(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151715
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】アルミニウムの陽極酸化皮膜用封孔処理液、及びアルミニウムの陽極酸化皮膜用封孔処理液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 11/18 20060101AFI20220929BHJP
A01N 59/16 20060101ALN20220929BHJP
A01P 3/00 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
C25D11/18 301G
A01N59/16 A
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038006
(22)【出願日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2021050523
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 佑也
(72)【発明者】
【氏名】原 健二
(72)【発明者】
【氏名】田中 克幸
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011AA04
4H011BB18
(57)【要約】
【課題】本発明は、アルミニウムの陽極酸化皮膜の封孔性に優れており、アルミニウムの陽極酸化皮膜に封孔処理を施すことにより、当該陽極酸化皮膜に抗菌性、防カビ性、及び、抗ウイルス性を付与することができ、且つ、当該陽極酸化皮膜の黄変が抑制される封孔処理液を提供する。
【解決手段】アルミニウムの陽極酸化皮膜用封孔処理液であって、
(1)銀化合物、及び、
(2)芳香族スルホン酸化合物
を含有することを特徴とする封孔処理液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムの陽極酸化皮膜用封孔処理液であって、
(1)銀化合物、及び、
(2)芳香族スルホン酸化合物
を含有することを特徴とする封孔処理液。
【請求項2】
前記芳香族スルホン酸化合物は、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム及びその縮合物、ナフタレンスルホン酸及びその縮合物、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びその縮合物、ベンゼンスルホン酸及びその縮合物、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸及びその縮合物、並びに、それらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の封孔処理液。
【請求項3】
前記封孔処理液中の前記芳香族スルホン酸化合物の含有量は、100g/L以下である、請求項1又は2に記載の封孔処理液。
【請求項4】
前記銀化合物は、硝酸銀、酢酸銀、炭酸銀、硫酸銀、及び、リン酸銀からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれかに記載の封孔処理液。
【請求項5】
前記封孔処理液中の銀化合物の含有量は、0.01~10g/Lである、請求項1~4のいずれかに記載の封孔処理液。
【請求項6】
更に、酢酸ニッケル、酢酸マグネシウム、及び、酢酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種の封孔処理成分を含有する、請求項1~5のいずれかに記載の封孔処理液。
【請求項7】
pHが3.0~7.0である、請求項1~6のいずれかに記載の封孔処理液。
【請求項8】
アルミニウムの陽極酸化皮膜用封孔処理液の製造方法であって、
(i)溶媒に銀化合物を添加する工程1、
(ii)工程1の後に、更に、溶媒に芳香族スルホン酸化合物を添加する工程2、及び、(iii)工程2の後に、更に、溶媒に酢酸ニッケル、酢酸マグネシウム、及び、酢酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種の封孔処理成分を添加する工程3
を含むことを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムの陽極酸化皮膜用封孔処理液、及びアルミニウムの陽極酸化皮膜用封孔処理液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムの陽極酸化皮膜には、汚れ防止、耐食性の向上等を達成するため封孔処理を施すのが一般的である。封孔処理方法としては、沸騰水封孔、水蒸気封孔、酢酸ニッケル水溶液等を用いて封孔処理を行う酢酸ニッケル封孔等の、封孔処理液を用いた封孔処理が知られている。封孔処理液には、封孔性に優れることが要求される。
