(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151728
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】穴抜き加工用のパンチ
(51)【国際特許分類】
B21D 28/16 20060101AFI20220929BHJP
B21D 28/34 20060101ALI20220929BHJP
B21D 37/08 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B21D28/16
B21D28/34 C
B21D37/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040497
(22)【出願日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2021052520
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山形 光晴
(72)【発明者】
【氏名】安富 隆
(72)【発明者】
【氏名】本多 由明
【テーマコード(参考)】
4E048
4E050
【Fターム(参考)】
4E048GA02
4E048LA02
4E048LA03
4E048LA11
4E050DA07
(57)【要約】
【課題】穴抜き加工におけるシェービング加工で発生した削りかすを確実に除去することのできるパンチを提供する。
【解決手段】パンチ(10)は、第1軸部(11)と、打抜き刃(14)と、第2軸部(12)と、シェービング刃(15)と、を備える。第1軸部(11)は、軸方向の先端側に配置される。打抜き刃(14)は、第1軸部(11)が有する第1端面(111)の周縁に設けられる。第2軸部(12)は、軸方向に沿って第1軸部(11)に繋がる。シェービング刃(15)は、第2軸部(12)が有する第2端面(121)の周縁に設けられる。パンチ(10)は、軸方向に延びる分割面(A)によって、第1パンチ部(10a)と、第1パンチ部(10a)に対して軸方向の先端側に向けて突出可能な第2パンチ部(10b)と、に分割される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の穴抜き加工に用いられるパンチであって、
前記パンチの軸方向の先端側に配置された第1軸部であって、前記第1軸部の先端に第1端面を有する、前記第1軸部と、
前記第1端面の周縁に設けられた打抜き刃と、
前記パンチの前記軸方向に沿って前記第1軸部に繋がる第2軸部であって、前記第2軸部の先端に前記第1端面の輪郭よりも大きい輪郭の第2端面を有する、前記第2軸部と、
前記第2端面の周縁に設けられたシェービング刃と、を備え、
前記パンチは、前記軸方向に延びる分割面によって、第1パンチ部と、前記第1パンチ部に対して前記軸方向の前記先端側に向けて突出可能な第2パンチ部と、に分割され、
前記第2パンチ部を前記軸方向に沿って見て、前記第1端面の前記輪郭のうちで前記分割面と交わる2つの点を第1交点及び第2交点としたとき、前記第1交点と前記第2交点とを結ぶ直線と前記第1端面の前記輪郭の前記第1交点での接線とがなす角度が鋭角であり、前記直線と前記第1端面の前記輪郭の前記第2交点での接線とがなす角度が鋭角である、パンチ。
【請求項2】
請求項1に記載のパンチであって、
前記第1端面の前記輪郭の形状が前記第2端面の前記輪郭の形状と相似である、パンチ。
【請求項3】
請求項2に記載のパンチであって、
前記第1端面の前記輪郭の形状及び前記第2端面の前記輪郭の形状が円形である、パンチ。
【請求項4】
請求項2に記載のパンチであって、
前記第1端面の前記輪郭の形状及び前記第2端面の前記輪郭の形状が楕円形である、パンチ。
【請求項5】
請求項2に記載のパンチであって、
前記第1端面の前記輪郭の形状及び前記第2端面の前記輪郭の形状が多角形である、パンチ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のパンチであって、
前記分割面は、前記第1端面の重心と前記第1交点とを結ぶ直線を含む第1分割面と、前記第1端面の前記重心と前記第2交点とを結ぶ直線を含む第2分割面と、から構成される、パンチ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のパンチであって、
前記第1軸部の外周面のうち前記第2軸部に隣接する部分に、前記第1軸部の周方向に沿って溝が設けられている、パンチ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のパンチであって、さらに、
前記第2軸部の径方向外側に配置され、前記第2軸部が貫通する孔を有する補助部材であって、前記第1パンチ部又は前記第2パンチ部に接続される前記補助部材を備える、パンチ。
【請求項9】
請求項8に記載のパンチであって、
前記補助部材は、リング状であり、
前記孔の輪郭の形状が前記第2端面の前記輪郭の形状と同じである、パンチ。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のパンチであって、
前記補助部材は、前記軸方向に伸縮可能な弾性体を介して前記第1パンチ部又は前記第2パンチ部に接続される、パンチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、穴抜き加工用のパンチに関する。
【背景技術】
【0002】
穴抜き加工は、金属板に穴を形成するための手法の一つである。単に打抜き加工によって金属板に穴を形成した場合、その穴の内周面には、加工硬化が集中したせん断面、表面粗度の大きい破断面、及びせん断方向に伸びたバリ等の不正面が存在する場合が多く、寸法精度に問題を生じる。そこで、寸法精度の高い穴を形成する場合、穴抜き加工では、打抜き加工とシェービング加工が行われる。このような穴抜き加工において、打抜き加工では、打抜き用パンチによって金属板を打抜き、下穴を形成する。下穴の周囲には、最終的に所望する穴の仕上げ寸法に対し、削り代が設けられている。シェービング加工では、シェービング用パンチによってこの削り代を削り取る。これにより、金属板に所定の寸法、形状、及び平滑な打抜き加工面を有する穴を形成することができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、打抜き用パンチとシェービング用パンチを一体化したパンチが提案されている。この一体型パンチは、軸方向の先端側に配置される打抜き用パンチと、軸方向に沿って打抜き用パンチに繋がるシェービング用パンチとを備える。一体型パンチによれば、打抜き加工に続いてシェービング加工を行うことができる。また、打抜き用パンチとシェービング用パンチを個別に用意する必要がないため、パンチの製造コストを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属板に穴抜き加工を施すと、抜きかすが発生する。打抜き加工及びシェービング加工を含む穴抜き加工の場合、2種類の抜きかすが発生する。つまり、打抜き加工では打抜きかすが発生し、シェービング加工では、下穴の周囲に設けられた削り代に対応する削りかすが発生する。上述した一体型パンチを用いた穴抜き加工の場合、打抜きかすは、そのまま自重で落下する。一方、削りかすは、自重で落下することなく、打抜き用パンチの周囲に残留することがある。
