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特開2022-151814安定な水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物
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  • 特開-安定な水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151814
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】安定な水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/02 20060101AFI20220929BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20220929BHJP
   A61K 38/47 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 38/45 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 38/48 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220929BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20220929BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220929BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220929BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20220929BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20220929BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20220929BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20220929BHJP
   C12N 15/56 20060101ALN20220929BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
A61K38/02
A61K47/68 ZNA
A61K38/47
A61K38/45
A61K38/48
A61K9/08
A61K9/19
A61K47/34
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/18
A61K47/12
A61K39/395 N
A61K38/46
A61K47/22
A61P43/00
A61P25/00 101
A61K39/395 D
A61J1/05 311
C07K19/00
C07K16/28
C12N15/62 Z
C12N15/56
C12N15/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】43
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047297
(22)【出願日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2021049485
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000228545
【氏名又は名称】JCRファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128897
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 佳希
(74)【代理人】
【識別番号】100225118
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 慧
(72)【発明者】
【氏名】安川 秀仁
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 浩晃
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕加
(72)【発明者】
【氏名】岡部 真二
【テーマコード(参考)】
4C047
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C047AA05
4C047BB01
4C047BB03
4C047BB11
4C047BB12
4C047CC14
4C076AA12
4C076AA30
4C076AA95
4C076CC26
4C076CC41
4C076DD09
4C076DD23
4C076DD25Z
4C076DD26Z
4C076DD41Z
4C076DD43Z
4C076DD51Z
4C076DD58Z
4C076DD67
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF63
4C076FF70
4C076GG06
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA41
4C084CA18
4C084CA53
4C084DC02
4C084DC22
4C084DC25
4C084MA05
4C084MA17
4C084MA44
4C084NA03
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZA01
4C084ZC19
4C084ZC75
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA21
4C085BB11
4C085BB41
4C085BB43
4C085DD84
4C085EE01
4C085EE07
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045CA42
4H045DA76
4H045DA89
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】蛋白質を有効成分として含有してなる安定な水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物を提供すること。
【解決手段】生理活性を有する蛋白質,及び2種の非イオン性界面活性剤を含有してなる,水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物。例えば,該非イオン性界面活性剤がポリソルベート80及びポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールであり,更に,中性塩として塩化ナトリウム,二糖類としてスクロース,及び緩衝剤としてクエン酸緩衝剤を含むものである水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理活性を有する蛋白質,及び2種の非イオン性界面活性剤を含有してなる,水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物。
【請求項2】
中性塩,二糖類,及び緩衝剤の少なくとも一つを更に含有してなる,請求項1に記載の水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物。
【請求項3】
該非イオン性界面活性剤として,ポリソルベート及びポロキサマーを含むものである,請求項1又は2に記載の水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物。
【請求項4】
該ポリソルベートが,ポリソルベート20又はポリソルベート80であり,
該ポロキサマーが,ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール,ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール,ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール,ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール,ポリオキシエチレン(3)ポリオキシプロピレン(17)グリコール,ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール,及びポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)グリコールからなる群から選択されるものである,請求項3に記載の水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物。
【請求項5】
該ポリソルベートがポリソルベート80であり,該ポロキサマーがポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールである,請求項3に記載の水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物。
【請求項6】
該ポリソルベートの濃度が0.005~1.5mg/mLであり,該ポロキサマーの濃度が0.05~0.6mg/mLである,請求項3乃至5の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項7】
該ポリソルベートの濃度が0.025~1.0mg/mLであり,該ポロキサマーの濃度が0.1~0.5mg/mLである,請求項3乃至5の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項8】
該ポリソルベートの濃度が0.05~0.15mg/mLであり,該ポロキサマーの濃度が0.15~0.45mg/mLである,請求項3乃至5の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項9】
該中性塩が塩化ナトリウムである,請求項1乃至8の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項10】
該二糖類がトレハロース,スクロース,マルトース,乳糖,及びこれらの2種以上の組み合わせからなる群から選択されるものである,請求項1乃至9の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項11】
該緩衝剤がクエン酸緩衝剤,リン酸緩衝剤,グリシン緩衝剤,ヒスチジン緩衝剤,炭酸緩衝剤,酢酸緩衝剤,及びこれらの2種以上の組み合わせからなる群から選択されるものである,請求項1乃至10の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項12】
該中性塩の濃度が0.3~1.2mg/mLであり,該二糖類の濃度が50~100mg/mLであり,該緩衝剤の濃度が10~30mMであり,該ポリソルベートの濃度が0.005~1.5mg/mLであり,該ポロキサマーの濃度が0.1~0.6mg/mLである,請求項3乃至5の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項13】
該中性塩の濃度が0.5~1.0mg/mLであり,該二糖類の濃度が55~95mg/mLであり,該緩衝剤の濃度が15~25mMであり,該ポリソルベートの濃度が0.05~1.0mg/mLであり,該ポロキサマーの濃度が0.25~0.45mg/mLである,請求項3乃至5の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項14】
該中性塩の濃度が0.7~0.9mg/mLであり,該二糖類の濃度が60~90mg/mLであり,該緩衝剤の濃度が15~25mMであり,該ポリソルベートの濃度が0.05~0.15mg/mLであり,該ポロキサマーの濃度が0.25~0.45mg/mLである,請求項3乃至5の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項15】
pHが4.5~6.5である,請求項1乃至14の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項16】
pHが5.0~6.0である,請求項1乃至14の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項17】
pHが5.2~5.8である,請求項1乃至14の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項18】
該生理活性を有する蛋白質が,抗体とリソソーム酵素との融合蛋白質である,請求項1乃至17の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項19】
該融合蛋白質が,該リソソーム酵素が該抗体の軽鎖又は重鎖の何れかのC末端側又はN末端側の何れかにペプチド結合により結合したものである,請求項18に記載の水性医薬組成物。
【請求項20】
該融合蛋白質が,該リソソーム酵素が該抗体の重鎖のC末端側にペプチド結合により結合したものである,請求項18に記載の水性医薬組成物。
【請求項21】
該融合蛋白質が,該リソソーム酵素が該抗体の軽鎖又は重鎖の何れかのC末端側又はN末端側の何れかに,少なくとも1個のアミノ酸よりなるリンカーを介して結合したものである,請求項18に記載の水性医薬組成物。
【請求項22】
該融合蛋白質が,該リソソーム酵素が該抗体の重鎖のC末端側に少なくとも1個のアミノ酸よりなるリンカーを介して結合したものである,請求項18に記載の水性医薬組成物。
【請求項23】
該リンカーが,Gly-Ser,Gly-Gly-Ser,配列番号1,配列番号2,配列番号3,配列番号4,及びこれらのアミノ酸配列が2~10個連続してなるアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するものである,請求項21又は22に記載の水性医薬組成物。
【請求項24】
該リソソーム酵素が,ヒトリソソーム酵素である,請求項18乃至23の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項25】
該リソソーム酵素が,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB,N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリールスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ,N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1,6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1,トリペプチジルペプチダーゼ-1,ヒアルロニダーゼ-1,CLN1,及びCLN2からなる群から選択されるものである,請求項18乃至24の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項26】
該ヒトリソソーム酵素が,α-L-イズロニダーゼである,請求項24に記載の水性医薬組成物。
【請求項27】
該抗体が,ヒト抗体又はヒト化抗体である,請求項18乃至26の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項28】
該抗体が,Fab抗体,F(ab’)抗体,又はF(ab’)抗体である,請求項18乃至27の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項29】
該抗体が,血管内皮細胞の表面に存在する分子を抗原として認識するものである,請求項18乃至28の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項30】
該血管内皮細胞が,ヒトの血管内皮細胞である,請求項29に記載の水性医薬組成物。
【請求項31】
該血管内皮細胞が,脳血管内皮細胞である,請求項29又は30に記載の水性医薬組成物。
【請求項32】
該脳血管内皮細胞の表面に存在する分子が,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,IGF受容体,OATP-F,有機アニオントランスポーター,及びモノカルボン酸トランスポーターからなる群から選択されるものである,請求項31に記載の水性医薬組成物。
【請求項33】
該抗体が,ヒト化抗ヒトトランスフェリン受容体(hTfR)抗体である,請求項28に記載の水性医薬組成物。
【請求項34】
該抗体がFab抗体であるヒト化抗ヒトトランスフェリン受容体(hTfR)抗体であり,該ヒトリソソーム酵素がヒトα-L-イズロニダーゼであり,該融合蛋白質が該抗体と該ヒトα-L-イズロニダーゼとの融合蛋白質であるものであり,該融合蛋白質において,
該抗体の軽鎖が,配列番号22のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
該抗体の重鎖が,そのC末端側で,配列番号4で示されるアミノ酸配列を介して,ヒトα-L-イズロニダーゼと結合し,それにより配列番号27で示されるアミノ酸配列を形成しているものである,
請求項28に記載の水性医薬組成物。
【請求項35】
該抗体がFab抗体であるヒト化抗ヒトトランスフェリン受容体(hTfR)抗体であり,該ヒトリソソーム酵素がヒトα-L-イズロニダーゼであり,該融合蛋白質が該抗体と該ヒトα-L-イズロニダーゼとの融合蛋白質であるものであり,該融合蛋白質において,
該抗体の軽鎖が,配列番号22で示されるアミノ酸配列を含んでなり,且つ
該抗体の重鎖が,配列番号23で示されるアミノ酸配列を含んでなり,該重鎖が,そのC末端側で,配列番号4で示されるアミノ酸配列を介して,配列番号5又は配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するヒトα-L-イズロニダーゼと結合しているものである,
請求項28に記載の水性医薬組成物。
【請求項36】
ほう珪酸ガラス又は疎水性樹脂により形成された容器に封入されたものである,請求項1乃至35の何れかに記載の水性医薬組成物。
【請求項37】
該容器が,シクロオレフィンコポリマー,シクロオレフィン類開環重合体,又はシクロオレフィン類開環重合体に水素添加したものを用いて形成されたものである,請求項36に記載の水性医薬組成物。
【請求項38】
請求項6乃至35の何れかに記載の水性医薬組成物が凍結乾燥されたものである凍結乾燥医薬組成物。
【請求項39】
材質がほう珪酸ガラス又は疎水性樹脂を含むものである容器に封入されたものである,請求項38に記載の凍結乾燥医薬組成物。
【請求項40】
該容器の材質が,シクロオレフィンコポリマー,シクロオレフィン類開環重合体,又はシクロオレフィン類開環重合体に水素添加したものを含むものである,上記39に記載の凍結乾燥医薬組成物。
【請求項41】
2~8℃の温度で,且つ暗所で36ヶ月保存した後の重合体の含有比率が0.5%以下である,上記1~40の水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物。
【請求項42】
2~8℃の温度で,暗所で36ヶ月保存した後の重合体の含有比率及び分解物の含有比率が,それぞれ0.5%以下及び1%以下である,上記1~37の水性医薬組成物。
【請求項43】
2~8℃の温度で,暗所で36ヶ月保存した後の重合体の含有比率及び分解物の含有比率が,それぞれ0.5%以下及び0.1%以下である,上記39~41の凍結乾燥医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,生理活性を有する蛋白質,及び2種又はそれ以上の非イオン性界面活性剤を含有する,水性医薬組成物に関し,例えば,生理活性を有する蛋白質として抗体とリソソーム酵素とを結合させた融合蛋白質を,非イオン性界面活性剤としてポリソルベート80及びポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールを含有する水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質を有効成分として含有してなる医薬は,嘗ては,蛋白質の貯蔵安定性を考慮して凍結乾燥製剤(凍結乾燥医薬組成物)として供給されることが一般であった。現在では,イズロン酸-2-スルファターゼ,α-ガラクトシダーゼA,グルコセレブロシダーゼ,α-L-イズロニダーゼ-N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ等のリソソーム酵素,抗ヒトIL-6受容体抗体,抗ヒトPD-1抗体等の抗体,エリスロポエチン,ダルベポエチン,成長ホルモン等の,蛋白質を主剤として含有してなる医薬の多くが,水性医薬組成物の形態で製造,販売されている。水性医薬組成物は使用時における薬剤の溶解操作が不要であるので,凍結乾燥医薬組成物に比べて利便性が高い。但し,主剤として蛋白質を含有する医薬であっても,凍結乾燥医薬組成物として供給されているものも存在する。
【0003】
水性医薬組成物には,主剤である蛋白質の安定性を高めるために,あるいは当該蛋白質の容器への吸着を防止するため,非イオン性界面活性剤が添加されることが多い。かかる非イオン性界面活性剤としてはポリソルベート80等がある。例えば,ダルベポエチン又はアガルシダーゼを有効成分として含有してなる水性医薬組成物では,非イオン性界面活性剤としてポリソルベート80が添加されているものがある(非特許文献1,2)。また,成長ホルモンでは,非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールが添加されている水性医薬組成物がある(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ダルベポエチン アルファBS注5μgシリンジ「JCR」(2010)
【非特許文献2】アガルシダーゼ ベータBS点滴静注5mg「JCR」(2018)
【非特許文献3】グロウジェクト皮下注6 mg/グロウジェクト皮下注12 mg添付文書(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は,界面活性剤として,2種又はそれ以上の非イオン性界面活性剤を含有してなり,市場に流通させることが可能な程度に安定な,生理活性を有する蛋白質を有効成分として含有してなる水性医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的に向けた研究において,本発明者らは,生理活性を有する蛋白質が,スクロースと,2種の非イオン性界面活性剤とを賦形剤として含有する水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物の形態とすることで安定に保存できることを見出し,本発明を完成した。すなわち,本発明は以下を提供する。
1.生理活性を有する蛋白質,及び2種の非イオン性界面活性剤を含有してなる,水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物。
2.中性塩,二糖類,及び緩衝剤の少なくとも一つを更に含有してなる,上記1に記載の水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物。
3.該非イオン性界面活性剤として,ポリソルベート及びポロキサマーを含むものである,上記1又は2に記載の水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物。
4.該ポリソルベートが,ポリソルベート20又はポリソルベート80であり,
該ポロキサマーが,ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール,ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール,ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール,ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール,ポリオキシエチレン(3)ポリオキシプロピレン(17)グリコール,ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール,及びポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)グリコールからなる群から選択されるものである,上記3に記載の水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物。
