(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151755
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】食品中のヒスタミンの除去方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/20 20160101AFI20220929BHJP
A23L 27/50 20160101ALI20220929BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20220929BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20220929BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20220929BHJP
B01J 20/14 20060101ALI20220929BHJP
B01J 20/06 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
A23L5/20
A23L27/50 B
A23L27/50 104Z
B01J20/22 C
B01J20/26 G
B01J20/20 B
B01J20/20 D
B01J20/14
B01J20/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043857
(22)【出願日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2021052719
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】511169999
【氏名又は名称】石川県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】591040236
【氏名又は名称】石川県
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】榎本 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】小柳 喬
(72)【発明者】
【氏名】道畠 俊英
(72)【発明者】
【氏名】笹木 哲也
【テーマコード(参考)】
4B035
4B039
4G066
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE03
4B035LG01
4B035LG04
4B035LG14
4B035LG48
4B035LK19
4B035LP59
4B035LT20
4B039LB12
4B039LC20
4B039LG31
4B039LG34
4B039LG50
4B039LR17
4B039LR30
4G066AA05B
4G066AA12B
4G066AA70B
4G066AB29B
4G066AC14B
4G066AC25B
4G066AC27B
4G066AC33B
4G066AC35B
4G066AE10B
4G066CA27
4G066DA20
(57)【要約】
【課題】食品の一例である魚醤油中に含まれるヒスタミン濃度の測定を行い、さらにヒスタミンを除去するための方法の提供を課題とした。
【解決手段】ヒスタミンを含有する食品を吸着剤で処理することにより、該食品中のヒスタミンを除去できることを確認して、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の1)~15)のいずれか1以上の吸着剤でヒスタミンを含有する食品を処理する工程を含む、食品中のヒスタミンを除去する方法。
1)タンニン、2)タンニン酸、3)イオン交換樹脂、4)キレート型イオン交換樹脂、5)陽イオン交換樹脂、6)イミノジ酢酸型のキレート型イオン交換樹脂、7)ポリアミン型のキレート型イオン交換樹脂、8)酸性陽イオン交換樹脂、9)メチルグルカミン型のキレート型イオン交換樹脂、10)多孔質スチレン型の樹脂、11)ポリフェノール吸着樹脂、12)活性炭、13)セライト、14)珪藻土、15)水酸化セリウム
【請求項2】
