンに負に帯電しているファインバブルが吸着して電気的引力を一時的に喪失させる。圧密沈下は間隙を縮小する方向でペッドの再配列を進めるが、この時のファインバブルの働きは、ペッドの再配列における粘性抵抗を一時的に減少させることになり、これにより急速圧密を促すことになると考えられる。これが真空沸騰圧密工法のメカニズムである。腐植は粘土鉱物に比べて負の帯電量は格段に大きいだけで、真空沸騰圧密のメカニズムは粘土鉱物と同様と思われる。特許文献5は沸騰により間隙水中に発生する気泡がファインバブルであると特定できず、真空沸騰圧密工法のメカニズムを明らかにすることに至らなかった。
【0023】
ファインバブルとは直径が100μm以下の気泡のことを言う。そして、ファインバブルは負に帯電しているのが特徴である。ファインバブルは2種類に分けられる。直径100μm以下で1μm以上の泡をマイクロバブル、直径1μm以下の泡をウルトラファインバブルと呼び区分され、それぞれに特徴がある。直径100μ以上の通常の泡は目視でき、水中に発生するとすぐに浮上して水面で破裂する。マイクロバブルは収縮しながらゆっくり浮上する。溶解が進むと収縮して消滅する。マイクロバブルは白濁するので目視できる。ウルトラファインバブルは長期消滅しない。微細なものほど寿命がながい。ウルトラファインバブルは無色透明なので目視できない。しかし、緑のレーザー光を照射するとブラウン運動による散乱光の軌跡が直線的に確認できる。
【0024】
ファインバブルにはいろいろな作用から効果が生まれる。マイクロバブル,ウルトラファインバブルに共通の作用として界面活性作用がある。ファインバブルは水中で表面が負に帯電し、正に帯電する物体を引き付け、負に帯電する物体を反発する。マイクロバブル特有の作用として、ガスの溶解が進むと収縮して泡が自己圧壊する。この時の衝撃作用により、付着物を剥離して洗浄効果がある。またこの衝撃作用により生じたエネルギーで生成されるフリーラジカルは殺菌や消毒効果があるとされている。ウルトラファインバブル特有の現象として、ブラウン運動があり、水中の長期安定性がある。また、水中に長期安定のガス貯蔵作用がある。この作用によりオゾンの気体封入で強力な洗浄殺菌と有機物分解効果がある。この他、植物成長促進する生理活性作用などがある。なお、ファインバブルによる急激な圧密促進効果は、本発明により確認された効果で、ファインバブルの界面活性作用によるものである。
【0025】
前記の真空圧密試験結果を考察すると、真空沸騰圧密工法の沸騰時間の正確な設定は極めて重要であることが認識される。主要粘土鉱物がカオリナイトの粘土試料の沸騰時間は1分~2分でほぼ妥当である。カオリナイトの陽イオン交換容量CEC(meq/100g)は2~10である。ここで、CECにおいて留意すべきことは、主要粘土鉱物の含有量によって大きな幅があるということである。スメクタイトのCECは60~100である。スメクタイトの沸騰時間は5分間~10分間で、CECから判断して沸騰時間を大きく延長するとさらに良い効果が得られると推察される。つまり、正確な沸騰時間はCECだけでは予測できないが、沸騰時間の目安にはなる。真空沸騰圧密工法の有効沸騰時間を正確に設定するためには精度の高い真空圧密試験で検証することが必須である。実際には沸騰時間を複数設定して真空圧密試験で検証することになる。この場合、土壌のCECが有効沸騰時間の目安になり、少ない真空圧密試験で有効沸騰時間を決定することができる。
【0026】
水深10mの海底地盤は大気圧に加えて大気圧と同程度の水圧が加わる。このように大きな水圧が加わった場合の真空沸騰圧密工法の沸騰現象が明確でない。そこで、次のような減圧沸騰の検証実験を行った。
高さ12mの透明なパイプ及び上下端の密閉蓋を用意して、これを鉛直に立てる。このパイプに高さ11.5mまで水を満たし、上部に0.5mの高さの空間を残して密閉する。そして、上端から真空ポンプで真空引きをして観察した。水温は17.5℃,これの飽和蒸気圧は2.0kPaである。減圧は飽和蒸気圧より少し高真空の-99.8kPa(絶対圧:1.5kPa)である。水位1.0m付近(上部層)からは0.1mm~0.2mmのミリバブルが活発に発生し、上昇するに連れてセンチバブルに成長して水面で破裂したのを目視で確認した。水位8.0m付近~11.5m(下部層)間は目視で透明を確認した。次に緑のレーザー光を照射してブラウン運動による散乱光の軌跡を直線的に確認した。これにより、ウルトラファインバブルの発生を確認した。中間の水位1.0m付近~8.0m付近(中間層)は、白濁によりマイクロバブルと判断された。水位11.5mの水底の外圧は11.6kPa(=1.5+10.1)である。これの常識の沸点は約45℃である。しかし、水温17.5℃でも、ウルトラファインバブルが発生していることを確認した。
【0027】
沸騰とは液体から気体へ相転位する気化が液体の表面からだけでなく内部からも激しく起こる現象である。液体内部の気化は微小な気泡を発生させる。この時の気泡内の蒸気圧は外圧を超えている。沸点とは液体の飽和蒸気圧が外圧と等しくなる温度である。そして、沸騰している液体の温度は沸点にほぼ等しい。
さて、前記の減圧沸騰の検証実験を整理すると次のようになる。上部層は無数のミリバブルが発生してすぐに浮上し、センチバブルに成長して水面で破裂した。通常の沸騰である。中間層はマイクロバブルが発生した。この気泡はゆっくり浮上する。下部層はウルトラファインバブルが発生した。この気泡はブラウン運動によりほとんど浮上しない。中間層,下部層も液体内部の気化であるから沸騰である。しかし、通常の沸騰とは異なるようである。微細なファインバブルは通常のミリバブルよりも内圧は格段に高い。例えば、直径100nmの気泡内圧力は計算上約30気圧の高圧となる。つまり、ミリバブルでは潰れて発生できない大きな外圧でもファインバブルは発生している。ファインバブルの沸点はミリバブルに比べて格段に低いことになる。そこで、通常の沸騰と区分する。ここに、飽和蒸気圧,沸点の呼び方として、通常のミリバブルはそのままとし、ファインバブルはファインバブル飽和蒸気圧,ファインバブル沸点と呼んで区別することにする。また、便宜上、通常の沸騰を激しい沸騰,ファインバブルの沸騰を静かな沸騰と呼ぶ。
【0028】
本発明の請求項1の真空圧密工法は、真空沸騰圧密工法の原理,メカニズムを踏まえて、粘性土地盤等の陽イオン交換容量及び真空圧密試験を基にして設定された必要なファインバブルの相当量を発生させる有効沸騰時間を別枠で真空圧密工程に組み入れる。請求項1の真空圧密工法は、ファインバブル効果により粘土の骨格を形成するペッド間の電気的引力を一時的に消失させ、合わせて粘土の透水性を向上させて急速真空圧密を行うことで、粘土地盤等の圧密時間の短縮と圧密沈下の増大を図る真空圧密工法である。
なお、有効沸騰時間を別枠で組み入れるとは、真空圧密工程において有効沸騰時間と圧密進行時間を明確に区分して施工管理できるようにすることである。従来は減圧沸騰時間を具体的に設定する技術も手段もなかった。このため、定量的な施工管理の環境になかった。
【0029】
真空沸騰圧密工法の目的は多様である。ファインバブル効果の急速圧密沈下で地盤の密度増加を図る地盤改良工法。ファインバブル効果の急速圧密沈下で地盤沈下を図る航路等の水深維持工法。ファインバブル効果で地盤(土壌)の土壌浄化工法。あるいはこれ等の複合工法である。目的により沸騰時間,圧密時間は異なってくる。
そこで本発明の請求項1の真空圧密工法は複合工法を意図して、粘土地盤等の圧密時間の短縮と圧密沈下の増大を図る地盤改良、あるいは殺菌,有害なイオン等を圧密排水と共に除去する土壌浄化を特徴とする真空圧密工法である。
【0030】
高深度の粘性土地盤、あるいは高水深の海底粘性土地盤の間隙水は高水圧状態となる。このような場合の減圧沸騰は、通常のミリバブルとファインバブルの発生を減圧沸騰の高真空圧の差を利用してファインバブルだけを発生させることができる。通常のミリバブルは、沸騰時の水蒸気の発生は大量である。高真空維持において、水蒸気は厄介物である。これに対して、沸騰によるマイクロバブルの水蒸気の発生は僅かであり、ウルトラファインバブルはほとんど発生しない。従って、これの高真空圧密システムは、コールドトラップの霜取り工程を大幅に減らすことができ、システムの長時間連続稼動が可能となる。
そこで、本発明の請求項2の高水圧状態の粘性土地盤等における真空圧密工法は、設定する減圧による高真空圧を通常のミリバブルが発生する激しい沸騰とはならないで、ファインバブルのみが発生する静かな沸騰とする。沸騰による蒸発の発生を極力抑えて高真空圧を安定に維持し、ファインバブル効果により、粘土の骨格を形成するペッド間の電気的引力を一時的に消失させ、合わせて粘土の透水性を向上させて急速真空圧密を行うことで、粘土地盤等の圧密時間の短縮と圧密沈下の増大を図る地盤改良、あるいは殺菌,有害なイオン等を圧密排水と共に除去する土壌浄化を特徴とする真空圧密工法である。
【0031】
ところで、海底地盤における特許文献5は、間隙水の現状温度が沸点となる限界の真空圧を超えない高真空圧による真空圧密工法で実施するのが良いとしている。ここで、本発明の請求項2の違いについて述べる。特許文献5の意図は沸騰させるのは困難なのだから沸騰しなくても可能な限り高真空圧にすることである。沸騰が十分に確保できた真空沸騰圧密現象の挙動は、沸騰時は沈下が鈍い。しかし、沸騰を止めると急激に圧密沈下が進行する。特許文献5は沸騰が低調ならば、沸騰時間がもったいないのでこの時間を除いて真空圧による載荷圧だけに期待をするとの考え方である。これに対して本発明の考え方は、通常の激しい沸騰ではなく、ファインバブルの静かな沸騰でファインバブルのみを発生させる。そして、ファインバブル効果と真空圧による載荷圧の両方に期待をする。例えば、粘土地盤の温度を約17.5℃とする。これを沸点とする通常のミリバブルの間隙水の飽和蒸気圧は、2.0kPa(ゲージ圧:99.3kPa)である。しかし実際の地盤の間隙水の沸点は、通常の水よりも色々な条件で大きな幅(2.0±αkPa)を持つ。本発明の減圧沸騰は、ファインバブルのみが発生する高真空圧とする。この場合、明らかな差を付ける必要がある。例えば、前記の例における高真空圧とは、2.0kPaと大きく差のある10.0kPa(ゲージ圧:91.3kPa)としたものである。10.0kPaを通常のミリバブルの沸点とする飽和蒸気圧は約46℃である。しかし、10.0kPaの下で17.5℃でもファインバブルは確実に発生する。本発明はこの現象を利用する。
