IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リケンテクノス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-防曇性塗料、塗膜、及び物品 図1
  • 特開-防曇性塗料、塗膜、及び物品 図2
  • 特開-防曇性塗料、塗膜、及び物品 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151932
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】防曇性塗料、塗膜、及び物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20221004BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20221004BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20221004BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/00 Z
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054488
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184653
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 寧
(72)【発明者】
【氏名】毛利昌孝
(72)【発明者】
【氏名】齋藤健
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038DB191
4J038DD211
4J038DG191
4J038HA446
4J038JC14
4J038JC30
4J038JC35
4J038KA04
4J038KA06
4J038NA06
4J038PA17
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】
優れた防曇性を発現する防曇性塗膜を形成することのできる塗料、該塗料を用いて形成される塗膜、及び該塗膜を有する物品を提供すること。
【解決手段】
(A)活性エネルギー線硬化性樹脂100質量部;(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩1~150質量部;及び、(C)鎖状シリカ30~550質量部;を含む塗料。好ましくは更に(D)球状シリカを含む。上記成分(A)は水溶性を有するもの又は1分子中に1個以上の水酸基を有するものが好ましい。より好ましくは更に(F)加水分解性基を有するシラン化合物を含む。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)活性エネルギー線硬化性樹脂 100質量部;
(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩 1~150質量部;及び、
(C)鎖状シリカ 30~550質量部;
を含む塗料。
【請求項2】
更に、(D)球状シリカを含み、
ここで上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂の配合量を100質量部として、上記成分(C)鎖状シリカの配合量と上記成分(D)球状シリカの配合量との和が100~550質量部であり;
上記成分(D)球状シリカの配合量と上記成分(C)鎖状シリカの配合量との比(上記成分(D)球状シリカの配合量/上記成分(C)鎖状シリカの配合量)が0.1~10である、
請求項1に記載の塗料。
【請求項3】
上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂が、水溶性を有する活性エネルギー線硬化性樹脂を含む、請求項1又は2に記載の塗料
【請求項4】
上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂が、1分子中に1個以上の水酸基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の塗料。
【請求項5】
更に、(F)加水分解性基を有するシラン化合物を、上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂100質量部に対して、1~50質量部含む、請求項1~4の何れか1項に記載の塗料。
【請求項6】
上記成分(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩が、1分子中に1個以上の重合性官能基を有するポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩を含む、請求項1~5の何れか1項に記載の塗料。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の塗料を用いて形成される塗膜。
【請求項8】
請求項1~6の何れか1項に記載の塗料を用いて形成される塗膜を有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇性塗料に関する。更に詳しくは、防曇性塗膜を形成することのできる塗料、該塗料を用いて形成される塗膜、及び該塗膜を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリカーボネート樹脂シートなどの透明樹脂基材は、透明性に優れ、軽量であることから、ゴーグル、サングラス、偏光メガネ、ヘルメットシールド、自動車やオートバイのヘッドランプカバー、及びリアランプカバーなどに使用されている。また耐衝撃性に優れ、加工の自由度が高い(自由な形状の物を容易に製造できる)ことから、近年、透明樹脂基材により、建築物の窓ガラス、及び自動車のウィンドウなどのガラスを代替することが提案されている。一方、これらの物品には、その使用中に、しばしば湿度の急激な上昇、外気温の急激な低下、及び車内と車外との大きな温度差などより、表面に微細な水滴が付いて曇りが発生し、視認性が妨げられるという課題がある。そこで、これらの物品に防曇性の塗膜を形成することが提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、これらの技術には、防曇性が持続しない、高湿度の環境に曝されることにより防曇性が発現しなくなるなどの不都合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-197283号公報
【特許文献2】特開2013-203774号公報
【特許文献3】特開2015-168692号公報
【特許文献4】特開2003-253242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、優れた防曇性を発現する防曇性塗膜を形成することのできる塗料、該塗料を用いて形成される塗膜、及び該塗膜を有する物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意研究した結果、特定の塗料により、上記課題を達成できることを見出した。
【0006】
即ち、本発明の諸態様は以下の通りである。
[1].
(A)活性エネルギー線硬化性樹脂 100質量部;
(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩 1~150質量部;及び、
(C)鎖状シリカ 30~550質量部;
を含む塗料。
[2].
更に、(D)球状シリカを含み、
ここで上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂の配合量を100質量部として、上記成分(C)鎖状シリカの配合量と上記成分(D)球状シリカの配合量との和が100~550質量部であり;
上記成分(D)球状シリカの配合量と上記成分(C)鎖状シリカの配合量との比(上記成分(D)球状シリカの配合量/上記成分(C)鎖状シリカの配合量)が0.1~10である、
[1]項に記載の塗料。
[3].
上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂が、水溶性を有する活性エネルギー線硬化性樹脂を含む、[1]項又は[2]項に記載の塗料
[4].
上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂が、1分子中に1個以上の水酸基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂を含む、[1]~[3]項の何れか1項に記載の塗料。
[5].
更に、(F)加水分解性基を有するシラン化合物を、上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂100質量部に対して、1~50質量部含む、[1]~[4]項の何れか1項に記載の塗料。
[6].
上記成分(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩が、1分子中に1個以上の重合性官能基を有するポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩を含む、[1]~[5]項の何れか1項に記載の塗料。
[7].
[1]~[6]項の何れか1項に記載の塗料を用いて形成される塗膜。
[8].
[1]~[6]項の何れか1項に記載の塗料を用いて形成される塗膜を有する物品。
【発明の効果】
【0007】
本発明の塗料は、優れた防曇性を発現する防曇性塗膜を形成することができる。本発明の好ましい塗料は、優れた防曇性を発現し、かつ高湿度の環境であってもこれが持続し、高湿度の環境と低湿度の環境に繰り返し曝されても防曇性を損なわない防曇性塗膜を形成することができる。そのため、本発明の塗料は、物品、特にゴーグル、サングラス、偏光メガネ、ヘルメットシールド、自動車のヘッドランプカバー、オートバイのヘッドランプカバー、自動車のリアランプカバー、オートバイのリアランプカバー、建築物の窓ガラスを代替する透明樹脂基材、及び自動車のウィンドウガラスを代替する透明樹脂基材などの視認性を確保することが求められる物品に防曇性塗膜を形成するために好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において「樹脂」の用語は、2種以上の樹脂を含む樹脂混合物や、樹脂以外の成分を含む樹脂組成物をも含む用語として使用する。本明細書において「フィルム」の用語は、「シート」と相互交換的に又は相互置換可能に使用する。本明細書において、「フィルム」及び「シート」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできるものに使用する。「板」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできないものに使用する。また本明細書において、ある層と他の層とを順に積層することは、それらの層を直接積層すること、及び、それらの層の間にアンカーコートなどの別の層を1層以上介在させて積層することの両方を含む。
【0009】
本明細書において数値範囲に係る「以上」の用語は、ある数値又はある数値超の意味で使用する。例えば、20%以上は、20%又は20%超を意味する。数値範囲に係る「以下」の用語は、ある数値又はある数値未満の意味で使用する。例えば、20%以下は、20%又は20%未満を意味する。また数値範囲に係る「~」の記号は、ある数値、ある数値超かつ他のある数値未満、又は他のある数値の意味で使用する。ここで、他のある数値は、ある数値よりも大きい数値とする。例えば、10~90%は、10%、10%超かつ90%未満、又は90%を意味する。更に、数値範囲の上限と下限とは、任意に組み合わせることができるものとし、任意に組み合わせた実施形態が読み取れるものとする。例えば、ある特性の数値範囲に係る「通常10%以上、好ましくは20%以上である。一方、通常40%以下、好ましくは30%以下である。」や「通常10~40%、好ましくは20~30%である。」という記載から、そのある特性の数値範囲は、一実施形態において10~40%、20~30%、10~30%、又は20~40%であることが読み取れるものとする。