5.該ポリソルベートがポリソルベート80であり,該ポロキサマーがポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールである,上記3に記載の水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物。
6.該ポリソルベートの濃度が0.005~1.5 mg/mLであり,該ポロキサマーの濃度が0.1~0.6 mg/mLであるか,又は該ポリソルベートの濃度が0.005~1.5 mg/mLであり,該ポロキサマーの濃度が0.05~0.6 mg/mLである,上記3乃至5の何れかに記載の水性医薬組成物。
7.該ポリソルベートの濃度が0.025~1.0 mg/mLであり,該ポロキサマーの濃度が0.2~0.5 mg/mLであるか,又は該ポリソルベートの濃度が0.025~1.0 mg/mLであり,該ポロキサマーの濃度が0.1~0.5 mg/mLである,上記3乃至5の何れかに記載の水性医薬組成物。
8.該ポリソルベートの濃度が0.05~0.15 mg/mLであり,該ポロキサマーの濃度が0.25~0.45 mg/mLであるか,又は該ポリソルベートの濃度が0.05~0.15 mg/mLであり,該ポロキサマーの濃度が0.15~0.45 mg/mLである,上記3乃至5の何れかに記載の水性医薬組成物。
9.該中性塩が塩化ナトリウムである,上記1乃至8の何れかに記載の水性医薬組成物。
10.該二糖類がトレハロース,スクロース,マルトース,乳糖,及びこれらの2種以上の組み合わせからなる群から選択されるものである,上記1乃至9の何れかに記載の水性医薬組成物。
11.該緩衝剤がクエン酸緩衝剤,リン酸緩衝剤,グリシン緩衝剤,ヒスチジン緩衝剤,炭酸緩衝剤,酢酸緩衝剤,及びこれらの2種以上の組み合わせからなる群から選択されるものである,上記1乃至10の何れかに記載の水性医薬組成物。
12.該中性塩の濃度が0.3~1.2 mg/mLであり,該二糖類の濃度が50~100 mg/mLであり,該緩衝剤の濃度が10~30 mMであり,該ポリソルベートの濃度が0.005~1.5 mg/mLであり,該ポロキサマーの濃度が0.1~0.6 mg/mLである,上記3乃至5の何れかに記載の水性医薬組成物。
13.該中性塩の濃度が0.5~1.0 mg/mLであり,該二糖類の濃度が55~95 mg/mLであり,該緩衝剤の濃度が15~25 mMであり,該ポリソルベートの濃度が0.05~1.0 mg/mLであり,該ポロキサマーの濃度が0.25~0.45 mg/mLである,上記3乃至5の何れかに記載の水性医薬組成物。
14.該中性塩の濃度が0.7~0.9 mg/mLであり,該二糖類の濃度が60~90 mg/mLであり,該緩衝剤の濃度が15~25 mMであり,該ポリソルベートの濃度が0.05~0.15 mg/mLであり,該ポロキサマーの濃度が0.25~0.45 mg/mLである,上記3乃至5の何れかに記載の水性医薬組成物。
15.pHが4.5~6.5である,上記1乃至14の何れかに記載の水性医薬組成物。
16.pHが5.0~6.0である,上記1乃至14の何れかに記載の水性医薬組成物。
17.pHが5.2~5.8である,上記1乃至14の何れかに記載の水性医薬組成物。
18.該生理活性を有する蛋白質が,抗体とリソソーム酵素との融合蛋白質である,上記1乃至17の何れかに記載の水性医薬組成物。
19.該融合蛋白質が,該リソソーム酵素が該抗体の軽鎖又は重鎖の何れかのC末端側又はN末端側の何れかにペプチド結合により結合したものである,上記18に記載の水性医薬組成物。
20.該融合蛋白質が,該リソソーム酵素が該抗体の重鎖のC末端側にペプチド結合により結合したものである,上記18に記載の水性医薬組成物。
21.該融合蛋白質が,該リソソーム酵素が該抗体の軽鎖又は重鎖の何れかのC末端側又はN末端側の何れかに,少なくとも1個のアミノ酸よりなるリンカーを介して結合したものである,上記18に記載の水性医薬組成物。
22.該融合蛋白質が,該リソソーム酵素が該抗体の重鎖のC末端側に少なくとも1個のアミノ酸よりなるリンカーを介して結合したものである,上記18に記載の水性医薬組成物。
23.該リンカーが,Gly-Ser,Gly-Gly-Ser,配列番号1,配列番号2,配列番号3,配列番号4,及びこれらのアミノ酸配列が1~10個連続してなるアミノ酸配列からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するものである,上記21又は22に記載の水性医薬組成物。
24.該リソソーム酵素が,ヒトリソソーム酵素である,上記18乃至23の何れかに記載の水性医薬組成物。
25.該リソソーム酵素が,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB-N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリールスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼ,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ-N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1-6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1,トリペプチジルペプチダーゼ-1,ヒアルロニダーゼ-1,CLN1,及びCLN2からなる群から選択されるものである,上記18乃至24の何れかに記載の水性医薬組成物。
26.該ヒトリソソーム酵素が,α-L-イズロニダーゼである,上記24に記載の水性医薬組成物。
27.該抗体が,ヒト抗体又はヒト化抗体である,上記18乃至26の何れかに記載の水性医薬組成物。
28.該抗体が,Fab抗体,F(ab’)2抗体,又はF(ab’)抗体である,上記18乃至27の何れかに記載の水性医薬組成物。
29.該抗体が,血管内皮細胞の表面に存在する分子を抗原として認識するものである,上記18乃至28の何れかに記載の水性医薬組成物。
30.該血管内皮細胞が,ヒトの血管内皮細胞である,上記29に記載の水性医薬組成物。
31.該血管内皮細胞が,脳血管内皮細胞である,上記29又は30に記載の水性医薬組成物。
32.該脳血管内皮細胞の表面に存在する分子が,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,IGF受容体,OATP-F,有機アニオントランスポーター,及びモノカルボン酸トランスポーターからなる群から選択されるものである,上記31に記載の水性医薬組成物。
33.該抗体が,ヒト化抗ヒトトランスフェリン受容体(hTfR)抗体である,上記28に記載の水性医薬組成物。
34.該抗体がFab抗体であるヒト化抗ヒトトランスフェリン受容体(hTfR)抗体であり,該ヒトリソソーム酵素がヒトα-L-イズロニダーゼであり,該融合蛋白質が該抗体と該ヒトα-L-イズロニダーゼとの融合蛋白質であるものであり,該融合蛋白質において,
(1)該抗体の軽鎖が,配列番号22のアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(2)該抗体の重鎖が,そのC末端側で,配列番号4で示されるアミノ酸配列を介して,ヒトα-L-イズロニダーゼと結合し,それにより配列番号27で示されるアミノ酸配列を形成しているものである,
上記28に記載の水性医薬組成物。
35.該抗体がFab抗体であるヒト化抗ヒトトランスフェリン受容体(hTfR)抗体であり,該ヒトリソソーム酵素がヒトα-L-イズロニダーゼであり,該融合蛋白質が該抗体と該ヒトα-L-イズロニダーゼとの融合蛋白質であるものであり,該融合蛋白質において,
(1)該抗体の軽鎖が,配列番号22で示されるアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(2)該抗体の重鎖が,配列番号23で示されるアミノ酸配列を含んでなり,該重鎖が,そのC末端側で,配列番号4で示されるアミノ酸配列を介して,配列番号5又は配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するヒトα-L-イズロニダーゼと結合しているものである,
上記28に記載の水性医薬組成物。
36.ほう珪酸ガラス又は疎水性樹脂により形成された容器に封入されたものである,上記1乃至35の何れかに記載の水性医薬組成物。
37.該容器が,シクロオレフィンコポリマー,シクロオレフィン類開環重合体,又はシクロオレフィン類開環重合体に水素添加したものを用いて形成されたものである,上記36に記載の水性医薬組成物。
38.上記1乃至35の何れかに記載の水性医薬組成物が凍結乾燥されたものを含む医薬組成物。
39.材質がほう珪酸ガラス又は疎水性樹脂を含むものである容器に封入されたものである,上記38に記載の凍結乾燥医薬組成物。
40.該容器の材質が,シクロオレフィンコポリマー,シクロオレフィン類開環重合体,又はシクロオレフィン類開環重合体に水素添加したものを含むものである,上記39に記載の凍結乾燥医薬組成物。
41.2~8℃の温度で,暗所で36ヶ月保存した後の重合体の含有比率が,0.5%以下である,上記1~40の水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物。
42.2~8℃の温度で,暗所で36ヶ月保存した後の重合体の含有比率及び分解物の含有比率が,それぞれ0.5%以下及び1%以下である,上記1~37の水性医薬組成物。
42.2~8℃の温度で,暗所で36ヶ月保存した後の重合体の含有比率及び分解物の含有比率が,それぞれ0.5%以下及び0.1%以下である,上記39~41の凍結乾燥医薬組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば,生理活性を有する蛋白質を有効成分として含有し,市場に流通させることが可能な程度に安定な水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】振盪24時間後の水性医薬組成物(処方A~C)中に含まれる単位液量(200 μL)当たりの粒子数の測定値を示す図。黒棒は粒径10 μm未満の粒子数を,白棒は粒径10 μm以上の粒子数をそれぞれ示す。縦軸は粒子数(個/200 μL)を,横軸はポロキサマー188の濃度(mg/mL)をそれぞれ示す。
図2】振盪24時間後の水性医薬組成物(処方A~C)中におけるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体の含有率を示す図。縦軸は重合体の含有率(%)を,横軸はポロキサマー188の濃度(mg/mL)をそれぞれ示す。
図3】振盪24時間後の水性医薬組成物(処方A~C)中におけるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの分解物の含有率を示す図。縦軸は重合体の含有率(%)を,横軸はポロキサマー188の濃度(mg/mL)をそれぞれ示す。
図4】振盪24時間後の水性医薬組成物(処方D~I)中に含まれる単位液量(200 μL)当たりの粒子数の測定値を示す図。黒棒は粒径10 μm未満の粒子数を,白棒は粒径10 μm以上の粒子数をそれぞれ示す。縦軸は粒子数(個/200 μL)を,横軸はポリソルベート80の濃度(mg/mL)をそれぞれ示す。
図5】振盪24時間後の水性医薬組成物(処方D~I)中におけるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体の含有率を示す図。縦軸は重合体の含有率(%)を,横軸はポリソルベート80の濃度(mg/mL)をそれぞれ示す。
図6】振盪24時間後の水性医薬組成物(処方D~I)中におけるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの分解物の含有率を示す図。縦軸は重合体の含有率(%)を,横軸はポリソルベート80の濃度(mg/mL)をそれぞれ示す。
図7】振盪24時間後の水性医薬組成物(処方J~N)中に含まれる単位液量(200 μL)当たりの粒子数の測定値を示す図。黒棒は粒径10 μm未満の粒子数を,白棒は粒径10 μm以上の粒子数をそれぞれ示す。縦軸は粒子数(個/200 μL)を,横軸はポリソルベート80の濃度(mg/mL)をそれぞれ示す。
図8】振盪24時間後の水性医薬組成物(処方J~N)中におけるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体の含有率を示す図。縦軸は重合体の含有率(%)を,横軸はポリソルベート80の濃度(mg/mL)をそれぞれ示す。
図9】振盪24時間後の水性医薬組成物(処方J~N)中におけるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの分解物の含有率を示す図。縦軸は重合体の含有率(%)を,横軸はポリソルベート80の濃度(mg/mL)をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は,生理活性を有する蛋白質を有効成分とする医薬の,溶液状態又は凍結乾燥状態で貯蔵安定な医薬組成物に関するものである。ここで,生理活性を有する蛋白質には,抗体と生理活性物質とを結合させた蛋白質が含まれる。このとき生理活性物質と結合させる抗体は,抗原に特異的に結合する性質を有するものである限り,抗体の動物種等に特に制限はないが,特にヒト抗体又はヒト化抗体である。例えば,抗体は,ヒト以外の哺乳動物の抗体であってもよく,またヒト抗体とヒト以外の他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体であってもよい。
【0010】
ヒト抗体は,その全体がヒト由来の遺伝子にコードされる抗体のことをいう。但し,遺伝子の発現効率を上昇させる等の目的で,元のヒトの遺伝子に変異を加えた遺伝子にコードされる抗体も,ヒト抗体である。また,ヒト抗体をコードする2つ以上の遺伝子を組み合わせて,ある一つのヒト抗体の一部を,他のヒト抗体の一部に置き換えた抗体も,ヒト抗体である。ヒト抗体は,免疫グロブリン軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を有する。免疫グロブリン軽鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。免疫グロブリン重鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。ある一つのヒト抗体のCDRを,その他のヒト抗体のCDRに置き換えることにより,ヒト抗体の抗原特異性,親和性等を改変した抗体も,ヒト抗体である。
【0011】
本発明の一実施形態において,元のヒト抗体の遺伝子を改変することにより,元の抗体のアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えた抗体も,ヒト抗体という。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個であり,より好ましくは1~10個であり,更に好ましくは1~5個であり,更により好ましくは1~3個である。元の抗体のアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~20個であり,より好ましくは1~10個であり,更に好ましくは1~5個であり,更により好ましくは1~3個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,ヒト抗体である。アミノ酸を付加させる場合,元の抗体のアミノ酸配列中又はN末端側若しくはC末端側に,好ましくは1~20個,より好ましくは1~10個,更に好ましくは1~5個,更により好ましくは1~3個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えた抗体も,ヒト抗体である。変異を加えた抗体のアミノ酸配列は,元の抗体のアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を示し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更により好ましくは95%以上の同一性を示し,なおも更に好ましくは98%以上の同一性を示すものである。つまり,本発明において「ヒト由来の遺伝子」というときは,ヒト由来の元の遺伝子に加えて,ヒト由来の元の遺伝子に改変を加えることにより得られる遺伝子も含まれる。
【0012】
本発明において,「ヒト化抗体」の語は,可変領域の一部(例えば,特にCDRの全部又は一部)のアミノ酸配列がヒト以外の哺乳動物由来であり,それ以外の領域がヒト由来である抗体のことをいう。例えば,ヒト化抗体として,ヒト抗体を構成する免疫グロブリン軽鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)と免疫グロブリン重鎖の3箇所の相補性決定領域(CDR)を,他の哺乳動物のCDRによって置き換えることにより作製された抗体が挙げられる。ヒト抗体の適切な位置に移植されるCDRの由来となる他の哺乳動物の生物種は,ヒト以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,ウマ,又はヒト以外の霊長類であり,より好ましくはマウス及びラットであり,例えばマウスである。
【0013】
本発明において,抗体がヒト抗体又はヒト化抗体である場合につき,以下詳述する。ヒト抗体及びヒト化抗体の軽鎖には,λ鎖とκ鎖がある。抗体を構成する軽鎖は,λ鎖とκ鎖のいずれであってもよい。また,ヒト抗体及びヒト化抗体の重鎖には,γ鎖,μ鎖,α鎖,σ鎖及びε鎖があり,それぞれ,IgG,IgM,IgA,IgD及びIgEに対応している。抗体を構成する重鎖は,γ鎖,μ鎖,α鎖,σ鎖及びε鎖のいずれであってもよいが,好ましくはγ鎖である。更に,抗体の重鎖のγ鎖には,γ1鎖,γ2鎖,γ3鎖及びγ4鎖があり,それぞれ,IgG1,IgG2,IgG3及びIgG4に対応している。抗体を構成する重鎖がγ鎖である場合,そのγ鎖は,γ1鎖,γ2鎖,γ3鎖及びγ4鎖のいずれであってもよいが,好ましくは,γ1鎖又はγ4鎖である。抗体が,ヒト化抗体又はヒト抗体であり,且つIgGである場合,その抗体の軽鎖はλ鎖とκ鎖のいずれでもあってもよく,その抗体の重鎖は,γ1鎖,γ2鎖,γ3鎖及びγ4鎖のいずれであってもよいが,好ましくは,γ1鎖又はγ4鎖である。例えば,好ましい抗体の一つの態様として,軽鎖がκ鎖であり重鎖がγ1鎖であるもの,軽鎖がλ鎖であり重鎖がγ1鎖であるものが挙げられる。
【0014】
本発明において,「キメラ抗体」の語は,2つ以上の異なる種に由来する,2つ以上の異なる抗体の断片が連結されてなる抗体のことをいう。
【0015】
ヒト抗体と他の哺乳動物の抗体とのキメラ抗体とは,ヒト抗体の一部がヒト以外の哺乳動物の抗体の一部によって置き換えられた抗体である。抗体は,以下に説明するFc領域,Fab領域及びヒンジ部とからなる。このようなキメラ抗体の具体例として,Fc領域がヒト抗体に由来する一方でFab領域が他の哺乳動物の抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又は他の哺乳動物の抗体のいずれかに由来する。逆に,Fc領域が他の哺乳動物に由来する一方でFab領域がヒト抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又は他の哺乳動物の抗体のいずれに由来してもよい。ヒト化抗体についても同様のことがいえる。
【0016】
また,抗体は,可変領域と定常領域とからなるということもできる。キメラ抗体の他の具体例として,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)がヒト抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)が他の哺乳動物の抗体に由来するもの,逆に,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)が他の哺乳動物の抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)がヒト抗体に由来するものも挙げられる。ここで,他の哺乳動物の生物種は,ヒト以外の哺乳動物である限り特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,ウマ,又はヒト以外の霊長類であり,より好ましくはマウスである。ヒト化抗体についても同様のことがいえる。
【0017】
ヒト抗体とマウス抗体のキメラ抗体は,特に,「ヒト/マウスキメラ抗体」という。ヒト/マウスキメラ抗体には,Fc領域がヒト抗体に由来する一方でFab領域がマウス抗体に由来するキメラ抗体や,逆に,Fc領域がマウス抗体に由来する一方でFab領域がヒト抗体に由来するキメラ抗体が挙げられる。ヒンジ部は,ヒト抗体又はマウス抗体のいずれかに由来する。ヒト/マウスキメラ抗体の他の具体例として,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)がヒト抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)がマウス抗体に由来するもの,逆に,重鎖の定常領域(CH)と軽鎖の定常領域(CL)がマウス抗体に由来する一方で,重鎖の可変領域(VH)及び軽鎖の可変領域(VL)がヒト抗体に由来するものも挙げられる。ヒト化抗体についても同様のことがいえる。
【0018】
抗体は,本来,2本の免疫グロブリン軽鎖と2本の免疫グロブリン重鎖の計4本のポリペプチド鎖からなる基本構造を有する。但し,本発明において,「抗体」というときは,この基本構造を有するものに加え,
(1)1本の免疫グロブリン軽鎖と1本の免疫グロブリン重鎖の計2本のポリペプチド鎖からなるものや,以下に詳述するように,
(2)免疫グロブリン軽鎖のC末端側にリンカーを,そして更にそのC末端側に免疫グロブリン重鎖を結合させてなるものである一本鎖抗体,
(3)免疫グロブリン重鎖のC末端側にリンカーを,そして更にそのC末端側に免疫グロブリン軽鎖を結合させてなるものである一本鎖抗体,
(4)免疫グロブリン重鎖の可変領域のC末端側にリンカーを,そして更にそのC末端側に免疫グロブリン軽鎖の可変領域を結合させてなるものである一本鎖抗体(scFv),及び
(5)免疫グロブリン軽鎖の可変領域のC末端側にリンカーを,そして更にそのC末端側に免疫グロブリン重鎖の可変領域を結合させてなるものである一本鎖抗体(scFv),も含まれる。また,
(6)本来の意味での抗体の基本構造からFc領域が欠失したものであるFab領域からなるもの及びFab領域とヒンジ部の全部若しくは一部とからなるもの(Fab,F(ab’)及びF(ab’)2を含む),及び
(7)単一ドメイン抗体も,本発明における「抗体」に含まれる。更には,軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域をリンカーを介して結合させて一本鎖抗体としたscFvも,本発明における抗体に含まれる。
【0019】
なお,本発明において「リンカー」というときは,例えば,複数のアミノ酸がペプチド結合により結合したペプチド鎖からなるものをいう。かかるペプチド鎖からなるリンカーは「ペプチドリンカー」ということもできる。「リンカー」は本明細書の文脈において「リンカー配列」と言い換えることもできる。このリンカーのN末端と他の蛋白質のC末端がペプチド結合で結合し,当該リンカーのC末端に更に他の蛋白質のN末端が結合することにより,2つの蛋白質がリンカーを介して結合体を形成する。
【0020】
2本の軽鎖と2本の重鎖の計4本のポリペプチド鎖からなる基本構造を有する抗体は,軽鎖の可変領域(VL)に3箇所の相補性決定領域(CDR)と重鎖の可変領域(VH)に3箇所の相補性決定領域(CDR)を有する。軽鎖の3箇所のCDRは,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。重鎖の3箇所のCDRも,N末端側にあるものから順にCDR1,CDR2及びCDR3という。ただし,これらCDRの一部又は全部が不完全であるか,または存在しないものであっても,特定の抗原に特異的に結合する性質を有するものである限り,抗体に含まれる。軽鎖及び重鎖の可変領域(VL及びVH)のCDR以外の領域は,フレームワーク領域(FR)という。FRは,N末端側にあるものから順にFR1,FR2,FR3及びFR4という。通常,CDRとFRはN末端側から順に,FR1,CDR1,FR2,CDR2,FR3,CDR3,FR4の順で存在する。重鎖のみによって構成される重鎖抗体についても同様のことがいえる。
【0021】
