(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151848
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】光触媒材料の製造方法、及び光触媒材料
(51)【国際特許分類】
B01J 23/26 20060101AFI20220930BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20220930BHJP
B01J 37/10 20060101ALI20220930BHJP
B01J 23/10 20060101ALI20220930BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20220930BHJP
C02F 1/58 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
B01J23/26 M
B01J35/02 J
B01J35/02 H
B01J37/10
B01J23/10 M
A61L9/01 B
C02F1/58 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022049088
(22)【出願日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2021054435
(32)【優先日】2021-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】518268798
【氏名又は名称】株式会社スーパーナノデザイン
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】阿尻 雅文
(72)【発明者】
【氏名】笘居 高明
(72)【発明者】
【氏名】横 哲
(72)【発明者】
【氏名】成 基明
【テーマコード(参考)】
4C180
4D038
4G169
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180BB02
4C180BB03
4C180BB04
4C180BB05
4C180BB06
4C180BB08
4C180BB11
4C180CC03
4C180CC15
4C180EA02X
4C180EA45X
4C180MM08
4C180MM10
4D038AA04
4D038AA08
4D038AB14
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA07C
4G169BA21C
4G169BA48A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC29A
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC44A
4G169BC44B
4G169BC58B
4G169BE08C
4G169CA02
4G169CA03
4G169CA05
4G169DA05
4G169EB18X
4G169EB19
4G169EC14Y
4G169EC15Y
4G169ED01
4G169FB10
4G169FB30
4G169FB79
4G169HA01
4G169HB06
4G169HE01
4G169HE05
4G169HE07
4G169HF03
(57)【要約】
【課題】光触媒活性に顕著に優れた光触媒材料を提供する。
【解決手段】本発明に係る製造方法は、超臨界又は亜臨界の水系溶媒の急速昇温流通系反応場で金属酸化物ナノ粒子を得るナノ化工程を含む。あるいは、超臨界、亜臨界、又は気相の水系溶媒の反応場で金属酸化物を有機修飾して表面が有機修飾された金属酸化物ナノ粒子を得るナノ化工程を含む。ナノ化工程は、遷移元素の共存下で行われ、表面が有機修飾され、かつ、遷移元素によってドープ化された金属酸化物ナノ粒子を得る工程を含むことが好ましい。また、金属酸化物ナノ粒子は、準安定形の単結晶性であることが好ましく、八面体及び/又は六面体の酸化セリウムナノ粒子が好ましい。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界又は亜臨界の水系溶媒の急速昇温流通系反応場で金属酸化物ナノ粒子を得るナノ化工程を含む、光触媒材料の製造方法。
【請求項2】
超臨界、亜臨界、又は気相の水系溶媒の反応場で金属酸化物を有機修飾して表面が有機修飾された金属酸化物ナノ粒子を得るナノ化工程を含む、光触媒材料の製造方法。
【請求項3】
前記ナノ化工程は、遷移元素の共存下で行われ、表面が有機修飾され、かつ、前記遷移元素によってドープ化された金属酸化物ナノ粒子を得る工程を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記金属酸化物ナノ粒子は、準安定形の単結晶性である、請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物ナノ粒子が八面体及び/又は六面体の酸化セリウムナノ粒子を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記金属酸化物ナノ粒子の平均粒子径が100nm以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ナノ化工程によって得られた金属酸化物ナノ粒子をさらに超臨界又は亜臨界の反応場で水熱処理することで、高結晶化、低欠陥化を施こす工程をさらに含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ナノ化工程によって得られた金属酸化物ナノ粒子を水熱条件下で酸素を共存させることで、低酸素欠陥化させる工程をさらに含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記有機修飾された金属酸化物ナノ粒子をか焼するか焼工程をさらに含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
準安定形の単結晶性であり、八面体及び/又は六面体である酸化セリウムナノ粒子を含み、
平均粒子径が100nm以下であり、
表面が疎水性基により有機修飾されている、光触媒材料。
【請求項11】
準安定形の単結晶性であり、八面体及び/又は六面体である酸化セリウムナノ粒子を含み、
平均粒子径が100nm以下であり、
前記ナノ粒子をアゾ染料AO7溶液に分散させて波長365nmの紫外光を2時間照射したとき照射後の前記溶液に含まれる前記アゾ染料AO7の濃度が照射前の前記濃度に比べて5%以上減少する、光触媒材料。
【請求項12】
Hall法で解析される格子ひずみが0.5%以下である、請求項10又は11に記載の光触媒材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒材料の製造方法、及び光触媒材料に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒材料は、光(紫外光)が当たることによる超親水性の発現及び/又は活性酸素種の生成により、汚れ分解機能及び窒素酸化物除去機能等の重要な機能(光触媒活性)を発現する。
【0003】
この機能を活用し、光触媒材料を配合した塗料やコーティング膜等が提案され、防汚塗料、環境浄化塗料、又はコーティング製品等として実用化されている。近年では、消費者に健康を害する有害な物質及び微生物、特に、細菌やカビ等の微生物を除去する機能への需要が高まっており、光触媒材料には、上記有害物質及び/又は微生物の除去性能が期待されている。
【0004】
