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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151791
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】リン酸塩鉱物の形態別定量分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/046 20180101AFI20220929BHJP
   G01N 23/2251 20180101ALI20220929BHJP
   G01N 23/2252 20180101ALI20220929BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
G01N23/046
G01N23/2251
G01N23/2252
G01N21/27 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046408
(22)【出願日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2021053540
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、戦略的省エネルギー技術革新プログラム 助成事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(72)【発明者】
【氏名】川並 園実
(72)【発明者】
【氏名】高山 透
(72)【発明者】
【氏名】村尾 玲子
【テーマコード(参考)】
2G001
2G059
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA03
2G001BA04
2G001BA07
2G001BA11
2G001CA01
2G001CA03
2G001DA09
2G001HA07
2G001KA01
2G001LA03
2G001NA20
2G059AA01
2G059BB08
2G059EE03
2G059EE12
2G059GG01
2G059HH02
2G059JJ05
2G059KK01
2G059MM05
(57)【要約】
【課題】鉄鉱石中に存在するリン酸塩鉱物の質量分率又は体積分率を正確に測定することができる方法を提供する。
【解決手段】分析対象となる鉄鉱石粒子群の中から参照粒子を選び出して、SEM/EDS及び振動分光法で分析し、参照粒子に含まれるリン酸塩鉱物を同定する工程と、同定された同定リン酸塩鉱物と同種のリン酸塩鉱物の標本のX線CT像を取得する工程と、得られたX線CT像から輝度の強さと輝度の頻度に関するコントラストヒストグラムを作成して、同定リン酸塩鉱物に対応する輝度の強さを特定する工程と、鉄鉱石粒子群の中から分析粒子を選び出してX線CT像を取得する工程と、得られたX線CT像をもとに、同定リン酸塩鉱物に相当する輝度の強さを有する領域を計測して、分析粒子中での同定リン酸塩鉱物の質量分率又は体積分率を求める工程とを備えたリン酸塩鉱物の形態別定量分析方法である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鉱石中に存在するリン酸塩鉱物の質量分率又は体積分率を測定するリン酸塩鉱物の形態別定量分析方法であって、
分析対象となる鉄鉱石粒子群の中から参照粒子を選び出し、前記参照粒子の断面をSEM/EDS及び振動分光法で分析して、前記参照粒子に含まれるリン酸塩鉱物を同定する工程と、
前記同定された同定リン酸塩鉱物と同種であるリン酸塩鉱物の標本のX線CT像を取得する工程と、
前記標本で取得されたX線CT像から輝度の強さと輝度の頻度に関するコントラストヒストグラムを作成し、前記同定リン酸塩鉱物に対応する輝度の強さを特定する工程と、
前記鉄鉱石粒子群の中から分析粒子を選び出し、前記分析粒子のX線CT像を取得する工程と、
前記分析粒子で取得されたX線CT像をもとに、前記分析粒子における同定リン酸塩鉱物に相当する輝度の強さを有する領域の体積を計測して、前記分析粒子中での前記同定リン酸塩鉱物の質量分率又は体積分率を求める工程と、
を備えることを特徴とする、鉄鉱石中に存在するリン酸塩鉱物の形態別定量分析方法。
【請求項2】
前記同定リン酸塩鉱物に対応する輝度の強さを特定する工程に先駆けて、前記標本の断面をSEM/EDS及び振動分光法で分析して、前記標本のX線CT像のコントラストから分析対象とするリン酸塩鉱物の輝度を特定する工程を有する、請求項1に記載の鉄鉱石中に存在するリン酸塩鉱物の形態別定量分析方法。
【請求項3】
前記分析粒子中での同定リン酸塩鉱物の質量分率又は体積分率を求める工程において、前記標本で取得したX線CT像のコントラストヒストグラム、又は、前記分析粒子で取得したX線CT像のコントラストヒストグラムのいずれか一方を補正した上で、前記分析粒子のX線CT像における同定リン酸塩鉱物に相当する輝度の強さを有する領域を計測する、請求項1又は2に記載のリン酸塩鉱物の形態別定量分析方法。
【請求項4】
前記参照粒子に含まれるリン酸塩鉱物を同定する工程において、前記参照粒子の断面を蛍光X線分析により元素分析した上で、SEM/EDS及び振動分光法により前記リン酸塩鉱物を同定する、請求項1又は2に記載のリン酸塩鉱物の形態別定量分析方法。
【請求項5】
前記参照粒子に含まれるリン酸塩鉱物を同定する工程において、参照粒子を複数選び出し、前記複数の参照粒子の断面を有する集合粒子断面をもとに分析する、請求項1又は2に記載のリン酸塩鉱物の形態別定量分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄鉱石中に存在するリン酸塩鉱物の形態別定量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業の原材料として用いられる鉄鉱石は、自然界において複数の酸化鉄により構成され、主要成分である鉄(Fe)以外にも、脈石成分としてアルミニウム(Al)やシリコン(Si)、リン(P)などの不純物を含む。
