(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151868
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】挽肉成形加工食品の食感改良用および/または食感維持用組成物ならびに挽肉成形加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 13/40 20160101AFI20220929BHJP
A23L 13/60 20160101ALI20220929BHJP
A23L 29/00 20160101ALN20220929BHJP
A23L 5/00 20160101ALN20220929BHJP
【FI】
A23L13/40
A23L13/60 Z
A23L29/00
A23L5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050820
(22)【出願日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2021054031
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021150622
(32)【優先日】2021-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 糖アルコールセミナー(食品機能/全4回) 第三回 糖アルコールで美味しさを閉じ込めます!~タンパク質と糖アルコールの意外な関係~、令和3(2021)年9月16日、オンラインセミナー
(71)【出願人】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】三宅 加七子
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 雄一
【テーマコード(参考)】
4B035
4B042
【Fターム(参考)】
4B035LC03
4B035LE05
4B035LG01
4B035LG19
4B035LG21
4B035LG42
4B035LG43
4B035LG57
4B035LK02
4B035LP02
4B035LP21
4B042AC05
4B042AD20
4B042AG02
4B042AG03
4B042AH01
4B042AK01
4B042AK08
4B042AK09
4B042AK14
4B042AK20
4B042AP04
4B042AP14
4B042AP21
(57)【要約】
【課題】 挽肉成形加工食品の食感を改良ないし維持する技術を提供する。
【解決手段】 ソルビトールおよび/または還元水飴を有効成分とする、挽肉成形加工食品の食感改良用および/または食感維持用組成物。本発明によれば、挽肉成形加工食品の美味しさを構成する要素として重要な食感(例えば、柔らかさ、しっとり感、ジューシー感、弾力、肉粒感など)を改良あるいは維持することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソルビトールおよび/または還元水飴を有効成分とする、挽肉成形加工食品の食感改良および/または食感維持用組成物。
【請求項2】
ソルビトールを有効成分とし、下記(a)~(c)から選択される1以上の用途で用いられることを特徴とする、請求項1に記載の組成物;
(a)柔らかさを向上および/または維持する用途、
(b)しっとり感を向上および/または維持する用途、
(c)ジューシー感を向上する用途。
【請求項3】
(ア)糖組成が、単糖が30~50質量%、二糖が20~55質量%および三糖以上が40質量%以下である還元水飴または(i)デキストロース当量が55超100未満の水飴を還元してなる還元水飴を有効成分とし、下記(a)~(d)から選択される1以上の用途で用いられることを特徴とする、請求項1に記載の組成物;
(a)柔らかさを向上および/または維持する用途、
(b)しっとり感を向上および/または維持する用途、
(c)ジューシー感を向上および/または維持する用途、
(d)弾力を向上および/または維持する用途。
【請求項4】
(ウ)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満である還元水飴、である還元水飴または(ii)デキストロース当量が35超55以下の水飴を還元してなる還元水飴を有効成分とし、下記(a)~(e)から選択される1以上の用途で用いられることを特徴とする、請求項1に記載の組成物;
(a)柔らかさを向上および/または維持する用途、
(b)しっとり感を向上および/または維持する用途、
(c)ジューシー感を向上および/または維持する用途、
(d)弾力を向上および/または維持する用途、
(e)肉粒感を向上および/または維持する用途。
【請求項5】
(オ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上である還元水飴または(iii)デキストロース当量が10以上35以下の水飴を還元してなる還元水飴を有効成分とし、下記(a)~(e)から選択される1以上の用途で用いられることを特徴とする、請求項1に記載の組成物;
(a)柔らかさを向上および/または維持する用途、
(b)しっとり感を向上および/または維持する用途、
(c)ジューシー感を向上および/または維持する用途、
(d)弾力を向上および/または維持する用途、
(e)肉粒感を向上および/または維持する用途。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の組成物を挽肉に接触させる工程と、挽肉を含む食品材料を成形する工程とを有する、挽肉成形加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソルビトールおよび/または還元水飴を有効成分とする挽肉成形加工食品の食感改良用および/または食感維持用組成物、ならびにこれを用いる挽肉成形加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
挽肉を成形加工してなる食品には、ハンバーグやミートボール、ソーセージ、つくねなどがある。これらは、飲食店や家庭で調理されるもののほか、惣菜や冷凍食品、冷蔵食品としても多く製品化されており、そのまま乃至は簡単な加熱調理で喫食することができる食品として、人気がある。
