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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151825
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】構造体
(51)【国際特許分類】
   F28F 3/04 20060101AFI20220929BHJP
   F28F 3/08 20060101ALI20220929BHJP
   F28D 9/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F28F3/04 B
F28F3/08 311
F28D9/00
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047824
(22)【出願日】2022-03-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2021050869
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519366237
【氏名又は名称】NatureArchitects株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134094
【弁理士】
【氏名又は名称】倉持 誠
(72)【発明者】
【氏名】須藤 海
(72)【発明者】
【氏名】谷道 鼓太朗
【テーマコード(参考)】
3L103
【Fターム(参考)】
3L103AA35
3L103BB42
3L103CC22
3L103DD57
(57)【要約】      (修正有)
【課題】室内空気が蓄えている温熱又は冷熱の熱エネルギーを再利用しながら換気を行う。
【解決手段】複数の第1の流路122が互いに連通して形成される第1の流路空間120と、複数の第2の流路132が互いに連通して形成される第2の流路空間130とを互いに隔てた状態で形成する周期曲面に基づいて形成された隔壁構造110を有する熱交換用の構造体100が提供される。構造体100の少なくとも一部に、第1の流路122の流路径と第2の流路132の流路径との比が変遷する領域が設けられている。構造体100の少なくとも一部に、第1の方向に沿って延びる第1の流路122の、第1の方向に直交する平面に沿った断面における流路径と、隔壁構造110を隔てて第1の流路122に隣接し第1の方向に沿って延びる第2の流路132の、上記平面に沿った断面における流路径との比が、第1の方向に沿って変遷する領域が設けられている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1の流路が互いに連通して形成される第1の流路空間と、複数の第2の流路が互いに連通して形成される第2の流路空間とを互いに隔てた状態で形成する周期曲面に基づいて形成された隔壁構造を有する熱交換用の構造体であって、
前記構造体の少なくとも一部に、第1の方向に沿って延びる前記第1の流路の、前記第1の方向に直交する平面に沿った断面における流路径と、前記隔壁構造を隔てて前記第1の流路に隣接し前記第1の方向に沿って延びる前記第2の流路の、前記平面に沿った断面における流路径との比が、前記第1の方向に沿って変遷する領域が設けられている、構造体。
【請求項2】
前記第1の方向に沿って延びる前記第1の流路と、前記隔壁構造を隔てて前記第1の流路に隣接し前記第1の方向に沿って延びる前記第2の流路とは、前記第1の流路の前記流路径と前記第2の流路の前記流路径との和が前記第1の方向に沿って一定となるように形成されている、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記領域における前記第1及び第2の流路は、前記第1の流路の前記流路径と前記第2の流路の前記流路径との比が第1の比から前記第1の比とは異なる第2の比に連続的に変遷するように形成されている、請求項1又は2に記載の構造体。
【請求項4】
前記構造体には、前記第1の流路の前記流路径と前記第2の流路の前記流路径との比が前記第1の比である第1の領域と、前記第1の流路の前記流路径と前記第2の流路の前記流路径との比が前記第2の比である第2の領域と、前記第1の領域と前記第2の領域との間に位置する第3の領域とが少なくとも設けられており、
前記第3の領域における前記第1及び第2の流路は、前記第1の領域の前記第1及び第2の流路に接続される一方の端部から、前記第2の領域の前記第1及び第2の流路に接続される他方の端部にかけて、前記第1の流路の前記流路径と前記第2の流路の前記流路径との比が前記第1の比から前記第2の比に連続的に変遷するように形成されている、請求項3に記載の構造体。
【請求項5】
前記構造体は直方体の形状を有し、前記第1の流路空間は前記構造体の1つの対向する面において前記複数の第1の流路が前記構造体の外部に開口し、前記第2の流路空間は前記構造体の前記1つの対向する面に対して直交する他の対向する面において前記複数の第2の流路が前記構造体の外部に開口するように形成されており、
前記第2の領域は、前記構造体の前記他の対向する面の一方を正面から見たときに円形に形成されており、
前記第2の領域における前記第2の比が前記第1の領域における前記第1の比よりも小さい、請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
前記周期曲面は周期極小曲面に基づいて形成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項7】
前記周期極小曲面は三重周期極小曲面である、請求項6に記載の構造体。
【請求項8】
前記三重周期極小曲面は、Gyroid曲面、Schwarz・P曲面、Schwarz・D曲面、Fischer-Koch・S曲面およびLidinoid曲面のいずれか1つを含む、請求項7に記載の構造体。
【請求項9】
前記複数の第1及び第2の流路は3つの異なる方向に延伸しており、当該3つの異なる方向の各々の方向において、前記複数の第1の流路と前記複数の第2の流路とが交互に隣接するように配置されている、請求項7又は8に記載の構造体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の構造体を含む熱交換器。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の構造体を含む換気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は構造体に関し、より詳しくは、熱交換や換気等の用途にも用いることが可能な構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ジャイロイドの周期極小曲面によって隔てられた2つの流路を有する気液分離装置が開示されている。また、特許文献2には、各種周期極小曲面によって隔てられた2つの流路を有する熱交換器が開示されている。特許文献1及び特許文献2は、それぞれ、2つの流路を隔てる隔壁に周期極小曲面を用いてその比表面積を大きくすることで、気液分離効率ないし熱交換効率の向上を図ることを意図している。
