(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151499
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂、繊維、およびポリエステル樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 63/688 20060101AFI20220929BHJP
C08G 63/87 20060101ALI20220929BHJP
D01F 6/62 20060101ALI20220929BHJP
D01F 6/84 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C08G63/688
C08G63/87
D01F6/62 306C
D01F6/84 301E
D01F6/84 305B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021141469
(22)【出願日】2021-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2021097447
(32)【優先日】2021-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021050444
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥村 麻子
(72)【発明者】
【氏名】福林 夢人
(72)【発明者】
【氏名】種田 祐路
(72)【発明者】
【氏名】天満 悠太
【テーマコード(参考)】
4J029
4L035
【Fターム(参考)】
4J029AA03
4J029AB01
4J029AB04
4J029AC02
4J029AE01
4J029AE02
4J029AE03
4J029BA03
4J029BF09
4J029BF18
4J029BF25
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029CH02
4J029DB02
4J029HA01
4J029HB01
4J029JC361
4J029KB02
4J029KB05
4J029KE01
4L035AA05
4L035BB31
4L035GG01
4L035GG02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】カチオン染料に対する染色性に優れるとともに、糸質特性(強度、伸度)にも優れる繊維を、操業性よく得ることができるポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸成分とグリコール成分とを含むポリエステル樹脂である。本発明のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分が、テレフタル酸を主たる成分として含むとともに、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を含み、グリコール成分が、エチレングリコールを主たる成分として含むとともに、ジエチレングリコールとトリエチレングリコールとを含み、グリコール成分におけるトリエチレングリコールの含有量が0.5モル%以上5.5モル%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分とグリコール成分とを含むポリエステル樹脂であって、ジカルボン酸成分が、テレフタル酸を主たる成分として含むとともに、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を含み、
グリコール成分が、エチレングリコールを主たる成分として含むとともに、ジエチレングリコールとトリエチレングリコールとを含み、グリコール成分におけるトリエチレングリコールの含有量が0.5モル%以上5.5モル%以下であることを特徴とするポリエステル樹脂。
【請求項2】
グリコール成分における、ジエチレングリコールの含有量が2.5モル%以上である、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
グリコール成分がテトラエチレングリコールを含み、グリコール成分におけるテトラエチレングリコールの含有量が2.0モル%以下である、請求項1または2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
グリコール成分におけるトリエチレングリコールの含有量とテトラエチレングリコールの含有量の合計が7.0モル%以下である、請求項3に記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
ジカルボン酸成分中、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の含有量が0.5~5.5モル%である、請求項1~4の何れか1項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
ジカルボン酸成分が、炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸を含み、ジカルボン酸成分中の含有量が2~18モル%である、請求項1~5の何れか1項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項7】
ジカルボン酸成分が、イソフタル酸を含み、ジカルボン酸成分中の含有量が8~15モル%である、請求項1~6の何れか1項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項8】
金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸以外の硫黄成分の含有量が5~100ppmである、請求項1~7の何れか1項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1項に記載のポリエステル樹脂からなる繊維。
【請求項10】
請求項1~8の何れか1項に記載のポリエステル樹脂を製造する方法であって、ポリエステル原料に対して有機スルホン酸系化合物を添加し、常圧または加圧下において、240℃以上の温度で5~120分加熱して、グリコール成分のエーテル化反応を行う工程を含む、ポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂、繊維、およびポリエステル樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等に代表されるポリエステル樹脂は、機械的特性、化学的特性に優れており、広範な分野(例えば、衣料用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用等のフィルムまたはシート、中空成形品であるボトル、電気・電子部品のケーシング、その他エンジニアリングプラスチック成形品等)において使用されている。
