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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151823
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】低光沢塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/02 20060101AFI20220929BHJP
   C09D 167/08 20060101ALI20220929BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220929BHJP
【FI】
C09D201/02
C09D167/08
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047695
(22)【出願日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2021053520
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 洋輔
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DD231
4J038HA216
4J038HA286
4J038HA376
4J038HA446
4J038JB17
4J038KA03
4J038KA08
4J038MA14
4J038NA01
4J038NA27
4J038PA18
(57)【要約】
【課題】ホルマリンの放散が抑制され、膜厚及び塗装環境が変動しても安定した低光沢の外観を有する塗膜を形成可能な塗料組成物を提案する。
【解決手段】乾性油脂肪酸又は半乾性油脂肪酸などを製造原料とする酸化硬化型樹脂、シリカ粉末、平均粒子径が0.1~10μmの体質粉末、着色顔料並びにヒドラジド化合物を含む、酸化硬化型の低光沢塗料組成物、及び基材面に、前記低光沢塗料組成物を塗装することを含む、塗装方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化硬化型樹脂、シリカ粉末、平均粒子径が0.1~10μmの体質粉末、着色顔料並びにヒドラジド化合物を含む、酸化硬化型の低光沢塗料組成物。
【請求項2】
酸化硬化型樹脂が、乾性油脂肪酸及び/又は半乾性油脂肪酸を製造原料とする、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
酸化硬化型樹脂が、アルキド樹脂である、請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
シリカ粉末の平均粒子径が0.5~15μmの範囲内にある、請求項1~3のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項5】
シリカ粉末の配合量が、酸化硬化型樹脂の不揮発分100質量部を基準として0.5~10質量部の範囲内にある、請求項1~4のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項6】
体質粉末の配合量が、酸化硬化型樹脂の不揮発分100質量部を基準として10~200質量部の範囲内にある、請求項1~5のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項7】
基材面に、請求項1~6のいずれか1項に記載の低光沢塗料組成物を塗装することを含む、塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化硬化性の低光沢塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
乾性油で変性されたアルキド樹脂をバインダーとして含む塗料は塗料業界で合成樹脂調合ペイントと呼ばれ、作業性及び仕上がり性に優れることから、鉄部及び木部への塗装を中心に幅広く利用されている。
【0003】
合成樹脂調合ペイントに含まれるアルキド樹脂は、成膜時の酸化重合による硬化反応の過程でホルマリンが生成することが知られている。その生成量はごく微量であるものの、建築基準法における室内のホルマリン許容濃度が年々厳しくなっており、成膜時のホルマリン放散を抑制する方策が種々検討されてきた。
【0004】
本出願人は特許文献1において、不飽和脂肪酸に由来する樹脂成分に、アルデヒド化合物を吸着或いは分解する化合物及び硬化促進剤を併用する塗料組成物を提案した。また、特許文献2には、ハイジエン脂肪酸を構成成分とするアルキド樹脂及びホルマリンキャッチャー剤を含む塗料組成物が開示されている。
【0005】
合成樹脂調合ペイントに関する文献もある。例えば特許文献3には、フェノール変性アルキド樹脂、ウレタン変性アルキド樹脂及びアルキド樹脂を含む塗料組成物が開示されている。特許文献3には、記載の塗料組成物によって速乾性、耐チヂミ性及び耐候性に加えて鏡面光沢度が高い外観の塗膜が得られることが記載されている。
【0006】
特許文献3に記載されているように従来、合成樹脂調合ペイントの塗装では高光沢の艶有り外観が好まれていた。しかしながら近年は光沢が抑えられた落ち着いた雰囲気の塗膜が形成されるような塗料の人気が高くなってきている。
【0007】
合成樹脂調合ペイントは鉄部の塗装に適しているため、新設の建築物の鉄扉などに塗装されることが多い。このような人目に付く場所への塗装には特に流麗な外観が要求されているものの、3分艶、5分艶もしくは艶消しに艶が調整された低光沢タイプの合成樹脂調合ペイントを平滑な鉄面に塗装すると、わずかな膜厚差でも光沢度合いが大きく異なり、外観が目視一様にならないという問題があった。また、高湿度環境下で塗装及び養生を行ったときに、本来艶が調整された外観であった塗膜光沢が上昇してしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-352764号公報
【特許文献2】特開2010-235827号公報
【特許文献3】特開2020-63329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ホルマリンの放散が抑制され、膜厚及び塗装環境が変動しても安定した低光沢の外観を有する塗膜を形成可能な低光沢塗料組成物を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は酸化硬化型樹脂をバインダー成分とする塗料において、低光沢の塗膜を安定して形成する方法について鋭意検討した。その結果、酸化硬化型樹脂塗料にシリカ、特定の平均粒子径の体質粉末、着色顔料、そしてヒドラジド化合物を併有することで、ホルマリンの放散が抑制され、光沢を抑えた所望の塗膜外観が得られるとともに、膜厚や塗装環境が大きく変動しても光沢の上昇が抑制されることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は
項1.