【0003】
アルミニウムに陽極酸化処理を施した後、銀、銅、亜鉛及びニッケル等の金属塩を含む熱水中に浸漬し、陽極酸化皮膜に抗菌性を付与する表面処理方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、陽極酸化皮膜に抗菌性を付与するために、銀化合物を含有する封孔処理液を用いて陽極酸化皮膜に封孔処理を施すと、当該封孔処理により陽極酸化皮膜の表層に存在する銀又はAg+が経時的に還元されて黄色くなることにより、陽極酸化皮膜の表面が黄変するという問題がある。
【0005】
また、近年では様々な物品に対して抗菌性だけでなく、防カビ性、抗ウイルス性が要求される。上述の陽極酸化皮膜にも、抗菌性に加え、防カビ性、抗ウイルス性を示すことが要求されている。
【0006】
従って、アルミニウムの陽極酸化皮膜の封孔性に優れており、アルミニウムの陽極酸化皮膜に封孔処理を施すことにより、当該陽極酸化皮膜に抗菌性、防カビ性、及び、抗ウイルス性を付与することができ、且つ、当該陽極酸化皮膜の黄変が抑制される封孔処理液の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アルミニウムの陽極酸化皮膜の封孔性に優れており、アルミニウムの陽極酸化皮膜に封孔処理を施すことにより、当該陽極酸化皮膜に抗菌性、防カビ性、及び、抗ウイルス性を付与することができ、且つ、当該陽極酸化皮膜の黄変が抑制される封孔処理液を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、製造された封孔処理液の白濁が抑制されており、液安定性に優れた封孔処理液を製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、アルミニウムの陽極酸化皮膜用封孔処理液であって、(1)銀化合物、並びに、(2)芳香族スルホン酸化合物からなる群より選択される少なくとも1種の芳香族化合物を含有する封孔処理液によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記のアルミニウムの陽極酸化皮膜用封孔処理液、及びアルミニウムの陽極酸化皮膜用封孔処理液の製造方法に関する。
1.アルミニウムの陽極酸化皮膜用封孔処理液であって、
(1)銀化合物、及び、
(2)芳香族スルホン酸化合物
を含有することを特徴とする封孔処理液。
2.前記芳香族スルホン酸化合物は、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム及びその縮合物、ナフタレンスルホン酸及びその縮合物、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びその縮合物、ベンゼンスルホン酸及びその縮合物、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸及びその縮合物、並びに、それらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の封孔処理液。
3.前記封孔処理液中の前記芳香族スルホン酸化合物の含有量は、100g/L以下である、項1又は2に記載の封孔処理液。
4.前記銀化合物は、硝酸銀、酢酸銀、炭酸銀、硫酸銀、及び、リン酸銀からなる群より選択される少なくとも1種である、項1~3のいずれかに記載の封孔処理液。
5.前記封孔処理液中の銀化合物の含有量は、0.01~10g/Lである、項1~4のいずれかに記載の封孔処理液。
6.更に、酢酸ニッケル、酢酸マグネシウム、及び、酢酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種の封孔処理成分を含有する、項1~5のいずれかに記載の封孔処理液。
7.pHが3.0~7.0である、項1~6のいずれかに記載の封孔処理液。
8.アルミニウムの陽極酸化皮膜用封孔処理液の製造方法であって、
(i)溶媒に銀化合物を添加する工程1、
(ii)工程1の後に、更に、溶媒に芳香族スルホン酸化合物を添加する工程2、及び、(iii)工程2の後に、更に、溶媒に酢酸ニッケル、酢酸マグネシウム、及び、酢酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種の封孔処理成分を添加する工程3
を含むことを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の封孔処理液は、アルミニウムの陽極酸化皮膜の封孔性に優れており、アルミニウムの陽極酸化皮膜に封孔処理を施すことにより、当該陽極酸化皮膜に抗菌性、防カビ性、及び、抗ウイルス性を付与することができ、且つ、当該陽極酸化皮膜の黄変が抑制される。
【0013】
