(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151534
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】機能性担持体
(51)【国際特許分類】
B01J 20/20 20060101AFI20220929BHJP
B01J 20/02 20060101ALI20220929BHJP
B01J 20/10 20060101ALI20220929BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20220929BHJP
A61L 9/014 20060101ALI20220929BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B01J20/20 C
B01J20/02 B
B01J20/10 D
B01J20/28 Z
A61L9/014
B01J20/02 A
B01J20/20 A
B01J20/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164662
(22)【出願日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2021051575
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000156961
【氏名又は名称】関西熱化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000205432
【氏名又は名称】大阪化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】塚▲崎▼ 孝規
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 聡
(72)【発明者】
【氏名】浅見 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】神田 知秀
(72)【発明者】
【氏名】合志 修
【テーマコード(参考)】
4C180
4G066
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA03
4C180AA07
4C180AA20
4C180BB06
4C180BB08
4C180BB09
4C180CC04
4C180EA09X
4C180EA14X
4C180EA22X
4C180EA29X
4C180EB15X
4C180EB17X
4C180EB21X
4G066AA02B
4G066AA05B
4G066AA72B
4G066AC21D
4G066AC33D
4G066BA23
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA36
4G066CA29
4G066CA52
4G066CA56
4G066DA03
(57)【要約】
【課題】多孔質体に抗ウイルス性能や抗菌性能を付与し、しかも多孔質体本来の吸着性能が維持されている、優れた機能性担持体を提供する。
【解決手段】気体分子吸着性能を有する多孔質体からなる担体に、抗ウイルス性能および抗菌性能の少なくとも一方の性能を有する薬剤が担持されており、上記担持体全体に対する上記薬剤の添着量の割合が0.01~9.9質量%であって、上記気体分子吸着性能と、抗ウイルス性能および抗菌性能の少なくとも一方の性能とを兼ね備えている機能性担持体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体分子吸着性能を有する多孔質体からなる担体に、抗ウイルス性能および抗菌性能の少なくとも一方の性能を有する薬剤が担持された担持体であって、上記担持体全体に対する薬剤の添着量の割合が0.01~9.9質量%であり、上記気体分子吸着性能と、抗ウイルス性能および抗菌性能の少なくとも一方の性能とを兼ね備えていることを特徴とする機能性担持体。
【請求項2】
上記薬剤が担持された担持体の比表面積が700~5000m2/gである請求項1記載の機能性担持体。
【請求項3】
上記薬剤が担持された担持体の全細孔容積が0.2~5mL/gである請求項1または2記載の機能性担持体。
【請求項4】
上記薬剤が担持されていない担体に対する上記薬剤が担持された担持体の、窒素ガス吸着法により測定される比表面積の減少率が10%以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の機能性担持体。
【請求項5】
上記薬剤が担持されていない担体に対する上記薬剤が担持された担持体の、窒素ガス吸着法により測定される全細孔容積の減少率が10%以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の機能性担持体。
【請求項6】
上記薬剤が担持されていない担体に対する上記薬剤が担持された担持体の、水銀ポロシメータで測定される細孔径50~10000nmの細孔容積の減少率が75%以下である請求項1~5のいずれか一項に記載の機能性担持体。
【請求項7】
上記薬剤が担持された担持体の、水銀ポロシメータで測定される細孔径50~10000nmの細孔容積が0.03mL/g以上である請求項1~6のいずれか一項に記載の機能性担持体。
【請求項8】
上記担体が、活性炭、シリカゲル、プラスチック焼結体、セラミック焼結体および金属焼結体からなる群から選択される少なくとも一種の多孔質体からなるものである請求項1~7のいずれか一項に記載の機能性担持体。
【請求項9】
上記担体が、活性炭からなるものである請求項8記載の機能性担持体。
【請求項10】
上記薬剤が、ポリアルキレンビグアナイド系化合物および第四級アンモニウム化合物からなる群から選択される少なくとも一種の薬剤である請求項1~9のいずれか一項に記載の機能性担持体。
【請求項11】
