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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022151999
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ドライブシステム
(51)【国際特許分類】
   H02P 9/00 20060101AFI20221004BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20221004BHJP
   H02P 9/30 20060101ALI20221004BHJP
   B60L 1/00 20060101ALI20221004BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20221004BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
H02P9/00 C
H02M7/48 E
H02P9/30 C
B60L1/00 L
B60L7/14
B60L9/18 J
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054594
(22)【出願日】2021-03-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】西濱 和雄
(72)【発明者】
【氏名】吉村 正利
(72)【発明者】
【氏名】松尾 興祐
(72)【発明者】
【氏名】金子 悟
(72)【発明者】
【氏名】池上 ▲徳▼磨
(72)【発明者】
【氏名】石田 誠司
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 聡彦
【テーマコード(参考)】
5H125
5H590
5H770
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125BA00
5H125BB00
5H125BB09
5H125CB02
5H125EE02
5H125EE03
5H125FF01
5H590CA23
5H590CC08
5H590CD01
5H590CD03
5H590CE04
5H590CE05
5H590DD43
5H590JA08
5H770BA02
5H770CA02
5H770CA06
5H770DA21
5H770DA30
5H770FA13
(57)【要約】
【課題】主巻線と補助巻線とを含む一次巻線を有する誘導発電機を備え、補助巻線側のみの通電となる回生動作中においても、補機用インバータが要求する電力を供給可能なドライブシステムを提供する。
【解決手段】発電用コンバータ7の最大電流値は、誘導発電機2の補助巻線の最大出力PAuxMaxと、走行用インバータ4が回生動作をしないときの前記補助巻線の最小電圧VAuxMinとに基づいて設定されており、誘導発電機2の無負荷電流値は、走行用インバータ4が回生動作をするときの前記補助巻線の最大電流IAuxMaxRetが発電用コンバータ7の最大電流を超えないように設定されている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主巻線と補助巻線とを含む一次巻線を有する誘導発電機と、
走行用モータに電力を供給する走行用インバータと、
補機用モータに電力を供給する補機用インバータと、
前記主巻線に交流側端子が接続され、前記走行用インバータに直流側端子が接続された整流器と、
前記補助巻線に交流側端子が接続され、前記補機用インバータに直流側端子が接続された発電用コンバータとを備えたドライブシステムにおいて、
前記発電用コンバータの最大電流値は、前記補助巻線の最大出力と、前記走行用インバータが回生動作をしないときの前記補助巻線の最小電圧とに基づいて設定されており、
前記誘導発電機の無負荷電流値は、前記走行用インバータが回生動作をするときの前記補助巻線の最大電流が前記発電用コンバータの最大電流を超えないように設定されている
ことを特徴とするドライブシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のドライブシステムにおいて、
前記主巻線の最大電圧をVMainMax
前記主巻線の最小電圧をVMainMin
前記走行用インバータの回生動作時の前記誘導発電機の最大周波数をfMax
前記走行用インバータの回生動作時の前記誘導発電機の最小周波数をfMin
前記主巻線の発電容量をSMain
前記補助巻線の最大出力をPAuxMax
前記誘導発電機の発電周波数がfMaxで前記主巻線の電圧がVMainMaxのときの前記主巻線の自己インダクタンス値に対する、前記走行用インバータの回生動作時に前記補助巻線の電流の極小値が最大となるときの前記主巻線の自己インダクタンス値の比である飽和係数をKとした場合、
前記主巻線の定格電流に対する励磁電流が、
【数1】
以下である
ことを特徴とするドライブシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のドライブシステムにおいて、
前記誘導発電機の発電周波数がfMaxで前記主巻線の電圧がVMainMaxであるときの前記主巻線の自己インダクタンス値は、
【数2】
よりも小さく、かつ
【数3】
よりも大きい
ことを特徴とするドライブシステム。
【請求項4】
請求項2に記載のドライブシステムにおいて、
前記飽和係数は、前記誘導発電機の無負荷試験で得られた電圧と電流との関係に基づいて設定されている
ことを特徴とするドライブシステム。
【請求項5】
請求項1に記載のドライブシステムが搭載されている
ことを特徴とする電気駆動式ダンプトラック。
【請求項6】
請求項1に記載のドライブシステムが搭載されている
ことを特徴とする電気駆動車両。
【請求項7】
請求項6に記載の電気駆動車両において、
前記発電用コンバータの直流側端子と前記補機用インバータの直流側端子とに常時接続された始動用バッテリを備え、
前記始動用バッテリの電圧は、前記補機用インバータの直流側端子の電圧と同じである
ことを特徴とする電気駆動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主巻線と補助巻線を有する一次巻線を備えた誘導発電機を用いたドライブシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