【0003】
係る挽肉成形加工食品の美味しさを構成する要素としては、食感が重要であり、例えば、弾力、肉粒感、ジューシー感、柔らかさ、しっとり感といった多様なテクスチャーを兼ね備えることが求められている。しかしながら、調理後すぐに食される場合はまだしも、惣菜や冷蔵・冷凍状態で流通する製品のように、一定以上の保存時間ないしは冷解凍や再加熱(温め)を経て食されるものでは、弾力が無い、肉粒感が無い、パサつく、硬いなど、食感が劣ることが問題となっていた。
【0004】
そこで、挽肉成形加工食品の食感を改良ないし維持する技術が研究開発されており、例えば、特許文献1には、特定の粘度を有するヒドロキシプロピルセルロースを添加することで、食感、味質および肉粒感を満足させた挽肉加工製品を製造する方法が開示されている。また、特許文献2には、グルコマンナンを含む水溶液中に、内相にアルカリ水溶液を含むW/O型エマルジョンが均一に分散しており、pH4~8である食品素材を添加することで、肉粒感や風味やジューシー感を改善したハンバーグを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-078279号公報
【特許文献2】特開2005-000113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、柔らかさや肉粒感を向上することは示されているものの、係る優れた食感を維持できるか否か、また、しっとり感やジューシー感を向上ないし維持できるか否かは不明である。また、特許文献2に記載の技術は、ジューシーさ、ソフトさ、弾力および肉粒感を向上ないし維持できることは示されているものの、グルコマンナンを含有する食品素材の調製が煩雑であり簡便性に欠ける。すなわち、係る先行技術を鑑みても、挽肉成形加工食品の食感を改良ないし維持する技術は十分に供給されている状況とはいえない。本発明は、係る課題を解決するためになされたものであって、挽肉成形加工食品の食感を改良ないし維持する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ソルビトールおよび/または還元水飴を配合するという簡便な操作により、挽肉成形加工食品の柔らかさやしっとり感、ジューシー感といった食感を改良できること、係る優れた食感を冷凍・解凍や低温保存、再加熱を経た後も維持できることを見出した。そこで、これらの知見に基づいて下記の各発明を完成した。
【0008】
(1)本発明に係る挽肉成形加工食品の食感改良用および/または食感維持用組成物(本発明においては、単に「本組成物」という場合がある。)は、ソルビトールおよび/または還元水飴を有効成分とする。
【0009】
(2)本組成物は、ソルビトールを有効成分とし、下記(a)~(c)から選択される1以上の用途で用いられるものであってもよい;
(a)柔らかさを向上および/または維持する用途、
(b)しっとり感を向上および/または維持する用途、
(c)ジューシー感を向上する用途。
【0010】
(3)本組成物は、(ア)糖組成が、単糖が30~50質量%、二糖が20~55質量%および三糖以上が40質量%以下である還元水飴または(i)デキストロース当量が55超100未満の水飴を還元してなる還元水飴を有効成分とし、下記(a)~(d)から選択される1以上の用途で用いられるものであってもよい;
(a)柔らかさを向上および/または維持する用途、
(b)しっとり感を向上および/または維持する用途、
(c)ジューシー感を向上する用途、
(d)弾力を向上および/または維持する用途。
【0011】
(4)本組成物は、(イ)糖組成が、単糖が30質量%未満かつ五糖以上が50質量%未満である還元水飴、である還元水飴または(ii)デキストロース当量が35超55以下の水飴を還元してなる還元水飴を有効成分とし、下記(a)~(e)から選択される1以上の用途で用いられるものであってもよい;
(a)柔らかさを向上および/または維持する用途、
(b)しっとり感を向上および/または維持する用途、
(c)ジューシー感を向上する用途、
(d)弾力を向上および/または維持する用途、
(e)肉粒感を向上および/または維持する用途。
【0012】
(5)本組成物は、(ウ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上である還元水飴または(iii)デキストロース当量が10以上35以下の水飴を還元してなる還元水飴を有効成分とし、下記(a)~(e)から選択される1以上の用途で用いられるものであってもよい;
(a)柔らかさを向上および/または維持する用途、
(b)しっとり感を向上および/または維持する用途、
(c)ジューシー感を向上する用途、
(d)弾力を向上および/または維持する用途、
(e)肉粒感を向上および/または維持する用途。
【0013】
(6)本発明に係る挽肉成形加工食品の製造方法は、本組成物を挽肉に接触させる工程と、挽肉を含む食品材料を成形する工程とを有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、挽肉成形加工食品の美味しさを構成する要素として重要な食感(例えば、柔らかさ、しっとり感、ジューシー感、弾力、肉粒感など)を改良することができる。
【0015】
また、本発明によれば、挽肉成形加工食品の美味しさを構成する要素として重要な食感(例えば、柔らかさ、しっとり感、ジューシー感、弾力、肉粒感など)を、調理から一定時間経た後、あるいは冷凍・解凍や低温保存、再加熱を経た後も、比較的優れた状態に保つことができる。
【0016】
さらに、本発明によれば、ソルビトールおよび/または還元水飴を原材料に配合するという簡便な操作により、挽肉成形加工食品の食感を改良ないし維持することができる。よって、製造コストを顕著に増大させずに、食感が改良された、あるいは優れた食感を維持できる挽肉成形加工食品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】各種の糖アルコールを配合したハンバーグ(試料1~6)について、「柔らかさ」、「しっとり感」、「弾力」、「肉汁」および「粒感」を評価した官能試験の各パネルの採点値を示す表である。
