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特開2022-151984コンクリート構造物の保水方法および保水性構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151984
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の保水方法および保水性構造物
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20221004BHJP
   E03B 11/00 20060101ALI20221004BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20221004BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20221004BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20221004BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20221004BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20221004BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
E04G23/02 A
E03B11/00 Z
B05D7/00 D
B05D7/00 L
B05D7/24 302T
B05D1/02 Z
B05D1/36 Z
B05D5/06 C
B05D7/24 301U
B05D5/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054570
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000175021
【氏名又は名称】三井化学産資株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】久保 昌史
(72)【発明者】
【氏名】相田 浩伸
(72)【発明者】
【氏名】宮田 佳和
(72)【発明者】
【氏名】井出 一直
(72)【発明者】
【氏名】清水 幹雄
【テーマコード(参考)】
2E176
4D075
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176BB04
2E176BB25
4D075AA01
4D075AA82
4D075AE03
4D075AE05
4D075CA03
4D075CA13
4D075CA38
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DA23
4D075DB12
4D075DC05
4D075EA27
4D075EA41
4D075EB38
4D075EB45
(57)【要約】
【課題】している状態において、目視による点検によってひび割れ発生個所やひび割れの状態を把握することができる。
【解決手段】貯水槽1のコンクリート水槽2の内面2aを樹脂材料で被覆することにより保水性を確保するコンクリート構造物の保水方法であって、コンクリート水槽2の止水側の内面2aを可撓性を有するプライマー層31で被覆する工程と、イソシアネート基を2個以上有するウレタンプレポリマーを主成分とするA剤と、水酸基及び/又はアミノ基を2個以上有する硬化剤を主成分とするB剤とを組み合わせて成る保水性樹脂材料32を、プライマー層31の上に吹き付けることにより被覆する工程と、を有し、保水性樹脂材料32は、保水性樹脂材料32の樹脂表面3aからコンクリート表面である内面2aが目視可能に透明となるように時間の間隔をあけて複数回、吹き付けられるようにしたコンクリート構造物の保水方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物のコンクリート表面を樹脂材料で被覆することにより保水性を確保するコンクリート構造物の保水方法であって、
前記コンクリート構造物の止水側のコンクリート表面を可撓性を有するプライマー層で被覆する工程と、
イソシアネート基を2個以上有するウレタンプレポリマーを主成分とするA剤と、水酸基及び/又はアミノ基を2個以上有する硬化剤を主成分とするB剤とを組み合わせて成る保水性樹脂材料を、前記プライマー層の上に吹き付けることにより被覆する工程と、
を有し、
前記保水性樹脂材料は、該保水性樹脂材料の樹脂表面から前記コンクリート表面が目視可能に透明となるように時間の間隔をあけて複数回、吹き付けられることを特徴とするコンクリート構造物の保水方法。