また、本発明の製造方法は、製造された封孔処理液の白濁が抑制されており、液安定性に優れた封孔処理液を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
1.封孔処理液
本発明の封孔処理液は、アルミニウムの陽極酸化皮膜用封孔処理液であって、(1)銀化合物、並びに、(2)芳香族スルホン酸化合物からなる群より選択される少なくとも1種の芳香族化合物を含有することを特徴とする。
【0016】
上記特徴を有する本発明の封孔処理液は、(1)銀化合物を含有するので、陽極酸化皮膜に抗菌性、防カビ性、及び、抗ウイルス性を付与することができる。銀化合物を含有する従来の封孔処理液は、封孔処理により陽極酸化皮膜の表層に存在する銀又はAg+が経時的に還元されて黄色くなることにより、陽極酸化皮膜の表面が黄変するという問題がある。しかしながら、本発明の封孔処理液は、更に(2)芳香族スルホン酸化合物からなる群より選択される少なくとも1種の芳香族化合物を含有することにより、Ag+が還元されて、緑色の澄明な封孔処理液が黒色化し、その後の経時的な色の変化が抑制される。このため、本発明の封孔処理液を用いて陽極酸化皮膜に封孔処理を施すと、当該封孔処理による陽極酸化皮膜の表面の経時的な黄変が抑制される。更に、本発明の封孔処理液は、(1)及び(2)の構成を備えることにより、優れた封孔性を示すことができる。
【0017】
(銀化合物)
本発明の封孔処理液は、銀化合物を含有する。本発明の封孔処理液が銀化合物を含有することにより、封孔処理された陽極酸化皮膜に抗菌性、防カビ性、及び、抗ウイルス性を付与することができる。
【0018】
銀化合物としては、銀を含有し、水に可溶であれば特に限定されない。銀化合物としては、硝酸銀、酢酸銀、炭酸銀、硫酸銀、及び、リン酸銀等が挙げられる。これらの中でも、より一層水への溶解度が高い点で、硝酸銀が好ましい。
【0019】
上記銀化合物は、1種単独で、又は、2種以上を混合して用いることができる。
【0020】
封孔処理液中の銀化合物の含有量は、0.05~5g/Lが好ましく、0.1~1g/Lがより好ましい。銀化合物の含有量の下限が上記範囲であることにより、封孔処理された陽極酸化皮膜により一層高い抗菌性、防カビ性、及び、抗ウイルス性を付与することができる。また、銀化合物の含有量の上限が上記範囲であることにより、封孔処理液の液安定性がより一層向上する。
【0021】
(芳香族化合物)
本発明の封孔処理液は、芳香族スルホン酸化合物を含有する。本発明の封孔処理液が芳香族スルホン酸化合物を含有することにより、封孔処理された陽極酸化皮膜の表面の経時的な黄変が抑制される。
【0022】
芳香族スルホン酸化合物としては特に限定されず、ベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸塩化合物や、ベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸塩骨格に、アルキル基、ポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンアルキルエーテル基、カルボキシル基、カルボニル基、水酸基、アルコール基、ビニル基やアリル基等のアルキレン基や多重結合を持つ基、さらなるスルホン酸基が置換した化合物等が挙げられ、また、これらの化合物のホルマリン等での重縮合物、並びに共重合物等が挙げられる。このような芳香族スルホン酸化合物としては例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ならびにそれらのホルマリン等重縮合物、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン等重縮合物、アルキルベンゼンスルホン酸塩やアルキルナフタレンスルホン酸塩等からの共重合物等が挙げられる。これらの中でも、より一層封孔処理液の液安定性が向上する点で、アルキルナフタレンスルホン酸塩の共重合物が好ましい。
【0023】
芳香族スルホン酸化合物は、具体的には、芳香族スルホン酸塩骨格に、水素、アルキル基、ポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンアルキルエーテル基、カルボニル基、水酸基、アルキレン基、及び、スルホン酸基からなる群より選択される少なくとも1種の基が置換された芳香族スルホン酸化合物が好ましく、これらの縮合物であってもよい。
【0024】
芳香族スルホン酸化合物としては、より具体的には、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム及びその縮合物、ナフタレンスルホン酸及びその縮合物、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びその縮合物、ベンゼンスルホン酸及びその縮合物、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸及びその縮合物、並びに、それらの塩からなる群より選択される少なくとも1種のスルホン酸化合物を用いることが好ましい。