そして、光触媒材料として、様々な材料が知られている(特許文献1参照)。また、光触媒材料を構成する粒子の大きさがナノサイズであると、粒成長による多孔性の低下が最小限に抑えられ、粒子の大きさがマイクロサイズの光触媒材料に比べて高い光触媒機能を示すことが知られている(特許文献2参照)。また、光触媒材料がドープ化された粒子であると、ドープ化されていない粒子に比べて高い光触媒機能を示すことが知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2017-533816号公報
【特許文献2】特開2011-225396号公報
【特許文献3】特表2019-531185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、光触媒反応は、粒子表面で生じるから、単位体積(重量)当たりの触媒活性を向上させるには、触媒粒子サイズを小さくし比表面積を大きくすることが望ましい。光触媒反応の原理は、光で励起された電子(正孔)を、電極を介してエネルギーとして回収する太陽電池システムを、界面での酸化・還元反応を生じさせるものと理解することができる。したがって、太陽電池材料開発において課題であった材料内および界面での欠陥・ダングリングボンドの低減化は同様に重要となる。またドーピングによる光応答のバンドギャップ制御も重要となる。すなわち、ドーピングも可能なナノ単結晶の合成が重要となる。それに対し、超臨界技術を用いて金属酸化物ナノ粒子を合成できることが知られており、得られるナノ粒子が単結晶粒子であることも知られている。また、これにより、ドープ量を増大させ得ることや、有機分子を共存させることでナノ粒子の露出面を制御できることも知られている。加えて、超臨界技術によって得られた金属酸化物ナノ粒子は、ケミカルループ法における酸素キャリア粒子として優れることが知られている(国際公開2015/025941号パンフレット)。そのため、超臨界技術によって得られた金属酸化物ナノ粒子を光触媒材料として活用し得る。
【0007】
しかしながら、光触媒技術は、先に述べたように、光エネルギーによって電子状態を変化させる技術である。すなわち、光触媒技術は、電子と正孔を、再結合を抑制して分離させ、それぞれが界面で化学反応をさせる技術である。超臨界技術を用いて光触媒材料をナノ粒子化、露出面制御することで、受光し電子状態を変化させることとつながり、電子正孔の移動、界面での反応性について、超臨界技術を用いたナノ粒子化技術が有効であること、すなわち、超臨界技術によって得られる金属酸化物ナノ粒子が高い光触媒活性を有するかどうかは、明らかでない。また、非平衡系の大きな超臨界反応場において欠陥の少ない光触媒単結晶材料を合成させうるかは自明ではない。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、超臨界技術を用いて得た金属酸化物ナノ粒子が従来より知られている光触媒材料に比べて高い光触媒活性を有することを実験的に明らかにすることで、光触媒活性に顕著に優れた光触媒材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、超臨界等の反応場において有機分子の共存下で金属酸化物粒子を処理して金属酸化物ナノ粒子を得ることで、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0010】
第1の特徴に係る発明は、超臨界、亜臨界の水系溶媒の急速昇温を伴う流通系反応場で、金属酸化物ナノ粒子を得るナノ化工程を含む、光触媒材料の製造方法を提供する。
【0011】
この手法により、従来の液相法、気相法と比較して、極めて高い過飽和度を得ることができ、それによって、粒子のナノサイズ化すなわち、単位体積(重量)当たりの比表面積を極めて大きくすることができる。その結果、従来より知られている光触媒材料に比べて顕著に優れた光触媒活性を有する光触媒材料を提供できる。
【0012】
第2の特徴に係る発明は、超臨界、亜臨界、又は気相の水系溶媒の反応場で金属酸化物を有機修飾して表面が有機修飾された金属酸化物ナノ粒子を得るナノ化工程を含む、光触媒材料の製造方法を提供する。
【0013】
第2の特徴に係る発明によると、従来より知られている光触媒材料に比べて顕著に優れた光触媒活性を有する光触媒材料を提供できる。
【0014】
超臨界等の反応場で有機分子をキャッピングさせながら反応させることで金属酸化物のさらなるナノ化を図ることができる。また、親水性表面を有する金属酸化物ナノ粒子を炭化水素といった有機基等の疎水性基でその表面を有機修飾することで、水性媒質から回収したりすることが困難な粒子を簡単に且つ確実に有機性の媒質側に移行させて分離・回収することができる。そして、この有機修飾により、結晶の露出面が制御されたナノ粒子を、その形状を変化させることなく回収できる。また、光触媒デバイスの製造は塗布型プロセスで行われることから、溶媒との親和性が高く、高濃度でナノ粒子を分散させつつ、低粘性を発現させることが可能となる。
【0015】
第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明において、前記ナノ化工程は、遷移元素の共存下で行われ、表面が有機修飾され、かつ、前記遷移元素によってドープ化された金属酸化物ナノ粒子を得る工程を含む方法を提供する。
【0016】
第3の特徴に係る発明によると、他の手法によってドープ化する場合に比べて高いドープ量を有する金属酸化物ナノ粒子を用いることができ、結果として、よりいっそう優れた光触媒活性を有する光触媒材料を提供できる。
【0017】
第4の特徴に係る発明は、第1から第3のいずれかの特徴に係る発明において、前記金属酸化物ナノ粒子が準安定形の単結晶性である方法を提供する。
【0018】
第5の特徴に係る発明は、第1から第4のいずれかの特徴に係る発明において、前記金属酸化物ナノ粒子が八面体及び/又は六面体の酸化セリウムナノ粒子を含む方法を提供する。
【0019】
第4及び第5の特徴に係る発明によると、金属酸化物ナノ粒子が準安定形の単結晶性であるため、結果として、よりいっそう優れた光触媒活性を有する光触媒材料を提供できる。
【0020】
第6の特徴に係る発明は、第1から第5のいずれかの特徴に係る発明において、前記金属酸化物ナノ粒子の平均粒子径が100nm以下である方法を提供する。
【0021】
第6の特徴に係る発明によると、平均粒子径が100nm以下であるため、結果として、よりいっそう優れた光触媒活性を有する光触媒材料を提供できる。
【0022】
第7の特徴に係る発明は、第1から第6のいずれかの特徴に係る発明において、前記ナノ化工程によって得られた金属酸化物ナノ粒子をさらに超臨界又は亜臨界の反応場で水熱処理することで、高結晶化、低欠陥化を施こす工程をさらに含む方法を提供する。
【0023】
第8の特徴に係る発明は、第1から第7のいずれかの特徴に係る発明において、前記ナノ化工程によって得られた金属酸化物ナノ粒子を水熱条件下で酸素を共存させることで、低酸素欠陥化させる工程をさらに含む方法を提供する。
【0024】
超臨界等に例示される反応場での非平衡合成では、粒子のナノ化、粒子表面の有機修飾及び粒子の露出面制御により、歪が大きくなり、この歪が結晶の電子状態に影響を与え、顕著に大きな光触媒能に繋がることが考え得る。
【0025】
第7及び第8の特徴に係る発明によると、ナノ結晶光触媒を合成した後、超臨界あるいは亜臨界場での水熱処理を行うことで、結晶成長が生じる。これにより、歪、欠陥を低減し、完全結晶性を高めることが可能となる。
【0026】
中でも、水熱処理において、特に臨界点近傍ではあれば、任意の割合で酸素ガスと均一相を形成する。それを利用した高い酸化効果が得られる。
【0027】
第9の特徴に係る発明は、第1から第8のいずれかの特徴に係る発明において、前記有機修飾された金属酸化物ナノ粒子をか焼するか焼工程をさらに含む、光触媒材料を提供する。
【0028】
ナノサイズ化と露出面制御により歪が大きくなると、酸素空孔を生じやすくなる。これが光触媒の活性種の再結合を生む原因となる。実際、測定してみると三価のセリウムが多く存在する。