【0003】
また、特許文献3には、ユニットセルの大きさが階層的に変化する三重周期極小曲面で形成された熱交換器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-155279号公報
【特許文献2】米国特許第10704841号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2020/0215480号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に開示された構造は、いずれも、周期極小曲面によって隔てられた2つの流路が互いに等しい形状および大きさを有しており、2つの流路は構造全体にわたって均質である。そのため、構造全体にわたって均質な気液分離特性ないし熱交換特性を得られることができる反面、構造内において気液分離特性ないし熱交換特性に分布を持たせることはできない。
【0006】
また、特許文献3に開示された構造は、ユニットセルの大きさが階層的に変化する三重周期極小曲面で形成されており、各ユニットにおいて三重周期極小曲面で互いに隔てられた一方の流路の径と他方の流路の径とは、ユニットの大きさに応じて異なるものの、いずれの大きさのユニットにおいても互いの比は一定である。したがって、特許文献3に開示された構造においても、熱交換特性は構造全体にわたって均質であり、構造内において熱交換特性に分布を持たせることはできない。
【0007】
さらに、特許文献1~3は、それぞれ、各種工業用プラント等において用いられる気液分離装置や熱交換器を開示するものであり、各々が開示するような周期極小曲面を用いた構造を熱交換や換気等のために窓や壁等に用いるという着想については何ら記載も示唆もしていない。そのため、特許文献1~3に開示されたような構造では、例えば熱交換や換気用に窓や壁等に用いた場合に外気及び内気の流入路及び流出路をどのように形成すべきか、採光のための開口をどのような形態とすべきか等については、何ら考慮されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様によれば、複数の第1の流路が互いに連通して形成される第1の流路空間と、複数の第2の流路が互いに連通して形成される第2の流路空間とを互いに隔てた状態で形成する周期曲面に基づいて形成された隔壁構造を有する熱交換用の構造体であって、構造体の少なくとも一部に、第1の方向に沿って延びる第1の流路の、第1の方向に直交する平面に沿った断面における流路径と、隔壁構造を隔てて第1の流路に隣接し第1の方向に沿って延びる第2の流路の、平面に沿った断面における流路径との比が、第1の方向に沿って変遷する領域が設けられている構造体が提供される。
【0009】
本開示の他の特徴事項および利点は、例示的且つ非網羅的に与えられている以下の説明及び添付図面から理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施形態に係る構造体を示す斜視図である。
図2図1に示した構造体の正面図である。
図3図1及び図2に示した構造体を図示xy平面と平行な平面に沿って切断した断面を示す図である。
図4図3に示された第1の流路の一つを拡大して示す図である。
図5図1及び図2に示した構造体を、図示xy平面と平行な平面であって、図3に示した断面に対して図示z軸方向に周期曲面の半周期分だけずらした位置における平面に沿って切断した断面を示す図である。
図6】図(a)は、図1及び図2に示した構造体を図示xz平面と平行な平面に沿って切断した断面を示す図であり、図(b)は、図1及び図2に示した構造体を、図示xz平面と平行な平面であって、図(a)に示した断面に対して図示y方向に周期曲面の半周期分だけずらした位置における平面に沿って切断した断面を示す図である。
図7】図(a)は、図1及び図2に示した構造体を図示yz平面と平行な平面に沿って切断した断面を示す図であり、図(b)は、図1及び図2に示した構造体を、図示yz平面と平行な平面であって、図(a)に示した断面に対して図示x方向に周期曲面の半周期分だけずらした位置における平面に沿って切断した断面を示す図である。
図8図7(b)に示した構造体の断面図において、隔壁構造を隔てて互いに隣接する第1の流路と第2の流路の流路径比を説明する図である。
図9図1及び図2に示した構造体における第1の流路空間と第2の流路空間との体積比の変遷を説明する概念図であり、図(a)は、図示x軸方向に沿って延びる第1及び第2の流路が現れる構造体の断面と、図示y軸方向に沿った各位置において構造体からそれぞれ切り出される単位体積ユニットとを示す図であり、図(b)は、各位置の単位体積ユニットにおける第1の流路空間と第2の流路空間との体積比の関係を示すグラフである。
図10図2に示した構造体の正面図に対して、説明のため一点鎖線を描画した図である。
図11】本開示の一実施形態に係る構造体の一変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0012】
最初に、本開示の一実施形態に係る構造体100の全体構成について説明する。図1は本開示の一実施形態に係る構造体を示す斜視図であり、図2図1に示した構造体の正面図である。
【0013】
図1及び図2に示すように、本実施形態の構造体100は、互いに隔てられた2つの流路空間120,130を形成する隔壁構造110を含んでおり、一例として直方体に形成されている。本実施形態の説明においては、図1及び図2に示すように構造体100の横方向をx軸、縦方向をy軸、奥行き方向をz軸として座標系を定義する。
【0014】
本実施形態の構造体100の隔壁構造110は、図示y軸方向に第1の流体を通す第1の流路空間120と、図示z軸方向に第2の流体を通す第2の流路空間130とを形成している。それらの2つの流路空間120,130は隔壁構造110によって互いに隔てられており、2つの流路空間120,130をそれぞれ流れる第1及び第2の流体が互いに混じることはない。
【0015】
本実施形態の構造体100は、図示左右の図示yz平面と平行な両面における隔壁構造110の開放端面を封止する第1の封止部140を有している。第1の封止部140は、隔壁構造110の図示左右の開放端面の全面をそれぞれ覆う壁状の形成を有している。隔壁構造110の開放端面では第1及び第2の流路空間120,130が隔壁構造110の外部空間に開放されるが、隔壁構造110の開放端面の全面を覆う第1の封止部140によって、第1及び第2の流路空間120,130が隔壁構造110により互いに隔てられた状態でそれぞれ終端している。これにより、第1及び第2の流路空間120,130を流れる流体はいずれも隔壁構造110の図示左右の開放端面から外部に流出しないようになっている。