【0025】
上記芳香族スルホン酸化合物は、1種単独で、又は、2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
封孔処理液中の芳香族スルホン酸化合物の含有量は、0.5g/L以上が好ましく、1g/L以上がより好ましく、1.3g/L以上が更に好ましい。また、封孔処理液中の芳香族スルホン酸化合物の含有量は、50g/L以下が好ましく、10g/L以下がより好ましい。芳香族スルホン酸化合物の含有量の上限が上記範囲であることにより、封孔処理液の液安定性がより一層向上する。また、芳香族スルホン酸化合物の含有量の下限が上記範囲であることにより、封孔処理された陽極酸化皮膜の表面の経時的な黄変がより一層抑制される。
【0027】
(封孔処理液成分)
本発明の封孔処理液は、封孔処理成分を含有することが好ましい。本発明の封孔処理液が封孔処理成分を含有することにより、アルミニウムの陽極酸化皮膜の封孔性がより一層向上する。
【0028】
封孔処理成分としては、アルミニウムの陽極酸化皮膜の封孔処理に用いることができる封孔処理成分であれば特に限定されず、金属塩等が挙げられる。
【0029】
上記金属塩としては、遷移金属塩、アルカリ金属塩、及びアルカリ土類金属塩からなる群より選択される少なくとも1種の金属塩が挙げられる。上記遷移金属塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩としては特に限定されないが、水溶性のものが好ましく、カルボン酸塩、スルファミン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、有機スルホン酸塩等が挙げられる。これらの中でも、封孔処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜が耐汚染性により一層優れる点で、酢酸塩、カルボン酸塩、スルファミン酸塩、硫酸塩、硝酸塩が好ましく、酢酸塩、硝酸塩がより好ましく、酢酸塩が更に特に好ましい。
【0030】
上記金属塩に含まれる金属としては、銀以外の遷移金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属であれば特に限定されず、具体的には、Ni、Cu、Zn、Li、Be、Na、Mg、K、Ca、Rb、Sr、Cs、Ba、Fr、Raが挙げられる。これらの中でも、封孔処理されたアルミニウムの陽極酸化皮膜の耐汚染性がより一層向上する点で、Ni、Cu、Zn、Na、Mg、K、Ca、Liの金属塩が好ましく、Ni、Mg、Liの金属塩がより好ましく、Niの金属塩であることが更に好ましい。
【0031】
上記封孔処理成分としては、酢酸ニッケル、酢酸マグネシウム、及び、酢酸リチウムが好ましく、酢酸ニッケルがより好ましい。
【0032】
上記封孔処理成分は、1種単独で、又は、2種以上を混合して用いることができる。
【0033】
封孔処理液中の封孔処理成分の含有量は、2~10g/Lが好ましく、3~7g/Lがより好ましく、4~6g/Lが更に好ましい。封孔処理成分の含有量の下限が上記範囲であることにより、アルミニウムの陽極酸化皮膜の封孔性がより一層向上する。また、封孔処理成分の含有量の上限が上記範囲であることにより、封孔処理液の液安定性がより一層向上する。
【0034】
(錯化剤)
本発明の封孔処理液は、錯化剤を含んでいてもよい。本発明の封孔処理液が錯化剤封孔処理成分を含有することにより、封孔処理液の液安定性がより一層向上する。
【0035】
錯化剤としては、例えば、EDTA、EDTA-2Na等のキレート剤又はその金属塩;クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸又はそのアルカリ金属塩;グリシン等のアミノ酸;エチレンジアミン、アルキルアミン等のアミン類;その他のアンモニウム、ピロリン酸(塩)等が挙げられる。これらの中でも、封孔処理液の液安定性がより一層向上する点で、EDTA、EDTA-2Na、及び、エチレンジアミンがより好ましい。
【0036】
上記錯化剤は、1種単独で、又は、2種以上を混合して用いることができる。
【0037】
封孔処理液中の錯化剤の含有量は、0.05~2.5g/Lが好ましく、0.15~1.5g/Lがより好ましく、0.5~1g/Lが更に好ましい。錯化剤の含有量の下限が上記範囲であることにより、封孔処理液の液安定性がより一層向上する。また、錯化剤の含有量の上限が上記範囲であることにより、封孔処理液の液安定性がより一層向上する。
【0038】
(pH調整剤)
本発明の封孔処理液は、更に、pH調整剤を含んでいてもよい。pH調整剤としては特に限定されず、従来公知のpH調整剤を用いることができる。