主巻線と補助巻線を有する一次巻線を備えた発電機を用いたドライブシステムが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されている発電機は、三相巻線(主巻線に相当)と、これとは別に励磁専用巻線(補助巻線に相当)が設けられており、三相巻線はダイオードブリッジ(整流器に相当)を介して電池と駆動用インバータ(走行用インバータに相当)に接続されると共に、励磁専用巻線は励磁用インバータ(発電用コンバータに相当)を介して電池と駆動用インバータに接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-79908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、三相巻線(主巻線に相当)と、これとは別に励磁専用巻線(補助巻線に相当)が設けられており、三相巻線はダイオードブリッジ(整流器に相当)を介して電池と駆動用インバータ(走行用インバータに相当)に接続されている。しかしながら、駆動用インバータから電池に電力を回生する動作に関する記載はない。
【0006】
特許文献1の駆動用インバータが電池に電力を回生する動作を想定すると、ダイオードブリッジには逆方向の電圧が生じる。そのため、三相巻線は開放された状態となり、電流は発生しない。したがって、回生動作中は、三相巻線側は通電されず、励磁専用巻線側のみが通電された状態となる。
【0007】
本発明の目的は、主巻線と補助巻線とを含む一次巻線を有する誘導発電機を備え、補助巻線側のみの通電となる回生動作中においても、補機用インバータが要求する電力を供給可能なドライブシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、主巻線と補助巻線とを含む一次巻線を有する誘導発電機と、走行用モータに電力を供給する走行用インバータと、補機用モータに電力を供給する補機用インバータと、前記主巻線に交流側端子が接続され、前記走行用インバータに直流側端子が接続された整流器と、前記補助巻線に交流側端子が接続され、前記補機用インバータに直流側端子が接続された発電用コンバータとを備えたドライブシステムにおいて、前記発電用コンバータの最大電流値は、前記補助巻線の最大出力と、前記走行用インバータが回生動作をしないときの前記補助巻線の最小電圧とに基づいて設定されており、前記誘導発電機の無負荷電流値は、前記走行用インバータが回生動作をするときの前記補助巻線の最大電流が前記発電用コンバータの最大電流を超えないように設定されているものとする。
【0009】
以上のように構成した本発明によれば、発電用コンバータの最大電流値と誘導発電機の無負荷電流値とを適切に設定することにより、主巻線と補助巻線とを含む一次巻線を有する誘導発電機を備えたドライブシステムにおいて、補助巻線側のみが通電する走行用インバータの回生動作中においても、補機用インバータが要求する電力を発電用コンバータから供給することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、主巻線と補助巻線とを含む一次巻線を有する誘導発電機を備えたドライブシステムにおいて、補助巻線側のみの通電となる回生動作中においても、補機用インバータが要求する電力を供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】電気駆動式ダンプトラックに搭載されたドライブシステムの構成図である。
図2】電気駆動式ダンプトラックの各運転時における2巻線誘導発電機の主巻線電圧と発電周波数を示す説明図である。
図3】リタード運転時の2巻線誘導発電機の補助巻線側のT形等価回路を示す説明図である。
図4】リタード運転時の2巻線誘導発電機の補助巻線側の簡易等価回路を示す説明図である。
図5】励磁電流と発電用コンバータに必要となる容量との関係を示す説明図である。
図6】リタード運転時において補助巻線側の電流の実効値の極小値が最大となるときの2巻線誘導発電機の電圧と周波数を示す説明図である。
図7】2巻線誘導発電機の主巻線側の自己インダクタンス値と電圧の関係を示す説明図である。
図8】電気自動車に搭載されたドライブシステムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図中、同等の要素には同一の符号を付し、重複した説明は適宜省略する。
【実施例0013】
本発明の第1の実施例におけるドライブシステムとして、電気駆動式ダンプトラックに搭載されたドライブシステムを説明する。
【0014】
図1は、本実施例におけるドライブシステムの構成図である。図1において、ドライブシステムは、2巻線誘導発電機2と、2巻線誘導発電機2を始動する始動用バッテリ10と、走行用モータ5を駆動する走行用インバータ4と、補機用モータ9を駆動する補機用インバータ8と、整流器3と、回生放電抵抗器6と、発電用コンバータ7とを備えている。2巻線誘導発電機2は、原動機1によって駆動される。2巻線誘導発電機2は、主巻線および補助巻線を含む一次巻線と二次導体とを有する。なお、補機用モータ9は、例えば、回生放電抵抗器6等を冷却する冷却ファンの駆動モータである。
【0015】
整流器3は、交流側端子が2巻線誘導発電機2の主巻線に接続され、直流側端子が走行用インバータ4および回生放電抵抗器6に接続されている。回生放電抵抗器6は、走行用モータ5の回生動作時(リタード時)に整流器3の直流側端子と走行用インバータ4の直流側端子とに接続され、走行用モータ5の回生動作によって発電される電力を放電する。発電用コンバータ7は、交流側端子が2巻線誘導発電機2の補助巻線に接続され、直流側端子が補機用インバータ8および始動用バッテリ10に接続されている。始動用バッテリ10は、2巻線誘導発電機2の起動時に発電用コンバータ7に接続され、発電用コンバータ7に電力を供給する。
【0016】
補機用インバータ8が要求する電力よりも走行用インバータ4が要求する電力のほうが大きい。そのため、整流器よりも高価なコンバータは、走行用インバータ4に接続するよりも、図1に示すように、要求する電力の小さい補機用インバータ8に接続することで、コストが低減される。
【0017】
