(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151629
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】めっき下地塗料及びめっき物
(51)【国際特許分類】
C23C 18/20 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
C23C18/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019940
(22)【出願日】2022-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2021050065
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優吾
【テーマコード(参考)】
4K022
【Fターム(参考)】
4K022AA03
4K022AA15
4K022AA16
4K022AA17
4K022AA18
4K022AA19
4K022AA20
4K022AA24
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4K022AA41
4K022BA01
4K022BA03
4K022BA08
4K022BA14
4K022CA06
4K022CA14
4K022CA22
4K022CA24
4K022CA25
4K022DA01
(57)【要約】
【課題】 本発明は、微細パターンが形成可能であって、めっき析出性を維持でき、経時での増粘性を抑制可能なめっき下地塗料及び当該めっき下地塗料を用いて無電解金属めっき膜を有するめっき物を提供することを課題とするものである。
【解決手段】 無電解めっき法により金属めっき膜を形成可能なめっき下地塗料であって、前記めっき下地塗料は、導電性又は還元性の高分子微粒子と合成樹脂と無機系フィラーとを含み、前記合成樹脂は、エポキシ当量が875~9200のエポキシ樹脂であり、前記無機系フィラーは親水性を有し、前記合成樹脂と前記無機系フィラーとの質量比は、合成樹脂:無機系フィラー=1:0.3~1.0であり、前記合成樹脂と前記無機系フィラーとを合わせたものをバインダーとしたとき、還元性又は導電性の高分子微粒子と当該バインダーとの質量比は、高分子微粒子:バインダー=1:12~60であることを特徴とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解めっき法により金属めっき膜を形成可能なめっき下地塗料であって、
前記めっき下地塗料は、導電性又は還元性の高分子微粒子と合成樹脂と無機系フィラーとを含み、
前記合成樹脂は、エポキシ当量が875~9200のエポキシ樹脂であり、
前記無機系フィラーは親水性を有し、
前記合成樹脂と前記無機系フィラーとの質量比は、合成樹脂:無機系フィラー=1:0.3~1.0であり、
前記合成樹脂と前記無機系フィラーとを合わせたものをバインダーとしたとき、還元性又は導電性の高分子微粒子と当該バインダーとの質量比は、高分子微粒子:バインダー=1:12~60であることを特徴とするめっき下地塗料。
【請求項2】
基材上に、前記めっき下地塗料からなるめっき下地層が設けられ、当該めっき下地層上に無電解めっき法により金属めっき膜が設けられてなる、めっき物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき下地塗料及び当該めっき下地塗料を用いて基材上に無電解めっき法により金属めっき膜が設けられてなるめっき物に関する。
【背景技術】
【0002】
めっき下地塗料として、導電性又は還元性の高分子微粒子と合成樹脂と無機系フィラーとを含むものが知られている。このようなめっき下地塗料を基材上に全面又はパターン状に塗工後、乾燥してめっき下地層を形成し、当該めっき下地層中の導電性又は還元性の高分子微粒子上にパラジウムなどの触媒金属を還元・吸着させ、その後、当該触媒金属を起点として無電解めっき法を施すことで、めっき下地層上に金属めっき膜を形成することができる。
【0003】
基材上に金属めっき膜が形成されためっき物は、例えば、電磁波シールド材、タッチパネル等で用いられる透明導電膜やプリント配線板などの用途に用いられている。
【0004】
ところで、めっき物に半導体部品を実装する場合のはんだリフローのように、当該めっき物を加熱処理する工程において、めっき物の耐熱性が劣っていると当該加熱処理後の基材と金属めっき膜との剥がれが生じてしまう問題があった。
