(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152010
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】アクリル樹脂エマルジョンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 2/24 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
C08F2/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054607
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】蓑 基史
【テーマコード(参考)】
4J011
【Fターム(参考)】
4J011AA05
4J011DA01
4J011KA02
4J011KA04
4J011KA05
4J011KA12
4J011KA15
4J011KA21
4J011KA23
4J011KA25
4J011NA13
4J011NA20
4J011NA26
4J011SA76
4J011SA79
4J011XA03
(57)【要約】
【課題】重合工程での界面活性剤の減量や、加工時での消泡剤の増量をすることがなくても、優れた消泡性を有するアクリル樹脂エマルジョンが得られる製造方法を提供する。
【解決手段】アルキル(メタ)アクリレートを含む重合性モノマーを界面活性剤の存在下で乳化重合させる方法であり、界面活性剤がアニオン界面活性剤及び曇点が45℃以下のノニオン界面活性剤を含み、アニオン界面活性剤のモノマー100重量部に対する配合比率が4重量部以下であり、ノニオン界面活性剤の配合比率が0.8重量部以上であることを特徴とするアクリル樹脂エマルジョンの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル(メタ)アクリレート(a1)を含む重合性モノマー(A)を界面活性剤(B)の存在下で乳化重合させる方法であり、前記(B)がアニオン界面活性剤(b1)及び曇点が45℃以下のノニオン界面活性剤(b2)を含み、前記(b1)のモノマー100重量部に対する配合比率が4重量部以下であり、(b2)の配合比率が0.8重量部以上であることを特徴とするアクリル樹脂エマルジョンの製造方法。
【請求項2】
前記(B)の配合量がモノマー100重量部に対し3~6重量部であることを特徴とする請求項1記載のアクリル樹脂エマルジョンの製造方法。
【請求項3】
前記(b1)がポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウムであることを特徴とする請求項1又は2いずれか記載のアクリル樹脂エマルジョンの製造方法。
【請求項4】
前記(b2)が少なくともポリオキシアルキレンアルキルエーテル分岐ドデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなる群から選択される1種であることを特徴とする請求項1~3いずれか記載のアクリル樹脂エマルジョンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は良好な消泡性を有するアクリル樹脂エマルジョンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂系のエマルジョンは、コーティング剤、セメントやモルタルの混和剤、繊維や塗料のバインダー、粘着剤や接着剤等の多くの分野で幅広く使用されている。このアクリル樹脂エマルジョンを得る手段としては、モノマーをアニオン性やノニオン性の界面活性剤の存在下で重合する方法が知られているが、最終製品の段階では、製造過程で使用した界面活性剤を含んでいるのが一般的である。
【0003】
こうしたアクリル樹脂エマルジョンを基材に塗布する際には、一般的にロールコーターやナイフコーター等の塗布機を用いるが、これら塗布機は塗工液の状態を均一に保ち、塗布条件を安定化させるため、塗工液を循環させることが多い。その場合、塗工液に含まれる界面活性剤の影響もあり発泡することが多く、この塗工加工時の発泡で泡噛みが発生し、トラブルとなりやすかった。塗工工程における塗工液の発泡は、消泡剤の添加によりある程度抑えることが可能であるが、この消泡剤に起因して、ハジキや密着性等の新たな不具合を起こす場合があった。また、製造段階の界面活性剤を減量する事でも発泡を抑えることは可能であるが、生産時や製品の安定性を低下させ、浸透圧の低下や表面張力の上昇により、加工時に別の不具合を起こす場合があった。
【0004】