【0003】
従来から、ポリエステル樹脂の重縮合時に用いられる重縮合触媒として、アンチモン系の金属系触媒が知られている。アンチモン系触媒は、安価で触媒活性に優れるが、実用的な重合速度が発揮される程度の量で使用すると、重縮合時に金属アンチモンが析出してポリエステル樹脂に黒ずみまたは異物が発生し、生産上の問題となる場合、または加工品の表面欠点の原因となる場合がある。
【0004】
そこで、重縮合触媒としてアンチモン系触媒を用いずに製造された、カチオン可染性に優れるポリエステル繊維に適した共重合ポリエステルが検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1においては、マグネシウム等金属系触媒が用いられているが、依然として、重合時の金属の析出による操業性の低下、または色調不良という問題がある。そのため、有機系触媒を用いたポリエステル樹脂も検討されている。
そして近年では、環境配慮の観点から有機系触媒を使用し、カチオン染料での染色性に優れ、さらには強度および伸度の何れの糸質特性にも優れたポリエステル繊維を得ることができるポリエステル樹脂が望まれている。
【0007】
本発明の目的は、有機系触媒を用い、カチオン染料に対する染色性に優れるとともに、強伸度特性にも優れたポリエステル繊維を得ることができるポリエステル樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討の結果、ジカルボン酸成分として金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を含むとともに、グリコール成分がジエチレングリコールとトリエチレングリコールを含み、グリコール成分におけるトリエチレングリコールの含有量が特定範囲である本発明のポリエステル樹脂は、カチオン染料に対する染色性に優れ、繊維とした場合の強伸度特性にも優れることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下(1)~(10)の通りである。
(1) ジカルボン酸成分とグリコール成分とを含むポリエステル樹脂であって、ジカルボン酸成分が、テレフタル酸を主たる成分として含むとともに、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を含み、
グリコール成分が、エチレングリコールを主たる成分として含むとともに、ジエチレングリコールとトリエチレングリコールとを含み、グリコール成分におけるトリエチレングリコールの含有量が0.5モル%以上5.5モル%以下であることを特徴とするポリエステル樹脂。
(2) グリコール成分における、ジエチレングリコールの含有量が2.5モル%以上である、(1)に記載のポリエステル樹脂。
(3) グリコール成分がテトラエチレングリコールを含み、グリコール成分におけるテトラエチレングリコールの含有量が2.0モル%以下である、(1)または(2)に記載のポリエステル樹脂。
(4) グリコール成分におけるトリエチレングリコールの含有量とテトラエチレングリコールの含有量の合計が7.0モル%以下である、(3)に記載のポリエステル樹脂。
(5) ジカルボン酸成分中、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の含有量が0.5~5.5モル%である、(1)~(4)の何れかに記載のポリエステル樹脂。
(6) ジカルボン酸成分が、炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸を含み、ジカルボン酸成分中の含有量が2~18モル%である、(1)~(5)の何れかに記載のポリエステル樹脂。
(7) ジカルボン酸成分が、イソフタル酸を含み、ジカルボン酸成分中の含有量が8~15モル%である、(1)~(6)の何れかに記載のポリエステル樹脂。
(8) 金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸以外の硫黄成分の含有量が5~100ppmである、(1)~(7)の何れかに記載のポリエステル樹脂。
(9) (1)~(8)の何れかに記載のポリエステル樹脂からなる繊維。
(10) (1)~(8)の何れかに記載のポリエステル樹脂を製造する方法であって、ポリエステル原料に対して有機スルホン酸系化合物を添加し、常圧または加圧下において、240℃以上の温度で5~120分加熱して、グリコール成分のエーテル化反応を行う工程を含む、ポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステル樹脂は、有機スルホン酸系化合物を触媒として使用し、カチオン染料に対する染色性に優れるとともに、強度および伸度の何れにも優れるポリエステル繊維を、操業性よく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のポリエステル樹脂を詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とグリコール成分とを含むものである。ジカルボン酸成分としてはテレフタル酸を主成分とし、さらに金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を含有する。つまり、酸成分としてテレフタル酸を主成分とし、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を共重合成分とするものである。金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸を共重合することにより、ポリエステル樹脂にカチオン染料可染性を付与することができる。
【0012】
ポリエステルを構成する全酸成分の合計量を100モル%とするとき、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の含有量は、0.5~5.5モル%であることが好ましく、0.8~5.0モル%であることがより好ましい。
金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の含有量が0.5モル%未満である場合は、ポリマー全体におけるカチオン染料の染着座席(カチオン染料と反応する反応基数)が十分ではないため、得られたポリエステル樹脂を用いて繊維とした際に、十分な染色性が得られない場合がある。
