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特開2022-151949無停波フィルタ装置、レーダ装置、及び無停波フィルタ方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151949
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】無停波フィルタ装置、レーダ装置、及び無停波フィルタ方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/36 20060101AFI20221004BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G01S7/36
H04B1/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054514
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】599161890
【氏名又は名称】NECネットワーク・センサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆夫
【テーマコード(参考)】
5J070
5K060
【Fターム(参考)】
5J070AB06
5J070AC01
5J070AE20
5J070AH42
5J070AK40
5J070BB01
5J070BH08
5K060BB07
5K060CC04
5K060DD06
5K060HH11
5K060KK03
(57)【要約】
【課題】レーダ装置の停波状態を発生させずに不必要電波をフィルタで確実に除去するという課題を解決する。
【解決手段】無停波フィルタ装置20において、レーダ送信信号11を異なる周波数の少なくとも2つ以上の分波信号110に分波し、少なくとも2つ以上の分波信号110の各々を所定の周波数帯域にフィルタリングする。フィルタリングされた少なくとも2つ以上の分波信号110の振幅を調整し、振幅が調整された少なくとも2つ以上の分波信号110を合成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ送信信号を異なる周波数の少なくとも2つ以上の分波信号に分波する分波器と、
前記少なくとも2つ以上の分波信号の各々を所定の周波数帯域にフィルタリングする少なくとも2つ以上のバンドパスフィルタと、
前記フィルタリングされた前記少なくとも2つ以上の分波信号の振幅を調整する振幅調整回路と、
前記振幅が調整された前記少なくとも2つ以上の分波信号を合成する合成器と、
を備える無停波フィルタ装置。
【請求項2】
前記振幅調整回路は、前記少なくとも2つ以上のバンドパスフィルタの各々に順に接続された分配器、並列する2つの移相器、及び振幅調整用合成器を備え、
前記振幅調整回路は、
前記フィルタリングされた前記少なくとも2つ以上の分波信号のうち、前記レーダ送信信号の送信周波数以外である分波信号を、前記分配器で等位相及び等振幅で2分配した後に前記2つの移相器で逆位相にしてから前記振幅調整用合成器で合成し、
前記フィルタリングされた前記少なくとも2つ以上の分波信号のうち、前記レーダ送信信号の前記送信周波数である分波信号を、前記分配器で等位相及び等振幅で2分配した後に前記2つの移相器で所定の振幅に加工してから前記振幅調整用合成器で合成する請求項1に記載の無停波フィルタ装置。
【請求項3】
前記振幅調整回路は、前記レーダ送信信号の前記送信周波数以外である前記分波信号の不要電力を打ち消すように構成されている請求項2に記載の無停波フィルタ装置。
【請求項4】
前記振幅調整回路は、前記レーダ送信信号の前記送信周波数である前記分波信号の送信電力を調整するように構成されている請求項2又は請求項3に記載の無停波フィルタ装置。
【請求項5】
前記振幅調整回路は、前記レーダ送信信号を出力するレーダ送信機から当該レーダ送信信号と共に、前記レーダ送信信号の前記送信周波数を特定する周波数選択信号が入力される請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の無停波フィルタ装置。
【請求項6】
前記振幅調整回路は、前記周波数選択信号に基づいて、前記移相器の移相量の制御を行う移相制御信号を前記移相器に送信する移相制御器、
をさらに備える請求項5に記載の無停波フィルタ装置。
【請求項7】
前記レーダ送信信号を前記分波器に入力するサーキュレータと、
前記サーキュレータに接続され、前記分波信号の反射波を吸収するダミーロードと、
をさらに備える請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の無停波フィルタ装置。
【請求項8】
前記レーダ送信信号が少なくとも2種類以上の前記送信周波数を併せ持つ請求項2から請求項7のいずれか一項に記載の無停波フィルタ装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の無停波フィルタ装置と、
前記レーダ送信信号を出力するレーダ送信機と、
を備えるレーダ装置。
【請求項10】
レーダ送信信号を異なる周波数の少なくとも2つ以上の分波信号に分波する工程と、
前記少なくとも2つ以上の分波信号の各々を所定の周波数帯域にフィルタリングする工程と、
前記フィルタリングされた前記少なくとも2つ以上の分波信号の振幅を調整する工程と、
前記振幅が調整された前記少なくとも2つ以上の分波信号を合成する工程と、
を有する無停波フィルタ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無停波フィルタ装置、レーダ装置、及び無停波フィルタ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の厳しい電波法令を遵守する為には、不必要電波を確実に除去する必要性がある。
レーダ装置の送信機からの不必要電波をフィルタで除去する処理に関連し、いくつかの技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、導波管を物理的に切り替えることにより、レーダ装置が備える、異なる周波数の電波(信号)を送信する複数の送信機を切り替える技術が開示されている。送信する周波数に応じて送信機を切り替え、当該周波数に応じたフィルタリングを行うことで、不必要電波を除去することができる。
