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特開2022-151753慢性感染症に対する免疫増強用組成物および慢性感染症治療用医薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151753
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】慢性感染症に対する免疫増強用組成物および慢性感染症治療用医薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220929BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220929BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220929BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 45/08 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220929BHJP
   A61P 31/06 20060101ALI20220929BHJP
   A61P 33/06 20060101ALI20220929BHJP
   A61P 33/02 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P37/04
A61P31/00
A61K39/00 A
A61K39/395 D
A61P43/00 111
A61K38/00
A61K45/08
A61K48/00
A61P43/00 105
A61K31/7088
A61P31/06
A61P33/06
A61P33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043687
(22)【出願日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2021052113
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)第90回日本寄生虫学会 第32回日本臨床寄生虫学会 合同大会 プログラム・抄録集、第51頁、発行日 令和3年4月1日 (2)第90回日本寄生虫学会 第32回日本臨床寄生虫学会 合同大会 奈良春日野国際フォーラム~I・RA・KA~、およびオンライン、開催日 令和3年4月16日 (3)「第50回日本免疫学会学術集会・抄録集」、演題名「Transient IL-27 blockade enhances CD4+ T cell memory and protection against malaria(演題番号:3-D-WS20-20-P)」、https://www.men-eki.org/meneki_web/jsp/welcome.html、掲載日 令和3年11月26日 (4)第50回日本免疫学会学術集会 奈良春日野国際フォーラム~I・RA・KA~、およびオンライン、開催日 令和3年12月10日 (5)第14回寄生虫感染免疫研究会・抄録集、発行日 令和4年2月18日 (6)第14回寄生虫感染免疫研究会 Zoom会議(オンライン)、開催日 令和4年3月3日
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(71)【出願人】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】由井 克之
(72)【発明者】
【氏名】井上 信一
(72)【発明者】
【氏名】マリア ロウデス マカパガル マカリナオ
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕樹
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA17
4C084AA20
4C084BA03
4C084DA59
4C084DC50
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB021
4C084ZB091
4C084ZB211
4C084ZB321
4C084ZB351
4C084ZB381
4C085AA03
4C085AA13
4C085BA01
4C085EE03
4C086AA01
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB02
4C086ZB09
4C086ZB21
4C086ZB32
4C086ZB35
4C086ZB38
(57)【要約】
【課題】マラリア等の慢性感染症における免疫記憶を長期間維持させる技術を提供すること。
【解決手段】インターロイキン-27阻害剤を有効成分とする慢性感染症に対する免疫増強用組成物、該組成物を含有する慢性感染症治療用医薬、および、該組成物と慢性感染症ワクチン抗原とを組み合わせて使用する慢性感染症に対するワクチン効果増強用医薬。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターロイキン-27阻害剤を有効成分とする慢性感染症に対する免疫増強用組成物。
【請求項2】
免疫記憶期間延長用である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記感染確認時から1週間以内に1回以上投与されるように使用される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記慢性感染症の感染確認時に1回のみ投与されるように使用される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
慢性感染症ワクチン抗原と組み合わせて、慢性感染症の感染前に投与されるように使用される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項6】
慢性感染症ワクチン抗原と同時に投与されるように使用される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
インターロイキン-27阻害剤が、インターロイキン-27の機能を阻害する抗体またはペプチドである、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
インターロイキン-27阻害剤が、インターロイキン-27の発現を阻害する核酸である、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
慢性感染症がマラリア、結核またはリーシュマニア症である、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物を含有する慢性感染症治療用医薬。
【請求項11】
慢性感染症の感染初期に投与するように用いられる請求項10に記載の医薬。
【請求項12】
請求項5~9のいずれか1項に記載の組成物を含有する慢性感染症に対するワクチン効果増強用医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性感染症に対する免疫増強用組成物および慢性感染症治療用医薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マラリアは、熱帯・亜熱帯地方で毎年2億人以上が感染し50万人近くが死亡している重要な疾患である。感染症対策は進みつつあるが、十分に有効なワクチンはできていない。マラリア制圧が困難な理由として、マラリア原虫感染によって宿主免疫応答が抑制されることや、免疫記憶が持続し難い問題がある。これらの問題の機序は明らかでなかったが、近年T細胞上のPD-1などの抑制性受容体の関与が示唆された(非特許文献1)。また、マラリア原虫感染モデルマウスにおいて、インターロイキン-27(IL-27)受容体シグナルによりCD4+ T細胞の免疫記憶と免疫応答が抑制されることが報告され(非特許文献2)、本発明者らも同様な系で抗マラリア原虫抗体値が高まることを報告した(非特許文献3)。
【0003】
インターロイキン-27(IL-27)はインターロイキン-12(IL-12)ファミリーに属するヘテロ二量体サイトカインであり、自然免疫受容体を介した刺激により、マクロファージ、樹状細胞およびB細胞によって産生されることが知られている。本発明者らは、マラリア原虫感染モデルマウスにおいて、IL-27を産生する新規制御性CD4陽性T細胞が誘導され、CD4陽性T細胞のインターロイキン-2(IL-2)産生およびクローン増殖を抑制することを見出した(非特許文献4)。さらに、本発明者らは、IL-27が記憶CD4陽性T細胞の細胞死を誘導すること、IL-27欠損マウスでは、免疫記憶が維持されること見出した(非特許文献5)。
【0004】
しかし、IL-27は自然免疫に関与する重要なサイトカインであるため、長期間IL-27の発現を抑制すれば過剰な免疫応答を誘導して健康上の問題を惹起することが予想される。したがって、ヒトに適用可能なマラリア原虫に対する免疫記憶を維持させる方法の開発が急務である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Butler et al., Nat Immnol. 2012 Feb; 13(2): 188-195.