【
図2】上図は、各種の糖アルコールを配合したハンバーグ(試料1~6)について、「柔らかさ」、「しっとり感」、「弾力」、「肉汁」および「粒感」を評価した官能試験の評価点を示す表である。下図は、当該評価点を棒グラフに表したものである。
【
図3】各種の糖アルコールを配合したハンバーグ(試料1~6)の最大荷重を示す棒グラフである。
【
図4】各種の糖アルコールを配合したハンバーグ(試料1~6)の破断変形量(mm)を示す棒グラフである。
【
図5】各種の糖アルコールを配合したハンバーグ(試料1~6)の水分含量(%)を示す棒グラフである。
【
図6】各種の糖アルコールを配合したハンバーグ(試料1~6)について、4℃で24時間冷蔵保存し、レンジアップした後に「柔らかさ」、「しっとり感」、「弾力」、「肉汁」および「粒感」を評価した官能試験の各パネルの採点値を示す表である。
【
図7】上図は、各種の糖アルコールを配合したハンバーグ(試料1~6)について、4℃で24時間冷蔵保存し、レンジアップした後に「柔らかさ」、「しっとり感」、「弾力」、「肉汁」および「粒感」を評価した官能試験の評価点を示す表である。下図は、当該評価点を棒グラフに表したものである。
【
図8】各種の糖アルコールを配合したハンバーグ(試料1~6)について、冷蔵保存する前(0h)、4℃で3.5時間冷蔵保存してレンジアップした後(3.5h)および4℃で24時間冷蔵保存してレンジアップした後(24h)の最大荷重を示す棒グラフである。
【
図9】配合量を変化させて低糖化還元水飴を配合したハンバーグ(試料1~7)について、冷凍およびレンジアップした後に「柔らかさ」、「しっとり感」、「弾力」、「肉汁」および「粒感」を評価した官能試験の各パネルの採点値を示す表である。
【
図10】上図は、配合量を変化させて低糖化還元水飴を配合したハンバーグ(試料1~7)について、冷凍およびレンジアップした後に「柔らかさ」、「しっとり感」、「弾力」、「肉汁」および「粒感」を評価した官能試験の評価点を示す表である。下図は、当該評価点を棒グラフに表したものである。
【
図11】配合量を変化させて低糖化還元水飴を配合したハンバーグ(試料1~7)について、冷凍、レンジアップ、冷蔵保存および再度のレンジアップを経た後に「柔らかさ」、「しっとり感」、「弾力」、「肉汁」および「粒感」を評価した官能試験の各パネルの採点値を示す表である。
【
図12】上図は、配合量を変化させて低糖化還元水飴を配合したハンバーグ(試料1~7)について、冷凍、レンジアップ、冷蔵保存および再度のレンジアップを経た後に「柔らかさ」、「しっとり感」、「弾力」、「肉汁」および「粒感」を評価した官能試験の評価点を示す表である。下図は、当該評価点を棒グラフに表したものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
本発明において、挽肉成形加工食品とは、挽肉を主原料として含む食材が一定の形状に成形されてなる加工食品をいう。ここで、「主原料として用いた」あるいは「主原料として含む」とは、例えば、加熱前の原材料における挽肉の含有割合が40質量%以上、45質量%以上、50質量%以上あるいは55質量%以上の場合をいう。
【0020】
挽肉は、ミンチ状の肉類をいう。肉類は食用として一般に使用できるものであればよく、具体的には、たとえば、牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉、馬肉、兎肉、山羊肉などの畜肉、獣肉、魚介肉等を例示することができる。
【0021】
挽肉成形加工食品の形状は特に限定されず、一定の形を成していればよい。形状として、具体的には、例えば、円形、楕円形、四角形、丸形、円柱形、菱形、四角中型、星形、動物形、何らかのキャラクターの顔や体の形、車や家の形などを例示することができる。
【0022】
挽肉成形加工食品として、具体的には、ハンバーグ類、ミートボール類、メンチカツ類、つくね類、ラビオリ類、肉まん類、ワンタン類、ハム類、ソーセージ類、サラミ類、餃子類、シュウマイ類、コンビーフ類、ジャーキー類等の畜肉製品や、ちくわ、かまぼこ、すり身、魚肉ソーセージ等の魚肉製品、惣菜類などを例示することができる。
【0023】
「挽肉成形加工食品の食感を改良する」とは、挽肉成形加工食品の食感を良くすることをいう。ここで、食感としては、例えば、挽肉成形加工食品の美味しさを構成するものとして重要な(a)柔らかさ、(b)しっとり感、(c)ジューシー感、(d)弾力、(e)肉粒感を例示することができる。なお、「ジューシー感」は、口中で感じられる肉汁の多さないし少なさの感覚をいい、多汁感ともいえる。「肉粒感」は口中で感じられる肉の粒の感覚をいい、本発明では単に「粒感」という場合もある。
【0024】
すなわち、本発明において、挽肉成形加工食品の食感が改良されたか否かは、本組成物を用いた食品Xと、本組成物を用いていない食品Yとについて、上記(a)~(e)の程度を比較することにより確認できる。それにより、食品Xの方が食品Yよりも、(a)柔らかい、(b)しっとり感がある(大きい、強い)、(c)ジューシー感がある(大きい、強い)、(d)弾力がある(大きい、強い)あるいは(e)肉粒感がある(大きい、強い)、という比較結果が得られれば、本組成物により、挽肉成形加工食品の食感が改良されたと判断することができる。
【0025】
このことから、本組成物は、挽肉成形加工食品の(a)柔らかさを向上する用途(柔らかさ向上用組成物)、(b)しっとり感を向上する用途(しっとり感向上用組成物)、(c)ジューシー感を向上する用途(ジューシー感向上用組成物)、(d)弾力を向上する用途(弾力向上用組成物)あるいは(e)肉粒感を向上する用途(肉粒感向上用組成物)として用いることもできる。
【0026】
本発明において、「挽肉成形加工食品の食感を維持する」とは、本組成物を用いた食品Xについて、保存前後で食感が同等であることのほか、同条件下で一定時間保存した、本組成物を用いていない食品Yと比較して、食感を良いことをいう。この場合の食感も、具体的には、上述の(a)柔らかさ、(b)しっとり感、(c)ジューシー感、(d)弾力、(e)肉粒感を例示することができる。
【0027】