【0003】
鉄鉱石中の不純物は鋼材の特性を劣化させることから、その含有量の多いものはこれまで敬遠されてきたが、資源劣質化対策として、そのような低品位鉄鉱石の有効活用が注目されている。
【0004】
このうちリンは、リン酸塩鉱物として存在することが知られており、転炉法による製鋼プロセスにおいて取り除かれるが、その脱リンプロセスの高度化のためには、鉄鉱石中でのリン酸塩鉱物の除去効率を理解する必要がある。そのためには、リン酸塩鉱物の質量分率を把握しなければならないが、鉄鉱石中に存在するリン酸塩鉱物は全体の1質量%以下であるため、バルク分析方法を用いてリン酸塩鉱物の除去効率を正確に評価するのは難しい。また、リン酸塩鉱物は均一に分布しているわけではなく、鉄鉱石内でリン酸塩鉱物が偏在していることもあり、その質量分率の測定をより困難にしている。
【0005】
例えば、石油やガスの探査等の鉱業用途において鉱物組成を解析するために、鉱物試料にX線を照射して発せられたX線蛍光と、同じく鉱物試料に光を照射して発せられたラマン放射とを利用して、鉱物試料の化合物を分析する方法がある(特許文献1参照)。また、銅やニッケル等の金属酸化物や硫化物等の化合物(鉱物)を含む鉱石から純度の高い金属(地金)を得るにあたり、その鉱石中に存在する未同定鉱物を同定するために、鉱石を樹脂包埋した鉱石試料を用意して、研磨面を形成し、エネルギー分散型X線分析(EDS)によりEDSスペクトルを測定すると共に、顕微レーザーラマン分光装置によりラマンスペクトルを測定する方法が知られている(特許文献2参照)。
【0006】
このように、X線による局所元素分析方法やラマン分光法等の振動分光法を組み合わせて微小鉱物相を評価する方法は知られているが、これらの方法であっても、鉄鉱石の粒子内で3次元的に分布して、それが微量であるリン酸塩鉱物の質量分率を正確に測定することはできない。
【0007】
一方で、エネルギー分散型X線分析器(EDS)を有した走査型電子顕微鏡(SEM)と、これらを制御すると共に各種鉱物のEDSスペクトルがデータとして蓄積されたコンピュータとを備えた鉱物自動分析装置(Mineral Liberation Analyzer:MLA)を用いて、複数種類の鉱物が混合した原鉱石中の鉱物の質量割合や濃度を分析する方法がある(装置構成については特許文献3を参照、分析方法は特許文献4を参照)。
【0008】
この方法では、先ず、鉱石粉末を樹脂で固結させた試料を研磨し、研磨断面の反射電子像(BSE像)を測定して各鉱物粒子の位置を記憶させる。次いで、判別された鉱物粒子の研磨面毎にEDSスペクトルを測定して、得られた結果と、予めMLAに内蔵された鉱物リストのEDSスペクトルとを照合することで、当該鉱物粒子の鉱物種を同定する。鉱物種が同定されれば、その鉱物に含有される金属元素の種類が特定され、また、その金属元素の種類に応じて密度が把握できるとして、試料中の各鉱物の密度の大小関係を得るようにしている。
【0009】
次に、上記方法では、X線CTを利用して鉱石粉末のX線CT像を得る。このX線CT像は、試料を構成する種々の物質が密度に応じた輝度を有することから、この輝度の大小関係を先に求めたMLAによる密度の大小関係と関連付けている。例えば、MLAの測定において試料中で密度が最も大きい金属を有する鉱物α、同じく密度が大きい金属を有する鉱物β、同じく密度が中くらいの金属を有する鉱物γといった順位付けをする。また、X線CT像においても、輝度が最も高い粒子A、粒子Aには及ばないが輝度が高い粒子B、輝度が中くらいの粒子Cといった順位付けをして、鉱物α=粒子A、鉱物β=粒子B、鉱物γ=粒子Cのような紐付けを行う。このようにすることで、3次元的に鉱石中での各鉱物の質量割合や濃度を評価することができるとしている。
【0010】
しかしながら、上記のような方法は、鉱石中に存在する複数種類の鉱物を相対的に評価することは可能であるが、特定の鉱物について、その質量分率を直接求めるようなことはできない。また、この方法では、MLAで観測される鉱物相の数とX線CTで観測される鉱物相の数とが一致しているという仮定に基づくが、MLAのような2次元観察方法で観測される鉱物相の数と3次元のX線CTで観測される鉱物相の数とが一致しない場合には、正確な評価を行うことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2015-519571号公報
【特許文献2】特開2017-090183号公報
【特許文献3】特開2015-40724号公報(段落0012)
【特許文献4】特開2020-34372号公報(段落0013~0020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
資源劣質化対策として低品位鉄鉱石の有効活用を実現する上で、不純物であるリンが鉄鉱石中にどの程度含まれているかを正しく評価することが重要になるが、リン酸塩鉱物は鉄鉱石中に偏在しており、しかもそれが微量であることから、鉄鉱石中でのリン酸塩鉱物の質量分率を正確に測定するのは難しく、これまでに知られた方法では、それを達成することができない。
【0013】
そこで、本発明者らは、鉄鉱石中に存在するリン酸塩鉱物の質量分率を測定する方法について鋭意検討を重ねた結果、以下のような方法を見出した。先ず、分析対象となる鉄鉱石粒子群の中から参照粒子を選定して、SEM/EDS及び振動分光法を利用することで、参照粒子に含まれるリン酸塩鉱物を同定する。次いで、同定されたリン酸塩鉱物と同種のリン酸塩鉱物の標本についてX線CT像を取得して、そのコントラストヒストグラムから、同定したリン酸塩鉱物に対応する輝度の強さを把握する。そして、実際に分析する分析粒子のX線CT像を取得して、先に求めたリン酸塩鉱物に対応する輝度の強さを有する領域を計測することで、鉄鉱石中に存在するリン酸塩鉱物の質量分率を正確に求めることができるようになることから、本発明を完成させた。なお、上記方法によれば、鉄鉱石中に存在するリン酸塩鉱物の体積分率についても同様にして求めることができることから、本発明では、これらをまとめて、鉄鉱石中におけるリン酸塩鉱物の形態別定量分析方法と呼ぶ。