【0006】
通常、穴抜き加工は製造ラインの中で同じパンチを用いて繰り返し連続的に行われる。そのため、打抜き用パンチに削りかすが残留した場合、その削りかすを除去するために、穴抜き加工を一旦止める必要が生じる。打抜き用パンチに削りかすが残留した状態で次の穴抜き加工を継続すれば、削りかすが下穴の形成を阻害し、寸法精度の高い穴を形成するのが困難になるからである。
【0007】
本開示の目的は、穴抜き加工におけるシェービング加工で発生した削りかすを確実に除去することができるパンチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係るパンチは、金属板の穴抜き加工に用いられる。パンチは、第1軸部と、打抜き刃と、第2軸部と、シェービング刃と、を備える。第1軸部は、パンチの軸方向の先端側に配置され、第1軸部の先端に第1端面を有する。打抜き刃は、第1端面の周縁に設けられる。第2軸部は、パンチの軸方向に沿って第1軸部に繋がり、第2軸部の先端に第1端面の輪郭よりも大きい輪郭の第2端面を有する。シェービング刃は、第2端面の周縁に設けられる。パンチは、軸方向に延びる分割面によって、第1パンチ部と、第1パンチ部に対して軸方向の先端側に向けて突出可能な第2パンチ部と、に分割される。第2パンチ部を軸方向に沿って見て、第1端面の輪郭のうちで分割面と交わる2つの点を第1交点及び第2交点としたとき、第1交点と第2交点とを結ぶ直線と第1端面の輪郭の第1交点での接線とがなす角度が鋭角である。該直線と第1端面の輪郭の第2交点での接線とがなす角度が鋭角である。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係るパンチによれば、穴抜き加工におけるシェービング加工で発生した削りかすを確実に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るパンチの斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係るパンチの縦断面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係るパンチの平面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係るパンチの好ましい例を示す平面図である。
【
図5A】
図5Aは、第1実施形態に係るパンチを用いた穴抜き加工の初期状態を示す縦断面図である。
【
図5C】
図5Cは、シェービング加工の様子を示す縦断面図である。
【
図5D】
図5Dは、下死点からパンチを上昇させている様子を示す縦断面図である。
【
図5E】
図5Eは、第2パンチ部を突出させた様子を示す縦断面図である。
【
図5F】
図5Fは、削りかすが落下する様子を示す縦断面図である。
【
図7】
図7は、ダイの変形例を示す縦断面図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係るパンチの縦断面図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態に係るパンチの縦断面図である。
【
図10】
図10は、第4実施形態に係るパンチの縦断面図である。
【
図11】
図11は、第5実施形態に係るパンチの縦断面図である。
【
図12】
図12は、第5実施形態に係るパンチを用いたシェービング加工の様子を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態に係るパンチは、金属板の穴抜き加工に用いられる。パンチは、第1軸部と、打抜き刃と、第2軸部と、シェービング刃と、を備える。第1軸部は、パンチの軸方向の先端側に配置され、第1軸部の先端に第1端面を有する。打抜き刃は、第1端面の周縁に設けられる。第2軸部は、パンチの軸方向に沿って第1軸部に繋がり、第2軸部の先端に第1端面の輪郭よりも大きい輪郭の第2端面を有する。シェービング刃は、第2端面の周縁に設けられる。パンチは、軸方向に延びる分割面によって、第1パンチ部と、第1パンチ部に対して軸方向の先端側に向けて突出可能な第2パンチ部と、に分割される。第2パンチ部を軸方向に沿って見て、第1端面の輪郭のうちで分割面と交わる2つの点を第1交点及び第2交点としたとき、第1交点と第2交点とを結ぶ直線と第1端面の輪郭の第1交点での接線とがなす角度が鋭角である。該直線と第1端面の輪郭の第2交点での接線とがなす角度が鋭角である(第1の構成)。
【0012】
第1の構成に係るパンチによれば、第2パンチ部を突出させたとき、穴抜き加工のうちシェービング加工によって発生した削りかすは、第2パンチ部と共に軸方向の先端側に向けて移動する。そのため、削りかすは第1パンチ部の拘束から外れ、第2パンチ部のみに接触した状態になる。削りかすが第2パンチ部のみに接触した状態になったとき、削りかすは第2パンチ部の拘束から外れる方向への移動を許容される。このため、第2パンチ部の拘束から外れた削りかすは、自重でパンチから落下する。このように、第1の構成に係るパンチによれば、穴抜き加工におけるシェービング加工によって発生した削りかすを確実に除去することができる。このような削りかすの除去は、繰り返し連続的に行われる穴抜き加工を止めることなく、穴抜き加工の一連の動作の中で行える。つまり、削りかすの除去は、短時間で自動的に行える。
【0013】
第1の構成のパンチにおいて、好ましくは、第1端面の輪郭の形状が第2端面の輪郭の形状と相似である(第2の構成)。
【0014】
第2の構成のパンチのように、第1端面の輪郭の形状が第2端面の輪郭の形状と相似であれば、削り代を周方向で均一にすることができる。ただし、第1端面の輪郭の形状が第2端面の輪郭の形状と相似でなくてもよい。この場合、打抜き加工によって形成される下穴の形状がシェービング加工によって形成される穴の形状と異なる。そうすると、削り代が周方向で均一にならない。