また、特許文献2には、複数の送信機を備えるレーダ装置において、常に最低1台の送信機が動作する構成で複数の送信機を切り替える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-140425号公報
【特許文献2】特許第2818490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記関連技術では、次のような課題が存在する。
すなわち、上記特許文献1に記載の関連技術では、複数の送信機を物理的に切り替える際に、レーダ装置の停波状態の発生を防止できない可能性がある。また、単に送信機を切り替える上記特許文献1及び2に記載の関連技術では、1台の送信機が送信する電波に複数の周波数が含まれている場合に不必要電波をフィルタで確実に除去できない可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、上述した課題を鑑み、レーダ装置の停波状態を発生させずに不必要電波をフィルタで除去するという課題を解決する無停波フィルタ装置、レーダ装置、及び無停波フィルタ方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の構成は、無停波フィルタ装置に係り、レーダ送信信号を異なる周波数の少なくとも2つ以上の分波信号に分波する分波器と、前記少なくとも2つ以上の分波信号の各々を所定の周波数帯域にフィルタリングする少なくとも2つ以上のバンドパスフィルタと、前記フィルタリングされた前記少なくとも2つ以上の分波信号の振幅を調整する振幅調整回路と、前記振幅が調整された前記少なくとも2つ以上の分波信号を合成する合成器と、を備えることを特徴としている。
【0008】
本発明の第2の構成は、無停波フィルタ方法に係り、レーダ送信信号を異なる周波数の少なくとも2つ以上の分波信号に分波する工程と、前記少なくとも2つ以上の分波信号の各々を所定の周波数帯域にフィルタリングする工程と、前記フィルタリングされた前記少なくとも2つ以上の分波信号の振幅を調整する工程と、前記振幅が調整された前記少なくとも2つ以上の分波信号を合成する工程と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上述した課題を鑑み、レーダ装置の停波状態を発生させずに不必要電波をフィルタで除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置を備えるレーダ装置の構成を示す構成図である。
図2】第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置の構成を示す構成図である。
図3】第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置の処理フローを示す図である。
図4】第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置が備える振幅調整回路の構成を説明する構成図である。
図5】第1の実施形態に係る振幅調整回路の処理フローを示す図である。
図6】第1の実施形態に係る振幅調整回路の処理を説明する説明図である。
図7】本願発明に係るフィルタ処理と本願発明を用いないフィルタ処理とを比較した場合の説明をする第1の説明図である。
図8】本願発明に係るフィルタ処理と本願発明を用いないフィルタ処理とを比較した場合の説明をする第2の説明図である。
図9】本願発明に係るフィルタ処理と本願発明を用いないフィルタ処理とを比較した場合の説明をする第3の説明図である。
図10】本願発明に係るフィルタ処理と本願発明を用いないフィルタ処理とを比較した場合の説明をする第4の説明図である。
図11】本願発明に係るフィルタ処理と本願発明を用いないフィルタ処理とを比較した場合の説明をする第5の説明図である。
図12】第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置をレーダ装置に取り付ける場合の説明をする説明図である。
図13】第1の実施形態の第1の変形例に係る無停波フィルタ装置の構成を示す構成図である。
図14】第1の実施形態の第2の変形例に係る無停波フィルタ装置の適用例を示す構成図である。
図15】第1の実施形態の第3の変形例に係る無停波フィルタ装置の適用例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置及び、当該無停波フィルタ装置を備えるレーダ装置について、図1図3を参照しながら説明する。なお、すべての図面において同一又は相当する構成には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
図1は、第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20を備えるレーダ装置1の構成を示す構成図である。
図1に示すように、レーダ装置1は、互いに接続されたレーダ送信機10、無停波フィルタ装置20、サーキュレータ30、レーダ空中線40、及びレーダ受信機50を備えている。
レーダ装置1は、レーダ送信機10から出力されたレーダ送信信号11を、無停波フィルタ装置20及びサーキュレータ30を介して、レーダ空中線40から電波Eとして送信することができる。また、レーダ装置1は、レーダ空中線40で受信した電波Eを、サーキュレータ30を介してレーダ受信機50でレーダ受信信号51として受信することができる。
【0012】
レーダ送信機10は、レーダ送信信号11を出力して無停波フィルタ装置20に入力することができる。さらに、レーダ送信機10は、レーダ送信信号11の送信周波数を特定する周波数選択信号12を出力して無停波フィルタ装置20に入力することができる。当該周波数選択信号12によって特定される送信周波数の電波Eがレーダ装置1から送信されることになる。以下では、レーダ送信機10が5種類の送信周波数のレーダ送信信号11を選択的に送信可能であるものとして説明する。また、レーダ送信機10は、図示しない増幅器を1つ内蔵しており、当該増幅器によって増幅されたレーダ送信信号11を出力するものとする。
【0013】
無停波フィルタ装置20は、図2及び3を用いて後述するように、入力されたレーダ送信信号11から不必要電波を除去するフィルタリングを行い、フィルタ済レーダ送信信号13として出力することができる。
【0014】
サーキュレータ30は、無停波フィルタ装置20から入力されたフィルタ済レーダ送信信号13をレーダ空中線40に出力すると共に、レーダ空中線40から入力されたレーダ受信信号51をレーダ受信機50に出力することができる。