酸化硬化型樹脂、シリカ粉末、平均粒子径が0.1~10μmの体質粉末、着色顔料並びにヒドラジド化合物を含む、酸化硬化型の低光沢塗料組成物、
項2.
酸化硬化型樹脂が、乾性油脂肪酸及び/又は半乾性油脂肪酸を製造原料とする、項1に記載の塗料組成物、
項3.
酸化硬化型樹脂が、アルキド樹脂である、項1又は2に記載の塗料組成物、
項4.
シリカ粉末の平均粒子径が0.5~15μmの範囲内にある、項1~3のいずれか1項に記載の塗料組成物、
項5.
シリカ粉末の配合量が、酸化硬化型樹脂の不揮発分100質量部を基準として0.5~10質量部の範囲内にある、項1~4のいずれか1項に記載の塗料組成物、
項6.
体質粉末の配合量が、酸化硬化型樹脂の不揮発分100質量部を基準として10~200質量部の範囲内にある、項1~5のいずれか1項に記載の塗料組成物、
項7.
基材面に、項1~6のいずれか1項に記載の低光沢塗料組成物を塗装することを含む、塗装方法、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の低光沢塗料組成物によれば、ホルマリンの放散が抑制され、塗装環境が大きく変動しても安定して低光沢の塗膜が得られる。本発明の低光沢塗料組成物では塗装時に生じる膜厚差または塗り継ぎ部に生じる光沢変化が抑制され、平滑な基材面に塗装しても光沢ムラが目立たない。さらに、本発明の低光沢塗料組成物では高湿度条件下で塗装をした場合に生じる光沢上昇が抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の低光沢塗料組成物は、酸化硬化型樹脂、シリカ粉末、体質粉末、着色顔料、及びヒドラジド化合物を含む。
【0014】
<酸化硬化型樹脂>
本発明において、酸化硬化型樹脂には、ホルマリンの放散が起こるとされている酸化重合性を有する樹脂全般が包含される。具体的には乾性油脂肪酸及び/又は半乾性油脂肪酸を製造原料とする樹脂であればよく、アルキド樹脂、アクリル変性アルキド樹脂、ウレタン変性アルキド樹脂、フェノール変性アルキド樹脂、脂肪酸変性アクリル樹脂及びこれらの組合せなどが挙げられる。
【0015】
前記アルキド樹脂としては、乾性油脂肪酸及び/又は半乾性油脂肪酸、前記乾性油脂肪酸及び/又は半乾性油脂肪酸以外の酸成分、及びアルコール成分をそれ自体既知の方法によってエステル化してなる樹脂が挙げられる。乾性油脂肪酸と半乾性油脂肪酸は厳密に区別することはできないが、通常、乾性油脂肪酸はヨウ素価が130以上の不飽和脂肪酸であり、半乾性油脂肪酸はヨウ素価が100以上かつ130未満の不飽和脂肪酸である。他方、不乾性油脂肪酸は、通常、ヨウ素価が100未満の脂肪酸である。
【0016】
乾性油脂肪酸及び半乾性油脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、エレオステアリン酸、リシノール酸等の不飽和脂肪酸、魚油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、ケシ油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、ブドウ核油脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、クルミ油脂肪酸、ゴム種油脂肪酸、ハイジエン酸脂肪酸、及びこれらの組合せ等が挙げられる。
【0017】
上記酸成分としては、例えば、安息香酸、p-tert-ブチル安息香酸、(無水)フタル酸、ヘキサヒドロ(無水)フタル酸、テトラヒドロ(無水)フタル酸、テトラクロロ(無水)フタル酸、ヘキサクロロ(無水)フタル酸、テトラブロモ(無水)フタル酸、トリメリット酸、「ハイミック酸」[日立化成工業(株)製品;「ハイミック酸」は同社の登録商標である。]、(無水)こはく酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)イタコン酸、アジピン酸、セバチン酸またはしゅう酸及びこれらの組合せなどが挙げられる。
【0018】
