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  • 特開-油圧緩衝器 図1
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  • 特開-油圧緩衝器 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151971
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】油圧緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/32 20060101AFI20221004BHJP
   B62K 25/10 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
F16F9/32 L
B62K25/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054548
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(72)【発明者】
【氏名】淡佐 重紀
【テーマコード(参考)】
3D014
3J069
【Fターム(参考)】
3D014DD02
3D014DE22
3D014DF06
3D014DF22
3D014DF33
3J069AA50
3J069CC13
3J069DD02
(57)【要約】
【課題】ピストンの移動速度が速い高速域での減衰力の増加傾向の低減を抑制できる油圧緩衝器を提供すること。
【解決手段】油圧緩衝器10は、上下方向に延びており下方へ開いている円筒状のシリンダ30と、ピストン40の外周面45に取り付けられており、シリンダ30の内周面33に対して摺動可能な金属製の環状部材80と、を備えている。ピストン40は、第1油室34と第2油室35とを連通させる連通路41,43と、連通路41,43からピストン40の外周面45までの間を貫通している貫通孔46,47と、を有している。貫通孔46,47は環状部材80の内周面82に対して臨んでいる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延びており下方へ開いている円筒状のシリンダと、
前記シリンダの下方から前記シリンダ内へ延びているロッドと、
前記シリンダに固定されており、前記ロッドを進退可能に支えるロッドガイドと、
前記ロッドに固定されており、前記シリンダ内を下方の第1油室と前記第1油室よりも上方の第2油室とに区画しているピストンと、
前記ピストンの外周面に取り付けられており、前記シリンダの内周面に対して摺動可能な金属製の環状部材と、を備え、
前記ピストンは、前記第1油室と前記第2油室とを連通させる連通路と、前記連通路から前記ピストンの前記外周面までの間を貫通している貫通孔と、を有しており、
前記貫通孔は前記環状部材の内周面に対して臨んでいる、油圧緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンの移動により減衰力が発生する油圧緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車や自動三輪車に代表される鞍乗り型車両は、路面等から車輪に加わった衝撃を吸収する油圧緩衝器を備えている。油圧緩衝器に関する先行技術が特許文献1に開示されている。
【0003】
油圧緩衝器は、上下方向に延びており下方が開いている円筒状のシリンダと、シリンダの下方からシリンダ内へ延びているロッドと、シリンダの下端に固定されており、ロッドを進退可能に支えるロッドガイドと、ロッドの上端に固定されており、シリンダ内を下方の第1油室と第1油室よりも上方の第2油室とに区画しているピストンと、を備えている。
【0004】
ピストンは、第1油室と第2油室とを連通する連通路を有している。車輪からピストンロッドへ衝撃が加わると、ピストンロッドに固定されたピストンが移動する。ピストンが移動すると、ピストンの連通孔を介してオイルが第1油室と第2油室とを行き来することにより、オイルの流路抵抗による減衰力が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6595744号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ピストンの移動速度が速くなると、オイルの流路抵抗による減衰力も増加する。ただし、オイルが連通路を通過する際の抵抗損失が熱になって油温が上昇し、オイルの粘度が下がる。オイルの粘度が下がると、減衰力の増加傾向を低減してしまう。
