IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

特開2022-151916チタン多孔質板材、および、水電解用電極、水電解装置
<>
  • 特開-チタン多孔質板材、および、水電解用電極、水電解装置 図1
  • 特開-チタン多孔質板材、および、水電解用電極、水電解装置 図2
  • 特開-チタン多孔質板材、および、水電解用電極、水電解装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151916
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】チタン多孔質板材、および、水電解用電極、水電解装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/032 20210101AFI20221004BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20221004BHJP
   B22F 3/11 20060101ALI20221004BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20221004BHJP
   B22F 5/00 20060101ALI20221004BHJP
   B22F 7/02 20060101ALI20221004BHJP
   C22C 1/08 20060101ALN20221004BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20221004BHJP
【FI】
C25B11/032
C25B9/00 A
B22F3/11 A
H01M4/86 M
B22F5/00 J
B22F7/02
C22C1/08 C
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054472
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】佐野 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】大森 信一
【テーマコード(参考)】
4K011
4K018
4K021
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA12
4K011AA21
4K011AA26
4K011DA01
4K018AA06
4K018BA03
4K018BD04
4K018DA32
4K018KA22
4K018KA37
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB16
4K021DB18
4K021DB43
4K021DB53
5H018AA06
5H018AS03
5H018CC06
5H018HH03
5H018HH04
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】隣接する他の部材と十分に接触させることができ、かつ、液体やガス等の流体を良好に流通させて拡散することが可能なチタン多孔質板材を提供する。
【解決手段】チタン又はチタン合金の焼結体からなるチタン多孔質板材であって、前記チタン多孔質板材は、前記チタン多孔質板材の表面に開口するとともに内部の気孔に連通している連通気孔を有する3次元網目構造をなし、前記チタン多孔質板材は、第1層と、第2層とが、厚さ方向に積層された構造とされており、前記第2層の平均気孔径は、前記第1層の平均気孔径よりも大きいことを特徴とする。前記第1層の平均気孔径が10μm以下であることが好ましい。前記第2層の平均気孔径が50μm以上600μm以下の範囲内であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン又はチタン合金の焼結体からなるチタン多孔質板材であって、
前記チタン多孔質板材は、前記チタン多孔質板材の表面に開口するとともに内部の気孔に連通している連通気孔を有する3次元網目構造をなし、
前記チタン多孔質板材は、第1層と、第2層とが、厚さ方向に積層された構造とされており、
前記第2層の平均気孔径は、前記第1層の平均気孔径よりも大きいことを特徴とするチタン多孔質板材。
【請求項2】
前記第1層の平均気孔径が10μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のチタン多孔質板材。
【請求項3】