また、酸成分として、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸、水添やし油脂肪酸、やし油脂肪酸、パーム油脂肪酸等の不乾性油脂肪酸も併用することができる。
【0019】
上記アルコール成分としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ソルビトール及びこれらの組合せなどが挙げられる。
【0020】
上記アクリル変性アルキド樹脂としては、例えば、前記アルキド樹脂に含まれる水酸基及び/又はカルボキシル基と反応可能なアクリルモノマーを含むアクリルモノマー成分で反応してなる樹脂が挙げられる。ウレタン変性アルキド樹脂としては、例えば前記アルキド樹脂に含まれる水酸基とポリイソシアネートを反応してなる樹脂が挙げられる。フェノール変性アルキド樹脂としては前記アルキド樹脂をフェノール樹脂で変性してなる樹脂が挙げられる。
【0021】
脂肪酸変性アクリル樹脂としては、例えば前記したごとき乾性油脂肪酸及び/又は半乾性油脂肪酸をエポキシ基含有重合性不飽和モノマーと反応させてなる脂肪酸変性モノマーを共重合成分とする脂肪酸変性アクリル樹脂、エポキシ基含有アクリル樹脂と乾性油脂肪酸及び/又は半乾性油脂肪酸を反応させてなる脂肪酸変性アクリル樹脂、該脂肪酸変性アクリル樹脂にさらにシリコーン化合物を反応させてなるシリコーン及び脂肪酸変性アクリル樹脂、該脂肪酸変性アクリル樹脂にさらにイソシアネート基を有する化合物を反応させてなる脂肪酸変性ウレタン変性アクリル樹脂などが挙げられる。
【0022】
本発明において前記酸化硬化型樹脂は、低光沢塗料組成物中の不揮発性成分100質量部中に、不揮発分質量で10~80質量部、より好ましくは20~50質量部の範囲内で含有することが適している。
【0023】
本明細書において不揮発性分とは揮発成分を除いた残存物を意味するものであり、残存物としては常温で固形状であっても液状であっても差し支えない。
【0024】
例えば既知の質量(例えば、0.3g)を試料とし、これを予め秤量したアルミニウム皿に広げて入れ、この試料をオーブン中で105℃、30分間加熱した際の残存物を不揮発成分と判断することができる。
【0025】
<シリカ粉末>
本発明において、シリカ粉末は、常温で粉末状のシリカであり、天然物であっても合成物であってもよく、脂肪酸等で変性された有機修飾シリカであってもよい。シリカ粉末としては市販品を用いることができる。市販品として、例えば、東ソー・シリカ社製のNipsilシリーズ、富士シリシア化学社製サイリシアシリーズ、サイロホービックシリーズ、サイロスフェアシリーズ、水澤化学工業社製ミズカシルシリーズ等が挙げられる。
【0026】
本発明において、シリカ粉末の平均粒子径は0.5~15μm、特に1.0~10.0μmの範囲内にあることが好ましい。シリカ粉末の平均粒子径がこの範囲内にあることによって、塗装作業性が良好であり、且つ、形成される塗膜の光沢を抑えることができる。本明細書において平均粒子径は、一次粒子の粒子径だけでなく、二次粒子(凝集体)の粒子径も含めた平均粒子径であり、体積基準の粒度分布のD50値である。D50値とは体積基準の粒度分布から、小粒径側からの積算粒径分布が50%となる粒径のことである。測定方法としてはレーザー回折散乱法を用いたJIS Z 8825に準じて行う。レーザー回折散乱法による測定装置としては、日機装株式会社製のMicrotrac MT3300EXIIが挙げられる。
【0027】
その際、前処理として試料をアセトン及びイソプロピルアルコールの混合溶剤に加えて1分間超音波をかけることによって分散し、試料濃度を装置に設定された所定の透過率範囲となる濃度に調整する。透過率範囲は、例えば0.800~0.930である。
【0028】
本発明においてシリカ粉末の配合量としては、塗料組成物に含まれる酸化硬化型樹脂の不揮発分100質量部を基準として、0.5~10質量部、特に1~5質量部の範囲内が好ましい。シリカ粉末の量がこの範囲内にあることによって、塗装作業性が良好であり、且つ、形成される塗膜の光沢を抑え、高級感のある外観とすることができる。
【0029】
<体質粉末>