【非特許文献2】Findlay et al., Infect. Immun. 2014 Jan; 82(1):10-20.
【非特許文献3】Sukhbaatar et al., Parasitol Int. 2020 Feb; 74 101994.
【非特許文献4】Kimura et al., Immunity 2016 44(3):672-682.
【非特許文献5】科研費研究成果報告書、課題番号:16K08763、研究課題名:マラリア原虫感染における免疫記憶抑制-IL-27依存的メカニズムの解明-、研究代表者:木村大輔、令和元年6月5日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、マラリア等の慢性感染症における免疫記憶を長期間維持させる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために以下の各発明を包含する。
[1]インターロイキン-27阻害剤を有効成分とする慢性感染症に対する免疫増強用組成物。
[2]免疫記憶期間延長用である、前記[1]に記載の組成物。
[3]前記感染確認時から1週間以内に1回以上投与されるように使用される、前記[1]または[2]に記載の組成物。
[4]前記慢性感染症の感染確認時に1回のみ投与されるように使用される、前記[3]に記載の組成物。
[5]慢性感染症ワクチン抗原と組み合わせて、慢性感染症の感染前に投与されるように使用される、前記[1]または[2]に記載の組成物。
[6]慢性感染症ワクチン抗原と同時に投与されるように使用される、前記[5]に記載の組成物。
[7]インターロイキン-27阻害剤が、インターロイキン-27の機能を阻害する抗体またはペプチドである、前記[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]インターロイキン-27阻害剤が、インターロイキン-27の発現を阻害する核酸である、前記[1]]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[9]慢性感染症がマラリア、結核またはリーシュマニア症である、前記[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10]前記[1]~[9]のいずれかに記載の組成物を含有する慢性感染症治療用医薬。
[11]慢性感染症の感染初期に投与するように用いられる前記[10]に記載の医薬。
[12]前記[5]~[9]のいずれかに記載の組成物を含有する慢性感染症に対するワクチン効果増強用医薬。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、マラリア原虫感染等の慢性感染症における免疫記憶を長期間維持させる免疫増強用組成物、該免疫増強用組成物を含有する慢性感染症治療用医薬、および、該免疫増強用組成物と慢性感染症ワクチン抗原とを組み合わせて使用する慢性感染症のワクチン効果増強用医薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1のプロトコールを示す図である。
図2】マラリア原虫感染後の各群のマウスにおける、全赤血球中のマラリア原虫感染赤血球の比率の経時変化を示す図である。
図3】マラリア原虫感染後の各群のマウスにおける、抹消血CD4+ T細胞中のPbT-II細胞の比率の経時変化を示す図である。
図4】実施例2のプロトコールを示す図である。
図5】マラリア原虫感染後の各群のマウスにおける、抹消血CD4+ T細胞中のPbT-II細胞の比率の経時変化を示す図である。
図6】マラリア原虫感染21日後の各群のマウスにおける、抹消血CD4+ T細胞中のPbT-II細胞の比率を示す図である。
図7】マラリア原虫感染28日後の各群のマウスにおける、脾臓中のPbT-II細胞数を示す図である。
図8】マラリア原虫感染28日後の抗IL-27抗体4回投与群、抗IL-27抗体1回投与群およびIgGコントロール群のマウスの脾臓中PbT-II細胞における、CD127、KLRG1の発現をFACSで解析した結果を示す図である。
図9】マラリア原虫感染28日後の抗IL-27抗体4回投与群およびIgGコントロール群のマウスの脾臓中PbT-II細胞における、T-bet、TCF-1、IFN-γおよびTNF-αの発現をFACSで解析した結果を示す図である。
図10】実施例4のプロトコールを示す図である。
図11】マラリア原虫感染63日後の抗IL-27抗体投与群およびIgGコントロール群のマウスにおける、血清中の抗マラリア原虫抗体価を測定した結果を示す図である。
図12】マラリア原虫感染63日後の抗IL-27抗体投与群およびIgGコントロール群のマウスにおける、脾臓のCD4+ T細胞におけるマラリア原虫特異的IFN-γ産生量を測定した結果を示す図である。
図13】マラリア原虫再感染後の抗IL-27抗体投与群およびIgGコントロール群のマウスにおける、全赤血球中のマラリア原虫感染赤血球の比率の経時変化を示す図である。
図14】マラリア原虫再感染後の抗IL-27抗体投与群およびIgGコントロール群のマウスにおける、臨床スコアの経時変化の結果を示す図である。
図15】マラリア原虫再感染後の抗IL-27抗体投与群およびIgGコントロール群のマウスにおける、体重変動を示す図である。