【0014】
したがって、本発明の目的は、鉄鉱石中に存在するリン酸塩鉱物の質量分率又は体積分率を正確に測定することができるリン酸塩鉱物の形態別定量分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明の要旨は、次のとおりである。
(1)鉄鉱石中に存在するリン酸塩鉱物の質量分率又は体積分率を測定するリン酸塩鉱物の形態別定量分析方法であって、
分析対象となる鉄鉱石粒子群の中から参照粒子を選び出し、前記参照粒子の断面をSEM/EDS及び振動分光法で分析して、前記参照粒子に含まれるリン酸塩鉱物を同定する工程と、
前記同定された同定リン酸塩鉱物と同種であるリン酸塩鉱物の標本のX線CT像を取得する工程と、
前記標本で取得されたX線CT像から輝度の強さと輝度の頻度に関するコントラストヒストグラムを作成し、前記同定リン酸塩鉱物に対応する輝度の強さを特定する工程と、
前記鉄鉱石粒子群の中から分析粒子を選び出し、前記分析粒子のX線CT像を取得する工程と、
前記分析粒子で取得されたX線CT像をもとに、前記分析粒子における同定リン酸塩鉱物に相当する輝度の強さを有する領域の体積を計測して、前記分析粒子中での前記同定リン酸塩鉱物の質量分率又は体積分率を求める工程と、
を備えることを特徴とする、鉄鉱石中に存在するリン酸塩鉱物の形態別定量分析方法。
(2)前記同定リン酸塩鉱物に対応する輝度の強さを特定する工程に先駆けて、前記標本の断面をSEM/EDS及び振動分光法で分析して、前記標本のX線CT像のコントラストから分析対象とするリン酸塩鉱物の輝度を特定する工程を有する、(1)に記載の鉄鉱石中に存在するリン酸塩鉱物の形態別定量分析方法。
(3)前記分析粒子中での同定リン酸塩鉱物の質量分率又は体積分率を求める工程において、前記標本で取得したX線CT像のコントラストヒストグラム、又は、前記分析粒子で取得したX線CT像のコントラストヒストグラムのいずれか一方を補正した上で、前記分析粒子のX線CT像における同定リン酸塩鉱物に相当する輝度の強さを有する領域を計測する、(1)又は(2)に記載のリン酸塩鉱物の形態別定量分析方法。
(4)前記参照粒子に含まれるリン酸塩鉱物を同定する工程において、前記参照粒子の断面を蛍光X線分析により元素分析した上で、SEM/EDS及び振動分光法により前記リン酸塩鉱物を同定する、(1)又は(2)に記載のリン酸塩鉱物の形態別定量分析方法。
(5)前記参照粒子に含まれるリン酸塩鉱物を同定する工程において、参照粒子を複数選び出し、前記複数の参照粒子の断面を有する集合粒子断面をもとに分析する、(1)又は(2)に記載のリン酸塩鉱物の形態別定量分析方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鉄鉱石中に含まれる量がごく僅かであり、しかも、鉄鉱石内で偏在しているリン酸塩鉱物について、その質量分率又は体積分率を正確に測定することができるようになる。特に、鉄鉱石中に存在するリン酸塩鉱物の質量分率や体積分率を測定するリン酸塩鉱物の形態別定量分析方法はこれまでに知られておらず、今後、低品位鉄鉱石の有効活用を実現していく上で、極めて有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施例1における参照粒子の外観を示す写真とEDSマップである(下段の枠囲は、上段の各図の位置を指し示すためのものである)。
図2図2は、実施例1におけるラマンスペクトルであり、上段はヒドロキシアパタイトの標準試薬の場合であり、下段は参照粒子におけるCa/P共存領域のものである。
図3図3は、実施例1においてX線CTにより取得されたヒドロキシアパタイト標本の3次元CT画像から作成したコントラストヒストグラムである。
図4図4は、実施例1における分析粒子のX線CT像である。
図5図5は、実施例1における本発明の方法で求めたヒドロキシアパタイトの質量分率とXRD測定で求めたヒドロキシアパタイトの質量分率とを比較したものである。
図6図6は、実施例2における参照粒子のμ-XRFによる元素分析結果であり、下段は上段の一部を拡大したものである。
図7図7は、実施例2における参照粒子のリン酸塩鉱物の近傍をSEM/EDSによって元素分析した結果である。
図8図8は、実施例2における参照粒子を顕微ラマンによって分析した結果である。
図9図9は、実施例2におけるYPO鉱物標本のコントラストヒストグラム、及び分析粒子のコントラストヒストグラムである。
図10図10は、YPO鉱物標本のコントラストヒストグラムと分析粒子のコントラストヒストグラムとを比較した一部拡大図である。
図11図11は、実施例2における分析粒子のX線CT像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明は、鉄鉱石中に存在するリン酸塩鉱物の質量分率又は体積分率を測定するリン酸塩鉱物の形態別定量分析方法であって、以下のi)~v)の工程を備えるものである。
i)分析対象となる鉄鉱石粒子群の中から参照粒子を選び出し、該参照粒子の断面をSEM/EDS及び振動分光法で分析して、参照粒子に含まれるリン酸塩鉱物を同定する工程、
ii)同定された同定リン酸塩鉱物と同種であるリン酸塩鉱物の標本のX線CT像を取得する工程、
iii)前記標本で取得されたX線CT像から輝度の強さと輝度の頻度に関するコントラストヒストグラムを作成し、同定リン酸塩鉱物に対応する輝度の強さを特定する工程、
iv)前記鉄鉱石粒子群のなかから分析粒子を選び出し、該分析粒子のX線CT像を取得する工程、及び、
v)前記分析粒子で取得されたX線CT像をもとに、同定リン酸塩鉱物に相当する輝度の強さを有する領域を計測して、分析粒子中での同定リン酸塩鉱物の質量分率又は体積分率を求める工程。
【0019】
