(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151666
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】pH勾配を創出するための電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
C02F 1/461 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
C02F1/461 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030588
(22)【出願日】2022-03-01
(31)【優先権主張番号】17/214,404
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】504407000
【氏名又は名称】パロ アルト リサーチ センター インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】ユージーン・エス.・ベー
(72)【発明者】
【氏名】マハティ・チンタパリ
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・マシュー・メックラー
【テーマコード(参考)】
4D061
【Fターム(参考)】
4D061DA03
4D061DA04
4D061DB07
4D061DB20
4D061EA02
4D061EB01
4D061EB04
4D061EB11
4D061EB13
4D061EB16
4D061EB17
4D061EB18
4D061EB19
4D061EB31
4D061EB33
4D061EB35
4D061EB37
4D061ED12
4D061GA07
4D061GC16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】効率的な二酸化炭素の海水からの抽出、または海水への保管を促進する、低いエネルギー消費でバルク液体供給流においてpH勾配を生成するための無膜電気化学デバイス、該デバイスを備えるシステムおよび該システムの操作方法を提供する。
【解決手段】無膜電気化学デバイスは、無膜電気化学セルへの流体供給流入力部、第1の電極、および第2の電極を備える。第1の電極は、流体供給流の第1の部分とプロトン共役酸化反応するように構成された第1のレドックス活物質を含み、第2の電極は、流体供給流の第2の部分とプロトン共役還元反応するように構成された第2のレドックス活物質を含む。流体供給流の第1の部分および第2の部分は分離されている。第1の流出物流は、第1の部分を含み、第1のpHを有し、第2の流出物流は、第2の部分を含み、第1のpHとは異なる第2のpHを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無膜電気化学デバイスであって、
前記無膜電気化学デバイスへの流体供給流入力部と、
前記流体供給流の第1の部分とプロトン共役酸化反応するように構成されている、第1のレドックス活物質を含む第1の電極と、
前記流体供給流の第2の部分とプロトン共役還元反応するように構成されている、第2のレドックス活物質を含む第2の電極であって、前記第1の部分および前記第2の部分が分離されている、第2の電極と、
前記第1の部分を含み、第1のpHを有する第1の流出物流と、
前記第2の部分を含み、前記第1のpHとは異なる第2のpHを有する第2の流出物流と、
を備える、無膜電気化学デバイス。
【請求項2】
前記第1および第2のレドックス活物質のうちの少なくとも1つが、前記第1または第2の電極のうちの少なくとも1つにコーティングされている、請求項1に記載の無膜電気化学デバイス。
【請求項3】
前記第1および第2のレドックス活物質のうちの少なくとも1つが、前記第1または第2の電極のうちの少なくとも1つにグラフト化された有機分子である、請求項1に記載の無膜電気化学デバイス。
【請求項4】
前記第1のレドックス活物質および前記第2のレドックス活物質が、同じである、請求項1に記載の無膜電気化学デバイス。
【請求項5】
前記第1および第2のレドックス活物質のうちの少なくとも1つが、キノン、フェナジン、ピラジン、キノキサリン、およびそれらの誘導体のうちの少なくとも1つであるか、または前記レドックス活物質が、アイオノマーおよびポリマーのうちの少なくとも1つであり、前記アイオノマーおよびポリマーのうちの少なくとも1つが、キノン、フェナジン、ピラジン、キノキサリン、およびそれらの誘導体のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の無膜電気化学デバイス。
【請求項6】
前記第1および第2の電極の各々が、導電性材料、バインダー、および導電性バインダーのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の無膜電気化学デバイス。
【請求項7】
前記流体供給流が、前記第1の電極の第1の表面および前記第2の電極の第1の表面に対して平行に流れ、前記第1の表面が互いに面しており、所定の距離の間隙によって分離されている、請求項1に記載の無膜電気化学デバイス。
【請求項8】
前記第1および第2の電極が、多孔質であり、互いに対向して位置決めされ、前記流体供給流の前記第1の部分が、前記第1の電極を通って流れ、前記流体供給流の前記第2の部分が、前記第2の電極を通って流れる、請求項1に記載の無膜電気化学デバイス。
【請求項9】
前記第1および第2の電極が、多孔質である、請求項1に記載の無膜電気化学デバイス。
【請求項10】
前記第1および第2の電極がエネルギー源に連結されており、前記エネルギー源が、前記第1および第2の電極間に電位が印加されたときに、前記第1のレドックス活物質とのプロトン共役酸化反応および前記第2のレドックス活物質とのプロトン共役還元反応を駆動するように構成されており、前記第1および第2の電極間に印加される前記電位が逆方向になったときに、前記第1のレドックス活物質とのプロトン共役還元反応および前記第2のレドックス活物質とのプロトン共役還元反応を駆動することにより、前記第1の流出物流が前記第2のpHを有し、前記第2の流出物流が前記第1のpHを有するように構成されている、請求項1に記載の無膜電気化学デバイス。