上記第四級アンモニウム化合物が、ポリカチオン化合物である請求項10記載の機能性担持体。
【請求項12】
悪臭成分に対する脱臭性能を有する請求項1~11のいずれか一項に記載の機能性担持体。
【請求項13】
上記悪臭成分が、イソ吉草酸、酢酸、ノネナール、およびアンモニアからなる群から選択される少なくとも一つの悪臭成分である請求項12記載の機能性担持体。
【請求項14】
上記悪臭成分が、イソ吉草酸である請求項13記載の機能性担持体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体分子吸着性能と、抗ウイルス性能および抗菌性能の少なくとも一方とを兼ね備えた機能性担持体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
活性炭やゼオライト、セラミック焼結体といった多孔質体は、表面や内部に多数の細孔を有しており、その細孔内に気体分子を取り込む性質があることから、脱臭剤や空気清浄機のフィルタ等に多用されている。また、水蒸気を取り込む性質を利用して、乾燥剤や除湿剤としても汎用されている。さらに、このような多孔質体に、気体分子に限らず、特定の物質を吸着させる性能を付加して、物質の分離や濾過等に利用することも多く行われている。このような用途としては、浄水フィルタや排水処理フィルタ等があげられる。
【0003】
ところで、近年、様々な種類のウイルスや細菌による感染症が、季節的、地域的偏りはあるものの、いろいろなところで拡大する傾向がみられることから、感染症予防の意識が高まっており、人間の生活環境から積極的にウイルスや細菌を排除して人体を守る方法がいろいろと提案されている。
【0004】
例えば、上記ウイルスの不活化や除菌のために、抗ウイルス性や抗菌性を備えた物質を樹脂や繊維に固着させて、ウイルス等から人体を守る技術が提案されている(下記の特許文献1等を参照)。また、飲料水を得るための浄水システムにおいてウイルスや細菌等の汚染物質を除去するために、特定の性能を付与した活性炭を利用したフィルタを用いる技術が提案されている(下記の特許文献2等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-211428号公報
【特許文献2】特表2008-534269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ウイルスや細菌による感染症は、人と人とが直接触れることによって拡大するケースの他、咳やくしゃみによって感染者の体内から外に出て空気中を浮遊するウイルスや細菌を吸い込んでしまうことが原因となって広がるケースがあり、とりわけ空気感染による感染拡大の防止が大きな課題となっている。
【0007】
そこで、このような、空気中に浮遊するウイルスや細菌を、空気清浄機や空調システムを利用して、空気を循環しながら積極的にウイルスの不活化や除菌を行う方法が検討されているが、空気をフィルタに通すだけでは、前記浄水フィルタによる水の浄化のように、ウイルスや細菌を効率よく除去することができないことがわかっている。また、フィルタとなる多孔質体に抗ウイルス剤等の薬剤を付与してウイルスの不活化や除菌を積極的に行うことも考えられるが、薬剤の付与によって多孔質体の細孔が潰れて、フィルタ本来の、臭い物質や他の汚染物質を吸着する性能が低下するおそれがあることから、その実用化には至っていないのが実情である。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、多孔質体に抗ウイルス性能や抗菌性能を付与し、しかも多孔質体本来の吸着性能が維持されている、優れた機能性担持体の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、以下の[1]~[14]を要旨とする。
[1] 気体分子吸着性能を有する多孔質体からなる担体に、抗ウイルス性能および抗菌性能の少なくとも一方の性能を有する薬剤が担持された担持体であって、上記担持体全体に対する薬剤の添着量の割合が0.01~9.9質量%であり、上記気体分子吸着性能と、抗ウイルス性能および抗菌性能の少なくとも一方の性能とを兼ね備えている機能性担持体。
[2] 上記薬剤が担持された担持体の比表面積が700~5000m2/gである[1]に記載の機能性担持体。
[3] 上記薬剤が担持された担持体の全細孔容積が0.2~5mL/gである[1]または[2]に記載の機能性担持体。
[4] 上記薬剤が担持されていない担体に対する上記薬剤が担持された担持体の、窒素ガス吸着法により測定される比表面積の減少率が10%以下である[1]~[3]のいずれかに記載の機能性担持体。
[5] 上記薬剤が担持されていない担体に対する上記薬剤が担持された担持体の、窒素ガス吸着法により測定される全細孔容積の減少率が10%以下である[1]~[4]のいずれかに記載の機能性担持体。
[6] 上記薬剤が担持されていない担体に対する上記薬剤が担持された担持体の、水銀ポロシメータで測定される細孔径50~10000nmの細孔容積の減少率が75%以下である[1]~[5]のいずれかに記載の機能性担持体。
[7] 上記薬剤が担持された担持体の、水銀ポロシメータで測定される細孔径50~10000nmの細孔容積が0.03mL/g以上である[1]~[6]のいずれかに記載の機能性担持体。
[8] 上記担体が、活性炭、シリカゲル、プラスチック焼結体、セラミック焼結体および金属焼結体からなる群から選択される少なくとも一種の多孔質体からなるものである[1]~[7]のいずれかに記載の機能性担持体。
[9] 上記担体が、活性炭からなるものである[8]に記載の機能性担持体。
[10] 上記薬剤が、ポリアルキレンビグアナイド系化合物および第四級アンモニウム化合物からなる群から選択される少なくとも一種の薬剤である[1]~[9]のいずれかに記載の機能性担持体。
[11] 上記第四級アンモニウム化合物が、ポリカチオン化合物である[10]に記載の機能性担持体。