【0013】
一方、含有量が5.5モル%を超えると、重縮合工程においてポリエステルの溶融粘度が高くなりすぎる傾向にあり、重合度を十分に上げることが困難となる場合がある。その結果、材料強度(例えば繊維としたときの糸強度等)が低下する場合がある。
また、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸は、後述のエーテル化工程において触媒として作用するので、含有量を上記範囲とすることで、グリコール成分におけるエチレングリコール、トリエチレングリコールの含有量を特定範囲にすることができる。
【0014】
金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸としては、例えば、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-カリウムスルホイソフタル酸、5-リチウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホナフタレンジカルボン酸、ナトリウムスルホフェニルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホテレフタル酸等が挙げられるが、本発明においては、カチオン染料による発色性、繊維とする際の溶融紡糸時や延伸時の操業性(以下、単に操業性という)、コストの面から、5-ナトリウムスルホイソフタル酸が好ましく用いられる。また、これらの酸をそのまま使用してもよいが、エステル形成性誘導体を使用してもよく、中でも、操業性などの点から、エチレングリコールとのエステルが好ましく用いられる。
【0015】
酸成分中のテレフタル酸の割合は、75~99.5モル%であることが好ましく、85~99モル%であることが好ましい。テレフタル酸の割合が75モル%未満であると、樹脂組成物の結晶性が低下し、かつ融点が低くなり、操業性が低下する場合がある。一方、テレフタル酸の割合が99.5モル%を超えると、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の共重合量が少なくなるため、カチオン染料による可染性の効果が小さくなる場合がある。
【0016】
さらに、ポリエステルを構成する酸成分中には、全酸成分の合計量を100モル%とするとき、炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸を2~18モル%含むことが好ましい。
金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸と炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸を適量共重合することにより、ポリエステル樹脂に常圧条件でのカチオン染料可染性を付与することができる。
【0017】
炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸の含有量(共重合量)が2モル%よりも少ない場合は、共重合ポリエステルを繊維とした際の常圧条件下でのカチオン染料に対する染色性が不十分となる。一方、脂肪族ジカルボン酸成分の含有量が18モル%を超えると、共重合ポリエステルの熱安定性が低下し、繊維とした際に糸強度が低いものとなる。
【0018】
炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸としては、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸等が挙げられ、本発明においては、溶融紡糸時の操業性及びコストの点から、アジピン酸が好ましく用いられる。
【0019】
また、本発明のポリエステル樹脂は、ポリエステルを構成する酸成分中には、全酸成分の合計量を100モル%とするとき、イソフタル酸が8~15モル%含まれていることが好ましい。イソフタル酸を8モル%以上含むことにより、繊維とした際に熱収縮性の高いものとすることができる。例えば、他のポリエステル樹脂とサイドバイサイド型の複合繊維に用いると、カチオン染料に対する染色性とストレッチ性を両立する織編物を得ることが可能となる。一方、イソフタル酸の含有量が15モル%を超えると、糸の強度が低下したり、紡糸時の操業性が悪くなる傾向がある。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂における、テレフタル酸、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸、炭素数5~10の脂肪族ジカルボン酸、イソフタル酸以外の酸成分としては、フタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ドデカン二酸等、ダイマー酸、更には無水トリメリット酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸等が挙げられ、これらを2種類以上併用してもよく、これらの酸のエステル形成性誘導体を使用してもよい。
【0021】
本発明のポリエステル樹脂は、ジエチレングリコールとトリエチレングリコールとを含み、ポリエステルを構成する全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、トリエチレングリコールの含有量が0.5モル%以上5.5モル%以下である。中でも、トリエチレングリコールの含有量が0.6モル%以上5.0モル%以下であることが好ましく、0.7モル%以上4.0モル%以下であることがより好ましい。0.5モル%未満であると、操業性に劣り、また繊維とした際の染色性の効果や、優れた糸質特性(強度および伸度)が十分に発現しない。一方、5.5モル%を超えると、融点が低くなり、操業性や耐熱性が低下する。
【0022】
全グリコール成分中、トリエチレングリコールおよびテトラエチレングリコールの含有量が、合計で7.0モル%以下であることが好ましく、0.6モル%以上4.0モル%以下であることがより好ましく、0.8モル%以上3.0モル%以下であることがさらに好ましい。7.0モル%を超えると、耐熱性が低下し、繊維とする際の操業性や、繊維としての糸質に劣る場合がある。一方、0.6モル%未満であると、繊維とする際の操業性や、染色性に劣る場合がある。
【0023】
全グリコール成分中、テトラエチレングリコールの含有量が2.0モル%以下であることが好ましく、1.0モル%以下であることがより好ましく、0.5モル%以下であることがさらに好ましい。2.0モル%を超えると、耐熱性、糸質が低下する場合がある。
【0024】