【請求項2】
前記保水性樹脂材料は、0.5~3.0mmの厚みで被覆されていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の保水方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコンクリート構造物の保水方法によって保水された保水性構造物であって、
前記プライマー層と前記保水性樹脂材料とが積層され、
前記保水性樹脂材料は、前記樹脂表面から前記コンクリート表面が目視可能な透明性を有していることを特徴とする保水性構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の保水方法および保水性構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示すような鉄筋コンクリート製の貯水槽が知られている。このような貯水槽においては、大規模地震時に部材が降伏して貫通ひび割れが発生した場合、貯水機能が失われるが、そのような場合は施設が破壊したとみなし、それでも当面の貯水機能を維持するような対策は施されていない。しかしながら、今後巨大地震が発生する可能性も指摘されており、既設貯水槽のような生活インフラ構造物においては部材が破壊しても当面の機能を維持し、震災後の生活への悪影響をできるだけ小さくする対策が求められていた。
【0003】
通常、大規模地震時に貯水槽の機能を維持するためには、部材を補強してひび割れを防止する方法が採用されている。例えば、貯水槽のコンクリート厚を増大するコンクリート増厚工法や、炭素繊維シートをコンクリート表面に貼り付けることで、構造的に補強する炭素繊維補強工法などを用いた耐震補強工法が効果的とされている。
【0004】
また、一般的にはエポキシなどの樹脂材料を貯水槽の内面に塗布または吹き付けにより被覆することで防水機能をもたせることが行われているが、これは常時の内部の液体による腐蝕、経年劣化に対して機能を維持するためのものであり、前述のように大規模地震において部材が破壊したとみなされるような場合のひび割れに対応可能なものではない。
【0005】
さらに、ポリウレア樹脂をコンクリート表面に吹付けによって塗布することで防水性をもたせる表面塗布ポリウレア樹脂吹付工法が知られている。このような表面塗布ポリウレア樹脂吹付工法は、ポリイソシアネート(R-NCO)とポリアミン(R-NH2)の2液を専用の吹付装置によって加温して圧送し、圧送ホース先端に取り付けたスプレーガンを使用して衝突混合させてウレア結合を生成した状態で、コンクリート表面に吹付け塗布する工法である。
【0006】
上述した表面塗布ポリウレア樹脂吹付工法で使用するポリウレア樹脂としては、指触乾燥時間である数十秒で硬化し、半日程度で所定の強度(例えば、引張強度20N/mm、引張伸び200%程度)が発現する超速硬化性の樹脂を使用することで、短時間で大面積を施工できる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-314753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したポリウレア樹脂は、吹付け時に混入する微小な独立気泡の光の乱反射により白濁したり、紫外線により黄変する性質があることから、材料に顔料を添加し着色する。このため下地材のコンクリートの状態を樹脂表面から目視により確認することは困難であった。ここで、ポリウレア樹脂は、超速硬化性の樹脂のため、施工には専用の吹付機械や吹付ガンを使用する。そして、吹付けの際には、高温、高圧の材料を衝突混合によって行うため、硬化した樹脂塗膜には、吐出時に巻き込んだ微小な独立気泡が内在する。この独立気泡によって光が乱反射され、白濁した不透明な仕上がりとなる。そこで、ポリウレア樹脂の材料自体はA剤(主剤)、B剤(硬化剤)のいずれも透明であることから、B剤に顔料を添加して着色している。
【0009】
このように、ポリウレア樹脂の下地となるコンクリート構造物のコンクリート表面は樹脂に覆われて目視などによってひび割れの状態を点検することができない。そのため、コンクリート構造物に大きな外力が作用し、コンクリートにはひび割れが発生しているが、ポリウレア樹脂が破断せず保水性能を維持している状態において、目視による点検によってひび割れ発生個所やひび割れの状態を把握できないという問題があった。