こうした問題に対応するため、起泡性の高い液体組成物であっても、実質的に同じ組成を維持しつつ、有効に消泡できる方法や消泡装置が提案されている(特許文献1)。しかしながら、この様な特殊な塗工装置を採用するには設備投資が必要であり、また様々な制約条件があるため、既存の塗工装置を使用しても発泡しにくく、泡噛みトラブルが発生しにくいアクリル樹脂系エマルジョンが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、重合工程での界面活性剤の減量や、加工時での消泡剤の増量をすることがなくても、優れた消泡性を有するアクリル樹脂エマルジョンが得られる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため請求項1の発明は、アルキル(メタ)アクリレート(a1)を含む重合性モノマー(A)を界面活性剤(B)の存在下で乳化重合させる方法であり、前記(B)がアニオン界面活性剤(b1)及び曇点が45℃以下のノニオン界面活性剤(b2)を含み、前記(b1)のモノマー100重量部に対する配合比率が4重量部以下であり、(b2)の配合比率が0.8重量部以上であることを特徴とするアクリル樹脂エマルジョンの製造方法を提供する。
【0008】
請求項2の発明は、前記(B)の配合量がモノマー100重量部に対し3~6重量部であることを特徴とする請求項1記載のアクリル樹脂エマルジョンの製造方法を提供する。
【0009】
請求項3の発明は、前記(b1)がポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウムであることを特徴とする請求項1又は2いずれか記載のアクリル樹脂エマルジョンの製造方法を提供する。
【0010】
請求項4の発明は、前記(b2)が少なくともポリオキシアルキレンアルキルエーテル分岐ドデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなる群から選択される1種であることを特徴とする請求項1~3いずれか記載のアクリル樹脂エマルジョンの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の重合方法は、重合工程での界面活性剤の減量や、加工時での消泡剤の増量をすることがなくても、優れた消泡性を得ることができるため、発泡が少ないアクリル系樹脂エマルジョンの製造方法として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の重合方法は、アルキル(メタ)アクリレート(a1)を含む重合性モノマー(A)を、アニオン界面活性剤(b1)及び、ノニオン界面活性剤(b2)の存在下で乳化重合させる方法である。なお、本明細書において(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートとの双方を包含する。
【0013】
本発明で使用するアルキル(メタ)アクリレート(a1)は、アクリル樹脂エマルジョンを構成する主要モノマーであり、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート(以下EA)、n-ブチルアクリレート(以下BA)、イソブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、イソノニルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、メチルメタクリレート(以下MMA)、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等が挙げられ、単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
本発明で使用する前記(a1)を除く重合性モノマー(A)としては、例えばアクリル酸(以下AA)、メタクリル酸、クロトン酸、シトラコン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有モノマー(a2)や、N,N‐ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N‐ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマーや、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシメタクリレート等の水酸基含有モノマーや、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等の芳香族ビニル系モノマーや、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の飽和脂肪酸ビニル系モノマーや、アクロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系モノマーや、エチレン、プロピレン、ブタジエンなどのオレフィン系モノマーや、無水マレイン酸等のエチレン系カルボン酸無水物や、モノブチルマレイン酸などのエチレン系ジカルボン酸のモノアルキルエステル及びこれらのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩などのエチレン系カルボン酸塩類や、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレートなどのエチレン系カルボン酸とアミノ基を有するアルコールとのエステル類等が挙げられ、単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では重合及び貯蔵時の安定性の点でカルボキシル基含有モノマー(a2)を含むことが好ましい。また、必要に応じてさらにジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジアリルフタレートなどの多官能モノマーを用いることができる。