ジエチレングリコールの含有量は、全グリコール成分中、2.5モル%以上であることが好ましく、3.5モル%以上であることがより好ましく、4.5モル%以上であることがさらに好ましい。ジエチレングリコールの含有量をこの範囲とすることで、繊維とした際の染色性を向上させることができる。ジエチレングリコールの含有量の上限値は、操業性や糸質特性の点から、12モル%であることが好ましい。
【0025】
ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールの各々の含有量を調整するためには、例えば、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の含有量を好ましい範囲としたり、後述のポリエステル樹脂の製造方法における重合触媒として有機スルホン酸系化合物を用いたり、有機スルホン酸系化合物の添加量を好ましい範囲としたり、エーテル化反応に供される前のグリコール成分(G)と酸成分(A)とのモル比(G/A)を好ましい範囲としたり、エーテル化反応における温度または時間を調整したりすることができる。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂は、上記以外のグリコール成分を含んでいてもよい。その具体例としては、1,2-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ダイマージオール、ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加体、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加体等を用いることができる。
【0027】
本発明のポリエステル樹脂は、極限粘度が0.45dl/g以上であることが好ましく、0.5dl/g以上であることがより好ましく、さらに好ましくは0.6~0.8dl/gである。極限粘度が0.45dl/g未満であると、十分な糸質特性が得られない場合がある。
【0028】
なお、本発明における極限粘度とは、フェノールと四塩化エタンとの等重量混合液を溶媒として、温度20℃で測定した値である。
【0029】
本発明のポリエステル樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の重合体、制電剤、消泡剤、染色性改良剤、染料、顔料、艶消剤、蛍光増白剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、難燃剤、その他の添加剤が添加されていてもよい。酸化防止剤としては、芳香族アミン系、フェノール系等の酸化防止剤が挙げられる。安定剤としては、リン酸またはリン酸エステル系等のリン系、硫黄系、アミン系等の安定剤が挙げられる。
【0030】
本発明のポリエステル樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、有機系、無機系または有機金属系のトナー、または蛍光増白剤等が添加されていてもよい。これにより、ポリエステル樹脂の黄み等の着色をさらに抑えることができる。または結晶性を向上させるため、ポリエチレンを初めとする他の樹脂、タルク等の無機核剤が添加されていてもよい。
【0031】
本発明のポリエステル樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、色調改善等の目的で、コバルト化合物が添加されていてもよい。コバルト化合物としては特に限定されないが、具体的には例えば、酢酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、コバルトアセチルアセトネート、ナフテン酸コバルト、それらの水和物等が挙げられる。中でも特に酢酸コバルト四水和物が好ましい。コバルト化合物の添加量は、コバルト原子として、ポリエステル樹脂に対して10ppm以下であることが好ましく、より好ましくは5ppm以下であり、さらに好ましくは3ppm以下である。
【0032】
本発明のポリエステル樹脂に、製造工程で発生した廃棄樹脂または市場から回収されたリサイクルポリエステル樹脂等(例えば、PETボトル等)を混合させてもよい。
【0033】
(ポリエステル樹脂の製造方法)
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、ポリエステル原料に対して有機スルホン酸系化合物を添加し、常圧または加圧下において、240℃以上の温度で5~120分加熱して、グリコール成分のエーテル化反応を行う工程を含む。
【0034】
本発明においては、重縮合反応を行う前に、特定条件でのエーテル化反応を行う工程を含むことで、ジエチレングリコールとトリエチレングリコールの含有量を特定範囲とすることができる。その結果、操業性や染色性に優れるポリエステル樹脂を得ることができる。
【0035】
ポリエステル樹脂の原料としては、例えば、エチレングリコールを主たる成分として含むグリコール成分、ジカルボン酸成分、グリコール成分とジカルボン酸成分とからなる低次縮合物としてのエステル化物等が挙げられる。
【0036】
上記エステル化物を得る手法としては、例えば、ポリエステル樹脂としてポリエチレンテレフタレートを製造する場合は、テレフタル酸、エチレングリコ-ル、および必要により他の共重合成分を直接反応させて水を留去し、エステル化して、ポリエステル樹脂の原料としてのエステル化物を得る。または、テレフタル酸ジメチル、エチレングリコ-ル、および必要により他の共重合成分を反応させてメチルアルコ-ルを留去し、エステル交換させてエステル化物を得る。
【0037】
以下、エステル化物の調製方法について、説明する。
ジカルボン酸、またはそのエステル誘導体1モルに対して好ましくは1.02~2.5モル、より好ましくは1.03~1.8モルのエチレングリコ-ルが含まれたスラリーを調製し、これをエステル化反応器に連続的に供給し、エステル化物を得る。
【0038】
エステル化反応は、エチレングリコ-ルが還流する条件下で、反応によって生成した水またはアルコ-ルを、精留塔で系外に除去しながら行う。エステル化反応は、複数のエステル化反応器を直列に連結した多段式装置を用いて行うことができる。
【0039】
エステル化反応を多段階で行う場合、第1段階のエステル化反応の温度は、240~270℃であることが好ましく、245~265℃であることがより好ましい。圧力は、0.2~3kg/cm2Gであることが好ましく、0.5~2kg/cm2Gであることがより好ましい。
【0040】
最終段階のエステル化反応の温度は、250~290℃であることが好ましく、255~275℃であることがより好ましい。圧力は、0~1.5kg/cm2Gであることが好ましく、0~1.3kg/cm2Gであることがより好ましい。
【0041】
