(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151759
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20220929BHJP
B65D 65/40 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
B32B27/18 F
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022043934
(22)【出願日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2021049330
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】313004403
【氏名又は名称】株式会社フジシール
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】表 沙帆梨
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 彰
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AD16
3E086AD28
3E086BA04
3E086BA15
3E086BA24
3E086BA35
3E086BB51
3E086BB90
3E086DA06
4F100AA04B
4F100AB18B
4F100AB19B
4F100AB24B
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100DD01B
4F100HB31C
4F100JA03A
4F100JC00B
4F100JN30
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】容器の外表面における菌またはウイルスの増殖を抑制することが可能な積層体を提供する。
【解決手段】積層体(10)は、基材(101)と、基材(101)上の表面樹脂層(102)とを備えている。基材(101)は、プラスチックフィルムを含む。表面樹脂層(102)は、樹脂(102a)と、樹脂(102a)中の抗菌性能、抗ウイルス性能、または抗菌性能および抗ウイルス性能の両方の性能を有する亜鉛および銀を担持したリン酸ジルコニウム粒子(102b)とを備えている。亜鉛および銀を担持したリン酸ジルコニウム粒子(102b)の一部が樹脂(102a)から外部に凸状に露出している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上の表面樹脂層と、を備え、
前記基材は、プラスチックフィルムを含み、
前記表面樹脂層は、樹脂と、前記樹脂中の抗菌性能、抗ウイルス性能、または前記抗菌性能および前記抗ウイルス性能の両方の性能を有する亜鉛および銀を担持したリン酸ジルコニウム粒子とを備え、
前記亜鉛および銀を担持したリン酸ジルコニウム粒子の一部が前記樹脂から外部に凸状に露出している、積層体。
【請求項2】
前記基材は、熱収縮性のプラスチックフィルムである、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
熱収縮後の積層体のヘイズ値が80以下である、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
熱収縮後の積層体の前記表面樹脂層の表面全体の面積に占める前記亜鉛および銀を担持したリン酸ジルコニウム粒子の面積の割合は17%未満である、請求項2または請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記基材の前記表面樹脂層が設けられている側および前記基材の前記表面樹脂層が設けられている側と反対側の少なくとも一方の側にインキ層をさらに備えた、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記表面樹脂層の前記樹脂の樹脂成分の酸価が、10mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
清涼飲料水、調味料、化粧品および洗剤等の商品は、各種容器の外表面にシュリンクフィルム等のプラスチックラベルが装着されたラベル付き容器の形態で販売されている。
【0003】
たとえば特許文献1には、抗ウイルス性シュリンクフィルムが記載されている。特許文献1に記載の抗ウイルス性シュリンクフィルムは、シュリンク基材と、シュリンク基材の片面側にあり、抗ウイルス性シュリンクフィルムの最も表層にある機能層からなっている。機能層は無機系抗ウイルス剤粉末とハードコート剤からなり、抗ウイルス性シュリンクフィルム1m2当たり無機系抗ウイルス剤粉末を0.01g以上0.03g以下含んでいて、機能層が外部環境と接する面を機能層の露出面とし、無機系抗ウイルス剤粉末の粒子の中で、粒子表面の一部分が露出面に露出している粒子を露出有効粉末粒子とし、露出有効粉末粒子が露出面に露出している面積を単独露出面積とし、露出面一定区画中に存在する露出有効粉末粒子の単独露出面積の合計値を合計露出面積とし、一定区画の面積に対する合計露出面積の百分率を露出有効粉末の占有百分率としたとき、露出有効粉末の占有百分率が50%以上80%以下とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、ラベル付き容器の内容物である調味料または洗剤等が一度に使い切られることは稀である。
【0006】
たとえば、醤油のボトルは飲食店に常時設置され、顧客が食品に醤油を使用する度に手に取られることになる。また、洗剤のボトルは各家庭に設置され、使用者が洗剤を使用する度に手に取られることになる。さらに、大容量の詰め替え用パウチも、その内容物が一度に使い切られず、使用者が複数回手に取って使用することが通常となっている。
【0007】
このように、内容物を複数回にわたって使用するようなラベル付き容器またはパウチ等の容器は、使用者によって複数回手に取られることが通常である。
【0008】
しかしながら、引用文献1に記載の抗ウイルス性シュリンクフィルムが装着された容器を不特定多数の人間が複数回手に取った場合には、容器の外表面に菌またはウイルスが付着して増殖する可能性があるため、その改善が要望されている。
【0009】
特に、昨今の新型コロナウイルスの問題または衛生観念の高まりから、容器の外表面における菌またはウイルスの増殖を抑制することが強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ここで開示された実施形態によれば、基材と、基材上の表面樹脂層と、を備え、基材は、プラスチックフィルムを含み、表面樹脂層は、樹脂と、樹脂中の抗菌性能、抗ウイルス性能、または抗菌性能および抗ウイルス性能の両方の性能を有する亜鉛および銀を担持したリン酸ジルコニウム粒子とを備え、亜鉛および銀を担持したリン酸ジルコニウム粒子の一部が樹脂から外部に凸状に露出している積層体を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
ここで開示された実施形態によれば、容器の外表面における菌またはウイルスの増殖を抑制することが可能な積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態の積層体の一例の模式的な断面図である。
【
図2】実施形態の積層体の他の一例の模式的な断面図である。
【
図3】実施形態の積層体のさらに他の一例の模式的な断面図である。
【
図4】実験例8の積層体の断面を2000倍に拡大した写真である。
