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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151755
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】食品中のヒスタミンの除去方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/20 20160101AFI20220929BHJP
   A23L 27/50 20160101ALI20220929BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20220929BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20220929BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20220929BHJP
   B01J 20/14 20060101ALI20220929BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
A23L5/20
A23L27/50 B
A23L27/50 104Z
B01J20/22 C
B01J20/26 G
B01J20/20 B
B01J20/20 D
B01J20/14
B01J20/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043857
(22)【出願日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2021052719
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】511169999
【氏名又は名称】石川県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】591040236
【氏名又は名称】石川県
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】榎本 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】小柳 喬
(72)【発明者】
【氏名】道畠 俊英
(72)【発明者】
【氏名】笹木 哲也
【テーマコード(参考)】
4B035
4B039
4G066
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE03
4B035LG01
4B035LG04
4B035LG14
4B035LG48
4B035LK19
4B035LP59
4B035LT20
4B039LB12
4B039LC20
4B039LG31
4B039LG34
4B039LG50
4B039LR17
4B039LR30
4G066AA05B
4G066AA12B
4G066AA70B
4G066AB29B
4G066AC14B
4G066AC25B
4G066AC27B
4G066AC33B
4G066AC35B
4G066AE10B
4G066CA27
4G066DA20
(57)【要約】
【課題】食品の一例である魚醤油中に含まれるヒスタミン濃度の測定を行い、さらにヒスタミンを除去するための方法の提供を課題とした。
【解決手段】ヒスタミンを含有する食品を吸着剤で処理することにより、該食品中のヒスタミンを除去できることを確認して、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の1)~15)のいずれか1以上の吸着剤でヒスタミンを含有する食品を処理する工程を含む、食品中のヒスタミンを除去する方法。
1)タンニン、2)タンニン酸、3)イオン交換樹脂、4)キレート型イオン交換樹脂、5)陽イオン交換樹脂、6)イミノジ酢酸型のキレート型イオン交換樹脂、7)ポリアミン型のキレート型イオン交換樹脂、8)酸性陽イオン交換樹脂、9)メチルグルカミン型のキレート型イオン交換樹脂、10)多孔質スチレン型の樹脂、11)ポリフェノール吸着樹脂、12)活性炭、13)セライト、14)珪藻土、15)水酸化セリウム
【請求項2】