本発明では、先ず、上記i)の工程において、分析対象となる鉄鉱石粒子群のなかから参照粒子を選び出し、元素の分布をEDS搭載の走査型電子顕微鏡(SEM/EDS)により分析する。対象とする元素は、例えば、Fe、Si、P、Ca、Alである。Na、Mg、Ti、Mn、レアアースなど、それ以外の元素についても、分析の対象とするリン酸塩鉱物や鉄鉱石が含有する鉱物相によって元素を選択する。
ここで、図1には、観察結果の一例が示されている。図中の上段左(1)は、参照粒子を樹脂包埋して断面を研磨した研磨面を示す写真であり、同上段中央(2)は、研磨面におけるひとつの粒子〔(1)で矢印を付したもの〕のSEM像(倍率30倍)である。また、同上段右(3)、下段左(4)、下段中央(5)、及び下段右(6)は、(2)の粒子断面のEDS相解析結果(EDSマップ)を示し、(3)はCa元素、(4)はP元素、(5)はFe元素、及び(6)はSi元素のものである。この参照粒子では、(5)のFeのほかに、(3)のCaと(4)のPの共存(図中にそれぞれ白丸で示した領域)が確認される。(6)のSiはその存在が確認されていない。
【0020】
上記のようにして、SEM/EDSにより含有元素の分析を行った後、上記i)の工程では、リン酸塩鉱物を構成する元素を有する領域について、振動分光法の分析を行う。この振動分光法としては、分析対象に電磁波を照射して、その透過又は反射光を分光してスペクトルを得ることで、分子構造を解析することができるものであればよく、代表的には、ラマン分光法やフーリエ変換赤外分光法等を挙げることができるが、鉄鉱石中のリン酸塩鉱物を分析する観点から、好ましくは、ラマン分光法又はフーリエ変換赤外分光法であるのがよく、最も好ましくはラマン分光法である。
【0021】
先の例では、粒子断面でCaとPの共存が確認されたCa/P共存領域(図中の白丸部分)について、ラマンスペクトル測定を実施した結果が図2に示されている。図2において、上段のスペクトルは、ヒドロキシアパタイト(Hydroxyapatite)〔Ca5(PO4)3(OH)〕の標準試薬を測定したものである。下段のスペクトルは、参照粒子のCa/P共存領域を測定したものであり、両者が一致していることから、この参照粒子に含まれるリン酸塩鉱物はヒドロキシアパタイトであると同定される。
【0022】
ちなみに、ラマン分光スペクトルは赤外線吸収スペクトルに比べて標準スペクトルの公開数は圧倒的に少なく、特にリン酸塩鉱物に関して、これを同定するための標準スペクトルが整備されていない。そのため、本発明では、SEM/EDSによる元素分析の結果を受けて、含有元素からリン酸塩鉱物を推測する。この例では、CaとPからなる鉱物としてヒドロキシアパタイトであると推測して(ヒドロキシアパタイトは鉄鉱石中でCaとPからなるリン酸塩鉱物の代表例である)、ヒドロキシアパタイトの市販の標準試薬でラマン分光スペクトルを測定した上で、参照粒子でも測定して鉄鉱石粒子に含まれたリン酸塩鉱物を同定する。なお、鉄鉱石中に存在するリン酸塩鉱物としては、上記のようなヒドロキシアパタイトのほか、後述する実施例で示したゼノタイム(Xenotime)(YPO4)や藍鉄鉱(Vivianite)(Fe3(PO4)2・8H2O)、銀星石(Wavellite)(Al3(PO4)2(OH,F)3・5H2O)等が代表的に知られているが、本発明で対象とするリン酸塩鉱物はこれらに制限されない。特に、X線CTで取得されるコントラストヒストグラムにおいて、対象となるリン酸塩鉱物の輝度領域が重複しない限り、参照粒子や分析粒子に存在する鉱物相の数が一致しなくても、リン酸塩鉱物の同定は可能である。
【0023】
ここで、i)の工程で試料とする参照粒子については、分析対象となる鉄鉱石粒子群のなかから任意に選び出したものである。一般に、製鉄プロセスで使用される鉄鉱石は5mm以下の粉状になった粉鉱石(鉄鉱石粒子)が主体であり、それを配合して少量の石灰粉と混ぜて、一定の大きさに焼き固めて焼結鉱とする。そのため、分析対象となる鉄鉱石粒子の多くは5mm以下程度のものである。このような鉄鉱石粒子のひとつで断面をSEM/EDSにて観察することも理論上は可能であるが、鉄鉱石中に含まれるリン酸塩鉱物は僅かであるため、リン酸塩鉱物が存在する断面を見つけ出すのが容易でない。
【0024】
そのため、先の図1(1)のように複数の参照粒子を選び出し、好ましくは、1~3mm程度の参照粒子を少なくとも50個程度選んで、それらを樹脂包埋し、その断面を研磨して試料を形成するようにして、複数の参照粒子の断面を有する集合粒子断面をもとにi)の工程を行うのがよい。より具体的には、この集合粒子断面のうち、参照粒子の断面の合計面積が400mm以上となるようにするのが好ましい。これにより、より確実にリン酸塩鉱物が存在する参照粒子の断面を観察することができる。このような2次元観察でリン酸塩鉱物を捉える確率が上がることからすれば、参照粒子の断面の合計面積が大きい方がより望ましいことは勿論であるが、実際の測定での手間や作業性等を考慮すると、この合計面積は1200mm程度が実質的な上限である。また、このi)の工程では、一般的な測定と同様、予め、SEMにより樹脂埋めされた参照粒子の断面の反射電子像等を得た上で、参照粒子の位置を特定してEDSによる元素分析を行うようにすることができる。
【0025】
次に、ii)の工程では、i)の工程で同定された同定リン酸塩鉱物と同種であるリン酸塩鉱物の標本のX線CT像を取得する。X線CTは、分析対象内をX線が透過する際の透過のし易さや吸収され易さの違いを利用して、分析対象を構成する材質やその構造を調べるものである。このii)の工程は、i)の工程で同定された同定リン酸塩鉱物がX線をどの程度透過するか(吸収するか)を把握するために行うものであり、後述するiv)の工程において、実際に分析粒子のX線CT像を取得して、分析粒子内に同定リン酸塩鉱物がどの程度含まれているかを正しく評価できるようにする。但し、X線CTは材料密度の影響を受け易く、それにより像の空間分解能、視野、コントラストが変化する。そのため、本発明では、ii)工程とiv)工程でのX線CT像の取得条件を揃えるようにして、なかでも、評価材(ここでは分析粒子)と標準物質(ここでは鉱物標本)のサイズ、及び測定条件(特に入射X線の電圧や出力、像の空間分解能)については、評価材(ここでは分析粒子)と標準物質(ここでは鉱物標本)とで測定条件ができるだけ同じになるようにするのがよい。