前記吸着剤が、タンニンである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記吸着剤が、タンニン酸である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記吸着剤が、イオン交換樹脂である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記吸着剤が、陽イオン交換樹脂である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記吸着剤が、タンニン若しくはタンニン酸並びにイオン交換樹脂である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記工程は、前記食品をタンニン若しくはタンニン酸で処理し、さらにイオン交換樹脂で処理する請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記処理後の食品の遊離アミノ酸は、処理前の食品と比較して、60 %以上残存している、請求項1~7のいずれか1に記載の方法。
【請求項9】
前記食品は、醤油である請求項1~8のいずれか1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品に含有するヒスタミンの除去方法に関する。
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願特願2021-52719号優先権を請求する。
【背景技術】
【0002】
食品の一例である魚醤油とは、生の魚を塩で漬け込み発酵させ、熟成させることで魚の持つ旨味成分を凝縮させた液体調味料である。魚醤油は、原料が魚介類であることから、アミノ酸やペプチドを豊富に含んでいる。また、いくつかのペプチドには抗酸化性や血圧上昇抑制などの機能性を持つことが明らかになっている。
東アジアにおいては、魚醤油は代表的な調味料ではないが、中国の広東・福建両省には魚露などの魚醤油がある。日本では、石川県のいしる、秋田県のしょっつる、香川県のイカナゴ醤油が三大魚醤油として知られている。
しかし、魚醤油は使用する魚種や魚種の部位によって様々な有害物質が残存している可能性は否定できない。
【0003】
有害物質は人体に悪影響を及ぼすことから、食品中の有害物質を除去する技術が必要とされている。具体的には、イカを原料とする魚醤油の中に残存するカドミウムの除去法については研究がすでに行われ、タンニン酸処理によってタンパク質結合型カドミウムを、キレート樹脂処理によって遊離型のカドミウムを除去できることが報告されている。また、ヒ素についてもタンニン酸処理により結合型のヒ素を、キレート処理により、遊離型のヒ素を除去できることが明らかになっている(参照:特許文献1、2)。
【0004】
しかし、ヒスタミンについては、効果的かつ安全な除去方法が確立されていない。ヒスタミンは分子式C5H9N3、分子量111.14の活性アミンで、アミノ酸であるヒスチジンの脱炭酸反応で誘導される。無色、無臭で一般的な加熱調理では分解しない。血圧降下、血管透過性亢進、平滑筋収縮、血管拡張、腺分泌促進などの薬理作用があり、食品中に蓄積されたヒスタミンを摂取するとアレルギー様症状を発症する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-254274号
【特許文献2】特開2012-39955号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
日本国内では、魚醤油のヒスタミンの基準値は定められていないが、Codex規格では、400 ppm未満と定められている。魚醤油中のヒスタミンの蓄積を抑えることは食品衛生上重要となる。そのため、魚醤油に含まれるヒスタミンを安全かつ効果的に取り除くことができれば、魚醤油の品質と安全性を改善することができる。
本発明では、食品の一例である魚醤油中に含まれるヒスタミン濃度の測定を行い、さらにヒスタミンを除去するための方法の提供を課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ヒスタミンを含有する食品を吸着剤で処理することにより、該食品中のヒスタミンを除去できることを確認して、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.以下の1)~15)のいずれか1以上の吸着剤でヒスタミンを含有する食品を処理する工程を含む、食品中のヒスタミンを除去する方法。
1)タンニン、2)タンニン酸、3)イオン交換樹脂、4)キレート型イオン交換樹脂、5)陽イオン交換樹脂、6)イミノジ酢酸型のキレート型イオン交換樹脂、7)ポリアミン型のキレート型イオン交換樹脂、8)酸性陽イオン交換樹脂、9)メチルグルカミン型のキレート型イオン交換樹脂、10)多孔質スチレン型の樹脂、11)ポリフェノール吸着樹脂、12)活性炭、13)セライト、14)珪藻土、15)水酸化セリウム
2.前記吸着剤が、タンニンである前項1に記載の方法。
3.前記吸着剤が、タンニン酸である前項1に記載の方法。
