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特開2022-151992コンクリート構造体の耐衝撃性保持方法および耐衝撃性保持構造物
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  • 特開-コンクリート構造体の耐衝撃性保持方法および耐衝撃性保持構造物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151992
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】コンクリート構造体の耐衝撃性保持方法および耐衝撃性保持構造物
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20221004BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20221004BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20221004BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20221004BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20221004BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20221004BHJP
   E04B 1/98 20060101ALI20221004BHJP
   E02D 31/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B05D1/36 Z
B32B27/40
B05D7/00 D
B05D5/00 C
B05D7/24 301U
B05D7/24 302T
B05D1/02 D
E04B1/98 W
E02D31/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054579
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000175021
【氏名又は名称】三井化学産資株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】久保 昌史
(72)【発明者】
【氏名】相田 浩伸
(72)【発明者】
【氏名】宮田 佳和
(72)【発明者】
【氏名】井出 一直
(72)【発明者】
【氏名】清水 幹雄
【テーマコード(参考)】
2E001
4D075
4F100
【Fターム(参考)】
2E001DH37
2E001EA01
2E001FA30
2E001GA06
2E001HD11
2E001KA01
4D075AA02
4D075AA03
4D075AA06
4D075AA82
4D075AA83
4D075AA90
4D075AE03
4D075AE07
4D075AE27
4D075CA04
4D075CA38
4D075CB06
4D075DA10
4D075DB12
4D075DC01
4D075DC05
4D075EA27
4D075EA41
4D075EB38
4F100AE01A
4F100AK01B
4F100AK51B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA02B
4F100EH46
4F100EH61
4F100EJ65C
4F100GB90
4F100JK10
4F100JK17C
4F100JN01B
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】コンクリート構造体としての耐衝撃性を向上しつつ、コンクリートのひび割れ等の表面の状態を点検させることができる。
