(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022015199
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】掘削撹拌装置及びそれを用いる地盤改良体の構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20220114BHJP
E02D 5/46 20060101ALI20220114BHJP
E02D 5/48 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
E02D3/12 102
E02D5/46
E02D5/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020117887
(22)【出願日】2020-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】593010132
【氏名又は名称】株式会社テノックス九州
(74)【代理人】
【識別番号】100097179
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 一幸
(72)【発明者】
【氏名】碓井 博文
【テーマコード(参考)】
2D040
2D041
【Fターム(参考)】
2D040AA01
2D040AB05
2D040BA08
2D040BD05
2D040CA01
2D040CB03
2D040EA11
2D040EA19
2D040EB01
2D041AA01
2D041BA22
2D041CA03
2D041DA12
(57)【要約】
【課題】 掘削翼を用いて地盤改良体の本体を構築し、共回り防止翼を活用して地盤改良体の拡径部を構築できる掘削撹拌装置を提供する。
【解決手段】 本装置は、回転軸1に軸着され土砂を掘削し第1直径D1を有する掘削翼2と、回転軸に対して遊嵌されるボス部3を有し第2直径D2を有する共回り防止翼を備える。ボス部3の上側のみに条件付き係合部30を設け、条件付き係合部30は、回転軸1が第1回転方向に回転する際には、ボス部3を回転軸1に係合するが、回転軸が第2回転方向に回転する際には、ボス部3を回転軸1に係合しない。共回り防止翼5への抗力が、上側へ作用し、回転軸が第1回転方向に回転するという条件が満たされる場合、共回り防止翼5が掘削翼2と同期回転し、第2直径D2を有する拡径部11を構築する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中において鉛直軸を中心として回転する回転軸と、
前記回転軸に軸着され土砂を掘削すると共に第1直径を有する掘削翼と、
前記回転軸を周回し前記回転軸に対して遊嵌されるボス部を有すると共に、前記第1直径よりも大きい第2直径を有する共回り防止翼とを備え、
前記ボス部の上側又は下側の一方のみに条件付き係合部を設け、
前記条件付き係合部は、前記回転軸が第1回転方向に回転する際には、前記ボス部を前記回転軸に係合するが、前記回転軸が、前記第1回転方向とは反対の第2回転方向に回転する際には、前記ボス部を前記回転軸に係合しないものであり、
前記共回り防止翼への抗力が、前記条件付き係合部を設けた前記一方側へ作用し、且つ、前記回転軸の回転方向が前記第1回転方向であるという条件が満たされる場合、前記共回り防止翼が前記掘削翼と同期回転することにより、前記共回り防止翼の先端部において構築され、且つ前記第2直径を有する拡径部と、
前記条件が満たされない場合、前記共回り防止翼が前記掘削翼と同期回転しないことにより、前記掘削翼の先端部により構築され、且つ前記第1直径を有する本体とを有する、地盤改良体を構築することを特徴とする掘削撹拌装置。
【請求項2】
前記一方は、前記ボス部の上側である請求項1記載の掘削撹拌装置。
【請求項3】
前記条件付き係合部は、前記回転軸に固定されるピンと、前記回転軸が前記第1回転方向に回転する際には、前記ピンを係止し、前記回転軸が前記第2回転方向に回転する際には、前記ピンを通過させる傾斜溝を有する請求項1又は2記載の掘削撹拌装置。
【請求項4】
前記条件付き係合部は、前記回転軸に固定される第1傾斜溝と、前記回転軸が前記第1回転方向に回転する際には、前記第1傾斜溝を係止し、前記回転軸が前記第2回転方向に回転する際には、前記第1傾斜溝を通過させる第2傾斜溝を有する請求項1から3のいずれかに記載の掘削撹拌装置。