【0032】
以上の説明のように、本発明の請求項2と特許文献5が設定する高真空圧は、沸騰して発生する気泡がミリバブルかファインバブルかの根本的な違いがある。実際の高真空圧の維持の難易度にも明確な差がある。例えば、100kPaを99kPaに減圧するのは極めて容易である。それでは11.0kPaを10.0kPaに減圧する。3.0kPaを2.0kPaに減圧する。同じ1.0kPaの減圧であるが、こうような高真空圧の下では後者の難易度は格段に高い。また、真空圧密試験結果を参考にして、本発明の請求項2と特許文献5の1時間圧密の沈下量の比較をする。今、ゲージ圧の真空は本発明が-91kPa,特許文献5が-98kPaとする。真空圧による載荷圧はそれぞれ91kPaと98kPaで、本発明が約8%小さい。この載荷圧は圧密沈下量に比例する。しかし、実際には本発明はファインバブル効果が加わる。この効果は沈下量で約2倍に相当する。これを加えると、本発明が逆に約86%大きい。
【0033】
真空沸騰圧密工法において、当該工法の必要な沸騰時間は主要粘土鉱物がカオリナイトの粘土試料を除いて長時間必要とする。従って、短時間の減圧沸騰だけでは必要なファインバブル量の確保ができない場合は、ファインバブル量の不足分をファインバブル発生装置で製造したファインバブル水を用いるのが得策である。そこで、本発明の請求項4の真空圧密工法は、このファインバブル水の供給工程を真空圧密工程に組み入れることでファインバブル量を補充することとした。また、ヘドロ地盤等においては、地盤改良だけではなく土壌浄化を加えた工法が合理的である。従って、請求項4はファインバブル量を補充することで、確実に多種多様な粘土地盤等の圧密時間の短縮と圧密沈下の増大を図る地盤改良、あるいは殺菌,有害なイオン等を圧密排水により除去する土壌浄化を特徴とする真空圧密工法である。なお、当該工法は補充するファインバブルの量の問題だけでなく、マイクロバブル,ウルトラファインバブルのそれぞれの特性を活かした使い分けをする。これにより、腐植を多く含むヘドロ地盤にも十分に有効となった。
【0034】
ファインバブル水の供給装置,機械は、陸上地盤と海底地盤とは異なる。陸上地盤で鉛直ドレーン工法を併用する真空圧密工法は鉛直ドレーン材の打設機が使われる。鉛直ドレーン打設機はドレーン材の打設機能に寿命の極めて長いウルトラファインバブル水の供給機能を加える。本発明の請求項5の鉛直ドレーン打設機はドレーン材を保持するマンドレル先端部にはウルトラファインバブル水を水平方向,下方向に高圧噴射させるノズル装置を備え、ドレーン材の打設時に、ドレーン材打設と同時にウルトラファインバブル水を必要な方向の地盤に高圧噴射、あるいはドレーン材を打設せずにウルトラファインバブル水のみを地盤に高圧噴射するウルトラファインバブル水の供給機能を備えている。
供給するファインバブル水をウルトラファインバブル水としたのは、これの寿命が極めて長いことにある。これの必要性は鉛直ドレーン打設工程の後、真空圧密工程に至るまでに1~2ヶ月程度の時間差があるためである。これに対してマイクロバブルの寿命はそれほど長くはない。また、地盤のウルトラファインバブル水の供給の第一段階は、水平方向,下方向の高圧噴射である。特に水平方向が重要である。
【0035】
鉛直ドレーン工法を併用する真空圧密工法において、ファインバブル量の不足分をウルトラファインバブル水で補充する場合、最も重要なことはファインバブル効果を斑なく活用することである。このため、本発明の請求項6の真空圧密工法は、鉛直ドレーンの地盤の平面位置に対するウルトラファインバブル水の供給位置を、鉛直ドレーンと同じ位置、さらには必要に応じて鉛直ドレーン位置に囲まれた中央位置とし、作業工程はドレーン打設とウルトラファインバブル水の供給を兼ねた工程、次にウルトラファインバブルのブラウン拡散時間とする拡散工程を経てから、真空圧密工程へと移行する。これにより、ウルトラファインバブルの地盤分布の均等化を図り、ウルトラファインバブル効果を斑なく活用する。ブラウン拡散時間は地盤にウルトラファインバブル水を斑なく供給する第二段階となる。
【0036】
特許文献5は海底地盤では間隙水が高水圧状態にあるので、真空沸騰圧密工法は効果がないとしているが、これは間違いである。真空沸騰圧密工法において、必要なのは負に帯電しているファインバブルである。そして、ファインバブルの沸点はミリバブルに比べて格段に低いので、海底地盤もファインバブルの発生環境になんら問題はないことが検証実験で明らかになった。
【0037】
海底等の浮泥地盤,ヘドロ地盤,軟弱地盤に適用する真空圧密工法は底面開口の気密載荷函体が使用される。ヘドロ地盤は減圧沸騰だけでは必要なファインバブル量は大量に不足する。そこで、本発明の請求項7の真空圧密工法は、気密載荷函体の底面部にはファインバブル水を高圧噴射させる無数のノズルの機能を果たす有孔管を張り巡らす。そして、請求項7の真空圧密工法は、この気密載荷函体を軟弱地盤等に据え付ける工程と併行するファインバブル水の供給工程で、ファインバブル水を高圧噴射させ、軟弱地盤等に必要量のファインバブルを均一に混合し、ファインバブル効果で軟弱地盤の圧密時間の短縮と圧密沈下の増大を図ると共に、ヘドロ地盤においては殺菌,有機物の分解,土壌浄化を図ることを特徴とする。なお、ヘドロ等の軟弱地盤は高圧噴射でファインバブル水が全体に行渡ることを前提としている。そうでない場合は、ウルトラファインバブル水を使い、ブラウン拡散の工程を必要とする。また、土壌浄化を大きな目的とする場合は、補充するファインバブルについてはオゾンを封入したウルトラファインバブル水が検討される。
【0038】
従来、海底地盤等の真空圧密工法、あるいは真空圧密浚渫工法に使用される気密載荷函体は、専用の作業船に装備されていた。気密載荷函体が巨大化すれば専用作業船は超巨大化する。それは港湾及び沿岸海域事業の公共事業費を押し上げることになる。そこで、本発明の工法に使用する巨大な気密載荷函体は専用作業船を用いずに自潜航式の気密載荷函体とすることで建造費の縮減化を図った。この気密載荷函体は浮体の形式により2タイプあり、さらに標準深度用と高深度用により2タイプある。
【0039】
本発明の請求項8の気密函体は、剛性浮体を当該函体の上面のほぼ全面に取り付け、当該函体の上昇・下降は潜水操作装置によって前記浮体の内部空間を空気と水の入れ換えで自在に行う。且つ、先端部に鉛直伸縮スパッドを固定した複数の油圧シリンダーを内奏したスパッド付き水平伸縮ビームを当該函体の上面の2方向の外縁部に取り付け、当該函体の海底での前後左右の水平移動は前記潜水操作装置と水平伸縮ビームの水平移動操作装置によって自在に行う。水平移動時の潜水操作装置の使用は、当該函体の海底面上までの浮上に使われる。これらの操作装置で潜水及び海底水平移動を自在に行うことを特徴とする自潜航式の気密載荷函体である。
【0040】
本発明の請求項9の気密函体は、フレキシブル密閉浮体を当該函体の上面のほぼ全面に取り付け、当該函体の上昇・下降は潜水操作装置で前記浮体の内部空間に圧縮空気の出し入れによる浮体容積の増減で自在に行う。その他は請求項8と同じである。剛性浮体との違いは浮体作動が早いこと,維持費が少し高くなることである。
【0041】
本発明の自潜航式の気密載荷函体は、函体上面中央部に函体タワーが設置される。函体タワーの目的は、当該函体の潜水時にタワー頭部が海上にあってナビゲーションシステムを用いた位置特定にある。また、当該函体は函体タワー頭部に稼動関連設備及び装置の搭載の有無の形式により2タイプある。
【0042】
本発明の請求項10の気密載荷函体は、水深20m未満の標準深度用の気密載荷函体である。当該函体はこれの稼動関連設備及び装置を搭載した函体タワーを当該函体の上面中央部に取り付け、当該函体の稼動装置等が完結形式の構造を特徴とする自潜航式の気密載荷函体である。
【0043】
本発明の請求項11の気密載荷函体は、高深度用の気密載荷函体である。当該函体の稼動関連設備及び装置はこれの操作船に搭載し、前記函体タワーの役割は当該函体の位置特定と稼動関連装置の作動用の電源ケーブル,信号ケーブル、及び各種パイプの添架用とすることで函体タワーの軽量化を図り、当該函体の重心位置を下げることで浮体としての安定性を高めたことを特徴とする自潜航式の気密載荷函体である。
【0044】
海底等の堆積ヘドロ地盤等における真空沸騰圧密工法は、減圧沸騰だけでは必要なファインバブル量が大量に不足する。このため、ファインバブル量の不足をファインバブル水の供給工程を真空圧密工程に組み入れることで解決して急速圧密及び土壌浄化を実現した。本発明の請求項12の真空圧密浚渫工法は、底面開口の気密載荷函体が使用される。底面開口の気密載荷函体で軟弱地盤等を浚渫するためには、軟弱地盤等を浚渫可能な強度まで高める必要がある。つまり、気密載荷函体を海底から引揚げたとき、真空圧で吸引されている函体内部にある浚渫土の塊が自重で分断して落下しない強度が必要である。このため、当該工法は前記真空圧密工法のファインバブルの供給工程を当該工法の工程に取り入れたものである。当該工法はファインバブル効果により、前記底面開口の気密載荷函体で軟弱地盤等を浚渫可能な強度まで極めて短い時間で急速真空圧密し、圧密沈下の増大により浚渫土の発生を大幅に抑制し、さらにはファインバブル効果によりヘドロ地盤の殺菌,有機物の分解,土壌浄化を図ることを特徴とする真空圧密浚渫工法である。
【発明の効果】
【0045】
真空沸騰圧密工法の急激な圧密促進効果は、減圧沸騰で間隙水中に発生する気泡が負に帯電しているファインバブルに起因するメカニズムを明らかにし、これを踏まえて真空圧密試験で求めた実効減圧沸騰時間を真空圧密工程に別枠で組み入れた。これにより、ファインバブル効果が十分に発揮され、粘土地盤等の圧密時間の短縮と圧密沈下の増大を図る地盤改良工法を実現する効果をもたらした。当該工法の急激な圧密促進効果は、本発明で発見された新しいファインバブル効果である。
【0046】