【解決手段】コンクリート構造体2の表面2aを樹脂材料で被覆することにより耐衝撃性を確保するコンクリート構造体2の耐衝撃性保持方法であって、コンクリート構造体2の表面を可撓性を有するプライマー層31で被覆する工程と、イソシアネート基を2個以上有するウレタンプレポリマーを主成分とするA剤と、水酸基及び/又はアミノ基を2個以上有する硬化剤を主成分とするB剤とを組み合わせて成る補強樹脂材料32を、プライマー層31の上に吹き付けることにより被覆する工程と、を有し、補強樹脂材料32は、補強樹脂材料32の樹脂表面3aからコンクリート構造体2の表面2aが目視可能に透明となるように時間の間隔をあけて複数回、吹き付けられるようにしたコンクリート構造体の耐衝撃性保持方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造体のコンクリート表面を樹脂材料で被覆することにより耐衝撃性を確保するコンクリート構造体の耐衝撃性保持方法であって、
前記コンクリート構造体のコンクリート表面を可撓性を有するプライマー層で被覆する工程と、
イソシアネート基を2個以上有するウレタンプレポリマーを主成分とするA剤と、水酸基及び/又はアミノ基を2個以上有する硬化剤を主成分とするB剤とを組み合わせて成る補強樹脂材料を、前記プライマー層の上に吹き付けることにより被覆する工程と、
を有し、
前記補強樹脂材料は、該補強樹脂材料の樹脂表面から前記コンクリート表面が目視可能に透明となるように時間の間隔をあけて複数回、吹き付けられることを特徴とするコンクリート構造体の耐衝撃性保持方法。
【請求項2】
前記補強樹脂材料は、0.5~3.0mmの厚みで被覆されていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造体の耐衝撃性保持方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコンクリート構造体の耐衝撃性保持方法によって耐衝撃性が保持された耐衝撃性保持構造物であって、
前記プライマー層と前記補強樹脂材料とが積層され、
前記補強樹脂材料は、前記樹脂表面から前記コンクリート表面が目視可能な透明性を有していることを特徴とする耐衝撃性保持構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造体の耐衝撃性保持方法および耐衝撃性保持構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、灯油や重油等を貯蔵する貯油タンクの周囲には、コンクリート製の防液堤が設 けられている(例えば、特許文献1を参照)。防液堤は、貯油タンクの堤防又は堰堤であ り、貯油タンクから内容物が漏出した際に、漏出した内容物が防液堤の外方に流出しない ようにするためのものである。コンクリート製の防液堤は、複数回のコンクリート打設、 或いは複数のプレキャストコンクリートを連結することによって形成され、コンクリートの打ち継ぎ部分やプレキャストコンクリートの連結部分には目地部が設けられている。
【0003】
ところが、地震や津波の発生時には、液状化による不同沈下や津波及び漂流物の衝突に よって防液堤に大きな衝撃力が加わる。その際、目地部の部分から防液堤が破損し、貯油 タンク内の油が防液堤の外部に流出する虞があった。このような防液堤の破損を防ぐため に、例えば鋼材による補強が行われている。
防液堤の破損を防止する他の補強方法として、補強により防波堤のコンクリートのひび割れを防止する方法が採用されている。例えば、防波堤のコンクリート厚を増大するコンクリート増厚工法や、炭素繊維シートをコンクリート表面に貼り付けることで、構造的に補強する炭素繊維補強工法などを用いた耐震補強工法が効果的とされている。
【0004】
また、一般的にはエポキシなどの樹脂材料を防波堤のコンクリート表面に靭性が非常に高いポリウレア樹脂を塗布または吹き付けにより被覆することで防水機能と補強機能をもたせることが行われている。ただし、これは常時の内部の液体による腐蝕、経年劣化に対して機能を維持するためのものであり、前述のように大規模地震において部材が破壊したとみなされるような場合のひび割れに対応可能なものではない。
【0005】
さらに、ポリウレア樹脂をコンクリート表面に吹付けによって塗布する表面塗布ポリウレア樹脂吹付工法が知られている。このような表面塗布ポリウレア樹脂吹付工法は、ポリイソシアネート(R-NCO)とポリアミン(R-NH2)の2液を専用の吹付装置によって加温して圧送し、圧送ホース先端に取り付けたスプレーガンを使用して衝突混合させてウレア結合を生成した状態で、コンクリート表面に吹付け塗布する工法である。
【0006】