【0010】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、コンクリート構造物としての保水性を維持している状態において、目視による点検によってひび割れ発生個所やひび割れの状態を把握することができるコンクリート構造物の保水方法および保水性構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係るコンクリート構造物の保水方法は、コンクリート構造物のコンクリート表面を樹脂材料で被覆することにより保水性を確保するコンクリート構造物の保水方法であって、前記コンクリート構造物の止水側のコンクリート表面を可撓性を有するプライマー層で被覆する工程と、イソシアネート基を2個以上有するウレタンプレポリマーを主成分とするA剤と、水酸基及び/又はアミノ基を2個以上有する硬化剤を主成分とするB剤とを組み合わせて成る保水性樹脂材料を、前記プライマー層の上に吹き付けることにより被覆する工程と、を有し、前記保水性樹脂材料は、該保水性樹脂材料の樹脂表面から前記コンクリート表面が目視可能に透明となるように時間の間隔をあけて複数回、吹き付けられることを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る保水性構造物は、上述したコンクリート構造物の保水方法によって保水された保水性構造物であって、前記プライマー層と前記保水性樹脂材料とが積層され、前記保水性樹脂材料は、前記樹脂表面から前記コンクリート表面が目視可能な透明性を有していることを特徴としている。
【0013】
本発明では、コンクリート表面に被覆したプライマー層の上に吹き付けにより保水性樹脂材料を被覆することでコンクリート構造物の止水側のコンクリート表面に保水性をもたせた構造とすることができる。そして、プライマー層の上に被覆される保水性樹脂材料は、吹き付け時において時間の間隔をあけて複数回重ねて吹き付けることで、一度に吹き付ける吹付け厚を抑え、吹き付けた樹脂の液だれを抑えることができる。また、吹き付けガンの使用によって生じる泡噛みを小さくできるので保水性樹脂材料の透明度を大きくすることができる。
このように保水性樹脂材料が透明であるため、コンクリート構造物に生じるひび割れ等のコンクリート表面を樹脂表面から目視によって観察することができ、コンクリート構造物の状態を把握することができる。そして、コンクリート表面の状態に応じてコンクリート構造物の補修を行うことが可能となるため、コンクリート構造物としての保水性を維持できる。
【0014】
また、本発明では、上述したように保水性樹脂材料が透明性を有しているので、下地のコンクリート構造物のコンクリート表面の風合いを維持することができ、コンクリート構造物の印象を変えずに保水性をもたせた施工を行うことができる。
さらに、本発明では、保水性樹脂材料の表面に対してトップコートが不要となるので、工期の短縮を図ることができる。
【0015】
また、本発明では、コンクリート構造物と保水性樹脂材料との間に、コンクリート構造物と保水性樹脂材料との靭性の差を和らげる中間層として、可撓性を有するプライマー層が設けられている。そして、プライマー層はコンクリート構造物及び保水性樹脂材料に密着した状態で設けられている。
この構成によれば、プライマー層がコンクリート構造物のひび割れ等の変形に追従することで、コンクリート構造物が保水性樹脂材料を剥がそうとする力が緩和される。それとともに、保水性樹脂材料がプライマー層の動きに応じて自在に伸縮する、或いは撓ることで、保水性樹脂材料にプライマー層の変動が適度に吸収される。
【0016】
これにより、大規模地震時に、コンクリート構造物に大きな外力が加わっても、プライマー層と保水性樹脂材料がコンクリート構造物のひび割れに順次追従して伸縮し、破断することなく、コンクリート表面に密着した状態で残存する。従って、保水性樹脂材料によってコンクリート表面が被覆された状態が確実に維持され、コンクリート構造物にひび割れが発生している状態であっても構造体としての保水性をより高めることができる。
【0017】
また、本発明に係る保水性構造物は、前記保水性樹脂材料は、0.5~3.0mmの厚みで被覆されていることが好ましい。
【0018】
この場合には、この範囲の厚みで保水性樹脂材料を被覆することで、コンクリート構造物のコンクリート表面のクラックを目視できる透明度を確実に確保しつつ、保水性能も十分に確保することができる。保水性樹脂材料の厚みが0.5mmより小さいと保水性の確保が困難であり、厚みが3.0mmを超えると樹脂材料に白濁が目立ちコンクリート表面のクラック等を確認し難くなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のコンクリート構造物の保水方法および保水性構造物によれば、コンクリート構造物としての保水性を維持している状態において、目視による点検によってひび割れ発生個所やひび割れの状態を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態による貯水槽の構成を示す縦断面図である。
図2図1に示す貯水槽の側壁の一部を破断した斜視図である。