ファインバブル効果には殺菌,有害なイオン等を圧密排水と共に除去する土壌浄化の効果がある。真空沸騰圧密工法は地盤改良工法と土壌浄化工法の複合工法としての効果をもたらした。
【0047】
真空沸騰圧密工法において、短時間の減圧沸騰だけでは必要なファインバブル量の確保ができない場合、ファインバブル発生装置で製造したファインバブル水の供給工程を真空圧密工程に組み入れて、ファインバブル量の不足分を補充する。このとき、マイクロバブルとウルトラファインバブルの特性によって補充するファインバブルを使い分けることで、ファインバブルの量と内容を満たして多種多様な粘土地盤等の地盤改良工法と土壌浄化工法の複合工法となる効果をもたらした。
【0048】
従来、海底地盤等の真空圧密工法、あるいは真空圧密浚渫工法に使用される気密載荷函体は、専用の作業船に装備されていた。気密載荷函体が巨大化すれば専用作業船は超巨大化し、建造費は巨額となる。それは港湾及び沿岸海域事業の公共事業費を押し上げることになる。そこで、本発明の工法に使用する巨大な気密載荷函体は、専用作業船を用いずに自潜航式の気密載荷函体とすることで総合的建造費の大幅な縮減化を図り、ひいては公共事業費の縮減化を図る効果をもたらした。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】 本発明工法に使用する高真空圧密システムの一例を示す説明図
【
図2】 高深度用の鉛直ドレーン材の立面図及び水平断面図
【
図3】 本発明の真空圧密試験のシステムの一例を示す説明図
【
図6】 同鉛直ドレーンの位置及びウルトラファインバブル水の供給位置の平面面図
【
図7】 本発明の標準用の剛性浮体タイプの気密載荷函体の鉛直断面図
【
図9】 本発明の標準用のフレキシブル浮体タイプの気密載荷函体の鉛直断面図
【
図10】 本発明の高深度用の剛性浮体タイプの気密載荷函体の鉛直断面図
【
図11】 本発明の標準用の剛性浮体タイプの気密載荷函体の潜水移動の説明図
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の実施の形態を
図1~
図12に基づいて説明する。
【0051】
図1は本発明工法に使用する高真空圧密システムの一例を示す説明図である。当該システムの経路は、真空ポンプ1Aに連なる真空経路2Aとコンプレーサー1Dに連なる圧気経路2Bに分かれる。本発明の工法に使用する高真空圧密システムは従来のシステムと一部が異なる。従来のシステムの真空経路2Aは、鉛直ドレーン12から気水分離タンク10を経由した後、複数に分岐して高真空貯留タンク1C,コールドトラップ1B,真空ポンプ1Aを直列に連結する。そして、これらの直列の真空装置の真空経路2Aは連絡してネットワークが形成される。これに対して、本発明工法に使用する高真空圧密システムは、高真空貯留タンク1Cとコールドトラップ1Bを一体化する。そして、コールドトラップ1Bの真空経路2Aの位置は、高真空貯留タンク1Cの前と後の切り替えをバルブで行えるものである。これは稼働中のコールドトラップ1Bは時間の経過と共に機能が低下すること、霜取り工程を必要とするなどから切り替えがあると便利である。
図1において番号11は地盤を密閉する気密シートである。また
図1の真空経路2Aは分岐後が2列の例である。
【0052】
図2は高深度用の既存の鉛直ドレーン材の立面図及び水平断面図である。従来の真空圧密工法が直接適用できる深度は10mまでである。高深度用鉛直ドレーン材はこの限界深度10mを打破するために、鉛直ドレーンに滞留した粘土地盤の間隙水を空気と置き換えるためのものである。
図2の高深度用鉛直ドレーン材と
図1の高真空圧密システムに本発明の真空圧密工法を適用させる。
図2において、番号12は高深度用鉛直ドレーン材,12Aはドレーン芯材,12Bは濾過布,12Cはドレーン上部キャップ,12Dはドレーン下部キャップである。
【0053】
高深度用鉛直ドレーン材12を用いた本発明の真空圧密工法の実施概要は、高深度用鉛直ドレーン12の内部空間に間隙水が充満して圧密速度が低下し、間隙水が滞留したならば、コンプレッサー1Dにより鉛直ドレーン材12の先端部(下部)から圧縮空気圧を吹き込み、間隙水を一体の状態で鉛直ドレーン材12の頂部を経て気水分離タンク10へと移動させる。鉛直ドレーン材12の内部空間の間隙水を空気に置き換えた状態で、本発明の真空圧密工程へと進む。高深度真空圧密工法は、時間経過と共に鉛直ドレーン材12に間隙水が滞留する。そうすると、間隙水の空気に置き換工程と真空圧密工程がサイクルとなる。高深度地盤の間隙水は高水圧となるが、本発明の真空圧密工法は通常のミリバブルは発生させずにファインバブルを発生させるので、圧密促進効果が十分に発揮する。
【0054】
図3は本発明の真空圧密試験のシステムの一例を示す説明図である。図において、20は真空圧密試験器,20Aは圧密リング,20Bは加圧板,20Cはガスケット,20Dは柔軟性ゴムキャップ,20Eはポーラストーン,20Fは容器の底板,20Gは変位計である。真空圧密試験のシステムは真空圧密試験器20と真空圧密システムから構成される。真空圧密試験器20で特に重要なのは、相対移動する圧密リング20Aと加圧板20B間の気密保持である。これの対策は、柔軟で弾性の大きな材質のキャップ20D方式である。このキャップ20Dの内面にグリースを塗って圧密リング20Aと加圧板20Bにぴったりと被せる。これが仮密閉となる。真空圧密試験時はこのキャップ20Dを真空圧で吸引密着させることで気密保持をする仕組である。
【0055】
図4は本発明の鉛直ドレーン打設機の鉛直断面図である。図において、40は鉛直ドレーン打設機,41はマンドレルのリーダー,42はマンドレル,43はオペレーター室,44は標準深度用鉛直ドレーン材,44Aはドレーン材用リール,45はウルトラファインバブル水の貯留タンク,45Aはホースリール,45Bはバブル水用ホース,45Cはバブル水の流量計である。鉛直ドレーン打設機40の本体は、基本的には従来のものと変わらない。大きく異なるところは、ウルトラファインバブル水を地盤に供給する装置,機能備えていることにある。
当該打設機40の装置,機能は、ドレーン材44を保持するマンドレル42の先端部にはウルトラファインバブル水を水平方向,下方向に高圧噴射させるノズル装置を備えている。ドレーン材44の打設時に、これと同時にウルトラファインバブル水を必要な方向に高圧噴射をする。あるいはドレーン材44を打設せずにウルトラファインバブル水のみを高圧噴射するものである。
【0056】
図5は鉛直ドレーン打設機の施工説明図である。図において、44は鉛直ドレーン材,46はウルトラファインバブル水の混合領域,49は改良区域地盤である。
図5の(A)は、ドレーン打設機40を所定の位置に据えた状況図、同じく(B)及び(C)は、マンドレル42を鉛直ドレーン材44と共に改良区域地盤49に打設し、並行してウルトラファインバブル水の高圧噴射の作業状況図、同じく(D)は、ドレーン材44の打設及びウルトラファインバブル水の高圧噴射を終了してマンドレル42を引き抜いた作業状況図である。
【0057】
図6は鉛直ドレーン材の位置及びウルトラファインバブル水の供給位置の平面面図である。図において、47はドレーン材の打設とウルトラファインバブル水の高圧噴射を同時に行った位置,48はウルトラファインバブル水の高圧噴射のみを行った位置である。真空圧密工法において、ファインバブル量の不足をウルトラファインバブル水で補充する場合、最も重要なことはファインバブル効果を斑なく活用することである。
図6はウルトラファインバブル水を地盤へ斑なく供給する第一段階である。第二段階はウルトラファインバブルのブラウン運動により改良区域地盤49の全体に斑なくブラウン拡散した状態である。
なお、
図6はウルトラファインバブル水の供給が1回で終了する場合である。供給が複数回長期に継続する場合は、ウルトラファインバブル水の高圧噴射のみを行った位置48にも供給用に通常の鉛直ドレーンを打設し、水平ドレーンパイプを経由してウルトラファインバブル水の圧送装置に接続しておく。そして、必要なとき、必要な量のウルトラファインバブル水を地盤に供給する。通常の鉛直ドレーンとは
図2の高深度用鉛直ドレーン12において圧気経路2Bが付いてないものである。
【0058】
従来、海底地盤等の真空圧密工法、あるいは真空圧密浚渫工法に使用される気密載荷函体は、専用の作業船に装備されていた。本発明の工法に使用する巨大な気密載荷函体は、専用作業船に依存せずに潜水及び海底水平移動を自在に行うことのできる自潜航式の気密載荷函体である。この気密載荷函体は浮体の形式により2タイプあり、さらに標準深度用と高深度用で2タイプある。
【0059】
図7は本発明の標準深度用の剛性浮体タイプの気密載荷函体の鉛直断面図、同じく
図8は平面図である。図において、50は標準深度用のタワー式気密載荷函体,51は標準深度用気密載荷函体,52は標準深度用函体タワー,53Aは剛性浮体,53Bはフレキシブル浮体,54はスパッド付き水平伸縮ビーム,54A水平伸縮ビーム,54Bは鉛直伸縮スパッド,55は函体の稼働関連設備及び装置,71は海面,72は海底面,73は海底地盤である。
図7(A)はタワー式気密載荷函体50が海面71に浮上している状況、同じく(B)は海底面72に据え付けられている状況である。
当該函体50の上昇・下降は潜水操作装置によって剛性浮体53Aの内部空間を空気と水の入れ換えで行う。また、先端部に鉛直伸縮スパッド4Bを固定した複数のスパッド付き水平伸縮ビーム54を当該函体50の上面の2方向の外縁部に取り付け、当該函体50の海底での前後左右の水平移動は前記潜水操作装置と水平伸縮ビーム54Aの水平移動操作装置によって自在に行う。海底での水平移動に潜水操作装置が使われるのは、
当該函体50が海底地盤に据え付けられた状態から海底面上に浮上させるためである。
【0060】
図9は本発明のフレキシブル浮体タイプの気密載荷函体の鉛直断面図である。図において、53Bはフレキシブル浮体である。当該函体50の上昇・下降は潜水操作装置で標準深度用フレキシブル浮体53Bの内部空間に圧縮空気の出し入れによる浮体容積の増減で自在に行う。他は剛性浮体53Aと同様である。
【0061】