すなわち、本発明において、挽肉成形加工食品の食感が維持されたか否かは、本組成物を用いた食品Xと、本組成物を用いていない食品Yとについて、同条件下で一定時間保存した後に、上記(a)~(e)の程度を比較することにより確認できる。それにより、食品Xの方が食品Yよりも、(a)柔らかい、(b)しっとり感がある(大きい、強い)、(c)ジューシー感がある(大きい、強い)、(d)弾力がある(大きい、強い)あるいは(e)肉粒感がある(大きい、強い)、という比較結果が得られれば、本組成物により、挽肉成形加工食品の食感が維持されたと判断することができる。
【0028】
このことから、本組成物は、挽肉成形加工食品の(a)柔らかさを維持する用途(柔らかさ維持用組成物)、(b)しっとり感を維持する用途(しっとり感維持用組成物)、(c)ジューシー感を維持する用途(ジューシー感維持用組成物)、(d)弾力を維持する用途(弾力維持用組成物)あるいは(e)肉粒感を維持する用途(肉粒感向上用組成物)として用いることもできる。
【0029】
本発明は、ソルビトールおよび/または還元水飴を用いることを特徴とする。ソルビトールは、ナナカマドの実やリンゴ、プルーンなどにも元来含まれている、六炭糖の単糖アルコールであり、グルコースの還元体である。
【0030】
還元水飴は、水飴を還元して得られる糖アルコールである。ここで、水飴は、デンプンを酸や酵素などで糖化して得られる物質であり、単糖(ブドウ糖)および多糖(オリゴ糖やデキストリンなど)の混合物である。よって、還元水飴もまた、単糖の糖アルコールおよび多糖(二糖、三糖または四糖以上)の糖アルコールのうち、2種以上の糖アルコールを含む混合物である。還元水飴は、糖化の程度により高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴に分けられる場合がある。本発明においては、これらのいずれも用いることができる。
【0031】
高糖化還元水飴の糖組成として、具体的には、(ア)単糖を30~50質量%、二糖を20~55質量%および三糖以上を40質量%以下含有する糖組成、あるいは、(エ)単糖を37~50質量%、二糖を26~55質量%、三糖を1~21質量%、四糖を0~10質量%および五糖以上を0~8質量%含有する糖組成を例示することができる。
【0032】
中糖化還元水飴の糖組成として、具体的には、(イ)単糖を30質量%未満および五糖以上を50質量%未満含有する糖組成、あるいは、(オ)単糖を2~10質量%、二糖を15~55質量%、三糖を15~65質量%、四糖を1~15質量%および五糖以上を1~38質量%含有する糖組成、を例示することができる。
【0033】
低糖化還元水飴の糖組成として、具体的には、(ウ)五糖以上を50質量%以上含有する糖組成、あるいは、(カ)単糖を1~10質量%、二糖を6~21質量%、三糖を7~23質量%、四糖を5~13質量%および五糖以上を50~82質量%含有する糖組成、を例示することができる。
【0034】
なお、糖組成とは、糖の総質量に占める各糖の質量割合を百分率で示すものをいう。すなわち、糖の総質量を100とした場合の、各糖の質量百分率である。糖組成は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて確認することができる。すなわち、還元水飴を試料としてHPLCに供してクロマトグラムを得る。当該クロマトグラムにおいて、全ピークの面積の総和が「糖の総質量」に、各ピークの面積が「各糖の質量」に相当する。よって、試料における各糖の質量百分率は、検出された全ピークの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として算出することができる。HPLCの条件は、定法に従って適宜設定することができるが、下記条件を例示することができる。
《HPLCの条件》
カラム;MCI GEL CK04S(10mm ID x 200mm)
溶離液;高純水
流速;0.4mL/分
注入量;20μL
カラム温度;65℃
検出;示差屈折率検出器RI-10A(島津製作所)
【0035】
還元水飴は、水飴を還元して製造することから、還元水飴の糖化の程度は、水飴の糖化の程度に準じる。すなわち、原料水飴の糖化の程度が高いほど還元水飴の糖化の程度が高く、原料水飴の糖化の程度が低いほど還元水飴の糖化の程度は低い。水飴の糖化の程度の指標は、一般に、デキストロース当量(Dextrose Equivalent値;DE)が用いられる。DEは、試料中の還元糖をブドウ糖として測定したときの、当該還元糖の全固形分に対する割合(百分率)である。DEの最大値は100で、固形分の全てがブドウ糖であることを意味し、DEが小さくなるほど少糖類や多糖類が多いことを意味する。
【0036】
すなわち、高糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては55超、60以上、65以上、70以上、100未満または55超100未満を、中糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては35超、37以上、48以下、50以下、55以下または35超55以下を、低糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては10以上、12以上、14以上、30以下、32以下、35以下または10以上35以下を、それぞれ例示することができる。
【0037】
なお、水飴のDEは、下記の方法により測定することができる。
《DEの測定方法》
試料2.5gを正確に量り、水で溶かして200mLとする。この液10mLを量り、1/25mol/L ヨウ素溶液(注1)10mLと1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液(注2)15mLを加えて20分間暗所に放置する。次に、2mol/L塩酸(注3)を5mL加えて混和した後、1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液(注4)で滴定する。滴定の終点近くで液が微黄色になったら、デンプン指示薬(注5)2滴を加えて滴定を継続し、液の色が消失した時点を滴定の終点とする。水を用いてブランク値を求め、次式1によりDEを求める。