前記吸着剤が、タンニンである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記吸着剤が、タンニン酸である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記吸着剤が、イオン交換樹脂である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記吸着剤が、陽イオン交換樹脂である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記吸着剤が、タンニン若しくはタンニン酸並びにイオン交換樹脂である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記工程は、前記食品をタンニン若しくはタンニン酸で処理し、さらにイオン交換樹脂で処理する請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記処理後の食品の遊離アミノ酸は、処理前の食品と比較して、60 %以上残存している、請求項1~7のいずれか1に記載の方法。
【請求項9】
前記食品は、醤油である請求項1~8のいずれか1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品に含有するヒスタミンの除去方法に関する。
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願特願2021-52719号優先権を請求する。
【背景技術】
【0002】
食品の一例である魚醤油とは、生の魚を塩で漬け込み発酵させ、熟成させることで魚の持つ旨味成分を凝縮させた液体調味料である。魚醤油は、原料が魚介類であることから、アミノ酸やペプチドを豊富に含んでいる。また、いくつかのペプチドには抗酸化性や血圧上昇抑制などの機能性を持つことが明らかになっている。
東アジアにおいては、魚醤油は代表的な調味料ではないが、中国の広東・福建両省には魚露などの魚醤油がある。日本では、石川県のいしる、秋田県のしょっつる、香川県のイカナゴ醤油が三大魚醤油として知られている。
しかし、魚醤油は使用する魚種や魚種の部位によって様々な有害物質が残存している可能性は否定できない。
【0003】
有害物質は人体に悪影響を及ぼすことから、食品中の有害物質を除去する技術が必要とされている。具体的には、イカを原料とする魚醤油の中に残存するカドミウムの除去法については研究がすでに行われ、タンニン酸処理によってタンパク質結合型カドミウムを、キレート樹脂処理によって遊離型のカドミウムを除去できることが報告されている。また、ヒ素についてもタンニン酸処理により結合型のヒ素を、キレート処理により、遊離型のヒ素を除去できることが明らかになっている(参照:特許文献1、2)。
【0004】
しかし、ヒスタミンについては、効果的かつ安全な除去方法が確立されていない。ヒスタミンは分子式C5H9N3、分子量111.14の活性アミンで、アミノ酸であるヒスチジンの脱炭酸反応で誘導される。無色、無臭で一般的な加熱調理では分解しない。血圧降下、血管透過性亢進、平滑筋収縮、血管拡張、腺分泌促進などの薬理作用があり、食品中に蓄積されたヒスタミンを摂取するとアレルギー様症状を発症する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-254274号
【特許文献2】特開2012-39955号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
日本国内では、魚醤油のヒスタミンの基準値は定められていないが、Codex規格では、400 ppm未満と定められている。魚醤油中のヒスタミンの蓄積を抑えることは食品衛生上重要となる。そのため、魚醤油に含まれるヒスタミンを安全かつ効果的に取り除くことができれば、魚醤油の品質と安全性を改善することができる。
本発明では、食品の一例である魚醤油中に含まれるヒスタミン濃度の測定を行い、さらにヒスタミンを除去するための方法の提供を課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ヒスタミンを含有する食品を吸着剤で処理することにより、該食品中のヒスタミンを除去できることを確認して、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.以下の1)~15)のいずれか1以上の吸着剤でヒスタミンを含有する食品を処理する工程を含む、食品中のヒスタミンを除去する方法。
1)タンニン、2)タンニン酸、3)イオン交換樹脂、4)キレート型イオン交換樹脂、5)陽イオン交換樹脂、6)イミノジ酢酸型のキレート型イオン交換樹脂、7)ポリアミン型のキレート型イオン交換樹脂、8)酸性陽イオン交換樹脂、9)メチルグルカミン型のキレート型イオン交換樹脂、10)多孔質スチレン型の樹脂、11)ポリフェノール吸着樹脂、12)活性炭、13)セライト、14)珪藻土、15)水酸化セリウム