前記第2層の平均気孔径が50μm以上600μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチタン多孔質板材。
【請求項4】
前記第1層の気孔率が30%以上70%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のチタン多孔質板材。
【請求項5】
前記第2層の気孔率が75%以上95%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のチタン多孔質板材。
【請求項6】
前記第1層の厚さt1と第2層の厚さt2との比t1/t2が0.01以上1.0以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のチタン多孔質板材。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のチタン多孔質板材からなることを特徴とする水電解用電極。
【請求項8】
請求項7に記載の水電解用電極を備えたことを特徴とする水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体およびガス等の流体の流通性に優れ、かつ、他の部材との接触性に優れたチタン多孔質板材、および、このチタン多孔質板材からなる水電解用電極、水電解装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、脱CO社会のために、水素社会の実現に向けた動きが加速する中で、水素需要量の増加が見込まれており、再生可能エネルギーを用いて安価で効率良く水素を製造する技術の開発が求められている。
水素製造技術の候補としては、水電解装置が着目されており、固体酸化物形水電解装置(SOEC)やアルカリ形水電解装置等いくつか種類が存在する。その中で、固体高分子形(PEM形)水電解装置は、100℃程度で動作可能であり、かつ、電解効率と生成時の水素純度が高い、という強みを持つ。
【0003】
固体高分子形水電解セルの内部構造および部材は、例えば、カソード側から、集電板(AuめっきSUS板など)/ガス拡散層(電極):カーボン多孔質体/触媒層(Pt/C+アイオノマー)/イオン交換膜(高分子材料)/触媒層(Ir粒子+アイオノマー)/ガス拡散層(電極):チタン多孔質体/ 集電板(AuめっきSUS板など)から成る。
【0004】
上述のガス拡散層はGDL(gas diffusion layer)と呼ばれることが多いが、水電解反応の反応箇所である触媒層まで電流を伝える役割を担っているため、電極と呼ばれることもある。
アノード側のガス拡散層(電極)に求められる性質として、(1)原料の液体状の水と水電解後の酸素ガスを拡散させる必要があること、(2)電解時の過酷な腐食環境で腐食しないこと、がある。そのため、アノード側のガス拡散層(電極)には、耐腐食性に優れたチタン材が用いられている。
【0005】
例えば、電極として使用されるチタン材として、特許文献1に開示されたチタン焼結体や、特許文献2に開示された発泡チタン材等が挙げられる。
一方で、例えば固体分子形燃料電池の分野においては、例えば特許文献3,4に示すように、発電効率を高くするために、シートとスポンジの2層からなる多孔質体電極が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6485967号公報
【特許文献2】特開2006-138005号公報
【特許文献3】特許第3982356号公報
【特許文献4】特表2020-524747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の特許文献1に記載されたチタン焼結体においては、気孔率を十分に高くすることができないため、水電解用セルの電極として用いた場合に、原料の液体状の水や水電解後の酸素ガスを十分に拡散させることができず、電解効率を向上させることができないおそれがあった。
また、特許文献2に記載された発泡チタン材においては、気孔率が高いため、水電解用セルの電極として用いた場合に、触媒との接触面積が確保できず、電解効率を向上させることができないおそれがあった。
さらに、特許文献3,4においては、チタン材で構成された2層構造の電極は開示されておらず、耐食性が不十分であり、水電解用セルの電極として使用することはできなかった。
【0008】