【0005】
当該課題に対し、本出願人は、合成樹脂として特定のエポキシ当量を有するエポキシ樹脂を用いることで、耐熱性に優れるめっき下地塗料の開発を行っており、既に特許出願を行っている(特許文献1)。特許文献1のめっき下地塗料を用いれば、エポキシ樹脂が十分に架橋され、強靱で高遮断性の塗膜層となるため、高熱環境下に曝されても基材と金属めっき膜との高い密着性を有するめっき物が得られることがわかっている。
【0006】
また、一般的に、塗料に無機系フィラーを添加して、各種印刷方法に適した粘度に調整する方法が知られている。特許文献1のめっき下地塗料の場合、無機系フィラーを添加しないときでも線幅100μmを超える細線パターンを形成するには十分であったが、プリンテッドエレクトロニクス(PE)分野などで要求されている線幅100μm以下の微細パターンでは塗料が滲んでしまい改善が必要とされていた。
加えて、PE分野では、金属めっき膜の微細化の要求がますます高まっている。それは、微細パターンによってパターン密度が上がるため、実装面積の縮小によるデバイスの小型化や高性能化が可能となるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
めっき下地塗料中の合成樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合、粘度調整には一般的には疎水性の無機系フィラーが用いられる。無機系フィラーを有する当該塗料は、せん断応力をかけ続けることで粘度が低下したり、低下した粘度の塗料を一定時間放置したりすると元に戻るといったチキソトロピー(チキソ性)を示す。
しかしながら、本出願人の検討において、疎水性の無機系フィラーを用いためっき下地塗料によって形成されためっき下地層では、無電解めっき法による金属めっき膜の析出性が劣ってしまうことがわかった。これは、めっき下地層の表面が疎水性となり、触媒金属の吸着性が下がるためであると考えられる。
それに対し、触媒金属の吸着量を増加させるために導電性又は還元性の高分子微粒子の添加量を増加させる方法もあるが、そうすると塗料中で当該高分子微粒子が凝集しやすくなり、経時で粘度が高くなってしまう虞がある。
【0009】
そこで、本出願人は、親水性の無機系フィラーを用いてエポキシ樹脂の粘度調整を試みたところ、当該めっき下地塗料によって形成されためっき下地層の表面は親水性となり、触媒金属の吸着性が上がるため、当該めっき下地層では無電解めっき法による金属めっき膜が析出した。
しかしながら、めっき下地塗料中のエポキシ基と無機系フィラーの親水基との相互作用によって塗料のチキソ性が損なわれてしまい、経時で粘度が高くなってしまう(増粘性)ことが分かった。この現象は、印刷工程において顕著にみられ、その要因としては印刷時のせん断、又は長時間の印刷に伴う溶剤の揮発が考えられる。
そのため、安定して連続した微細パターンの印刷が可能な塗料開発が求められている。
【0010】
本発明は、微細パターンが形成可能であって、めっき析出性を維持でき、経時での増粘性を抑制可能なめっき下地塗料、及び当該めっき下地塗料を用いて基材上に無電解めっき法により金属めっき膜が設けられてなるめっき物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、無電解めっき法により金属めっき膜を形成可能なめっき下地塗料であって、
前記めっき下地塗料は、導電性又は還元性の高分子微粒子と合成樹脂と無機系フィラーとを含み、
前記合成樹脂は、エポキシ当量が875~9200のエポキシ樹脂であり、
前記無機系フィラーは親水性を有し、
前記合成樹脂と前記無機系フィラーとの質量比は、合成樹脂:無機系フィラー=1:0.3~1.0であり、
前記合成樹脂と前記無機系フィラーとを合わせたものをバインダーとしたとき、還元性又は導電性の高分子微粒子と当該バインダーとの質量比は、高分子微粒子:バインダー=1:12~60であることを特徴とする。
【0012】
本発明は、親水性の無機系フィラーを用いた場合でも、当該無機系フィラーと合成樹脂、及び当該無機系フィラーと合成樹脂とを合わせたバインダーと高分子微粒子の質量比を特定することにより、めっき析出性を維持でき、経時での増粘性を抑制することができる。
【0013】
また、本発明は、基材上に、前記めっき下地塗料からなるめっき下地層が設けられ、当該めっき下地層上に無電解めっき法により金属めっき膜が設けられてなる、めっき物をも含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、微細パターンが形成可能であって、めっき析出性を維持でき、経時での増粘性を抑制可能なめっき下地塗料を提供することができる。