上述した表面塗布ポリウレア樹脂吹付工法で使用するポリウレア樹脂としては、指触乾燥時間である数十秒で硬化し、半日程度で所定の強度(例えば、引張強度20N/mm、引張伸び200%程度)が発現する超速硬化性の樹脂を使用することで、短時間で大面積を施工できる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-80091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したポリウレア樹脂は、吹付け時に混入する微小な独立気泡の光の乱反射により白濁したり、紫外線により黄変する性質があることから、材料に顔料を添加し着色する。このため下地材のコンクリートの状態を樹脂表面から目視により確認することは困難であった。
ここで、ポリウレア樹脂は、超速硬化性の樹脂のため、施工には専用の吹付機械や吹付ガンを使用する。そして、吹付けの際には、高温、高圧の材料を衝突混合によって行うため、硬化した樹脂塗膜には、吐出時に巻き込んだ微小な独立気泡が内在する。この独立気泡によって光が乱反射され、白濁した不透明な仕上がりとなる。そこで、ポリウレア樹脂の材料自体はA剤(主剤)、B剤(硬化剤)のいずれも透明であることから、B剤に顔料を添加して着色している。
【0009】
このように、ポリウレア樹脂の下地となるコンクリート構造体のコンクリート表面は樹脂に覆われて目視などによってひび割れの状態を点検することができない。そのため、コンクリート構造体に大きな外力が作用し、コンクリートにはひび割れが発生しているが、ポリウレア樹脂が破断せず構造物の形状をおおむね保持し、転倒や内容物の外方への流失が起こっていない状態において、目視による点検によってひび割れ発生個所やひび割れの状態を把握できないという問題があった。
【0010】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、コンクリ―ト表面を樹脂材料で被覆してコンクリート構造体としての耐衝撃性を向上しつつ、コンクリートのひび割れ等の表面の状態を点検することができるコンクリート構造体の耐衝撃性保持方法および耐衝撃性保持構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係るコンクリート構造体の耐衝撃性保持方法は、コンクリート構造体のコンクリート表面を樹脂材料で被覆することにより耐衝撃性を確保するコンクリート構造体の耐衝撃性保持方法であって、前記コンクリート構造体のコンクリート表面を可撓性を有するプライマー層で被覆する工程と、イソシアネート基を2個以上有するウレタンプレポリマーを主成分とするA剤と、水酸基及び/又はアミノ基を2個以上有する硬化剤を主成分とするB剤とを組み合わせて成る補強樹脂材料を、前記プライマー層の上に吹き付けることにより被覆する工程と、を有し、前記補強樹脂材料は、該補強樹脂材料の樹脂表面から前記コンクリート表面が目視可能に透明となるように時間の間隔をあけて複数回、吹き付けられることを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る耐衝撃性保持構造は、請求項1又は2に記載のコンクリート構造体の耐衝撃性保持方法によって耐衝撃性が保持された耐衝撃性保持構造物であって、前記プライマー層と前記補強樹脂材料とが積層され、前記補強樹脂材料は、前記樹脂表面から前記コンクリート表面が目視可能な透明性を有していることを特徴としている。
【0013】
本発明では、コンクリート表面に被覆したプライマー層の上に吹き付けにより補強樹脂材料を被覆することでコンクリート構造体のコンクリート表面に耐衝撃性をもたせた構造とすることができる。そして、プライマー層の上に被覆される補強樹脂材料は、吹き付け時において時間の間隔をあけて複数回重ねて吹き付けることで、一度に吹き付ける吹付け厚を抑え、吹き付けた樹脂の液だれを抑えることができる。また、吹き付けガンの使用によって生じる泡噛みを小さくできるので補強樹脂材料の透明度を大きくすることができる。
このように補強樹脂材料が透明であるため、コンクリート構造体に生じるひび割れ等のコンクリート表面を樹脂表面から目視によって観察することができ、コンクリート構造体の状態を把握することができる。そして、コンクリート表面の状態に応じてコンクリート構造体の補修を行うことが可能となるため、コンクリート構造体としての耐衝撃性を維持できる。
【0014】
また、本発明では、上述したように補強樹脂材料が透明性を有しているので、下地のコンクリート構造体のコンクリート表面の風合いを維持することができ、コンクリート構造体の印象を変えずに耐衝撃性をもたせた施工を行うことができる。