2.前記吸着剤が、タンニンである前項1に記載の方法。
3.前記吸着剤が、タンニン酸である前項1に記載の方法。
4.前記吸着剤が、イオン交換樹脂である前項1に記載の方法。
5.前記吸着剤が、陽イオン交換樹脂である前項1に記載の方法。
6.前記吸着剤が、タンニン若しくはタンニン酸並びにイオン交換樹脂である前項1に記載の方法。
7.前記工程は、前記食品をタンニン若しくはタンニン酸で処理し、さらにイオン交換樹脂で処理する前項5に記載の方法。
8.前記処理後の食品の遊離アミノ酸は、処理前の食品と比較して、60 %以上残存している、前項1~7のいずれか1に記載の方法。
9.前記食品は、醤油である前項1~8のいずれか1に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、食品中のヒスタミンを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ヒスタミン検量線。
図2】魚醤油Bにおけるヒスタミン除去率の結果。
図3】魚醤油Cにおけるヒスタミン除去率の結果。
図4】魚醤油Iにおけるヒスタミン除去率の結果。
図5】魚醤油Kにおけるヒスタミン除去率の結果。
図6】魚醤油Bにおける遊離アミノ酸分析の結果。
図7】魚醤油Kにおける遊離アミノ酸分析結果。
図8】HPLC法によるヒスタミン残存率の結果。
図9】ヒスタミン残存率の比較。
図10】タンニン酸の構造。
図11】各タンニンのヒスタミン除去率の結果。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明の対象)
本発明の食品中のヒスタミンを除去する方法(以後、「本発明の方法」と略する場合がある)は、少なくとも以下の工程を含む。
以下の1)~15)のいずれか1以上の吸着剤でヒスタミンを含有する食品を処理する。
1)タンニン、2)タンニン酸、3)イオン交換樹脂、4)キレート型イオン交換樹脂、5)陽イオン交換樹脂、6)イミノジ酢酸型のキレート型イオン交換樹脂、7)ポリアミン型のキレート型イオン交換樹脂、8)酸性陽イオン交換樹脂、9)メチルグルカミン型のキレート型イオン交換樹脂、10)多孔質スチレン型の樹脂、11)ポリフェノール吸着樹脂、12)活性炭、13)セライト、14)珪藻土、15)水酸化セリウム
以後、本発明を詳細に説明する。
【0012】
(食品)
本発明の方法における食品は、ヒスタミンを含有しておりかつ吸着剤で処理できる食品であれば特に限定されない。例えば、液体形状の食品であれば、食品の形状を変化させることなく、吸着剤で処理することができる。
さらに、Codex規格では、食品中のヒスタミン濃度は400ppm未満と定めているので、400 ppm以上のヒスタミンを含有する食品を対象とすることが好ましい。加えて、食品中の食塩濃度が5 重量%以上、10 重量%以上、15 重量%以上であることが好ましい。さらに、中性~酸性の食品が好ましい。
また、食品の例としては、醤油(特に、魚醤油)、魚介エキス、だし等があげられる。
【0013】
(吸着剤)
本発明の方法における吸着剤は、以下で列挙する吸着剤を対象とする。
1)タンニン
タンニン(tannin)とは、植物に由来し、タンパク質、アルカロイド、金属イオンと反応し強く結合して難溶性の塩を形成する水溶性化合物の総称である。また、一部のタンニンは、多数のフェノール性ヒドロキシ基を持つ複雑な芳香族化合物であり、タンパク質や他の巨大分子と強固に結合し、複合体を形成している。
2)タンニン酸
タンニン酸とは、タンニンの一種であり、五倍子または没食子から得たタンニンとして規定されている。タンニンとは、植物由来のポリフェノール成分であり、タンパク質や多糖体等の高分子化合物、重金属、アルカロイドなどの塩基性化合物などに強い親和性を示し、それらと複合体を形成し、不溶性の沈殿を形成する収斂作用を持つ物質の総称である。タンニン酸は、相手分子の疎水性でかつ空間的スペースのある部分を認識し会合を行い、タンニン酸のガロイル基とタンパク質のプロリンなどの疎水的相互作用や、π‐π相互作用、CH‐π相互作用および水素結合により強く会合が行われる。タンニン酸の構造を図10に示す。
【0014】
3)イオン交換樹脂
本発明のイオン交換樹脂は、イオン交換基を有する樹脂であれば、特に限定されない。例えば、以下で説明するキレート型イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂等を含む。
【0015】
4)キレート型イオン交換樹脂
本発明のキレート型イオン交換樹脂は、キレート作用を有する樹脂であれば、特に限定されない。
【0016】
5)陽イオン交換樹脂
