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特開2022-151645解析装置、制御プログラムおよび解析方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151645
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】解析装置、制御プログラムおよび解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/18 20060101AFI20220929BHJP
   G01N 33/205 20190101ALI20220929BHJP
【FI】
G01N25/18 D
G01N33/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022025055
(22)【出願日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2021050708
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591079487
【氏名又は名称】広島県
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】寺山 朗
(72)【発明者】
【氏名】府山 伸行
【テーマコード(参考)】
2G040
2G055
【Fターム(参考)】
2G040AB08
2G040BA08
2G040BA22
2G040CA02
2G040CA11
2G040CA22
2G040DA03
2G040DA05
2G040FA03
2G040FA08
2G040GC01
2G040ZA08
2G055AA21
2G055BA15
2G055FA05
(57)【要約】
【課題】熱伝達係数の推定を容易にする。
【解決手段】解析装置(100)は、ダイス(41)の温度(Tmd1~Tmd6)、上パンチ(42)の温度(Tmp1~Tmp6)および溶湯(50)の温度(Tcd、Tcp)を取得する温度取得部(31)と、接触圧力(Fd、Fp)を取得する圧力取得部(32)と、熱伝達係数(hd、hp)を算出する算出部(33)と、接触圧力(Fd、Fp)と熱伝達係数(hd、hp)との相関関係を解析する解析部(34)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型の金属部分の第1温度と、前記金属部分に取り囲まれた空間に充填された溶融体の第2温度と、を取得する温度取得部と、
前記金属部分と前記溶融体との界面に作用する圧力を取得する圧力取得部と、
前記温度取得部が取得した前記第1温度および前記第2温度を用いて、前記界面における前記金属部分と前記溶融体との間の熱伝達係数を算出する算出部と、
前記圧力取得部が取得した前記圧力および前記算出部が算出した前記熱伝達係数を用いて、前記圧力と前記熱伝達係数との相関関係を解析する解析部と、を備える、解析装置。
【請求項2】
前記温度取得部は、前記第1温度および前記第2温度を一定時間毎に取得し、
前記算出部は、
前記温度取得部がある時点で取得した前記第1温度および前記第2温度を用いて、(a)前記ある時点から前記一定時間が経過した時点の前記第1温度の推定値である第1推定温度、および(b)前記ある時点から前記一定時間が経過した時点の前記第2温度の推定値である第2推定温度、の少なくとも一方を、前記界面の第1熱抵抗の値を変化させつつ複数算出し、
(c)複数の前記第1推定温度のうち、当該第1推定温度と、前記ある時点から前記一定時間が経過した時点の前記第1温度と、の差分が最小になる第1特定温度、および(d)複数の前記第2推定温度のうち、当該第2推定温度と、前記ある時点から前記一定時間が経過した時点の前記第2温度と、の差分が最小になる第2特定温度、の少なくとも一方を特定し、
前記第1特定温度に対応する前記第1熱抵抗の値および前記第2特定温度に対応する前記第1熱抵抗の値の少なくとも一方を用いて、前記熱伝達係数を算出する、請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記温度取得部は、前記第2温度を一定時間毎に複数取得し、
前記算出部は、
前記温度取得部がある時点で取得した前記第1温度および複数の前記第2温度を用いて、少なくとも前記第2推定温度を、前記第1熱抵抗の値および前記溶融体の内部に仮想的に設定された第2熱抵抗の値を変化させつつ複数算出することにより、少なくとも前記第2特定温度を特定し、
少なくとも前記第2特定温度に対応する前記第1熱抵抗の値および前記第2熱抵抗の値を用いて、前記熱伝達係数を算出する、請求項2に記載の解析装置。
【請求項4】
前記第1温度と前記第2温度とを測定する温度測定部と、
前記圧力を測定する圧力測定部と、をさらに備え、
前記温度取得部は、前記温度測定部から前記第1温度と前記第2温度とを取得し、
前記圧力取得部は、前記圧力測定部から前記圧力を取得し、
前記温度測定部および前記圧力測定部は、前記金属部分の形成材料と同一の金属材料で形成された単一部材に設けられており、
前記金属部分には、前記単一部材を出し入れ可能な穴が形成されており、
前記単一部材は、前記穴に収容される、請求項1から3のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項5】
前記圧力測定部は、
前記溶融体と接触する膜を有しており、
前記膜が前記溶融体に押圧されることにより生じる前記膜の撓みの量に基づいて、前記圧力を測定する、請求項4に記載の解析装置。
【請求項6】
前記単一部材は、中実の棒形状であり、
前記単一部材には、前記圧力測定部の対が少なくとも1対設けられており、
前記圧力測定部の対を構成する2つの前記圧力測定部は、前記単一部材を当該単一部材の中心軸の延伸方向から見た場合に、前記中心軸を基準とした対称の位置に配置されている、請求項4に記載の解析装置。
【請求項7】
請求項1に記載の解析装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記温度取得部、前記圧力取得部、前記算出部および前記解析部としてコンピュータを機能させるための制御プログラム。
【請求項8】
金型の金属部分の第1温度と、前記金属部分に取り囲まれた空間に充填された溶融体の第2温度と、を取得する温度取得ステップと、
前記金属部分と前記溶融体との界面に作用する圧力を取得する圧力取得ステップと、
前記温度取得ステップにて取得した前記第1温度および前記第2温度を用いて、前記界面における前記金型と前記溶融体との間の熱伝達係数を算出する算出ステップと、
前記圧力取得ステップにて取得した前記圧力および前記算出ステップにて算出した前記熱伝達係数を用いて、前記圧力と前記熱伝達係数との相関関係を解析する解析ステップと、を含む、解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型成形のシミュレーションに用いられる解析装置、制御プログラムおよび解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金型成形時の溶融体の流動状態および凝固挙動をシミュレートする方法が盛んに研究されている。溶融体の流動状態および凝固挙動は金型の金属部分および溶融体の各温度に影響されることから、このシミュレーション方法では、金属部分および溶融体の各温度分布(以下、「温度分布」と略記)を精度高く推定することが重要になる。
【0003】
温度分布の推定では、前提として、金属部分と溶融体との界面の熱伝達係数(Heat Transfer Coefficient:HTC)を推定する必要がある。熱伝達係数は、界面における熱の伝わり易さを表す値であり、金属部分と溶融体との接触状態によって変化する。ここで、金属部分と溶融体との接触状態は経時的に変化し、かつ接触箇所によっても状態が異なることから、熱伝達係数を推定するのは困難であった。
【0004】
この問題を解決すべく、様々な研究が進められている。例えは非特許文献1には、センサによって測定された界面に作用する圧力および界面の温度を用いて、熱伝達係数の計算値と界面に作用する圧力との関係性を調査した結果が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】F Wang et. al.,International Journal of Heat and Mass Transfer, Volume 112, p.1032-1043, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1には、調査結果として、熱伝達係数の計算値と上型による加圧の時間との関係、および界面に作用する圧力と上型による加圧の時間との関係が個別に示されている。つまり、非特許文献1に開示された調査結果は、熱伝達係数の計算値と界面に作用する圧力との関係を直接的かつ定性的に示すものではない。そのため、非特許文献1に開示された調査結果を用いても、界面に作用する圧力から熱伝達係数を推定するのは容易ではない。
【0007】
本発明の一態様は、前述の問題点に鑑みてなされたものであり、熱伝達係数の推定を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る解析装置は、金型の金属部分の第1温度と、前記金属部分に取り囲まれた空間に充填された溶融体の第2温度と、を取得する温度取得部と、前記金属部分と前記溶融体との界面に作用する圧力を取得する圧力取得部と、前記温度取得部が取得した前記第1温度および前記第2温度を用いて、前記界面における前記金属部分と前記溶融体との間の熱伝達係数を算出する算出部と、前記圧力取得部が取得した前記圧力および前記算出部が算出した前記熱伝達係数を用いて、前記圧力と前記熱伝達係数との相関関係を解析する解析部と、を備える。
【0009】
前記構成によれば、界面に作用する圧力さえ取得できれば、解析部による解析の結果得られた相関関係を用いて熱伝達係数を推定できる。これにより、熱伝達係数を容易に推定でき、ひいては金型の金属部分および溶融体の各温度分布を容易に推定できる。
【0010】
本発明の一態様に係る解析装置は、前記温度取得部は、前記第1温度および前記第2温度を一定時間毎に取得し、前記算出部は、前記温度取得部がある時点で取得した前記第1温度および前記第2温度を用いて、(a)前記ある時点から前記一定時間が経過した時点の前記第1温度の推定値である第1推定温度、および(b)前記ある時点から前記一定時間が経過した時点の前記第2温度の推定値である第2推定温度、の少なくとも一方を、前記界面の第1熱抵抗の値を変化させつつ複数算出し、(c)複数の前記第1推定温度のうち、当該第1推定温度と、前記ある時点から前記一定時間が経過した時点の前記第1温度と、の差分が最小になる第1特定温度、および(d)複数の前記第2推定温度のうち、当該第2推定温度と、前記ある時点から前記一定時間が経過した時点の前記第2温度と、の差分が最小になる第2特定温度、の少なくとも一方を特定し、前記第1特定温度に対応する前記第1熱抵抗の値および前記第2特定温度に対応する前記第1熱抵抗の値の少なくとも一方を用いて、前記熱伝達係数を算出してもよい。
【0011】
前記構成によれば、算出部が特定した第1特定温度および第2特定温度は、金属部分および溶融体のどの箇所においても熱伝達係数が同一になると仮定して実測温度(第1温度および第2温度)との差分を算出した場合に比べて、当該差分が小さくなる。つまり、実測温度との誤差が小さくなる。これにより、金型の金属部分および溶融体の各温度分布を精度高く推定できる。
【0012】
また、算出部が第1特定温度および第2特定温度を用いて算出した熱伝達係数は、実測温度を用いて算出した熱伝達係数の計算値との誤差が小さい。これにより、解析部は、算出部が算出した精度高い熱伝達係数を用いて、界面に作用する圧力と熱伝達係数との相関関係を精度高く解析できる。
【0013】
本発明の一態様に係る解析装置は、前記温度取得部は、前記第2温度を一定時間毎に複数取得し、前記算出部は、前記温度取得部がある時点で取得した前記第1温度および複数の前記第2温度を用いて、少なくとも前記第2推定温度を、前記第1熱抵抗の値および前記溶融体の内部に仮想的に設定された第2熱抵抗の値を変化させつつ複数算出することにより、少なくとも前記第2特定温度を特定し、少なくとも前記第2特定温度に対応する前記第1熱抵抗の値および前記第2熱抵抗の値を用いて、前記熱伝達係数を算出してもよい。
【0014】
前記構成によれば、算出部が第2特定温度を用いて算出した熱伝達係数は、実測温度を用いて算出した熱伝達係数の計算値との誤差が小さい。これにより、解析部は、算出部が算出した精度高い熱伝達係数を用いて、界面に作用する圧力と熱伝達係数との相関関係を精度高く解析できる。
【0015】
本発明の一態様に係る解析装置は、前記第1温度と前記第2温度とを測定する温度測定部と、前記圧力を測定する圧力測定部と、をさらに備え、前記温度取得部は、前記温度測定部から前記第1温度と前記第2温度とを取得し、前記圧力取得部は、前記圧力測定部から前記圧力を取得し、前記温度測定部および前記圧力測定部は、前記金属部分の形成材料と同一の金属材料で形成された単一部材に設けられており、前記金属部分には、前記単一部材を出し入れ可能な穴が形成されており、前記単一部材は、前記穴に収容されてもよい。
【0016】
前記構成によれば、単一部材が金型の金属部分の形成材料と同一の金属材料で形成されている。したがって、単一部材を金属部分の穴に収容するだけで、温度測定部は第1温度および第2温度を測定でき、圧力測定部は界面に作用する圧力を測定できる。また、温度測定部および圧力測定部のそれぞれを金属部分の特定箇所に個別に配置する必要が無く、単一部材を金属部分の穴に収容するだけで、温度測定部および圧力測定部が同時に測定可能な状態になる。これにより、界面に作用する圧力と熱伝達係数との相関関係を解析するための準備作業を、手間無く行うことができる。
【0017】
本発明の一態様に係る解析装置は、前記圧力測定部は、前記溶融体と接触する膜を有しており、前記膜が前記溶融体に押圧されることにより生じる前記膜の撓みの量に基づいて、前記圧力を測定してもよい。前記構成によれば、圧力測定部は、界面に作用する圧力が微小であっても当該圧力を精度高く測定できる。
【0018】
本発明の一態様に係る解析装置は、前記単一部材は、中実の棒形状であり、前記単一部材には、前記圧力測定部の対が少なくとも1対設けられており、前記圧力測定部の対を構成する2つの前記圧力測定部は、前記単一部材を当該単一部材の中心軸の延伸方向から見た場合に、前記中心軸を基準とした対称の位置に配置されてもよい。
【0019】