【0010】
実施例以外において、又は別段に指定されていない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用されるすべての数値は、「約」という用語により修飾されるものとして理解されるべきである。特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限しようとすることなく、各数値は、有効数字に照らして、及び通常の丸め手法を適用することにより解釈されるべきである。
【0011】
本明細書において、形状や幾何学的条件を特定する用語、例えば、平行、直交、及び垂直などの用語については、厳密に意味するところに加え、実質的に同じ状態も含むものとする。
【0012】
1.防曇性塗料:
本発明の塗料は、(A)活性エネルギー線硬化性樹脂、(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩、及び(C)鎖状シリカを含む。本発明の塗料は、好ましくは(A)活性エネルギー線硬化性樹脂、(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩、(C)鎖状シリカ、及び(D)球状シリカを含む。以下、各成分について説明する。
【0013】
(A)活性エネルギー線硬化性樹脂:
本発明の塗料は上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂を含む。上記成分(A)は紫外線や電子線などの活性エネルギー線により重合・硬化して、塗膜(硬化塗膜)を形成する働きをする。
【0014】
上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂としては、例えば、(メタ)アクリロイル基を有する化合物、アリル基を有する化合物、チオール基を有する化合物、ビニルエーテル基を有する化合物、N‐置換(メタ)アクリルアミド化合物、及び芳香族ビニル化合物などをあげることができる。
【0015】
上記(メタ)アクリロイル基を有する化合物は、アクリロイル基(-CO-CH=CH)又はメタクリロイル基(-CO-C(CH)=CH)を1分子中に1個以上有する化合物である。上記(メタ)アクリロイル基を有する化合物が1分子中に有する(メタ)アクリロイル基の数は、塗料の硬化性の観点から、好ましくは2個以上、より好ましくは3個以上であってよい。一方、塗膜の耐クラック性の観点から、通常20個以下、好ましくは12個以下、より好ましくは8個以下であってよい。
【0016】
上記(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリアクリル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールポリ(メタ)アクリレート、及び、ポリエーテル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイル基含有プレポリマー又はオリゴマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n‐プロピル(メタ)アクリレート、n‐ブチル(メタ)アクリレート、2‐エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2‐メトキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、及びヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの1分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6‐ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2‘‐ビス(4‐(メタ)アクリロイルオキシポリエチレンオキシフェニル)プロパン、及び、2,2’‐ビス(4‐(メタ)アクリロイルオキシポリプロピレンオキシフェニル)プロパンなどの1分子中に2個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、及びトリメチロールエタントリ(メタ)アクリレートなどの1分子中に3個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの1分子中に4個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物;並びに、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどの1分子中に6個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物などをあげることができる。本明細書において、(メタ)アクリレートはアクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0017】
上記アリル基を有する化合物は、1分子中に1個以上のアリル基(2‐プロペニル基、-CH-CH=CH)を有する化合物である。上記アリル基を有する化合物が1分子中に有するアリル基の数は、塗料の硬化性の観点から、好ましくは2個以上、より好ましくは3個以上であってよい。一方、塗膜の耐クラック性の観点から、通常20個以下、好ましくは12個以下、より好ましくは8個以下であってよい。
【0018】
上記アリル基を有する化合物としては、例えば、グリセリンジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、及びペンタエリスリトールトリアリルエーテルなどのアリルエーテル基(-O-CH-CH=CH)を有する化合物;マレイン酸ジアリル、アジピン酸ジアリル、クエン酸トリアリル、及びトリメリット酸トリアリルなどのアリルエステル基(-CO-CH-CH=CH)を有する化合物;1,3,5‐トリ‐2‐プロペニル‐1,3,5‐トリアジン‐2,4,6(1H,3H,5H)‐トリオンなどのアリルイソシアヌレート化合物;アリルジメチルアミン、ジアリルメチルアミン、及びジアリルジメチルアンモニウムニトレートなどのアリルアミン化合物;並びに、グリセリンジアリルモノグリシジルエーテル、アリルグリシジルフタレート、及びアリルグリシジルヘキサヒドロフタレートなどのアリルグリシジル化合物などをあげることができる。
【0019】
上記チオール基を有する化合物は、1級チオール基、2級チオール基、及び3級チオール基からなる群から選択される1種以上を、1分子中に1個以上有する化合物である。上記チオール基を有する化合物が1分子中に有するチオール基の数は、塗料の硬化性の観点から、好ましくは2個以上、より好ましくは3個以上であってよい。一方、塗膜の耐クラック性の観点から、通常20個以下、好ましくは12個以下、より好ましくは8個以下であってよい。
【0020】
上記チオール基を有する化合物としては、例えば、3‐メルカプトプロピオン酸、2‐エチルヘキシル‐3‐メルカプトプロピオネート、n‐オクチル‐3‐メルカプトプロピオネート、3‐メトキシブチル‐3‐メルカプトプロピオネート、及びステアリル‐3‐メルカプトプロピオネートなどの1分子中に1個の1級チオール基を有する化合物;テトラエチレングリコールビス(3‐メルカプトプロピオネート)などの1分子中に2個の1級チオール基を有する化合物;トリメチロールプロパントリス(3‐メルカプトプロピオネート)、及びトリス‐((3‐メルカプトプロピオニルオキシ)‐エチル)‐イソシアヌレートなどの1分子中に3個の1級チオール基を有する化合物;ペンタエリスリトールテトラキス(3‐メルカプトプロピオネート)などの1分子中に4個の1級チオール基を有する化合物;ジペンタエリスリトールヘキサキス(3‐メルカプトプロピオネート)などの1分子中に6個の1級チオール基を有する化合物;1,4‐ビス(3‐メルカプトブチリルオキシ)ブタンなどの1分子中に2個の2級チオール基を有する化合物;1,3,5‐トリス(2‐(3‐スルファニルブタノイルオキシ)エチル)‐1,3,5‐トリアジナン‐2,4,6‐トリオン、及びトリメチロールプロパントリス(3‐メルカプトブチレート)などの1分子中に3個の2級チオール基を有する化合物;並びに、ペンタエリスリトールテトラキス(3‐メルカプトブチレート)などの1分子中に4個の2級チオール基を有する化合物などをあげることができる。
【0021】
上記ビニルエーテル基を有する化合物は、ビニルエーテル基(-O-CH=CH)を1分子中に1個以上有する化合物である。上記ビニルエーテル基を有する化合物が1分子中に有するビニルエーテル基の数は、塗料の硬化性の観点から、好ましくは2個以上、より好ましくは3個以上であってよい。一方、塗膜の耐クラック性の観点から、通常20個以下、好ましくは12個以下、より好ましくは8個以下であってよい。
【0022】
上記ビニルエーテル基を有する化合物としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n‐プロピルビニルエーテル、n‐ブチルビニルエーテル、及び2‐エチルヘキシルビニルエーテルなどの1分子中に1個のビニルエーテル基を有する化合物;ジエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、1,4‐シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、1,4‐ブダンジオールジビニルエーテル、及び1,6‐ヘキサンジオールジビニルエーテルなどの1分子中に2個のビニルエーテル基を有する化合物;並びに、トリメチロールプロパントリビニルエーテルなどの1分子中に3個のビニルエーテル基を有する化合物などをあげることができる。
【0023】
上記N‐置換(メタ)アクリルアミド化合物としては、例えば、(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N‐ジエチル(メタ)アクリルアミド、及びN‐ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドなどをあげることができる。
【0024】
上記芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α‐メチルスチレン、及び4‐メチルスチレンなどをあげることができる。
【0025】
上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂は、実施形態の1つにおいて、塗膜の防曇性を維持しつつ、耐擦傷性を高める観点から、1分子中に1個以上の水酸基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂を含むものであってよい。上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂は、好ましい実施形態の1つにおいて、上記成分(A)の各成分の総和を100質量%として、上記1分子中に1個以上の水酸基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90~100質量%含むものであってよい。
【0026】
上記1分子中に1個以上の水酸基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂は、1分子中に1個以上の水酸基を有し、かつ1分子中に1個以上、好ましくは2個以上の活性エネルギー線による重合性を有する官能基、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、チオール基、及びビニルエーテル基などを有する化合物である。
【0027】