【0015】
第2の構成のパンチにおいて、典型的な例では、第1端面の輪郭の形状及び第2端面の輪郭の形状が円形である(第3の構成)。この場合、金属板に円形の穴が形成される。
【0016】
第2の構成のパンチにおいて、第1端面の輪郭の形状及び第2端面の輪郭の形状が楕円形であってもよい(第4の構成)。この場合、金属板に楕円形の穴が形成される。
【0017】
第2の構成のパンチにおいて、第1端面の輪郭の形状及び第2端面の輪郭の形状が多角形であってもよい(第5の構成)。この場合、金属板に多角形の穴が形成される。
【0018】
好ましくは、分割面は、第1端面の重心と第1交点とを結ぶ直線を含む第1分割面と、第1端面の重心と第2交点とを結ぶ直線を含む第2分割面と、から構成される(第6の構成)。
【0019】
第6の構成によれば、パンチを第1パンチ部及び第2パンチ部に分割する分割面は、第1端面の重心を通る。そのため、第1パンチ部及び第2パンチ部のうちの一方が細くなりすぎることはない。このため、第1パンチ部及び第2パンチ部の両方の曲げ強度を確保することができる。
【0020】
第1軸部の外周面のうち第2軸部に隣接する部分に、第1軸部の周方向に沿って溝が設けられてもよい(第7の構成)。
【0021】
第7の構成によれば、第1軸部は、第2軸部に隣接する部分に、第1軸部の周方向に沿った溝を有する。これにより、シェービング加工時、金属板は第1軸部と強く接触することはない。この場合、金属板は第1軸部から拘束を受けにくくなるため、パンチへの負荷を軽減することができる。
【0022】
第1~7の構成のパンチは、さらに、補助部材を備えていてもよい。補助部材は、第2軸部の径方向外側に配置され、第2軸部が貫通する孔を有する。補助部材は、第1パンチ部又は第2パンチ部に接続される(第8の構成)。
【0023】
通常、打抜き加工の際、パンチの先端部は金属板から打抜きの反力を受ける。この反力は、パンチの軸方向だけでなく、パンチの軸方向に垂直な水平方向にもはたらく。このとき、パンチは先端部にはたらく水平方向の力により生じる曲げモーメントを受ける。例えば、第1~第7の構成のパンチの場合、パンチに生じる曲げモーメントの大きさは、第2軸部の後端の位置で最大となる。この曲げモーメントの大きさは、先端部にはたらく水平方向の力の大きさと第1軸部の先端から第2軸部の後端までの距離の積である。
【0024】
一方、第8の構成のパンチの場合、第2軸部の周囲には、補助部材が配置されている。この場合、先端部にはたらく水平方向の力によるパンチの変形が補助部材によって妨げられる。このとき、パンチに生じる曲げモーメントの大きさは、補助部材の先端の位置で最大となる。この曲げモーメントの大きさは、先端部にはたらく水平方向の力の大きさと第1軸部の先端から補助部材の先端までの距離の積である。第2軸部は補助部材を貫通しているため、補助部材の先端は第2軸部の後端よりもパンチの軸方向先端側に位置する。つまり、第1軸部の先端から補助部材の先端までの距離は、第1軸部の先端から第2軸部の後端までの距離よりも小さい。したがって、第8の構成に係るパンチによれば、パンチに生じる曲げモーメントの大きさを低減することができる。
【0025】
第8の構成のパンチは、好ましくは、以下の構成を有する。補助部材は、リング状である。補助部材の孔の輪郭の形状が、第2端面の輪郭の形状と同じである(第9の構成)。第9の構成のパンチにおいて、補助部材の孔の輪郭の形状は、第2端面の輪郭の形状、すなわち第2軸部の軸方向に垂直な断面形状と実質的に同じである。そのため、第2軸部の外周面と孔の内周面との間には、隙間がほとんど存在しない。これにより、第9の構成に係るパンチによれば、パンチの先端部に水平方向の力がはたらいた際、パンチの変形を確実に防止することができる。
【0026】
第8又は第9の構成のパンチにおいて、補助部材は、軸方向に伸縮可能な弾性体を介して第1パンチ部又は第2パンチ部に接続されてもよい(第10の構成)。補助部材を第2軸部の軸方向先端付近に配置すると、シェービング加工においてパンチが下死点に到達する前に補助部材が金属板に衝突する場合がある。第10の構成に係るパンチでは、補助部材は軸方向に伸縮可能な弾性体を介して第1パンチ部又は第2パンチ部に接続されている。この場合、第1パンチ部及び第2パンチ部は、補助部材に対して軸方向に相対移動可能である。第10の構成のパンチは、シェービング加工の最中に補助部材が金属板に衝突したとしても、弾性体が縮むことにより第1パンチ部及び第2パンチ部は下降を続けることができる。したがって、第10の構成に係るパンチによれば、第2軸部の軸方向先端近傍に補助部材を配置することができる。そのため、パンチに生じる曲げモーメントの大きさをより低減することができる。
【0027】
以下に、図面を参照しながら、本実施形態のパンチについてその具体例を説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0028】
[第1実施形態]
[パンチの構成]
図1は、第1実施形態に係るパンチ10の斜視図である。パンチ10は、金属板の穴抜き加工に用いられる。
図1を参照して、パンチ10は、それぞれ円筒形状の第1軸部11と、第2軸部12とを備える。第1軸部11と第2軸部12は一体化されている。ただし、第1軸部11及び第2軸部12は、詳細は後述する分割面Aによって、第1パンチ部10aと第2パンチ部10bとに分割される。使用状態において、パンチ10は上下方向に沿って配置される。つまり、本明細書において、パンチ10の軸方向は上下方向に相当する。パンチ10の先端は下側にあり、パンチ10の先端とは反対側の後端は上側にある。
【0029】
第1軸部11は、パンチ10の軸方向の先端側に配置される。第1軸部11の先端には、第1端面111を有する。第1端面111の周縁には打抜き刃14が設けられる。第1軸部11は、金属板の打抜き加工に用いられる。打抜き加工では、第1軸部11の打抜き刃14で金属板を打抜く。これにより、第1端面111の輪郭と同形状の下穴が形成される。
【0030】
第2軸部12は、パンチ10の軸方向に沿って第1軸部11に繋がる。つまり、第2軸部12は、第1軸部11の先端側とは反対側の後端に繋がる。第2軸部12の先端には、第2端面121を有する。第2端面121の周縁にはシェービング刃15が設けられる。第2端面121の輪郭は、第1端面111の輪郭よりも大きい。第2軸部12は、金属板のシェービング加工に用いられる。シェービング加工では、打抜き加工で形成された下穴の周囲の削り代を、第2軸部12のシェービング刃15で削り取る。これにより、金属板に、第2端面121の輪郭と同形状の穴が形成される。
