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特開2022-152003小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを含有するポリマー組成物及びその成形品並びに繊維
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  • 特開-小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを含有するポリマー組成物及びその成形品並びに繊維 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152003
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを含有するポリマー組成物及びその成形品並びに繊維
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20221004BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20221004BHJP
   D01F 2/00 20060101ALI20221004BHJP
   C08L 29/04 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
C08L101/02
C08L1/00
D01F2/00 Z
C08L29/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054598
(22)【出願日】2021-03-29
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】301049744
【氏名又は名称】日清ファルマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】荒木 潤
(72)【発明者】
【氏名】川口 亮太
(72)【発明者】
【氏名】池本 裕之
【テーマコード(参考)】
4J002
4L035
【Fターム(参考)】
4J002AB012
4J002BE011
4J002FA042
4J002FD010
4J002FD011
4J002GK00
4J002HA06
4L035BB03
4L035BB46
4L035DD13
4L035DD19
4L035DD20
4L035EE11
4L035EE20
4L035GG08
4L035KK02
(57)【要約】
【課題】強度及び透明度の点で改善された、セルロース繊維をフィラーとして含有するポリマー組成物及びその成形品、並びに原料の入手が容易で、強度及び透明度に優れたナノセルロース類を使用した繊維を提供する。
【解決手段】小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを含有するポリマー組成物であって、好ましくは、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルの平均径が2~100nm、平均長が100~2000nmであり、カルボキシ基が30~2000μmol/gであるポリマー組成物及びシート又はフィルム等のその成形品並びに小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを含有してなる繊維。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを含有するポリマー組成物。
【請求項2】
ポリマーが熱可塑性樹脂である、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルの平均径が2~100nm、平均長が100~2000nmであり、カルボキシ基が30~2000μmol/gである、請求項1又は2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを1~20質量%含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載されたポリマー組成物の成形品。
【請求項6】
成形品がシート又はフィルムである請求項5に記載の成形品。
【請求項7】
(1)小麦ふすまを硫酸加水分解処理して小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを調製する工程、
(2)小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルとポリマーとを混合する工程、及び、
(3)得られた混合物を成形する工程、
を含む、
請求項5又は6に記載の成形品の製造方法。
【請求項8】
小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを含有してなる繊維。
【請求項9】
小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルの平均径が2~100nm、平均長が100~2000nmであり、カルボキシ基が30~2000μmol/gである、請求項8に記載の繊維。
【請求項10】
小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルに加え、他のポリマーを含有する、請求項8又は9に記載の繊維。
【請求項11】
他のポリマーが、カニ甲殻からのキチン由来ナノセルロース、ホヤ由来ナノセルロース、綿由来のナノセルロースから選ばれる1種以上である、請求項10に記載の繊維。
【請求項12】
他のポリマーが、ポリビニルアルコール又はナイロンから選ばれる1種以上である、請求項10に記載の繊維。