本発明の低光沢塗料組成物は、体質粉末を含む。
前記体質粉末としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク、マイカ、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、酸化亜鉛、及びこれらの組合せが挙げられる。この中でも、炭酸カルシウム及び/又は硫酸バリウム、特に炭酸カルシウムの使用が好ましい。
本発明では前記体質粉末は小粒子径の微粉末であることが好ましく、平均粒子径では、0.1~10μmの範囲内であり、0.2~4.0μmの範囲内にあることが好ましい。平均粒子径範囲がこの範囲内にある体質粉末を使用することによって、広範囲に塗装した際に生じる塗つぎ部などの厚膜部分の光沢が上昇する現象や塗装環境の湿度が上昇することによって塗膜光沢が上昇する現象が抑制されるという効果がある。
前記体質粉末の配合量は、前記酸化硬化型樹脂の不揮発分100質量部を基準として、10~200質量部、特に30~150質量部の範囲内が好ましい。
【0030】
<着色顔料>
本発明の低光沢塗料組成物は、着色顔料を含む。
前記着色顔料としては塗料分野で公知のものを制限なく使用することができ、例えば、二酸化チタン、亜鉛華などの白色顔料;シアニンブルー、インダスレンブルーなどの青色顔料;シアニングリーン、緑青などの緑色顔料;アゾ系やキナクリドン系などの有機赤色顔料、ベンガラなどの赤色顔料;ベンツイミダゾロン系、イソインドリノン系、イソインドリン系及びキノフタロン系などの有機黄色顔料、チタンイエロー、黄鉛などの黄色顔料;カーボンブラック、黒鉛、松煙などの黒色顔料;アルミニウム粉、銅粉、ニッケル粉、酸化チタン被覆マイカ粉、酸化鉄被覆マイカ粉及び光輝性グラファイトなどの光輝性顔料などが挙げられる。これらは目的の塗色に応じて適宜1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
<ヒドラジド化合物>
本発明の低光沢塗料組成物は、ホルマリンキャッチャー剤としてヒドラジド化合物を含む。ヒドラジド化合物を使用することによって、塗膜からのホルマリン放散量を低減させるとともに膜厚や塗装環境が変動しても安定した低光沢の塗膜が得られるという効果がある。
【0032】
ヒドラジド化合物としては、蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、こはく酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等の2~18個の炭素原子を有する飽和脂肪族カルボン酸ジヒドラジド;マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のモノオレフィン性不飽和ジカルボン酸ジヒドラジド;フタル酸、テレフタル酸またはイソフタル酸ジヒドラジド、ならびにピロメリット酸のジヒドラジド、トリヒドラジドまたはテトラヒドラジド;ニトリロトリ酢酸トリヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,2,4-ベンゼントリヒドラジド、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、1,4,5,8-ナフトエ酸テトラヒドラジド;炭酸ジヒドラジド、ビスセミカルバジド、及びこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0033】
前記ヒドラジド化合物の配合量は、塗料組成物に含まれる酸化硬化型樹脂の不揮発分100質量部を基準として、0.05~5.0質量部、特に0.1~3.5質量部の範囲内が好ましい。
【0034】
<低光沢塗料組成物>
本発明の低光沢塗料組成物は、他の成分、例えば、硬化触媒、有機溶剤、顔料分散剤、防錆顔料、増粘剤、色分かれ防止剤、消泡剤、前記酸化硬化型樹脂以外の改質用樹脂、ヒドラジド化合物以外の公知のホルマリンキャッチャー剤、硬化剤を任意に含むことができる。
【0035】