さらに、本発明では、補強樹脂材料の表面に対してトップコートが不要となるので、工期の短縮を図ることができる。
【0015】
また、本発明では、コンクリート構造体と補強樹脂材料との間に、コンクリート構造体と補強樹脂材料との靭性の差を和らげる中間層として、可撓性を有するプライマー層が設けられている。そして、プライマー層はコンクリート構造体及び補強樹脂材料に密着した状態で設けられている。
この構成によれば、プライマー層がコンクリート構造体のひび割れ等の変形に追従することで、コンクリート構造体が補強樹脂材料を剥がそうとする力が緩和される。それとともに、補強樹脂材料がプライマー層の動きに応じて自在に伸縮する、或いは撓ることで、補強樹脂材料にプライマー層の変動が適度に吸収される。
【0016】
これにより、大規模地震時に、コンクリート構造体に大きな外力が加わっても、プライマー層と補強樹脂材料がコンクリート構造体のひび割れに順次追従して伸縮し、破断することなく、コンクリート表面に密着した状態で残存する。従って、補強樹脂材料によってコンクリート表面が被覆された状態が確実に維持され、コンクリート構造体にひび割れが発生している状態であっても構造体としての耐衝撃性をより高めることができる。
【0017】
また、本発明に係る耐衝撃性保持構造物は、前記補強樹脂材料は、0.5~3.0mmの厚みで被覆されていることが好ましい。
【0018】
この場合には、この範囲の厚みで補強樹脂材料を被覆することで、コンクリート構造体のコンクリート表面のクラックを目視できる透明度を確実に確保しつつ、耐衝撃性能も十分に確保することができる。補強樹脂材料の厚みが0.5mmより小さいと耐衝撃性の確保が困難であり、厚みが3.0mmを超えると樹脂材料に白濁が目立ちコンクリート表面のクラック等を確認し難くなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のコンクリート構造体の耐衝撃性保持方法および耐衝撃性保持構造物によれば、コンクリ―ト表面を樹脂材料で被覆してコンクリート構造体としての耐衝撃性を向上しつつ、コンクリートのひび割れ等の表面の状態を点検することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態による防液堤の構成を示す縦断面図である。
図2図1に示す防液堤の壁部の一部を破断した斜視図である。
図3】実施例による試験結果であって、(a)~(d)は補強樹脂材料の厚さ毎の透明度を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態によるコンクリート構造体の耐衝撃性保持方法および耐衝撃性保持構造物について、図面に基づいて説明する。なお、以 下の説明で用いる図面は模式的なものであり、長さ、幅、及び厚みの比率等は実際のもの と同一とは限らず、適宜変更することができる。
【0022】
図1及び図2に示すように、本実施形態による防液堤1(耐衝撃性保持構造物)は、コンクリート構造体2の表面2aの一部を透明樹脂材料3で被覆することにより一体に設けて耐衝撃性を確保した構造となっている。すなわち、透明樹脂材料3は、コンクリート構造体2の表面2aに被覆することにより、防液堤1が転倒したり崩壊したりせずに自立した形状を保持するように補強するための材料である。
ここで、本実施形態の防液堤1は、例えば貯油タンク等のタンクTの周囲に設置されている。防液堤1は、下部が地中に埋設された基礎構造体であって、タンクTの周りを囲むように延在している。
【0023】
コンクリート構造体2は、底盤21と、底盤21の防液堤1の奥行方向の中央から立設された壁部22と、を有している。
コンクリート構造体2は、例えばコンクリートの現場打ちによって施工されている。すなわち、タンクTの周囲に鉄筋を配筋すると共に型枠を建て込み、その後、型枠内にフレッシュコンクリートを打設することにより構築されている。この施工方法の場合、コンクリート構造体2全体を一度にコンクリート打設することは困難であるため、延在方向(図1の紙面に直交する方向)に複数回に分けてコンクリート打設が行われる。このコンクリートの打ち継ぎ部分には目地部が形成される。また、コンクリート構造体2の別の構築方法として、例えばプレキャストコンクリート製の複数のプレキャスト構造体を延在方向に目地部を介して配置するようにしてもよい。
【0024】
コンクリート構造体2における透明樹脂材料3の被覆領域は、底盤21の上面21aと、壁部22の両側面22a及び上面22bである。