また、本発明のめっき下地塗料を用いて基材上に無電解めっき法により金属めっき膜が設けられてなるめっき物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、無電解めっき法により金属めっき膜を形成可能なめっき下地塗料であって、当該めっき下地塗料は、導電性又は還元性の高分子微粒子と合成樹脂と無機系フィラーとを含む。
【0016】
本発明の還元性の高分子微粒子は、0 .01S/cm未満、好ましくは0.005S/cm以下の導電率を有するπ-共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。
還元性高分子微粒子は、π-共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる還元性高分子微粒子を使用することもできる。
還元性高分子微粒子は、有機溶媒に分散された分散液として使用されるが、該還元性高分子微粒子は、分散液中における分散安定性を維持するために、固形分として該分散液の質量の16質量%以下(固形分比)となるようにする。
還元性高分子微粒子を分散する有機溶媒としては、例えば、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n-オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、n- オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0017】
本発明の導電性高分子微粒子としては、導電性を有するπ-共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。
導電性高分子微粒子は、π-共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる導電性高分子微粒子を使用することもできる。
導電性高分子微粒子は、有機溶媒に分散された分散液として使用されるが、該導電性高分子微粒子は、分散液中における分散安定性を維持するために、固形分として該分散液の質量の16質量%以下(固形分比)となるようにする。
導電性高分子微粒子を分散する有機溶媒としては、還元性高分子微粒子を分散する有機溶媒と同様のものを用いることができる。
【0018】
本発明の合成樹脂は、エポキシ当量が875~9200のエポキシ樹脂である。
エポキシ樹脂としては、分子内に2個以上のエポキシ基を有するものであればよく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、これら樹脂に変性を加えたエポキシ樹脂等の、各種エポキシ樹脂を使用することができる。また、これらは1種のみでも2種以上の混合体としても使用することができる。
【0019】
また、エポキシ当量が875未満のエポキシ樹脂の場合、触媒金属が吸着し難くなり、結果、金属めっき膜が得られ難い、すなわち、めっき析出性に劣る。加えて、金属めっき膜が得られたとしても、ポリピロール微粒子と、エポキシ当量875未満のエポキシ樹脂とでは、エポキシ樹脂の架橋が不十分になりやすく、高熱環境下に曝されると、酸化された銅(酸化銅)及び銅が塗膜層を通過しながら拡散して基材まで到達し、高い密着性、具体的には180度ピール強度が0.35N/mm以上のものが得られないものと推測される。
エポキシ当量が9200越えのエポキシ樹脂の場合、高熱環境下に曝されて密着性の低下はないが、塗料化できない虞がある。
なお、ここでいう当量とは、分子量(Mw)を官能基数(n)で割ったものであり、当量[g/eq]=Mw/nを意味する。
【0020】
本発明の無機性フィラーは、酸化チタン(チタニア)、酸化アルミニウム(アルミナ)及び酸化ケイ素(シリカ)等の金属酸化物の粉末が使用でき、親水性を有するものである。
一般的に、金属酸化物の無機系フィラーは表面に親水基が存在することが多く、親水性を示す。この親水基のほぼ全てが、表面疎水化処理によってアルキル基やアミノ基などの疎水基に置換されたものを疎水性の無機系フィラーと称しており、表面疎水化処理されていない親水性の無機フィラーと区別されている。したがって、本発明の親水性の無機系フィラーとは、表面疎水化処理されていないものである。なお、本発明の効果を損ねなければ、親水性の無機系フィラーに疎水性の無機系フィラーが混在するものを用いてもよい。