[12] 悪臭成分に対する脱臭性能を有する[1]~[11]のいずれかに記載の機能性担持体。
[13] 上記悪臭成分が、イソ吉草酸、酢酸、ノネナール、およびアンモニアからなる群から選択される少なくとも一つの悪臭成分である[12]に記載の機能性担持体。
[14] 上記悪臭成分が、イソ吉草酸である[13]に記載の機能性担持体。
【0010】
すなわち、本発明者らは、気相中において、例えば空気を浄化したり脱臭したりするのに用いられる多孔質体に、抗ウイルス性能や抗菌性能を有する薬剤を、その性能を発揮しうる、ごく限られた量だけ添着して担持させた場合に、多孔質体が本来備える気体分子吸着性能を損なうことなく抗ウイルス性能や抗菌性能を発揮させることができることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0011】
本発明の機能性担持体によれば、気体分子吸着性能を有する多孔質体からなる担体に、抗ウイルス性能および抗菌性能の少なくとも一方の性能を有する薬剤が、担持体全体に対して0.01~9.9質量%というごく限られた割合で添着されているため、担体である多孔質体が本来備える気体分子吸着性能が損なわれることなく、上記薬剤による抗ウイルス性能や抗菌性能が発揮されるようになっている。したがって、この機能性担持体にウイルスや細菌を含む汚れた空気等を接触させるだけで、ウイルスの不活化や除菌を効果的に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明の機能性担持体は、気体分子吸着性能を有する多孔質体からなる担体に、抗ウイルス性能および抗菌性能の少なくとも一方の性能を有する薬剤を担持させたものである。
【0014】
まず、本発明に用いられる上記担体について説明する。
<担体>
本発明に用いられる担体としては、気体分子吸着性能を有する多孔質体が用いられる。このような多孔質体としては、炭素原料を賦活化してなる活性炭や、各種粉末を焼結してなる焼結体、焼結によらない各種の多孔質物質があげられる。これらの多孔質体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0015】
上記活性炭としては、どのような炭素原料を賦活化したものであってもよく、炭素原料としては、例えば、木材、おが屑、木炭、ヤシ殻、セルロース系繊維、フェノール樹脂、メソフェーズピッチ、ピッチコークス、石油コークス、石炭コークス、ニードルコークス、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリアクリロニトリル(PAN)等があげられる。これらの炭素原料も、単独物であっても2種以上の混合物等であってもよい。
【0016】
上記炭素原料を賦活化する方法としては、ガス賦活、薬品賦活等があり、どのような賦活処理によって得られた活性炭であってもよい。
【0017】
ちなみに、上記ガス賦活とは、炭素原料を所定の温度まで加熱した後、賦活ガスを供給することにより賦活処理を行う方法である。賦活ガスとしては、水蒸気、空気、炭酸ガス、酸素、燃焼ガスおよびこれらの混合ガスを用いることができる。
【0018】
また、上記薬品賦活とは、炭素原料と賦活剤を混合し、加熱することにより賦活処理を行う方法である。賦活剤としては、通常、水酸化カリウム,水酸化ナトリウム,水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物(苛性アルカリ)、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸カリウム,炭酸ナトリウム,炭酸リチウム等のアルカリ金属の炭酸塩等を有するアルカリ賦活剤を用いることができる。
【0019】
さらに、これらの賦活処理前に、必要に応じて高温炭化処理を行ったものであってもよい。上記高温炭化処理とは、賦活処理に先立って、例えば、上記炭素原料を、不活性ガス中で400~1000℃で1~3時間程度熱処理するものである。
【0020】
また、多孔質体として用いることのできる、各種粉末を焼結してなる焼結体としては、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のプラスチック粉末を焼結してなるプラスチック焼結体、シリカやアルミナ、ジルコニア、窒化珪素、窒化アルミ、炭化珪素等のセラミック粉末を焼結してなるセラミック焼結体、ステンレス等の金属粉末を焼結してなる金属焼結体等があげられる。
【0021】
さらに、他の多孔質体である、焼結によらない各種の多孔質物質としては、乾燥剤として汎用されているシリカゲルや、イオン交換材料等として汎用されているゼオライト等があげられる。また、合成多孔質体である有機金属構造体(MOF、多孔性配位高分子[PCP]ともいう)を用いてもよい。
【0022】
このような多孔質体からなる担体は、気相において気体分子吸着性能を備えたものであって、しかも空気等に浮遊するウイルスや細菌と充分に接触することのできる接触面積を備えていることが望ましい。そして、とりわけ、大きさの異なるウイルスや細菌等を、細孔表面や細孔内部に留めて後述する薬剤との接触時間を充分に確保するために、担体の表面および内部に、大きさの異なる細孔が多数分布しているものが好適である。
【0023】
これらの観点から、上記担体の特性は、担体に担持する薬剤の種類や用途等に応じて適宜に設定されるが、薬剤を担持した後の担持体の比表面積が、例えば700~5000m2/gとなるような比表面積を備えたものであることが好ましく、より好ましくは800~4000m2/g、さらに好ましくは850~3500m2/gである。
【0024】
また、同様に、薬剤を担持した後の担持体の全細孔容積が、例えば0.2~5mL/gとなるような全細孔容積を備えたものであることが好ましく、より好ましくは0.3~4.0mL/g、さらに好ましくは0.35~3.0mL/gである。
【0025】
なお、本発明において、上記「比表面積」および「全細孔容積」は、以下のようにして求められる値である。
