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特開2022-151860食材抽出物の抽出方法および食材抽出物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151860
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】食材抽出物の抽出方法および食材抽出物
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20220929BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20220929BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20220929BHJP
   A23L 31/00 20160101ALI20220929BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220929BHJP
【FI】
A23L5/00 K
A23L33/17
A23L19/00 101
A23L19/00 Z
A23L19/00 A
A23L31/00
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】29
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050389
(22)【出願日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2021053787
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507152970
【氏名又は名称】公益財団法人東洋食品研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】高橋 徹
(72)【発明者】
【氏名】沖浦 文
【テーマコード(参考)】
4B016
4B018
4B035
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LG01
4B016LG14
4B016LK01
4B016LK04
4B016LP01
4B016LP02
4B016LP11
4B016LP13
4B018MD01
4B018MD09
4B018MD52
4B018MD83
4B018MF01
4B018MF04
4B018MF05
4B035LC01
4B035LG01
4B035LG04
4B035LG32
4B035LG39
4B035LP01
4B035LP22
4B035LP43
4B035LP56
(57)【要約】
【課題】食材抽出物に含まれる所望のアミノ酸類の何れかを利用目的に応じて増減できる食材抽出物の抽出方法、および、当該食材抽出物を提供する。
【解決手段】食材に抽出溶媒を加えて食材抽出物を抽出する際に、利用目的に応じて前記抽出溶媒のpH値を変更することで、前記食材抽出物に含まれる所望のアミノ酸類の濃度を改変する食材抽出物の抽出方法、および、食材抽出物の抽出方法によって抽出された食材抽出物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食材に抽出溶媒を加えて食材抽出物を抽出する際に、
利用目的に応じて前記抽出溶媒のpH値を変更することで、前記食材抽出物に含まれる所望のアミノ酸類の濃度を改変する食材抽出物の抽出方法。
【請求項2】
前記抽出溶媒に含有される化合物の種類を変更して、前記食材抽出物に含まれる前記アミノ酸類の濃度を改変する請求項1に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項3】
前記食材がイチジク果実であり、前記抽出溶媒がグルコン酸を含有する溶媒としてある請求項1または2に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項4】
前記抽出溶媒のpH値が3.1以下である請求項3に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項5】
前記アミノ酸類が遊離アミノ酸およびペプチドの少なくとも何れかである請求項4に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項6】
前記遊離アミノ酸が、リジン、アルギニン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシンおよびグルタミン酸の少なくとも何れかである請求項5に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項7】
前記ペプチドがグルタチオンである請求項5または6に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項8】
前記食材がシイタケであり、前記抽出溶媒が、リン酸およびクエン酸の何れかを含有する溶媒としてある請求項1または2に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項9】
前記抽出溶媒のpH値が6以上である請求項8に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項10】
前記アミノ酸類が遊離アミノ酸であり、前記遊離アミノ酸が、アルギニン、フェニルアラニンおよびロイシンの少なくとも何れかである請求項9に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項11】
前記抽出溶媒のpH値が7以上である請求項8に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項12】
前記アミノ酸類が遊離アミノ酸であり、前記遊離アミノ酸が、リジン、アルギニン、フェニルアラニンおよびロイシンの少なくとも何れかである請求項11に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項13】
前記抽出溶媒のpH値が5以下である請求項8に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項14】
前記アミノ酸類が遊離アミノ酸であり、前記遊離アミノ酸が、リジン、アルギニン、フェニルアラニンおよびロイシンの少なくとも何れかである請求項13に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項15】
前記抽出溶媒が緩衝液である請求項1に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項16】
前記食材がシイタケであり、前記緩衝液がBritton-Robinson緩衝液としてある請求項15に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項17】
前記緩衝液のpH値が6以上である請求項15または16に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項18】
前記アミノ酸類が遊離アミノ酸であり、前記遊離アミノ酸がアラニンである請求項17に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項19】
前記緩衝液のpH値が7以上である請求項15または16に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項20】
前記アミノ酸類が遊離アミノ酸であり、前記遊離アミノ酸が、リジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、バリン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、セリン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸の少なくとも何れかである請求項19に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項21】
前記緩衝液のpH値が5~7である請求項15または16に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項22】
前記アミノ酸類が遊離アミノ酸であり、前記遊離アミノ酸がγアミノ酪酸(GABA)である請求項21に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項23】
前記緩衝液のpH値が9である請求項15または16に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項24】
前記アミノ酸類がペプチドであり、前記ペプチドがグルタチオンである請求項23に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項25】
前記緩衝液のpH値が6以下である請求項15または16に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項26】
前記アミノ酸類が遊離アミノ酸であり、前記遊離アミノ酸が、リジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、アルギニンの少なくとも何れかである請求項25に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項27】
前記アミノ酸類が遊離アミノ酸であり、前記遊離アミノ酸が、分子構造の中にカルバモイル基を持たず、および、等電点が酸性側ではない、の少なくとも何れかの特徴を有するものである請求項20に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項28】
前記アミノ酸類がペプチドであり、前記遊離アミノ酸をその構成アミノ酸として含む請求項27に記載の食材抽出物の抽出方法。
【請求項29】
請求項1~28の何れか一項に記載の食材抽出物の抽出方法によって抽出された食材抽出物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食材に抽出溶媒を加えて食材抽出物を抽出する食材抽出物の抽出方法および食材抽出物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食材に含まれる栄養成分や機能性成分を効率よく利用するため、抽出溶媒によって抽出された抽出エキス(食材抽出物)を利用することが行われている。食材抽出物の抽出処理の際に夾雑物などの不要成分を排除する条件を適用すれば、当該食材抽出物は、当該不要成分を極力排除した状態で利用することができる。
【0003】
例えば特許文献1には、カカオ豆に、水、低級アルコール、酢酸エチル等の有機溶剤の1種または2種以上の混合溶媒を加えてカカオ豆抽出物を得ること、抽出物由来のアミノ酸組成物(アンジオテンシンI変換酵素阻害物)を得ること、が開示してある。
【0004】
特許文献2には、回遊魚を熱水抽出した抽出物の固形分に占める遊離アミノ酸の合計量について開示してある。
【0005】
特許文献3には、乾燥タモギ茸を熱水中で煮出し、乾燥タモギ茸に含まれる遊離アミノ酸を含む栄養成分をタモギ茸エキスとして抽出することが開示してある。