【請求項11】
前記流体供給流が、標的成分を含む、請求項1に記載の無膜電気化学デバイス。
【請求項12】
前記標的成分が、二酸化炭素である、請求項11に記載の無膜電気化学デバイス。
【請求項13】
前記標的成分が、塩である、請求項11に記載の無膜電気化学デバイス。
【請求項14】
システムであって、
流体供給流と、
無膜電気化学デバイスであって、
第1の電位に応答して前記流体供給流の第1の部分とプロトン共役酸化反応するように構成されている、第1のレドックス活物質を含む第1の電極、
第1の電位に応答して前記流体供給流の第2の部分とプロトン共役還元反応するように構成されている、第2のレドックス活物質を含む第2の電極であって、前記第1の部分および前記第2の部分が分離されている、第2の電極、
前記第1の部分を含み、第1のpHを有する第1の流出物流、ならびに
前記第2の部分を含み、前記第1のpHとは異なる第2のpHを有する第2の流出物流、
を備える、無膜電気化学デバイスと、
前記第1および第2の電極間に第1の電位および第2の逆方向電位を印加するように構成されているエネルギー源と、
前記第1のpHを有する流出物流を受容するように構成されている第1の容器と、
前記第2のpHを有する流出物流を受容するように構成されている第2の容器と、
前記第1および第2の流出物流ならびに前記第1および第2の容器と対にされている切換弁と、
を備える、システム。
【請求項15】
前記流出物流が排出される前に前記流出物流の前記pHを第3のpHに増加させるために、前記第1の容器が、前記第1のpHを有する流出物流と反応するように構成されているベース材料を含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記流体供給流が、標的分子または溶質を含み、前記第1の容器が、前記流出物流が排出される前に前記第1のpHを有する前記流出物流と反応して前記標的分子または溶質を分離するように構成されているベース材料を含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項17】
前記第2の流出物流が、二酸化炭素を吸収するように処理される、請求項14に記載のシステム。
【請求項18】
前記切換弁が、前記エネルギー源が前記第1および第2の電極間に前記第1の電位を印加したときに、前記第1の容器に前記第1の流出物流を、そして、前記第2の容器に前記第2の流出物流を誘導するように構成されており、前記エネルギー源が前記第1および第2の電極間に前記第2の逆方向電位を印加したときに、前記第1の容器に前記第2の流出物流を、そして、前記第2の容器に前記第1の流出物流を誘導するように構成されている、請求項14に記載のシステム。
【請求項19】
前記流体供給流が、前記無膜電気化学デバイス内の前記第1の電極の第1の表面に対して平行に、かつ前記無膜電気化学デバイス内の前記第2の電極の第1の表面に対して平行に流れ、前記第1の表面が互いに面しており、所定の距離の間隙によって分離されている、請求項14に記載のシステム。
【請求項20】
前記無膜電気化学デバイスの前記第1および第2の電極が多孔質であり、前記流体供給流の前記第1の部分が、前記第1の電極を通って流れ、前記流体供給流の前記第2の部分が、前記第2の電極を通って流れる、請求項14に記載のシステム。
【請求項21】
方法であって、
無膜電気化学デバイスに前記流体供給流を流すことであって、前記無膜電気化学デバイスが、第1のレドックス活物質を含み、前記流体供給流の第1の部分と接触したときにプロトン共役酸化反応するように構成されている第1の電極と、第2のレドックス活物質を含み、前記流体供給流の第2の部分と接触したときにプロトン共役還元反応するように構成されている第2の電極とを備える、前記流体供給流を流すことと、
前記流体供給流の前記第1の部分を前記第1の電極と接触するように誘導することと、
前記流体供給流の前記第2の部分を前記第2の電極と接触するように誘導することと、
前記第1および第2の電極に電位を印加することと、
前記電位の印加に応答して、前記流体供給流の前記第1の部分と接触している前記第1の電極上の前記第1のレドックス活物質を酸化させることと、
前記電位の印加に応答して、前記流体供給流の前記第2の部分と接触している前記第2の電極上の前記第2のレドックス活物質を還元させることと、
第1のpHを有する第1の流出物流において、前記電気化学デバイスから前記流体供給流の前記第1の部分を除去することと、
前記第1のpHとは異なる第2のpHを有する第2の流出物流において、前記電気化学デバイスから前記流体供給流の前記第2の部分を除去することと、
を含む、方法。
【請求項22】
前記流体供給流の前記第1の部分を誘導することが、前記第1の電極に対して平行に前記流体供給流の前記第1の部分を流すことを含み、前記流体供給流の前記第2の部分を誘導することが、前記第2の電極に対して平行に前記流体供給流の前記第2の部分を流すことを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第1および第2の電極が多孔質であり、前記流体供給流の前記第1の部分を誘導することが、前記第1の電極を通して前記流体供給流の前記第1の部分を流すことを含み、前記流体供給流の前記第2の部分を誘導することが、前記第2の電極を通して前記流体供給流の前記第2の部分を流すことを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記第1および第2の電極に印加される電位を逆方向にして、前記流体供給流の前記第1の部分と接触している前記第1のレドックス活物質におけるプロトン共役還元反応および前記流体供給流の前記第2の部分と接触している前記第2のレドックス活物質におけるプロトン共役酸化反応を駆動することをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記第1の流出物流が排出される前に前記第1のpHを有する第1の流出物流を炭酸イオンリッチなミネラルと反応させて、前記第1の流出物流から標的分子または溶質を放出させることをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記第2の流出物流を気体流に曝露して二酸化炭素を吸収させることをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、流体流内のpH勾配を形成するためのシステムおよびそれを操作する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界の海洋は、炭素サイクルの一部として大気から二酸化炭素(CO2)を吸収する。