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであって、隣接する他の部材と十分に接触させることができ、かつ、液体やガス等の流体を良好に流通させて拡散することが可能なチタン多孔質板材、および、このチタン多孔質板材からなる水電解用電極、水電解装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のチタン多孔質板材は、チタン又はチタン合金の焼結体からなるチタン多孔質板材であって、前記チタン多孔質板材は、前記チタン多孔質板材の表面に開口するとともに内部の気孔に連通している連通気孔を有する3次元網目構造をなし、前記チタン多孔質板材は、第1層と、第2層とが、厚さ方向に積層された構造とされており、前記第2層の平均気孔径は、前記第1層の平均気孔径よりも大きいことを特徴としている。
【0010】
この構成のチタン多孔質板材によれば、第1層と、前記第1層よりも平均気孔径が大きい第2層とが、厚さ方向に積層された構造とされているので、平均気孔径の小さい第1層によって隣接する他の部材との接触面積を確保することができる。また、第1層よりも平均気孔径が大きい第2層が積層されているので、液体やガス等の流体を良好に流通させて拡散させることが可能となる。
【0011】
ここで、本発明のチタン多孔質板材においては、前記第1層の平均気孔径が10μm以下であることが好ましい。
この場合、前記第1層の平均気孔径が10μm以下に制限されているので、隣接する他の部材との接触面積を十分に確保することができる。
【0012】
また、本発明のチタン多孔質板材においては、前記第2層の平均気孔径が50μm以上600μm以下の範囲内であることが好ましい。
この場合、前記第2層の平均気孔径が50μm以上600μm以下と比較的大きく設定されているので、液体やガス等の流体を良好に流通させて十分に拡散させることが可能となる。
【0013】
さらに、本発明のチタン多孔質板材においては、前記第1層の気孔率が30%以上70%以下の範囲内であることが好ましい。
この場合、前記第1層の気孔率が30%以上70%以下の範囲内とされているので、隣接する他の部材との接触面積を十分に確保することができる。
【0014】
また、本発明のチタン多孔質板材においては、前記第2層の気孔率が75%以上95%以下の範囲内であることが好ましい。
この場合、前記第2層の気孔率が75%以上95%以下の範囲内とされているので、液体やガス等の流体を良好に流通させて十分に拡散させることが可能となる。
【0015】
さらに、本発明のチタン多孔質板材においては、前記第1層の厚さt1と前記第2層の厚さt2との比t1/t2が0.01以上1.0以下の範囲内であることが好ましい。
この場合、前記第1層の厚さt1と前記第2層の厚さt2との比t1/t2が0.01以上1.0以下の範囲内とされているので、第1層によって他の部材と良好に接触させることができるとともに、第2層において液体やガス等の流体を良好に流通させて十分に拡散させることが可能となる。
【0016】
本発明の水電解用電極は、上述のチタン多孔質板材からなることを特徴としている。
この構成の水電解用電極によれば、上述のチタン多孔質板材で構成されているので、触媒層側に第1層を配置することで触媒層との接触面積を確保し、触媒の使用効率を向上させるとともに、第2層において液体やガス等の流体を良好に流通させて十分に拡散させることで、水の電解を効率良くかつ安定して行うことが可能となる。
【0017】
本発明の水電解装置は、上述の水電解用電極を備えたことを特徴としている。
この構成の水電解用電極によれば、上述のチタン多孔質板材で構成された水電解用電極を備えているので、触媒層側に第1層を配置することで触媒層との接触面積を確保し、触媒の使用効率を向上させるとともに、第2層において液体やガス等の流体を良好に流通させて十分に拡散させることで、水の電解を効率良くかつ安定して行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、隣接する他の部材と十分に接触させることができ、かつ、液体やガス等の流体を良好に流通させて拡散することが可能なチタン多孔質板材、および、このチタン多孔質板材からなる水電解用電極、水電解装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態であるチタン多孔質板材の一例を示す説明図である。
図2図1に示すチタン多孔質板材の製造方法の一例を示すフロー図である。
図3】本発明の実施形態である水電解装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態であるチタン多孔質板材、および、水電解用電極、水電解装置について、添付した図面を参照して説明する。
【0021】
本実施形態であるチタン多孔質板材10は、例えば、固体高分子形燃料電池(PEFC)のカソード電極、水電解装置のアノード電極、リチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタ向け電極材等の通電部材として使用されるものである。