2巻線誘導発電機2の主巻線と補助巻線の電圧は概ね比例する。そのため、発電用コンバータ7で2巻線誘導発電機2の補助巻線の電圧を変化させることで、2巻線誘導発電機2の主巻線の電圧を制御できる。2巻線誘導発電機2が同期発電機であると、電圧を制御する励磁巻線への通電にブラシが必要となるが、本実施例のように誘導発電機を用いることで、ブラシが不要となる。
【0018】
アイドリング運転時は、ダンプトラックが停止している状態であり、原動機1の機械出力は、主に2巻線誘導発電機2の補助巻線で交流電力に変換され、変換される交流電力の電圧の大きさや周波数は、発電用コンバータ7によって制御される。アイドリング運転時は、整流器3に順方向の電圧が生じており、主巻線側も通電が可能な状態となる。
【0019】
トラクション運転時は、ダンプトラックのアクセルペダルが踏まれている状態であり、原動機1の出力は、アイドリング運転時と同様に2巻線誘導発電機2の補助巻線で交流電力に変換されるものに加えて、主に2巻線誘導発電機2の主巻線で交流電力に変換され、変換される交流電力の電圧の大きさや周波数は、発電用コンバータ7によって制御される。トラクション運転時は、整流器3に順方向の電圧が生じており、2巻線誘導発電機2の主巻線側も通電されている状態となる。
【0020】
リタード運転時は、ダンプトラックのブレーキペダルが踏まれている状態であり、原動機1の機械出力は、アイドリング運転時と同様に2巻線誘導発電機2の補助巻線で交流電力に変換され、変換される交流電力の電圧の大きさや周波数は、発電用コンバータ7によって制御される。さらに、走行用モータ5で回生される交流電力は、走行用インバータ4によって直流電力に変換され、変換される直流電力の電圧の大きさは、整流器3に逆方向の電圧が生じる(V<VINVとなる)ように、走行用インバータ4によって制御される。したがって、リタード運転時は、2巻線誘導発電機2の主巻線側は通電されず、補助巻線側のみが通電された状態になる。
【0021】
2巻線誘導発電機2は、誘導発電機の一種であるため、励磁には励磁電流を必要とする。リタード運転時において、通電が可能なのは、補助巻線側のみであるため、励磁電流の全てが補助巻線側に発生し、発電用コンバータ7に必要となる容量が増大する課題が生じる。
【0022】
一方、2巻線同期発電機を用いた場合は、補助巻線とは別に施された界磁巻線で励磁されるため、発電用コンバータ7に必要となる容量が増大する課題は生じない。しかし、スリップリングやブラシが必要となるため、メンテナンス性が低下する。
【0023】
また、2巻線永久磁石発電機を用いた場合は、永久磁石で励磁されるため、発電用コンバータ7に必要となる容量が増大する課題は生じない。しかし、永久磁石が必要となるため、コストが増加する。
【0024】
さらに、2巻線誘導発電機であっても、特許文献1のように、補機系に電力を供給する必要がない場合は、リタード運転時において励磁電流が小さくなるように補助巻線側の電圧を低くすれば、発電用コンバータ7に必要な容量の増大を抑制できるため、発電用コンバータ7に必要となる容量が増大する課題は生じない。
【0025】
しかし、本実施例のように補機系に電力を供給する構成の場合は、リタード運転時において励磁電流が小さくなるように補助巻線側の電圧を低くすると、補機系の電力の供給に必要となる電流、すなわち負荷電流は逆に大きくなってしまうため、発電用コンバータ7に必要な容量が増大する課題が生じる。
【0026】
これらのことから、リタード運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量が増大する課題は、2巻線誘導発電機で補機系に電力を供給する必要のある場合に特有なものとなる。
【0027】
仮に、主巻線側に発電用コンバータを、補助巻線側に整流器を配置した場合は、リタード運転時に主巻線側が開放されると、誘導発電機はコントロールを失うため、リタード運転時においても主巻線側が開放される運転をすることはない。したがって、2巻線誘導発電機で補機系に電力を供給する必要がある場合でも、リタード運転時において発電用コンバータ7に必要となる容量が増大する課題は生じない。
【0028】
上述したように、走行用インバータ4が回生動作をしないアイドリングとトラクション運転時は、主巻線側と補助巻線のどちらにも通電が可能な状態となる。一方、走行用モータ5が回生動作をするリタード運転時は、補助巻線側のみの通電となり、励磁電流の全てが補助巻線側に発生し、発電用コンバータ7に必要となる容量が増大する。言い換えれば、励磁電流の小さい仕様を持つ2巻線誘導発電機を用いれば、発電用コンバータ7に必要となる容量の増大が抑制される。
【0029】
本実施例では、発電用コンバータ7は、アイドリングとトラクション運転時において、補機用インバータ8が要求する電力を供給できる容量のものとし、2巻線誘導発電機2には、補助巻線側のみの通電となるリタード運転時においても、補機用インバータ8が要求する電力を発電用コンバータ7が供給できるように、励磁電流の小さい仕様を持つ2巻線誘導発電機が用いられている。
【0030】
以下に、2巻線誘導発電機2の励磁電流の仕様を定式化していく。
【0031】
図2は、電気駆動式ダンプトラックの各運転時における2巻線誘導発電機2の主巻線電圧と発電周波数を示す説明図である。図2において、縦軸は主巻線電圧であり、横軸は発電周波数である。
【0032】
アイドリング運転時において、原動機1の機械出力は小さいため、回転速度を低くして原動機1の効率を高めている。回転速度が低いため発電周波数が低い。発電周波数が低いときは発電できる電圧が低くなる。アイドリング運転時の2巻線誘導発電機2の主巻線側の電圧の実効値をVMainMinとしている。
【0033】
トラクション運転時においては、原動機1の機械出力は大きいため、原動機1の効率が良くなる回転速度は高くなる。回転速度が高いため発電周波数が高い。発電周波数が高いときは発電できる電圧が高くなる。トラクション運転時の2巻線誘導発電機2の主巻線側の最大電圧の実効値をVMainMaxとし、トラクション運転時の2巻線誘導発電機2の発電周波数をfMaxとしている。
【0034】
リタード運転時においては、アイドリング運転時と同様に原動機1の機械出力は小さいが、素早くトラクション運転に切り替えられるように、アイドリング運転時よりも原動機1の回転速度は高い。アイドリング運転時よりも回転速度が高いため発電周波数が高い。アイドリング運転時よりも発電周波数が高いため、発電できる電圧は高くなる。リタード運転時の2巻線誘導発電機2の発電周波数の最小値をfMinとし、最大値はトラクション運転時と同じfMaxとしている。