大気の二酸化炭素レベルが増加するにつれて、海洋によって吸収されるCO2の量も増加する。二酸化炭素が海水に溶解すると、反応して炭酸を創出する。炭酸は、次に、水素イオン(H+)を放出して、炭酸(CO3
-2)および重炭酸(HCO3
-)イオンを形成する。溶解している二酸化炭素、炭酸イオン、および重炭酸イオンの相対分率を決定する海水のpHは、典型的には、約8.3である。これは、海水中に溶解している全炭素の大部分が重炭酸イオンの形態であることを意味する。経時的なこれらの反応の蓄積により、海洋の海水の酸性度が増大して、海洋植物および動物の生活に悪影響を及ぼす。海洋から二酸化炭素を除去することは、海洋が大気からさらに二酸化炭素を除去する容量を提供することに加えて、海洋の海水のpHバランスを回復させるのに役立つ。さらに、除去された二酸化炭素は、隔離することができる、および/またはそうでなければ建築材料(例えば、コンクリート)、日用品化学物質(例えば、ポリマー、カリ)、燃料(例えば、液体炭化水素)、炭素材料(例えば、グラフェン、ナノチューブなど)、および養殖などの様々な産業で使用することができる。
【0003】
海洋水から二酸化炭素を捕捉する1つの方法は、まず水の酸性度を増大させて、溶解している重炭酸および炭酸イオンを二酸化炭素として放出し、次いで、アルカリ度を増大させて、pHを回復させることによる。海洋水のアルカリ度を上昇させるための別の方法は、塩基性化された水を海洋に放出しながら、酸性化した水を一例として炭酸カルシウムの微細懸濁液と混合し、これによって炭酸カルシウムを重炭酸カルシウムに変換することである。様々なグレードの炭酸カルシウムの代わりに、石灰石または他の炭酸リッチなミネラルを代わりに添加してもよい。これらの反応におけるカチオンは、カルシウムである必要はなく、炭酸マグネシウムリッチなミネラルを使用してもよい。いずれの方法も、酸性化流およびアルカリ流を生成することができる両極性膜電気透析を使用して達成することができる。しかしながら、両極性膜の内部における高濃度のヒドロキシドイオンに極近接した高濃度のヒドロニウムイオン(「プロトン」)の生成では、バルク海水中のpH勾配の形成に必要な最小限のエネルギーしか創出されず、これは二酸化炭素抽出にとって非効率的である。効率的な二酸化炭素の海水からの抽出、または海水への保管を促進する、低いエネルギー消費でバルク液体供給流においてpH勾配を生成することを目的とする実施形態が開示される。
【発明の概要】
【0004】
本明細書に記載される実施形態は、無膜電気化学デバイスを目的とする。デバイスは、無膜電気化学デバイスへの流体供給流入力部、第1の電極、および第2の電極を備える。第1の電極は、流体供給流の第1の部分とプロトン共役酸化反応するように構成された第1のレドックス活物質を含み、第2の電極は、流体供給流の第2の部分とプロトン共役還元反応するように構成された第2のレドックス活物質を含む。供給流の第1の部分および第2の部分は分離されている。デバイスは、第1の部分を含み、第1のpHを有する第1の流出物流、および第2の部分を含み、第2のpHを有する第2の流出物流をさらに含む。第2のpHは、第1のpHとは異なる。
【0005】
他の実施形態はシステムを対象とする。システムは、流体供給流、無膜電気化学デバイス、エネルギー源、第1の容器、および第2の容器、および切換弁を備える。無膜電気化学デバイスは、第1の電極、第2の電極、第1の流出物流、および第2の流出物流を備える。第1の電極は、第1の電位に応答して流体供給流の第1の部分とプロトン共役酸化反応するように構成された第1のレドックス活物質を含み、第2の電極は、第1の電位に応答して流体供給流の第2の部分とプロトン共役還元反応するように構成された第2のレドックス活物質を含む。第1の部分および第2の部分は、互いに分離されている。第1の流出物流は、第1の部分を含み、第1のpHを有し、第2の流出物流は、第2の部分を含み、第1のpHとは異なる第2のpHを有する。エネルギー源は、第1および第2の電極間に第1の電位および第2の逆方向電位を印加するように構成されている。第1の容器は、第1のpHを有する流出物流を受容するように構成され、第2の容器は、第2のpHを有する流出物流を受容するように構成されている。切換弁は、第1および第2の流出物流ならびに第1および第2の容器に連結されている。
【0006】
更なる実施形態は方法を対象とする。この方法は、流体供給流を無膜電気化学デバイスに流入させることを含む。デバイスは、第1のレドックス活物質を含む第1の電極を備え、流体供給流の第1の部分と接触したときにプロトン共役酸化反応するように構成されている。デバイスはまた、第2のレドックス活物質を含む第2の電極を備え、流体供給流の第2の部分と接触したときにプロトン共役還元反応するように構成されている。この方法は、流体供給流の第1の部分を第1の電極に接触するように誘導することと、流体供給流の第2の部分を第2の電極に接触するように誘導することと、第1および第2の電極に電位を印加することと、を含む。電位の印加に応答して、流体供給流の第1の部分と接触している第1の電極上の第1のレドックス活物質が酸化され、流体供給流の第2の部分と接触している第2の電極上の第2のレドックス活物質が還元される。第1のpHを有する第1の流出物流において電気化学デバイスから流体供給流の第1の部分を除去し、第1のpHとは異なる第2のpHを有する第2の流出物流において電気化学デバイスから流体供給流の第2の部分を除去する。