前記構成によれば、金属部分の穴に収容された単一部材が界面に作用する圧力等によって撓むことにより、1対を構成する2つの圧力測定部のそれぞれに測定誤差が生じたとしても、当該2つの圧力測定部の測定結果を平均することで測定誤差を略相殺できる。これにより、圧力測定部の対によって界面に作用する圧力を安定的に測定できる。
【0020】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る解析方法は、金型の金属部分の第1温度と、前記金属部分に取り囲まれた空間に充填された溶融体の第2温度と、を取得する温度取得ステップと、前記金属部分と前記溶融体との界面に作用する圧力を取得する圧力取得ステップと、前記温度取得ステップにて取得した前記第1温度および前記第2温度を用いて、前記界面における前記金型と前記溶融体との間の熱伝達係数を算出する算出ステップと、前記圧力取得ステップにて取得した前記圧力および前記算出ステップにて算出した前記熱伝達係数を用いて、前記圧力と前記熱伝達係数との相関関係を解析する解析ステップと、を含む。前記構成によれば、熱伝達係数の推定が容易な解析方法を実現できる。
【0021】
本発明の各態様に係る解析装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記解析装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記解析装置をコンピュータにて実現させる解析装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様によれば、熱伝達係数の推定を容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態1~5に係る解析装置の要部の機能的構成を示すブロック図である。
図2】符号201は、加圧鋳造に用いられる金型の外観および内部構造を示す概略図である。符号202は、前述の金型を当該金型の中心軸を含む平面で切断した場合の断面図である。
図3】符号301は、本発明の実施形態1~3に係る第1センサの正面図および側面図である。符号302は、前述の第1センサにおける第1温度測定部の測定箇所を示す概略図である。
図4】符号401は、本発明の実施形態1~3に係る第2センサの正面図および側面図である。符号402は、前述の第2センサにおける第2温度測定部の測定箇所を示す概略図である。
図5】前述の第1および第2センサに関する、歪みと圧縮応力との関係を示すグラフである。
図6】本発明の実施形態1における、界面付近の伝熱を1次元非定常伝熱モデルで表した場合の等価回路である。
図7】本発明の実施形態1~3に係る熱伝達係数の算出方法の一例を示すフローチャートである。
図8】前述の算出方法における、熱抵抗値の変化方法の一例を示す図である。
図9】前述の算出方法における、熱抵抗値の変化方法の他の例を示す図である。
図10】本発明の実施形態1における、界面付近の伝熱を3次元非定常伝熱モデルで表した場合の等価回路である。
図11】前述の算出方法にて算出した熱伝達係数と接触圧力との相関関係を示すグラフである。
図12】本発明の実施形態2における、界面付近の伝熱を1次元非定常伝熱モデルで表した場合の等価回路である。
図13】本発明の実施形態3における、界面付近の伝熱を1次元非定常伝熱モデルで表した場合の等価回路である。
図14】符号1401は、重力鋳造に用いられる金型の内部構造、ならびに当該金型および溶湯の各温度の測定箇所を示す平面図である。符号1402は、重力鋳造に用いられる金型の内部構造、ならびに当該金型および溶湯の各温度の測定箇所を示すA-A線矢視断面図である。符号1403は、第3センサによって温度測定される各測定箇所の金型表面からの位置を示す図である。
図15図14に示す金型における第3センサおよびリファレンス用センサの各配置を示す図である。
図16】符号1601は、本発明の実施形態4に係る第3センサの外観を示す概略図である。符号1602は、図14に示す金型および第1~第4穴に収容された第3センサ本体を、当該第3センサ本体の中心軸を含む平面で切断した場合の断面図である。
図17】錫の溶湯を図14に示す金型に注湯して重力鋳造した場合における膜の温度と膜の撓み量との関係を、複数の接触圧力毎に示すグラフである。
図18】キャリブレーション用の金型に錫の溶湯を注湯した場合における、膜に作用する押圧力と溶湯の高さとの関係を示す図である。
図19】本発明の一態様に係る溶湯を図14に示す金型に注湯して重力鋳造した場合における、好適経過時間と接触圧力との関係を示すグラフである。
図20】本発明の一態様に係る溶湯を図14に示す金型に注湯して重力鋳造した場合における、好適経過時間と熱伝達係数との関係を示すグラフである。
図21】本発明の一態様に係る溶湯を図14に示す金型に注湯して重力鋳造した場合における、熱伝達係数と接触圧力との相関関係を示すグラフである。
図22】符号2201は、熱伝達係数の算出精度の評価に用いる金型の3次元モデルを示す斜視図である。符号2202は、前述の3次元モデルを側面視した図である。
図23】熱伝達係数の算出精度の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔実施形態1〕
<解析装置の概要>
本発明の実施形態1に係る解析装置100は、金型成形時における金型40および溶湯50の各温度分布を推定するための装置である。解析装置100の解析結果を基に推定された各温度分布は、金型成形時における溶湯50の流動状態および凝固挙動のシミュレーションに用いられる。
【0025】
本実施形態では、解析装置100としてタブレット端末を例に挙げて説明する。解析装置100は、タブレット端末の他、例えばスマートフォン、据え置き型のパーソナルコンピュータであってもよい。このことは、後述の解析装置200および300についても同様である。金型40および溶湯50の詳細については後述する。
【0026】
解析装置100は、図1に示すように、入力部1、出力部2、第1センサ10、第2センサ20および制御部30を備えている。入力部1は、ユーザ等の操作入力を受け付ける。出力部2は、解析装置100による各種処理の結果を出力する。本実施形態では、解析装置100は、入力部1と出力部2としての表示部とが一体化したタッチパネルを備えている。
【0027】
なお、入力部1と表示部(出力部2)とが物理的に分離されていてもよい。また、入力部1は例えばキーボード、ポインティングデバイスであってもよい。出力部2は、例えば解析装置100による各種処理の結果を外部通信装置(不図示)に無線送信(または有線送信)する通信部であってもよいし、プリンタであってもよい。
【0028】
第1センサ10は、温度Tmp1~Tmp6(第1温度)、温度Tcp(第2温度)および接触圧力Fp(界面に作用する圧力)を測定する解析装置100の構成部品である。温度Tmp1~Tmp6は、具体的には、温度Tmp1、Tmp2、Tmp3、Tmp4、Tmp5およびTmp6の6つの温度である。
【0029】
第1センサ10は、第1温度測定部11(温度測定部)、第1圧力測定部12(圧力測定部)および後述の第1センサ本体13(単一部材)を有している。第1温度測定部11は温度Tmp1~Tmp6およびTcpを測定し、第1圧力測定部12は接触圧力Fpを測定する。温度Tmp1~Tmp6およびTcp、ならびに接触圧力Fpの詳細については後述する。
【0030】
第2センサ20は、温度Tmd1~Tmd6(第1温度)、温度Tcd(第2温度)および接触圧力Fd(界面に作用する圧力)を測定する解析装置100の構成部品である。温度Tmd1~Tmd6は、具体的には、温度Tmd1、Tmd2、Tmd3、Tmd4、Tmd5およびTmd6の6つの温度である。
【0031】
第2センサ20は、第2温度測定部21(温度測定部)、第2圧力測定部22(圧力測定部)および後述の第2センサ本体23(単一部材)を有している。第2温度測定部21は温度Tmd1~Tmd6およびTcdを測定し、第2圧力測定部22は接触圧力Fdを測定する。温度Tmd1~Tmd6およびTcd、ならびに接触圧力Fdの詳細については後述する。
【0032】
本実施形態以下の各実施形態では、第1および第2温度測定部11および21は熱電対である。第1および第2温度測定部11および21は、例えば放射温度計、光ファイバを用いた温度計でもよいが、測定精度を考慮すれば熱電対を用いるのが好ましい。また、本実施形態以下の各実施形態では、第1および第2圧力測定部12および22は歪みゲージである。第1および第2圧力測定部12および22は、例えば圧電素子でもよい。
【0033】
制御部30は、例えばCPU(Central Processing Unit)であり、解析装置100を構成する各部を統括的に制御する。制御部30は、温度取得部31、圧力取得部32、算出部33および解析部34を有している。なお、温度取得部31、圧力取得部32、算出部33および解析部34は制御部30に内蔵されていなくてもよく、解析装置100が何らかの態様でこれらの部を備えていればよい。
【0034】
温度取得部31は、第1センサ10から当該第1センサ10が測定した温度Tmp1~Tmp6およびTcpを取得し、第2センサ20から当該第2センサ20が測定した温度Tmd1~Tmd6およびTcdを取得する。圧力取得部32は、第1センサ10から当該第1センサ10が測定した接触圧力Fpを取得し、第2センサ20から当該第2センサ20が測定した接触圧力Fdを取得する。温度取得部31および圧力取得部32のそれぞれが取得した各データは、解析装置100に内蔵された不図示の記憶部に一旦記憶されてもよい。
【0035】
本実施形態以下の各実施形態では、温度取得部31および圧力取得部32のそれぞれは、一定時間毎に複数のタイムステップで、第1および第2センサ10および20からデータを取得する。また、温度取得部31および圧力取得部32のそれぞれは、無線通信によるデータ受信により、第1および第2センサ10および20からデータを取得する。このデータ受信は有線通信で行われてもよい。
【0036】
算出部33は、温度取得部31が取得した温度Tmp1~Tmp6およびTcpを用いて、第1界面Si1における上パンチ42と溶湯50との間の熱伝達係数hpを算出する。熱伝達係数hpは、第1界面Si1における熱の伝わり易さを表す値である。また算出部33は、温度取得部31が取得した温度Tmd1~Tmd6およびTcdを用いて、第2界面Si2におけるダイス41と溶湯50との間の熱伝達係数hdを算出する。熱伝達係数hdは、第2界面Si2における熱の伝わり易さを表す値である。第1および第2界面Si1およびSi2、ならびに算出部33による算出処理の詳細については後述する。
【0037】
解析部34は、圧力取得部32が取得した接触圧力Fpおよび算出部33が算出した熱伝達係数hpを用いて、接触圧力Fpと熱伝達係数hpとの相関関係を解析する。また解析部34は、圧力取得部32が取得した接触圧力Fdおよび算出部33が算出した熱伝達係数hdを用いて、接触圧力Fdと熱伝達係数hdとの相関関係を解析する。解析部34による解析処理の詳細については後述する。
【0038】
<金型および接触圧力>
(金型)
金型40は、プレス加工による製品の製造に用いられる金属製の型である。本実施形態以下の各実施形態では、金型40の形成材料は炭素鋼である。金型40は、図2に示すように、ダイス41、上パンチ42(金属部分)および下パンチ43(金属部分)を備えている。
【0039】
ダイス41は中空円筒形状の型であり、ダイス41の中空部は円柱形状である。中空部を形成するダイス41の内側側面には、必要に応じて水溶性離型剤、油性離型剤、BN(窒化ホウ素)スプレー、黒体スプレー等の各種離型剤のいずれかが塗布される。ダイス41の金属部分41Xには、ダイス41の中心軸と直交する方向に穴41Yが形成されている。穴41Yは、第2センサ20を出し入れ可能な大きさの円柱形状の穴であり、金属部分41Xの外側側面から中空部まで貫通している。第2センサ20を穴41Yに収容してセットした状態では、図2の符号202に示すように、第2センサ20(具体的には、後述の第2センサ本体23)における溶湯50と対向する面が上パンチ42の内側側面と面一になる。
【0040】
上パンチ42は、ダイス41の中空部に出し入れ可能な大きさの円柱形状の型である。上パンチ42をダイス41にセットする場合には、中空部における上側の開口から上パンチ42を挿入する。上パンチ42には、上パンチ42の中心軸と平行な方向に穴42Xが形成されている。穴42Xは、第1センサ10を出し入れ可能な大きさの円柱形状の穴であり、上パンチ42の上側端面から下側端面まで貫通している。また、穴42Xの中心軸は上パンチ42の中心軸と一致する。第1センサ10を穴42Xに収容してセットした状態では、図2の符号202に示すように、第1センサ10(具体的には、後述の第1センサ本体13)における溶湯50と対向する面が上パンチ42の下側端面と面一になる。
【0041】
なお、ダイス41の穴41Yおよび上パンチ42の穴42Xは、ともに貫通していなくてもよい。この場合、貫通していない穴41Yの底面からダイス41の内側側面までの厚さは、本実施形態の態様で第2センサ20を穴41Yにセットした場合の当該第2センサ20の測定精度と同程度の測定精度が得られる厚さであればよい。同様に、貫通していない穴42Xの底面から上パンチ42の下側端面までの厚さは、本実施形態の態様で第1センサ10を穴42Xにセットした場合の当該第1センサ10の測定精度と同程度の測定精度が得られる厚さであればよい。
【0042】
下パンチ43も、上パンチ42と同様、ダイス41の中空部に出し入れ可能な大きさの円柱形状の型である。下パンチ43をダイス41にセットする場合には、中空部における下側の開口から下パンチ43を挿入する。そして図2の符号201に示すように、下パンチ43の下側端面がダイス41の下側端面と面一になるように、下パンチ43を中空部に収容する。
【0043】
金型40を用いたプレス加工による鋳造(加圧鋳造)は以下のように行う。まず、中空部に下パンチ43を収容した状態のダイス41を、不図示の油圧プレス機にセットする。次に、溶湯50(溶融体)を中空部における上側の開口から中空部内に注湯する。溶湯50は、本実施形態以下の各実施形態では、ADC12等のアルミニウム合金ダイカストの溶湯である。溶湯50は、亜鉛合金ダイカスト等の他のダイカスト合金の溶湯であってもよい。
【0044】
次に、中空部における上側の開口から上パンチ42を挿入して上パンチ42と溶湯50とを接触させた上で、上パンチ42を油圧プレス機で鉛直下方に加圧する。つまり、上パンチ42による加圧工程では、ダイス41の金属部分41X、上パンチ42および下パンチ43に取り囲まれた空間40Xに、溶湯50が充填されていることになる。また、この過程では、ダイス41、上パンチ42および下パンチ43の各中心軸がすべて一致する。この一致した中心軸が金型40の中心軸AXとなる。最後に、上パンチ42で溶湯50を加圧しつつ溶湯50を凝固させることにより、仕上加工前の成形体(不図示)が完成する。