図10は高深度用の剛性浮体タイプの気密載荷函体の鉛直断面図である。図において、60は高深度用タワー式気密載荷函体,61は高深度用気密載荷函体,62は高深度用函体タワーである。
当該函体60の稼動関連設備及び装置55は、気密載荷函体61の操作船に搭載し、高深度用函体タワー62の役割は、当該函体60の位置表示と稼動関連装置の作動用の電源ケーブル,信号ケーブル、及び各種パイプの添架用とすることでタワーの軽量化を図り、当該函体60の重心位置を下げることで浮体としての安定性を高めたものである。
【0062】
図11は標準深度用の剛性浮体タイプのタワー式気密載荷函体の潜水移動の説明図である。
図11の(A)は、気密載荷函体50が海面71に浮上している状況、同じく(B)はタワー式気密載荷函体50が海底面72に据え付けられて、真空圧密工法により海底地盤73の地盤改良を実施している状況、同じく(C)は、気密載荷函体50が海底面72まで浮上している状況である。
【0063】
図12は標準深度用の剛性浮体タイプの気密載荷函体の海底面での水平移動の説明図である。
図12の(A)は、
図11の(C)の気密載荷函体50が海底面72まで浮上している状況の平面図である。そして、スパッド付き水平伸縮ビーム54の鉛直伸縮スパッド54Bは海底地盤73に刺し込まれ固定された状態である。同じく(B)は水平伸縮ビーム54Aを伸ばすことによって気密載荷函体50を水平移動させている状況である。
【符号の説明】
【0064】
1A 真空ポンプ
1B コールドトラップ
1C 高真空貯留タンク
1D コンプレッサー
1E 水中ポンプ
10 気水分離タンク
12 高深度用鉛直ドレーン(材)
20 真空圧密試験器
20A 圧密リング
20B 加圧板
20C ガスケット
20D 柔軟性ゴムキャップ
40 鉛直ドレーン打設機
41 マンドレル・リーダー
42 マンドレル
44 標準深度用鉛直ドレーン材
45 ウルトラファインバブル水の貯留タンク
46 ウルトラファインバブル水の混合領域
50 標準深度用タワー式気密載荷函体
51 標準深度用気密載荷函体
52 標準深度用函体タワー
53A 剛性浮体
53B フレキシブル浮体
54 スパッド付き水平伸縮ビーム
60 高深度用タワー式気密載荷函体
61 高深度用気密載荷函体
62 高深度用函体タワー
【手続補正書】
【提出日】2021-12-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たに確認されたファインバブル効果を活用した急速真空圧密工法の地盤改良、さらに急速真空圧密と浚渫を一連の工程で実施する海底土等の真空圧密浚渫工法。そして、前記工法の実施計画に供する真空圧密試験のシステム、それぞれの工法に使用する鉛直ドレーン材の打設機,及び気密載荷函体に関する。また、すでに知られているファインバブル効果との複合効果によるヘドロ地盤等の殺菌,有機物の分解,土壌浄化を図ることに関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱な粘性土地盤上に重量の大きな構造物を構築する場合、事前に地盤の沈下,変形や強度の面での改良をするのが一般的である。これの対策工法としてプレロード工法がある。この工法は地盤上にあらかじめ構造物と同等もしくはそれ以上の盛土荷重を載荷し、圧密沈下を生じさせるとともに、地盤の強度増加を図り、その後にこの盛土荷重を除去して構造物を建設する工法である。通常、プレロード工法は圧密排水距離を短縮して圧密促進を図る鉛直ドレーン工法を併用する。
【0003】
真空圧密工法は1949年頃、スウェーデンのKjellmanが盛土荷重の代わりに大気圧を用いた大気圧載荷工法を発案したことに始まる。現在は真空ポンプを排気専用として排気と排水を分離した気水分離タンク方式へと進化している。真空圧密工法は盛土載荷工法にない優れた特徴がある。特徴1は盛土材の搬入・盛土構築・盛土撤去の工程を必要としない。特徴2は改良域の地盤沈下・収縮が進むにつれて外周地盤は内側に引き込まれる安定型の変形である。このため、載荷盛土ができないような軟弱地盤にも容易に適用される。反面、真空圧密工法の真空載荷圧(大気圧と真空圧との差)は101.3kPaの理論限界値がある。真空圧密工法で最も重要な課題はドレーン内の流体圧を極力低く、且つ安定に保つことである。現在の減圧の実績は、気密シート下で-70~-80kPaである。
【0004】
海底地盤の真空圧を活用した工法として真空圧密浚渫工法がある。これは真空圧密と浚渫を一連とした工法である。この工法は気密載荷函体と称する鋼製箱型で地盤の気密性の確保,圧密載荷及び浚渫のバケットの役割をする装置が使用される。気密載荷函体の構造は底面開口の箱型構造で内部天井面に薄型の水平排水のためのタンクを設け、これの直下にドレーン機能のある函体隔壁で分割して複数の隔室を形成し、隔室上面には透水性蓋を設け、前記函体の外部上面の中央部分には気水分離気密タンク及び函体タワーが取付けられている。(特許文献1参照)(特許文献2参照)(特許文献3参照)(特許文献6参照)
【0005】
真空圧密浚渫工法の作業工程は、気密載荷函体を海底にセットする据付け工程、次に圧密工程,浚渫工程,浚渫土の運搬工程に分けられる。浚渫工程は当該函体が抱え込んだ中詰土を海底から吊り上げ,そして函体から押出す工程である。この吊り上げを浚渫土の積み込み、中詰土の押し出しを浚渫土の積み下ろしに相当する。
【0006】
当該函体は海底にセットされると気密性が確保される。そして、海底土は気密載荷函体の中詰状態となる。圧密工程では海底土を底面開口の当該函体で浚渫可能な強度以上にする。すなわち、浚渫対象となる海底粘性土等の含水比が液性限界以下になるように圧密の進行を図り、浚渫工程では中詰土の上下面の真空圧力差(真空吸引)を利用する。このとき中詰土は上面だけが吊り上げられて残り全部が落下しては意味がない。従って、中詰土は自重で分離して落下しない強度が必要となる。この中詰土の一体条件は模型実験で検証した結果、中詰土の含水比を液性限界以下まで圧密することで得られる強度である。
これにより底面開口の気密載荷函体によって圧密と浚渫を一連の工程とする工法を実現している。当該工法は航路の維持浚渫にも利用される。従って、圧密時間のさらなる短縮が課題となっている。
【0007】
2019年に真空圧の有効活用において、気密シート下の減圧が限りなく-100kPaに迫る高真空圧密システムが発明された。従来の減圧は-70~-80kPaである。減圧を安定的に98kPa持続させると、これだけで減圧が25%~40%向上する。この高真空圧密システムの威力は、粘土地盤の間隙水の現状温度が沸点となるまで減圧することで、間隙水を沸騰させることができる。間隙水を沸騰させたならば、沸騰を起こさない範囲で最も高い高真空圧を継続させることで粘土地盤の圧密沈下が急激に進行する。(高真空圧密システムは特許文献5参照)以降、この減圧沸騰で急激に圧密沈下が進行する現象を真空沸騰圧密と称する。以降、前記高真空圧密システムは極めて重要なシステムなのでシステム機能,特性を記述する。
【0008】
周知のように水は沸騰しなくても蒸発する。特に水蒸気は真空中では活発に発生する。水が気体(水蒸気)に変わるときは体積が激増する。それ故に水蒸気の発生は減圧の真空圧に対して反対の極めて大きな加圧として作用する。従来の真空圧密システムはこの水蒸気圧の影響を見逃していた。このため、従来の真空圧密システムの減圧は70~80kPa程度が限界となっている。この水蒸気圧の解決手段が真空圧密システムの真空経路にコールドトラップを組み込んだものである。
【0009】
真空沸騰圧密を可能とする高真空圧密システムの真空関連装置は、気水分離真空タンクと真空ポンプの間に高真空圧貯留タンク,コールドトラップの順番で設置する。コールドトラップの役割は、真空経路に発生する水蒸気をコールドトラップで霜(氷)として捕集することで真空ポンプを最大限に機能させるものである。この高真空圧密システムは海底等の真空圧密浚渫工法の圧密工程にも組み込まれる。当該工法は底面開口の気密載荷函体で浚渫可能な強度までできるだけ短い時間で圧密する必要がある。このとき、真空(減圧)沸騰圧密が威力を発揮する。
【0010】
真空圧密工法による地盤改良深度の限界は理論的に10mである。鉛直ドレーンが水に満たされ、水位面から10mの深度までしか真空ポンプで水を吸い上げられない。粘土地盤の間隙水を沸騰させるためには、高真空圧を直接粘性土地盤に伝達させる必要がある。そこで、鉛直ドレーンに滞留した粘性土地盤の間隙水を空気と置き換えることで、真空圧密工法による地盤改良の限界深度10mを大きく拡大する高深度の真空圧密工法が発明された。(特許文献4参照)(特許文献5参照)
【0011】
真空沸騰工法の原理は新しく確認されたファインバブル効果にある。これの詳細は「次世代の真空圧密工法真空沸騰圧密工法と脱炭素社会に向けたブルーカーボン」と題した論文において、実験を基に広く考察して真空沸騰圧密工法をさらに発展させている。本明細書の主要部分の記述は当該論文の内容と同一である。(非特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第6582361号(PCT/JP2017/010246)
【特許文献2】PCT/JP2018/014036
【特許文献3】PCT/JP2018/019707
【特許文献4】特願2019―213667
【特許文献5】PCT/JP2020/036153
【特許文献6】PCT/JP2020/036152
【0013】
【非特許文献】
【非特許文献】非特許文献1:近藤正佳 他/次世代の真空圧密工法「真空沸騰圧密工法」と脱炭素社会に向けたブルーカーボン/第14回環境地盤工学シンポジウム発表論文集/地盤工学会(Japanese Geotechnical Society)2021年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
現時点で真空沸騰圧密工法は、極めて有効な地盤(土壌)とそうでない地盤がある。例えば腐植を多く含むヘドロ地盤等が有効な結果が出ていない。これらの対策はまだ確立されていない。また、海底地盤は大気圧に加えて水圧が加わる。この場合の減圧沸騰現象が明確でない。根本的な課題は、真空沸騰圧密工法の急速圧密の原理,メカニズムが解明されていないことである。このため、この工法の特性を十分に活かしきれていない。