【0035】
以上の様に、走行用インバータ4が回生動作をしないアイドリング運転時とトラクション運転時は、主巻線側も通電することになるが、アイドリング運転時は、トラクション運転時よりも電圧が低いため、補機用インバータ8に電力を供給するのに必要な電流が大きく、発電用コンバータ7に必要となる容量が大きい。すなわち、発電用コンバータ7は、アイドリング運転時において、補機用インバータ8が要求する電力を供給できる容量のものとすれば、トラクション運転時においても補機用インバータ8が要求する電力を供給できる。
【0036】
また、リタード運転時は、補助巻線側のみが通電することになるが、原動機1の回転速度がアイドリング運転時よりも高いため、補助巻線側で発電できる電圧はアイドリング運転時よりも高くなり、補機用インバータ8に電力を供給するのに必要な電流、すなわち負荷電流は、アイドリング運転時よりも小さくなる。
【0037】
走行用インバータ4が回生動作をしないアイドリングと走行用インバータ4が回生動作をするリタード運転時に必要となる発電用コンバータ7の容量を定式化する前段として、コンバータ容量の一般式を表す。2巻線誘導発電機2の補助巻線側の最大電圧の実効値をVAuxMax、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の最大電流の実効値をIAuxMaxとすると、発電用コンバータ7に必要な容量SConvAuxは、次式で表される。
【0038】
【数1】
【0039】
2巻線誘導発電機2の主巻線と補助巻線の有効巻数比(主/補助)をTRとすると、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の最大電圧の実効値VAuxMaxと、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の最小電圧の実効値VAuxMinは、次式で表される。
【0040】
【数2】
【0041】
【数3】
【0042】
走行用インバータ4が回生動作をしないアイドリング運転時に必要となる発電用コンバータ7の容量を定式化する。2巻線誘導発電機2の補助巻線側の最大出力をPAuxMax、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の力率をPFAuxとすると、アイドリング運転時における2巻線誘導発電機2の補助巻線側の最大電流の実効値IAuxMaxIdlは、次式で表される。
【0043】
【数4】
【0044】
2巻線誘導発電機2の補助巻線側の力率PFAuxは1以下であるので次式となる。
【0045】
【数5】
【0046】
2巻線誘導発電機2の補助巻線側の最小電圧の実効値VAuxMinは、走行用インバータ4が回生動作をしないときの2巻線誘導発電機2の補助巻線側の最小電圧である。したがって、発電用コンバータ7の最大電流値は、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の最大出力PAuxMaxと、走行用インバータ4が回生動作をしないときの補助巻線側の最小電圧VAuxMinとに基づいて設定される。
【0047】
式1のVAuxMaxに式2を、IAuxMaxに式5を代入すると、アイドリング運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxIdlは、次式で表される。
【0048】
【数6】
【0049】
式6のVAuxMinに式3を代入すると、アイドリング運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxIdlは、次式で表される。
【0050】
【数7】
【0051】
走行用インバータ4が回生動作をするリタード運転時に必要となる発電用コンバータ7の容量を定式化する。
【0052】
図3は、リタード運転時の2巻線誘導発電機2の補助巻線側のT形等価回路を示す説明図である。リタード運転時は主巻線側が開放されているので一般の誘導機と同じになる。
【0053】
一次抵抗をr1、二次抵抗をr2’、励磁リアクタンスをxM、一次漏れリアクタンスをx1、二次漏れリアクタンスをx2’、すべりをs、負荷抵抗をrL’としている。また、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の電圧の実効値をVAux、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の励磁電流の実効値をI0Aux、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の負荷電流の実効値をIAux、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の電流の実効値をIAuxとしている。
【0054】
図4は、リタード運転時の2巻線誘導発電機2の補助巻線側の簡易等価回路を示す説明図である。図4は、図3のT形等価回路を発電用コンバータ7に必要となる容量の概算ができる程度に簡易化したものである。図4において、2巻線誘導発電機2の発電周波数をf、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の自己インダクタンス値をLAuxとしている。
【0055】
図3において、励磁リアクタンスxMと負荷抵抗rL’は、一次抵抗r1、一次漏れリアクタンスx1、二次漏れリアクタンスx2’、二次抵抗r2’よりも十分に大きいため、図4において、励磁リアクタンスxMと負荷抵抗rL’のみに簡易化している。
【0056】
2巻線誘導発電機2の補助巻線側の自己リアクタンスXAuxは次式で表される。
【0057】
【数8】
【0058】
励磁リアクタンスxMは、一次漏れリアクタンスx1よりも十分に大きいため、式8より、励磁リアクタンスxMは、次式で表される。
【0059】
【数9】
【0060】
図4の簡易等価回路では、一次抵抗r1と二次抵抗r2’が省略されて損失のない状態であるため、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の出力PAuxは、負荷抵抗rL’から入力される電力と等しくなる。したがって、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の出力PAuxは、次式で表される。