【0045】
なお、前述の「中心軸と直交」、「中心軸と平行」、「中心軸と一致」および「内側側面/下側端面と面一」における「直交」、「平行」、「一致」および「面一」は、厳密に意味において「直交」、「平行」、「一致」および「面一」を要求するものではない。あくまで視認レベルで「直交」、「平行」、「一致」および「面一」であればよく、寸法誤差等を含む概念である。このことは、以下の説明においても同様である。また、金型40はプレス加工用のものである必要は無い。例えば溶湯50に替えて溶融樹脂(溶融体)で製品を製造する場合には、金型40として射出成形用の金型を用いてもよい。
【0046】
(接触圧力)
前述した通り、第1センサ10の第1圧力測定部12は接触圧力Fpを測定し、第2センサ20の第2圧力測定部22は接触圧力Fdを測定する。接触圧力Fpは、図2の符号202に示す第1界面Si1に作用する圧力である。接触圧力Fdは、図2の符号202に示す第2界面Si2に作用する圧力である。なお、図2の符号202では、ダイス41、上パンチ42および下パンチ43と溶湯50との間に隙間が形成されている。これは、説明の便宜のために施されたものであり、実際にはダイス41、上パンチ42および下パンチ43は溶湯50と接触している。このことは、図15についても同様である。
【0047】
第1界面Si1は、第1センサ10および上パンチ42のそれぞれにおける溶湯50と接触する面Sp1と、溶湯50における第1センサ10および上パンチ42のそれぞれと接触する面Sc1と、で構成される概念である。「第1センサ10および上パンチ42のそれぞれにおける溶湯50と接触する面Sp1」は、具体的には、第1センサ10(後述の第1センサ本体13)における溶湯50と対向する面と上パンチ42の下側端面とで構成される。以下の説明では、この面を「第1接触面Sp1」と称する。「溶湯50における第1センサ10および上パンチ42のそれぞれと接触する面Sc1」は、具体的には溶湯50の上側端面であり、以下の説明では「第2接触面Sc1」と称する。
【0048】
前述の第1界面Si1の定義から、「接触圧力Fp」とは、第1接触面Sp1から第2接触面Sc1に向けて作用する接触圧力Fpと、第2接触面Sc1から第1接触面Sp1に向けて作用する接触圧力Fpの2つの圧力を指すことになる。ここで、第2接触面Sc1から第1センサ10における溶湯50と対向する面に作用する圧力Fpxも、接触圧力Fpになる。本実施形態以下の各実施形態では、第1センサ10に作用する圧力に起因して生じる第1センサ10(具体的には、後述の第1センサ本体13)の歪みを基に接触圧力Fpを測定することから、以下の説明では圧力Fpxを「接触圧力Fp」とする。
【0049】
第2界面Si2は、第2センサ20およびダイス41のそれぞれにおける溶湯50と接触する面Sdと、溶湯50における第2センサ20およびダイス41のそれぞれと接触する面Sc2と、で構成される概念である。「第2センサ20およびダイス41のそれぞれにおける溶湯50と接触する面Sd」は、具体的には、第2センサ20(後述の第2センサ本体23)における溶湯50と対向する面とダイス41の内側側面とで構成される。以下の説明では、この面を「第3接触面Sd」と称する。「溶湯50における第2センサ20およびダイス41のそれぞれと接触する面Sc2」は、具体的には溶湯50の側面であり、以下の説明では「第4接触面Sc2」と称する。
【0050】
前述の第2界面Si2の定義から、単に「接触圧力Fd」とは、第3接触面Sdから第4接触面Sc2に向けて作用する接触圧力Fdと、第4接触面Sc2から第3接触面Sdに向けて作用する接触圧力Fdの2つの圧力を指すことになる。ここで、第4接触面Sc2から第2センサ20における溶湯50と対向する面に作用する圧力Fdxも、接触圧力Fdになる。本実施形態以下の各実施形態では、第2センサ20に作用する圧力に起因して生じる第2センサ20(具体的には、後述の第2センサ本体23)の歪みを基に接触圧力Fdを測定することから、以下の説明では圧力Fdxを「接触圧力Fd」とする。
【0051】
なお、下パンチ43における溶湯50と接触する面Sp2と、溶湯50における下パンチ43と接触する面Sc3と、で第3界面Si3が構成される。「下パンチ43における溶湯50と接触する面Sp2」は、具体的には下パンチ43の上側端面である。「溶湯50における下パンチ43と接触する面Sc3」は、具体的には溶湯50の下側端面である。そして、第1界面Si1と第2界面Si2と第3界面Si3とで、金型40の金属部分全体と溶湯50との界面が構成される。
【0052】
<第1および第2センサの具体的構造、ならびに圧力測定>
(第1センサの具体的構造)
第1センサ10は、図3に示すような第1センサ本体13を有している。第1センサ本体13は中実の棒形状の部材であり、外径の異なる複数の円柱部分から成っている。複数の円柱部分の各中心軸は一致し、この一致した中心軸が第1センサ本体13の中心軸AX1となる。本実施形態以下の各実施形態では、第1センサ本体13は、金型40と同一の炭素鋼で形成されている。
【0053】
また本実施形態以下の各実施形態では、図3の符号301に示すように、1対の第1圧力測定部12が第1センサ本体13に設けられている。具体的には、この1対を構成する2つの第1圧力測定部12は、第1センサ本体13を中心軸AX1の延伸方向から見た場合に、第1センサ本体13における中心軸AX1を基準とした対称の位置に配置されている。
【0054】
前述の「第1センサ本体13における中心軸AX1を基準とした対称の位置」とは、第1センサ本体13を中心軸AX1の延伸方向から見た場合に、以下に示す2つの条件(i)および(ii)を充足する位置である。条件(i)は、1対を構成する2つの第1圧力測定部12の各重心を仮想的に結んだ直線(以下、「仮想線」)が中心軸AX1と交差することである。条件(ii)は、条件(i)の仮想線と中心軸AX1との交点が、当該仮想線の中点になることである。
【0055】
また、この2つの第1圧力測定部12は、第1センサ本体13を中心軸AX1の延伸方向と直交する方向から見た場合でも、第1センサ本体13における中心軸AX1を基準とした対称の位置に配置されている。前述の「第1センサ本体13における中心軸AX1を基準とした対称の位置」とは、第1センサ本体13を中心軸AX1の延伸方向と直交する方向から見た場合に、前述の条件(ii)および以下に示す条件(iii)を充足する位置である。条件(iii)は、条件(i)の仮想線が中心軸AX1と直交することである。
【0056】
さらに、この2つの第1圧力測定部12は、第1センサ本体13における溶湯50と対向する端面から所定の距離だけ離れた位置に配置されている。「所定の距離」は、第1センサ本体13および金型40の大きさ、第1圧力測定部12の測定精度等によって異なるが、溶湯50の温度変化の影響をあまり受けない程度の距離が確保されていればよい。このような配置については、第2圧力測定部22も同様である。
【0057】
第1圧力測定部12の個数および配置態様は本実施形態の例に限定されない。例えば第1センサ本体13に1つの第1圧力測定部12しか設けられていなくてもよいし、複数対の第1圧力測定部12が設けられていてもよい。さらには、1対を構成する2つの第1圧力測定部12が、第1センサ本体13における中心軸AX1を基準とした対称の位置に配置されていなくてもよい。このことは、第2圧力測定部22についても同様である。
【0058】
さらに本実施形態以下の各実施形態では、7つの第1温度測定部11が第1センサ10に設けられており、第1センサ10は図3の符号302に示す7箇所で温度測定を行う。具体的には、第1センサ10は、中心軸AX1上の3箇所で温度測定を行う。この3箇所は、溶湯50側の位置から測定箇所Pcp、Pmp1およびPmp2の順に設けられている。測定箇所Pcpは、溶湯50内に設けられており、かつ第1センサ本体13における溶湯50と接触する端面の近傍に設けられている。以下、測定箇所Pcpで測定される溶湯50の温度を温度Tcpとする。測定箇所Pmp1は、溶湯50と接触する端面を含む円柱部分(以下、「第1円柱部分」)と、第1円柱部分と隣接する円柱部分(以下、「第2円柱部分」)との境界近傍に設けられている。以下、測定箇所Pmp1で測定される第1センサ本体13の温度を温度Tmp1とする。
【0059】
ここで、第1センサ本体13が金型40と同一の炭素鋼で形成されていることから、本実施形態以下の各実施形態では、第1センサ本体13の温度を上パンチ42(つまり金型40)と見做す。よって、温度Tmp1は上パンチ42の温度となる。測定箇所Pmp2は、測定箇所Pmp1よりも第1センサ本体13における中心軸AX1方向の中央部側に設けられる。以下、測定箇所Pmp2で測定される上パンチ42の温度を温度Tmp2とする。
【0060】
また、第1センサ10は、第1円柱部分と第2円柱部分との境界近傍における4箇所で温度測定を行う。この4箇所は、すべて第2円柱部分の側面に設けられている。かつ、第1センサ本体13を中心軸AX1の延伸方向から見た場合に、互いに隣り合う2箇所のうちの一方と中心軸AX1とを仮想的に結んだ直線と、他方と中心軸AX1とを仮想的に結んだ直線と、が成す角度が、90°になる。
【0061】
前述の4箇所は、第1センサ本体13の第1円柱部分を中心軸AX1の延伸方向から見た場合において、時計回りに測定箇所Pmp3、Pmp6、Pmp4およびPmp5の順で設けられている。以下、測定箇所Pmp3、Pmp4、Pmp5およびPmp6で測定される上パンチ42の温度を、それぞれ温度Tmp3、Tmp4、Tmp5およびTmp6とする。
【0062】
(第2センサの具体的構造)
第2センサ20は、図4に示すような第2センサ本体23を有している。第2センサ本体23は中実の棒形状の部材であり、両端部が円柱形状となっている。一方、両端部に挟まれた本体部分は細長い平板形状であり、本体部分における厚さ方向の端面の形状が両端部の外形に対応した曲面形状になっている。両端部および本体部分の各中心軸は一致し、この一致した中心軸が第2センサ本体23の中心軸AX2となる。第2センサ本体23における両端部の各端面のうち、溶湯50と接触する方の端面は、ダイス41の内側側面の形状に対応した曲面形状となっている。本実施形態以下の各実施形態では、第2センサ本体23も、第1センサ本体13と同様に金型40と同一の炭素鋼で形成されている。
【0063】
また本実施形態以下の各実施形態では、図4の符号401に示すように、1対の第2圧力測定部22が第2センサ本体23に設けられている。具体的には、この1対を構成する2つの第2圧力測定部22は、第2センサ本体23を中心軸AX2の延伸方向、および当該延伸方向と直交する方向のいずれから見た場合でも、第2センサ本体23における中心軸AX2を基準とした対称の位置に配置されている。「第2センサ本体23における中心軸AX2を基準とした対称の位置」の意義については、前述の「第1センサ本体13における中心軸AX1を基準とした対称の位置」と同様である。
【0064】
さらに本実施形態以下の各実施形態では、7つの第2温度測定部21が第2センサ20に設けられており、第2センサ20は図4の符号402に示す7箇所で温度測定を行う。具体的には、第2センサ20は、中心軸AX2上の3箇所で温度測定を行う。この3箇所は、溶湯50側の位置から測定箇所Pcd、Pmd1およびPmd2の順に設けられている。測定箇所Pcdは、溶湯50内に設けられており、かつ第2センサ本体23における溶湯50と接触する端面の近傍に設けられている。以下、測定箇所Pcdで測定される溶湯50の温度を温度Tcdとする。測定箇所Pmd1は、溶湯50と接触する端面を含む端部(以下、「溶湯側端部」)と本体部分との境界近傍に設けられている。以下、測定箇所Pmd1で測定される第2センサ本体23の温度を温度Tmd1とする。
【0065】
ここで、第2センサ本体23も金型40と同一の炭素鋼で形成されていることから、本実施形態以下の各実施形態では、第2センサ本体23の温度をダイス41(つまり金型40)と見做す。よって、温度Tmd1はダイス41の温度となる。測定箇所Pmd2は、測定箇所Pmd1よりも第2センサ本体23における中心軸AX2方向の中央部側に設けられる。以下、測定箇所Pmd2で測定されるダイス41の温度を温度Tmp2とする。
【0066】
また、第2センサ20は、溶湯側端部と本体部分との境界近傍における4箇所で温度測定を行う。この4箇所のうちの2箇所は、本体部分における一方の平面に設けられており、残りの2箇所は他方の平面に設けられている。かつ、第2センサ本体23を中心軸AX2の延伸方向から見た場合に、互いに隣り合う2箇所のうちの一方と中心軸AX2とを仮想的に結んだ直線と、他方と中心軸AX2とを仮想的に結んだ直線と、が成す角度が、90°になる。
【0067】
前述の4箇所は、第2センサ本体23の溶湯側端部を中心軸AX2の延伸方向から見た場合において、時計回りに測定箇所Pmd3、Pmd5、Pmd4およびPmd6の順で設けられている。以下、測定箇所Pmd3、Pmd4、Pmd5およびPmd6で測定されるダイス41の温度を、それぞれ温度Tmd3、Tmd4、Tmd5およびTmd6とする。
【0068】
(圧力測定)
第1および第2センサ10および20は、第1および第2圧力測定部12および22としての歪みゲージが測定した歪み値ε(単位:μST)から接触圧力FdおよびFpを換算する。歪みゲージは、図5に示すように温度変化に応じてゲージ率(歪みゲージの感度を表す係数)も変化する。そこで、本実施形態以下の各実施形態では、歪みゲージで測定した歪み値εから精度高く接触圧力FdおよびFpを換算するために、第1および第2センサ10および20を予め複数の温度下で圧縮させる。
【0069】
具体的には、第1および第2センサ10および20のそれぞれを、室温(本実施形態では293K)下、および室温よりも高温となる複数の温度下(温度の上昇分は一定)で圧縮させて、それぞれの温度下での圧縮特性を特定する。そして、この予備処理で特定された複数の温度下での圧縮特性に基づいて、第1および第2センサ10および20のそれぞれに生じる歪みと、これらのセンサに作用する圧縮応力σ(単位:MPa)と、の相関関係をキャリブレートする。第1および第2センサ10および22は、前述のキャリブレート後の歪み値εから換算した圧縮応力σを、接触圧力FdおよびFpとする。
【0070】
<非定常伝熱モデルを用いた熱伝達係数の算出>
算出部33は、第1界面Si1近傍の伝熱および第2界面Si2近傍の伝熱のそれぞれを非定常伝熱モデルで表すことにより、第1界面Si1の熱伝達係数hpおよび第2界面Si2の熱伝達係数hdを算出する。算出部33は、熱伝達係数hdの算出に際して、測定箇所Pmd1をダイス41側の基準箇所とする。また算出部33は、熱伝達係数hpの算出に際して、測定箇所Pmp1を上パンチ42側の基準箇所とする。