図16】マラリア原虫再感染後の抗IL-27抗体投与群およびIgGコントロール群のマウスにおける、生存率の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、インターロイキン-27(以下「IL-27」と記す)阻害剤を有効成分とする慢性感染症に対する免疫増強用組成物(以下「本発明の組成物」と記す)を提供する。本発明の組成物が有効な慢性感染症は、感染によりマクロファージ、樹状細胞などの自然免疫系細胞でIL-27が産生され、宿主免疫応答が抑制されることが知られている慢性感染症である。このような慢性感染症としては、例えば、マラリア、結核(Abdalla et al., Int J Biol Sci, 2015; 11(2):168-175)、リーシュマニア症(Montes de Oca et al, Plos Pathogens, 2020 Oct; 1008994)などが挙げられる。
【0011】
本発明の組成物は、慢性感染症に対する免疫を増強させることができる。本発明の組成物により増強される免疫機能には、病原体特異的T細胞免疫記憶期間の延長、病原体特異的抗体の産生期間延長、病原体特異的抗体の血液中濃度の長期間維持、病原体特異的二次免疫応答の増強などが含まれる。本発明の組成物は、マラリア、結核、リーシュマニア症等の慢性感染症の免疫記憶期間を延長することができる点で、非常に有用である。
【0012】
本発明の組成物は、IL-27阻害剤を有効成分とし、常套手段に従って製剤化することができる。例えば、経口投与のための製剤としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などが挙げられる。これらの製剤は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有するものである。例えば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウムなどが用いられる。非経口投与のための製剤としては、例えば、注射剤、坐剤などが用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤、関節内注射剤などの剤形を包含する。このような注射剤は、公知の方法に従って、例えば、上記有効成分を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製される。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例えば、エタノール等)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン界面活性剤(例えば、ポリソルベート80、HCO-50等)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記有効成分を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製される。このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトや他の哺乳動物(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的にまたは非経口的に投与することができる。
【0013】
本発明において「IL-27阻害剤」は、IL-27の発現を阻害する物質および/またはIL-27の機能を阻害する物質であればよい。IL-27阻害剤は、抗体、ペプチド、核酸または低分子化合物であってもよい。好ましくは、IL-27の機能を阻害する抗体またはペプチド、または、IL-27の発現を阻害する核酸である。
【0014】
IL-27の機能を阻害する抗体またはペプチドとしては、例えば、IL-27と特異的に結合する抗体(以下「抗IL-27抗体」と記す)またはペプチド、IL-27受容体と特異的に結合する抗体(以下「抗IL-27受容体抗体」と記す)またはペプチドなどが挙げられる。抗体またはペプチドがIL-27またはIL-27受容体と結合することにより、IL-27とIL-27受容体との結合を阻害することができる。抗体はポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。また、完全な抗体分子でもよく、抗原結合能を有する抗体断片(例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv、ダイアボディ等)、抗体の可変部を結合させた低分子化抗体であってもよい。抗体はヒト型キメラ抗体またはヒト化抗体であってもよい。
【0015】
ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体は公知の方法で作製することができる。ポリクローナル抗体は、例えば、抗原をPBSに溶解し、所望により通常のアジュバント(例えばフロイント完全アジュバント)を適量混合したものを免疫原として哺乳動物(マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマ等)を免疫し、常法に従い免疫した動物から血液を採取して血清を分離し、ポリクローナル抗体画分を精製することにより作製することができる。免疫方法は特に限定されないが、例えば、1回または適当な間隔で複数回、皮下注射または腹腔内注射する方法が好ましい。モノクローナル抗体は、例えば、上記免疫された哺乳動物から得た免疫細胞(例えば脾細胞)とミエローマ細胞とを融合させてハイブリドーマを得、当該ハイブリドーマの培養物から抗体を採取することによって作製することができる。また、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞に導入し、遺伝子組換え技術を用いて組換え型のモノクローナル抗体を産生させることもできる。さらに、ファージディスプレイ法を用いてモノクローナル抗体を作製することもできる。ポリクローナル抗体は、例えば吸着処理等により特定のサブクラスと反応する抗体を除いたポリクローナル抗体を用いてもよい。
【0016】
ペプチドは公知の一般的なペプチド合成のプロトコールに従って、固相合成法(Fmoc法、Boc法)、液相合成法、またはこれらの組み合わせにより製造することができる。また、ペプチドをコードするDNAを含有する発現ベクターを導入した形質転換体を用いて製造することができる。また、インビトロ転写翻訳系を用いる方法により製造することができる。ペプチドは、C末端がカルボキシル基、カルボキシレート、アミドまたはエステルのいずれであってもよい。また、ペプチドは、N末端のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチルなどのC2-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているものであってもよい。ペプチドは塩を形成していてもよく、その塩としては、生理学的に許容される塩が好ましい。ペプチドはD-アミノ酸を含んでもよく、非天然アミノ酸を含んでもよい。
【0017】
ペプチドは、環状ペプチドであってもよい。環状ポリペプチドは固相合成法(Fmoc法、Boc法)、液相合成法、またはこれらの組み合わせにより製造することができる。IL-27またはIL-27受容体と結合する環状ペプチドは、例えば環状ポリペプチドライブラリーを用いて、IL-27またはIL-27受容体と結合する環状ポリペプチドを同定してよい。このような同定方法は、例えばWO2013/100132、WO2012/033154などで公知である。
【0018】
本発明の組成物の有効成分がIL-27の機能を阻害する抗体またはペプチドである場合、薬学的に許容される担体とともに注射剤または輸液として製剤化し、非経口投与することが好ましい。非経口投与としては、例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与、腹腔内投与、局所投与などが挙げられる。
【0019】
IL-27はIL-27サブユニットαとIL-27サブユニットβのヘテロ二量体であるため、IL-27の発現を阻害する核酸としては、IL-27サブユニットαおよびIL-27サブユニットβの少なくとも一方の発現を阻害する核酸であればよい。このような核酸としては、IL-27サブユニットα遺伝子のsiRNA(short interfering RNA)、IL-27サブユニットα遺伝子のshRNA(short hairpin RNA)、IL-27サブユニットα遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチド、IL-27サブユニットαのmRNAを切断するリボザイム、IL-27サブユニットβ遺伝子のsiRNA、IL-27サブユニットβ遺伝子のshRNA、IL-27サブユニットβ遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチド、IL-27サブユニットβのmRNAを切断するリボザイムなどが挙げられる。
【0020】
投与対象動物のIL-27サブユニットα遺伝子およびIL-27サブユニットβ遺伝子の塩基配列は、公知のデータベース(NCBI等)から容易に取得することができ、公知の方法でIL-27サブユニットαまたはIL-27サブユニットβの発現を阻害する核酸を設計することができる。例えば、ヒトIL-27サブユニットαおよびヒトIL-27サブユニットβのアミノ酸配列および塩基配列のNCBIアクセッション番号は以下のとおりである。
ヒトIL-27サブユニットα:NP_663634.2(アミノ酸配列)、NM_145659.3(塩基配列)
ヒトIL-27サブユニットβ:NP_005746.2(アミノ酸配列)、NM_005755.3(塩基配列)
【0021】
siRNAは、約20塩基(例えば、約21~23塩基)またはそれ未満の長さの二本鎖RNAであり、このようなsiRNAを細胞に発現させることにより、そのsiRNAの標的となる遺伝子の発現を抑制することができる。shRNAは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、3'末端に突出部を有する短いヘアピン構造からからなる約20塩基対以上の分子のことをいう。そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基(代表的には例えば、21塩基、22塩基、23塩基)の長さに分解され、siRNAと同様に標的となる遺伝子の発現を抑制することができる。siRNAおよびshRNAは、IL-27サブユニットp28遺伝子および/またはIL-27サブユニットEBI3遺伝子の発現を抑制できるものであればどのような形態であってもよい。