【0061】
【数10】
【0062】
式10より、負荷抵抗rL’は、次式で表される。
【0063】
【数11】
【0064】
図4の簡易等価回路から、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の負荷電流の実効値IAuxは、次式で表される。
【0065】
【数12】
【0066】
式12の負荷抵抗rL’に、式11を代入すると、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の負荷電流の実効値IAuxは、次式で表される。
【0067】
【数13】
【0068】
図4の簡易等価回路から、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の励磁電流の実効値I0Auxは、次式で表される。
【0069】
【数14】
【0070】
図4の簡易等価回路から、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の励磁電流の実効値I0Auxは、インダクタンス成分のみの回路に発生し、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の負荷電流の実効値IAuxは、抵抗成分のみの回路に発生するため、両電流の位相差は90°である。したがって、その両電流のベクトル和である2巻線誘導発電機2の補助巻線側の電流の実効値IAuxは、次式で表される。
【0071】
【数15】
【0072】
式14から、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の励磁電流の実効値I0Auxは、次式で表される。
【0073】
【数16】
【0074】
【数17】
【0075】
式13から、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の負荷電流の実効値IAuxは、次式で表される。
【0076】
【数18】
【0077】
【数19】
【0078】
式15に式16と式18を代入すると、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の電流の実効値IAuxは、次式で表される。
【0079】
【数20】
【0080】
【数21】
【0081】
【数22】
【0082】
式20は、VAuxが無限大の場合はVAux/aが無限大で、Vが0の場合もb/VAuxが無限大になるため、VAuxが0から無限大の間でIAuxは極小値が存在する。リタード運転時は、IAuxが小さくなるようにVAuxが制御される。式21をV2で微分すると次式で表される。
【0083】
【数23】
【0084】
式23が0になるときにIAuxが極小値となり、IAuxが極小値となるときのV2は、次式で表される。
【0085】
【数24】
【0086】
式24のV2に式22を、aに式17を、bに式19を代入すると、IAuxが極小値となるときのVAux2とVAuxは、次式で表される。
【0087】
【数25】
【0088】
【数26】
【0089】
式21に式24を代入すると、IAuxが極小値となるときのI2は、次式で表される。
【0090】
【数27】
【0091】
式27のaに式17を、bに式19を代入すると、IAuxが極小値となるときのI2は、次式で表される。
【0092】
【数28】
【0093】
式20のI2に、式28を代入すると、IAuxの極小値は、次式で表される。
【0094】
【数29】
【0095】
リタード運転時において、式29より、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の出力PAuxが最大で、2巻線誘導発電機2の発電周波数fが最小のとき、IAuxの極小値は最大となる。このとき(以下、「リタード運転時においてIAuxの極小値が最大となるとき」とする)の2巻線誘導発電機2の補助巻線側の自己インダクタンス値をLAuxMaxRetとし、2巻線誘導発電機2の補助巻線側に要求される最大出力をPAuxMaxとすると、リタード運転時における2巻線誘導発電機2の補助巻線側の最大電流の実効値IAuxMaxRetは、次式で表される。
【0096】
【数30】
【0097】
同様に、リタード運転時においてIAuxの極小値が最大となるときの2巻線誘導発電機2の補助巻線側の電圧の実効値VAuxMaxRetは、次式で表される。
【0098】
【数31】
【0099】
式1のVAuxMaxに式2を、IAuxMaxに式30を代入すると、リタード運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxRetは、次式で表される。
【0100】
【数32】
【0101】
リタード運転時においてIAuxの極小値が最大となるときの2巻線誘導発電機2の主巻線側の自己インダクタンス値LMainMaxRetは、次式で表される。
【0102】
【数33】
【0103】
式33より、リタード運転時においてIAuxの極小値が最大となるときの2巻線誘導発電機2の補助巻線側の自己インダクタンス値LAuxMaxRetは、次式で表される。
【0104】
【数34】
【0105】
式32のLAuxMaxRetに式34を代入すると、リタード運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxRetは、次式で表される。
【0106】
【数35】
【0107】
式35で表されるリタード運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxRetを、式7で表されるアイドリング運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxIdl以下にできる2巻線誘導発電機2の主巻線側の自己インダクタンス値LMainMaxRetを定式化する。
【0108】
ConvAuxRetをSConvAuxIdl以下にするという関係は、次式で表される。
【0109】
【数36】
【0110】
式36のSConvAuxIdlに式7を、SConvAuxRetに式35を代入すると、リタード運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxRetをアイドリング運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxIdl以下にできる2巻線誘導発電機2の主巻線側の自己インダクタンス値LMainMaxRetは、次式で表される。