【0071】
算出部33による熱伝達係数hdおよびhpの算出処理の概要は次の通りである。まず、算出部33は、第1界面Si1近傍の状態および第2界面Si2近傍の状態のそれぞれを不図示の等価回路に置換する。次に、算出部33は、温度取得部31があるタイムステップ(時点)で取得した各温度、および非定常熱伝導方程式を前述の等価回路に適用した下記の式(1)を用いて、推定温度TmdeおよびTmpe(ともに第1推定温度)を算出する。推定温度Tmpeは、あるタイムステップから一定時間経過後の次のタイムステップ(以下、「次のタイムステップ」と略記)における温度Tmp1の推定値である。推定温度Tmdeは、次のタイムステップにおける温度Tmd1の推定値である。
【0072】
【数1】
【0073】
Tm´ :推定温度TmdeおよびTmpe[K]
Tm :あるタイムステップにおける温度Tmd1およびTmp1[K]
Tc :あるタイムステップにおける温度TcdおよびTcp[K]
Ti :あるタイムステップにおける温度Tmd2~TmdiおよびTmp2~Tmpi[K](i:2以上の自然数)
n :タイムステップ
α :Δt/(Cm・Δx)[(sec・m)/J]
Δt :一定時間(タイムステップ間の所要時間)[sec]
Δx :測定箇所Pmd1とPmdiとの間の距離、測定箇所PcdとPmd1との間の距離、測定箇所Pmp1とPmpiとの間の距離、測定箇所PcpとPmp1との間の距離[m]
Cm :金型40(ダイス41および上パンチ42)の熱容量[J/m
βi :定数(i:0以上の整数)
RHTC:熱抵抗RHTCdおよびRHTCp[(m・K)/W]
Ri :測定箇所Pmd1とPmdiとの間の熱抵抗[(m・K)/W](i:2以上の自然数)
算出部33は、1回のタイムステップにおいて、第1界面Si1の熱抵抗RHTCpの値を複数設定することで推定温度Tmpeを複数算出する。また算出部33は、1回のタイムステップにおいて、第2界面Si2の熱抵抗RHTCdの値を複数設定することで推定温度Tmdeを複数算出する。
【0074】
次に、算出部33は、複数の推定温度Tmdeの中から特定温度Tmds(第1特定温度)を特定する。また、算出部33は、複数の推定温度Tmpeの中から特定温度Tmps(第1特定温度)を特定する。特定温度Tmdsは、複数の推定温度Tmdeのうちで、当該推定温度Tmdeと次のタイムステップにおける温度Tmd1(実測値)との差分が最小になる推定温度Tmdeである。特定温度Tmpsは、複数の推定温度Tmpeのうちで、当該推定温度Tmpeと次のタイムステップにおける温度Tmp1(実測値)との差分が最小になる推定温度Tmpeである。
【0075】
次に、算出部33は、特定温度Tmpsに対応する第1界面Si1の熱抵抗RHTCpの値を下記の式(2)に代入することにより、熱伝達係数hpを算出する。また算出部33は、特定温度Tmdsに対応する第2界面Si2の熱抵抗RHTCdの値を下記の式(2)に代入することにより、熱伝達係数hdを算出する。
【0076】
【数2】
【0077】
h :熱伝達係数hdおよびhp[W/(m・K)]
Rc:溶湯50の熱抵抗[(m・K)/W]
Rm:金型40(ダイス41および上パンチ42)の熱抵抗[(m・K)/W]
(1次元非定常伝熱モデルを用いた熱伝達係数の算出)
算出部33は、1次元非定常伝熱モデルを用いて熱伝達係数hdおよびhpのそれぞれを算出することができる。本実施形態では、算出部33は、1次元非定常伝熱モデルを用いて熱伝達係数hdおよびhpのそれぞれを算出する場合、3つの測定箇所の温度を用いる。具体的には、算出部33は、熱伝達係数hdの算出では測定箇所Pcd、Pmd1およびPmd2の温度Tcd、Tmd1およびTmd2を用いる。また、算出部33は、熱伝達係数hpの算出では測定箇所Pcp、Pmp1およびPmp2の温度Tcp、Tmp1およびTmp2を用いる。
【0078】
以下、算出部33による1次元非定常伝熱モデルを用いた熱伝達係数hdおよびhpの算出処理を、図7のフローチャートを用いて説明する。なお、熱伝達係数hdの算出処理の内容は熱伝達係数hpの算出処理の内容と略同一であることから、以下の説明では、便宜上、これら2つの算出処理を纏めて説明する。
【0079】
まず、算出部33は、第1および第2界面Si1およびSi2の各近傍の状態を図6に示すような等価回路60に置換する(計算開始)。測定箇所Pcは測定箇所PcdおよびPcpの総称であり、温度Tcは温度TcdおよびTcpの総称である。熱抵抗RHTC(第1熱抵抗)は熱抵抗RHTCdおよびRHTCpの総称である。測定箇所Pm1は測定箇所Pmd1およびPmp1の総称であり、温度Tm1は温度Tmd1およびTmp1の総称である。測定箇所Pm2は測定箇所Pmd2およびPmp2の総称であり、温度Tm2は温度Tmd2およびTmp2の総称である。
【0080】
なお、下記S11の処理の前までに、温度取得部31は温度Tc、Tm1およびTm2を取得し、圧力取得部32は接触圧力FdおよびFpを取得する(温度取得ステップ、圧力取得ステップ)。温度取得部31による温度取得および圧力取得部32による圧力取得は、タイムステップ毎に行われる。圧力取得部32が取得した接触圧力FdおよびFpの利用については後述する。
【0081】
次に、算出部33は、あるタイムステップにおいて温度取得部31から温度Tc、Tm1およびTm2を取得する(S11の「初期設定」)。次に、算出部33は、熱抵抗RHTCの値を設定する(S12)。算出部33は、例えば入力部1が熱抵抗RHTCの値の設定操作を受け付けることにより、入力部1が受け付けた値を熱抵抗RHTCの設定値としてもよい。また例えば、算出部33は、記憶部に予め記憶させておいた設定値を読み出すことにより、熱抵抗RHTCの値を設定してもよい。
【0082】
次に、算出部33は、S11にて温度取得部31から取得した各温度、S12にて設定した熱抵抗RHTCの値、および1次元非定常熱伝導方程式を等価回路60に適用した下記の式(3)を用いて、推定温度Tmeを算出する(S13)。推定温度Tmeは推定温度TmdeおよびTmpeの総称である。
【0083】
【数3】
【0084】
Tme´ :推定温度Tme[K]
β0、β1:定数
R1 :Δx/λm[(m・K)/W]
λm :金型40(ダイス41および上パンチ42)の熱伝導率[W/(m・K)]
ここで、推定温度Tmdeの算出に用いられる場合の前述の式(3)は、1次元円筒座標系の非定常熱伝導方程式を等価回路60に適用したものになる。一方、推定温度Tmpeの算出に用いられる場合の前述の式(3)は、1次元直交座標系の非定常熱伝導方程式を等価回路60に適用したものになる。また、β0およびβ1は、推定温度Tmdeを算出する場合と推定温度Tmpeを算出する場合とで値が異なる。
【0085】
次に、算出部33は、S13にて算出した推定温度Tmeと次のタイムステップにおける温度Tm1(実測値)との差分を算出する。そして算出部33は、算出した差分が、このタイムステップにおいてS12およびS13の処理を複数回繰り返して算出した複数の推定温度Tmeと、前述の温度Tm1と、の差分の中で最小か否かを判定する(S14)。S14でNoの場合、算出部33は再びS12~S14の各処理を行う。
【0086】
ここで、算出部33が再びS12~S14の各処理を行う方法としては、例えば、あるタイムステップにて複数個算出した評価関数e=|Tme-Tm1|の各値について、複数個の評価関数eの値の中での値の大小を比較する方法が挙げられる。
【0087】
具体的には、図8に示すように、(A)算出部33は、あるタイムステップにて設定した第1熱抵抗RHTC1の値を用いて評価関数e1を算出する。次に、(B)算出部33は、同じくあるタイムステップにて設定した第2熱抵抗RHTC2の値を用いて評価関数e2を算出する。
【0088】
第2熱抵抗RHTC2における第1熱抵抗RHTC1からの変化量ΔRについては、算出部33は、入力部1が変化量ΔRの設定操作を受け付けることにより、入力部1が受け付けた値を変化量ΔRの設定値としてもよい。また例えば、算出部33は、記憶部に予め記憶させておいた設定値を読み出すことにより、変化量ΔRの値を設定してもよい。
【0089】
次に、(C)算出部33は、評価関数e1と評価関数e2との値の大小を比較する。評価関数e1の方が値が小さい場合、前述の変化量ΔRに係数M(-1<M<0)を乗じた値M×ΔRを第1熱抵抗RHTC1に加算して、新たな第2熱抵抗RHTC2´とする。そして、この第2熱抵抗RHTC´の値を用いて評価関数e1´を算出し、評価関数e1と評価関数e1´との値の大小を比較する。一方、評価関数e2の方が値が小さければ、第2熱抵抗RHTC2に前述の変化量ΔRを加算して第3熱抵抗RHTC3とする。そして、この第3熱抵抗RHTC3の値を用いて評価関数e3を算出し、評価関数e2と評価関数e3との値の大小を比較する。
【0090】
以下、算出部33は、前述の(B)および(C)の各処理を繰り返し、M×ΔRの値が所定の閾値(任意に設定可)以下になった時点でこの繰り返し処理を終了する。
【0091】
また例えば、算出部33は、予め複数の評価関数eを算出し、算出した複数の評価関数eの中から最も値が小さいものを抽出してもよい。具体的には、図9の符号901に示すように、(D)算出部33は、1回の抽出処理の対象となる評価関数e11の個数を決定し、決定した個数の評価関数e11が得られるまでS12~S14の各処理を繰り返す。算出部33は、S12~S14の各処理を繰り返す毎に、熱抵抗RHTCの値を変化量ΔR1だけ増加させる。
【0092】
1回の抽出処理の対象となる評価関数e11の個数の決定については、算出部33は、入力部1が個数の設定操作を受け付けることにより、入力部1が受け付けた値を評価関数e11の個数としてもよい。また例えば、算出部33は、記憶部に予め記憶させておいた個数の数値を読み出すことにより、評価関数e11の個数を設定してもよい。
【0093】
次に、図9の符号902に示すように、(E)算出部33は、(D)の処理で得られた複数の評価関数e11の中から最も値が小さい評価関数emin1を抽出した上で、2回目の抽出処理の対象となる評価関数e22を評価関数e11と同様の個数だけ算出する。算出部33は、評価関数emin1の値を中央値として、当該評価関数emin1に対応する熱抵抗RHTCの値を変化量ΔR2だけ順次増減させることにより、所定の個数の評価関数e22を得る。ここで、変化量ΔR2の絶対値は変化量ΔR1の絶対値よりも小さい。
【0094】
次に、(F)算出部33は、(E)の処理で得られた複数の評価関数e22の中から最も値が小さい評価関数emin2を抽出した上で、3回目の抽出処理の対象となる評価関数e33を評価関数e11およびe22と同様の個数だけ算出する。算出部33は、評価関数emin2の値を中央値として、当該評価関数emin2に対応する熱抵抗RHTCの値を変化量ΔR3だけ順次増減させることにより、所定の個数の評価関数e33を得る。ここで、変化量ΔR3の絶対値は変化量ΔR2の絶対値よりも小さい。
【0095】
以下、算出部33は、前述の(F)の各処理を繰り返し、ΔR3の値が所定の閾値(任意に設定可)以下になった時点でこの繰り返し処理を終了する。
【0096】
S14でYesの場合、算出部33は、前述の差分が最小になる推定温度Tmeを特定温度Tmsとして特定する。特定温度Tmsは特定温度TmdsおよびTmpsの総称である。また、算出部33は、特定温度Tmsに対応する熱抵抗RHTCの設定値を前述の式(2)に代入することにより、熱伝達係数hを算出する(S15)。熱伝達係数hは熱伝達係数hdおよびhpの総称である。
【0097】
あるタイムステップにおける熱伝達係数hの算出処理が終了すると、算出部33は、タイムステップを1回更新する(S16)。更新後のタイムステップが最終のタイムステップでない場合(S17でNo)、算出部33は、S11以降の各処理を再び行って更新後のタイムステップにおける熱伝達係数hを算出する。更新後のタイムステップが最終のタイムステップの場合(S17でYes)、算出部33は、熱伝達係数hの算出処理を終了する(終了)。S12からS17までの一連の処理は、本発明の一態様に係る算出ステップの一例となる。
【0098】
なお、算出部33は、熱抵抗RHTC、推定温度Tme、特定温度Tmsおよび熱伝達係数hを例えば記憶部に記憶させてもよい。また例えば、算出部33は、前述の各データを不図示のサーバに送信して当該サーバに記憶させてもよい。
【0099】
(3次元非定常伝熱モデルを用いた熱伝達係数の算出)
算出部33は、3次元非定常伝熱モデルを用いて熱伝達係数hdおよびhpのそれぞれを算出することもできる。本実施形態では、算出部33は、3次元非定常伝熱モデルを用いて熱伝達係数hdおよびhpのそれぞれを算出する場合、7つの測定箇所の温度を用いる。具体的には、算出部33は、熱伝達係数hdの算出では測定箇所Pcd、およびPmd1~Pmd6の温度Tcd、およびTmd1~Tmd6を用いる。また、算出部33は、熱伝達係数hpの算出では測定箇所Pcp、およびPmp1~Pmp6の温度Tcp、およびTmp1~Tmp6を用いる。
【0100】
以下、算出部33による3次元非定常伝熱モデルを用いた熱伝達係数hdおよびhpの算出処理を説明する。ここで、算出部33による3次元非定常伝熱モデルを用いた算出処理の内容は、等価回路および推定温度Tmeの算出に用いる式を除き、1次元非定常伝熱モデルを用いた算出処理の内容と同様になる。したがって、1次元非定常伝熱モデルを用いる場合と同内容の処理については、その説明を省略する。
【0101】
まず、算出部33は、第1および第2界面Si1およびSi2の各近傍の状態を図10に示すような等価回路61に置換する。測定箇所Pm3は測定箇所Pmd3およびPmp3の総称であり、温度Tm3は温度Tmd3およびTmp3の総称である。測定箇所Pm4は測定箇所Pmd4およびPmp4の総称であり、温度Tm4は温度Tmd4およびTmp4の総称である。測定箇所Pm5は測定箇所Pmd5およびPmp5の総称であり、温度Tm5は温度Tmd5およびTmp5の総称である。測定箇所Pm6は測定箇所Pmd6およびPmp6の総称であり、温度Tm6は温度Tmd6およびTmp6の総称である。
【0102】
また、算出部33は、温度取得部31から取得した各温度、設定した熱抵抗RHTCの値、および3次元非定常熱伝導方程式を等価回路61に適用した下記の式(4)を用いて、推定温度Tmeを算出する。
【0103】
【数4】
【0104】
β2~β5:定数
ここで、推定温度Tmdeの算出に用いられる場合の前述の式(4)は、3次元円筒座標系の非定常熱伝導方程式を等価回路61に適用したものになる。一方、推定温度Tmpeの算出に用いられる場合の前述の式(4)は、3次元直交座標系の非定常熱伝導方程式を等価回路61に適用したものになる。また、β2およびβ3のそれぞれは、推定温度Tmdeを算出する場合と推定温度Tmpeを算出する場合とで値が異なる。一方、β4およびβ5のそれぞれは、推定温度Tmdeおよび推定温度Tmpeのいずれを算出する場合でも同一の値となる。