siRNAまたはshRNAは、標的遺伝子の塩基配列に基づいて、公知の方法により設計することができる。siRNAまたはshRNAは、人工的に化学合成することができる。また、例えばT7RNAポリメラーゼおよびT7プロモーターを用いて、鋳型DNAからアンチセンスおよびセンスのRNAをインビトロで合成することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的遺伝子のDNA配列中の連続する5から100の塩基配列に対して相補的な、またはハイブリダイズするヌクレオチドであればよく、DNAまたはRNAのいずれであってもよい。また、機能に支障がない限り修飾されたものであってもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドは常法によって合成することができ、例えば、市販のDNA合成装置によって容易に合成することができる。
【0022】
siRNAと標的配列は同一であることが望ましいが、RNA干渉を誘導できる限り、完全に同一な配列でなくてもよい。具体的には、siRNAのアンチセンス鎖配列と標的配列がハイブリダイズする限り、1~数個(例えば2、3、4個)のミスマッチがあってもよい。すなわち、siRNAは、標的配列に対して1~数個の塩基が置換、付加もしくは欠失したものであってRNA干渉を誘導できるものであってもよい。また、siRNAは、標的配列と85%以上、90%以上、95%以上、98%以上の配列同一性を有し、かつRNA干渉を誘導できるものであってもよい。
【0023】
siRNAは、RNA干渉を誘導できる限り、センス鎖またはアンチセンス鎖のいずれか一方のヌクレオチドを全てDNAに変換したもの(ハイブリッド型)や、センス鎖および/またはアンチセンス鎖の一部のヌクレオチドをDNAに変換したもの(キメラ型)であってもよい。ハイブリッド型としては、センス鎖のヌクレオチドをDNAに変換したものが挙げられる。キメラ型としては、下流側(センス鎖の3'末端側、アンチセンス鎖の5'末端側)の一部のヌクレオチドをDNAに変換したものが挙げられる。具体的には、センス鎖の3'末端側およびアンチセンス鎖の5'末端側のヌクレオチドを共にDNAに変換したもの、センス鎖の3'末端側またはアンチセンス鎖の5'末端側の何れかのヌクレオチドをDNAに変換したものが挙げられる。また、変換するヌクレオチド長は、RNA分子の1/2に相当するヌクレオチドまでの任意長であってもよい。
【0024】
リボザイムはIL-27サブユニットαをコードする遺伝子配列またはIL-27サブユニットβをコードする遺伝子配列に基づいて設計可能であり、例えば、ハンマーヘッド型リボザイムとしては、Koizumiら(FEBS Letters, 1988 Feb 15;228(2):228-230)に記載の方法を用いることができる。また、ハンマーヘッド型リボザイムだけでなく、ヘアピン型リボザイム、デルタ型リボザイムなどのリボザイムの種類に関わらず、IL-27サブユニットαまたはIL-27サブユニットβのmRNAを切断し、翻訳を阻害するリボザイムであってもよい。
【0025】
IL-27の発現を阻害する核酸は、IL-27の発現を阻害できる限り、そのヌクレオチド(リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド)が、糖、塩基および/またはリン酸塩が化学修飾されたヌクレオチド類似体であってもよい。塩基が修飾されたヌクレオチド類似体としては、例えば、5位修飾ウリジンまたはシチジン(例えば、5-プロピニルウリジン、5-プロピニルシチジン、5-メチルシチジン、5-メチルウリジン、5-(2-アミノ)プロピルウリジン、5-ハロシチジン、5-ハロウリジン、5-メチルオキシウリジン等);8位修飾アデノシンまたはグアノシン(例えば、8-ブロモグノシン等);デアザヌクレオチド(例えば7-デアザ-アデノシン等);O-およびN-アルキル化ヌクレオチド(例えば、N6-メチルアデノシン等)等が挙げられる。また、糖が修飾されたヌクレオチド類似体としては、例えば、リボヌクレオチドの2'-OHが、H、OR、R、ハロゲン原子、SH、SR、NH2、NHR、NR2、もしくはCN(ここで、Rは炭素数1-6のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示す)等によって置換された2'位糖修飾、5'末端がモノリン酸化された5'末端リン酸化修飾が挙げられる。リン酸塩が修飾されたヌクレオチド類似体としては、隣接するリボヌクレオチドを結合するホスホエステル基を、ホスホチオエート基で置換したものが挙げられる。
【0026】
本発明の組成物の有効成分がIL-27の発現を阻害する核酸である場合、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターの形態で投与することができる。非ウイルスベクターの形態で投与する場合、リポソームを用いて核酸分子を導入する方法(リポソーム法、HVJ-リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リポフェクション法、リポフェクトアミン法など)、マイクロインジェクション法、遺伝子銃(Gene Gun)でキャリア(金属粒子)とともに核酸分子を細胞に移入する方法などを利用することができる。ウイルスベクターを用いて生体に投与する場合は、無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、SV40などのDNAウイルスまたはRNAウイルスに、IL-27の発現を阻害する核酸を発現するDNAを導入し、細胞または組織にこの組換えウイルスを感染させることにより、細胞または組織内にIL-27の発現を阻害する核酸を導入することができる。