【請求項13】
(1)小麦ふすまを硫酸加水分解処理して小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを調製する工程、
(2)小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを溶媒に分散する工程、及び、
(3)得られた混合物を紡糸する工程、
を含む、
請求項8~12のいずれか1項に記載の繊維の製造方法。
【請求項14】
小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを溶媒に分散して、紡糸ドープを調製する工程、及び
得られた紡糸ドープから繊維を成形する工程、
を含み、紡糸ドープは小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを1~10質量%含有す
る、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルとポリマーとを溶媒に分散、混合して、紡糸ドープを調製する工程、及び
得られた紡糸ドープから繊維を成形する工程、
を含み、紡糸ドープは小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを1~10質量%含有する、請求項14に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを含有するポリマー組成物及びその成形品並びに繊維に関する。具体的には、本発明のポリマー組成物は、小麦ふすまの化学的な解繊により製造される小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルをフィラーとして種々のポリマー樹脂の基材に含有させた組成物であって、引張強さ、弾性率、透明性等の点で優れた物性を示し、シートやフィルムをはじめとして、様々な成形品に加工し、広範な分野で利用することが期待される。また、本発明の繊維は、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを含有する紡糸液から紡糸することにより製造される。
【背景技術】
【0002】
ポリマー材料を基材(母材)とし、ナノサイズに粒子化した充填剤(ナノフィラー)を分散させた複合材料をナノコンポジットという。ナノコンポジットは、その形成によって、引張強さ、弾性率、熱変形温度等の様々な物性が飛躍的に向上するため、各種技術分野で利用されており、更なる高機能性を得るための開発が続けられている。
【0003】
ナノフィラーとしては、従来は主に無機材料が使用されてきたが、近年では、古くから繊維材料として利用されてきたセルロースから得られるナノセルロースもナノフィラーとして用いられている。植物由来の繊維質を物理的又は化学的に解繊処理して得られる繊維状の素材であるナノセルロースをフィラーとして用いると、無機材料のフィラーに比べて軽量なポリマー組成物が得られる。また、ナノセルロースは生分解性であるため、環境負荷の側面でも利点がある。
【0004】
これまで、物理的又は化学的に処理した植物バイオマス材料をフィラーとして含むポリマー組成物が知られている。
特許文献1には、水と炭素数4~8の脂肪族アルコールとの混合溶媒中で植物系バイオマスを加熱処理して得られるセルロース含有固形物が、熱可塑性樹脂との混合性がよく、樹脂の熱安定性を向上させることが記載されている。
特許文献2には、植物原料から得られたセルロース繊維と、カルボキシ基を有するポリアルケンである特定の性質を有するポリオレフィンとからなる組成物が、オレフィン樹脂への分散性が高いことが記載されている。
【0005】
特許文献3、4には、小麦ふすま等の多孔性草本系バイオマスを粉砕して得られた多孔性粉末に無機質フィラーを含浸させた含浸混合物とポリオレフィン系樹脂を含むシート又はフィルム状組成物が記載されている。
【0006】
特許文献5には、天然繊維を原料とするセルロース繊維(TEMPO酸化処理後、粉砕)と、天然及び/又は合成樹脂エマルジョンを含み、高い弾性を有する乾燥被膜を形成できる樹脂組成物が開示されており、平均繊維径200nm以下のセルロース繊維を含み、セルロースのカルボキシル基含有量が0.1~2mmol/gであることが記載されている。
特許文献6には、ふすまを物理的に解繊して得られた解繊物を2~30質量%含有する熱可塑性樹脂組成物が記載されている。
【0007】
また、ナノセルロース類を使用した繊維もこれまでに知られている。
特許文献7には、木材などのセルロースに富む材料から抽出したセルロースナノフィブリルの懸濁液を紡糸口金から押し出すことによってセルロースナノフィブリルを含む繊維を紡ぐ方法で得られるセルロース繊維が開示されている。
特許文献8には、PVA(ポリビニルアルコール)にセルロースナノファイバーを添加した紡糸溶液を、ノズルを通して冷却メタノール中に押し出すことによって紡糸ゲル状原糸を得て、さらにこの紡糸ゲル状原糸を延伸することにより製造することのできる、高強度のPVA系コンポジット繊維が開示されている。
特許文献9には、N,N-ジメチルホルムアミド等に微晶セルロースを溶解した溶液を、ノズルからメタノール中に吐出し延伸するなどの工程を経て得られる繊維が記載されている。
【0008】
一方、植物由来のナノセルロースの例として、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルが報告されている。
非特許文献1には、小麦ふすまを脱脂、脱デンプン、脱タンパク処理することにより精製した小麦ふすまセルロースを、さらに酸加水分解して得られるセルロースナノクリスタルが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017-002206号公報