4.前記吸着剤が、イオン交換樹脂である前項1に記載の方法。
5.前記吸着剤が、陽イオン交換樹脂である前項1に記載の方法。
6.前記吸着剤が、タンニン若しくはタンニン酸並びにイオン交換樹脂である前項1に記載の方法。
7.前記工程は、前記食品をタンニン若しくはタンニン酸で処理し、さらにイオン交換樹脂で処理する前項5に記載の方法。
8.前記処理後の食品の遊離アミノ酸は、処理前の食品と比較して、60 %以上残存している、前項1~7のいずれか1に記載の方法。
9.前記食品は、醤油である前項1~8のいずれか1に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、食品中のヒスタミンを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明の対象)
本発明の食品中のヒスタミンを除去する方法(以後、「本発明の方法」と略する場合がある)は、少なくとも以下の工程を含む。
以下の1)~15)のいずれか1以上の吸着剤でヒスタミンを含有する食品を処理する。
1)タンニン、2)タンニン酸、3)イオン交換樹脂、4)キレート型イオン交換樹脂、5)陽イオン交換樹脂、6)イミノジ酢酸型のキレート型イオン交換樹脂、7)ポリアミン型のキレート型イオン交換樹脂、8)酸性陽イオン交換樹脂、9)メチルグルカミン型のキレート型イオン交換樹脂、10)多孔質スチレン型の樹脂、11)ポリフェノール吸着樹脂、12)活性炭、13)セライト、14)珪藻土、15)水酸化セリウム
以後、本発明を詳細に説明する。
【0012】
(食品)
本発明の方法における食品は、ヒスタミンを含有しておりかつ吸着剤で処理できる食品であれば特に限定されない。例えば、液体形状の食品であれば、食品の形状を変化させることなく、吸着剤で処理することができる。
さらに、Codex規格では、食品中のヒスタミン濃度は400ppm未満と定めているので、400 ppm以上のヒスタミンを含有する食品を対象とすることが好ましい。加えて、食品中の食塩濃度が5 重量%以上、10 重量%以上、15 重量%以上であることが好ましい。さらに、中性~酸性の食品が好ましい。
また、食品の例としては、醤油(特に、魚醤油)、魚介エキス、だし等があげられる。
【0013】
(吸着剤)
本発明の方法における吸着剤は、以下で列挙する吸着剤を対象とする。
1)タンニン
タンニン(tannin)とは、植物に由来し、タンパク質、アルカロイド、金属イオンと反応し強く結合して難溶性の塩を形成する水溶性化合物の総称である。また、一部のタンニンは、多数のフェノール性ヒドロキシ基を持つ複雑な芳香族化合物であり、タンパク質や他の巨大分子と強固に結合し、複合体を形成している。
2)タンニン酸
タンニン酸とは、タンニンの一種であり、五倍子または没食子から得たタンニンとして規定されている。タンニンとは、植物由来のポリフェノール成分であり、タンパク質や多糖体等の高分子化合物、重金属、アルカロイドなどの塩基性化合物などに強い親和性を示し、それらと複合体を形成し、不溶性の沈殿を形成する収斂作用を持つ物質の総称である。タンニン酸は、相手分子の疎水性でかつ空間的スペースのある部分を認識し会合を行い、タンニン酸のガロイル基とタンパク質のプロリンなどの疎水的相互作用や、π‐π相互作用、CH‐π相互作用および水素結合により強く会合が行われる。タンニン酸の構造を
図10に示す。
【0014】
3)イオン交換樹脂
本発明のイオン交換樹脂は、イオン交換基を有する樹脂であれば、特に限定されない。例えば、以下で説明するキレート型イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂等を含む。
【0015】
4)キレート型イオン交換樹脂
本発明のキレート型イオン交換樹脂は、キレート作用を有する樹脂であれば、特に限定されない。
【0016】
5)陽イオン交換樹脂
本発明の陽イオン交換樹脂は、陽イオンを交換する作用を有する樹脂であれば、特に限定されない。
【0017】
6)イミノジ酢酸型のキレート型イオン交換樹脂
イミノジ酢酸型のキレート樹脂は、一価よりも多価金属イオン、特にFe(III)やCu(II)などの遷移金属元素に対して高い選択性を示し、例えば、以下の式(1)(参照:三菱ケミカルのCR11)で表られる。
【化1】
【0018】
7)ポリアミン型のキレート型イオン交換樹脂
ポリアミン型のキレート樹脂は、一価よりも二価の金属イオン、特に遷移金属元素に対して高い選択性を示し、例えば、以下の式(2)(参照:三菱ケミカルのCR20)で表られる。
【化2】
【0019】
8)酸性陽イオン交換樹脂
酸性陽イオン交換樹脂は、主に硬水軟化、純粋製造、アミノ酸分離精製、有機溶媒の脱水などの用途に使用されており、例えば、以下の式(3)(xは、Na又はHである。参照:三菱ケミカルのSK1B)で表られる。