【0029】
第9の特徴に係る発明によると、合成後、酸素雰囲気下で粒子の酸化処理を行い、三価のセリウムを四価のセリウムとする。このように、完全CeO2化する処理を行うことで、よりいっそう優れた光触媒活性を有する光触媒材料を提供できる。
【0030】
第10の特徴に係る発明は、準安定形の単結晶性であり、八面体及び/又は六面体である酸化セリウムナノ粒子を含み、平均粒子径が100nm以下であり、表面が疎水性基により有機修飾されている、光触媒材料を提供する。
【0031】
第11の特徴に係る発明は、準安定形の単結晶性であり、八面体及び/又は六面体である酸化セリウムナノ粒子を含み、平均粒子径が100nm以下であり、前記ナノ粒子をアゾ染料AO7溶液に分散させて波長365nmの紫外光を2時間照射したとき照射後の前記溶液に含まれる前記アゾ染料AO7の濃度が照射前の前記濃度に比べて5%以上減少する、光触媒材料を提供する。
【0032】
第10及び第11の特徴に係る発明によると、従来より知られている光触媒材料に比べて顕著に優れた光触媒活性を有する光触媒材料を提供できる。
【0033】
平均粒子径が100nm以下であること、粒子表面の有機修飾及び粒子の露出面制御により、歪が大きくなり、この歪が結晶の電子状態に影響を与え、顕著に大きな光触媒能に繋がったものと推測される。
【0034】
第12の特徴に係る発明は、第10又は第11の特徴に係る発明において、Hall法で解析される格子ひずみが0.5%以下である光触媒材料を提供する。
【0035】
第12の特徴に係る発明によると、歪、欠陥を低減した完全結晶性の光触媒材料が得られるため、結果としてより優れた光触媒活性を有する光触媒材料を提供できる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によると、光触媒活性に顕著に優れた光触媒材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、有機修飾に利用される典型的な反応器を示す。
【
図2】
図2は、本発明の有機修飾に利用される代表的な反応系装置の構成を示す。
【
図3】
図3は、メソポーラス材料を形成するプロセスを示す模式図である。
【
図4】
図4は、試験例1-1で生成されたCeO
2ナノ粒子のXRDパターンを示す図である。
【
図5】
図5は、試験例1:(面制御その1)有機修飾の有無によって光触媒活性を比較したときの図である。
【
図6】
図6は、試験例2:(面制御その2)ナノ化後のさらなる水熱処理の有無によって光触媒活性を比較したときの図である。
【
図7】
図7は、クロムドープ酸化セリウム(Cr-CeO
2)を合成する際に用いた合成装置30の概略模式図である。
【
図8】
図8は、試験例3:遷移元素をドープしたことの有無によって光触媒活性を比較したときの図である。
【
図9】
図9は、試験例4:凍結乾燥後のか焼の有無によって光触媒活性を比較したときの図である。
【
図10】
図10は、試験例5(表面の酸化状態に着目した検討)で得たメソポーラス材料の顕微鏡画像である。
【
図11】
図11は、上記試験例5によって光触媒活性を比較したときの図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0039】
<光触媒材料の製造方法>
本実施形態に係る方法は、超臨界、亜臨界の水系溶媒の急速昇温を伴う流通系反応場で、金属酸化物ナノ粒子を得るナノ化工程を含む。あるいは、超臨界、亜臨界、又は気相の水系溶媒の反応場で金属酸化物を有機修飾して表面が有機修飾された金属酸化物ナノ粒子を得るナノ化工程を含む。この手法により、従来の液相法、気相法と比較して、極めて高い過飽和度を得ることができ、それによって、粒子のナノサイズ化すなわち、単位体積(重量)当たりの比表面積を極めて大きくすることができる。その結果、従来より知られている光触媒材料に比べて顕著に優れた光触媒活性を有する光触媒材料を提供できる。
【0040】
〔反応場〕
微粒子、特にナノ粒子の表面を有機修飾する場合には、高温高圧の条件を達成できる装置であれば特に限定されず、当該分野で当業者に広く知られている装置から選択して使用できるが、例えば、回分式装置、流通式装置のいずれをも使用できる。代表的なリアクターとしては、
図1で示されるようなものが挙げられ、
図2のような系を構成してよいが、必要に応じて適宜適切な反応装置を構成できる。
【0041】
本発明の反応において用いられる水は、超臨界水(SCW)であってもよいし、臨界前の水であってもよい。臨界前の水は、気相の水又は水蒸気(もしくはスチーム)と称される状態の水を含む。また、臨界前の水は、亜臨界水と称される状態の水を含む。臨界前の水である場合、液体状態の水(液相)、あるいは液相を主相として包含していることが好ましい。このような水熱条件下では、比較的重質な炭化水素と共に単一相を形成する能力を有し、また臨界点近傍では温度圧力によって溶媒効果(誘電率、水和構造形成にともなう反応平衡・速度に与える影響)を大幅に制御できる。
【0042】
本発明による「水熱条件」は、以下の反応温度を有する水共存条件として定義される。ここでの「水熱条件」は、上述のとおり、気相の水又は水蒸気(もしくはスチーム)と称される状態の水が共存する条件を含む。
【0043】
特に限定されるものではないが、反応温度の下限は、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましく、300℃以上であることが特に好ましい。
【0044】
また、反応温度の上限は、1000℃以下であることが好ましく、600℃以下であることがより好ましく、500℃以下であることがさらに好ましく、450℃以下であることが特に好ましい。
【0045】
本発明の反応圧力は、特に限定されるものではないが、大気圧以上であり、50MPa以下であってよい。反応圧力は、より好ましくは5MPa以上であり、40MPa以下であってよい。
【0046】
また、本発明の反応時間は、特に限定されるものではないが、例えば1分以上48時間以内であってよく、より一般的には5分以上24時間以内であってよく、より典型的には10分以上12時間以内であってよい。
【0047】
[反応機構]
水中では、一般に金属酸化物表面には水酸基が存在する。これは、以下の反応平衡によるものである。
MO+H2O=M(OH) (1)
【0048】
一般に、本反応は発熱であり、高温側では平衡は左側にシフトする。また、用いた表面修飾剤による反応は、以下の通りであり、脱水反応によるものである。
【0049】
左向きの反応(逆反応)は、アルコキシド等の加水分解でよく知られる反応であり、室温付近でも水の添加により容易に生じる反応である。この逆反応は、一般に発熱反応であるから高温側では抑制され、右向きの反応がより有利となる。これは(1)式の金属水酸化物の脱水反応の温度依存性と同様である。
【0050】
また、右向きの反応(脱水)は、反応原系と比較して生成物の極性が低いため、生成物の水中での安定性は、溶媒の極性が低いほど有利となる。水の誘電率は、高温ほど低く、350℃以下では誘電率は15以下に、特に臨界点近傍以上では誘電率は1-10程度と急激に低くなる。このため、通常の温度効果以上に脱水反応が加速されることとなる。
【0051】
M(OH)+RCOOH=M(OCOR)+H2O=MR+H2O+CO2
M(OH)+RCHO=M(OH)CR+H2O=MC=R+2H2O,MCR+2H2O,MR+H2+CO2 (これらの式を(2) とする)
【0052】
アミンによる水酸基の攻撃は、室温付近では強力な酸の共存下やClによる置換を介して進行することが知られているが、高温高圧水中ではOHとの交換が生じている。有機物質については、ヘキサンアミドとヘキサノール間でカルボン酸を触媒してヘキサノールのアミノ化が進行することは確認しているが、類似の反応が進行しているものと推察される。