【0016】
また、本実施形態の構造体100は、図示上下の図示xz平面と平行な両面における隔壁構造110の開放端面の一部を封止する第2の封止部150を有している。第2の封止部150は、隔壁構造110の図示上下方向の開放端面のうち、図示z軸方向に第2の流体を通す第2の流路空間130のみを封止するように形成されている。これにより、構造体100の図示上下の両面においては、図示y軸方向に第1の流体を通す第1の流路空間120は外部空間に連通している一方で、第2の流体を通す第2の流路空間130は終端している。
【0017】
さらに、本実施形態の構造体100は、図示前後の図示xy平面と平行な両面における隔壁構造110の開放端面の一部を封止する第3の封止部160を有している。第3の封止部160は、隔壁構造110の図示前後方向の開放端面のうち、第1の流体を通す第1の流路空間120のみを封止するように形成されている。これにより、構造体100の図示前後の両面においては、図示z軸方向に第2の流体を通す第2の流路空間130は外部空間に連通している一方で、第1の流体を通す第1の流路空間120は終端している。
【0018】
このように構成された本実施形態の構造体100によれば、図示y軸方向に沿う図示上下の一方の面側から第1の流路空間120内に流入した第1の流体は、第1の流路空間120を通って図示上下方向の他方の面側において第1の流路空間120から外部に流出する。他方、図示z軸方向に沿う図示前後方向の一方の面側から第2の流路空間130内に流入した第2の流体は、第2の流路空間130を通って図示前後方向の他方の面側において第2の流路空間130から外部に流出する。
【0019】
次に、本実施形態の構造体100における隔壁構造110について説明する。隔壁構造110は、周期曲面に基づいて形成され、一定の厚みを占める壁によって構成することができる。周期曲面としては、例えば、一方の螺旋壁と他方の螺旋壁とによって互いに隣接しかつ互いに隔てられた2つの螺旋空間を形成する二重螺旋スクリューを成す螺旋状の曲面や、周期極小曲面、とりわけ三重周期極小曲面(以下、「TPMS」:Triply Periodic Minimal Surfaceとも称する。)を用いることができる。
【0020】
ここで、「極小曲面」は、その面積を局所的に最小化する表面であり、その表面は全ての点でゼロ平均曲率を有する。ゼロ平均曲率は、その表面上のすべての点で極小曲面の平均曲率がゼロであることを意味する。平均曲率は2つの主曲率の平均であり、主曲率は極小曲面の表面上の特定の点における法線曲率の最大値および最小値である。極小曲面の表面の各点の反対側には絶対値が等しく正負が反対である曲率を持つ点が存在するため、表面全体での平均曲率はゼロとなる。
【0021】
また、「三重周期極小曲面(TPMS)」は、表面が3つの異なる方向に周期的に繰り返される三重周期的な極小曲面である。三重周期最小曲面は、空間を互いに隔てられた2つの容積に分割する。互いに隔てられた2つの容積は互いに複雑に絡み合う2つの空間を形成し得るが、それらの2つの空間は互いに連通しない。三重周期極小曲面としては、例えばGyroid曲面、Schwarz・P曲面、Schwarz・D曲面、Fischer-Koch・S曲面、Lidinoid曲面が含まれるが、本実施形態において採用し得る三重周期極小曲面はこれらに限定されない。また、本実施形態においては、上記のような三重周期極小曲面の2つ以上を任意に組み合わせて形成された周期極小曲面構造を採用してもよい。
【0022】
本実施形態で示した例では、隔壁構造110はTPMSの一例であるジャイロイドに基づいて形成されている。ジャイロイド極小曲面は、下記の関数F(x,y,z)によって表現される。
【0023】
F(x,y,z)=sin(x)cos(y)+sin(y)cos(z)+sin(z)cos(x) ・・・ (式1)
【0024】
続いて、隔壁構造110内に形成された第1及び第2の流路空間120,130についてより詳しく説明する。
【0025】
図3は、図1及び図2に示した構造体を図示xy平面と平行な平面に沿って切断した断面を示す図である。図4は、図3に示された第1の流路の一つを拡大して示す図である。図5は、図1及び図2に示した構造体を、図示xy平面と平行な平面であって、図3に示した断面に対して図示z軸方向に周期曲面の半周期分だけずらした位置における平面に沿って切断した断面を示す図である。
【0026】
図3を参照すると、図3に示す断面においては、本実施形態における構造体100の隔壁構造110内に図示上下方向であるy軸方向に延びる複数の第1の流路122が互いに間隔をおいて形成されている。第1の流路122は、その断面が延伸方向に正弦波形状を成している。それらの第1の流路122は、構造体100の図示下面と図示上面において構造体100の外部空間に開放されている。これらの第1の流路122は後述するように互いに連通するように形成されており、それらの第1の流路122が一体となって、図示y軸方向に第1の流体を通す第1の流路空間120を形成している。
【0027】
なお、図3に示した断面では隔壁構造110の図示中央寄りの領域における第1の流路122は流路が途切れているように見えるが、実際には流路は途切れることなく繋がっており、他の第1の流路122と同様に構造体100の図示下面と図示上面との間で連通している。第1の流路122は、断面が延伸方向に正弦波形状を成し、かつ全体としてスパイラル状に旋回しながら延伸する形状を有している。第1の流路122のうち、流路が途切れているように見える部分124は、実際には図示y軸方向周りをスパイラル状に延びる形状を有しており、他の部分より径が小さいために流路の断面が表れている。図3に示す断面では、その比較的径が小さい部分124の図示y軸方向に沿った長手方向断面が示されており、その部分124内を通る1つの第1の流路122の断面が点在するように表されている。
【0028】
このようなスパイラル状の部分124を有する第1の流路122における流体の流れについて図4を参照して説明すると、例えば図4の図示下方から第1の流路122の図示y軸方向への延伸部分に流入した流体は、第1の流路122のその延伸部分内を図示y軸方向に上方に流れ、次いで、径が小さい部分124に流入してその部分124内の第1の流路122内を図4の矢印で模式的に示すように図示y軸周りを旋回しながら図示y軸方向に上方に流れ、次いで、第1の流路122の図示上側の延伸部分内を図示y軸方向に上方に流れて、第1の流路122の外部に流出する。
【0029】