【0025】
透明樹脂材料3は、コンクリート構造体2の表面2aに被覆された可撓性を有するプライマー層31と、プライマー層31の上に被覆された無黄変イソシアネートと特殊硬化剤の2成分からなる透明無黄変ポリウレア樹脂からなる補強樹脂材料32と、を有する。
補強樹脂材料32は、2液混合衝突型スプレーを用いてコンクリート構造体2の表面2aに吹き付けて被覆する
【0026】
プライマー層31は、コンクリート構造体2にひび割れが発生しても、そのひび割れによる変形に追従しながらコンクリート構造体2が補強樹脂材料32を剥がそうとする力を緩和させるために設けられている。すなわち、プライマー層31は、コンクリート構造体2及び補強樹脂材料32との密着性がよく、コンクリート構造体2が補強樹脂材料32を剥がそうとする力を緩和させ得る程度に可撓性を有している。
【0027】
上記可撓性を有するプライマー層31を構成するプライマーとしては、上述した補強樹脂材料32から成る被膜との密着性に優れた、エポキシ樹脂プライマーを好適に使用できる。このようなエポキシ樹脂プライマーとしては、本出願人(三井化学産資株式会社)が出願した特開2019-206893号公報等に記載されたものを好適に使用することができ、当該公報に記載された方法により形成することができる。
プライマー層31を構造物表面に形成する場合には、その厚みは、0.02~0.4mm程度であることが好ましい。
【0028】
ポリウレタン樹脂は、補強樹脂材料32をなすポリウレア樹脂と同じイソシアネートによって構成されている。
【0029】
ポリウレタン樹脂プライマーのコンクリートに対する密着性は比較的高く、ポリウレタン樹脂プライマーのコンクリートに対する変形追従性は極めて良好である。上記説明した各プライマーの組成に起因して、ポリウレタン樹脂プライマーのポリウレタン樹脂及びポリウレア樹脂に対する密着性は、非常に高い。従って、コンクリート構造体2と補強樹脂材料32の双方に密着し、コンクリート構造体2の大きな変形に追従しながら、コンクリート構造体2が補強樹脂材料32を剥がそうとする力を充分に緩和させる点から、プライマー層31はポリウレタン樹脂プライマーから構成されていることが好ましい。特に液剤等の調合が容易である点から、プライマー層31は、ポリウレタン樹脂を主成分とする溶剤系プライマー或いは無溶剤系プライマーから構成されている変性ポリウレタン系プライマーであることが好ましい。ポリウレタン樹脂を主成分とする溶剤系プライマー或いは無溶剤系プライマーには、例えば市販のサンシラールスーパー(AGCポリマー建材株式会社製)がある。
【0030】
コンクリート構造体2に対してプライマー層31を被覆する施工方法としては、コンクリート構造体2の表面2aを十分に清掃して塵等を取り除いた後、その表面2aにプライマー層31を構成するプライマーを所定の厚み寸法で塗布又は吹き付ける方法が挙げられる。
【0031】
補強樹脂材料32は、コンクリート構造体2の大きな変形に対して自身が柔軟に伸縮する、或いは撓ることで、コンクリート構造体2のひび割れを保持するために設けられている。すなわち、補強樹脂材料32は、非常に高い靭性を有するものであり、せん断付着力及び曲げ引張強度が高く、かつ、強度及び伸び等の力学的特性に優れた合成樹脂から構成されている。
【0032】
補強樹脂材料32としては、イソシアネート基を2個以上有するウレタンプレポリマーを主成分とするA剤と、水酸基及び/又はアミノ基を2個以上有する硬化剤を主成分とするB剤とを組み合わせてなる被覆材であって、2液混合衝突させる際のA剤及びB剤のそれぞれの液圧力が500psi以上1200psi以下、好ましくは500psi以上1050psi以下の範囲に調整されている樹脂が使用される。すなわち、上記範囲よりも液圧力が小さい場合には、塗工性に劣り、均一な膜を形成することができず、その一方上記範囲よりも液圧力が大きい場合には、気泡を抱き込んでしまい、透明性に劣るようになる。
このような補強樹脂材料32には、例えばスワエールAR-100(登録商標:三井化学産資株式会社製)がある。
【0033】
そして、2液混合衝突させる際のA剤及びB剤のそれぞれの粘度は、500mPa・s以下の範囲に調整されている。
補強樹脂材料32の厚みは、0.5~3mmの厚みが好ましい。また、補強樹脂材料32により形成された被膜の1mm厚みにおける隠蔽率が30%未満である。