【0053】
一般に、加水分解反応を利用して生成させた微粒子は、例えば、Fe(OH)3のような水酸化物であり、高温ほどFeO(OH)、Fe2O3へと平衡はシフトする。分子配列状態は、高温ほどランダムなアモルファス状態から整列した結晶状態へとシフトする。本実施形態に記載の技術を利用すれば、高い結晶性のナノ粒子であって有機修飾されたものを得ることが可能である。
【0054】
高い結晶性は、電子回折法、電子顕微鏡写真の解析、エックス線回折、熱重量分析等により確認できる。例えば、電子回折では、単結晶であれば回折干渉像としてドットがえられ、多結晶ではリング、そしてアモルファスではハローが得られる。電子顕微鏡写真では、単結晶であれば結晶面がしっかり出ており、粒子の上からさらに結晶が現れるような形状であれば、多結晶である。多結晶の一次粒子が小さく多くの粒子が凝集して二次粒子をつくっている場合球状になる。アモルファスであれば必ず球状である。エックス線回折では単結晶であればシャープなピークが得られる。Sherreの式を利用してX線のピークの1/2高さの幅から結晶子サイズを評価できる。該評価により得られた結晶子サイズが電子顕微鏡像から評価される粒子径と同一であれば、単結晶と評価される。熱重量分析では、熱天秤により、乾燥不活性ガス中で加熱すると、100℃付近で吸着していた水分の蒸発による重量減少が、また、さらに250℃程度までで粒子内からの脱水による重量減少がみられる。有機物質を含む場合には、250~400℃においてさらに大きな重量減少が観察される。本発明の技術で得られた粒子の場合、400℃まで昇温しても、結晶内部からの脱水による重量減少は最大10%以下であり、低温で合成された金属酸化物微粒子の場合と大きく異なる。かくして、本実施形態にしたがって得られる有機修飾金属酸化物微粒子の特徴としては、高い結晶性、例えば、X線回折でシャープなピークを有している、電子線回折でドットあるいはリングが観察される、熱重量分析で結晶水の脱水が乾粒子あたり10%以下、及び/又は電子顕微鏡写真で一次粒子が結晶面を持っている等が挙げられる。
【0055】
微粒子においては粒子径に関連して、表面エネルギーと重力、電場等の外部エネルギーとが拮抗する、すなわち、遠心力や重力沈降、電気泳動等で粒子を分離したり、分散操作を行う場合、粒子径が数100nmサイズ以下となると大きな外場力を与えないと分散しない。50nm以下となると、表面エネルギーの影響がさらに大きくなり、表面性状を制御したり、溶媒の物性を制御する等をしないと、外場エネルギーだけでは極めて困難となる。本実施形態の技術ではこの問題を解決可能である。
【0056】
特に粒子の大きさを10nm以下とすると、量子状態の重なりがなくなり、また表面の電子状態の影響がバルク物性にも大きく影響する。そのため、バルクの粒子と全く異なる物性が得られること、すなわち量子サイズ効果(久保効果)が現れることがわかってきた。10nm程度以下のサイズの粒子では、特に全く異なる物質とも考えることができるが、本実施形態に記載の技術では好適に該微細なナノ粒子を有機修飾可能である。
【0057】
[条件の設定方法]
(反応平衡)
有機修飾の生じる反応条件については、金属種、修飾剤により異なるが、以下のように整理される。
【0058】
(1)式の平衡が右側にあり、(2)式の平衡が右側にある場合に、反応が進行する。それぞれの平衡が金属種、修飾剤により異なるために、最適な反応条件が異なる。温度を上げると、(2)式の平衡は、右にシフトし、特に350℃以上では急激に進行側にシフトするが、その一方で(1)式の平衡は左にシフトする。反応条件については(1)式及び(2)式のDBを参考にする。
【0059】
塩基や酸を共存させれば、金属酸化物の表面官能基をOHとすることが可能であるから、その条件下で修飾剤との脱水反応を進行させることが可能である。その場合、酸の存在下で脱水反応が生じやすいから、高温で若干の酸を共存させることで反応を進行させることができる。
【0060】
(相平衡)
比較的短鎖の炭化水素のアルコール、アルデヒド、カルボン酸、アミンであれば水に可溶であるので、例えば、メタノールによる金属酸化物の表面修飾等は可能である。しかし、より長鎖の炭化水素の場合には、水相と相分離するため、上記の反応平衡が進行側であったとしても、実際には水相にある金属酸化物と有機修飾剤は反応しない場合もある。すなわち、親油基の導入は比較的容易であるが、C3以上の長鎖の炭化水素を対象とする場合には、相挙動を考慮する必要がある。
【0061】
炭化水素と水との相挙動については、すでに報告があり、それを参考とすることができる。一般に気液の臨界軌跡以上であれば、任意の割合で均一相を形成するから、そのような温度圧力条件を設定することで、良好な反応条件を設定できる。
【0062】
また、最適な反応温度をより低温としたい場合には、水と有機物とを均一相とするための第3成分を共存させることも可能である。例えば、ヘキサノールと水との共存領域は、水と低温においても均一相を形成するエタノールやエチレングリコールの共存により、より低温で形成させうることは公知である。それを利用して、金属酸化物と有機物質との反応を行わせることができる。ただし、この場合、第3成分による表面修飾反応が生じないように、第3成分の選択が重要となる。
以上、本手法によって、初めて、水中での長鎖の有機修飾が可能となる。
【0063】
〔有機修飾:水熱合成中でのin-situ表面修飾〕
上述のように(1)式の金属酸化物表面の水酸基生成と、(2)式以下の有機修飾反応の温度依存性は、逆方向にある。そのため、特に(1)式の反応が左側、すなわち脱水側にある場合、修飾反応を生じさせるために、酸の共存等、反応条件の設定が極めて重要となるし、困難な場合もある。
【0064】
それに対し、水熱合成in-situ表面修飾は、それを可能とする方法である。
【0065】
水熱合成は、下記の反応経路で進行する。
Al(NO3)3+3H2O=Al(OH)3+3HNO3
nAl(OH)3=nAlO(OH)+nH2O
nAlO(OH)=n/2Al2O3+n/2H2O
【0066】
こうした反応経路で進行することは、他の金属種及び硫酸塩、塩酸塩等を用いた場合も同様である。さらに水熱合成は例えば、
図2に示すような装置を使用してそれを高温高圧の水を反応場として行うと、より粒子径の微細な粒子とすることができるから、in-situ表面修飾技法ではより微細な有機修飾粒子を得ることが可能である。また温度や圧力を調節することで、粒子のサイズをコントロールできる。
【0067】
ここに示したように、最終的に脱水反応により表面から水酸基が脱水反応によって脱離したとしても、反応前駆体として生成物、あるいはその表面に多くの水酸基が生成する。この反応場に有機修飾剤が共存していれば、水酸基が存在する条件で反応を行わせることが可能である。また、反応場には、脱水反応を進行させるための触媒でもある酸が共存するため、修飾反応は加速される。これにより、酸化物に対して行うことができなかった表面修飾を行うことが可能となる。
【0068】
本実施形態に記載の技術では、前駆体を一旦合成し、それを加水分解等により金属酸化物、金属水酸化物を合成する等という高温場を達成して酸化物への平衡を前提としたものでなく,さらにラジカル重合基質といった,例えば、酸化性物質、温度、光等に感受性のものを使用することなく、微粒子の表面を有機修飾できる。したがって、金属粒子や酸化還元状態の異なる粒子の有機修飾もできる。
【0069】
本実施形態では、水と有機物質とが均一相を形成するような相状態を使い、しかも、無機-有機複合物質合成を試みるものであり、数nmから50nm以下のサイズの、高結晶性の金属、金属酸化物ナノ粒子を合成しつつ、その表面を有機分子で修飾する。
【0070】