再び図3を参照すると、隔壁構造110内には図示上下方向であるy軸方向に延びる複数の第2の流路132が互いに間隔をおいて形成されている。複数の第1の流路122と複数の第2の流路132とは、図示x軸方向において互い違いに隣接するように配置されている。第2の流路132も、その断面が延伸方向に正弦波形状を成し、かつ全体としてスパイラル状に旋回しながら延伸する形状を有している。それらの第2の流路132は、構造体100の図示下面と図示上面において第2の封止部150によって封止されて終端しており、構造体100の外部空間に対して開放されていない。これらの第2の流路132も後述するように互いに連通するように形成されており、それらの第2の流路132が一体となって、図示z軸方向に第2の流体を通す第2の流路空間130を形成している。
【0030】
図3に示すように正面方向から(あるいはその反対側から)構造体100を見たときには、図示z軸方向に延びる各々の第2の流路132を開口134を通じて構造体100の反対側が透けて見えるようになっている。
【0031】
次に図5を参照すると、図5に示す断面においては、本実施形態における構造体100の隔壁構造110内には、複数の第1の流路122が図示左右方向であるx軸方向に延びるように互いに間隔をおいて形成されている。第1の流路122は、その断面が延伸方向にスパイラル状に延びる正弦波形状を成している。これらの図示x軸方向に延びる複数の第1の流路122の各々は、図3に示す断面において図示上下方向であるy軸方向に延びる複数の第1の流路122の各々と連通している。隔壁構造110内には、図3に示す断面において示すような図示上下方向(y軸方向)に延びる複数の第1の流路122と、図5に示す断面において示すような図示左右方向(x軸方向)に延びる複数の第1の流路122とが図示前後方向(z軸方向)において交互に出現するように形成されている。したがって、それらの第1の流路122は隔壁構造110内において立体的なグリッドを形成している。それらの複数の第1の流路122は一体となって、複雑で入り組んだラビリンスを成す第1の流路空間120を形成している。
【0032】
同じく図5に示す断面においては、本実施形態における構造体100の隔壁構造110内には、複数の第2の流路132が図示左右方向であるx軸方向に延びるように互いに間隔をおいて形成されている。第2の流路132は、その断面が延伸方向にスパイラル状に延びる正弦波形状を成している。図示x軸方向においても、複数の第1の流路122と複数の第2の流路132とは互い違いに隣接するように配置されている。第2の流路132についても第1の流路122と同様に、これらの図示x軸方向に延びる複数の第2の流路132の各々は、図3に示す断面において図示上下方向であるy軸方向に延びる複数の第2の流路132の各々と連通し、隔壁構造110内には、図3に示す断面において示すような図示上下方向(y軸方向)に延びる複数の第2の流路132と、図5に示す断面において示すような図示左右方向(x軸方向)に延びる複数の第2の流路132とが図示前後方向(z軸方向)において交互に出現するように形成されており、それらの第2の流路132は隔壁構造110内において立体的なグリッドを形成している。それらの複数の第2の流路122は一体となって、複雑で入り組んだラビリンスを成す第2の流路空間130を形成している。
【0033】
なお、上述したように、図示左右の隔壁構造110の開放端面はそれぞれ第1の封止部140によって封止されており、隔壁構造110の開放端面において隔壁構造110の外部空間に開放された第1及び第2の流路空間120,130は第1の封止部140によって隔壁構造110により互いに隔てられた状態でそれぞれ終端している。
【0034】
図6(a)は、図1及び図2に示した構造体を図示xz平面と平行な平面に沿って切断した断面を示す図である。図6(b)は、図1及び図2に示した構造体を、図示xz平面と平行な平面であって、図6(a)に示した断面に対して図示y方向に周期曲面の半周期分だけずらした位置における平面に沿って切断した断面を示す図である。
【0035】
図6(a)に示す断面においては、隔壁構造110内には、複数の第1の流路122が図示上下方向であるz軸方向に正弦波形状を成してスパイラル状に延びるように互いに間隔をおいて形成され、複数の第2の流路132も図示上下方向であるz軸方向に正弦波形状を成してスパイラル状に延びるように互いに間隔をおいて形成されている。図6(a)に示す断面では、図示x軸方向において複数の第1の流路122と複数の第2の流路132とが互い違いに隣接するように配置されている。なお、各々の第1の流路122の図示z軸方向の端部は第3の封止部160によって封止されている。
【0036】
他方、図6(b)に示す断面においては、隔壁構造110内には、複数の第1の流路122が図示左右方向であるx軸方向に正弦波形状を成してスパイラル状に延びるように互いに間隔をおいて形成され、複数の第2の流路132も図示左右方向であるx軸方向に正弦波形状を成してスパイラル状に延びるように互いに間隔をおいて形成されている。図6(b)に示す断面では、図示x軸方向において複数の第1の流路122と複数の第2の流路132とが互い違いに隣接するように配置されている。
【0037】
ここで、図6(a)及び図6(b)を参照して第1の流路122について説明する。説明のため、第1の流路122の一例として、図6(a)の図示一番左側の第1の流路122に着目する。第1の流路122には、隣接する他の第1の流路122に連通する複数の連通路122aが形成されている。図6(a)では図の明確化のために1つの参照符号122aのみが付与されているが、各々の第1の流路122には同様の連通路122aが複数形成されている。一例として、図6(a)の図示一番左側の図示z軸方向に延びる第1の流路122から延出した参照符号122aを付して示す連通路122aは、図示y軸方向に周期曲面の半周期分だけずれた位置に形成される図示x軸方向に延びる第1の流路122のうち、図6(b)の図示一番上側の第1の流路122に連通している。互いに異なる方向に延びる隣接する第1の流路122同士は、このように形成された連通路122aによって互いに連通している。したがって、図示x,y,z軸方向にそれぞれ延びる複数の第1の流路122はこのような連通路122aによって互いに連通し、それらが一体となって複雑で入り組んだラビリンス状の第1の流路空間120を形成していることが理解できる。
【0038】
第2の流路132も第1の流路122と同様に、連通路132aによって互いに連通している。説明のため、第2の流路132の一例として、図6(a)の図示一番右側の第2の流路132に着目する。第2の流路132にも、隣接する他の第2の流路132に連通する複数の連通路132aが形成されている。図6(a)では図の明確化のために1つの参照符号132aのみが付与されているが、各々の第2の流路132には同様の連通路132aが複数形成されている。一例として、図6(a)の図示一番右側の図示z軸方向に延びる第2の流路132から延出した参照符号132aを付して示す連通路132aは、図示y軸方向に周期曲面の半周期分だけずれた位置に形成される図示x軸方向に延びる第2の流路132のうち、図6(b)の図示一番上側の第2の流路132に連通している。互いに異なる方向に延びる隣接する第2の流路132同士は、このように形成された連通路132aによって互いに連通している。したがって、図示x,y,z軸方向にそれぞれ延びる複数の第2の流路132もこのような連通路132aによって互いに連通し、それらが一体となって複雑で入り組んだラビリンス状の第2の流路空間130を形成していることが理解できる。