【0026】
ここで、ii)の工程で使用するリン酸塩鉱物の標本とは、天然鉱物から採取されたものを用いることができる。なかでも好ましくは、ほぼ単相で塊状のものであり、なおかつ鉱物標本として市販のものであるのがよい。特に制限はないが、例えば、一般の鉱物標本・隕石標本販売の専門店より入手可能である。先の例で言えば、ヒドロキシアパタイトの標本であり、このような標本として、好適には、その名称が水酸燐灰石、若しくは(ハイドロキシ)アパタイトと記載のもので、評価材である分析粒子と同等のサイズ、及び形状であるのがよい。
【0027】
次いで、iii)の工程では、ii)工程のX線CTで取得された標本のX線CT像をもとに、輝度の強さと輝度の頻度に関するコントラストヒストグラムを作成して、同定リン酸塩鉱物に対応する輝度の強さを特定する。先に述べたように、分析対象を構成する材質によりX線の透過や吸収に違いがあり、X線CTでは、その違いに応じた輝度に基づき3次元CT画像(グレイスケール画像)が形成される。そこで、X線CTに付属の画像解析ソフト等を用いて、3次元CT画像を構成するボクセルに入力されている輝度を読み上げていき、輝度の強さを横軸に取り、輝度の頻度を縦軸に取ってコントラストヒストグラムを作成する。
【0028】
図3には、ii)及びiii)工程として、X線CTにより得られた天然のヒドロキシアパタイトの鉱物相からなる標本(鉱物標本)の3次元CT画像について、画像解析ソフトを用いて輝度の強さを横軸に取り、輝度の頻度を縦軸に取って作成したコントラストヒストグラムが示されている。この図3において、ほぼ中央にあるピークがヒドロキシアパタイトの鉱物相を透過したX線が表すものである。その左側にあるピークは、X線が大気を通過しただけのものである。このようなコントラストヒストグラムを作成した場合には、鉱物相のピークは大気を通過したピークよりも常に輝度が明るくなる。
【0029】
上記のように、図3のコントラストヒストグラムにおいて、輝度の強さ(横軸)の30000~40000の領域がヒドロキシアパタイトに相当するものと特定される。この領域については、後のv)工程において、実際の分析粒子における同定リン酸塩鉱物の計測に用いられることから、その決定にあたっては、後述のiv)工程で測定した分析粒子の3次元CT画像をもとに、v)工程で上記と同様のコントラストヒストグラムを作成した際に、同定リン酸塩鉱物(この場合にはヒドロキシアパタイト)に相当するピークと一致するように決めることができる。或いは、ヒドロキシアパタイトに相当するピーク位置を中心として、その両側にある2点の変曲点で挟まれた領域をヒドロキシアパタイトに相当する輝度の強さの領域と決めてもよい。具体的には、図3の例において、ヒドロキシアパタイトのピークよりも輝度が大きい側の2回微分が負になる点(すなわち輝度の強さ=32000)と、同ピークよりも輝度が小さい側の2回微分が正になる点(すなわち輝度の強さ=36000)とで挟まれた領域(32000~36000)がヒドロキシアパタイトの信号であるとして決定してもよい。更には、同定リン酸塩鉱物に相当するピークの半値幅を選択して、それに相当するものを輝度の強さの領域としてもよい。
【0030】
ここで、iii)工程で同定リン酸塩鉱物に対応する輝度の強さを特定するにあたり、鉱物標本の断面をSEM/EDS及び振動分光法で分析した上で、鉱物標本のX線CT像のコントラストから分析対象とするリン酸塩鉱物の輝度を特定するようにしてもよい。鉱物標本に複数の鉱物相が含まれているような場合など、どの領域が同定リン酸塩鉱物に対応するかをより確実に決めることができる。
【0031】
次に、iv)の工程では、分析対象となる鉄鉱石粒子群のなかから分析粒子を選び出して、X線CT像を取得する。ここでの分析粒子は、先のi)工程で選び出される参照粒子と採取場所や採取時期が一緒の同銘柄のものである。i)工程では、SEM/EDSや振動分光法の分析のために断面を形成する必要があるが、このiv)工程では、非破壊で分析粒子となる鉄鉱石粒子のX線CT像を取得することができる。そのため、1つの分析粒子でX線CT像を取得すればよいが、分析粒子を複数選択してそれぞれX線CT像を取得し、後述するv)工程で得られる同定リン酸塩鉱物の質量分率を平均値等として求めるようにしてもよい。そして、このiv)工程におけるX線CT像の取得は、対象となる試料の違いを除いて、先のii)工程でのX線CT像の取得と同じ条件で行うようにすればよい。
【0032】
次いで、v)の工程では、iv)工程のX線CTにより得られた分析粒子の3次元CT画像をもとに、同定リン酸塩鉱物に相当する輝度の強さを有する領域を計測して、分析粒子中での同定リン酸塩鉱物の質量分率を求めるようにする。この分析粒子の3次元CT画像は、先のiii)工程で求める3次元CT画像と分解能等を揃えておくようにすればよい。そして、このv)の工程では、X線CTに付属の画像解析ソフト等を用いて、分析粒子の3次元CT画像から、iii)工程で求めた同定リン酸塩鉱物に対応する輝度の強さを有する領域を判別する。その際、iii)工程の場合と同様に、分析粒子の3次元CT画像から輝度の強さと輝度の頻度に関するコントラストヒストグラムを作成してもよく、コントラストヒストグラムを作成せずに、分析粒子における同定リン酸塩鉱物に相当する領域を求めるようにしてもよい。
【0033】