【0006】
特許文献4には、果実類、ハーブ類、スパイス類、茶類、穀類および野菜類からなる群より選択される少なくとも1種の抽出原料と、水・エタノールなどの抽出溶媒とを混合することで、煩雑な工程を経ずに、抽出成分の損失が抑制された高力価の抽出物を製造できることが開示してある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-19228号公報
【特許文献2】特開2007-228963号公報
【特許文献3】特開2006-34121号公報
【特許文献4】特開2019-129718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、様々な食材から食材抽出物が調製され、調味料や栄養強化等の用途で利用されている。食材抽出物の含有成分としては、例えば遊離アミノ酸やペプチド(以後、アミノ酸類)が挙げられる。その中には体内で合成できない栄養素である必須アミノ酸(フェニルアラニン,リジン,ロイシン,イソロイシン等)や、呈味成分(旨味:グルタミン酸,アスパラギン酸、甘味:プロリン,アスパラギン等)、運動時の持久力や筋肉維持に寄与するとされるもの(分枝鎖アミノ酸:ロイシン,イソロイシン等)、抗酸化作用や解毒作用を示すもの(グルタチオン)等、重要なものがある。
【0009】
一方で苦味を呈するもの(フェニルアラニン,ロイシン,イソロイシン等)、糖と反応して人体に有害な最終糖化生成物(AGEs)を生成し易いもの(リジン,アルギニン)など、場合によっては好ましくない特性を持つものも含まれる。
【0010】
特許文献1~4には、食材に、水(熱水)や、エタノールなどの有機溶剤を含有する抽出溶媒を加えることで、得られた抽出物に遊離アミノ酸などのアミノ酸類が含まれることが開示してある。しかし、これらの技術は何れも、食材抽出物に含まれる所望のアミノ酸類の濃度を利用目的に応じて増減するものではなかった。
【0011】
食材において、上記の栄養素や機能性成分の濃度、ならびに食味にできるだけ影響を与えることなく、抽出溶媒によって抽出される食材抽出物に含まれる所望のアミノ酸類が、利用目的に応じて増減できるように抽出できれば、食材の用途が拡大すると考えられる。
【0012】
従って、本発明の目的は、食材抽出物に含まれる所望のアミノ酸類の何れかを利用目的に応じて増減できる食材抽出物の抽出方法、および、当該食材抽出物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第一特徴構成は、食材に抽出溶媒を加えて食材抽出物を抽出する際に、利用目的に応じて前記抽出溶媒のpH値を変更することで、前記食材抽出物に含まれる所望のアミノ酸類の濃度を改変する点にある。
【0014】
本構成では、例えば、ある利用目的において、あるアミノ酸類の濃度を上昇させたいと考える場合は、抽出溶媒のpH値を高く(或いは低く)設定して抽出処理を行うことができる。また、本構成では、他の利用目的において、あるアミノ酸類の濃度を低下させたいと考える場合は、抽出溶媒のpH値を低く(或いは高く)設定して抽出処理を行うことができる。
【0015】
このように本構成によれば、食材抽出物を抽出する際に、利用目的に応じて抽出溶媒のpH値を調節することで、食材抽出物に含まれる所望のアミノ酸類の濃度を利用目的に応じて所望の濃度に改変することができる。
【0016】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第二特徴構成は、前記抽出溶媒に含有される化合物の種類を変更して、前記食材抽出物に含まれる前記アミノ酸類の濃度を改変する点にある。
【0017】
本構成では、pH値を調整するために用いる化合物(酸、アルカリ、およびそれらの塩)の種類を変更することで、特定のアミノ酸類において、同じpHにおいても食材抽出物に含まれる当該アミノ酸類の抽出濃度を異ならせることができる。
【0018】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第三特徴構成は、前記食材をイチジク果実とし、前記抽出溶媒がグルコン酸を含有する溶媒とした点にある。
【0019】
本構成では、イチジク果実を抽出する際の抽出溶媒を、酸味の強さが弱いため食味への影響が小さく、かつpHを低く維持できるグルコン酸を使用した抽出溶媒とすることができる。
【0020】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第四特徴構成は、前記抽出溶媒のpH値を3.1以下とした点にある。
【0021】
本構成によれば、食材抽出物において、特定の遊離アミノ酸およびペプチドの少なくとも何れかの含有量を、利用目的に応じて所望の濃度に改変することができる。
【0022】
水分の多い加工食品においては、安全性確保のために加熱を主体とする殺菌処理が必要となる。その加熱条件(温度および時間)はpH値が低いほど緩和される。加工食品の品質(食味、色調、香り)への影響を小さくするには、加熱条件をできるだけ緩和するのが望ましい。本構成のように抽出溶媒のpH値を3.1以下とすれば、前記加熱条件をできるだけ緩和できる食材抽出物を供することができる。
【0023】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第五特徴構成は、前記アミノ酸類を遊離アミノ酸およびペプチドの少なくとも何れかとした点にある。
【0024】
本構成によれば、食材抽出物において遊離アミノ酸およびペプチドの少なくとも何れかの含有量を、利用目的に応じて所望の濃度に改変することができる。
【0025】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第六特徴構成は、前記遊離アミノ酸を、リジン、アルギニン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシンおよびグルタミン酸の少なくとも何れかとした点にある。
【0026】
本構成では、食材抽出物において必須アミノ酸(リジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン)の濃度を、抽出溶媒のpH値を変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変することができる。
【0027】
また、本構成では、食材抽出物において、運動時の持久力や筋肉維持に寄与するとされる分枝鎖アミノ酸(ロイシン、イソロイシン)の濃度を、抽出溶媒のpH値を変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変することができる。
【0028】
また、本構成では、食材抽出物において、苦味成分(リジン、アルギニン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン)の濃度を、抽出溶媒のpH値を変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変することができる。
【0029】
また、本構成では、イチジク果実抽出物において旨味成分(グルタミン酸)の濃度を、抽出溶媒のpH値を変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変することができる。
【0030】
また、本構成では、食材抽出物において、糖と反応して人体に有害な最終糖化生成物(AGEs)を生成し易いアミノ酸(リジン、アルギニン)の濃度を、抽出溶媒のpH値を変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変することができる。
【0031】
従って、本構成では、利用目的に応じて食材抽出物に含まれる上記の遊離アミノ酸の濃度を、抽出溶媒のpH値を3.1以下に変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変(上昇あるいは低下)できる抽出方法を供することができる。
【0032】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第七特徴構成は、前記ペプチドをグルタチオンとした点にある。
【0033】
本構成では、食材抽出物において抗酸化作用や解毒作用を示すグルタチオンの濃度を、抽出溶媒のpH値を変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変(上昇あるいは低下)することができる。
【0034】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第八特徴構成は、前記食材をシイタケとし、前記抽出溶媒を、リン酸およびクエン酸の何れかを含有する溶媒とした点にある。
【0035】
本構成によれば、シイタケを抽出する際の抽出溶媒を、食品への添加が可能で、調整できるpH範囲が比較的広いリン酸およびクエン酸の何れかを使用した抽出溶媒とすることができる。
【0036】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第九特徴構成は、前記抽出溶媒のpH値を6以上とした点にある。
【0037】
本構成によれば、食材抽出物において、特定の遊離アミノ酸の含有量を、利用目的に応じて所望の濃度に改変することができる。
【0038】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第十特徴構成は、前記アミノ酸類が遊離アミノ酸であり、前記遊離アミノ酸を、アルギニン、フェニルアラニンおよびロイシンの少なくとも何れかとした点にある。
【0039】
本構成では、食材抽出物において、必須アミノ酸(フェニルアラニン、ロイシン)、運動時の持久力や筋肉維持に寄与するとされる分枝鎖アミノ酸(ロイシン)、苦味成分(アルギニン、フェニルアラニンおよびロイシン)、および、糖と反応して人体に有害な最終糖化生成物(AGEs)を生成し易いアミノ酸(アルギニン)の濃度を、抽出溶媒のpH値を変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変することができる。
【0040】
従って、本構成では、利用目的に応じて食材抽出物に含まれる上記の遊離アミノ酸の濃度を、抽出溶媒のpH値を6以上に変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変(上昇あるいは低下)できる抽出方法を供することができる。
【0041】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第十一特徴構成は、前記抽出溶媒のpH値を7以上とした点にある。
【0042】
本構成によれば、食材抽出物において、特定の遊離アミノ酸の含有量を、利用目的に応じて所望の濃度に改変することができる。
【0043】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第十二特徴構成は、前記アミノ酸類が遊離アミノ酸であり、前記遊離アミノ酸を、リジン、アルギニン、フェニルアラニンおよびロイシンの少なくとも何れかとした点にある。
【0044】
本構成では、食材抽出物において、必須アミノ酸(リジン、フェニルアラニン、ロイシン)、運動時の持久力や筋肉維持に寄与するとされる分枝鎖アミノ酸(ロイシン)、苦味成分(リジン、アルギニン、フェニルアラニンおよびロイシン)、および、糖と反応して人体に有害な最終糖化生成物(AGEs)を生成し易いアミノ酸(リジン、アルギニン)の濃度を、抽出溶媒のpH値を変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変することができる。