上記1分子中に1個以上の水酸基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂としては、例えば、1,4‐ブダンジオール、1,6‐ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、及びジペンタエリスリトールなどの多価オールの少なくとも1個の水酸基にアクリロイル基、メタクリロイル基、チオール基、及びビニルエーテル基などの活性エネルギー線による重合性を有する官能基が付加した化合物であって、少なくとも1個の水酸基には該重合性を有する官能基が付加していない(即ち、水酸基として残存している)化合物をあげることができる。該化合物としては、例えば、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリロイル基を有する化合物、並びに、グリセリンジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、及びペンタエリスリトールトリアリルエーテルなどのアリルエーテル基を有する化合物などをあげることができる。
【0028】
上記1分子中に1個以上の水酸基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂としては、例えば、2‐ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2‐ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2‐ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4‐ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6‐ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、及び2‐ヒドロキシ‐3‐(メタ)アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのグリコール系モノ(メタ)アクリレート;グリセリンジ(メタ)アクリレートなどのグリセリン系(メタ)アクリレート;脂肪酸変性‐グリシジル(メタ)アクリレートなどの変性グリシジル系(メタ)アクリレート;2‐ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートなどの燐原子含有(メタ)アクリレート;2‐(メタ)アクリロイロキシエチル‐2‐ヒドロキシプロピルフタレートなどのエステル又はエステル誘導体の(メタ)アクリル酸付加物;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びエチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどのペンタエリスリトール系(メタ)アクリレート;エピクロロヒドリン変性1‐4ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、及びエピクロロヒドリン変性1‐6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートなどのエピクロロヒドリン変性アルキルジオールジ(メタ)アクリレートなどのエポキシ変性(メタ)アクリレート(エピクロロヒドリンなどのエポキシ基を有する化合物を用いて変性された(メタ)アクリレート);並びに、カプロラクトン変性2‐ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどのカプロラクトン変性(メタ)アクリレートなどをあげることができる。
【0029】
上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂は、実施形態の1つにおいて、塗膜の防曇性の観点から、好ましくは水溶性を有する活性エネルギー線硬化性樹脂を含むものであってよい。上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂は、好ましい実施形態の1つにおいて、上記成分(A)の各成分の総和を100質量%として、上記水溶性を有する活性エネルギー線硬化性樹脂を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90~100質量%含むものであってよい。ここで水溶性とは、温度20℃の純水1gに通常0.4g以上、好ましくは0.6g以上、より好ましくは0.8g以上、更に好ましくは1.0g以上の量が溶解することを意味する。
【0030】
上記水溶性を有する活性エネルギー線硬化性樹脂としては、例えば、2‐ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基を有する(メタ)アクリレートとソルビトールなどの糖アルコールとのエーテル化合物であって、1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物;及び、該エーテル化合物の誘導体であって、1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物などをあげることができる。
【0031】
上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂は、好ましい実施形態の1つにおいて、上記1分子中に1個以上の水酸基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂(本段落、段落0032、及び段落0033においては、1分子中に1個以上の水酸基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂であって、水溶性を有するものは、水溶性を有する活性エネルギー線硬化性樹脂に分類し、1分子中に1個以上の水酸基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂からは除くものとする。)と上記水溶性を有する活性エネルギー線硬化性樹脂を含むものであってよい。塗膜の防曇性を維持しつつ、耐擦傷性を高めることができる。
【0032】
上記1分子中に1個以上の水酸基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂の量と上記水溶性を有する活性エネルギー線硬化性樹脂の量は、塗膜に付与しようとする特性を勘案して適宜決定する。塗膜の耐擦傷性をより高めることを所望する場合には、上記1分子中に1個以上の水酸基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂の量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、最も好ましくは80質量%以上であってよい。塗膜の防曇性をより高めることを所望する場合には、上記水溶性を有する活性エネルギー線硬化性樹脂の量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、最も好ましくは80質量%以上であってよい。ここで、上記1分子中に1個以上の水酸基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂の量と上記水溶性を有する活性エネルギー線硬化性樹脂の量の和は100質量%である。
【0033】
上記成分(A)中の上記1分子中に1個以上の水酸基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂の量と上記水溶性を有する活性エネルギー線硬化性樹脂の量の和は、上記成分(A)の各成分の総和を100質量%として、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90~100質量%であってよい。
【0034】
上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂としてはこれらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0035】
(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩:
本発明の塗料は上記成分(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩を含む。上記成分(B)は塗膜に防曇性を付与する働きをする。上記成分(B)はポリアルキレングリコールスルホン酸とアミン化合物との塩である。ここでポリアルキレングリコールスルホン酸は、ポリアルキレングリコールの末端に、通常は一方の末端にスルホン酸基を有する化合物である。
【0036】
上記ポリアルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロパン‐1,2‐ジオール、1,3‐プロパンジオール、1,4‐ブタンジオール、及び1,6‐ヘキサンジオールなどのアルキレングリコールの1種又は2種以上が通常1~30個、好ましくは3~20個、より好ましくは5~15個が重合した化合物をあげることができる。
【0037】
上記ポリアルキレングリコールスルホン酸は、好ましい実施形態の1つにおいて、重合性官能基を有するものであってよい。該重合性官能基は、典型的な実施形態において、炭素・炭素二重結合を有する官能基である。上記重合性官能基としては、例えば、アリルエーテル基、アリルエステル基などのアリル基;ビニルエーテル基などのビニル基;チオール基;及び、(メタ)アクリロイル基などをあげることができる。上記成分(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩の原料として重合性官能基を有するポリアルキレングリコールスルホン酸を用いることにより、上記成分(B)のブリードアウトを抑制し、ひいては防曇性の持続性を高めることができる。
【0038】
上記アミン化合物は、アンモニア、第1級アミン、第2級アミン、又は第3級アミンであって、ポリアルキレングリコールスルホン酸のスルホン酸基からプロトンを受け取ってアミノカチオンを形成し、ポリアルキレングリコールスルホン酸と塩を形成することのできる化合物である。
【0039】
上記第1級アミンとしては、例えば、メタノールアミン、2‐アミノエタノール、3‐アミノ‐1‐プロパノール、4‐アミノ‐1‐ブタノール、及び6‐アミノ‐1‐ヘキサノールなどのアルキルアルコールアミン;並びに、2‐アミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノアルキルアクリレートなどをあげることができる。
【0040】
上記第2級アミンとしては、例えば、2‐(メチルアミノ)エタノール、3‐(メチルアミノ)‐1‐プロパノール、3‐メチルアミノ‐1,2‐プロパンジオール、4‐(エチルアミノ)‐1‐ブタノール、及び6‐(メチルアミノ)‐1‐ヘキサノールなどのアルキルアミノアルキルアルコール;並びに、2‐(メチルアミノ)エチル(メタ)アクリレートなどのアルキルアミノアルキルアクリレートなどをあげることができる。
【0041】
上記第3級アミンとしては、例えば、2‐(ジメチルアミノ)エタノール、3‐(ジメチルアミノ)‐1‐プロパノール、3‐ジメチルアミノ‐1,2‐プロパンジオール、4‐(ジメチルアミノ)‐1‐ブタノール、4‐(ジエチルアミノ)‐1‐ブタノール、及び6‐(ジメチルアミノ)‐1‐ヘキサノールなどのジアルキルアミノアルキルアルコール;並びに、2‐(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、及び3‐(ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリレートなどのジアルキルアミノアルキルアクリレートなどをあげることができる。
【0042】