【
図5】(a)は実験例1の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の表面を二値化した図であり、(b)は実験例1の積層体の50%熱収縮後の表面樹脂層の表面を二値化した図である。
【
図6】実験例1’の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の表面を二値化した図である。
【
図7】実験例1’の積層体の50%熱収縮後の表面樹脂層の表面を二値化した図である。
【
図8】実験例6の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の表面を二値化した図である。
【
図9】実験例6の積層体の50%熱収縮後の表面樹脂層の表面を二値化した図である。
【
図10】実験例7の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の表面を二値化した図である。
【
図11】実験例7の積層体の50%熱収縮後の表面樹脂層の表面を二値化した図である。
【
図12】(a)は実験例8の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の表面を二値化した図であり、(b)は実験例8の積層体の50%熱収縮後の表面樹脂層の表面を二値化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<積層体>
図1に、実施形態の積層体10の一例の模式的な断面図を示す。
図1に示すように、積層体10は、基材101と、基材101上の表面樹脂層102と、基材101の表面樹脂層102が設けられている側と反対側に設けられたインキ層103と、を備えている。
【0014】
<基材>
基材101は、少なくとも表面樹脂層102を支持することが可能な樹脂を含む基体である。
【0015】
基材101に含まれる樹脂としては、たとえば、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸等)、ポリスチレン系樹脂(ポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合体等)、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂(ナイロン等)、アラミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、またはアクリル系樹脂等を用いることができる。基材101は、これらの樹脂の1種類を含んでいてもよく、2種類以上を含んでいてもよい。
【0016】
基材101は、たとえば、熱収縮性のプラスチックフィルム(シュリンクフィルム)であってもよい。基材101がシュリンクフィルムである場合には、たとえば、容器の外表面に装着可能なシュリンクラベルまたはオーバーラップ包装として積層体10を用いることができる。基材101がシュリンクフィルムである場合には、基材101を90℃の熱水に10秒間浸漬させたときの基材101の主収縮方向の熱収縮率は30%以上90%以下であることが好ましく、40%以上85%以下であることがより好ましい。また、基材101がシュリンクフィルムである場合には、基材101を90℃の熱水に10秒間浸漬させたときの基材101の主収縮方向と直交する方向の熱収縮率は、-3%以上15%以下であることが好ましく、-1%以上10%以下であることがより好ましい。
【0017】
基材101は、たとえば、非熱収縮性のプラスチックフィルムであってもよい。基材101が非熱収縮性のプラスチックフィルムである場合には、たとえば、容器の外表面に巻き付け可能な巻き付けラベル、容器の外表面に貼り付け可能なタックラベル、または平袋、ガゼット袋、ピロー袋、若しくはパウチ等の軟包装袋として積層体10を用いることができる。基材101が非熱収縮性のプラスチックフィルムである場合には、基材101を90℃の熱水に10秒間浸漬させたときの基材101の主収縮方向の熱収縮率は3%未満であることが好ましく、1%未満であることがより好ましい。
【0018】
基材101は、1層からなる単層フィルムであってもよく、2層以上からなる多層フィルムであってもよい。また、基材101の厚さは、たとえば、5μm以上150μm以下、好ましくは5μm以上120μm以下、より好ましくは5μm以上100μm以下とすることができる。
【0019】
<表面樹脂層>
表面樹脂層102は、
図1に示すように、樹脂102aと、抗菌性能、抗ウイルス性能または抗菌性能および抗ウイルス性能の両方の性能を有する、亜鉛および銀を担持したリン酸ジルコニウム粒子102b(以下、単に「粒子102b」ということもある。)と、を備えている。表面樹脂層102においては、少なくとも1つの粒子102bの一部が樹脂102aから外部に凸状に露出している。表面樹脂層102は、その一部が樹脂102aから外部に凸状に露出している粒子102bを含んでいれば、樹脂102a中に全部が埋設されている粒子102bを含んでいてもよい。
【0020】
<樹脂>
樹脂102aは、少なくとも1つの粒子102bの一部が樹脂102aから外部に凸状に露出するように粒子102bを支持することができればよい。
【0021】
樹脂102aは、樹脂成分として、たとえば、アクリル樹脂を含んでいてもよい。樹脂102aの樹脂成分として含まれるアクリル樹脂としては、たとえば、少なくともアクリル系モノマーをモノマー成分として構成された重合体を用いることができる。上記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分としてはアクリル系モノマー以外のモノマー成分が含まれていてもよい。樹脂102aの樹脂成分の主成分は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、熱可塑性のアクリル樹脂を含むことがより好ましい。樹脂102aの樹脂成分の酸価は、たとえば2mgKOH/g以上500mgKOH/g以下であってもよく、10mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であることが好ましく、15mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることがより好ましく、20mgKOH/g以上80mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。樹脂102aの樹脂成分の酸価は、JIS K 5601-2-1:1999に基づいて算出される。
【0022】
アクリル系モノマーとしては、たとえば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等の直鎖または分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル[好ましくは(メタ)アクリル酸C1-12アルキルエステル等];(メタ)アクリル酸;カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル[好ましくは(メタ)アクリル酸ヒドロキシC1-8アルキルエステル等];(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリル酸アミド誘導体;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルエステル類等の、(メタ)アクリロイル基を有するモノマー(アクリロイル基又はメタクリロイル基を少なくとも有するモノマー)が挙げられる。アクリル系モノマーは、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