【0015】
高真空圧密システムとして確立したのは、特許文献5に示す高真空圧密システムである。本発明に使用する高真空圧密システムは、前記既存のシステムの高真空貯留タンクとコールドトラップを一体化したもので、システムとしての基本的機能は変わらない。これらのシステムは減圧による真空を限りなく100kPaに迫るシステムである。このシステムは密閉された粘土地盤等の間隙水の現状温度が沸点となる飽和蒸気圧まで確実に減圧させ、間隙水を沸騰させることができる。ただし、特許文献5の評価は水深の大きい海底地盤の真空沸騰圧密工法に当該高真空圧密システムを適用しても粘土の間隙水を沸騰させるのは困難であるとしている。その理由は粘性土地盤には大気圧に加えて水深相当の水圧が発生しているためとしている。(特許文献5には過剰間隙水圧としているが、水深相当の水圧の記載ミス)このため、間隙水の現状温度が沸点となる限界の真空圧を超えない高真空圧による真空圧密工法で実施するのが良いとしている。つまり、海底地盤では真空沸騰圧密工法は効果がないとしている。
【0016】
以降、粘土地盤を代表させて記述する。真空沸騰圧密工法は必要な沸騰時間を確保できれば、沸騰を止めても圧密促進効果が持続する特性を利用している。この沸騰時間と圧密促進効果の関係については、真空圧密試験装置がなければ検証できない。従来、このような装置は存在しない。特許文献5は真空圧密試験装置で検証したものである。ただし、開発途上の初期の不完全な真空圧密試験装置によるものである。従って、検証そのものも十分なものではない。特許文献5の真空圧密試験で得られた成果は、「真空沸騰圧密工法は極めて有効な地盤(土壌)とそうでない地盤があること、真空沸騰圧密工法は必要な沸騰時間を確保できれば、沸騰を止めても圧密促進効果が持続する」の2点である。
【0017】
課題1は信頼に値する真空圧密試験装置の開発である。課題2はいろいろな粘土試料で真空沸騰圧密試験を実施して、真空沸騰圧密工法のメカニズムを明らかにする。効果がある地盤とない地盤の違いは何か。これの対策はあるのかないのか。海底地盤には効果がないと考察しているが事実か。などの検証実験である。課題3は真空沸騰圧密工法の原理,メカニズムに基づいて、既存の真空沸騰圧密工法,これを取り入れた真空圧密浚渫工法の見直し検討,さらにはこれ等の工法に関する設備,装置の見直し検討である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
課題1は信頼に値する真空圧密試験器及び真空圧密試験のシステムの開発である。真空圧密試験のシステムは真空圧密試験器と高真空圧密システムから構成される。高真空圧密システムは水蒸気対策で既に実績がある。課題は真空圧密試験器の気密の保持である。保持すべき箇所は2箇所ある。真空圧密試験器の底版と圧密リングの間、そして、圧密リングと加圧板の間である。特に加圧板と圧密リングは相対移動するので気密保持が極めて困難である。一般的な方法は加圧板側面の外周面上に溝を切り、Oリングの半分程度を埋め込む方法である。真空圧密試験器は真空時に容器内に大気を吸い込まないぎりぎりの状態でOリングを取り付けてると圧密リングとの周面摩擦が過大となる。この試験器は摩擦の影響で、測定値の沈下量が真値よりも低くなり精度が低い。また、100kPaに近い真空圧はOリングを強力に吸引する。Oリングの一部が溝から少しでもずれたりすると加圧板はまったく沈下不能となる。このため、初期の真空圧密試験器は不完全な試験器である。
【0019】
本発明の請求項3の圧密リングと加圧板間の対策は、柔軟で弾性の大きな材質のキャップ方式である。このキャップの内面にグリースを塗って圧密リングと加圧板にぴったりと被せる。これが仮密閉となる。真空圧密試験時はこのキャップを真空圧で吸引密着させることで気密保持をする仕組である。これの利点はOリングのように圧密リングの周面摩擦を発生させないことである。ただし、キャップが真空圧で加圧板と圧密リングの隙間に吸込まれることを避けるために、圧密リングの内径と加圧板の外径の差の上限を0.2mm未満とした。また、一方で隙間が極端に狭いことによる加圧板と圧密リングとの周面摩擦を避けるために下限を0.1mm以上とした。また、圧密リングとガイドリングを一体としたのは真空漏れとなる継ぎ目を避けたものである。ただし、これの対策がとれていれば物理的に一体でなくても良い。本発明の真空圧密試験器を高真空圧システムの装置に連結したのが本発明の請求項3の真空圧密試験のシステムである。
【0020】
改良した本発明の真空圧密試験のシステムを用いて、重錘載荷圧密試験との比較実験を実施した。粘土試料は主要粘土鉱物がカオリナイト,スメクタイト,腐植(有機化合物)を含むヘドロ試料である。粘土試料の温度は約15℃。これを沸点とする粘土試料の間隙水の飽和蒸気圧は1.7kPa(ゲージ圧:99.6kPa)である。従って、沸騰時の減圧は-99.6kPa,沸騰後の圧密時の減圧は-96.0kPaとした。また、重錘載荷圧密試験の載荷重量は98.1kPaとした。沸騰時間は試験結果を見ながら延長して、試験を繰返し行った。重錘載荷圧密試験曲線の圧密速度と比較して、沸騰時の真空圧密試験曲線の圧密速度は、ほぼ同じかむしろ遅い。沸騰が起こらない高真空(-96.0kPa)とすると急激に圧密が進行する。
【0021】
真空沸騰圧密による圧密沈下の促進効果は、粘土の種類によって大きく異なることが実験で確認された。主要粘土鉱物がカオリナイトの粘土試料の沸騰時間は僅か1分~2分で格段の効果があった。スメクタイトは5分間~10分間の沸騰時間で効果が見られた。そして、沸騰時間の長い方は明らかに効果が大きい。腐植を多く含むヘドロは、50分間の沸騰時間であるが促進効果は小さい。特許文献5において、当該真空圧密工法の必要な沸騰時間は数十秒~数分で良いとされている。これは主要粘土鉱物がカオリナイトの粘土試料の場合である。
【0022】
真空沸騰圧密工法で、十分な圧密促進効果を得るためには主要粘土鉱物がカオリナイト,スメクタイト,さらには腐植を多く含むヘドロの順に、沸騰時間が長くなる傾向にある。これ等の陽イオン交換容量CEC(meq/100g)を比べると、カオリナイトは2~10,スメクタイトは60~100,腐植は150~300である。実験の沸騰時間をカオリナイトの沸騰時間を基準に比較すると、スメクタイトは10倍~30倍,ヘドロは30倍~75倍である。主要粘土鉱物がスメクタイトの試料は、必要な沸騰時間が若干不足のようである。腐植を多く含むヘドロは沸騰時間が大きく不足したようである。このことから、真空沸騰圧密工法の沸騰時間は土壌の陽イオン交換容量と大きく関係していることになる。
【0023】
飽和粘土の粘土粒子(粘土鉱物)は、板状で表面は負、端部は正に帯電し、負の帯電が大きく卓越している。粘土粒子の表面に水分子を吸着し、さらに多くの陽イオンを静電気的に引き付けて拡散イオン層(電気二重層)を形成する。粘土の構造は粘土粒子がペッド(団粒)を形成し、ペッドが粘土骨格及び間隙(マクロポア)を形成する階層構造である。ここで、粘土粒子,吸着水層,これを取り巻く拡散イオン層は電気的平衡を保ち安定し、さらにペットどうしの接触面においても電気的平衡を保って粘土構造は安定している。すなわち、負に帯電している粘土粒子と陽イオン間に引力が作用して安定している。ペットどうしの接触面の拡散イオン層は対応する粘土粒子が共有状態にあって安定していると考えられる。
【0024】
粘土の間隙水が沸騰すると無数の微細な気泡が発生する。この気泡は負に帯電したファインバブルと推察される。何故ならば粘土の間隙は通常のミリバブルが発生するほどの広さがないからである。ファインバブルは拡散イオン層の陽イオンと吸着して電気的平衡を大きく崩す。つまり、ペットどうしの接触面の対応する粘土粒子は、共有状態の拡散イオン層を介して電気的引力により結び付き安定している。この拡散イオン層の陽イオンに負に帯電しているファインバブルが吸着して電気的引力を一時的に喪失させる。圧密沈下は間隙を縮小する方向でペッドの再配列を進めるが、この時のファインバブルの働きは、ペッドの再配列における粘性抵抗を一時的に減少させることになり、これにより急速圧密を促すことになると考えられる。これが真空沸騰圧密工法のメカニズムである。腐植は粘土鉱物に比べて負の帯電量は格段に大きいだけで、真空沸騰圧密のメカニズムは粘土鉱物と同様と思われる。特許文献5は沸騰により間隙水中に発生する気泡がファインバブルであると特定できず、真空沸騰圧密工法のメカニズムを明らかにすることに至らなかった。
【0025】
ファインバブルとは直径が100μm以下の気泡のことを言う。そして、ファインバブルは負に帯電しているのが特徴である。ファインバブルは2種類に分けられる。直径100μm以下で1μm以上の泡をマイクロバブル、直径1μm以下の泡をウルトラファインバブルと呼び区分され、それぞれに特徴がある。直径100μ以上の通常の泡は目視でき、水中に発生するとすぐに浮上して水面で破裂する。マイクロバブルは収縮しながらゆっくり浮上する。溶解が進むと収縮して消滅する。マイクロバブルは白濁するので目視できる。ウルトラファインバブルは長期消滅しない。微細なものほど寿命がながい。ウルトラファインバブルは無色透明なので目視できない。しかし、緑のレーザー光を照射するとブラウン運動による散乱光の軌跡が直線的に確認できる。
【0026】
ファインバブルにはいろいろな作用から効果が生まれる。マイクロバブル,ウルトラファインバブルに共通の作用として界面活性作用がある。ファインバブルは水中で表面が負に帯電し、正に帯電する物体を引き付け、負に帯電する物体を反発する。マイクロバブル特有の作用として、ガスの溶解が進むと収縮して泡が自己圧壊する。この時の衝撃作用により、付着物を剥離して洗浄効果がある。またこの衝撃作用により生じたエネルギーで生成されるフリーラジカルは殺菌や消毒効果があるとされている。ウルトラファインバブル特有の現象として、ブラウン運動があり、水中の長期安定性がある。また、水中に長期安定のガス貯蔵作用がある。この作用によりオゾンの気体封入で強力な洗浄殺菌と有機物分解効果がある。この他、植物成長促進する生理活性作用などがある。なお、ファインバブルによる急激な圧密促進効果は、本発明により確認された効果で、ファインバブルの界面活性作用によるものである。