【0039】
封孔処理液を酸性側に調整するためのpH調整剤としては、例えば、酢酸、スルファミン酸、硫酸、硝酸、有機スルホン酸等の希釈水溶液が挙げられる。これらの中でも、封孔性能に優れる点で、硝酸、酢酸が好ましい。
【0040】
封孔処理液をアルカリ性側に調整するためのpH調整剤としては、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が挙げられる。これらの中でも、封孔性能に優れる点で、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0041】
上記pH調整剤は、一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0042】
封孔処理液中のpH調整剤の濃度は特に限定されず、0~0.25g/Lが好ましく、0~0.15g/Lがより好ましく、0~0.1g/Lが更に好ましい。pH調整剤の濃度が上記範囲であることにより、封孔処理液が十分な封孔性能を示すことができ、封孔処理液により封孔処理された陽極酸化皮膜の封孔度の低下を抑制することができる。
【0043】
(その他の成分)
本発明の封孔処理液は、封孔性能や液の使用実用性を向上させるために、必要に応じて消泡剤等の添加剤成分を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、ノニオン性界面活性剤等の消泡剤等が挙げられる。
【0044】
(封孔処理液)
本発明の封孔処理液のpHは、3.0~7.0が好ましく、5.0~6.0がより好ましい。pHを上記範囲とすることにより、封孔処理液の封孔性がより一層向上する。
【0045】
本発明の封孔処理液は、上記銀化合物、及び、上記芳香族化合物を含有していればその他の成分は特に限定されないが、上述の各成分を含有する水溶液であることが好ましい。
【0046】
本発明の封孔処理液は、アルミニウムの陽極酸化皮膜用封孔処理液である。アルミニウムとしては、純アルミニウム、及びアルミニウム合金が挙げられる。
【0047】
上記アルミニウムの陽極酸化皮膜としては特に限定されず、一般的な純アルミニウム、又は、アルミニウム合金に硫酸、シュウ酸等を用いた公知の陽極酸化法を適用して得られたアルミニウムの陽極酸化皮膜であればよい。
【0048】
アルミニウム合金としては特に限定的ではなく、各種のアルミニウム主体の合金を陽極酸化の対象とすることができる。アルミニウム合金の具体例としては、JISに規定されているJIS-A 1千番台~7千番台で示される展伸材系合金、AC、ADCの各番程で示される鋳物材、ダイカスト材等を代表とするアルミニウム主体の各種合金群等が挙げられる。
【0049】
本発明の封孔処理液を用いてアルミニウムの陽極酸化皮膜を封孔処理する封孔処理方法としては、例えば、上記したアルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品を被処理物として用い、封孔処理液中に被処理物を浸漬すればよい。また、必要に応じて、アルミニウムの陽極酸化皮膜を有する物品に電解着色、染色等を施した後、十分に水洗を行い、封孔処理液中に被処理物を浸漬してもよい。これにより、被処理物のアルミニウムの陽極酸化皮膜の封孔性をより一層向上させることができる。
【0050】
2.濃縮液
濃縮液は、水等の溶媒で希釈することにより、本発明の封孔処理液を建浴するための原液としての液である。上記濃縮液は、アルミニウムの陽極酸化皮膜用濃縮液であって、(1)銀化合物、及び、(2)芳香族スルホン酸化合物を含有する濃縮液である。
【0051】
上記封孔処理液に含まれる成分の濃度が高い濃縮液とすることにより、運搬、保存が容易になり、水等の希釈液で希釈することにより、上記封孔処理液を容易に調製することができる。上記希釈液としては、水が好ましい。
【0052】
上記濃縮液が含有する銀化合物、及び、芳香族スルホン酸化合物は、上記封孔処理液が含有するものと同一のものを用いることができる。濃縮液は、上記封孔処理液と同一の成分を含有するが、当該成分の含有量が異なる。
【0053】
3.アルミニウムの陽極酸化皮膜用封孔処理液の製造方法
本発明の製造方法は、アルミニウムの陽極酸化皮膜用封孔処理液の製造方法であって、(i)溶媒に銀化合物を添加する工程1、
(ii)工程1の後に、更に、溶媒に芳香族スルホン酸化合物からなる群より選択される少なくとも1種の芳香族化合物を添加する工程2、並びに、
(iii)工程2の後に、更に、溶媒に酢酸ニッケル、酢酸マグネシウム、及び、酢酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種の封孔処理成分を添加する工程3
を含むことを特徴とする製造方法である。
【0054】