本発明の一実施形態において,Fabとは,可変領域とCL領域(軽鎖の定常領域)を含む1本の軽鎖と,可変領域とCH1領域(重鎖の定常領域の部分1)を含む1本の重鎖が,それぞれに存在するシステイン残基同士でジスルフィド結合により結合した分子のことをいう。Fabにおいて,重鎖は,可変領域とCH1領域(重鎖の定常領域の部分1)に加えて,更にヒンジ部の一部を含んでもよいが,この場合のヒンジ部は,ヒンジ部に存在して抗体の重鎖どうしを結合するシステイン残基を欠くものである。Fabにおいて,軽鎖と重鎖とは,軽鎖の定常領域(CL領域)に存在するシステイン残基と,重鎖の定常領域(CH1領域)又はヒンジ部に存在するシステイン残基との間で形成されるジスルフィド結合により結合する。Fabを形成する重鎖のことをFab重鎖という。Fabは,ヒンジ部に存在して抗体の重鎖どうしを結合するシステイン残基を欠いているので1本の軽鎖と1本の重鎖とからなる。Fabを構成する軽鎖は,可変領域とCL領域を含む。Fabを構成する重鎖は,可変領域とCH1領域からなるものであってもよく,可変領域,CH1領域に加えてヒンジ部の一部を含むものであってもよい。但しこの場合,ヒンジ部で2本の重鎖の間でジスルフィド結合が形成されないように,ヒンジ部は重鎖間を結合するシステイン残基を含まないように選択される。F(ab’)においては,その重鎖は可変領域とCH1領域に加えて,重鎖どうしを結合するシステイン残基を含むヒンジ部の全部又は一部を含む。F(ab’)2は2つのF(ab’)が互いのヒンジ部に存在するシステイン残基どうしでジスルフィド結合により結合した分子のことをいう。F(ab’)又はF(ab’)2を形成する重鎖のことをFab’重鎖という。また,複数の抗体が直接又はリンカーを介して結合してなる二量体,三量体等の重合体も,抗体である。更に,これらに限らず,免疫グロブリン分子の一部を含み,且つ,抗原に特異的に結合する性質を有するものは何れも,本発明でいう「抗体」に含まれる。即ち,本発明において免疫グロブリン軽鎖というときは,免疫グロブリン軽鎖に由来し,その可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有するものが含まれる。また,免疫グロブリン重鎖というときは,免疫グロブリン重鎖に由来し,その可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有するものが含まれる。従って,可変領域の全て又は一部のアミノ酸配列を有する限り,例えば,Fc領域が欠失したものも,免疫グロブリン重鎖である。
【0022】
また,ここでFc又はFc領域とは,抗体分子中の,CH2領域(重鎖の定常領域の部分2),及びCH3領域(重鎖の定常領域の部分3)からなる断片を含む領域のことをいう。
【0023】
更には,本発明の一実施形態における抗体は
(8)上記(6)で示したFab,F(ab’)又はF(ab’)2を構成する軽鎖と重鎖を,リンカー配列を介して結合させて,それぞれ一本鎖抗体としたscFab,scF(ab’),及びscF(ab’)2も含まれる。ここで,scFab,scF(ab’),及びscF(ab’)2にあっては,軽鎖のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に重鎖を結合させてなるものでもよく,また,重鎖のC末端側にリンカーを,そして更にそのC末端側に軽鎖を結合させてなるものでもよい。更には,軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域とをリンカーを介して結合させて一本鎖抗体としたscFvも,本発明における抗体に含まれる。scFvにあっては,軽鎖の可変領域のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に重鎖の可変領域を結合させてなるものでもよく,また,重鎖の可変領域のC末端側にリンカー配列を,そして更にそのC末端側に軽鎖の可変領域を結合させてなるものでもよい。
【0024】
更には,本明細書でいう「抗体」には,完全長抗体,上記(1)~(8)に示されるものに加えて,(1)~(8)を含むより広い概念である,完全長抗体の一部が欠損したものである抗原結合性断片(抗体フラグメント)のいずれの形態も含まれる。抗原結合性断片には,重鎖抗体,軽鎖抗体,VHH,VNAR,及びこれらの一部が欠損したものも含まれる。
【0025】
「抗原結合性断片」の語は,抗原との特異的結合活性の少なくとも一部を保持している抗体の断片のことをいう。結合性断片の例としては,例えば上記(4)及び(5)に示されるものに加えて,Fab,Fab’,F(ab’)2,可変領域(Fv),重鎖の可変領域(VH)と軽鎖の可変領域(VL)とを適当なリンカーで連結させた一本鎖抗体(scFv),重鎖の可変領域(VH)と軽鎖の可変領域(VL)を含むポリペプチドの二量体であるダイアボディ,scFvの重鎖(H鎖)に定常領域の一部(CH3)が結合したものの二量体であるミニボディ,その他の低分子化抗体等を包含する。但し,抗原との結合能を有している限りこれらの分子に限定されない。また,これらの結合性断片には,抗体を適当な酵素で処理したもの,及び遺伝子工学的に改変された抗体遺伝子を用いて適当な宿主細胞において産生された蛋白質も含まれる。
【0026】
本発明の一実施形態において,「一本鎖抗体」というときは,免疫グロブリン軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列のC末端側にリンカーが結合し,更にそのC末端側に免疫グロブリン重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列が結合してなり,特定の抗原に特異的に結合することのできる蛋白質をいう。また,免疫グロブリン重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列のC末端側にリンカーが結合し,更にそのC末端側に免疫グロブリン軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列が結合してなり,特定の抗原に特異的に結合することのできる蛋白質も,本発明における「一本鎖抗体」である。例えば,上記(2)及び(3)に示されるものは一本鎖抗体に含まれる。免疫グロブリン重鎖のC末端側にリンカーを介して免疫グロブリン軽鎖が結合した一本鎖抗体にあっては,通常,免疫グロブリン重鎖は,Fc領域が欠失している。免疫グロブリン軽鎖の可変領域は,抗体の抗原特異性に関与する相補性決定領域(CDR)を3つ有している。同様に,免疫グロブリン重鎖の可変領域も,CDRを3つ有している。これらのCDRは,抗体の抗原特異性を決定する主たる領域である。従って,一本鎖抗体には,免疫グロブリン重鎖の3つのCDRが全てと,免疫グロブリン軽鎖の3つのCDRの全てとが含まれることが好ましい。但し,抗体の抗原特異的な親和性が維持される限り,CDRの1個又は複数個を欠失させた一本鎖抗体とすることもできる。
【0027】
一本鎖抗体において,免疫グロブリンの軽鎖と重鎖の間に配置されるリンカーは,好ましくは2~50個,より好ましくは8~50個,更に好ましくは10~30個,更により好ましくは30~30個又は30~30個,例えば30個若しくは30個のアミノ酸残基から構成されるペプチド鎖である。そのようなリンカーは,これにより両鎖が連結されてなる抗hTfR抗体がhTfRに対する親和性を保持する限り,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンのみ又はグリシンとセリンから構成されるものであり,例えば,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Gly,配列番号1で示されるアミノ酸配列,配列番号2で示されるアミノ酸配列,配列番号3で示されるアミノ酸配列,配列番号4で示されるアミノ酸配列,又はこれらのアミノ酸配列が2~10回,あるいは2~5回繰り返された配列を有するものである。例えば,免疫グロブリン重鎖の可変領域の全領域からなるアミノ酸配列のC末端側に,リンカーを介して免疫グロブリン軽鎖の可変領域を結合させてScFVとする場合,配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するリンカーが好適に用いられる。
【0028】
本発明の一実施形態における抗体は,ラクダ科動物(アルパカを含む)由来の抗体である。ラクダ科動物の抗体には,ジスルフィド結合により連結された2本の重鎖からなるものがある。この2本の重鎖からなる抗体を重鎖抗体という。VHHは,重鎖抗体を構成する重鎖の可変領域を含む1本の重鎖からなる抗体,又は重鎖抗体を構成する定常領域(CH)を欠く1本の重鎖からなる抗体である。VHHも本発明の実施形態における抗体の一つである。ラクダ科動物由来の抗体(VHHを含む)をヒトに投与したときの抗原性を低減させるために,ラクダ科動物の抗体のアミノ酸配列に変異を加えたものも,本発明の一実施形態における抗体である。ラクダ科動物の抗体のアミノ酸に変異を加える場合,本明細書に記載の抗体に加えることのできる変異と同様の変異を加えることができる。その他,ジスルフィド結合により連結された2本の軽鎖からなる抗体も本発明の実施形態における抗体の一つである。この2本の軽鎖からなる抗体を軽鎖抗体という。
【0029】
本発明の一実施形態における抗体は,サメ由来の抗体である。サメの抗体は,ジスルフィド結合により連結された2本の重鎖からなる。この2本の重鎖からなる抗体を重鎖抗体という。VNARは,重鎖抗体を構成する重鎖の可変領域を含む1本の重鎖からなる抗体,又は重鎖抗体を構成する定常領域(CH)を欠く1本の重鎖からなる抗体である。VNARも本発明の実施形態における抗体の一つである。サメ由来の抗体(VNARを含む)をヒトに投与したときの抗原性を低減させるために,サメの抗体のアミノ酸配列に変異を加えたものも,本発明の一実施形態における抗体である。サメの抗体のアミノ酸に変異を加える場合,本明細書に記載の抗体に加えることのできる変異と同様の変異加えることができる。サメの抗体をヒト化したものも本発明の実施形態における抗体の一つである。
【0030】
本発明の一実施形態において,単一ドメイン抗体とは,単一の可変領域で抗原に特異的に結合する性質を有する抗体のことをいう。単一ドメイン抗体には,可変領域が重鎖の可変領域のみからなる抗体(重鎖単一ドメイン抗体),可変領域が軽鎖の可変領域のみからなる抗体(軽鎖単一ドメイン抗体)が含まれる。VHH,VNARは単一ドメイン抗体の一種である。
【0031】
本発明において,抗体が特異的に認識する抗原としては,例えば,血管内皮細胞の表面に存在する分子(表面抗原)である。かかる表面抗原としては,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,IGF受容体,OATP-F等の有機アニオントランスポーター,モノカルボン酸トランスポーター,Fc受容体が挙げられるが,これらに限定されるものではない。モノカルボン酸トランスポーター(MCT)は14種類のサブタイプ(MCT1~MCT14)の何れであってもよいが,特にMCT1,MCT2,MCT4,又はMCT8が好ましく,例えばMCT8である。抗原は,好ましくはヒト血管内皮細胞の表面に存在するこれら分子(表面抗原)である。
【0032】
上記の表面抗原の中でも,トランスフェリン受容体(TfR),インスリン受容体,レプチン受容体,リポ蛋白質受容体,IGF受容体,OATP-F等の有機アニオントランスポーター,MCT-8等のモノカルボン酸トランスポーターは,血液脳関門(Blood Brain Barrier)を形成する脳毛細血管内皮細胞(脳血管内皮細胞)の表面に存在するものである。これら抗原を認識できる抗体は,抗原を介して脳毛細血管内皮細胞に結合できる。そして脳毛細血管内皮細胞に結合した抗体は,血液脳関門を通過して中枢神経系に到達することができる。従って,目的の蛋白質を,このような抗体と結合させることにより,中枢神経系にまで到達させることができる。目的の蛋白質としては,中枢神経系で薬効を発揮すべき機能を有する蛋白質が挙げられる。例えば,中枢神経障害を伴うリソソーム病患者において欠損しているか又は機能不全であるリソソーム酵素が,目的の蛋白質として挙げられる。かかるリソソーム酵素は,そのままでは中枢神経系に到達することができず,患者の中枢神経障害に対して薬効を示すことがないが,これらの抗体と結合させることにより血液脳関門を通過できるようになるので,リソソーム病患者において見られる中枢神経障害を改善することができる。
【0033】
本発明において,「ヒトトランスフェリン受容体」又は「hTfR」の語は,配列番号5に示されるアミノ酸配列を有する膜蛋白質をいう。本発明の抗hTfR抗体は,その一実施態様において,配列番号5で示されるアミノ酸配列中N末端側から89番目のシステイン残基からC末端のフェニルアラニンまでの部分(hTfRの細胞外領域)に対して特異的に結合するものであるが,これに限定されない。
【0034】
抗体の作製方法をhTfRに対する抗体を例にとって以下に説明する。hTfRに対する抗体の作製方法としては,hTfR遺伝子を組み込んだ発現ベクターを導入した細胞を用いて,組換えヒトトランスフェリン受容体(rhTfR)を作製し,このrhTfRを用いてマウス等の動物を用いて免疫して得る方法が一般的である。免疫後の動物からhTfRに対する抗体産生細胞を取り出し,これとミエローマ細胞とを癒合させることにより,hTfRに対する抗体産生能を有するハイブリドーマ細胞を作製することができる。
【0035】
また,マウス等の動物より得た免疫系細胞を体外免疫法によりrhTfRで免疫することによってもhTfRに対する抗体を産生する細胞を取得できる。体外免疫法により免疫する場合,その免疫系細胞が由来する動物種に特に限定はないが,好ましくは,マウス,ラット,ウサギ,モルモット,イヌ,ネコ,ウマ及びヒトを含む霊長類であり,より好ましくは,マウス,ラット及びヒトであり,更に好ましくはマウス及びヒトである。マウスの免疫系細胞としては,例えば,マウスの脾臓から調製した脾細胞を用いることができる。ヒトの免疫系細胞としては,ヒトの末梢血,骨髄,脾臓等から調製した細胞を用いることができる。ヒトの免疫系細胞を体外免疫法により免疫した場合,hTfRに対するヒト抗体を得ることができる。
【0036】
本発明において,抗体と結合させるべきヒトリソソーム酵素に特に限定はないが,α-L-イズロニダーゼ,イズロン酸-2-スルファターゼ,グルコセレブロシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,GM2活性化蛋白質,β-ヘキソサミニダーゼA,β-ヘキソサミニダーゼB-N-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼ,α-マンノシダーゼ,β-マンノシダーゼ,ガラクトシルセラミダーゼ,サポシンC,アリールスルファターゼA,α-L-フコシダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ,酸性スフィンゴミエリナーゼ,α-ガラクトシダーゼA,β-グルクロニダーゼ,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ-N-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼ,酸性セラミダーゼ,アミロ-1-6-グルコシダーゼ,シアリダーゼ,アスパルチルグルコサミニダーゼ,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1(PPT-1),トリペプチジルペプチダーゼ-1(TPP-1),ヒアルロニダーゼ-1,CLN1,CLN2,CLN3,CLN6,及びCLN8等のリソソーム酵素,が挙げられる。
【0037】
抗体が血管内皮細胞の表面に存在する分子(表面抗原)を特異的に認識するものである場合,抗体と結合させたヒトリソソーム酵素はそれぞれ,α-L-イズロニダーゼはハーラー症候群,ハーラー・シャイエ症候群,及びシャイエ症候群における中枢神経障害治療剤として,イズロン酸-2-スルファターゼはハンター症候群における中枢神経障害治療剤として,グルコセレブロシダーゼはゴーシェ病における中枢神経障害治療剤として,βガラクトシダーゼはGM1-ガングリオシドーシス1~3型における中枢神経障害治療剤として,GM2活性化蛋白質はGM2-ガングリオシドーシスAB異型における中枢神経障害治療剤として,β-ヘキソサミニダーゼAはサンドホフ病及びティサックス病における中枢神経障害治療剤として,β-ヘキソサミニダーゼBはサンドホフ病における中枢神経障害治療剤としてN-アセチルグルコサミン-1-フォスフォトランスフェラーゼはI-細胞病における中枢神経障害治療剤として,α-マンノシダーゼはα-マンノシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として,β-マンノシダーゼはβ-マンノシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として,ガラクトシルセラミダーゼはクラッベ病における中枢神経障害治療剤として,サポシンCはゴーシェ病様蓄積症における中枢神経障害治療剤として,アリールスルファターゼAは異染性白質変性症(異染性白質ジストロフィー)における中枢神経障害治療剤として,α-L-フコシダーゼはフコシドーシスにおける中枢神経障害治療剤として,アスパルチルグルコサミニダーゼはアスパルチルグルコサミン尿症における中枢神経障害治療剤として,α-N-アセチルガラクトサミニダーゼはシンドラー病及び川崎病における中枢神経障害治療剤として,酸性スフィンゴミエリナーゼはニーマン・ピック病における中枢神経障害治療剤として,α-ガラクトシダーゼAはファブリー病における中枢神経障害治療剤として,β-グルクロニダーゼはスライ症候群における中枢神経障害治療剤として,ヘパランN-スルファターゼ,α-N-アセチルグルコサミニダーゼ,アセチルCoAα-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ及びN-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼはサンフィリッポ症候群における中枢神経障害治療剤として,酸性セラミダーゼはファーバー病における中枢神経障害治療剤として,アミロ-1,6-グルコシダーゼはコリ病(フォーブス・コリ病)における中枢神経障害治療剤として,シアリダーゼはシアリダーゼ欠損症における中枢神経障害治療剤として,アスパルチルグルコサミニダーゼはアスパルチルグルコサミン尿症における中枢神経障害治療剤として,パルミトイル蛋白質チオエステラーゼ-1(PPT-1)は,神経セロイドリポフスチン症又はSantavuori-Haltia病における中枢神経障害治療剤として,トリペプチジルペプチダーゼ-1(TPP-1)は,神経セロイドリポフスチン症又はJansky-Bielschowsky病における中枢神経障害治療剤として,ヒアルロニダーゼ-1はヒアルロニダーゼ欠損症における中枢神経障害治療剤として,CLN1,CLN2,CLN3,CLN6,及びCLN8はバッテン病における中枢神経障害治療剤として使用できる。
【0038】
抗体が血管内皮細胞の表面に存在する分子(表面抗原)を特異的に認識するものである場合に,抗体と結合させるべきリソソーム酵素として好適なものとして,ヒトα-L-イズロニダーゼ(hIDUA)を挙げることができる。hIDUAは,ヘパラン硫酸やデルマタン硫酸のようなグリコサミノグリカン(GAG)分子内に存在するイズロン酸結合を加水分解する活性を有するライソソーム酵素の一種である。ムコ多糖症I型はこの酵素をコードする遺伝子の変異による遺伝子疾患である。ムコ多糖症I型はハーラー症候群,ハーラー・シャイエ症候群,及びシャイエ症候群に分類され,ハーラー症候群は重症型,ハーラー・シャイエ症候群は中間型,シャイエ症候群は軽症型である。これらの患者では,ヘパラン硫酸,デルマタン硫酸が組織内に蓄積する結果,角膜混濁,精神発達遅滞等の諸症状を示す。但し,軽症型の場合は精神発達遅延が観察されないこともある。当該抗体とhIDUAとの融合蛋白質は,BBBを通過することにより脳組織内に蓄積したGAGを分解することができるので,精神発達遅滞を示すハーラー症候群の患者に投与することにより,中枢神経障害治療剤として使用することができる。
【0039】
本発明において,「ヒトα-L-イズロニダーゼ」又は「hIDUA」の語は,特に野生型のhIDUAと同一のアミノ酸配列を有するhIDUAのことをいう。野生型のhIDUAは,配列番号6で示される628個のアミノ酸から構成されるアミノ酸配列を有する。配列番号7で示される626個のアミノ酸から構成されるアミノ酸配列を有するhIDUAのバリアントもhIDUAである。但し,これらに限らず,IDUA活性を有するものである限り,野生型のhIDUAのアミノ酸配列に置換,欠失,付加等の変異を加えたものもhIDUAに含まれる。hIDUAのアミノ酸配列のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換させる場合,置換させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。hIDUAのアミノ酸配列中のアミノ酸を欠失させる場合,欠失させるアミノ酸の個数は,好ましくは1~10個であり,より好ましくは1~5個であり,更に好ましくは1~3個であり,更により好ましくは1~2個である。また,これらアミノ酸の置換と欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。hIDUAにアミノ酸を付加させる場合,hIDUAのアミノ酸配列中又はN末端側若しくはC末端側に,好ましくは1~10個,より好ましくは1~5個,更に好ましくは1~3個,更により好ましくは1~2個のアミノ酸が付加される。これらアミノ酸の付加,置換及び欠失を組み合わせた変異を加えることもできる。変異を加えたhIDUAのアミノ酸配列は,元のhIDUAのアミノ酸配列と,好ましくは80%以上の同一性を有し,より好ましくは85%以上の同一性を示し,更に好ましくは90%以上の同一性を示し,更により好ましくは95%以上の同一性を示し,更により好ましくは99%以上の同一性を示す。
【0040】
なお本発明において,元の蛋白質(抗体を含む)のアミノ酸配列と変異を加えた蛋白質のアミノ酸配列との同一性は,周知の同一性計算アルゴリズムを用いて容易に算出することができる。例えば,そのようなアルゴリズムとして,BLAST(Altschul SF. J Mol .Biol. 215. 403-10, (1990)),Pearson及びLipmanの類似性検索法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85. 2444 (1988)),Smith及びWatermanの局所同一性アルゴリズム(Adv. Appl. Math. 2. 482-9(1981))等がある。
【0041】
また,元の蛋白質(抗体を含む)のアミノ酸配列中のアミノ酸の他のアミノ酸への置換は,例えば,アミノ酸のそれらの側鎖及び化学的性質で関連性のあるアミノ酸ファミリー内で起こるものである。かかるアミノ酸ファミリーとしては,以下のものがある:
(1)酸性アミノ酸であるアスパラギン酸とグルタミン酸,
(2)塩基性アミノ酸であるヒスチジン,リシン,及びアルギニン,
(3)芳香族アミン酸であるフェニルアラニン,チロシン,トリプトファン,
(4)ヒドロキシアミノ酸であるセリンとトレオニン,
(5)疎水性アミノ酸であるメチオニン,アラニン,バリン,ロイシン,及びイソロイシン,
(6)中性の親水性アミノ酸であるシステイン,セリン,トレオニン,アスパラギン,及びグルタミン,
(7)ペプチド鎖の配向に影響するアミノ酸であるグリシンとプロリン,
(8)アミド型アミノ酸であるアスパラギンとグルタミン,
(9)側鎖の小さいアミノ酸であるアラニンとグリシン。
【0042】
本発明において,hIDUAがIDUA活性を有するというときは,hIDUAを抗体と融合させて融合蛋白質としたときに,天然型のhIDUAが本来有する活性に対して,3%以上の活性を有していることをいう。但し,その活性は,天然型のhIDUAが本来有する活性に対して10%以上であることが好ましく,20%以上であることがより好ましく,50%以上であることが更に好ましく,80%以上であることが更により好ましい。抗体と融合させたhIDUAが変異を加えたものである場合も同様である。抗体は,例えば抗hTfR抗体である。
【0043】
本発明において「融合蛋白質」というときは,抗体とヒトリソソーム酵素とを,非ペプチドリンカー若しくはペプチドリンカーを介して,又は直接に結合させた物質のことをいう。抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させる方法は,以下に詳述する。
【0044】
抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させる方法としては,非ペプチドリンカー又はペプチドリンカーを介して結合させる方法がある。非ペプチドリンカーとしては,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体,ポリオキシエチル化ポリオール,ポリビニルアルコール,多糖類,デキストラン,ポリビニルエーテル,生分解性高分子,脂質重合体,キチン類,及びヒアルロン酸,又はこれらの誘導体,若しくはこれらを組み合わせたものを用いることができる。ペプチドリンカーは,ペプチド結合した1~50個のアミノ酸から構成されるペプチド鎖若しくはその誘導体であって,そのN末端とC末端が,それぞれ抗体又はヒトリソソーム酵素のいずれかと共有結合を形成することにより,抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させるものである。
【0045】
非ペプチドリンカーとしてビオチン-ストレプトアビジンを用いる場合,抗体がビオチンを結合させたものであり,ヒトリソソーム酵素がストレプトアビジンを結合させたものであり,このビオチンとストレプトアビジンとの結合を介して,抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させてもよく,逆に,抗体がストレプトアビジンを結合させたものであり,ヒトリソソーム酵素がビオチンを結合させたものであり,このビオチンとストレプトアビジンとの結合を介して,抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させてもよい。
【0046】
非ペプチドリンカーとしてPEGを用いて本発明の抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させたものは,特に,抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素という。抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素は,抗体とPEGとを結合させて抗体-PEGを作製し,次いで抗体-PEGとヒトリソソーム酵素とを結合させることにより製造することができる。又は,抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素は,ヒトリソソーム酵素とPEGとを結合させてヒトリソソーム酵素-PEGを作製し,次いでヒトリソソーム酵素-PEGと抗体とを結合させることによっても製造することができる。PEGを抗体及びヒトリソソーム酵素と結合させる際には,カーボネート,カルボニルイミダゾール,カルボン酸の活性エステル,アズラクトン,環状イミドチオン,イソシアネート,イソチオシアネート,イミデート,又はアルデヒド等の官能基で修飾されたPEGが用いられる。これらPEGに導入された官能基が,主に抗体及びヒトリソソーム酵素分子内のアミノ基と反応することにより,PEGと抗体及びヒトリソソーム酵素が共有結合する。このとき用いられるPEGの分子量及び形状に特に限定はないが,その平均分子量(MW)は,好ましくはMW=300~60000であり,より好ましくはMW=500~20000である。例えば,平均分子量が約300,約500,約1000,約2000,約4000,約10000,約20000等であるPEGは,非ペプチドリンカーとして好適に使用することができる。
【0047】
例えば,抗体-PEGは,抗体とアルデヒド基を官能基として有するポリエチレングリコール(ALD-PEG-ALD)とを,該抗体に対するALD-PEG-ALDのモル比が1:11,1:12.5,1:15,1:110,1:120等になるように混合し,これにNaCNBH3等の還元剤を添加して反応させることにより得られる。次いで,抗体-PEGを,NaCNBH3等の還元剤の存在下で,ヒトリソソーム酵素と反応させることにより,抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素が得られる。逆に,先にヒトリソソーム酵素とALD-PEG-ALDとを結合させてヒトリソソーム酵素-PEGを作製し,次いでヒトリソソーム酵素-PEGと抗体を結合させることによっても,抗体-PEG-ヒトリソソーム酵素を得ることができる。
【0048】
抗体とヒトリソソーム酵素とは,抗体の重鎖又は軽鎖のC末端側又はN末端側に,リンカーを介して又は直接に,それぞれヒトリソソーム酵素のN末端又はC末端をペプチド結合により結合させることもできる。このように抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させてなる融合蛋白質は,抗体の重鎖又は軽鎖をコードするcDNAの3’末端側又は5’末端側に,直接又はリンカーをコードするDNA断片を挟んで,ヒトリソソーム酵素をコードするcDNAがインフレームで配置されたDNA断片を,哺乳動物細胞,酵母等の真核生物用の発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを導入した哺乳動物細胞を培養することにより,得ることができる。この哺乳動物細胞には,ヒトリソソーム酵素をコードするDNA断片を重鎖と結合させる場合にあっては,抗体の軽鎖をコードするcDNA断片を組み込んだ哺乳動物細胞用の発現ベクターも,同じホスト細胞に導入され,また,ヒトリソソーム酵素をコードするDNA断片を軽鎖と結合させる場合にあっては,抗体の重鎖をコードするcDNA断片を組み込んだ哺乳動物細胞用の発現ベクターも,同じホスト細胞に導入される。抗体が一本鎖抗体である場合,抗体とヒトリソソーム酵素とを結合させた融合蛋白質は,ヒトリソソーム酵素をコードするcDNAの5’末端側又は3’末端側に,直接,又はリンカーをコードするDNA断片を挟んで1本鎖抗体をコードするcDNAを連結したDNA断片を,哺乳動物細胞,酵母等の真核生物用の発現ベクターに組み込み,この発現ベクターを導入したこれらの細胞中で発現させることにより,得ることができる。
【0049】
抗体の軽鎖のC末端側にヒトリソソーム酵素を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,ヒトリソソーム酵素が,この抗体の軽鎖のC末端側に結合したものである。ここで抗体の軽鎖とヒトリソソーム酵素とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0050】
抗体の重鎖のC末端側にヒトリソソーム酵素を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,ヒトリソソーム酵素が,この抗体の重鎖のC末端側に結合したものである。ここで抗体の重鎖とヒトリソソーム酵素とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0051】
抗体の軽鎖のN末端側にヒトリソソーム酵素を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,ヒトリソソーム酵素が,この抗体の軽鎖のN末端側に結合したものである。ここで抗体の軽鎖とヒトリソソーム酵素とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0052】
抗体の重鎖のN末端側にヒトリソソーム酵素を結合させたタイプの融合蛋白質は,抗体が,軽鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列と,重鎖の可変領域の全て又は一部を含むアミノ酸配列とを含むものであり,ヒトリソソーム酵素が,この抗体の重鎖のN末端側に結合したものである。ここで抗体の重鎖とヒトリソソーム酵素とは,直接結合してもよく,リンカーを介して結合してもよい。
【0053】
このとき抗体とヒトリソソーム酵素との間にリンカーを配置する場合,その配列は,好ましくは1~50個,より好ましくは1~17個,更に好ましくは1~10個,更により好ましくは1~5個のアミノ酸から構成されるものであるが,抗体に結合させるべきヒトリソソーム酵素によって,リンカーを構成するアミノ酸の個数は1個,2個,3個,1~17個,1~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個等と適宜調整できる。そのようなリンカーは,これにより連結された抗体がhTfRとの親和性を保持し,且つ当該リンカーにより連結されたヒトリソソーム酵素が,生理的条件下で当該蛋白質の生理活性を発揮できる限り,そのアミノ酸配列に限定はないが,好ましくは,グリシンとセリンから構成されるものであり,例えば,グリシン又はセリンのいずれか1個のアミノ酸からなるもの,アミノ酸配列Gly-Ser,アミノ酸配列Gly-Gly-Ser,配列番号1で示されるアミノ酸配列,配列番号2で示されるアミノ酸配列,配列番号3で示されるアミノ酸配列,配列番号4で示されるアミノ酸配列,又はこれらのアミノ酸配列が1~10個,あるいは2~5個連続してなる1~50個のアミノ酸からなる配列,2~17個,2~10個,10~40個,20~34個,23~31個,25~29個のアミノ酸からなる配列等を有するものである。例えば,アミノ酸配列Gly-Serからなるもの,配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するものはリンカーとして好適に用いることができる。抗体が1本鎖抗体であっても同様である。
【0054】
なお,該融合蛋白質において1つのペプチド鎖に複数のリンカーが含まれる場合,便宜上,各リンカーはN末端側から順に,第1のリンカー,第2のリンカーというように命名する。
【0055】
抗体が抗ヒトトランスフェリン受容体抗体である場合の,抗体の好ましい一実施形態として,
軽鎖の可変領域において:
(a)CDR1が配列番号8又は9で示されるアミノ酸配列を含んでなり,
(b)CDR2が配列番号10又は11で示されるアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(c)CDR3が配列番号12で示されるアミノ酸配列を含んでなるものであり;
重鎖の可変領域において:
(d)CDR1が配列番号13又は14で示されるアミノ酸配列を含んでなり,
(e)CDR2が配列番号15又は16で示されるアミノ酸配列を含んでなり,且つ
(f)CDR3が配列番号17又は18で示されるアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体が例示できる。ここで抗体は好ましくはヒト抗体又はヒト化抗体である。
【0056】
上記の(a)~(f)に示される各CDRのアミノ酸配列の組み合わせは,何れの組み合わせであってもよく,例えば,表1で示されるものが挙げられる。
【0057】
【表1】
【0058】
抗体が抗ヒトトランスフェリン受容体抗体である場合の,抗体の更なる好ましい一実施形態として,
(x)軽鎖の可変領域が配列番号20で示されるアミノ酸配列を有するものであり,重鎖の可変領域が配列番号21で示されるアミノ酸配列を含んでなるものである,抗体が例示できる。ここで抗体は好ましくはヒト抗体又はヒト化抗体である。
ここで,配列番号20で示される軽鎖の可変領域のアミノ酸配列は,CDR1として配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列を含み,CDR2として配列番号10及び配列番号11で示されるアミノ酸配列を含み,CDR3として配列番号12で示されるアミノ酸配列を含む。また,配列番号21で示される重鎖の可変領域のアミノ酸配列は,CDR1として配列番号13及び配列番号14で示されるアミノ酸配列を含み,CDR2として配列番号15及び配列番号16で示されるアミノ酸配列を含み,CDR3として配列番号17及び配列番号18で示されるアミノ酸配列を含む。更に,重鎖フレームワーク領域3として配列番号19で示されるアミノ酸配列を含む。
【0059】
但し,抗体がヒト化抗体であり且つ抗ヒトトランスフェリン受容体抗体である場合の,抗体の好ましい実施形態は,上記の(x)に限られるものではない。例えば,軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するものであり,重鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における重鎖の可変領域のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するものである抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明において用いることができる。
【0060】
更には,軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するものであり,重鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における重鎖の可変領域のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するものである抗体,
軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するものであり,重鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における重鎖の可変領域のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するものである抗体,及び
軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するものであり,重鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における重鎖の可変領域のアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するものである抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明において用いることができる。
【0061】
軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における軽鎖の可変領域のアミノ酸配列と同一性を有するものであり,重鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における重鎖の可変領域のアミノ酸配列と同一性を有するものである抗体として,
(x-a)軽鎖の可変領域が配列番号20で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖の可変領域が,配列番号21で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(x-b)軽鎖の可変領域が配列番号20で示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖の可変領域が,配列番号21で示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(x-c)軽鎖の可変領域が配列番号20で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖の可変領域が,配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(x-d)軽鎖の可変領域が配列番号20で示されるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖の可変領域が,配列番号21で示されるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
が挙げられる。
【0062】
更に,抗体が且つ抗ヒトトランスフェリン受容体抗体である場合の,抗体の好ましい実施形態として,
上記の(x)における軽鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,上記の(x)における重鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであるもの,
上記の(x)における軽鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,上記の(x)における重鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであるもの,及び
上記の(x)における軽鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1又は2個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,上記の(x)における重鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1又は2個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであるものも,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明において用いることができる。ここで抗体は好ましくはヒト抗体又はヒト化抗体である。
【0063】
抗体の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が,上記の(x)における軽鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,上記の(x)における重鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものである抗体として,
(x-e)
軽鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,且つCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(x-f)
軽鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,且つCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(x-g)
軽鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1又は2個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,且つCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖の可変領域のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1又は2個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
が挙げられる。
【0064】
上記の(x-a)~(x-g)において,各CDRのアミノ酸配列の組み合わせは,何れの組み合わせであってもよく,例えば,表2で示されるものが挙げられる。下記の(y-a)~(y-g)においても同様である。
【0065】
【表2】
【0066】
本発明において,抗体がヒト化抗体であり且つ抗ヒトトランスフェリン受容体抗体であるFabである場合の,好ましい一実施形態として,
(y)軽鎖が配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むものであり,重鎖が配列番号23で示されるアミノ酸配列を含んでなるものであるFabである抗体が例示できる。ここで,軽鎖は可変領域として配列番号20で示されるアミノ酸配列を含み,重鎖は可変領域として配列番号21で示されるアミノ酸配列を含む。本発明において,Fabを構成する重鎖のことをFab重鎖という。すなわち,配列番号23で示されるアミノ酸配列からなる重鎖はFab重鎖である。
【0067】
抗体がヒト化抗体であり且つ抗ヒトトランスフェリン受容体抗体である場合の,抗体の好ましい実施形態は,上記の(y)に限られるものではない。例えば,軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における軽鎖のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するものであり,重鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における重鎖のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するものである抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明において用いることができる。
【0068】
更には,軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における軽鎖のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するものであり,重鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における重鎖のアミノ酸配列と85%以上の同一性を有するものである抗体,
軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における軽鎖のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するものであり,重鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における重鎖のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するものである抗体,及び
軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における軽鎖のアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するものであり,重鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における重鎖のアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するものである抗体も,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明において用いることができる。
【0069】
軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における軽鎖のアミノ酸配列と同一性を有するものであり,重鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における重鎖のアミノ酸配列と同一性を有するものである抗体として,
(y-a)軽鎖が配列番号22で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖が配列番号23で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(y-b)軽鎖が配列番号22で示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖が配列番号23で示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(y-c)軽鎖が配列番号22で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖が配列番号23で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(y-d)軽鎖が配列番号22で示されるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖が配列番号23で示されるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,が挙げられる。
【0070】
更に,抗体がヒト化抗体であり且つ抗ヒトトランスフェリン受容体抗体であるFabである場合の,抗体の好ましい実施形態として,抗体のアミノ酸配列が,
上記の(y)における軽鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,上記の(y)における重鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したもの,
上記の(y)における軽鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,上記の(y)における重鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したもの,及び,