【0015】
レーダ空中線40は、サーキュレータ30から入力されたフィルタ済レーダ送信信号13を電波Eとして送信することができる。また、レーダ空中線40は、受信した電波Eを出力してサーキュレータ30に入力することができる。
【0016】
図2は、第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20の構成を示す構成図である。
図2に示すように、無停波フィルタ装置20は、順に接続された分波器21、少なくとも2つ以上のバンドパスフィルタ22、振幅調整回路23、及び合成器24を備えている。なお、無停波フィルタ装置20は、少なくとも2つ以上のバンドパスフィルタ22を備えていればよいが、以下では、図2及び4に示すように、5つのバンドパスフィルタ22A~22E(以下、区別せずに総称する場合にはバンドパスフィルタ22とする)を備える場合について説明する。
【0017】
分波器21は、レーダ送信機10から入力されたレーダ送信信号11を異なる周波数の少なくとも2つ以上の分波信号110に分波することができる。ここで、分波器21は、レーダ送信機10の電力に耐えられるものとする。なお、分波器21は、レーダ送信機10から入力されたレーダ送信信号11を異なる周波数の少なくとも2つ以上の分波信号に分波することができればよいが、以下では、図2及び4に示すように、分波器21がレーダ送信信号11を5つの分波信号110A~110E(以下、区別せずに総称する場合には分波信号110とする)に分波する場合について説明する。
図2に示す場合には、分波器21は、レーダ送信信号11を、各々、F、F+X、F+2X、F+3X、及びF+4X(Hz)を中心周波数とする分波信号110A、110B、110C、110D、及び110Eに分波するものとする。F及びXは一定の数値であり、例えば、0~1015の範囲の値であってよい。
【0018】
バンドパスフィルタ22A~22Eは、分波器21から入力された分波信号110A~110Eの各々を所定の周波数帯域にフィルタリングする。図2に示す場合には、バンドパスフィルタ22A、22B、22C、22D、及び22Eは、入力された分波信号を、各々、F、F+X、F+2X、F+3X、及びF+4X(Hz)を中心周波数とする周波数帯域にフィルタリングするものとする。また、図2に示す場合には、バンドパスフィルタ22A~22Eが通過させる周波数帯域の帯域幅はX以下の所定の帯域幅であるものとする。上述したように、F及びXは一定の数値である。
バンドパスフィルタ22A~22Eの通過帯域(通過させる周波数帯域)及び帯域外の減衰量については、レーダ装置1の種類等に応じて個別の電波型式等から計算された、電波法に適合可能な特性を有したものであってよい。
【0019】
振幅調整回路23は、少なくとも2つ以上のバンドパスフィルタ22でフィルタリングされた、少なくとも2つ以上の分波信号110の振幅を調整することができる。図2に示す場合には、振幅調整回路23は、5つのバンドパスフィルタ22A~22Eでフィルタリングされた、5つの分波信号110A~110Eの振幅を各々調整する。振幅調整回路23は、レーダ送信機10から入力された周波数選択信号12に基づいて、分波信号110A~110Eの振幅を調整する。即ち、振幅調整回路23は、周波数選択信号12に基づいて送信周波数を把握すると共に、送信周波数が切り替えられた場合にはその切り替えを検知し、当該送信周波数に応じて分波信号110A~110Eの位相及び送信電力を補正することができる。振幅調整回路23の構成及び処理については、図4~6を用いて後述する。
【0020】
合成器24は、振幅調整回路23で振幅が調整された、少なくとも2つ以上の分波信号110をフィルタ済レーダ送信信号13に合成することができる。図2に示す場合には、合成器24は、振幅調整回路23で振幅が調整された5つの分波信号110A~110Eをフィルタ済レーダ送信信号13に合成する。ここで、フィルタ済レーダ送信信号とは、選択された送信周波数に応じた適切なフィルタリングが完了したレーダ送信信号11を示すものとする。
【0021】
なお、レーダ装置1の電力が大きく、分波器21及びバンドパスフィルタ22に加わる負担が大きい場合等には、レーダ送信機10から分波器21への経路において分波器21の直前の位置に、高調波成分を除去する機能を有し、すべての送信周波数を通過させる帯域幅を持ったバンドパスフィルタ、ハイパスフィルタ又はローパスフィルタを接続することにより、分波器21及びバンドパスフィルタ22にかかる負担を低減させてよい。
【0022】
(無停波フィルタ装置の処理フロー)
図3は、第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20の処理フローを示す図である。
図3に示す処理フローは、無停波フィルタ装置20にレーダ送信信号11が入力されると開始する。ここでは、レーダ送信機10から入力されたレーダ送信信号11の送信周波数がF(Hz)である場合について説明する。
【0023】
図3に示すように、無停波フィルタ装置20の分波器21は、レーダ送信機10から入力されたレーダ送信信号11を異なる周波数の少なくとも2つ以上の分波信号110に分波する(ステップS101)。ここでは、レーダ送信機10がレーダ送信信号11を5種類の送信周波数で送信できるものと仮定する。従って、無停波フィルタ装置20の分波器21は、レーダ送信機10から入力されたレーダ送信信号11を異なる周波数の5つの分波信号110A~110Eに分波する。具体的には、分波器21は、各々、F、F+X、F+2X、F+3X、及びF+4X(Hz)を中心周波数とする分波信号110A、110B、110C、110D、及び110Eに分波する。
【0024】
次に、無停波フィルタ装置20の少なくとも2つ以上のバンドパスフィルタ22は、分波器21から入力された少なくとも2つ以上の分波信号110の各々を所定の周波数帯域にフィルタリングする(ステップS102)。図2に示す場合には、無停波フィルタ装置20の5つのバンドパスフィルタ22A~22Eは、分波器21から入力された5つの分波信号110A~110Eの各々を所定の周波数帯域にフィルタリングする。
