(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151836
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディ及びその核酸コード配列、並びにその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220929BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220929BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20220929BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220929BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220929BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220929BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220929BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220929BHJP
A61P 15/14 20060101ALI20220929BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220929BHJP
A61P 15/08 20060101ALI20220929BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20220929BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
C07K16/30
C07K16/46
C12N15/62 Z
A61P37/02
A61P35/00
A61P11/00
A61P15/14
A61P25/00
A61P15/08
A61P1/02
A61K39/395 N
A61K39/395 T
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022048356
(22)【出願日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】63/165,191
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/165,266
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/165,274
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/699,879
(32)【優先日】2022-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522118311
【氏名又は名称】聖安生醫股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Shine-On Biomedical Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】周 徳陽
(72)【発明者】
【氏名】邱 紹智
(72)【発明者】
【氏名】黄 士維
(72)【発明者】
【氏名】潘 志明
(72)【発明者】
【氏名】陳 美智
(72)【発明者】
【氏名】林 育全
(72)【発明者】
【氏名】陳 曄
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB36
4C085BB42
4C085CC23
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4C085GG06
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、ヒト白血球抗原-G、プログラム細胞死リガンド1、及びCD3εに特異的に結合する、免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディを提供する。また、本発明は、前記免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディの核酸コード配列、がん及び免疫関連疾患を治療するための前記免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディの使用も提供する。
【解決手段】本発明の免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディは、ヒト白血球抗原-G(human leukocyte antigen-G、HLA-G)、プログラム細胞死リガンド1(programmed cell death ligand 1、PD-L1)、及びCD3ε(CD3 epsilon)に特異的に結合し、かつ、特定のアミノ酸配列の組み合わせを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト白血球抗原-G(human leukocyte antigen-G、HLA-G)、プログラム細胞死リガンド1(programmed cell death ligand 1、PD-L1)、及びCD3ε(CD3 epsilon)に特異的に結合し、かつ、配列番号1と、配列番号2と、配列番号3とのアミノ酸配列の組み合わせを含むことを特徴とする、
免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディ。
【請求項2】
前記アミノ酸配列は、前記免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディの重鎖可変ドメイン(heavy chain variable domain、VHH)のアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項1に記載の免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディ。
【請求項3】
フラグメント結晶化可能領域(fragment crystallizable region、Fcregion)をさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載の免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディ。
【請求項4】