【請求項5】
前記ボス部、前記共回り防止翼及び前記条件付き係合部は、上下一対に設けられ、前記上下一対の前記共回り防止翼同士は、連結板により上下に結合される請求項1から4のいずれかに記載の掘削撹拌装置。
【請求項6】
前記拡径部の断面形状は、前記上下一対の前記共回り防止翼及び前記連結板の先端部により、矩形となる請求項5記載の掘削撹拌装置。
【請求項7】
前記拡径部の断面形状は、前記上下一対の前記共回り防止翼及び前記連結板の先端部により、三角形となる請求項5記載の掘削撹拌装置。
【請求項8】
前記拡径部の断面形状は、前記上下一対の前記共回り防止翼及び前記連結板の先端部により、円形又は楕円形となる請求項5記載の掘削撹拌装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の掘削撹拌装置を用いて、地中において前記第1直径を有する本体と、前記第2直径を有する拡径部とを有する地盤改良体を構築するにあたり、
前記拡径部は、前記共回り防止翼への抗力が、前記条件付き係合部を設けた前記一方側へ作用し、且つ、前記回転軸の回転方向が前記第1回転方向であるという条件を満たす場合、前記共回り防止翼が前記掘削翼と同期回転することにより、前記共回り防止翼の先端部において構築され、
前記本体は、前記条件が満たされない場合、前記共回り防止翼が前記掘削翼と同期回転しないことにより、前記掘削翼の先端部により構築されることを特徴とする地盤改良体の構築方法。
【請求項10】
前記拡径部の断面形状は、矩形となる請求項9記載の地盤改良体の構築方法。
【請求項11】
前記拡径部の断面形状は、三角形となる請求項9記載の地盤改良体の構築方法。
【請求項12】
前記拡径部の断面形状は、円形又は楕円形となる請求項9記載の地盤改良体の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深層混合処理工法などの地盤改良工法に使用され、共回り防止翼を備える掘削撹拌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
土壌の粘性が高い場合、掘削された土砂及び固化材ミルクが掘削翼の回転につれて共回りしようとするが、共回り現象が発生すると、固化材ミルクと土砂の撹拌が不足して不均質なコラムが造成される事態を回避する必要がある。このような場合、掘削撹拌装置には、掘削翼に加えて共回り防止翼が設けられることが多い。
【0003】
具体的には、特許文献1(特許第1197295号公報)に開示されるように、掘削翼は、回転軸の下端部に設けられるが、共回り防止翼の直径は、掘削翼の直径よりも大きく設定される。
【0004】
このようにすると、地中において、駆動手段により回転軸が盛んに回転する一方、共回り防止翼の先端部は、掘削翼の先端部よりも外側に位置することとなり、周囲の地山に接触する。その結果、共回り防止翼は、地山に邪魔されてほとんど回転しないか、又は、完全に静止している。言い換えると、回転軸と共回り防止翼とにおいて、大きな角速度差が生じ、この角速度差により、共回り防止翼を境界として、その上側と下側(掘削翼側)の土壌が縁切りされる。
【0005】
このように、共回り防止翼を追加することは、有用であり通常行われることなのであるが、従来の技術では、共回り防止翼は、専ら静止して上述した角速度差を作ることにのみ使用されてきた。
【0006】
ここで例えば、特許文献2(特開平06-73730号公報)、特許文献3(特開平09-279574号公報)、特許文献4(特開2000-45274号公報)に開示されているように、地盤改良体の一部又は複数箇所に、地盤改良体の本体よりも、大きな直径を有する拡径部を形成し、周面支持力を増加しようとする技術が知られている。
【0007】
このような技術では、典型的には特許文献2(特開平06-73730号公報)に示されているように、拡径部を形成するために、回転軸の半径方向について突没する要素が、撹拌翼に追加されている。しかしながら、撹拌翼が動作する環境は、高い土圧が作用し、土砂、岩、セメントミルク等が混在する極めて厳しいものであり、複雑な機構を追加したのでは、果たして正常に動作しているかどうか疑わしいし、結果の確認自体が通常不可能である。よって、従来の技術により、このような拡径部を形成することは、実施困難であると言わざるを得ない。
【特許文献1】特許第1197295号公報
【特許文献2】特開平06-73730号公報
【特許文献3】特開平09-279574号公報