具体的には、図2に示す場合には、バンドパスフィルタ22A、22B、22C、22D、及び22Eは、入力された分波信号を、各々、F、F+X、F+2X、F+3X、及びF+4X(Hz)を中心周波数とする周波数帯域にフィルタリングする。従って、F(Hz)を中心周波数とする分波信号110Aは、バンドパスフィルタ22Aを通過することにより、F(Hz)を中心周波数とする周波数帯域にフィルタリングされる。同様に、分波信号110A以外の分波信号110B~110Eは、対応するバンドパスフィルタ22B~22Eを通過することにより、対応する周波数帯域にフィルタリングされる。
【0025】
次に、無停波フィルタ装置20の振幅調整回路23は、少なくとも2つ以上のバンドパスフィルタ22でフィルタリングされた少なくとも2つ以上の分波信号110の振幅を調整する(ステップS103)。図2に示す場合には、無停波フィルタ装置20の振幅調整回路23は、5つのバンドパスフィルタ22A~22Eでフィルタリングされた5つの分波信号110A~110Eの振幅を調整する。
具体的には、図4~6を用いて後述するように、振幅調整回路23は、レーダ送信機10から入力されたレーダ送信信号11の送信周波数を特定する周波数選択信号12に基づいて、レーダ送信信号11の送信周波数F(Hz)以外の分波信号110B~110Eの不要電力を打ち消すように振幅を調整する。また、振幅調整回路23は、レーダ送信機10から入力された周波数選択信号12に基づいて、レーダ送信信号11の送信周波数F(Hz)の分波信号110Aの振幅を減衰する調整により、分波信号110Aの送信電力を所望に応じて調整する。
【0026】
次に、無停波フィルタ装置20の合成器24は、振幅調整回路23で振幅が調整された少なくとも2つ以上の分波信号110をフィルタ済レーダ送信信号13に合成する(ステップS104)。図2に示す場合には、無停波フィルタ装置20の合成器24は、振幅調整回路23で振幅が調整された5つの分波信号110A~110Eをフィルタ済レーダ送信信号13に合成する。以上により、図3に示す処理フローは終了する。
【0027】
(振幅調整回路)
次に、振幅調整回路23について図4~6を用いて具体的に説明する。
【0028】
(振幅調整回路の構成)
図4は、第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20が備える振幅調整回路23の構成を説明する構成図である。
図4に示すように、振幅調整回路23は、5つのバンドパスフィルタ22A~22Eの各々に順に接続された分配器230A~230E(以下、区別せずに総称する場合には分配器230とする)、並列する2つの移相器231A~231E及び232A~232E(以下、区別せずに総称する場合には2つの移相器231及び232とする)、並びに振幅調整用合成器233A~233E(以下、区別せずに総称する場合には振幅調整用合成器233とする)を備えている。
なお、分配器、移相器、及び合成器を用いた振幅の調整の手順については、例えば、特開平3-198401号公報に開示されている。
さらに、図4に示すように、振幅調整回路23は、移相器231A~231E及び232A~232Eの各々に対し、移相量の制御を行う移相制御信号120を送信する移相制御器234を備えている。ここでは、便宜上、移相制御信号120とまとめて記載するが、移相制御信号120は移相器231A~231E及び232A~232Eの各々に対して送信されるので、10系統の移相制御信号120が存在する。
【0029】
分配器230A~230Eは、5つのバンドパスフィルタ22A~22Eの各々から入力された分波信号110A~110Eを等位相及び等振幅で2分配することができる。
分配器230A~230Eの各々に並列に接続された2つの移相器231A~231E及び232A~232Eは、分配器230A~230Eから入力された、2分配された分波信号110A~110Eの位相を各々、変化させることができる。ここで、位相を変化させることを移相というものとする。
具体的には、2つの移相器231及び232は、分波信号110の周波数がレーダ送信信号11の送信周波数以外である場合には、2分配された分波信号110の位相を互いに逆位相にする。また、2つの移相器231、232は、分波信号110の周波数がレーダ送信信号11の送信周波数である場合には、2分配された分波信号の位相を0°~180°の範囲内の所定の位相差で加工する。
【0030】
振幅調整用合成器233A~233Eは、2つの移相器231A~231E及び232A~232Eで位相を変化させた後の2分配された分波信号110A~110Eを1つの分波信号110A~110Eに合成する。なお、振幅調整用合成器233は、位相が異なった等振幅の信号を合成できるものとする。
【0031】
移相制御器234は、移相器231A~231E及び232A~232Eの各々に対し、移相量の制御を行う移相制御信号120を送信し、各々に入力された、2分配された分波信号の位相を変化させる。
【0032】
(振幅調整回路の処理フロー)
図5は、第1の実施形態に係る振幅調整回路23の処理フローを示す図である。即ち、図5は、図3に示す第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20の処理フローにおけるステップS103の処理内容の詳細を示している。従って、図3のステップS102が完了すると、図5の処理フローが開始し、図5の処理フローが終了すると、処理は図3のステップS104に進む。
図6は、第1の実施形態に係る振幅調整回路23の処理を説明する説明図である。
【0033】
図5に示すように、振幅調整回路23の分配器230A~230Eは、5つのバンドパスフィルタ22A~22Eの各々から入力された分波信号110A~110Eを等位相及び等振幅で2分配する(ステップS103A)。
【0034】
次に、振幅調整回路23の移相制御器234は、レーダ送信機10から入力されたレーダ送信信号11の送信周波数を特定する周波数選択信号12に基づいて、分配器230A~230Eで2分配された分波信号110A~110Eの各々がレーダ送信信号11の送信周波数F(Hz)であるか否かを判断する(ステップS103B)。
【0035】
2分配された分波信号110A~110Eのうち、分波信号110B~110Eの周波数は、レーダ送信信号11の送信周波数F(Hz)ではないので(ステップS103BのNO)、分波信号110B~110Eについては、移相制御器234は、2分配された分波信号110B~110Eを互いに逆位相に変化させる。
即ち、移相制御器234は、移相器231B~231E及び232B~232Eの各々に対し、移相量の制御を行う移相制御信号120を送信し、レーダ送信信号11の送信周波数F(Hz)以外の分波信号110B~110Eについては、2分配された分波信号110B~110Eを互いに逆位相に変化させる。これにより、2分配された分波信号110B~110Eを振幅調整用合成器233B~233Eで合成すると、不要電力を打ち消すことができる。