第2抗体に共役することによって三重特異性T細胞エンゲージャー(triple specific T-cell engager、TriTE)を形成することを特徴とする、請求項3に記載の免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディ。
【請求項5】
CD3ε陽性細胞を活性化及び/又は凝集させることを特徴とする、請求項4に記載の免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディ。
【請求項6】
腫瘍細胞を死滅させる効果を有することを特徴とする、請求項5に記載の免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディ。
【請求項7】
前記腫瘍細胞は、肺腺がん細胞、乳がん細胞、神経膠芽腫細胞、卵巣がん細胞、口腔がん細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれることを特徴とする、請求項6に記載の免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディのアミノ酸配列をコードし、かつ、配列番号4と、配列番号5と、配列番号6とのヌクレオチド配列の組み合わせを含むことを特徴とする、単離された核酸。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディと、医薬上許容可能な担体とを含むことを特徴とする、医薬成分物。
【請求項10】
がん及び免疫関連疾患を治療する医薬品を製造するための請求項1~7のいずれか1項に記載の免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディの使用。
【請求項11】
前記がんは、肺腺がん、乳がん、神経膠芽腫、卵巣がん、口腔がん、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれることを特徴とする、請求項10に記載の免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディ及びその核酸コード配列、並びにその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、悪性腫瘍とも呼ばれ、細胞の分裂・増殖の制御機能不全による疾患であり、細胞が異常に増殖し、また、異常増殖した細胞が体の他の部分に侵入可能である。世界中でがん患者がどんどん増加しており、台湾でも死因トップ10の1つであり、かつ、長年に死因トップ10の1位を占めている。
【0003】
従来の腫瘍治療方法は、外科手術、放射線療法、化学療法及び標的療法等が挙げられる。腫瘍免疫治療は、上記の治療法以外の腫瘍を治療する方法であり、患者自身の免疫系を活性化させ、腫瘍細胞又は腫瘍抗原物質を利用して生体の特異的細胞性免疫及び体液性免疫反応を誘導し、生体の抗がん能力を高め、腫瘍の成長、拡散、再発を抑制することで、腫瘍の除去又は制御という目的を達成することができる。しかしながら、現在の腫瘍治療方法は、効果が低く、副作用が強いという問題があり、他の免疫関連疾患を引き起こすことさえ可能性がある。
【0004】
ヒト白血球抗原-G(human leukocyte antigen-G、HLA-G)は、様々な固形腫瘍において大量に発見され、免疫細胞を抑制する特性を持つため、腫瘍を特定する標的分子として用いられ、抗がん剤として利用する可能性が検討されている。
【0005】
プログラム細胞死リガンド1(programmed cell death ligand 1、PD-L1)は、様々な固形腫瘍の細胞表面に大量に発見されるため、腫瘍を特定する標的分子として用いられ、抗がん剤として利用する可能性が検討されている。
【0006】
CD3ε(CD3 epsilon)は、T細胞に見られる膜貫通型タンパク質であり、腫瘍及び免疫機能の調節に関連することが知られている。よって、CD3εを腫瘍の特定及び免疫機能の調節のための標的分子として使用すること、かつ、これらの標的分子が抗がん剤又は免疫調節剤として利用する可能性があるかことが検討されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の問題を解決するために、当業者は、がん及び免疫関連疾患をより効果的に治療することができ、かつ、免疫調節及び免疫細胞を活性化させるための新規医薬品が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記を鑑み、本発明の目的は、ヒト白血球抗原-G(human leukocyte antigen-G、HLA-G)、プログラム細胞死リガンド1(programmed cell death ligand 1、PD-L1)、及びCD3ε(CD3 epsilon)に特異的に結合し、かつ、配列番号1と、配列番号2と、配列番号3とのアミノ酸配列の組み合わせを含む免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディを提供することである。
【0009】
本発明の1つの実施例において、前記アミノ酸配列は、前記免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディの重鎖可変ドメイン(heavy chain variable domain、VHH)のアミノ酸配列である。
【0010】
本発明の1つの実施例において、前記免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディは、フラグメント結晶化可能領域(fragment crystallizable region、Fc region)をさらに含む。
【0011】
本発明の1つの実施例において、前記免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディは、第2抗体に共役することによって三重特異性T細胞エンゲージャー(triple specific T-cell engager、TriTE)を形成する。
【0012】
本発明の1つの実施例において、前記免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディは、CD3ε陽性細胞を活性化及び/又は凝集させる。
【0013】
本発明の1つの実施例において、前記免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディは、腫瘍細胞を死滅させる効果を有する。
【0014】
本発明の1つの実施例において、前記腫瘍細胞は、肺腺がん細胞、乳がん細胞、神経膠芽腫細胞、卵巣がん細胞、口腔がん細胞、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0015】