【0045】
従って、本構成では、利用目的に応じて食材抽出物に含まれる上記の遊離アミノ酸の濃度を、抽出溶媒のpH値を7以上に変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変(上昇あるいは低下)できる抽出方法を供することができる。
【0046】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第十三特徴構成は、前記抽出溶媒のpH値を5以下とした点にある。
【0047】
本構成によれば、食材抽出物において、特定の遊離アミノ酸の含有量を、利用目的に応じて所望の濃度に改変することができる。
【0048】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第十四特徴構成は、前記アミノ酸類が遊離アミノ酸であり、前記遊離アミノ酸を、リジン、アルギニン、フェニルアラニンおよびロイシンの少なくとも何れかとした点にある。
【0049】
本構成では、食材抽出物において、必須アミノ酸(リジン、フェニルアラニン、ロイシン)、運動時の持久力や筋肉維持に寄与するとされる分枝鎖アミノ酸(ロイシン)、苦味成分(リジン、アルギニン、フェニルアラニンおよびロイシン)、および、糖と反応して人体に有害な最終糖化生成物(AGEs)を生成し易いアミノ酸(リジン、アルギニン)の濃度を、抽出溶媒のpH値を変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変することができる。
【0050】
従って、本構成では、利用目的に応じて食材抽出物に含まれる上記の遊離アミノ酸の濃度を、抽出溶媒のpH値を5以下に変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変(上昇あるいは低下)できる抽出方法を供することができる。
【0051】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第十五特徴構成は、前記抽出溶媒を緩衝液とした点にある。
【0052】
本構成では、抽出溶媒として緩衝液を使用することでpH値の安定した抽出溶媒とすることができる。
【0053】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第十六特徴構成は、前記食材がシイタケであり、前記緩衝液をBritton-Robinson緩衝液とした点にある。
【0054】
本構成では、シイタケを抽出する際の抽出溶媒をBritton-Robinson緩衝液とすることで、調整できるpH範囲が比較的広い抽出溶媒とすることができる。
【0055】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第十七特徴構成は、前記緩衝液のpH値を6以上とした点にある。
【0056】
本構成によれば、食材抽出物において、特定のアミノ酸類の含有量を、利用目的に応じて所望の濃度に改変することができる。
【0057】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第十八特徴構成は、前記アミノ酸類が遊離アミノ酸であり、前記遊離アミノ酸をアラニンとした点にある。
【0058】
本構成では、食材抽出物において、アミノ酸(アラニン)の濃度を、抽出溶媒のpH値を変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変することができる。
【0059】
従って、本構成では、利用目的に応じて食材抽出物に含まれる上記の遊離アミノ酸の濃度を、抽出溶媒のpH値を6以上に変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変(上昇あるいは低下)できる抽出方法を供することができる。
【0060】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第十九特徴構成は、前記緩衝液のpH値を7以上とした点にある。
【0061】
本構成によれば、食材抽出物において、特定のアミノ酸類の含有量を、利用目的に応じて所望の濃度に改変することができる。
【0062】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第二十特徴構成は、前記アミノ酸類が遊離アミノ酸であり、前記遊離アミノ酸を、リジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、バリン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、セリン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸の少なくとも何れかとした点にある。
【0063】
本構成では、食材抽出物において、必須アミノ酸(リジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、バリン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン)、甘味成分(プロリン、セリン)、苦味成分(アルギニン)、旨味成分(グルタミン酸、アスパラギン酸)の濃度を、抽出溶媒のpH値を変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変することができる。
【0064】
従って、本構成では、利用目的に応じて食材抽出物に含まれる上記の遊離アミノ酸の濃度を、抽出溶媒のpH値を7以上に変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変(上昇あるいは低下)できる抽出方法を供することができる。
【0065】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第二十一特徴構成は、前記緩衝液のpH値を5~7以上とした点にある。
【0066】
本構成によれば、食材抽出物において、特定のアミノ酸類の含有量を、利用目的に応じて所望の濃度に改変することができる。
【0067】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第二十二特徴構成は、前記アミノ酸類が遊離アミノ酸であり、前記遊離アミノ酸をγアミノ酪酸(GABA)とした点にある。
【0068】
本構成では、食材抽出物において、間接的に血圧を下げる作用があるγアミノ酪酸の濃度を、抽出溶媒のpH値を変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変することができる。
【0069】
従って、本構成では、利用目的に応じて食材抽出物に含まれる上記の遊離アミノ酸の濃度を、抽出溶媒のpH値を5~7に変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変(上昇あるいは低下)できる抽出方法を供することができる。
【0070】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第二十三特徴構成は、前記緩衝液のpH値を9とした点にある。
【0071】
本構成によれば、食材抽出物において、特定のアミノ酸類の含有量を、利用目的に応じて所望の濃度に改変することができる。
【0072】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第二十四特徴構成は、前記アミノ酸類がペプチドであり、前記ペプチドをグルタチオンとした点にある。
【0073】
本構成では、食材抽出物において抗酸化作用や解毒作用を示すグルタチオンの濃度を、抽出溶媒のpH値を変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変することができる。
【0074】
従って、本構成では、利用目的に応じて食材抽出物に含まれる上記のペプチドの濃度を、抽出溶媒のpH値を9に変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変(上昇あるいは低下)できる抽出方法を供することができる。
【0075】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第二十五特徴構成は、前記緩衝液のpH値を6以下とした点にある。
【0076】
本構成によれば、食材抽出物において、特定のアミノ酸類の含有量を、利用目的に応じて所望の濃度に改変することができる。
【0077】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第二十六特徴構成は、前記アミノ酸類が遊離アミノ酸であり、前記遊離アミノ酸を、リジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、アルギニンの少なくとも何れかとした点にある。
【0078】
本構成では、食材抽出物において、必須アミノ酸(リジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン)、苦味成分(アルギニン)の濃度を、抽出溶媒のpH値を変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変することができる。
【0079】
従って、本構成では、利用目的に応じて食材抽出物に含まれる上記の遊離アミノ酸の濃度を、抽出溶媒のpH値を6以下に変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変(上昇あるいは低下)できる抽出方法を供することができる。
【0080】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第二十七特徴構成は、前記アミノ酸類が遊離アミノ酸であり、前記遊離アミノ酸が、分子構造の中にカルバモイル基を持たず、および、等電点が酸性側ではない、の少なくとも何れかの特徴を有するものとした点にある。
【0081】
本構成では、上記の少なくとも何れかの特徴を有する遊離アミノ酸として、リジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、バリン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、セリン、アルギニンの濃度を、抽出溶媒のpH値を変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変することができる。
【0082】
本発明に係る食材抽出物の抽出方法の第二十八特徴構成は、前記アミノ酸類がペプチドであり、前記遊離アミノ酸をその構成アミノ酸として含む点にある。
【0083】
本構成では、第二十七特徴構成に記載の遊離アミノ酸をペプチドの構成アミノ酸とすることができ、当該ペプチドの濃度を、抽出溶媒のpH値を変更することで抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変することができる。
【0084】
本発明に係る食材抽出物の特徴構成は、第一~第二十八特徴構成の何れか一項に記載の食材抽出物の抽出方法によって抽出された食材抽出物とした点にある。