本発明の製造方法は、上記構成を備え、特に、工程2の後に工程3を有することにより、液安定性に優れた封孔処理液を製造することができる。工程3の後に工程2を有する工程、すなわち、上記封孔処理成分を添加した後に上記芳香族スルホン酸化合物を添加すると、得られた封孔処理液が白濁し封孔処理液が不安定となる。
【0055】
(工程1)
工程1は、溶媒に銀化合物を添加する工程である。銀化合物は、上記封孔処理液が含有する銀化合物として説明した銀化合物を用いればよい。
【0056】
溶媒としては、水のみを使用する。
【0057】
(工程2)
工程2は、工程1の後に、更に、溶媒に芳香族スルホン酸化合物からなる群より選択される少なくとも1種の芳香族化合物を添加する工程である。
【0058】
芳香族スルホン酸化合物からなる群より選択される少なくとも1種の芳香族化合物としては、上記封孔処理液が含有する芳香族化合物として説明した芳香族化合物を用いればよい。
【0059】
(工程3)
工程3は、工程2の後に、更に、溶媒に酢酸ニッケル、酢酸マグネシウム、及び、酢酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種の封孔処理成分を添加する工程である。本発明の製造方法では、工程2により溶媒に上記芳香族化合物を添加した後、工程3により、上記封孔処理成分を添加する。工程3と工程2とを入れ替え、すなわち、溶媒に上記封孔処理成分を添加した後で、上記芳香族化合物を添加すると、封孔処理液が白濁を生じ、液安定性が低下する。
【0060】
酢酸ニッケル、酢酸マグネシウム、及び、酢酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種の封孔処理成分としては、上記封孔処理液が含有する封孔処理成分として説明した封孔処理成分を用いればよい。
【0061】
以上説明した工程1~工程3では、銀化合物、芳香族スルホン酸化合物、及び、封孔処理成分の各成分の濃度は、上記封孔処理液の説明において説明した、封孔処理液中の各成分の濃度となるように適宜調整して添加すればよい。
【0062】
本発明の製造方法では、濃縮液を経て封孔処理液を製造する場合には、工程1~工程3において、銀化合物、芳香族スルホン酸化合物、及び、封孔処理成分の各成分の濃度は、濃縮液を希釈して封孔処理液を調製した際に、上述の封孔処理液において説明した各成分の濃度となるよう適宜調整して添加すればよい。この場合、本発明の封孔処理液の製造方法は、工程3の後に、工程4として、濃縮液に溶媒を添加する希釈工程を有していてもよい。工程4を経ることにより、工程3で調製された濃縮液が希釈されて、封孔処理液が建浴される。
【0063】
上記工程4で用いる溶媒は、水のみを使用する。
【実施例0064】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0065】
実施例1
(工程1)溶媒として水を用意し、硝酸銀を10g/Lの濃度となるよう添加した。
(工程2)工程1の後に、更に溶媒に、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムを40g/Lの濃度となるように添加した。
(工程3)工程2の後に、更に溶媒に酢酸ニッケル4水和物を100g/Lの濃度となるように添加して、アルミニウムの陽極酸化皮膜用封孔処理液の濃縮液を1L調製した。濃縮液は黒色化されており、黒色であった。
【0066】
黒色化させた濃縮液を40mL採取し、水を添加して1Lとなるように希釈し、実施例1の封孔処理液を製造した。
【0067】
実施例2~10、比較例1~9
配合を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして、封孔処理液を製造した。
【0068】
以下の製造条件に従って、陽極酸化を施したアルミニウム合金試験片を調製した。
【0069】
陽極酸化済試験片の調製
アルミニウムの試験片(JIS A1050P板材)を弱アルカリ性脱脂液(奥野製薬工業(株)製 トップアルクリーン101(商品名)の30g/L水溶液、浴温:60℃)に3分間浸漬して脱脂した。次いで、水洗し、硫酸を主成分とする陽極酸化浴(遊離硫酸180g/L及び溶存アルミ8.0g/Lを含む)で陽極酸化(浴温:20±1℃、陽極電流密度:1A/dm2、電解時間:30分間、膜厚:約10μm)を行った。得られた陽極酸化皮膜を水洗し、陽極酸化を施したアルミニウム合金の試験片を調製した。
【0070】
上述のようにして調製した試験片を、実施例及び比較例で調製した封孔処理液に、90℃15分の条件で浸漬して封孔処理を施した。陽極酸化皮膜の膜厚は10μmであった。
【0071】
実施例及び比較例で調製した封孔処理液により封孔処理を施した試験片を用いて、以下の方法により評価を行った。
【0072】
(黄変)
