(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151951
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】腐食センサ、腐食モニタリング装置、及び腐食モニタリング方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20221004BHJP
G01N 17/04 20060101ALI20221004BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G01N27/00 L
G01N17/04
G01N27/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054516
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100174285
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮山 聰
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 実
【テーマコード(参考)】
2G050
2G060
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA20
2G050EA01
2G050EA10
2G050EB02
2G060AA01
2G060AE28
2G060AF02
2G060AF07
2G060AG04
2G060EA01
2G060EA08
2G060EB03
2G060HC02
2G060HC15
(57)【要約】
【課題】局部腐食による腐食量を簡便に評価することができる腐食センサを提供する。
【解決手段】腐食センサ10は、計測金属12と、計測金属12と同じ金属からなる参照金属13と、計測金属12及び参照金属13を覆う絶縁性の塗膜14と、を備え、塗膜14は、計測金属12と重なる部分の一部に切欠き14aを有し、計測金属12及び参照金属13は、塗膜14の切欠き14aの位置を除いて測定環境から遮蔽されており、計測金属12及び参照金属13の各々の電気抵抗を計測できるように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測金属と、
前記計測金属と同じ金属からなる参照金属と、
前記計測金属及び前記参照金属を覆う絶縁性の塗膜と、を備え、
前記塗膜は、前記計測金属と重なる部分の一部に切欠きを有し、
前記計測金属及び前記参照金属は、前記塗膜の切欠きの位置を除いて測定環境から遮蔽されており、
前記計測金属及び前記参照金属の各々の電気抵抗を計測できるように構成されている、腐食センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の腐食センサと、
前記計測金属及び前記参照金属の各々の電気抵抗を計測する抵抗測定器と、を備える、腐食モニタリング装置。
【請求項3】
請求項2に記載の腐食モニタリング装置を使用した腐食モニタリング方法であって、
前記抵抗測定器で計測した前記計測金属の電気抵抗と前記参照金属の電気抵抗とに基づいて、前記計測金属の腐食量を求める、腐食モニタリング方法。
【請求項4】
計測金属と、
前記計測金属を覆う絶縁性の塗膜と、
前記計測金属の温度を計測する温度センサと、を備え、
前記塗膜は、前記計測金属と重なる部分の一部に切欠きを有し、
前記計測金属は、前記塗膜の切欠きの位置を除いて測定環境から遮蔽されており、
前記計測金属の電気抵抗を計測できるように構成されている、腐食センサ。
【請求項5】
請求項4に記載の腐食センサと、
前記計測金属の電気抵抗を計測する抵抗測定器と、を備える、腐食モニタリング装置。
【請求項6】
請求項5に記載の腐食モニタリング装置を使用した腐食モニタリング方法であって、