【0027】
本発明の免疫増強用組成物の有効成分は、IL-27の発現を阻害および/またはIL-27の機能を阻害する低分子化合物であってもよい。
【0028】
本発明の組成物は、有効成分を0.001~50質量%、好ましくは0.01~10質量%、さらに好ましくは0.1~1質量%含有することができる。本発明の組成物の投与量は、患者の年齢、体重、性別、有効成分の種類などを考慮して、適宜設定される。約65~70kgの体重を有する平均的なヒトを対象とした場合、1日当たり0.02mg~4000mg程度が好ましく、0.1mg~200mg程度がより好ましい。1日当たりの総投与量は、単一投与量であっても分割投与量であってもよい。
【0029】
本発明の組成物は、慢性感染症の感染初期に投与することが好ましい。具体的には、慢性感染症の発症後(症状が現れてから)1週間以内に投与することが好ましい。最初の投与は、発症後6日以内、5日以内、4日以内、3日以内、2日以内、1日以内に行ってもよい。投与回数は1回でもよいが、感染初期に複数回投与することが好ましい。投与頻度は1日に1回または2日に1回が好ましい。投与回数は、2回以上、3回以上、4回以上、5回以上、6回以上、7回以上であってもよい。投与時期は、発症後14日以内、10日以内、12日以内、10日以内、8日以内、7日以内であってもよい。
【0030】
本発明の組成物は、慢性感染症ワクチン抗原と組み合わせて使用してもよい。例えば、マラリアワクチン抗原としては、マラリア原虫のスポロゾイト、マラリア原虫のスポロゾイトで発現するタンパク質、当該タンパク質をコードするDNA、当該タンパク質遺伝子のmRNAなどが挙げられる。マラリア原虫のスポロゾイトで発現するタンパク質としては、例えば、スポロゾイトの表面タンパク質であるcircumsporozoite protein(CSP)およびsporozoite surface protein 2(SSP2)、赤血球期抗原のApical membrane antigen 1 (AMA1)およびmerozoite surface protein 3(MSP3)などが挙げられる。例えば、結核ワクチン抗原としてはBCG菌、結核菌由来heat shock protein 65(hsp65)、ミコール酸転移酵素antigen 85 complex proteins(Ag85)、early secreted antigenic target 6-kDa protein(ESAT6)などが挙げられる。リーシュマニア症ワクチン抗原としては、不活化リーシュマニア原虫、リーシュマニア原虫に発現されるタンパク質(例えば、thiol-specific antioxidant(TSA)、Leishmania elongation initiation factor(LeIF)、cysteine protease A および B)などが挙げられる。慢性感染症ワクチン抗原として、製剤化された慢性感染症ワクチンを用いてもよい。
【0031】
組み合わせて使用するとは、本発明の組成物の適用時期と慢性感染症ワクチン抗原の適用時期が重複していることを意味し、同時に投与することを必須とするものではない。好ましくは、両者を前後して連続的に投与することである。また、本発明の組成物に慢性感染症ワクチン抗原を添加して、一製剤として投与してもよい。投与対象は、免疫を増強しようとする慢性感染症に罹患したことがない対象であってもよく、免疫を増強しようとする慢性感染症に罹患したことがある対象であってもよい。
【0032】
本発明の組成物を慢性感染症ワクチン抗原と組み合わせて投与することにより、標的慢性感染症に対するワクチン効果を増強することができる。具体的には、感染阻止効果期間および/または発病阻止効果期間を延長することができる。本発明の組成物を慢性感染症ワクチン抗原と組み合わせて、当該慢性感染症に罹患したことがある対象に投与した場合、当該感染症の二次感染を抑えることができる。
【0033】
本発明の組成物は、慢性感染症ワクチン抗原と組み合わせて使用する実施形態において、慢性感染症に対するワクチン効果増強用医薬と称することができる。すなわち、本発明は、IL-27阻害剤と慢性感染症ワクチン抗原とを組み合わせて使用される慢性感染症に対するワクチン効果増強用医薬を提供する。
【0034】
本発明は、上記本発明の組成物を含有する慢性感染症治療用医薬を提供する。慢性感染症治療用医薬は、治療対象である慢性感染症の感染初期に投与することが好ましい。具体的には、治療対象である慢性感染症の発症後(症状が現れてから)1週間以内に投与することが好ましい。最初の投与は、発症後6日以内、5日以内、4日以内、3日以内、2日以内、1日以内に行ってもよい。投与回数は1回でもよいが、感染初期に複数回投与することが好ましい。投与頻度は1日に1回または2日に1回が好ましい。投与回数は、2回以上、3回以上、4回以上、5回以上、6回以上、7回以上であってもよい。投与時期は、発症後14日以内、10日以内、12日以内、10日以内、8日以内、7日以内であってもよい。