図3】実施例による試験結果であって、(a)~(d)は保水性樹脂材料の厚さ毎の透明度を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態によるコンクリート構造物の保水方法および保水性構造物について、図面に基づいて説明する。
【0022】
図1及び図2に示すように、本実施形態による貯水槽1(保水性構造物)は、コンクリート水槽2の内面2a(止水側のコンクリート表面)を透明樹脂材料3で被覆することにより一体に設けて保水性を確保した構造となっている。貯水槽1は、例えば防火水槽として用いられる。
【0023】
コンクリート水槽2は、鉄筋コンクリート造により平面視で四角形状に形成され、地中に埋設されている。コンクリート水槽2は、側壁21、底壁22、および天壁(図示省略)からなり、内部に水Wが貯留される。つまり、少なくとも側壁21および底壁22の外周面22bは地盤に接した状態で配置されている。
【0024】
コンクリート水槽2は、コンクリートを現場打ちによって施工されている。具体的には、コンクリート水槽2の鉄筋を配筋すると共に型枠を建て込み、その後、型枠内にコンクリートを打設することで、コンクリート水槽2が施工される。また、別の方法として、コンクリート水槽2は、例えばプレキャストコンクリート工法によって製造された複数のものを施工箇所に配置して連結することによって貯水槽1を構築する方法であってもよい。
【0025】
透明樹脂材料3は、コンクリート水槽2の内面2aに被覆された可撓性を有するプライマー層31と、プライマー層31の上に被覆された無黄変イソシアネートと特殊硬化剤の2成分からなる透明無黄変ポリウレア樹脂からなる保水性樹脂材料32と、を有する。
保水性樹脂材料32は、2液混合衝突型スプレーを用いて構造物表面(ここでは、コンクリート水槽2の内面2a)に吹付けて被覆する
【0026】
プライマー層31は、コンクリート水槽2にひび割れが発生しても、そのひび割れによる変形に追従しながらコンクリート水槽2が保水性樹脂材料32を剥がそうとする力を緩和させるために設けられている。すなわち、プライマー層31は、コンクリート水槽2及び保水性樹脂材料32との密着性がよく、コンクリート水槽2が保水性樹脂材料32を剥がそうとする力を緩和させ得る程度に可撓性を有している。
【0027】
上記可撓性を有するプライマー層31を構成するプライマーとしては、上述した保水性樹脂材料32から成る被膜との密着性に優れた、エポキシ樹脂プライマーを好適に使用できる。このようなエポキシ樹脂プライマーとしては、本出願人(三井化学産資株式会社)が出願した特開2019-206893号公報等に記載されたものを好適に使用することができ、当該公報に記載された方法により形成することができる。
プライマー層31を構造物表面に形成する場合には、その厚みは、0.02~0.4mm程度であることが好ましい。
【0028】
ポリウレタン樹脂は、保水性樹脂材料32をなすポリウレア樹脂と同じイソシアネートによって構成されている。
【0029】
ポリウレタン樹脂プライマーのコンクリートに対する密着性は比較的高く、ポリウレタン樹脂プライマーのコンクリートに対する変形追従性は極めて良好である。上記説明した各プライマーの組成に起因して、ポリウレタン樹脂プライマーのポリウレタン樹脂及びポリウレア樹脂に対する密着性は、非常に高い。従って、コンクリート水槽2と保水性樹脂材料32の双方に密着し、コンクリート水槽2の大きな変形に追従しながら、コンクリート水槽2が保水性樹脂材料32を剥がそうとする力を充分に緩和させる点から、プライマー層31はポリウレタン樹脂プライマーから構成されていることが好ましい。特に液剤等の調合が容易である点から、プライマー層31は、ポリウレタン樹脂を主成分とする溶剤系プライマー或いは無溶剤系プライマーから構成されている変性ポリウレタン系プライマーであることが好ましい。ポリウレタン樹脂を主成分とする溶剤系プライマー或いは無溶剤系プライマーには、例えば市販のサンシラールスーパー(AGCポリマー建材株式会社製)がある。
【0030】
コンクリート水槽2に対してプライマー層31を被覆する施工方法としては、コンクリート水槽2の内面2aを十分に清掃して塵等を取り除いた後、コンクリート水槽2の内面2aにプライマー層31を構成するプライマーを所定の厚み寸法で塗布又は吹き付ける方法が挙げられる。
【0031】
保水性樹脂材料32は、コンクリート水槽2の大きな変形に対して自身が柔軟に伸縮する、或いは撓ることで、コンクリート水槽2のひび割れを保持するために設けられている。すなわち、保水性樹脂材料32は、非常に高い靭性を有するものであり、せん断付着力及び曲げ引張強度が高く、かつ、強度及び伸び等の力学的特性に優れた合成樹脂から構成されている。
【0032】