ここで、図4には、先の例における分析粒子のCT像が示されている。このCT像では、ヒドロキシアパタイトに相当する領域がマッピングされており、実際にはヒドロキシアパタイトの領域が赤で示され、酸化鉄を含んだその他の鉱物相が水色で示されている(図4上段は実際のCT像であり、下段はヒドロキシアパタイトの領域を示した説明図である)。この図4では、iii)の工程で求めたヒドロキシアパタイトに相当する輝度の強さの領域、具体的には、ヒドロキシアパタイトのピーク両側にある2点の変曲点で挟まれた領域の輝度の強さ(32000~36000)に相当するものをヒドロキシアパタイトとし、それ以外については酸化鉄を含んだその他の鉱物相として判別している。
【0034】
また、分析粒子中での同定リン酸塩鉱物の質量分率又は体積分率を求めるにあたり、標本で取得したX線CT像のコントラストヒストグラム、又は、分析粒子で取得したX線CT像のコントラストヒストグラムのいずれか一方を補正した上で、分析粒子のX線CT像における同定リン酸塩鉱物に相当する輝度の強さを有する領域を計測するようにしてもよい。先に述べたように、X線CTは材料密度の影響を受け易く、それにより、像の空間分解能や視野、コントラストが変化することがある。そのため、X線CT像を取得する際に、標本と分析粒子との間でサイズや形状等に違いがあるようなときには、ベースラインを合わせるような補正を行うのがよい。例えば、各スペクトルにおける試料と空間の境界の輝度が等しくなるようにスペクトルを平行移動させて補正を行うことで輝度の補正が可能である。
【0035】
このように、分析粒子のX線CTにより、分析粒子1つに含まれる同定リン酸塩鉱物の体積を測定し、同定リン酸塩鉱物の体積にその密度を掛けることで、分析粒子1つが含有する同定リン酸塩鉱物の質量を算出することができる。例えば、X線CTで測定した分析粒子1つの質量を求めて、同定リン酸塩鉱物の質量を分析粒子1つの質量で除することで、分析粒子中での同定リン酸塩鉱物の質量分率を求めることができる。その他、分析粒子中での同定リン酸塩鉱物の質量分率を求める方法として、鉄鉱石粒子中に含まれるリン酸塩鉱物以外の鉱物相が単一であれば、リン酸塩鉱物とそれ以外の鉱物相の体積分率をCT画像処理により求め、これらの値に各鉱物相の密度を乗じて、分析粒子中での同定リン酸塩鉱物の質量分率を求める方法を使用してもよい。また、上記で得た同定リン酸塩鉱物の体積から、分析粒子1つが含有する同定リン酸塩鉱物の体積分率を求めるようにしてもよいことは勿論である。
【0036】
本発明では、先のi)工程において、参照粒子の断面を蛍光X線分析により元素分析した上で、SEM/EDS及び振動分光法によりリン酸塩鉱物を同定するようにしてもよい。蛍光X線分析では、比較的大面積の元素分析が可能であることから、EDSでの観察に先駆けて、予め、参照粒子の断面を蛍光X線分析で元素分析しておき(スクリーニングしておき)、リン酸塩鉱物の構成元素が検出された領域について、上述したようなEDS及び振動分光法による分析を行うようにする。これにより、参照粒子に含まれるリン酸塩鉱物を同定する時間や手間を大幅に削減することができる。このような蛍光X線分析としては、例えば、微小部蛍光X線分析(μ-XRF)等を挙げることができる。
【実施例0037】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの内容に制限されない。
【0038】
(実施例1)
この実施例1では、以下のi)~v)の工程により、鉄鉱石中に存在するリン酸塩鉱物の質量分率を測定した。
i)分析対象となる鉄鉱石粒子群の中から参照粒子を選び出し、その参照粒子の断面をμ-XRFにより元素分析し、次いで、リン酸塩鉱物を構成する元素が検出された領域について、SEM/EDS及び振動分光法で分析して、参照粒子に含まれるリン酸塩鉱物を同定する工程、
ii)同定された同定リン酸塩鉱物と同種であるリン酸塩鉱物の標本のX線CT像を取得する工程、
iii)ii)のX線CTで取得された標本の3次元CT画像から輝度の強さと輝度の頻度に関するコントラストヒストグラムを作成し、同定リン酸塩鉱物に対応する輝度の強さを特定する工程、
iv)鉄鉱石粒子群の中から分析粒子を選び出し、その分析粒子のX線CT像を取得する工程、及び、
v)iv)のX線CTで取得された分析粒子の3次元CT画像をもとに、同定リン酸塩鉱物に相当する輝度の強さを有する領域を計測して、分析粒子中での同定リン酸塩鉱物の質量分率を求める工程。
【0039】
i)の工程では、銘柄X1の鉄鉱石粒子のなかから、大きさが1~3mm程度の鉄鉱石粒子60個程度を選び出して、参照粒子とした。これらの参照粒子を樹脂で樹脂包埋して、断面を形成し、それを研磨することで、複数の参照粒子の断面を含む集合粒子断面を有した試料を準備した。この集合粒子断面のうち、参照粒子の断面の合計面積はおよそ500mm程度であった。
【0040】
上記試料について、μ-XRF分析を行った。μ-XRF分析の条件は、管電圧30kV、スポット径100μm、測定時間500s/フレーム、積算回数50回、画素数256である。これによりCaとPが共存する領域の存在が示唆されたことから、その領域についてEDS分析を行った。その際、加速電圧15kV又は5kVであり、低真空モード30Paの条件とした。結果は、先の図1に示したとおりであり、CaとPが共存するCa/P共存領域が確認された。
【0041】
次いで、このCa/P共存領域について、ラマン分光法による分析を行った。その際の分析条件は、励起レーザー波長488nm又は532nm、レーザー出力0.01mW、グレーディング600gr/mm、対物レンズ×20、露光時間60sとした。結果は、先の図2に示したとおりである。上述したように、上段のスペクトルは、ヒドロキシアパタイトの標準試薬を測定したものであり、下段のスペクトルは、参照粒子のCa/P共存領域を測定したものである。これらのスペクトルが一致していることから、この参照粒子に含まれるリン酸塩鉱物はヒドロキシアパタイトであると同定された。
【0042】
次に、ii)の工程として、i)の工程で同定された同定リン酸塩鉱物と同種であるリン酸塩鉱物の標本のX線CT像を取得した。使用したリン酸塩鉱物の標本はブラジル産ハイドロキシアパタイトである。X線CT像の取得では、電圧140kV、出力10Wの入射X線を標本に照射し、標本の深さ方向へCT像を複数枚撮影するようにして、1600枚の透過像を再構成してピクセルサイズ10μmの3次元CT画像を得た。