また、本発明のもう1つの目的は、前記免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディのアミノ酸配列をコードし、かつ、配列番号4と、配列番号5と、配列番号6とのヌクレオチド配列の組み合わせを含む単離された核酸を提供することである。
【0016】
また、本発明のもう1つの目的は、前記免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディと、医薬上許容可能な担体とを含む医薬成分物を提供することである。
【0017】
また、本発明のもう1つの目的は、がん及び免疫関連疾患を治療する医薬品を製造するための前記免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディの使用を提供することである。
【0018】
本発明の1つの実施例において、前記がんは、肺腺がん、乳がん、神経膠芽腫、卵巣がん、口腔がん、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【発明の効果】
【0019】
上記をまとめると、本発明の免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディの効果は、以下の通りである。
【0020】
表面プラズモン共鳴結合分析(surface plasmon resonance binding assay、SPR binding assay)により、HLA-G、PD-L1、及びCD3εに特異的に結合することができることを証明し、
T細胞(即ち、末梢血単核細胞)の増殖及び活性化アッセイ(T cell(i.e. peripheral blood mononuclear cell、PBMC) proliferation and activation assay)により、T細胞塊の増殖及び活性化と、PBMCにおけるCD3陽性T細胞の増殖とを向上させることができることを証明し、
免疫組織化学的(immunocytochemistry、ICC)染色により、腫瘍細胞に結合して腫瘍細胞を死滅させることができることを証明し、
酵素結合免疫吸着測定法(enzyme linked immunosorbent assay、ELISA)により、腫瘍細胞におけるサイトカイン(cytokine)の分泌を促進させることができることを証明し、
動物実験により、がん細胞の増殖を抑制し、がん及び免疫関連疾患を治療する効果を達成することができることを証明する。
【0021】
特に、従来の抗体は、遺伝子をベクターによって細胞にトランスフェクトしてから抗体の機能を発揮することができるため、収率が低くて効果が低いという欠点がある。本発明の免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディは、インビトロで大量に製造してそのまま投与すべき個体に投与して治療を行うことができる。
【0022】
以下、本発明の実施形態についてさらに説明する。下記の実施例は、本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、改良や変更することができる。よって、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲を基準とすべきである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1A】免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディ(immunomodulation and antitumor-related nanobody)(即ち、PD-L1、HLA-G、及びCD3εナノボディをベースとした三重特異性T細胞エンゲージャー(PD-L1×HLA-G×CD3ε nanobody-based triple specific T-cell engager,PD-L1×HLA-G×CD3ε nanobody-based TriTE)、以下、Nb-TriTEと称する)の構造及び成分を示す。Anti-HLA-Gは、抗ヒト白血球抗原-G(human leukocyte antigen-G、HLA-G)ナノボディを示し、そのアミノ酸配列は、配列番号1であり、抗HLA-Gナノボディのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号4である。Anti-PDL1は、抗プログラム細胞死リガンド1(programmed cell death ligand 1、PD-L1)ナノボディを示し、そのアミノ酸配列は、配列番号2であり、抗PD-L1ナノボディのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号5である。Anti-CD3eは、抗CD3εナノボディを示し、そのアミノ酸配列は、配列番号3であり、抗CD3εナノボディのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号6である。Signal peptideは、シグナルペプチドを示し、そのアミノ酸配列は、配列番号7であり、シグナルペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号8である。VHH1は、重鎖可変ドメイン1(heavy chain variable domain 1、VHH1)、即ち抗PD-L1ナノボディを示す。Flexible linkerは、フレキシブルリンカー、即ちリンカー(Linker)を示し、そのアミノ酸配列は、配列番号9であり、フレキシブルリンカーのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号10である。VHH2は、重鎖可変ドメイン2(heavy chain variable domain 2、VHH2)、即ち抗HLA-Gナノボディを示す。VHH3は、重鎖可変ドメイン3(heavy chain variable domain 3、VHH3)、即ち抗CD3εナノボディを示す。Hingeは、ヒンジを示す。CH2及びCH3は、ヒトIgG1のフラグメント結晶化可能領域(fragment crystallizable region、Fcregion)、即ちヒトIgG1Fcドメイン(Human IgG1 Fc-domain)を示し、そのアミノ酸配列は、配列番号11であり、ヒトIgG1Fcドメインのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号12である。
【
図1B】Nb-TriTEの制限酵素の消化結果を示す。レーン1(lane 1)は、プラスミドを示す。レーン2(lane 2)は、XbaI-BamHIで消化したプラスミドを示す。レーンM(lane M)は、DNAマーカー(DNA marker)を示す。