【特許文献4】特開2000-45274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、もともと掘削撹拌装置に備えられている、共回り防止翼を活用して、極力追加的要素を削減しながら、拡径部を構築できないか、鋭意研究した結果、本願発明を完成させたものである。即ち、本発明は、掘削翼を用いて地盤改良体の本体を構築すると共に、共回り防止翼を活用して地盤改良体の拡径部を構築できる掘削撹拌装置及びその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明に係る掘削撹拌装置は、地中において鉛直軸を中心として回転する回転軸と、回転軸に軸着され土砂を掘削すると共に第1直径を有する掘削翼と、回転軸を周回し回転軸に対して遊嵌されるボス部を有すると共に、第1直径よりも大きい第2直径を有する共回り防止翼とを備え、ボス部の上側又は下側の一方のみに条件付き係合部を設け、条件付き係合部は、回転軸が第1回転方向に回転する際には、ボス部を回転軸に係合するが、回転軸が、第1回転方向とは反対の第2回転方向に回転する際には、ボス部を回転軸に係合しないものであり、共回り防止翼への抗力が、条件付き係合部を設けた一方側へ作用し、且つ、回転軸の回転方向が第1回転方向であるという条件が満たされる場合、共回り防止翼が掘削翼と同期回転することにより、共回り防止翼の先端部において構築され、且つ第2直径を有する拡径部と、条件が満たされない場合、共回り防止翼が掘削翼と同期回転しないことにより、掘削翼の先端部により構築され、且つ第1直径を有する本体とを有する、地盤改良体を構築する。
【0010】
ここで、条件付き係合部が設けられる一方は、ボス部の上側であることが好ましいが、下側とすることもできる。以下の説明により明らかなように、上側か下側かという問題は、掘削撹拌装置の進行方向を逆にすれば解決できる。
【0011】
この構成において、条件付き係合部は、回転軸が第1回転方向に回転する際には、ボス部を回転軸に係合するが、回転軸が、第1回転方向とは反対の第2回転方向に回転する際には、ボス部を回転軸に係合しない。即ち、条件付き係合部は、回転軸の回転方向により動作を異にし、方向性を有する。
【0012】
共回り防止翼への抗力が、条件付き係合部を設けた一方側へ作用する場合、条件付き係合部は、作動状態となる。条件付き係合部は、回転軸が第1回転方向に回転する際、ボス部を回転軸に係合するため、共回り防止翼は、共回り防止翼が掘削翼と同期回転し、共回り防止翼の先端部が、第2直径を有する拡径部を構築する。
【0013】
共回り防止翼への抗力が、条件付き係合部を設けた一方側へ作用する場合、条件付き係合部は、作動状態となるが、回転軸が、第2回転方向に回転する際には、条件付き係合部は、ボス部を回転軸に係合しない。その結果、共回り防止翼は、通常の動作状態となり、地山に接触して回転方向についてほぼ静止した状態となる。したがって、通常通り、共回り防止翼が掘削翼と同期回転せず、掘削翼の先端部が、第1直径を有する本体を構築する。
【0014】
共回り防止翼への抗力が、条件付き係合部を設けた一方とは逆の方向に作用する場合、条件付き係合部そのものが作動状態とならない。このため、回転軸の回転方向が、第1回転方向及び第2回転方向のいずれであっても、条件付き係合部は、ボス部を回転軸に係合しない。その結果、共回り防止翼は、通常の動作状態となり、地山に接触して回転方向についてほぼ静止した状態となる。したがって、通常通り、共回り防止翼が掘削翼と同期回転せず、掘削翼の先端部が、第1直径を有する本体を構築する。
【0015】
共回り防止翼への抗力の方向は、掘削撹拌装置が下降する際、上向きとなり、掘削撹拌装置が上昇する際、下向きとなる。即ち、掘削撹拌装置の進行方向によって定まる。この進行方向の設定は、掘削撹拌装置の制御において通常に実施されるものであって、容易に実現できる。
【0016】
また、回転軸の回転方向が、第1回転方向であるのか、第2回転方向であるのかという、設定も、掘削撹拌装置の制御において通常に実施されるものであって、容易に実現できる。
【0017】
以上述べたように、掘削撹拌装置の進行方向と、回転軸の回転方向とを、適切に制御-この制御自体は、上述したように普通に実施されている事項である。-することにより、第1直径を有する本体と、第2直径を有する拡径部とを有する地盤改良体を構築することができる。しかもこの際、通常備えられている共回り防止翼を利用すれば足り、従来の技術で必須であった、信頼性が低い追加的要素を掘削翼に追加すること等は、不要である。