【0027】
前記の真空圧密試験結果を考察すると、真空沸騰圧密工法の沸騰時間の正確な設定は極めて重要であることが認識される。主要粘土鉱物がカオリナイトの粘土試料の沸騰時間は1分~2分でほぼ妥当である。カオリナイトの陽イオン交換容量CEC(meq/100g)は2~10である。ここで、CECにおいて留意すべきことは、主要粘土鉱物の含有量によって大きな幅があるということである。スメクタイトのCECは60~100である。スメクタイトの沸騰時間は5分間~10分間で、CECから判断して沸騰時間を大きく延長するとさらに良い効果が得られると推察される。つまり、正確な沸騰時間はCECだけでは予測できないが、沸騰時間の目安にはなる。真空沸騰圧密工法の有効沸騰時間を正確に設定するためには精度の高い真空圧密試験で検証することが必須である。実際には沸騰時間を複数設定して真空圧密試験で検証することになる。この場合、土壌のCECが有効沸騰時間の目安になり、少ない真空圧密試験で有効沸騰時間を決定することができる。
【0028】
水深10mの海底地盤は大気圧に加えて大気圧と同程度の水圧が加わる。このように大きな水圧が加わった場合の真空沸騰圧密工法の沸騰現象が明確でない。そこで、次のような減圧沸騰の検証実験を行った。
高さ11.0mの透明なパイプ及び上下端の密閉蓋を用意して、これを鉛直に立てる。このパイプに高さ10.5mまで水を満たし、上部に0.5mの高さの空間を残して密閉する。そして、上端から真空ポンプで真空引きをして観察した。水温は17.5℃,これの飽和蒸気圧は2.0kPaである。減圧は飽和蒸気圧より少し高真空の-99.8kPa(絶対圧:1.5kPa)である。水位1.0m付近(上部層)からは0.1mm~0.2mmのミリバブルが活発に発生し、上昇するに連れてセンチバブルに成長して水面で破裂したのを目視で確認した。水位8.0m付近~10.5m(下部層)間は目視で透明を確認した。次に緑のレーザー光を照射してブラウン運動による散乱光の軌跡を直線的に確認した。ただし、不純物にも散乱光が起こるので、これによりウルトラファインバブルの発生を確認したと一概には云えない。この実験で特筆すべきことは、時間経過と共に、観測パイプ内面全体にわたって無数のミリバブルが張り付く現象が見られたことである。通常ミリバブルの内圧は1気圧とされている。しかし、水深10mでは内圧2気圧が必要である。この現象は、まずファインバブルが発生し、ファインバブルが合体することによって高内圧のミリバブルに成長したものと推察された。
【0029】
沸騰とは液体から気体へ相転位する気化が液体の表面からだけでなく内部からも激しく起こる現象である。液体内部の気化は微小な気泡を発生させる。この時の気泡内の蒸気圧は外圧を超えている。沸点とは液体の飽和蒸気圧が外圧と等しくなる温度である。そして、沸騰している液体の温度は沸点にほぼ等しい。
さて、前記の減圧沸騰の検証実験を整理すると次のようになる。上部層は無数のミリバブルが発生してすぐに浮上し、センチバブルに成長して水面で破裂した。通常の沸騰である。中間層はマイクロバブルが発生した。この気泡はゆっくり浮上する。下部層はウルトラファインバブルが発生した。この気泡はブラウン運動によりほとんど浮上しない。中間層,下部層も液体内部の気化であるから沸騰である。しかし、通常の沸騰とは異なるようである。微細なファインバブルは通常のミリバブルよりも内圧は格段に高い。例えば、直径100nmの気泡内圧力は計算上約30気圧の高圧となる。つまり、ミリバブルでは潰れて発生できない大きな外圧でもファインバブルは発生している。そこで、通常の沸騰と区分する。ここに便宜上、通常のミリバブルの沸騰を激しい沸騰,ファインバブルの沸騰を静かな沸騰と呼ぶ。
【0030】
本発明の請求項1の真空圧密工法は、真空沸騰圧密工法の原理,メカニズムを踏まえて、粘性土地盤等の陽イオン交換容量及び真空圧密試験を基にして設定された必要なファインバブルの相当量を発生させる有効沸騰時間を別枠で真空圧密工程に組み入れる。請求項1の真空圧密工法は、ファインバブル効果により粘土の骨格を形成するペッド間の電気的引力を一時的に消失させ、合わせて粘土の透水性を向上させて急速真空圧密を行うことで、粘土地盤等の圧密時間の短縮と圧密沈下の増大を図る真空圧密工法である。
なお、有効沸騰時間を別枠で組み入れるとは、真空圧密工程において有効沸騰時間と圧密進行時間を明確に区分して施工管理できるようにすることである。従来は減圧沸騰時間を具体的に設定する技術も手段もなかった。このため、定量的な施工管理の環境になかった。
【0031】
真空沸騰圧密工法の目的は多様である。ファインバブル効果の急速圧密沈下で地盤の度増加を図る地盤改良工法。ファインバブル効果の急速圧密沈下で地盤沈下を図る航路等の水深維持工法。ファインバブル効果で地盤(土壌)の土壌浄化工法。あるいはこれ等の複合工法である。目的により沸騰時間,圧密時間は異なってくる。
そこで本発明の請求項1の真空圧密工法は複合工法を意図して、粘土地盤等の圧密時間の短縮と圧密沈下の増大を図る地盤改良、あるいは殺菌,有害なイオン等を圧密排水と共に除去する土壌浄化を特徴とする真空圧密工法である。
【0032】
高深度の粘性土地盤、あるいは高水深の海底粘性土地盤の間隙水は高水圧状態となる。このような場合の減圧沸騰は、通常のミリバブルとファインバブルの発生を減圧沸騰の高真空圧の差を利用してファインバブルだけを発生させることができる。通常のミリバブルは、沸騰時の水蒸気の発生は大量である。高真空維持において、水蒸気は厄介物である。これに対して、沸騰によるマイクロバブルの水蒸気の発生は僅かであり、ウルトラファインバブルはほとんど発生しない。従って、これの高真空圧密システムは、コールドトラップの霜取り工程を大幅に減らすことができ、システムの長時間連続稼動が可能となる。
そこで、本発明の請求項2の高水圧状態の粘性土地盤等における真空圧密工法は、設定する減圧による高真空圧を通常のミリバブルが発生する激しい沸騰とはならないで、ファインバブルのみが発生する静かな沸騰とする。沸騰による蒸発の発生を極力抑えて高真空圧を安定に維持し、ファインバブル効果により、粘土の骨格を形成するペッド間の電気的引力を一時的に消失させ、合わせて粘土の透水性を向上させて急速真空圧密を行うことで、粘土地盤等の圧密時間の短縮と圧密沈下の増大を図る地盤改良、あるいは殺菌,有害なイオン等を圧密排水と共に除去する土壌浄化を特徴とする真空圧密工法である。
【0033】
ところで、海底地盤における特許文献5は、間隙水の現状温度が沸点となる限界の真空圧を超えない高真空圧による真空圧密工法で実施するのが良いとしている。ここで、本発明の請求項2の違いについて述べる。特許文献5の意図は沸騰させるのは困難なのだから沸騰しなくても可能な限り高真空圧にすることである。沸騰が十分に確保できた真空沸騰圧密現象の挙動は、沸騰時は沈下が鈍い。しかし、沸騰を止めると急激に圧密沈下が進行する。特許文献5は沸騰が低調ならば、沸騰時間がもったいないのでこの時間を除いて真空圧による載荷圧だけに期待をするとの考え方である。これに対して本発明の考え方は、通常の激しい沸騰ではなく、ファインバブルの静かな沸騰でファインバブルのみを発生させる。そして、ファインバブル効果と真空圧による載荷圧の両方に期待をする。例えば、粘土地盤の温度を約17.5℃とする。これを沸点とする通常のミリバブルの間隙水の飽和蒸気圧は、2.0kPa(ゲージ圧:99.3kPa)である。しかし実際の地盤の間隙水の沸点は、通常の水よりも色々な条件で大きな幅(2.0±αkPa)を持つ。本発明の減圧沸騰は、ファインバブルのみが発生する高真空圧とする。この場合、明らかな差を付ける必要がある。例えば、前記の例における高真空圧とは、2.0kPaと大きく差のある10.0kPa(ゲージ圧:91.3kPa)としたものである。10.0kPaを通常のミリバブルの沸点とする飽和蒸気圧は約46℃である。しかし、10.0kPaの下で17.5℃でもファインバブルは確実に発生する。本発明はこの現象を利用する。
【0034】
以上の説明のように、本発明の請求項2と特許文献5が設定する高真空圧は、沸騰して発生する気泡がミリバブルかファインバブルかの根本的な違いがある。実際の高真空圧の維持の難易度にも明確な差がある。例えば、100kPaを99kPaに減圧するのは極めて容易である。それでは11.0kPaを10.0kPaに減圧する。3.0kPaを2.0kPaに減圧する。同じ1.0kPaの減圧であるが、こうような高真空圧の下では後者の難易度は格段に高い。また、真空圧密試験結果を参考にして、本発明の請求項2と特許文献5の1時間圧密の沈下量の比較をする。今、ゲージ圧の真空は本発明が-91kPa,特許文献5が-98kPaとする。真空圧による載荷圧はそれぞれ91kPaと98kPaで、本発明が約8%小さい。この載荷圧は圧密沈下量に比例する。しかし、実際には本発明はファインバブル効果が加わる。この効果は沈下量で約2倍に相当する。これを加えると、本発明が逆に約86%大きい。
【0035】
真空沸騰圧密工法において、当該工法の必要な沸騰時間は主要粘土鉱物がカオリナイトの粘土試料を除いて長時間必要とする。従って、短時間の減圧沸騰だけでは必要なファインバブル量の確保ができない場合は、ファインバブル量の不足分をファインバブル発生装置で製造したファインバブル水を用いるのが得策である。そこで、本発明の請求項4の真空圧密工法は、このファインバブル水の供給工程を真空圧密工程に組み入れることでファインバブル量を補充することとした。また、ヘドロ地盤等においては、地盤改良だけではなく土壌浄化を加えた工法が合理的である。従って、請求項4はファインバブル量を補充することで、確実に多種多様な粘土地盤等の圧密時間の短縮と圧密沈下の増大を図る地盤改良、あるいは殺菌,有害なイオン等を圧密排水により除去する土壌浄化を特徴とする真空圧密工法である。なお、当該工法は補充するファインバブルの量の問題だけでなく、マイクロバブル,ウルトラファインバブルのそれぞれの特性を活かした使い分けをする。これにより、腐植を多く含むヘドロ地盤にも十分に有効となった。