【
図1C】精製されたNb-TriTEのゲル電気泳動分析の結果を示す。
【
図2A】Nb-TriTEとPD-L1との結合のSPR動力学的分析の結果を示す。リガンドは、PD-L1である。分析濃度は、100、50、25、12.5、6.25、3.125、1.5625、0.78125nMである。流速は、30μL/minである。結合時間(association time)は、120秒である。解離時間(dissociation time)は、900秒である。アテゾリズマブ(Atezolizumab)は、尿路上皮がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、トリプルネガティブ乳がん、小細胞肺がん、及び肝細胞がんを治療するためのIgG1アイソタイプ完全ヒト化抗PD-L1モノクローナル抗体である。Anti-PDL1は、抗PD-L1ナノボディを示す。Responseは、反応を示す。Timeは、時間を示す。
【
図2B】Nb-TriTEとHLA-Gとの結合のSPR動力学的分析の結果を示す。リガンドは、HLA-Gである。分析濃度は、305、152.5、76.25、38.125、19.0625nMである。流速は、30μL/minである。結合時間は、180秒である。解離時間は、360秒である。Anti-HLA-Gは、抗HLA-Gナノボディを示す。Anti-CD3eは、抗CD3εナノボディを示す。87Gは、市販の抗HLA-Gモノクローナル抗体を示す。Responseは、反応を示す。Timeは、時間を示す。
【
図2C】Nb-TriTEとCD3εとの結合のSPR動力学的分析の結果を示す。リガンドは、CD3εである。分析濃度は、28.125、56.25、112.5、225、450、900、1800、3600nMである。流速は、15μL/minである。結合時間は、350秒である。解離時間は、900秒である。Anti-CD3eは、抗CD3εナノボディである。ムロモナブ-CD3(Muromonab-CD3)は、臓器移植を受けている患者の急性拒絶反応を軽減するための免疫抑制剤であり、T細胞表面CD3受容体に対するモノクローナル抗体である。Responseは、反応を示す。Timeは、時間を示す。
【
図3】Nb-TriTEのT細胞増殖(T cell proliferation)分析の結果を示す。PBMCは、末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell)を示す。
【
図4】腫瘍細胞、T細胞、及びNb-TriTE(即ち、VHHナノボディ)の免疫細胞化学(immunocytochemistry、ICC)染色の結果を示す。使用する細胞株A549は、ヒト非小細胞肺がん細胞株である。PBMCは、末梢血単核細胞を示す。VHHは、Nb-TriTEを示す。上図の細胞数は、1×10
5/ウェルである。下図の細胞数は、4×10
4/ウェルである。
【
図5A】Nb-TriTE及びPBMCによるヒトがん細胞株に対する細胞溶解の向上の結果を示す。A549は、ヒト肺腺がん細胞株を示す。231は、MDA-MB-231-ヒト乳がん細胞株を示す。U87は、神経膠芽腫(glioblastoma)細胞株を示す。SKOV3は、ヒト卵巣がん細胞株を示す。FaDuは、ヒト口腔がん細胞株を示す。PBMC及びA549細胞の比率は、3:1である。Nb-TriTEの濃度は、10μg/mlである。共培養は、48時間にわたって実施する。
【
図5B】Nb-TriTE及びPBMCによるヒト肺腺がん細胞株A549に対する細胞溶解の向上の結果を示す。Nb-TriTEの濃度は、0、1、10、100、1000、10000、及び100000μg/mlである。エフェクター(effector、E)細胞は、PBMCである。ターゲット(target、T)細胞は、A549細胞である。E:T ratioは、エフェクター/ターゲット比を示す。
【
図6】Nb-TriTEによるA549とPBMCとの共培養でのサイトカインの分泌の向上の効果を示す。A549は、ヒト肺腺がん細胞株を示す。Nbは、ナノボディを示す。エフェクター(effector、E)細胞は、PBMCである。ターゲット(target、T)細胞は、A549細胞を示す。E:T ratioは、エフェクター/ターゲット比を示す。#は、未検出を示す。Perforinは、パーフォリンを示す。Granzyme Bは、グランザイムBを示す。TNF-αは、腫瘍壊死因子α(tumor necrosis factor alpha)を示す。IFN-γは、インターフェロンγ(interferon gamma)を示す。共培養は、48時間にわたって実施する。
【
図7A】Nb-TriTEによるヒト化マウスの肺がんの成長の遮断効果を示す。
図7AにおけるLucは、ルシフェラーゼ(luciferase)を示す。PBMCは、末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell)を示す。A549は、ヒト肺腺がん細胞株を示す。TriTEは、Nb-TriTEを示す。
【
図7B】Nb-TriTEによるヒト化マウスの肺がんの成長の遮断効果を示す。
図7AにおけるLucは、ルシフェラーゼ(luciferase)を示す。PBMCは、末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell)を示す。A549は、ヒト肺腺がん細胞株を示す。TriTEは、Nb-TriTEを示す。
【
図7C】Nb-TriTEによるヒト化マウスの肺がんの成長の遮断効果を示す。
図7AにおけるLucは、ルシフェラーゼ(luciferase)を示す。PBMCは、末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell)を示す。A549は、ヒト肺腺がん細胞株を示す。TriTEは、Nb-TriTEを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
本明細書に記載の数値は、概算値である。全ての実験データは、その数値の±20%、好ましいは±10%、より好ましくは±5%を示す。
【0025】
本明細書において、「免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディ」、「PD-L1、HLA-G及びCD3εナノボディをベースとした三重特異性T細胞エンゲージャー(PD-L1×HLA-G×CD3ε nanobody-base d triple specific T-cell engager、PD-L1×HLA-G×CD3ε nanobody-based TriTE)」、「Nb-TriTE」、及び「VHHナノボディ」という用語は、相互交換可能に使用される。
【0026】