特に、親水基を多く含み、粒子径の調整がしやすいことから、シリカ粒子が好ましい。これは、めっき下地層の表面における親水基の存在割合が高いと、触媒金属の吸着量を増加させることができ、めっき析出性に優れるためである。
【0021】
本発明において、無機系フィラーの平均一次粒子径は、1nm~5μmが好ましく、1nm~1μmがより好ましい。
無機系フィラーの平均一次粒子径が小さい、すなわち比表面積が大きいほど、塗膜の表面積が増し触媒金属の吸着量が増加するため、めっき析出性を向上させることができる。
ただし、平均一次粒子径が1nm未満の場合、少量の添加でも塗料中のフィラー密度が高くなり塗料の初期粘度を増加させやすいが、めっき析出性を向上させるにはある程度の添加量が必要であり、そうすると粘度が増加しすぎて印刷自体が困難になってしまう。
また、平均一次粒子径が1μmを超える場合、フィラー表面と接する塗料の割合が減少しフィラーの膨潤が不十分となり、塗料の初期粘度が増加し難い傾向にある。そのため、各種印刷法に適した粘度に調整が難しく、微細パターンの印刷がさらに困難となってしまう。
なお、平均一次粒子径は、一般的な走査型電子顕微鏡を用いて50,000倍で無機粒子を撮影した後、その写真図中の無機粒子について、無作為に50個以上の粒子径を測定してその平均を求めた値である。
【0022】
本発明のめっき下地塗料において、合成樹脂と無機系フィラーとの質量比は、合成樹脂:無機系フィラー=1:0.3~1.0である。
合成樹脂1質量部に対して、無機系フィラーが1.0質量部を超えると、エポキシ基と無機系フィラーの親水基との相互作用による無機系フィラーの自己凝集が促進され、経時での増粘性の抑制が困難となる。また、無機系フィラーが0.3質量部未満だと、塗膜の表面積が増大せず、触媒金属の吸着量を増加させる効果が不十分となりめっき析出性が低下する。
【0023】
本発明のめっき下地塗料において、合成樹脂と無機系フィラーとを合わせたものをバインダーとしたとき、還元性又は導電性の高分子微粒子と当該バインダーとの質量比は、高分子微粒子:バインダー=1:12~60である。
還元性又は導電性の高分子微粒子1質量部に対して、バインダーが60質量部を超えると、触媒金属が付着できる還元性又は導電性の高分子微粒子の割合が減ることとなり、めっき析出性が低下する。
また、バインダーが12質量部未満であると、塗料中で還元性又は導電性の高分子微粒子の自己凝集が促進され、経時での増粘性の抑制が困難となる。加えて、エポキシ樹脂の架橋が不十分となり、高熱環境下に曝された場合でも基材と金属めっき膜との層間での剥離が起こりやすい。
尚、めっき析出速度の観点からは、バインダーが12質量部以上18質量部未満であることが好ましい。
【0024】
本発明のめっき下地塗料には、導電性又は還元性の高分子微粒子と合成樹脂と無機系フィラーに加えて、溶媒を含み得る。
上記溶媒としては、合成樹脂を溶解することができるものであれば特に限定されないが、基材を大きく溶解するものは好ましくない。但し、基材を大きく溶解する溶媒であっても、他の低溶解性の溶媒と混合することにより、溶解性を低下させて使用することが可能である。
上記溶媒としては、例えば、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン、ベンジルアルコール等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n-オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、n-オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類及びこれらの混合物等が挙げられる。
なお、有機溶媒に分散された高分子微粒子の分散液に、合成樹脂及び無機系フィラーを混合させる場合、その分散液に使用されている有機溶媒を、めっき下地塗料の溶媒の一部又は全部として使用することができる。
【0025】
本発明のめっき下地塗料には、用途や塗布対象物に応じて、例えば、分散安定剤、増粘剤、インキバインダ等の樹脂を加えてもよい。また、本発明の効果を損ねない程度であれば、カーボンブラックなど本発明の無機系フィラー以外の無機系充填材を添加してもよい。
【0026】
本発明のめっき下地塗料は、例えば、導電性又は還元性の高分子微粒子の分散液に、予め合成樹脂と無機系フィラーとを混合させたバインダーを添加することで、固形分が凝集せずに均一に分散されためっき下地塗料が得られる。
【0027】