【0036】
ファインバブル水の供給装置,機械は、陸上地盤と海底地盤とは異なる。陸上地盤で鉛直ドレーン工法を併用する真空圧密工法は鉛直ドレーン材の打設機が使われる。鉛直ドレーン打設機はドレーン材の打設機能に寿命の極めて長いウルトラファインバブル水の供給機能を加える。本発明の請求項5の鉛直ドレーン打設機はドレーン材を保持するマンドレル先端部にはウルトラファインバブル水を水平方向,下方向に高圧噴射させるノズル装置を備え、ドレーン材の打設時に、ドレーン材打設と同時にウルトラファインバブル水を必要な方向の地盤に高圧噴射、あるいはドレーン材を打設せずにウルトラファインバブル水のみを地盤に高圧噴射するウルトラファインバブル水の供給機能を備えている。
供給するファインバブル水をウルトラファインバブル水としたのは、これの寿命が極めて長いことにある。これの必要性は鉛直ドレーン打設工程の後、真空圧密工程に至るまでに1~2ヶ月程度の時間差があるためである。これに対してマイクロバブルの寿命はそれほど長くはない。また、地盤のウルトラファインバブル水の供給の第一段階は、水平方向,下方向の高圧噴射である。特に水平方向が重要である。
【0037】
鉛直ドレーン工法を併用する真空圧密工法において、ファインバブル量の不足分をウルトラファインバブル水で補充する場合、最も重要なことはファインバブル効果を斑なく活用することである。このため、本発明の請求項6の真空圧密工法は、鉛直ドレーンの地盤の平面位置に対するウルトラファインバブル水の供給位置を、鉛直ドレーンと同じ位置、さらには必要に応じて鉛直ドレーン位置に囲まれた中央位置とし、作業工程はドレーン打設とウルトラファインバブル水の供給を兼ねた工程、次にウルトラファインバブルのブラウン拡散時間とする拡散工程を経てから、真空圧密工程へと移行する。これにより、ウルトラファインバブルの地盤分布の均等化を図り、ウルトラファインバブル効果を斑なく活用する。ブラウン拡散時間は地盤にウルトラファインバブル水を斑なく供給する第二段階となる。
【0038】
特許文献5は海底地盤では間隙水が高水圧状態にあるので、真空沸騰圧密工法は効果がないとしているが、これは間違いである。真空沸騰圧密工法において、必要なのは負に帯電しているファインバブルである。そして、ファインバブルの沸点はミリバブルに比べて格段に低いので、海底地盤もファインバブルの発生環境になんら問題はないことが検証実験で明らかになった。
【0039】
海底等の浮泥地盤,ヘドロ地盤,軟弱地盤に適用する真空圧密工法は底面開口の気密載荷函体が使用される。ヘドロ地盤は減圧沸騰だけでは必要なファインバブル量は大量に不足する。そこで、本発明の請求項7の真空圧密工法は、気密載荷函体の底面部にはファインバブル水を高圧噴射させる無数のノズルの機能を果たす有孔管を張り巡らす。そして、請求項7の真空圧密工法は、この気密載荷函体を軟弱地盤等に据え付ける工程と併行するファインバブル水の供給工程で、ファインバブル水を高圧噴射させ、軟弱地盤等に必要量のファインバブルを均一に混合し、ファインバブル効果で軟弱地盤の圧密時間の短縮と圧密沈下の増大を図ると共に、ヘドロ地盤においては殺菌,有機物の分解,土壌浄化を図ることを特徴とする。なお、ヘドロ等の軟弱地盤は高圧噴射でファインバブル水が全体に行渡ることを前提としている。そうでない場合は、ウルトラファインバブル水を使い、ブラウン拡散の工程を必要とする。また、土壌浄化を大きな目的とする場合は、補充するファインバブルについてはオゾンを封入したウルトラファインバブル水が検討される。
【0040】
従来、海底地盤等の真空圧密工法、あるいは真空圧密浚渫工法に使用される気密載荷函体は、専用の作業船に装備されていた。気密載荷函体が巨大化すれば専用作業船は超巨大化する。それは港湾及び沿岸海域事業の公共事業費を押し上げることになる。そこで、本発明の工法に使用する巨大な気密載荷函体は専用作業船を用いずに自潜航式の気密載荷函体とすることで建造費の縮減化を図った。この気密載荷函体は浮体の形式により2タイプあり、さらに標準深度用と高深度用により2タイプある。
【0041】
本発明の請求項8の気密函体は、剛性浮体を当該函体の上面のほぼ全面に取り付け、当該函体の上昇・下降は潜水操作装置によって前記浮体の内部空間を空気と水の入れ換えで自在に行う。且つ、先端部に鉛直伸縮スパッドを固定した複数の油圧シリンダーを内奏したスパッド付き水平伸縮ビームを当該函体の上面の2方向の外縁部に取り付け、当該函体の海底での前後左右の水平移動は前記潜水操作装置と水平伸縮ビームの水平移動操作装置によって自在に行う。水平移動時の潜水操作装置の使用は、当該函体の海底面上までの浮上に使われる。これらの操作装置で潜水及び海底水平移動を自在に行うことを特徴とする自潜航式の気密載荷函体である。
【0042】
本発明の請求項9の気密函体は、フレキシブル密閉浮体を当該函体の上面のほぼ全面に取り付け、当該函体の上昇・下降は潜水操作装置で前記浮体の内部空間に圧縮空気の出し入れによる浮体容積の増減で自在に行う。その他は請求項8と同じである。剛性浮体との違いは浮体作動が早いこと,維持費が少し高くなることである。
【0043】
本発明の自潜航式の気密載荷函体は、函体上面中央部に函体タワーが設置される。函体タワーの目的は、当該函体の潜水時にタワー頭部が海上にあってナビゲーションシステムを用いた位置特定にある。また、当該函体は函体タワー頭部に稼動関連設備及び装置の搭載の有無の形式により2タイプある。
【0044】
本発明の請求項10の気密載荷函体は、水深20m未満の標準深度用の気密載荷函体である。当該函体はこれの稼動関連設備及び装置を搭載した函体タワーを当該函体の上面中央部に取り付け、当該函体の稼動装置等が完結形式の構造を特徴とする自潜航式の気密載荷函体である。
【0045】
本発明の請求項11の気密載荷函体は、高深度用の気密載荷函体である。当該函体の稼動関連設備及び装置はこれの操作船に搭載し、前記函体タワーの役割は当該函体の位置特定と稼動関連装置の作動用の電源ケーブル,信号ケーブル、及び各種パイプの添架用とすることで函体タワーの軽量化を図り、当該函体の重心位置を下げることで浮体としての安定性を高めたことを特徴とする自潜航式の気密載荷函体である。
【0046】
海底等の堆積ヘドロ地盤等における真空沸騰圧密工法は、減圧沸騰だけでは必要なファインバブル量が大量に不足する。このため、ファインバブル量の不足をファインバブル水の供給工程を真空圧密工程に組み入れることで解決して急速圧密及び土壌浄化を実現した。本発明の請求項12の真空圧密浚渫工法は、底面開口の気密載荷函体が使用される。底面開口の気密載荷函体で軟弱地盤等を浚渫するためには、軟弱地盤等を浚渫可能な強度まで高める必要がある。つまり、気密載荷函体を海底から引揚げたとき、真空圧で吸引されている函体内部にある浚渫土の塊が自重で分断して落下しない強度が必要である。このため、当該工法は前記真空圧密工法のファインバブルの供給工程を当該工法の工程に取り入れたものである。当該工法はファインバブル効果により、前記底面開口の気密載荷函体で軟弱地盤等を浚渫可能な強度まで極めて短い時間で急速真空圧密し、圧密沈下の増大により浚渫土の発生を大幅に抑制し、さらにはファインバブル効果によりヘドロ地盤の殺菌,有機物の分解,土壌浄化を図ることを特徴とする真空圧密浚渫工法である。
【発明の効果】
【0047】
真空沸騰圧密工法の急激な圧密促進効果は、減圧沸騰で間隙水中に発生する気泡が負に帯電しているファインバブルに起因するメカニズムを明らかにし、これを踏まえて真空圧密試験で求めた実効減圧沸騰時間を真空圧密工程に別枠で組み入れた。これにより、ファインバブル効果が十分に発揮され、粘土地盤等の圧密時間の短縮と圧密沈下の増大を図る地盤改良工法を実現する効果をもたらした。当該工法の急激な圧密促進効果は、本発明で発見された新しいファインバブル効果である。
【0048】
ファインバブル効果には殺菌,有害なイオン等を圧密排水と共に除去する土壌浄化の効果がある。真空沸騰圧密工法は地盤改良工法と土壌浄化工法の複合工法としての効果をもたらした。
【0049】
真空沸騰圧密工法において、短時間の減圧沸騰だけでは必要なファインバブル量の確保ができない場合、ファインバブル発生装置で製造したファインバブル水の供給工程を真空圧密工程に組み入れて、ファインバブル量の不足分を補充する。このとき、マイクロバブルとウルトラファインバブルの特性によって補充するファインバブルを使い分けることで、ファインバブルの量と内容を満たして多種多様な粘土地盤等の地盤改良工法と土壌浄化工法の複合工法となる効果をもたらした。
【0050】
従来、海底地盤等の真空圧密工法、あるいは真空圧密浚渫工法に使用される気密載荷函体は、専用の作業船に装備されていた。気密載荷函体が巨大化すれば専用作業船は超巨大化し、建造費は巨額となる。それは港湾及び沿岸海域事業の公共事業費を押し上げることになる。そこで、本発明の工法に使用する巨大な気密載荷函体は、専用作業船を用いずに自潜航式の気密載荷函体とすることで総合的建造費の大幅な縮減化を図り、ひいては公共事業費の縮減化を図る効果をもたらした。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】 本発明工法に使用する高真空圧密システムの一例を示す説明図
【
図2】 高深度用の鉛直ドレーン材の立面図及び水平断面図
【
図3】 本発明の真空圧密試験のシステムの一例を示す説明図
【
図6】 同鉛直ドレーンの位置及びウルトラファインバブル水の供給位置の平面面図
【
図7】 本発明の標準用の剛性浮体タイプの気密載荷函体の鉛直断面図
【
図9】 本発明の標準用のフレキシブル浮体タイプの気密載荷函体の鉛直断面図
【
図10】 本発明の高深度用の剛性浮体タイプの気密載荷函体の鉛直断面図
【
図11】 本発明の標準用の剛性浮体タイプの気密載荷函体の潜水移動の説明図
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の実施の形態を
図1~
図12に基づいて説明する。
【0053】