3段階以上で実施する場合には、中間段階のエステル化反応の反応条件は、上記第1段階の反応条件と最終段階の反応条件の間の条件であることが好ましい。
多段階でのエステル化反応の反応率は、各段階で滑らかに上昇させることが好ましい。最終的にはエステル化反応率は90%以上に達することが好ましく、93%以上に達することがより好ましい。これらのエステル化反応によりエステル化物を得ることができ、その好ましい分子量は500~5000程度である。
【0042】
エステル化反応においてテレフタル酸を用いる場合、テレフタル酸の酸としての触媒作用により反応が進行する。
【0043】
上記のようにして得られたエステル化物に対し、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸と、アルカリ金属化合物とを添加し、必要に応じて解重合反応を行った後、有機スルホン酸系化合物を添加し、エーテル化反応を行う。その後、重縮合反応を進行させて、本発明のポリエステル樹脂を得る。
【0044】
エステル化物に対する金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の添加量は、例えば、質量比で、(エステル化物)/(金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸)=4.0~30.0である。これにより、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の含有量を本発明の範囲とするとともに、ジエチレングリコールとトリエチレングリコールの含有量を特定範囲としやすくなる。
【0045】
本発明においては、重合触媒として有機スルホン酸系化合物を用いることで、得られるポリエステル樹脂中、ジエチレングリコールとトリエチレングリコールの含有量を特定範囲とすることができる。有機スルホン酸系化合物としては、例えば、ベンゼンスルホン酸、m-またはp-ベンゼンジスルホン酸、1,3,5-ベンゼントリスルホン酸、o-、m-またはp-スルホ安息香酸、ベンズアルデヒド-o-スルホン酸、アセトフェノン-p-スルホン酸、アセトフェノン-3,5-ジスルホン酸、o-、m-またはp-アミノベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、2-アミノトルエン-3-スルホン酸、フェニルヒドロキシルアミン-3-スルホン酸、フェニルヒドラジン-3-スルホン酸、1-ニトロナフタレン-3-スルホン酸、チオフェノール-4-スルホン酸、アニソール-o-スルホン酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、o-、m-またはp-クロルベンゼンスルホン酸、o-、m-またはp-ブロモベンゼンスルホン酸、o-、m-またはp-ニトロベンゼンスルホン酸、ニトロベンゼン-2,4-ジスルホン酸、ニトロベンゼン-3,5-ジスルホン酸、ニトロベンゼン-2,5-ジスルホン酸、2-ニトロトルエン-5-スルホン酸、2-ニトロトルエン-4-スルホン酸、2-ニトロトルエン-6-スルホン酸、3-ニトロトルエン-5-スルホン酸、4-ニトロトルエン-2-スルホン酸、3-ニトロ-o-キシレン-4-スルホン酸、5-ニトロ-o-キシレン-4-スルホン酸、2-ニトロ-m-キシレン-4-スルホン酸、5-ニトロ-m-キシレン-4-スルホン酸、3-ニトロ-p-キシレン-2-スルホン酸、5-ニトロ-p-キシレン-2-スルホン酸、6-ニトロ-p-キシレン-2-スルホン酸、2,4-ジニトロベンゼンスルホン酸、3,5-ジニトロベンゼンスルホン酸、o-、m-またはp-フルオロベンゼンスルホン酸、4-クロロ-3-メチルベンゼンスルホン酸、2-クロロ-4-スルホ安息香酸、5-スルホサリチル酸、4-スルホフタル酸、2-スルホ安息香酸無水物、3,4-ジメチル-2-スルホ安息香酸無水物、4-メチル-2-スルホ安息香酸無水物、5-メトキシ-2-スルホ安息香酸無水物、1-スルホナフトエ酸無水物、8-スルホナフトエ酸無水物、3,6-ジスルホフタル酸無水物、4,6-ジスルホイソフタル酸無水物、2,5-ジスルホテレフタル酸無水物、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、メチオン酸、シクロペンタンスルホン酸、1,1-エタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸無水物、3-プロパンジスルホン酸、β-スルホプロピオン酸、イセチオン酸、ニチオン酸、ニチオン酸無水物、3-オキシ-1-プロパンスルホン酸、2-クロルエタンスルホン酸、フェニルメタンスルホン酸、β-フェニルエタンスルホン酸、α-フェニルエタンスルホン酸、クロルスルホン酸アンモニウム、ベンゼンスルホン酸メチル、p-トルエンスルホン酸エチル、メタンスルホン酸エチル、5-スルホサリチル酸ジメチル、4-スルホフタル酸トリメチル等、およびこれらの塩が挙げられる。中でも、汎用性の観点から、2-スルホ安息香酸無水物、o-スルホ安息香酸、m-スルホ安息香酸、p-スルホ安息香酸、5-スルホサリチル酸、ベンゼンスルホン酸、o-アミノベンゼンスルホン酸、m-アミノベンゼンスルホン酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸メチル、5-スルホイソフタル酸、これらの塩などが挙げられる。
【0046】
重合触媒として、金属系触媒を用いない場合には、得られる本発明のポリエステル樹脂中の、金属系触媒由来の金属成分の含有量を少なくすることができる。金属成分の含有量が多いと、溶融紡糸時に異物が発生する場合がある。金属成分の含有量は、1ppm以下であることが好ましく、0.5ppm以下であることがより好ましく、0ppmであることがさらに好ましい。なお、金属系触媒としては、例えばアンチモン、ゲルマニウム、スズ、チタン、亜鉛、アルミニウム、鉄、マグネシウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マンガン、ニッケル、コバルト等の化合物が挙げられる。
【0047】
有機スルホン酸系化合物は、例えば固体状、スラリー状または水、グリコール等に溶解させた溶液として添加することができる。
【0048】
有機スルホン酸系化合物の添加量は、その種類にもよるが、ポリエステル樹脂を構成する酸成分1モルに対して0.5×10-4~40×10-4モルとすることが好ましく、1.0~20.0×10-4モルであることがより好ましい。添加量が上記範囲を超えて過少であると、重合度の高いポリエステル樹脂を得ることができず、強度や染色性に優れる繊維を得ることができない場合がある。または、ジエチレングリコールとトリエチレングリコールの含有量が特定範囲とならない場合がある。一方、上記範囲を超えて過多であると、トリエチレングリコールの含有量が多くなりすぎる場合や、ポリエステル樹脂の着色の原因となる場合がある。