本発明の陽イオン交換樹脂は、陽イオンを交換する作用を有する樹脂であれば、特に限定されない。
【0017】
6)イミノジ酢酸型のキレート型イオン交換樹脂
イミノジ酢酸型のキレート樹脂は、一価よりも多価金属イオン、特にFe(III)やCu(II)などの遷移金属元素に対して高い選択性を示し、例えば、以下の式(1)(参照:三菱ケミカルのCR11)で表られる。
【化1】
【0018】
7)ポリアミン型のキレート型イオン交換樹脂
ポリアミン型のキレート樹脂は、一価よりも二価の金属イオン、特に遷移金属元素に対して高い選択性を示し、例えば、以下の式(2)(参照:三菱ケミカルのCR20)で表られる。
【化2】
【0019】
8)酸性陽イオン交換樹脂
酸性陽イオン交換樹脂は、主に硬水軟化、純粋製造、アミノ酸分離精製、有機溶媒の脱水などの用途に使用されており、例えば、以下の式(3)(xは、Na又はHである。参照:三菱ケミカルのSK1B)で表られる。
【化3】
【0020】
9)メチルグルカミン型のキレート型イオン交換樹脂
メチルグルカミン型のキレート樹脂は、ホウ酸イオンに対して高い選択性を示し、例えば、以下の式(4)(参照:三菱ケミカルのCRB03)で表られる。
【化4】
【0021】
10)多孔質スチレン型の樹脂
多孔質スチレン型の樹脂は、例えば、以下の式(5)(参照:三菱ケミカルのSP850)で表られる。
【化5】
【0022】
11)ポリフェノール吸着樹脂
ポリフェノール吸着樹脂は、アルコール飲料、非アルコール飲料および食酢など調味料の品質を改善するためのろ過助剤として知られおり、例えば、ポリビニルピロリドン(ポリビニルポリピロリドン(PVPP)を含む)等があげられる。
【0023】
12)活性炭
活性炭は、自体公知の市販品を使用することができる。
【0024】
13)セライト
セライトは、炭酸ナトリウムとともに焼成した珪藻土であり、米国ImerysFiltrationMinerals, Inc.の商品名である。
【0025】
14)珪藻土
珪藻土は、自体公知の市販品を使用することができ、酸洗浄珪藻土が好ましい。
【0026】
15)水酸化セリウム
水酸化セリウムは、ヒ素吸着剤として知られており、市販されている。
【0027】
(処理工程)
本発明の処理工程は、上記列挙した吸着剤により食品(好ましくは、製造中の食品ではなく製造後の食品)中のヒスタミンを除去できれば、特に限定されない。また、温度、湿度、圧力は、食品の性質を変化させない条件が好ましい。
以下の処理工程を例示することができる。なお、本発明の方法は、食品製造中だけではなく完成後の食品に処理することができるので、食品の製造方法を変更することなくヒスタミンを除去することができる。
全ての吸着剤は、固液分離処理及び/又はカラム処理で行うことができる。さらに、固液分離処理とカラム処理の併用をすることができる。
【0028】
〇固液分離処理
上記列挙した吸着剤(ろ過助剤)を食品と接触させ(食品に添加して)、該食品中の沈殿物を分離する。食品1に対して重量比で0.001~0.5の割合で添加するのが好ましく、0.05~0.1倍がより好適である。
前記食品と、吸着剤とを接触させる時間は数分~1日程度であるが、12時間~24時間が好ましく、処理温度は有用成分が失われない温度で行なうことが必要であり、-10~90℃の温度範囲内であればいずれの温度でも良い。必要に応じて、撹拌することが好ましい。
吸着剤を添加した食品から沈殿物を除去するための具体的な方法としては、凍結融解法、濾布等による濾過法、高速遠心分離機による方法等が挙げられるが、濾布による濾過することが好ましい。
【0029】
〇カラム処理
食品を、上記列挙した吸着剤を充填したカラムに通液させる。食品の性質を変化させることを防ぐために、食品を溶媒等により希釈してカラムに通液しないことが好ましい。必要に応じて、吸着剤を酸、アルカリ等で再生処理した後、食品を通液することが望ましい。
【0030】
〇固液分離処理
上記列挙した吸着剤(ろ過助剤)を食品と接触させ(食品に添加して)、該食品中の沈殿物を分離する。食品1に対して重量比で0.001~0.5の割合で添加するのが好ましく、0.05~0.1倍がより好適である。
前記食品と、吸着剤とを接触させる時間は数分~1日程度であるが、12時間~24時間が好ましく、処理温度は有用成分が失われない温度で行なうことが必要であり、-10~90℃の温度範囲内であればいずれの温度でも良い。必要に応じて、撹拌することが好ましい。
吸着剤を添加した食品から沈殿物を除去するための具体的な方法としては、凍結融解法、濾布等による濾過法、高速遠心分離機による方法等が挙げられるが、濾布による濾過することが好ましい。
【0031】