アクリル系モノマー以外のアクリル系樹脂を構成するモノマー成分としては、たとえば、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシ基含有重合性不飽和化合物またはその無水物;スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等のスチレン系化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;メチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;(メタ)アクリロニトリル等のシアノ基含有ビニル化合物;エチレンまたはプロピレン等が挙げられる。
【0024】
<その他成分>
表面樹脂層102は、樹脂102a中に、樹脂成分に加えて、硝化綿をさらに含んでいてもよい。表面樹脂層102が樹脂成分に加えて硝化綿をさらに含む場合には、表面樹脂層102の表面のベタつきを低減することができる傾向にある。樹脂102a中に硝化綿を加えた場合には、樹脂102aを塗工する際の樹脂溶液のハンドリング性を向上することができる。また、表面樹脂層102は、樹脂102a中に、硝化綿とともに、または硝化綿に代えて、たとえば、セルロースアセテートブチレート(CAB樹脂)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP樹脂)を含む場合にも、表面樹脂層102の表面のベタつきを低減することができるとともに、ハンドリング性能を向上することができる。さらに、基材101がPETである場合には、表面樹脂層102が樹脂102a中に硝化綿を含むことにより、基材101と表面樹脂層102との密着性を向上することができる。
【0025】
表面樹脂層102は、樹脂102a中に、樹脂成分に加えて、滑剤、ブロッキング防止剤、沈降防止剤、またはつや消し剤等をさらに含んでいてもよい。つや消し剤としては、たとえば、アクリルビーズ、シリカ、または硫酸バリウム等を挙げることができる。表面樹脂層102が樹脂102a中に樹脂成分に加えてアクリルビーズ、シリカ、または硫酸バリウムをさらに含む場合には、表面樹脂層102にマットニスとしての機能を持たせることができる傾向にある。滑剤は、表面樹脂層102の全体の重量を100%としたときに、たとえば2重量%以上30重量%以下含まれることができ、5重量%以上25重量%以下含まれることが好ましい。滑剤は、たとえば、後述する亜鉛および銀を担持したリン酸ジルコニウム粒子よりも大きい粒子を含んでいてもよい。また、滑剤は、表面樹脂層102の樹脂102aから外部に凸状に露出していてもよい。
【0026】
<亜鉛および銀を担持したリン酸ジルコニウム粒子>
亜鉛および銀を担持したリン酸ジルコニウム粒子102bは、抗菌性能、抗ウイルス性能、または抗菌性能および抗ウイルス性能の両方の性能を有していればよい。
【0027】
粒子102bは、様々な菌種またはウイルス種を含む広範囲に抗菌性能または抗ウイルス性能を発揮することができる傾向にある。また、粒子102bは高い耐熱性を有するとともに、長期間にわたり抗菌性能または抗ウイルス性能を発揮し、さらには人体に悪影響を及ぼしにくい傾向にある。
【0028】
粒子102bの一部は、表面樹脂層102の樹脂102aから外部に凸状に露出している。本実施形態において、「外部に凸状に露出」とは、特許文献1に記載の機能層の露出面から露出している粒子よりも外部側に粒子102bの一部が突出していることを意味する。すなわち、本実施形態の粒子102bの樹脂102aから外部に露出している表面上の点のうち樹脂102aから最も離れて外部側に位置する点が、特許文献1に記載の機能層の露出面から露出している粒子の表面よりも、樹脂102aから離れて位置していればよい。なお、特許文献1に記載の粒子の表面が機能層の露出面からどの程度露出しているかということについては、たとえば特許文献1の
図1~
図4およびこれらの図面に関連する特許文献1の記載から当業者に明らかである。
【0029】
粒子102bのメジアン径D50は、表面樹脂層102の厚さよりも大きいことが好ましい。粒子102bのメジアン径D50を表面樹脂層102の厚さよりも大きくした場合には、粒子102bの一部を表面樹脂層102から好適に外部に凸状に露出させることができる傾向にある。メジアン径D50は、粒子102bの個々の粒径を小さい方から数えていって、丁度真ん中の粒の径とされる。
【0030】
粒子102bのメジアン径D50は、たとえば、1μm以上5μm以下とすることができる。粒子102bのメジアン径D50が1μm以上5μm以下である場合には、表面樹脂層102の厚さをたとえば0.3μm以上2μm以下としたときに、粒子102bの一部を表面樹脂層102から好適に外部に凸状に露出させることができる傾向にある。表面樹脂層102の厚さは、好ましくは0.5μm以上1μm以下である。
【0031】
粒子102bのメジアン径D50は、以下の測定条件により、レーザ回折・散乱法を用いた粒子径分布測定装置を用いて測定された値である。具体的には、粒子径分布測定装置として、マイクロトラック・ベル社の「Microtrack 3300EX II」を用いた。
【0032】
(測定条件)
粒子名 :ガラス
粒子透過性:透過
粒子屈折率:1.51
粒子形状 :真球形
溶媒 :メタノール35重量%、イソプロピルアルコール(IPA)25重量%、酢酸エチル40重量%
溶媒屈折率:1.333~1.377
【0033】
<インキ層>
インキ層103は、インキ樹脂組成物を含む層である。インキ層103に含まれるインキ樹脂組成物は、たとえば、顔料、樹脂、および添加剤等を含み得る。インキ層103は、たとえばデザイン印刷層とすることができる。デザイン印刷層は、顔料を含み、視認可能な絵柄または文字等を表示する層である。
【0034】
図1に示される実施形態の積層体10においては、インキ層103は、基材101の表面樹脂層102が設けられている側と反対側に設けられているが、インキ層103は、基材101の表面樹脂層102が設けられている側に設けられていてもよい。
【0035】
図2に、実施形態の積層体10の他の一例の模式的な断面図を示す。
図2に示すようにインキ層103が基材101の表面樹脂層102が設けられている側に設けられる場合には、インキ層103は、基材101と表面樹脂層102との間に設けられてもよい。
【0036】
図3に、実施形態の積層体10のさらに他の一例の模式的な断面図を示す。
図3に示すように、インキ層103は、基材101の表面樹脂層102が設けられている側および基材101の表面樹脂層102が設けられている側と反対側の両方に設けられてもよい。
【0037】
<その他の層>
積層体10がタックラベルとして用いられる場合には、積層体10は、たとえば、基材101の表面樹脂層102が設けられている側と反対側に、基材101側から粘着層と剥離層とをこの順序で備えていてもよい。また、積層体10がパウチとして用いられる場合には、たとえば、基材101の表面樹脂層102が設けられている側と反対側に、シーラント層を備えていてもよい。
【0038】
<積層体の製造方法>
図1に示される積層体10は、たとえば以下のようにして製造することができる。まず、基材101を準備する。基材101は、たとえば、インフレーション法、チューブラー法、押出法またはカレンダー法等の方法によってフィルムを成形することにより、必要に応じて、当該フィルムに対してさらに延伸処理を施すことにより準備することができる。
【0039】
次に、基材101の一方の表面上にインキ層103を形成する。インキ層103は、たとえば、インキ層103を形成するためのインキ樹脂組成物を基材101の一方の表面上に塗布した後に乾燥または硬化することにより形成することができる。