【0085】
本構成によれば、利用目的に応じて抽出溶媒のpH値および/またはその調整に用いる化合物(酸、アルカリ、およびそれらの塩)を変更した抽出方法によって、所望のアミノ酸類の濃度を利用目的に応じて改変(上昇あるいは低下)した食材抽出物を供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
図1】実施例1においてイチジク果実抽出物に含まれるアミノ酸類(リジン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図2】実施例1においてイチジク果実抽出物に含まれるアミノ酸類(アルギニン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図3】実施例1においてイチジク果実抽出物に含まれるアミノ酸類(フェニルアラニン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図4】実施例1においてイチジク果実抽出物に含まれるアミノ酸類(ロイシン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図5】実施例1においてイチジク果実抽出物に含まれるアミノ酸類(イソロイシン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図6】実施例1においてイチジク果実抽出物に含まれるアミノ酸類(グルタミン酸)の分析を行った結果を示したグラフである。
図7】実施例1においてイチジク果実抽出物に含まれるアミノ酸類(グルタチオン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図8】実施例1においてイチジク果実抽出物に含まれるアミノ酸類(アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、プロリン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図9】実施例3においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(リジン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図10】実施例3においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(アルギニン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図11】実施例3においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(フェニルアラニン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図12】実施例3においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(ロイシン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図13】実施例3においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(グルタミン酸)の分析を行った結果を示したグラフである。
図14】実施例4においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(リジン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図15】実施例4においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(フェニルアラニン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図16】実施例4においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(ロイシン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図17】実施例4においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(イソロイシン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図18】実施例4においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(スレオニン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図19】実施例4においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(バリン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図20】実施例4においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(メチオニン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図21】実施例4においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(トリプトファン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図22】実施例4においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(ヒスチジン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図23】実施例4においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(グルタミン酸)の分析を行った結果を示したグラフである。
図24】実施例4においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(アスパラギン酸)の分析を行った結果を示したグラフである。
図25】実施例4においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(プロリン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図26】実施例4においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(セリン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図27】実施例4においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(アラニン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図28】実施例4においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(アルギニン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図29】実施例4においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(GABA)の分析を行った結果を示したグラフである。
図30】実施例4においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(グルタチオン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図31】実施例4においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(グリシン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図32】実施例5においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(リジン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図33】実施例5においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(フェニルアラニン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図34】実施例5においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(ロイシン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図35】実施例5においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(アルギニン)の分析を行った結果を示したグラフである。
図36】実施例5においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(グルタミン酸)の分析を行った結果を示したグラフである。
図37】実施例5においてシイタケ抽出物に含まれるアミノ酸類(GABA)の分析を行った結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0087】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の食材抽出物の抽出方法は、食材に抽出溶媒を加えて食材抽出物を抽出する際に、利用目的に応じて抽出溶媒のpHを変更することで、食材抽出物に含まれるアミノ酸類の濃度を所望の濃度に調節する。
【0088】
また、本発明の食材抽出物は、以下に説明する食材抽出物の抽出方法によって抽出された食材抽出物である。
【0089】
本発明における食材は、果物類、キノコ類、野菜類、穀物類、肉類、魚介類など、アミノ酸類を含有する食材であれば特に限定されるものではない。当該食材は、乾燥・冷凍・加熱などの処理がされていない生の態様、乾燥処理を施した態様、冷凍処理を施した態様、加熱処理を施した態様などで使用することができるが、これらに限定されるものではない。乾燥処理、冷凍処理および加熱処理のそれぞれの処理は、公知の手法によって行うとよい。
【0090】
例えば、果物類としてはイチジクの果実を利用することができ、キノコ類としてはシイタケを利用することができ、野菜類としてはトマトを利用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0091】
イチジクは、クワ科イチジク属の植物であり、本実施形態ではイチジクFicus carica L.を使用した場合について説明する。イチジクは、例えば日本国内の主要栽培品種である桝井ドーフィン、蓬莱柿が好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0092】
イチジクの果実は、生果実(乾燥・冷凍・加熱などの処理がされていない、収穫されたままの果実)、乾燥処理を施した果実、冷凍処理を施した果実、加熱処理を施した果実などを使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0093】