【0049】
有機スルホン酸系化合物の添加量を上記の範囲とすることで、得られるポリエステル樹脂中の、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸以外の硫黄成分(すなわち、触媒由来の硫黄成分)の含有量を、好ましくは5~100ppm、より好ましくは6~60ppmとすることができる。硫黄成分の含有量が5ppm未満であると、繊維とした際の糸質特性に劣る場合がある。一方、100ppmを超えると、ポリエステルの着色の原因となる場合がある。
【0050】
エーテル化反応の温度は240℃以上であることが好ましく、240~300℃であることがより好ましく、250℃~280℃であることがさらに好ましい。240℃未満であると、反応が十分に進行せず、ジエチレングリコールとトリエチレングリコールの含有量を特定範囲とできない場合がある。300℃を超えると、反応中にエステル化物の分解が進行し、繊維とする際の操業性や、繊維としての糸質特性が低下することがある。
【0051】
エーテル化反応の時間は、5~120分間が好ましく、10~60分間であることがより好ましい。5分未満であると反応が十分に進行せず、ジエチレングリコールとトリエチレングリコールの含有量を特定範囲とできない場合がある。120分を超えると、エーテル化反応が進行しすぎてしまい、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの含有量が特定範囲とならない場合や、反応中にエステル化物の分解が進行する場合があることから、繊維とする際の操業性や、繊維としての糸質特性が低下することがある。
【0052】
エーテル化反応は、常圧または加圧下において進行させることが好ましく、その圧力は、0~3.0kg/cm2Gであることが好ましい。
【0053】
エーテル化反応に供される原料における、グリコール成分と酸成分のとの比率(G/A)を調整することにより、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの含有量を特定範囲とすることができる。G/Aは1.05~3.00であることが好ましく、1.10~2.00であることがより好ましい。G/Aを調整するために、必要に応じて、ポリエステル原料に対し、エチレングリコール等のグリコール成分を追加で添加してもよい。
1.05未満であるとトリエチレングリコールの生成量が少なくなる傾向があり、一方、3.00を超えるとトリエチレングリコールの生成量が多くなる傾向がある。
【0054】
エーテル化反応の後に、重縮合反応を行って、本発明のポリエステル樹脂を得ることができる。重縮合反応としては、例えば溶融重縮合反応が挙げられる。重縮合反応は1段階で行ってもよいし、多段階に分けて行ってもよい。
【0055】
重縮合反応条件としては、特に限定されるものではないが、第1段階の重縮合反応の温度は250~290℃であることが好ましく、260~280℃であることがより好ましい。圧力は500~20hPaであることが好ましく、200~30hPaであることがより好ましい。
【0056】
多段階の場合、最終段階の重縮合反応の温度は265~300℃であることが好ましく、275~295℃であることが好ましい。圧力は10~0.1hPaが好ましく、5~0.5hPaであることがより好ましい。3段階以上で実施する場合には、中間段階の反応条件は、第1段階と最終段階の間の反応条件とすることが好ましい。これらの各段階において重合度を滑らかに上昇させることが好ましい。
【0057】
さらに、重縮合反応時には、必要に応じて、上記の重合触媒と併せて、ヒンダードフェノール系抗酸化剤、樹脂の熱分解を抑制することができるリン化合物、白度を向上させるための酸化チタンを添加することもできる。
【0058】
ヒンダードフェノール系抗酸化剤としては、例えば2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’-ブチリデンビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕、3,9-ビス{2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1’-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が用いられるが、効果とコストの点で、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンが好ましい。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0059】
リン化合物としては、例えば亜リン酸、リン酸、トリメチルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリデシルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート、トリデシルフォスフェート、トリフェニルフォスフォート等のリン化合物を用いることができる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0060】
酸化チタンは、ポリエステルの艶消し剤や白色顔料として一般的に使用されているが、本発明のポリエステル樹脂に適量の酸化チタンが添加されていることにより、繊維とした際の白度が向上し、良好な色調の織編物を得ることが出来る点で好ましい。酸化チタンの添加量としては、ポリエステル樹脂100質量部に対して、0.05~5質量部であることが好ましい。
【0061】
(ポリエステル樹脂の用途)
本発明のポリエステル樹脂は様々な用途に適用することができる。中でも繊維用途に好適であるが、シート、フィルム、射出成形体等の成形品用途にも使用することができる。
【0062】
本発明の繊維は、本発明のポリエステル樹脂からなるものである。
本発明の繊維は、例えば本発明のポリエステル樹脂を用いて紡糸することにより得ることができる。紡糸方法等は、公知の条件に従って実施することができる。本発明の繊維は、例えば単糸繊度が0.8デシテックス以下(好ましくは0.6~0.3デシテックス)の極細繊維であってもよい。
【0063】
本発明の繊維としては、例えばモノフィラメント、マルチフィラメント等のいずれであってもよく、また長繊維、短繊維等のいずれであってもよい。
本発明の繊維を構成する単繊維の形状は特に限定するものではなく、丸断面のみならず、多角形状等の異形断面のものであってもよい。
【0064】