本発明のめっき下地塗料を基材に全面又はパターン状に塗布し、例えば加熱したり、光や電子線を照射して乾燥・硬化することにより、全面又はパターン状のめっき下地層を形成できる。乾燥条件も特に限定されず、室温、又は加熱条件下で行うことができる。加熱を行う場合の温度は、基材のTgより低い温度で行うことが好ましい。
【0028】
本発明のめっき下地塗料の基材への塗布方法は、特に限定されず、例えば、スクリーン印刷機、グラビア印刷機、フレキソ印刷機、オフセット印刷機、スピンコーター、ロールコーター等を用いて、印刷またはコーティングすることができる。
その中でも、線幅100μm以下の微細パターンを形成するには、スクリーン印刷機やグラビアオフセット印刷機、フレキソ印刷機、ロールコーターを用いることが好ましい。
尚、連続印刷性の観点からは、粘度上昇率が100%以上200%未満であることが好ましく、100%未満であることがより好ましい。
【0029】
また、形成されるめっき下地層の厚さは、10nm~10μm(0.01~10μm)とするのが好ましく、より好ましくは、1.0μm~10μmである。
厚さが10nm未満であるとめっきが析出し難くなる。また、厚さが10μmを超えると、基材と金属めっき膜との密着性が得られ難くなる。
また、1.0μm~10μmの範囲とすることで、めっきの析出性が向上する。
【0030】
本発明の基材としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、液晶ポリマー(LCP)樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ガラス等が挙げられる。
また、基材の形状は特に限定されないが、例えば、板状、フィルム状が挙げられる。
他にも、基材として、例えば、射出成形などにより樹脂を成形した樹脂成形品が挙げられる。そして、この樹脂成形品に本発明のめっき物を設けることにより、例えば、自動車向けの装飾めっき品を作成することができたり、或いは、ポリイミド樹脂からなるフィルム上に本発明のめっき物を全面もしくはパターン状で設けることにより、例えば、電気回路品を作成することができる。
本発明に使用する基材としては、ポリイミド(PI)樹脂フィルム、液晶ポリマー(LCP)樹脂フィルムが好ましい。
【0031】
上記のように、基材上に、本発明のめっき下地塗料からなる下地層が設けられ、当該めっき下地層上に無電解めっき法により金属めっき膜が設けられてなる、本発明のめっき物が得られる。
即ち、めっき下地層が形成された基材を塩化パラジウム等の触媒金属を付着させるための触媒液に浸漬した後、水洗等を行い、無電解めっき浴に浸漬することによりめっき物を得ることができる。
【0032】
触媒液は、無電解めっきに対する触媒活性を有する貴金属(触媒金属)を含む溶液であり、触媒金属としては、パラジウム、金、白金、ロジウム等が挙げられ、これら金属は単体でも化合物でもよく、触媒金属を含む安定性の点からパラジウム化合物が好ましく、その中でも塩化パラジウムが特に好ましい。
好ましい、具体的な触媒液としては、0.05%塩化パラジウム-0.005%塩酸水溶液(pH3)が挙げられる。
処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、0.1ないし20分、好ましくは、1ないし10分である。
上記の操作により、めっき下地層中の高分子微粒子は、結果的に、導電性の高分子微粒子となる。
【0033】
上記で処理された基材は、金属を析出させるためのめっき液に浸され、これにより無電解めっき膜が形成される。
めっき液としては、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば、特に限定されない。
即ち、無電解めっきに使用できる金属、銅、金、銀、ニッケル等、全て適用することができるが、銅が好ましい。
無電解銅めっき浴の具体例としては、例えば、ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)社製)等が挙げられる。
処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、1ないし30分、好ましくは、5ないし15分である。
得られためっき物は、使用した基材のTgより低い温度範囲において、数時間以上、例えば、2時間以上養生するのが好ましい。
【0034】
また、導電性の高分子微粒子を含むめっき下地塗料を基材に塗布して形成されためっき下地層の場合、その後、脱ドープ処理を行ってから、上記と同様の操作によりめっき物を製造することができる。