シイタケは、キシメジ科シイタケ属のキノコであり、本実施形態ではシイタケLentinula edodes (Berk.) Sing.を使用した場合について説明する。シイタケは、例えば日本国内で育成された北研607号、森XR1号などが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0094】
シイタケは、生の状態(乾燥・冷凍・加熱などの処理がされていない、収穫されたままの状態)、乾燥処理を施した状態、冷凍処理を施した状態、加熱処理を施した状態などで使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0095】
食材は、例えば適宜、剥皮・薄切り等の前処理(前処理工程)を行った後、凍結乾燥(凍結乾燥工程)し、公知の粉砕装置を使用して粉末状に粉砕(粉砕工程)した後、以下に説明する抽出溶媒を添加して抽出処理(抽出工程)に供するとよいが、このような態様に限定されるものではない。また、上記の工程に加えて、例えば抽出処理によって得られた抽出液に吸着剤を添加する吸着剤処理(吸着工程)を行ってもよい。当該吸着剤は、例えばシリカ、珪藻土、活性炭、PVPP(ポリビニルポリピロリドン)、ベンナイトなどを使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0096】
本発明の食材抽出物では、抽出溶媒に含有される化合物の種類を変更してpH値を変更し、食材抽出物に含まれるアミノ酸類の濃度を改変するとよい。当該化合物としては、リン酸、クエン酸およびグルコン酸の何れかを含有する溶媒とするのがよいが、これらに限定されるものではない。リン酸およびクエン酸を含有する溶媒は、緩衝液とするのがよい。また、グルコン酸を含有する溶媒は、例えば水、熱水、エタノールと水の混合物である含水エタノールなどにグルコン酸を含有させるとよい。
【0097】
抽出溶媒に含まれる水は、水道水、精製水および超純水などを使用することができるが、このような態様に限定されるものではない。熱水の温度や含水エタノールのエタノール濃度は、特に限定されるものではない。熱水の温度は好ましくは70~100℃とするのがよく、含水エタノールのエタノール濃度は、95%(v/v)以下、好ましくは30~60%(v/v)とするのがよい。また、エタノール以外の低級アルコール(メタノール、n-プロパノール等)を使用した溶媒を使用してもよい。また、熱水を使用しない場合、抽出工程において加熱処理を行ってもよい。このときの加熱温度は特に限定されるものではない。
【0098】
抽出溶媒のpH値について、例えば抽出溶媒に含まれるグルコン酸の濃度を0.1%(V/V)以上とした状態でpH値を種々変更するとよい。当該グルコン酸の濃度を0.1~10%(V/V)とすればpH値を2.1~3.1とすることができ、0.5~10%(V/V)とすればpH値を2.1~2.7とすることができる。食材抽出物の利用目的に応じて所望のpH値に設定するとよい。本実施形態において抽出溶媒にグルコン酸を含有する場合、pH値は3.1以下に設定するのがよい。
【0099】
添加するグルコン酸の上限濃度が10%(V/V)を超えると食材抽出物に強い酸味が感じられ、嗜好に影響が出ると考えられるため、10%(V/V)以下にするのがよい。
即ち、グルコン酸の濃度が0.1~10%(V/V)(pH2.1~3.1)であれば、食材抽出物の嗜好に影響が出難い状態で、食材抽出物に含まれるこれらアミノ酸類の濃度を、抽出溶媒のpH値依存的に改変できる。また、抽出溶媒に含まれるグルコン酸の好ましい濃度の範囲は0.5~5%(V/V)(好ましいpH値の範囲2.2~2.7)、より好ましい濃度の範囲は0.5~1%(V/V)(より好ましいpH値の範囲2.6~2.7)とするのがよい。
【0100】
水分の多い加工食品においては、安全性確保のために加熱を主体とする殺菌処理が必要となる。その加熱条件(温度および時間)はpH値が低いほど緩和される。加工食品の品質(食味、色調、香り)への影響を小さくするには、加熱条件をできるだけ緩和するのが望ましい。
【0101】
例えばイチジク果実は酸味が少ない食味であることに加え、抽出液をさらに濃縮する可能性があることを考えると、抽出溶媒に添加する酸は、酸味の弱い酸の利用が望まれる。
また、食品に添加可能な酸の中では、グルコン酸は酸味の強さが弱いため食味への影響が小さく、かつpHを低く維持できると考えられる。
【0102】
即ち、抽出溶媒に含まれるグルコン酸の濃度が0.5%(V/V)以上であれば、pH値を低くして前記加熱条件をできるだけ緩和することができ、かつ食味への影響が小さいと考えられる。また、抽出溶媒に含まれるグルコン酸の濃度が5%(V/V)である場合でも弱い酸味を感じる程度で喫食に支障はないと考えられる。また、抽出溶媒に含まれるグルコン酸の濃度が0.5%(V/V)以上ではアミノ酸類の濃度の変化の割合が小さくなるため、添加するグルコン酸の上限濃度を1%(V/V)としてもよい。
【0103】
また、抽出溶媒のpHについて、食材抽出物の利用目的に応じて所望のpH値に設定するとよい。例えばリン酸緩衝液ではリン酸水素二ナトリウムとリン酸二水素ナトリウム、クエン酸緩衝液ではクエン酸とクエン酸三ナトリウムの配合をそれぞれ変更してpHを調整すればよい。本実施形態において抽出溶媒にリン酸およびクエン酸の何れかを含有する場合、pH値は6以上、好ましくは7以上に設定するとよい。
【0104】
抽出溶媒について、リン酸およびクエン酸を含有する溶媒を緩衝液とする場合について説明したが、他の緩衝液とすることができる。当該緩衝液としては、例えばBritton-Robinson緩衝液(BR緩衝液:H.T.S.Britton and R.A.Robinson,Journal of the Chemical Sosciety,1931年号、1456-1462項)を使用することができる。BR緩衝液は、リン酸を0.04mol/L、酢酸を0.04mol/L、ホウ酸を0.04mol/L含む水溶液と、水酸化ナトリウムを0.2mol/L含む水溶液と、を適宜混合したもので、2から12まで任意のpHの緩衝液を調製することができる。
【0105】
アミノ酸類は、食材に含まれるアミノ酸類であれば特に限定されるのではない。このようなアミノ酸類としては、例えば、必須アミノ酸(イソロイシン・ロイシン・バリン・ヒスチジン・リジン・メチオニン・トリプトファン・フェニルアラニン・スレオニン)や非必須アミノ酸(アスパラギン・アスパラギン酸・アラニン・アルギニン・システイン・シスチン・グルタミン・グルタミン酸・グリシン・プロリン・セリン・チロシン)、遊離アミノ酸(タンパク質を構成しないアミノ酸、テアニン・オルニチン・シトルリン・タウリン等)、ペプチド(ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド等)などが挙げられる。タンパク質を構成しないアミノ酸としては、例えばγアミノ酪酸(GABA)が挙げられる。
【0106】
本実施形態におけるアミノ酸類は、遊離アミノ酸およびペプチドの少なくとも何れかとする場合について説明する。上記の遊離アミノ酸のうち、特に、リジン、アルギニン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、グルタミン酸、スレオニン、バリン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、セリン、アスパラギン酸、アラニンおよびGABAの少なくとも何れかとするのがよい。また、上記のペプチドのうち、特に、3つのアミノ酸(グルタミン酸、システイン、グリシン)から成るトリペプチドであるグルタチオンとするのがよい。
【0107】
リジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、バリン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジンは、必須アミノ酸に分類される。本発明の食材抽出物の抽出方法によって食材抽出物におけるこれらアミノ酸の抽出濃度を上昇させることで、得られた食材抽出物を摂取した場合、当該食材抽出物は必須アミノ酸を効率よく摂取できる食材となり得る。
【0108】
リジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、バリン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、セリン、アルギニンの等電点は5.48(フェニルアラニン)~10.76(アルギニン)であり、これらはその分子構造の中にカルバモイル基がない。以上より、アミノ酸類が遊離アミノ酸であり、分子構造の中にカルバモイル基を持たず、および、等電点が酸性側ではない(少なくとも等電点が5.4以上)、の少なくとも何れかの特徴を有する遊離アミノ酸類が本発明による効果が大きく得られ、抽出溶媒のpH値により抽出量を制御できると考えられる。
【0109】
また、アミノ酸類がペプチドである場合、上記の遊離アミノ酸をその構成アミノ酸として含む態様とすることができる。
【0110】
ロイシン、イソロイシンは、運動時の持久力や筋肉維持に寄与するとされる分枝鎖アミノ酸に分類される。本発明の食材抽出物の抽出方法によって食材抽出物におけるこれらアミノ酸の抽出濃度を上昇させることで、得られた食材抽出物を摂取した場合、当該食材抽出物は、運動時の持久力や筋肉維持に寄与するとされる分枝鎖アミノ酸を効率よく摂取できる食材となり得る。
【0111】
リジン、アルギニン、フェニルアラニン、ロイシンおよびイソロイシンは苦味を呈するアミノ酸に分類される。本発明の食材抽出物の抽出方法によって食材抽出物におけるこれらアミノ酸の抽出濃度を上昇(或いは低下)させることで、得られた食材抽出物を摂取した場合、当該食材抽出物は、苦みの多い(或いは苦みの少ない)食材となり得る。
【0112】
グルタミン酸は旨味を呈するアミノ酸に分類される。本発明の食材抽出物の抽出方法によって食材抽出物におけるこのアミノ酸の抽出濃度を上昇させることで、得られた食材抽出物を摂取した場合、当該食材抽出物は、旨味の多い食材となり得る。
【0113】
リジン、アルギニンは、糖と反応して人体に有害な最終糖化生成物(AGEs)を生成し易いアミノ酸に分類される。AGEsは分解され難く、生体組織への蓄積は老化や様々な病気(糖尿病,高血圧,がん等)を引き起こすといわれている。糖を含んだ果実抽出液では、濃縮過程でAGEs生成が促進する可能性があるため、本発明食材抽出物の抽出方法によって食材抽出物における両アミノ酸の抽出濃度を低下させることで、AGEsの摂取ならびに体内でのAGEs生成を抑制できる食材となり得る。
【0114】
グルタチオンは抗酸化作用や解毒作用を示すペプチドに分類される。本発明のイチジク果実の抽出方法によって食材抽出物におけるこのペプチドの抽出濃度を上昇させることで、得られた食材抽出物を摂取した場合、当該食材抽出物は、抗酸化作用や解毒作用に優れた食材となり得る。
【0115】
本発明の食材抽出物の抽出方法では、例えば、ある利用目的において、あるアミノ酸類の濃度を上昇させたいと考える場合は、抽出溶媒のpH値を高く(或いは低く)設定して抽出処理を行うことができる。一方、他の利用目的において、あるアミノ酸類の濃度を低下したいと考える場合は、抽出溶媒のpH値を低く(或いは高く)設定して抽出処理を行うことができる。
【0116】