【特許文献2】特開2017-141323号公報
【特許文献3】特開2014-162923号公報
【特許文献4】特開2015-151550号公報
【特許文献5】特開2009-197122号公報
【特許文献6】特開2019-172876号公報
【特許文献7】特表2013-525618号公報
【特許文献8】特開2011-208293号公報
【特許文献9】特開2009-203467号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】International Journal of Biological Macromolecules, 140(2019), 225-233 Cellulose nanocrystals prepared from wheat bran: Characterization and cytotoxicity assessment
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これまで知られているセルロース繊維をフィラーとして含有するポリマー組成物は、様々な改良が図られてはいるものの、強度や透明度の点で未だ満足できるものではなく、十分な強度及び透明度を有するフィルムやシート又は繊維を得ることが困難であったため、強度及び透明度の点でさらに改善されたポリマー組成物が求められていた。また、セルロース繊維としては、これまでは、主に海外から輸入される綿由来のナノセルロースが使用されており、国内でも容易に大量の原料を入手することができ、かつ強度及び透明度の点で同等以上の優れた性能を示すナノセルロース類を使用した繊維が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題は、以下のポリマー組成物及びその成形品並びに小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを含んでなる繊維によって解決することができる。
1.小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを含有するポリマー組成物。
2.ポリマーが熱可塑性樹脂である、1.に記載のポリマー組成物。
3.小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルの平均径が2~100nm、平均長が100~2000nmであり、カルボキシ基が30~2000μmol/gである、1.又は2.に記載のポリマー組成物。
4.小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを1~20質量%含有する、1.~3.の
いずれかに記載のポリマー組成物。
5.1.~4.のいずれかに記載されたポリマー組成物の成形品。
6.成形品がシート又はフィルムである5.に記載の成形品。
7.(1)小麦ふすまを硫酸加水分解処理して小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを調製する工程、
(2)小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルとポリマーとを混合する工程、及び、
(3)得られた混合物を成形する工程、
を含む、5.又は6.に記載の成形品の製造方法。
8.小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを含有する繊維。
9.小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルの平均径が2~100nm、平均長が100~2000nmであり、カルボキシ基が30~2000μmol/gである、8.に記載の繊維。
10.小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルに加え、他のポリマーを含有する、8.又は9.に記載の繊維。
11.他のポリマーが、カニ甲殻からのキチン由来ナノセルロース、ホヤ由来ナノセルロース、綿由来のナノセルロースから選ばれる1種以上である、10.に記載の繊維。
12.他のポリマーが、ポリビニルアルコール又はナイロンから選ばれる1種以上である、10.に記載の繊維。
13.(1)小麦ふすまを硫酸加水分解処理して小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを調製する工程、
(2)小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを溶媒に分散する工程、及び、
(3)得られた混合物を紡糸する工程、
を含む、
8.~12.のいずれかに記載の繊維の製造方法。
14.小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを溶媒に分散して、紡糸ドープを調製する工程、及び
得られた紡糸ドープから繊維を成形する工程、
を含み、紡糸ドープは小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを1~10質量%含有する、13.に記載の製造方法。
15.小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルとポリマーとを溶媒に分散、混合して、紡糸ドープを調製する工程、及び
得られた紡糸ドープから繊維を成形する工程、