【0007】
上記の概要は、開示される各実施形態または本開示の全ての実施を説明することを意図したものではない。図面および以下の詳細な説明は、例示的な実施形態をより具体的に例示する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
以下の考察は、以下の図を参照しており、同じ参照番号は、複数の図において類似の構成要素/同じ構成要素を識別するために使用することができる。しかしながら、所与の図の構成要素を指す数字の使用は、同じ数字でラベル付けされた別の図における構成要素を制限することを意図していない。図面は、必ずしも縮尺どおりではない。
【
図1】特定の実施形態による、pH勾配を使用して標的分子または溶質を捕捉するための無膜電気化学デバイスを備えるシステムのブロック図である。
【
図2】特定の実施形態による、層状無膜電気化学セルの概略図である。
【
図3】特定の実施形態による、フロースルー無膜電気化学セルを備えるシステムのブロック図である。
【
図4】特定の実施形態による、フロースルー無膜電気化学セルの概略図である。
【
図5】特定の実施形態による方法のフロー図である。
【
図6】特定の実施形態による方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
流体流制御を使用して、膜などの物理的バリアを使用することなく、流体流の異なる部分を誘導することができる。例えば、流体流の異なる部分の間の混合を防止するか、または最小限に抑えるように、流体流を制御することができる。これは、流体の層流を制御することによって、および/または流れの異なる部分を所定の方向に沿って誘導することによって達成することができる。2つの部分を混合することなく流体流(例えば、水性流)の別個の部分を制御することにより、電気分解と組み合わせたときに、流体流中の材料の分離、および捕捉が可能になる。例えば、流体流の一部分を酸性化して標的分子または溶質を放出させることによって、流体流中の分子または溶質などの標的成分を捕捉することができる。
【0010】
両極性膜内の境界ではなく2つの別個の電極で流体流においてpH勾配を創出し、流れの酸性化部分の分離を独立して維持することで、すなわち、膜または物理的バリアなしで、分離を実施および維持するのに必要なエネルギーおよびコストが低減される。膜がないと、電気化学デバイスまたはセルの部品がより少なくなり、それによって製造コストが低減される。膜がないことにより、電気化学セルを、より広い範囲のpH値を有する流体(すなわち、電解質)を用いて使用することも可能になり、これによって、より多種多様な(例えば、より安価な)材料を用いた構造も可能になる。例えば、極度に高いまたは低いpHの入力流体流(すなわち、電解質)を用いる電気化学デバイスは、腐食に耐えるように設計された材料の必要性を回避し得る。さらに、電気化学分離セルから膜を除去すると、電解質中の成分に対する耐久性、汚損、および復元力に関連する問題が取り除かれる。無膜システムはまた、電気化学セルの構成要素のうちの少なくともいくつかが、安価および/もしくは使い捨てである、またはそうでなければ周期的にもしくは所定の間隔で交換可能であるように設計される設計パラダイムを切り開く。pH勾配を生成する無膜電気化学セルを伴う様々なシステムについて、本明細書でさらに説明する。
【0011】
図1を参照すると、流体流中のpH勾配を生成することによって、入力流体流102から成分を分離するために無膜電気化学セル100を利用するシステム150が示されている。流体流(例えば、水性流)は、各々がレドックス活物質を含む2つの電極を備える無膜電気化学セルに流入する。入力流102は、無膜電気化学セルを操作した結果として捕捉され得る少なくとも1つの標的分子または溶質を含む。「無膜電気化学セル」という用語は、本明細書で使用されるとき、2つの電極間に位置決めされた膜、または他の非多孔質もしくはイオン選択性のバリアを備えていない電気化学セルを指す。例えば、特定の実施形態では、無膜電気化学セルは、電極間に挿入されたメッシュまたは多孔質セパレータを備えていてもよい。電気化学セル100の電極は、カップリング106Aを介して第1の電極に、そして、カップリング106Bを介して第2の電極に電圧を供給して電極間に電位を印加するエネルギー源104に連結される。
【0012】
電極間に電位が印加されると、第1の電極のレドックス活物質は、電解質(例えば、水)との第1のプロトン共役ファラデー反応を受け、第2の電極のレドックス活物質は、電解質(例えば、水)との第2のプロトン共役ファラデー反応を受け、その結果、ヒドロキシドイオンが生成されるか、またはヒドロニウムイオンが第1の電極に近接して吸収され、そして、ヒドロニウムイオンが生成されるか、またはヒドロキシドイオンが第2の電極に近接して吸収される。さらに、第1および第2のレドックス共役反応は、ナトリウムイオンまたはクロリドイオンなどのヒドロキシドイオンでもヒドロニウムイオンでもないイオンを(例えば、同時に)移動させることもできる。結果として、第1の電極に近接する入力流の第1の部分は、第2の電極に近接する入力流の第2の部分とは異なるpH値を有し、無膜電気化学セル内にpH勾配が創出される。pH勾配は、供給流102の入来(incoming)pHに対するものであるが、例示的な勾配値は、約1~2pH単位、または約2~4pH単位、または約4~6pH単位の範囲を含み得る。pH勾配は、供給流の入来pHを中心とする必要はない。例えば、pH8を有する供給流で、pH5およびpH9の2つの出力流が可能である。
【0013】
pH勾配の混合および中和を防ぐために、第1および第2の部分は、以下にさらに記載するように、制御されたおよび/または誘導された流体流を通して無膜電気化学セル内で分離された状態で保たれる。入力流の第1の酸性部分は、流れ110として無膜電気化学セルから除去され、入力流の第2のアルカリ部分は、流れ112として無膜電気化学セルから除去される。「酸性」および「アルカリ」という用語は、本明細書で使用されるとき、入力流102の初期入来pHに対して定義される。第1のpH測定デバイス108Aは、流れ110と対にされ、第2のpH測定デバイス108Bは、流れ112と対にされる。特定の実施形態では、単一のpH測定デバイスが、流出物流110、112の各々のpHを測定するように構成されている。