【0036】
図6では、分配器230で等位相、等振幅で2分配された信号を互いに逆位相にしてから合成することにより不要電力を打ち消すことができる点が概略的に説明されている。図6では、2分配された信号をベクトルa及びbで示している。図6の左側に記載されている2分配された信号(ベクトルa及びb)を互いに逆位相に変化させた状態が図6の右側に記載されている。図6に示すように、2分配された信号(ベクトルa及びb)を互いに逆位相に変化させることにより、これらのベクトルa及びbを合成したベクトルa及びbの和であるベクトルa+bの振幅が打ち消される点は明らかである。
【0037】
2分配された分波信号110A~110Eのうち、分波信号110Aの周波数は、レーダ送信信号11の送信周波数F(Hz)であるので(ステップS103BのYES)、分波信号110Aについては、移相制御器234は、2分配された分波信号110Aを等振幅で且つ所定の位相差に変化させる。
即ち、移相制御器234は、移相器231A及び232Aの各々に対し、移相量の制御を行う移相制御信号120を送信し、レーダ送信信号11の送信周波数F(Hz)の分波信号110Aについては、2分配された分波信号110Aを等振幅で且つ所定の位相差に変化させる。これにより、2分配された信号を振幅調整用合成器233Aで合成すると、分波信号110Aの送信電力を減衰させ、所望に応じて送信電力を調整することができる。
【0038】
次に、振幅調整回路23の振幅調整用合成器233A~233Eは、2つの移相器231A~231E及び232A~232Eで位相を変化させた後の2分配された分波信号110A~110Eを1つの分波信号110A~110Eに合成する(ステップS103E)。
上述したように、レーダ送信信号11の送信周波数F(Hz)以外の分波信号110B~110Eについては、2分配された分波信号110B~110Eが互いに逆位相であるので、振幅調整用合成器233B~233Eによって合成することにより不要電力を打ち消すことができる。また、レーダ送信信号11の送信周波数F(Hz)である分波信号110Aについては、2分配された分波信号110Aは等振幅で且つ所定の位相差を有するので、幅調整用合成器233Aによって合成することにより送信電力を減衰させ、所望に応じて送信電力を調整することができる。
【0039】
(本願発明に係るフィルタ処理と本願発明を用いないフィルタ処理との比較)
次に、図7~11を用いて、本願発明に係る無停波フィルタ装置20を用いたフィルタ処理と、本願発明を用いないフィルタ処理と、を比較して相違点を検討する。
図7~11は、各々、本願発明に係るフィルタ処理と本願発明を用いないフィルタ処理とを比較した場合の説明をする第1~第5の説明図である。
【0040】
図7及び8は、いずれも横軸が周波数(Hz)を示し、縦軸が電力(dB)を示す。
図7(a)は、本発明に係るレーダ送信機10が出力するレーダ送信信号11が、F、F+X、F+2X、F+3X、及びF+4X(Hz)を中心周波数とする5種類の送信周波数を有する場合を示している。
図8(b’)は、本願発明を用いないフィルタ処理として単一のバンドパスフィルタBPFを用いた場合に信号を通過させる単一の周波数領域が実線で示されている。
一方、図8(c’)は、本願発明に係る無停波フィルタ装置20を用いたフィルタ処理として5つのバンドパスフィルタ22A~22Eを用いた場合に信号を通過させる5つの周波数領域が各々実線で示されている。
【0041】
図7(b)は、図7(a)に示すレーダ送信信号11に対し、図8(b’)に示すように本願発明を用いないフィルタ処理を適用した結果が示されている。
図7(c)は、図7(a)に示すレーダ送信信号11に対し、図8(c’)に示すように本願発明に係る無停波フィルタ装置20を用いたフィルタ処理を適用した結果が示されている。
図7(b)及び図7(c)を比較すると、図8(b’)に示すように通過帯域が広いタイプである本願発明を用いないフィルタ処理では、中間の周波数チャネル部の不必要電波の除去ができていないことが分かる。この為、近年の厳しい電波法令の基準を満たさない可能性がある。
これに対し、図8(c’)に示すように本願発明に係る無停波フィルタ装置20を用いたフィルタ処理では、中間の周波数チャネル部の不必要電波を確実に除去しており、近年の厳しい電波法令の基準を満たすことができる。
【0042】
次に、本願発明を用いないフィルタ処理として、図9に示すフィルタ装置Fによるフィルタ処理と、本願発明に係るフィルタ処理と、を比較して検討する。図9に示すフィルタ装置Fでは、本願発明における分波器21及び合成器24の代わりに2つの導波管切替器80及び90が用いられている。
図9に示すフィルタ装置Fによるフィルタ処理では、レーダ送信機10から入力されたレーダ送信信号11の送信周波数を特定する周波数選択信号12に基づいて、2つの導波管切替器80及び90が導波管を切り替えるように構成されている。これにより、図9に示すフィルタ装置Fでは、5つのバンドパスフィルタ22A~22Eの中から送信周波数に応じたバンドパスフィルタに導波管を切り替えて、入力されたレーダ送信信号11の経路とするようになっている。
【0043】
図10は、図9に示すように本願発明を用いないフィルタ処理を用いた場合に生じ得る状況が示されている。
図10では、図9に示すフィルタ装置Fを備えるレーダ装置Rから対象Tに対して電波E1を送信して対象Tを捕捉して追尾している。これに対して、妨害装置500が、点線矢印に示すように電波探知機510で電波E1を傍受している。さらに、妨害装置500は、分析識別装置520で電波E1を分析及び識別し、その結果に応じて妨害電波送信装置530から電波E1を妨害する妨害電波E’を送信している。
この状況で、電波E1を、妨害を受けていない別の送信周波数の電波に切り替えようとすると、図9に示すフィルタ装置Fでは、物理的に導波管を切り替える必要がある為、切替の際に時間的なタイムラグ及び電波送信の停止が発生し、対象Tの追尾が不能に陥る可能性がある。
【0044】
図11は、図10に示す状況と同じであるが、図9に示す本願発明を用いないフィルタ装置Fを備えるレーダ装置Rの代わりに、本願発明に係る無停波フィルタ装置20を備えるレーダ装置1を用いた場合の状況が示されている。