上記アミン化合物は、好ましい実施形態の1つにおいて、重合性官能基を有するものであってよい。該重合性官能基は、典型的な実施形態において、炭素・炭素二重結合を有する官能基である。上記重合性官能基としては、例えば、アリルエーテル基、アリルエステル基などのアリル基;ビニルエーテル基などのビニル基;チオール基;及び、(メタ)アクリロイル基などをあげることができる。上記成分(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩の原料として重合性官能基を有するアミン化合物を用いることにより、上記成分(B)のブリードアウトを抑制し、ひいては防曇性の持続性を高めることができる。
【0043】
これらの中で、上記アミン化合物としては、防曇性、及び上記成分(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩の耐ブリードアウト性の観点から、アンモニア、アミノアルキルアクリレート、アルキルアミノアルキルアクリレート、及びジアルキルアミノアルキルアクリレートが好ましく、アンモニア、及びジアルキルアミノアルキルアクリレートがより好ましい。
【0044】
上記成分(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩は、実施形態の1つにおいて、下記一般式(b1)で示されるポリエチレングリコールの一方の末端にスルホン酸基を有する化合物のアンモニウム塩であってよい。
【0045】
R-O-(CH-CH-O)n-SO・NH ・・・(b1)
【0046】
ここでRは酸素原子、窒素原子を有していてもよい炭化水素基である。nは通常1~30、好ましくは3~20、より好ましくは5~15の自然数である。
【0047】
上記成分(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩は、実施形態の他の1つにおいて、下記一般式(b2)で示されるエチレングリコールと1,4‐ブタンジオールとの共重合体の一方の末端にスルホン酸基を有する化合物とジメチルアミノ化合物との塩であってよい。
【0048】
R-O-((CH-O)m-(CH-CH-O)n-SO・(CHNH-R’ ・・・(b2)
【0049】
ここでRは酸素原子、窒素原子を有していてもよい炭化水素基である。R’は酸素原子、窒素原子を有していてもよい炭化水素基である。nは通常1~15、好ましくは2~10、より好ましくは3~8の自然数である。mは通常1~15、好ましくは1~10、より好ましくは2~7の自然数である。n+mは通常1~30、好ましくは3~20、より好ましくは5~15の自然数である。
【0050】
上記成分(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩は好ましい実施形態の1つにおいて、重合性官能基を有するものであってよい。該重合性官能基は、上記ポリアルキレングリコールスルホン酸が有していてもよく、上記アミン化合物が有していてもよく、両方の化合物が有していてもよい。上記重合性官能基は、典型的な実施形態の1つにおいて、炭素・炭素二重結合を有する官能基である。上記重合性官能基としては、例えば、アリルエーテル基、アリルエステル基などのアリル基;ビニルエーテル基、ビニルエステル基などのビニル基;チオール基;及び、(メタ)アクリロイル基などをあげることができる。上記成分(B)として重合性官能基を有するものを用いることにより、上記成分(B)のブリードアウトを抑制し、ひいては防曇性の持続性を高めることができる。
【0051】
上記成分(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩は、防曇性の観点から、上記重合性官能基を上記アミン化合物が有し、上記ポリアルキレングリコールスルホン酸は有さないものであってよい。
【0052】
上記成分(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩は、耐擦傷性の観点から、上記重合性官能基を上記ポリアルキレングリコールスルホン酸が有し、上記アミン化合物は有さないものであってよい。
【0053】
上記成分(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩として、上記重合性官能基を上記アミン化合物が有し、上記ポリアルキレングリコールスルホン酸は有さないものと、上記重合性官能基を上記ポリアルキレングリコールスルホン酸が有し、上記アミン化合物は有さないものとを併用することは、より好ましい実施形態の1つである。防曇性と耐擦傷性のバランスを高めることができる。この場合、両者の配合比(前者/後者、即ち、上記重合性官能基を上記アミン化合物が有し、上記ポリアルキレングリコールスルホン酸は有さないもの/上記重合性官能基を上記ポリアルキレングリコールスルホン酸が有し、上記アミン化合物は有さないもの)は、通常0.1/100~100/100、好ましくは0.5/100~70/100、より好ましくは1/100~50/100、更に好ましくは1.5/100~30/100であってよい。
【0054】
上記成分(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩としてはこれらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0055】
上記成分(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩の配合量は、用いる上記成分(B)の種類を勘案し、防曇性、塗膜の硬化性、及び耐擦傷性の観点から適宜決定する。上記成分(B)の配合量は、上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂100質量部に対して、防曇性の観点から、通常1質量部以上、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上であってよい。一方、塗膜の硬化性、及び耐擦傷性の観点から、通常150質量部以下、好ましくは120質量部以下、より好ましくは90質量部以下、更に好ましくは60質量部以下、最も好ましくは40質量部以下であってよい。
【0056】
(C)鎖状シリカ:
本発明の塗料は上記成分(C)鎖状シリカを含む。上記成分(C)鎖状シリカは、シリカ(球状シリカ)の一次粒子が数個ないし十数個鎖状に結合している物質である。上記成分(C)鎖状シリカは、多数の水分子を水和させることができる物質であり、塗膜に防曇性を付与する働きをする。
【0057】
理論に拘束される意図はないが、塗膜が高湿度の環境に曝されたり、あるいは塗膜表面に大量の水が掛かったりした場合にも視認性を維持するためには、このような場合にも塗膜表面の親水性が高く保たれて水が濡れ広がり、塗膜表面に水滴が生じないようにする必要がある。
【0058】
上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂や上記成分(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩が有する親水性官能基は、通常の環境では塗膜内部から排除され、その多くが塗膜表面又はその近傍に存在し、塗膜表面の親水性を高くしている。ところが、塗膜が高湿度の環境に曝されたり、あるいは塗膜の表面に大量の水が掛かったりして塗膜が吸水すると、上記成分(A)や上記成分(B)が有する親水性官能基は、その一部が塗膜内部に移行し、塗膜内部にも多く存在するようになり、結果的に塗膜表面又はその近傍に存在する親水性官能基の数が減少して塗膜表面の親水性が低下し、ひいては防曇性が低下する。
【0059】
そこで、本発明においては、更に上記成分(C)鎖状シリカを配合することにより、この問題を解決したものである。上記成分(C)鎖状シリカは、その形状から、流体力学的に塗膜を形成する際に塗膜表面又はその近傍に集中し易く、また塗膜形成後に塗膜内部へ移行することはないことが奏功したと考察している。
【0060】
上記成分(C)鎖状シリカの一次粒子の結合様式は、鎖状に結合していること以外は制限されない。上記結合様式は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、ネックレス(パールネックレスのように環状に結合したもの)であってもよく、これらの結合様式の組み合わせであってもよい。
【0061】
上記成分(C)鎖状シリカの一次粒子の平均粒子径(以下、「平均一次粒子径」と記載することがある)は、塗膜の透明性と防曇性の観点から適宜選択する。上記成分(C)鎖状シリカの平均一次粒子径は、塗膜の透明性の観点から、通常50nm以下、好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下であってよい。一方、塗膜の防曇性の観点から、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上、更に好ましくは7nm以上、最も好ましくは10nm以上であってよい。
【0062】
本明細書において、上記成分(C)鎖状シリカの平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡を使用して観察した鎖幅から算出する。具体的には、観察する所をランダムに50か所選定し、その鎖幅を求め、それらの数平均値を算出する。
【0063】
上記成分(C)鎖状シリカの平均二次粒子径は、塗膜の透明性と防曇性の観点から適宜選択する。上記成分(C)鎖状シリカの平均二次粒子径は、塗膜の透明性の観点から、通常300nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下、更に好ましくは100nm以下であってよい。一方、塗膜の防曇性の観点から、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上であってよい。
【0064】
本明細書において、上記成分(C)鎖状シリカの平均二次粒子径は、動的光散乱法により測定した粒子径分布曲線において、粒子の小さい方からの累積が50質量%となる粒子径である。
【0065】
上記成分(C)鎖状シリカとしてはこれらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0066】
上記成分(C)鎖状シリカの配合量は、塗膜の透明性と防曇性の観点から適宜決定する。上記成分(C)鎖状シリカの配合量は、上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂100質量部に対して、塗膜の防曇性の観点から、通常30質量部以上、好ましくは50質量部以上、より好ましくは70質量部以上であってよい。一方、塗膜の透明性の観点から、通常550質量部以下、好ましくは350質量部以下、より好ましくは250質量部以下、更に好ましくは180質量部以下、最も好ましくは140質量部以下であってよい。
【0067】
(D)球状シリカ:
本発明の塗料は、好ましくは更に上記成分(D)球状シリカを含むものであってよい。上記成分(D)球状シリカは、一次粒子が結合することなく、あるいはせいぜい2、3個連結する程度で存在している物質である。上記成分(D)球状シリカは、多数の水分子を水和させることができる物質であり、塗膜に防曇性を付与する働きをする。
【0068】
シリカ成分として、上記成分(C)鎖状シリカと上記成分(D)球状シリカを併用することにより、塗膜の透明性、防曇性、及び耐擦傷性のバランスを高めることができる。
【0069】
上記成分(D)球状シリカの一次粒子の平均粒子径(以下、「平均一次粒子径」と記載することがある)は、塗膜の透明性、防曇性、及び耐擦傷性の観点から適宜選択する。上記成分(D)球状シリカの平均一次粒子径は、通常1~100nm、好ましくは3~50nm、より好ましくは5~30nmであってよい。
【0070】
本明細書において、上記成分(D)球状シリカの平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡を使用して観察した一次粒子の最大径から算出する。具体的には、一次粒子をランダムに50個選定し、その最大径を求め、それらの数平均値を算出する。