【0039】
図7(a)は、図1及び図2に示した構造体を図示yz平面と平行な平面に沿って切断した断面を示す図である。図7(b)は、図1及び図2に示した構造体を、図示yz平面と平行な平面であって、図7(a)に示した断面に対して図示x方向に周期曲面の半周期分だけずらした位置における平面に沿って切断した断面を示す図である。
【0040】
図7(a)に示す断面においては、隔壁構造110内には、複数の第1の流路122が図示左右方向であるz軸方向に正弦波形状を成してスパイラル状に延びるように互いに間隔をおいて形成され、複数の第2の流路132も図示左右方向であるz軸方向に正弦波形状を成してスパイラル状に延びるように互いに間隔をおいて形成されている。図7(a)に示す断面では、図示y軸方向において複数の第1の流路122と複数の第2の流路132とが互い違いに隣接するように配置されている。各々の第1の流路122の図示z軸方向の端部は第3の封止部160によって封止されている。
【0041】
他方、図7(b)に示す断面においては、隔壁構造110内には、複数の第1の流路122が図示上下方向であるy軸方向に正弦波形状を成してスパイラル状に延びるように互いに間隔をおいて形成され、複数の第2の流路132も図示上下方向であるy軸方向に正弦波形状を成してスパイラル状に延びるように互いに間隔をおいて形成されている。図7(b)に示す断面では、図示z軸方向において複数の第1の流路122と複数の第2の流路132とが互い違いに隣接するように配置されている。
【0042】
図7に示すこれらの複数の第1の流路122も、連通部122a(図7では符号での図示省略)によって互いに連通してラビリンス状の第1の流路空間120を形成し、同様に複数の第2の流路132も、連通部132a(図7では符号での図示省略)によって互いに連通してラビリンス状の第2の流路空間130を形成している。
【0043】
以上の説明から理解できるように、本実施形態の構造体100では、複数の第1及び第2の流路122,132は3つの異なる方向(x,y,z軸方向)に延伸しており、それら3つの異なる方向の各々の方向(x,y,z軸方向の各々)において、複数の第1の流路122と複数の第2の流路132とが交互に隣接するように配置されている。
【0044】
上述したように構成された本実施形態の構造体100によれば、隔壁構造110の図示左右(x軸方向)の開放端面は第1の封止部140で封止されており、さらに隔壁構造110の図示前後方向(z軸方向)の端面において複数の第1の流路122の開口が第3の封止部160で封止されているので、図示x軸方向に延びる第1の流路122および図示z軸方向に延びる第1の流路122の両端はいずれも終端した状態にある。そのため、それらの方向に延びる第1の流路122から構造体100の外に第1の流体が流出することはない。したがって、例えば構造体100の図示下面側から構造体100に流入した第1の流体は、複数の第1の流路122で形成された第1の流路空間120を通り、構造体100の図示上面側から構造体100の外に流出する。つまり、本実施形態の構造体100では、第1の流体は第1の流路空間120内を図示上下方向(y軸方向)に流れるように構成されている。
【0045】
第1の流路空間120を形成する複数の第1の流路122は、構造体100内を図示x,y,z軸方向の三方向に立体的な格子構造を形成するようにして互いに連通している。そのため、例えば構造体100の図示下面側から図示y軸方向に延びる或る第1の流路122に流入した第1の流体は、そのままその第1の流路122を通って図示y軸方向上方へ流れることもあれば、これに交差してx軸方向ないしz軸方向に延びる第1の流路122を通り、図示y軸方向に延びる他の第1の流路122に流入してさらに図示y軸方向上方へ流れることもある。第1の流体は、いずれの第1の流路122の経路を経たとしても、最終的には構造体100の図示上面側から構造体100の外に流出する。
【0046】
また、本実施形態の構造体100によれば、隔壁構造110の図示左右(x軸方向)の開放端面は第1の封止部140で封止されており、さらに隔壁構造110の図示上下方向(y軸方向)の端面において複数の第2の流路132の開口が第2の封止部150で封止されているので、図示x軸方向に延びる第2の流路132および図示y軸方向に延びる第2の流路132の両端はいずれも終端した状態にある。そのため、それらの方向に延びる第2の流路132から構造体100の外に第2の流体が流出することはない。したがって、例えば構造体100の図示手前側から構造体100に流入した第2の流体は、複数の第2の流路132で形成された第2の流路空間130を通り、構造体100の図示奥側から構造体100の外に流出する。つまり、本実施形態の構造体100では、第2の流体は第2の流路空間130内を図示前後方向(z軸方向)に流れるように構成されている。
【0047】
第2の流路空間130を形成する複数の第2の流路132は、第1の流路空間130を形成する三方向に延びた複数の第1の流路122の外周面によって画定され、構造体100内を図示x,y,z軸方向の三方向に立体的な格子構造を形成するようにして互いに連通している。そのため、例えば構造体100の図示手前側から図示z軸方向に延びる或る第2の流路132に流入した第2の流体は、そのままその第2の流路132を通って図示z軸方向奥側へ流れることもあれば、第1の流路122の外周面に当たって流れ方向を変えて、x軸方向ないしy軸方向に延びる第2の流路132を通り、図示z軸方向に延びる他の第2の流路132に流入してさらに図示z軸方向奥側へ流れることもある。第2の流体は、いずれの第2の流路132の経路を経たとしても、最終的には構造体100の図示奥側から構造体100の外に流出する。
【0048】
次に、本実施形態の構造体100におけるより特徴的な構成について説明する。
【0049】
図8は、図7(b)に示した構造体の断面図において、隔壁構造を隔てて互いに隣接する第1の流路と第2の流路の流路径比を説明する図である。
【0050】
図8に示すように、一例として図7(b)に示した構造体100の断面図に現れる、隔壁構造110を隔てて互いに隣接する第1及び第2の流路122,132は、第1の方向である図示y軸方向に沿って延びており、図示y軸方向に対して直交する図示xz平面に沿った断面(一例として図8中の一点鎖線に沿った断面)において、それぞれ流路径(もしくは「流路幅」。以下同じ。)D1,D2を有している。それらの流路径の比D1/D2は、構造体100の少なくとも一部において、上記第1の方向である図示y軸方向に沿って変遷している。