保水性樹脂材料32としては、イソシアネート基を2個以上有するウレタンプレポリマーを主成分とするA剤と、水酸基及び/又はアミノ基を2個以上有する硬化剤を主成分とするB剤とを組み合わせてなる被覆材であって、2液混合衝突させる際のA剤及びB剤のそれぞれの液圧力が500psi以上1200psi以下、好ましくは500psi以上1050psi以下の範囲に調整されている樹脂が使用される。すなわち、上記範囲よりも液圧力が小さい場合には、塗工性に劣り、均一な膜を形成することができず、その一方上記範囲よりも液圧力が大きい場合には、気泡を抱き込んでしまい、透明性に劣るようになる。
このような保水性樹脂材料32には、例えばスワエールAR-100(登録商標:三井化学産資株式会社製)がある。
【0033】
そして、2液混合衝突させる際のA剤及びB剤のそれぞれの粘度は、500mPa・s以下の範囲に調整されている。
保水性樹脂材料32の厚みは、0.5~3mmの厚みが好ましい。また、保水性樹脂材料32により形成された被膜の1mm厚みにおける隠蔽率が30%未満である。
本実施形態で使用する保水性樹脂材料32のさらに詳しくは、特開2019-206893号公報に記載されているものとされる。
【0034】
A剤を構成するウレタンプレポリマーとしては、イソシアネート基を1分子中に2個以上有するポリイソシアネート化合物と、イソシアネート基と反応する活性水素を1分子中に2個以上有する化合物とを反応させることによって得ることができる。特に活性水素化合物として、アルコール性水酸基を1分子中に2個以上有するポリオール化合物、例えばポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールあるいはその他のポリオール等を1種又は2種以上組み合わせて形成させたウレタンプレポリマーが好適である。
【0035】
本実施形態による保水性樹脂材料32は、ウレタンプレポリマーを主成分とするA剤と、水酸基及び/又はアミノ基を2個以上有する硬化剤を主成分とするB剤と、必要に応じその他添加剤とを配合した硬化性組成物を硬化させることによって形成させることができる。
【0036】
ウレタンプレポリマーを硬化させる、水酸基及び/又はアミノ基を2個以上有する化合物としては、分子量が18~10000、好ましくは30~5000である化合物が好ましく、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1、6-へキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,4-トリヒドロキシブタン、1,2,3,4-テトラヒドロキシブタン、1,2,6-トリヒドロキシヘキサン、1,1,1-トリメチロールエタン、ペンタエリトリトール、ポリカプロラクトン、フラクトース、キシリトール、アラビトール、ソルビトール及びマンニトールなどの多価アルコール;エタノールアミンのような低分子アミノアルコール;アンモニア、ヒドラジン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレエンヘキサミン、m-フェニレンジアミン、2,4-トリレンジアミン、2,6-トリレンジアミン、ジエチルトリレンジアミン、3,3′-ジクロロ-4、4′-ジアミノ-ジフェニルメタンなどの低分子ポリアミン化合物、また先に挙げたウレタンプレポリマーの調製の際に使用できる、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールなどのポリオール; エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイド又はその混合物を反応させて得られるポリエーテル末端に有するヒドロキシル基をアンモニアと反応させてアミノ基に置換することによって得られるポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミンなどのポリエーテルポリアミンを挙げることができる。これら硬化剤の中では、ポリエーテルポリオール又はポリエーテルポリアミンを使用することが好ましいが、ポリエーテルポリオール又はポリエーテルポリアミンに他の1種類以上の低分子ポリオール又は低分子ポリアミンを組み合わせて使用することもできる。
これら硬化剤として、ウレタンプレポリマーに含まれるイソシアネート基1モルに対して、低分子化合物中の活性水素が、約0.8モル以上の割合、好ましくは約0.95~1.2モルとなるように硬化剤が添加される。
【0037】
A剤及びB剤には、ウレタンプレポリマー及び硬化剤の他に、可塑剤、溶剤、界面活性剤、硬化促進触媒、老化防止剤、染料等の添加剤を、必要により従来公知の処方に従って配合することができる。