超臨界等の反応場で有機分子をキャッピングさせながら反応させることで金属酸化物のさらなるナノ化を図ることができる。また、親水性表面を有する金属酸化物ナノ粒子を炭化水素といった有機基等の疎水性基でその表面を有機修飾することで、水性媒質から回収したりすることが困難な粒子を簡単に且つ確実に有機性の媒質側に移行させて分離・回収することができる。そして、この有機修飾により、結晶の露出面が制御されたナノ粒子を、その形状を変化させることなく回収できる。また、光触媒デバイスの製造は塗布型プロセスで行われることから、溶媒との親和性が高く、高濃度でナノ粒子を分散させつつ、低粘性を発現させることが可能となる。
【0071】
金属酸化物の種類は、光触媒として活用されているものであれば特に限定されないが、酸化セリウムが好ましい。
【0072】
有機修飾剤としては、微粒子の表面に炭化水素を強結合せしめることのできるものであれば特には限定されず、有機化学の分野、無機材料分野、高分子化学の分野を含めてナノ粒子の応用が期待されている分野で広く知られている有機物質から選択することができる。該有機修飾剤としては、例えば、エーテル結合、エステル結合、N原子を介した結合、S原子を介した結合、金属-C-の結合、金属-C=の結合及び金属-(C=O)-の結合等の強結合を形成することを許容するものが挙げられる。該炭化水素としては、その炭素数は特に限定されず、炭素数1や2のものも使用できるが、本発明の特徴を生かす観点からは、炭素数3あるいはそれ以上の鎖を有する長鎖炭化水素であるものは好ましく、例えば、炭素数3~20の直鎖又は分岐鎖、あるいは環状の炭化水素等が挙げられる。該炭化水素は、置換されていてもよいし、非置換のものであってもよい。該置換基としては、有機化学の分野、無機材料分野、高分子化学の分野等で広く知られた官能基の中から選択されたものであってよく、該置換基は1又はそれ以上が存在していてもよいし、複数の場合互いは同じでも異なっていてもよい。
【0073】
有機修飾剤としては、例えば、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類、エステル類、アミン類、チオール類、アミド類、オキシム類、ホスゲン、エナミン類、アミノ酸類、ペプチド類、糖類等が挙げられる。
【0074】
代表的な修飾剤としては、例えば、ペンタノール、ペンタナール、ペンタン酸、ペンタンアミド、ペンタンチオール、ヘキサノール、ヘキサナール、ヘキサン酸、ヘキサンアミド、ヘキサンチオール、ヘプタノール、ヘプタナール、ヘプタン酸、ヘプタンアミド、ヘプタンチオール、オクタノール、オクタナール、オクタン酸、オクタンアミド、オクタンチオール、デカノール、デカナール、デカン酸、デカンアミド、デカンチオール等が挙げられる。
【0075】
上記炭化水素基としては,置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基、置換されていてもよい環式アルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよい飽和又は不飽和の複素環式基等が挙げられる。置換基としては、例えば、カルボキシ基、シアノ基,ニトロ基、ハロゲン、エステル基、アミド基、ケトン基、ホルミル基、エーテル基、水酸基、アミノ基、スルホニル基、-O-、-NH-、-S-等が挙げられる。
【0076】
色素増感太陽電池(グレッツェルセル)は、可視光を吸収し、そのエネルギーを無機太陽電池に渡すことで、広い波長の光を利用できるシステムである。ここで得られる有機無機分子は、可視光吸収を行うべく設計できる。一般的にグレッツェルセルでは色素を吸着させるが、本手法によれば化学結合が可能であり、さらには電子共役系をとることも可能となるため、より有効な電子移行が可能である。
【0077】
〔さらなる水熱処理〕
本実施形態に係る方法では、ナノ化工程によって得られた金属酸化物ナノ粒子をさらに超臨界又は亜臨界の反応場で水熱処理することで、高結晶化、低欠陥化を施す工程をさらに含むことが好ましい。また、ナノ化工程によって得られた金属酸化物ナノ粒子を水熱条件下で酸素を共存させることで、低酸素欠陥化させる工程をさらに含むことが好ましい。
【0078】
超臨界等に例示される反応場での非平衡合成では、粒子のナノ化、粒子表面の有機修飾及び粒子の露出面制御により、歪が大きくなり、この歪が結晶の電子状態に影響を与え、顕著に大きな光触媒能に繋がることが考え得る。
【0079】
ナノ結晶光触媒を合成した後、超臨界あるいは亜臨界場での水熱処理を行うことで、結晶成長が生じる。これにより、歪、欠陥を低減し、完全結晶性を高めることが可能となる。中でも、水熱処理において、特に臨界点近傍ではあれば、任意の割合で酸素ガスと均一相を形成する。それを利用した高い酸化効果が得られる。
【0080】
〔表面が有機修飾された金属酸化物ナノ粒子の回収〕
親水性表面を有する金属酸化物ナノ粒子を炭化水素といった有機基等の疎水性基でその表面を有機修飾することで、水性媒質から回収したりすることが困難な粒子を簡単に且つ確実に有機性の媒質側に移行させて分離・回収することができる。そして、この有機修飾により、結晶の露出面が制御されたナノ粒子を、その形状を変化させることなく回収できる。
【0081】
本実施形態に記載の方法は、金属酸化物の表面を有機修飾した後、凍結乾燥または超臨界処理を行ってから、有機修飾された炭素材料を回収することが好ましい。亜臨界水または超臨界水を用いて有機修飾を行った場合には、有機修飾後の炭素材料は疎水化されているため、自動的に水から相分離する。このため、若干の有機溶媒を添加することにより、良好に回収することができる。しかし、有機修飾の際に有機溶媒を使用した場合には、溶媒を乾燥除去する必要があり、その乾燥工程でキャピラリー力が働き、炭素材料が凝集してしまう。そこで、凍結乾燥または超臨界処理を行うことにより、そのキャピラリー力を抑制して凝集を防ぐことができ、有機修飾された炭素材料を高効率で回収することができる。特に、超臨界二酸化炭素乾燥を行うことにより、有機溶媒の完全回収も可能となり、その再利用も可能となる。また、利用されなかった修飾剤との分離も可能となる。
【0082】
そして、乾燥後の金属酸化物ナノ粒子をさらにか焼することがより好ましい。ナノサイズ化と露出面制御により歪が大きくなると、酸素空孔を生じやすくなる。これが光触媒の活性種の再結合を生む原因となる。実際、測定してみると三価のセリウムが多く存在する。合成後、酸素雰囲気下で粒子の酸化処理を行い、三価のセリウムを四価のセリウムとする。このように、完全CeO2化する処理を行うことで、よりいっそう優れた光触媒活性を有する光触媒材料を提供できる。
【0083】
〔平均一次粒子径〕
金属酸化物ナノ粒子の平均一次粒子径の上限は、特に限定されないが、反応物質との暴露表面積(接触可能性)の最大化、また格子歪による酸素空孔易形成性の観点から、1μm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましく、30nm以下であることがよりさらに好ましく、20nm以下であることが特に好ましい。
【0084】
金属酸化物ナノ粒子の平均一次粒子径の下限も特に限定されない。一般には、ナノ粒子は、圧粉成型によって二次粒子化され、二次粒子を、サイクリックオペレーション用の充填層リアクターで用いられるか、あるいは循環流動層粒子として用いられる。
【0085】
本実施形態において、金属酸化物ナノ粒子の平均一次粒子径は、TEM(透過型電子顕微鏡)により酸素キャリア粒子の画像を撮像し、そのTEM像を画像解析・画像計測ソフトウェアにより解析して求めた値であるものとする。その際、粒子径分布が広い場合には、視野内に入った粒子が全粒子を代表しているか否かに注意を払う必要がある。
【0086】
〔比表面積〕
金属酸化物ナノ粒子の比表面積は、反応活性の観点から、5m2/g以上かつ1000m2/g以下であってよく、より一般的には10m2/g以上かつ500m2/g以下であってよく、典型的には20m2/g以上かつ400m2/g以下であってよく、好ましくは30m2/g以上かつ300m2/g以下であってよい。