前記抵抗測定器で計測した前記計測金属の電気抵抗と、前記温度センサで計測した前記計測金属の温度とに基づいて、前記計測金属の腐食量を求める、腐食モニタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食センサ、腐食モニタリング装置、及び腐食モニタリング方法に関し、より詳しくは、局部腐食による腐食量を評価できる腐食センサ、腐食モニタリング装置、及び腐食モニタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材の寿命推定や耐食鋼材の研究開発におけるニーズを背景として、鋼材の腐食モニタリング技術の開発が進められている。腐食モニタリング方法の一つとして、板厚減少に伴う電気抵抗の増加に基づいて腐食量を測定する方法が知られている(例えば、特開2016-197102号公報や特開2017-3376号公報を参照。)。
【0003】
このような電気抵抗の変化を利用した腐食モニタリング方法は、その原理から、鋼材が均一に腐食する場合の評価に用いられている。一方、塗装鋼材では塗装欠陥部からの局部腐食が課題であり、塗装欠陥部の腐食進展を抑制する鋼材の開発が行われている。そのような鋼材の評価方法として、塗装鋼材の一部に切欠きを入れ、実環境下での暴露試験又は腐食試験機内での腐食試験を所定期間実施し、その後、対象とする構造物や試験体の塗装欠陥から生じた腐食部の塗膜を剥ぎ、腐食生成物を除去した後、剥離面積率や腐食深さを調査することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-197102号公報
【特許文献2】特開2017-3376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、塗装欠陥部からの局部腐食の評価は、腐食部の塗膜を剥ぎ、腐食生成物を除去した後、剥離面積率や腐食深さを調査することで行われている。しかし、剥離面積は表面部を2次元的に捉えた評価であり、腐食深さの計測も一部の深さに限定される。レーザによる形状計測を行った場合でも初期状態が明確でないことや、基準面の設定が難しいことにより簡便には評価できない。また、評価の際に塗膜を剥ぐため試験を継続することができず、同じ試験片では時間的な変化を評価することができない。
【0006】
本発明の課題は、局部腐食による腐食量を簡便に評価することができる、腐食センサ、腐食モニタリング装置、及び腐食モニタリング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態による腐食センサは、計測金属と、前記計測金属と同じ金属からなる参照金属と、前記計測金属及び前記参照金属を覆う絶縁性の塗膜と、を備え、前記塗膜は、前記計測金属と重なる部分の一部に切欠きを有し、前記計測金属及び前記参照金属は、前記塗膜の切欠きの位置を除いて測定環境から遮蔽されており、前記計測金属及び前記参照金属の各々の電気抵抗を計測できるように構成されている。
【0008】
本発明の一実施形態による腐食モニタリング装置は、上記の腐食センサと、前記計測金属及び前記参照金属の各々の電気抵抗を計測する抵抗測定器と、を備える。
【0009】
本発明の一実施形態による腐食モニタリング方法は、上記の腐食モニタリング装置を使用した腐食モニタリング方法であって、前記抵抗測定器で計測した前記計測金属の電気抵抗と前記参照金属の電気抵抗とに基づいて、前記計測金属の腐食量を求める。
【0010】
本発明の一実施形態による腐食センサは、計測金属と、前記計測金属を覆う絶縁性の塗膜と、前記計測金属の温度を計測する温度センサと、を備え、前記塗膜は、前記計測金属と重なる部分の一部に切欠きを有し、前記計測金属は、前記塗膜の切欠きの位置を除いて測定環境から遮蔽されており、前記計測金属の電気抵抗を計測できるように構成されている。
【0011】
本発明の一実施形態による腐食モニタリング装置は、上記の腐食センサと、前記計測金属の電気抵抗を計測する抵抗測定器と、を備える。
【0012】
本発明の一実施形態による腐食モニタリング方法は、上記の腐食モニタリング装置を使用した腐食モニタリング方法であって、前記抵抗測定器で計測した前記計測金属の電気抵抗と、前記温度センサで計測した前記計測金属の温度とに基づいて、前記計測金属の腐食量を求める。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、局部腐食による腐食量を簡便に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態による腐食センサ、及び腐食センサを含む腐食モニタリング装置の全体の構成を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、電気抵抗の計算のためのモデルを示す図である。