【0040】
その後、基材101のインキ層103が設けられている側と反対側に表面樹脂層102を形成する。表面樹脂層102は、たとえば、以下のように形成することができる。まず、溶媒で希釈された樹脂102aに粒子102bを混合させることによって樹脂102aと粒子102bとを含む表面樹脂層102の形成用の樹脂組成物を調製する。次に、当該樹脂組成物を基材101のインキ層103が設けられている側と反対側に塗布した後に乾燥させること等によって溶媒を除去する。これにより、粒子102bの一部が樹脂102aから外部に凸状に露出した表面樹脂層102を形成することができる。表面樹脂層102の形成用の樹脂組成物は、たとえばグラビア印刷法等の凹版印刷法により塗布されることが好ましい。
【0041】
<用途>
基材101が熱収縮性のプラスチックフィルムである場合には、実施形態の積層体10を、たとえば、シュリンクラベルとして用いることができる。シュリンクラベルは、熱収縮することにより、PETボトル等のプラスチック容器、金属容器、またはガラス容器等の容器の外表面に装着することができるプラスチックラベルである。
【0042】
基材101が非熱収縮性のプラスチックフィルムである場合には、実施形態の積層体10を、たとえば、巻き付けラベル、タックラベル、またはパウチとして用いることができる。
【0043】
巻き付けラベルは、PETボトル等の容器の外表面に巻き付けて端部同士を接着することにより、熱収縮させることなく、容器の外表面に装着することができるプラスチックラベルである。たとえば、プラスチックラベルの一方の端部を容器の外表面に接着した後、プラスチックラベルを容器の外表面に巻き付け、最後に、プラスチックラベルの端部同士を接着することにより、容器の外表面に巻き付けラベルを装着することができる。
【0044】
タックラベルは、PETボトル等の容器の外表面に粘着層等で接着させることによって容器の外表面に装着することができるプラスチックラベルである。
【0045】
パウチは、プラスチックフィルムのシーラント層を熱融着させること等によって袋状に成形された袋状容器である。
【0046】
実施形態の積層体10がいずれの用途に用いられるとしても、表面樹脂層102が容器の外表面に位置するように容器に装着または容器が構成される。
【0047】
実施形態の積層体10においては、抗菌性能、抗ウイルス性能、または抗菌性能および抗ウイルス性能の両方の性能を有する粒子102bの一部が、基材101上の表面樹脂層102の樹脂102aから外部に凸状に露出している。
【0048】
したがって、実施形態の積層体10が、たとえば、シュリンクラベル、巻き付けラベルまたはタックラベル等として容器の外表面に装着された場合、または、パウチ等の容器自体に成形された場合に、積層体10の外部から表面樹脂層102に到着した菌またはウイルスは、樹脂102aから外部に凸状に露出している粒子102bの作用によって増殖が抑制される。これにより、菌またはウイルスの容器の外表面における総数を減少させることが可能になると推測することができる。
【0049】
以上の理由により、実施形態の積層体10は、容器の外表面における菌またはウイルスの増殖を抑制することが可能となる。実施形態の積層体10の基材101が熱収縮性のプラスチックフィルムである場合には、熱収縮前と比較して熱収縮後の積層体10の表面樹脂層102の耐摩耗性(表面樹脂層102からの粒子102bの物理的な離脱し難さ)が向上する傾向にあるため、特に好ましい。
【0050】
また、積層体10の基材101が熱収縮性のプラスチックフィルムである場合には、熱収縮前と比較して、熱収縮後の基材101の表面の単位面積あたりの粒子102bの数が大きくなる。このため、製造適性と抗菌性および/または抗ウイルス性との両立が可能となる。それは、以下の理由による。
【0051】
すなわち、樹脂102aおよび粒子102bを含む表面樹脂層102の形成用の樹脂組成物を基材101の表面上に塗布する場合、基材101の表面における粒子102bの含有割合(個/m2)が増加するに従って、製造工程において、表面樹脂層102の形成用の樹脂組成物中の粒子102bがローラ等に転移する(粉吹き)ような事情が発生し易い傾向がある。
【0052】
このような粉吹きは、製造される積層体の品質を低下させることがある。しかしながら、基材101が熱収縮性のプラスチックフィルムであって、積層体10が熱収縮することによって容器の外表面に装着される場合には、製造段階(すなわち熱収縮前)における粒子102bの含有割合を、粉吹きを抑制できる程度に調整しつつ、容器に装着された熱収縮後の積層体10における粒子102bの含有割合を、十分な抗菌性および/または抗ウイルス性を発揮できる程度に調整することができる。また、熱収縮後の積層体10の粒子102bの含有割合は、熱収縮前の積層体10よりも高くなるため、熱収縮前に比べて熱収縮後の積層体10の抗菌性および/または抗ウイルス性を向上させることができる。
【0053】
また、実施形態の積層体10においては、粒子102bの一部が表面樹脂層102の樹脂102aから外部に凸状に露出していることによって、機能層から外部に凸状に露出していない特許文献1に記載の粒子と比べて、抗菌性能、抗ウィルス性能、または抗菌性能および抗ウィルス性能の両方の性能をより向上させて発揮することができる。
【0054】
後述の実験例で示されているように、実施形態の積層体10は、特に耐水性に優れている。したがって、実施形態の積層体10が、たとえば、飲料ボトルまたは水回りの日用品等の水に接触することが想定される容器に装着された場合であっても、十分な抗菌性および/または抗ウイルス性を発揮することができる。また、基材101が熱収縮性のプラスチックフィルムであるときには、スチームトンネル内で実施形態の積層体10にスチームを吹き付けることにより実施形態の積層体10を熱収縮させて容器に装着させる場合がある。この場合にも、実施形態の積層体10は水に接触することになるが、実施形態の積層体10の抗菌性および/または抗ウイルス性を発揮させることが可能になる。
【実施例0055】
<第1の検討>
(実験例1の積層体の作製)
まず、基材を構成するプラスチックフィルムとして、無延伸のポリスチレンフィルム(非熱収縮性のプラスチックフィルム、いわゆるCPSフィルム)または厚さ30μmのHOPフィルム(ポリエステル(PET)フィルム、ポリスチレンフィルム、およびPETフィルムがこの順に積層された一軸延伸の熱収縮性のプラスチックフィルム)を準備した。次に、プラスチックフィルムの一方の表面の全面に表面樹脂層の形成用の樹脂組成物をグラビア印刷により塗布した後に乾燥させることによって、表面樹脂層を形成した。以上により、実験例1の積層体を作製した。
【0056】
実験例1において、表面樹脂層の形成用の樹脂組成物は、樹脂成分としてのアクリル樹脂を含む固形分18.2重量部と、抗菌性能、抗ウイルス性能、または抗菌性能および抗ウイルス性能の両方の性能を有する、亜鉛および銀を担持したリン酸ジルコニウム粒子(以下、「機能粒子」という)3重量部とを、有機溶剤103.8重量部で希釈することによって調製されたものである。実験例1の積層体の表面樹脂層のアクリル樹脂の厚さは0.5~1μm程度であって、機能粒子のメジアン径D50は3μm程度であった。
【0057】
(実験例1’の積層体の作製)