下記の実施例の結果により、2種類以上の吸着剤を使用することにより、ヒスタミンの除去率を上げることができる。好ましい吸着剤の組み合わせは、タンニン若しくはタンニン酸並びにイオン交換樹脂(特に、酸性陽イオン交換樹脂)である。
【0032】
(処理後の食品)
本発明の方法で処理された食品のヒスタミン濃度は、400 ppm以下、好ましくは、100 ppm以下である。
また、本発明の方法で処理された食品の遊離アミノ酸(特に、グルタミン酸、グリシン、リジン、GABA、アラニン、アスパラギン酸)は、処理前の食品と比較して、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上残存しているので、食品の味への影響はないと考えられる。
【実施例0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0034】
<食品中のヒスタミン濃度の測定>
本実施例では、食品の一例として魚醤油中のヒスタミン濃度を測定した。詳細は、以下の通りである。
【0035】
(魚醤油)
以下の市販の魚醤油を使用した。
魚醤油魚B(ベトナム産)
魚醤油魚C(ベトナム産)
魚醤油魚I(日本産)
魚醤油魚K(日本産)
【0036】
(試薬)
試薬は以下のものを使用した。ヒスタミン測定キットであるチェックカラーヒスタミン (キッコーマンバイオケミファ)を使用した。
・酵素液 ヒスタミンデヒドロゲナーゼ
・発色液 1 methoxy PMS 、 WST 8
・緩衝液 トリス緩衝液
・ヒスタミン標準液
【0037】
(魚醤油サンプルの調製)
魚醤油サンプルは、魚醤油原液を蒸留水で500倍希釈したものとした。1.5 mLチューブに魚醤油原液100 μLと蒸留水900 μLと入れ、ボルテックスミキサーを用いてよく混合させ、魚醤油サンプル(1)とした。1.5 mLチューブにサンプル(1)100 μLと蒸留水900 μLを入れ、ボルテックスミキサーを用いてよく混合させ、魚醤油サンプル(2)とした。1.5 mLチューブに魚醤油サンプル(2)200 μLと蒸留水800 μLを入れ、ボルテックスミキサーを用いてよく混合させ、魚醤油サンプル(3)とした。1.5 mLチューブに魚醤油サンプル(1)10 μLと蒸留水990 μLを入れ、ボルテックスミキサーを用いてよく混合させ、魚醤油サンプル(4)とした。ヒスタミンの測定では(3)と(4)のサンプルを用いて、実験を行った。(3)は500倍希釈、(4)は1,000倍希釈である。
【0038】
(検量線の作成)
標準サンプルは、チェックカラーヒスタミンに含まれるヒスタミン標準溶液を蒸留水で希釈したものとした。ヒスタミン標準溶液を段階希釈し、1/2、1/4、1/8、1/16、1/32の標準サンプルを調製した。この標準サンプルのブランクは蒸留水とした。
【0039】
(ヒスタミン濃度の測定)
サンプルを調製した後、下記表1のようにサンプルと試薬を96ウェルプレートに添加した。
ヒスタミンの標準溶液は魚醤油サンプルと同様にして発色液、酵素液を70 μLずつ添加した。各サンプル3連ずつ行った。上記のようにサンプルと試薬を添加した96ウェルプレートを37℃で15分間インキュベートした後、マイクロプレートリーダー(Thermo Varioskan Lux)を用いて470 nmで吸光度を測定した。
【0040】
【表1】
【0041】
(検量線の作成結果)
ヒスタミン標準溶液を蒸留水で希釈し、検量線を作成した。得られた吸光度および検量線を下記表2(濃度の異なるヒスタミン溶液の吸光度 (470 nm)、各サンプル3連で行った吸光度の平均値で示す)及び図1に示す。検量線はブランクの値を差し引いて作成した。図1のヒスタミン検量線をもとに、各魚醤油に含まれるヒスタミン濃度を算出した。
【0042】
【表2】
【0043】
(魚醤油中のヒスタミン濃度測定結果)
チェックカラーヒスタミンを用いてヒスタミンを測定した結果を下記表3(値は平均±標準偏差で示した)に示す。魚醤油によって差はあるが、93.4~355.4 mg/mLのヒスタミンが含まれていた。
【0044】
【表3】
【実施例0045】
<吸着剤による食品中のヒスタミン除去>
本実施例では、各吸着剤を使用して、食品の一例である魚醤油中のヒスタミンを除去した。詳細は、以下の通りである。
【0046】
(試料)
実施例1でヒスタミン濃度を測定した魚醤油B、C、I、Kを使用した。
【0047】
(吸着剤)
以下の吸着剤を使用した。
・タンニン酸 (関東化学)
・CR11 (三菱ケミカル:イミノジ酢酸型のキレート型イオン交換樹脂)
・CR20 (三菱ケミカル:ポリアミン型のキレート型イオン交換樹脂)
・SK1B (三菱ケミカル:酸性陽イオン交換樹脂)