【
図4】
図4は、S
k/Sと、1/(1-S
k/S)及び(1+S
k/S)との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、S
k/Sと、1/(1-S
k/S)と(1+S
k/S)との誤差との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、本発明の第1の実施形態の変形例による腐食モニタリング装置の構成を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の第2の実施形態による腐食センサ、及び腐食センサを含む腐食モニタリング装置の全体の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0016】
[第1の実施形態]
[腐食センサ及び腐食モニタリング装置]
図1は、本発明の第1の実施形態による腐食センサ10、及び腐食センサ10を含む腐食モニタリング装置1の全体の構成を模式的に示す図である。
図2は、腐食センサ10を
図1のII-II線に沿って切断した断面図である。腐食モニタリング装置1は、腐食センサ10に加えて、抵抗測定器20及び記録装置30を備えている。
【0017】
腐食センサ10は、基板11、計測金属12、参照金属13、及び塗膜14を備えている。計測金属12及び参照金属13は、基板11の上に配置されている。塗膜14は、計測金属12及び参照金属13を覆っている。ただし、塗膜14は、計測金属12と重なる部分の一部に切欠き14aを有している。
【0018】
基板11は、例えばプラスチック基板である。基板11は、金属等の導体であってもよい。その場合、基板11と計測金属12との間、及び基板11と参照金属13との間に絶縁体を配置すればよい。
【0019】
計測金属12は、評価対象となる金属からなる。計測金属12は、平面視で矩形の形状を有している。計測金属12の形状は、金属の種類や環境、測定の目的によって異なるので一概にはいえないが、例えば初期の厚さは、これに限定されないが、0.01~10mmとすることができ、好ましくは0.02~1.0mmである。計測金属12の初期の厚さは、計測金属12の全体にわたって均一であることが好ましい。
【0020】
計測金属12は、配線21a及び22aを介して抵抗測定器20に電気的に接続される。
【0021】
参照金属13は、計測金属12と同じ金属からなる。参照金属13は、平面視で矩形の形状を有している。参照金属13は、計測金属12と同一寸法であることが好ましい。参照金属13は、計測金属12と同様に、配線21a及び23aを介して抵抗測定器20に電気的に接続される。
【0022】
計測金属12と参照金属13とは、電気的に接続されている。計測金属12と参照金属13とを電気的に接続する方法は、これに限定されないが、計測金属12と参照金属13とに半田や溶接で配線を接続する方法、計測金属12と参照金属13とを導電性テープで接続する方法等が挙げられる。
【0023】
塗膜14は、絶縁性の塗膜である。本実施形態では、後述するように、計測金属12及び参照金属13の電気抵抗を計測する。塗膜14の電気抵抗は、計測金属12及び参照金属13の電気抵抗の計測に支障のない程度の大きさであればよい。塗膜14はまた、測定環境に対する高い耐食性を有するものが好ましい。
【0024】
計測金属12及び参照金属13は、塗膜14の切欠き14aの位置を除いて、測定環境から遮蔽されている。すなわち、計測金属12は、切欠き14aの位置でのみ測定環境に暴露される。これによって、局部腐食が発生する状況を模擬した腐食試験を行うことができる。一方、参照金属13は、全ての面が測定環境から遮蔽される。
【0025】
図1では、切欠き14aをX字形状に図示しているが、切欠き14aの形状は任意であり、測定の目的によって選択することができる。切欠き14aの形状は例えば、直線であってもよい。