まず、基材を構成するプラスチックフィルムとして、無延伸のポリスチレンフィルム(非熱収縮性のプラスチックフィルム、いわゆるCPSフィルム(厚さ20μm))または厚さ35μmのHOPフィルムを準備した。次に、プラスチックフィルムの一方の表面の全面に表面樹脂層の形成用の樹脂組成物をグラビア印刷により塗布した後に乾燥させることによって、表面樹脂層を形成した。以上により、実験例1’の積層体を作製した。なお、後述する実験例1’および実験例1~9ならびに参考例の積層体の評価において、抗菌性評価および抗ウィルス評価に基材として用いたプラスチックフィルムは厚さ20μmのCPSフィルムであり、その他の評価(構成成分の脱落評価、耐摩耗性評価、ヘイズ値、二値化)に基材として用いたプラスチックフィルムは厚さ35μmのHOPフィルムであった。
【0058】
実験例1’において、表面樹脂層の形成用の樹脂組成物は、樹脂成分としてのアクリル樹脂を含む固形分20重量部と、抗菌性能、抗ウイルス性能、または抗菌性能および抗ウイルス性能の両方の性能を有する、亜鉛および銀を担持したリン酸ジルコニウム粒子(以下、「機能粒子」という)1重量部とを、有機溶剤104重量部で希釈することによって調製されたものである。実験例1’の積層体の表面樹脂層のアクリル樹脂の厚さは0.5~1μm程度であって、機能粒子のメジアン径D50は3μm程度であった。
【0059】
(参考例の積層体の作製)
機能粒子に代えて、主成分としての水溶性ガラス中に銀イオンが含有されている構成を有する銀担持ガラス微粒子を用いたこと以外は実験例1’と同一の方法および同一の条件で参考例の積層体を作製した。
【0060】
(抗菌性評価)
まず、上記のようにして作製した実験例1および参考例のそれぞれの積層体について、耐水処理または耐光処理を行なった。耐水処理は、実験例1および参考例のそれぞれの積層体を常温の水中に16時間~18時間浸漬させることにより行なった。耐光処理は、実験例1および参考例のそれぞれの積層体に対して、サンシャインランプを8±0.4時間照射することにより行なった。
【0061】
耐水処理後または耐光処理後の実験例1および参考例のそれぞれの積層体について、以下の抗菌性評価条件で、実験例1および参考例のそれぞれの積層体の表面樹脂層に以下の菌種の菌を24時間接触させた後の生菌数を測定し、抗菌活性値を算出することにより評価した。その結果を表1に示す。
【0062】
(抗菌性評価条件)
試験方法:JIS Z 2801:2010 「抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果」(フィルム密着法)
菌種:大腸菌(Escherichia coli)NBRC 3972、黄色ぶどう球菌(Staphylococcus aureus)NBRC 12732
【0063】
【0064】
表1における数値は、耐水処理後または耐光処理後の実験例1および参考例のそれぞれの積層体の抗菌活性値を示している。表1の抗菌活性値の数値が大きいほど、抗菌性に優れていることを示している。抗菌活性値は、耐水処理後または耐光処理後の実験例1および参考例のそれぞれの積層体とブランクの積層体とに菌を24時間接触させた後の生菌数の対数値の差を示す値である。なお、ブランクの積層体は、アクリル樹脂溶液中に亜鉛および銀を担持したリン酸ジルコニウム粒子を含有させなかったこと以外は実験例1と同一の方法および同一の条件で作製した積層体である。
【0065】
(抗菌性評価結果)
表1に示すように、耐水処理後の実験例1の積層体は、耐水処理後の参考例の積層体と比べて、大腸菌および黄色ブドウ球菌のいずれに対しても抗菌性を有することが確認された。
【0066】
また、表1に示すように、耐光処理後の実験例1の積層体は、耐光処理後の参考例の積層体と比べて、大腸菌に対して抗菌性を有することが確認された。黄色ブドウ球菌に対しする耐光処理後の実験例1の積層体の抗菌活性値は、耐光処理後の参考例の積層体よりも低い値となっていた。しかしながら、黄色ブドウ球菌に対する耐光処理後の実験例1の積層体の抗菌活性値は2.0以上であるため、黄色ブドウ球菌に対する抗菌性は実証されている。
【0067】
(抗ウイルス性評価)
上記の耐水処理後または耐光処理後の実験例1および参考例のそれぞれの積層体について、以下の抗ウイルス性評価条件で、実験例1および参考例のそれぞれの積層体の表面樹脂層に以下のウイルス種のウイルスを24時間接触させた後のウイルス感染価を測定し、抗ウイルス活性値を算出することにより評価した。その結果を表2に示す。
【0068】
(抗ウイルス性評価条件)
試験方法:ISO 21702:2019 「プラスチック及びその他の非多孔質表面の抗ウイルス活性の測定」
ウイルス種:A型インフルエンザ、ネコカリシウイルス
【0069】
【0070】
表2における数値は、耐水処理後または耐光処理後の実験例1および参考例のそれぞれの積層体の抗ウイルス活性値を示している。表2の抗ウイルス活性値の数値が大きいほど抗ウイルス性に優れていることを示している。表2の抗ウイルス活性値は、以下の式(1)により算出された値である。
【0071】
【0072】
(抗ウイルス性評価結果)
表2に示すように、耐水処理後の実験例1の積層体および耐光処理後の実験例1の積層体は、それぞれ、耐水処理後の参考例の積層体および耐光処理後の参考例の積層体と比べて、A型インフルエンザおよびネコカリシウイルスのいずれに対しても抗ウイルス性を有することが確認された。
【0073】
(耐水処理前後の機能粒子の構成成分の脱落評価)
基材を構成するプラスチックフィルムとして厚さ35μmのHOPフィルムを用いて上記のようにして作製した耐水処理前の実験例1’および参考例のそれぞれの積層体の表面樹脂層の表面と、上記の耐水処理後の実験例1’および参考例のそれぞれの積層体の表面樹脂層の表面についてSEM(Scanning Electron Microscope)観察(×1000)を用いた元素分析を行ない、耐水処理前後における機能粒子の構成成分の脱落を確認した。その結果を表3に示す。
【0074】
【0075】
表3における「A」は左欄の元素が検出されたことを示し、「B」は左欄の元素が検出されなかったことを示している。また、表3における「-」は左欄の元素が含まれていないことを意味する。なお、元素の検出は、検出ピークが5cps/eV以上である場合に検出されたものとする。
【0076】
表3に示すように、参考例の積層体においては、耐水処理前と比べて耐水処理後において、亜鉛、銀およびリンの脱落が確認された。一方、実験例1’の積層体においては、耐水処理前後で元素の脱落は確認されなかった。この結果から、参考例の積層体は、実験例1’の積層体と比べて耐水性が劣るため、機能性(特に抗ウィルス性)の向上が達成できないと判断される。
【0077】
(耐摩耗性評価)
基材を構成するプラスチックフィルムとして厚さ35μmのHOPフィルムを用いた実験例1’の積層体の熱収縮後の表面樹脂層の耐摩耗性(表面樹脂層のアクリル樹脂の機能粒子の保持力)の評価を以下の耐摩耗性試験に基づいて行なった。
【0078】
まず、JIS L 0849:2013の8.1.2の「摩擦試験機II形(学振形)」を参考に、染色物摩擦堅牢試験器(DAIEI KAGAKU SEIKI MFG CO. LTD)の摩擦子としてKライナー(段ボール紙)面を用い、試験片として実験例1’の積層体の表面樹脂層がKライナー面側を向くように貼り付けて固定した。次に、摩擦子側に500gの荷重をかけ、実験例1’の積層体の表面樹脂層にKライナー面を接触させた状態で500回水平往復運動をさせた。その後、実験例1’の積層体の表面樹脂層の表面状態を評価した。その結果を表4に示す。
【0079】
なお、上記の耐摩耗性評価は、実験例1’の積層体で熱収縮前のもの(実験例1’-1)と30%熱収縮させた熱収縮後のもの(実験例1’-2)とのそれぞれについて、以下の耐摩耗性評価基準で行なった。
【0080】
(耐摩耗性評価基準)
A…水平往復運動後に脱離した機能粒子が散見されなかった
B…水平往復運動後に脱離した機能粒子が散見された
C…水平往復運動後に脱離した機能粒子が顕著に散見された
D…水平往復運動後に脱離した機能粒子が顕著に散見され、かつ表面の摩耗も著しかった