本発明の繊維は、単繊維の全てが本発明のポリエステル樹脂で形成されている繊維のみならず、本発明のポリエステル樹脂と、それ以外のポリエステル樹脂(バージンポリエステル樹脂や他の共重合成分を含有するポリエステル樹脂など)とが複合された複合繊維であってもよい。複合繊維の形態としては、芯鞘型、サイドバイサイド型、海島型のものが挙げられる。
【0065】
なお、本発明の繊維に含まれる本発明のポリエステル樹脂の割合は、本発明の繊維中、30質量%以上であることが好ましく、中でも50質量%以上であることが好ましく、さらには70質量%以上であることが好ましい。本発明の繊維が複合繊維でない場合は、80質量%以上であることが好ましく、中でも90質量%以上であることが好ましく、100質量%であることがより好ましい。
【0066】
本発明の繊維がマルチフィラメントである場合、その特性値としては、例えば、単糸繊度0.3~30デシテックス、単糸数2~300本、総繊度5~350本、強度1~5cN/デシテックス、伸度10~400%の範囲を有するものが挙げられる。
【0067】
本発明の繊維は、カチオン染料での染色が可能であり、染色を行った場合、色斑や色差が生じることがなく、染色性に優れる。さらに、強度などの糸質特性にも優れる。
【実施例0068】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、測定、評価は以下の方法により行った。
【0069】
(1)極限粘度[η]
フェノールと四塩化エタンとの等重量混合液を溶媒として、温度20℃で測定した。
【0070】
(2)ポリエステル樹脂の組成
重水素化クロロホルム/重水素化トリフルオロ酢酸=9/1(質量比)の混合溶媒1mLに10mgの試料を溶解し、日本電子社製LA-400型NMRにて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各成分のプロトンのピーク積分強度から、ジカルボン酸成分、トリエチレングリコール成分とテトラエチレングリコール成分との合計量、および、それ以外の各グリコール成分のモル比を算出した。
次いで、下記のようにして、トリエチレングリコールとテトラエチレングリコールの定量を行った。
ポリエステル樹脂を濃度0.75規定の水酸化カリウム/メタノール溶液中で加水分解した後、テレフタル酸を添加して中和した。次に、濾過して得られた濾液について、ガスクロマトグラフ法による測定をおこない、あらかじめ作成した検量線を用いて、トリエチレングリコールとテトラエチレングリコールとのモル比を算出し、これらのモル比と、前述の1H-NMRを測定結果(トリエチレングリコールおよびテトラエチレングリコールの合計量と、それ以外の各グリコール成分とのモル比)とから、全グリコール成分中の、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールの含有量を算出した。
【0071】
(3)融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)
パーキンエルマー社製示差走査熱量計DSC-7を用い、窒素気流中、温度範囲25~280℃、昇温速度20℃/分で測定した。
【0072】
(4)触媒由来の硫黄成分の含有量
ポリエステル樹脂を300℃で溶融成形して直径3cm×厚み1cmの円盤状の成形板とし、リガク社製蛍光X線分析装置 ZSX Primusを用いて、検量線法により硫黄成分の定量分析を行った。
次に、重水素化クロロホルム/重水素化トリフルオロ酢酸=9/1(質量比)の混合溶媒1mLに10mgの試料を溶解し、日本電子社製LA-400型NMRにて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各成分のプロトンのピーク積分強度から5-Naスルホイソフタル酸ジグリコールエステル(SIPG)のモル比を算出し、そこから、SIPG由来の硫黄含有量を算出した。
蛍光X線分析装置で定量分析を行った硫黄成分量から、NMRにて算出したSIPG由来の硫黄含有量を引いた値を、触媒由来の硫黄成分の含有量として算出した。
【0073】
繊維(操業性・染色性・強度、伸度・ストレッチ性)の評価方法は、以下の通りである。
(5)繊維の操業性(紡糸時の切糸)
24時間連続して溶融紡糸を行った間の切糸回数が3回/(日・錘)以下である場合を「○」とし、それ以外の場合を「×」とした。
(6)繊維の操業性(延伸時の切断)
延伸を12時間連続して延伸を行った際に発生した切糸回数をカウントし、以下の式により切糸発生率(%)を算出して評価した。
切糸発生率(%)={(延伸の全錘数)-(12時間切糸なく延伸できた錘数)}÷(延伸の全錘数)×100
○:延伸時の切糸発生率≦5%
×:延伸時の切糸発生率>5%
【0074】
(7)糸質
JIS L-1013に従い、島津製作所製オートグラフDSS-500を用い、つかみ間隔50cm、引張速度50cm/分で強度および伸度を測定した。
本発明においては、強度が2.0cN/dtex以上であることが好ましく、3.0cN/dtex以上であることがより好ましい。また、伸度が28%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。強度および伸度が、何れも上記の範囲を満足することで、糸質特性のバランスに優れることの指標となる。
【0075】
(8)染色性
得られたマルチフィラメントを編機(小池機械製作所製、針本数:300本、釜径:3.5インチ)を用いて筒編地にした。作製した筒編地を染料としてAstorazon Blue FRRを用い、助剤として酢酸、酢酸ナトリウム、イオネットを用いた染液を使用し、0.5%o.w.f.となる条件で、130℃で30分間染色を行った。染色した30本の筒編地を目視にて観察し、染色筋や染色斑の有無を評価し、染色筋と染色斑ともに有していない良品の本数をカウントし、以下のように評価した。
〇:良品の本数が27本以上
×:良品の本数が26本以下
【0076】
(9)常圧染色性(染色後L値)
得られたマルチフィラメント糸を、編機(小池機械製作所製、針本数:300本、釜径:3.5インチ)を用いて筒編地を作製した。
作製した筒編地を、60℃で20分の精練を行った後、下記の染色条件下、100℃で60分間の常圧染色をして風乾した。次に小型ピンテンターを用いて150℃で1分間の熱セットを行った後、4枚重ねのサンプル片を作成した。このサンプル片のL値を色差計で測定し、染色性の評価を行った。このL値が低いほど繊維の色が濃いことを示し、染色性が良いと判断し、L値が35以下を合格とした。
また、染色した30本の筒編地を目視にて、染色筋や染色斑の有無を評価し、染色筋と染色斑ともに有していない良品の本数をカウントし、以下のように評価した。
〇:良品の本数が27本以上
×:良品の本数が26本以下
(染色条件)
染料: アストラゾンブルー 0.5% o.m.f.