本明細書において、「CD3e」、「CD3ε」、及び「CD3 epsilon」という用語は、相互交換可能に使用される。
【0027】
本明細書において、「第2抗体」という用語は、ナノボディに共役することによって三重特異性T細胞エンゲージャー(triple specific T-cell engager、TriTE)を形成することができる抗体を意味する。
【0028】
好ましくは、前記第2抗体は、抗CD3ε、CD3、ヒト白血球抗原-G(human leukocyte antigen-G、HLA-G)、プログラム細胞死リガンド2(programmed cell death ligand 2、PD-L2)、T細胞免疫グロブリンドメイン及びムチンドメイン3(T-cell immunoglobulin domain and mucin domain 3、Tim3)、表皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor、EGFR)、EGFRvIII、ヒト表皮成長因子受容体2(human epidermal growth factor receptor 2、Her2)、B細胞成熟抗原(B-cell maturation antigen、BCMA)、CD19、CD20、CD34、CD16、Fc、上皮細胞接着分子(epithelial cell adhesion molecule、EpCAM)、メソテリン(mesothelin)、ニューヨーク食道扁平上皮細胞がん-1(New York esophageal squamous cell carcinoma-1、NY-ESO-1)、糖タンパク質100(glycoprotein 100、gp100)、及びムチン1(Muc1)抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本明細書において、「治療(treating又はtreatment)」という用語は、疾患(disease)又は障害(disorder)の1つ又は複数の臨床徴候(clinical sign)を緩和(alleviating)、減少(reducing)、改善(ameliorating)、軽減(relieving)、又は制御(controlling)すること、及び、治療中の病態(condition)又は症状(symptom)の重症度(severity)の進展(progression)を低下(lowering)、停止(stopping)又は逆転(reversing)させることを意味する。
【0030】
本発明に係る医薬品は、通常の知識に基づいて、非経口(parenterally)投与の剤形(dosage form)に製造されてもよい。前記非経口投与の剤形は、例えば、注射剤(injection)(例えば、滅菌水溶液(sterile aqueous solution)又は分散液(dispersion))、滅菌粉末(sterile powder)、錠剤(tablet)、トローチ剤(troche)、ロゼンジ剤(lozenge)、丸薬(pill)、カプセル(capsule)、分散性粉末(dispersible powder)又は顆粒(granule)、溶液、懸濁液(suspension)、乳剤(emulsion)、シロップ(syrup)、エリキシル剤(elixir)、スラリー剤(slurry)及び類似の物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本発明に係る医薬品は、非経口経路(parenteral routes)で投与してもよい。前記非経口経路は、腹腔内注射(intraperitoneal injection)、皮下注射(subcutaneous injection)、表皮内注射(intraepidermal injection)、皮内注射(intradermal injection)、筋肉内注射(intramuscular injection)、静脈内注射(intravenous injection)及び病巣内注射(intralesional injection)からなる群から選ばれる。
【0032】
本発明に係る医薬品は、医薬上許容可能な担体を含んでもよい。前記医薬上許容可能な担体は、例えば、溶剤(solvent)、乳化剤(emulsifier)、懸濁化剤(suspending agent)、分解剤(decomposer)、結合剤(binding agent)、賦形剤(excipient)、安定剤(stabilizing agent)、キレート剤(chelating agent)、希釈剤(diluent)、ゲル化剤(gelling agent)、防腐剤(preservative)、滑剤(lubricant)、吸収遅延剤(absorption delaying agent)、リポソーム(liposome)及び類似の物からなる群から選ばれる1つ又は複数の試薬を含んでもよい。前記試薬の選用及び数量は、当業者の専門知識及び技術的範囲に属する。
【0033】
本発明に係る前記医薬上許容可能な担体は、溶剤を含んでもよい。前記溶剤は、水、生理食塩水(normal saline)、リン酸塩緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline、PBS)、糖含有溶液、アルコール含有水溶液(aqueous solution containing alcohol)、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0034】
本明細書において、「核酸」、「核酸配列」又は「核酸フラグメント」等の用語は、一本鎖または二本鎖形態のデオキシリボヌクレオチド配列又はリボヌクレオチド配列を意味し、かつ、既知の天然に存在するヌクレオチド(naturally occurring nucleotides)又は人工の化学的模倣物を含む。本明細書において、「核酸」という用語は、「遺伝子」、「cDNA」、「mRNA」、「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」と相互交換可能に使用される。
【0035】
実施例1.免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディの製造
本実施例において、免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディ(immunomodulation and antitumor-related nanobody)(即ち、PD-L1、HLA-G及びCD3εナノボディをベースとした三重特異性T細胞エンゲージャー(PD-L1×HLA-G×CD3ε nanobody-based triple specific T-cell engager、PD-L1×HLA-G×CD3ε nanobody-based TriTE)、以下、Nb-TriTEと称する)の製造プロセスは、以下の通りである。