【0081】
【0082】
表4に示す結果から明らかなように、実験例1’の熱収縮後の積層体は、実験例1’の積層体の熱収縮前と比べて、表面樹脂層の表面からの機能粒子の脱離が少なくなっており、耐摩耗性が向上することが確認された。
【0083】
<第2の検討>
(実験例2~5の積層体の作製)
厚さ20μmのCPSフィルムからなる基材の表面に対する表面樹脂層の被覆率を100%(基材の全面に表面樹脂層が配置)から変更したこと以外は実験例1’と同一の方法および同一の条件で以下の表5に示される実験例2~5の積層体を作製した。また、厚さ20μmのCPSフィルムからなる基材を有する上記の実験例1’の積層体も準備した。つまり、第1の検討では、いわゆるベタ塗りの表面樹脂層について検討を重ね、第2の検討では、階調等により被覆の程度を変化させる検討を行なった。
【0084】
【0085】
なお、表5の実験例1’および実験例2~5の欄における被覆率[%]の数値は、表面樹脂層が基材の表面を占める割合を百分率(=100×(表面樹脂層の設置面積)/(表面樹脂層が設置される基材の表面の全面の面積))で示したものである。また、表5の実験例4の欄における「0.08mmストライプ」は、基材の表面上に0.08mm幅のライン状の表面樹脂層の設置領域と0.08mm幅のライン状の表面樹脂層の非設置領域とが交互に1本ずつ設置された構成(被覆率=50%と考えられる)を示している。また、表5の実験例5の欄における「0.15mmストライプ」は、基材の表面上に0.15mm幅のライン状の表面樹脂層の設置領域と0.15mm幅のライン状の表面樹脂層の非設置領域とが交互に1本ずつ設置された構成(被覆率=50%と考えられる)を示している。
【0086】
(抗菌性評価)
上記のようにして作製した実験例1’および実験例2~5の積層体の積層体について、上記の耐水処理および耐光処理を行なうことなく、以下の抗菌性評価条件で、それぞれの積層体の表面樹脂層に以下の菌種の菌を24時間接触させた後の生菌数[個/cm2]および抗菌活性値を測定した。その結果を表6に示す。
【0087】
(抗菌性評価条件)
試験方法:JIS Z 2801:2010 「抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果」
菌種:大腸菌(Escherichia coli)NBRC 3972、黄色ぶどう球菌(Staphylococcus aureus)NBRC 12732
菌液条件:大腸菌 1/500 NB 0.4mL、黄色ぶどう球菌 1/500 NB 0.4mL
作用条件:35℃、24時間
サイズ:4cm×4cm(被覆フィルム)
【0088】
【0089】
(抗菌性評価結果)
表6に示すように、実験例1’および実験例2~5の積層体は、上記の耐水処理および耐光処理を行なわない条件においても、大腸菌および黄色ぶどう球菌に対する抗菌性が確認された。また、表6に示す結果からは、大腸菌および黄色ぶどう球菌に対する抗菌性を向上するためには基材の表面に対する表面樹脂層の被覆率が50%以上であることが好ましいことも確認された。
【0090】
<第3の検討>
(実験例6~7の積層体の作製)
実験例6の積層体は、表面樹脂層の形成用の樹脂組成物の機能粒子の含有量を2重量部にするとともに有機溶剤の含有量を128重量部としたこと以外は実験例1’と同一の方法および同一の条件で作製された。実験例7の積層体は、表面樹脂層の形成用の樹脂組成物の機能粒子の含有量を2重量部にするとともに有機溶剤の含有量を118重量部としたこと以外は実験例1’と同一の方法および同一の条件で作製された。
【0091】
図4に、実験例7の積層体の断面を2000倍に拡大した写真を示す。
図4において、黒色の領域に凸状に突出している箇所が、機能粒子に相当する。したがって、実験例7の積層体においては、機能粒子の一部が表面樹脂層から外部に凸状に露出していることを確認することができる。
【0092】
(ヘイズ値)
実験例1’および実験例6~7の積層体のそれぞれについて、熱収縮前のヘイズ値を求めた。また、実験例1’および実験例6~7の積層体については、50%熱収縮後のヘイズ値を求めた。その結果を以下の表7に示す。
【0093】
なお、ヘイズ値は、使用機器としてヘイズメータ(NDH-7000)を用い、JIS K 7136 「プラスチック-透明材料のヘーズの求め方」に基づいて算出された値である。
【0094】
(二値化)
図6に、実験例1’の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の表面を二値化した図を示す。
図6において、黒く示される領域が表面樹脂層に相当し、白く示される領域が機能粒子に相当している。
【0095】
図6に示す結果から、実験例1’の積層体の熱収縮前の画像全体のピクセル数が306560ピクセルであるのに対し、機能粒子に相当する白く示される領域のピクセル数は6546ピクセルであった。
【0096】
したがって、実験例1’の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の表面全体の面積に占める機能粒子の面積の割合(機能粒子の露出割合)は、2.14%(=100×6546/306560)であった。その結果を表7に示す。
【0097】
図7に、実験例1’の積層体の50%熱収縮後の表面樹脂層の表面を二値化した図を示す。
図7において、黒く示される領域が表面樹脂層に相当し、白く示される領域が機能粒子に相当している。
【0098】
図7に示す結果から、実験例1’の積層体の熱収縮後の表面樹脂層の表面全体の面積に占める機能粒子の面積の割合(機能粒子の露出割合)は、4.47%であった。その結果を表7に示す。
【0099】
図8に、実験例6の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の表面を二値化した図を示す。
図6において、黒く示される領域が表面樹脂層に相当し、白く示される領域が機能粒子に相当している。
【0100】
図8に示す結果から、実験例6の積層体の熱収縮前の画像全体のピクセル数が306560ピクセルであるのに対し、機能粒子に相当する白く示される領域のピクセル数は9065ピクセルであった。
【0101】
したがって、実験例6の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の表面全体の面積に占める機能粒子の面積の割合(機能粒子の露出割合)は、2.96%(=100×9065/306560)であった。その結果を表7に示す。
【0102】
図9に、実験例6の積層体の50%熱収縮後の表面樹脂層の表面を二値化した図を示す。
図9において、黒く示される領域が表面樹脂層に相当し、白く示される領域が機能粒子に相当している。
【0103】
図9に示す結果から、実験例6の積層体の50%熱収縮後の画像全体のピクセル数が306560ピクセルであるのに対し、機能粒子に相当する白く示される領域のピクセル数は22126ピクセルであった。
【0104】
したがって、実験例6の積層体の50%熱収縮後の表面樹脂層の表面全体の面積に占める機能粒子の面積の割合(機能粒子の露出割合)は、7.22%(=100×22126/306560)であった。その結果を表7に示す。
【0105】
図10に、実験例7の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の表面を二値化した図を示す。
図10において、黒く示される領域が表面樹脂層に相当し、白く示される領域が機能粒子に相当している。
【0106】
図10に示す結果から、実験例7の積層体の熱収縮前の画像全体のピクセル数が306560ピクセルであるのに対し、機能粒子に相当する白く示される領域のピクセル数は18323ピクセルであった。