・CRB03 (三菱ケミカル:メチルグルカミン型のキレート型イオン交換樹脂)
・SP850 (三菱ケミカル:多孔質スチレン型の樹脂)
・ポリビニルポリピロリドン (ナカライテスク:ポリフェノール吸着樹脂)
・活性炭 (和光純薬工業)
・セライト (SIGMA)
・READ (日本海水:水酸化セリウム)
・珪藻土 (和光純薬工業)
【0048】
(試薬)
実施例1と同じ試薬を使用した。
【0049】
(サンプルの調製)
・タンニン酸以外
15 mLコニカルチューブに魚醤油原液5 mLと各種の吸着剤を0.5 gを入れ、ボルテックスミキサーでよく混合した。その後、20時間振とうさせた。20時間振とうさせた後、遠心分離 (3,500 rpm、5 min) を行い、上清を採取した。上清を蒸留水で希釈した。希釈は実施例1と同様の方法で行った。
・タンニン酸
15 mLコニカルチューブにタンニン酸0.5 gと15%食塩水5 mLを入れ、ボルテックスミキサーを用いてよく混合させた。混合させた溶液をカラムに入れた。魚醤油原液5 mLを該カラムに通過させた。得られた溶液を遠心分離 (3,500 rpm、5 min) し、上清を採取した。この溶液をタンニン処理サンプルとした。
【0050】
(検量線の作成)
実施例1と同様の方法で検量線を作成した。
【0051】
(ヒスタミン濃度の測定)
実施例1と同様の方法で測定を行った。
【0052】
(吸着剤を使用したヒスタミン除去結果)
各魚醤油に吸着剤を混合させ、ヒスタミン濃度を測定し、除去率を算出した。なお、各サンプルは3連ずつ測定したため、ヒスタミン除去率は平均±標準偏差で示した。
魚醤油や吸着剤によって差はあるが、すべての吸着剤であるタンニン酸、イミノジ酢酸型のキレート型イオン交換樹脂、ポリアミン型のキレート型イオン交換樹脂、酸性陽イオン交換樹脂、メチルグルカミン型のキレート型イオン交換樹脂、多孔質スチレン型の樹脂、ポリフェノール吸着樹脂、活性炭、セライト、珪藻土、及び水酸化セリウムでヒスタミンを除去することができた。魚醤油によって差はあるが、タンニン酸、酸性陽イオン交換樹脂(SK1B)、活性炭を用いた処理を行った魚醤油サンプルで高いヒスタミン除去率を示した。
各魚醤油のヒスタミン除去率を図2~5に示した。各グラフの縦軸は、魚醤油原液に対してのヒスタミン除去率である。
【実施例0053】
<タンニン酸と酸性陽イオン交換樹脂による魚醤油中のヒスタミン除去>
本実施例では、タンニン酸と酸性陽イオン交換樹脂の2つの吸着剤を使用して魚醤油中のヒスタミンを除去した。詳細は、以下の通りである。
【0054】
(試薬)
実施例1で用いた試薬を使用した。
【0055】
(タンニン酸処理)
15 mLコニカルチューブにタンニン酸0.5 gと15 %食塩水5 mLを入れ、ボルテックスミキサーを用いてよく混合させた。混合させた溶液をカラムに入れた。魚醤油原液5 mLを該カラムに通過させた。得られた溶液を遠心分離 (3,500 rpm、5 min) し、上清を採取した。この溶液をタンニン処理サンプルとした。
(酸性陽イオン交換樹脂処理)
タンニン酸処理サンプルに酸性陽イオン交換樹脂であるSK1B 0.4 gを添加し、ボルテックスミキサーを用いてよく混合させ、20 時間振とうした。その後、遠心分離(3,500 rpm、5 min)し、上清を採取した。この溶液を酸性陽イオン交換樹処理サンプルとした。
【0056】
(ヒスタミン濃度測定)
実施例1と同様の方法で測定を行った。
【0057】
(タンニン酸と酸性陽イオン交換樹脂を使用したヒスタミン除去結果)
タンニン酸処理の後酸性陽イオン交換樹脂処理を行うことで、魚醤油によって差はあるが、約30~約50 %のヒスタミンを取り除くことができた。魚醤油原液、タンニン酸処理後、タンニン酸+SK1B処理後のヒスタミン濃度を表4、魚醤油原液に対するヒスタミン減少率を表5に示した。なお、各サンプルは3連ずつ測定し、値は平均±標準偏差で示した。
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
【実施例0060】
<ヒスタミン除去処理による遊離アミノ酸含有量の影響の確認>
魚醤油は、タンパク質が分解されて生じる遊離アミノ酸が主要なうま味成分である。よって、吸着剤処理が遊離アミノ酸含量に影響を与えるかを確認した。詳細は、以下の通りである。
【0061】
(試料の調製及び遊離アミノ酸の測定)
魚醤油Bと魚醤油Kをタンニン酸処理、タンニン酸処理とSK1B処理を併用したものを、0.02 Mの塩酸で400倍に希釈し、アミノ酸自動分析装置 (L-8500、日立製作所) を用いて測定した。
【0062】
(遊離アミノ酸の測定結果)