【0071】
上記成分(D)球状シリカとしてはこれらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0072】
上記成分(D)球状シリカを用いる実施形態において、その配合量は、上記成分(C)鎖状シリカの配合量と上記成分(D)球状シリカの配合量の和が後述の範囲となるようにする観点、及び上記成分(D)球状シリカの配合量と上記成分(C)鎖状シリカの配合量との比(上記成分(D)球状シリカの配合量/上記成分(C)鎖状シリカの配合量)が後述の範囲となるようにする観点から適宜決定する。
【0073】
上記成分(D)球状シリカを用いる実施形態において、上記成分(C)鎖状シリカの配合量と上記成分(D)球状シリカの配合量との和は、塗膜の透明性と防曇性の観点から適宜決定する。上記成分(C)鎖状シリカの配合量と上記成分(D)球状シリカの配合量との和は、上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂100質量部に対して、防曇性の観点から、好ましくは100質量部以上、より好ましくは150質量部以上、更に好ましくは200質量部以上であってよい。一方、塗膜の透明性の観点から、通常550質量部以下、好ましくは400質量部以下、より好ましくは350質量部以下、更に好ましくは300質量部以下であってよい。
【0074】
上記成分(D)球状シリカを用いる実施形態において、上記成分(D)球状シリカの配合量と上記成分(C)鎖状シリカの配合量との比(上記成分(D)球状シリカの配合量/上記成分(C)鎖状シリカの配合量)は、塗膜の透明性と防曇性の観点から適宜決定する。上記成分(D)球状シリカの配合量と上記成分(C)鎖状シリカの配合量との比は、塗膜の防曇性の観点から、通常10以下、好ましくは7.0以下、より好ましくは5.0以下、更に好ましくは3.0以下であってよい。一方、塗膜の透明性の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.4以上、更に好ましくは0.7以上、最も好ましくは1.1以上であってよい。
【0075】
(E)光重合開始剤:
本発明の塗料は、好ましくは更に(E)光重合開始剤を含むものであってよい。上記成分(E)は、活性エネルギー線の照射によりラジカルなどの活性種を発生する化合物である。上記成分(E)はラジカルなどの活性種を発生することにより、上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂を重合、硬化させる働きをする。
【0076】
上記成分(E)光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、メチル-o-ベンゾイルベンゾエート、4-メチルベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’-テトラ(tert-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、及び2,4,6-トリメチルベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、及びベンジルメチルケタールなどのベンゾイン系化合物;アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、及び2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン等のアセトフェノン系化合物、α-ヒドロキシアルキルフェノン系化合物、並びにアセトフェノンジメチルアセタールなどのアルキルフェノン系化合物;メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、及び2-アミルアントラキノンなどのアントラキノン系化合物;チオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、及び2,4-ジイソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン系化合物;アシルフォスフィンオキサイド系化合物;ビイミダゾール化合物;チタノセン系化合物;オキシムエステル系化合物;オキシムフェニル酢酸エステル系化合物;ヒドロキシケトン系化合物;トリアジン系化合物;並びに、アミノベンゾエート系化合物などをあげることができる。
【0077】
ここで上記アルキルフェノン系化合物は、アセトフェノン骨格(ベンゼン環-CO-アルキル基)またはアセトフェノン骨格に由来する構造を有する化合物であると定義される。該アルキルフェノン系化合物の中で、アセトフェノン骨格に由来するカルボニル基C=Oが保たれている化合物が上記アセトフェノン系化合物に当たる。つまり、「アセトフェノン系化合物」は「アルキルフェノン系化合物」に包含される下位概念である。
【0078】
上記成分(E)光重合開始剤としては、これらの中でアルキルフェノン系化合物が好ましく、アセトフェノン系化合物がより好ましく、ヒドロキシアセトフェノン系化合物(ヒドロキシ基を有するアセトフェノン系化合物)が更に好ましい。
【0079】
上記成分(E)光重合開始剤としてはこれらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0080】
上記成分(E)光重合開始剤の配合量は、上記成分(E)の使用効果を確実に得る観点、並びに塗膜の色調、耐擦傷性の観点から適宜決定する。上記成分(E)の配合量は、上記成分(A活性エネルギー線硬化性樹脂100質量部に対して、上記成分(E)の使用効果を確実に得る観点から、通常0.5質量部以上、好ましくは1質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上であってよい。一方、塗膜の色調、耐擦傷性の観点から、通常20質量部以下、好ましくは15質量部以下、より好ましくは12質量部以下、更に好ましくは10質量部以下であってよい。
【0081】
(F)加水分解性基を有するシラン化合物:
本発明の塗料は、好ましくは更に(F)加水分解性基を有するシラン化合物を含むものであってよい。上記成分(F)は1分子中に1個以上の加水分解性基を有するシラン化合物である。上記成分(F)を含ませることにより、塗料の硬化性、塗膜の耐擦傷性を高めることができる。
【0082】
上記成分(F)加水分解性基を有するシラン化合物の有する加水分解性基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基などのアルコキシ基;アセトキシ基などのアシルオキシ基;及び、クロロ基などのハロゲン基をあげることができる。上記成分(F)の有する加水分解性基としては、これらの中で、加水分解反応の制御性の観点から、好ましくはアルコキシ基であってよい。
【0083】
上記成分(F)加水分解性基を有するシラン化合物としては、例えば、加水分解性有機珪素化合物、該化合物の(部分)加水分解物、及び、これらの(部分)縮合物などをあげることができる。ここで、(部分)加水分解物とは、部分加水分解物、加水分解物、又は部分加水分解物と加水分解物の混合物を意味する。ここで、(部分)縮合物とは、部分縮合物、縮合物、又は部分縮合物と縮合物の混合物を意味する。
【0084】
上記加水分解性有機珪素化合物等の加水分解又は部分加水分解は、公知の方法で行うことができる。上記加水分解性有機珪素化合物等を加水分解又は部分加水分解する方法としては、例えば、上記加水分解性有機珪素化合物等とジアセトンアルコールなどの有機溶剤との混合物に、水を所定量、典型的には上記加水分解性有機珪素化合物等の有する加水分解性基1モルに対して0.1~2モル程度の量を混合した後、所望により触媒、例えば、塩酸、リン酸、酢酸、及び蟻酸などの酸又はアルカリなどを添加して、所定の温度、典型的には室温(23℃)~100℃程度で、攪拌しながら反応させる方法をあげることができる。
【0085】
上記加水分解性有機珪素化合物等の縮合又は部分縮合は、公知の方法で行うことができる。上記加水分解性有機珪素化合物等を縮合又は部分縮合する方法としては、例えば、上述の方法により上記加水分解性有機珪素化合物等の加水分解又は部分加水分解を行い、(部分)加水分解物を得た後、所望によりシラノール縮合触媒、例えば、金属のキレート化合物、有機酸金属塩、及び加水分解性基を有する金属化合物などを添加して、所定の温度、典型的には50℃以上、かつ上記有機溶剤の沸点以下の温度程度で、攪拌しながら反応させる方法をあげることができる。
【0086】
上記加水分解性有機珪素化合物としては、例えば、アルコキシモノシラン化合物、ビス(アルコキシシリル)アルキル化合物、及び、これらの1種又は2種以上のオリゴマーやプレポリマーなどのアルコキシシラン化合物をあげることができる。
【0087】
上記成分(F)加水分解性基を有するシラン化合物としては、シランカップリング剤を用いてもよい。上記シランカップリング剤は、1分子中に1個以上の加水分解性基と1個以上の有機重合性官能基を有するシラン化合物である。上記シランカップリング剤を用いることにより、該シランカップリング剤の有する有機重合性官能基が上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂と、加水分解性基が上記成分(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩、上記成分(C)鎖状シリカ、及び上記成分(D)球状シリカと反応し、塗料の硬化性、塗膜の耐擦傷性を高めることができる。
【0088】
上記シランカップリング剤の有する加水分解性基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基;アセトキシ基などのアシルオキシ基;及び、クロロ基などのハロゲン基などをあげることができる。上記シランカップリング剤の有する有機重合性官能基としては、例えば、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド基、及びイソシアヌレート基などをあげることができる。上記シランカップリング剤は、これらの加水分解性基の1種又は2種以上とこれらの有機重合性官能基の1種又は2種以上を、それぞれ1分子中に1個又は2個以上含むものであってよい。
【0089】
上記成分(F)加水分解性基を有するシラン化合物としてはこれらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0090】
上記成分(F)加水分解性基を有するシラン化合物を用いる実施形態において、その配合量は、その使用効果を確実に得る観点、及び塗膜の防曇性の観点から適宜決定する。上記成分(F)の配合量は、その使用効果を確実に得る観点から、上記成分(A)活性エネルギー線硬化性樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上であってよい。一方、塗膜の防曇性の観点から、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更に好ましくは30質量部以下であってよい。
【0091】
(G)反応促進剤:
本発明の塗料は、上記成分(F)加水分解性基を有するシラン化合物を用いる実施形態において、好ましくは更に上記成分(G)反応促進剤を含むものであってよい。上記成分(G)は、上記成分(F)の加水分解を促進し、上記成分(F)の使用効果を確実に得ることができるようにする働きをする。
【0092】
上記成分(G)反応促進剤としては、例えば、塩酸、リン酸、酢酸、及び蟻酸などの酸、並びにアルカリなどの水溶液をあげることができる。これらの中で上記成分(G)としては、塩酸の水溶液が好ましい。上記成分(G)としてはこれらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0093】