(注1)1/25mol/L ヨウ素溶液:ヨウ化カリウム20.4gとヨウ素10.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注2)1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液:水酸化ナトリウム3.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注3)2mol/L 塩酸:水750mLに塩酸150mLをかき混ぜながら徐々に加える。
(注4)1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液:チオ硫酸ナトリウム20gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注5)デンプン指示薬:可溶性デンプン5gを水500mLに溶解し、これに塩化ナトリウム100gを溶解する。
【0038】
本発明において、ソルビトールおよび/または還元水飴は、市販されている液体や粉粒体のものをそのまま用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。これら糖アルコールの公知の製造方法としては、原料糖(ソルビトールであればグルコース、還元水飴であれば水飴)に水素を添加する還元反応を挙げることができる。
【0039】
水素添加による還元反応は、例えば、40~75質量%の原料糖水溶液を、還元触媒と併せて高圧反応器中に仕込み、反応器中の水素圧を4.9~19.6MPa、反応液温を70~180℃として、混合攪拌しながら、水素の吸収が認められなくなるまで反応を行なえばよい。その後、還元触媒を分離し、イオン交換樹脂処理、必要であれば活性炭処理等で脱色脱塩した後、所定の濃度まで濃縮すれば、高濃度のソルビトールまたは還元水飴を作ることができる。
【0040】
ソルビトール/還元水飴は、挽肉成形加工食品の製造過程において、砂糖や塩などの調味料と同様に、一材料として配合して用いることができる。例えば、ソルビトール/還元水飴を挽肉を含む食材に接触させ、この食材を成形することにより挽肉成形加工食品を製造することができる。あるいは、挽肉を含む食材を成形した後に、ソルビトール/還元水飴を塗布や噴霧などすることにより接触させてもよい。すなわち、本発明は、本組成物を挽肉に接触させる工程と、挽肉を含む食品材料を成形する工程とを有する、挽肉成形加工食品の製造方法も提供する。
【0041】
挽肉成形加工食品は、本組成物を配合して挽肉に接触させるほかは、公知である常法により製造することができる。挽肉成形加工食品には、挽肉および本組成物のほかに、副原料として野菜類や塩、砂糖、味醂、酒等の調味料、胡椒、芥子等の香辛料、卵、必要に応じて粉末状大豆蛋白、粒状大豆蛋白、増粘多糖類、澱粉、小麦粉などの穀粉、ショ糖脂肪酸エステルなどの食品添加物、食用油等を配合してもよい。
【0042】
ソルビトール/還元水飴の配合量は、還元水飴の糖組成、挽肉成形加工食品の種類や所望の食感、味、その他の材料の有無・種類・量などに応じて適宜設定することができる。例えば、還元水飴の配合量としては、加熱前の挽肉100重量部に対して0.1重量部以上、0.2重量部以上、0.3重量部以上、15重量部以下、14重量部以下、13重量部以下、12重量部以下あるいは11重量部以下を例示することができる。
【0043】
挽肉成形加工食品は、最終的には加熱調理を経て喫食されるが、係る加熱様式としては、例えば、焼く(焼成)、蒸す(蒸製、スチーム加熱)、揚げる(油調、フライ)、煮るなどを例示することができ、そのいずれも用いることが出来る。また、挽肉成形加工食品は、加熱の前または後に冷蔵状態、冷凍状態で流通、販売することができる。
【0044】
本発明に係る挽肉成形加工食品の製造方法は、本発明の特徴を損なわない限り他の工程を含むものであってもよい。係る工程としては、例えば、食材のカッティング工程、食材の破砕工程、食材の混合工程、調味工程、冷却工程、冷凍工程、殺菌工程、包装工程などを例示することができる。
【0045】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例0046】
<試験方法>
(1)糖アルコール
還元水飴は、表1に示す市販品を用いた。ソルビトールはソルビトールF(D-ソルビトール70%水溶液、物産フードサイエンス)を用いた。
【表1】
【0047】
(2)ハンバーグの製造
合い挽き肉(牛・豚)に食塩を加えてハンドミキサーを用いて低速で3分混合した。続いて、残りの材料(各実施例に示す)を加えて低速で1分30秒混合した。混合中は30秒ごとに容器壁面に付着した食材を拭って容器中央に投入することを繰り返した。続いて、50gずつ、直径6cmのセルクル型に充填して円形に成形した。これをオーブンに入れて200℃で13分焼成した後、20分間室温に置いて放冷した。
【0048】
(3)官能試験
試料のハンバーグを3~7名の分析型パネルにより喫食して官能評価を行った。評価項目は「柔らかさ」、「しっとり感」、「弾力」、「肉汁」および「粒感」の5項目とした。糖アルコールを配合しない試料を5点として、下記に示す基準により1~10点の間で各パネルが採点した。採点結果は、試料ごとに全パネルによる評点の平均値を求め、小数点第2位を四捨五入して評価点とした。すなわち、いずれの評価項目も、評価点の点数が高いほど好ましいといえる。
「柔らかさ」1点:硬い⇔柔らかい:10点(点数が大きいほど柔らかい。点数が小さいほど硬い。)
「しっとり感」1点:パサつく⇔しっとり:10点(点数が大きいほどしっとりしている。点数が小さいほどパサついている。)
「弾力」1点:弾力が無い⇔弾力がある:10点(点数が大きいほど弾力が大きい。点数が小さいほど弾力が小さい。)
「肉汁」1点:肉汁が少ない⇔肉汁が多い:10点(点数が大きいほど肉汁が多く感じられる。点数が小さいほど肉汁が少なく感じられる。)
「粒感」1点:粒感が無い⇔粒感がある:10点(点数が大きいほど肉の粒感が感じられる。点数が小さいほど肉の粒感が感じられない。)
【0049】
(4)応力測定試験