【0031】
パンチ10は、軸方向に延びる分割面Aによって、第1パンチ部10aと、第2パンチ部10bとに分割される。第1パンチ部10aは、軸方向に垂直な1方向に向かって突出した突出部122を含む。突出部122は、第2軸部12の後部のうち、周方向の一部に相当する。第2パンチ部10bは、突出部122の下方に位置する。本実施形態では、軸方向において、第2パンチ部10bと、第1パンチ部10aと一体の突出部122と、の間に隙間123が形成されている。
【0032】
上述の通り、第1軸部11及び第2軸部12の各々は、円筒形状を有する。第1軸部11の第1端面111及び第2軸部12の第2端面121はそれぞれ円形である。さらに、第1軸部11の中心軸は、第2軸部12の中心軸と一致する。つまり、第1端面111の輪郭の形状は、第2端面121の輪郭の形状と相似である。したがって、打抜き刃14の形状及びシェービング刃15の形状は同軸上で円形である。特に限定されるものではないが、第1軸部11及び第2軸部12の横断面形状は、好ましくは相似である。
【0033】
図2は、パンチ10の縦断面図である。本明細書において、縦断面は、パンチ10を軸方向に沿って切断したときの断面を意味する。横断面は、パンチ10を軸方向に垂直な断面で切断したときの断面を意味する。
【0034】
図2を参照して、パンチ10は、第2パンチ部10bと突出部122との間の隙間123に、突出機構13を備える。第2パンチ部10bは、この突出機構13の動作により、第1パンチ部10aに対して軸方向の先端側に向けて突出可能である。本実施形態では、突出機構13はソレノイド131である。ソレノイド131は、軸方向に伸縮可能な可動棒131aを有する。可動棒131aは可動鉄心である。可動棒131aは第2パンチ部10bに連結される。
【0035】
図3は、パンチ10を先端側から軸方向に沿って見たときの平面図である。
図3を参照して、上述の通り、第1軸部11の第1端面111及び第2軸部12の第2端面121はそれぞれ円形であり、それぞれの中心(重心)は一致している。つまり、打抜き刃14の形状及びシェービング刃15の形状は同軸上の円形である。ただし、第1軸部11及び第2軸部12の形状は、これに限定されるものではない。例えば、第1端面111の輪郭及び第2端面121の輪郭は、それぞれ楕円形であってもよいし、多角形であってもよい。
【0036】
上述の通り、パンチ10は、分割面Aによって第1パンチ部10a及び第2パンチ部10bに分割される。本実施形態では、分割面Aは1つの平面から構成される。この2つのパンチ部は、次のように規定される。第1軸部11の第1端面111は、分割面Aとそれぞれ第1交点P1及び第2交点P2の2つの点で交わる。第2パンチ部10bを軸方向に沿って見て、第1交点P1と第2交点P2とを結ぶ直線mを描く。この直線mは仮想の直線である。第1端面111の輪郭の第1交点P1での接線l1を描く。同様に、第1端面111の輪郭の第2交点P2での接線l2を描く。これらの接線l1及び接線l2も仮想の接線である。第1交点P1について、直線mと接線l1とがなす角度θ1は、鋭角である。同様に、第2交点P2について、直線mと接線l2とがなす角度θ2は、鋭角である。つまり、分割面Aによって分割される2つのパンチ部のうち、直線mと接線l1とがなす角度及び直線mと接線l2とがなす角度のいずれも鋭角であるパンチ部が第2パンチ部10bである。
【0037】
図4は、パンチ10の好ましい例を示す平面図である。
図4には、パンチ10を先端側から軸方向に沿って見たときの様子が示される。
図3に示すパンチ10では、分割面Aは、軸方向に沿って見て第1交点P1と第2交点P2とを結ぶ直線mを含む。しかしながら、分割面Aの構成はこれに限定されるものではない。
図4に示すように、パンチ10を軸方向に沿って見て、分割面Aは、好ましくは、第1分割面A1と、第2分割面A2とから構成される。第1分割面A1は、第1端面111の重心Gと第1交点P1とを結ぶ直線を含む。第2分割面A2は、重心Gと第2交点P2とを結ぶ直線を含む。
【0038】
[パンチ10による穴抜き加工方法]
以下では、
図5A~
図5Fを参照して、本実施形態のパンチ10を用いた穴抜き加工方法の一例について説明する。この穴抜き加工では、パンチ10によって金属板1に打ち抜き加工及びシェービング加工を施す。これにより、所定の大きさの穴を有する製品2を製造する。
【0039】
図5Aは、穴抜き加工の初期状態を示す縦断面図である。
図5Aを参照して、金属板1はダイ3の上に配置される。パンチ10は、金属板1及びダイ3の上方に配置される。金属板1は、ダイ3と図示しない板押えとによって挟持される。ダイ3の中央には、パンチ10の第2軸部12に対応する穴4が設けられている。穴4は、円形であり、軸方向の全域にわたって一定の大きさである。第2軸部12の輪郭と、ダイ3の穴4の周縁とは実質的に同一形状である。
【0040】
パンチ10は、上下方向に移動可能である。パンチ10の第1端面111及び第2端面121の中心と、ダイ3の穴4の中心とは一致する。以下、穴抜き加工の初期状態におけるパンチ10の位置を、上死点とも言う。
【0041】
図5Aに示すように、パンチ10のうち第2パンチ部10bは、穴抜き加工の初期状態において、第1パンチ部10aに対して突出していない。つまり、第1パンチ部10aの端面は、第2パンチ部10bの端面と面一である。
【0042】
図5Bは、打抜き加工の様子を示す縦断面図である。打抜き加工では、パンチ10を上死点から下降させ、打抜き刃14によって金属板1を打抜く。これにより、金属板1に第1端面111と同じ大きさの下穴2aが形成される。
【0043】
具体的には、上死点からパンチ10を下降させると、パンチ10の先端部分である、第1軸部11の第1端面111が金属板1と接触する。第1端面111の周縁には打抜き刃14が設けられているため、パンチ10のさらなる下降に伴って、金属板1は第1軸部11の第1端面111によって打抜かれる。これにより、金属板1に下穴2aが形成される。このとき、打抜きかす1aが発生する。打抜きかす1aは、そのまま自由落下する。このため、次の穴抜き加工に悪影響を及ぼすことはない。
【0044】
打抜き加工で金属板1に設けられた下穴2aは、製品2に設けられる穴2bよりも小さい。要するに、打抜き加工終了時点では、金属板1は下穴2aの周囲に削り代1bを有している。後述するシェービング加工において、金属板1の削り代1bが削り取られることで、最終的に製品2を形成することができる。