【0007】
本発明は、ピストンの移動速度が速い高速域での減衰力の増加傾向の低減を抑制できる油圧緩衝器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、ピストンの外周面に金属製の環状部材を取り付け、連通路からピストンの外周面までの間を貫通している貫通孔を形成し、貫通孔を環状部材の内周面に対して臨ませることにより、貫通孔を流れるオイルの圧力により環状部材を拡径できる油圧緩衝器を提供できることを知見した。本発明は、これらの知見に基づいて完成させた。
【0009】
本開示によれば、上下方向に延びており下方へ開いている円筒状のシリンダと、前記シリンダの下方から前記シリンダ内へ延びているロッドと、前記シリンダに固定されており、前記ロッドを進退可能に支えるロッドガイドと、前記ロッドに固定されており、前記シリンダ内を下方の第1油室と前記第1油室よりも上方の第2油室とに区画しているピストンと、前記ピストンの外周面に取り付けられており、前記シリンダの内周面に対して摺動可能な金属製の環状部材と、を備え、前記ピストンは、前記第1油室と前記第2油室とを連通させる連通路と、前記連通路から前記ピストンの前記外周面までの間を貫通している貫通孔と、を有しており、前記貫通孔は前記環状部材の内周面に対して臨んでいる、油圧緩衝器が提供される。
【0010】
また、前記連通路は、前記ピストンが下方へ移動したときに開く第1連通路と、前記ピストンが上方へ移動したときに開く第2連通路と、を含み、前記貫通孔は、前記第1連通路と連通している第1貫通孔と、前記第2連通路と連通している第2貫通孔と、を含み、前記ピストンの前記外周面は、前記環状部材の前記内周面との間において、環状の第1部位と、前記第1部位に対して前記ロッドの軸方向に隣接した環状の第2部位と、を有しており、前記第1貫通孔は前記第1部位と連通し、前記第2貫通孔は前記第2部位と連通していてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、高速域での減衰力の増加傾向の低減を抑制できる油圧緩衝器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例による油圧緩衝器を備えた二輪車の側面図である。
図2図1に示された油圧緩衝器を説明する図である。
図3図2の3で示す部位を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。図中Upは上、Dnは下を示している。
【0014】
<実施例>
図1には、実施例によるリヤサスペンション20(油圧緩衝器)を備えたオフロードタイプの二輪車10が示されている。
【0015】
二輪車10(鞍乗り型車両10)は、車体11と、この車体11の中央下部に支持された動力源としてのエンジン12と、車体11の前部左右に設けられ路面の凹凸から受ける衝撃を吸収する左右のフロントフォーク13(図には、右側のフロントフォーク13のみが示されている)と、これらのフロントフォーク13によって挟まれていると共に回転可能に支持された前輪14と、フロントフォーク13の上部に配置され前輪14を操舵するハンドルパイプ15と、エンジン12の上方に設けられ乗員が着座するシート16と、車体11の後部から後方に向かって延び上下方向にスイング可能に設けられたスイングアーム17と、このスイングアーム17によって回転可能に支持された後輪18と、車体11の後部からスイングアーム17まで掛け渡された左右のリヤサスペンション20(図には、右側のリヤサスペンション20のみが示されている)と、を有している。
【0016】
左右のリヤサスペンション20は、それぞれ同じ構成とされている。以下、右のリヤサスペンション20について説明し、左のリヤサスペンションについての説明は、省略する。なお、左右のリヤサスペンション20は、目的に応じて左右それぞれ異なる構成を採用することもできる。
【0017】