魚醤油 Bの遊離アミノ酸分析の結果を図6、魚醤油Kの遊離アミノ酸分析の結果を図7に示す。魚醤油 Bの遊離アミノ酸の残存率を下記表6,7、魚醤油Kの遊離アミノ酸の残存率を下記表8、9に示す。
魚醤油 Bの主なアミノ酸は、グルタミン酸、グリシン、リジン、GABAであった。通常の魚醤油にはGABAは多く含まれていないが、この魚醤油には多くのGABAが含まれていた。これは、発酵過程においてグルタミン酸が、ある微生物によってGABAに変換されたと考えられる。
魚醤油Kの主なアミノ酸は、グルタミン酸、アラニン、リジン、アスパラギン酸であった。グルタミン酸は、魚醤油の旨味を構成する重要なアミノ酸である。
2種類の魚醤油において、どちらの魚醤油もタンニン処理後、タンニン酸処理+SK1B処理後で遊離アミノ酸含量は、若干減少したが、遊離アミノ酸含量や組成に大きな差は見られなかった。詳しくは、表6~表9に記載のように、吸着剤処理後でも、遊離アミノ酸が約80%以上残存していることを確認した。
以上により、吸着剤によるヒスタミン除去が、魚醤油の呈味性に与える影響はないと考えられる。
【0063】
【表6】
【0064】
【表7】
【0065】
【表8】
【0066】
【表9】
【実施例0067】
<タンニン酸処理における比色法とHPLCによるヒスタミン濃度の比較>
上記実施例で採用した比色法でヒスタミンを測定するのではなく、HPLC法 (プレラベル法) でヒスタミンを測定することで、可溶性タンニンによる影響を無くした上で、魚醤油Bに含まれるヒスタミン濃度について測定した。ベントナイトは、ホージュン社製品を使用した。
【0068】
(測定方法)
HPLC法 (プレラベル法) によるヒスタミン測定は、石川県予防医学協会に委託して行った。なお、HPLC法 (プレラベル法) は、あらかじめ試薬によりヒスタミンの誘導体化を行った上で魚醤油中のヒスタミンをカラムにより分離し、蛍光検出器で検出する方法である。
【0069】
(測定結果)
HPLC法によって得られたヒスタミン残存率の結果を図8に示す。これらのグラフの縦軸は、魚醤油原液に含まれるヒスタミンを100 %としたときの残存率を示している。
図8のHPLC法の結果から、タンニン酸とSK1B処理を併用後は魚醤油原液に対して65 %程度のヒスタミンを取り除くことができた。一方、ベントナイトは、59 %程度の除去率であった。
タンニン酸処理とSK1B処理を併用した時のヒスタミン残存率とベントナイトの残存率を比較したものを図9に示す。タンニン酸処理と酸性陽イオン交換樹脂の併用は、ベントナイト処理よりも、ヒスタミンを除去できることを確認した。
【実施例0070】
<タンニンによる食品中のヒスタミン除去>
本実施例では、各タンニンを使用して、食品の一例である魚醤油中のヒスタミンを除去した。詳細は、以下の通りである。
【0071】
(試料)
実施例1でヒスタミン濃度を測定した魚醤油Kを使用した。
【0072】
(タンニン)
以下のタンニンを使用した。すべては、川村通商株式会社から入手した。
・Mimosa(mimosa me)
・Chestnut(Chestnut silvatech C)
・Tara(Tara tannin T80)
・Quebracho(MGM Eon)
【0073】
(試薬)
実施例1と同じ試薬を使用した。
【0074】
(サンプルの調製)
15 mLコニカルチューブに各種タンニン0.5 gと魚醤油原液5 mLを入れ、20時間撹拌を行った。この溶液を遠心分離 (10,000 rpm、5 min) し、上清を採取した。この溶液をタンニン処理サンプルとした。
【0075】
(検量線の作成)
実施例1と同様の方法で検量線を作成した。
【0076】
(ヒスタミン濃度の測定)
実施例1と同様の方法で測定を行った。
【0077】
(ヒスタミン除去結果)
魚醤油に各タンニンを混合させ、ヒスタミン濃度を測定し、除去率を算出した。なお、各サンプルは3連ずつ測定したため、ヒスタミン除去率は平均±標準偏差で示した。
タンニンの種類によって差はあるが、すべてのタンニンでヒスタミンを除去することができた。特に、Chestnutが優れたヒスタミンの除去能力を有することを確認した。
各タンニンのヒスタミン除去率を図11に示した。各グラフの縦軸は、魚醤油原液に対してのヒスタミン除去率である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
食品に含有するのヒスタミンの除去方法を提供することができる。
図1
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図4
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図10
図11