【0045】
図5Cは、シェービング加工の様子を示す縦断面図である。打抜き加工後の位置からパンチ10をさらに下降させると、第1軸部11が下穴2aに進入し、第2軸部12の第2端面121が金属板1と接触する。第2端面121の周縁にはシェービング刃15が設けられているため、パンチ10のさらなる下降に伴って、下穴2aの周囲の削り代1bが、第2軸部12の第2端面121によって削り取られる。これにより、金属板1には第2端面121と同じ大きさの穴2bが形成される。シェービング加工終了後、パンチ10は下死点に到達する。
【0046】
シェービング加工において金属板1から削り取られた削り代1bは、削りかす1cとして第1軸部11の周囲に残留することがある。本実施形態では、第1軸部11及び第2軸部12の各々が円筒形状であるため、削りかす1cはリング状で周方向に繋がっている。
【0047】
図5Dは、シェービング加工後にパンチ10を上昇させている様子を示す縦断面図である。パンチ10は、次の穴抜き加工のために、下死点から上死点まで上昇する。
図5Dは、その途中の状況を表す図である。
図5Dを参照して、パンチ10の上昇中、シェービング加工で発生した削りかす1cは第1軸部11の周囲に残留する。
【0048】
仮に、
図5Dに示すように、第1軸部11の周囲に削りかす1cが残留し続けると、次の穴抜き加工の妨げになり、穴抜き加工を継続することができない。そのため、次の穴抜き加工を開始するまでの間に、パンチ10から削りかす1cを取り除く必要がある。本実施形態のパンチ10では、パンチ10から削りかす1cを取り除くことができる。以下、
図5E及び
図5Fを参照して、第1軸部11の周囲から削りかす1cを取り除く方法を説明する。
【0049】
図5Eは、第2パンチ部10bを突出させた様子を示す縦断面図である。シェービング加工終了後に、ソレノイド131を作動させる。これにより、ソレノイド131の可動棒131aが伸びる。第2パンチ部10bは、可動棒131aの伸びに応じて下方(パンチ10の軸方向先端側)に移動する。つまり、第2パンチ部10bは第1パンチ部10aに対して下方に突出する。
【0050】
第2パンチ部10bの突出により、削りかす1cは、第2パンチ部10bと共に下方(パンチ10の軸方向先端側)に移動する。このとき、リング状の削りかす1cは、第1パンチ部10aによる拘束が外れ、第2パンチ部10bの周囲のみに接触した状態になる。
【0051】
第2パンチ部10bを突出させるタイミングは、シェービング加工終了後である限り、特に限定されない。例えば、下死点で第2パンチ部10bを突出させてもよいし、上死点で突出させてもよい。ただし、次の穴抜き加工のための金属板1をダイ3上に配置した後に突出させた場合、削りかす1cは金属板1上に落下し、次の穴抜き加工の妨げとなる。そのため、第2パンチ部10bの突出は、パンチ10が下死点から上死点に上昇している間に、完了していることが好ましい。
【0052】
図5Fは、削りかす1cが落下する様子を示す縦断面図である。上述したように、第2パンチ部10bが突出すると、削りかす1cは第1パンチ部10aからの拘束が外れる。すると、削りかす1cは自重により落下する。したがって、穴抜き加工を継続することができる。
【0053】
[効果]
本実施形態に係るパンチ10によれば、第2パンチ部10bを突出させたとき、穴抜き加工のうちシェービング加工によって発生した削りかす1cは、第2パンチ部10bと共に軸方向の先端側に向けて移動する。そのため、削りかす1cは第1パンチ部10aの拘束から外れ、第2パンチ部10bのみに接触した状態になる。
【0054】
上述の通り、
図3を参照して、第2パンチ部10bを軸方向に沿って見て、直線m(第1交点P1と第2交点P2とを結ぶ直線m)と、接線l1(第1端面111の輪郭の第1交点P1での接線l1)とがなす角度θ1は、鋭角である。同様に、直線mと、接線l2(第1端面111の輪郭の第2交点P2での接線l2)とがなす角度θ2は、鋭角である。この場合、削りかす1cが第2パンチ部10bのみに接触した状態になったとき、削りかす1cは、第2パンチ部10bの拘束から外れる方向への移動を許容される。このため、第2パンチ部10bの拘束から外れた削りかす1cは、自重でパンチ10から落下する。このように、本実施形態のパンチ10によれば、穴抜き加工におけるシェービング加工によって発生した削りかす1cを自動的に除去することができる。そのため、パンチ10を用いて穴抜き加工を繰り返す際、削りかす1cを除去するために穴抜き加工を止める必要が無い。これにより、穴抜き加工を繰り返し連続的に行うことができる。
【0055】
本実施形態において、第1軸部11の第1端面111の輪郭は、第2軸部12の第2端面121の輪郭と相似である。パンチ10の径方向において、シェービング加工時に発生する削り代1bの大きさは、打抜き加工で形成される下穴2aの大きさと、シェービング加工で形成される穴2bの大きさと、の差である。下穴2a及び穴2bの形状は、それぞれ第1端面111の輪郭(打抜き刃14)、第2端面121の輪郭(シェービング刃15)で決まる。このため、本実施形態のパンチ10によれば、削り代1bを周方向で均一にすることができる。削り代1bが周方向で均一であれば、形成された穴2bの周方向の性状が均一になる。
【0056】
本実施形態では、第1端面111の輪郭(打抜き刃14)の形状及び第2端面121の輪郭(シェービング刃15)の形状はそれぞれ円形である。この場合、金属板1に円形の穴を形成することができる。ただし、第1端面111の輪郭及び第2端面121の輪郭は、例えば、楕円形であってもよいし、多角形であってもよい。その場合は、それぞれ金属板1に楕円形、多角形の穴を形成することができる。
【0057】
図4に示すパンチ10の場合、パンチ10を第1パンチ部10a及び第2パンチ部10bに分割する分割面Aは、第1端面111の重心Gを通る。この場合、分割面Aは、第1端面111の重心Gと第1交点P1とを結ぶ直線を含む第1分割面A1と、重心Gと第2交点P2とを結ぶ直線を含む第2分割面A2とから構成される。このため、第1パンチ部10a及び第2パンチ部10bのうちの一方が細くなりすぎることはない。つまり、第1パンチ部10a及び第2パンチ部10bの両方の太さが確保することができる。そうすると、第1パンチ部10a及び第2パンチ部10bの両方の曲げ強度を確保することができ、第1パンチ部10a及び第2パンチ部10bの不意な折損を防止することができる。
【0058】
(パンチの変形例)
図6A~
図6Fを参照して、パンチ10の別の形状を例示する。
図6A~
図6Fは、パンチ10の変形例を示す平面図である。
図6A~