【0026】
[比表面積]
予め乳鉢にて粒径250μm以下に粉砕した試料(0.2g)を80℃にて12時間以上真空加熱した後、比表面積・細孔径分布測定装置(マイクロメリティックス社製、ASAP-2420)を用いて液体窒素雰囲気下(-196℃)における窒素ガス吸着量から窒素吸着等温線を求め、BET法により算出される値である。
【0027】
[全細孔容積]
上記比表面積を求めるための窒素吸着等温線を用い、相対圧(P/P0)=0.93における窒素吸着量から算出される値である。なお、上記Pは吸着平衡にある吸着質の気体圧力、P0は吸着温度における吸着質の飽和蒸気圧である。
【0028】
また、薬剤を担持した後の担持体が有する細孔は、少なくとも細孔径が50~10000nmの範囲内に分布しているものが好ましく、細孔径50~10000nmの細孔容積が0.03mL/g以上であることが好ましい。そして、とりわけ、細孔径30~10000nmまでの細孔容積において、細孔径100~1000nmの細孔容積が最も多い割合となる分布になっているものが好適である。例えば、細孔径50~100nmの細孔容積Xと、細孔径100~1000nmの細孔容積Yと、細孔径1000~10000nmの細孔容積Zの、互いの割合X:Y:Zは、Xを1とすると、Yは2.2~5、Zは1~2程度であることが好ましい。また、細孔全体の平均細孔径(窒素吸着法による)が0.5~4.0nmであることが好ましく、より好ましくは1~3.0nm、さらに好ましくは1.5~2.5nmである。
【0029】
なお、本発明において、上記「30~10000nmまでの細孔容積とその割合(比率)」、「平均細孔径(窒素吸着法による)」は、以下のようにして求められる値である。
【0030】
[30~10000nmまでの細孔容積]
70℃にて5時間の真空乾燥を行った試料に対し、水銀ポロシメータ(Micromeritics社製、Auto Pore IV 9520)を用いて、水銀圧入圧力0.152~414MPaの範囲で水銀圧入を行い、得られる吸着等温線から細孔径10000nm以上を粒子間空隙とし、細孔径30~50nmの細孔容積および細孔径50~10000nmの細孔容積を求める。さらに、細孔径50~100nm、細孔径100~1000nm、細孔径1000~10000nmのそれぞれの細孔容積を算出し、互いの比率を求める。比率を求める式は以下のとおりである。
・細孔径50~100nmの細孔容積比率(%)=[細孔径50~100nmの細孔容積/細孔径50~10000nmの細孔容積]×100
・細孔径100~1000nmの細孔容積比率(%)=[細孔径100~1000nmの細孔容積/細孔径50~10000nmの細孔容積]×100
・細孔径1000~10000nmの細孔容積比率(%)=[細孔径1000~10000nmの細孔容積/細孔径50~10000nmの細孔容積]×100
【0031】
[平均細孔径(窒素吸着法による)]
試料の細孔を全てシリンダー状と仮定し、以下の式により算出する。
平均細孔径(nm)=[4×窒素吸着法により得られた全細孔容積(mL/g)/窒素吸着法により得られた比表面積(m2/g)]×1000
【0032】
このような、担体に求められる特性を制御しやすい多孔質体として、とりわけ、活性炭が好適である。そして、上記活性炭のなかでも、特に、ヤシ殻活性炭、石炭系活性炭および樹脂系活性炭が、取り扱いの点で好適である。
【0033】
つぎに、本発明において、上記担体に担持させる薬剤について説明する。
<薬剤>
まず、本発明において用いられる薬剤は、抗ウイルス性能および抗菌性能の少なくとも一方の性能を有するものである。
【0034】
上記抗ウイルス性能を発揮する対象となるウイルスの種類としては、エンベロープを有するウイルスである、ポックスウイルス、オルソミクソウイルス(代表例として、人インフルエンザウイルス、鳥インフルエンザウイルス)、コロナウイルス、パラミクソウイルス、アレナウイルス、ラブドウイルス、レトロウイルス、ブニヤウイルス、ヘルペスウイルス、トガウイルス、パポーバウイルス、ポルボウイルス、フィロウイルス等があげられ、とりわけ、人インフルエンザウイルス、鳥インフルエンザウイルスおよびコロナウイルスに対して高い効果が認められることから、これらのウイルスを対象とすることが好ましい。また、エンベロープを有しないウイルスである、アデノウイルス、ポリオウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、ネコカリシウイルス等もあげられる。
【0035】
そして、上記抗菌性能を発揮する対象となる菌の種類としては、例えば、グラム陰性菌、グラム陽性菌および真菌があげられる。上記グラム陰性菌としては、例えば、大腸菌、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ菌、肺炎桿菌、および緑膿菌等があげられる。また、上記グラム陽性菌としては、例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、レジオネラ菌、芽胞を形成するセレウス菌、および枯草菌等があげられるが、これらに限定されない。さらに、上記真菌としては、例えば、クロコウジカビ類、アオカビ類、クロカワカビ類、赤色酵母(ロドトルラ)類等があげられる。
【0036】
本発明に用いる薬剤としては、抗ウイルス性能や抗菌性能が知られた各種の薬剤をあげることができ、特に限定するものではない。例えば、各種の第四級アンモニウム化合物や、ポリアルキレンビグアナイド系化合物があげられる。これらの薬剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0037】