【0018】
好ましくは、条件付き係合部は、回転軸に固定されるピンと、回転軸が第1回転方向に回転する際には、ピンを係止し、回転軸が第2回転方向に回転する際には、ピンを通過させる傾斜溝を有する。
【0019】
或いは、好ましくは、条件付き係合部は、回転軸に固定される第1傾斜溝と、回転軸が第1回転方向に回転する際には、第1傾斜溝を係止し、回転軸が第2回転方向に回転する際には、第1傾斜溝を通過させる第2傾斜溝を有する。
【0020】
これらの構成により、回転軸の回転をほとんど妨げない条件付き係合部を構成できる。また、この条件付き係合部は、掘削翼の動作に影響を及ぼさず、確実な動作を確保できる。
【0021】
好ましくは、ボス部、共回り防止翼及び条件付き係合部は、上下一対に設けられ、上下一対の共回り防止翼同士は、連結板により上下に結合される。
【0022】
この構成により、上下一対の共回り防止翼群と、これらを連結する連結板とにより、上下方向に厚みを有する拡径部を構築でき、地盤改良体の周面支持力を一層向上できる。
【0023】
上下一対の共回り防止翼群及び連結板の先端部の形状を工夫することにより、矩形、三角形、円形又は楕円形というように、拡径部の断面形状を種々変更することができる。
【0024】
このように、拡径部の断面形状を変更することは、従来の技術では、全く不可能であったが、本願発明によれば、容易に実現できる。即ち、施主の希望や、現場の事情等にあわせて、バリュエーションに富んだ地盤改良体を構築できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、掘削撹拌装置の進行方向と、回転軸の回転方向とを、適切に制御するだけで、第1直径を有する本体と、第2直径を有する拡径部とを有する地盤改良体を構築することができ、周面支持力を向上させることができる。ここで、従来の技術で必須であった、信頼性が低い追加的要素を掘削翼に追加する必要はなく、実用上高い効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る掘削撹拌装置の全体構成について述べるに先立ち、本発明の骨子である、条件付き係合部の各実施の形態を説明する。
【0027】
(実施の形態1)
以下図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
図1(a)は、本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の拡大正面図、
図1(b)は、同掘削撹拌装置の拡大側面図である。
【0028】
図1(a)、
図1(b)に示すように、回転軸1は、地中において鉛直軸を中心として回転する。回転軸1には、第1ボス部3が遊嵌される。
【0029】
第1ボス部3は、掘削翼2(
図5参照)の第1直径D1よりも大きい第2直径D2を有する共回り防止翼とを備える。
【0030】
本形態では、第1ボス部3の上側のみに第1条件付き係合部30が設けられるが、第1条件付き係合部30は、第1ボス部3の下側にのみ設けても良い。
【0031】
図1(a)に示すように、第1ボス部3の上側にのみ第1条件付き係合部30が設けられると、回転軸1が下降する場合、第1共回り防止翼5に、下降に逆らう方向、即ち、上向きの抗力Nが作用する。
【0032】
その結果、第1条件付き係合部30は、上向きに押し付けられることとなり、作動状態となる。
【0033】
実施の形態1では、
図1(a)、
図1(b)に示すように、第1条件付き係合部30は、回転軸1に固定されるピン31と、回転軸1が第1回転方向N1に回転する際には、ピン31を係止し、回転軸1が第2回転方向N2(
図4参照。)に回転する際には、ピン31を通過させる第1傾斜溝32を有する。
【0034】
図1(a)の例では、回転軸1が第1回転方向N1に回転する際、ピン31は、右下がりの傾斜面33aを滑下し、起立部33bに当接する。ピン31が起立部33bに当接すると、ピン31は、それ以上移動できなくなり、ピン31と起立部33bとは、互いに圧接する状態を維持する。このように、ピン31と起立部33bとが係合し、第1共回り防止翼5は、回転軸1と同期回転することになる。
【0035】
逆に、回転軸1が第2回転方向N2(
図4参照。)に回転する際、ピン31に対して起立部32bは邪魔をせず、ピン31は傾斜面33aを滑上がることができる。つまり、起立部33bは、ピン31に対して空振りすることになる。その結果、回転軸1が回転しても、第1共回り防止翼5は、回転方向に関し静止したままとなる。