【0014】
流出物流110および112は、流れが中和するのを防ぐために、別々の保管容器に排出される。特定の実施形態では、第1の流出物流110は、容器118に分流され、第2の流出物流112は、容器120に分流される。容器118および120は、保管容器と呼ばれるが、システムまたは後続の処理段階からの排出を表す場合もある。例えば、特定の実施形態では、容器のうちの少なくとも1つ(例えば、酸性流出物を含む118)は、酸性流出物とさらに反応し、標的分子または溶質を流出物流110から分離する反応物質を含む。
【0015】
電解質は、それぞれの電極とファラデー反応するため、電気化学セルは、時に、電極間に逆方向電位が印加されることによって操作されることもある。逆方向電位は、必要に応じて、または所定のスケジュールで印加され得る。逆方向電位は、順方向電位が印加される前の状態に回復するように、レドックス活物質を第1および第2の電極上で循環させる効果を有する。逆方向電位が印加されると、ヒドロキシドイオンが吸収されるか、またはヒドロニウムイオンが第1の電極に近接して生成され、そして、ヒドロニウムイオンが吸収されるか、またはヒドロキシドイオンが第2の電極に近接して生成されるように、電極は電解質との反応を交換する。
【0016】
入力流の第1および第2の部分は、依然としてpH勾配を創出し、無膜電気化学セルにおいて分離された状態で保たれるが、pH勾配は逆になる。したがって、第1の電位が印加されたときに流出物流110がより低いpH値を有していた場合、逆方向電位が印加されたときに流出物流110はより高いpH値を有する。同様に、第1の電位が印加されたときに流出物流112がより高いpH値を有していた場合、逆方向電位が印加されたときに流出物流112はより低いpH値を有する。
【0017】
それぞれの流出物流のpH値は印加された電位に基づいて変化するため、切換弁114は、両方の流出物流110、112と対にされる。例えば、第1の電位が印加され、流出物流110がより低いpHを有する場合、流れ110は、経路116Aを通って容器118に分流されるが、逆方向電位が印加されると、流出物流110は、より高いpHを有し、切換弁が作動して、流出物流110を、経路116Bを通って容器120に分流させる。同様に、第1の電位が印加され、流出物流112がより高いpHを有する場合、流れ112は、経路116Bを通って容器120に分流されるが、逆方向電位が印加されると、流出物流112は、より低いpHを有し、切換弁が作動して、流出物が容器118、120内で中和されるのを防ぐために、流出物流112を、経路116Aを通って容器118に分流させる。無膜電気化学セルにおいてpH勾配を創出および維持するために、以下でより詳細に論じるように、入力流の第1および第2の部分は別々に保たれる。
【0018】
特定の実施形態では、システム150は、海水から二酸化炭素を分離するために使用され得る。そのような実施形態では、入力流102は、溶解している電解質の中でもとりわけ、重炭酸および炭酸イオンを含む海水である。セル100を出て、保管容器118に誘導された酸性化された海水は、炭酸/重炭酸イオン/炭酸イオンの平衡に従って、より高濃度の炭酸を含有する。真空または熱蒸発を含む多くの方法を通して、この酸性化された海水から二酸化炭素を取り除くことができる。他の実施形態では、酸性化された海水は、任意選択で、炭素含有ベース材料(例えば、炭酸カルシウムなどの炭酸リッチなミネラルであり、NaHCO3などの重炭酸塩および炭酸を含む)が添加される撹拌機構を備える混合タンク(例えば、容器118または別の任意選択の容器)に誘導される。反応物質は海水と反応してガス状CO2を生成し、酸性度を低下させる。いくつかの実施形態では、炭素含有ベース材料は、外部海水とより高いpHの流れ112との反応によって形成される。
【0019】
代替の実施形態では、ベース材料は酸性化された流れと反応して酸を中和し、その結果、中和された流出物を排出することができ(例えば、海洋に戻すことができ)、他のアルカリ流出物流は炭素捕捉のために使用される。これらの実施形態では、炭酸/重炭酸、ケイ酸、水酸化物、および酸化物、またはこれらの成分リッチなミネラルを含む、より多様なベース材料を使用することができる。塩基性の溶液/流出物を海洋に排出することができ、そこで当該溶液/流出物はアルカリ度を増大させ、海洋に大気からCO2を取り込ませる。他の実施形態では、CO2、例えば、発電もしくは船舶の排気からの排煙、または直接空気捕捉を通して空気から捕捉されたCO2のより濃縮された流れに曝露するかまたは接触させることによって、塩基性流出物流はCO2を取り込むことができる。
【0020】
分離された標的分子または溶質(ここでは、例えば二酸化炭素)を、流出物流から物理的に分離する必要はない。標的成分を化学試薬と反応させて、標的分子または溶質を異なるより穏和な形態に変換することができる。例えば、標的分子が二酸化炭素であり、炭酸カルシウムが酸性化された流に導入され、それと反応する場合、炭酸カルシウムは、式CaCO3+H2CO3→Ca(HCO3)2に従って、溶解している二酸化炭素と反応する。したがって、標的分子または溶質の分離は、1つ以上の流出物流からの標的分子または溶質中の成分の除去とみなすことができる。
【0021】
特定の他の実施形態では、システム150は、海水または他の電解質溶液を脱塩するために使用ことができる。これは、レドックスサイクルがプロトン(またはヒドロキシド)および塩イオンの両方を一緒に(例えば、同時に)移動させる、ビスマス/オキシ塩化ビスマス(Bi/BiOCl)などのレドックス対を選択することによって達成される。この場合、一方の流出物流は脱塩されるが、他方の流出物流は塩に濃縮される。脱塩された流れは、より低いpHを有する流れであってもよく、またはより高いpHを有する流れであってもよい。逆に、濃縮された流れは、より高いpHを有する流れであってもよく、またはより低いpHを有する流れであってもよい。
【0022】