上記第四級アンモニウム化合物としては、比較的分子量の小さいもの(分子量1500以下)として、例えば、テトラメチルアンモニウムヨーダイド、トリメチルデシルアンモニウムブロマイド、ジデシルジメチルアンモニウムブロマイド(DDAB)、ドデシルジメチル-2-フェノキシエチルアンモニウムブロマイド、ラウリルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(DDAC)、トリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルドデシルアンモニウムクロライド、トリメチルテトラデシルアンモニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、トリメチルヘキサデシルアンモニウムクロライド、トリメチルオクタデシルアンモニウムクロライド、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムブロマイド、アルキルジメチルハイドロキシエチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムブロマイド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロマイド、オクチルデシルジメチルアンモニウクロライド、オクチルデシルジメチルアンモニウムブロマイド、メチルベンゼトニウムクロライド、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(BAC)、アルキルピリジニウムアンモニウムクロライド、ジアルキルメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムアジペート(DDAA)、ジデシルジメチルアンモニウムグルコネート、ジデシルジメチルアンモニウムプロピオネート、N,N-ジデシル-N-ポリ(オキシエチル)アンモニウムプロピオネート、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムアジペート、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムグルコネート、ジデシルモノメチルハイドロキシエチルアンモニウムスルホネート、アルキルジメチルハイドロキシエチルアンモニウムアジペート、アルキルジメチルハイドロキシエチルアンモニウムグルコネート、アルキルトリメチルアンモニウムアジペート、アルキルトリメチルアンモニウムグルコネート、ジオクチルジメチルアンモニウムアジペート、ジオクチルジメチルアンモニウムグルコネート、オクチルデシルジメチルアンモニウムアジペート、オクチルデシルジメチルアンモニウムグルコネート、ジデシルメチルポリオキシエチレンアンモニウムグルコネート、ジデシルメチルポリオキシエチレンアンモニウムプロピオネート等があげられる。
【0038】
また、同じく第四級アンモニウム化合物として、分子量の調整が可能で、比較的大きな分子量(分子量1500以上)となるポリカチオン化合物も用いることができる。このようなポリカチオン化合物としては、例えば下記の式(1)で示されるものが好適に用いられる。
【0039】
【0040】
上記式(1)において、R2,R3,R5,R6で示される炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基の直鎖状のもの、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基の分岐鎖状のもののいずれを用いてもよい。なかでも、直鎖状のアルキル基が好ましい。また、取扱いの容易性や抗菌性、抗ウイルス性を高める点から、炭素数4以下のアルキル基が好ましく用いられる。なお、式(1)におけるnは正の整数であって特に限定されるものではないが、4~55の範囲とすることが好ましい。また、抗菌・抗ウイルス性、取扱い性等を考慮すると、ポリカチオン化合物の重量平均分子量が1000~10000となるものとすることが好ましい。
【0041】
また、他のポリカチオン化合物として、例えば、アルキル(C=1~5、またはH)アミン・エピクロルヒドリン付加物の四級塩、ポリエチレンポリアミン・ジメチルアミン・エピクロルヒドリン重縮合物、ポリ-2-ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロライド等があげられるが、抗ウイルス性、抗菌性に優れる点から、上記式(1)で示されるポリカチオン化合物を特に好ましく用いることができる。とりわけ、下記の式(2)で示される繰り返し単位を有する、ポリ-オキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライド(PMIEC)が好ましい。
【0042】
【0043】
上記ポリカチオン化合物は、公知の方法にしたがって製造したものであっても、市販品であってもよい。
【0044】
さらに、前記ポリアルキレンビグアナイド系化合物としては、ポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)、ポリアミノプロピルビグアナイド、あるいはそれらの塩等があげられ、なかでも、上記ポリヘキサメチレンビグアナイドが好適に用いられる。
【0045】
上記ポリヘキサメチレンビグアナイドは、具体的には、下記の式(3)で表される化合物である。一般には塩酸塩等の塩として流通しており、その塩を用いてもよい。また、単一の重合度nであるポリヘキサメチレンビグアナイドを単独で用いるだけでなく、重合度nの異なるポリヘキサメチレンビグアナイドの混合物を用いてもよい。ただし、混合物の場合には、重合度nの数平均値が10~13であり、その混合物の主成分は重合度nが8~16のポリヘキサメチレンビグアナイドであるものであるとよい。なお、ここで主成分とは、構成するポリヘキサメチレンビグアナイドのうち50モル%以上がn=8~16であることをいう。
【0046】
【0047】
本発明の機能性担持体は、このような、抗ウイルス性能、抗菌性能を有する薬剤を、前記担体に担持させたものである。
【0048】
<薬剤を担体に担持させる方法>