【0051】
また図9は、図1及び図2に示した構造体における第1の流路空間と第2の流路空間との体積比の変遷を説明する概念図であり、図(a)は、図示x軸方向に沿って延びる第1及び第2の流路が現われる構造体の断面と、図示y軸方向に沿った各位置において構造体からそれぞれ切り出される単位体積ユニットとを示す図であり、図(b)は、各位置の単位体積ユニットにおける第1の流路空間と第2の流路空間との体積比の関係を示すグラフである。
【0052】
図9(a)に示す概念図の構造体は、図示y軸方向に沿って、複数の第1の流路122が互いに連通して形成される第1の流路空間120の体積と、複数の第2の流路132が互いに連通して形成される第2の流路空間130の体積との比が連続的に変遷している。
【0053】
図9(a)において、体積比の「A」は複数の第1の流路122が互いに連通して形成される第1の流路空間120の体積割合を示し、体積比の「B」は複数の第2の流路132が互いに連通して形成される第2の流路空間130の体積割合を示している。図9(a)に示す概念図の例では、構造体の図示y軸方向の位置1に位置する単位体積ユニットは第1の流路空間120と第2の流路空間130との体積比A:Bが0.33:0.67であり、位置2に位置する単位体積ユニットは同体積比A:Bが0.41:0.59であり、位置3に位置する単位体積ユニットは同体積比A:Bが0.50:0.50であり、位置4に位置する単位体積ユニットは同体積比A:Bが0.59:0.41であり、位置5に位置する単位体積ユニットは同体積比A:Bが0.67:0.33である。
【0054】
図9では図示y軸方向に沿った位置1~5までの区間における各位置の上記体積比の数値を例示として離散的に示したが、上記体積比は図示y軸方向に沿って連続的に変遷し得る。このことは、特に図9(b)において、濃いグレーで示される第1の流路空間120の体積割合が位置1から位置5にかけて漸増しているのに対し、淡いグレーで示される第2の流路空間130の体積割合が位置1から位置5にかけて漸減していることからも理解することができる。
【0055】
このように、本実施形態の構造体100では、隔壁構造110を隔てて互いに隣接してある方向に延びている第1の流路122と第2の流路132との流路径の比がその方向に沿って変遷する領域を設けることで、その領域では、それらの第1の流路122が互いに連通した第1の流路空間120の体積とそれらの第2の流路132が互いに連通した第2の流路空間130の体積との体積比が同方向に沿って変遷することを理解することができる。
【0056】
図10は、図2に示した構造体の正面図に対して、説明のため一点鎖線を描画した図である。図10に示すように、本実施形態の構造体100は、第1の空間領域100A、第2の空間領域100B及び第3の空間領域100Cを有している。
【0057】
本実施形態の例では、第1の空間領域100Aは構造体100の周囲領域に存在している。図10に示した2つの一点鎖線円のうち、外側の一点鎖線円よりも外側の領域が第1の空間領域100Aに相当する。第1の空間領域100Aは、図10の外側の一点鎖線円よりも外側の領域が図示z軸方向に延びて形成される立体的な空間である。
【0058】
第1の空間領域100Aにおいては、第1の流路122の流路径と第2の流路132の流路径とは等しく、これを「第1の流路122の流路径/第2の流路132の流路径」で表される第1の比とすると、その値は1である。
【0059】
また本実施形態の例では、第2の空間領域100Bは、構造体100の中央寄りに存在しており、図10に示すように構造体100を正面から前後方向(図示z軸方向)に見たときに円形の形状を有している。図10に示した2つの一点鎖線円のうち、内側の一点鎖線円で囲まれた領域が第2の空間領域100Bに相当する。第2の空間領域100Bは、図10の内側の一点鎖線で囲まれた領域が図示z軸方向に延びて形成される立体的な空間である。
【0060】
第2の空間領域100Bでは、第1の流路122は第1の領域100Aにおける第1の流路122の径よりも小さい流路径を有している一方、第2の流路132は第1の空間領域100Aにおける第2の流路132の流路径よりも大きい流路径を有している。第2の空間領域100Bにおける「第1の流路122の流路径/第2の流路132の流路径」で表される比を「第2の比」とすると、その値は1より小さい値となり、「第1の比>第2の比」の関係となる。
【0061】
さらに、本実施形態の例では、第3の空間領域100Cは第1の空間領域100Aと第2の空間領域100Bとの間に存在している。図10に示した2つの一点鎖線円同士の間に挟まれた環状の領域が第3の空間領域100Cに相当する。第3の空間領域100Cは、図10の2つの一点鎖線円同士の間に挟まれた環状の領域が図示z軸方向に延びて形成される立体的な空間である。
【0062】
第3の空間領域100Cでは、第1の流路122と第2の流路132との流路径の比が、第1の空間領域100A側の第1の径比から第2の空間領域100B側の第2の径比へと連続的に変遷するように、第1の流路122及び第2の流路132はそれぞれの径が連続的に漸減または漸増するように形成されている。したがって、第3の空間領域100Cは、第1の流路122と第2の流路132との流路径の比が異なる2つの空間領域の間を第1の流路122及び第2の流路132の流路径を連続的に遷移させて接続する遷移領域として機能する。ここで、「第1の流路122及び第2の流路132の流路径を連続的に遷移させる」とは、隣接する第1又は第2の空間領域100A,100Bの第1の流路122及び第2の流路132との接続部に角や段差が形成されることがなく、また、第3の空間領域100Cにおける第1の流路122及び第2の流路132においても角や段差が形成されておらず、第1の流路122及び第2の流路132が滑らかな曲面で形成されていることを意味する。なお、隔壁構造110の第3の空間領域100Cにおける部分は、周期極小曲面で隔てられる2つの流路の流路径の比が次第に変わるように、基となる周期極小曲面を修正することで形成することができる。
【0063】
このように、本実施形態の構造体100は流路径の比が互いに異なる第1及び第2の空間領域100A,100Bを備えている。第1の空間領域100Aでは第1の流路122の径と第2の流路132の径とが等しい。これに対し、第2の空間領域100Bでは、第1の流路122の径が第1の空間領域100Aにおける第1の流路122の径よりも小さく、第2の流路132の径が第1の空間領域100Aにおける第2の流路132の径よりも大きいので、第2の空間領域100Bの第1の流路122を流れる第1の流体の流量は、第1の空間領域100Aの第1の流路122を流れる第1の流体の流量よりも少なくなり、かつ、第2の空間領域100Bの第2の流路132を流れる第2の流体の流量は、第1の空間領域100Aの第2の流路132を流れる第1の流体の流量よりも多くなる。そのため、第2の空間領域100Bでは、第1の流路122を流れる第1の流体の単位時間当たりの体積に比べて、第2の流路132を流れる第2の流体の単位時間当たりの体積が大きくなるので、第2の流体が有する熱エネルギーが第1の流体に対してより多く供給される。したがって、第2の空間領域100Bでは第1の空間領域100Aに比べて、第1の流路122を流れる第1の流体が第2の流路132を流れる第2の流体によってより冷却ないし加熱され、両流体間の熱交換が促される。つまり、本実施形態の構造体100は、第1の流路122及び第2の流路132の径比が異なる空間領域を設けることにより、第1の流路122及び第2の流路132をそれぞれ流れる第1の流体と第2の流体との間の熱交換効率が異なるように分布を持たせることができる。