図2は、本明細書では層状無膜電気化学セル200と呼ばれる無膜電気化学セルの特定の実施形態を示す。層状セル200は、第1のレドックス活物質206を含む第1の電極202と、第1の電極に対向して位置決めされた第2のレドックス活物質208を含む第2の電極204と、を備える。第1の電極202および第2の電極204はまた、それぞれのレドックス活物質206、208で全体が構成されていてもよい。この場合、206、208は、層状無膜電気化学セル200の電極として理解されるべきである。特定の実施形態では、第1および第2のレドックス活物質206、208は、Bi/BiOClまたはベンゾキノン/ヒドロキノンなどの同じレドックス対を構成する材料である。他の実施形態では、第1および第2のレドックス活物質206、208は、同じであっても異なっていてもよい。レドックス活物質206、208はまた、キノン、フェナジン、ピラジン、キノキサリン、またはそれらの誘導体のうちの少なくとも1つであってもよい。レドックス活物質はまた、アイオノマーおよびポリマーのうちの少なくとも1つであってもよく、当該アイオノマーおよびポリマーのうちの少なくとも1つは、キノン、フェナジン、ピラジン、キノキサリン、およびそれらの誘導体のうちの少なくとも1つを含む。レドックス活物質206、208は、生産の容易さ、相対的存在量および入手可能性、コスト価格、レドックス反応速度、いずれかのレドックス状態における酸素安定性、いずれかのレドックス状態における水安定性、および入力流210またはその中に溶解している溶質のいずれかのpHとの化学的適合性を含むいくつかの要因に基づいて選択される。
【0023】
特定の実施形態では、レドックス活物質206、208は、
図2に示すように、電極202、204上にコーティングされる。しかしながら、代替の実施形態では、レドックス活物質206、208は、電極202、204上および/または中にグラフト化された有機分子である。例えば、電極202、204の一方または両方は、レドックス活物質206、208と、導電性材料、バインダー、および導電性バインダーのうちの少なくとも1つと、を含み得る。電極202、204は、互いに対向して位置決めされ、その間に間隙が存在する。間隙は、層状セル200内部の液体の層流特性、入力流および出力流の速度、電極の反応速度、および介在する多孔質セパレータ222の有無のうちの1つ以上によって決定される。介在する多孔質セパレータ222が存在する場合、それは平坦であっても、一体型の流路を有していてもよい。層状セル200への外的加圧から介在する多孔質セパレータ222に圧力が加えられてもよく、当該圧力は第1および第2の電極202、204を通して誘導される。電極202、204自体も、平坦であっても、一体型の流路を有していてもよい。
【0024】
層状無膜電気化学セル200では、矢印210によって示される入力流体流は、第1および第2の電極202、204に対して実質的に平行にセル200に流入し、その結果、
図2に示すように、入力流体流210が電極202、204の各々の主表面および対向する表面と接触する。したがって、入力流210の層流は、矢印210によって示される同じ方向に流れる層または部分とみなすことができる。例えば、第1の部分212または層流は、第1の電極202に近接していてよく、第2の部分214または層流は、第2の電極206に近接していてよい。電位が電極202、204間に印加されると、電極のレドックス活物質206、208は、電極202、204に近接する電解質とプロトン共役ファラデー反応する。例えば、ヒドロキシドイオンが吸収されるか、またはヒドロニウムイオンが第1の電極202に近接して生成され、それによって、第1の部分212の酸性度が増大し、そして、ヒドロニウムイオンが吸収されるか、またはヒドロキシドイオンが第2の電極204に近接して生成され、それによって、第2の部分214のアルカリ度が増大する。
【0025】
第1および第2の部分の両方の層流は、別個の部分がセル200を通って流れるときに、第1の電極202に近接した酸性の第1の部分212と、第2の電極204に近接するアルカリ性の第2の部分214との間の混合を最小限に抑えるかまたは低減し、当該部分を維持するように制御される。例えば、流れは、層状無膜電気化学セル200の入力部または出力部に位置決めされた1つ以上のポンプによって制御され得る。さらに、存在する場合、電極202、204の一方または両方における一体型の流路は、第1および第2の部分212、214の層流を誘導することに加えて、レドックス反応のための電極表面積を増加させるのを支援する。
【0026】
第1および第2の部分212、214が層状無膜電気化学セル200を出るとき、それらは、異なるpH流の分離を維持するために、物理的バリア220(例えば、非透過性の壁)によって分離されている。図示されるように、第1の流出物流216は、より低いpHを有し、第2の流出物流218は、より高いpHを有する。次いで、流出物流は、システム150に関して上述したように分流され得る。
【0027】
図3は、本明細書ではフロースルー無膜電気化学セル300と呼ばれる無膜電気化学セルを利用するシステム350の様々な実施形態を示す。フロースルーセル300は、第1のレドックス活物質を含む第1の透過性電極302と、第1の電極302に対向して位置決めされた第2のレドックス活物質を含む第2の透過性電極304とを備え、入力供給流は、それぞれの電極302、304を通って流れる。上記のように、電極302、304は、導電性材料、バインダー、および導電性バインダーのうちの1つ以上と共に同じレドックス活物質を含み得る。また上記のように、レドックス活物質は、電極上にコーティングされてもよく、または電極の上もしくは中にグラフト化されてもよい。
【0028】
フロースルー無膜電気化学セル300では、矢印310によって示される入力流体流は、第1の方向にセル300に流入し、次いで、
図3に示されるように、対向する電極302、304を通って直交方向に分流される。入力は2つの対向する流れとして示されているが、単一の入力流も使用してよい。上述の層状無膜電気化学セルと同様に、電位が電極間に印加されると、電極302、304のレドックス活物質は、電極302、304に近接する電解質とプロトン共役ファラデー反応する。例えば、ヒドロキシドイオンが吸収されるか、またはヒドロニウムイオンが第1の電極302に近接して生成され、それによって、第1の部分312の酸性度が増大し、そして、ヒドロニウムイオンが吸収されるか、またはヒドロキシドイオンが第2の電極304に近接して生成され、それによって、第2の部分314のアルカリ度が増大する。