封孔処理を施した試験片に、昼白色の光を色温度5000Kの条件で、100時間照射した。光照射前後の試験片の表面のb値を、携帯用積分球分光測色計SP64(X-Rite社製)を用いて測定し、下記評価基準に従って黄変を評価した。
○:昼白色光照射前後のb値の差が0.3以下である
×:昼白色光照射前後のb値の差が0.3を超える
【0073】
(抗菌性)
実施例及び比較例で調製した封孔処理液により封孔処理を施した試験片を用いて、JIS Z2801に準拠した測定方法により、フィルム密着法でフィルムとの接触時間の条件を5分に変更して大腸菌の生菌数を測定した。また、対照試験片として、上述の陽極酸化を施したアルミニウム合金の試験片(封孔処理を行っていない試験片)を調製し、対照試験片を調製した。対照試験片を用いて上記測定方法と同様にして、大腸菌の生菌数を測定した。対照試験片との対比により、下記評価基準に従って抗菌性を評価した。
○:生菌数が対照試験片と対比して、99%以上の減少率を示した
×:生菌数が対照試験片と対比して、99%より低い減少率を示した
【0074】
(防カビ性)
実施例及び比較例で調製した封孔処理液により封孔処理を施した試験片を用いて、JIS Z2911に準拠した測定方法により、カビ抵抗性試験(湿式法)を行い、カビに対する抵抗性を評価した。カビの種類はRhizopus oryzaeを用いた。カビの発生を目視により確認し、下記評価基準に従って評価した。
〇:カビが発生しなかった
×:カビが発生した
【0075】
(抗ウイルス性)
実施例及び比較例で調製した封孔処理液により封孔処理を施した試験片(処理後試験片)を用いて、ISO21702に準拠した測定方法により、ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性を評価した。対照試験片として、上述の陽極酸化を施したアルミニウム合金の試験片(封孔処理を行っていない試験片)を調製した。対照試験片を用いて上記測定方法と同様にして、ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性を評価した。対照試験片との対比により、下記評価基準に従って抗ウイルス性を評価した。
○:抗ウイルス活性値が2.0以上の場合は抗ウイルス性あり
×:抗ウイルス活性値が2.0未満の場合は抗ウイルス性なし
なお、抗ウイルス活性値は、下記式により算出した。
[抗ウイルス活性値]=[対照試験片の24時間放置後のウイルス感染価(PFU/cm2)]-[処理後試験片の24時間放置後のウイルス感染価(PFU/cm2)]
【0076】
(封孔性)
上述のように調製した陽極酸化済試験片を用いて、JIS H8683-2(第2部)に準拠した測定方法により、封孔度を測定し、下記評価基準に従って封孔性を評価した。○:封孔度が10 mg/dm2以下である
×:封孔度が10 mg/dm2を超える
【0077】
結果を表1及び表2に示す。なお、表1及び表2では、各成分を水に、表1及び表2に記載の添加順に添加した。また、表1及び表2では、「-」は当該添加剤を添加しなかったことを示している。
【0078】
【0079】
【0080】
表1の結果から、実施例1~10により調製された濃縮液は、色が黒色であるので、濃縮液が銀化合物及び芳香族スルホン酸化合物を含有することにより、当該濃縮液が黒色化されていることが分かった。
【0081】
また、表2の結果から、比較例1~9により調製された濃縮液は、芳香族スルホン酸化合物を含有していないため、色が緑色澄明であり、濃縮液が黒色化しないことが分かった。
【0082】
表1の結果から、実施例1~10の濃縮液を黒色化し、当該濃縮液を希釈して調製した実施例1~10の封孔処理液を用いて封孔処理を施した試験片は、昼白色光の100時間照射によってもb値の変化が抑制されており、黄変が抑制されていることが分かった。
【0083】
また、表2の結果から、比較例1~9の濃縮液を希釈して調製した、比較例1~9の封孔処理液を用いて封孔処理を施した試験片は、昼白色光の100時間照射によるb値の変化が大きく、黄変が生じていることが分かった。
【0084】
表1及び表2の結果から、実施例1~10の濃縮液を黒色化し、当該濃縮液を希釈して調製した実施例1~10の封孔処理液は、黒色化を行っていない比較例1~9の封孔処理液と同等の抗菌性、防カビ性、及び、抗ウイルス性を示すことが分かった。以上より、実施例1~10の封孔処理液は、封孔処理を施した陽極酸化皮膜の黄変が抑制されると共に、陽極酸化皮膜に抗菌性、防カビ性、及び、抗ウイルス性を付与することができることが分かった。
【0085】
表1及び表2の結果から、実施例1~10、及び、比較例1~9の濃縮液を黒色化し、当該濃縮液を希釈して調製した実施例1~10の封孔処理液は、黒色化していない比較例1~10の封孔処理液と同等の封孔性を示すことが分かった。以上より、実施例1~10の封孔処理液は、封孔処理を施した陽極酸化皮膜の黄変が抑制されると共に、アルミニウムの陽極酸化皮膜の封孔性に優れていることが分かった。