本実施形態においては、後述するように、図3に示す水電解装置(水電解装置)のガス拡散層(GDL)を構成する電極として用いられるものである。
【0022】
本実施形態であるチタン多孔質板材10は、表面に開口するとともに内部の気孔に連通している連通気孔を有する3次元網目構造をなしている。
そして、本実施形態であるチタン多孔質板材10は、第1層11と、第1層11よりも平均気孔径が大きい第2層12とが、厚さ方向に積層された構造とされている。
【0023】
ここで、本実施形態においては、第1層11の平均気孔径が10μm以下であることが好ましい。
また、本実施形態においては、第2層12の平均気孔径が50μm以上600μm以下の範囲内であることが好ましい。
なお、第1層11および第2層12の平均気孔径は、X線CT画像において観察される気孔の断面積から求められる円相当径(直径)とした。
【0024】
さらに、本実施形態においては、第1層11の気孔率が30%以上70%以下の範囲内であることであることが好ましい。
また、本実施形態においては、第2層12の気孔率が75%以下95%以下の範囲内であることが好ましい。
なお、第1層11および第2層12の気孔率は、X線CT画像および重量から算出することができる。
【0025】
さらに、本実施形態においては、第1層11の厚さt1と第2層12の厚さt2との比t1/t2が0.01以上1.0以下の範囲内であることであることが好ましい。
【0026】
以下に、本実施形態であるチタン多孔質板材10において、積層構造、第1層11および第2層12の平均気孔径、第1層11および第2層12の気孔率、第1層11の厚さt1と第2層12の厚さt2との比について、上述のように規定した理由を説明する。
【0027】
(積層構造)
本実施形態であるチタン多孔質板材10においては、上述のように、互いに異なる平均気孔径の第1層11と第2層12とが厚さ方向に積層された構造とされている。
平均気孔径の小さい第1層11においては、隣接する他の部材との接触面積を確保することが可能となる。一方、平均気孔径が大きい第2層12においては、液体やガスの流通が促進されることになる。
よって、本実施形態であるチタン多孔質板材10においては、隣接する他の部材との接触面積を確保するとともに、液体やガスの拡散を促進することが可能となる。
【0028】
(第1層の平均気孔径)
本実施形態であるチタン多孔質板材10において、第1層11の平均気孔径が10μm以下である場合には、気孔径が十分に小さく、隣接する他の部材との接触面積を十分に確保することが可能となる。
このため、本実施形態においては、第1層11の平均気孔径を10μm以下とすることが好ましい。
なお、第1層11の平均気孔径の上限は、9μm以下とすることがさらに好ましく、8μm以下とすることがより好ましい。一方、第1層11の平均気孔径の下限は、0.1μm以上とすることが好ましく、0.2μm以上とすることがさらに好ましい。
【0029】
(第2層の平均気孔径)
本実施形態であるチタン多孔質板材10において、第2層12の平均気孔径が50μm以上である場合には、液体やガスの流通を十分に促進することができる。一方、第2層12の平均気孔径が600μm以下である場合には、強度を確保できるとともに、第1層11との通電状態が良好となる。
このため、本実施形態においては、第2層12の平均気孔径を50μm以上600μm以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、第2層12の平均気孔径の下限は、75μm以上とすることがさらに好ましく、100μm以上とすることがより好ましい。一方、第2層12の平均気孔径の上限は、550μm以下とすることがさらに好ましく、500μm以下とすることがより好ましい。
【0030】
(第1層の気孔率)
本実施形態であるチタン多孔質板材10において、第1層11の気孔率が30%以上である場合には、第1層11においても液体やガスの流通を十分に確保することができる。一方、第1層11の気孔率が70%以下である場合には、隣接する他の部材との接触面積を十分に確保することが可能となる。
このため、本実施形態においては、第1層11の気孔率を30%以上70%以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、第1層11の気孔率の下限は、35%以上とすることがさらに好ましく、40%以上とすることがより好ましい。一方、第1層11の気孔率の上限は、65%以下とすることがさらに好ましく、60%以下とすることがより好ましい。
【0031】
(第2層の気孔率)