を含み、紡糸ドープは小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを1~10質量%含有する、14.に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明における小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを含有するポリマー組成物からは、簡単な方法によりナノコンポジットを製造することができ、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルをフィラーとして含有することから軽量で安全であることに加え、強度や透明度に優れた様々な成形品を得ることができる。例えば、本発明における小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを含有するポリマー組成物からは、強度に優れた透明性の高いフィルム、シート及び繊維を製造することができる。
【0014】
また、本発明において、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを含有する紡糸ドープから公知の紡糸方法によって製造される繊維は、軽量で、しなやかであり、しかも強度や透明度に優れているので、軽く強靭で染色性に優れた繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】小麦ふすま由来セルロースナノクリスタル含有PVAナノコンポジットフィルム(セルロースナノクリスタル含有率5%)の外観。
図2】種々のナノセルロース含有PVAナノコンポジットフィルムの光透過率(厚み50μmに換算)、(WBMは小麦ふすま由来、Cottonは綿由来)
図3】小麦ふすま由来セルロースナノクリスタル繊維の外観(左)および光学顕微鏡写真(右)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを含有するポリマー組成物及び繊維の製造方法について、説明する。
【0017】
(セルロースナノクリスタル)
セルロース系原料を物理的及び/又は化学的に解繊することによって得られるセルロースミクロフィブリルがナノセルロースであり、セルロースナノファイバーやセルロースナノクリスタルなどと呼ばれる。
セルロースナノファイバーは、一般に、機械的解繊法等で製造され、平均径4~100nm、平均長5μm以上で、高アスペクト比を持つ。
セルロースナノクリスタルは、セルロースナノウィスカーとも呼ばれ、一般に、酸加水分解法で製造される、平均径3~50nm、平均長100~500nm程度の針又はひげ状の結晶である。
セルロースナノクリスタルを製造する酸加水分解法では、硫酸を使用して加水分解を行う方法が、特に好ましいとされている。
【0018】
(小麦ふすま)
小麦ふすま(wheat bran)は、小麦種子の皮部である。小麦ふすまは、一般に、小麦粉の製粉過程で、小麦種子の胚乳部や胚芽部から分離されることによって製造される。しかし、通常の製粉過程で、皮部と胚乳部や胚芽部とを完全に分離することは困難であるため、通常流通する小麦ふすまは、胚乳部や胚芽部を含んでいることがある。また、小麦ふすまには、製粉過程で生じたままのものと、そこから油脂を除去した脱脂ふすまがある。本発明で使用される小麦ふすまは、小麦種子から分離された皮部であればよいが、上述した通常流通する小麦ふすまや、脱脂ふすまであってもよい。小麦ふすまは、製粉会社等から種々な種類が市販されており、本発明においてはこれら市販の小麦ふすまを利用することができる。
【0019】
(小麦ふすま由来セルロースナノクリスタル)
本発明で用いる小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルは、上述の原料小麦ふすまを、精製して得られたセルロースを用いて、これを酸加水分解処理することにより調製することができる。
【0020】
原料小麦ふすまから精製セルロースを得るための処理としては。脱脂処理及び/又は脱リグニン処理及び/又は脱タンパク処理がある。
【0021】
脱脂処理においては、原料小麦ふすまを溶媒と混合し、必要に応じて混合液を撹拌しながら、原料小麦ふすまと溶媒とを接触させる。溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、クロロホルム等が挙げられる。溶媒と接触させた後、風乾して脱脂ふすまを得る。
【0022】
脱脂された小麦ふすまは、好ましくは、次いで、脱リグニン(漂白)処理される。
漂白処理では、脱脂小麦ふすまに漂白用溶液を加えて加熱還流する。漂白用溶液の種類は特に限定されないが、例えば、水、水酸化ナトリウム、酢酸、亜塩素酸ナトリウムの混合液等が挙げられる。漂白用溶液中で加熱還流処理した後に、遠心分離と水洗を繰り返して洗浄し、漂白小麦ふすまを得る。
【0023】
次いで、脱タンパク処理を行うことが、さらに好ましい。
脱タンパク処理では、漂白小麦ふすまとアルカリ溶液とを接触させる。アルカリ溶液の種類は特に限定されないが、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化バリウム等の水溶液が挙げられる。アルカリ溶液との接触処理後に、遠心分離と水洗を繰り返して洗浄し、脱タンパク小麦ふすま(精製小麦ふすま)を得る。
脱リグニン処理及び脱タンパク処理は、試料が純白になるまで繰り返して行うのが、最も好ましい。
【0024】
精製小麦ふすまは、次いで酸加水分解処理を行う。酸加水分解処理では、精製小麦ふすまに酸溶液を加えて、加熱しながら撹拌する。酸溶液の種類は特に限定されないが、例えば、硫酸、塩酸、臭化水素酸等の水溶液が挙げられる。加熱撹拌処理後に遠心分離と水洗を繰り返して洗浄し、白濁した上澄みが得られたら、これを回収して、透析して中性にして、セルロースナノクリスタルを得る。
【0025】
本発明で使用する小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルとしては、平均径が2~100nm、平均長100~2000nm、表面官能基のカルボキシ基含量30~2000μmol/gのものを用いることが好ましい。