図2を参照する。リヤサスペンション20は、上下方向に延びており下方が開いている円筒状のシリンダ30と、シリンダ30の下方からシリンダ30内へ延びているロッド21と、シリンダ30の下端部を塞ぐように固定されており、ロッド21を上下方向に進退可能に支えるロッドガイド22と、ロッド21の上端部に固定されており、シリンダ30内を下方の第1油室34と第1油室34よりも上方の第2油室35とに区画しているピストン40と、シリンダ30及びロッド21の外周を囲うように配されており、車体11(図1参照)が路面から受ける衝撃力を吸収可能なスプリング23と、を備えている。
【0018】
ロッド21の下端部には、スイングアーム17(図1参照)に対して取り付け可能な下取付部材24が固定されている。下取付部材24の上部には、スプリング23の下端部23aを支持するための下ばね受け25が取り付けられている。
【0019】
シリンダ30の外周面31には、スプリング23の上端部23bを支持するための上ばね受け26と、上ばね受け26を支持しており上ばね受け26の上下方向の位置を調整可能な調整部材27と、が取り付けられている。調整部材27の内周面は、シリンダ30の外周面31に形成された雌ねじに噛み合う雌ねじを有している。
【0020】
シリンダ30の上端部32には、車体(図1参照)に対して取付可能な上取付部30aと、減衰力を発生させる減衰力発生装置28とが、シリンダ30と一体に設けられている。
【0021】
減衰力発生装置28は、内部がガス室とオイルを貯留可能な油室とに区画されているリザーバ29を備えている。リザーバ29内の油室は、シリンダ30の第2油室35と連通しており、オイルの流量が所定の流量を超えた場合に、減衰力発生装置28は減衰力を発生させる。減衰力発生装置28の詳細な説明は省略する。
【0022】
図3を参照する。ピストン40は、第1油室34と第2油室35とを連通させる第1連通路41を有している。第1連通路41は、ピストン40を上下方向に貫通している。第1連通路41は、ピストン40の上端面42に重ね合わされた第1バルブ51により開閉可能である。第1バルブ51は、複数の円板が重ね合わされて構成されている。各々の円板は、ばね鋼材であり、弾性変形可能である。第1バルブ51は、押さえ部材53により、ピストン40の上端面42に対して押さえつけられている。
【0023】
ピストン40は、第1油室34と第2油室35とを連通させる第2連通路43を有している。第2連通路43は、ピストン40を上下方向に貫通している。第2連通路43は、ピストン40の下端面44に重ね合わされた第2バルブ52により開閉可能である。第2バルブ52は、複数の円板が重ね合わされて構成されている。各々の円板は、ばね鋼材であり、弾性変形可能である。第2バルブ52は、押さえ部材54により、ピストン40の下端面44に対して押さえつけられている。
【0024】
ロッド21は、押さえ部材53と、第1バルブ51と、ピストン40と、第2バルブ52と、押さえ部材54と、を貫通している貫通部21aを有している。貫通部21aの先端にはナット55が固定されている。ナット55と、ロッド21の段差面21bとは、押さえ部材53と、第1バルブ51と、ピストン40と、第2バルブ52と、押さえ部材54と、を上下方向に挟み込んでいる。
【0025】
ピストン40の外周面45には、外周面45の周方向に沿って環状の第1溝61,第2溝62,第3溝63が形成されている。第1溝61~第3溝63は、上下方向(ロッド21の軸方向)に隣接している。第1溝61にはOリング71が配されている。同様に、第2溝62にはOリング72が配され、第3溝にはOリング73が配されている。
【0026】
(環状部材)
ピストン40の外周面45には、金属製の環状部材80が取り付けられている。環状部材80の外周面81は、シリンダ30の内周面33に対して摺動可能である。
【0027】
環状部材80の内周面82は、Oリング71~73に密着している。環状部材80の内周面82と、ピストン40の外周面45とは、互いに離れている。環状部材80の内周面82と、ピストン40の外周面45とは、環状の空間が画定されている。換言すると、ピストン40の外周面45は、環状部材80の内周面82との間において、Oリング72とOリング73との間の第1部位91(環状の空間)と、Oリング71とOリング72との間の第2部位92(環状の空間)と、を有している。第1部位91と第2部位92とは、上下方向に隣接している。
【0028】
ピストン40は、第1連通路41からピストン40の第1部位91までの間を貫通している第1貫通孔46を有している。第1貫通孔46は、第1連通路41とピストン40の第1部位91とを連通している。第1貫通孔46は、環状部材80の内周面82に対して臨んでいる。