本実施形態であるチタン多孔質板材10において、第2層12の気孔率が75%以上である場合には、第2層12においてさらに良好に液体やガスを流通させることが可能となる。一方、第2層12の気孔率が95%以下である場合は、第2層12の強度を確保でき、さらに第1層11との通電状態が良好となる。
このため、本実施形態においては、第2層12の気孔率を75%以上95%以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、第2層12の気孔率の下限は、77%以上とすることがさらに好ましく、79%以上とすることがより好ましい。一方、第2層12の気孔率の上限は、93%以下とすることがさらに好ましく、90%以下とすることがより好ましい。
【0032】
(第1層の厚さと第2層12の厚さとの比)
本実施形態であるチタン多孔質板材10において、第1層11の厚さt1と第2層12の厚さt2との比t1/t2が0.01以上である場合には、第1層11の厚さが確保され、隣接する他の部材との接触面積を十分に確保することができる。また、チタン多孔質板材10全体の強度を確保でき、取り扱い性が向上する。一方、第1層11の厚さt1と第2層12の厚さt2との比t1/t2が1.0以下である場合には、第2層12の厚さが確保され、液体やガスを良好に流通させることが可能となる。
このため、本実施形態においては、第1層11の厚さt1と第2層12の厚さt2との比t1/t2を0.01以上1.0以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、第1層11の厚さt1と第2層12の厚さt2との比t1/t2の下限は、0.05以上とすることがさらに好ましく、0.1以上とすることがより好ましい。一方、第1層11の厚さt1と第2層12の厚さt2との比t1/t2の上限は、0.9以下とすることがさらに好ましく、0.8以下とすることがより好ましい。
【0033】
次に、本実施形態であるチタン多孔質板材10の製造方法について、図2のフロー図を参照して説明する。
【0034】
(チタン含有スラリー形成工程S01)
まず、原料粉として、チタン又はチタン合金からなるチタン粉を準備する。本実施形態では、水素化チタン粉又は水素化チタン粉を脱水素することにより作製した純チタン粉を準備した。
この原料粉に、水溶性樹脂結合剤(メチルセルロース)、有機溶剤(ネオペンタン、ヘキサンおよびブタン)、可塑剤(グリセリンおよびエチレングリコール)、溶媒としての水、場合によっては界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸塩)を混合して、第1層11となる第1チタン含有スラリーを作製する。
また、上述の原料粉に、水溶性樹脂結合剤(メチルセルロース)、有機溶剤(ネオペンタン、ヘキサンおよびブタン)、可塑剤(グリセリンおよびエチレングリコール)、溶媒としての水、場合によっては界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸塩)、に加えて発泡剤を添加し、第2層12となる第2チタン含有スラリーを作製する。
【0035】
(積層シート成形体形成工程S02)
得られた第1チタン含有スラリーを用いて、ドクターブレード法によりジルコニア製板の上に第1スラリー層を形成する。そして、第2チタン含有スラリーを用いて、ドクターブレード法により第1スラリー層の上に、第2スラリー層を積層し、積層シート成形体を得る。
【0036】
(発泡工程S03)
次に、ジルコニア製板の上に載せたまま、高温・高湿度槽内に供給し、そこで所定温度および湿度で保持して発泡させたのち、温風乾燥を行い、積層グリーンシート成形体を得る。
【0037】
(脱脂工程S04)
次に、上述の積層グリーンシート成形体をジルコニア製板の上に載せ、真空雰囲気中で加熱することにより、脱脂処理して脱脂処理体を得る。
【0038】
(焼結工程S05)
次に、上述の脱脂処理体を真空雰囲気中で50℃以下にまで冷却したのち又は冷却せずに真空雰囲気中で焼結し、互いに平均気孔径が異なる第1層11と第2層12とが積層された焼結体を得る。
【0039】
上述の製造方法により、本実施形態であるチタン多孔質板材10が製造されることになる。
【0040】
次に、本実施形態である水電解用電極および水電解装置の概略図を図3に示す。なお、本実施形態の水電解装置は、電解効率および生成時の水素純度が高い、固体高分子形水分解装置とされている。
【0041】
本実施形態の水電解装置30は、図3に示すように、対向配置されたアノード極32およびカソード極33と、これらアノード極32とカソード極33との間に配置されたイオン透過膜34と、を備えた水電解セル31を備えている。なお、イオン透過膜34の両面(アノード極32との接触面およびカソード極33との接触面)には、それぞれ触媒層35,36が形成されている。