上記薬剤を前記担体に担持させる方法は、特に限定するものではなく、薬剤を含む薬液を調製し、この薬液に担体を浸漬して所定時間保持した後、薬液が付着浸透した担持体を乾燥することによって、目的とする機能性担持体を得ることができる(浸漬法)。また、ナウターミキサー等を用いて担体を撹拌しながら薬液を噴霧し、担体に薬液を付着浸透させた後、乾燥することによって、目的とする機能性担持体を得ることができる(噴霧法)。なかでも、上記噴霧法を用いることが、より効率よく機能性担持体を得ることができ、好適である。
【0049】
上記薬剤を含む薬液を調製する方法としては、通常、薬剤を水(純水等)に溶解することが行われる。また、水の一部を低級アルコール等の有機溶剤に置き換えて溶解性を高める場合もある。さらに、抗ウイルス性、抗菌性の向上や効果の持続性等を図ったり、貯蔵安定性を高めたりすることを目的として、必要に応じて、消臭剤、防腐剤、香料、油性成分、増粘剤、保湿剤、色素、乳化剤、pH調整剤、セラミド類、ステロール類、抗酸化剤、一重項酸素消去剤、紫外線吸収剤、美白剤、抗炎症剤等を薬液中に配合することができる。
【0050】
また、上記薬剤を担持させる担体は、通常、目的に応じて適宜の粒度に粉砕されるが、上記担体への薬剤の担持は、担体の粉砕前に行っても粉砕後に行っても差し支えない。
【0051】
そして、上記薬剤を含む薬液が付着浸透した担持体を乾燥する際の乾燥方法も、特に限定するものではなく、加熱乾燥、減圧留去、風乾等のうち、薬剤や担体の種類等に応じた方法を適宜選択して行うことができる。例えば加熱乾燥の場合、60~100℃、なかでも70~90℃で、担持体に重量変化がなくなるまで乾燥を行うことが好適である。
【0052】
乾燥によって得られる、機能性担持体全体に対する薬剤の添着量の割合[薬剤の添着量/(薬剤の添着量+担体の質量)×100]は、0.01~9.9質量%に設定される。すなわち、上記添着量の割合が0.01質量%未満では、充分な抗ウイルス性能、抗菌性能を発揮することができないのであり、逆に、上記添着量の割合が9.9質量%を超えると、担持体の細孔容積が減少して本来発揮すべき気体分子吸着性能が低下するからである。そして、上記添着量の割合は、好ましくは0.5~9.0質量%、さらに好ましくは1~8質量%であることが、とりわけ効果の点で好適である。
【0053】
このように、抗ウイルス性能や抗菌性能と併せて、優れた吸着性能を発揮するには、機能性担持体が、薬剤の担持後も、薬剤担持前の、担体本来の細孔状態をできるだけ維持していることが好ましい。そのためには、本発明の機能性担持体において、例えば、薬剤が担持されていない担体、すなわち担体自体の比表面積に対する、薬剤担持後の比表面積の減少率が、10%以下であることが好適である。また、同様に、担体自体の全細孔容積に対する、薬剤担持後の全細孔容積の減少率が、10%以下であることが好適である。
【0054】
なお、上記「比表面積の減少率」、「全細孔容積の減少率」は、前述の、窒素ガス吸着法を用いて求められる比表面積の値と全細孔容積の値を、薬剤の担持前(担体自体)と担持後で比較して求めることができる。
【0055】
また、同様に、担体自体の細孔径50~10000nmの細孔容積に対する、薬剤担持後の上記細孔容積の減少率が、75%以下であることが好適であり、好ましくは70%以下、さらに好ましくは60%以下であることが、とりわけ好適である。
【0056】
上記「細孔径50~10000nmの細孔容積の減少率」は、前述の、水銀ポロシメータを用いて求められる、細孔径50~10000nmの細孔容積の値を、薬剤の担持前(担体自体)と担持後で比較して求めることができる。
【0057】
このようにして得られる本発明の機能性担持体は、担体である多孔質体が本来備える気体分子吸着性能を損なうことなく、上記薬剤による抗ウイルス性能や抗菌性能を充分に発揮できるようになっている。このため、上記機能性担持体に、ウイルスや細菌を含む汚れた空気等を通して接触させるだけで、ウイルスの不活化や除菌を効果的に行うことができる。
【0058】
したがって、本発明の機能性担持体は、例えば、家庭用の空気清浄機や除湿器、あるいは、車両用の同様の装置、オフィスビルや商業施設における大型空調システム等に組み込むことによって、従来にない、優れた衛生環境を提供することができる。
【0059】
なお、本発明の機能性担持体において、多孔質体と薬剤の組み合わせによっては、薬剤による抗ウイルス性能や抗菌性能に加えて、悪臭成分に対する吸着性能に優れたものを提供することができる。すなわち、本発明に用いる薬剤によっては、悪臭の原因となる悪臭成分と化学的および/または物理的に結合し、その状態で悪臭成分を多孔質体の内部に捕捉することができるため、多孔質体そのものによっては吸着できない悪臭成分に対して、優れた吸着性能を付加することができる。悪臭成分が、抗ウイルス性能や抗菌性能を有する薬剤と化学的および/または物理的に結合して捕捉されていることは、上記悪臭成分が吸着された機能性担持体を加熱しても、その悪臭成分が容易に放出されないことからも裏付けることができる。
【0060】
このような、本発明の機能性担持体において吸着することのできる悪臭成分としては、例えば、汗臭・加齢臭、あるいは靴下臭の原因成分といわれるイソ吉草酸、酢酸、ノネナール、アンモニア等があげられる。そして、とりわけ、イソ吉草酸に対する吸着性能に優れたものを提供することができる。
【0061】
上記悪臭成分を吸着するには、例えば、担持体である多孔質体として活性炭を用いることが好ましい。また、抗ウイルス性能や抗菌性能を有する薬剤として、例えば、ポリアルキレンビグアナイド系化合物および第四級アンモニウム化合物からなる群から選択される少なくとも一種の薬剤を用いることが好ましい。とりわけ、ポリアルキレンビグアナイド系化合物を用いることが、高い悪臭成分吸着性能を得る上で好ましい。
【0062】