【0026】
(ポリマー)
本発明のポリマー組成物の製造に用いるポリマーとしては、特に限定されず、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のいずれも使用することができる。ポリマーは1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、熱可塑性樹脂が特に好ましい。
本発明で使用する熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリアミド樹脂等、及びこれらと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。このうち、ポリビニルアルコール系樹脂は、特に好ましい。
【0027】
本発明のポリマー組成物は、上述した小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルとポリマーとを混合することによって製造できる。次いで、得られた混合物を成形することによって様々な成形品を製造することができる。本発明のポリマー組成物の製造において、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルとポリマーとの混合及び混合物の成形の手順は、ふすま由来ナノセルロースとポリマーとの均一な混合物の成形物を得ることができる手順であれば、特に限定されず、キャスト成形、押出成形、射出成形、ブロー成形等や繊維製造のための紡糸等、ポリマーの成形に使用されている公知の手段を、目的とする成形品の形状、大きさ等に応じて、適宜に採用することができる。
【0028】
本発明による小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルとポリマーとの混合及び混合物の成形の手順の好ましい例としては、ポリマーを加熱溶融し、これに上述した小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを、水、メタノール、エタノール、アセトン等の媒体に分散させた分散液を添加、混合し、得られた混合物を、乾燥させて分散液の液分を除去し、次いで成形する工程が挙げられる。
【0029】
本発明のポリマー組成物における小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルとポリマーの配合割合(乾燥物換算)は、可塑性及び強度の観点から、ポリマー組成物の固形分(樹脂+ナノセルロース)中、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルの配合量が好ましくは1~20質量%、より好ましくは1~15質量%、さらに好ましくは1~10質量%である。
【0030】
本発明のポリマー組成物は、上述した小麦ふすま由来セルロースナノクリスタル及びポリマーに加えて、通常のポリマー組成物に用いられる他の添加物を含有していてもよい。
【0031】
当該他の添加物としては、シリカ粉末、アルミナ粉末、ガラス粉末、ガラス繊維、ガラスフレーク、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、水和アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化チタン、酸化亜鉛、炭化タングステン、酸化マグネシウム等の無機フィラー;炭素繊維、アラミド繊維、紙粉、セルロース繊維、セルロース粉、籾殻粉、果実殻・ナッツ粉、キチン粉、澱粉等の有機フィラー;相溶化剤;界面活性剤;安定剤;紫外線吸収剤;難燃剤;帯電防止剤;消泡剤;離型剤;酸化防止剤;可塑剤;染料;熱硬化性樹脂などが挙げられる。当該他の添加物は、上述した小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルとポリマーとの混合の際に添加してもよく、又は混合の前に、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルとポリマーのいずれかに添加してもよい。
【0032】
(繊維)
本発明の小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを含有する繊維は、上述した小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを溶媒中で混合して得られた、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルが均一に分散された懸濁液を紡糸溶液(ドープ)として、これをノズル等を通して凝固浴中に押し出すなどして紡糸ゲル状原糸を成形し、乾燥することによって製造することができる。
紡糸溶液中の小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルの含量は、1~10質量%が好ましい。
【0033】
紡糸溶液の溶媒としては、ポリマーを溶解し、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを十分に分散させることが容易な物であれば特に限定されず、例えば、水、ジメチルスルホキシド或いは水とジメチルスルホキシドの混合物等のこれらの混合溶媒が挙げられる。このうち、水を用いることが好ましい。
【0034】