図6Fには、パンチ10を先端側から軸方向に沿って見たときの様子が示される。
【0059】
図6Aに示すパンチ10では、第1軸部11の第1端面111及び第2軸部12の第2端面121はそれぞれ正方形である。これと同様に、
図6Bに示すパンチ10では、第1軸部11の第1端面111及び第2軸部12の第2端面121はそれぞれ正方形である。これらのパンチ10によれば、金属板1に正方形の穴を形成することができる。
【0060】
図6Aに示すパンチ10では、分割面Aは1つの平面から構成される。つまり、分割面Aは、軸方向に沿って見て第1交点P1と第2交点P2とを結ぶ直線mを含む。
図6Aに示すパンチ10の場合、分割面Aは重心Gを通らない。一方、
図6Bに示すパンチ10では、分割面Aは、第1分割面A1と、第2分割面A2とから構成される。
図6Bに示すパンチ10の場合、分割面Aは重心Gを通る。つまり、第1分割面A1は、重心Gと第1交点P1とを結ぶ直線を含む。第2分割面A2は、重心Gと第2交点P2とを結ぶ直線を含む。
【0061】
いずれのパンチ10の場合も、第2パンチ部10bを軸方向に沿って見て、直線m(第1交点P1と第2交点P2とを結ぶ直線m)と、接線l1(第1端面111の輪郭の第1交点P1での接線l1)とがなす角度θ1は、鋭角である。同様に、直線mと、接線l2(第1端面111の輪郭の第2交点P2での接線l2)とがなす角度θ2は、鋭角である。第1パンチ部10a及び第2パンチ部10bの不意な折損を防止する観点では、
図6Bに示すパンチ10が好ましい。
図6Bに示すパンチ10は重心Gを通る分割面Aを有するからである。
【0062】
図6Cに示すパンチ10では、第1軸部11の第1端面111及び第2軸部12の第2端面121はそれぞれ正五角形である。これと同様に、
図6Dに示すパンチ10では、第1軸部11の第1端面111及び第2軸部12の第2端面121はそれぞれ正五角形である。これらのパンチ10によれば、金属板1に正五角形の穴を形成することができる。
【0063】
図6Cに示すパンチ10では、分割面Aは1つの平面から構成される。つまり、分割面Aは、軸方向に沿って見て第1交点P1と第2交点P2とを結ぶ直線mを含む。
図6Cに示すパンチ10の場合、分割面Aは重心Gを通らない。一方、
図6Dに示すパンチ10では、分割面Aは、第1分割面A1と、第2分割面A2とから構成される。
図6Dに示すパンチ10の場合、分割面Aは重心Gを通る。つまり、第1分割面A1は、重心Gと第1交点P1とを結ぶ直線を含む。第2分割面A2は、重心Gと第2交点P2とを結ぶ直線を含む。
【0064】
いずれのパンチ10の場合も、第2パンチ部10bを軸方向に沿って見て、直線m(第1交点P1と第2交点P2とを結ぶ直線m)と、接線l1(第1端面111の輪郭の第1交点P1での接線l1)とがなす角度θ1は、鋭角である。同様に、直線mと、接線l2(第1端面111の輪郭の第2交点P2での接線l2)とがなす角度θ2は、鋭角である。第1パンチ部10a及び第2パンチ部10bの不意な折損を防止する観点では、
図6Dに示すパンチ10が好ましい。
図6Dに示すパンチ10は重心Gを通る分割面Aを有するからである。
【0065】
図6Eに示すパンチ10では、第1軸部11の第1端面111及び第2軸部12の第2端面121はそれぞれ正六角形である。これと同様に、
図6Fに示すパンチ10では、第1軸部11の第1端面111及び第2軸部12の第2端面121はそれぞれ正六角形である。これらのパンチ10によれば、金属板1に正六角形の穴を形成することができる。
【0066】
図6Eに示すパンチ10では、分割面Aは1つの平面から構成される。つまり、分割面Aは、軸方向に沿って見て第1交点P1と第2交点P2とを結ぶ直線mを含む。
図6Eに示すパンチ10の場合、分割面Aは重心Gを通らない。一方、
図6Fに示すパンチ10では、分割面Aは、第1分割面A1と、第2分割面A2とから構成される。
図6Fに示すパンチ10の場合、分割面Aは重心Gを通る。つまり、第1分割面A1は、重心Gと第1交点P1とを結ぶ直線を含む。第2分割面A2は、重心Gと第2交点P2とを結ぶ直線を含む。
【0067】
いずれのパンチ10の場合も、第2パンチ部10bを軸方向に沿って見て、直線m(第1交点P1と第2交点P2とを結ぶ直線m)と、接線l1(第1端面111の輪郭の第1交点P1での接線l1)とがなす角度θ1は、鋭角である。同様に、直線mと、接線l2(第1端面111の輪郭の第2交点P2での接線l2)とがなす角度θ2は、鋭角である。第1パンチ部10a及び第2パンチ部10bの不意な折損を防止する観点では、
図6Fに示すパンチ10が好ましい。
図6Fに示すパンチ10は重心Gを通る分割面Aを有するからである。
【0068】
(ダイの変形例)
図5A~
図5Fを参照して、ダイ3の中央に設けられる穴4は、軸方向の全域にわたって一定の大きさである。しかしながら、穴抜き加工に用いられるダイ3の形状は、これに限定されるものではない。
図7は、ダイ3の変形例を示す縦断面図である。
図7には、シェービング加工後の様子が示される。
図7を参照して、ダイ3の穴4は、上方から下方に向けて順に、小径部4a及び大径部4bを含む。小径部4a及び大径部4bは、それぞれ円形である。大径部4bの大きさは、小径部4aの大きさよりも大きい。小径部4a及び大径部4b、並びにパンチ10の第1端面111及び第2端面121は、それぞれ中心が一致する。
【0069】
小径部4aは、パンチ10の第2軸部12に対応する。つまり、軸方向に沿って見て、第2軸部12の輪郭と、小径部4aの周縁とは実質的に同一形状である。
【0070】
図5A~
図5Fに示す穴抜き加工では、ダイ3の穴4の大きさは一定である。シェービング加工終了後、パンチ10がダイ3の穴4の中にある状態で、第2パンチ部10bが第1パンチ部10aに対して突出した場合、削りかす1cがダイ3の穴4に引っ掛かるおそれがある。削りかす1cの外周とダイ3の穴4はほぼ同じ大きさだからである。
【0071】
一方、
図7に示す穴抜き加工では、ダイ3の穴4が、上方から下方に向けて順に、小径部4a及び大径部4bを含む。この場合、シェービング加工終了後、パンチ10がダイ3の穴4の中にある状態で、第2パンチ部10bが第1パンチ部10aに対して突出しても、削りかす1cはダイ3の穴4に引っ掛かることなく、落下する。したがって、穴抜き加工におけるシェービング加工によって発生した削りかす1cをより自動的に除去することができる。
【0072】
[第2実施形態]
図8は、第2実施形態に係るパンチ20の縦断面図である。