上記成分(G)反応促進剤の使用量は、上記成分(G)の種類、並びに、上記成分(F)加水分解性基を有するシラン化合物の種類、及びその配合量を勘案して適宜決定する。上記成分(G)の使用量は、例えば、上記成分(G)として濃度0.5モル/Lの塩酸水溶液を用いる場合には、上記成分(F)加水分解性基を有するシラン化合物100質量部に対して、上記塩酸水溶液を通常20~200質量部、好ましくは50~150質量部であってよい。
【0094】
本発明の塗料は、本発明の目的に反しない限度において、上記成分(A)~(G)以外のその他の任意成分を更に含むものであってよい。上記その他の任意成分としては、例えば、消泡剤、レベリング剤、界面活性剤、チクソ性付与剤、帯電防止剤、汚染防止剤、印刷性改良剤、酸化防止剤、耐候性安定剤、耐光性安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、無機粒子、有機粒子、顔料、及び染料などをあげることができる。上記その他の任意成分としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。上記その他の任意成分の配合量は、上記成分(A)100質量部に対して、通常10質量部以下、あるいは0.01~10質量部程度であってよい。
【0095】
本発明の塗料は、ウェット塗膜を形成する際の生産性の観点から、更に、溶剤を含むものであってよい。上記溶剤としては、上記成分(A)~(G)、及び上記その他の任意成分と反応したり、これらの成分の自己反応(劣化反応を含む)を触媒(促進)したりしないものであれば、特に制限されない。上記溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール(イソプロピルアルコール)、1‐ブタノール、2‐メチル‐1‐プロパノール(イソブチルアルコール)、2‐ブタノール、2‐メチル‐2‐プロパノール(tert‐ブチルアルコール)、2‐メトキシエタノール、2‐エトキシエタノール、1‐メトキシ‐2‐プロパノール、1‐エトキシ‐2‐プロパノール、1,3‐ブタンジオール、1,4‐ブタンジオール、2‐エチルヘキサノール、1‐メトキシ‐2‐プロパノール、1‐エトキシ‐2‐プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n‐プロピル、酢酸1‐メチルエチル、酢酸n‐ブチル、酢酸2‐メチルプロピル、酢酸1‐メチルプロピル、酢酸tert‐ブチル、及びトルエンなどをあげることができる。
【0096】
これらの中で、上記溶剤としては水溶性の溶剤が好ましい。ここで「水溶性」とは、任意の割合で温度20℃の純水と混合し得る(混合液が均一な外観を維持する)ことを意味する。上記水溶性の溶剤としては、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール(イソプロピルアルコール)、2‐メトキシエタノール、2‐エトキシエタノール、2‐メチル‐2‐プロパノール、1,3‐ブタンジオール、及び1,4‐ブタンジオールなどをあげることができる。
【0097】
上記溶剤としてはこれらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0098】
本発明の塗料は、これらの成分を混合、攪拌することにより得ることができる。
【0099】
2.塗膜:
本発明の塗膜は、本発明の塗料を用いて形成される塗膜である。本発明の塗膜は、実施形態の1つにおいて、本発明の塗料をフィルム基材の面の上に塗布し、硬化することにより形成される。本発明の塗膜は、他の実施形態の1つにおいて、本発明の塗料を成形体の面の上に塗布し、硬化することにより形成される。
【0100】
本発明の塗料をフィルム基材の面の上に塗布し、硬化することにより本発明の塗膜を形成する実施形態について説明する。この実施形態の場合、本発明の塗料を上記フィルム基材の面の上に塗布してウェット塗膜を形成し、予備乾燥した後、活性エネルギー線を照射して硬化することにより本発明の塗膜を形成することができる。
【0101】
本発明の塗料を上記フィルム基材の面の上に塗布する方法は、特に制限されず、公知の塗布方法を使用することができる。上記塗布方法としては、ロール・トゥ・ロールの方法で生産性良く塗料を塗布する観点から、例えば、ロッドコート、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、キスリバースコート、及びダイコートなどの方法が好ましい。
【0102】
上記予備乾燥の方法は、特に制限されず、公知の乾燥方法を使用することができる。上記予備乾燥の方法としては、例えば、ウェブを通常は温度23~150℃程度、好ましくは温度50~130℃、より好ましくは70~120℃に設定された乾燥炉内を、入口から出口までパスするのに要する時間が0.5~10分程度、好ましくは1~5分となるようなライン速度でパスさせることにより行うことができる。
【0103】
上記活性エネルギー線の照射量は、塗膜を完全硬化させるのに必要十分な照射量とする観点から、塗料の特性を勘案して適宜決定する。上記活性エネルギー線の照射量は、通常10~10000mJ/cm程度、好ましくは200~2000mJ/cm、より好ましくは300~700mJ/cmであってよい。
【0104】
上記塗膜の厚みは、防曇性、耐擦傷性、及び塗膜を形成する際の生産性を勘案して適宜決定する。上記塗膜の厚みは、防曇性、耐擦傷性の観点から、通常0.5μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは1.5μm以上、更に好ましくは2μm以上であってよい。一方、塗膜を形成する際の生産性の観点から、通常60μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは10μm以下であってよい。
【0105】
上記フィルム基材が本発明の物品の構成材料の1つである場合について説明する。
【0106】
上記フィルム基材が本発明の物品の構成材料の1つである場合、上記フィルム基材は、物品の透明性を高め、視認性を確保する観点から、高い透明性を有し、かつ着色のないものが好ましい。このようなフィルムとしては、例えば、トリアセチルセルロース等のセルロースエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;エチレンノルボルネン共重合体等の環状炭化水素系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、及びビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体等のアクリル系樹脂;芳香族ポリカーボネート系樹脂;ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂;ポリプロピレン、及びポリ4‐メチルペンテン‐1等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリマー型ウレタンアクリレート系樹脂;並びに、ポリイミド系樹脂などの透明樹脂フィルムをあげることができる。これらのフィルムは無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、及び二軸延伸フィルムを包含する。またこれらのフィルムは、これらの1種又は2種以上を、2層以上積層した積層フィルムを包含する。
【0107】
上記フィルム基材が本発明の物品の構成材料の1つである場合、上記フィルム基材の厚みは物品の用途を勘案して適宜決定する。上記フィルム基材が本発明の物品の構成材料の1つである場合、上記フィルム基材の厚みは、ハンドリング性の観点から、通常20μm以上、好ましくは50μm以上であってよい。上記フィルム基材の厚みは、物品の強度の観点から、通常100μm以上、好ましくは150μm以上であってよい。一方、上記フィルム基材の厚みは、物品の軽量化の観点から、通常2000μm以下、好ましくは800μm以下、より好ましくは600μm以下であってよい。
【0108】
また上記フィルム基材としては、ガラスフィルム、透明樹脂フィルムとガラスフィルムとの積層体を用いてもよい。この場合のフィルム基材の厚みは、ガラスフィルムの強度と物品の用途を勘案して適宜決定する。
【0109】
上記フィルム基材が本発明の物品の構成材料の1つである場合、上記フィルム基材と本発明の塗膜との密着性を高める観点から、上記フィルム基材の塗膜形成面は、コロナ放電処理やアンカーコート形成などの易接着処理が施されたものであってよい。
【0110】
次に、本発明の塗膜を他の基材(例えば、フィルム、シート、板、及び任意の形状の基体など)に転写して用いる場合(即ち、上記フィルム基材は本発明の物品を構成しない場合。)について説明する。
【0111】
本発明の塗膜を他の基材に転写して用いる場合、上記フィルム基材としては、特に制限されず、任意のフィルム基材を用いることができる。この場合、上記フィルム基材としては、ウェブハンドリング性、及び経済性の観点から、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂の無延伸フィルム、及び二軸延伸フィルム、並びにポリプロピレン系樹脂の無延伸フィルム、及び二軸延伸フィルムが好ましい。
【0112】
本発明の塗膜を他の基材に転写して用いる場合、上記フィルム基材の厚みは、ウェブハンドリング性の観点から、通常20μm以上、好ましくは30μm以上であってよい。一方、上記フィルム基材の厚みは、経済性の観点から、通常100μm以下、好ましくは75μm以下であってよい。
【0113】
本発明の塗膜を他の基材に転写して用いる場合、上記フィルム基材の塗膜形成面は易剥離処理されたものであってよい。
【0114】
続いて、本発明の塗料を成形体の面の上に塗布し、硬化することにより本発明の塗膜を形成する実施形態について説明する。この実施形態の場合、本発明の塗料を上記成形体の面の上に、通常は、水滴による曇りの発生を抑制すべき面の上に塗布してウェット塗膜を形成し、予備乾燥した後、活性エネルギー線を照射して硬化することにより本発明の塗膜を形成することができる。
【0115】
上記成形体については「3.物品」の項において説明する。
【0116】
本発明の塗料を上記成形体の面の上に塗布する方法は、特に制限されず、公知の塗布方法を使用することができる。上記塗布方法としては、例えば、スプレーコート、ディップコート、及びエアナイフコートなどの方法をあげることができる。
【0117】
上記予備乾燥の方法は、特に制限されず、公知の乾燥方法を使用することができる。上記予備乾燥の方法としては、例えば、通常は温度23~150℃程度、好ましくは温度50~130℃、より好ましくは70~120℃に設定された乾燥炉内で0.5~10分程度、好ましくは1~5分程度乾燥する方法をあげることができる。
【0118】
上記活性エネルギー線の照射量は、塗膜を完全硬化させるのに必要十分な照射量とする観点から、塗料の特性を勘案して適宜決定する。上記活性エネルギー線の照射量は、通常10~10000mJ/cm程度、好ましくは200~2000mJ/cm、より好ましくは300~700mJ/cmであってよい。
【0119】
上記塗膜の厚みは、防曇性、耐擦傷性、及び塗膜を形成する際の生産性を勘案して適宜決定する。上記塗膜の厚みは、防曇性、耐擦傷性の観点から、通常0.5μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは1.5μm以上、更に好ましくは2μm以上であってよい。一方、塗膜を形成する際の生産性の観点から、通常60μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは10μm以下であってよい。
【0120】
3.物品:
本発明の物品は、本発明の塗膜を有する。本発明の物品は、実施形態の1つにおいて、本発明の塗膜を有し、かつ該塗膜は物品の表面の少なくとも一部を形成する。本発明の物品は、好ましい実施形態の1つにおいて、本発明の塗膜を水滴による曇りの発生を抑制すべき面の上に有し、かつ該面側の表面を本発明の塗膜が形成する。
【0121】