また、溶媒中にさらに他のポリマー、例えばポリビニルアルコール、ナイロン6、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエステルや、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタル以外のナノクリスタル、例えば、カニ甲殻由来キチンナノクリスタル、ホヤ由来セルロースナノクリスタル、綿由来セルロースナノクリスタル等の由来の異なるナノクリスタルを併用することにより、多様なナノコンポジット繊維にすることができる。
【0035】
例えば、他のポリマーとしてポリビニルアルコールを使用した繊維は、特許文献8(特開2011-208293号公報)に記載された方法に準じて、特許文献8のセルロースナノファイバーに代えて、上述した小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを使用することにより製造することができる。
【0036】
紡糸工程はゲル紡糸法により行うことができる。紡糸溶液をゾルからゲルへ転移させるゲル紡糸法としては、紡糸溶液をノズルからメタノール等の溶媒の入った凝固浴に押し出す湿式の押出ゲル紡糸、冷却気体の吹きつけによる乾式のゲル紡糸等のいずれも採用することができるが、押出ゲル紡糸が好ましい。
湿式の押出ゲル紡糸の際の凝固浴としては、特に限定されるものではないが、例えば、水とメタノールの混合液を挙げることができるが、例えば、0.1%CaCl2を含む70%メタノール水溶液は、特に好ましい凝固浴として使用できる。
【0037】
紡糸後には、脱溶媒・乾燥工程を行うが、紡糸ゲル状原糸を有機溶媒中に浸漬して脱溶媒し、風乾あるいは減圧乾燥する。なお、脱溶媒工程を省略して、そのまま風乾あるいは
減圧乾燥することもできる。
【実施例0038】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
(小麦ふすまからのセルロースナノクリスタルの調製)
(脱脂)
エタノール/ベンゼン混合液(2:1、1.5L)を用い、小麦ふすま(ウィートブランM、日清ファルマ製)100gを一晩ソックスレー抽出した後、風乾して脱脂ふすまを得た。
(脱リグニン)
脱脂ふすま50gに漂白用溶液(水500mL、NaOH6.75g、酢酸18.75mL、亜塩素酸ナトリウム4.25g)を加え、80℃で7時間加熱還流して漂白した。漂白後の固体は遠心分離を用いて繰り返し水洗して、湿潤状態の固体を得た。
(脱タンパク)
脱リグニン処理を行った試料50gを5%KOH水溶液(1L)中で一晩撹拌した。撹拌処理後、遠心分離を用いて5%KOHで、引き続いて、水で繰り返し洗浄した。
脱タンパク処理の後、試料を純白にするため、さらに脱リグニン処理を行い、精製小麦ふすまを得た。
【0040】
(酸加水分解による小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルの調製)
精製小麦ふすま2gに65%硫酸(60mL)を加え、均一に撹拌した後に、70℃のウォーターバス中で10分間撹拌した。反応終了後は水で3倍に希釈し、遠心分離を用いて繰り返し水洗した。白濁した上澄みが得られたら回収し、透析して中性にして、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルの水懸濁液を得た。
【0041】
(伝導度滴定による表面官能基量の定量)
伝導度計(Seven Go Duo-SG78、電導度電極InLab 751-4mm、メトラー・トレド)を用い、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタル150mgを含む水懸濁液を、0.01MのNaOH水溶液を用いて滴定し、伝導度の変化を追跡した。第一屈曲点までのNaOH量は強酸性基(硫酸エステル基)、第一屈曲点~第二屈曲点の間のNaOH量は弱酸性基(カルボキシ基)に対応するとして、セルロースナノクリスタルの表面官能基の量に換算した。
【0042】
上記の伝導度滴定により求めた表面官能基の量を表1に示す。比較のため、ほぼ同じ条件で綿および木材パルプを酸加水分解して得られたセルロースナノクリスタルの官能基量も併記した。
【0043】
【表1】
【0044】
表1から、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルは、表面に存在するカルボキシ基の量が、木材パルプ由来のものや綿由来のものに比べて極めて多量である(木材パルプ由来の12.3倍、綿由来ではほとんどカルボキシ基が存在しない)ことがわかる。また、硫酸加水分解により導入される硫酸エステル基の量も、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルは、木材パルプ由来のものや綿由来のものに比べ多い(木材パルプ由来の4.4倍、綿由来の2.6倍)。
【0045】
(粒子形態観察)
透過型電子顕微鏡(TEM、FEM-2100、JOEL)を用いて、加圧電圧80kV、無染色にて小麦ふすま由来セルロースナノクリスタル粒子の形態を観察し、平均径、平均長を計測したところ、平均径27.5±3.5nm、平均長300~1000nm程度であった。
【0046】
(実施例2)
(ナノコンポジットフィルムの調製)
ポリビニルアルコール系樹脂(PVA)は、けん化度98%、重合度1800の試料を和光純薬株式会社より購入した。PVAの10wt%水溶液(PVAを加熱した脱イオン水に溶解して調製)及び小麦ふすま由来セルロースナノクリスタル2wt%懸濁液を調製し、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタル/(PVA+小麦ふすま由来セルロースナノクリスタル)の比が2.5%、5%および10%となるように混合した。
混合液をテフロンシャーレにキャストし、五酸化二リンをいれたデシケータ内で固化するまで乾燥して、ナノコンポジットフィルムを得た。比較対照として表面をTEMPO酸化し、カルボキシ基を導入した綿由来ナノセルロースを用いた。