【0111】
【数37】
【0112】
したがって、式37で表される主巻線側の自己インダクタンス値LMainMaxRetとなる仕様を持つ2巻線誘導発電機を用いることで、補助巻線側のみの通電となるリタード運転時においても、補機用インバータ8が要求する電力を供給できる。
【0113】
式35で表されるリタード運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxRetを、式7で表されるアイドリング運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxIdl以下にできる2巻線誘導発電機2の励磁電流の仕様を定式化する。
【0114】
式14のVAuxにVAuxMaxRetを、fにfMinを、LAuxにLAuxMaxRetを代入すると、リタード運転時においてIAuxの極小値が最大となるときの2巻線誘導発電機2の補助巻線側の励磁電流の実効値I0AuxMaxRetは、次式で表される。
【0115】
【数38】
【0116】
式38の励磁電流は、リタード運転時においてIAuxの極小値が最大となるときの特性である。
【0117】
2巻線誘導発電機2の主巻線側の励磁電流は、2巻線誘導発電機2の補助巻線側を開放したときの主巻線側の無負荷電流から得ることができる。補助巻線側を開放しているため、主巻線側のみの一般的な誘導機として、主巻線側の無負荷電流を計算・実験・実測でき、2巻線特有の特殊な手法を用いることなく、2巻線誘導発電機2の主巻線側の励磁電流を得ることができる。一般に、無負荷試験は定格周波数で実施されるため、発電周波数fが定格周波数、すなわちトラクション運転時の発電周波数fMaxでの励磁電流を定式化する。電圧はトラクション運転時に最大となるVMainMaxとする。
【0118】
発電周波数がfMaxで主巻線側の電圧がVMainMaxのときの2巻線誘導発電機2の主巻線側の自己インダクタンス値をLMainMaxとすると、発電周波数がfMaxで主巻線側の電圧がVMainMaxのときの主巻線側の励磁電流の実効値I0MainMaxは、次式で表される。
【0119】
【数39】
【0120】
2巻線誘導発電機2の主巻線側の発電容量をSMainとすると、発電周波数がfMaxで主巻線側の電圧がVMainMaxのときの2巻線誘導発電機2の主巻線側の定格電流の実効値IMainMaxは、次式で表される。
【0121】
【数40】
【0122】
発電周波数がfMaxで主巻線側の電圧がVMainMaxのときの2巻線誘導発電機2の主巻線側の定格電流に対する励磁電流は、式39を式40で割ることで、次式で表される。
【0123】
【数41】
【0124】
発電周波数がfMaxで主巻線側の電圧がVMainMaxのときと、リタード運転時においてIAuxの極小値が最大となるときとでは、磁気飽和の程度が異なる。この両運転状態での磁気飽和の程度の違いを主巻線側の自己インダクタンス値の比で表した飽和係数Kは、次式で表される。
【0125】
【数42】
【0126】
式42よりLMainMaxは次式で表される。
【0127】
【数43】
【0128】
式41のLMainMaxに式43を代入すると、発電周波数がfMaxで主巻線側の電圧がVMainMaxのときの2巻線誘導発電機2の主巻線側の定格電流に対する励磁電流は、次式で表される。
【0129】
【数44】
【0130】
式44のLMainMaxRetに式37を代入すると、リタード運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxRetを、アイドリング運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxIdl以下にできる2巻線誘導発電機2を用いたときにおいて、発電周波数がfMaxで主巻線側の電圧がVMainMaxのときの2巻線誘導発電機2の主巻線側の定格電流に対する励磁電流は、次式で表される。
【0131】
【数45】
【0132】
上述したように、本実施例では、2巻線誘導発電機2には、補助巻線側のみの通電となるリタード運転時においても、補機用インバータ8が要求する電力を発電用コンバータ7が供給できるように、励磁電流の小さい仕様を持つ2巻線誘導発電機が用いられている。式45で表される励磁電流となる仕様を持つ2巻線誘導発電機を用いることで、補助巻線側のみの通電となるリタード運転時においても、補機用インバータ8が要求する電力を発電用コンバータ7が供給できる。
【0133】
アイドリング運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxIdlは、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の最大電圧の実効値VAuxMaxと、アイドリング運転時における2巻線誘導発電機2の補助巻線側の最大電流の実効値IAuxMaxIdlの積から決定される。
【0134】
リタード運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxRetは、2巻線誘導発電機2の補助巻線側の最大電圧の実効値VAuxMaxと、リタード運転時における2巻線誘導発電機2の補助巻線側の最大電流の実効値IAuxMaxRetの積から決定される。
【0135】
このように、SConvAuxIdlとSConvAuxRetを決める最大電圧は、どちらもVAuxMaxとなる。すなわち、走行用インバータ4が回生動作をするときの補助巻線の最大電流IAuxMaxRetが発電用コンバータ7の最大電流IAuxMaxIdlを超えないように、2巻線誘導発電機2の主巻線側の自己インダクタンス値LMainMaxRetや、発電周波数がfMaxで主巻線側の電圧がVMainMaxのときの2巻線誘導発電機2の主巻線側の定格電流に対する励磁電流が、式37や式45によって決定されているとも言える。
【0136】
図5は、励磁電流と発電用コンバータ7に必要となる容量との関係を示す説明図である。図5において、横軸は定格電流IMainMaxに対する励磁電流I0MainMaxであり、縦軸は2巻線誘導発電機2の主巻線側の発電容量SMainに対する発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxである。