【0105】
<接触圧力と熱伝達係数との相関関係の解析>
解析部34は、圧力取得部32がタイムステップ毎に取得した接触圧力Fdおよび算出部33がタイムステップ毎に算出した熱伝達係数hdを用いて、接触圧力Fdと熱伝達係数hdとの相関関係(以下、「ダイス側相関関係」)を解析する。また解析部34は、圧力取得部32がタイムステップ毎に算出した接触圧力Fpおよび算出部33がタイムステップ毎に算出した熱伝達係数hpを用いて、接触圧力Fpと熱伝達係数hpとの相関関係(以下、「上パンチ側相関関係」)を解析する。
【0106】
具体的には、解析部34は、ダイス側相関関係および上パンチ側相関関係のそれぞれを3つの期間に分けて解析する。以下、解析部34の解析処理を、図11のグラフに示すダイス側相関関係の例を用いて説明する。なお、以下に説明する解析部34の解析処理は、図7のフローチャートを用いればS17でYesの場合の次に行われる処理に相当し、本発明の一態様に係る解析ステップの一例となる。
【0107】
まず、解析部34は、下パンチ43がセットされたダイス41の中空部に溶湯50が充填されてから、上パンチ42が溶湯50を加圧し始める前までの期間(図11の「期間I」)におけるダイス側相関関係を解析する。期間Iでは、上パンチ42が溶湯50を加圧しないことから接触圧力Fdは略0になる。一方、ダイス41の内側側面と溶湯50とが接触していることから、ダイス41と溶湯50の間で伝熱が生じて溶湯50の温度Tcdが低くなり、ダイス41の温度Tmdが高くなる。よって、期間Iにおいても熱伝達係数hdは0にはならない。解析部34は、これらの解析結果から、期間Iのダイス側相関関係が図11のグラフにおける切片の関係になると推定する。
【0108】
次に、解析部34は、上パンチ42が溶湯50を加圧し始めてから、溶湯50の表面温度が当該溶湯50の形成材料の凝固温度になるまでの期間(以下、「期間II」)におけるダイス側相関関係を解析する。「溶湯50の表面温度」は、具体的には溶湯50における第4接触面Sc2の温度を指す。なお、期間IIの間、上パンチ42は一定の加圧力で溶湯50を加圧し続けている。
【0109】
期間IIでは、熱伝達係数hdは接触圧力Fdに依存し、前述の凝固温度には略依存しない。そして、熱伝達係数hdと接触圧力Fdとが略正比例の関係になる。また、熱伝達係数hdと接触圧力Fdとの関係を1次関数と見做した場合の傾きは、プラスの値になるとともに離型剤の種類に応じて絶対値が変動する。解析部34は、これらの解析結果から、期間IIのダイス側相関関係が図11のグラフにおける1次関数(傾きはプラス)の関係になると推定する。また、解析部34は、塗布する離型剤の種類および金型40の表面粗さに応じて1次関数の傾きが変動すると推定する。
【0110】
次に、解析部34は、溶湯50の表面温度が当該溶湯50の形成材料の凝固温度よりも低くなってから、凝固した成形体を金型40から取り出すまでの期間(以下、「期間III」)におけるダイス側相関関係を解析する。なお、期間IIIの間も、期間IIと同様に上パンチ42が一定の加圧力で溶湯50を加圧し続けている。
【0111】
期間IIIでは、熱伝達係数hdは接触圧力Fdおよび前述の凝固温度の両方に依存する。そして、熱伝達係数hdと接触圧力Fdとの関係は、1次関数hd=a×Fd+b×Ts+c(a、b、c:係数 Ts:溶湯50の表面温度)で表される。解析部34は、これらの解析結果から、期間IIIのダイス側相関関係が図11のグラフにおける1次関数(傾きはマイナス)の関係になると推定する。
【0112】
なお、上パンチ側相関関係は、(ア)接触圧力FdとFpとが同一の場合における熱伝達係数hpの値が熱伝達係数hdと異なる点、および(イ)期間Iにおける熱伝達係数hpが0になる点、以外、ダイス側相関関係と同一になる。したがって、ダイス側相関関係については、その説明を省略する。また、ダイス側相関関係および上パンチ側相関関係の各解析内容は、本実施形態の例に限定されない。
【0113】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、実施形態1にて説明した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付記し、その説明を繰り返さない。このことは、後述の実施形態3~5についても同様である。
【0114】
本発明の実施形態2に係る解析装置200は、算出部33が、1次元非定常伝熱モデルを用いて熱伝達係数hdおよびhpのそれぞれを算出する際に溶湯50側に2箇所の測定箇所を設ける点で、実施形態1に係る解析装置100と異なる。また解析装置200は、算出部33が、熱伝達係数hdの算出に際して後述の測定箇所Pcd1を溶湯50側の基準箇所とし、熱伝達係数hpの算出に際して後述の測定箇所Pcp1を溶湯50側の基準箇所とする点でも、解析装置100と異なる。
【0115】
<1次元非定常伝熱モデルを用いた熱伝達係数の算出>
図1に示す解析装置200の算出部33は、1次元非定常伝熱モデルを用いて熱伝達係数hdを算出する場合、測定箇所Pcd1、Pcd2およびPmd1の温度Tcd1、Tcd2およびTmd1を用いる。また解析装置200の算出部33は、1次元非定常伝熱モデルを用いて熱伝達係数hpを算出する場合、測定箇所Pcp1、Pcp2およびPmp1の温度Tcp1、Tcp2およびTmp1を用いる。
【0116】
ここで、測定箇所Pcd1は、実施形態1に係る測定箇所Pcd(図4および図6参照)に相当する。測定箇所Pcd2は、中心軸AX2上、かつ実施形態1に係る測定箇所Pcdよりも溶湯50の内部側に配置されている(図4参照)。測定箇所Pcp1は、実施形態1に係る測定箇所Pcp(図3および図6参照)に相当する。測定箇所Pcp2は、中心軸AX1上、かつ実施形態1に係る測定箇所Pcpよりも溶湯50の内部側に配置されている(図3参照)。
【0117】
以下、解析装置200の算出部33による、1次元非定常伝熱モデルを用いた熱伝達係数hdおよびhpの算出処理を説明する。ここで、解析装置200の算出部33による1次元非定常伝熱モデルを用いた算出処理の内容は、等価回路および推定温度Tmeの算出に用いる式を除き、解析装置100の算出部33の算出処理の内容と同様になる。したがって、解析装置100の算出部33の処理内容と同内容の処理については、その説明を省略する。このことは、後述の解析装置300の算出部33についても同様である。
【0118】
解析装置200の算出部33は、第1および第2界面Si1およびSi2の各近傍の状態を図12に示すような等価回路62に置換する。測定箇所Pc1は測定箇所Pcd1およびPcp1の総称であり、温度Tc1は温度Tcd1およびTcp1の総称である。測定箇所Pc2は測定箇所Pcd2およびPcp2の総称であり、温度Tc2は温度Tcd2およびTcp2の総称である。
【0119】
解析装置200の算出部33は、等価回路62内に熱抵抗RIC(第2熱抵抗)を設定する。熱抵抗RICは、溶湯50における第2接触面Sc1から内部への伝熱、および第4接触面Sc2~内部への伝熱を考慮して、測定箇所Pc1とPc2との間に仮想的に設定される。熱抵抗RICの設定方法については、RHTCの設定方法と同様である。
【0120】
また解析装置200の算出部33は、温度取得部31から取得した各温度、設定した熱抵抗RHTCおよびRICの各値、および1次元非定常熱伝導方程式を等価回路62に適用した下記の式(5)を用いて、推定温度Tceを算出する。推定温度Tceは、推定温度TcdeおよびTcpeの総称である。推定温度Tcdeは測定箇所Pcd1における推定温度であり、推定温度Tcpeは測定箇所Pcp1における推定温度である。
【0121】
【数5】
【0122】
Tce´:推定温度Tce
β6 :定数
αo :Δt/(Cc・Δx)[(sec・m)/J]
Cc :溶湯50の熱容量[J/m
ここで、推定温度Tcdeの算出に用いられる場合の前述の式(5)は、1次元円筒座標系の非定常熱伝導方程式を等価回路62に適用したものになる。一方、推定温度Tcpeの算出に用いられる場合の前述の式(5)は、1次元直交座標系の非定常熱伝導方程式を等価回路62に適用したものになる。また、β6は、推定温度Tcdeおよび推定温度Tcpeのいずれを算出する場合でも同一の値となる。
【0123】
次に、解析装置200の算出部33は、複数の推定温度Tceの中から当該推定温度Tceと次のタイムステップにおける温度Tc1との差分が最小になる特定温度Tcsを特定することにより、あるタイムステップにおける熱伝達係数hdおよびhpを算出する。
【0124】
〔実施形態3〕
本発明の実施形態3について、以下に説明する。本発明の実施形態3に係る解析装置300は、算出部33が、1次元非定常伝熱モデルを用いて熱伝達係数hdおよびhpのそれぞれを算出する際に4箇所の測定箇所を設ける点で、実施形態1および2に係る解析装置100および200と異なる。また解析装置300は、算出部33が、熱伝達係数hdの算出に際して測定箇所Pcd1を溶湯50側の基準箇所とし、熱伝達係数hpの算出に際して測定箇所Pcp1を溶湯50側の基準箇所とする点で、解析装置100と異なる。さらに解析装置300は、算出部33が、熱伝達係数hdの算出に際して測定箇所Pmd1を溶湯50側の基準箇所とし、熱伝達係数hpの算出に際して測定箇所Pmp1を溶湯50側の基準箇所とする点で、解析装置200と異なる。
【0125】
<1次元非定常伝熱モデルを用いた熱伝達係数の算出>
図1に示す解析装置300の算出部33は、1次元非定常伝熱モデルを用いて熱伝達係数hdを算出する場合、測定箇所Pcd1、Pcd2、Pmd1およびPmp2の温度Tcd1、Tcd2、Tmd1およびTmd2を用いる。また解析装置300の算出部33は、1次元非定常伝熱モデルを用いて熱伝達係数hpを算出する場合、測定箇所Pcp1、Pcp2、Pmp1およびPmp2の温度Tcp1、Tcp2、Tmp1およびTmp2を用いる。
【0126】
以下、解析装置300の算出部33による、1次元非定常伝熱モデルを用いた熱伝達係数hdおよびhpの算出処理を説明する。解析装置300の算出部33は、第1および第2界面Si1およびSi2の各近傍の状態を図13に示すような等価回路63に置換する。また解析装置300の算出部33は、等価回路63内に熱抵抗RICを設定する。
【0127】
さらに解析装置300の算出部33は、温度取得部31から取得した各温度、設定した熱抵抗RHTCおよびRICの各値、および1次元非定常熱伝導方程式を等価回路63に適用した式を用いて、推定温度TceおよびTmeを算出する。推定温度Tceの算出に用いられる式は前述の式(5)と同一になり、推定温度Tmeの算出に用いられる式は前述の式(3)と同一になる。
【0128】
次に、解析装置300の算出部33は、複数の推定温度Tceの中から当該推定温度Tceと次のタイムステップにおける温度Tc1との差分が最小になる特定温度Tcsを特定する。また解析装置300の算出部33は、複数の推定温度Tmeの中から当該推定温度Tmeと次のタイムステップにおける温度Tm1との差分が最小になる特定温度Tmsを特定する。そして、解析装置300の算出部33は、特定温度TcsおよびTmsを用いて、あるタイムステップにおける熱伝達係数hdおよびhpを算出する。
【0129】
〔実施形態4〕
本発明の実施形態4について、以下に説明する。本発明の実施形態4に係る解析装置400は、金型40に替えて金型40aの温度分布を推定する点で、本発明の実施形態1~3に係る解析装置100~300と異なる。また解析装置400は、第1および第2センサ10および20に替えて第3センサ80が備わっている点でも、解析装置100~300と異なる。
【0130】
<金型および温度測定>
(金型)
金型40aは、重力鋳造による製品の製造に用いられる金属製の型である。金型40aの形成材料は金型40と同様に炭素鋼である。金型40aは、図14の符号1401および1402に示すように、ダイス41aのみで構成されている。ダイス41aが中空円筒形状の型であり、かつダイス41aの中空部が円柱形状である点については、金型40のダイス41と同様である。また、ダイス41aの内側側面に必要に応じて各種離型剤が塗布される点についても、ダイス41と同様である。
【0131】
ダイス41aの金属部分41Xaの側壁41Xa-1には、図14の符号1402に示すように、正面視においてダイス41a(つまり金型40a)の中心軸AX-1と直交する方向に第1穴41Ya、第2穴41Yb、第3穴41Ycおよび第5穴41Yeが形成されている。第1~第3穴41Ya~41Ycは、後述の第3センサ本体83を出し入れ可能な大きさの円柱形状の穴であり、側壁41Xa-1の外側側面からダイス41aの中空部まで貫通している。本実施形態では、第1~第3穴41Ya~41Ycの直径はすべて20mmである。
【0132】
第1~第3穴41Ya~41Ycのうち、第1穴41Yaが最も上側に形成されており、第3穴41Ycが最も下側に形成されている。第2穴41Ybは、鉛直方向において第1穴41Yaと第3穴41Ycとの間に形成されている。鉛直方向において、第1穴41Yaと第2穴41Ybとの最短距離は第2穴41Ybと第3穴41Ycとの最短距離と略同一になっている。
【0133】
第5穴41Yeは、第1~第3穴41Ya~41Ycの直径よりも小さな直径8mmの円柱形上の穴であり、側壁41Xa-1の外側側面に開口部が形成されている。第5穴41Yeはダイス41aの中空部まで貫通しておらず、第5穴41Yeの底部41Ye-1が側壁41Xa-1の一部で構成されている。底部41Ye-1の厚さは、本実施形態では2mmになっている。また第5穴41Yeは、正面視において、側壁41Xa-1における第2穴41Ybと第3穴41Ycとの間の部分、かつ第2穴41Ybの近傍に形成されている。
【0134】
第1~第3穴41Ya~41Ycの各中心軸は、図14の符号1401に示すように、平面視において中心軸AX-1上で交わる。平面視において、第1穴41Yaの中心軸と第2穴41Ybの中心軸との成す角度は30°であり、第2穴41Ybの中心軸と第3穴41Ycの中心軸との成す角度は30°であり、第1穴41Yaの中心軸と第3穴41Ycの中心軸との成す角度は60°である。また、第5穴41Yeの中心軸は、平面視において第2穴41Ybの中心軸と一致する。
【0135】
金属部分41Xaの底壁41Xa-2には、図14の符号1402に示すように、正面視において中心軸AX-1と平行な方向に第4穴41Yd、第6穴41Yfおよび貫通孔41Ygが形成されている。第4穴41Ydの中心軸は中心軸AX-1と一致する。第4穴41Ydも、第1~第3穴41Ya~41Ycと同様に第3センサ本体83を出し入れ可能な大きさの円柱形状の穴であり、底壁41Xa-2の外側底面からダイス41aの中空部まで貫通している。第4穴41Ydの直径は、第1~第3穴41Ya~41Ycと同様に20mmである。