【0036】
Nb-TriTE遺伝子は、発現ベクターpcDNA3.4(アンピシリン(Amp)抗性)に構築され、プラスミドは、制限酵素消化及び配列決定によって同定される。lipofectamine 3000により、プラスミドを293F細胞に形質導入し、37℃、8%のCO2で3日作用させる。遠心分離によって上清を回収する。上清をフロースルー(flow-through)によってプロテインAビーズ(1mL)に結合させる。適切な濃度勾配を有するイミダゾール(imidazole)(10mM、20mM、50mM、100mM、250mM及び500mM)を含有する緩衝液で洗浄してプロテインAビーズを溶出する。
【0037】
溶出された部分をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(sodium dodecyl sulfate polyacrylamide gel electrophoresis、SDS-PAGE)によって分析し、タンパク質の純度及び収量によって後の精製方法(イオン交換クロマトグラフィー(ion exchange chromatography)又はゲル濾過クロマトグラフィー(gel filtration chromatography))を決定する。要件を満たすタンパク質をゲル濾過クロマトグラフィーで単離精製し、緩衝液をリン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline、PBS)緩衝液に置換する。SDS-PAGEでタンパク質の成分を分析し、要件を満たす成分を合併濃縮し、0.22μmのフィルターで濾過して容器に詰める。その後、タンパク質を-20℃以下で保存する。
【0038】
図1Aには、Nb-TriTEの構造及び成分を示している。Anti-HLA-Gは、抗ヒト白血球抗原-G(human leukocyte antigen-G、HLA-G)ナノボディを示し、そのアミノ酸配列は配列番号1であり、抗HLA-Gナノボディのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号4である。Anti-PDL1は、抗プログラム細胞死リガンド1(programmed cell death ligand 1、PD-L1)ナノボディを示し、そのアミノ酸配列は、配列番号2であり、抗PD-L1ナノボディのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号5である。
【0039】
Anti-CD3eは、抗CD3εナノボディを示し、そのアミノ酸配列は、配列番号3であり、抗CD3εナノボディのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号6である。Signal peptideは、シグナルペプチドを示し、そのアミノ酸配列は、配列番号7であり、シグナルペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号8である。
【0040】
VHH1は、重鎖可変ドメイン1(heavy chain variable domain 1、VHH1)、即ち抗PD-L1ナノボディを示す。Flexible linkerは、フレキシブルリンカー、即ちリンカー(Linker)を示し、そのアミノ酸配列は、配列番号9であり、フレキシブルリンカーのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号10である。
【0041】
VHH2は、重鎖可変ドメイン2(heavy chain variable domain 2、VHH2)、即ち抗HLA-Gナノボディを示す。VHH3は、重鎖可変ドメイン3(heavy chain variable domain 3、VHH3)、即ち抗CD3εナノボディを示す。Hingeは、ヒンジを示す。CH2及びCH3は、ヒトIgG1のフラグメント結晶化可能領域(fragment crystallizable region、Fcregion)、即ちヒトIgG1Fcドメイン(Human IgG1 Fc-domain)を示し、そのアミノ酸配列は、配列番号11であり、ヒトIgG1Fcドメインのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号12である。
【0042】
図1Bには、Nb-TriTEの制限酵素の消化結果を示している。レーン1(lane 1)は、プラスミドを示す。レーン2(lane 2)は、XbaI-BamHIで消化したプラスミドを示す。レーンM(lane M)は、DNAマーカー(DNA marker)を示す。
【0043】
図1Cには、精製Nb-TriTEのゲル電気泳動分析の結果を示している。
【0044】
実施例2.Nb-TriTEの表面プラズモン共鳴結合分析(surface plasmon resonance binding assay、SPR binding assay)の結果
本実施例において、Nb-TriTEの表面プラズモン共鳴結合分析(surface plasmon resonance binding assay、SPR bindingassay)の操作手順は、以下の通りである。BIAcore T200(Biacore-GE Healthcare、Piscataway、NJ)により、CM5又はNTAチップをSPR分析する。
【0045】
つまり、10mMの緩衝溶液(pHが4.0、5.5又は6.0)中に、20μg/mLの濃度範囲でタンパク質(PD-L1、HLA-G又はCD3組換えタンパク質)サンプルを希釈することにより、最大の表面が得られ、チップに固定させるために保留される。
【0046】
製造プロセスに従ってチップでの表面濃度がより高いリガンド(25、12.5、6.25、3.125、1.5625及び0.78125nM)条件を選択する。そして、再生条件検討実験(regeneration scouting)及び表面性能試験(surface performance test)を行った後、再生方法を選択して実験を実行する。
【0047】
そして、結合分析(binding analysis)及び直接結合(direct binding)を選択してタンパク質の結合を解析する。動力学的分析(kinetic analysis)及び物質移動(mass transfer)を選択し、実験と結合した動力学的分析を行う。その後、データの分析及び動力学的定数の確定を行う。
【0048】
図2A~
図2Cには、Nb-TriTEの表面プラズモン共鳴結合分析の結果を示している。
図2Aには、Nb-TriTEとPD-L1との結合のSPR動力学的分析を示している。リガンドは、PD-L1である。分析濃度は、100、50、25、12.5、6.25、3.125、1.5625、0.78125nMである。流速は、30μL/minである。