図11では、本願発明に係る無停波フィルタ装置20を備えるレーダ装置1から対象Tに対して電波E1を送信して対象Tを捕捉して追尾している。これに対して、妨害装置500が、点線矢印に示すように電波探知機510で電波E1を傍受している。さらに、妨害装置500は、分析識別装置520で電波E1を分析及び識別し、その結果に応じて妨害電波送信装置530から電波E1を妨害する妨害電波E’を送信している。
ここで、本願発明に係る無停波フィルタ装置20では、図9に示す本願発明を用いないフィルタ装置Fとは異なり、複数のバンドパスフィルタ22A~22E(22)のすべてが送信系統に常時接続された状態で、電波E1を、妨害を受けていない別の送信周波数のE2に切り替えることができる。従って、本願発明に係る無停波フィルタ装置20では、電波の切替の際に時間的なタイムラグ及び電波送信の停止が発生しないので、対象Tの追尾を継続することができる。
【0045】
(作用、効果)
以上のとおり、第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20は、レーダ送信信号11を異なる周波数の少なくとも2つ以上の分波信号に分波する分配器230と、少なくとも2つ以上の分波信号の各々を所定の周波数帯域にフィルタリングする少なくとも2つ以上のバンドパスフィルタ22A~22E(22)と、フィルタリングされた少なくとも2つ以上の分波信号の振幅を調整する振幅調整回路23と、振幅が調整された少なくとも2つ以上の分波信号を合成する合成器24と、を備える。
【0046】
以上のような構成によれば、第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20は、分配器230で分波した分波信号を複数のバンドパスフィルタ22A~22E(22)の各々で所定の周波数帯域にフィルタリングした後に、合成器24で合成する構成としたことにより、少なくとも2つ以上のバンドパスフィルタ22A~22E(22)のすべてが送信系統に常時接続された状態を達成し、レーダ装置1の停波状態を発生させずに不必要電波をフィルタで確実に除去することができる。
さらに、上述したように妨害装置500の妨害電波等によりレーダ装置1から送信する電波Eの送信周波数を変更する必要が生じた場合にも、電波Eを切り替える際に時間的なタイムラグ及び電波送信の停止を発生させずに、対象Tの追尾を確実に継続することができる。
【0047】
また、第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20は、少なくとも2つ以上の分波信号の各々を所定の周波数帯域にフィルタリングする少なくとも2つ以上のバンドパスフィルタ22A~22E(22)を備える構成としている。
このようにすることで、無停波フィルタ装置20によってレーダ送信信号11(即ち、レーダ装置1が送信する電波E)から中間の周波数チャネル部の不必要電波を確実に除去することができ、近年の厳しい電波法令の基準を満たすことができる。
【0048】
また、第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20において、振幅調整回路23は、少なくとも2つ以上のバンドパスフィルタ22A~22E(22)の各々に順に接続された分配器230A~230E(230)、並列する2つの移相器231A~231E及び232A~232E(231、232)、並びに振幅調整用合成器233A~233E(233)を備えている。
さらに、振幅調整回路23は、フィルタリングされた少なくとも2つ以上の分波信号110A~110Eのうち、レーダ送信信号11の送信周波数F(Hz)以外の分波信号110B~110Eを、分配器230B~230Eで等位相及び等振幅で2分配した後に2つの移相器231B~231E、232B~232E(231、232)で逆位相にしてから振幅調整用合成器233B~233E(233)で合成している。
また、振幅調整回路23は、フィルタリングされた少なくとも2つ以上の分波信号110A~110Eのうち、レーダ送信信号11の送信周波数F(Hz)の分波信号110Aを、分配器230A(230)で等位相及び等振幅で2分配した後に2つの移相器231A、232A(231、232)で所定の振幅に加工してから振幅調整用合成器233A(233)で合成するように構成されている。
このようにすることで、レーダ送信信号11の送信周波数F(Hz)以外の分波信号110B~110Eの不要電力を確実に打ち消すように振幅を調整することができる。さらに、微弱電力漏れ込みの発生による不要電力も同様に確実に打ち消すことができる。また、レーダ送信信号11の送信周波数F(Hz)の分波信号110Aについては、例えば、送信周波数F(Hz)によって異なっていた送信電力を同一レベルに調整する等、所望に応じて適切に調整することができる。
【0049】
また、第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20において、振幅調整回路23は、レーダ送信信号11を出力するレーダ送信機10からレーダ送信信号11と共に、レーダ送信信号11の送信周波数を特定する周波数選択信号12が入力されるように構成されている。
このような構成により、振幅調整回路23は、レーダ送信機10がレーダ送信信号11の送信周波数を変更するタイミングに合わせて、レーダ送信信号11のフィルタリング適切に実行することができる。従って、レーダ装置1が送信する電波Eの送信周波数を変更する状況においても、電波Eの不要電波を確実に除去し、近年の厳しい電波法令の基準を満たすことができる。
【0050】
また、第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20において、振幅調整回路23は、周波数選択信号12に基づいて、移相器231及び232の移相量の制御を行う移相制御信号120を移相器231及び232に送信する移相制御器234をさらに備える。
このような構成により、振幅調整回路23は、各移相器231及び232を個別に制御し、レーダ送信信号11のフィルタリングを送信周波数に応じて正確且つ確実に実行することができる。従って、レーダ装置1が送信する電波Eの不要電波を確実に除去し、近年の厳しい電波法令の基準を満たすことができる。
【0051】
さらに、第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20は、簡易的で簡潔な回路形状であるので、例えば、近年の厳しい電波法令の基準を満たす為にアダプタとして既存のレーダ装置1に非常に容易に付加することが可能である。従って、第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20によれば、レーダ装置1を新設する場合と比較して、取り付けに係る費用及び時間を低減することができる。