【0107】
したがって、実験例7の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の表面全体の面積に占める機能粒子の面積の割合(機能粒子の露出割合)は、5.98%(=100×18323/306560)であった。その結果を表7に示す。
【0108】
図11に、実験例7の積層体の50%熱収縮後の表面樹脂層の表面を二値化した図を示す。
図11において、黒く示される領域が表面樹脂層に相当し、白く示される領域が機能粒子に相当している。
【0109】
図11に示す結果から、実験例7の積層体の50%熱収縮後の画像全体のピクセル数が306560ピクセルであるのに対し、機能粒子に相当する白く示される領域のピクセル数は24918ピクセルであった。
【0110】
したがって、実験例7の積層体の50%熱収縮後の表面樹脂層の表面全体の面積に占める機能粒子の面積の割合(機能粒子の露出割合)は、8.13%(=100×24918/306560)であった。その結果を表7に示す。
【0111】
なお、二値化は、以下の読み込み条件で、SEMにより1000倍に拡大し、実験例1’、6~7の積層体の熱収縮前または50%熱収縮後の表面樹脂層の表面の画像を読み込み、読み込んだ画像をコンピュータに取り込んで、画像解析ソフト「Image J」で二値化することにより行なった。閾値の決定については大津の手法(判別分析法)を用いた。
【0112】
(読み込み条件)
使用機器:電子顕微鏡「Miniscope(R)TM3030Plus」
反射電子観察
加速電圧:15.0kV
【0113】
【0114】
表7に示すように、実験例1’および実験例6~7の積層体の熱収縮前のヘイズ値は12~21であって、50%熱収縮後のヘイズ値は23~39であった。この結果から、本実施形態の積層体が50%熱収縮した場合でもヘイズ値が80以下、特に50以下である場合には、本実施形態の積層体の表面の外観に違和感がないと考えられる。なお、「50%熱収縮」とは、熱収縮前の本実施形態の積層体の表面の横(CD方向)の長さが熱収縮前と比べて50%短くなっていることを意味する。
【0115】
また、表7に示すように、実験例1’および実験例6~7の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の表面全体の面積に占める機能粒子の面積の割合は2.14%以上5.98%以下であり、50%熱収縮後の当該割合は4.47%以上8.13%以下であった。この結果から、本実施形態の積層体が50%熱収縮した場合にヘイズ値を80以下、特に50以下に抑えるためには、本実施形態の積層体の50%熱収縮後の表面樹脂層の表面全体の面積に占める機能粒子の面積の割合が17%未満、特に10%以下であればよいと考えられる。また、本実施形態の積層体の50%熱収縮後の表面樹脂層の表面全体の面積に占める機能粒子の面積の割合の下限値は1.5%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、5%以上であることがさらに好ましい。
【0116】
<第4の検討>
(実験例8~9の積層体の作製)
実験例8の積層体は、表面樹脂層の形成用の樹脂組成物の機能粒子の含有量を4重量部としたこと以外は実験例1と同一の方法および同一の条件で作製された。実験例9の積層体は、表面樹脂層の形成用の樹脂組成物の機能粒子の含有量を6重量部にしたこと以外は実験例1と同一の方法および同一の条件で作製された。
【0117】
(抗菌性評価)
上記のようにして作製した実験例6~9のそれぞれの積層体について、耐水処理または耐光処理を行なった。耐水処理は、実験例6~9のそれぞれの積層体を常温の水中に16時間~18時間浸漬させることにより行なった。耐光処理は、実験例6~9のそれぞれの積層体に対して、サンシャインランプを8±0.4時間照射することにより行なった。
【0118】
耐水処理後または耐光処理後の実験例6~9のそれぞれの積層体について、以下の抗菌性評価条件で、実験例6~9のそれぞれの積層体の表面樹脂層に以下の菌種の菌を24時間接触させた後の生菌数を測定し、抗菌活性値を算出することにより評価した。その結果を表8に示す。
【0119】
(抗菌性評価条件)
試験方法:JIS Z 2801:2010 「抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果」(フィルム密着法)
菌種:大腸菌(Escherichia coli)NBRC 3972、黄色ぶどう球菌(Staphylococcus aureus)NBRC 12732
【0120】
【0121】
表8における数値は、耐水処理後または耐光処理後の実験例6~9のそれぞれの積層体の抗菌活性値を示している。表8の抗菌活性値の数値が大きいほど、抗菌性に優れていることを示している。抗菌活性値は、耐水処理後または耐光処理後の実験例6~9の積層体とブランクの積層体とに菌を24時間接触させた後の生菌数の対数値の差を示す値である。なお、ブランクの積層体は、アクリル樹脂溶液中に亜鉛および銀を担持したリン酸ジルコニウム粒子を含有させなかったこと以外は実験例6~9と同一の方法および同一の条件で作製した積層体である。
【0122】
(抗菌性評価結果)
表8に示すように、耐水処理後および耐光処理後の実験例6~9の積層体は、大腸菌および黄色ブドウ球菌のいずれに対しても抗菌性を有することが確認された。
【0123】
(抗ウイルス性評価)
上記の耐水処理後または耐光処理後の実験例8~9のそれぞれの積層体について、以下の抗ウイルス性評価条件で、実験例8~9のそれぞれの積層体の表面樹脂層に以下のウイルス種のウイルスを24時間接触させた後のウイルス感染価を測定し、抗ウイルス活性値を算出することにより評価した。その結果を表9に示す。
【0124】
(抗ウイルス性評価条件)
試験方法:ISO 21702:2019 「プラスチック及びその他の非多孔質表面の抗ウイルス活性の測定」
ウイルス種:A型インフルエンザ、ネコカリシウイルス
【0125】
【0126】
表9における数値は、耐水処理後または耐光処理後の実験例8~9のそれぞれの積層体の抗ウイルス活性値を示している。表9の抗ウイルス活性値の数値が大きいほど抗ウイルス性に優れていることを示している。表9の抗ウイルス活性値は、上記の式(1)により算出された値である。
【0127】
(抗ウイルス性評価結果)
表9に示すように、耐水処理後および耐光処理後の実験例8~9の積層体は、それぞれ、A型インフルエンザおよびネコカリシウイルスのいずれに対しても抗ウイルス性を有することが確認された。
【0128】
(ヘイズ値)
実験例1および実験例8~9の積層体のそれぞれについて、熱収縮前のヘイズ値および50%熱収縮後のヘイズ値を求めた。その結果を以下の表10に示す。
【0129】
なお、ヘイズ値は、使用機器としてヘイズメータ(NDH-7000)を用い、JIS K 7136 「プラスチック-透明材料のヘーズの求め方」に基づいて算出された値である。
【0130】
(二値化)
図5(a)に、実験例1の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の表面を二値化した図を示す。
図5(a)において、黒く示される領域が表面樹脂層に相当し、白く示される領域が機能粒子に相当している。
【0131】
図5(a)に示す結果から、実験例1の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の表面全体の面積に占める機能粒子の面積の割合(機能粒子の露出割合)は、6.73%であった。その結果を表10に示す。
【0132】
図5(b)に、実験例1の積層体の50%熱収縮後の表面樹脂層の表面を二値化した図を示す。