【0026】
本実施形態では、
図1及び
図2に示すように、計測金属12及び参照金属13の各々は、一つの面が基板11に覆われ、他の面が塗膜14によって覆われている。この構成は例示であり、計測金属12及び参照金属13を測定環境から遮蔽するための構成はこれに限定されない。例えば、基板11を用いず、計測金属12及び参照金属13の全ての面を塗膜14で覆うようにしてもよい。計測金属12及び参照金属13が、塗膜14の切欠き14aの位置を除いて、測定環境から遮蔽されていればよい。
【0027】
腐食センサ10は、計測金属12及び参照金属13の各々の電気抵抗を計測できるように構成されている。すなわち、腐食センサ10は、計測金属12及び参照金属13の大部分(切欠き14aの位置を除く部分)を測定環境から遮蔽しつつも、計測金属12及び参照金属13の各々の電気抵抗を計測できるように構成されている。
【0028】
具体的な構成としては、これに限定されないが、例えば、計測金属12及び参照金属13に電気的に接続され、塗膜14の外側に引き出された複数の配線を設けることで実現できる。あるいは、計測金属12及び参照金属13に電気的に接続されたコネクタ等を設けてもよい。あるいは、計測金属12及び参照金属13の一部を塗膜14から露出させておき、配線を接続した後に露出部分をシーラント等で埋めるようにしてもよい。
【0029】
再び
図1を参照して、腐食モニタリング装置1の説明を続ける。腐食モニタリング装置1の抵抗測定器20は、定電流電源21、並びに電圧計22及び23を備えている。
【0030】
定電流電源21は、配線21aを介して計測金属12及び参照金属13に電気的に接続される。計測金属12と参照金属13とは、定電流電源21に直列に接続されている。そのため、計測金属12及び参照金属13には、同じ大きさの電流Iが流れる。
【0031】
電圧計22は、配線22aを介して計測金属12に電気的に接続され、計測金属12の測定位置間の電圧V1を計測する。電圧V1を電流Iで除すことで、計測金属12の電気抵抗Rmeaを求めることができる。
【0032】
同様に、電圧計23は、配線23aを介して参照金属13に電気的に接続され、参照金属13の電圧測定位置間の電圧V2を計測する。電圧V2を電流Iで除すことで、参照金属13の電気抵抗Rrefを求めることができる。
【0033】
本実施形態では、後述するように、電気抵抗Rmea及びRrefから計測金属12の腐食量を求める。腐食量を正確に求めるためには、電気抵抗Rmea及びRrefをできるだけ正確に計測することが好ましい。特に、腐食モニタリング装置1は、直射日光や放射熱の影響を受ける屋外で使用する場合には、装置各部の温度差に起因する熱起電力や、外部電磁場により生じる誘導起電力が計測ノイズとして電気抵抗Rmea及びRrefの計測に大きく影響する。特に、直射日光など放射熱で加熱される場合、日光の当たり方や計測金属12の腐食状態によっては、計測金属12の電圧測定位置間、及び、参照金属13の電圧測定位置間に温度差が生じやすくなる。この温度差による熱起電力は、ノイズとなって電気抵抗Rmea及びRrefの正確な計測の大きな妨げとなる。
【0034】
以上のことから、電気抵抗Rmea及びRrefを正確に計測するために、計測金属12及び参照金属13と配線21a、22a及び23aとの接続部分の熱起電力による計測ノイズを除去する対策を施すことが好ましい。熱起電力の影響を軽減するための具体的なノイズ対策法としては、(1)大きな測定電流で検出電圧を上げる、(2)測定電流のオフ時の電圧分をオン時の電圧から差し引いた値を電圧として計測する、(3)測定電流の極性を反転し、それぞれの場合の電圧の絶対値の平均値を電圧として計測する、(4)検出信号を交流(表皮効果を考慮し、100kHz以下の低周波域とすることが好ましい)にする、等が考えられる。
【0035】
さらに、配線21a、22a及び23aとして、同軸ケーブル又は撚り線を採用することが好ましい。これにより、配線21a、22a及び23aによる外部電磁場が抵抗測定に与える影響を低減し、誘導起電力による計測ノイズを除去することができる。
【0036】