脱ドープ処理としては、還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素化合物、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン等のアルキルアミンボラン、及び、ヒドラジン等を含む溶液、またはアルカリ性溶液に、導電性ポリピロール微粒子とバインダーを含むめっき下地層を設けた基材を浸漬処理する方法が挙げられ、操作性及び経済性の観点からアルカリ性溶液で浸漬処理するのが好ましい。
特に、導電性の高分子微粒子と合成樹脂と無機系フィラーとを含むめっき下地層は薄くできるため、緩和な条件下で短時間のアルカリ処理により脱ドープを達成することが可能である。
例えば、1M水酸化ナトリウム水溶液中で、20ないし50℃ 、好ましくは30ないし40℃の温度で、1ないし30分間、好ましくは3ないし10分間処理される。
上記のようにして脱ドープ処理された、めっき下地層が形成された基材を無電解めっき法によりめっき物とするが、該無電解めっき法は、上記と同様の操作により行うことができる。
【0035】
以上のように、基材の表面上にめっき下地層が形成され、該めっき下地層上に金属めっき膜が無電解めっき法により形成されためっき物が製造される。
なお、上記めっき物は、形成された金属めっき膜上に、電解めっきにより、同一又は異なる金属を更にめっきすることもできる。
また、金属めっき膜は、基材の両面に形成されてもよい。
【0036】
本発明は、微細パターンが形成可能であって、めっき析出性を維持でき、経時での増粘性を抑制可能なめっき下地塗料を提供することができる。
【0037】
ここで、本発明のめっき下地塗料は、以下に示す通り、印刷性、増粘性及びめっき析出性によって評価される。
【0038】
〔印刷性〕
スクリーン印刷機を用いて、基材上に本発明のめっき下地塗料をL/S=100μm/100μmのストレートパターンを形成する版にて塗工し、140℃のオーブンで30分間加熱し、乾燥・硬化させて基材上にパターン状のめっき下地層を形成する。当該めっき下地層の細線部をデジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、商品名「VHX-500」)にて50倍拡大観察し、2点間測定にて線幅を測定する。その値によって以下の通り印刷性が評価される。
◎ 線幅が100±20μm以内
× 線幅が100±20μm超過
【0039】
〔増粘性〕
本発明のめっき下地塗料の作成直後の粘度を、デジタル粘度計(英弘精機株式会社製、商品名「DV2T」)を用いて測定する。このとき、使用するスピンドルは「SC4-28」とし、回転数14rpmで10分間撹拌した後の粘度を初期粘度Aとする。
次いで、長さ300mm、幅500mmの大きさにカットしたPETフィルム基材(東洋紡株式会社製、「A4300」)上に30gの塗料をバーコータで全面に塗り広げ、その状態で常温常湿にて2時間静置する。その後、基材上の塗料を回収して粘度を初期粘度Aと同様の方法で測定し、これを経時粘度Bとする。式:(B/A-1)×100によって、粘度上昇率を算出し、その値によって以下の通り増粘性が評価される。
◎ 粘度上昇率が100%未満
〇 粘度上昇率が100%以上200%以下
× 粘度上昇率が200%超過
【0040】
〔めっき析出性〕
膜厚2.0μmのめっき下地層が形成された基材を、必要に応じて1M水酸化ナトリウム水溶液に35℃で5分間浸漬後、イオン交換水で水洗し、次に、0.02%塩化パラジウム-0.01%塩酸水溶液に35℃で5分間浸漬後、イオン交換水で水洗することで、めっき下地層に触媒金属を付着させる。次いで、無電解めっき浴(奥野製薬工業株式会社製、商品名「ATSアドカッパーIW浴」)に浸漬して、35℃で10分間浸漬し、膜厚0.3μmの銅を析出させる。このとき、銅が析出した面積を目視にて観察し、以下の通りめっき析出性が評価される。
◎ めっき開始から(無電解めっき浴に含浸後)5分浸漬で、めっき下地層部分にめっき膜が成長している
〇 めっき開始から(無電解めっき浴に含浸後)10分浸漬で、めっき下地層部分にめっき膜が成長している
× めっき開始から(無電解めっき浴に含浸後)10分浸漬で、めっき下地層部分にめっき膜が成長していない部分がある
【0041】
本発明のめっき下地塗料は、印刷性、増粘性およびめっき析出性のすべてが◎評価の場合を総合評価◎、印刷性、増粘性およびめっき析出性のいずれかが〇評価の場合を総合評価〇のものであり、微細パターンが形成可能であって、めっき析出性を維持でき、経時での増粘性を抑制することができる。そのため、安定して連続した微細パターンの印刷が可能となり、プリンテッドエレクトロニクス分野におけるデバイスの小型化や高性能化への発展に寄与することが期待される。