【0029】
第1および第2の電極302、304の各々を通る流れは、別個の部分が別個の対向する経路316、318を通ってセル300を出るときに、第1の電極302に近接する酸性の第1の部分312を第2の電極304に近接するアルカリ性の第2の部分314から離れた状態で維持するように制御される。流れは、例えば、フロースルー無膜電気化学セル300の1つ以上の入力部または出力部に位置決めされた1つ以上のポンプによって制御され得る。別個の経路316、318は、異なるpH流の分離を維持し、例えば、第1の流出物流316は、より低いpHを有し得、第2の流出物流318は、より高いpHを有し得る。上述のように、フロースルーセル300の壁も、流路および/または介在する多孔質セパレータを備えていてよい。フロースルー電気化学セル300は、分離システム350の一部として示されている。
【0030】
分離システム350は、第1および第2の電極302、304を、第1の電極306Aおよび第2の電極306Bに電圧を供給して電極302、304間に電位を印加するエネルギー源306に連結させる。上述のように、エネルギー源306は、第1の電位および逆方向電位をセル300に印加するように構成されている。第1のpH測定デバイス308Aは、流出物流316と対にされ、第2のpH測定デバイス308Bは、流出物流318と対にされる。特定の実施形態では、単一のpH測定デバイスが、流出物流316、318の各々のpHを測定するように構成されている。
【0031】
流出物流316および318は、流れが中和するのを防ぐために、別々の保管容器に排出される。特定の実施形態では、第1の流出物流316は、経路326を介して容器322に分流され、第2の流出物流318は、経路328を介して容器324に分流される。容器322および324は、保管容器と呼ばれるが、システムまたは後続の処理段階からの排出を表す場合もある。例えば、特定の実施形態では、容器のうちの少なくとも1つ(例えば、酸性流出物を含む322)は、酸性流出物とさらに反応し、標的分子または溶質を流出物流316から分離する反応物質を含む。上記のように、切換弁320は、経路326、328によって運ばれる流出物流を切り換えるために、電極間に印加された電位に基づいて流出物流316、318の出力を制御する。他の実施形態では、酸性化された海水は、1つ以上の反応物質(例えば、炭酸カルシウム)が添加され、海水と反応し、それによって、流出物の酸性度を低下させる撹拌機構を任意選択で備える混合タンクに誘導される。
【0032】
図4は、フロースルー無膜電気化学セル400の代替の実施形態を示す。セル400は、第1および第2の透過性または多孔質の電極の位置決めを除いて、
図3のものと同様である。多孔質電極は、様々な構成で位置決めすることができるが、フロースルーセル400では、電極402、404は、対向するのではなく、互いに向かって収束する角度で位置決めされている。第1の電極402は、セル400の第1の壁422から内部の不透過性壁420に向かって延び、第2の電極404は、セル400の第2の壁424から壁420に向かって延びる。第1および第2の電極402、404に電位が印加されると、ヒドロキシドイオンが吸収されるか、またはプロトン共役酸化反応が起こる電極に近接してヒドロニウムイオンが生成され、そして、ヒドロニウムイオンが吸収されるか、またはプロトン共役還元反応が起こる電極に近接してヒドロキシドイオンが生成される。
【0033】
供給流の入力部には非多孔質膜も物理的バリアも存在しない。しかしながら、上述のように、フロースルーセル400の壁422、424はまた、入力部および/もしくは電極402、404に近接する流路、ならびに/またはセル400を通る流れの誘導を支援するための介在する多孔質セパレータを備えていてもよい。供給流410の第1の部分412が第1の電極402を通過した後、それは、第2の電極404を通過する第2の部分414から壁420によって分離される。次いで、流出流416、418は、上述のように保管、処理、および/または排出され得る。
【0034】
上記の無膜電気化学セルを使用してpH勾配を創出するための方法は、
図5および
図6に記載されている。
図5は、無膜電気化学セルの前半のサイクル操作を示す。この方法は、無膜電気化学セルに供給流を提供することを含む502。供給流は、水性であってよく、流れから分離される少なくとも1つの標的分子または溶質を含む。第1および第2の電極間に電位が印加される504。例えば、第1の電極は、アノードとして充電され、第2の電極は、カソードとして充電される。供給流の第1の部分は、(様々な無膜電気化学セルの実施形態で上述したように)第1の電極と接触するように誘導されて、供給流の第1の部分における第1の電極のレドックス活物質とのプロトン共役酸化反応を駆動する506。酸化反応は、供給流の第1の部分の酸性度を増大させ、それによって、第1の電極に近接する第1の部分のpH値を低下させる。供給流の第2の部分は、(様々な無膜電気化学セルの実施形態で上述したように)第2の電極と接触するように誘導されて、第2の電極のレドックス活物質とのプロトン共役還元反応を駆動する508。還元反応は、供給流の第2の部分のアルカリ性度を増大させ、それによって、第2の電極に近接する第2の部分のpH値を上昇させる。したがって、電極間に印加される電位は、電気化学セルにおける供給流内にpH勾配を創出する。
【0035】
次いで、対向する電極での供給流の酸性部分およびアルカリ部分は、無膜電気化学セルから別々に除去される。第1のpHを有する第1の流出物流において供給流の第1の部分が除去され510、第2のpHを有する第2の流出物流において供給流の第2の部分が除去される512。上記のように、第1および第2のpH値は異なる。例えば、第1のpHは、供給流および第2のpHよりも低く(すなわち、より酸性である)、同様に、第2のpHは、供給流および第1のpHよりも高い(すなわち、よりアルカリ性)。上でより詳細に説明したように、第1および第2の流出物流は、別々に保管されてもよく、および/または標的成分を捕捉もしくは利用するためにさらに処理されてもよい。