【0035】
本発明の慢性感染症治療用医薬は、IL-27阻害剤のみを投与するものであってもよく、IL-27阻害剤と慢性感染症ワクチン抗原とを組み合わせて投与するものであってもよい。本発明の慢性感染症治療用医薬は、当該慢性感染症に対する強い免疫記憶を誘導することができる。また、慢性感染症の感染初期に投与して一時的にIL-27の作用を抑制することにより、慢性感染症の病原体に対する免疫応答が誘導され、当該慢性感染症を治癒することができる。
【0036】
本発明には、さらに以下の各発明が含まれる。
(A1)IL-27阻害剤の有効量を投与する工程を含む慢性感染症に対する免疫増強方法。
(A2)IL-27阻害剤の有効量を投与する工程を含む慢性感染症の治療方法。
(A3)IL-27阻害剤の有効量と慢性感染症ワクチン抗原と組み合わせて投与する工程を含む慢性感染症に対するワクチン効果増強方法。
(B1)慢性感染症に対する免疫を増強させるためのIL-27阻害剤の使用。
(B2)慢性感染症の治療に使用するためのIL-27阻害剤。
(B3)慢性感染症に対するワクチン効果を増強させるためのIL-27阻害剤の使用。
(C1)慢性感染症に対する免疫増強剤を製造するためのIL-27阻害剤の使用。
(C2)慢性感染症治療薬を製造するためのIL-27阻害剤の使用。
(C3)慢性感染症に対するワクチン効果増強用医薬を製造するためのIL-27阻害剤の使用。
【実施例0037】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
〔実施例1〕
PbT-IIは、マラリア原虫抗原特異的なT細胞受容体トランスジェニックマウスである(Fernandez-Ruiz et al., J Immunol. 2017 Dec 15;199(12):4165-4179.)。C57BL/6マウス(CD45.2)と区別するため、交配によりCD45.1としている(非特許文献4)。PbT-IIマウスの脾臓から、Anti-Mouse CD4 IMag Cell Separation Sytem(BD Biosciences)を用いてCD4+ T細胞を精製し、その1×106個をC57BL/6マウス(SLC, Shizuoka)に静脈内注射した。その翌日、マラリア原虫Plasmodium chabaudi chabaudi AS(Pcc)感染C57BL/6マウスの末梢血から原虫感染赤血球を調製し、原虫感染赤血球5×104個を腹腔内注射により感染させた。
【0039】
実施例1のプロトコールを図1に示す。マラリア原虫感染マウスをグループA~Dの4群に分けた。グループAでは、抗IL-27抗体(BioXCell)250mg/回/マウスを、感染の前日、2、5、7日後の4回静脈内注射した。グループBは、抗IL-27抗体を、感染の11、14、17、20日後の4回静脈内注射した。グループCは、抗IL-27抗体を感染の前日、2、5、7、11、14、17、20日後の8回静脈内注射した。グループDは、コントロールとしてラットIgG(Sigma-Aldrich)250mg/回/マウスを、感染の7、11、14、17、20日後の5回静脈内注射した。感染7日後から定期的に抹消血のヘパリン採血を行い、Gay's solutionで赤血球を溶解後、APCCy7-抗CD45.1抗体、BV605-抗CD45.2抗体、BV711-抗CD4抗体、BV510-抗CD3抗体で染色し、FACS Fortessa(BD Biosciences)を用いて細胞表面抗原を解析した。CD4+ T細胞中のPbT-II細胞(CD45.1+)の比率を計算し、マウス毎に値をグラフにプロットした。また、感染5、7、14、21および44日後に末梢血の血液塗抹標本を作成し、ギムザ染色を行って顕微鏡観察を行い、各マウスの全赤血球中のマラリア原虫感染赤血球の比率(マラリア原虫血症)を測定した。
【0040】
全赤血球中のマラリア原虫感染赤血球の比率(マラリア原虫血症)を図2に示す。全赤血球中のマラリア原虫感染赤血球の比率は、各グループ間で有意差が認められなかった。
末梢血のCD4+ T細胞中のPbT-II細胞の比率の経時的変化を図3に示す。グループAとCでは、感染14日後頃からPbT-II細胞が高値となり、49日後でもコントロール群より高いレベルでPbT-II細胞が維持されていた。このことから、マラリア原虫感染初期の1週間、IL-27を抗体で中和することにより、その後マラリア特異的CD4+ T細胞を高レベルで長期間維持できることが明らかになった。
【0041】
〔実施例2〕
実施例1と同じ手順で、C57BL/6マウスにPbT-IIのCD4+ T細胞を静脈内注射し、翌日にマラリア原虫感染赤血球を腹腔内注射した。実施例2のプロトコールを図4に示す。マラリア原虫感染マウスを以下の5群に分けた。すなわち、抗IL-27抗体を感染前日、2日後、5日後、7日後の4回投与する群(グループA)、感染前日、2日後、5日後の3回投与する群(グループB)、感染前日と2日後の2回投与する群(グループC)、抗IL-27抗体を感染前日のみ1回投与する群(グループD)、およびIgGコントロール群(4回投与、グループE)の5群とした。感染7日後から定期的に抹消血のヘパリン採血を行い、実施例1と同様に末梢血のCD4+ T細胞中のPbT-II細胞の比率を感染28日後まで調べ、その後マウスを安楽死させ脾臓中のPbT-II細胞数を調べた。PbT-II細胞数は、脾臓細胞の総数をカウントし、PbT-II細胞の比率を乗じて算出した。