上述した抵抗測定器20の構成は例示である。腐食モニタリング装置1は、抵抗測定器20に代えて、他の構成によって計測金属12及び参照金属13の電気抵抗を計測する抵抗測定器を備えていてもよい。抵抗測定器は例えば、計測金属12及び参照金属13に一定電圧を印加し、電流値から抵抗を計測するものであってもよい。
【0037】
記録装置30は、抵抗測定器20によって計測された電気抵抗Rmea及びRrefを記録する。記録装置30の記録方式は、ディジタル方式又はアナログ方式の何れでもよい。
【0038】
[腐食モニタリング方法、並びに腐食センサ10及び腐食モニタリング装置1の効果]
本発明の第1の実施形態による腐食モニタリング方法は、腐食モニタリング装置1を使用した腐食モニタリング方法であって、抵抗測定器20で計測した計測金属12の電気抵抗Rmeaと参照金属13の電気抵抗Rrefとに基づいて、計測金属12の腐食量を求める。
【0039】
局部腐食が生じている計測金属12の腐食量と電気抵抗R
meaとの関係を検討する。
図3は、電気抵抗の計算のためのモデルを示す図である。電圧を計測する両端の長さをLとし、この長さ方向に計測金属12をn等分する。計測金属12の断面積をSとし、k番目(1≦k≦n)の部分における腐食部の断面積(腐食によって減少した断面積)をS
kとすると、その部分の電気抵抗R
kは下記の様に表すことができる。
R
k=ρL/{n(S-S
k)}
【0040】
計測金属12の長さL間の電気抵抗Rmeaは、各部のRkを直列に接続したものと考えると、電気抵抗Rkの和になる。
Rmea=ΣRk
=ΣρL/{n(S-Sk)}
=ΣρL/{nS(1-Sk/S)}
=ρL/(nS)×Σ{1/(1-Sk/S)}
【0041】
ここで、Σ内の1/(1-S
k/S)について考える。表1に、S
k/S、1/(1-S
k/S)、(1+S
k/S)、及び、1/(1-S
k/S)と(1+S
k/S)との誤差の関係をまとめる。
図4は、S
k/Sと、1/(1-S
k/S)及び(1+S
k/S)との関係を示すグラフであり、
図5は、S
k/Sと、1/(1-S
k/S)と(1+S
k/S)との誤差との関係を示すグラフである。
【0042】
【0043】
表1、
図4、及び
図5に示すとおり、S
k/Sが小さい場合、1/(1-S
k/S)は(1+S
k/S)にほぼ等しくなる。具体的には、例えばS
k/Sが0.1未満(すなわち、k番面の断面の腐食が1割未満)では、1/(1-S
k/S)と(1+S
k/S)との誤差は1%未満となる。
【0044】
そこで、1/(1-Sk/S)を(1+Sk/S)と置き換えると、電気抵抗Rmeaは下記の様に表すことができる。
Rmea≒ρL/(nS)×Σ(1+Sk/S)
=ρL/(nS)×{n+ΣSk/S}
=ρL/S×{1+Σ(Sk・L/n)/(LS)}
【0045】
ここで、ρL/Sは初期抵抗であるので、Rmea_initと置き換える。また、Σ(Sk・L/n)は各部の腐食量の総和、すなわち全腐食量になるので、Vrustと置き換える。さらに、LSは計測金属12の長さL間(電圧測定位置間)の初期体積になるので、V0と置き換える。そうすると、電気抵抗Rmeaは下記の様に表すことができる。
Rmea≒Rmea_init(1+Vrust/V0)
【0046】
したがって、測定時の電気抵抗と初期抵抗との比(Rmea/Rmea_init)及び体積腐食率(Vrust/V0)は、それぞれ下記の様に表わすことができる。
Rmea/Rmea_init≒1+Vrust/V0
Vrust/V0≒Rmea/Rmea_init-1
【0047】
また、全腐食量Vrustは、下記の様に表すことができる。
Vrust≒V0(Rmea/Rmea_init-1)
【0048】
以上の計算は、測定環境の温度が一定と仮定したときのものである。測定環境の温度が変化すると、抵抗率ρが温度に依存して変化する。そのため、全腐食量Vrustを正確に求めるためには、測定時の温度の影響を考慮する必要がある。
【0049】
計測金属12の温度が変化するとき、参照金属13の温度も同じように変化する。参照金属13は計測金属12と同じ金属であるため、参照金属13の抵抗率ρは計測金属12の抵抗率ρと同じになる。そのため、RmeaとRrefとの比をとることによって、抵抗率ρをキャンセルすることができ、温度変化の影響を取り除くことができる。なお、参照金属13は測定環境から遮蔽されているため、腐食量は0とみなせる。