【0136】
第6穴41Yfは、第1~第4穴41Ya~41Ydの直径よりも小さな直径8mmの円柱形上の穴であり、底壁41Xa-2の外側底面に開口部が形成されている。また、第6穴41Yfはダイス41aの中空部まで貫通しておらず、第6穴41Yfの底部41Yf-1が底壁41Xa-2の一部で構成されている。底部41Yf-1の厚さは、本実施形態では底部41Ye-1と同様の2mmになっている。また第6穴41Yfは、正面視において、底壁41Xa-2における各穴(第1~第3穴41Ya~41ycおよび第5穴41Ye)が形成されている側の第6穴41Yfの近傍に形成されている。第6穴41Yfの中心軸は、図14の符号1401に示すように、平面視において第1穴41Yaの中心軸と交差する。
【0137】
貫通孔41Ygは、図14の符号1402に示すような直径1.05mmの円柱形上の穴であり、底壁41Xa-2の外側底面からダイス41aの中空部まで貫通している。また貫通孔41Ygは、正面視において側壁41Xa-1の近傍に形成されており、かつ、図14の符号1401に示すように平面視において第1穴41Yaの近傍に形成されている。勿論、第1~第6穴41Ya~41Yfおよび貫通孔41Ygの形成位置、形状および大きさ等は本実施形態の例に限定されない。
【0138】
本実施形態では、金型40aを用いた重力鋳造を以下のように行う。まず、金型40aを573.15K(300℃)まで予熱する。次に、図15に示すように、1023.15K(750℃)で溶解した溶湯50を中空部における上側の開口から中空部内に注湯し、その状態のまま溶湯50を凝固させる。これらの工程を経て、仕上加工前の成形体(不図示)が完成する。また、重力鋳造前に金型40aのダイス41aの内側側面に離型剤を塗布する。金型40aに塗布される離型剤としては、例えばBNスプレー、黒体スプレーが挙げられる。
【0139】
(温度測定)
解析装置400は、図1に示すような第3センサ80(詳細は後述)を備えている。本実施形態では、解析装置400は、図14の符号1402に示すように、金型40a側に計8箇所、溶湯50側に計4箇所の総計12箇所で第3センサ80による温度測定を行う。総計12箇所の測定箇所の配置は、図14の符号1401および1402に示す3つの測定箇所Pdn、Pen-1およびPen-2(n:1~4の自然数)が平面視および正面視のいずれにおいても直線状に設けられている。そして、この3つの測定箇所から成る測定箇所の群が計4箇所設けられている。
【0140】
以下、3つの測定箇所Pdn、Pen-1およびPen-2を「測定箇所Pdn、~Pen-2」と略記する。また、測定箇所Pdnで測定される温度を温度Tdn(第2温度)とし、測定箇所Pen-1で測定される温度を温度Ten-1(第1温度)とし、測定箇所Pen-2で測定される温度を温度Ten-2(第1温度)とする。さらに、3つの温度Tdn、Ten-1およびTen-2を「温度Tdn、~Ten-2」と略記する。
【0141】
本実施形態では、図14の符号1403に示すように、測定箇所Pdnは、側壁41Xa-1の内側側面または底壁41Xa-2の内側底面(以下、「金型表面」と総称)から溶湯50側に2mmの位置に設けられている。測定箇所Pen-1は、金型表面から金型40a側に2mmの位置に設けられている。測定箇所Pen-2は、金型表面からから金型40a側に6mmの位置に設けられている。
【0142】
図14の符号1401および1402に示すように、測定箇所Pd1は、溶湯50の内部かつ測定箇所Pe1-1の近傍に設けられている。Pe1-1およびPe1-2は、第1穴41Yaを形成する金属部分41Xaの壁面に設けられている。測定箇所Pd2は、溶湯50の内部かつ測定箇所Pe2-1の近傍に設けられている。Pe2-1およびPe2-2は、第2穴41Ybを形成する金属部分41Xaの壁面に設けられている。測定箇所Pd3は、溶湯50の内部かつ測定箇所Pe3-1の近傍に設けられている。Pe3-1およびPe3-2は第3穴41Ycを形成する金属部分41Xaの壁面に設けられている。
【0143】
測定箇所Pd4、~Pe4-2は、平面視および正面視のいずれにおいても中心軸AX-1と平行な直線上に設けられている。この中心軸AX-1と平行な直線は、中心軸AX-1よりも側壁41Xa-1側に位置している。また、測定箇所Pd3、~Pe3-2およびPd4は、図14の符号1401に示すように平面視で同一直線(つまり第3穴41Ycの中心軸)上に設けられている。さらに測定箇所Pd4は、図14の符号1402に示すように溶湯50の内部かつ測定箇所Pe4-1の近傍に設けられている。測定箇所Pe4-1およびPe4-2は、第4穴41Ydを形成する金属部分41Xaの壁面に設けられている。
【0144】
本実施形態では、図15に示すように第1~第4穴41Ya~41Ydのそれぞれに第3センサ本体83が収容されることで、第3センサ80が金型40aにセットされる。そして、第3センサ80が金型40aにセットされた状態において、当該第3センサ80の第3温度測定部81(温度測定部)が温度Td1~Td4、Te1-1~Te4-1およびTe1-2~Te4-2を測定する。図1に示す解析装置400の温度取得部31は、第3温度測定部81から当該第3温度測定部81の測定結果を取得する。
【0145】
解析装置400は、不図示の熱電対(以下、「第4温度測定部」)を備えており、図14の符号1402に示すように、貫通孔41Ygの内部および近傍の計3箇所で第4温度測定部による温度測定を行う。3箇所の測定箇所の配置については、図14の符号1401および1402に示す3つの測定箇所Pd5、Pe5-1およびPe5-2が平面視および正面視のいずれにおいても直線状に設けられている。
【0146】
測定箇所Pd5、Pe5-1およびPe5-2は、いずれも貫通孔41Ygの中心軸上に設けられている。また、測定箇所Pd5、Pe5-1およびPe5-2の形成位置は、図14の符号1401に示すように平面視で測定箇所Pd1の形成位置と一致する。測定箇所Pd5は、底壁41Xa-2の内側底面から溶湯50側に2mmの位置に設けられている。測定箇所Pe5-1は、底壁41Xa-2の内側底面から金型40a側に2mmの位置に設けられている。測定箇所Pe5-2は、底壁41Xa-2の内側底面からから金型40a側に6mmの位置に設けられている。
【0147】
測定箇所Pd5に配置された第4温度測定部が温度Te5を測定し、測定箇所Pe5-1に配置された第4温度測定部が温度Te5-1を測定し、測定箇所Pe5-2に配置された第4温度測定部が温度Te5-2を測定する。解析装置400の温度取得部31は、第4温度測定部から当該第4温度測定部の測定結果を取得する。
【0148】
なお、図示の簡略化のため、図15の金型40aは、第1~第6穴41Ya~41Yfおよび貫通孔41Ygの各中心軸がすべてダイス41aの金属部分41Xaの断面上にあるように図示されている。実際には、第2穴41Yb、第3穴41Ycおよび第5穴41Yeは、図14の符号1401および1402に示す箇所に形成されている。
【0149】
<第3センサの具体的構造および圧力測定>
(第3センサの具体的構造)
第3センサ80は、温度Tdn、Ten-1およびTen-2(n:1~4の自然数)、および接触圧力Fd-1~Fd-4(界面に作用する圧力)を測定する解析装置400の構成部品である。接触圧力Fd-1~Fd-4は、接触圧力Fd-1、Fd-2、Fd-3およびFd-4の4つの圧力である。
【0150】
具体的には、第1穴41Yaにセットされる第3センサ80が、温度Td1、~Te1-2および接触圧力Fd-1を測定する。第2穴41Ybにセットされる第3センサ80が、温度Td2、~Te2-2および接触圧力Fd-2を測定する。第3穴41Yaにセットされる第3センサ80が、温度Td3、~Te3-2および接触圧力Fd-3を測定する。第4穴41Yaにセットされる第3センサ80が、温度Td4、~Te4-2および接触圧力Fd-4を測定する。
【0151】
第3センサ80は、図16の符号1601に示すように、第3温度測定部81、第3圧力測定部82(圧力測定部)および第3センサ本体83(単一部材)を有している。第3温度測定部81は、温度Td1~Td4、Te1-1~Te4-1およびTe1-2~Te4-2を測定する。本実施形態では、第3温度測定部81は、第1および第2温度測定部11および21と同一の熱電対である。また、第3温度測定部81が測定した温度Te1-1~Te4-1およびTe1-2~Te4-2のそれぞれを、ダイス41a(つまり金型40a)の温度と見做す。
【0152】
第3センサ本体83は、中空円筒形状の部材である。本実施形態では、第3センサ本体83は金型40aと同一の炭素鋼で形成されており、外径20mmかつ内径10mmになっている。また第3センサ本体83は、図16の符号1602に示すように、当該第3センサ本体83の中心軸AX3方向の長さが側壁41Xa-1の厚さと略同一になっている。勿論、第3センサ本体83の材質、形状および大きさは、本実施形態の例に限定されない。
【0153】
第3センサ本体83には3つの第3温度測定部81が設けられており、第3センサ80は3箇所で温度測定を行う。この3箇所は、溶湯50側の位置から測定箇所Pdn、Pen-1およびPen-2(n:1~4の自然数)の順に設けられている。具体的には、測定箇所Pdn-1およびPen-2は、図14の符号1401および1402に示すように、第1~第4穴41Ya~41Ydのそれぞれを形成する金属部分41Xaの壁面に設けられている。測定箇所Pdnは、溶湯50の内部かつ測定箇所Pen-1の近傍に設けられている。
【0154】
また、測定箇所Pdn、~Pen-2(n:1~4の自然数)は、同一の軸上に設けられている。測定箇所Pdn、~Pen-2(n:1~3の自然数)が設けられている軸は、中心軸AX-1と直交するとともに、正面視において第1~第3穴41Ya~41Ycの中心軸と同じ高さかつ平行になっている。測定箇所Pd4、~Pe4-2が設けられている不図示の軸は、平面視および正面視の双方において中心軸AX-1と平行になっている。なお、第3センサ本体83が第1~第4穴41Ya~41Ydに収容された状態において、第3センサ本体83の中心軸AX3は第1~第4穴41Ya~41Ydの中心軸と一致する。
【0155】
第3圧力測定部82は、接触圧力Fd-1~Fd-4を測定する。接触圧力Fd-1~Fd-3は、第4界面Si4に作用する圧力である。具体的には、接触圧力Fd-1は、図15に示すような、第4界面Si4における第1穴41Yaと対向する領域に作用する圧力である。接触圧力Fd-2は、第4界面Si4における第2穴41Ybと対向する領域に作用する圧力である。接触圧力Fd-3は、第4界面Si4における第3穴41Ycと対向する領域に作用する圧力である。
【0156】
第4界面Si4は、側壁41Xa-1における溶湯50と接触する面Sd1と、溶湯50における側壁41Xa-1と接触する面Sc4と、で構成される概念である。ここで、「側壁41Xa-1における溶湯50と接触する面Sd1」は側壁41Xa-1の内側側面に相当する。以下の説明では、この面を「第5接触面Sd1」と称する。第5接触面Sd1は、第1~第3穴41Ya~41Ycのそれぞれを塞ぐ3つの膜82a(詳細は後述)の表面82a-1、および第3センサ本体83における溶湯50と接触する側の表面を含んでいる。また、「溶湯50における側壁41Xa-1と接触する面Sc4」は溶湯50の側面に相当する。以下の説明では、この面を「第6接触面Sc4」と称する。
【0157】
前述の第4界面Si4の定義から、「接触圧力Fd-1~Fd-3」とは、第5接触面Sd1から第6接触面Sc4に向けて作用する接触圧力Fd-1~Fd-3と、第6接触面Sc4から第5接触面Sd1に向けて作用する接触圧力Fd-1~Fd-3の2つの圧力を指すことになる。
【0158】
接触圧力Fd-4は、図15に示す第5界面Si5に作用する圧力である。具体的には、接触圧力Fd-4は、第5界面Si5における第4穴41Ydと対向する領域に作用する圧力である。第5界面Si5は、底壁41Xa-2における溶湯50と接触する面Sd2と、溶湯50における底壁41Xa-2と接触する面Sc5と、で構成される概念である。
【0159】
ここで、「底壁41Xa-2における溶湯50と接触する面Sd2」は底壁41Xa-2の内側底面に相当する。以下の説明では、この面を「第7接触面Sd2」と称する。第7接触面Sd2は、表面82a-1および第3センサ本体83における溶湯50と接触する側の表面を含んでいる。また、「溶湯50における底壁41Xa-2と接触する面Sc5」は溶湯50の下側端面に相当する。以下の説明では、この面を「第8接触面Sc5」と称する。
【0160】
前述の第5界面Si5の定義から、「接触圧力Fd-4」とは、第7接触面Sd2から第8接触面Sc5に向けて作用する接触圧力Fd-4と、第8接触面Sc5から第7接触面Sd2に向けて作用する接触圧力Fd-4の2つの圧力を指すことになる。
【0161】
第3圧力測定部82は、図16の符号1601に示すように、膜82aおよびレーザー変位計82bを有している。膜82aは、第3センサ本体83に取り付けられており、当該第3センサ本体83における溶湯50側の開口部を塞いでいる。膜82aは、第3センサ本体83が第1~第4穴41Ya~41Ydに収容された状態において、金型40aに注湯された溶湯50と接触する。
【0162】
第3センサ80が金型40aにセットされる前の膜82aは、図16の符号1602の破線で示す平板形状であり、溶湯50と接触する側の表面82a-1が、第3センサ本体83における溶湯50と接触する側の表面と面一になっている。溶湯50と接触した膜82aは、図15および図16の符号1602に示すように、表面82a-1が溶湯50に押圧されることで、金型40aの外部に向けて凸となるように撓む。
【0163】
以下、膜82aと接触した溶湯50が当該膜82aを押圧する力を「押圧力」と称する。また、図15に示すように、第1穴41Yaに配置された第3圧力測定部82の膜82aに作用する押圧力を「押圧力Fdy-1」とする。第2穴41Ybに配置された第3圧力測定部82の膜82aに作用する押圧力を「押圧力Fdy-2」とする。第3穴41Ycに配置された第3圧力測定部82の膜82aに作用する押圧力を「押圧力Fdy-3」とする。第4穴41Ydに配置された第3圧力測定部82の膜82aに作用する押圧力を「押圧力Fdy-4」とする。
【0164】
重力鋳造中に膜82aが破損することを回避するため、膜82aは溶湯50と反応しないことが必要である。本実施形態では、溶湯50はアルミニウム合金ダイカストであるため、アルミニウムと反応せず、かつ鋳造時の溶湯50の温度よりも融点が高い材料を、膜82aの形成材料として選定する必要がある。
【0165】