このように、本発明の機能性担持体において、抗ウイルス性能や抗菌性能に加えて、悪臭成分に対する吸着性能にも優れたものは、とりわけ臭いが問題となるような環境、例えば家庭における玄関や靴箱、公共施設や商業施設における更衣室やロッカールーム等において、空調システムに組み込むだけでなく、上記機能性担持体を、通気性のある容器や袋に収容して置いておくだけで、優れた抗ウイルス・抗菌性能とともに消臭効果を発揮することができる。さらに、靴のインソールや、靴の乾燥具や除湿具等にも用いることができる。
【0063】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0064】
まず、実施例と比較例において、担体に担持させる薬剤を、以下のようにして薬液として準備した。
<薬液の調製>
下記の表1に示すとおり、担体に担持させる薬剤を純水で希釈し、所定濃度で薬剤を含有する4種類の薬液(a-1)、(b-1)、(a-2)、(b-2)を得た。
【0065】
【0066】
[実施例1]
担体として市販のヤシ殻活性炭(MCエバテック社製、W10-30)50gに、上記のとおり調製した薬液(a-1)を18.2g、霧吹きにて担体に吹き付けて混合した(噴霧法)。その後、80℃に設定した乾燥機にて重量変化がなくなるまで乾燥を行い、目的とする機能性担持体を得た。
【0067】
[実施例2、3、比較例1、2]
後記の表2に示すとおり、薬液の種類と担体への吹き付け量を変えた。それ以外は実施例1と同様にして、目的とする機能性担持体を得た。なお、比較例1は、薬液を噴霧せず、担体そのままのものである。
【0068】
そして、これらの機能性担持体(比較例1の担体そのままのものを含む)に対して、後記の表2、表3に示す各項目について、下記に示す方法に従い、特性評価を行った。これらの結果を、後記の表2、表3に併せて示す。
【0069】
<表2:機能性担持体の特性1についての評価>
[薬剤添着量の割合]
下記の式によって求めた。
薬剤添着量の割合(質量%)=[薬剤の添着量/(薬剤の添着量+担体の質量)]×100
【0070】
[比表面積]
予め乳鉢にて粒径250μm以下に粉砕した試料(0.2g)を80℃にて12時間以上真空加熱した後、比表面積・細孔径分布測定装置(マイクロメリティックス社製、ASAP-2420)を用いて液体窒素雰囲気下(-196℃)における窒素ガス吸着量から窒素吸着等温線を求め、BET法により比表面積(m2/g)を求めた。
【0071】
[全細孔容積]
上記比表面積を求めるための窒素吸着等温線を用い、相対圧(P/P0)=0.93における窒素吸着量から全細孔容積(mL/g)を求めた。なお、上記Pは吸着平衡にある吸着質の気体圧力、P0は吸着温度における吸着質の飽和蒸気圧である。
【0072】
[ミクロ孔容積(細孔径2nm未満)、メソ孔容積(細孔径2~30nm)]
上記窒素吸着等温線をBJH法により解析してメソ孔容積(2~30nm)を求めた後、下記の式によってミクロ孔容積(細孔径2nm未満)を求めた。
ミクロ孔容積(細孔径2nm未満)(mL/g)=全細孔容積(mL/g)-メソ孔容積(2~30nm)(mL/g)
【0073】
[平均細孔径(窒素吸着法による)]
試料の細孔を全てシリンダー状と仮定し、以下の式により求めた。
平均細孔径(nm)=[4×窒素吸着法により得られた全細孔容積(mL/g)/窒素吸着法により得られた比表面積(m2/g)]×10
【0074】
<表3:機能性担持体の特性2についての評価>
[30~10000nmまでの細孔径別の細孔容積]
70℃にて5時間の真空乾燥を行った試料に対し、水銀ポロシメータ(Micromeritics社製、Auto Pore IV 9520)を用いて、水銀圧入圧力0.152~414MPaの範囲で水銀圧入を行い、得られる吸着等温線から細孔径10000nm以上を粒子間空隙とし、細孔径30~50nmの細孔容積(mL/g)および細孔径50~10000nmの細孔容積(mL/g)を求めた。さらに、細孔径50~100nm、細孔径100~1000nm、細孔径1000~10000nmのそれぞれの細孔容積(mL/g)を求めた。
【0075】
[各細孔容積の比率]
得られた細孔径50~10000nmの細孔容積を基準として、細孔径50~100nm、細孔径100~1000nm、細孔径1000~10000nmのそれぞれの細孔容積の比率(%)を、以下の式によって求めた。
・細孔径50~100nmの細孔容積比率(%)=[細孔径50~100nmの細孔容積/細孔径50~10000nmの細孔容積]×100
・細孔径100~1000nmの細孔容積比率(%)=[細孔径100~1000nmの細孔容積/細孔径50~10000nmの細孔容積]×100
・細孔径1000~10000nmの細孔容積比率(%)=[細孔径1000~10000nmの細孔容積/細孔径50~10000nmの細孔容積]×100
【0076】
[水蒸気吸着量]
予め乳鉢にて粒径250μm以下に粉砕した試料(40mg)を80℃にて3時間真空加熱した後、高精度ガス/上記吸着量測定装置(BELSORP-max,マイクロトラック・ベル社製)を用いて298Kにおける水蒸気吸着等温線を測定した。得られた水蒸気吸着等温線より相対圧(P/P0)=0.8までの水蒸気吸着量(mL/g)を求めた。
【0077】
[トルエン吸着量]
予め乳鉢にて粒径250μm以下に粉砕した試料(40mg)を80℃にて3時間真空加熱した後、高精度ガス/上記吸着量測定装置(BELSORP-max,マイクロトラック・ベル社製)を用いて298Kにおけるトルエン吸着等温線を測定した。得られたトルエン吸着等温線より相対圧(P/P0)=0.9までのトルエン吸着量(mL/g)を求めた。
【0078】
【0079】
【0080】
つぎに、各機能性担持体の、薬剤担持後における各特性の数値から、比較例1の担体(薬剤を未担持)の数値を基準として、薬剤担持後の特性減少率(%)を求めた。その結果を下記の表4に示す。
【0081】
【0082】
さらに、各機能性担持体の抗菌性能と抗ウイルス性能を、下記の方法に従って評価した。その結果を後記の表5に示す。
【0083】
<表5:抗菌性能、抗ウイルス性能>
[抗菌性能]