【0087】
〔結晶型〕
金属酸化物ナノ粒子の形状は、光触媒機能発現の最良化の観点から、最も活性な面を露出させることが必要であり、それによって粒子形状が決まる。最活性面は金属酸化物ナノ粒子の種類によって異なるが、熱力学的に最も不安定な面であり、その情報は材料データベース等から容易に入手できる。例えばCeO2の場合の酸素キャリアの形状は、略立方体であり、(100)面を主な露出面とすることが好ましい。
【0088】
金属酸化物の粒子形態は、準安定形の単結晶性であることが好ましい。中でも、八面体及び/又は六面体の酸化セリウムナノ粒子が好ましい。
【0089】
CeO2のナノ粒子触媒は、八面体又は立方体の形態をとりうる。また、このとき、CeO2のナノ粒子触媒は、(111)面、(110)面及び/又は(100)面を主な露出面として有する。
【0090】
ここで、金属酸化物ナノ粒子としては、粒子表面の30%以上に活性面が露出している粒子が好ましい。なお、活性面とは、エネルギー的に最も不安定な面であり、CeO2では(100)面である。それにより、低温での酸素移動が可能となる。
【0091】
CeO2ナノ粒子の表面における(100)面が露出している割合は、30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。なお、CeO2ナノ粒子の表面における(100)面が露出している割合は、TEMにより測定される。
【0092】
活性を高めるため、CeO2ナノ粒子には、遷移元素がドープされていることが好ましい。CeO2ナノ粒子にドープされる遷移元素としては、Cr、Eu、Co、Y、Ce、Gd、Zr等を例示できる。中でも、Cr、Euが好ましい。
【0093】
CeO2ナノ粒子における遷移元素のドープ量は、CeO2の総質量に対して、0.1mol%以上が好ましく、4mol%以上がより好ましく、10mol%以上がさらに好ましく、15mol%以上がよりさらに好ましく、20mol%以上がいっそう好ましく、25mol%以上が特に好ましい。遷移元素のドープ量は、多ければ多いほどよいが、ドープであるには50mol%までである。
【0094】
CeO2のナノ構造について、6つの(100)面が低インデックスの結晶面の中でも最も大きな表面エネルギーを有することが明らかにされている。この高い表面エネルギーは、セリウムイオン間の架橋位置になる頂部層の酸素の不安定性に起因するものである。この酸素の不安定性によって、有機物の高い転化率が達成されると考えられる。立方体CeO2の頂部層の酸素が、温度及び圧力に依存して放出される。この酸素種は、反応物に移動し、これを生成物に分解することが可能である。4+価状態のCeは3+価状態のCeへと転化され、不安定になる。Ce3+によってセリア酸素の空位が発生し、この還元されたセリア表面にて形成された空位が水分子との反応を引き起こし、酸素と結合して4+価状態のCeになる。これにより、光触媒機能を継続的に発現できる。
【0095】
〔格子ひずみ〕
ナノサイズ化と露出面制御により歪が大きくなると、酸素空孔を生じやすくなる。そのため、格子ひずみは小さい方が好ましく、Hall法で解析される格子ひずみは、0.5%以下であることが好ましく、0.2%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることがさらに好ましい。
【0096】
〔メソポーラス材料〕
金属酸化物ナノ粒子は、通常光の透過が問題となるメソポーラス材料担持となっても、光触媒機能を発現できることがわかる。
【0097】
[メソポーラス材料の製造方法]
例えば、メソポーラス材料としてメソポーラスCeO
2を得る場合、
図3に示すように、メソポーラスCeO
2は3つのステップでナノキャストされる。まず、セリウムを含む前駆体溶液を直径約7nmのSBA-15メソ孔に浸潤させる(
図3における「Ce-precursor-SBA-15」)。続いて、Ce-precursor-SBA-15を空気中450℃で焼成し、Ce前駆体を分解してCeO
2を生成させる(
図3における「CeO
2-SBA-15」)。そして、CeO
2-SBA-15中のシリカをNaOH水溶液(pH12)に溶解させ、メソポーラスCeO
2構造を残存させる(
図3における「Mesoporous CeO
2」)。
【0098】
<光触媒材料の使用例>
特に限定されるものではないが、本実施形態に記載の光触媒材料は、大気浄化、脱臭、浄水、抗菌及び防汚等の用途に活用できる。
【0099】
〔大気浄化〕
自動車の排ガス等から排出される窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)等の環境汚染物質によって空気が汚されている。本実施形態に記載の光触媒材料を、建物外壁、道路遮音壁、及び工場排気設備等に用いることで大気を浄化し得る。
【0100】
〔消臭〕
本実施形態に記載の光触媒材料を、空気清浄機、介護用品、壁紙、及びカーテン等に用いることで、アンモニア、アセトアルデヒド(タバコ臭)、硫化水素(腐卵臭)、メチルメルカプタン(にんにく臭)等を除去し得る。
【0101】
〔浄水〕
本実施形態に記載の光触媒材料を、浄水器、及び排水処理等に用いることで、水に含まれるテトラクロロエチレンやトリハロメタン等の有機塩素化合物を分解除去し得る。
【0102】
〔抗菌〕
本実施形態に記載の光触媒材料を、タイル、トイレ、及び台所用品等に用いることで、これらの表面にある細菌を殺し、その死骸を分解し得る。
【0103】
〔防汚〕
本実施形態に記載の光触媒材料を、建物外壁、ランプカバー、及び窓ガラス等に用いることで、これらの表面についた油分を分解することによってこれらが汚れるのを防止できる。
【0104】
〔合成例:CeO2ナノ粒子の合成〕
以下、代表的な金属酸化物触媒であるCeO2のナノ粒子の合成について、説明する。
【0105】
八面体CeO2のナノ粒子は、公知の方法で合成されうる。
【0106】
立方体CeO2のナノ粒子は、(1)トルエン中にて原料溶液を調製すること、(2)有機改質剤及び必要に応じて遷移元素を使用し、超臨界水条件下で立方体CeO2ナノ粒子を合成すること、及び(3)立方体CeO2の形態を変化させずに有機改質剤を除去することを含む方法によって合成される。
【0107】
具体的には、立方体CeO2のナノ粒子の調製は、以下のように行うことができる。これは非限定的な例である。
【0108】
トルエン中に、有機改質剤であるヘキサン酸と、ドーピング剤である遷移元素と、Ce(OH)4とを溶解させることにより、立方体酸化セリウムのナノ粒子前駆体溶液を調製する。その後、前駆体溶液を、清澄な溶液を得るために連続的に攪拌しつつ混合する。前駆体溶液を、脱イオン水と混合し、炉の使用により600~700Kに急速に加熱する。次いで、その混合物を冷却する。立方体酸化セリウムのナノ粒子が、水、トルエン及び未反応の原料の混合物中の分散物として得られる。トルエン相中のナノ粒子に、エタノールを加え、遠心分離と傾瀉により精製し、それによって未反応の有機分子を除去する。この粒子をシクロヘキサンの中で分散させた後、真空下で冷凍乾燥する。粒子の表面からいかなる有機配位子も取り除くために、収集したナノ粒子を、空気中で数時間にわたり、300℃程度の高温でか焼する。か焼されたナノ粒子を、遠心分離と傾瀉によって清浄化し、次いで減圧乾燥し、それによって立方体CeO2のナノ粒子を得ることができる。
【実施例0109】
以下、本実施形態での試験例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0110】
<試験例1> 面制御その1:有機修飾の有無による比較
〔試験例1-1〕表面が有機修飾された立方体酸化セリウム
[酸化セリウムの合成]
酸化セリウムのナノ粒子を、以下の方法により合成した。
この方法は、簡潔には3工程として述べられる:
(i)トルエン中にて前駆体(原料)溶液を調製する工程、