【0137】
式7のアイドリング運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxIdlにおいて、その最小値SConvAuxIdlMinを、2巻線誘導発電機2の主巻線側の発電容量SMainで割ると、次式で表される。
【0138】
【数46】
【0139】
2巻線誘導発電機2の主巻線側の発電容量SMainに対するリタード運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxRetが、式46のSConvAuxIdlMin/SMain以下になるように、励磁電流の小さい仕様を持つ2巻線誘導発電機を用いれば、発電用コンバータ7に必要となる容量の増大が抑制される。
【0140】
式45より、リタード運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxRetを、アイドリング運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxIdl以下にできる2巻線誘導発電機2を用いたときにおいて、発電周波数がfMaxで主巻線側の電圧がVMainMaxのときの2巻線誘導発電機2の主巻線側の定格電流に対する励磁電流の最大値I0MainMaxMax/IMainMaxは、次式で表される。
【0141】
【数47】
【0142】
図5のように、発電周波数がfMaxで主巻線側の電圧がVMainMaxのときの2巻線誘導発電機2の主巻線側の定格電流に対する励磁電流がI0MainMaxMax/IMainMax以下である2巻線誘導発電機2を用いることで、2巻線誘導発電機2の主巻線側の発電容量SMainに対するリタード運転時に発電用コンバータ7に必要となる容量SConvAuxRetが、式46のSConvAuxIdlMin/SMain以下になる。
【0143】
(まとめ)
本実施例では、主巻線と補助巻線とを含む一次巻線を有する誘導発電機2と、走行用モータ5に電力を供給する走行用インバータ4と、補機用モータ9に電力を供給する補機用インバータ8と、前記主巻線に交流側端子が接続され、走行用インバータ4に直流側端子が接続された整流器3と、前記補助巻線に交流側端子が接続され、補機用インバータ8に直流側端子が接続された発電用コンバータ7とを備えたドライブシステムにおいて、発電用コンバータ7の最大電流値IAuxMaxIdlは、前記補助巻線の最大出力PAuxMaxと、走行用インバータが回生動作をしないときの前記補助巻線の最小電圧VAuxMinとに基づいて設定されており、誘導発電機2の無負荷電流値は、走行用インバータ4が回生動作をするときの前記補助巻線の最大電流IAuxMaxRetが発電用コンバータ7の最大電流値を超えないように設定されている。
【0144】
以上のように構成した本実施例によれば、発電用コンバータ7の最大電流値と誘導発電機2の無負荷電流値とを適切に設定することにより、主巻線と補助巻線とを含む一次巻線を有する誘導発電機2を備えたドライブシステムにおいて、補助巻線側のみが通電する走行用インバータ4の回生動作中においても、補機用インバータ8が要求する電力を発電用コンバータ7から供給することが可能となる。
【0145】
また、本実施例では、誘導発電機2の主巻線の最大電圧をVMainMax、前記主巻線の最小電圧をVMainMin、走行用インバータ4が回生動作をするときの誘導発電機2の最大周波数をfMax、走行用インバータ4が回生動作をするときの誘導発電機2の最小周波数をfMin、前記主巻線の発電容量をSMain、前記補助巻線の最大出力をPAuxMax、誘導発電機2の発電周波数がfMaxで前記主巻線側の電圧がVMainMaxのときの前記主巻線の自己インダクタンス値に対する、走行用インバータ4の回生動作時に前記補助巻線の電流IAUXの極小値が最大となるときの前記主巻線の自己インダクタンス値の比である飽和係数をKとした場合、
前記主巻線の定格電流に対する励磁電流が、
【0146】
【数48】
【0147】
以下である。これにより、誘導発電機2の励磁電流の上限が設定されるため、発電用コンバータ7に必要な容量の増大を抑制することが可能となる。
【実施例0148】
本発明の第2の実施例について、第1の実施例との相違点を中心に説明する。
【0149】
発電周波数がfMaxで主巻線側の電圧がVMainMaxのときと、リタード運転時においてIAuxの極小値が最大となるときとでは、磁気飽和の程度が異なる。式42において、この両運転状態での磁気飽和の程度の違いを主巻線側の自己インダクタンス値の比である飽和係数Kで表した。
【0150】
誘導機の自己インダクタンス値Lは、図3図4の等価回路をもとにして考えると、すべりsを0とした無負荷運転での電圧Vと電流Iの比から算定され、次式で表される。
【0151】
【数49】
【0152】
リタード運転時においてIAuxの極小値が最大となるときのLAuxMaxRetを式48で算定するには、リタード運転時においてIAuxの極小値が最大となるときの電圧VAuxMaxRetを式31によって算定する必要がある。すなわち、飽和係数Kの値を得るためには、リタード運転時においてIAuxの極小値が最大となるときの電圧VAuxMaxRetの算定が必要となる課題が生じる。
【0153】
図6は、リタード運転時において補助巻線側の電流の実効値IAuxの極小値が最大となるときの2巻線誘導発電機2の電圧と周波数を示す説明図である。図6において、横軸はfMaxに対する発電周波数fであり、縦軸はVMainMaxに対する2巻線誘導発電機2の主巻線側の電圧の実効値VMainである。
【0154】
磁気飽和の程度を決める磁束密度の高さは、電圧/周波数に比例する。発電周波数がfMaxで主巻線側の電圧がVMainMaxのときの電圧/周波数は1であるのに対して、リタード運転時においてIAuxの極小値が最大となるときの電圧/周波数がV/fであるとき、後者の磁束密度は図6のように前者のV/f倍であり低い。
【0155】
図7は、2巻線誘導発電機2の主巻線側の自己インダクタンス値と電圧の関係を示す説明図である。図7において、横軸は主巻線側の最大電圧の実効値VMainMaxに対する主巻線側の電圧の実効値VMainであり、縦軸は主巻線側の自己インダクタンス値LMainに対する未飽和時の自己インダクタンス値LMain-Unsaturatedの比である。発電周波数がfMaxの場合である。