【0015】
前記(a1)を含む(A)の重合体硬化物のガラス転移温度(以下Tg)は80~-60℃が好ましく、50~-50℃が更に好ましく、40~-20℃が特に好ましい。この範囲とすることで十分な消泡性を確保できる。なおTgは単量体ホモポリマーのTgと組成比から下記FOX式を用いて算出することができ、単量体の選定とその組成比率によりコントロールすることができる。
1/Tg=Σ(Wn/Tgn)/100
(Wnは単量体nの質量%、Tgnは単量体nのホモポリマーのTg(K:絶対温度))
【0016】
上記(A)は任意で選択可能であるが、製品粘度及び安定性の点で(A)全量に対する(a1)の配合比率は50%以上が好ましく、70%以上が更に好ましい。具体的には(a1)としてMMA、BA、及びEAを、(a2)としてAAを例示することができる。また配合量としてもTgを勘案して任意選定できるが、例えばMMAは単量体全体100重量部に対して0~70重量部、BAは0~90重量部、EAは3~80重量部、AAは1~10重量部等を例示できる。
【0017】
本発明で使用するアニオン界面活性剤(b1)は、水に溶けたとき疎水基のついている部分がマイナスイオンに電離する、乳化・分散性に優れる界面活性剤であり、硫酸エステル型、リン酸エステル型、カルボン酸型、スルホン酸型等がある。これらの中では重合時の安定性の観点で硫酸エステル型が好ましく、例えばポリオキシスチレン化フェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩が挙げられ、特にポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウムが好ましい。
【0018】
前記(b1)の配合比率はモノマー100重量部に対して4重量部以下であり、3.8重量部以下が好ましく、3.5重量部以下が更に好ましい。4重量部超では消泡性が十分でなく不可である。下限は1.5重量部以上が好ましく、1.8重量部以上が更に好ましく、2.0重量部以上が特に好ましい。1.5重量部以上とすることで安定した乳化重合反応が可能となる。
【0019】
本発明で使用するノニオン界面活性剤(b2)は、水に溶けたときイオン化しない親水基を有し、泡立ちが少ない、乳化・可溶化力に優れる界面活性剤である。曇点は45℃以下であり、43℃以下が好ましく、40℃以下が更に好ましい。曇点が45℃超の場合は、十分な消泡性を確保できないため、単独で使用することは不可である。
【0020】
前記(b2)の曇点とは、水に溶かした状態で加温した時に、ポリエーテル鎖と水との水素結合が切れ、水溶解性が急激に下がることによりミセルの形成ができなくなり、相分離して透明から不透明に変わる温度を言い、本発明での曇点は1%水溶液における測定値とする。
【0021】
前記(b2)で曇点を有するタイプとしては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型、ポリオキシエチレン誘導体型があり、これらの中では重合時の安定性の観点でポリオキシアルキレンアルキルエーテル型が好ましい。例えばポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等が挙げられる。
【0022】
前記(b2)の配合比率はモノマー100重量部に対して0.8重量部以上であり、1.0重量部以上が好ましく、1.1重量部以上が更に好ましい。0.8重量部以下では消泡性が十分でなく、重合安定性も十分ではないため不可である。上限は4.0重量部以下が好ましく、3.0重量部以下が更に好ましく、2.5重量部以下が特に好ましい。4.0重量部以下とすることで十分な消泡性を確保することが可能となる。また(b2)に加えて、更に曇点が45℃超のノニオン界面活性剤を用いても良い。但し重合時の乳化剤として添加する界面活性剤の総量としては、下記配合量以内であることが好ましい。
【0023】
本発明で使用する界面活性剤(B)の配合量は、乳化重合するモノマー100重量部に対し3~6重量部が好ましく、3.2~5.8重量部が更に好ましく、3.4~5.7重量部が特に好ましい。3.0重量部以上とすることで安定化した乳化状態とすることが可能となり、6.0重量部以下とすることで十分な消泡性を確保することができる。
【0024】
気泡による不具合を低減するためには、泡を発生させにくくし、且つ発生した泡を不安定化させることが必要である。前記(b1)と(b2)を乳化重合時に併用することにより、発泡性を低減できる理由は明らかではないが、イオン性の活性剤と比較して水和性が低い(b2)が元々低発泡性であることに加え、曇点が50℃以下である(b2)がある一定量存在することにより、後添加した消泡剤が泡膜面へより拡張しやすくなり、破泡性が向上するためと考えられる。