【0050】
したがって、温度変化の影響を取り除いた全腐食量Vrustは、下記の様に表すことができる。
Vrust≒V0{(Rmea/Rmea_init)×(Rref_init/Rref)-1}
【0051】
ここで特に、計測金属12の初期形状と参照金属13の初期形状とが同じ場合、初期抵抗Rmea_initは、下記のように表すことができる。
Rmea_init=Rref_init
そのため、計測金属12の初期形状と参照金属13の初期形状とが同じ場合、温度変化の影響を取り除いた全腐食量Vrustは、下記の様に表すことができる。
Vrust≒V0{(Rmea/Rref)-1}
【0052】
以上、本発明の第1の実施形態による腐食センサ10、腐食モニタリング装置1、及び腐食モニタリング方法を説明した。本実施形態によれば、局部腐食による腐食量を簡便に評価することができる。具体的には、塗膜を剥がしたり腐食生成物を除去したりといった作業をすることなく、従来の剥離面積率や深さ計測から推定していた腐食進展評価と同等レベル以上の評価を行うことができる。また、非破壊の測定であるため、継続的な測定ができ、同じセンサで時間的な変化を評価することができる。
【0053】
上記の実施形態では、計測金属12及び参照金属13が平面視で矩形である場合を説明した。しかし、計測金属12及び参照金属13は任意の形状であってよい。なお、計測金属12は、電流が流れる方向と垂直な断面の断面積が一定であることが好ましい。
【0054】
上記の実施形態では、計測金属12と参照金属13とが、同一形状(矩形形状)である場合を説明した。計測金属12と参照金属13とは、同一形状であることが好ましく、さらに寸法も同一であることがより好ましい。しかし、同一形状でなくても、Rmea_init及びRref_initが分かれば全腐食量Vrustを計算することができる。
【0055】
上記の実施形態では、計測金属12と参照金属13とが、一つの塗膜14によって覆われている場合を説明した。しかし、計測金属12と参照金属13とは、別々の塗膜によって覆われていてもよい。また、本実施形態では、計測金属12と参照金属13とが電気的に接続され、定電流電源21に直列に接続されている場合を説明した。しかし、計測金属12と参照金属13とは、それぞれの抵抗が計測されるのであれば、別々の定電流電源に接続されていてもよい。
【0056】
[第1の実施形態の変形例]
図6は、本発明の第1の実施形態の変形例による腐食モニタリング装置1Aの全体の構成を模式的に示す図である。腐食モニタリング装置1Aは、腐食モニタリング装置1(
図1)の腐食センサ10に代えて、腐食センサ10Aを備えている。腐食センサ10Aでは、計測金属12A及び参照金属13Aが一枚の金属片から構成されている。腐食センサ10Aにおいても、計測金属12A及び参照金属13Aは、塗膜14の切欠き14aの位置を除いて、測定環境から遮蔽されている。
【0057】
計測金属12Aは、計測金属12(
図1)と同様に、電気抵抗を計測できるように構成されている。参照金属13Aも、参照金属13(
図1)と同様に、電気抵抗を計測できるように構成されている。そのため、腐食モニタリング装置1Aにおいても、腐食モニタリング装置1と同様にして、計測金属12Aの全腐食量を評価することができる。
【0058】
[第2の実施形態]
[腐食センサ及び腐食モニタリング装置]
図7は、本発明の第2の実施形態による腐食センサ40、及び腐食センサ40を含む腐食モニタリング装置2の全体の構成を模式的に示す図である。腐食モニタリング装置2は、腐食センサ40に加えて、抵抗測定器25及び記録装置35を備えている。
【0059】
腐食センサ40は、基板41、計測金属42、塗膜44、温度センサ45を備えている。計測金属42は、基板41の上に配置されている。塗膜44は、計測金属42を覆っている。ただし、塗膜44は、計測金属42と重なる部分の一部に切欠き44aを有している。
【0060】
基板41、計測金属42、及び塗膜44はそれぞれ、腐食センサ10(