菌種として、Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)、Eschericia coli(大腸菌)、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)を用いて、各菌の混釈平板培地の中央に試料0.1gを設置して、36℃で48時間培養後の阻止円(ハロー)の最小径・最大径を測定した。阻止円が確認されたものを〇、確認できないものを×とした。
【0084】
[抗ウイルス性能]
JIS L 1922附属書Gに準じて測定を行った(プラーク測定法)。対象ウイルスは、インフルエンザウイルス(エンベロープ型、人インフルエンザウイルスを含む)とネコカリシウイルスとした。そして、試料0.4gとウイルス液0.2mLとを25℃下で接触させて撹拌し、接触直後と2時間接触後のそれぞれにおいて、ウイルス液と犬腎臓由来細胞で後培養し、培養細胞でウイルスの増減(感染価)を算出した。そして、ブランクとの対数値差を算定して抗ウイルス活性値を求めた。なお、ウイルス液と、後培養の方法は下記のとおりである。
[ウイルス液]
MCM培地中に、約1~5×107PFU/mL以上となるように作製したウイルス液を加えて、滅菌済み精製水で10倍希釈したものを試験ウイルス液とした。
[後培養]
所定時間作用後、洗い出し液(SCDLP培地)を20mL加え、ボルテックスミキサーで撹拌し、試験体からウイルスを洗い出して、ウイルス液と犬腎臓由来細胞で後培養した。
【0085】
【0086】
上記の結果から、実施例1~3品は、いずれも、過剰に薬剤を添着させた比較例2品に比べて、比表面積や細孔容積等の、気体分子吸着性能に関与する特性値の減少幅がごく小さく、優れた気体分子吸着性能が維持されていることがわかる。そして、実施例1~3品には、抗菌性能と抗ウイルス性能が付与されているため、気相中において、空気等の気体と接触しながらウイルスの不活化および除去を効果的に行うことができることがわかる。
【0087】
さらに、本発明の機能性担持体の悪臭成分に対する吸着性能と、悪臭成分を吸着した状態における抗菌性能を、以下の方法にしたがって評価した。その結果を後記の表6、表7に示す。
【0088】
<表6:悪臭成分吸着性能>
[悪臭成分吸着性能の評価]
悪臭成分としてイソ吉草酸を用いるとともに、機能性担持体(試料)として、上記実施例2品と比較例1品とを用いた。そして、それぞれの機能性担持体に対して、以下のとおり、悪臭成分に対する吸着性能試験を行った。
【0089】
まず、予め乳鉢にて粒径250μm以下に粉砕して80℃にて3時間以上真空乾燥を行った機能性担持体(実施例2品、比較例1品)を、下記の表6に示すように、それぞれ重量を変えて(実施例2品:0.05g、0.1g、0.3g、0.5g、1.0g、比較例1品:0.1g、0.3g、0.5g、1.0g)、容量5Lのポリビニルアルコール(PVA)製バリアフィルムバッグ(アズワン社製、5LA)に仕込み、ドライエアー3Lを充填した。ついで、上記バッグ内の相対湿度65%になるように純水を注入した後、初発濃度が200ppmになるようイソ吉草酸(キシダ化学社製、純度99%)を仕込み、25℃に保温した恒温槽(フクシマガリレイ社製、FMU-2631)内で24時間静置した。
【0090】
そして、上記バッグ中のガスを採取し、ガスクロマトグラフ(島津製作所社製、GC-14B)を用い、水素炎イオン化型の検出器(FID)にてイソ吉草酸の濃度を定量した。得られた吸着等温線からFreundlich式により平衡濃度1ppmにおけるイソ吉草酸の平衡吸着量(mg/g)を算出した。その結果を下記の表6に併せて示す。
【0091】
【0092】
上記の結果から、実施例2品は、比較例1品に比べて、イソ吉草酸に対して非常に優れた吸着性能を示すことがわかる。
【0093】
<表7:悪臭成分吸着後の抗菌性能>
[抗菌性能の評価]
まず、80℃にて3時間以上真空乾燥を行った実施例2の活性炭2gを容量5LのPVA製、バリアフィルムバッグ(アズワン社製、5LA)に仕込み、ドライエアー3Lを充填した。ついで、相対湿度65%になるように純水を注入し、初発濃度が200ppmになるようイソ吉草酸(キシダ化学社製、純度99%)を仕込み、25℃に保温した恒温器(フクシマガリレイ社製、FMU-2631)内で24時間静置した。
【0094】
そして、上記バッグ中のガスを採取し、ガスクロマトグラフ(島津製作所社製 GC-14B)を用い、水素炎イオン化型の検出器具(FID)にてイソ吉草酸の残留濃度が「0」であることを確認し、イソ吉草酸を吸着した試料を作製した。
【0095】
つぎに、菌種として、Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)、Eschericia coli(大腸菌)、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)を用いて、各菌の混釈平板培地の中央に、上記イソ吉草酸を吸着した試料0.1gを設置し、36℃で48時間培養後の阻止円(ハロー)の最小径・最大径を測定した。阻止円が確認されたものを〇、確認できないものを×とした。その結果を、下記の表7に示す。なお、イソ吉草酸を吸着していない、そのままの実施例2品の抗菌性能の評価結果について、表7に併せて示す。
【0096】
【0097】
上記の結果から、イソ吉草酸を吸着した実施例2品は、実施例2品と同等以上の優れた抗菌性能を発揮することがわかる。また、先の実施例1~3品が、いずれも、抗菌性能と抗ウイルス性能のどちらについても優れた性能を発揮することから(前記[表5]を参照)、上記イソ吉草酸を吸着した実施例2品は、抗菌性能だけでなく抗ウイルス性能についても優れた性能を発揮することが類推される。
本発明の機能性担持体は、ウイルスや細菌を含む汚れた空気等を通して接触させるだけで、ウイルスの不活化や除菌を効果的に行うことができるため、例えば、家庭用の空気清浄機や除湿器、あるいは、車両用の同様の装置、オフィスビルや商業施設における大型空調システム等に組み込むことによって、優れた衛生環境を提供することに利用することができる。