(ii)有機改質剤及び必要に応じて遷移元素を使用して超臨界水条件下、立方体CeO2ナノ粒子を合成する工程、及び
(iii)立方体CeO2の形態を変化させずに有機改質剤を除去する工程。
【0111】
(i)トルエン中にて前駆体(原料)溶液を調製
トルエン(99.5%、和光ケミカルズ)中に、有機改質剤としてヘキサン酸(99%、和光ケミカルズ)、及びCe(OH)4(アルドリッチ・ケミカルズ)を溶解させることにより、前駆体溶液を調製した。前駆体溶液に含まれるヘキサン酸の濃度は0.30mol/Lであり、Ce(OH)4の濃度は0.050mol/Lである。この前駆体を、清澄な溶液を得るために40分間、連続的に攪拌させつつ混合した。
【0112】
(ii)CeO2ナノ粒子の合成
前駆体溶液を、7.0mL/分の流量で高圧ポンプ(日本精密科学、NP-KX540)を使用して供給した。同時に、脱イオン水を、3.0mL/分の流量で別のポンプを使用して供給した。前駆体溶液を、ジャンクションで脱イオン水と混合し、炉の使用により653Kに急速に加熱した。加熱帯での滞留時間は、およそ95秒であったが、これは、反応器容積、全流量、混合点での水及びトルエン混合物の密度、並びに反応温度及び圧力から見積もられた。次いで、その混合物を、ウォーター・ジャケットを使用して冷却した。背圧調整装置(TESCOM、26-1700シリーズ)によって、システムの圧力を30MPaに維持した。酸化セリウムのナノ粒子は、水、トルエン及び未反応の原料の混合物中の分散物として得られた。
【0113】
(iii)有機改質剤の除去
サンプルを、水とトルエンの相とが分離するように一晩放置した。次いで、トルエン相中にエタノールを加え、その混合物を遠心分離と傾瀉の3サイクルにかけて精製し、未反応の有機分子を除去した。この粒子をシクロヘキサン中に分散させ、8時間、真空下で冷凍乾燥した。
【0114】
〔試験例1-2〕表面が有機修飾されていない酸化セリウム
有機改質剤を加えないで前駆体(原料)溶液を調製したこと以外は、試験例1-1と同じ手法にてCeO2ナノ粒子を合成した。
【0115】
〔評価〕
[ナノ粒子の形態及びサイズ]
ナノ粒子の形態及びサイズは、100kVの加速電圧で透過電子顕微鏡(TEM、日立H7650)により観察した。ナノ粒子の表面上の化学結合及び官能基を調査するため、JASCO FT/IR-680分光計を使用してフーリエ変換赤外分光(FTIR)スペクトルを得た。透過IRスペクトルを、400から4000cm-1で収集した。粒子の結晶度及び純度を、2θ-θセットアップにてCu Kα放射線によるX線回折(XRD、Rigaku Ultima IV)を使用して同定した。2θ角度を、20°と70°の間で走査した。
【0116】
そして、ナノ粒子のXRDパターンを、International Center for Diffraction Data(00-034-0394)から得られるJoint Committee on Powder Diffraction Standardsの(JCPDS)のカードと比べることによって、得られたナノ粒子が、CeO2結晶構造を有することが分かった。また、シェレル(Scherrer)の式によって評価された結晶のサイズは、試験例1-1の手法によって得られたサイズがおよそ8nmであり、試験例1-2の手法によって得られたサイズがおよそ50nmであった。
【0117】
また、TEMを使用して分析した結果から、試験例1-1の手法によって得られたナノ粒子は、6つの{100}面によって囲まれた立方体の粒子であり、試験例1-2の手法によって得られたナノ粒子は、8つの{111}面によって囲まれた八面体の粒子であることが確認された。八面体から立方体への粒子形状の発展は、ヘキサン酸配位子分子と、先端が切り取られた形の八面体の{001}面との優先的な相互作用によるものであり、それによって、{001}方向における結晶の成長速度が大幅に減少し、{111}方向の結晶成長が優勢になり、終局的にはナノ立方体の形成につながったと考えられる。
【0118】
立方体CeO
2ナノ粒子の両面に化学結合した有機分子の存在を証するため、FTIRスペクトルを得た。
図4に示すように、表面改質ナノ粒子において、2900-2970cm
-1の領域に伸縮ピークが現われた。これらのピークは、ヘキサン酸中のメチル基及びメチレン基のC-H伸縮モードに割り当てられ、その正味の改質剤のFTIRスペクトルに存在するものであり、ナノ粒子の表面上の有機分子の存在を示している。ヘキサン酸で改質されたナノ粒子のスペクトルでは、1531及び1444cm
-1の2つの主要なピークが、それぞれ、カルボキシレート基の非対称及び対称モードにそれぞれ割り当てられた。これは、そのカルボキシレート基によって酸化セリウムのナノ粒子の表面にヘキサン酸が化学的に結合していることを示す。
【0119】
[光触媒活性]
アゾ染料AO7:0.0002mol/L,3mLに実施例1又は比較例1のナノ粒子0.01gを加え、波長365nmのUVを所定時間照射した。所定時間経過後、遠心分離10000rpm,15minによりナノ粒子を分離し、AO7残存濃度をUV-visスペクトルの484nmの強度により測定した。照射時間0hは、吸着の影響を調べるため、触媒添加した後、UV光を照射せずにすぐに遠心分離し、測定を行った。結果を
図5に示す。
【0120】
図5に示す通り、表面が有機修飾された光触媒ナノ粒子(試験例1-1)は、表面が有機修飾されていない場合(試験例1-2)に比べて高い光触媒活性を有することが確認された。
【0121】
<試験例2> 面制御その2:ナノ化後のさらなる水熱処理の有無による比較
「(ii)CeO
2ナノ粒子の合成」の後、さらに水熱処理した後で「(iii)有機改質剤の除去」を行ったサンプル(試験例2)と、試験例1-1のサンプルとの間で光触媒活性を測定した。結果を
図6に示す。
【0122】
図6に示す通り、「(ii)CeO
2ナノ粒子の合成」の後、さらに水熱処理した光触媒ナノ粒子(試験例2)は、追加の水熱処理を行っていない場合(試験例1-1)に比べて高い光触媒活性を有することが確認された。
【0123】
超臨界等に例示される反応場での非平衡合成では、粒子のナノ化、粒子表面の有機修飾及び粒子の露出面制御により、歪が大きくなり、この歪が結晶の電子状態に影響を与え、顕著に大きな光触媒能に繋がることが考え得る。
【0124】
ナノ結晶光触媒を合成した後、超臨界あるいは亜臨界場での水熱処理を行うことで、結晶成長が生じる。これにより、歪、欠陥を低減し、完全結晶性を高めることが可能となる。実際に、XRDデータの解析からHall法での格子ひずみを求めたところ、試験例2のナノ粒子では0.1%未満であり、試験例1-1のナノ粒子では約0.2%であった。
【0125】
したがって、さらなる水熱処理を施すことで歪、欠陥を低減でき、その結果、より顕著な光触媒活性を示したものと考えられる。
【0126】
<試験例3> ドーピングの有無による比較
〔試験例3-1〕クロムドープ酸化セリウム(Cr-CeO
2)
クロムドープ酸化セリウム(Cr-CeO
2)は、報告されている流通式超臨界水熱合成法により合成した。Cr-CeO
2の合成にあたっては、
図7に示す装置30を用いた。
【0127】
装置30は、原料供給部31と、超臨界水供給部32と、原料及び超臨界水を混合する混合部33と、原料及び超臨界水の混合液を冷却し、容器に収容する冷却部34とを備える。
【0128】
原料供給部31は、原料が収容される原料収容容器31Aと、原料収容容器31Aに収容された原料を混合部33に向かって汲み上げるポンプ31Bとを有する。原料収容容器31Aとポンプ31Bとの間、ポンプ31Bと混合部33との間は、それぞれ配管で接続されている。
【0129】
原料収容容器31Aには、0.010mol/lのCe(OH)4/Cr(OH)3(Ce:Cr=9:1(モル比))を含有する水溶液が収容されている。また、ナノ粒子の表面を修飾し、それらの異方性成長を誘導するため、原料収容容器31Aには、0.13gのデカン酸も収容されている。