本実施形態で使用する超硬化性樹脂のさらに詳しくは、特開2019-206893号公報に記載されているものとされる。
【0038】
保水性樹脂材料32は、従来より硬化速度が遅く壁や天井等で厚付けする場合は液だれが生じるため不適であったが、吹付け時のインターバルを調整すること等でこれを防止し施工可能となった。
【0039】
プライマー層31の上に保水性樹脂材料32を被覆する施工方法としては、プライマー層31の表面を清浄した後、プライマー層31の表面に保水性樹脂材料32を上述した所定の厚み寸法で塗布して被覆する方法が挙げられる。
このとき保水性樹脂材料32は、保水性樹脂材料32の樹脂表面3aからコンクリート表面(コンクリート水槽2の内面2a)が目視可能に透明となるように時間の間隔をあけて複数回、吹き付けられる。
【0040】
被覆材の構造物への吹付けに用いるスプレー装置としては、調圧調温計量装置と、ミックスチャンバーを備えたスプレーガン及び加温のできるホットホースからなるスプレー装置を使用することができる。ここで、本実施形態では、スプレーガンとして、2液混合衝突型スプレーを使用することが重要である。
【0041】
また、この2液混合衝突型スプレーにおいては、所定範囲の液圧力でA剤及びB剤を混合衝突させるのに適したミックスチャンバーを選択することが好ましい。
本実施形態では、A剤及びB剤の混合衝突させる際の、具体的にはA剤及びB剤をミックスチャンバーに導入する際の、それぞれの粘度が、500mPa・s以下であることが好適であり、350mPa・s以下であることがより好適である。前記所定範囲よりも粘度が高い場合には、塗工性に劣るようになり、均一な被膜を形成することが困難になる。A剤及びB剤の粘度はより低くなるように調整した方が両液の粘度差も小さくなり、混合が容易にとなるため被膜の物性も向上する。
【0042】
また、A剤及びB剤は、A剤及びB剤を混合衝突させた後の材料のJIS K-5600-1-1に記載の評価方法による指触乾燥時間が10秒~60分の範囲となるように調整されていることが好ましい。
【0043】
本実施形態において、A剤とB剤とを混合衝突させる際の液圧力、A剤及びB剤の粘度の他、吐出方法(上方、下方、水平方向)、2液混合衝突型スプレーの吐出口と構造物表面の間隔であるスプレー距離等の諸条件を適宜調整することが好ましい。
例えば、スプレーの吐出方向が水平方向の場合には、スプレー距離が20~100cmの範囲であることが好適で、30~80cmであることがより好適である。20cm未満では、スプレーの吐出物が局所的に集中して厚みむらが生じやすくなり、100cmを超えると硬化が速い材料では、ミストが多量に発生したり局所的に粒子状に硬化する部分が生じて被膜の形成を阻害し、被覆材の物性が低下したりする。
【0044】
コンクリート水槽2の内面2aに直接、或いはプライマー層31が形成されている場合には、プライマー層31上に、A剤及びB剤のからなる保水性樹脂材料32を2液混合衝突型スプレーを用いて塗工する。
【0045】
保水性樹脂材料32は、0.5~3.0mm、とくに0.7~2.5mmの厚みであることが好ましい。この範囲よりも保水性樹脂材料32の厚みが薄いと、保護被膜として十分な機能を発揮できないおそれがあり、上記範囲より厚いと透明性が低下するとともに経済性にも劣るようになる。
【0046】
上述のように本実施の形態による貯水槽1では、図1及び図2に示すように、コンクリート水槽2の内面2aに被覆したプライマー層31の上に吹き付けにより保水性樹脂材料32を被覆することでコンクリート水槽2の止水側の内面2aに保水性をもたせた構造とすることができる。
そして、プライマー層31の上に被覆される保水性樹脂材料32は、吹き付け時において時間の間隔をあけて複数回重ねて吹き付けることで、一度に吹き付ける吹付け厚を抑え、吹き付けた樹脂の液だれを抑えることができる。
また、吹き付けガンの使用によって生じる泡噛みを小さくできるので保水性樹脂材料32の透明度を大きくすることができる。
【0047】
このように保水性樹脂材料32が透明であるため、コンクリート水槽2に生じるひび割れ等のコンクリート表面(コンクリート水槽2の内面2a)を樹脂表面3aから目視によって観察することができ、コンクリート水槽2の状態を把握することができる。そして、コンクリート表面の状態に応じてコンクリート水槽2の補修を行うことが可能となるため、貯水槽1としての保水性を維持できる。
【0048】
また、本実施形態では、上述したように保水性樹脂材料32が透明性を有しているので、下地のコンクリート水槽2の内面2aの風合いを維持することができ、コンクリート水槽2の印象を変えずに保水性をもたせた施工を行うことができる。本実施形態では、止水側が貯水槽1の内面2aであるが、とくに人目に触れる外面に保水性をもたせて保水性樹脂材料32で被覆する場合に効果的である。