図5(b)において、黒く示される領域が表面樹脂層に相当し、白く示される領域が機能粒子に相当している。
【0133】
図5(b)に示す結果から、実験例1の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の表面全体の面積に占める機能粒子の面積の割合(機能粒子の露出割合)は、12.51%であった。その結果を表10に示す。
【0134】
図12(a)に、実験例8の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の表面を二値化した図を示す。
図12(a)において、黒く示される領域が表面樹脂層に相当し、白く示される領域が機能粒子に相当している。
【0135】
図12(a)に示す結果から、実験例8の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の表面全体の面積に占める機能粒子の面積の割合(機能粒子の露出割合)は、8.21%であった。その結果を表10に示す。
【0136】
図12(b)に、実験例8の積層体の50%熱収縮後の表面樹脂層の表面を二値化した図を示す。
図12(b)において、黒く示される領域が表面樹脂層に相当し、白く示される領域が機能粒子に相当している。
【0137】
図12(b)に示す結果から、実験例8の積層体の50%熱収縮後の表面樹脂層の表面全体の面積に占める機能粒子の面積の割合(機能粒子の露出割合)は、14.43%であった。その結果を表10に示す。
【0138】
実験例1および実験例8の積層体と同一の方法および同一の条件により、実験例9の積層体の熱収縮前および熱収縮後の表面樹脂層の表面全体の面積に占める機能粒子の面積の割合について求めた。その結果を表10に示す。表10に示すように、実験例9の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の表面全体の面積に占める機能粒子の面積の割合は11.30%であり、実験例9の積層体の熱収縮後の表面樹脂層の表面全体の面積に占める機能粒子の面積の割合は18.10%であった。
【0139】
【0140】
(耐摩耗性評価)
基材を構成するプラスチックフィルムとして厚さ35μmのHOPフィルムを用いた実験例8~9の積層体の熱収縮前の表面樹脂層の耐摩耗性(表面樹脂層のアクリル樹脂の機能粒子の保持力)の評価を以下の耐摩耗性試験に基づいて行なった。
【0141】
まず、JIS L 0849:2013の8.1.2の「摩擦試験機II形(学振形)」を参考に、染色物摩擦堅牢試験器(DAIEI KAGAKU SEIKI MFG CO. LTD)の摩擦子として実験例8~9のそれぞれの積層体の表面樹脂層面を用い、試験片として実験例8~9の積層体の表面樹脂層が実験例8~9のそれぞれの積層体の表面樹脂層面側を向くように貼り付けて固定した。次に、摩擦子側に500gの荷重をかけ、実験例8~9の積層体の表面樹脂層に実験例8~9の積層体の表面樹脂層面を接触させた状態で200回水平往復運動をさせた。その後、実験例8~9の積層体の表面樹脂層の表面状態を評価した。その結果を表11に示す。
【0142】
(耐摩耗性評価基準)
A…水平往復運動後に脱離した機能粒子が散見されなかった
B…水平往復運動後に脱離した機能粒子が散見された
C…水平往復運動後に脱離した機能粒子が顕著に散見された
D…水平往復運動後に脱離した機能粒子が顕著に散見され、かつ表面の摩耗も著しかった
【0143】
【0144】
表11に示す結果から明らかなように、実験例8の熱収縮前の積層体は、実験例9の積層体の熱収縮前と比べて、表面樹脂層の表面からの機能粒子の脱離が少なくなっており、耐摩耗性が向上することが確認された。
【0145】
<第5の検討>
(実験例10の積層体の作製)
実験例10の積層体は、表面樹脂層の樹脂を構成する樹脂成分として酸価が13.4mgKOH/gとなる樹脂成分を用いたこと以外は実験例8と同一の方法および同一の条件で作製された。実験例1’および実験例1~9の積層体の表面樹脂層の樹脂を構成する樹脂成分の酸価は30.6mgKOH/gであった。実験例1’および実験例1~10の積層体の表面樹脂層の樹脂を構成する樹脂の樹脂成分の酸価は、JIS K 5601-2-1:1999に基づいて算出した。
【0146】
(抗菌性評価)
上記のようにして作製した実験例10の積層体について、耐水処理または耐光処理を行なった。耐水処理は、実験例10の積層体を常温の水中に16時間~18時間浸漬させることにより行なった。耐光処理は、実験例10の積層体に対して、サンシャインランプを8±0.4時間照射することにより行なった。
【0147】
耐水処理後または耐光処理後の実験例10の積層体について、以下の抗菌性評価条件で、実験例10の積層体の表面樹脂層に以下の菌種の菌を24時間接触させた後の生菌数を測定し、抗菌活性値を算出することにより評価した。その結果を表12に示す。
【0148】
(抗菌性評価条件)
試験方法:JIS Z 2801:2010 「抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果」(フィルム密着法)
菌種:大腸菌(Escherichia coli)NBRC 3972、黄色ぶどう球菌(Staphylococcus aureus)NBRC 12732
【0149】
【0150】
表12における数値は、耐水処理後または耐光処理後の実験例10の積層体の抗菌活性値を示している。表12の抗菌活性値の数値が大きいほど、抗菌性に優れていることを示している。抗菌活性値は、耐水処理後または耐光処理後の実験例10の積層体とブランクの積層体とに菌を24時間接触させた後の生菌数の対数値の差を示す値である。なお、ブランクの積層体は、アクリル樹脂溶液中に亜鉛および銀を担持したリン酸ジルコニウム粒子を含有させなかったこと以外は実験例10と同一の方法および同一の条件で作製した積層体である。
【0151】
(抗菌性評価結果)
表12に示すように、耐水処理後および耐光処理後の実験例10の積層体は、大腸菌および黄色ブドウ球菌のいずれに対しても抗菌性を有することが確認された。
【0152】
(抗ウイルス性評価)
上記の耐水処理後または耐光処理後の実験例10の積層体について、以下の抗ウイルス性評価条件で、実験例10の積層体の表面樹脂層に以下のウイルス種のウイルスを24時間接触させた後のウイルス感染価を測定し、抗ウイルス活性値を算出することにより評価した。その結果を表13に示す。
【0153】
(抗ウイルス性評価条件)
試験方法:ISO 21702:2019 「プラスチック及びその他の非多孔質表面の抗ウイルス活性の測定」
ウイルス種:A型インフルエンザ
【0154】
【0155】
表13における数値は、耐水処理後または耐光処理後の実験例10の積層体の抗ウイルス活性値を示している。表13の抗ウイルス活性値の数値が大きいほど抗ウイルス性に優れていることを示している。表13の抗ウイルス活性値は、上記の式(1)により算出された値である。
【0156】
(抗ウイルス性評価結果)
表13に示すように、耐水処理後および耐光処理後の実験例10の積層体は、A型インフルエンザに対して抗ウイルス性を有することが確認された。
【0157】
(その他)
実験例10の積層体の熱収縮前および50%熱収縮後のそれぞれのヘイズ値および機能粒子の露出割合は、実験例8の積層体と同様の値であった。
【0158】
以上のように実施形態および実験例について説明を行なったが、上述の実施形態および実験例の各構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0159】
今回開示された実施形態および実験例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。