本発明の物品を生産する方法としては、例えば、本発明の塗料を用い、フィルム基材の面の上に本発明の塗膜を形成して本発明の塗膜を有する積層フィルムを得た後、該積層フィルムを成形体の面の上に貼合する方法;本発明の塗料を用い、フィルム基材の面の上に本発明の塗膜を形成した後、該塗膜を成形体の面の上に転写する方法;及び、本発明の塗料を用い、成形体の面の上に本発明の塗膜を形成する方法などをあげることができる。
【0122】
本発明の塗料を用い、フィルム基材の面の上に本発明の塗膜を形成する方法については上述した。本発明の塗料を用い、成形体の面の上に本発明の塗膜を形成する方法については上述した。
【0123】
上記成形体は、本発明の物品の基体であり、本発明の物品に所望の形状を付与し、耐衝撃性、強度、及び剛性などの機械的物性を付与する働きをする。上記成形体は、典型的な実施形態の1つにおいて、特に視認性を確保することが求められる物品の基体となる。上記成形体は、実施形態の1つにおいて、三次元形状を有する、典型的には樹脂製、又はガラス製のものであってよい。上記成形体は、他の実施形態の1つにおいて、典型的には樹脂製、又はガラス製のフィルム、シート又は板であってよい。
【0124】
三次元形状を有する成形体を生産する方法としては、例えば、樹脂シートをメンブレンプレス成形、圧空プレス成形、真空成形、及び真空圧空成形などの三次元成形法により成形する方法;熱可塑性樹脂を射出成形、ブロー成形、及び押出成形などの方法により成形する方法;並びに、硬化性樹脂を、所望の形状の型に注入し、硬化させる方法などをあげることができる。
【0125】
樹脂シートを三次元成形する方法について説明する。
【0126】
上記樹脂シートの厚みは、特に制限されないが、物品の基体として必要な強度及び剛性を保持する観点から、通常0.1mm以上、好ましくは0.2mm以上、より好ましくは0.5mm以上、更に好ましくは0.8mm以上、最も好ましくは1mm以上であってよい。一方、物品の軽量化の要求に応える観点、及び三次元成形性の観点から、通常10mm以下、好ましくは6mm以下、より好ましくは3mm以下であってよい。
【0127】
上記樹脂シートの引張弾性率は、特に制限されないが、物品の基体として必要な強度及び剛性を保持する観点から、好ましくは1500MPa以上、より好ましくは1800MPa以上であってよい。引張弾性率の上限は特にないが、樹脂シートであるから、通常入手可能な範囲ではせいぜい10000MPa程度であろう。引張弾性率は、JIS K7127:1999に従い、試験片タイプ1B、引張速度50mm/分の条件で測定する。
【0128】
上記樹脂シートを構成する樹脂のガラス転移温度は、特に制限されないが、耐熱性(成形体の生産時に必要とされる耐熱性、及び物品の使用時に必要とされる耐熱性の両方を含む。)を保持する観点から、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは110℃以上であってよい。なお上記樹脂シートが、構成樹脂として2種類以上の樹脂を含むときは、これらの中で最もガラス転移温度の低い樹脂が、上記範囲を満たすことが好ましい。
【0129】
上記樹脂シートを構成する樹脂のガラス転移温度は、上記成形体を得るために三次元成形する際の加工性の観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは160℃以下、更に好ましくは150℃以下であってよい。なお上記樹脂シートが、構成樹脂として2種類以上の樹脂を含むときは、これらの中で最もガラス転移温度の高い樹脂が、上記範囲を満たすことが好ましい。
【0130】
本明細書において、ガラス転移温度は、示差走査熱量計を使用し、試料を50℃/分の昇温速度で200℃まで昇温し、200℃で10分間保持した後、20℃/分の降温速度で50℃まで冷却し、50℃で10分間保持した後、20℃/分の昇温速度で200℃まで加熱するという温度プログラムにおける最後の昇温過程において測定される曲線に現れるガラス転移について、ASTM D3418の図2に従い作図して算出される中間点ガラス転移温度である。上記示差走査熱量計としては、例えば、株式会社パーキンエルマージャパンのDiamond DSC型示差走査熱量計を使用することができる。
【0131】
上記樹脂シートとしては、視認性を確保する観点から、透明樹脂シートが好ましい。上記透明樹脂シートとしては、例えば、トリアセチルセルロース等のセルロースエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;エチレンノルボルネン共重合体等の環状炭化水素系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、及びビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体等のアクリル系樹脂;芳香族ポリカーボネート系樹脂;ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂;ポリプロピレン、及びポリ4‐メチルペンテン‐1等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリマー型ウレタンアクリレート系樹脂;及びポリイミド系樹脂;などの透明樹脂シートをあげることができる。これらのシートは無延伸シート、一軸延伸シート、及び二軸延伸シートを包含する。またこれらのシートは、これらの1種又は2種以上を、2層以上積層した積層シートを包含する。
【0132】
上記樹脂シートを用いて、真空成形法により三次元形状を有する成形体を生産する方法を説明する。
【0133】
図1は真空成形法により生産された三次元形状を有する成形体の一例を示す平面図(図1(a))と側面図(図1(b))である。図2は真空成形法を説明する概念図である。以下、図2に基づいて説明する。先ず、樹脂シート6を、赤外線ヒーター7を使用して加熱し、軟化させる(図2(a))。次に、軟化した樹脂シート6を赤外線ヒーター7から外し、速やかに成形型8の上に被覆させる(図2(b))。続いて、樹脂シート6と成形型8との間の空間9を減圧し、樹脂シート6を成形型8に密着させて、成形体10を得る(図2(c))。空間9の圧力は、樹脂シート6と成形型8とを、その間に空気を残留させることなく十分密着させる観点から、好ましく10KPa以下、より好ましくは1KPa以下であってよい。空間9の圧力は、密着させる観点からは、小さいほど密着力が大きくなるため好ましい。一方、空間9の圧力を小さくするためには加速度的にコストがかかること、及び樹脂シート6の機械的強度を考慮すれば、実用的には、上記空間9の圧力の下限は10-5KPa程度であってよい。
【0134】
熱可塑性樹脂を射出成形、ブロー成形、及び押出成形などの方法により成形する方法について説明する。
【0135】
熱可塑性樹脂を射出成形する方法は、特に制限されず、公知の方法を使用することができる。なお本明細書において、上記射出成形にはインサート成形も含む。成形型にインサートする樹脂シートとしては、上述したものを用いることができる。熱可塑性樹脂をブロー成形する方法は、特に制限されず、公知の方法を使用することができる。熱可塑性樹脂を押出成形する方法は、特に制限されず、公知の方法を使用することができる。これらの中で、形状の自由度の観点から、射出成形が好ましい。
【0136】
射出成形、ブロー成形、又は押出成形に用いる上記熱可塑性樹脂としては、視認性を確保する観点から、透明性に優れる熱可塑性樹脂が好ましい。このような熱可塑性樹脂としては、例えば、トリアセチルセルロース等のセルロースエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;エチレンノルボルネン共重合体等の環状炭化水素系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、及びビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体等のアクリル系樹脂;芳香族ポリカーボネート系樹脂;ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂;ポリプロピレン、及びポリ4‐メチルペンテン‐1等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリマー型ウレタンアクリレート系樹脂;並びに、ポリイミド系樹脂などをあげることができる。
【0137】
硬化性樹脂を、所望の形状の型に注入し、硬化させる方法について説明する。
【0138】
上記成形体を構成するための上記硬化性樹脂は、熱により、あるいは活性エネルギー線を照射することにより硬化させることのできる樹脂である。上記硬化性樹脂としては、特に制限されず、任意の硬化性樹脂を用いることができる。
【0139】
上記硬化性樹脂としては、例えば、1分子中に2個以上の重合性官能基を有する樹脂;及び、該樹脂と硬化剤との樹脂組成物;などをあげることができる。上記重合性官能基としては、例えば、アミノ基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、イソシアネート基、アルコキシ基、アシルオキシ基、及びハロゲン基などをあげることができる。上記硬化剤としては、イソシアネート系硬化剤(1分子中に2個以上のイソシアネート基(-N=C=O)を有する化合物)、光重合開始剤、及び有機過酸化物などをあげることができる。
【0140】
上記硬化性樹脂としては、視認性を確保する観点から、透明性に優れる硬化性樹脂が好ましい。このような硬化性樹脂としては、例えば、アクリル系硬化性樹脂、及びポリエステル系硬化性樹脂などをあげることができる。
【0141】
上記硬化性樹脂としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0142】
本発明の物品としては、例えば、ゴーグル、サングラス、偏光メガネ、ヘルメットシールド、自動車のヘッドランプカバー、オートバイのヘッドランプカバー、自動車のリアランプカバー、オートバイのリアランプカバー、建築物の窓ガラス、該窓ガラスを代替する透明樹脂基材、自動車のウィンドウガラス、及び該ウィンドウガラスを代替する透明樹脂基材などをあげることができる。
【0143】
図3は本発明の防曇性塗料を用いて形成される塗膜を有する積層体(自動車のウィンドウガラスを代替する透明樹脂基材)の一例を示す断面の概念図である。実使用状態において自動車の車外側の表面から順に、耐候性に優れるハードコート11、アンカーコート12、透明樹脂シートの層13、赤外線遮蔽機能を有する塗膜14、及び本発明の防曇性塗料を用いて形成される防曇性塗膜15を有し、該防曇性塗膜15は実使用状態において自動車の車内側の表面を形成する。
【実施例0144】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0145】
測定方法
(イ)防曇性1(初期防曇性):
円筒形の容器(内径240mm、高さ120mm)に蒸留水3Lを入れ、容器の口を縦5cm×横5cmの大きさの窓を開けたアクリル板で蓋をし、湯浴により蒸留水の温度を50℃にまで加温した後、防曇性フィルムから採取した試験片(マシン方向10cm×横方向10cm)を、上記アクリル板の窓を塞ぐように、かつ上記試験片の防曇性塗膜面が上記アクリル板側となるように置いた。1分間経過後、上記試験片の上記アクリル板の窓を塞いでいる箇所、及び該箇所から容器内の蒸留水の水面を目視観察し、以下の基準で評価した。
A:試験片の透明性は試験前と目視観察時とで差を感じなかった。そのため、試験片に曇りは全く生じなかったと判断した。
B:試験片の透明性が、試験前と比較して目視観察時は少し低下したと感じた。そのため、試験片に僅かな曇りが発生したと判断した。
C:試験片の透明性が、試験前と比較して目視観察時は低下し、試験片に曇りが発生したことが分かった。但し、試験片の曇りは容器内の蒸留水の水面を確認できる程度であった。
D:試験片の透明性が、試験前と比較して目視観察時は大きく低下し、試験片に強い曇りが発生したことが分かった。そして、容器内の蒸留水の水面を確認できなくなった。
【0146】
(ロ)防曇性2(防曇性の持続性):