これらのうち硬化触媒としては、酸化硬化を促進するものであれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。具体的にはコバルト、バリウム、バナジウム、マンガン、セリウム、鉛、鉄、カルシウム、亜鉛、ジルコニウム、セリウム、ニッケル又は錫等のナフテン酸塩及び/又はオクチル酸塩、及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0036】
前記有機溶剤としては、弱溶剤が挙げられる。
【0037】
弱溶剤とは当該分野でよく用いられる用語であって、一般的には溶解力の弱い溶剤を意味するものであり厳密に定義されるものではないが、労働安全衛生法による有機溶剤の分類において、第3種有機溶剤とされているものが挙げられる。
【0038】
その具体例としては、例えば、ガソリン、灯油、コールタールナフサ(ソルベントナフサを含む)、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、テレピン油、ミネラルスピリット(ミネラルシンナー、ペトロリウムスピリット、ホワイトスピリットおよびミネラルターペンを含む)を挙げることができ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせたものであってもよい。
【0039】
また、弱溶剤以外の有機溶剤、例えばn-ブタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロブタンなどの脂肪族系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;n-ブチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶剤等の有機溶剤も使用可能である。
【0040】
<塗装方法>
本発明の低光沢塗料組成物は、常温で容易に硬化することができるが、必要に応じて強制乾燥や加熱硬化させても良い。常温とは、塗装が行なわれる環境の大気温度により異なるが、強制的な加熱又は冷却などの温度操作を行なわない温度を指し、例えば5~40℃である。
【0041】
本発明の低光沢塗料組成物が適用される基材としては、鉄、鋼板、亜鉛めっき、ステンレス、アルミニウム、チタン等の金属基材;木材;プラスチックなどの樹脂基材が挙げられるが、コンクリート、モルタル、スレート、スレート瓦、窯業系建材等基材にも塗装可能である。これら基材は公知の組成の塗膜が設けられたものであってもよい。
【0042】
本発明の低光沢塗料組成物の塗装は、シンナー等で塗装に適した粘度に希釈した後、スプレー塗り、ローラー塗り、刷毛塗り、流し塗り等の公知の手段で行われる。塗布量は適宜調整できるが一般には30~400g/m、好ましくは50~250g/mの範囲内が好ましい。
【0043】
また、塗装の際には前記基材面に上記低光沢塗料組成物を直接塗装してもよいが、前記基材面に下塗り塗料を塗装した後、上記低光沢塗料組成物を上塗り塗料として塗装してもよい。
【0044】
前記下塗り塗料は、基材の種類に応じてプライマー塗料、防錆塗料等の公知の塗料の中から適宜選択することが好ましい。
【実施例0045】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明する。ここで、『部』および『%』はそれぞれ『質量部』および『質量%』を意味する。
【0046】
実施例1~26及び比較例1~4
表1記載の配合組成で各低光沢塗料組成物(X-1)~(X-30)を製造し、下記評価試験に供した。結果を表1に併せて示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
(注1)60%アルキド樹脂溶液:三口フラスコに、大豆油脂肪酸587部、無水フタル酸251部、マレイン酸7.5部、ペンタエリスリトール195部、エチレングリコール29部、を仕込み、温度180℃で1時間加熱した後、温度を230℃に上昇し8時間反応を行なってミネラルスピリットで希釈し、不揮発分60%の酸化重合型アルキド樹脂溶液を得た。
(注2)サンカルNA2200:商品名、株式会社ニッチツ製、炭酸カルシウム、平均粒子径1.4μm