【0036】
(実施の形態2)
図2(a)は、本発明の実施の形態2における掘削撹拌装置の拡大正面図、
図2(b)は、同掘削撹拌装置の拡大側面図である。
【0037】
実施の形態2では、実施の形態1に対し、第1傾斜溝32aが深く形成されている点が異なる。
【0038】
動作は、実施の形態1とほぼ同様である。つまり、回転軸1が第1回転方向N1に回転する際、ピン34aと傾斜溝34bとが係合し、第1共回り防止翼5は、回転軸1と同期回転する。
【0039】
逆に、回転軸1が第2回転方向N2(
図4参照。)に回転する際、傾斜溝34bは、ピン34aに対して空振りし、回転軸1が回転しても、第1共回り防止翼5は、回転方向に関し静止したままとなる。
【0040】
(実施の形態3)
図3(a)は、本発明の実施の形態3における掘削撹拌装置の拡大正面図、
図3(b)は、同掘削撹拌装置の拡大側面図である。
【0041】
実施の形態3では、実施の形態1に対し、第1条件付き係合部30が、回転軸1に固定される第1傾斜溝35aと、回転軸1が第1回転方向N1に回転する際には、第1傾斜溝35aを係止し、回転軸1が第2回転方向N2(
図4参照。)に回転する際には、第1傾斜溝35aを通過させる第2傾斜溝35bを有する点が異なる。
【0042】
動作は、実施の形態1とほぼ同様である。つまり、回転軸1が第1回転方向N1に回転する際、第1傾斜溝35aと第2傾斜溝35bとが係合し、第1共回り防止翼5は、回転軸1と同期回転する。
【0043】
逆に、回転軸1が第2回転方向N2(
図4参照。)に回転する際、第1傾斜溝35aは、第2傾斜溝35bに対して空振りし、回転軸1が回転しても、第1共回り防止翼5は、回転方向に関し静止したままとなる。
【0044】
(4つの場合)
以上、実施の形態1~3では、第1条件付き係合部30の構成が異なるが、いずれも、第1回転方向N1は、右であり、第2回転方向N2は、左である。しかしながら、傾斜溝33a、34b、35a、35bの傾斜を左右逆にすれば、第1回転方向N1を左とし、第2回転方向N2を右とすることができ、このような場合も本願発明に包含される。
【0045】
本発明では、第1条件付き係合部30は、回転軸1の回転方向N1、N2により動作を異にし、方向性を有すれば十分であり、左右はそれぞれ変更しても差し支えない。
【0046】
図1~
図3は、いずれも抗力Nが第1条件付き係合部30が設けられた側を向いており、回転軸1の回転方向がN1である場合を示す。これら2つの条件が満たされれば、第1共回り防止翼5が掘削翼2(
図4参照。)と同期回転するが、これら2つの条件の少なくとも一方が満たされないとき、第1共回り防止翼5は静止し、掘削翼2(
図4参照。)と同期回転することはない。
【0047】
これら2つの条件を定める要素は、第1共回り防止翼5への抗力Nの方向と、回転軸1の回転方向N1/N2である。抗力Nの方向は、掘削撹拌装置が下降する際、上向きとなり、掘削撹拌装置が上昇する際、下向きとなる。また、回転軸1の回転方向は、第1回転方向N1と第2回転方向N2があり得る。これらを掛け合わせると、4つの場合が成立する。
【0048】
以下4つの場合のそれぞれについて、
図4~
図9を参照しながら、説明する。ここで、以下述べる具体例は例示に過ぎず、条件付き係合部を設ける箇所(上側/下側)及び回転方向N1、N2を左右の関係は、適宜変更できるものであり、適宜変更されても、本願発明に包含されることが理解されねばならない。
【0049】
(下降時左回転)
図4(a)~
図4(d)は、下降時左回転における第1共回り防止翼5付近を示し、
図5(a)~
図5(c)は、下降時左回転における掘削撹拌装置の全体像を示す。
【0050】
図5(a)に示すように、他の3つの場合を含め、本例における掘削撹拌装置では、第1ボス部3、第2ボス部4、第1共回り防止翼5、第2共回り防止翼6、第1条件付き係合部3、第2条件付き係合部4は、それぞれ上下一対に設けられ、第1共回り防止翼5と第2共回り防止翼6の各先端部は、それぞれ連結板7、7により上下に結合される。
【0051】
本例では、第1共回り防止翼5と第2共回り防止翼6の各先端部及び連結板7、7の先端部は、ストレートとなっており、その直径D2は、掘削翼2の直径D1よりも大きくなっている。上下一対の共回り防止翼群及び連結板の先端部の形状のバリュエーションは、後述するが、本例では、拡径部11の断面形状は矩形となる。
【0052】