さらに、本実施形態では、保水性樹脂材料32の樹脂表面3aに対してトップコートが不要となるので、工期の短縮を図ることができる。
【0049】
また、本実施形態では、コンクリート水槽2の内面2aと保水性樹脂材料32との間に、コンクリート水槽2と保水性樹脂材料32との靭性の差を和らげる中間層として、可撓性を有するプライマー層31が設けられている。そして、プライマー層31はコンクリート水槽2及び保水性樹脂材料32に密着した状態で設けられている。
この構成によれば、プライマー層31がコンクリート水槽2のひび割れ等の変形に追従することで、コンクリート水槽2が保水性樹脂材料32を剥がそうとする力が緩和される。それとともに、保水性樹脂材料32がプライマー層31の動きに応じて自在に伸縮する、或いは撓ることで、保水性樹脂材料32にプライマー層31の変動が適度に吸収される。
【0050】
これにより、大規模地震時に、コンクリート水槽2に大きな外力が加わっても、プライマー層31と保水性樹脂材料32がコンクリート水槽2のひび割れに順次追従して伸縮し、破断することなく、コンクリート水槽2の内面2aに密着した状態で残存する。従って、保水性樹脂材料32によってコンクリート表面が被覆された状態が確実に維持され、コンクリート水槽2にひび割れが発生している状態であっても構造体としての保水性をより高めることができる。
【0051】
また、本実施形態では、0.5~3.0mmの厚みで保水性樹脂材料32を被覆することで、コンクリート水槽2の内面2aのクラックを目視できる透明度を確実に確保しつつ、保水性能も十分に確保することができる。
つまり、保水性樹脂材料32の厚みが0.5mmより小さいと保水性の確保が困難であり、厚みが3.0mmを超えると樹脂材料に白濁が目立ちコンクリート表面のクラック等を確認し難くなる。
【0052】
次に、上述した実施の形態によるコンクリート構造物の保水方法および保水性構造物の効果を裏付けるために行った実施例について以下説明する。
【0053】
(実施例)
本実施例では、文字等が記載された試験片(下地材)の表面に上述した物性の保水性樹脂材料を吹き付けガンによって吹き付けた保水性樹脂材料の樹脂厚の異なる4つの試験体からなるケース(Case1~4)で試験を行い、目視による樹脂の透明性による効果を確認した。
【0054】
試験片の下地材は、平面視四角形状のコンクリート製の平板であり、一方の表面に文字が表示されている。
各Case1~4における保水性樹脂材料の厚さは、図3(a)のCase1で1.4~1.6mm、図3(b)のCase2で1.7~2.1mm、図3(c)のCase3で2.1~2.4mm、図3(d)のCase4で2.8~3.0mmである。なお、各Case1~4の保水性樹脂材料の厚さには、プライマー層は含まれていない。
各試験体の保水性樹脂材料は、上述した実施形態で記載した2液混合衝突型スプレーを使用し、各試験体とも同条件となる好適な吹き付け条件に基づいて吹き付けて被覆した。
【0055】
図3(a)~(d)に示すように、試験の結果、Case1、2、3、4の順、すなわち樹脂厚が厚くなるほど透明度が低くなっているが、各Caseともに下地材に表示されている文字を認識できることが確認された。これは、厚さが大きいほど、吹き付け時における樹脂の泡噛みが生じることと、液垂れが生じることによるものと考えられる。
【0056】
以上、本発明によるコンクリート構造物の保水方法および保水性構造物の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0057】
例えば、本実施形態では、保水性構造物として貯水槽1を対象としているが、他のコンクリート製の水槽構造物であってもかまわない。また、保水性構造物の形状は、とくに制限されるものではなく、本実施形態の貯水槽1ように平面視で四角形状に限らず、例えば平面視で円形、六角形などの形状であってもよい。
【0058】
また、コンクリート構造物として、本実施形態のコンクリート水槽2のように鉄筋コンクリートであることに限らず、無筋コンクリートやプレストレスコンクリートであってもよい。
【0059】
さらに、本実施形態では、プライマー層31と保水性樹脂材料32とからなる透明樹脂材料3をコンクリート水槽2に被覆する効果としてひび割れが発生したコンクリート水槽2における保水性を挙げているが、この他の効果として、コンクリート水槽2自体のひび割れの防止あるいは伸展を抑制する機能も有している。
【0060】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 貯水槽(保水性構造物)
2 コンクリート水槽(コンクリート構造物)
2a 内面(止水側のコンクリート表面)
3 透明樹脂材料
3a 樹脂表面
31 プライマー層
32 保水性樹脂材料
W 水
図1
図2
図3