図8を参照して、パンチ20は、第1軸部11の外周面に、第1軸部11の周方向に沿って溝112が設けられている。溝112は、第1軸部11の外周面のうち第2軸部12に隣接する部分に形成されている。
【0073】
本実施形態のように、第1軸部11が溝112を有する場合、シェービング加工時、金属板1は第1軸部11と強く接触することはない。このため、金属板1は第1軸部11から拘束を受けにくくなる。したがって、本実施形態に係るパンチ20によれば、穴抜き加工によるパンチ20への負荷を軽減することができる。
【0074】
[第3実施形態]
図9は、第3実施形態に係るパンチ30の縦断面図である。本実施形態のパンチ30では、第2パンチ部10bが突出部122と軸方向で接触している。別の観点では、軸方向において、第2パンチ部10bと突出部122との間に隙間がない。本実施形態では、突出部122には貫通孔122aが設けられている。突出機構13を構成するソレノイド131は、第2軸部12よりも上側(後端側)に配置される。ソレノイド131の可動棒131aは、突出部122に形成された貫通孔122aを通じて、第2パンチ部10bに連結される。
【0075】
本実施形態に係るパンチ30は、第2パンチ部10bを突出させる前の状態において、第2パンチ部10bが、第1パンチ部10aと一体の突出部122と軸方向で接触している。この場合、第1パンチ部10a及び第2パンチ部10bの位置合わせが容易である。また、パンチ30を用いた穴抜き加工の間、第2パンチ部10bが、第1パンチ部10aと一体の突出部122と軸方向で接触し続ける。この場合、打抜き加工及びシェービング加工の際、ソレノイド131に加工荷重が加わらない。そのため、突出機構13(ソレノイド131)が劣化又は破損するのを抑制することができる。
【0076】
[第4実施形態]
図10は、第4実施形態に係るパンチ40の縦断面図である。本実施形態のパンチ40は、円筒形状の第3軸部16をさらに備える。第3軸部16は第1軸部11及び第2軸部12と一体化されている。ただし、第1軸部11、第2軸部12、及び第3軸部16は、第1パンチ部10aと第2パンチ部10bとに分割される。
【0077】
第3軸部16は、パンチ10の軸方向に沿って第2軸部12に繋がる。つまり、第3軸部16は、第2軸部12の後端に繋がる。第3軸部16の先端には、第3端面161を有する。第3端面161の輪郭は、第2端面121の輪郭よりも大きい。第3軸部16の中心軸は、第1軸部11及び第2軸部12の中心軸と一致する。第3軸部16の横断面形状は、第1軸部11及び第2軸部12の横断面形状と相似であってもよい。
【0078】
第1パンチ部10aは、軸方向に垂直な1方向に向かって突出した突出部162を含む。突出部162は、第3軸部16の後部のうち、周方向の一部に相当する。第2パンチ部10bは、突出部162の下方に位置する。本実施形態では、軸方向において、第2パンチ部10bと、第1パンチ部10aと一体の突出部162との間に隙間163が形成されている。突出機構13(ソレノイド131)は、第2パンチ部10bと突出部162との間の隙間163に配置される。
【0079】
第2軸部12の径方向外側には、補助部材17が配置される。補助部材17は、第2軸部12が貫通する孔171を有する。補助部材17は第2軸部12の径方向外側で周方向に繋がっている。本実施形態の例では、補助部材17はリング状である。要するに、補助部材17の外周面は、円形である。孔171の輪郭の形状は、第2軸部12の第2端面121の輪郭の形状と実質的に同じである。つまり、第2軸部12の外周面と孔171の内周面との間には、ほとんど隙間がない。ただし、孔171の輪郭は、第2軸部12が補助部材17を貫通可能なように、第2端面121の輪郭よりも多少大きくてもよい。
【0080】
本実施形態の例のように第2軸部12の外周面が円形であれば、第2軸部12と補助部材17の孔171とは、どちらか一方の寸法を基準とし、他方の寸法公差がJIS B 0401 2016に基づき設定されてもよい。この場合、第2軸部12と孔171のうち、第2軸部12を基準とした軸基準はめあい方式を適用することが好ましい。シェービング加工の精度は、第2軸部12の寸法に影響を受ける。そのため、第2軸部12を基準とするほうが、孔171を基準とする場合と比較してシェービング加工の精度が向上する。また、第2軸部12又は孔171の寸法公差として、JIS B 0401 2016に記載のはめあい公差のうち、すきまばめの寸法公差を適用することが好ましい。第2軸部12は補助部材17に対して相対移動する必要があるため、隙間を可能な限り小さく保ちながら相対移動を許容させる観点から、すきまばめが好適である。
【0081】
補助部材17は、第1パンチ部10a又は第2パンチ部10bに接続される。本実施形態の例では、補助部材17は第1パンチ部10a又は第2パンチ部10bに直接固定されているが、補助部材17は別の部品を介して第1パンチ部10a又は第2パンチ部10bに連結されてもよい。
【0082】
補助部材17が第1パンチ部10aに固定されている場合、第2パンチ部10bは補助部材17に対して軸方向に相対移動可能である。補助部材17が第1パンチ部10aに固定されたパンチ40において、ソレノイド131を作動させると、第2パンチ部10bは第1パンチ部10a及び補助部材17に対して突出する。また、補助部材17が第2パンチ部10bに固定されている場合、第1パンチ部10aは補助部材17に対して軸方向に相対移動可能である。補助部材17が第2パンチ部10bに固定されたパンチ40において、ソレノイド131を作動させると、第2パンチ部10b及び補助部材17は第1パンチ部10aに対して突出する。
【0083】
補助部材17の材質は、特に限定されるものではない。打抜き加工の際に金属板1から受ける反力で塑性変形しない材質が好ましい。補助部材17の材質は、例えば金型と同じであってもよいし、炭素鋼であってもよい。また、補助部材17の材質はエンジニアプラスチックであってもよい。
【0084】
通常、打抜き加工の際、パンチの先端部(第1軸部11の第1端面111)は金属板1から打抜きの反力を受ける。この反力は、パンチの軸方向だけでなく、パンチの軸方向に垂直な水平方向にもはたらく。パンチは、先端部にはたらく水平方向の力により生じる曲げモーメントを受ける。パンチが補助部材17を備えていない場合、パンチに生じる曲げモーメントの大きさは、第2軸部12の後端(第3軸部16の先端)の位置で最大となる。この曲げモーメントの大きさM1は、パンチの先端部にはたらく水平方向の力の大きさF及び第1軸部11の先端から第2軸部12の後端までの距離L1を用いて、M1=F×L1と表せる。
【0085】