なお、「第1」、「第2」と標記される各要素は、同様の構成となっているため、説明の重複を避けるべく、以下、「第1」と標記される要素についてのみ説明する。
【0053】
さて、
図4(a)~
図4(d)に示す場合では、抗力Nが上向きとなり、第1条件付き係合部30は、作動状態となる。しかしながら、回転方向が第2回転方向N2(本例では左回転)となるため、第1条件付き係合部30の第1傾斜溝32は、ピン31を通過させ、第1共回り防止翼5は、掘削翼2と同期回転せず、地山に接触し、回転方向について、静止する。
【0054】
その結果、掘削翼2のみが第1半径D1内において回転し、第1半径D1からなる本体10が構築される(
図10参照。)こととなる。
【0055】
(下降時右回転)
図6(a)~
図6(d)は、下降時右回転における第1共回り防止翼5付近を示し、
図7(a)~
図7(c)は、下降時左回転における掘削撹拌装置の全体像を示す。
【0056】
図6(a)~
図6(d)に示す場合では、抗力Nが上向きとなり、第1条件付き係合部30は、作動状態となる。また、回転方向が第1回転方向N1(本例では右回転)となるため、第1条件付き係合部30の第1傾斜溝32は、ピン31を係止し、第1共回り防止翼5は、掘削翼2と同期回転する。
【0057】
その結果、掘削翼2のみならず、第1共回り防止翼5が第2半径D2内において回転し、第2半径D2からなる拡径部11(
図10参照。)が構築されることとなる。
【0058】
(上昇時左回転及び上昇時右回転)
図8(a)~
図8(d)は、上昇時右回転における第1共回り防止翼5付近を示し、
図9(a)~
図9(c)は、上昇時右回転における掘削撹拌装置の全体像を示す。
【0059】
図8、
図9では、上昇時右回転の場合を示したが、これと上昇時左回転の場合とは、回転方向が違うだけという結果になる。即ち、
図8(a)~
図8(d)に示すように、上昇時には、回転方向(左右)の如何を問わず、抗力Nが下向きとなり、第1条件付き係合部30は、作動状態とはならず、第1条件付き係合部30は、第1共回り防止翼5に干渉しない。その結果、第1共回り防止翼5は、掘削翼2と同期回転せず、地山に接触し、回転方向について、静止する。
【0060】
(拡径部の形状)
次に、
図10~
図12を参照しながら、拡径部の断面形状に関する例を説明する。以下の各例では、拡径部11の断面形状が変更されるが、いずれの形状を用いても、拡径部11があることにより、本体10のみの場合に比べ、周面支持力を増加することができる。
【0061】
(第1例)
図10(a)は、本発明の実施の形態1の第1例における掘削撹拌装置の正面図、
図10(b)は、同地盤改良体の一部拡大斜視図、
図10(c)は、同地盤改良体の斜視図である。
【0062】
第1例では、
図5等を用いて既に説明したように、共回り防止翼5と第2共回り防止翼6の各先端部及び連結板7、7の先端部は、ストレートとなっており、その直径D2は、掘削翼2の直径D1よりも大きくなっている。
【0063】
このように構成すると、
図10(b)及び
図10(c)に示すように、矩形の断面形状を有する拡径部11を構築できる。
【0064】
(第2例)
図11(a)は、本発明の実施の形態1の第2例における掘削撹拌装置の正面図、
図11(b)は、同地盤改良体の一部拡大斜視図、
図11(c)は、同地盤改良体の斜視図である。
【0065】
第2例では、
図11(a)に示すように、共回り防止翼5と第2共回り防止翼6の各先端部及び連結板7、7の先端部は、外側に張り出す三角形状となっており、その直径D2は、掘削翼2の直径D1よりも大きくなっている。
【0066】
このように構成すると、
図11(b)及び
図11(c)に示すように、三角形乃至そろばんの珠状の断面形状を有する拡径部11を構築できる。
【0067】
(第3例)
図12(a)は、本発明の実施の形態1の第3例における掘削撹拌装置の正面図、
図12(b)は、同地盤改良体の一部拡大斜視図、
図12(c)は、同地盤改良体の斜視図である。
【0068】
第3例では、
図12(a)に示すように、共回り防止翼5と第2共回り防止翼6の各先端部及び連結板7、7の先端部は、外側に張り出す円状乃至楕円状となっており、その直径D2は、掘削翼2の直径D1よりも大きくなっている。
【0069】
次に、
図13~
図14を参照しながら、地盤改良体の構築方法の各工程を説明する。
【0070】