図1)の基板11、計測金属12、及び塗膜14と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0061】
計測金属42は、塗膜44の切欠き44aの位置を除いて、測定環境から遮蔽されている。すなわち、計測金属42は切欠き44aの位置でのみ測定環境に暴露される。これによって、局部腐食が発生する状況を模擬した腐食試験を行うことができる。
【0062】
腐食センサ40は、計測金属42の電気抵抗を計測できるように構成されている。すなわち、腐食センサ40は、計測金属42の大部分(切欠き44aの位置を除く部分)を測定環境から遮蔽しつつも、計測金属42の電気抵抗を計測できるように構成されている。
【0063】
温度センサ45は、計測金属42の温度Ttを計測する。温度センサ45は、例えば熱電対である。温度センサ45はこれに限定されず、計測金属42の温度が計測できるものであれば任意である。温度センサ45は例えば、電気抵抗式の温度センサであってもよいし、赤外線放射温度計等の非接触式の温度センサであってもよい。また、温度センサ45による計測は、連続・断続のどちらでもよい。
【0064】
温度センサ45は、例えば絶縁テープ45aによって計測金属42に固定されている。温度センサ45の固定方法は任意であり、例えば磁石によって固定したり、ねじによって固定したりしてもよい。温度センサ45の固定位置(測温位置)は任意である。温度センサ45を複数用いて、計測金属42の複数の位置を計測してその平均値を用いてもよい。
【0065】
抵抗測定器25は、定電流電源26及び電圧計27を備えている。
【0066】
定電流電源26は、配線26aを介して計測金属42に電気的に接続され、計測金属42に一定電流を流す。電圧計27は、配線27aを介して計測金属42に電気的に接続され、計測金属42の電圧測定位置間の電圧Vを計測する。電圧Vを電流Iで除すことで、計測金属42の電気抵抗Rtを求めることができる。
【0067】
本実施形態においても、第1の実施形態で説明したようなノイズ対策を施すことが好ましい。また、抵抗測定器25の構成は例示であって、腐食モニタリング装置2は、他の構成によって計測金属42の電気抵抗を計測する抵抗測定器を備えていてもよい。
【0068】
記録装置35は、温度センサ45によって計測された温度Tt、及び抵抗測定器25によって計測された電気抵抗Rtを時系列に沿って記録する。記録装置35の記録方式は、ディジタル方式又はアナログ方式の何れでもよい。
【0069】
[腐食モニタリング方法、並びに腐食センサ40及び腐食モニタリング装置2の効果]
本発明の第2の実施形態による腐食モニタリング方法は、腐食モニタリング装置2を使用した腐食モニタリング方法であって、抵抗測定器25で計測した計測金属42の電気抵抗Rtと、温度センサ45で計測した計測金属42の温度Ttとに基づいて、計測金属42の腐食量を求める。
【0070】
具体的には、計測金属42の初期抵抗の温度依存性を予め測定等によって取得しておき、計測金属42の初期抵抗を温度Tの関数として表した温度依存関数R0(T)を求め、これに基づいて、温度変化の影響を補正する。具体的には、全腐食量Vrustは、初期体積V0、電気抵抗Rt、温度Tt、及び温度依存関数R0(T)に基づいて、下記の様に表すことができる。
Vrust≒V0(Rt/R0(Tt)-1)
ここで、R0(Tt)は、T=Ttとしたときの温度依存関数Ro(T)の値である。
【0071】
以上、本発明の第2の実施形態による腐食センサ40、腐食モニタリング装置2、及び腐食モニタリング方法を説明した。本実施形態によっても、局部腐食による腐食量を簡便に評価することができる。
【0072】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示にすぎない。よって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1,1A,2 腐食モニタリング装置
10,10A,40 腐食センサ
11,41 基板
12,12A,42 計測金属
13,13A 参照金属
14,44 塗膜
14a、44a 切欠き
45 温度センサ
20,25 抵抗測定器
21,26 定電流電源
22,23,27 電圧計
30,35 記録装置