以下の物性測定には、フィルムを幅5((長さ40mmの短冊型試験片に切り出して用いた。
【0047】
(引張試験)
力学物性は引張試験機(EZ-S、島津製作所)を用い、ロードセル50N、つかみ間距離20mm、引張速度4mm/minで行ってヤング率および破断強度の値を得た。
【0048】
(透明度)
フィルムの透明度は、紫外-可視光吸光光度計(UV-2700、島津製作所)を用いてフィルムを直接測定し、Lambert-Beerの法則が成り立つとして厚み50μmのフィルムの透過率に換算した。
【0049】
(結果)
得られた小麦ふすま由来セルロースナノクリスタル含有フィルムの外観を図1に示す。極めて透明度の高いフィルムが得られた。同じナノセルロース含有率の綿由来ナノセルロース含有フィルムよりも、目視において透明度が高かった。
【0050】
紫外可視光の透過率の測定結果を図2に示す。ここでもやはり、本発明の小麦ふすま由来セルロースナノクリスタル含有フィルムの透明度が高いことが、明確に示された。小麦ふすま由来セルロースナノクリスタル含有フィルム同士の相対的な比較では、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタル含有率5%のフィルムの透明度が最も低く、含有率2.5%および10%のフィルムはより透明度が高いという結果が得られた。
【0051】
フィルムの力学物性を表2に示す。含量2.5%では、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタル含有フィルム(WBM)と綿由来セルロースナノクリスタル含有フィルム(Cotton)で、フィルムのヤング率に差はみられないが、5%以上では小麦ふすま由来セルロー
スナノクリスタル含有フィルムのほうが大きく上回る。破断強度は、含量2.5%の場合、製品のバラツキが大きい傾向はあったが、どの混合比においても小麦ふすま由来セルロースナノクリスタル含有フィルムが綿由来セルロースナノクリスタル含有フィルムを上回る。
以上のことから、小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを補強フィラーとして用いることで、綿由来セルロースナノクリスタルよりも力学物性が高く透明度も高いナノコンポジットフィルムを調製することができる。
【0052】
【表2】
【0053】
(実施例3)
(湿式紡糸)
ナノセルロースを湿式紡糸することで、100%結晶から構成される繊維を調製した。
上記で調製したふすま由来ナノセルロースの水懸濁液を浸透圧濃縮法(水懸濁液を透析チューブに封じたのち、ポリエチレングリコール20000の10%水溶液に浸し、浸透圧によって水分のみをチューブ外に追い出し、濃縮する手法)により約10%程度まで濃縮したのちに脱イオン水で4.1%まで希釈し、紡糸溶液(ドープ)とした。このドープをシリンジに封じ、23Gのニードルを通じて凝固浴(0.1%CaCl2を含む70%メタノール)中に射出速度0.10mL/minで射出した。ゲル状繊維を引き上げて回収後、風乾し、繊維を得た。比較対照として、綿由来ナノセルロース繊維(ドープ濃度13%)およびホヤ由来ナノセルロース繊維(ドープ濃度8%)を調製した。
【0054】
湿式紡糸により得られた繊維を風乾すると図3に示すような軽量で、しなやかで、透明な繊維が得られた。
【0055】
調製した繊維の光学顕微鏡観察、引張試験を行い、ヤング率、破断強度を測定した。本発明の小麦由来を含め、各種ナノセルロース源から調製した繊維のヤング率および破断強度を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
ふすま由来ナノセルロース繊維は、綿繊維と比較してドープ濃度が低いにもかかわらず、高結晶性セルロースとして知られる綿繊維に匹敵する、あるいは超える力学物性を示した(綿繊維の物性値は種々の紡糸条件の中で最も高い力学物性値を引用しており、典型的な値はドープ濃度10~13%においてヤング率5~10GPa、破断強度30~50MPa程度である)。天然セルロースのうち最も高い結晶化度を示すホヤ由来ナノセルロース繊維の値とも比較しうる値を示しており、ホヤ由来ナノセルロースのドープが8wt%必要な点を考慮に入れると、より低いドープ濃度で高い力学物性値を示すので、より軽量な繊維とすることができる。
【0058】
(引張試験)
力学物性は引張試験機(EZ-S、島津製作所)を用い、ロードセル5N、つかみ間距離20mm、ひずみ速度2mm/minで行ってヤング率および破断強度の値を得た。
【0059】
また、特許文献8の実施例1~5に記載された方法において、綿(コットン)由来のセルロースナノクリスタルに代えて、本発明の小麦ふすま由来セルロースナノクリスタルを使用することにより、強度及び弾性率に優れ、しかも繊維の透明度が高いことによって優れた染色性を示すナノコンポジット繊維を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のポリマー組成物は、上に示したキャスト成形によるシートやフィルム以外にも、ポリマーの成形に使用されている射出成形やブロー成形等の公知の成形手段を適用することができるので、上に示したシートやフィルムだけでなく、電化製品、通信機器、印刷機器、複写機等の筐体や自動車・船舶等の部品などの様々な成形品として、広範な分野で利用することが期待できる。
また、本発明の繊維は、国内でも容易に、かつ大量に入手できる小麦ふすまを原料として、軽量かつしなやかで、綿由来のナノセルロースを使用した繊維と同等以上の強度に優れた性能を示す上、透明度に優れているため染色性が良く、繊維材料として、衣料品やインテリアなどの家庭用だけでなく、様々な産業分野における用途にも利用することが期待できる。
図1
図2
図3