ここで、カソード極33、イオン透過膜34、触媒層35,36については、従来の一般的な固体高分子形水電解装置で使用されているものを適用することができる。
【0042】
そして、上述のアノード極32が、本実施形態である水電解用電極とされている。このアノード極32(水電解用電極)は、上述した本実施形態であるチタン多孔質板材10で構成されている。ここで、触媒層35側に第1層11が向くように、アノード極32(水電解用電極)が配置される。
【0043】
上述の水電解装置30(水電解セル31)においては、図3に示すように、アノード極32側から水(HO)が供給されるとともに、アノード極32およびカソード極33に通電される。すると、水の電解によって生じた酸素(O)がアノード極32から排出され、水素(H)がカソード極33から排出されることになる。
【0044】
ここで、アノード極32においては、上述のように、水(液体)と酸素(気体)が流通することになるので、これら液体および気体を安定して流通させるために、高い気孔率を有することが好ましい。また、アノード極32においては、触媒層35との接触によって反応が促進されるため、触媒層35との接触面積を確保することが好ましい。さらに、アノード極32は酸素に晒されるため、優れた耐食性が求められる。このため、本実施形態であるチタン多孔質板材10からなる水電解用電極が、アノード極32として特に適している。
【0045】
以上のような構成とされた本実施形態であるチタン多孔質板材10によれば、互いに平均気孔径が異なる第1層11と第2層12とが厚さ方向に積層され、第2層12の平均気孔径が第1層11の平均気孔径よりも大きくされているので、平均気孔径の小さい第1層11によって隣接する他の部材(触媒層35)との接触面積を確保することができる。また、平均気孔径が大きい第2層12によって、液体やガス等の流体を良好に流通させて拡散させることが可能となる。
【0046】
ここで、本実施形態のチタン多孔質板材において、第1層11の平均気孔径が10μm以下である場合には、隣接する他の部材(触媒層35)との接触面積を十分に確保することができる。
また、本実施形態のチタン多孔質板材において、第2層12の平均気孔径が50μm以上600μm以下の範囲内である場合には、第2層12の平均気孔径が比較的大きく設定されているので、液体やガス等の流体を良好に流通させて十分に拡散させることが可能となる。
【0047】
さらに、本実施形態のチタン多孔質板材において、第1層11の気孔率が30%以上70%以下の範囲内である場合には、隣接する他の部材(触媒層35)との接触面積を十分に確保することができる。
また、本実施形態のチタン多孔質板材において、第2層12の気孔率が75%以上95%以下の範囲内である場合には、液体やガス等の流体を良好に流通させて十分に拡散させることが可能となる。
【0048】
さらに、本実施形態のチタン多孔質板材において、第1層11の厚さt1と第2層12の厚さt2との比t1/t2が0.01以上1.0以下の範囲内である場合には、第1層11によって他の部材と良好に接触させることができるとともに、第2層12において液体やガス等の流体を良好に流通させて十分に拡散させることが可能となる。
【0049】
本実施形態である水電解用電極は、上述のチタン多孔質板材10で構成され、アノード極32として使用されているので、触媒層35側に第1層11を配置することで触媒層35との接触面積を確保し、触媒の使用効率を向上させるとともに、第2層12において液体やガス等の流体を良好に流通させて十分に拡散させることで、水の電解を、効率良くかつ安定して行うことが可能となる。
【0050】
本実施形態である水電解装置30においては、上述したチタン多孔質板材10で構成された水電解用電極をアノード極32に用いているので、触媒の使用効率に優れ、かつ、液体やガス等の流体を良好に流通させて十分に拡散させることができ、水電解を、効率良くかつ安定して行うことが可能となる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、図3に示す構造の水電解装置(水電解セル)を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、本実施形態であるチタン多孔質板材からなる水電解用電極を備えていれば、その他の構造の水電解装置(水電解セル)であってもよい。
また、本発明のチタン多孔質板材を、水電解装置以外の他の用途に使用してもよい。