【0043】
次いで、iii)の工程において、ii)工程のX線CTで取得された標本の3次元CT画像をもとに、画像解析ソフトを用いて、輝度の強さと輝度の頻度に関するコントラストヒストグラムを作成した。結果は、先の図3に示したとおりである。輝度の強さ(横軸)が30000~40000の領域に現れたピークがヒドロキシアパタイトに相当するものであり、このピークよりも輝度が大きい側の2回微分が負になる点(輝度の強さ=32000)と、同ピークよりも輝度が小さい側の2回微分が正になる点(輝度の強さ=36000)とで挟まれた輝度の強さ=32000~36000の領域がヒドロキシアパタイトに相当するものであるとした。
【0044】
次に、iv)の工程として、分析対象となる鉄鉱石粒子群のなかから分析粒子1つを選び出し、X線CT像を取得した。その際のX線CT像取得の取得条件はii)工程での場合と同様とし、リン酸塩鉱物標本粒子と大きさ及び形状が同程度のものを分析粒子として選択し、分析粒子の深さ方向へCT像を複数枚撮影するようにしながら、1600枚の透過像を再構成してピクセルサイズ10μmの3次元CT画像を得た。
【0045】
次いで、v)の工程において、先のiv)工程のX線CTで取得された分析粒子の3次元CT画像をもとに、同定リン酸塩鉱物であるヒドロキシアパタイトに相当する輝度の強さを有する領域を特定した。図面は省略しているが、この実施例では、iv)工程のX線CTで取得された3次元CT画像からもiii)工程の標本の場合と同様にコントラストヒストグラムを作成しており、ヒドロキシアパタイトに相当するピークが同じ形状で現れたことを確認している。
【0046】
そこで、分析粒子の3次元CT画像について、X線CTに付属の画像解析ソフトを用いて、輝度の強さ=32000~36000の領域に相当するものをヒドロキシアパタイトとし、それ以外は酸化鉄を含んだその他の鉱物相として判別した。先に説明したように、図4には、分析粒子のCT像のひとつが示されている。この例のように、CT画像1枚におけるヒドロキシアパタイトの面積にピクセルサイズを乗じて、深さ方向の撮影枚数で合計していくことで、分析粒子1つに含まれるヒドロキシアパタイトの体積を求めることができ、その体積にヒドロキシアパタイトの密度を掛ければ、分析粒子1つが含有するヒドロキシアパタイトの質量が算出される。加えて、X線CT像を取得した分析粒子1つの質量を求めて、ヒドロキシアパタイトの質量を分析粒子1つの質量で除することで、分析粒子中でのヒドロキシアパタイトの質量分率を求めることができる。
【0047】
図5には、上記のようにして求めた分析粒子中でのヒドロキシアパタイトの質量分率を示している。ヒドロキシアパタイト以外は、酸化鉄とその他の鉱物相(脈石)としている。また、この結果の妥当性を評価するために、図5では、実際にX線CT像を取得した分析粒子を粉末にしてXRDを測定し、ヒドロキシアパタイトの質量分率を求めた結果を併せて示している。このXRD測定は、ディフラクトメータ法、CoKα線、回折角度10-140°、Δ2θは0.04、スキャンスピードは1°/minとした。また、ヒドロキシアパタイトの同定、及び質量分率の算出はリートベルト解析を用いた。これらの結果から分かるように、両者によるヒドロキシアパタイトの質量分率はほぼ類似した値を示した。
【0048】
(実施例2)
実施例1の場合と同様に、先のi)~v)の工程により、鉄鉱石中に存在するリン酸塩鉱物の体積分率を測定した。
【0049】
先ず、i)の工程では、銘柄X2の鉄鉱石粒子のなかから、大きさが1~3mm程度の鉄鉱石粒子60個程度を選び出して、参照粒子とした。これらの参照粒子を樹脂で樹脂包埋して、断面を形成し、それを研磨することで、複数の参照粒子の断面を含む集合粒子断面を有した試料を準備した。この集合粒子断面のうち、参照粒子の断面の合計面積はおよそ500mm程度であった。
【0050】
上記試料について、μ-XRF分析を行った。μ-XRF分析の条件は、管電圧30kV、スポット径100μm、測定時間500s/フレーム、積算回数50回、画素数256である。図6には、μ-XRFによる参照粒子の元素分析結果が示されている。この図6では、YとPが共存するY/P共存領域が確認され、参照粒子内にはYが含まれるリン酸塩鉱物の存在が推測された。また、図7には、μ-XRFで観察されたリン酸塩鉱物の近傍をSEM/EDSによって元素分析した結果が示されており、更に、図8には、同じく顕微ラマンによって分析した結果が示されている。これら図7及び8によれば、参照粒子内のリン酸塩鉱物(図7における明視野部分)はゼノタイム(Xenotime)(YPO4)であり、参照粒子を構成する鉱物相はヘマタイト(Hematite)(α-Fe2O3)であることが分かった。
【0051】
ここで、SEM/EDS分析は、加速電圧15kV、低真空モード30Paの各条件としており、図7では、SEM画像中に示した各点での分析結果から参照粒子を構成する各成分の割合が示されている。
【0052】
一方、顕微ラマンの分析条件は、励起レーザー波長532nm、レーザー出力0.01mW、グレーディング600gr/mm、対物レンズ×20、露光時間60sとした。図8には、2次元ラマンイメージ(上段左)と光学顕微鏡画像(下段左)が示されており、上段右には、2次元ラマンイメージでY/P共存領域と推測される部分(実際には赤色で表示された部分)のラマンスペクトルが示されている。このラマンスペクトルのうち、上方は参照粒子のY/P共存領域を測定したものであり、下方はゼノタイム(Xenotime)(YPO4)の鉱物標本を測定したものである。これらはよく一致していることから、この参照粒子に含まれるリン酸塩鉱物はゼノタイムであると同定された。また、下段右には、2次元ラマンイメージでヘマタイト(Hematite)(α-Fe2O3)と推測された部分(実際には緑色で表示された部分)のラマンスペクトルが示されている。このうち、上方は参照粒子を測定したものであり、下方はヘマタイトの標準試薬を測定したものである。これらのスペクトルは一致していることから、参照粒子を構成する鉱物相はヘマタイトであると同定された。