まず、要旨のみを述べると、次の通りとなる。上述した各実施の形態のいずれかに記載の掘削撹拌装置を用いて、地中において第1直径D1を有する本体10と、第2直径D2を有する拡径部11とを有する地盤改良体を構築する。
【0071】
拡径部11は、共回り防止翼5、6への抗力Nが、条件付き係合部3、4を設けた一方側へ作用し、且つ、回転軸1の回転方向が第1回転方向N1であるという条件を満たす場合、共回り防止翼5、6が掘削翼2と同期回転することにより、共回り防止翼5、6の先端部において構築される。
【0072】
また、本体10は、上記条件が満たされない場合、共回り防止翼5、6が掘削翼2と同期回転しないことにより、掘削翼2の先端部により構築される。
【0073】
図13~
図14において、下降時に抗力Nが条件付き係合部30、40を設けた一方側へ作用し、第1回転方向N1は、右であることを前提とする。なお、拡径部11の断面形状は、第2例として述べた三角形状とするが、他の形状であっても同様に構築できる。
【0074】
まず、
図13(a)に示すように、掘削撹拌装置の移動方向を下降とし、回転方向を左として構築を開始する。こうすると、第1直径D1からなる本体10が構築され、掘削撹拌装置は下降する。
【0075】
次に第1レベルL1に至ると、
図13(b)に示すように、掘削撹拌装置の移動方向を下降とし、回転方向を右として構築を行う。こうすると、第2直径D2からなる拡径部11が構築され、掘削撹拌装置は下降する。
【0076】
さらに、第1レベルL1における拡径部11の構築が済んだら、
図13(c)に示すように、掘削撹拌装置の移動方向を下降とし、回転方向を左として構築を継続する。こうすると、第1レベルL1より下方において第1直径D1からなる本体10が構築され、掘削撹拌装置は下降する。
【0077】
次に第2レベルL2に至ると、
図14(a)に示すように、掘削撹拌装置の移動方向を下降とし、回転方向を右として構築を行う。こうすると、第2レベルL2において第2直径D2からなる拡径部11が構築され、掘削撹拌装置は下降する。
【0078】
さらに、第2レベルL2における拡径部11の構築が済んだら、掘削撹拌装置の移動方向を下降とし、回転方向を左として構築を継続する。こうすると、第2レベルL2より下方において第1直径D1からなる本体10が構築され、掘削撹拌装置は下降する。なお、地盤改良体の最深部に拡径部11を設け、アンカーとしての機能を持たせても良い。
【0079】
最深部まで地盤改良体の構築を行ったら、
図14(b)、
図14(c)に示すように、掘削撹拌装置の移動方向を上昇とする。このとき、回転方向は右であっても左であっても、良い(但し、本例では、右とする。)。これは、移動方向が上昇であれば、回転方向の如何によらず、共回り防止翼5、6による拡径部11の構築は行われないからである。
【0080】
(第4例)
図15(a)は、本発明の実施の形態1の第4例における掘削撹拌装置の正面図、
図15(b)は、同地盤改良体の一部拡大斜視図、
図15(c)は、同地盤改良体の斜視図である。
【0081】
第4例では、第1例に対し、連結板7を省略した点が異なる。
【0082】
このように構成すると、
図15(b)及び
図15(c)に示すように、矩形の断面形状を有し、薄い一対の拡径部11c、11cを構築できる。勿論、当業者に自明なように一枚の共回り防止翼のみを設け、一段の拡径部11cを構築するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明に係る掘削撹拌装置は、例えば、地盤改良等を行う分野において好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【
図1】(a)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の拡大正面図 (b)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の拡大側面図
【
図2】(a)本発明の実施の形態2における掘削撹拌装置の拡大正面図 (b)本発明の実施の形態2における掘削撹拌装置の拡大側面図
【
図3】(a)本発明の実施の形態3における掘削撹拌装置の拡大正面図 (b)本発明の実施の形態3における掘削撹拌装置の拡大側面図
【
図4】(a)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の拡大正面図 (b)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の拡大側面図 (c)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の拡大正面図 (d)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の拡大側面図