【0042】
本発明を実施態様に基づき説明するが、これに限定されるものではない。
【0043】
〔導電性高分子微粒子の分散液〕
アニオン性界面活性剤ペレックスOT-P(花王 (株) 製)1.5mmol、トルエン10 mL、イオン交換水100mLを加えて20℃に保持しつつ乳化するまで撹拌し、乳化液を得た。
次に、得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、1時間撹拌し、次いで過硫酸アンモニウム6mmolを加えて2時間重合反応を行なった。
反応終了後、有機相を回収し、イオン交換水で数回洗浄して、トルエンに分散した導電性ポリピロール微粒子を得た。このとき、分散液中の固形分比は、10質量%であった。
【0044】
〔実施例1~3、比較例1~3〕
表1に示す質量比で、導電性ポリピロール微粒子分散液とエポキシ樹脂(エポキシ当量3000~5000)と親水性の無機系フィラーA(表面疎水化処理されていないシリカ、平均一次粒子径1μm以下)とを混合し、導電性ポリピロール微粒子とエポキシ樹脂と親水性の無機系フィラーAとを合わせた固形分比(最終固形分比)が塗料中29質量%となるよう溶媒(ベンジルアルコール)を添加して調整し、めっき下地塗料を得た。このとき、予めエポキシ樹脂と無機系フィラーAとを混合させたバインダーと、導電性ポリピロール微粒子分散液とを混合した。なお、導電性ポリピロール微粒子とバインダー(エポキシ樹脂と無機系フィラーAとを合わせた)との質量比は、導電性ポリピロール微粒子:バインダー=1:16に固定し、バインダー中のエポキシ樹脂と無機系フィラーAの質量比を変更したものである。
【0045】
〔実施例4~6、比較例4、5〕
表2に示す質量比で、導電性ポリピロール微粒子分散液とエポキシ樹脂(エポキシ当量3000~5000)と親水性の無機系フィラーA(表面疎水化処理されていないシリカ、平均一次粒子径1μm以下)とを混合し、導電性ポリピロール微粒子とエポキシ樹脂と親水性の無機系フィラーAとを合わせた固形分比(最終固形分比)が塗料中29質量%となるよう溶媒(ベンジルアルコール)を添加して調整し、めっき下地塗料を得た。このとき、予めエポキシ樹脂と無機系フィラーAとを混合させたバインダーと、導電性ポリピロール微粒子分散液とを混合した。なお、バインダー中のエポキシ樹脂と無機系フィラーAとの質量比は、エポキシ樹脂:無機系フィラーA=1:0.3に固定し、導電性ポリピロール微粒子とバインダー(エポキシ樹脂と無機系フィラーAとを合わせた)との質量比を変更したものである。
【0046】
〔実施例7〕
親水性の無機系フィラーAを、親水性の無機系フィラーB(表面疎水化処理されていないシリカ、平均一次粒子径12nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にめっき下地塗料を得た。
【0047】
〔実施例8〕
親水性の無機系フィラーAを、親水性の無機系フィラーC(表面疎水化処理されていないシリカ、平均一次粒子径7nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にめっき下地塗料を得た。
【0048】
〔比較例6〕
親水性の無機系フィラーAを、疎水性の無機系フィラーD(表面疎水化処理によって親水基をジメチルシリル基に置換されたシリカ、平均一次粒子径12nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にめっき下地塗料を得た。
【0049】
〔比較例7〕
親水性の無機系フィラーAを、疎水性の無機系フィラーE(表面疎水化処理によって親水基をトリメチルシリル基に置換されたシリカ、平均一次粒子径12nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にめっき下地塗料を得た。
【0050】
〔比較例8〕
親水性の無機系フィラーAを、疎水性の無機系フィラーF(表面疎水化処理によって親水基をジメチルポリシロキサン基に置換されたシリカ、平均一次粒子径12nm)に変更したこと以外は、実施例1と同様にめっき下地塗料を得た。
【0051】
得られためっき下地塗料について、印刷性、増粘性、めっき析出性を以下の通り評価し、結果を表1~3に示す。なお、本発明では、総合評価において○評価のものを優れるものと判断する。
【0052】
〔印刷性〕