【0029】
ピストン40は、第2連通路43からピストン40の第2部位92までの間を貫通している第2貫通孔47を有している。第2貫通孔47は、第2連通路43とピストン40の第2部位92とを連通している。第2貫通孔47は、環状部材80の内周面82に対して臨んでいる。
【0030】
(実施例の効果)
(第1貫通孔の効果)
ピストン40は、第1油室34と第2油室35とを連通させる第1連通路41を有している。ピストン40の外周面45は、環状部材80の内周面82との間において、環状の第1部位91を有している。第1部位91と、第1連通路41とは、第1貫通孔46を介して連通している。第1貫通孔46は、環状部材80の内周面82に対して臨んでいる。
【0031】
ピストン40が下方へ移動すると、第1油室34から第1連通路41へオイルが流れ込む。流れ込んだオイルの圧力により第1バルブ51は開き、オイルは第2油室35に流れ込み、オイルの流路抵抗による減衰力が発生する。オイルの一部は、第1貫通孔46を介して、環状の第1部位91にも流れ込む。第1部位91に流れ込んだオイルの圧力は、環状部材80の内周面82を径方向外側へ押す。環状部材80の外周面81は、シリンダ30の内周面33に対して押し付けられる。
【0032】
即ち、ピストン40が下方へ移動すると、ピストン40の外周面45に取り付けられた環状部材80に対して、環状部材80を拡径させる力が働く。環状部材80を拡径させる力は、ピストン40の移動する速度が大きくなるにつれて増大する。高速域において、シリンダ30に対する環状部材80の摩擦力を増加させることができる。高速域での減衰力の増加傾向の低減を抑制できる。
【0033】
(第2貫通孔の効果)
ピストン40は、第1油室34と第2油室35とを連通させる第2連通路43を有している。ピストン40の外周面45は、環状部材80の内周面82との間において、環状の第2部位92を有している。第2部位92と、第2連通路42とは、第2貫通孔47を介して連通している。第2貫通孔47は、環状部材80の内周面82に対して臨んでいる。
【0034】
ピストン40が上方へ移動すると、第2油室35から第2連通路43へオイルが流れ込む。流れ込んだオイルの圧力により第2バルブ52は開き、オイルは第1油室34に流れ込み、オイルの流路抵抗による減衰力が発生する。オイルの一部は、第2貫通孔47を介して、環状の第2部位92にも流れ込む。第2部位92に流れ込んだオイルの圧力は、環状部材80の内周面82を径方向外側へ押す。環状部材80の外周面81は、シリンダ30の内周面33に対して押し付けられる。
【0035】
即ち、ピストン40が上方へ移動すると、ピストン40の外周面45に取り付けられた環状部材80に対して、拡径するような力が働く。環状部材80を拡径させる力は、ピストン40が移動する速度が大きくなるにつれて大きくなる。高速域において、シリンダ30に対する環状部材80の摩擦力を増加させることができる。高速域での減衰力の増加傾向の低減を抑制できる。
【0036】
なお、環状部材80に対して軸方向に沿うスリットを設けると、環状部材80は拡径しやすくなる。また、第1貫通孔46,第2貫通孔47の数、形状等は適宜変更することができる。
【0037】
(第1部位と第2部位の効果)
加えて、第1部位91と第2部位92とは、互いに独立した環状の空間である。例えば、各々の部位91,92の上下方向の寸法を調整することにより、ピストン40が上方へ移動する場合と、ピストン40が下方へ移動する場合、互いに独立した摩擦特性を得ることができる。
【0038】
加えて、環状部材80は金属製である。樹脂製の環状部材と比較すると、シリンダ30の内周面33に対する摩擦力を低減することができる。
【0039】
なお、本発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の油圧緩衝器は、自動二輪車に好適である。
【符号の説明】
【0041】
20…リヤサスペンション(油圧緩衝器)
21…ロッド
22…ロッドガイド
30…シリンダ
33…シリンダの内周面
34…第1油室
35…第2油室
40…ピストン
45…ピストンの外周面
41…第1連通路(連通路)
43…第2連通路(連通路)
46…第1貫通孔(貫通孔)
47…第2貫通孔(貫通孔)
80…環状部材
81…環状部材の外周面
82…環状部材の内周面
91…第1部位
92…第2部位
図1
図2
図3