以下、図12を用いて第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20を既存のレーダ装置1に取り付ける手順の一例を説明する。
【0052】
図12は、第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20をレーダ装置1に取り付ける場合の説明をする説明図である。
図12に示すように、無停波フィルタ装置20を既存のレーダ装置1にアダプタとして付加する際には、レーダ送信機10とサーキュレータ30との間に無停波フィルタ装置20を接続する。この際、既存のバンドパスフィルタが接続されている場合には、図12の点線で示すように取り外す。なお、電力が大きいレーダ装置1の場合において、バンドパスフィルタの耐電力が不足する可能性がある等の場合には無停波フィルタ装置20と既存のバンドパスフィルタとを併用しても良い。
さらに、位相や送信電力の補正をするために送信周波数とその切り替えを検知する必要があるため、図4を用いて説明した場合と同様に、レーダ送信機10から出力される周波数選択信号12が無停波フィルタ装置20に入力される構成とする。
【0053】
<第1の実施形態の変形実施例>
以上、第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20について詳細に説明したが、無停波フィルタ装置20の具体的な態様は、上述のものに限定されることはなく、要旨を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を加えることは可能である。
(第1の実施形態の第1の変形例)
例えば、第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20において、少なくとも2つ以上のバンドパスフィルタ22A~22E(22)の数が5つである場合、即ち、レーダ送信機10がレーダ送信信号11を5種類の送信周波数を選択的に送信可能である場合について説明した。
ここで、第1の実施形態の第1の変形例として、複数のバンドパスフィルタ22の数が5つ以外のNであってよい。Nは、2以上の任意の自然数とする。
【0054】
図13は、第1の実施形態の第1の変形例に係る無停波フィルタ装置20の構成を示す構成図である。
図13に示すように、レーダ送信機10がレーダ送信信号11をN種類の送信周波数で送信できる場合には、バンドパスフィルタ22A~22N(22)の数をNとすることで、第1の実施形態の場合と同様の作用効果を達成できる。
さらに、図13に示すように、無停波フィルタ装置20は、入力されたレーダ送信信号11を分波器21に出力すると共に、例えば、バンドパスフィルタ22の入力側の整合状態によって生じるわずかな反射波610をダミーロード70に出力するサーキュレータ60を備えていてよい。ダミーロード70は、反射波610を吸収し、伝送路と同じインピーダンスで終端するように構成されている。
上述した構成によれば、レーダ送信信号11の発生元であるレーダ送信機10等に反射波が戻って影響を与える事態を防止することができる。
【0055】
(第1の実施形態の第2の変形例)
次に、第1の実施形態の第2の変形例に係る無停波フィルタ装置20について、図14を参照しながら説明する。
【0056】
例えば、第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20は、レーダ送信機10が備える増幅器が1つである場合について説明した。
ここで、第1の実施形態の第2の変形例として、無停波フィルタ装置20は、レーダ送信機10が2つ以上の増幅器を備えている場合にも適用されてよい。
図14は、第1の実施形態の第2の変形例に係る無停波フィルタ装置20の適用例を示す構成図である。
【0057】
図14に示すレーダ送信機10Cは、励振器100から出力される励振信号ESを増幅する2つの増幅器101、102を備えている。図14に示すように、第1の実施形態の第2の変形例に係る無停波フィルタ装置20は、増幅器101と増幅器102の間に設けられてよい。
上述した構成によれば、無停波フィルタ装置20の下流に設けられた増幅器102で発生する不必要電波の成分は除去できないものの、無停波フィルタ装置20をレーダ送信機10C内に設けることにより無停波フィルタ装置20を外に設ける場合に比べて設置スペースを省略できる為、例えば、設置場所等に制限がある場合等に非常に有効である。
【0058】
(第1の実施形態の第3の変形例)
次に、第1の実施形態の第3の変形例に係る無停波フィルタ装置20について、図15を参照しながら説明する。
【0059】
例えば、第1の実施形態に係る無停波フィルタ装置20は、レーダ送信信号11が1つのレーダ送信機10から出力されている場合について説明した。
ここで、第1の実施形態の第3の変形例として、無停波フィルタ装置20は、レーダ送信信号11が2つの並列に接続されたレーダ送信機から出力されている場合にも適用されてよい。
図15は、第1の実施形態の第3の変形例に係る無停波フィルタ装置20の適用例を示す構成図である。
【0060】
図15に示すレーダ送信機10Dは、2つの送信機105及び106が並列に合成器107に接続された構成をしている。
図15に示すように、2つの送信機105及び106から各々出力された2つの異なる送信周波数のレーダ送信信号が合成器107で合成され、合成されたレーダ送信信号11が無停波フィルタ装置20に入力されるように構成されている。さらに、レーダ送信信号11の2つの異なる送信周波数を特定する周波数選択信号12と、送信同期信号15とが、レーダ送信機10Dから無停波フィルタ装置20に入力されるように構成されている。送信同期信号15は、2つの送信機105及び106の各々に基づく異なる2種類の送信周波数を一緒に送信する際に、適切な同期をとる為の同期信号である。
なお、周波数選択信号12は、送信するモードを特定する送信モードに関する情報をさらに含んだ送信モード選択信号として無停波フィルタ装置20に入力されてもよい。送信モードは、例えば、送信機105及び106の両方を用いて送信する送信モードA、送信機105だけを用いて送信する送信モードB、及び送信機106だけを用いて送信する送信モードCがあってよい。