例えば、食材をイチジク果実とし、グルコン酸を含有する抽出溶媒のpH値を3.1以下とすれば、食材抽出物に含まれる遊離アミノ酸(リジン、アルギニン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシンおよびグルタミン酸の少なくとも何れか)濃度およびペプチド(グルタチオン)濃度を、抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度に改変することができる。
【0117】
また、食材をシイタケとし、リン酸およびクエン酸の何れかを含有する抽出溶媒のpH値を6以上とすれば、食材抽出物に含まれる遊離アミノ酸(アルギニン、フェニルアラニンおよびロイシンの少なくとも何れか)濃度を、抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度(高濃度)に改変することができる。
【0118】
また、食材をシイタケとし、リン酸およびクエン酸の何れかを含有する抽出溶媒のpH値を7以上とすれば、食材抽出物に含まれる遊離アミノ酸(リジン、アルギニン、フェニルアラニンおよびロイシンの少なくとも何れか)濃度を、抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度(高濃度)に改変することができる。
【0119】
また、食材をシイタケとし、リン酸およびクエン酸の何れかを含有する抽出溶媒のpH値を5以下とすれば、食材抽出物に含まれる遊離アミノ酸(リジン、アルギニン、フェニルアラニンおよびロイシンの少なくとも何れか)濃度を、抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度(低濃度)に改変することができる。
【0120】
また、食材をシイタケとし、抽出溶媒として緩衝液のpH値を6以上とすれば、食材抽出物に含まれる遊離アミノ酸(アラニン)濃度を、抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度(高濃度)に改変することができる。
【0121】
また、食材をシイタケとし、抽出溶媒として緩衝液のpH値を7以上とすれば、食材抽出物に含まれる遊離アミノ酸(リジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、バリン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、セリン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸)濃度を、抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度(高濃度)に改変することができる。
【0122】
また、食材をシイタケとし、抽出溶媒として緩衝液のpH値を5~7とすれば、食材抽出物に含まれる遊離アミノ酸(γアミノ酪酸(GABA))濃度を、抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度(高濃度)に改変することができる。
【0123】
また、食材をシイタケとし、抽出溶媒として緩衝液のpH値を高く、具体的には9とすれば、食材抽出物に含まれるアミノ酸類であるペプチド(グルタチオン)濃度を、抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度(高濃度)に改変することができる。
【0124】
また、食材をシイタケとし、抽出溶媒として緩衝液のpH値を6以下すれば、食材抽出物に含まれる遊離アミノ酸(リジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、アルギニン)濃度を、抽出溶媒のpH値依存的に所望の濃度(低濃度)に改変することができる。
【0125】
本明細書における「利用目的」とは、例えば調味料、サプリメント、薬剤、飼料および食品添加剤などを製造する用途に供することをいうが、これらに限定されるものではない。
【0126】
このように本構成によれば、食材抽出物を抽出する際に、利用目的に応じて抽出溶媒のpH値を変更すれば、食材抽出物に含まれる所望のアミノ酸類の濃度を利用目的に応じて所望の濃度に改変することができる。
【実施例0127】
〔実施例1〕
以下に本発明の食材抽出物の抽出方法について説明する。
食材としてイチジクの果実を使用し、抽出溶媒としてグルコン酸を含有する溶媒を使用した。
【0128】
イチジク果実は、東洋食品研究所附属農場で栽培している「桝井ドーフィン」種より収穫したものを使用した。収穫したイチジク果実において剥皮・薄切り(前処理工程)した果肉片を-80℃で凍結させた後、凍結乾燥器(FDU-2100:東京理化器械株式会社)で約24時間処理して凍結乾燥させた(凍結乾燥工程)。
【0129】
凍結乾燥したイチジク果実は、フードミル(IFM-720G:岩谷産業株式会社製)で破砕し粉末にした(粉砕工程)。
【0130】
抽出溶媒は、水(超純水:ミリQ水)に、グルコン酸(富士フィルム和光純薬製)を加えたものを使用した。グルコン酸の濃度が7種類(0,0.01,0.1,0.5,1,5,10%(V/V))となるように抽出溶媒をそれぞれ調製した。それぞれの抽出溶媒のpH値は、2.1~6.6であった(表1参照)。
【0131】
果実粉末1.0g、抽出溶媒35mLを共栓付き三角フラスコに入れて室温で120rpm×5分間の撹拌を行った後、低温(4℃)で24時間静置抽出した。抽出処理液の全量を共栓付き50mL容メスシリンダーに移し、前記三角フラスコ内を抽出溶媒で洗浄してその液をメスシリンダーに入れて50mLに定容した。抽出処理液は0.45μmメンブランフィルターでろ過した(抽出工程)。この抽出工程をそれぞれの抽出溶媒を使用して行った。
【0132】
上記の処理によって得られた抽出液(イチジク果実抽出物)のpH測定を行った。
pH測定は、コンパクトpHメータ LAQUAtwin(株式会社堀場製作所製)を用いた。調製した各抽出液のpHを表1に示した。
【0133】
【表1】
【0134】
グルコン酸無添加(0%)ではpHは5.9であったが、グルコン酸の添加割合が0.5%(V/V)以上であればpH値は4.0未満となった。
pH5.9では例えばイチジク果実抽出物を120℃で4分以上加熱する必要があるが、pH4.0未満(グルコン酸の添加割合0.5%(V/V)以上)では65℃で10分程度まで軽減できる。即ち、抽出溶媒に含まれるグルコン酸の濃度が0.5%(V/V)以上であれば、pH値を低くして前記加熱条件をできるだけ緩和することができ、かつ食味への影響が小さいと考えられる。
【0135】
上記の処理によって得られた抽出液(イチジク果実抽出物)に含まれるアミノ酸類の分析を行った。分析は、液体クロマトグラフ-四重極飛行時間型質量分析計(LC-Q-TOF/MS)を用いて行った。
【0136】
LC装置はLC-20AD XRシステム(株式会社島津製作所)、カラムはScherzo SS-C18150mm×2mm,粒径3μm(インタクト株式会社)を用い、カラム温度は45℃、移動相はA液:ギ酸/酢酸/水=0.2/0.2/99.6(V/V),B液:200mMの酢酸アンモニウム/メタノール=50/50(V/V)を使用し、流速0.3mL/分で,B液比率を分析開始時~1分:0%,5分:2%,25分:40%,26~35分:100%,35.01~45分:0%とするグラジエント条件で分離した。
【0137】
MS装置はmicrOTOF QII(ブルカージャパン株式会社)を用いた。分析条件は以下の通りとした。
イオン化法:ESI(ポジティブモード)
測定範囲:m/z 50~1000
キャピラリー電圧:-4500V
ネブライザーガス:N(1.6Bar)
乾燥ガス:N(8L/分,200℃)
【0138】
質量補正基準物質は、5mMギ酸ナトリウム(水/イソプロピルアルコール=50/50(V/V))を用いた。イチジク果実抽出物は2倍希釈し、10μLを注入した。定量には、各成分の分子イオンm/zでの抽出イオンクロマトグラムを用い、内部標準として添加したアントラニル酸(137.14ng/10μL)のピーク面積で補正した。解析にはCompass Data Analysis(ブルカージャパン)を用いた。結果を図1~8に示した。
【0139】
それぞれの分子イオンm/zは以下の通りである(誤差範囲は±0.05)。
リジン:147.11
アルギニン:175.11
フェニルアラニン:166.08
ロイシン&イソロイシン:132.10
グルタミン酸:148.06
グルタチオン:308.09
アスパラギン:133.06
アスパラギン酸:134.04
グルタミン:147.07
プロリン:116.07
【0140】
リジン(図1)は、グルコン酸の濃度が0%のときのピーク面積値(約38000)に比べて、前記濃度が0.1%(V/V)のときのピーク面積値(約11000)が約29%、前記濃度が0.5%(V/V)のときのピーク面積値(約4700)が約13%、前記濃度が1%(V/V)のときのピーク面積値(約4000)が約11%、前記濃度が5%(V/V)のときのピーク面積値(約2800)が約7%、前記濃度が10%(V/V)のときは不検出、となった。
【0141】
アルギニン(図2)は、グルコン酸の濃度が0%のときのピーク面積値(約180000)に比べて、前記濃度が0.1%(V/V)のときのピーク面積値(約71000)が約40%、前記濃度が0.5%(V/V)のときのピーク面積値(約45000)が約26%、前記濃度が1%(V/V)のときのピーク面積値(約37000)が約21%、前記濃度が5%(V/V)のときのピーク面積値(約28000)が約16%、前記濃度が10%(V/V)のときのピーク面積値(約23000)が約13%、となった。
【0142】
フェニルアラニン(図3)は、グルコン酸の濃度が0%のときのピーク面積値(約66000)に比べて、前記濃度が0.1%(V/V)のときのピーク面積値(約22000)が約33%、前記濃度が0.5%(V/V)のときのピーク面積値(約15000)が約23%、前記濃度が1%(V/V)のときのピーク面積値(約11000)が約17%、前記濃度が5%(V/V)のときのピーク面積値(約7900)が約12%、前記濃度が10%(V/V)のときのピーク面積値(約6700)が約10%、となった。
【0143】
ロイシン(図4)は、グルコン酸の濃度が0%のときのピーク面積値(約43000)に比べて、前記濃度が0.1%(V/V)のときのピーク面積値(約18000)が約41%、前記濃度が0.5%(V/V)のときのピーク面積値(約12000)が約29%、前記濃度が1%(V/V)のときのピーク面積値(約12000)が約28%、前記濃度が5%(V/V)のときのピーク面積値(約7000)が約17%、前記濃度が10%(V/V)のときは不検出、となった。
【0144】
イソロイシン(図5)は、グルコン酸の濃度が0%のときのピーク面積値(約17000)に比べて、前記濃度が0.1%(V/V)のときのピーク面積値(約7500)が約45%、前記濃度が0.5%(V/V)のときのピーク面積値(約5000)が約30%、前記濃度が1%(V/V)のときのピーク面積値(約5000)が約30%、前記濃度が5%(V/V)のときのピーク面積値(約4200)が約26%、前記濃度が10%(V/V)のときのピーク面積値は不検出、となった。
【0145】