【0064】
また、本実施形態の構造体100では、x,y,z軸方向にそれぞれ延びる第1及び第2の流路122,132について、互いに隣接する1つの第1の流路122と1つの第2の流路132とを一組としてみたときに、その一組の流路122,132が占める流路幅は第1及び第2の流路122,132の流路径の比によらず一定である。つまり、その流路径比が第1の比である第1の空間領域100Aにおいても、あるいは、路径比が第2の比である第2の空間領域100Bにおいても、さらには流路径比が変遷する第3の空間領域100Cにおいても、互いに隣接する一組の流路122,132が占める流路幅は一定である。換言すれば、ある方向に沿って延びる第1の流路122と、隔壁構造110を隔てて第1の流路122に隣接し当該方向に沿って延びる第2の流路132とは、第1の流路122の流路径と第2の流路132の流路径との和が当該方向に沿って一定となるように形成されている。このことは、各流路の断面を示す各図において示されている。ただし、上記構成は例示であるにすぎず、本実施形態の構造体100において互いに隣接する一組の流路122,132が占める流路幅は必ずしも一定でなくてもよい。
【0065】
さらに、隔壁構造110を形成する周期曲面をユニット単位でみたときに、隔壁構造110はその一部あるいは全体にわたってユニットの大きさが段階的に変わるように形成されていてもよい。この場合、ユニットの大きさが段階的に変わることに加えて、上記に説明したように第1及び第2の流路122,132の流路径の比が変遷するように形成してもよい。
【0066】
次に、本実施形態の構造体100の適用例について説明する。
【0067】
本実施形態の構造体100は、一例として熱交換器の一要素部分として利用することが可能である。第1の流路空間120を図示上下(y軸)方向に流れる第1の流体と、第2の流路空間130を図示前後(z軸)方向に流れる第2の流体とに温度差がある場合、一方の流体が有する熱が、各流路空間120,130を隔てる隔壁構造110の壁を伝導して、他方の流体へ伝達する。これにより、例えば、第1の流体として常温よりも冷やされた液体(水あるいはエーテル油やエステル油などのオイル等)を第1の流路空間120に流し、常温の空気を第2の流路空間130に流した場合、第2の流路空間130を通る空気が第1の流路空間120を流れる液体で冷やされ、冷風となって構造体100から流出する。この場合、構造体100はクーラーあるいは冷風機の一部として機能する。あるいは、第1の流体として常温よりも温められた液体を第1の流路空間120に流し、常温の空気を第2の流路空間130に流した場合、第2の流路空間130を通る空気が第1の流路空間120を流れる液体で温められ、温風となって構造体100から流出する。この場合、構造体100はヒーターあるいは温風器の一部として機能する。なお、第1及び第2の流体として用いる上述した流体の種類とその温度は任意であり、上記の例に限定されるものではない。
【0068】
特に、構造体100は第2の空間領域100Bにおいて第2の流路132の流路径が第1の流路122の流路径よりも大きくなっているため、第2の空間領域100Bでは他の空間領域に比べて第2の流路132をより多くの流量の空気が流れることができる。そのため、構造体100を例えば上記のように冷風機あるいは温風器として用いた場合には、その中央寄りの第2の空間領域100Bでより多くの風量を提供することができる。
【0069】
一方、第2の空間領域100Bでは第1の流路122の流路径が第2の流路132の流路径よりも小さくなっており、第2の空間領域100Bでは他の空間領域に比べて第1の流路122を流れる空気の流量は少ない。第2の空間領域100Bの第1及び第2の流路122,132における単位断面積あたりの流量が同じであると仮定すると、単位時間あたりに各流路122,132を流れる各流体の体積は各流路122,132の流路径の比に応じて異なる。そして、各流体によって運ばれる、あるいは吸収される熱エネルギー量も各流体の体積に比例する。そのため、第1の流体が第2の空間領域100Bの第1の流路122を通過する間に、その第1の流体が蓄えている高温あるいは低温の熱エネルギーが、同じく第2の空間領域100Bの第2の流路132を流れる第2の流体により多く吸収されることとなる。つまり、構造体100の第2の空間領域100Bでは、流路径が比較的小さい第1の流路122を流れる第1の流体の熱エネルギーを、流路径が比較的大きい第2の流路132を流れる第2の流体により多く伝達することができる。その結果、第2の空間領域100Bの第1の流路122を通過する第1の流体は、他の空間領域の第1の流路122を通過する場合に比べて、第2の流路132を流れる第2の流体によってより冷却あるいは温められた状態で第1の流路122から流出する。換言すれば、第2の空間領域100Bでは、第2の流路132を流れる第2の流体が蓄えている熱エネルギーを、より確実に第1の流路122を流れる第1の流体に伝達することができる。
【0070】
さらに、本実施形態の構造体100は第2の空間領域100Bにおいて第2の流路132の流路径が第1の流路122の流路径よりも大きくなっていることにより、特に図2に示すように構造体100を正面から見たときに、第2の空間領域100Bにおける第2の流路132は、より大きく開口して構造体100の反対側へ貫通した状態となる。そのため、このような第2の空間領域100Bにおける第2の流路132の開口134(図3等参照)を通して構造体100の反対側の様子を透かして見ることが可能である。あるいは、第2の空間領域100Bにおける第2の流路132を通して構造体100の反対側から採光することも可能である。さらには、第2の空間領域100Bにおける第2の流路132を通して音を伝達することも可能である。
【0071】
特に、第2の空間領域100Bにおける第2の流路132の開口134を通して構造体100の反対側の様子を透かして見る場合には、構造体100を正面から見た場合と、その正面を斜めから見た場合とで、構造体100の反対側の様子の見え具合が変化する。構造体100を正面から見た場合は、図2に示すように第2の空間領域100Bの円形形状と同様に反対側の様子が見えるが、これに対して斜め方向から見た場合には、構造体100の図示z軸方向の厚みによって第2の空間領域100Bの第2の流路132を通る光の一部が遮られるため(いわゆる「ケラレ」現象)、構造体100の反対側を視認できる領域の位置、広さ及び形状が見る角度に応じて変化する。