【0042】
末梢血のCD4+ T細胞中のPbT-II細胞の比率の経時的変化を図5に示し、感染21日後のPbT-II細胞の比率を図6に示す。また、脾臓中のPbT-II細胞数を図7に示す。図5~7に示したように、感染前日に1回だけ抗IL-27抗体を投与した群(グループD)でも、末梢血および脾臓において、コントロール群に比べてPbT-II細胞数が高まることが明らかになった。
【0043】
〔実施例3〕
実施例1と同じ手順で、C57BL/6マウスにPbT-IIのCD4+ T細胞を静脈内注射し、翌日にマラリア原虫感染赤血球を腹腔内注射した。マラリア原虫感染マウスを抗IL-27抗体4回投与群、抗IL-27抗体1回投与群およびIgGコントロール群の3群に分け、感染前日、2日後、5日後、7日後に抗体を投与した。抗IL-27抗体1回投与群には、感染前日、2日後および7日後にラットIgGを投与し、感染5日後のみ抗IL-27抗体を投与した。感染28日後にマウスを安楽死させ脾臓中のPbT-II細胞におけるCD127、KLRG1(Killer cell lectin-like receptor G1)、T-bet、TCF-1、IFN-γおよびTNF-αの発現をFACSで解析した。
【0044】
結果を図8および図9に示した。図8は、CD127およびKLRG1の発現をFACSで解析した結果、図9は、T-bet、TCF-1、IFN-γおよびTNF-αの発現をFACSで解析した結果である。抗IL-27抗体投与群(4回および1回)のマラリア感染28日目の脾臓PbT-II細胞は、コントロールIgG群の脾臓PbT-II細胞とは異なる表現型、転写因子発現を示し、抗原ペプチド刺激に対し機能的にも高いIFN-γ/TNF-α発現(Th1細胞型)を示した。CD127(IL-7受容体)は記憶CD4+ T細胞のマーカー、KLRG1はエフェクター細胞のマーカー、T-betはTh1タイプのT細胞に発現される転写因子、TCF-1は記憶細胞やTfh細胞に発現される転写因子である。この結果から、抗IL-27抗体の投与により、非投与群には誘導されなかった新規の強力な記憶T細胞が誘導されることが示唆された。
なお、本発明者らは、マラリア原虫感染後抗IL-27抗体を1回投与した場合でも、同様の結果が得られることを確認している。
【0045】
〔実施例4〕
実施例4のプロトコールを図10に示す。C57BL/6マウスに原虫感染赤血球5×104個を腹腔内注射した。マラリア原虫感染マウスを抗IL-27抗体群およびIgGコントロール群の2群に分け、抗体を感染前日、感染当日、2日後、5日後、7日後の5回投与した。感染63日後に血清中の抗マラリア原虫抗体価をELISA法(Nakamae et al, Parasitol Int, 70:5-15, 2019)により測定した。さらに、脾臓のCD4+ T細胞におけるマラリア原虫特異的IFN-γ産生量を ELISA法(Nakamae et al, Parasitol Int, 70:5-15, 2019)により測定した。
【0046】
抗マラリア原虫抗体価の結果を図11に、マラリア原虫特異的IFN-γ産生量の結果を図12に示した。マラリア感染63日後の抗IL-27抗体投与群の血清抗体価は、IgGコントロール群より高かった。また、マラリア感染63日後の抗IL-27抗体投与群の脾臓CD4+T細胞は、IgGコントロール群と比較して、マラリア原虫抗原特異的に高いIFN-γ産生を示した。これらの結果は、感染時に一時的にIL-27を阻害することにより、長期間持続する強力な免疫記憶が誘導されることを示すものである。
【0047】
〔実施例5〕
実施例4と同じ手順で、C57BL/6マウスに原虫感染赤血球を腹腔内注射し、抗IL-27抗体群およびIgGコントロール群の2群に分け、抗体を感染前日、感染当日、2日後、5日後、7日後の5回投与した。感染63日後にマラリア原虫Plasmodium berghei ANKA(PbA)を、原虫感染赤血球を腹腔内注射することにより再感染させた。再感染後49日目まで経時的にマウスの体重測定、臨床症状観察を行った。臨床スコア(Nakamae et al., Parasitol Int, 70:5-15, 2019)は、起毛、うずくまり姿勢、フラフラ歩行、足肢麻痺、けいれん、昏睡の6項目(各1点)の合計点とした。また、再感染後経時的に採血し、全赤血球中のマラリア原虫感染赤血球の比率(マラリア原虫血症)を測定した(実施例1参照)。
【0048】
再感染後の全赤血球中のマラリア原虫感染赤血球の比率(マラリア原虫血症)の経時変化を図13に、臨床スコアの経時変化を図14に、体重変動を図15に、生存率の推移を図16にそれぞれ示した。これらの結果から、抗IL-27抗体群は、マラリア原虫P. bergheiANKA(PbA)に強い抵抗性を示すことが明らかになった。すなわち、最初の感染時の一時的IL-27阻害により誘導される免疫記憶は、再感染防御に有効であることが示された。
【0049】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
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