以上より、リジン、アルギニン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシンはグルコン酸の濃度が増加する(抽出溶媒のpH値が低くなる)に従い、抽出量が減少する(グルコン酸の濃度が減少する(抽出溶媒のpH値が高くなる)に従い、抽出量が増加する)と認められた。即ち、グルコン酸の濃度が0.1~10%(V/V)(抽出溶媒のpH2.1~3.1)であれば、食材抽出物(イチジク果実抽出物)に含まれるこれらアミノ酸の濃度を、抽出溶媒のpH値依存的に改変できることが判明した。また、抽出溶媒に含まれるグルコン酸の濃度が0.5%(V/V)以上(抽出溶媒のpH2.7以下)では前記アミノ酸の濃度の変化の割合が小さくなった。グルコン酸の濃度が0.5~5%(V/V)(抽出溶媒のpH2.2~2.7)であれば、これらアミノ酸の食材抽出物(イチジク果実抽出物)に含まれる濃度がグルコン酸を添加しないときに比べて30%以下になることが判明した。
【0146】
一方、グルタミン酸(図6)は、グルコン酸の濃度が10%(V/V)のときのピーク面積値(176000)に比べて、前記濃度が5%(V/V)のときのピーク面積値(約165000)が約94%、前記濃度が1%(V/V)のときのピーク面積値(約170000)が約98%、前記濃度が0.5%(V/V)のときのピーク面積値(約169000)が約96%、前記濃度が0.1%(V/V)のときのピーク面積値(約74000)が約42%、前記濃度が0.01,0%(V/V)のときのピーク面積値は不検出、となった。
【0147】
グルタチオン(図7)は、グルコン酸の濃度が0.5,1,5,10%(V/V)のときのピーク面積値(約230000)に比べて、前記濃度が0.1%(V/V)のときのピーク面積値(約125000)が約55%、前記濃度が0.01,0(V/V)のときのピーク面積値(約25000)が約11%、となった。
【0148】
以上より、グルタミン酸、グルタチオンはグルコン酸の濃度が減少する(抽出溶媒のpH値が高くなる)に従い抽出量が減少する(グルコン酸の濃度が増大する(抽出溶媒のpH値が低くなる)に従い抽出量が増加する)と認められた。即ち、グルコン酸の濃度が0.1~10%(V/V)(抽出溶媒のpH2.1~3.1)であれば、食材抽出物(イチジク果実抽出物)に含まれるこれらアミノ酸類の濃度を、抽出溶媒のpH値依存的に改変できることが判明した。また、抽出溶媒に含まれるグルコン酸の濃度が0.5%(V/V)以上(抽出溶媒のpH2.7以下)では前記アミノ酸類の濃度の変化の割合が小さくなった。グルコン酸の濃度が0.5~5%(V/V)(抽出溶媒のpH2.2~2.7)であれば、これらアミノ酸類の食材抽出物(イチジク果実抽出物)に含まれる濃度がグルコン酸を添加しないときに比べて10倍以上になることが判明した。
【0149】
一方、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、プロリン(図8)においては、グルコン酸の濃度が増大(抽出溶媒のpH値が低下)しても、これらアミノ酸のイチジク果実抽出物に含まれる濃度は有意に増減しないことが判明した。
【0150】
〔実施例2〕
グルコン酸を抽出溶媒に添加して抽出したイチジク果実抽出物の食味評価を行った。
食味評価は、2人のパネラーにより尺度法を用いて行った。
【0151】
抽出溶媒に含まれるグルコン酸の濃度が1%(V/V)(抽出溶媒のpH2.6)である場合のイチジク果実抽出物は、殆ど酸味を感じず、当該濃度が5%(V/V)(抽出溶媒のpH2.2)である場合でも弱い酸味を感じる程度で喫食に支障はないと認められた。そのため、抽出溶媒に含まれるグルコン酸の濃度は5%(V/V)以下(抽出溶媒のpH2.2以上)とするのがよい。また、抽出溶媒に含まれるグルコン酸の濃度が10%(V/V)を超える(抽出溶媒のpH2.1未満)と強い酸味が感じられ、嗜好に影響が出ると認められた。
【0152】
以上より、抽出溶媒にグルコン酸を添加してpHを低下させることによる食味に対する影響や、微生物制御・殺菌加熱条件軽減の観点から、グルコン酸添加濃度は0.5%(V/V)以上(抽出溶媒のpH2.7以下)、10%(V/V)未満(抽出溶媒のpH2.1以上)が適切であると認められた。
【0153】
〔実施例3〕
食材として乾燥シイタケを使用し、抽出溶媒としてリン酸緩衝液およびクエン酸緩衝液の何れかを含有する溶媒を使用した。
【0154】
市販の乾燥シイタケを、フードミル(IFM-720G:岩谷産業株式会社製)で破砕し粉末にした(粉砕工程)。
【0155】
リン酸緩衝液(PB)は、濃度0.1mol/LでpHが6,7,8にそれぞれ調整されたもの(富士フィルム和光純薬製)を購入した。クエン酸緩衝液(CB)は、クエン酸(無水)およびクエン酸三ナトリウム(2水和物)(いずれも富士フィルム和光純薬製)を用いて、濃度0.1mol/LでpHを4,5,6にそれぞれ調整したものを作製した。水は超純水(ミリQ水)を使用した。
【0156】
食材粉末1gおよび抽出溶媒50mLを共栓付き三角フラスコに入れて室温で120rpm×5分間の撹拌を行った後、低温(約4℃)で24時間静置した後、0.45μmメンブランフィルターで濾過(抽出工程)したものを抽出液とした。それぞれの緩衝液につき二反復で抽出した。
【0157】
上記の処理によって得られた抽出液(シイタケ抽出物)に含まれるアミノ酸類の分析を行った。分析は、実施例1の手法に準じて行った。シイタケ抽出物は20倍に希釈し、10μLを注入した。分子イオンm/zは、実施例1に記載された値を使用した。
【0158】
乾燥シイタケを抽出した後の抽出液(シイタケ抽出物)のpHは表2の通りであった。
【0159】
【表2】
【0160】
アミノ酸類の分析を行った結果を図9(リジン)、図10(アルギニン)、図11(フェニルアラニン)、図12(ロイシン)および図13(グルタミン酸)に示した。また、ピーク面積値(20倍希釈)のデータを表3に示し、pH8(PB)のピーク面積値を100とした相対比(%)を表4に示した。
【0161】
【表3】
【0162】
【表4】
【0163】
この結果、リジンは、リン酸緩衝液(PB)のpH値が7以上(7~8)であれば相対比(%)が98~100となり、リン酸緩衝液(PB)およびクエン酸緩衝液(CB)のpHが7以下(4~6)であれば、相対比(%)が19~65となった。
【0164】
アルギニンは、クエン酸緩衝液(CB)のpHが6、リン酸緩衝液(PB)のpH値が6以上(6~8)であれば相対比(%)が87~115となり、クエン酸緩衝液(CB)のpHが5以下(4~5)であれば、相対比(%)が53~63となった。
【0165】
フェニルアラニンは、リン酸緩衝液(PB)のpH値が6以上(6~8)であれば相対比(%)が97~110となり、クエン酸緩衝液(CB)のpHが6以下(4~6)であれば、相対比(%)が30~73となった。
【0166】
ロイシンは、リン酸緩衝液(PB)のpH値が6以上(6~8)であれば相対比(%)が85~106となり、クエン酸緩衝液(CB)のpHが6以下(4~6)であれば、相対比(%)が22~53となった。
【0167】
以上より、リジン、アルギニン、フェニルアラニン、ロイシンは、pH値が7~8のときに抽出量がピークとなり、pH値が6より低くなるに従って抽出量が減少する(pH値が4より高くなるに従って抽出量が増加する)と認められた。従って、これらアミノ酸(リジン、アルギニン、フェニルアラニン、ロイシン)の含量(濃度)が高い抽出液(シイタケ抽出物)を得たい場合は、抽出溶媒のpHを高く、具体的にはpH値を6以上、好ましくは7以上にするのがよいことが判明した。
【0168】
また、シイタケ抽出物において、例えば最終糖化生成物(AGEs)を生成し易いリジンとアルギニンを減らすには、抽出溶媒のpH値を低く、具体的には5以下にするのがよいことが判明した。さらに、リジン、アルギニン、フェニルアラニンおよびロイシンは苦味を呈するアミノ酸とされているが、抽出液の旨味レベルを保ったまま、苦味レベルを低減するには抽出溶媒のpHを低く、具体的には5以下にするのがよいことが判明した。
【0169】
一方、グルタミン酸は、抽出溶媒のpH値を変更しても、抽出溶媒のpH値依存的な抽出量の変動傾向は認められなかった。従って、グルタミン酸の抽出量は、抽出溶媒のpHの影響をほとんど受けないと考えられ、抽出溶媒のpH値依存的に改変できないと認められた。
【0170】
また、リジン、アルギニン、フェニルアラニン、ロイシンは、抽出溶媒のpHが同じ(pH6)であっても、クエン酸緩衝液よりリン酸緩衝液の方が抽出量は多かった。従って、pH6での抽出を行う場合、これらアミノ酸類の抽出量を多く(あるいは少なく)したい場合には、クエン酸緩衝液よりもリン酸緩衝液(リン酸緩衝液よりもクエン酸緩衝液)を使用するのがよいことが判明した。
【0171】
〔実施例4〕
食材として乾燥シイタケを使用し、抽出溶媒としてBritton-Robinson緩衝液を使用した。本実施例ではpH3,4,5,6,7,8,9のBR緩衝液をそれぞれ調製して使用した。BR緩衝液を調製する際に使用するリン酸、酢酸、ホウ酸、水酸化ナトリウムは、いずれも富士フィルム和光純薬製を使用した。水は超純水(ミリQ水)を使用した。
【0172】
市販の乾燥シイタケを、実施例3の手法に準じて破砕し、粉末にした(粉砕工程)。食材の抽出工程は、実施例3の手法に準じて行った(反復なし)。
【0173】
上記の処理によって得られた抽出液(シイタケ抽出物)に含まれるアミノ酸類の分析を行った。分析は実施例1の手法に準じて行った。シイタケ抽出物は10倍に希釈し、10μLを注入した。
【0174】
分子イオンm/zは、実施例1に記載された値、および下記の値を使用した。(誤差範囲は±0.05)
スレオニン:120.066
バリン:118.086
メチオニン:150.058
ヒスチジン:156.077
トリプトファン:205.097
セリン:106.050
アラニン:90.054
グリシン:76.039
GABA:104.071
グルタチオン(還元型):308.092
【0175】
乾燥シイタケを抽出した後の各抽出液のpHは表5の通りであった。
【0176】
【表5】
【0177】
抽出液のpH値は、BR緩衝液pH5の場合はほとんど変わらなかったが、それ以外の場合は抽出前の値より若干(0.3~1.0)変化した。
【0178】
アミノ酸類の分析を行った結果を図14~31(リジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、バリン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、プロリン、セリン、アラニン、アルギニン、GABA(γアミノ酪酸)、グルタチオン、グリシン)に示した。また、ピーク面積値(10倍希釈)のデータを表6に示し、BR緩衝液がpH9の場合のピーク面積値を100とした相対比(%)を表7に示した。
【0179】
【表6】

【0180】
【表7】
【0181】
この結果、リジンは、BR緩衝液のpHが7以上(7~9)であれば相対比(%)が94~107となり、BR緩衝液のpHが6以下(3~6)であれば相対比(%)が19~51となった。
【0182】
フェニルアラニンは、BR緩衝液のpHが6以上(6~9)であれば相対比(%)が88~107となり、BR緩衝液のpHが5以下(3~5)であれば相対比(%)が26~39となった。
【0183】
ロイシンは、BR緩衝液のpHが7以上(7~9)であれば相対比(%)が100~107となり、BR緩衝液のpHが6以下(3~6)であれば相対比(%)が22~64となった。
【0184】
イソロイシンは、BR緩衝液のpHが7以上(7~9)であれば相対比(%)が100~116となり、BR緩衝液のpHが6以下(3~6)であれば相対比(%)が7~56となった。
【0185】