一方、本実施形態のパンチ40の場合は、補助部材17を備えている。この場合、先端部にはたらく水平方向の力によるパンチ40の変形が補助部材17によって妨げられる。このとき、パンチ40に生じる曲げモーメントの大きさは、補助部材17の先端の位置で最大となる。この曲げモーメントの大きさM2は、パンチ40の先端部にはたらく水平方向の力の大きさF及び第1軸部11の先端から補助部材17の先端までの距離L2を用いて、M2=F×L2と表せる。第2軸部12は補助部材17を貫通しているため、補助部材17の先端は第2軸部12の後端よりも軸方向先端側に位置する。つまり、第1軸部11の先端から補助部材17の先端までの距離L2は、第1軸部11の先端から第2軸部12の後端までの距離L1よりも小さい。このことから、補助部材17の先端の位置に生じる曲げモーメントの大きさM2は、第2軸部12の後端の位置に生じる曲げモーメントの大きさM1よりも小さい。したがって、本実施形態に係るパンチ40によれば、パンチ40に生じる曲げモーメントの大きさを低減することができる。
【0086】
本実施形態に係るパンチ40において、補助部材17の孔171の輪郭の形状は、第2軸部12の第2端面121の輪郭の形状、すなわち第2軸部12の軸方向に垂直な断面形状と実質的に同じである。第2軸部12の外周面と孔171の内周面との間には、隙間がほとんど存在しない。これにより、本実施形態に係るパンチ40によれば、パンチ40の先端部に水平方向の力がはたらいた際、パンチ40の変形を確実に防止することができる。
【0087】
[第5実施形態]
図11は、第5実施形態に係るパンチ50の縦断面図である。
図11では、穴抜き加工の初期状態を示す。本実施形態のパンチ50は、弾性体18を含む。弾性体18は、例えば圧縮コイルばねである。弾性体18は、パンチ50の軸方向において、第1パンチ部10a又は第2パンチ部10bと補助部材17との間に配置される。補助部材17は、弾性体18を介して第1パンチ部10a又は第2パンチ部10bに接続される。本実施形態の例では、補助部材17は弾性体18を介して第1パンチ部10aに接続される。弾性体18は、例えば補助部材17の後端面と第1パンチ部10a又は第2パンチ部10bのうち第3軸部16の第3端面161とを連結する。弾性体18は、パンチ50の軸方向に伸縮可能である。第1パンチ部10a及び第2パンチ部10bは、補助部材17に対して軸方向に相対移動可能である。
【0088】
補助部材17は、第2軸部12の先端付近に配置されてもよい。本実施形態の例では、補助部材17は、補助部材17の先端面が第2軸部12の第2端面121と面一になる位置に配置される。
【0089】
図12は、本実施形態に係るパンチ50を用いたシェービング加工の様子を示す縦断面図である。
図12では、シェービング加工開始時の様子を示す。
図12を参照して、本実施形態に係るパンチ50を用いた穴抜き加工において、シェービング加工開始時には、第2軸部12の第2端面121と補助部材17の先端面とが同時に金属板1と接触する。その後、パンチ50をさらに下降させようとすると、補助部材17に連結された弾性体18が縮む。すると、補助部材17の先端面が金属板1と接触した状態で第1パンチ部10a及び第2パンチ部10bが下降する。これにより、上述した各実施形態と同様にシェービング加工を行うことができる。
【0090】
したがって、本実施形態に係るパンチ50では、第2軸部12の軸方向先端近傍に補助部材17を配置することができる。この場合、第1軸部11の先端から補助部材17の先端までの距離L2が小さくなる。そのため、補助部材17の先端の位置に生じる曲げモーメントの大きさM2、すなわちパンチ50に生じる曲げモーメントの大きさをより低減することができる。
【0091】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【0092】
上記各実施形態では、穴抜き加工の際、シェービング加工で発生した削りかす1cは、特に外力が与えられることなく、自重のみを受けて落下する。しかしながら、例えば、エアーを与えることにより、落下を促進させてもよい。
【0093】
上記各実施形態では、第2パンチ部10bを突出させる突出機構13は、ソレノイド131である。しかしながら、突出機構13は、ソレノイド131に限定されるものではない。例えば、突出機構13として油圧シリンダ、ばね等を用いてもよいし、ソレノイド131とばねを併せて用いてもよい。以下では、突出機構13として圧縮コイルばねを用いた場合の穴抜き加工方法を説明する。この場合、圧縮コイルばねは、第2パンチ部10bと、第1パンチ部10aと一体の突出部122と、の間の隙間123に配置される。圧縮コイルばねは、第2パンチ部10b及び突出部122の両方に連結される。
【0094】
穴抜き加工の初期状態において、第2パンチ部10bは、第1パンチ部10aに対して突出している。つまり、第2パンチ部10bの端面は、第1パンチ部10aの端面よりも飛び出している。このとき、圧縮コイルばねは、圧縮の荷重を受けていない。
【0095】
初期状態からパンチを下降させると、第2パンチ部10bの端面が金属板1と接触する。この時点では、第1パンチ部10aの端面は金属板1と接触していない。その後、パンチに下降させようとする力を加えると、金属板1が打抜かれる前に圧縮コイルばねが縮む。圧縮コイルばねが縮むと、第1パンチ部10aの端面は金属板1と接触し、第2パンチ部10bの端面と面一になる。
【0096】
第1パンチ部10aと第2パンチ部10bが面一になった状態からさらにパンチを下降させることにより、上述した各実施形態と同様に打抜き加工及びシェービング加工を行うことができる。ただし、シェービング加工が終了するまでの間、圧縮コイルばねは金属板1から圧縮方向の力を受け続ける。つまり、圧縮コイルばねは縮んだ状態のままである。
【0097】
打抜き加工及びシェービング加工により、金属板1は、打抜かれ、また、削り取られる。シェービング加工終了後、圧縮コイルばねは圧縮方向の力を受けなくなる。すると、圧縮コイルばねは、復元力で元の長さに戻る。第2パンチ部10bは、再び第1パンチ部10aに対して突出する。このように、突出機構13として圧縮コイルばねを使用した場合でも、第2パンチ部10bが突出するため、穴抜き加工におけるシェービング加工によって発生した削りかす1cを自動的に除去することができる。
【符号の説明】
【0098】
10、20、30、40、50:パンチ
10a:第1パンチ部
10b:第2パンチ部
11:第1軸部
111:第1端面
12:第2軸部
121:第2端面
13:突出機構
131:ソレノイド
14:打抜き刃
15:シェービング刃
17:補助部材
171:孔
18:弾性体