上記の(y)における軽鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1又は2個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,上記の(y)における重鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1又は2個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであるものも,hTfRに対して親和性を有する限り,本発明において用いることができる。
【0071】
軽鎖のアミノ酸配列が,上記の(y)における軽鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,上記の(y)における重鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものである抗体として,
(y-e)
軽鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,且つCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~5個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(y-f)
軽鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,且つCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1~3個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
(y-g)
軽鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1又は2個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,且つCDR1として配列番号8又は9のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号10又は11のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなり,重鎖のアミノ酸配列において,これを構成するアミノ酸配列中1又は2個のアミノ酸が置換,欠失又は付加したものであり,かつCDR1として配列番号13又は14のアミノ酸配列を,CDR2として配列番号15又は16のアミノ酸配列を,及びCDR3として配列番号17又は18のアミノ酸配列を,それぞれ含んでなるもの,
が挙げられる。
【0072】
抗体がヒト化抗ヒトトランスフェリン受容体抗体であり,ヒトリソソーム酵素がヒトα-L-イズロニダーゼ(hIDUA)である場合の,融合蛋白質の好ましい形態として,以下のものが挙げられる。すなわち,
配列番号22で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の軽鎖と,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体のFab重鎖のC末端側に,配列番号6で示されるヒトα-L-イズロニダーゼが,配列番号4で示されるリンカーを介して結合したものとからなる,融合蛋白質。
【0073】
また,抗体がヒト化抗ヒトトランスフェリン受容体抗体であり,ヒトリソソーム酵素がヒトα-L-イズロニダーゼ(hIDUA)である場合の,融合蛋白質の好ましい形態として,以下のものが挙げられる。すなわち,
該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号22で示されるアミノ酸配列を有するものであり,
該ヒト化抗hTfR抗体のFab重鎖が,そのC末端側で,配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,配列番号6で示されるヒトα-L-イズロニダーゼと結合しており,全体として配列番号27で示されるアミノ酸配列を有するものである,融合蛋白質。
【0074】
本発明において,生理活性を有する蛋白質は,例えば,当該蛋白質をコードする遺伝子が発現又は強発現することによって,当該蛋白質を産生するように人為的な操作を加えた,哺乳動物細胞を培養することにより産生させることができる。このとき蛋白質を産生する哺乳動物細胞内で強発現させる該遺伝子は,該遺伝子が組み込まれた発現ベクターで形質転換させることにより該哺乳動物細胞に導入するのが一般的である。また,このとき用いられる哺乳動物細胞について特に限定はないが,ヒト,マウス,チャイニーズハムスター由来の細胞が好ましく,特にチャイニーズハムスター卵巣細胞由来のCHO細胞が好ましい。本発明において,蛋白質というときは,特に,このような蛋白質を産生する哺乳動物細胞を培養したときに,培地中に分泌される組換え蛋白質のことをいう。
【0075】
本発明の一実施形態における水性医薬組成物は,有効成分として生理活性を有する蛋白質と,2種又はそれ以上の非イオン性界面活性剤を含有してなるものである。当該水性医薬組成物は,更に中性塩,二糖類,及び緩衝剤の少なくとも一つを含有してなるものであってもよい。
【0076】
水性医薬組成物に含まれる2種又はそれ以上の非イオン性界面活性剤には,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,かかる非イオン性界面活性剤として,ポリソルベート及びポロキサマーが好適である。ここで,ポリソルベートとしては,ポリソルベート20,ポリソルベート80が例示できる。また,ポロキサマーとしては,ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール,ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール,ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール,ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール,ポリオキシエチレン(3)ポリオキシプロピレン(17)グリコール,ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール,ポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)グリコールが例示でき,ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールが特に好適である。ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールはポロキサマー188と同義である。
【0077】
水性医薬組成物が2種の非イオン性界面活性剤を含有するものであるときの,好ましい非イオン性界面活性剤の組み合わせとしては,一方がポリソルベートであり他方がポロキサマーであるものである。例えば,ポリソルベート20とポロキサマー188,ポリソルベート80とポロキサマー188の組み合わせが好ましく,ポリソルベート80とポロキサマー188の組み合わせが特に好ましい。これらの組み合わせに更に他の種類のポリソルベート,ポロキサマー等を組み合わせることもできる。
【0078】
水性医薬組成物における2種又はそれ以上の非イオン性界面活性剤のうち,2種の濃度は,好ましくはそれぞれ0.105~0.6 mg/mL及び0.005~1.5 mg/mLであり,より好ましくはそれぞれ0.1~0.5 mg/mL及び0.025~1.0 mg/mLであり,更に好ましくはそれぞれ0.15~0.45 mg/mL及び0.05~1.0 mg/mLであり,更により好ましくはそれぞれ0.25~0.45 mg/mL及び0.05~0.15 mg/mLであり,例えば,それぞれ0.325 mg/mL及び0.075 mg/mLである。また例えば,それぞれ0.162 mg/mL及び0.075 mg/mLであり,それぞれ0.130 mg/mL及び0.075 mg/mLであり,それぞれ0.108 mg/mL及び0.075 mg/mLであり,それぞれ0.08 mg/mL及び0.075 mg/mLである。
【0079】
水性医薬組成物が,2種の非イオン性界面活性剤としてポリソルベートとポロキサマーを含有する場合の,ポリソルベートの濃度は,好ましくは0.005~1.5 mg/mLであり,より好ましくは0.025~1.0 mg/mLであり,更に好ましくは0.05~1.0 mg/mLであり,更により好ましくは0.05~0.15 mg/mLであり,例えば,0.075 mg/mLである。また,このときのポロキサマーの濃度は,好ましくは0.105~0.6 mg/mLであり,より好ましくは0.1~0.5 mg/mLであり,更に好ましくは0.15~0.45 mg/mLであり,例えば,0.325 mg/mLである。また例えば,0.162 mg/mLであり,0.130 mg/mLであり,0.108 mg/mLであり,0.08 mg/mLである。
【0080】
水性医薬組成物が,2種の非イオン性界面活性剤としてポリソルベート80とポロキサマー188を含有する場合の,ポリソルベート80の濃度は,好ましくは0.005~0.15 mg/mLであり,より好ましくは0.025~1.0 mg/mLであり,更に好ましくは0.05~1.0 mg/mLであり,例えば,0.075 mg/mLである。また,このときのポロキサマー188の濃度は,好ましくは0.105~0.6 mg/mLであり,より好ましくは0.1~0.5 mg/mLであり,更に好ましくは0.15~0.45 mg/mLであり,例えば,0.325 mg/mLであり,また例えば,0.162 mg/mLであり,0.130 mg/mLであり,0.108 mg/mLであり,0.08 mg/mLである。例えば,ポリソルベート80の濃度が0.05~1.0 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.15~0.45 mg/mLである。更に,例えば,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.325 mg/mLである。また例えば,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.162 mg/mLであり,例えば,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.130 mg/mLであり,例えば,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.108 mg/mLであり,例えば,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.08 mg/mLである。
【0081】
水性医薬組成物に含まれる中性塩には,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,かかる中性塩としては,塩化ナトリウム,塩化マグネシウムが好適であり,特に塩化ナトリウムが好適である。
【0082】
水性医薬組成物における中性塩の濃度は,好ましくは0.3~1.2 mg/mLであり,より好ましくは0.5~1.0 mg/mLであり,更に好ましくは0.7~0.9 mg/mLであり,例えば,0.8 mg/mLである。
【0083】
水性医薬組成物に含まれる二糖類には,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,かかる二糖類としては,トレハロース,スクロース,マルトース,乳糖又はこれらを組み合わせたものが好適であり,特にスクロースが好適である。
【0084】
水性医薬組成物における二糖類の濃度は,好ましくは50~100 mg/mLであり,より好ましくは55~95 mg/mLであり,更に好ましくは60~90 mg/mLであり,例えば,75 mg/mLである。
【0085】
水性医薬組成物に含まれる緩衝剤には,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,クエン酸緩衝剤,リン酸緩衝剤,グリシン緩衝剤,ヒスチジン緩衝剤,炭酸緩衝剤,酢酸緩衝剤,又はこれらを組み合わせたものが好ましい。水性医薬組成物に含まれる緩衝剤の濃度は,好ましくは3~30 mMであり,より好ましくは10~30 mMであり,更に好ましくは15~25 mMであり,例えば20 mMである。また,緩衝剤によって調整される水性医薬組成物のpHは,好ましくは4.5~7.0であり,より好ましくは4.5~6.5であり,更に好ましくは5.0~6.0であり,更により好ましくは5.2~5.8であり,例えば5.5である。緩衝剤としてクエン酸緩衝剤が使用される場合,水性医薬組成物に含まれるクエン酸緩衝剤の濃度は,好ましくは3~30 mMであり,より好ましくは10~30 mMであり,更に好ましくは15~25 mMであり,例えば20 mMである。また,クエン酸緩衝剤によって調整される水性医薬組成物のpHは,好ましくは4.5~7.0であり,より好ましくは4.5~6.5であり,更に好ましくは5.0~6.0であり,更により好ましくは5.2~5.8であり,例えば5.5である。
【0086】
本発明の水性医薬組成物の好適な組成として,
(A)生理活性を有する蛋白質の濃度が0.5~20 mg/mLであり,中性塩の濃度が0.3~1.2 mg/mLであり,二糖類の濃度が50~100 mg/mLであり,2種又はそれ以上の非イオン性界面活性剤のうち,2種の非イオン性界面活性剤の濃度が,それぞれ0.105~0.6 mg/mL及び0.005~1.5 mg/mLであり,緩衝剤の濃度が3~30 mMであって,pHが4.5~6.5であるもの,
(B)生理活性を有する蛋白質の濃度が1.0~10 mg/mLであり,中性塩の濃度が0.5~1.0 mg/mLであり,二糖類の濃度が55~95 mg/mLであり,2種又はそれ以上の非イオン性界面活性剤のうち,2種の非イオン性界面活性剤の濃度が,それぞれ0.1~0.5 mg/mL及び0.025~1.0 mg/mLであり,緩衝剤の濃度が10~30 mMであって,pHが5.0~6.0であるもの,
(C)生理活性を有する蛋白質の濃度が2.0~10 mg/mLであり,中性塩の濃度が0.7~0.9 mg/mLであり,二糖類の濃度が60~90 mg/mLであり,2種又はそれ以上の非イオン性界面活性剤のうち,2種の非イオン性界面活性剤の濃度が,それぞれ0.15~0.45 mg/mL及び0.05~0.15 mg/mLであり,緩衝剤の濃度が15~25 mMであって,pHが5.2~5.8であるもの,が挙げられる。
【0087】
上記(A)~(C)で示される水性医薬組成物において,生理活性を有する蛋白質は,例えば,ヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質である。係るヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質の好ましい形態として,以下のものが挙げられる。すなわち,配列番号22で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の軽鎖と,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体のFab重鎖のC末端側に,配列番号6で示されるヒトα-L-イズロニダーゼが,配列番号4で示されるリンカーを介して結合したものとからなる,融合蛋白質。
【0088】
また,上記(A)~(C)で示される水性医薬組成物において,生理活性を有する蛋白質がヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質である場合の,当該融合蛋白質の更なる好ましい形態として,以下のものが挙げられる。すなわち,該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号22で示されるアミノ酸配列を有するものであり,該ヒト化抗hTfR抗体のFab重鎖が,そのC末端側で,配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,配列番号6で示されるヒトα-L-イズロニダーゼと結合しており,全体として配列番号27で示されるアミノ酸配列を有するものである,融合蛋白質。
【0089】
上記(A)~(C)で示される水性医薬組成物において,ヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質の好ましい濃度は,0.5~20 mg/mL,1.0~10 mg/mL,2.0~10 mg/mL又は2.0~6.0 mg/mLであり,適宜,2.5 mg/mL,5.0 mg/mL等に調整される。
【0090】
上記(A)~(C)で示される水性医薬組成物において,中性塩としては,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,塩化ナトリウムが好ましい。中性塩として塩化ナトリウムが使用される場合,その濃度は,好ましくは0.3~1.2 mg/mLであり,より好ましくは0.5~1.0 mg/mLであり,更に好ましくは0.7~0.9 mg/mLであり,例えば,0.8 mg/mLである。
【0091】
上記(A)~(C)で示される水性医薬組成物において,二糖類としては,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,スクロースが好ましい。二糖類としてスクロースが使用される場合,その濃度は,好ましくは50~100 mg/mLであり,より好ましくは55~95 mg/mLであり,更に好ましくは60~90 mg/mLであり,例えば,75 mg/mLである。
【0092】
上記(A)~(C)で示される水性医薬組成物において,2種又はそれ以上の非イオン性界面活性剤には,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,かかる非イオン性界面活性剤として,ポリソルベート及びポロキサマーが好適である。ここで,ポリソルベートとしては,ポリソルベート20,ポリソルベート80が例示できる。また,ポロキサマーとしては,ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール,ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール,ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール,ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール,ポリオキシエチレン(3)ポリオキシプロピレン(17)グリコール,ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール,ポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)グリコールが例示でき,ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールが特に好適である。当該水性医薬組成物が2種の非イオン性界面活性剤を含有するものであるときの,好ましい非イオン性界面活性剤の組み合わせとしては,一方がポリソルベートであり他方がポロキサマーであるものである。例えば,ポリソルベート20とポロキサマー188,ポリソルベート80とポロキサマー188の組み合わせが好ましく,ポリソルベート80とポロキサマー188の組み合わせが特に好ましい。これらの組み合わせに更に他の種類のポリソルベート,ポロキサマー等を組み合わせることもできる。当該水性医薬組成物における2種又はそれ以上の非イオン性界面活性剤の濃度は,好ましくはそれぞれ0.105~0.6 mg/mL及び0.005~1.5 mg/mLであり,より好ましくはそれぞれ0.1~0.5 mg/mL及び0.025~1.0 mg/mLであり,更に好ましくはそれぞれ0.15~0.45 mg/mL及び0.05~1.0 mg/mLであり,更により好ましくはそれぞれ0.25~0.45 mg/mL及び0.05~0.15 mg/mLであり,例えば,それぞれ0.325 mg/mL及び0.075 mg/mLである。また例えば,それぞれ0.162 mg/mL及び0.075 mg/mLであり,それぞれ0.130 mg/mL及び0.075 mg/mLであり,それぞれ0.108 mg/mL及び0.075 mg/mLであり,それぞれ0.08 mg/mL及び0.075 mg/mLである。当該水性医薬組成物が,2種の非イオン性界面活性剤としてポリソルベートとポロキサマーを含有する場合の,ポリソルベートの濃度は,0.005~1.5 mg/mLであり,より好ましくは0.025~1.0 mg/mLであり,更に好ましくは0.05~1.0 mg/mLであり,更により好ましくは0.05~0.15 mg/mLであり,例えば,0.075 mg/mLである。また,このときのポロキサマーの濃度は,好ましくは0.105~0.6 mg/mLであり,より好ましくは0.1~0.5 mg/mLであり,更に好ましくは0.15~0.45 mg/mLであり,例えば,0.325 mg/mLである。また例えば,0.162 mg/mLであり,0.130 mg/mLであり,0.108 mg/mLであり,0.08 mg/mLである。
【0093】
上記(A)~(C)で示される水性医薬組成物において用いられる緩衝剤は,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,クエン酸緩衝剤が好ましい。緩衝剤としてクエン酸緩衝剤が使用される場合,その濃度は,好ましくは3~30 mMであり,より好ましくは10~30 mMであり,更に好ましくは15~25 mMであり,例えば20 mMである。また,緩衝剤によって調整される水性医薬組成物のpHは,好ましくは4.5~6.5であり,より好ましくは5.0~6.0であり,更に好ましくは5.2~5.8であり,例えば5.5である。
【0094】
生理活性を有する蛋白質が抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質である場合の,水性医薬組成物の好適な組成の一例として,当該融合蛋白質がヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質であり,その濃度が1~10mg/mLであり,中性塩(特に塩化ナトリウム)の濃度が0.3~1.2 mg/mLであり,二糖類(特にスクロース)の濃度が50~100 mg/mLであり,ポリソルベート(特にポリソルベート80)の濃度が0.025~1.0 mg/mLであり,ポロキサマー(特にポロキサマー188)の濃度が0.1~0.5 mg/mLであり,クエン酸緩衝剤の濃度が10~30 mMであるものが挙げられる。より具体的には,ヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質の濃度が1~10 mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.5~1.0 mg/mLであり,スクロースの濃度が55~95 mg/mLであり,ポリソルベート(特にポリソルベート80)の濃度が0.05~1.0 mg/mLであり,ポロキサマー(特にポロキサマー188)の濃度が0.15~0.45 mg/mLであり,クエン酸緩衝剤の濃度が15~25 mMであるものが挙げられる。更に具体的には,ヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質の濃度が1~10mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.7~0.9 mg/mLであり,スクロースの濃度が60~90 mg/mLであり,ポリソルベート(特にポリソルベート80)の濃度が0.05~0.15 mg/mLであり,ポロキサマー(特にポロキサマー188)の濃度が0.15~0.45 mg/mLであり,クエン酸緩衝剤の濃度が15~25 mMであるものが挙げられる。更により具体的には,ヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質の濃度が5 mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.8 mg/mLであり,スクロースの濃度が75 mg/mLであり,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.325 mg/mLであり,クエン酸緩衝剤の濃度が20 mMであるものが挙げられる。また具体的には,ヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質の濃度が5 mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.8 mg/mLであり,スクロースの濃度が75 mg/mLであり,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.162 mg/mLであり,クエン酸緩衝剤の濃度が20 mMであるものが挙げられる。また具体的には,ヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質の濃度が5 mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.8 mg/mLであり,スクロースの濃度が75 mg/mLであり,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.130 mg/mLであり,クエン酸緩衝剤の濃度が20 mMであるものが挙げられる。また具体的には,ヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質の濃度が5 mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.8 mg/mLであり,スクロースの濃度が75 mg/mLであり,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.108 mg/mLであり,クエン酸緩衝剤の濃度が20 mMであるものが挙げられる。また具体的には,ヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質の濃度が5 mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.8 mg/mLであり,スクロースの濃度が75 mg/mLであり,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.08 mg/mLであり,クエン酸緩衝剤の濃度が20 mMであるものが挙げられる。