【0061】
上述した構成によれば、2つの送信機105及び106の励振タイミングを調整することにより、異なる2種類の送信周波数を併せ持つレーダ送信信号11を無停波フィルタ装置20で処理して、レーダ装置1から送信することができる為、抗堪性を向上させることが可能である。
なお、上述した例では、2つの送信機105及び106を用いて異なる2種類の送信周波数を併せ持つレーダ送信信号11を送信する場合について説明したが、少なくとも2つ以上の任意の数の送信機を用いて少なくとも2種類以上の任意の数の異なる送信周波数を併せ持つレーダ送信信号11を送信してもよい。
さらに、送信機105及び106の出力の合流部に切替器ではなく、合成器107を用いる構成にしたことにより、無停波フィルタ装置20内の移相器231及び232を用いて調整することができる。従って、送信機105及び106のいずれかに異常が発生し、送信モード選択信号に基づいて、例えば、送信モードを送信モードAから送信モードB又はCに切り替える場合にも、送信を停止せずに送信機を切り替えることができる為、冗長性に優れた構成とすることができる。
【0062】
なお、上述した本発明は、例えば、軍事防衛分野の航空機等、移動速度が速い目標(対象)を監視するレーダ装置等で使用されてよい。また、特に使用している電波を相手から探知されて解析される可能性が高い地上固定用のレーダ装置に用いることが有用である。
【0063】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0064】
(付記1)レーダ送信信号を異なる周波数の少なくとも2つ以上の分波信号に分波する分波器と、前記少なくとも2つ以上の分波信号の各々を所定の周波数帯域にフィルタリングする少なくとも2つ以上のバンドパスフィルタと、前記フィルタリングされた前記少なくとも2つ以上の分波信号の振幅を調整する振幅調整回路と、前記振幅が調整された前記少なくとも2つ以上の分波信号を合成する合成器と、を備える無停波フィルタ装置。
【0065】
(付記2)前記振幅調整回路は、前記少なくとも2つ以上のバンドパスフィルタの各々に順に接続された分配器、並列する2つの移相器、及び振幅調整用合成器を備え、前記振幅調整回路は、前記フィルタリングされた前記少なくとも2つ以上の分波信号のうち、前記レーダ送信信号の送信周波数以外である分波信号を、前記分配器で等位相及び等振幅で2分配した後に前記2つの移相器で逆位相にしてから前記振幅調整用合成器で合成し、前記フィルタリングされた前記少なくとも2つ以上の分波信号のうち、前記レーダ送信信号の前記送信周波数である分波信号を、前記分配器で等位相及び等振幅で2分配した後に前記2つの移相器で所定の振幅に加工してから前記振幅調整用合成器で合成する付記1に記載の無停波フィルタ装置。
【0066】
(付記3)前記振幅調整回路は、前記レーダ送信信号の前記送信周波数以外である前記分波信号の不要電力を打ち消すように構成されている付記2に記載の無停波フィルタ装置。
【0067】
(付記4)前記振幅調整回路は、前記レーダ送信信号の前記送信周波数である前記分波信号の送信電力を調整するように構成されている付記2又は付記3に記載の無停波フィルタ装置。
【0068】
(付記5)前記振幅調整回路は、前記レーダ送信信号を出力するレーダ送信機から当該レーダ送信信号と共に、前記レーダ送信信号の前記送信周波数を特定する周波数選択信号が入力される付記2から付記4のいずれか一項に記載の無停波フィルタ装置。
【0069】
(付記6)前記振幅調整回路は、前記周波数選択信号に基づいて、前記移相器の移相量の制御を行う移相制御信号を前記移相器に送信する移相制御器、をさらに備える付記5に記載の無停波フィルタ装置。
【0070】
(付記7)前記レーダ送信信号を前記分波器に入力するサーキュレータと、前記サーキュレータに接続され、前記分波信号の反射波を吸収するダミーロードと、をさらに備える付記1から付記6のいずれか一項に記載の無停波フィルタ装置。
【0071】
(付記8)前記レーダ送信信号が少なくとも2種類以上の前記送信周波数を併せ持つ付記2から付記7のいずれか一項に記載の無停波フィルタ装置。
【0072】
(付記9)付記1から付記8のいずれか一項に記載の無停波フィルタ装置と、前記レーダ送信信号を出力するレーダ送信機と、を備えるレーダ装置。
【0073】
(付記10)レーダ送信信号を異なる周波数の少なくとも2つ以上の分波信号に分波する工程と、前記少なくとも2つ以上の分波信号の各々を所定の周波数帯域にフィルタリングする工程と、前記フィルタリングされた前記少なくとも2つ以上の分波信号の振幅を調整する工程と、前記振幅が調整された前記少なくとも2つ以上の分波信号を合成する工程と、を有する無停波フィルタ方法。
【0074】
(付記11)前記振幅を調整する工程は、前記フィルタリングされた前記少なくとも2つ以上の分波信号のうち、前記レーダ送信信号の送信周波数以外の前記分波信号を、等位相及び等振幅で2分配した後に逆位相にしてから合成する工程と、前記フィルタリングされた前記少なくとも2つ以上の分波信号のうち、前記レーダ送信信号の前記送信周波数の前記分波信号を、等位相及び等振幅で2分配した後に所定の振幅に加工してから合成する工程と、を有する付記10に記載の無停波フィルタ方法。
【符号の説明】
【0075】
1、R レーダ装置
10、10C、10D レーダ送信機
11 レーダ送信信号
12 周波数選択信号
13 フィルタ済レーダ送信信号
15 送信同期信号
20 無停波フィルタ装置
21 分波器
22、22A~22E、22N バンドパスフィルタ
23 振幅調整回路
24 合成器
30 サーキュレータ
40 レーダ空中線
50 レーダ受信機
51 レーダ受信信号
60 サーキュレータ
70 ダミーロード
80、90 導波管切替器
100 励振器
101、102 増幅器
105、106 送信機
107 合成器
110、110A~110E 分波信号
120 移相制御信号
230、230A~230E、230N 分配器
231、232、231A~231E、232A~232E、231N、232N 移相器
233、233A~233E、233N 振幅調整用合成器
234 移相制御器
500 妨害装置
510 電波探知機
520 分析識別装置
530 妨害電波送信装置
610 反射波
BPF 単一のバンドパスフィルタ
E、E1、E2 電波
E’ 妨害電波
ES 励振信号
F フィルタ装置
T 対象
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15