【0025】
前記(b1)と(b2)の配合比率は重量比で、(b1):(b2)=1:0.3~1:2が好ましく、1:0.4~1:1.5が好ましく、1:0.4~1:1.3が更に好ましい。この範囲内とすることで、安定した乳化重合と十分な消泡性をバランスよく実現化することができる。
【0026】
本発明の乳化重合を行う際、重合開始剤として過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩類、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系開始剤、過酸化水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどの過酸化物系開始剤、またはこれらの混合物を用いることができる。重合開始剤の使用量は、重合性単量体全量に対して通常は0.1~5重量部、好ましくは0.1~2重量部である。
【0027】
更に還元剤の存在下で重合開始剤を用いることにより、レドックス系を形成することができる。そのような還元剤としては亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩などのアルカリ金属塩やアンモニウム塩、L-アスコルビン酸、酒石酸などのカルボン酸類、二酸化チオ尿素等が挙げられる。還元剤の使用量は重合性単量体全量に対して0.1~5重量部、好ましくは0.1~2重量部である。
【0028】
本発明の乳化重合は、例えば還流冷却管、温度計、攪拌機、モノマー滴下孔などを備えた反応容器に水と一部の乳化剤を添加して60℃以上に昇温し、残りの乳化剤、水および単量体を配合・攪拌して予め乳化した乳化液と、重合開始剤の水溶液とを攪拌しつつ滴下して進行させることができる。
【0029】
重合温度は一定であってもよいし、重合途中でもしくは各段階によって変化させてもよい。重合時間についても、特に限定はなく、反応の進行状況に応じて適宜設定すればよいが、例えば、重合開始から終了まで4~16時間が例示できる。重合時の雰囲気については、重合開始剤の効率を高めるため窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが一般的である。
【0030】
アクリル樹脂エマルジョンの平均粒子径は30~300nmであることが好ましく、50~250nmであることが更に好ましい。30nm以上とすることで十分な粒子安定性を確保でき、300nm以下とすることで沈降のない安定性なエマルジョン粒子を確保できる。
【0031】
アクリル樹脂エマルジョンの粘度は5~100mPa・sが好ましく、10~50mPa・sが更に好ましい。5mPa・s以上とすることで十分な粒子安定性を確保することができ、100mPa・s以下とすることで十分な消泡性を確保することができる。
【0032】
本発明のアクリル樹脂エマルジョンには、性能を損なわない範囲で必要により消泡剤、可塑剤、造膜助剤、防腐剤、防黴剤、濡れ性向上剤、レベリング剤、沈降防止剤、抗ウイルス剤、抗菌剤、着色顔料、無機フィラー、有機微粒子などを添加してもよい。
【0033】
前記消泡剤は塗工などの加工時における泡立ち防止を目的に配合し、本発明の重合方法により製造したアクリル樹脂エマルジョンへ添加することにより、効果的に発泡を抑えることができる。例えばシリコーン系、ポリエーテル系、鉱物油系等が挙げられる。配合量は種類により異なるが、例えばシリコーン系であれば、エマルジョン組成物全量に対し0.01~1.0重量%が好ましく、0.05~0.5重量%が更に好ましく、0.1~0.3重量%が特に好ましい。この範囲とすることで、ハジキ現象や密着不良などの不具合を起こさず、効果的に消泡効果を得ることができる。
【0034】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げて詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。なお表記が無い場合は、室温は25℃相対湿度65%の条件下で測定を行った。
【0035】
実施例1
(a1)としてMMA13.7重量部及びEA28.9部を、(a2)としてAA1.3部を、(b1)としてハイテノールLA-12(商品名:第一工業製薬社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム)1部を、(b2)としてノイゲンET-116C(商品名:第一工業製薬社製、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、曇点37℃)0.5部を、そして脱イオン水17重量部からなる混合液をディスパーで攪拌し、乳化モノマー液を調製した。
次に冷却管、温度計、窒素ライン、ステンレス製撹拌羽根をそなえた反応容器に脱イオン水27重量部を仕込み、60℃に加熱して窒素置換後に上記乳化モノマー液から1.25部(2wt%)を加え、液温を60℃とし10分保持した。