【化3】
【0020】
9)メチルグルカミン型のキレート型イオン交換樹脂
メチルグルカミン型のキレート樹脂は、ホウ酸イオンに対して高い選択性を示し、例えば、以下の式(4)(参照:三菱ケミカルのCRB03)で表られる。
【化4】
【0021】
10)多孔質スチレン型の樹脂
多孔質スチレン型の樹脂は、例えば、以下の式(5)(参照:三菱ケミカルのSP850)で表られる。
【化5】
【0022】
11)ポリフェノール吸着樹脂
ポリフェノール吸着樹脂は、アルコール飲料、非アルコール飲料および食酢など調味料の品質を改善するためのろ過助剤として知られおり、例えば、ポリビニルピロリドン(ポリビニルポリピロリドン(PVPP)を含む)等があげられる。
【0023】
12)活性炭
活性炭は、自体公知の市販品を使用することができる。
【0024】
13)セライト
セライトは、炭酸ナトリウムとともに焼成した珪藻土であり、米国ImerysFiltrationMinerals, Inc.の商品名である。
【0025】
14)珪藻土
珪藻土は、自体公知の市販品を使用することができ、酸洗浄珪藻土が好ましい。
【0026】
15)水酸化セリウム
水酸化セリウムは、ヒ素吸着剤として知られており、市販されている。
【0027】
(処理工程)
本発明の処理工程は、上記列挙した吸着剤により食品(好ましくは、製造中の食品ではなく製造後の食品)中のヒスタミンを除去できれば、特に限定されない。また、温度、湿度、圧力は、食品の性質を変化させない条件が好ましい。
以下の処理工程を例示することができる。なお、本発明の方法は、食品製造中だけではなく完成後の食品に処理することができるので、食品の製造方法を変更することなくヒスタミンを除去することができる。
全ての吸着剤は、固液分離処理及び/又はカラム処理で行うことができる。さらに、固液分離処理とカラム処理の併用をすることができる。
【0028】
〇固液分離処理
上記列挙した吸着剤(ろ過助剤)を食品と接触させ(食品に添加して)、該食品中の沈殿物を分離する。食品1に対して重量比で0.001~0.5の割合で添加するのが好ましく、0.05~0.1倍がより好適である。
前記食品と、吸着剤とを接触させる時間は数分~1日程度であるが、12時間~24時間が好ましく、処理温度は有用成分が失われない温度で行なうことが必要であり、-10~90℃の温度範囲内であればいずれの温度でも良い。必要に応じて、撹拌することが好ましい。
吸着剤を添加した食品から沈殿物を除去するための具体的な方法としては、凍結融解法、濾布等による濾過法、高速遠心分離機による方法等が挙げられるが、濾布による濾過することが好ましい。
【0029】
〇カラム処理
食品を、上記列挙した吸着剤を充填したカラムに通液させる。食品の性質を変化させることを防ぐために、食品を溶媒等により希釈してカラムに通液しないことが好ましい。必要に応じて、吸着剤を酸、アルカリ等で再生処理した後、食品を通液することが望ましい。
【0030】
〇固液分離処理
上記列挙した吸着剤(ろ過助剤)を食品と接触させ(食品に添加して)、該食品中の沈殿物を分離する。食品1に対して重量比で0.001~0.5の割合で添加するのが好ましく、0.05~0.1倍がより好適である。
前記食品と、吸着剤とを接触させる時間は数分~1日程度であるが、12時間~24時間が好ましく、処理温度は有用成分が失われない温度で行なうことが必要であり、-10~90℃の温度範囲内であればいずれの温度でも良い。必要に応じて、撹拌することが好ましい。
吸着剤を添加した食品から沈殿物を除去するための具体的な方法としては、凍結融解法、濾布等による濾過法、高速遠心分離機による方法等が挙げられるが、濾布による濾過することが好ましい。
【0031】
下記の実施例の結果により、2種類以上の吸着剤を使用することにより、ヒスタミンの除去率を上げることができる。好ましい吸着剤の組み合わせは、タンニン若しくはタンニン酸並びにイオン交換樹脂(特に、酸性陽イオン交換樹脂)である。
【0032】
(処理後の食品)
本発明の方法で処理された食品のヒスタミン濃度は、400 ppm以下、好ましくは、100 ppm以下である。
また、本発明の方法で処理された食品の遊離アミノ酸(特に、グルタミン酸、グリシン、リジン、GABA、アラニン、アスパラギン酸)は、処理前の食品と比較して、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上残存しているので、食品の味への影響はないと考えられる。
【実施例0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。