試料のハンバーグを、クリープメーターRE2-33005B(山電)のくさび形のプランジャーを用いて、圧縮速度1mm/秒で50体積%圧縮変形するまで圧縮し、荷重(N)を測定して最大荷重(N)を特定した。また、同条件で、破断が起こるまで試料を圧縮し、試料が圧縮された長さ(mm)(破断変形量)を測定した。各試料につき5~8検体を行い、各測定項目について平均値を算出した。なお、最大荷重(N)は荷重波形における最大の荷重をいい、値が大きいほど試料が硬く、値が小さいほど試料が柔らかいことを示す。また、破断変形量(mm)は破断が起こるまでの試料の変形量をいい、値が大きいほど試料の弾力が大きく、値が小さいほど試料の弾力が小さいことを示す。
【0050】
<実施例1>糖アルコールの種類の検討:食感の向上効果
表2に示す配合で、試験方法(2)に記載の方法により試料1~6のハンバーグを製造した。試料1は糖アルコールを配合しないハンバーグ、試料2~6は各種の糖アルコールを配合したハンバーグである。糖アルコールとして、試料2はソルビトール、試料3は高糖化還元水飴、試料4は中糖化還元水飴、試料5は低糖化還元水飴(エスイー30)、試料6は低糖化還元水飴(エスイー100)をそれぞれ用いた。
【表2】
【0051】
(1)官能評価
試料1~6のハンバーグについて、試験方法(3)に記載の方法により、7名のパネル(A~G)で官能試験を行った。各パネルの採点結果を
図1に、評価点の表および棒グラフを
図2に、それぞれ示す。
【0052】
図1および
図2に示すように、柔らかさの評価点は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料2(ソルビトール)、試料3(高糖化還元水飴)、試料4(中糖化還元水飴)、試料5(低糖化還元水飴:エスイー30)および試料6(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が大きかった。すなわち、ソルビトールまたは還元水飴を添加したハンバーグは、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、柔らかかった。この結果から、挽肉成形加工食品にソルビトールおよび/または還元水飴を配合することにより、当該食品の柔らかさを向上できることが明らかになった。
【0053】
次に、しっとり感の評価点は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料2(ソルビトール)、試料3(高糖化還元水飴)、試料4(中糖化還元水飴)、試料5(低糖化還元水飴:エスイー30)および試料6(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が大きかった。すなわち、ソルビトールまたは還元水飴を添加したハンバーグは、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、しっとりしていた。この結果から、挽肉成形加工食品にソルビトールおよび/または還元水飴を配合することにより、当該食品のしっとり感を向上できることが明らかになった。
【0054】
次に、弾力の評価点は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料3(高糖化還元水飴)、試料4(中糖化還元水飴)、試料5(低糖化還元水飴:エスイー30)および試料6(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が大きかった。すなわち、還元水飴を添加したハンバーグは、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、弾力が大きかった。この結果から、挽肉成形加工食品に還元水飴を配合することにより、当該食品の弾力を向上できることが明らかになった。
【0055】
次に、肉汁の評価点は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料4(中糖化還元水飴)、試料5(低糖化還元水飴:エスイー30)および試料6(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が大きかった。すなわち、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を添加したハンバーグは、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、肉汁が多いと感じられた。この結果から、挽肉成形加工食品に中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合することにより、当該食品のジューシー感を向上できることが明らかになった。
【0056】
最後に、粒感の評価点は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料5(低糖化還元水飴:エスイー30)および試料6(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が大きかった。すなわち、低糖化還元水飴を添加したハンバーグは、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、粒感が大きかった。この結果から、挽肉成形加工食品に低糖化還元水飴を配合することにより、当該食品の肉粒感を向上できることが明らかになった。
【0057】
(2)最大荷重
試料1~6のハンバーグについて、試験方法(4)に記載の方法により、最大荷重(N)を測定した。その結果を
図3に示す。
【0058】
図3に示すように、最大荷重は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料2(ソルビトール)、試料3(高糖化還元水飴)、試料4(中糖化還元水飴)、試料5(低糖化還元水飴:エスイー30)および試料6(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が小さく、特に、試料4、試料5および試料6で顕著に小さかった。すなわち、ソルビトールまたは還元水飴を添加したハンバーグは、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、柔らかかった。この結果から、挽肉成形加工食品にソルビトールおよび/または還元水飴を配合することにより、当該食品の柔らかさを向上できることが明らかになった。特に、挽肉成形加工食品に中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合することにより、当該食品の柔らかさを顕著に向上できることが明らかになった。