【0049】
結合時間(association time)は、120秒である。解離時間(dissociationtime)は、900秒である。アテゾリズマブ(Atezolizumab)は、尿路上皮がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、トリプルネガティブ乳がん、小細胞肺がん、及び肝細胞がんを治療するためのIgG1アイソタイプ完全ヒト化抗PD-L1モノクローナル抗体である。Anti-PDL1は、抗PD-L1ナノボディを示す。
図2Bには、Nb-TriTEとHLA-Gとの結合のSPR動力学的分析の結果を示している。リガンドは、HLA-Gである。
【0050】
分析濃度は、305、152.5、76.25、38.125、19.0625nMである。流速は、30μL/minである。結合時間は、180秒である。解離時間は、360秒である。Anti-HLA-Gは、抗HLA-Gナノボディを示す。Anti-CD3eは、抗CD3εナノボディを示す。87Gは、市販の抗HLA-Gモノクローナル抗体を示す。
【0051】
図2Cには、Nb-TriTEとCD3εとの結合のSPR動力学的分析の結果を示している。リガンドは、CD3εである。分析濃度は、28.125、56.25、112.5、225、450、900、1800、3600nMである。流速は、15μL/minである。結合時間は、350秒である。解離時間は、900秒である。Anti-CD3eは、抗CD3εナノボディである。ムロモナブ-CD3(Muromonab-CD3)は、臓器移植を受けている患者の急性拒絶反応を軽減するための免疫抑制剤であり、T細胞表面CD3受容体に対するモノクローナル抗体である。Responseは、反応を示す。Timeは、時間を示す。
図2A~
図2Cから分かるように、Nb-TriTEは、それぞれ2.6、53.3及び3.47nM以内のK
D値でPD-L1、HLA-G、及びCD3εタンパク質に有効に結合する。
【0052】
実施例3.Nb-TriTEのT細胞増殖(T cell proliferation)分析の結果
本実施例において、Nb-TriTEのT細胞(即ち、末梢血単核細胞)増殖分析(T cell(i.e.、peripheral blood mononuclear cell、PBMC)proliferation assay)の操作手順は、以下の通りである。1×105のPBMC細胞を12ウェルプレートに接種した後、それぞれ臨床用CD3εモノクローナル抗体OKT3(5μg、Invitrogen、Cat:MA1-10175)及びProleukin(IL-2:200U)、又は10μg/mlのNb-TriTEを添加する。
【0053】
5日又は7日後、総細胞数を記録し、FITC共役CD3モノクローナル抗体(OKT3、11-0037-42、eBioscience)によって染色する。そして、フローサイトメトリーによって分析する。CD3陽性細胞の数は、CD3細胞パーセンテージ(%)×総細胞数である。陽性対照群は、Proleukin(IL-2:200U)及びOKT3(5μg)である。
【0054】
図3には、Nb-TriTEのT細胞増殖(T cell proliferation)の分析結果を示している。PBMCは、末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell)を示す。
図3から分かるように、Nb-TriTEは、T細胞塊の増殖及び活性化を向上させることができる。
【0055】
実施例4.Nb-TriTEの免疫細胞化学(immunocytochemistry、ICC)染色の結果
本実施例において、腫瘍細胞、T細胞、及びNb-TriTE(即ち、VHHナノボディ)の免疫細胞化学的分析(immunocytochemistry)の操作手順は、以下の通りである。腫瘍細胞(4×104又は1×105)を6ウェルプレートのスライドガラスに接種し、一晩培養する。
【0056】
特定の処理を行った後、細胞とCellTracker Greenとを共培養させ、そして、1時間かけてNb-TriTE及びPBMCを添加する。そして、細胞を1%のパラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)に固定し、PBSで洗浄し、0.5%のBSAを含有するPBSにて0.1% Triton X-100を使用して30分間透過化させ、2%のBSAでブロッキングし、特異的抗体(2%のBSA/0.05%のTween-20を含有するPBS(PBST)に混合された)と作用させる。
【0057】
洗浄した後、細胞とフルオレセイン共役抗体とを一緒に作用させる。PBSTで洗浄し、退色剤及び4′,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(4′,6-diamidino-2-phenylindole、DAPI)を含有する水溶性の封入剤で封入する。Leica TCS SP8 X共焦点顕微鏡(Leica)によって画像を分析する。
【0058】
図4には、腫瘍細胞、T細胞、及びNb-TriTE(即ち、V
HHナノボディ)の免疫細胞化学染色の結果を示している。使用する細胞株A549は、ヒト非小細胞肺がん細胞株である。PBMCは、末梢血単核細胞を示す。VHHは、Nb-TriTEを示す。上図の細胞数は、1×10
5/ウェルである。下図の細胞数は、4×10
4/ウェルである。本実施例の結果から分かるように、Nb-TriTEは、A549細胞に結合する能力を持つ。
【0059】
実施例5.Nb-TriTE及びPBMCによるヒトがん細胞株に対する細胞溶解の向上の効果の評価
本実施例において、Nb-TriTE及びPBMCによるA549-ヒト肺腺がん細胞株、MDA-MB-231-ヒト乳がん細胞株、U87-神経膠芽腫(glioblastoma)細胞株、SKOV3-ヒト卵巣がん細胞株、及びFaDu-ヒト口腔がん細胞株(ATCC(AmericanTypeCultureCollection、ATCC)から購入)に対する細胞溶解の向上を評価する。操作手順は、以下の通りである。1×105の腫瘍細胞を12ウェルプレートに接種し、一晩静置する。翌日、腫瘍細胞を含有するウェルに5×105の一次PBMCを添加し、さらにNb-TriTEを添加する。48時間後、生/死細胞に介する細胞毒性分析(LIVE/DEAD cell-mediated cytotoxicity assay)により、フローサイトメトリーで、一次PBMCの腫瘍細胞に対する特異的溶解を確定する。
【0060】
図5A及び
図5Bには、Nb-TriTE及びPBMCによるヒトがん細胞株に対する細胞溶解の向上の結果を示している。
図5AにおけるA549は、ヒト肺腺がん細胞株を示す。231は、MDA-MB-231-ヒト乳がん細胞株を示す。U87は、神経膠芽腫(glioblastoma)細胞株を示す。SKOV3は、ヒト卵巣がん細胞株を示す。