均染剤: 酢酸 0.2mL/L
酢酸ナトリウム 0.2g/L
浴比: 1:50
(10)ストレッチ性
染色性評価に使用した試料(筒編地)について、10人のパネラーによる官能評価を行った。1~10点の10段階で評価し、ストレッチ性が高いものを10点満点として、10人の平均値で示した。7点以上を○とし、7点未満を×とした。
【0077】
[エステル化物の作製]
エステル化反応缶に、テレフタル酸とエチレングリコール(モル比1/1.6)のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化物(テレフタル酸:エチレングリコール=100:111(モル比))を得た。
【0078】
実施例1
〔ポリエステル樹脂〕
加熱溶融したエステル化物と、重合触媒として5-Naスルホイソフタル酸ジグリコールエステル(SIPG)を280℃に加熱した重縮合反応缶に投入し、5-スルホサリチル酸二水和物(SS)を2.0×10-4モル/酸成分モル添加し、常圧下、260℃で10分間エーテル化反応を行った。次に、反応缶の温度を280℃に維持したまま、系の圧力を徐々に減じて60分後に0.5hPa以下にした。この条件で撹拌しながら重縮合反応を3時間行い、ポリエステル樹脂を得た。ポリエステル樹脂は、25ppmの触媒由来の硫黄成分を含んでおり、トリエチレングリコール量は1.1モル%であった。
【0079】
〔長繊維の製造〕
得られたポリエステル樹脂を乾燥させた後、吐出孔を84個有する紡糸口金を用い、紡糸温度303℃で紡糸し、冷却、油剤付与を行いながら、2900m/分の速度で巻き取り、部分配向糸を得た。これをロールヒータ温度90℃、プレートヒータ150℃、延伸速度600m/minの条件で延伸した後、巻き取り、45デシテックス/84フィラメントのマルチフィラメント糸(延伸糸)を得た。
【0080】
実施例2~6、比較例1~7
〔ポリエステル樹脂〕
表1に示したように、5-Naスルホイソフタル酸ジグリコールエステル(SIPG)の添加量、5-スルホサリチル酸二水和物(SS)の添加量、エーテル化条件を変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂を得た。
そして、実施例1と同様にしてマルチフィラメント糸を得た。
【0081】
比較例8
5-スルホサリチル酸二水和物(SS)に代えて、三酸化アンチモン(Sb)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂を得た。そして、実施例1と同様にしてマルチフィラメント糸を得た。
【0082】
実施例7
重縮合反応缶に、イソフタル酸(IPA)を2.1質量部添加した以外は実施例1と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステル樹脂と、もう一方のポリエステル樹脂として実施例3で得られたポリエステル樹脂を使用し、これらの樹脂を乾燥させた後、複合紡糸型溶融押出機に等質量供給し、紡糸温度290℃で溶融させ、吐出孔を12個有する紡糸口金上流で両成分を合流させ、サイドバイサイド型に接合して紡出した。紡出した糸条を冷却固化後、油剤付与を行いながら、3000m/分の速度で巻き取り、未延伸糸を得た。次いで、これを温度85℃のローラーで熱処理後、延伸倍率1.7倍で延伸と同時に、185℃(ヒートプレート温度)で熱処理し、56デシテックス/12フィラメントの複合繊維のマルチフィラメント糸を得た。
【0083】
実施例8、9
イソフタル酸(IPA)の添加量を変更した以外は実施例7と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂を得た。そして、実施例7と同様にしてマルチフィラメント糸を得た。
【0084】
実施例10
重縮合反応缶に、アジピン酸(AD)を1.8質量部添加した以外は実施例1と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂を得た。そして、実施例1と同様にしてマルチフィラメント糸を得た。
【0085】
実施例11、12
アジピン酸(AD)の添加量を変更した以外は実施例10と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂を得た。そして、実施例1と同様にしてマルチフィラメント糸を得た。
【0086】
実施例、比較例におけるポリエステル樹脂の原料仕込み組成、製造条件、得られたポリエステル樹脂組成を表1に示す。
【0087】
【0088】
実施例、比較例にて得られたポリエステル樹脂、繊維の特性値を表2に示す。
【0089】
【0090】
表2に示すように、実施例1~12で得られたポリエステル樹脂は、ジエチレングリコールとトリエチレングリコールの含有量が本発明で規定する範囲内であったため、カチオン染料に対する染色性に優れるとともに、糸質特性(強度、伸度)にも優れる繊維を、操業性よく得ることができるものであった。
中でも実施例7~9で得られたポリエステル樹脂を用いた複合繊維はストレッチ性にも優れていた。実施例10~12で得られたポリエステル樹脂からなる繊維は、常圧染色性にも優れていた。
【0091】
一方、比較例1では、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の含有量が多いため、ポリエステル樹脂中のトリエチレングリコールの含有量が多くなった。その結果、非晶性で、耐熱性が悪い樹脂となり、紡糸での操業性が悪く、また染色品位も悪かった。
【0092】
比較例2では、金属スルホネート基を有する芳香族ジカルボン酸の含有量が少ないため、ポリエステル樹脂中のトリエチレングリコールの含有量が少なくなった。その結果、融点が高い樹脂となり、延伸での操業性が悪かった。
【0093】
比較例3では、エーテル化反応を行わなかったため、ポリエステル樹脂中のトリエチレングリコールの含有量が少なくなり、その結果、延伸での操業性が悪かった。
【0094】
比較例4では、重合触媒としての5-スルホサリチル酸二水和物の添加量が多かったため、ポリエステル樹脂中のトリエチレングリコールの含有量が多くなり、その結果、非晶性で、耐熱性の低い樹脂となった。紡糸での操業性が悪く、また染色品位も悪かった。
【0095】
比較例5では、重合触媒としての5-スルホサリチル酸二水和物の添加量が少なかったため、トリエチレングリコールの含有量が少なくなった。その結果、延伸での操業性が悪かった。
【0096】
比較例6では、エーテル化反応の温度を低くしたため、ポリエステル樹脂中のトリエチレングリコールの含有量が少なくなった。その結果、延伸での操業性が悪かった。
【0097】
比較例7では、エーテル化反応の時間を長くしたことにより、ポリエステル樹脂中のトリエチレングリコールの含有量が多くなった。その結果、非晶性で、耐熱性の低い樹脂となった。紡糸での操業性が悪く、また染色品位も悪かった。
【0098】
比較例8では、重合触媒として、5-スルホサリチル酸二水和物(SS)ではなく、三酸化アンチモンを添加したため、ポリエステル樹脂中のトリエチレングリコールの含有量が少なくなった。その結果、延伸での操業性が悪かった。