【0059】
(3)破断変形量
試料1~6のハンバーグについて、試験方法(4)に記載の方法により、破断変形量(mm)を測定した。その結果(各試料につき6検体の平均値)を
図4に示す。
【0060】
図4に示すように、破断変形量は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料3(高糖化還元水飴)、試料4(中糖化還元水飴)、試料5(低糖化還元水飴:エスイー30)および試料6(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が大きく、特に、試料4、試料5および試料6で顕著に大きかった。すなわち、還元水飴を添加したハンバーグは、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、弾力が大きかった。この結果から、挽肉成形加工食品に還元水飴を配合することにより、当該食品の弾力を向上できることが明らかになった。特に、挽肉成形加工食品に中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合することにより、当該食品の弾力を顕著に向上できることが明らかになった。
【0061】
(4)水分含量
試料1~6のハンバーグについて、重量を測定し、乾燥前重量とした。続いて、これらを真空乾燥機(EYELA)に入れ、減圧下(0.1MPa)、90℃で一晩加熱乾燥した後、重量を測定し、乾燥後重量とした。重量の測定結果にもとづき、式2により、水分含量を算出した。水分含量は、各試料につき3検体の平均値を求めた。その結果を
図5に示す。
式2:水分含量(%(w/w))=(乾燥前重量―乾燥後重量)/乾燥前重量×100
【0062】
図5に示すように、水分含量は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料2(ソルビトール)、試料3(高糖化還元水飴)、試料4(中糖化還元水飴)、試料5(低糖化還元水飴(エスイー30))および試料6(低糖化還元水飴(エスイー100))の方が顕著に高かった。すなわち、ソルビトールまたは還元水飴を配合したハンバーグは、含有する水分量が多かった。この結果から、挽肉成形加工食品にソルビトールまたは還元水飴を配合することにより、当該食品の水分含量を向上できること、すなわち、しっとり感やジューシー感を向上できることが明らかになった。
【0063】
<実施例2>糖アルコールの種類の検討:食感の維持効果
実施例1の表2に示す配合で、試験方法(2)に記載の方法により試料1~6のハンバーグを製造した。これを4℃で3.5時間および24時間冷蔵保存した。続いて、600ワットで1分30秒間/1個あたり、電子レンジを用いた誘電加熱(レンジアップ)を行って温めた。20分放冷した後、下記(1)および(2)の評価を行った。
【0064】
(1)官能評価
4℃で24時間冷蔵保存した後の試料1~6について、試験方法(3)に記載の方法により、3名のパネル(A~C)で官能試験を行った。各パネルの採点結果を
図6に、評価点の表および棒グラフを
図7に、それぞれ示す。
【0065】
図6および
図7に示すように、柔らかさの評価点は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料2(ソルビトール)、試料3(高糖化還元水飴)、試料4(中糖化還元水飴)、試料5(低糖化還元水飴:エスイー30)および試料6(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が大きかった。すなわち、糖アルコールを添加したハンバーグは、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、24時間冷蔵保存してレンジアップした後も柔らかかった。この結果から、挽肉成形加工食品に糖アルコールを配合することにより、当該食品の柔らかさを維持できることが明らかになった。
【0066】
次に、しっとり感の評価点は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料2(ソルビトール)、試料3(高糖化還元水飴)、試料4(中糖化還元水飴)、試料5(低糖化還元水飴:エスイー30)および試料6(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が大きかった。特に、試料1よりも試料3、試料4、試料5および試料6の方が顕著に大きかった。すなわち、糖アルコールを添加したハンバーグは、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、24時間冷蔵保存してレンジアップした後もしっとりしていた。この結果から、挽肉成形加工食品に糖アルコールを配合することにより、当該食品のしっとり感を維持できることが明らかになった。
【0067】
次に、弾力の評価点は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料3(高糖化還元水飴)、試料4(中糖化還元水飴)、試料5(低糖化還元水飴:エスイー30)および試料6(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が大きかった。特に、試料1よりも試料4、試料5および試料6の方が顕著に大きかった。すなわち、還元水飴を添加したハンバーグは、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、24時間冷蔵保存してレンジアップした後も弾力が大きかった。この結果から、挽肉成形加工食品に還元水飴を配合することにより、当該食品の弾力を維持できることが明らかになった。
【0068】