上記試験片を予め温度24℃の蒸留水に10分間浸漬した後、直ちに試験に用いたこと以外は、上記試験(イ)防曇性1と同様に行い、同様の基準で評価した。
【0147】
上記試験(ロ)防曇性2は、蒸留水に浸漬し、塗膜を吸水状態にした後に行う試験であることから、高湿度の環境であっても十分な防曇性が持続するか否かの指標と考えられる。
【0148】
(ハ)防曇性3(乾燥後防曇性1):
上記試験片を予め温度24℃の蒸留水に10分間浸漬し、次に温度24℃、相対湿度30%の環境下で30分間乾燥した後、直ちに試験に用いたこと以外は、上記試験(イ)防曇性1と同様に行い、同様の基準で評価した。
【0149】
(ニ)防曇性4(乾燥後防曇性2):
上記試験片を予め温度24℃の蒸留水に10分間浸漬し、次に温度24℃、相対湿度30%の環境下で30分間乾燥した後、直ちに試験に用いたこと、及び上記試験片を上記アクリル板に置いてから5秒後に目視観察を行ったこと以外は、上記試験(イ)防曇性1と同様に行い、同様の基準で評価した。
【0150】
上記試験(ハ)防曇性3と上記試験(ニ)防曇性4は、蒸留水に浸漬し、塗膜を吸水状態にした後、更に塗膜を乾燥して行う試験であることから、高湿度の環境と低湿度の環境が繰り返されても十分な防曇性が持続するか否かの指標と考えられる。
【0151】
(ホ)ヘーズ:
JIS K7136:2000に従い、日本電色工業株式会社の濁度計「NDH4000(商品名)」を使用し、防曇性フィルムの塗膜面側から光を入射する条件で、ヘーズ(単位:%)を測定した。
【0152】
防曇性フィルムのヘーズは、用途にもよるが、好ましくは10%以下、より好ましくは6%以下、更に好ましくは4%以下、より更に好ましくは3%以下、最も好ましくは2%以下であってよい。
【0153】
(へ)碁盤目試験(塗膜密着性):
JIS K5600‐5‐6:1999に従い、防曇性フィルムの塗膜面側から碁盤目の切れ込みを100マス(1マス=1mm×1mm)入れた後、密着試験用テープを碁盤目へ貼り付けて指でしごいた後、剥がした。評価基準はJISの上記規格の表1に従った。
分類0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にも剥れがない。
分類1:カットの交差点における塗膜の小さな剥れ。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を上回ることはない。
分類2:塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点において剥れている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を超えるが15%を上回ることはない。
分類3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大剥れを生じており、及び/又は目のいろいろな部分が、部分的又は全面的に剥れている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に15%を超えるが35%を上回ることはない。
分類4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大剥れを生じており、及び/又は数箇所の目が、部分的又は全面的に剥れている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に35%を超えるが65%を上回ることはない。
分類5:剥れの程度が分類4を超える場合。
【0154】
(ト)耐擦傷性:
縦240mm、横25mmの大きさで、マシン方向が試験片の縦方向となるように採取した試験片を、防曇性フィルムの塗膜面側が表面となるようにJIS L0849:2013のクロックメータ形試験機(摩擦試験機1形)に置き、該試験機の摩擦端子を4枚重ねのガーゼ(川本産業株式会社の医療用タイプ1ガーゼ)で覆い、試験片と接触するようにセットし、200g荷重を載せ、試験片の塗膜面を、摩擦端子の移動距離120mm、速度0.5往復/秒の条件で往復50回擦った後、蛍光灯下、蛍光灯から50cm離れた位置において、試験片の摩擦箇所を目視観察することにより傷の有無を判定した。傷の認められないときは、更に試験片の同じ個所を追加で擦った後、目視観察する作業を繰り返した。このとき追加する回数は、追加毎に、往復50回、100回、300回、500回、及び1000回と増やした。以下の基準で評価した。
A:傷は往復2000回後にも認められなかった。
B:傷は往復1000回後には認められなかったが往復2000回後には認められた。
C:傷は往復500回後には認められなかったが往復1000回後には認められた。
D:傷は往復200回後には認められなかったが往復500回後には認められた。
E:傷は往復100回後には認められなかったが往復200回後には認められた。
F:傷は往復50回後には認められなかったが往復100回後には認められた。
G:傷が往復50回後に認められた。
【0155】
使用した原材料
(A)活性エネルギー線硬化性樹脂:
(A‐1)東亜合成株式会社のソルビトールアクリレート「アロニックスM‐926(商品名)」。1分子中に2個のアクリロイル基を有する。温度20℃の純水1gに1g以上が容易に溶解した(任意の割合で水に溶解すると推定した)。
(A‐2)東亜合成株式会社のグリセリンジアクリレート「アロニックスM‐920(商品名)」。
(A‐3)株式会社大阪ソーダのペンタエリスリトールトリアリルエーテル「ネオアリルP‐30(商品名)」。
(A‐4)SC有機化学株式会社のペンタエリスリトールテトラキス(3‐メルカプトプロピオネート)「PEMP(商品名)」。
【0156】
(B)ポリアルキレングリコールスルホン酸アミン塩:
(B‐1)第一工業製薬株式会社のポリエチレングリコールの一方の末端にスルホン酸基を有する化合物であって、アリルエーテル基を有する化合物のアンモニウム塩「アクアロンKH05(商品名)」。
(B‐2)第一工業製薬株式会社のポリエチレングリコールの一方の末端にスルホン酸基を有する化合物であって、アリルエーテル基を有する化合物のアンモニウム塩「アクアロンKH10(商品名)」。
【0157】
上記成分(B‐1)、及び上記成分(B‐2)は下記一般式(b3)を有する化合物である。
【0158】
CH=CH-CH-O-CH-CHR-O-((CH-O)n-SO・NH4 ・・・(b3)
【0159】
ここでRは酸素原子、窒素原子を有していてもよい炭化水素基。nは1~30の自然数である。
【0160】
(B‐3)日本乳化剤株式会社のエチレングリコールと1,4‐ブタンジオールとの共重合体の一方の末端にスルホン酸基を有する化合物と2‐(ジメチルアミノ)エチルアクリレートとの塩(下記式(b4)の化合物)の希釈液「アミノイオンRE3000MF(商品名)」。固形分(塩の含有量)50質量%。
【0161】
1327-O-((CH-O)-((CH-O)-SO・(CHNH-(CH-OCOCH=CH ・・・(b4)
【0162】
(C)鎖状シリカ:
(C‐1)日産化学株式会社の直鎖状鎖状シリカのプロピレングリコールモノメチルエーテル分散液「PGM‐ST‐UP(商品名)」。平均一次粒子径12nm、平均二次粒子径70nm、固形分(鎖状シリカの含有量)20質量%。
(C‐2)日産化学株式会社のネックレス状鎖状シリカの分散液「ST‐PS‐SO(商品名)」。
平均一次粒子径15nm、平均二次粒子径88nm、固形分(鎖状シリカの含有量)20質量%。
【0163】
(D)球状シリカ:
(D‐1)日産化学株式会社の球状シリカのプロピレングリコールモノメチルエーテル分散液「PGM‐ST(商品名)」。平均一次粒子径13nm、固形分(球状シリカの含有量)30質量%。
(D‐2)日産化学株式会社の球状シリカのイソプロピルアルコール分散液「IPA‐ST‐L(商品名)」。平均一次粒子径45nm、固形分(球状シリカの含有量)30質量%。
【0164】
(E)光重合開始剤:
(E‐1)IGM Resins社のヒドロキシアセトフェノン系光重合開始剤(2‐ヒロドキシ‐1‐{4‐[4‐(2‐ヒドロキシ‐2‐メチル‐プロピオニル)‐ベンジル]フェニル}‐2‐メチル‐プロパン‐1‐オン)「Omnirad 127(商品名)」。
【0165】
(F)加水分解性基を有するシラン化合物:
(F‐1)信越化学工業株式会社のトリメトキシシリル基とアクリロイル基を何れも2個以上有するポリマー型シランカップリング剤「X‐12‐1050(商品名)」。
(F‐2)コルコート社のシリケートオリゴマー「メチルシリケート51(商品名)」。
【0166】
(G)反応促進剤:
(G‐1)濃度0.5モル/Lの塩酸水溶液。
【0167】
(H)その他の成分:
(H‐1)株式会社ネオスのレベリング剤の酢酸エチル希釈液「フタージェント602A(商品名)」。固形分(レベリング剤の含有量)50質量%。
【0168】
(P)フィルム基材:
(P‐1)東レ株式会社の厚み50μmの両面易接着二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム「ルミラー(商品名)」。
【0169】
(Q)防曇性塗料:
(Q‐1)上記成分(A‐1)100質量部、上記成分(B‐1)25質量部、上記成分(B‐3)4質量部(固形分換算2質量部)、上記成分(C‐1)525質量部(固形分換算105質量部)、上記成分(D‐1)567質量部(固形分換算170質量部)、上記成分(E‐1)5.6質量部、上記成分(F‐1)14質量部、上記成分(G‐1)19質量部、上記成分(H‐1)1.4質量部(固形分換算0.7質量部)、及びメタノール635質量部を混合攪拌し、防曇性塗料(Q‐1)を得た。なお表には、上記成分(G)反応促進剤と溶剤を除き、固形分換算の値を記載した。
【0170】
(Q‐2)~(Q‐29):
配合を表1~3の何れか1に示すように変更したこと以外は上記防曇性塗料(Q‐1)と同様にして防曇性塗料(Q‐2)~(Q‐29)を得た。
【0171】
例1
上記防曇性塗料(Q‐1)を用い、フィルムメイヤーバー方式の塗工装置を使用し、上記フィルム基材(P‐1)の片面の上に、硬化後の厚みが5μmとなるようにウェット塗膜を形成し、乾燥炉で予備乾燥した後、紫外線を照射して硬化し、防曇性塗膜を形成し、フィルム基材の片面の上に防曇性塗膜を有する防曇性フィルムを得た。上記試験(イ)~(ト)を行った。結果を表1に示す。
【0172】
例2~29
防曇性塗料として表1又は2に示すものを用いたこと以外は、例1と同様にして防曇性フィルムを得た。上記試験(イ)~(ト)を行った。結果を表1~3の何れか1に示す。
【0173】
【表1】
【0174】
【表2】
【0175】
【表3】
【0176】
本発明の塗料を用いて形成された塗膜は、優れた防曇性を発現することが分かった。本発明の好ましい塗料を用いて形成された塗膜は、高湿度の環境であっても十分な視認性を確保できる防曇性を発現し、かつこれが持続することが分かった。本発明のより好ましい塗料を用いて形成された塗膜は、更に透明性、耐擦傷性、及び透明樹脂基材との密着性にも優れることが分かった。また、上記試験(ロ)防曇性2における蒸留水に浸漬後の塗膜の面状態から、吸水しても、その寸法安定性は十分なレベルにあると判断した。
【図面の簡単な説明】
【0177】
図1】真空成形法により生産された三次元形状を有する成形体の一例を示す平面図と側面図である。
図2】真空成形法を説明する概念図である。
図3】本発明の防曇性塗料を用いて形成される塗膜を有する積層体の一例を示す断面の概念図である。
【符号の説明】
【0178】
1:楕円形状を有する成形体の天頂平坦部の長軸長さ
2:楕円形状を有する成形体の端部の長軸長さ
3:楕円形状を有する成形体の天頂平坦部の短軸長さ
4:楕円形状を有する成形体の端部の短軸長さ
5:成形体の端部から天頂部までの高さ
6:樹脂シート
7:赤外線ヒーター
8:成形型
9:樹脂シート6と成形型8との間の空間
10:成形体
11:耐候性に優れるハードコート
12:アンカーコート
13:透明樹脂シートの層
14:赤外線遮蔽機能を有する塗膜
15:本発明の防曇性塗料を用いて形成される防曇性塗膜

図1
図2
図3