本実施形態で使用する補強樹脂材料32のさらに詳しくは、特開2019-206893号公報に記載されているものとされる。
【0034】
A剤を構成するウレタンプレポリマーとしては、イソシアネート基を1分子中に2個以上有するポリイソシアネート化合物と、イソシアネート基と反応する活性水素を1分子中に2個以上有する化合物とを反応させることによって得ることができる。特に活性水素化合物として、アルコール性水酸基を1分子中に2個以上有するポリオール化合物、例えばポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールあるいはその他のポリオール等を1種又は2種以上組み合わせて形成させたウレタンプレポリマーが好適である。
【0035】
本実施形態による補強樹脂材料32は、ウレタンプレポリマーを主成分とするA剤と、水酸基及び/又はアミノ基を2個以上有する硬化剤を主成分とするB剤と、必要に応じその他添加剤とを配合した硬化性組成物を硬化させることによって形成させることができる。
【0036】
ウレタンプレポリマーを硬化させる、水酸基及び/又はアミノ基を2個以上有する化合物としては、分子量が18~10000、好ましくは30~5000である化合物が好ましく、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1、6-へキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,4-トリヒドロキシブタン、1,2,3,4-テトラヒドロキシブタン、1,2,6-トリヒドロキシヘキサン、1,1,1-トリメチロールエタン、ペンタエリトリトール、ポリカプロラクトン、フラクトース、キシリトール、アラビトール、ソルビトール及びマンニトールなどの多価アルコール;エタノールアミンのような低分子アミノアルコール;アンモニア、ヒドラジン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレエンヘキサミン、m-フェニレンジアミン、2,4-トリレンジアミン、2,6-トリレンジアミン、ジエチルトリレンジアミン、3,3′-ジクロロ-4、4′-ジアミノ-ジフェニルメタンなどの低分子ポリアミン化合物、また先に挙げたウレタンプレポリマーの調製の際に使用できる、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールなどのポリオール; エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイド又はその混合物を反応させて得られるポリエーテル末端に有するヒドロキシル基をアンモニアと反応させてアミノ基に置換することによって得られるポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシブチレンジアミンなどのポリエーテルポリアミンを挙げることができる。これら硬化剤の中では、ポリエーテルポリオール又はポリエーテルポリアミンを使用することが好ましいが、ポリエーテルポリオール又はポリエーテルポリアミンに他の1種類以上の低分子ポリオール又は低分子ポリアミンを組み合わせて使用することもできる。
これら硬化剤として、ウレタンプレポリマーに含まれるイソシアネート基1モルに対して、低分子化合物中の活性水素が、約0.8モル以上の割合、好ましくは約0.95~1.2モルとなるように硬化剤が添加される。
【0037】
A剤及びB剤には、ウレタンプレポリマー及び硬化剤の他に、可塑剤、溶剤、界面活性剤、硬化促進触媒、老化防止剤、染料等の添加剤を、必要により従来公知の処方に従って配合することができる。
本実施形態で使用する超硬化性樹脂のさらに詳しくは、特開2019-206893号公報に記載されているものとされる。
【0038】
補強樹脂材料32は、従来より硬化速度が遅く壁や天井等で厚付けする場合は液だれが生じるため不適であったが、吹付け時のインターバルを調整すること等でこれを防止し施工可能となった。
【0039】
プライマー層31の上に補強樹脂材料32を被覆する施工方法としては、プライマー層31の表面を清浄した後、プライマー層31の表面に補強樹脂材料32を上述した所定の厚み寸法で塗布して被覆する方法が挙げられる。
このとき補強樹脂材料32は、補強樹脂材料32の樹脂表面3aからコンクリート表面(コンクリート構造体2の表面2a)が目視可能に透明となるように時間の間隔をあけて複数回、吹き付けられる。