【0072】
これらの特徴を活かして、本実施形態の構造体100を例えば家屋の窓枠や壁の少なくとも一部として用いてもよい。この場合、例えば、第1の流路空間120に冷却あるいは温めた第1の流体を流し、第2の流路空間130に家屋の外部から内部に流入する方向で空気を流すことにより、外気を構造体100で冷却あるいは温めた状態で家屋内部に取り込むことができる。
【0073】
さらに、第2の空間領域100Bにおける第2の流路132を通して家屋の外部から太陽光等の光を直接取り込むこともできる。太陽光を取り込む場合、構造体100を設置する方角に応じて、採光する時間帯や光の方向を設定することができる。例えば、構造体100の正面(図示xy平面)が東を向くように設置することで朝日を取り込むことができ、南向きに設置することで一日のより長い時間を通して太陽光を取り込むことが可能である。
【0074】
さらには、第2の空間領域100Bにおける第2の流路132を通して、家屋の内部から外部の音を聞いたり、家屋の内部と外部との間で会話をしたりすることができる。特に来客時等に、扉や窓を開けずに構造体100を通して直接会話をすることも可能となる。
【0075】
また、上記では構造体100の第1の流路空間120と第2の流路空間130とで互いに異なる流体を流す例を示したが、それらに同じ流体を流してもよい。一例として、第1の流路空間120に家屋内部から外部に排出する方向で空気を流し、第2の流路空間130に家屋の外部から内部に流入する方向で空気を流すようにしてもよい。この場合、構造体100は熱交換形の換気機器の一要素部分として機能する。例えば外気が冷たく、家屋内の空気が温かい場合、構造体100の第2の流路空間130を通じて外部から家屋内に取り込まれる外気は、構造体100を通過する間に、第1の流路空間120を流れて家屋内から排出される空気によって温められる。一方で、第1の流路空間120を流れて家屋内から排出される空気は、第2の流路空間130を通じて外部から家屋内に取り込まれる外気によって冷やされる。外気温と室内の空気の温度とが上記とは逆の場合には、それぞれの空気の温め/冷却も上記とは逆となる。このように、本実施形態の構造体100を熱交換形の換気機器として用いた場合には、換気の際に排出される室内空気が蓄えている温熱又は冷熱の熱エネルギーを再利用しながら換気を行うことができる。そのため、室内の空気の冷暖房のために消費されるエネルギーを低減することが可能となる。
【0076】
(変形例)
次に、本実施形態の構造体の変形例について説明する。図11は、本開示の一実施形態に係る構造体の一変形例を示す正面図である。
【0077】
図11に示すように、本変形例に係る構造体200は、正面側の図示xy平面内の右下側のほとんどの領域と、正面側の図示xy平面内の左上側の一部の領域とに第1の空間領域200Aを有している。また構造体200は、正面側の図示xy平面内の左上側の領域において図示左下側から右上方向へ斜めに延びる形状の第2の空間領域200Bを有している。さらに構造体200は、第1の空間領域200Aと第2の空間領域200Bとの間の2か所の領域に第3の空間領域200Cを有している。
【0078】
本変形例の構造体200の各空間領域200A,200B,200Cにおいて隔壁構造によって形成される第1及び第2の流路空間、およびそれら各流路空間をそれぞれ形成する第1及び第2の流路の構成は、上述した構造体100におけるそれらの構成と同様である。また、本変形例の構造体200における各封止部も上述した構造体100におけるそれらの構成と同様である。
【0079】
本変形例の構造体200では、図示xy平面内の左上側の領域において図示左下側から右上方向へ斜めに延びる形状の第2の空間領域200Bにおいて第2の流路の流路径が比較的大きくなっており、その領域において構造体100を参照して上述したような種々の利点を活用することができる。
【0080】
なお、上記の構造体100,200では、第1の流路と第2の流路との流路径の比が異なる2つの空間領域と、それらの間を遷移する空間領域とを有する例を示したが、本実施形態の構造体が備えることができる空間領域はこれらに限られない。
【0081】
例えば、第1の流路と第2の流路との流路径の比が異なる空間領域を3つ以上備え、それに応じてそれらの間を遷移する空間領域を複数備える構成としてもよい。あるいは、構造体の全体にわたって、第1の流路と第2の流路との流路径の比が変遷するように構成されていてもよい。この場合、第1の流路と第2の流路との流路径の比が構造体の全体にわたって一様に変遷するように構成しても良く、あるいは、構造体のある領域では第1の流路と第2の流路との流路径の比が漸減し、他の領域では漸増するように構成してもよい。
【0082】
これにより、第1の流路と第2の流路とをそれぞれ流れる第1及び第2の流体の流量比を構造体内でより多段階に設定することができる。また、構造体の表面に現れる各流路の開口によってもたらされる意匠をより多様にデザインすることが可能になる。
【0083】
このように、本実施形態に係る構造体では、構造体に求める用途、機能、意匠性等に応じて、第1の流路と第2の流路との流路径の比が異なる空間領域を、種々の形状および大きさで適宜配置することができる。
【0084】
また、上記では本実施形態の構造体を家屋等において用いられる熱交換器や換気装置に適用する例を挙げて説明したが、本実施形態の構造体の適用はこれに限られず、例えば各種工業用の熱交換器や、航空エンジン、発電プラント等で用いられる熱交換器にも適用可能である。
【0085】
本実施形態の構造体の一部又は全部は、例えば、付加製造技術を用いて樹脂材料もしくは金属材料等によって形成することが可能である。付加製造技術としては、一例として、3D印刷技術、光硬化性樹脂を用いた光造形技術等を用いることができる。ただし、本実施形態の構造体の製造に付加製造技術を用いることは必須ではなく、構造体が他の製造技術(例えば、切削、モールド成形、射出成形、粉末圧縮成形、レーザー加工等)で製造できる形状である場合には、付加製造技術以外のこれらの製造技術を用いて製造してもよい。
【0086】
以上、開示の実施形態を通じて本開示を説明したが、上述の実施形態は、請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、本開示の実施形態の中で説明されている特徴を組み合わせた形態も本開示の技術的範囲に含まれ得る。さらに、上述の実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることも当業者に明らかである。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11