膜82aの形成材料として、金属材料では、例えばTi(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Ta(タンタル)、Ag(銀)、Au(金)、Cr(クロム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Pt(白金)が挙げられる。また、非金属では炭素繊維の織物、セラミックペーパー等が挙げられる。特には、Mo(モリブデン)、Nb(ニオブ)、W(タングステン)が膜82aの形成材料として好ましい。一方、アルミニウムと反応し易いFe(鉄)およびその合金、Cu(銅)を用いる場合、膜82aの表面を離型剤でコーティングしたり、セラミックス系材料で耐溶損コーティングしたりするのが好ましい。
【0166】
膜82aの厚さについては、薄いほど、同一の押圧力が作用したときの撓み量が大きくなるため高い分解能が得られる。一方、薄くなるほど膜82aが破損し易くなる。したがって、膜82aは、分解能と破損し難さとがともに許容範囲内で両立する厚さであることが好ましい。本実施形態では、前述の各留意事項を総合考慮し、膜82aとして厚さ10μm以上のMo製の金属膜を用いる。
【0167】
レーザー変位計82bは、押圧力の作用により生じる膜82aの撓みの量を非接触で測定する測定機器である。具体的には、投光素子からの光が投光レンズによって集光されて膜82aに投光される。そして、膜82aを反射した光の一部が受光レンズを介してリニアイメージセンサに届くことにより、当該リニアイメージセンサが膜82aの撓みを検知する。膜82aの撓みの量が増減するとリニアイメージセンサ上の光スポットが移動することから、レーザー変位計82bはこの移動量を膜82aの撓みの量として検出する。投光素子、投光レンズ、受光レンズおよびリニアイメージセンサは、すべてレーザー変位計82bの不図示の構成部品である。レーザー変位計82bの種類に限定は無く、公知のレーザー変位計を用いることができる。
【0168】
(圧力測定)
まず、第3センサ本体83を第1~第4穴41Ya~41Ydに挿入する。そして、図16の符号1602に示すように、膜82aの表面82a-1が第5接触面Sd1(側壁41Xa-1の内側側面)と面一になるように、第3センサ本体83を第1~第4穴41Ya~41Ydに収容する。
【0169】
次に、溶湯50を金型40aに注湯すると、図15に示すように、膜82aに押圧力が作用して当該膜82aが金型40aの外部に向けて凸となるように撓む。この撓みの量を第3センサ80によって測定する。具体的には、押圧力の作用により生じる膜82aの変位の量を、第3圧力測定部82のレーザー変位計82bで測定する。同時に、金属部分41Xaの熱膨張により生じる底部41Ye-1および41Yf-1の各変位の量を、レーザー変位計82bで測定する。前述の各変位の量を測定するレーザー変位計82bは、第3圧力測定部82に設けられたものではなく、単体で用いられるものである。
【0170】
そして、第3センサ80は、膜82aの変位の量から底部41Ye-1および41Yf-1の各変位の量を差し引いた差分を膜82aの撓みの量と見做すことにより、膜82aの撓みの量を測定する。なお、膜82aの撓みの量を測定するにあたって金属部分41Xaの熱膨張を考慮することは必須でなく、押圧力の作用により生じる膜82aの変位の量をそのまま膜82aの撓みの量としてもよい。
【0171】
次に、第3センサ80は、得られた膜82aの撓みの量から、第1~第4穴41Ya~41Ydに収容された各第3センサ本体83の膜82aに作用する押圧力Fdy-1~Fdy-4を換算する。換算方法としては、少なくとも以下に説明する2種類の方法が挙げられる。
【0172】
第1の換算方法として、下記の式(6)および(7)を用いる方法が挙げられる。
【0173】
【数6】
【0174】
W :膜82aの撓みの量[μm]
Po :押圧力[Pa]
E :膜82aの弾性率[Pa]
h :膜82aの厚さ[μm]
ν :ポアソン比
a :膜82aの半径[mm]
r :膜82aの中心と測定位置(膜82aの撓みの量を測定する位置)との径方向の直線距離[mm]
ρ :r/a
A、B、C、D:係数
【0175】
【数7】
【0176】
第3センサ80の不図示の換算部は、第1~第3穴41Ya~41Ycに配置された各第3圧力測定部82の膜82aに作用する押圧力Fdy-1~Fdy-4を算出する場合、前述の式(6)を用いる。第4穴41Ydに配置された第3圧力測定部82の膜82aに作用する押圧力Fdy-4を算出する場合、換算部は前述の式(7)を用いる。換算部は、例えばCPUであり、レーザー変位計82bに設けられている。
【0177】
第2の換算方法として、図17に示すキャリブレーション用のグラフを用いる方法が挙げられる。具体的には、溶湯50を注湯する前に予め、図18に示すキャリブレーション用の金型40bに低融点金属の溶湯50aを注湯して重力鋳造する。
【0178】
低融点金属の溶湯50aを用いる理由は次の通りである。即ち、膜82aに接触するのは溶湯という流体であるところ、流体は固化するとその表面形状が不変になる。そのため、溶湯の場合、固化に起因して膜82aの撓みの量を精度高く測定できなくなる可能性がある。その点、溶湯50aがアルミニウム合金等の高融点金属(アルミニウム合金であれば913.15K(640℃))の場合、注湯後すぐに膜82aと接触する溶湯50aの部分が固相になってしまい、早い段階から測定精度が低下してしまう。よって、溶湯50aとして低融点金属の溶湯を用いるのが好ましい。本実施形態では、溶湯50aとして錫(融点;503.15K(230℃))の溶湯が用いられている。
【0179】
溶湯50aの温度は、溶湯50の温度と同じ1023.15Kである。金型40bは、第1穴~第3穴41Ya~41Yc、第5穴41Yeおよび第6穴41Yfが形成されていない点以外は金型40aと同一である。また、金型40bの第4穴41Ydに第3センサ80をセットしておき、溶湯50aの押圧により生じる膜82aの撓みの量を測定するとともに、膜82aの温度を測定する。膜82aの温度については、第3温度測定部81が測定した測定箇所Pe4-1の温度Te4-1を膜82aの温度と見做す。そして、溶湯50aの注湯量を変えながら、この重力鋳造を複数回行う。
【0180】
ここで、金型40bにセットされた膜82aに作用する押圧力Piは、Pi=l×g×hi(l:溶湯50aの比重[kg/m]、g:重力加速度[m/s]、hi:溶湯50aの高さ[m])の式で算出できる。溶湯50aの注湯量を変えると、図18の例のように高さhiがh1~h3(h1>h2>h3)に変わるため、膜82aに作用する押圧力Piも押圧力P1~P3(P1>P2>P3)のように変化する。また、膜82aの温度が高温になるほど当該膜82aの弾性率が低くなる。したがって、図17の例のように、同じ押圧力Piであっても膜82aの温度が高温になるほど当該膜82aの撓みの量が大きくなる。
【0181】
以上のことから、金型40bを用いた溶湯50aの重力鋳造を複数回行うことにより、値が異なる複数の押圧力Piについて、図17に示すような膜82aの撓みの量と膜82aの温度との関係を示すキャリブレーション用のグラフを生成することができる。生成したキャリブレーション用のグラフのデータについては、例えば第3センサ80の不図示の記憶部に記憶させてもよいし、解析装置400に内蔵された不図示の記憶部に記憶させてもよい。
【0182】
換算部は、前述のいずれかの記憶部からキャリブレーション用のグラフを読み出し、第3圧力測定部82が測定した溶湯50の撓みの量、および第3温度測定部81が測定した膜82aの温度(つまり温度Te4-1)と前述のグラフとを照らし合わせる。そして、換算部は、照合結果から押圧力Fdy-1~Fdy-4を換算する。
【0183】
最後に、第3センサ80は、換算して得た押圧力Fdy-1~Fdy-4を接触圧力Fd-1~Fd-4と見做すことにより、当該接触圧力Fd-1~Fd-4を測定する。具体的には、第3センサ80は、押圧力Fdy-1を接触圧力Fd-1と見做し、押圧力Fdy-2を接触圧力Fd-2と見做し、押圧力Fdy-3を接触圧力Fd-3と見做し、押圧力Fdy-4を接触圧力Fd-4と見做す。図1に示す解析装置400の圧力取得部32は、第3センサ80から、当該第3センサ80が測定した接触圧力Fd-1~Fd-4を取得する。
【0184】
<解析装置による処理結果の例>
以下、図14図19図21を用いて、解析装置400による処理結果の例について説明する。なお、図19図21に示す各グラフの例は、すべて、離型剤としてBNスプレーを塗布した金型40aを用いて溶湯50aを重力鋳造したときの例となる。
【0185】
まず、第3圧力測定部82の測定結果は図19に示すグラフのようになる。図19に示すグラフの横軸は好適経過時間を表す。好適経過時間は、金型40a内に溶湯50aを注湯し始めてから溶湯50aが固化する前までの経過時間であり、この経過時間の範囲内であれば膜82aの撓みの量を精度高く測定できる。
【0186】
好適経過時間は、金型40aの種類、溶湯50aの構成金属および鋳造条件等によって異なる。本実施形態では、好適経過時間の終了時点を、図19に示すグラフのように金型40a内に溶湯50aを注湯し始めてから20secとしている。
【0187】
溶湯50aの注湯が始まると、「第4穴41Ydにセットされた膜82a→第3穴41Ycにセットされた膜82a→第2穴41Ybにセットされた膜82a→第1穴41Yaにセットされた膜82a」の順で溶湯50aと接触する。溶湯50aと膜82aとの接触が始まると接触圧力Fd-1~Fd-4が上昇し始めることから、図19のグラフに示すように、略「接触圧力Fd-4→接触圧力Fd-3→接触圧力Fd-2→接触圧力Fd-1」の順に値が上昇し始める。
【0188】
経過時間の全体を通して値が最も大きくなるのは、溶湯50aの上面からの距離が最も離れている(=溶湯50aの高さhi)接触圧力Fd-4である。しかしながら、接触圧力Fd-4の最大値は、図19の例では約0.003MPaとなっており、加圧鋳造での接触圧力の1/1000のオーダーになっている。このような結果になるのは、加圧鋳造では油圧プレスで加圧するのに対し、重力鋳造では溶湯の重量分の圧力でしか加圧しないためである。
【0189】
次に、解析装置400の算出部33がタイムステップ毎に算出した熱伝達係数hd-1~hd-5は、図20に示すグラフのようになる。なお、図20に示すグラフは、金型40a内に溶湯50aを注湯し始めてから50secが経過した時点までの算出結果を示している。
【0190】
図14の符号1402に示すように、熱伝達係数hd-1は、第4界面Si4における第1穴41Yaと対向する領域の熱伝達係数である。熱伝達係数hd-2は、第4界面Si4における第2穴41Ybと対向する領域の熱伝達係数である。熱伝達係数hd-3は、第4界面Si4における第3穴41Ycと対向する領域の熱伝達係数である。熱伝達係数hd-4は、第5界面Si5における第4穴41Ydと対向する領域の熱伝達係数である。熱伝達係数hd-5は、第5界面Si5における貫通孔41Ygと対向する領域の熱伝達係数である。熱伝達係数hd-1~hd-5の算出方法は、実施形態1~3と同様である。図20のグラフに示すように、算出箇所によって熱伝達係数が異なる挙動を示している。
【0191】
次に、解析装置400の解析部34が解析した接触圧力Fd-1~Fd-4と熱伝達係数hd-1~hd-4との相関関係は、図21に示すグラフのようになる。図21のグラフに示すように、重力鋳造下で微小な接触圧力Fd-1~Fd-4が第4および第5界面Si4およびSi5に作用する場合であっても、解析装置400は接触圧力Fd-1~Fd-4と熱伝達係数hd-1~hd-4との相関関係を解析できる。
【0192】
〔実施形態5〕
本発明の実施形態5について、以下に説明する。本発明の実施形態5に係る解析装置500は、制御部30が教師データ35aおよび35bを生成する教師データ生成部35を備えている点において、本発明の実施形態1~4に係る解析装置100~400と異なる。また、解析装置500は、解析部34が推定モデル34aおよび34bを構築する点でも解析装置100~400と異なる。
【0193】
<解析装置によるモデル構築処理>
以下、図1を用いて、解析装置500が推定モデル34aおよび34bを構築するまでの一連の処理(モデル構築処理)を具体的に説明する。図1に示す解析装置500の算出部33が熱伝達係数hdおよびhpを算出するまでの一連の処理は、実施形態1~3と同様である。解析装置500の算出部33は、算出したタイムステップ毎の熱伝達係数hdおよびhpを教師データ生成部35に送信する。
【0194】
タイムステップ毎の熱伝達係数hdおよびhpを受信した教師データ生成部35は、解析装置500の不図示の記憶部からタイムステップ毎の接触圧力FdおよびFpを読み出す。そして、教師データ生成部35は、教師データ35aおよび35bを生成する。
【0195】
教師データ35aは、タイムステップ毎に生成された複数の第1単位データセットで構成されている。第1単位データセットは、あるタイムステップにおける接触圧力Fdと熱伝達係数hdとがセットになったデータセットである。教師データ35bは、タイムステップ毎に生成された複数の第2単位データセットで構成されている。第2単位データセットは、あるタイムステップにおける接触圧力Fpと熱伝達係数hpとがセットになったデータセットである。教師データ生成部35は、生成した教師データ35aおよび35bを解析部34に送信する。
【0196】
教師データ35aおよび35bを受信した解析装置500の解析部34は、機械学習することで推定モデル34aおよび34bを構築する。推定モデル34aは、教師データ35aを用いた機械学習によって得られる学習済みモデルであり、教師データ35aを構成しない接触圧力Fdを入力データとして、熱伝達係数hdの推定値を出力する。推定モデル34bは、教師データ35bを用いた機械学習によって得られる学習済みモデルであり、教師データ35bを構成しない接触圧力Fpを入力データとして熱伝達係数hpの推定値を出力する。
【0197】
解析装置500の解析部34が行う機械学習の方法に特段の限定は無く、畳み込みニューラルネットワーク等の公知の方法を採用することができる。また、教師データ生成部35は、解析装置500における制御部30の外部に備わっていてもよいしサーバ等の解析装置500と異なる通信装置に備わっていてもよい。また例えば、解析装置500の制御部30が教師データ生成部35を備えていない替わりに解析部34が教師データ生成部35としての機能を併有し、解析部34が教師データ35aおよび35bを生成してもよい。
【0198】