【0053】
次に、ii)の工程として、i)の工程で同定された同定リン酸塩鉱物と同種であるリン酸塩鉱物の標本のX線CT像を取得した。使用したリン酸塩鉱物の標本はゼノタイムの鉱物標本である。X線CT像の取得では、電圧140kV、出力10Wの入射X線を標本に照射し、標本を0.225度ずつ回転させながら、各回転角におけるX線CT像を撮影するようにして、1600枚の透過像を再構成してピクセルサイズ10μmの3次元CT画像を得た。
【0054】
次いで、iii)の工程において、ii)工程のX線CTで取得された鉱物標本の3次元CT画像をもとに、画像解析ソフトを用いて、輝度の強さと輝度の頻度に関するコントラストヒストグラムを作成した。
次に、iv)の工程として、分析対象となる鉄鉱石粒子群のなかから分析粒子を選び出し、X線CT像を取得した。その際のX線CT像取得の取得条件はii)工程での場合と同様とし、分析粒子の深さ方向へCT像を複数枚撮影するようにしながら、1600枚の透過像を再構成してピクセルサイズ10μmの3次元CT画像を得た。但し、分析粒子は0.5~1mm程度の大きさを有するものであるため、複数の粒子を樹脂埋め込み加工して、そのうちの1つの分析粒子のX線CT像を取得したのに対し、ゼノタイムの鉱物標本(YPO4鉱物標本)は5mm程度の大きさを有する標本粒子であることから、樹脂埋め込みはせずに、そのままの状態で1つの標本粒子でX線CT像を取得した。得られた3次元CT画像をもとに、画像解析ソフトを用いて、輝度の強さと輝度の頻度に関するコントラストヒストグラムを作成した。これらの結果を図9に示す。
【0055】
図9には、iii)の工程で得られたゼノタイムの鉱物標本(YPO4鉱物標本)のコントラストヒストグラムと、iv)の工程で得られた分析粒子のコントラストヒストグラムとがまとめて示されている。図9中の点線がYPO鉱物標本のコントラストヒストグラムであり、一点鎖線が分析粒子のコントラストヒストグラムである。また、実線は、分析粒子のコントラストヒストグラムに補正を加えた後のコントラストヒストグラム(補正後コントラストヒストグラム)である。なお、図9の横軸は輝度の強さを表し、縦軸は輝度の頻度を表している。
【0056】
ここで、図9のYPO鉱物標本のスペクトルにおいて、輝度の頻度が10000付近に観測されたピークは外空間を表し、20000付近に観測されたピークはYPO鉱物標本に含まれたゼノタイム(YPO4)以外の物質に由来し、40000から70000のブロードなピークがゼノタイム(YPO4)である。そして、分析粒子とYPO鉱物標本の測定条件が異なることを考慮し、各スペクトルにおける試料と空間の境界の輝度が等しくなるようにスペクトルを平行移動させて補正を行った。
【0057】
詳しくは、図9に示されるように、YPO鉱物標本の境界輝度(分析試料ではない領域、気孔の場合も含まれる)は14500であり、分析粒子の境界輝度は22000であり、両者の輝度差は7500となる。そのため、分析粒子の輝度全体を-7500して補正した。ここで、分析粒子のヒストグラムにおける、試料ではない領域のピークが不明確なのは、測定条件によるものである。この実施例2では、先に述べたように測定条件は等しいものの、YPO鉱物標本と分析粒子とは試料形状が異なるため補正が必要であった。
【0058】
また、iii)の工程で得られたゼノタイムの鉱物標本(YPO4鉱物標本)のコントラストヒストグラムについて、図10には、YPO鉱物標本のコントラストヒストグラムと分析粒子のコントラストヒストグラムとを比較したものが示されている。ここでは、縦軸(輝度の強さ)を0~30000としている。これによれば、YPO鉱物標本のスペクトルにおいて、横軸(輝度の頻度)の35000付近に変化点があることが分かる。また、解析ソフトを用いた処理でX線CT像とスペクトルを比較すると、スペクトル上の35000~60000のピークと、X線CT像に示されるYPOとが一致していたことから、この実施例2では、YPO鉱物標本におけるYPOの閾値を35000~60000として、輝度の強さ=35000~60000の領域がゼノタイムに相当するものであるとした。
【0059】
次いで、v)の工程では、先のiv)工程で得られた分析粒子のコントラストヒストグラムをもとに、X線CTに付属の画像解析ソフトを用いて、輝度の強さ=35000~60000の領域に相当するものをゼノタイムとし、それ以外はヘマタイトのような酸化鉄を含んだその他の鉱物相として判別して、実施例1と同様にして分析粒子1つに含まれるゼノタイムの体積を求めた。そして、X線CT像を取得した分析粒子1つの体積をもとに、分析粒子中でのゼノタイムの体積分率を求めたところ、分析粒子全体に対するゼノタイムの体積分率は6.6%であった。なお、図11には、iv)工程で得られた分析粒子のCT像が示されている。このCT像では、ゼノタイムに相当する領域がマッピングされており、実際にはゼノタイムの領域が水色で示され、酸化鉄を含んだその他の鉱物相が青色で示されている。
【0060】
この実施例2に係る分析粒子を粉末にしてXRDを測定したが、ゼノタイムの含有量が少ないため、それを検出することができなかった。先の実施例1の分析粒子は、XRD測定でも十分検出が可能な大きさのリン酸塩鉱物を含んだものであったが、実施例2のように、鉄鉱石の銘柄によってはXRD測定では検出できない微細なリン酸塩鉱物を含有するものも存在する。そのような場合にも、本発明の方法によれば、従来技術では分析できないサイズのリン酸塩鉱物を含有した鉄鉱石であっても非破壊でそれを特定することができる。
図1
図2
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図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11