【0156】
式48によるLの実験において、実験可能な範囲でVを小さくしたときのLの最小値が、未飽和時の自己インダクタンス値LMain-Unsaturatedである。
【0157】
図7より、リタード運転時においてIAuxの極小値が最大となるときの自己インダクタンス値LMainは、未飽和時の自己インダクタンス値LMain-Unsaturatedとほぼ等しい。したがって、リタード運転時においてIAuxの極小値が最大となるときの電圧VAuxMaxRetが不明であっても、未飽和時の自己インダクタンス値LMain-Unsaturatedを実験によって算定し、式42の飽和係数Kは、次式で表される。
【0158】
【数50】
【0159】
したがって、式49で表される、発電周波数がfMaxで主巻線側の電圧がVMainMaxのときの飽和係数Kは、誘導機の無負荷試験と呼ばれる一般的な試験で得られる電圧と電流との関係から式48のLを算定することで得られる。
【0160】
(まとめ)
本実施例における飽和係数Kは、誘導発電機2の無負荷試験で得られた電圧と電流との関係に基づいて設定されている。
【0161】
以上のように構成した本実施例によれば、誘導発電機2の無負荷試験で得られた電圧と電流との関係に基づいて飽和係数Kを設定することにより、2巻線特有の特殊な手法を用いることなく、2巻線誘導発電機2の主巻線側の励磁電流を得ることが可能となる。
【実施例0162】
本発明の第3の実施例について、第1の実施例との相違点を中心に説明する。
【0163】
式43のLMainMaxRetに式37を代入すると、発電周波数がfMaxで主巻線側の電圧がVMainMaxのときの2巻線誘導発電機2の主巻線側の自己インダクタンス値LMainMaxは次式で表される。
【0164】
【数51】
【0165】
式42や式49で得られる飽和係数Kは、1よりも小さくなることはないため、発電周波数がfMaxで主巻線側の電圧がVMainMaxのときの2巻線誘導発電機2の主巻線側の自己インダクタンス値LMainMaxの範囲は次式で表される。
【0166】
【数52】
【0167】
2巻線誘導発電機2の主巻線の巻数を大きくすると、発電周波数がfMaxで主巻線側の電圧がVMainMaxのときの2巻線誘導発電機2の主巻線側の自己インダクタンス値LMainMaxは大きくなる。しかしながら、巻数を大きくすると、巻線の断面積を縮小する必要のあることや、巻線の全長が大きくなることで、巻線の抵抗が増加して2巻線誘導発電機2の銅損が大きくなる。銅損が大きくなると、2巻線誘導発電機2の効率が低下したり、2巻線誘導発電機2の温度が高くなる。その結果、効率の低下や温度上昇の増加を抑制するために、2巻線誘導発電機2の体格を大きくする必要や、2巻線誘導発電機2に用いる材料に高価なものを用いる必要が生じる。
【0168】
2巻線誘導発電機2の固定子と回転子の間のギャップを小さくすることでも、発電周波数がfMaxで主巻線側の電圧がVMainMaxのときの2巻線誘導発電機2の主巻線側の自己インダクタンス値LMainMaxは大きくなる。しかしながら、ギャップを小さくすることは、2巻線誘導発電機の振動や騒音を増加させる原因になることがある。
【0169】
式51によって自己インダクタンス値LMainMaxの上限を定めることで、2巻線誘導発電機2に過度な高インダクタンス仕様を要求してしまうことを防止できる。
【0170】
(まとめ)
本実施得では、誘導発電機2の発電周波数がfMaxで主巻線の電圧がVMainMaxであるときの前記主巻線の自己インダクタンス値LMainMaxは、
【0171】
【数53】
【0172】
よりも小さく、かつ
【0173】
【数54】
【0174】
よりも大きい。
【0175】
以上のように構成した本実施例によれば、自己インダクタンス値LMainMaxの上限を定めることにより、誘導発電機2に過度な高インダクタンス仕様が要求されることを防止することが可能となる。
【実施例0176】
本発明の第4の実施例におけるドライブシステムとして、電気駆動車両としての電気自動車に搭載されたドライブシステムを説明する。
【0177】
図8は、本実施例におけるドライブシステムの構成図である。図8において、第1の実施例(図1に示す)との相違点は、始動用バッテリ10Aの接続方法にある。第1の実施例の始動用バッテリ10は、2巻線誘導発電機2が始動しているときにのみ、発電用コンバータ7の直流側端子と補機用インバータ8の直流側端子とに接続されるものであるが、本実施例の始動用バッテリ10Aは、発電用コンバータ7の直流側端子と補機用インバータ8の直流側端子とに常時接続される。
【0178】
電気自動車の補機系は、一般に12~42V系であり、補機系と同じ電圧のバッテリが車体に実装されている。そのバッテリを始動用バッテリ10’として用いることで、始動用バッテリ10’の電圧は補機系と同じになり、始動用バッテリ10’を発電用コンバータ7と補機用インバータ8に常時接続できる。
【0179】
(まとめ)
以上のように構成した本実施例によれば、電気自動車に搭載されたドライブシステムにおいて、第1の実施例と同様に、補助巻線側のみの通電となる回生動作中においても、補機用インバータ8が要求する電力を供給することが可能となる。
【0180】
また、本実施例では、発電用コンバータ7の直流側端子と補機用インバータ8の直流側端子に常時接続された始動用バッテリ10Aを備え、始動用バッテリ10Aの電圧は、補機用インバータ8の直流側端子の電圧と同じである。これにより、始動用バッテリ10Aの接続の切り替えが不要になり、切替用素子のコストや電気損失が低減されることや、2巻線誘導発電機2で補機用インバータ8に電力を供給しながら始動用バッテリ10Aを充電することが可能となる。
【0181】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成の一部を加えることも可能であり、ある実施例の構成の一部を削除し、あるいは、他の実施例の一部と置き換えることも可能である。
【符号の説明】
【0182】
1…原動機、2…2巻線誘導発電機、3…整流器、4…走行用インバータ、5…走行用モータ、6…回生放電抵抗器、7…発電用コンバータ、8…補機用インバータ、9…補機用モータ、10,10A…始動用バッテリ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8