スレオニンは、BR緩衝液のpHが7以上(7~9)であれば相対比(%)が100~122となり、BR緩衝液のpHが6以下(3~6)であれば相対比(%)が43~75となった。
【0186】
バリンは、BR緩衝液のpHが7以上(7~9)であれば相対比(%)が100~122となり、BR緩衝液のpHが6以下(3~6)であれば相対比(%)が6~30となった。
【0187】
メチオニンは、BR緩衝液のpHが7以上(7~9)であれば相対比(%)が96~122となり、BR緩衝液のpHが6であれば相対比(%)が57となり、BR緩衝液のpHが5以下(3~5)であれば不検出となった。
【0188】
トリプトファンは、BR緩衝液のpHが7以上(7~9)であれば相対比(%)が100~107となり、BR緩衝液のpHが5~6であれば相対比(%)が23~56となり、BR緩衝液のpHが4以下(3~4)であれば不検出となった。
【0189】
ヒスチジンは、BR緩衝液のpHが7以上(7~9)であれば相対比(%)が100~113となり、BR緩衝液のpHが6以下(3~6)であれば相対比(%)が29~54となった。
【0190】
グルタミン酸は、BR緩衝液のpHが7以上(7~9)であれば相対比(%)が100~115となり、BR緩衝液のpHが6以下(3~6)であれば相対比(%)が66~81となった。
【0191】
アスパラギン酸は、BR緩衝液のpHが6であれば相対比(%)が49となり、BR緩衝液のpHが3~5又は7~9であれば相対比(%)が79~128となった。
【0192】
プロリンは、BR緩衝液のpHが7以上(7~9)であれば相対比(%)が100~108となり、BR緩衝液のpHが6以下(3~6)であれば相対比(%)が26~60となった。
【0193】
セリンは、BR緩衝液のpHが7以上(7~9)であれば相対比(%)が100~114となり、BR緩衝液のpHが6以下(3~6)であれば、相対比(%)が30~54となった。ただし、BR緩衝液のpHが4の場合は不検出となった。
【0194】
アラニンは、BR緩衝液のpHが9であれば相対比(%)が100となり、BR緩衝液のpHが6~8であれば相対比(%)が72~75となり、BR緩衝液のpHが5以下(3~5)であれば相対比(%)が44~48となった。
【0195】
アルギニンは、BR緩衝液のpHが6以上(6~9)であれば相対比(%)が83~120となり、BR緩衝液のpHが5以下(3~5)であれば相対比(%)が39~47となった。
【0196】
GABAは、BR緩衝液のpHが6であれば相対比(%)が228となり、BR緩衝液のpHが5あるいは7であれば相対比(%)が131~162となり、BR緩衝液のpHが4以下(3~4)あるいは8以上(8~9)であれば相対比(%)が77~100となった。
【0197】
グルタチオンは、BR緩衝液のpHが8であれば相対比(%)が34となり、BR緩衝液のpHが7以下(3~7)であれば不検出となった。
【0198】
グリシンは、BR緩衝液のpHが3~9のいずれであっても、不検出となった。
【0199】
以上より、リジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、バリン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、セリン、アルギニンは、pH値が7~8のときに抽出量がピークとなり、pH値が6より低くなるに従って抽出量が減少すると認められた。従って、これらのアミノ酸の含量(濃度)が高い抽出液(シイタケ抽出物)を得たい場合は、抽出溶媒のpHを高く、具体的にはpH値を7以上、好ましくは7~9にするのがよいことが判明した。
【0200】
グルタミン酸とアスパラギン酸は旨味を呈するアミノ酸として知られている。抽出溶媒のpH値が及ぼす影響は前段落に示したアミノ酸ほど大きくはないものの、pH7~9、好ましくはpH8において抽出物中の含量(濃度)が多くなることが判明した。
【0201】
γアミノ酪酸(GABA)はタンパク質の構成アミノ酸ではないが、間接的に血圧を下げる作用があり、特定保健用食品も上市されている。GABAに注目し、この含量(濃度)が高い抽出物を得たい場合は、抽出溶媒のpHを5~7、好ましくは6にするのがよいことが判明した。
【0202】
グルタチオンはグルタミン酸、システイン、グリシンがこの順で結合したトリペプチドである。抗酸化作用や解毒作用などいくつかの生理機能を有し、健康維持のために重要なアミノ酸類の一つである。グルタチオンの抽出量が多い抽出物を得たい場合には、抽出溶媒のpHを高く、好ましくは9にするのがよいことが判明した。
【0203】
アミノ酸のうち、人が体内で合成することができず、生命維持のために食事等から摂取しなければならないものが必須アミノ酸である。必須アミノ酸に該当するものはリジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、バリン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジンの9種類である。本実施例の結果から、抽出液における全ての必須アミノ酸の含量(濃度)を高めたい場合には、抽出溶媒のpH値を7以上、好ましくは7~8にするのがよいことが判明した。
【0204】
リジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、アルギニンは苦味を呈するアミノ酸として知られている。これらの抽出量を低減せしめ、抽出液の苦味を軽減して食味を向上するには、抽出溶媒のpH値を6以下、好ましくは5以下にするのがよいことが判明した。また、この場合でも旨味を呈するグルタミン酸やアスパラギン酸の抽出量は大きな影響を受けないため、相対的に抽出物の食味が向上することも期待される。
【0205】
リジンおよびアルギニンは、糖質と反応して人体に有害な最終糖化生成物(AGEs)を生成しやすいといわれている。リジンとアルギニンの抽出量を低減せしめ、AGEsの生成を抑制するには、抽出溶媒のpH値を6以下、好ましくは5以下にするのがよいことが判明した。
【0206】
プロリン、セリン、スレオニンは、甘味を呈するアミノ酸として知られている。プロリンは必須アミノ酸ではないが、コラーゲンの主要構成アミノ酸として知られている。セリンも必須アミノ酸ではないが、多様な酵素の活性部位構成アミノ酸としてや、神経系においても重要な働きを持つことが知られている。これらの含量(濃度)が高い抽出物を得たい場合には、抽出溶媒のpH値を7以上、好ましくは7にするのがよいことが判明した。
【0207】
アラニンは、甘味を呈するアミノ酸として、またアルコールの代謝を促進する働があることが知られている。アラニンの含量(濃度)が高い抽出物を得たい場合は、抽出溶媒のpHを6以上、好ましくは9にするのがよいことが判明した。
【0208】
抽出量に対する溶媒pH値の影響が相対的に小さかったグルタミン酸とアスパラギン酸は、はその分子構造の中にカルボキシル基を二つ持ち、等電点が低い(酸性側である)特徴がある(グルタミン酸が3.22、アスパラギン酸が2.77)。一方、抽出量に対する溶媒pH値の影響が相対的に大きかったリジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、バリン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、セリン、アルギニンの等電点は5.48(フェニルアラニン)~10.76(アルギニン)である。
【0209】
実施例1で示したグルタミン(等電点は5.65)およびアスパラギン(等電点は5.41)は、等電点が中性に近いにも関わらず、抽出量に対する溶媒pH値の影響は小さかった。しかし、これらは分子構造の中にカルバモイル基(-CONH)を有している特徴がある。一方、抽出量が溶媒pH値の影響を強く受けたリジン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、バリン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、セリン、アルギニンはその分子構造の中にカルバモイル基がない。
【0210】
以上より、分子構造の中にカルバモイル基を持たず、等電点が酸性側ではない、少なくとも等電点が5.4以上のアミノ酸類が本発明による効果が大きく得られ、抽出溶媒のpH値により抽出量を制御できると考えられる。
【0211】
アラニン(等電点は6.00)、GABA(等電点は7.29)は、その分子構造中にカルバモイル基を持たず、等電点は5.4以上であるが、他とは異なった挙動を示した。この理由は、現時点では不明である。一方、グルタミン酸、システイン、グリシンが結合したペプチドであるグルタチオンの挙動については、構成に含まれるグルタミン酸が影響したと考えられる。
【0212】
〔実施例5〕
食材として乾燥シイタケを使用し、抽出溶媒として水又はBR緩衝液を使用した。抽出溶媒の水は超純水(ミリQ水)を使用した。抽出溶媒のBR緩衝液は実施例4の手法に準じてpH8に調製して使用した。
【0213】
市販の乾燥シイタケを、実施例3の手法に準じて破砕し粉末にした(粉砕工程)。食材の抽出工程は、実施例3の手法に準じて行った(反復なし)。
【0214】
上記の処理によって得られた抽出液(シイタケ抽出物)に含まれるアミノ酸類の分析を行った。分析は実施例1の手法に準じて行った。シイタケ抽出物は10倍に希釈し、10μLを注入した。
【0215】
分子イオンm/zは、実施例1ならびに実施例4に記載された値を使用した。(誤差範囲は±0.05)
【0216】
乾燥シイタケを抽出した後の各抽出液のpHは表8の通りであった。
【0217】
【表8】
【0218】
水のpHは理論上7であるが、抽出後は大きく低下し5.5となった。なお、本実施例で使用した超純水のpH測定は極めて困難であるため、実測は行っていない。一方、pH8のBR緩衝液では、抽出後のpH値は7.1で、わずかな低下に留まった。この結果は、実施例4と同じであった(表5参照)。
【0219】
アミノ酸類の分析を行った結果を図32~37(リジン、フェニルアラニン、ロイシン、アルギニン、グルタミン酸、GABA)に示した。また、ピーク面積値(10倍希釈)のデータを表9に示し、pH8のBR緩衝液のピーク面積値を100とした相対比(%)を表10に示した。
【0220】
【表9】
【0221】
【表10】
【0222】
この結果、リジン、フェニルアラニン、ロイシン、アルギニン、グルタミン酸の抽出液中の含量は、pH8のBR緩衝液に対して水が相対比(%)で42~65となった。一方、GABAの抽出液中の含量は、前4種のアミノ酸とは異なり、pH8のBR緩衝液に対して水が相対比(%)で424となった。これらの結果は実施例4と比較して矛盾しないものであった(表7参照)。
【0223】
以上より、pHが7の中性である水を抽出溶媒に用いた場合でも、pHは抽出工程において大きく変化し、これに伴いアミノ酸の抽出量も変化することが判明した。水はpH緩衝能を持たないため、用いる食材等の成分特性や含量によって、抽出に伴うpH変化、ひいてはアミノ酸類の抽出量の変化を予測し、制御することは困難である。従って、食材等から抽出されるアミノ酸類の抽出量を制御したい場合には、水ではなく、緩衝液や実施例1で示した一定濃度以上の酸等を使用するべきと認められた。
【産業上の利用可能性】
【0224】
本発明は、食材に抽出溶媒を加えて食材抽出物を抽出する食材抽出物の抽出方法および食材抽出物に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37