【0095】
生理活性を有する蛋白質を有効成分とする本発明の水性医薬組成物は,2~8℃の温度の暗所で,好ましくは3ヶ月間,より好ましくは1年間,更に好ましくは2年間,より更に好ましくは3年間又はそれ以上の期間,例えば,4年間,5年間,6年間等の期間,安定に保存することができる。また,本発明の水性医薬組成物は,22~28℃の温度の暗所で,好ましくは3ヶ月間,より好ましくは6ヶ月間,安定に保存することができる。
【0096】
生理活性を有する蛋白質を有効成分とする本発明の水性医薬組成物は,注射剤として静脈内,筋肉内,腹腔内又は皮下に投与することができる。本発明の水性医薬組成物は,バイアルに充填した形態としてもよく,注射器に予め充填したものであるプレフィルド型の製剤として供給することもできる。水性医薬組成物を充填するための注射器,バイアル等の容器の材質に特に限定はないが,ほう珪酸ガラス製のものが好適であり,この他,環状オレフィンとオレフィンの共重合体であるシクロオレフィンコポリマー,シクロオレフィン類開環重合体又は,シクロオレフィン類開環重合体に水素添加したもの等の疎水性樹脂製のものも好適である。
【0097】
本発明の一実施形態における凍結乾燥医薬組成物は,有効成分として生理活性を有する蛋白質と,2種又はそれ以上の非イオン性界面活性剤を含有してなるものである。当該凍結乾燥医薬組成物は,更に中性塩,二糖類,及び緩衝剤の少なくとも一つを含有してなるものであってもよい。
【0098】
凍結乾燥医薬組成物に含まれる2種又はそれ以上の非イオン性界面活性剤には,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,かかる非イオン性界面活性剤として,ポリソルベート及びポロキサマーが好適である。ここで,ポリソルベートとしては,ポリソルベート20,ポリソルベート80が例示できる。また,ポロキサマーとしては,ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール,ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール,ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール,ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール,ポリオキシエチレン(3)ポリオキシプロピレン(17)グリコール,ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール,ポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)グリコールが例示でき,ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールが特に好適である。ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールはポロキサマー188と同義である。
【0099】
凍結乾燥医薬組成物が2種の非イオン性界面活性剤を含有するものであるときの,好ましい非イオン性界面活性剤の組み合わせとしては,一方がポリソルベートであり他方がポロキサマーであるものである。例えば,ポリソルベート20とポロキサマー188,ポリソルベート80とポロキサマー188の組み合わせが好ましく,ポリソルベート80とポロキサマー188の組み合わせが特に好ましい。これらの組み合わせに更に他の種類のポリソルベート,ポロキサマー等を組み合わせることもできる。
【0100】
本発明の一実施形態において,凍結乾燥医薬組成物は,水性溶媒に溶解させてから用いられる。このとき用いられる水性溶媒として好適なものとしては,純水,生理食塩水が挙げられるが,これらに限定されるものではない。凍結乾燥医薬組成物を水性溶媒に溶解させた場合,凍結乾燥した成分の一部が溶解しないという問題が生じることがあるが,当該凍結乾燥医薬組成物にあっては,かかる問題は生じない。凍結乾燥医薬組成物を水性溶媒で溶解させたものも,本発明の水性医薬組成物である。この場合の水性医薬組成物は,2~8℃の温度の暗所で,好ましくは1日間,より好ましくは1週間,安定に保存することができる。当該凍結乾燥医薬組成物は,凍結乾燥医薬組成物の状態で,2~8℃の温度の暗所で,好ましくは3ヶ月間,より好ましくは1年間,更に好ましくは2年間,より更に好ましくは3年間,又はそれ以上の期間,例えば,4年間,5年間,6年間等の期間,安定に保存することができる。また,当該凍結乾燥医薬組成物は,22~28℃の温度の暗所で,好ましくは3ヶ月間,より好ましくは6ヶ月間,安定に保存することができる。
【0101】
凍結乾燥医薬組成物を溶解して得られる水性医薬組成物における2種又はそれ以上の非イオン性界面活性剤のうち,2種の濃度は,好ましくはそれぞれ0.105~0.6 mg/mL及び0.005~1.5 mg/mLであり,より好ましくはそれぞれ0.1~0.5 mg/mL及び0.025~1.0 mg/mLであり,更に好ましくはそれぞれ0.15~0.45 mg/mL及び0.05~1.0 mg/mLであり,更により好ましくはそれぞれ0.15~0.45 mg/mL及び0.05~0.15 mg/mLであり,例えば,それぞれ0.325 mg/mL及び0.075 mg/mLである。また例えば,それぞれ0.162 mg/mL及び0.075 mg/mLであり,それぞれ0.130 mg/mL及び0.075 mg/mLであり,それぞれ0.108 mg/mL及び0.075 mg/mLであり,それぞれ0.08 mg/mL及び0.075 mg/mLである。
【0102】
凍結乾燥医薬組成物が,2種の非イオン性界面活性剤としてポリソルベートとポロキサマーを含有する場合,これを溶解して得られる水性医薬組成物のポリソルベートの濃度は,好ましくは0.005~1.5 mg/mLであり,より好ましくは0.025~1.0 mg/mLであり,更に好ましくは0.05~1.0 mg/mLであり,更により好ましくは0.05~0.15 mg/mLであり,例えば,0.075 mg/mLである。また,このときのポロキサマーの濃度は,好ましくは0.105~0.6 mg/mLであり,より好ましくは0.1~0.5 mg/mLであり,更に好ましくは0.15~0.45 mg/mLであり,例えば,0.325 mg/mLである。また例えば,0.162 mg/mLであり,0.130 mg/mLであり,0.108 mg/mLであり,0.08 mg/mLである。
【0103】
凍結乾燥医薬組成物が,2種の非イオン性界面活性剤としてポリソルベート80とポロキサマー188を含有する場合,これを溶解して得られる水性医薬組成物の,ポリソルベート80の濃度は,好ましくは0.005~0.15 mg/mLであり,より好ましくは0.025~1.0 mg/mLであり,更に好ましくは0.05~1.0 mg/mLであり,例えば,0.075 mg/mLである。また,このときのポロキサマー188の濃度は,好ましくは0.105~0.6 mg/mLであり,より好ましくは0.1~0.5 mg/mLであり,更に好ましくは0.15~0.45 mg/mLであり,例えば,0.325 mg/mLである。また例えば,0.162 mg/mLであり,0.130 mg/mLであり,0.108 mg/mLであり,0.08 mg/mLである。例えば,ポリソルベート80の濃度が0.05~1.0 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.15~0.45 mg/mLである。更に,例えば,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.325 mg/mLである。また例えば,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.162 mg/mLであり,例えば,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.130 mg/mLであり,例えば,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.108 mg/mLであり,例えば,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.08 mg/mLである。
【0104】
凍結乾燥医薬組成物に含まれる中性塩には,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,かかる中性塩としては,塩化ナトリウム,塩化マグネシウムが好適であり,特に塩化ナトリウムが好適である。
【0105】
凍結乾燥医薬組成物が,中性塩を含有する場合,これを溶解して得られる水性医薬組成物の,中性塩の濃度は,好ましくは0.3~1.2 mg/mLであり,より好ましくは0.5~1.0 mg/mLであり,更に好ましくは0.7~0.9 mg/mLであり,例えば,0.8 mg/mLである。
【0106】
凍結乾燥医薬組成物に含まれる二糖類には,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,かかる二糖類としては,トレハロース,スクロース,マルトース,乳糖又はこれらを組み合わせたものが好適であり,特にスクロースが好適である。
【0107】
凍結乾燥医薬組成物が,二糖類を含有する場合,これを溶解して得られる水性医薬組成物の,二糖類の濃度は,好ましくは50~100 mg/mLであり,より好ましくは55~95 mg/mLであり,更に好ましくは60~90 mg/mLであり,例えば,75 mg/mLである。
【0108】
凍結乾燥医薬組成物に含まれる緩衝剤には,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,クエン酸緩衝剤,リン酸緩衝剤,グリシン緩衝剤,ヒスチジン緩衝剤,炭酸緩衝剤,酢酸緩衝剤,又はこれらを組み合わせたものが好ましい。凍結乾燥医薬組成物が,緩衝剤を含有する場合,これを溶解して得られる水性医薬組成物の,緩衝剤の濃度は,好ましくは3~30 mMであり,より好ましくは10~30 mMであり,更に好ましくは15~25 mMであり,例えば20 mMである。また,緩衝剤によって調整される該水性医薬組成物のpHは,好ましくは4.5~7.0であり,より好ましくは4.5~6.5であり,更に好ましくは5.0~6.0であり,更により好ましくは5.2~5.8であり,例えば5.5である。緩衝剤としてクエン酸緩衝剤が使用される場合,該水性医薬組成物に含まれるクエン酸緩衝剤の濃度は,好ましくは3~30 mMであり,より好ましくは10~30 mMであり,更に好ましくは15~25 mMであり,例えば20 mMである。また,クエン酸緩衝剤によって調整される該水性医薬組成物のpHは,好ましくは4.5~7.0であり,より好ましくは4.5~6.5であり,更に好ましくは5.0~6.0であり,更により好ましくは5.2~5.8であり,例えば5.5である。
【0109】
本発明の凍結乾燥医薬組成物の好適なものとして,これを溶解して得られる水性医薬組成物の組成が,
(D)生理活性を有する蛋白質の濃度が0.5~20 mg/mLであり,中性塩の濃度が0.3~1.2 mg/mLであり,二糖類の濃度が50~100 mg/mLであり,2種又はそれ以上の非イオン性界面活性剤のうち,2種の非イオン性界面活性剤の濃度が,それぞれ0.105~0.6 mg/mL及び0.005~1.5 mg/mLであり,緩衝剤の濃度が3~30 mMであって,pHが4.5~6.5であるもの,
(E)生理活性を有する蛋白質の濃度が1.0~10 mg/mLであり,中性塩の濃度が0.5~1.0 mg/mLであり,二糖類の濃度が55~95 mg/mLであり,2種又はそれ以上の非イオン性界面活性剤のうち,2種の非イオン性界面活性剤の濃度が,それぞれ0.1~0.5 mg/mL及び0.025~1.0 mg/mLであり,緩衝剤の濃度が10~30 mMであって,pHが5.0~6.0であるもの,
(F)生理活性を有する蛋白質の濃度が2.0~10 mg/mLであり,中性塩の濃度が0.7~0.9 mg/mLであり,二糖類の濃度が60~90 mg/mLであり,2種又はそれ以上の非イオン性界面活性剤のうち,2種の非イオン性界面活性剤の濃度が,それぞれ0.15~0.45 mg/mL及び0.05~0.15 mg/mLであり,緩衝剤の濃度が15~25 mMであって,pHが5.2~5.8であるもの,が挙げられる。
【0110】
上記(D)~(F)において,生理活性を有する蛋白質は,例えば,ヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質である。係るヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質の好ましい形態として,以下のものが挙げられる。すなわち,配列番号22で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の軽鎖と,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体のFab重鎖のC末端側に,配列番号6で示されるヒトα-L-イズロニダーゼが,配列番号4で示されるリンカーを介して結合したものとからなる,融合蛋白質。
【0111】
また,上記(D)~(F)において,生理活性を有する蛋白質がヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質である場合の,当該融合蛋白質の更なる好ましい形態として,以下のものが挙げられる。すなわち,該ヒト化抗hTfR抗体の軽鎖が,配列番号22で示されるアミノ酸配列を有するものであり,該ヒト化抗hTfR抗体のFab重鎖が,そのC末端側で,配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するリンカーを介して,配列番号6で示されるヒトα-L-イズロニダーゼと結合しており,全体として配列番号27で示されるアミノ酸配列を有するものである,融合蛋白質。
【0112】
上記(D)~(F)において,ヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質の好ましい濃度は,0.5~20 mg/mL,1.0~10 mg/mL,2.0~10 mg/mL又は2.0~6.0 mg/mLであり,適宜,2.5 mg/mL,5.0 mg/mL等に調整される。
【0113】
上記(D)~(F)において,中性塩としては,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,塩化ナトリウムが好ましい。中性塩として塩化ナトリウムが使用される場合,その濃度は,好ましくは0.3~1.2 mg/mLであり,より好ましくは0.5~1.0 mg/mLであり,更に好ましくは0.7~0.9 mg/mLであり,例えば,0.8 mg/mLである。
【0114】
上記(D)~(F)において,二糖類としては,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,スクロースが好ましい。二糖類としてスクロースが使用される場合,その濃度は,好ましくは50~100 mg/mLであり,より好ましくは55~95 mg/mLであり,更に好ましくは60~90 mg/mLであり,例えば,75 mg/mLである。
【0115】
上記(D)~(F)において,2種又はそれ以上の非イオン性界面活性剤には,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,かかる非イオン性界面活性剤として,ポリソルベート及びポロキサマーが好適である。ここで,ポリソルベートとしては,ポリソルベート20,ポリソルベート80が例示できる。また,ポロキサマーとしては,ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール,ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール,ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール,ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール,ポリオキシエチレン(3)ポリオキシプロピレン(17)グリコール,ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール,ポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)グリコールが例示でき,ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールが特に好適である。上記(D)~(F)が,2種の非イオン性界面活性剤を含有するものであるときの,好ましい非イオン性界面活性剤の組み合わせとしては,一方がポリソルベートであり他方がポロキサマーであるものである。例えば,ポリソルベート20とポロキサマー188,ポリソルベート80とポロキサマー188の組み合わせが好ましく,ポリソルベート80とポロキサマー188の組み合わせが特に好ましい。これらの組み合わせに更に他の種類のポリソルベート,ポロキサマー等を組み合わせることもできる。上記(D)~(F)における2種又はそれ以上の非イオン性界面活性剤のうち,2種の濃度は,好ましくはそれぞれ0.105~0.6 mg/mL及び0.005~1.5 mg/mLであり,より好ましくはそれぞれ0.1~0.5 mg/mL及び0.025~1.0 mg/mLであり,更に好ましくはそれぞれ0.15~0.45 mg/mL及び0.05~1.0 mg/mLであり,更により好ましくはそれぞれ0.15~0.45 mg/mL及び0.05~0.15 mg/mLであり,例えば,それぞれ0.325 mg/mL及び0.075 mg/mLである。また例えば,それぞれ0.162 mg/mL及び0.075 mg/mLであり,それぞれ0.130 mg/mL及び0.075 mg/mLであり,それぞれ0.108 mg/mL及び0.075 mg/mLであり,それぞれ0.08 mg/mL及び0.075 mg/mLである。上記(D)~(F)が,2種の非イオン性界面活性剤としてポリソルベートとポロキサマーを含有する場合の,ポリソルベートの濃度は,0.005~1.5 mg/mLであり,より好ましくは0.025~1.0 mg/mLであり,更に好ましくは0.05~1.0 mg/mLであり,更により好ましくは0.05~0.15 mg/mLであり,例えば,0.075 mg/mLである。また,このときのポロキサマーの濃度は,好ましくは0.105~0.6 mg/mLであり,より好ましくは0.1~0.5 mg/mLであり,更に好ましくは0.15~0.45 mg/mLであり,例えば,0.325 mg/mLである。また例えば,0.162 mg/mLであり,0.130 mg/mLであり,0.108 mg/mLであり,0.08 mg/mLである。
【0116】
上記(D)~(F)において用いられる緩衝剤は,薬剤学的に許容し得るものである限り特に限定はないが,クエン酸緩衝剤が好ましい。緩衝剤としてクエン酸緩衝剤が使用される場合,その濃度は,好ましくは3~30 mMであり,より好ましくは10~30 mMであり,更に好ましくは15~25 mMであり,例えば20 mMである。また,緩衝剤によって調整される水性医薬組成物のpHは,好ましくは4.5~6.5であり,より好ましくは5.0~6.0であり,更に好ましくは5.2~5.8であり,例えば5.5である。
【0117】
生理活性を有する蛋白質が抗体とヒトリソソーム酵素との融合蛋白質である場合の,凍結乾燥医薬組成物の好適な組成の一例として,該融合蛋白質がヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質であり,凍結乾燥医薬組成物を溶解して得られる水性医薬組成物における該融合蛋白質の濃度が1~10mg/mLであり,中性塩(特に塩化ナトリウム)の濃度が0.3~1.2 mg/mLであり,二糖類(特にスクロース)の濃度が50~100 mg/mLであり,ポリソルベート(特にポリソルベート80)の濃度が0.025~1.0 mg/mLであり,ポロキサマー(特にポロキサマー188)の濃度が0.1~0.5 mg/mLであり,クエン酸緩衝剤の濃度が10~30 mMであるものが挙げられる。より具体的には,ヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質の濃度が1~10mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.5~1.0 mg/mLであり,スクロースの濃度が55~95 mg/mLであり,ポリソルベート(特にポリソルベート80)の濃度が0.05~1.0 mg/mLであり,ポロキサマー(特にポロキサマー188)の濃度が0.15~0.45 mg/mLであり,クエン酸緩衝剤の濃度が15~25 mMであるものが挙げられる。更に具体的には,ヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質の濃度が1~10mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.7~0.9 mg/mLであり,スクロースの濃度が60~90 mg/mLであり,ポリソルベート(特にポリソルベート80)の濃度が0.05~0.15 mg/mLであり,ポロキサマー(特にポロキサマー188)の濃度が0.15~0.45 mg/mLであり,クエン酸緩衝剤の濃度が15~25 mMであるものが挙げられる。更により具体的には,ヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質の濃度が5 mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.8 mg/mLであり,スクロースの濃度が75 mg/mLであり,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.325 mg/mLであり,クエン酸緩衝剤の濃度が20 mMであるものが挙げられる。また具体的には,ヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質の濃度が5 mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.8 mg/mLであり,スクロースの濃度が75 mg/mLであり,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.162 mg/mLであり,クエン酸緩衝剤の濃度が20 mMであるものが挙げられる。また具体的には,ヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質の濃度が5mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.8 mg/mLであり,スクロースの濃度が75 mg/mLであり,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.130 mg/mLであり,クエン酸緩衝剤の濃度が20 mMであるものが挙げられる。また具体的には,ヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質の濃度が5 mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.8 mg/mLであり,スクロースの濃度が75 mg/mLであり,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.108 mg/mLであり,クエン酸緩衝剤の濃度が20 mMであるものが挙げられる。また具体的には,ヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質の濃度が5mg/mLであり,塩化ナトリウムの濃度が0.8 mg/mLであり,スクロースの濃度が75 mg/mLであり,ポリソルベート80の濃度が0.075 mg/mLであり,ポロキサマー188の濃度が0.08 mg/mLであり,クエン酸緩衝剤の濃度が20 mMであるものが挙げられる。