【0036】
電極におけるレドックス活物質に充電容量限界を課す、無膜電気化学セル内の電極におけるファラデー反応により、電極間に印加される電位は、周期的に逆方向になる。ここで、周期的にとは、必要に応じて時折電位を逆方向にすることを指す場合もあり、または設定されたスケジュールで電位を逆方向にすることを指す場合もある。逆方向にする持続時間および電位は、順方向の逆方向になっていない操作中のものに等しい必要はない。
図6は、
図5に示す半サイクルを補完する後半サイクル操作を示す。
【0037】
図6の方法は、
図5に記載されるように無膜電気化学セルを操作して、供給流においてpH勾配を生成することを含む602。しかしながら、第1の電極がカソードとして充電され、第2の電極がアノードとして充電されるように、第1および第2の電極間に印加される電位は、逆方向にされる604。供給流の第1の部分は、(様々な実施形態で上述したように)第1の電極に接触するように依然として誘導されているが、この半サイクルでは、第1の電極のレドックス活物質とのプロトン共役還元反応を駆動し、それによって、第1の電極に近接する供給流の第1の部分のpHおよびアルカリ性度を、
図5に関連して上述した第2のpH値程度まで上昇させる606。供給流の第2の部分は、(様々な実施形態で上述したように)第2の電極に接触するように誘導されて、第2の電極のレドックス活物質とのプロトン共役酸化反応を駆動し、それによって、供給流の第2の部分の酸性度を増大させ、第2の電極に近接する第2の部分のpH値を、
図5に関連して上述した第1のpH値程度まで低下させる608。したがって、電極間に印加される電位は、無膜電気化学セルにおける供給流内で、
図5の方法と反対のpH勾配を創出する。
【0038】
次いで、対向する電極で分離されている酸性部分およびアルカリ部分は、無膜電気化学セルから別々に除去される。しかし、逆方向の半サイクルでは、第2のpHを有する第1の流出物流において供給流の第1の部分が除去され、第1のpHを有する第2の流出物流において供給流の第2の部分が除去される。異なるpH値を有する流出物流の分離を維持するために、切換弁が、無膜電気化学セルから下流の流出物流と対にされる。電気化学セルの逆方向の半サイクル操作中に、切換弁を作動させて流出物流を切り替え、その結果、流出物流が同じまたはほぼ同じpHで保管容器に送達される610。例えば、第1の流出物流が
図5の半サイクル中に第1の保管タンクに保管される場合、同様のpH値を有する流れを一緒に維持するために、第2の流出物流は、
図6の逆方向の半サイクル中に第1の保管タンクに保管されるように分流される。特定の実施形態では、保管された流出物流の一方または両方は、標的分子または溶質を捕捉するために流れをさらに反応させることによってさらに処理される612。例えば、流出物から二酸化炭素を捕捉するために、低pH流出物を、上述のように、炭酸リッチなミネラルと反応させてよい。
【0039】
上記のように、無膜電気化学セルを対象とする様々な実施形態を使用して、標的分子または溶質の成分を分離および/または捕捉するために使用することができるpH勾配を創出することができる。膜がないと、電気化学セルは耐久性が向上し、少量のエネルギーを消費しながらpH勾配を生成することができる。これらの無膜電気化学セルは、例えば、海水から二酸化炭素を除去するためまたは脱塩のために使用され得る。
【0040】
本明細書に記載の全ての場合において、電極上のレドックス活物質は、完全に還元または完全に酸化されているかどうかにかかわらず、1の酸化状態だけでなく、レドックス対の任意の中間充電状態も含むと理解されるべきである。例えば、1:1モル比のビスマスとオキシ塩化ビスマスでコーティングされた電極は、50パーセントの充電状態であるとみなされ、本発明の目的のために、1種類のレドックス活物質でコーティングされているとみなされるべきである。別の例として、レドックス活性キノン部分を含有するポリマーでコーティングされた電極は、ポリマー上の全てのキノン部分がその還元状態であるか、酸化状態であるか、またはそれらの任意の組み合わせであるかどうかにかかわらず、1種類のレドックス活物質を含むとみなされる。同じレドックス対の異なる充電状態を有する2つの電極は、同じレドックス活物質を含むと理解される。
【0041】
特段の指示がない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用される特徴サイズ、量および物理的特性を表す全ての数は、全ての場合において、「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、それと異なる指示がない限り、前述の明細書および添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本明細書に開示される教示を利用して当業者が得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。端点による数値範囲の使用は、その範囲内の全ての数(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、および5を含む)、ならびにその範囲内の任意の範囲を含む。
【0042】
前述の説明は、例解示および説明の目的のために提示されている。これは、網羅的であること、または実施形態を、開示される形態に厳密に限定することを意図するものではない。また、実施形態を、水性インクまたは水を含有するインクに限定することを意図するものではない。上記の教示に照らして、多くの修正および変形が可能である。開示される実施形態の任意のまたは全ての特徴は、個別にまたは任意の組み合わせで適用することができ、限定することを意図するものではなく、単に例解的なものである。本発明の範囲は、この「発明を実施するための形態」に限定されるものではなく、むしろ本明細書に添付の「特許請求の範囲」によって決定されることが意図される。