推定モデル34aは、接触圧力Fdと熱伝達係数hdとの推定された相関関係に基づいて熱伝達係数hdの推定値を出力する学習済みモデルである。また、推定モデル34bは、接触圧力Fpと熱伝達係数hpとの推定された相関関係に基づいて熱伝達係数hpの推定値を出力する学習済みモデルである。したがって、推定モデル34aおよび34bが、解析装置500の解析部34による解析結果となる。このように、解析装置500は、接触圧力Fdと熱伝達係数hdとの相関関係を、教師データ35aを用いた機械学習によって解析できる。また解析装置500は、接触圧力Fpと熱伝達係数hpとの相関関係を、教師データ35bを用いた機械学習によって解析できる。
【0199】
〔ソフトウェアによる実現例〕
解析装置100~300(以下、「装置100~300」)の機能は、当該装置100~300としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現できる。このプログラムは、装置100~300の各制御ブロック(特に制御部30に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。
【0200】
この場合、装置100~300は、前述のプログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により前述のプログラムを実行することにより、各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0201】
前述のプログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、装置100~300が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、前述のプログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して装置100~300に供給されてもよい。
【0202】
また、装置100~300の各制御ブロックにおける機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、前述の各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより前述の各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0203】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0204】
〔実施例〕
本発明の実施例について以下に説明する。本実施例では、算出部33が算出した熱伝達係数hdおよびhpを用いて、特定箇所の温度の実測値と計算値との誤差を算出することにより、算出部33の算出精度を評価した。具体的には、図3および図4に示す測定箇所Pmd1、Pmd2、Pmp1およびPmp2の温度Tmd1、Tmd2、Tmp1およびTmp2のそれぞれについて、実測値と計算値との誤差を算出した。また、本実施例では、算出精度の評価に関する一連の処理を、解析装置100を用いて行った。
【0205】
<器具>
算出精度の評価に用いた器具は次の通りである。金型40として、高さ100mmおよび外径100mmのダイス41と、外径40mmの上パンチ42と、高さ50mmおよび外径40mmの下パンチ43とで構成された金型を用いた。
【0206】
第1センサ10として、第1円柱部分の外径が12mm、最も外径が大きい円柱部分の外径が18mm、全長が150mmの第1センサ本体13を有するものを用いた。第2センサ20として、溶湯側端部の外径が12mm、溶湯側端部の反対側の端部の外径が20mm、全長が128mmの第2センサ本体23を有するものを用いた。また、第1および第2圧力測定部12および22としての歪みゲージを、第1円柱部分の端面および溶湯側端部の端面のそれぞれから60mm以上離れた箇所に溶接して取り付けた。
【0207】
本実施例では、第1および第2センサ10および20のそれぞれについて、室温から約673Kまで50K毎に圧縮特性を特定した。そして、第1および第2センサ10および20のそれぞれに生じる歪みと、これらのセンサに作用する圧縮応力と、の相関関係をキャリブレートした。
【0208】
<鋳造方法>
中空部に下パンチ43をセットした状態のダイス41を油圧プレス機にセットし、約1023Kの溶湯50(ADC12)を中空部に注湯した。次に、油圧プレス機で上パンチ42を加圧しつつ中空部に挿入して、溶湯50を加圧した。そして、溶湯50を上パンチ42で加圧した状態を維持しつつ、溶湯を凝固させた。なお、ダイス41の内側側面および上パンチ42の下側端面に離型剤としてBNスプレーを塗布した。また、油圧プレス機のプレス荷重を5.3tに設定した。
【0209】
<評価方法>
本実施例では、1次元非定常伝熱モデルに基づく熱伝達係数hdおよびhpのそれぞれについて、(i)金型40側の温度のみを推定した場合(実施形態1に対応)の値を算出した。また、(ii)溶湯50側の温度のみを推定した場合(実施形態2に対応)の値も算出した。また、(iii)金型40側および溶湯50側の両方の温度を推定した場合(実施形態3に対応)の値も算出した。さらに、(iv)3次元非定常伝熱モデルに基づく熱伝達係数hdおよびhpのそれぞれについて、金型40側の温度のみを推定した場合の値を算出した。
【0210】
以下、(i)の場合の熱伝達係数hdをhd1とし、熱伝達係数hpをhp1とする。(ii)の場合の熱伝達係数hdをhd2とし、熱伝達係数hpをhp2とする。(iii)の場合の熱伝達係数hdをhd3とし、hpをhp3とする。(iv)の場合の熱伝達係数hdをhd4とし、hpをhp4とする。
【0211】
さらに、比較例として、温度Tmd1、Tmd2、Tmp1およびTmp2の各計算値の算出に一定値1000W/(m・K)の熱伝達係数を用いた。この一定値1000W/(m・K)は、本実施例に係る金型40および溶湯50を用いて鋳造する場合において、一般的に設定される値である。
【0212】
また本実施例では、図22に示すような金型40の3次元モデル(以下、「金型モデル」)を、温度Tmd1、Tmd2、Tmp1およびTmp2の計算値の算出に用いた。金型モデルは、本実施例に係る金型40を中心軸AX(図2参照)方向に8等分したと仮定した場合における金型40全体の1/8モデルである。
【0213】
計算等の便宜のため、図22の金型モデルには、第1および第2センサ10および20、溶湯50ならびに周辺の空気要素を表示しなかった。但し、ダイス41および上パンチ42の各外面は、図22の符号2202に示すように、温度が約323Kの空気に触れているものとした。また、ダイス41および上パンチ42の各外面と空気との間は、熱伝達係数50W/(m・K)で伝熱するものとした。
【0214】
金型モデルは、六面体形状の複数の要素で構成される。本実施例では、要素の各寸法をΔr=Δz=4mm、Δθ=π/24radとした。Δrは中心軸AXからの半径方向の長さであり、Δzは中心軸AX方向の長さであり、Δθは金型40(ダイス41および上パンチ42)の円周方向の角度である。
【0215】
さらに本実施例では、図22の符号2201に示すように、中心軸AXからの半径方向に要素番号iを付け、金型40の円周方向に要素番号jを付け、中心軸AX方向に要素番号kを付けた。金型モデル全体では、要素番号i=1~15、要素番号j=1~6、要素番号k=1~35とし、金型モデルを構成する要素の総数を3240とした。
【0216】
測定箇所Pmd1、Pmd2、Pmp1およびPmp2は、総要素数3240の金型モデルを用いると、図22の符号2202に示すような位置に表示された。具体的には、測定箇所Pmd1は、(i、j、k)=(6、6、19)の位置に表示された。測定箇所Pmd2は、(i、j、k)=(7、6、19)の位置に表示された。測定箇所Pmp1は、(i、j、k)=(1、1、11)の位置に表示された。測定箇所Pmp2は、(i、j、k)=(1、1、10)の位置に表示された。
【0217】
本実施例では、温度Tmd1、Tmd2、Tmp1およびTmp2の実測値として、第1および第2センサ10および20が取得した各値を用いた。また、下記の式(8)~(10)を用いて、温度Tmd1、Tmd2、Tmp1およびTmp2の計算値を算出した。なお、温度Tmd1、Tmd2、Tmp1およびTmp2の計算値を算出する前提として、測定箇所Pmd1、Pmd2、Pmp1およびPmp2のそれぞれが存在する要素以外のすべての要素についても、下記の式(8)~(10)を用いて温度を算出した。
【0218】
【数8】
【0219】
i、j、k´:温度Tmd1、Tmd2、Tmp1およびTmp2[K]
【0220】
【数9】
【0221】
h :熱伝達係数hd1、hd2、hp1およびhp2[W/(m・K)]
λc:100[W/(m・K)](溶湯50の熱伝導率)
【0222】
【数10】
【0223】
λm:35[W/(m・K)]
温度Tmd1など、ダイス41の内側側面に最も近い測定箇所の温度を算出する場合、前述の式(8)および(9)を用いた。同様に、温度Tmp1など、上パンチ42の下側端面に最も近い測定箇所の温度を算出する場合も、前述の式(8)および(9)を用いて温度算出した。一方、温度Tmd2など、ダイス41の内側側面に最も近い測定箇所よりもダイス41の内部側に配置された測定箇所の温度を算出する場合、前述の式(8)および(10)を用いた。同様に、温度Tmp2など、上パンチ42の下側端面に最も近い測定箇所よりも上パンチ42の内部側に配置された測定箇所の温度を算出する場合も、前述の式(8)および(10)を用いた。
【0224】
本実施例では、温度Tmd1およびTmd2のそれぞれについて、熱伝達係数がhd1~hd3の場合および1000W/(m・K)の場合における計算値を算出した。また、温度Tmp1およびTmp2のそれぞれについて、熱伝達係数がhp1~hp3の場合および1000W/(m・K)の場合における計算値を算出した。
【0225】
次に、4種類の平均誤差E1~E5を算出することにより、前述の(i)~(iv)の各場合における算出部33の算出精度を評価した。平均誤差E1は、温度Tmd1、Tmd2、Tmp1およびTmp2のそれぞれについて、前述の(i)の場合における実測値と計算値との誤差を算出し、算出した各誤差の平均値をとったものである。平均誤差E2は、温度Tmd1、Tmd2、Tmp1およびTmp2のそれぞれについて、前述の(ii)の場合における実測値と計算値との誤差を算出し、算出した各誤差の平均値をとったものである。
【0226】
平均誤差E3は、温度Tmd1、Tmd2、Tmp1およびTmp2のそれぞれについて、前述の(iii)の場合における実測値と計算値との誤差を算出し、算出した各誤差の平均値をとったものである。平均誤差E4は、温度Tmd1、Tmd2、Tmp1およびTmp2のそれぞれについて、前述の(iv)の場合における実測値と計算値との誤差を算出し、算出した各誤差の平均値をとったものである。平均誤差E5は、温度Tmd1、Tmd2、Tmp1およびTmp2のそれぞれについて、熱伝達係数が1000W/(m・K)の場合における実測値と計算値との誤差を算出し、算出した各誤差の平均値をとったものである。具体的には、下記の式(11)を用いて平均誤差E1~E5を算出した。
【0227】
【数11】
【0228】
E :平均誤差E1~E5[K]
Tmes:温度Tmd1、Tmd2、Tmp1およびTmp2の実測値[K]
Tcal:温度Tmd1、Tmd2、Tmp1およびTmp2の計算値[K]
本実施例では、算出精度の評価のために、タイムステップ毎の平均誤差E1~E5を算出し、算出結果をプロットしてグラフを作成した。結果、図23に示すようなグラフが得られた。図23に示すグラフの横軸は、ダイス41内に溶湯50を注湯し始めてからの経過時間である。
【0229】
<評価結果>
図23に示すように、平均誤差E5については、経過時間が約17secを越えると値が減少するものの、30sec経過した時点でも誤差が約100Kあり、全体を通じて大きな誤差が生じることが判明した。平均誤差E2については、誤差が最大になる経過時間約12secの時点において、平均誤差E5の約65%の誤差となった。経過時間が約12secを越えると、平均誤差E5の50%前後の誤差で推移した。
【0230】
平均誤差E1、E3およびE4については、経過時間が約10~約13secの間で値が急速に減少し、経過時間が20secを越えると誤差が略ゼロとなった。つまり、前述の(i)、(iii)および(iv)の場合、経過時間が約13secを越えると誤差が略生じなかった。また、これら3つの平均誤差の中では、略すべての経過時間を通じて平均誤差E4の値が最も小さかった。
【0231】
これらのことから、前述の(i)、(iii)および(iv)の場合に、算出部33が非常に高い精度の熱伝達係数hdおよびhpを算出することが判明した。特に前述の(iv)の場合、即ち3次元非定常伝熱モデルを適用して算出する場合に、算出部33の算出精度が最も高くなることが判明した。また、前述の(ii)の場合でも、算出部33が、所定の経過時間以降は一般的に設定される熱伝達係数よりも高い精度になる熱伝達係数hdおよびhpを算出することが判明した。
【符号の説明】
【0232】
11 第1温度測定部(温度測定部)
12 第1圧力測定部(圧力測定部)
13 第1センサ本体(単一部材)
21 第2温度測定部(温度測定部)
22 第2圧力測定部(圧力測定部)
23 第2センサ本体(単一部材)
31 温度取得部
32 圧力取得部
33 算出部
34 解析部
40、40a 金型
40X 空間
41X、41Xa 金属部分
41Y、42X 穴
41Ya 第1穴(穴)
41Yb 第2穴(穴)
41Yc 第3穴(穴)
41Yd 第4穴(穴)
42 上パンチ(金属部分)
43 下パンチ(金属部分)
50 溶湯(溶融体)
81 第3温度測定部(温度測定部)
82 第3圧力測定部(圧力測定部)
82a 膜
83 第3センサ本体(単一部材)
100、200、300、400 解析装置
AX1、AX2 中心軸(単一部材の中心軸)
hd、hp 熱伝達係数
Fd、Fd-1、Fd-2、Fd-3、Fd-4、Fp 接触圧力(界面に作用する圧力)
RHTC 熱抵抗(第1熱抵抗)
RIC 熱抵抗(第2熱抵抗)
Si1 第1界面(界面)
Si2 第2界面(界面)
Si4 第4界面(界面)
Si5 第5界面(界面)
Te1-1、Te2-1、Te3-1、Te4-1、Te1-2、Te2-2、Te3-2、Te4-2、Tmd1、Tmd2、Tmd3、Tmd4、Tmd5、Tmd6、Tmp1、Tmp2、Tmp3、Tmp4、Tmp5、Tmp6 温度(第1温度)
Tcd、Tcp、Td1、Td2、Td3、Td4 温度(第2温度)
Tmde、Tmpe 推定温度(第1推定温度)
Tcde、Tcpe 推定温度(第2推定温度)
Tmds、Tmps 特定温度(第1特定温度)
Tcds、Tcps 特定温度(第2特定温度)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23