【0040】
被覆材の構造物への吹付けに用いるスプレー装置としては、調圧調温計量装置と、ミックスチャンバーを備えたスプレーガン及び加温のできるホットホースからなるスプレー装置を使用することができる。ここで、本実施形態では、スプレーガンとして、2液混合衝突型スプレーを使用することが重要である。
【0041】
また、この2液混合衝突型スプレーにおいては、所定範囲の液圧力でA剤及びB剤を混合衝突させるのに適したミックスチャンバーを選択することが好ましい。
本実施形態では、A剤及びB剤の混合衝突させる際の、具体的にはA剤及びB剤をミックスチャンバーに導入する際の、それぞれの粘度が、500mPa・s以下であることが好適であり、350mPa・s以下であることがより好適である。前記所定範囲よりも粘度が高い場合には、塗工性に劣るようになり、均一な被膜を形成することが困難になる。A剤及びB剤の粘度はより低くなるように調整した方が両液の粘度差も小さくなり、混合が容易にとなるため被膜の物性も向上する。
【0042】
また、A剤及びB剤は、A剤及びB剤を混合衝突させた後の材料のJIS K-5600-1-1に記載の評価方法による指触乾燥時間が10秒~60分の範囲となるように調整されていることが好ましい。
【0043】
本実施形態において、A剤とB剤とを混合衝突させる際の液圧力、A剤及びB剤の粘度の他、吐出方法(上方、下方、水平方向)、2液混合衝突型スプレーの吐出口と構造物表面の間隔であるスプレー距離等の諸条件を適宜調整することが好ましい。
例えば、スプレーの吐出方向が水平方向の場合には、スプレー距離が20~100cmの範囲であることが好適で、30~80cmであることがより好適である。20cm未満では、スプレーの吐出物が局所的に集中して厚みむらが生じやすくなり、100cmを超えると硬化が速い材料では、ミストが多量に発生したり局所的に粒子状に硬化する部分が生じて被膜の形成を阻害し、被覆材の物性が低下したりする。
【0044】
コンクリート構造体2の表面2aに直接、或いはプライマー層31が形成されている場合には、プライマー層31上に、A剤及びB剤のからなる補強樹脂材料32を2液混合衝突型スプレーを用いて塗工する。
【0045】
補強樹脂材料32は、0.5~3.0mm、とくに0.7~2.5mmの厚みであることが好ましい。この範囲よりも補強樹脂材料32の厚みが薄いと、保護被膜として十分な機能を発揮できないおそれがあり、上記範囲より厚いと透明性が低下するとともに経済性にも劣るようになる。
【0046】
上述のように本実施の形態による防液堤1では、図1及び図2に示すように、コンクリート構造体2の表面2aに被覆したプライマー層31の上に吹き付けにより補強樹脂材料32を被覆することでコンクリート構造体2の表面2aに耐衝撃性をもたせた構造とすることができる。
そして、プライマー層31の上に被覆される補強樹脂材料32は、吹き付け時において時間の間隔をあけて複数回重ねて吹き付けることで、一度に吹き付ける吹付け厚を抑え、吹き付けた樹脂の液だれを抑えることができる。
また、吹き付けガンの使用によって生じる泡噛みを小さくできるので補強樹脂材料32の透明度を大きくすることができる。
【0047】
このように補強樹脂材料32が透明であるため、コンクリート構造体2に生じるひび割れ等のコンクリート構造体2の表面2aを樹脂表面3aから目視によって観察することができ、コンクリート構造体2の状態を把握することができる。そして、コンクリートの表面2aの状態に応じてコンクリート構造体2の補修を行うことが可能となるため、防液堤1としての耐衝撃性を維持できる。
【0048】
また、本実施形態では、上述したように補強樹脂材料32が透明性を有しているので、下地のコンクリート構造体2の表面2aの風合いを維持することができ、コンクリート構造体2の印象を変えずに耐衝撃性をもたせた施工を行うことができる。本実施形態では、とくに人目に触れる外面に耐衝撃性をもたせて補強樹脂材料32で被覆する場合に効果的である。
さらに、本実施形態では、補強樹脂材料32の樹脂表面3aに対してトップコートが不要となるので、工期の短縮を図ることができる。
【0049】
また、本実施形態では、コンクリート構造体2の表面2aと補強樹脂材料32との間に、コンクリート構造体2と補強樹脂材料32との靭性の差を和らげる中間層として、可撓性を有するプライマー層31が設けられている。そして、プライマー層31はコンクリート構造体2及び補強樹脂材料32に密着した状態で設けられている。