図1は本発明工法に使用する高真空圧密システムの一例を示す説明図である。当該システムの経路は、真空ポンプ1Aに連なる真空経路2Aとコンプレーサー1Dに連なる圧気経路2Bに分かれる。本発明の工法に使用する高真空圧密システムは従来のシステムと一部が異なる。従来のシステムの真空経路2Aは、鉛直ドレーン12から気水分離タンク10を経由した後、複数に分岐して高真空貯留タンク1C,コールドトラップ1B,真空ポンプ1Aを直列に連結する。そして、これらの直列の真空装置の真空経路2Aは連絡してネットワークが形成される。これに対して、本発明工法に使用する高真空圧密システムは、高真空貯留タンク1Cとコールドトラップ1Bを一体化する。そして、コールドトラップ1Bの真空経路2Aの位置は、高真空貯留タンク1Cの前と後の切り替えをバルブで行えるものである。これは稼働中のコールドトラップ1Bは時間の経過と共に機能が低下すること、霜取り工程を必要とするなどから切り替えがあると便利である。
図1において番号11は地盤を密閉する気密シートである。また
図1の真空経路2Aは分岐後が2列の例である。
【0054】
図2は高深度用の既存の鉛直ドレーン材の立面図及び水平断面図である。従来の真空圧密工法が直接適用できる深度は10mまでである。高深度用鉛直ドレーン材はこの限界深度10mを打破するために、鉛直ドレーンに滞留した粘土地盤の間隙水を空気と置き換えるためのものである。
図2の高深度用鉛直ドレーン材と
図1の高真空圧密システムに本発明の真空圧密工法を適用させる。
図2において、番号12は高深度用鉛直ドレーン材,12Aはドレーン芯材,12Bは濾過布,12Cはドレーン上部キャップ,12Dはドレーン下部キャップである。
【0055】
高深度用鉛直ドレーン材12を用いた本発明の真空圧密工法の実施概要は、高深度用鉛直ドレーン12の内部空間に間隙水が充満して圧密速度が低下し、間隙水が滞留したならば、コンプレッサー1Dにより鉛直ドレーン材12の先端部(下部)から圧縮空気圧を吹き込み、間隙水を一体の状態で鉛直ドレーン材12の頂部を経て気水分離タンク10へと移動させる。鉛直ドレーン材12の内部空間の間隙水を空気に置き換えた状態で、本発明の真空圧密工程へと進む。高深度真空圧密工法は、時間経過と共に鉛直ドレーン材12に間隙水が滞留する。そうすると、間隙水の空気に置き換工程と真空圧密工程がサイクルとなる。高深度地盤の間隙水は高水圧となるが、本発明の真空圧密工法は通常のミリバブルは発生させずにファインバブルを発生させるので、圧密促進効果が十分に発揮する。
【0056】
図3は本発明の真空圧密試験のシステムの一例を示す説明図である。図において、20は真空圧密試験器,20Aは圧密リング,20Bは加圧板,20Cはガスケット,20Dは柔軟性ゴムキャップ,20Eはポーラストーン,20Fは容器の底板,20Gは変位計である。真空圧密試験のシステムは真空圧密試験器20と真空圧密システムから構成される。真空圧密試験器20で特に重要なのは、相対移動する圧密リング20Aと加圧板20B間の気密保持である。これの対策は、柔軟で弾性の大きな材質のキャップ20D方式である。このキャップ20Dの内面にグリースを塗って圧密リング20Aと加圧板20Bにぴったりと被せる。これが仮密閉となる。真空圧密試験時はこのキャップ20Dを真空圧で吸引密着させることで気密保持をする仕組である。
【0057】
図4は本発明の鉛直ドレーン打設機の鉛直断面図である。図において、40は鉛直ドレーン打設機,41はマンドレルのリーダー,42はマンドレル,43はオペレーター室,44は標準深度用鉛直ドレーン材,44Aはドレーン材用リール,45はウルトラファインバブル水の貯留タンク,45Aはホースリール,45Bはバブル水用ホース,45Cはバブル水の流量計である。鉛直ドレーン打設機40の本体は、基本的には従来のものと変わらない。大きく異なるところは、ウルトラファインバブル水を地盤に供給する装置,機能備えていることにある。
当該打設機40の装置,機能は、ドレーン材44を保持するマンドレル42の先端部にはウルトラファインバブル水を水平方向,下方向に高圧噴射させるノズル装置を備えている。ドレーン材44の打設時に、これと同時にウルトラファインバブル水を必要な方向に高圧噴射をする。あるいはドレーン材44を打設せずにウルトラファインバブル水のみを高圧噴射するものである。
【0058】
図5は鉛直ドレーン打設機の施工説明図である。図において、44は鉛直ドレーン材,46はウルトラファインバブル水の混合領域,49は改良区域地盤である。
図5の(A)は、ドレーン打設機40を所定の位置に据えた状況図、同じく(B)及び(C)は、マンドレル42を鉛直ドレーン材44と共に改良区域地盤49に打設し、並行してウルトラファインバブル水の高圧噴射の作業状況図、同じく(D)は、ドレーン材44の打設及びウルトラファインバブル水の高圧噴射を終了してマンドレル42を引き抜いた作業状況図である。
【0059】
図6は鉛直ドレーン材の位置及びウルトラファインバブル水の供給位置の平面面図である。図において、47はドレーン材の打設とウルトラファインバブル水の高圧噴射を同時に行った位置,48はウルトラファインバブル水の高圧噴射のみを行った位置である。真空圧密工法において、ファインバブル量の不足をウルトラファインバブル水で補充する場合、最も重要なことはファインバブル効果を斑なく活用することである。
図6はウルトラファインバブル水を地盤へ斑なく供給する第一段階である。第二段階はウルトラファインバブルのブラウン運動により改良区域地盤49の全体に斑なくブラウン拡散した状態である。
なお、
図6はウルトラファインバブル水の供給が1回で終了する場合である。供給が複数回長期に継続する場合は、ウルトラファインバブル水の高圧噴射のみを行った位置48にも供給用に通常の鉛直ドレーンを打設し、水平ドレーンパイプを経由してウルトラファインバブル水の圧送装置に接続しておく。そして、必要なとき、必要な量のウルトラファインバブル水を地盤に供給する。通常の鉛直ドレーンとは
図2の高深度用鉛直ドレーン12において圧気経路2Bが付いてないものである。
【0060】
従来、海底地盤等の真空圧密工法、あるいは真空圧密浚渫工法に使用される気密載荷函体は、専用の作業船に装備されていた。本発明の工法に使用する巨大な気密載荷函体は、専用作業船に依存せずに潜水及び海底水平移動を自在に行うことのできる自潜航式の気密載荷函体である。この気密載荷函体は浮体の形式により2タイプあり、さらに標準深度用と高深度用で2タイプある。
【0061】
図7は本発明の標準深度用の剛性浮体タイプの気密載荷函体の鉛直断面図、同じく
図8は平面図である。図において、50は標準深度用のタワー式気密載荷函体,51は標準深度用気密載荷函体,52は標準深度用函体タワー,53Aは剛性浮体,53Bはフレキシブル浮体,54はスパッド付き水平伸縮ビーム,54A水平伸縮ビーム,54Bは鉛直伸縮スパッド,55は函体の稼働関連設備及び装置,71は海面,72は海底面,73は海底地盤である。
図7(A)はタワー式気密載荷函体50が海面71に浮上している状況、同じく(B)は海底面72に据え付けられている状況である。
当該函体50の上昇・下降は潜水操作装置によって剛性浮体53Aの内部空間を空気と水の入れ換えで行う。また、先端部に鉛直伸縮スパッド4Bを固定した複数のスパッド付き水平伸縮ビーム54を当該函体50の上面の2方向の外縁部に取り付け、当該函体50の海底での前後左右の水平移動は前記潜水操作装置と水平伸縮ビーム54Aの水平移動操作装置によって自在に行う。海底での水平移動に潜水操作装置が使われるのは、
当該函体50が海底地盤に据え付けられた状態から海底面上に浮上させるためである。
【0062】
図9は本発明のフレキシブル浮体タイプの気密載荷函体の鉛直断面図である。図において、53Bはフレキシブル浮体である。当該函体50の上昇・下降は潜水操作装置で標準深度用フレキシブル浮体53Bの内部空間に圧縮空気の出し入れによる浮体容積の増減で自在に行う。他は剛性浮体53Aと同様である。
【0063】
図10は高深度用の剛性浮体タイプの気密載荷函体の鉛直断面図である。図において、60は高深度用タワー式気密載荷函体,61は高深度用気密載荷函体,62は高深度用函体タワーである。
当該函体60の稼動関連設備及び装置55は、気密載荷函体61の操作船に搭載し、高深度用函体タワー62の役割は、当該函体60の位置表示と稼動関連装置の作動用の電源ケーブル,信号ケーブル、及び各種パイプの添架用とすることでタワーの軽量化を図り、当該函体60の重心位置を下げることで浮体としての安定性を高めたものである。
【0064】
図11は標準深度用の剛性浮体タイプのタワー式気密載荷函体の潜水移動の説明図である。
図11の(A)は、気密載荷函体50が海面71に浮上している状況、同じく(B)はタワー式気密載荷函体50が海底面72に据え付けられて、真空圧密工法により海底地盤73の地盤改良を実施している状況、同じく(C)は、気密載荷函体50が海底面72まで浮上している状況である。
【0065】
図12は標準深度用の剛性浮体タイプの気密載荷函体の海底面での水平移動の説明図である。
図12の(A)は、
図11の(C)の気密載荷函体50が海底面72まで浮上している状況の平面図である。そして、スパッド付き水平伸縮ビーム54の鉛直伸縮スパッド54Bは海底地盤73に刺し込まれ固定された状態である。同じく(B)は水平伸縮ビーム54Aを伸ばすことによって気密載荷函体50を水平移動させている状況である。
【符号の説明】
【0066】
1A 真空ポンプ
1B コールドトラップ
1C 高真空貯留タンク
1D コンプレッサー
1E 水中ポンプ
10 気水分離タンク
12 高深度用鉛直ドレーン(材)
20 真空圧密試験器
20A 圧密リング
20B 加圧板
20C ガスケット
20D 柔軟性ゴムキャップ
40 鉛直ドレーン打設機
41 マンドレル・リーダー
42 マンドレル
44 標準深度用鉛直ドレーン材
45 ウルトラファインバブル水の貯留タンク
46 ウルトラファインバブル水の混合領域
50 標準深度用タワー式気密載荷函体
51 標準深度用気密載荷函体
52 標準深度用函体タワー
53A 剛性浮体
53B フレキシブル浮体
54 スパッド付き水平伸縮ビーム
60 高深度用タワー式気密載荷函体
61 高深度用気密載荷函体
62 高深度用函体タワー