次に、脱イオン水7部で希釈された過硫酸アンモニウム0.1部及び重亜硫酸ソーダ0.1部の開始剤を加え、反応熱に伴う液温上昇のピークを確認した後、30分間液温65℃を保持してシード重合を実施した。
その後反応温度を65℃に保持したまま、乳化モノマー液の残り61.15部を4時間かけて滴下すると同時に、上記開始剤の残りを4.5時間かけて滴下し、滴下終了後に脱イオン水2部で希釈されたt-ブチルハイドロパーオキサイド0.05部及び二酸化チオ尿素0.03部を加え、65℃で1.5時間保持した。
その後40℃以下まで冷却し、アンモニア水(12.5%)を0.5部加えてpHを7.5に上げた後、スラオフBZ(商品名:大阪ガス化学社製、ハロゲン化窒素硫黄系防腐剤)を0.02部、SNデフォーマー(商品名:サンノプコ社製、シリコーン系消泡剤)加えることで、実施例1のアクリル樹脂エマルジョンを得た。
【0036】
実施例2~8
実施例1で用いた原材料の他、(a1)としてBA、(b2)としてノイゲンXL-70(商品名:第一工業製薬社製、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル分岐ドデシルエーテル、曇点40℃)及びノイゲンTDX-50(商品名:第一工業製薬社製、ポリオキシエチレンアルキレントリデシルエーテル、曇点37℃)及びノイゲンET-115(商品名:第一工業製薬社製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、曇点34℃)を用い、配合割合を表1記載に変更した以外は実施例1と同様に行い、実施例2~8の各アクリル樹脂エマルジョンを得た。
【0037】
比較例1~9
実施例で用いた原材料の他、反応性界面活性剤タイプの(b1)としてアクアロンBC-10(商品名:第一工業製薬社製、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩)及びアクアロンKH-10(商品名:第一工業製薬社製、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキル硫酸エステルアンモニウム塩)を、ノニオン系界面活性剤としてノイゲンXL-400D(商品名:第一工業製薬社製、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル分岐ドデシルエーテル、曇点80℃以上)及びXL-100(商品名:第一工業製薬社製、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル分岐ドデシルエーテル、曇点79℃)を用い、配合割合を表2記載に変更した以外は実施例1と同様に行い、比較例1~8の各アクリル樹脂エマルジョンを得た。比較例9は重合できずアクリル樹脂エマルジョンは得られなかった。
【0038】
【0039】
【0040】
評価方法は以下の通りとした。
【0041】
理論Tg:下記FOX式に従い算出した。なおホモポリマーのTgはMMAを105℃
、EAを-22℃、BAを-55℃、AAを90℃とした。
1/Tg=Σ(Wn/Tgn)/100
(Wnは単量体nの質量%、Tgnは単量体nのホモポリマーのTg(K:絶対温度))
【0042】
固形分:110℃において3時間乾燥し重量残分を求めた。
【0043】
粘度:BM型粘度計を用い、ローターNo1、回転数30rpmで測定した。
5~100mPa・sの場合を○、この範囲から外れる場合を×とした。
【0044】
粒子径:大塚電子社製のレーザーゼータ電位計ELSZ-2000を用い、動的光散乱法により測定を行った。測定はイオン交換水にて試料を測定可能な濃度まで希釈して実施した。30~300nmの場合を○、この範囲から外れる場合を×とした。
【0045】
消泡性:容量1Lのセパラブルフラスコに0.5kgのアクリル樹脂エマルジョンを投入し、内径8mm×長さ150cmのホース片側をフラスコ底部に設置し、もう一方をエマルジョン液面から約50mmの高さに設置し、蒸発を避けるため系内を密封した。この状態で流速2.8Kg/hでエマルジョンを循環して発泡させ、30分間後に循環を止めてホースを除去し、密閉状態で静置した。
60分ごとにエマルジョン液面の状態を目視で観察し、気泡による反射光の散乱が無くなるまでの時間が60分以内の場合を◎、120分以内の場合を○、180分以内の場合を△、180分超の場合を×とした。
【0046】
【0047】
【0048】
実施例は粘度,粒子径、消泡性、いずれの試験でも問題はなく良好であった。
【0049】
一方、(b2)を配合していない比較例1、(b2)の配合量が低い比較例2、曇点が45℃超のノニオン界面活性剤を用いた比較例3及び4、(b1)の配合量が多い比較例5及び6、(b1)及び(b2)の代わりに反応性界面活性剤タイプの(b1)だけを用いた比較例7及び8は消泡性が劣り、(b1)を配合していない比較例9は凝集物が多量に発生して重合がうまく進まず、いずれも本願発明に適さないものであった。