(注3)ソフトン1500:商品名、備北粉化工業株式会社製、炭酸カルシウム、平均粒子径1.5μm
(注4)μ-powder 3N:商品名、備北粉化工業株式会社製、炭酸カルシウム、平均粒子径1.6μm
(注5)サンライトSL700:商品名、竹原化学工業株式会社製、炭酸カルシウム、平均粒子径4.5μm
(注6)サンカルNA-800:商品名、株式会社ニッチツ製、炭酸カルシウム、平均粒子径7.9μm
(注7)サンカルNA-600:商品名、株式会社ニッチツ製、炭酸カルシウム、平均粒子径10.3μm
(注8)沈降性硫酸バリウムPS-07:商品名、Guangxi Xiangzh社製、硫酸バリウム、平均粒子径0.7μm
(注9)サイリシア710:商品名、富士シリシア化学株式会社製、シリカ、平均粒子径2.4μm
(注10)サイリシア350:商品名、富士シリシア化学株式会社製、シリカ、平均粒子径3.7μm
(注11)サイリシア440:商品名、富士シリシア化学株式会社製、シリカ、平均粒子径5.9μm
(注12)サイリシア450:商品名、富士シリシア化学株式会社製、シリカ、平均粒子径8.0μm。
【0050】
<評価試験>
(1)塗装作業性
実施例及び比較例で得られた各塗料組成物をハケで塗装したときの作業性を下記基準で評価した。
◎:ハケを動かしやすく、塗りやすい
〇:ハケを動かすのに若干力を要するが問題なし
△:ハケが重たく、カスレが出やすい
×:ハケが非常に重く、塗りにくい。
【0051】
(2)仕上がり性
実施例及び比較例で得られた各低光沢塗料組成物を、60×90cmのブリキ板に長さ6mm短毛ローラーを用いて乾燥膜厚が30μmとなるように塗装し、23℃50%RHの条件で7日間乾燥させて試験塗板を作成した。得られた各試験塗板の60度鏡面光沢度(以下、60°Gで示す)をJIS K5600-4-7(1999)に準拠して測定した後、平滑感を下記基準で目視評価した。尚、表には艶種類が示されているが本発明では艶種類については優劣はない。5分艶は60°Gが35±5程度の艶、3分艶は60°Gが15±5程度の艶である。
(平滑感の評価基準)
◎:塗面粗さが全く認められない
〇:塗面粗さが極めてわずかに認められるが目立たないレベル
△:塗面に粗さがはっきりと認められる
×:塗面全体に粗さが顕著に認められる。
【0052】
(3)光沢上昇抑制性(膜厚依存性)
上記仕上がり性試験において、乾燥膜厚が30μmとあるのを60μmとなるように塗装する以外は上記仕上がり性試験と同様にして試験塗板を作成し、60°Gを測定した。
膜厚60μmのときの60°Gから膜厚30μmのときの60°Gの差(Δ60°G(60μm-30μm))を算出し下記基準で評価した。Δ60°Gが小さいほど、膜厚変化による光沢上昇抑制性が良好であると判断した。
◎:Δ60°G(60μm-30μm)が0~10
〇:Δ60°G(60μm-30μm)が10を超えて20以下
△:Δ60°G(60μm-30μm)が20を超えて30以下
×:Δ60°G(60μm-30μm)が30を超えて40以下。
【0053】
(4)光沢上昇抑制性(湿度依存性)
上記仕上がり性試験において、塗装及び乾燥雰囲気湿度を50%RHから80%RHに変更する以外は上記仕上がり性試験と同様にして試験塗板を作成し、60°Gを測定した。湿度80%RHのときの60°Gから湿度50%RHのときの60°Gの差(Δ60°G(80%RH-50%RH))を算出し下記基準で評価した。Δ60°Gが小さいほど、湿度変化による光沢上昇抑制性が良好であると判断した。
◎:Δ60°G(80%RH-50%RH)が0~20
〇:Δ60°G(80%RH-50%RH)が20を超えて30以下
△:Δ60°G(80%RH-50%RH)が30を超えて40以下
×:Δ60°G(80%RH-50%RH)が40を超える。
【0054】
(5)ホルマリン放散量
実施例及び比較例で得られた各塗料組成物を、JIS-K-5601-4-1に記載のデシケータ法に従い、ホルムアルデヒド放散量(mg/L)を求め、下記基準で評価した。
〇:0.12mg/L以下
×:0.12mg/Lを超える