【0118】
本発明の凍結乾燥製剤は,これを溶解するための専用の溶液と共にキットとして供給することもできる。凍結乾燥製剤は,例えば,使用前に専用の溶液,純水等で溶解した後に,患者の静脈内,筋肉内,腹腔内又は皮下等に投与される。凍結乾燥製剤を封入,充填等するためのシリンジ及びバイアル等の容器の材質に特に限定はないが,ほう珪酸ガラス製のものが好適であり,この他,環状オレフィンとオレフィンの共重合体であるシクロオレフィンコポリマー,シクロオレフィン類開環重合体又は,シクロオレフィン類開環重合体に水素添加したもの等の疎水性樹脂製のものも好適である。
【0119】
本発明の一実施形態における水性医薬組成物は,2~8 ℃の温度で,暗所で36ヶ月保存後の重合体の含有比率が,好ましくは0.5%以下であり,より好ましくは0.4%以下であり,更に好ましくは0.3%以下である。また,本発明の一実施形態における水性医薬組成物は,2~8 ℃の温度で,36ヶ月暗所で保存後の,重合体の含有比率と分解物の含有比率が,それぞれ,好ましくは0.5%以下及び1%以下であり,より好ましくは0.4%以下及び0.8%以下であり,更に好ましくは0.3%以下及び0.6%以下である。
【0120】
本発明の一実施形態における水性医薬組成物は,製造後,好ましくは24ヶ月,より好ましくは36ヶ月,更に好ましくは48ヶ月,より更に好ましくは72ヶ月,2~8℃の温度で,暗所で保存することができる。つまり納入先の医療機関で水性医薬組成物として患者に投与可能な状態で長期間保存することができる。
【0121】
本発明の一実施形態における凍結乾燥医薬組成物は,2~8 ℃の温度で,暗所で36ヶ月保存後の重合体の含有比率が,好ましくは0.5%以下であり,より好ましくは0.4%以下であり,更に好ましくは0.3%以下である。また,本発明の一実施形態における水性医薬組成物は,2~8 ℃の温度で,36ヶ月暗所で保存後の,重合体の含有比率と分解物の含有比率が,それぞれ,好ましくは0.5%以下及び0.1%以下であり,より好ましくは0.4%以下及び0.07%以下であり,更に好ましくは0.3%以下及び0.05%である。
【0122】
本発明の一実施形態における凍結乾燥医薬組成物は,製造後,好ましくは24ヶ月,より好ましくは36ヶ月,更に好ましくは48ヶ月,より更に好ましくは72ヶ月,2~8℃の温度で,暗所で保存することができる。つまり納入先の医療機関で凍結乾燥医薬組成物として患者に投与可能な状態で長期間保存することができる。
【実施例0123】
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。
【0124】
〔実施例1〕ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA融合蛋白質発現用ベクターの構築
ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA融合蛋白質発現用ベクターは,配列番号22で示されるアミノ酸配列を有する軽鎖と,配列番号23で示されるアミノ酸配列を有する重鎖のFab領域とをコードする遺伝子を用いて構築した。
【0125】
〔pE-neoベクター及びpE-hygrベクターの構築〕
pEF/myc/nucベクター(インビトロジェン社)を,KpnIとNcoIで消化し,EF-1プロモーター及びその第一イントロンを含む領域を切り出し,これをT4 DNA ポリメラーゼで平滑末端化処理した。別に,pCI-neo(インビトロジェン社)を,BglII及びEcoRIで消化して,CMVのエンハンサー/プロモーター及びイントロンを含む領域を切除した後に,T4 DNA ポリメラーゼで平滑末端化処理した。これに,上記のEF-1αプロモーター及びその第一イントロンを含む領域(平滑末端化処理後のもの)を挿入して,pE-neoベクターを構築した。pE-neoベクターを,SfiI及びBstXIで消化し,ネオマイシン耐性遺伝子を含む約1 kbpの領域を切除した。pcDNA3-1/Hygro(+)(インビトロジェン社)を鋳型にしてプライマーHyg-Sfi5’(配列番号13)及びプライマーHyg-BstX3’(配列番号14)を用いて,PCR反応によりハイグロマイシン遺伝子を増幅した。増幅したハイグロマイシン遺伝子を,SfiI及びBstXIで消化し,上記のpE-neoベクターに挿入して,pE-hygrベクターを構築した。なお,pE-neoベクター及びpE-hygrベクターの構築は,特許文献(特第6279466号)を参考にして行った。
【0126】
〔pE-IRES-GS-puroの構築〕
発現ベクターpPGKIH(Miyahara M. et.al., J. Biol. Chem. 275,613-618(2000) )を制限酵素(XhoI及びBamHI)で消化し,マウス脳心筋炎ウイルス(EMCV)に由来する内部リボソーム結合部位(IRES),ハイグロマイシン耐性遺伝子(Hygr遺伝子)及びマウスホスホグリセリン酸キナーゼ(mPGK)のポリアデニル化領域(mPGKpA)を含むDNA断片を切り出した。このDNA断片をpBluescript SK(-) (Stratagene社)のXhoI及びBamHIサイト間に挿入し,これをpBSK(IRES-Hygr-mPGKpA)とした。
【0127】
pBSK(IRES-Hygr-mPGKpA)を鋳型とし,プライマーIRES5’(配列番号29)及びプライマーIRES3’(配列番号30)を用いて,PCRによりEMCVのIRESの一部を含むDNA断片を増幅させた。このDNA断片を制限酵素(XhoI及びHindIII)で消化し,pBSK(IRES-Hygr-mPGKpA) のXhoI及びHindIIIサイト間に挿入し,これをpBSK (NotI-IRES-Hygr-mPGKpA) とした。pBSK(NotI-IRES-Hygr-mPGKpA)を制限酵素(NotI及びBamHI)で消化し,pE-hygrベクターのNotI及びBamHIサイト間に挿入し,これをプラスミドpE-IRES-Hygrとした。
【0128】
発現ベクターpPGKIHをEcoRIで消化し,mPGKのプロモーター領域(mPGKp)を含む塩基配列よりなるDNA断片を切り出した。このDNA断片をpBluescript SK(-)(Stratagene社)のEcoRIサイトに挿入し,これをmPGK promoter/pBS(-)とした。mPGK promoter/pBS(-)を鋳型とし,プライマーmPGKP5’(配列番号31)及びプライマーmPGKP3’(配列番号32)を用いて,PCRによりmPGKのプロモーター領域(mPGKp)を含むDNA断片を増幅させた。このDNA断片を制限酵素(BglII及びEcoRI)で消化し,pCI-neo(Promega社)のBglII及びEcoRIサイト間に挿入し,これをpPGK-neoとした。pE-IRES-Hygrを制限酵素(NotI及びBamHI)で消化してDNA断片(IRES-Hygr)を切り出し,pPGK-neoのNotI及びBamHIサイト間に挿入し,これをpPGK-IRES-Hygrとした。
【0129】
CHO-K1細胞からcDNAを調製し,これを鋳型とし,プライマーGS5’(配列番号33)及びプライマーGS3’(配列番号34)を用いて,PCRによりGS遺伝子を含むDNA断片を増幅させた。このDNA断片を制限酵素(BalI及びBamHI)で消化し,pPGK-IRES-HygrのBalI及びBamHIサイト間に挿入し,これをpPGK-IRES-GS-ΔpolyAとした。
【0130】
pCAGIPuro(Miyahara M. et.al., J. Biol. Chem. 275,613-618(2000))を鋳型とし,プライマーpuro5’(配列番号35)及びプライマーpuro3’(配列番号36)を用いて,PCRによりピューロマイシン耐性遺伝子(puror遺伝子)を含むDNA断片を増幅させた。このDNA断片をpT7Blue T-Vector(Novagen社)に挿入し,これをpT7-puroとした。
pT7-puroを制限酵素(AflII及びBstXI)で消化し,発現ベクターpE-neoのAflII及びBstXIサイト間に挿入し,これをpE-puroとした。
【0131】
pE-puroを鋳型とし,プライマーSV40polyA5’(配列番号37)及びプライマーSV40polyA3’(配列番号38)を用いて,PCRによりSV40後期ポリアデニル化領域を含むDNA断片を増幅させた。このDNA断片を制限酵素(NotI及びHpaI)で消化し,発現ベクターpE-puroのNotI及びHpaIサイト間に挿入し,これをpE-puro(XhoI)とした。pPGK-IRES-GS-ΔpolyAを制限酵素(NotI及びXhoI)で消化し,IRES-GS領域を含むDNA断片を切り出し,これを発現ベクターpE-puro(XhoI)のNotI及びXhoIサイト間に挿入し,これをpE-IRES-GS-puroとした。なお,pE-IRES-GS-puroの構築は,特許文献(特第6279466号)を参考にして行った。
【0132】
〔pE-mIRES-GS-puro(ΔE)の構築〕
発現ベクターpE-IRES-GS-puroを鋳型とし,プライマーmIRES-GS5’(配列番号39)及びプライマーmIRES-GS3’(配列番号40)を用いて,PCRにより,EMCVのIRESからGSにかけての領域を増幅させ,EMCVのIRESの5’側から2番目に位置する開始コドン(ATG)に変異を加えて破壊したDNA断片を増幅させた。発現ベクターpE-IRES-GS-puroを鋳型として,このDNA断片と上記のプライマーIRES5’を用いて,PCRによりIRESからGSにかけての上記領域を含むDNA断片を増幅させた。このDNA断片を制限酵素(NotI及びPstI)で消化し,切り出されたDNA断片を,pBluescript SK(-)(Stratagene社)のNotI及びPstIサイト間に挿入し,これをmIRES/pBlueScript SK(-)とした。
【0133】
発現ベクターpE-IRES-GS-puroを,SphIで消化し,SV40エンハンサー領域を切除した。残りのDNA断片をセルフライゲーションし,これをpE-IRES-GS-puro(ΔE)とした。mIRES/pBlueScript SK(-)をNotI及びPstIで消化し,改変型IRES(mIRES)及びGS遺伝子の一部を含む領域を切り出した。別に,pE-IRES-GS-puro(ΔE)を,NotI及びPstIで消化して,上記のmIRES及びGS遺伝子の一部を含む領域を挿入して,pE-mIRES-GS-puro(ΔE)を構築した。
【0134】
〔pEM-hygr(LC3)及びpE-mIRES-GSp-Fab-IDUAの構築〕
β-Globin MAR (Matrix Attachment Region),CMVエンハンサー,ヒトEF-1αプロモーター,MluI及びBamHI切断サイト,インターフェロンβ Marを含むDNA断片(CMVE-EF-1αp-IFNβMAR)を人工的に合成した(配列番号41)。このDNA断片の5’側にはHindIII配列を,3’側にはEcoRI配列を導入した。このDNA断片をHindIII及びEcoRIで消化し,pUC57ベクターのHindIII及びEcoRIサイト間に挿入し,これをJCR69 in pUC57とした。MluI及びBamHI切断サイト,IRES,ハイグロマイシン耐性遺伝子及びmPGKポリアデニレーションシグナルを含むDNA断片(IRES-HygroR-mPGKpA)を人工的に合成した(配列番号42)。DNAこのDNA断片をJCR69 in pUC57のMluI及びBamHIサイトに挿入し,これをpEM hygroとした。
【0135】
配列番号22で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の軽鎖の全長をコードする遺伝子を含むDNA断片(配列番号26)を人工的に合成してpUC57-Ampに挿入し,これをJCR131 in pUC57-Ampとした。このDNA断片の5’側にはMluI配列を,3’側にはNotI配列を導入した。このプラスミドDNAをMluIとNotIで消化し,発現ベクターpEM hygroのMluI-NotI間に組み込んだ。得られたベクターをヒト化抗hTfR抗体の軽鎖の発現用ベクターであるpEM-hygr(LC3)とした。
【0136】
配列番号23で示されるアミノ酸配列を有するヒト化抗hTfR抗体の重鎖のFab領域のC末端側に,配列番号4で示されるリンカー配列を介して,配列番号6で示されるアミノ酸配列を有するヒトIDUAが結合した,全体として配列番号27で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質をコードする遺伝子を含む配列番号28で示される塩基配列を有するDNA断片を人工的に合成した。このDNA断片の5’側にはMluI配列を,3’側にはNotI配列を導入した。このDNA断片をMluI及びNotIで消化し,pE-mIRES-GS-puro(ΔE)のMluIとNotIの間に組み込んだ。得られたベクターをヒト化抗hTfR抗体のFab重鎖のC末端側にhIDUAを結合させた蛋白質の発現用ベクターであるpE-mIRES-GSp-Fab-IDUAとした。
【0137】
〔実施例2〕ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA融合蛋白質の高発現細胞株の作製
CHO細胞(CHO-K1:American Type Culture Collectionから入手)を,下記の方法により,NEPA21(NEPAGENE社)を用いて,実施例1で構築したpEM-hygr(LC3)とpE-mIRES-GSp-Fab-IDUAを形質転換した。
【0138】
細胞の形質転換は概ね以下の方法で行った。CHO-K1細胞を2×107細胞/mLの密度となるようにCD OPTI-CHOTM培地(Thermo Fisher Scientific社)及びPBSの1:1混合液で懸濁した。50 μLの細胞懸濁液を採取し,これにCD OPTI-CHOTM培地及びPBSの1:1混合液で200 μg/mLに希釈したpEM-hygr(LC3)プラスミドDNA溶液を50 μL添加した。NEPA21(NEPAGENE社)を用いて,エレクトロポレーションを実施し,細胞にpEM-hygr(LC3)プラスミドDNAを導入した。37℃,5% CO2の条件下で一晩培養した後,細胞を,0.5 mg/mLのハイグロマイシンを添加したCD OPTI-CHOTM培地で選択培養した。得られた細胞に同手法によりpE-mIRES-GSp-Fab-IDUAプラスミドDNA(AhdIで消化し,リニアライズしたもの)を導入した。37oC,5% CO2の条件下で一晩培養した後,細胞を,0.5 mg/mLのハイグロマイシン及び10 μg/mLのピューロマイシン0.8 mg/mLを添加したCD OPTI-CHOTM培地で選択培養した。選択培養の際,MSXの濃度を段階的に上昇させて,最終的にMSX濃度を300 μMとして,薬剤耐性を示す細胞を選択的に増殖させた。
【0139】
次いで,限界希釈法により1ウェルあたり1個以下の細胞が増殖してくるように,96ウェルプレート上に選択培養で選択された細胞を播種し,各細胞が単クローンコロニーを形成するように約2週間培養した。単クローンコロニーが形成されたウェルの培養上清を採取し,ヒト化抗体含量をELISA法にて調べ,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA融合蛋白質の高発現細胞株を選択した。
【0140】
このときのELISA法は概ね以下の方法で実施した。96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc社)の各ウェルに,ニワトリ抗IDUAポリクローナル抗体溶液を0.05 M 炭酸水素塩緩衝液で5 μg/mLに希釈したものを100 μLずつ加え,室温又は4℃で少なくとも1時間静置して抗体をプレートに吸着させた。次いで,トリス緩衝生理食塩水(pH 8.0)に0.05% Tween20を添加したもの(TBS-T)で各ウェルを3回洗浄後,トリス緩衝生理食塩水(pH 8.0)に1% BSAを添加したものを各ウェルに300 μLずつ加えてプレートを室温で1時間静置した。次いで,各ウェルをTBS-Tで3回洗浄した後,トリス緩衝生理食塩水(pH 8.0)に0.1% BSA及び0.05% Tween20を添加したもの(TBS-BT)で適当な濃度に希釈した培養上清又はヒト化抗hTfR抗体-hIDUA融合蛋白質精製品を,各ウェルに100 μLずつ加え,プレートを室温で1時間静置した。次いで,プレートをTBS-Tで3回洗浄した後,TBS-BTで希釈したHRP標識抗ヒトIgGポリクロ-ナル抗体溶液を,各ウェルに50 μLずつ加え,プレートを室温で1時間静置した。TBS-Tで各ウェルを3回洗浄後,ELISA POD基質TMBキット(Nakalai Tesque社)を用いて発色させた。次いで1 mol/L 硫酸を50 μLずつ各ウェルに加えて反応を停止させ,96ウェルプレートリーダーを用いて,各ウェルにつき450 nmでの吸光度を測定した。高い測定値を示したウェルに対応する細胞を,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA融合蛋白質の高発現細胞株として選択した。こうして得られたヒト化抗hTfR抗体-hIDUA融合蛋白質の高発現細胞株を,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA発現株とした。この細胞株が発現するヒト化抗hTfR抗体とhIDUAとの融合蛋白質をヒト化抗hTfR抗体-hIDUA融合蛋白質(ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA)とした。
【0141】
得られたヒト化抗hTfR抗体-hIDUA発現株を,10 mg/L インスリン,16 μmol/L チミジン,100 μmol/L ヒポキサンチン,500 μg/mL ハイグロマイシンB,10 μg/mL ピューロマイシン,300 μmol/L MSX,及び10% (v/v) DMSOを含有するCD OPTI-CHOTM培地に懸濁させてからクライオチューブに分注し,種細胞として液体窒素中で保存した。
【0142】
〔実施例3〕ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA発現株の培養
ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを取得するために,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUA発現株を以下の方法で培養した。実施例2で得たヒト化抗hTfR抗体-hIDUA発現株を,細胞密度が約3 X 105個/mLとなるように,10 mg/L インスリン,16 μmol/L チミジン,100 μmol/L ヒポキサンチンを含有する,pH 6.9に調整した約170 Lの無血清培地(CD OPTI-CHOTM培地,ThermoFisher SCIENTIFIC社)に懸濁させた。この細胞懸濁液170 Lを培養槽に移した。培地をインペラ―で概ね80~100 rpmの速度で撹拌し,培地の溶存酸素飽和度を約30%に保持し,34~37oCの温度範囲で,約10日間細胞を培養した。培養期間中,細胞密度,細胞の生存率,培地のグルコース濃度及び乳酸濃度を監視した。培地のグルコース濃度が3.0 g/L以下となった場合には,直ちにグルコース濃度が3.5 g/Lとなるように,グルコース溶液を培地に添加した。培養期間中,フィード液(EFFICIENTFEED A+ TM,ThermoFisher SCIENTIFIC社)を適宜培地に添加した。培養終了後に培地を回収した。回収した培地を,MILLISTAK+HC TM Pod Filter grade D0HC(Merck社)でろ過し,更にMILLISTAK+ TM HCgrade X0HC (Merck社)でろ過して,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含む培養上清を得た。この培養上清を,PELLICONTM 3 Cassette w/Ultracel PLCTK Membrane(孔径:30 kDa, 膜面積:1.14 m2,Merck社)を用いて限外ろ過し,液量が約14分の1となるまで濃縮した。次いで,この濃縮液をOPTICAPTM XL600(0.22 μm, Merck社)を用いてろ過した。得られた液を濃縮培養上清とした。
【0143】
〔実施例4〕ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの精製
実施例3で得た濃縮培養上清に,0.25倍容の2 M アルギニン溶液(pH 7.0)を添加した。この溶液を,カラム体積の4倍容の400 mM アルギニンを含有する25 mM MES緩衝液(pH 6.5)で平衡化した,CAPTURE SELECTTM CH1-XLカラム(カラム体積:約3.1 L,ベッド高:約20 cm,Thermo Fisher Scientific社)に,100 cm/時の一定流速で負荷し,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAをカラムに吸着させた。CAPTURE SELECTTM CH1-XLカラムは,IgG抗体のCH1ドメインと特異的に結合する性質を有するリガンドが担体に固定化されたアフィニティーカラムである。
【0144】
次いで,カラム体積の5倍容の同緩衝液を同流速で供給してカラムを洗浄した。次いでカラム体積の3倍容の25 mM MES緩衝液(pH 6.5)を同流速で供給してカラムを更に洗浄した。次いで,カラム体積の5倍容の10 mM 酢酸ナトリウム-HCl緩衝液(pH 3.5)で,カラムに吸着したヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを溶出させた。溶出液は,予め250 mM MES緩衝液(pH 6.0)を入れた容器に受けて,直ちに中和した。
【0145】
上記のアフィニティーカラムからの溶出液に,250 mM MES緩衝液(pH 6.5)を添加し,溶出液のpHを6.0に調整した。次いで,この溶出液を,OPTICAPTM XL600(孔径:0.22 μm, Merck社)でろ過した。このろ過後の溶液を,カラム体積の5倍容の15 mM NaClを含有する50 mM MES緩衝液(pH 6.0)で平衡化した,マルチモーダル陰イオン交換カラムであるCAPTOTM adhereカラム(カラム体積:約1.5 L,ベッド高:約10 cm,GE Healthcare社)に,300 cm/時の一定流速で負荷させた。このヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含む負荷液を回収した。CAPTOTM adhereはN-ベンジル-N-メチルエタノールアミンをリガンドとするもので,静電相互作用,水素結合,疎水性相互作用等に基づく選択性を有する強陰イオン交換体である。
【0146】
次いで,カラム体積の5倍容の同緩衝液を同流速で供給してカラムを洗浄し,この洗浄液を回収した。
【0147】
上記負荷液及び洗浄液をカラム体積の4倍容の300 mM NaClを含有する25 mM MES緩衝液(pH 6.5)で平衡化した,マルチモーダル弱陽イオン交換カラムであるCAPTOTM MMCカラム(カラム体積:約3.1 L,ベッド高:約20 cm,GE Healthcare社)に,200 cm/時の一定流速で負荷させた。CAPTOTM MMCは,疎水性相互作用,水素結合形成等に基づく選択性を有する弱陽イオン交換体である。
【0148】
次いで,カラム体積の5倍容の同緩衝液を同流速で供給してカラムを洗浄した。次いで,カラム体積の10倍容の1 M NaClを含有する25 mM MES緩衝液(pH 6.5)で,弱陽イオン交換カラムに吸着したヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを溶出させた。