【0130】
超臨界水供給部32は、水が収容される水収容容器32Aと、水収容容器32Aに収容された水を混合部33に向かって汲み上げるポンプ32Bと、ポンプ32Bと混合部33との間に設けられ、水を超臨界状態にする加熱部32Cとを有する。水収容容器32Aとポンプ32Bとの間、ポンプ32Bと加熱部32Cとの間、加熱部32Cと混合部33との間は、それぞれ配管で接続されている。
【0131】
本試験例では、水を超臨界状態にし、その後、超臨界水を混合部33に供給するため、原料と水との混合物を徐々に加熱して最終的に超臨界状態にするのではなく、原料に超臨界水を直接接触させることで、極めて短時間、混合の速度で原料を超臨界状態にまで昇温させることで、昇温中の粒子生成、成長を抑制し、超臨界場での高い過飽和度でナノ粒子を合成することができる。
【0132】
混合部33では、温度及び圧力を制御可能である。
【0133】
本試験例では、超臨界水供給部32にて予め加熱した超臨界水を、原料収容容器31Aに設けられた配管とは別の別配管から混合部33に供給し、原料と超臨界水とを急速混合させることで、原料を超臨界状態にまで昇温した。原料には有機分子であるデカン酸が含まれているにも関わらず、超臨界状態では有機分子も無機水溶液も均一相を形成し、そこで粒子合成が生じる。混合部33における反応管出口では、冷却部34に設けられた外部水冷装置34Aにより急速冷却し、圧力はその後背圧弁(図示せず)により制御した。混合部33での反応温度は400℃、反応圧力は30MPa、反応時間は2秒以下であった。水熱反応後、反応後液が収容された容器34Bを水浴中室温で冷却した。5mlのヘキサンを用い、デカン酸変性生成物からナノ粒子(ヘキサン相)を抽出した。そして、ヘキサン相に、貧溶媒試薬として10mlのエタノールを添加し、ヘキサン相から沈殿物を沈殿させた。そして、遠心分離を行い、立方晶CrドープCeO2ナノ粒子を得た。
【0134】
この非平衡系の合成法により、通常の低速昇温でのオートクレーブによる平衡系合成では数mol%しかドープできないCrを、数10mol%まで増大させることができた。
【0135】
〔試験例3-2〕ユーロピウムドープ酸化セリウム(Eu-CeO2)
ドーピング剤を構成する遷移元素をEuにしたこと以外は、試験例3-1と同様の手法にてユーロピウムドープ酸化セリウム(Eu-CeO2)を得た。
【0136】
〔評価〕
これら試験例3-1及び3-2に係るナノ粒子について、試験例1と同じ手法にて光触媒活性を測定した。また、対照として、試験例1-2で得た、ドーピング剤を用いていないCeO
2ナノ粒子についても光触媒活性を測定した。結果を
図8に示す。
【0137】
図8に示す通り、遷移元素によってドーピングされた光触媒ナノ粒子(試験例3-1及び3-2)は、ドーピングされていない場合(試験例1-2)に比べて高い光触媒活性を有することが確認された。
【0138】
<試験例4> か焼の有無による比較
試験例1-2と同様の手法によってCeO
2ナノ粒子を合成して凍結乾燥した後、さらにか焼した場合(試験例4-1)と、か焼しなかった場合(試験例4-2)とによって光触媒活性を比較した。か焼では、収集したナノ粒子を、空気中にて400℃で2時間か焼した。か焼されたナノ粒子を、エタノール中で数回清浄化し、そしていかなる未反応の分子をも、遠心分離と傾瀉によって除去した。最後に、粒子を6時間減圧乾燥し、その後に、か焼されたナノ粒子について光触媒活性を測定した。結果を
図9に示す。
【0139】
図9に示す通り、凍結乾燥後後、さらにか焼した光触媒ナノ粒子(試験例4)は、か焼しなかった光触媒ナノ粒子(試験例1-2)に比べて高い光触媒活性を有することが確認された。
【0140】
ナノサイズ化と露出面制御により歪が大きくなると、酸素空孔を生じやすくなる。これが光触媒の活性種の再結合を生む原因となる。実際、測定してみると三価のセリウムが多く存在する。合成後、酸素雰囲気下で粒子の酸化処理を行い、三価のセリウムを四価のセリウムとする。このように、完全CeO2化する処理を行うことで、よりいっそう優れた光触媒活性を有する光触媒材料を提供できる。
【0141】
<試験例5> 表面の酸化状態に着目した検討
〔SBA-15メソポーラスシリカの合成〕
構造指向剤(structure directing agent)としてのプルロニック(登録商標)P123(トリブロックポリ(エチレンオキシド)-bポリ(プロピレンオキシド)-b-ポリ(エチレンオキシド)コポリマー,平均分子量5800,Sigma-Aldrich社製)5.14gを144mLの水に溶解し、37%HCl水溶液30.96gと混合した。この溶液に、シリカ前駆体としてのテトラエチルオルソシリケート(TEOS,Sigma-Aldrich社製)11.12gをゆっくりと添加した後、40℃で20時間、攪拌しながらエイジングさせた。この溶液をオートクレーブに移し、100℃で24時間加熱した。冷却後、白色固体生成物を濾過により集め、60℃の空気中で乾燥させた。乾燥した試料を、空気中550℃で5時間焼成した。焼成中にプルロニックP123を除去し、SBA-15メソポーラスシリカを得た。
【0142】
〔ナノキャスティングによるCeO2の合成〕
上記のように調製したSBA-15メソポーラスシリカを固体テンプレートとして、所望のメソポーラスCeO2の合成を行った。0.50gのSBA-15メソポーラスシリカを5.0mLのエタノール(富士フイルム和光純薬社製)に分散させた。これを室温で60分間攪拌した。次に、セリウム源として、硝酸アンモニウムセリウム(Ce(NH4)2(NO3)6,関東化学社製)0.50gを分散液に溶解させた。50℃で攪拌してエタノールを除去した。乾燥した試料を空気中450℃で5時間焼成した。その後、SBA-15テンプレートを2.0MのNaOH水溶液(富士フイルム和光純薬社製)に溶解し、水で繰り返し洗浄した後、60℃で乾燥させて生成物(メソポーラスCeO2)を得た。
【0143】
〔評価〕
[顕微鏡画像]
ナノキャストされたメソポーラスCeO
2について、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)による画像、及び走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)による画像を撮影した。TEMは、日立製作所社製H-7650を使用した。SEMは、日本電子社製JSM-7800FPrimeを使用した。結果を
図10A及び
図10Bに示す。
【0144】
図10A及び
図10Bは、ナノキャストされたメソポーラスCeO
2のTEMおよびSEM画像である。どちらの画像からも、メソポーラスCeO
2はナノワイヤー状構造の集合体であることが分かる。これは、SBA-15の六方配列の細孔のレプリカであることを示唆しているが、集合体は元のSBA-15のそれよりも小さかった。すべての集合体は、互いに孤立した高アスペクト比の形態を示し、その平均長軸長は約250nmであった。また、これらの集合体は平均粒径約7nmのCeO
2ナノ粒子で構成されている。
【0145】
図10Cは、メソポーラスCeO
2中のCeO
2ナノ粒子をHR-TEMで観察したときの原子像である。HR-TEM像では、{100}、{111}、{110}格子縞がそれぞれ0.28、0.32、0.20nmの面間スペースで鮮明に現れ、CeO
2ナノ結晶が広い面積の{100}面を露出することが示唆されている。
【0146】
[光触媒活性]
試験例5で得られたメソポーラスCeO2と、試験例1-1で得られた立方体酸化セリウムとのそれぞれについて、光触媒活性を評価した。
【0147】
図11に示す通り、メソポーラス材料からなる光触媒ナノ粒子(試験例5)であっても、立方体形状の光触媒ナノ粒子(試験例1-1)と同様に光触媒活性を有することが確認された。