【
図5】(a)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の正面図 (b)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の側面図 (c)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の底面図
【
図6】(a)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の拡大正面図 (b)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の拡大側面図 (c)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の拡大正面図 (d)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の拡大側面図
【
図7】(a)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の正面図 (b)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の側面図 (c)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の底面図
【
図8】(a)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の拡大正面図 (b)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の拡大側面図 (c)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の拡大正面図 (d)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の拡大側面図
【
図9】(a)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の正面図 (b)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の側面図 (c)本発明の実施の形態1における掘削撹拌装置の底面図
【
図10】(a)本発明の実施の形態1の第1例における掘削撹拌装置の正面図 (b)本発明の実施の形態1の第1例における地盤改良体の一部拡大斜視図 (c)本発明の実施の形態1の第1例における地盤改良体の斜視図
【
図11】(a)本発明の実施の形態1の第2例における掘削撹拌装置の正面図 (b)本発明の実施の形態1の第2例における地盤改良体の一部拡大斜視図 (c)本発明の実施の形態1の第2例における地盤改良体の斜視図
【
図12】(a)本発明の実施の形態1の第3例における掘削撹拌装置の正面図 (b)本発明の実施の形態1の第3例における地盤改良体の一部拡大斜視図 (c)本発明の実施の形態1の第3例における地盤改良体の斜視図
【
図13】(a)本発明の実施の形態1の第2例における地盤改良体の構築工程説明図 (b)本発明の実施の形態1の第2例における地盤改良体の構築工程説明図 (c)本発明の実施の形態1の第2例における地盤改良体の構築工程説明図
【
図14】(a)本発明の実施の形態1の第2例における地盤改良体の構築工程説明図 (b)本発明の実施の形態1の第2例における地盤改良体の構築工程説明図 (c)本発明の実施の形態1の第2例における地盤改良体の構築工程説明図
【
図15】(a)本発明の実施の形態1の第4例における掘削撹拌装置の正面図 (b)本発明の実施の形態1の第4例における地盤改良体の一部拡大斜視図 (c)本発明の実施の形態1の第4例における地盤改良体の斜視図
【符号の説明】
【0085】
1 回転軸
2 掘削翼
3 第1ボス部
4 第2ボス部
5、5a、5b 第1共回り防止翼
6、6a、6b 第2共回り防止翼
7、7a、7b 連結板
10 本体
11、11a、11b、11c 拡径部
30 第1条件付き係合部
31、34a ピン
33a、34b、35a、35b 傾斜溝
33b 起立部