この構成によれば、プライマー層31がコンクリート構造体2のひび割れ等の変形に追従することで、コンクリート構造体2が補強樹脂材料32を剥がそうとする力が緩和される。それとともに、補強樹脂材料32がプライマー層31の動きに応じて自在に伸縮する、或いは撓ることで、補強樹脂材料32にプライマー層31の変動が適度に吸収される。
【0050】
これにより、大規模地震時に、コンクリート構造体2に大きな外力が加わっても、プライマー層31と補強樹脂材料32がコンクリート構造体2のひび割れに順次追従して伸縮し、破断することなく、コンクリート構造体2の表面2aに密着した状態で残存する。従って、補強樹脂材料32によってコンクリート表面が被覆された状態が確実に維持され、コンクリート構造体2にひび割れが発生している状態であっても構造体としての耐衝撃性をより高めることができる。
【0051】
また、本実施形態では、0.5~3.0mmの厚みで補強樹脂材料32を被覆することで、コンクリート構造体2の表面2aのクラックを目視できる透明度を確実に確保しつつ、耐衝撃性能も十分に確保することができる。
つまり、補強樹脂材料32の厚みが0.5mmより小さいと耐衝撃性の確保が困難であり、厚みが3.0mmを超えると樹脂材料に白濁が目立ちコンクリート表面のクラック等を確認し難くなる。
【0052】
次に、上述した実施の形態によるコンクリート構造体の耐衝撃性保持方法および耐衝撃性保持構造物の効果を裏付けるために行った実施例について以下説明する。
【0053】
(実施例)
本実施例では、文字等が記載された試験片(下地材)の表面に上述した物性の補強樹脂材料を吹き付けガンによって吹き付けた補強樹脂材料の樹脂厚の異なる4つの試験体からなるケース(Case1~4)で試験を行い、目視による樹脂の透明性による効果を確認した。
【0054】
試験片の下地材は、平面視四角形状のコンクリート製の平板であり、一方の表面に文字が表示されている。
各Case1~4における補強樹脂材料の厚さは、図3(a)のCase1で1.4~1.6mm、図3(b)のCase2で1.7~2.1mm、図3(c)のCase3で2.1~2.4mm、図3(d)のCase4で2.8~3.0mmである。なお、各Case1~4の補強樹脂材料の厚さには、プライマー層は含まれていない。
各試験体の補強樹脂材料は、上述した実施形態で記載した2液混合衝突型スプレーを使用し、各試験体とも同条件となる好適な吹き付け条件に基づいて吹き付けて被覆した。
【0055】
図3(a)~(d)に示すように、試験の結果、Case1、2、3、4の順、すなわち樹脂厚が厚くなるほど透明度が低くなっているが、各Caseともに下地材に表示されている文字を認識できることが確認された。これは、厚さが大きいほど、吹き付け時における樹脂の泡噛みが生じることと、液垂れが生じることによるものと考えられる。
【0056】
以上、本発明によるコンクリート構造体の耐衝撃性保持方法および耐衝撃性保持構造物の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0057】
例えば、本実施形態では、耐衝撃性保持構造物として防液堤1を対象としているが、大きな衝撃を受ける他のコンクリート製の構造物であってもかまわない。例えば、液状の内容物の漏出を防止する必要があるタンク、雨水等の漏水を防止する必要がある建築物、地下水等の漏水を防止する必要があるトンネルや地下施設等の地下構造物、廃棄物埋め立て処分場の周囲に埋設されて汚染水の漏出を防止するための地中遮水構造物等の他の構造物に適用することもできる。
【0058】
また、耐衝撃性保持構造物の形状は、とくに制限されるものではなく、本実施形態の防液堤1の形状に限らず、他の形状であってもよい。例えば、図1では防液堤1が断面視において逆T字形状になっているが、本発明において耐衝撃性保持構造物の形状は適宜変更可能であり、例えば断面視においてL字形状としてもよい。
【0059】
また、コンクリート構造体として、本実施形態のコンクリート構造体2のように鉄筋コンクリートであることに限らず、無筋コンクリートやプレストレスコンクリートであってもよい。
【0060】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 防液堤(耐衝撃性保持構造物)
2 コンクリート構造体
2a 表面
3 透明樹脂材料
3a 樹脂表面
31 プライマー層
32 補強樹脂材料
図1
図2
図3