【0149】
上記の弱陽イオン交換カラムからの溶出液に,0.5倍容の0.8 mg/mL NaCl及び75 mg/mL スクロースを含有する20 mM クエン酸緩衝液(pH 5.5)を加えてpHを5.8に調整した。次いで,PELLICONTM 3 Cassette w/Ultracel PLCTK Membrane(孔径:30 kDa, 膜面積:0.57 m2,Merck社)を用いて限外ろ過し,溶液中のヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの濃度が約30 mg/mLとなるまで濃縮した。次いで,この濃縮液をOPTICAPTM XL600 (0.22 μm, Merck社)を用いてろ過した。
【0150】
上記の濃縮液を,カラム体積の1.5倍容の0.8 mg/mL NaCl及び75 mg/mL スクロースを含有する20 mM クエン酸緩衝液(pH 5.5)で平衡化した,サイズ排除カラムであるBioSECカラム(カラム体積:約9.4 L, ベッド高:30 cm, Merck社)に,40 cm/時の一定流速で負荷し,更に,同緩衝液を同じ流速で供給した。このとき,サイズ排除カラムからの溶出液の流路に,溶出液の吸光度を連続的に測定するための吸光光度計を配置して,280 nmの吸光度をモニターし,280 nmで吸収ピークを示した画分を,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含む画分として回収し,これをヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品とした。
【0151】
〔実施例5〕ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含有する水性医薬組成物の安定性の検討1
水性医薬組成物には,主剤である蛋白質の安定性を高めるために,あるいは当該蛋白質の容器への吸着を防止するため,非イオン性界面活性剤が添加されることが多く,例えば,成長ホルモンでは,非イオン性界面活性剤としてポロキサマー188が添加されている水性医薬組成物がある。そこで,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含有する水性医薬組成物について,ポロキサマー188を添加することによる蛋白質の安定性への影響を調べるため,以下の検討を実施した。
【0152】
実施例4で得たヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品を用いて,塩化ナトリウム,クエン酸緩衝剤,スクロース,ポロキサマー188,及びヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含有し,ポロキサマー188の濃度のみが異なる表3に示す3種類の水性医薬組成物を調製した。これら3種類の水性医薬組成物(処方A~C)を,それぞれ2 mLずつガラスバイアルに充填し,密封して,振盪機(SR-2S,タイテック社)を用いて,室温で,連続して24時間振盪させた(振盪速度:240往復/分,振幅:40 mm)。振盪後の水性医薬組成物中に含まれる単位液量(200 μL)当たりの粒子数(粒径:1~100 μm)を,実施例8に記載の方法で測定した。また,振盪後の水性医薬組成物中に含まれるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体の含有率を,実施例9に記載の方法で測定した。更に,各水性医薬組成物中に含まれるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの分解物の含有率を,実施例10に記載の方法で測定した。
【0153】
【表3】
【0154】
水性医薬組成物中に含まれる粒子数の測定結果を図1に示す。ポロキサマー188の濃度に関わらず,振盪後の水性医薬組成物中には粒径10 μm未満の粒子が多く含まれることがわかった。
【0155】
次いで,水性医薬組成物中に含まれるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体の含有率の測定結果についてみる。その測定結果を図2に示す。ポロキサマー188の濃度に関わらず,振盪後の水性医薬組成物中に重合体はほとんど含まれなかった。
【0156】
次いで,水性医薬組成物中に含まれるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの分解物の含有率の測定結果についてみる。その測定結果を図3に示す。ポロキサマー188の濃度に関わらず,振盪後の水性医薬組成物中に分解物はほとんど含まれなかった。
【0157】
〔実施例6〕ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含有する水性医薬組成物の安定性の検討2
また,非イオン性界面活性剤が添加された水性医薬組成物としては,例えば,ダルベポエチン及びアガルシダーゼでは,非イオン性界面活性剤としてポリソルベート80が添加されている水性医薬組成物がある。そこで,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含有する水性医薬組成物について,ポリソルベート80を添加することによる蛋白質の安定性への影響を調べるため,以下の検討を実施した。
【0158】
実施例4で得たヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品を用いて,塩化ナトリウム,クエン酸緩衝剤,スクロース,ポリソルベート80,及びヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含有し,ポリソルベート80の濃度のみが異なる表4に示す6種類の水性医薬組成物を調製した。これら6種類の水性医薬組成物(処方D~I)を,それぞれ2 mLずつガラスバイアルに充填し,密封して,振盪機(SR-2S,タイテック社)を用いて,室温で,連続して24時間振盪させた(振盪速度:240往復/分,振幅:40 mm)。振盪後の水性医薬組成物中に含まれる単位液量(200 μL)当たりの粒子数(粒径:1~100 μm)を,実施例8に記載の方法で測定した。また,振盪後の水性医薬組成物中に含まれるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体の含有率を,実施例9に記載の方法で測定した。更に,各水性医薬組成物中に含まれるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの分解物の含有率を,実施例10に記載の方法で測定した。
【0159】
【表4】
【0160】
水性医薬組成物中に含まれる粒子数の測定結果を図4に示す。ポリソルベート80の濃度を0.25 mg/mL以上としたときは,ポリソルベート80の濃度を0.1 mg/mL以下としたときと比較して,振盪後の水性医薬組成物中に含まれる粒径10 μm未満の粒子数が著しく少ないことがわかった。
【0161】
次いで,水性医薬組成物中に含まれるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体の含有率の測定結果についてみる。その測定結果を図5に示す。ポリソルベート80の濃度が高いほど,振盪後の水性医薬組成物中の重合体量が少なく,ポリソルベート80の濃度を0.5 mg/mL以上としたとき,水性医薬組成物中に重合体はほとんど認められなかった。
【0162】
次いで,水性医薬組成物中に含まれるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの分解物の含有率の測定結果についてみる。その測定結果を図6に示す。ポリソルベート80の濃度に関わらず,振盪後の水性医薬組成物中に分解物はほとんど認められなかった。
【0163】
実施例5及び上記の結果から,水性医薬組成物におけるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体の発生を抑制するためには,ポロキサマー188を添加することが効果的であり,粒径10 μm未満の微粒子の増加を抑制するためには,ポリソルベート80を添加することが効果的であり,すなわち,水性医薬組成物の安定性について,各界面活性剤は異なる効果を持つと考えられた。
【0164】
〔実施例7〕ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含有する水性医薬組成物の安定性の検討3
実施例4で得たヒト化抗hTfR抗体-hIDUA精製品を用いて,塩化ナトリウム,クエン酸緩衝剤,スクロース,ポロキサマー188,ポリソルベート80,及びヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含有し,ポリソルベート80の濃度のみが異なる表5に示す5種類の水性医薬組成物を調製した。これら5種類の水性医薬組成物(処方J~N)を,それぞれ2 mLずつガラスバイアルに充填し,密封して,振盪機(SR-2S,タイテック社)を用いて,室温で,連続して24時間振盪させた(振盪速度:240往復/分,振幅:40 mm)。振盪後の水性医薬組成物中に含まれる単位液量(200 μL)当たりの粒子数(粒径:1~100 μm)を,実施例8に記載の方法で測定した。また,振盪後の水性医薬組成物中に含まれるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体の含有率を,実施例9に記載の方法で測定した。更に,各水性医薬組成物中に含まれるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの分解物の含有率を,実施例10に記載の方法で測定した。
【0165】
【表5】
【0166】
水性医薬組成物中に含まれる粒子数の測定結果を図7に示す。ポリソルベート80の濃度を0.05 mg/mL以上としたときは,ポリソルベート80の濃度を0.025 mg/mLとしたときと比較して,振盪後の水性医薬組成物中に含まれる粒径10 μm未満の粒子数が少ないことがわかった。
【0167】
次いで,水性医薬組成物中に含まれるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体の含有率の測定結果についてみる。その測定結果を図8に示す。ポリソルベート80の濃度に関わらず,水性医薬組成物中に重合体はほとんど認められなかった。
【0168】
次いで,水性医薬組成物中に含まれるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの分解物の含有率の測定結果についてみる。その測定結果を図9に示す。ポリソルベート80の濃度に関わらず,振盪後の水性医薬組成物中に分解物はほとんど認められなかった。
【0169】
上記の結果から,水性医薬組成物におけるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体の発生及び粒径10 μm未満の微粒子の増加を同時に抑制するためには,ポロキサマー188及びポリソルベート80を両方添加することが効果的であり,粒径10 μm未満の微粒子の増加を抑制するためには,ポリソルベート80を添加することが効果的であることが判明した。但し,水性医薬組成物は薬剤としてヒトに投与されるべきものであることから,ポロキサマー188及びポリソルベート80の濃度は低く設定されることが好ましい。例えば,水性医薬組成物におけるポロキサマー188及びポリソルベート80の濃度を,それぞれ0.15~0.5 mg/mL及び0.025~0.125 mg/mLの範囲にすることにより,安定な水性医薬組成物とすることができる。
【0170】
〔実施例8〕水性医薬組成物中に含まれる粒子数(粒径:1~100 μm)の測定
水性医薬組成物中に含まれる粒子数の測定は,フローイメージング粒子解析装置であるFLOWCAMTM(フルイド・イメージング・テクノロジーズ社)を用いて行った。フローイメージング粒子解析装置は,サンプル溶液をシリンジポンプによって光学系と直交するフローセルに引き込み,フローセル中を通過する粒子をリアルタイムで撮影することにより,サンプル溶液中に含まれる粒子数を測定することのできる装置である。測定は,検出すべき粒子サイズを1~100 μmに設定して行った。
【0171】
〔実施例9〕水性医薬組成物中に含まれるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体の含有率の測定
島津HPLCシステムLC-20A(島津製作所)に,サイズ排除カラムクロマトグラフィーカラムであるTSKgel G3000SWXL 5 μmカラム(7.8 mm径×30 cm長,TOSOH社)をセットした。また,カラムの下流に吸光光度計を設置し,カラムからの流出液の吸光度(測定波長215 nm)を連続して測定できるようにした。0.2 M リン酸ナトリウム緩衝水溶液でカラムを平衡化させた後,10 μgのヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含有するサンプル溶液をカラムに負荷し,更に0.2 M リン酸ナトリウム緩衝水溶液を0.6 mL/分の流速で流した。この間,カラムからの流出液の吸光度(測定波長215 nm)を測定することにより,溶出プロフィールを得た。得られた溶出プロフィールから,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの単量体のピーク面積(単量体ピーク面積)と,この単量体ピークより先に現れるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体のピーク面積(重合体ピーク面積),この単量体ピークより後に現れるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの分解物のピーク面積(分解物ピーク面積)を求めた。重合体の含有率(%)を次式で求めた。
重合体の含有率(%)={重合体ピーク面積/(単量体ピーク面積+重合体ピーク面積+分解物ピーク面積)}×100
【0172】
〔実施例10〕水性医薬組成物中に含まれるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの分解物の含有率の測定
島津HPLCシステムLC-20A(島津製作所)に,サイズ排除カラムクロマトグラフィーカラムであるTSKgel G3000SWXL 5 μmカラム(7.8 mm径×30 cm長,TOSOH社)をセットした。また,カラムの下流に吸光光度計を設置し,カラムからの流出液の吸光度(測定波長215 nm)を連続して測定できるようにした。0.2 Mリン酸ナトリウム緩衝水溶液でカラムを平衡化させた後,10 μgのヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含有するサンプル溶液をカラムに負荷し,更に0.2 M リン酸ナトリウム緩衝水溶液を0.6 mL/分の流速で流した。この間,カラムからの流出液の吸光度(測定波長215 nm)を測定することにより,溶出プロフィールを得た。得られた溶出プロフィールから,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの単量体のピーク面積(単量体ピーク面積)と,この単量体ピークより先に現れるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体のピーク面積(重合体ピーク面積),この単量体ピークより後に現れるヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの分解物のピーク面積(分解物ピーク面積)を求めた。分解物の含有率(%)を次式で求めた。
分解物の含有率(%)={分解物ピーク面積/(単量体ピーク面積+重合体ピーク面積+分解物ピーク面積)}×100
【0173】
〔実施例11〕水性医薬組成物の製剤設計
上記の実施例5~7で示した検討結果を踏まえて,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含有する水性医薬組成物の製剤実施例として,表6に示す組成を有するもの(処方O)を設計した。この水性医薬組成物は,1~10 mLの液量で,ガラス製又はプラスチック製のバイアル,アンプル,又は注射器に充填・封入され,低温(例えば4℃)で貯蔵される。これが注射器に充填・封入されたものはプレフィルドシリンジ型の製剤となる。
【0174】
【表6】
【0175】
〔実施例12〕水性医薬組成物の長期保存試験
ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含有する水性医薬組成物として,処方Oを,ガラスバイアルに2 mL充填し,2~8 ℃の温度で,暗所で保存した。保存期間中,継時的に,溶液のpH,単位液量(200 μL)当たりの粒子数(粒径:1~100 μm),ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体の含有率,及びヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの分解物の含有率を測定した。粒子数の測定は,実施例8に記載の方法で,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体の含有率は,実施例9に記載の方法で,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの分解物の含有率は,実施例10に記載の方法で,それぞれ測定した。
【0176】
表7にヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含有する水性医薬組成物処方Oの長期保存試験の結果を示す。保存開始時,保存開始1ヶ月後,2ヶ月後,3ヶ月後,6ヶ月後,9ヶ月後,12ヶ月後,18ヶ月後,24ヶ月後,及び36ヶ月後に,溶液のpH,単位液量(200 μL)当たりの粒子数(粒径:1~100 μm),ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体の含有率,及びヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの分解物の含有率を測定した。長期保存試験の保存期間中,pH,粒子数,重合体(%),及び分解物(%)についてはほとんど変化しなかった。これらの結果は,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含有する水性医薬組成物処方Oが,2~8℃の温度,暗所で少なくとも36ヶ月間安定であることを示すものであり,また,保存開始72ヶ月後であっても安定であると予測されることを示すものである。
【0177】
【表7】
【0178】
〔実施例13〕凍結乾燥医薬組成物の製造
ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含有する水性医薬組成物処方Oを,ガラスバイアルに2.4 mL充填し,ゴム栓(塩素化ブチル製)を半打栓して凍結乾燥した。凍結乾燥工程において,バイアル内の気相を窒素に置換してからゴム栓を全打栓して,バイアルを密封した。得られた凍結乾燥品は,バイアル中で白色の塊を形成した。得られた凍結乾燥品は,バイアルに純水を加えて振とうして2.4 mLの溶液とすることにより,元の水性医薬組成物に復元させることができる。
【0179】
〔実施例14〕凍結乾燥医薬組成物の長期保存試験
実施例13で得た,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含有する凍結乾燥医薬組成物処方Oを,2~8 ℃の温度で,暗所で保存した。保存期間中,継時的に,凍結乾燥医薬組成物を純水に溶解することにより得た溶液のpH,単位液量(200 μL)当たりの粒子数(粒径:1~100 μm),ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体の含有率,及びヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの分解物の含有率を測定した。粒子数の測定は,実施例8に記載の方法で,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体の含有率は,実施例9に記載の方法で,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの分解物の含有率は,実施例10に記載の方法で,それぞれ測定した。
【0180】
表8にヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含有する処方Oの凍結乾燥医薬組成物の長期保存試験の結果を示す。保存開始時,保存開始1ヶ月後,2ヶ月後,3ヶ月後,6ヶ月後,9ヶ月後,12ヶ月後,18ヶ月後,24ヶ月後,及び36ヶ月後に,溶液のpH,単位液量(200 μL)当たりの粒子数(粒径:1~100 μm),ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの重合体の含有率,及びヒト化抗hTfR抗体-hIDUAの分解物の含有率を測定した。長期保存試験の保存期間中,pH,粒子数,重合体(%),及び分解物(%)についてはほとんど変化しなかった。これらの結果は,ヒト化抗hTfR抗体-hIDUAを含有する凍結乾燥医薬組成物処方Oが,2~8℃の温度,暗所で少なくとも36ヶ月間安定であることを示すものであり,また,保存開始72ヶ月後であっても安定であると予測されることを示すものである。
【0181】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明によれば,生理活性を有する蛋白質を有効成分として含有してなる水性医薬組成物又は凍結乾燥医薬組成物を市場に供給することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0183】
配列番号1:リンカー例1のアミノ酸配列
配列番号2:リンカー例2のアミノ酸配列
配列番号3:リンカー例3のアミノ酸配列
配列番号4:リンカー例4のアミノ酸配列
配列番号5:ヒトトランスフェリン受容体のアミノ酸配列
配列番号6:ヒトIDUAのアミノ酸配列1
配列番号7:ヒトIDUAのアミノ酸配列2
配列番号8:抗hTfR抗体の軽鎖CDR1のアミノ酸配列1
配列番号9:抗hTfR抗体の軽鎖CDR1のアミノ酸配列2
配列番号10:抗hTfR抗体の軽鎖CDR2のアミノ酸配列1
配列番号11:抗hTfR抗体の軽鎖CDR2のアミノ酸配列2
配列番号12:抗hTfR抗体の軽鎖CDR3のアミノ酸配列1
配列番号13:抗hTfR抗体の重鎖CDR1のアミノ酸配列1
配列番号14:抗hTfR抗体の重鎖CDR1のアミノ酸配列2
配列番号15:抗hTfR抗体の重鎖CDR2のアミノ酸配列1
配列番号16:抗hTfR抗体の重鎖CDR2のアミノ酸配列2
配列番号17:抗hTfR抗体の重鎖CDR3のアミノ酸配列1
配列番号18:抗hTfR抗体の重鎖CDR3のアミノ酸配列2
配列番号19:抗hTfR抗体の重鎖フレームワーク領域3のアミノ酸配列
配列番号20:抗hTfR抗体の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列
配列番号21:抗hTfR抗体の重鎖の可変領域のアミノ酸配列
配列番号22:抗hTfR抗体の軽鎖のアミノ酸配列
配列番号23:抗hTfR抗体のFab重鎖のアミノ酸配列
配列番号24:プライマーHyg-Sfi5’,合成配列
配列番号25:プライマーHyg-BstX3’,合成配列
配列番号26:抗hTfR抗体の軽鎖のアミノ酸配列をコードする塩基配列,合成配列
配列番号27:ヒト化抗hTfR抗体のFab重鎖とヒトIDUAの融合蛋白質のアミノ酸配列
配列番号28:ヒト化抗hTfR抗体のFab重鎖とヒトIDUAの融合蛋白質のアミノ酸配列をコードする遺伝子を含む塩基配列,合成配列
配列番号29:プライマーIRES5’,合成配列
配列番号30:プライマーIRES3’,合成配列
配列番号31:プライマーmPGKP5’,合成配列
配列番号32:プライマーmPGKP3’,合成配列
配列番号33:プライマーGS5’,合成配列
配列番号34:プライマーGS3’,合成配列
配列番号35:プライマーpuro5’,合成配列
配列番号36:プライマーpuro3’,合成配列
配列番号37:プライマーSV40polyA5’,合成配列
配列番号38:プライマーSV40polyA3’,合成配列
配列番号39:プライマーmIRES-GS5’,合成配列
配列番号40:プライマーmIRES-GS3’,合成配列
配列番号41:CMVE-EF-1αp-IFNβMAR,合成配列
配列番号42:IRES-HygroR-mPGKpA,合成配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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