スクリーン印刷機を用いて、長さ130mm、幅270mmの大きさにカットしたポリイミドフィルム基材(東レ・デュポン株式会社製、商品名「カプトン200H」)上にめっき下地塗料をL/S=100μm/100μmのストレートパターンを形成する版にて塗工し、140℃のオーブンで30分間加熱し、乾燥・硬化させて基材上にパターン状のめっき下地層を形成した。当該めっき下地層の細線部をデジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、商品名「VHX-500」)にて50倍拡大観察し、2点間測定にて線幅を測定し、その値によって以下の通り印刷性を評価した。
◎ 線幅が100±20μm以内
× 線幅が100±20μm超過
【0053】
〔増粘性〕
めっき下地塗料の作成直後の粘度を、デジタル粘度計(英弘精機株式会社製、商品名「DV2T」)を用いて測定した。このとき、使用するスピンドルは「SC4-28」とし、回転数14rpmで10分間撹拌した後の粘度を初期粘度Aとした。
次いで、長さ300mm、幅500mmの大きさにカットしたPETフィルム基材(東洋紡株式会社製、「A4300」)上に30gの塗料をバーコータで全面に塗り広げ、その状態で常温常湿にて2時間静置し、その後、基材上の塗料を回収して粘度を初期粘度Aと同様の方法で測定し、これを経時粘度Bとした。式:(B/A-1)×100によって、粘度上昇率を算出し、その値によって以下の通り増粘性を評価した。
◎ 粘度上昇率が100%未満
〇 粘度上昇率が100%以上200%以下
× 粘度上昇率が200%超過
【0054】
〔めっき析出性;パターン〕
印刷性の評価と同様にして、長さ130mm、幅270mmの大きさにカットしたポリイミドフィルム基材(東レ・デュポン株式会社製、商品名「カプトン200H」)上にL/S=100μm/100μmのストレートパターンのめっき下地層を形成した。このとき、めっき下地層の膜厚は2.0μmであった。次いで、1M水酸化ナトリウム水溶液に35℃で5分間浸漬後、イオン交換水で水洗し、次に、0.02%塩化パラジウム-0.01%塩酸水溶液に35℃で5分間浸漬後、イオン交換水で水洗した。次いで、無電解めっき浴(奥野製薬工業株式会社製、商品名「ATSアドカッパーIW浴」)に浸漬して、35℃で10分間浸漬し、膜厚0.3μmの銅を析出させた。このとき、銅が析出した面積を目視にて観察し、以下の通りめっき析出性を評価した。
◎ めっき開始から(無電解めっき浴に含浸後)5分浸漬で、めっき下地層部分にめっき膜が成長している
〇 めっき開始から(無電解めっき浴に含浸後)10分浸漬で、めっき下地層部分にめっき膜が成長している
× めっき開始から(無電解めっき浴に含浸後)10分浸漬で、めっき下地層部分にめっき膜が成長していない部分がある
【0055】
〔めっき析出性;全面(ベタ)〕
スクリーン印刷機を用いて、長さ130mm、幅270mmの大きさにカットしたポリイミドフィルム基材(東レ・デュポン株式会社製、商品名「カプトン200H」)上の全面にめっき下地層を形成した。次いで、1M水酸化ナトリウム水溶液に35℃で5分間浸漬後、イオン交換水で水洗し、次に、0.02%塩化パラジウム-0.01%塩酸水溶液に35℃で5分間浸漬後、イオン交換水で水洗した。次いで、無電解めっき浴(奥野製薬工業株式会社製、商品名「ATSアドカッパーIW浴」)に浸漬して、35℃で10分間浸漬し、膜厚0.3μmの銅を析出させた。このとき、銅が析出した面積を目視によって測定し、めっき下地層が形成された面積(全面)に対する比率を算出し、その値によって以下の通りめっき析出性を評価した。
◎ めっき開始から(無電解めっき浴に含浸後)5分浸漬で、めっき下地層をめっき膜が成長している
〇 めっき開始から(無電解めっき浴に含浸後)10分浸漬で、めっき下地層部分にめっき膜が成長している
× めっき開始から(無電解めっき浴に含浸後)10分浸漬で、めっき下地層部分にめっき膜が成長していない部分がある
【0056】
〔総合評価〕
印刷性、増粘性およびめっき析出性のすべてが◎評価の場合を総合評価◎、印刷性、増粘性およびめっき析出性のいずれかが〇評価の場合を総合評価〇、印刷性、増粘性、めっき析出性いずれかひとつでも×評価だったものは総合評価×とした。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
表1~3に示すように、本発明の実施例1~8は、微細パターンが形成可能であって、めっき析出性を維持でき、経時での増粘性を抑制可能なめっき下地塗料が得られた。
【0061】
また、基材上に、本発明のめっき下地塗料からなるめっき下地層が設けられ、当該めっき下地層上に無電解めっき法により全面又はパターンの金属めっき膜が設けられてなるめっき物が得られた。