【実施例0052】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
本発明例1-5においては、実施形態の欄に記載した手順でチタン多孔質板材を製造した。まず、原料粉末として、平均粒径:15μmの水素化チタン粉末および平均粒径:10μmの純チタン粉末を用意した。さらに、水溶性樹脂結合剤としてメチルセルロースを用意し、有機溶剤としてネオペンタン、ヘキサンおよびブタンを用意し、可塑剤としてグリセリンおよびエチレングリコールを用意し、溶媒として水を用意し、さらに界面活性剤としてアルキルベンゼンスルホン酸塩を用意した。
【0053】
先に用意した水素化チタン粉末、水溶性樹脂結合剤としてのメチルセルロース、有機溶剤としてのネオペンタン、ヘキサンおよびヘプタン、可塑剤としてのグリセリンおよびエチレングリコール、溶媒としての水を配合し、必要に応じて界面活性剤としてのアルキルベンゼンスルホン酸塩を添加して15分間混練し、第1チタン含有スラリーを作製した。
上記同様の手順により、原料粉末、発泡剤・可塑剤・溶媒量の混合比の異なる第2チタン含有スラリーを作製した。
【0054】
得られた第1チタン含有スラリーを用いて、ブレードギャップ:0.4mmでドクターブレード法により、ジルコニア製板の上に第1スラリー層を成形した。第1チタン含有スラリーを用いて、上述のドクターブレード法により、第1スラリー層の上に第2スラリー層を積層し、積層シート成形体を成形した。
この積層シート成形体をジルコニア製板の上に載せたまま高温・高湿度槽に供給し、そこで温度:40℃ 、湿度:90% 、20分間保持の条件で発泡させたのち、温度:80℃ 、15分間保持の条件の温風乾燥を行い、積層グリーンシート成形体を作製した。
この積層グリーンシート成形体を脱脂処理し、1170℃、10時間保持の条件で焼結を行い、チタン多孔質板材を得た。
【0055】
なお、本発明例6においては、チタン含有スラリーを用いて製造したチタンシート材と、チタン繊維を焼結したチタン繊維焼結体と、ジルコニア製板の上に重ねて設置し、1000℃、10時間保持、真空雰囲気下で拡散接合した。
【0056】
比較例1においては、チタン繊維焼結体の単層とし、比較例2,3においては、チタンシート材の単層とした。
【0057】
本発明例1-6および比較例1-3のチタン多孔質板材について、以下の項目について評価した。評価結果を表1に示す。
【0058】
(平均気孔径)
上述のチタン多孔質板材から断面観察用の試料を採取し、この試料をX線透視測定により、断面観察画像を撮像した。観察された気孔の面積から円相当径(直径)を算出した。
【0059】
(気孔率)
上述のチタン多孔質板材から断面観察用の試料を採取し、この試料をX線透視測定により、3次元断面観察画像を撮像した。平均気孔径が50μm以上である第2層12に関しては、3次元断面観察画像より骨格部分と気孔部分を2値化処理にて分類し、気孔率(P2)および体積V2を算出した。一方で、気孔径の小さい第1層11の気孔率(P1)に関しては、以下の式で算出した。
P1=(1-W1/(V1×D))
W1:チタン多孔質板材10の第1層11部の質量(g)
V1:チタン多孔質板材10の第1層11部の体積(cm
:チタン多孔質板材10を構成するチタンの真密度(g/cm
ここで、W1は、電子天秤により測定したチタン多孔質板材10の質量Waと、上記V2を用いて、下記式で算出した。
W1=Wa -V2×(1-P2)×D
Wa:チタン多孔質板材10の質量(g)
V2:チタン多孔質板材10の第2層12部の体積(cm
P2:チタン多孔質板材10の第2層12部の気孔率
【0060】
(電解効率)
上述のチタン基材を、それぞれアノード極として用いて、図3に示す構造の固体高分子形の水電解セル(面積4cm×4cm)を構成した。アノードに純水を供給した状態で、水電解セルのアノード・カソード間に2.5V電圧を印加し、水電解によりセルに流れた電流密度を測定し、その比から電解効率比を算出した。なお、試験温度は80℃とした。
【0061】
【表1】
【0062】
互いに平均気孔径が異なる第1層と第2層との積層構造とされた本発明例1-6のチタン多孔質板材においては、単相構造とされた比較例1-3のチタン多孔質板材に比べて、電解効率が向上したことが確認された。
【0063】
以上の結果から、本発明例によれば、隣接する他の部材と十分に接触させることができ、かつ、液体やガス等の流体を良好に流通させて拡散することが可能なチタン多孔質板材を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0064】
10 チタン多孔質板材
11 第1層
12 第2層
30 水電解装置
32 アノード極(水電解用電極)
図1
図2
図3