【0061】
FaDuは、ヒト口腔がん細胞株を示す。PBMCとA549細胞との比率は、3:1である。Nb-TriTEの濃度は、10μg/mlである。共培養は、48時間にわたって実施する。
図5BにおけるNb-TriTEの濃度は、0、1、10、100、1000、10000、及び100000μg/mlである。エフェクター(effector、E)細胞は、PBMCである。ターゲット(target、T)細胞は、A549細胞である。E:T ratioは、エフェクター/ターゲット比を示す。本実施例の結果から分かるように、Nb-TriTEは、腫瘍細胞に対するPBMC誘導細胞毒性を向上させる。
【0062】
実施例6.酵素結合免疫吸着測定法(enzyme linked immunosorbent assay、ELISA)によって、Nb-TriTEによる共培養系においてサイトカインの分泌への影響を測定する
本実施例において、市販のELISAキット(ThermoFisherScientific)を使用してヒトサイトカインであるパーフォリン(perforin)、グランザイムB(granzymeB)、腫瘍壊死因子α(tumor necrosis factor alpha、TNF-α)、及びインターフェロンγ(interferon gamma、IFN-γ)を測定する。操作手順は、以下の通りである。
【0063】
まず、Nb-TriTE、A549細胞、及びPBMC由来サンプルを収集し、96ウェルプレートに添加して4℃で一晩静置する。翌日、サンプルを除去し、室温で3%のスキムミルクで2時間ブロッキングする。そして、PBST(0.05%のTweenをPBSに溶解したもの)で5回洗浄する。5回洗浄した後、室温でビオチン化抗体を添加して2時間静置する。5回洗浄した後、各ウェルに100μlのストレプトアビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼ共役物(streptavidin-HRP conjugates)を含有するPBSTを添加し、室温で2時間作用させる。PBSTで7回洗浄した後、HRPの活性を検出するための50μlのTMB基質(ThermoFisher、Cat No:N301)を添加する。
【0064】
その後、50μlの停止液(ThermoFisher、Cat No:N600)を添加して反応を停止させる。そして、450nmの波長のELISAリーダーを使用して測定する。
【0065】
図6は、本実施例の結果を示している。A549は、ヒト肺腺がん細胞株を示す。Nbは、ナノボディを示す。エフェクター(effector、E)細胞は、PBMCである。ターゲット(target、T)細胞は、A549細胞を示す。E:T ratioは、エフェクター/ターゲット比を示す。#は、未検出を示す。Perforinは、パーフォリンを示す。Granzyme Bは、グランザイムBを示す。TNF-αは、腫瘍壊死因子α(tumor necrosis factor alpha)を示す。IFN-γは、インターフェロンγ(interferon gamma)を示す。共培養は、48時間にわたって実施する。本実施例の結果から分かるように、Nb-TriTEは、A549とPBMCとの共培養でのサイトカインの分泌を向上させる。
【0066】
実施例7.Nb-TriTEによるヒト化マウスの肺がんの成長の遮断効果の評価
本実施例の操作手順は、以下の通りである。6至8周齢のNOD/SCIDγ(NSG)マウスは、The Jackson Laboratoryから購入する。マウスは、肺腫瘍異種移植(xenograft)モデルに用いられる。肺腫瘍に対して、Luc+ A549細胞をMatrigel含有PBSに再懸濁し、そして、細胞(5×105/20μL)をマウスの右背側に皮下注射する。
【0067】
移植の7日後、解凍したPDL1×HLA-G×CD3 Nano-TriTE及びPBMC(5×106/100μL PBS)を尾静脈注射で各マウスに注射する。その後、PDL1×HLA-G×CD3 Nano-TriTEを毎週注射する。生体内イメージングシステム(in vivo imaging system、IVIS)(PerkinElmer)を使用し、生物発光イメージングによって腫瘍の成長を毎週監視する。特定の日数に、マウスを安楽死させ、腫瘍を摘出して測定し、かつ、写真を撮る。
【0068】
図7A~
図7Cには、本実施例の結果を示している。
図7AにおけるLucは、ルシフェラーゼ(luciferase)を示す。PBMCは、末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell)を示す。A549は、ヒト肺腺がん細胞株を示す。TriTEは、Nb-TriTEを示す。本実施例の結果から分かるように、Nb-TriTEは、ヒト化マウスの肺がんの成長を遮断することができる。
【0069】
上記をまとめると、本発明の免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディの効果は、以下の通りである。
【0070】
表面プラズモン共鳴結合分析(surface plasmon resonance binding assay、SPR binding assay)により、HLA-G、PD-L1、及びCD3εに特異的に結合することができることを証明し、
T細胞(即ち、末梢血単核細胞)の増殖及び活性化アッセイ(T cell(i.e. peripheral blood mononuclear cell、PBMC) proliferation and activation assay)により、T細胞塊の増殖及び活性化と、PBMCにおけるCD3陽性T細胞の増殖とを向上させることができることを証明し、
免疫組織化学的(immunocytochemistry、ICC)染色により、腫瘍細胞に結合して腫瘍細胞を死滅させることができることを証明し、
酵素結合免疫吸着測定法(enzyme linked immunosorbent assay、ELISA)により、腫瘍細胞におけるサイトカイン(cytokine)の分泌を促進させることができることを証明し、
動物実験により、がん細胞の増殖を抑制し、がん及び免疫関連疾患を治療する効果を達成することができることを証明する。
【0071】
特に、従来の抗体は、遺伝子をベクターによって細胞にトランスフェクトしてから抗体の機能を発揮することができるため、収率が低くて効果が低いという欠点がある。本発明の免疫調節及び抗腫瘍関連ナノボディは、インビトロで大量に製造してそのまま投与すべき個体に投与して治療を行うことができる。
【0072】
上記の内容は、例示的なものであり、本発明を限定するものではない。本発明の精神及び範囲から逸脱しない改良や変更は、いずれも添付の特許請求の範囲に含まれる。
【配列表】
【外国語明細書】