次に、肉汁の評価点は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料3(高糖化還元水飴)、試料4(中糖化還元水飴)、試料5(低糖化還元水飴:エスイー30)および試料6(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が大きかった。特に、試料1よりも試料4、試料5および試料6の方が顕著に大きかった。すなわち、還元水飴を添加したハンバーグは、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、24時間冷蔵保存してレンジアップした後も肉汁が多いと感じられた。この結果から、挽肉成形加工食品に還元水飴を配合することにより、当該食品のジューシー感を維持できることが明らかになった。
【0069】
最後に、粒感の評価点は、試料1(糖アルコール無し)よりも、試料4(中糖化還元水飴)、試料5(低糖化還元水飴:エスイー30)および試料6(低糖化還元水飴:エスイー100)の方が大きかった。すなわち、中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を添加したハンバーグは、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、24時間冷蔵保存してレンジアップした後も粒感が大きかった。この結果から、挽肉成形加工食品に中糖化還元水飴または低糖化還元水飴を配合することにより、当該食品の肉粒感を維持できることが明らかになった。
【0070】
(2)最大荷重
冷蔵保存する前の試料(0h)、4℃で3.5時間冷蔵保存してレンジアップした後の試料(3.5h)および4℃で24時間冷蔵保存してレンジアップした後の試料(24h)について、試験方法(4)に記載の方法により、最大荷重(N)を測定した。その結果を
図8に示す。
【0071】
図8に示すように、試料1(糖アルコール無し)では、最大荷重は、0h、3.5hおよび24hと時間経過に伴い顕著に大きくなった。これに対して、試料3(高糖化還元水飴)、試料4(中糖化還元水飴)、試料5(低糖化還元水飴(エスイー30))および試料6(低糖化還元水飴(エスイー100))では、時間経過に伴う最大荷重の増加の程度が小さく、24hでも8N前後であった。すなわち、還元水飴を添加したハンバーグは、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、冷蔵保存および再加熱に伴う硬化の程度が小さく、24時間冷蔵保存してレンジアップした後も柔らかかった。この結果から、挽肉成形加工食品に還元水飴を配合することにより、当該食品の保存時間経過や再加熱に伴う硬化を抑制し、柔らかさを維持できることが明らかになった。
【0072】
<実施例3>糖アルコールの配合量
表3に示す配合で、試験方法(2)に記載の方法により試料1~7のハンバーグを製造した。試料1は糖アルコールを配合しないハンバーグ、試料2~6は、加熱前の合い挽き肉100重量部に対して低糖化還元水飴(エスイー30)(固形分70%(w/w)液体)を0.5~15重量部(固形分で0.35重量部~10.5重量部)配合したハンバーグである。表3において、試料名横には、添加した低糖化還元水飴の固形分量を示す。
【表3】
【0073】
(1)冷凍および再加熱後における効果
試料1~7のハンバーグについて、-40℃の冷凍庫に60分置くことにより冷凍した。これを600ワットで1分/1個あたり、レンジアップした後、20分放冷した。続いて、試験方法(3)に記載の方法により、4名のパネル(A~D)で官能試験を行った。各パネルの採点結果を
図9に、評価点の表および棒グラフを
図10に、それぞれ示す。
【0074】
図9および
図10に示すように、試料2~試料7は、「柔らかさ」、「しっとり感」、「弾力」、「肉汁」および「粒感」の全ての評価項目で、試料1(糖アルコール無し)よりも高い点数であった。すなわち、加熱前の合い挽き肉100重量部に対して低糖化還元水飴を固形分で0.35重量部~10.5重量部添加したハンバーグはいずれも、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、「柔らかさ」、「しっとり感」、「弾力」、「肉汁」および「粒感」が優れていた。この結果から、挽肉成形加工食品において、低糖化還元水飴はその配合量にかかわらず、「柔らかさ」、「しっとり感」、「弾力」、「肉汁(ジューシー感)」および「肉粒感」を向上できること、ならびに、当該向上効果は挽肉成形加工食品の冷凍および再加熱後においても発揮されることが明らかになった。
【0075】
(2)冷凍、再加熱、冷蔵保存および再々加熱後における効果
試料1~7のハンバーグについて、-40℃の冷凍庫に60分置くことにより冷凍した。これを600ワットで1分/1個あたり、レンジアップした後、20分放冷した。続いて、4℃にて24時間冷蔵保存した。これを600ワットで1分間/1個あたり、レンジアップした後、20分放冷した。続いて、試験方法(3)に記載の方法により、3名のパネル(A~C)で官能試験を行った。各パネルの採点結果を
図11に、評価点の表および棒グラフを
図12に、それぞれ示す。
【0076】
図11および
図12に示すように、試料2~試料7は、「柔らかさ」、「しっとり感」、「肉汁」および「粒感」の評価項目で、試料1(糖アルコール無し)よりも高い点数であった。すなわち、加熱前の合い挽き肉100重量部に対して低糖化還元水飴を固形分で0.35重量部~10.5重量部添加したハンバーグはいずれも、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、冷凍、再加熱、冷蔵保存および再々加熱後も「柔らかさ」、「しっとり感」、「肉汁」および「粒感」が優れていた。この結果から、挽肉成形加工食品において、低糖化還元水飴はその配合量にかかわらず、冷凍、再加熱、冷蔵保存および再々加熱後であっても、「柔らかさ」、「しっとり感」、「肉汁(ジューシー感)」および「肉粒感」を維持できることが明らかになった。
【0077】
一方、「弾力」は、試料2~試料5で、試料1よりも高い点数であった。すなわち、加熱前の合い挽き肉100重量部に対して低糖化還元水飴を固形分で0.35重量部~4.2重量部添加したハンバーグは、糖アルコールを添加しなかったものと比較して、冷凍、再加熱、冷蔵保存および再々加熱後も「弾力」が大きかった。この結果から、挽肉成形加工食品の弾力を維持する観点からは、低糖化還元水飴の配合量は、加熱前の畜肉100重量部に対して、好ましくは6.3重量部未満、より好ましくは4.2重量部以下であることが明らかになった。