(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022152019
(43)【公開日】2022-10-12
(54)【発明の名称】燃料電池システム及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04701 20160101AFI20221004BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20221004BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20221004BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20221004BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20221004BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20221004BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20221004BHJP
【FI】
H01M8/04701
H01M8/04 J
H01M8/0432
H01M8/04537
H01M8/04858
H01M8/04746
H01M8/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021054623
(22)【出願日】2021-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 大貴
(72)【発明者】
【氏名】安藤 章二
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA06
5H127AB04
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA28
5H127BA33
5H127BA58
5H127BA59
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB22
5H127BB34
5H127BB37
5H127CC07
5H127DB47
5H127DB69
5H127DB74
5H127DB91
5H127DC42
5H127DC76
5H127FF12
(57)【要約】
【課題】 ポンプ入口の負圧を抑制すると共に、燃料電池の温度を安定化させることができる燃料電池システム及びその制御方法を提供する。
【解決手段】 車両2に搭載された燃料電池システム1は、燃料電池スタック4と、燃料電池スタックに接続され、冷却媒体が循環する冷媒循環路65と、冷媒循環路に設けられ、冷却媒体を循環させる冷媒循環ポンプ64と、冷媒循環路に調整弁71を介して接続されたリザーブタンク72と、車両の車速を取得する車速センサ83と、燃料電池スタックの温度を取得する温度取得手段75、76と、車両の要求駆動力に応じて燃料電池スタックの発電量を制御すると共に、冷媒循環ポンプを制御する制御装置8とを有し、制御装置は、燃料電池スタックの温度に基づいて冷媒循環ポンプの回転数を上限回転数以下の範囲で設定し、車速が停止判定値以下のときに、車速が停止判定値より高いときよりも上限回転数を低く設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された燃料電池システムであって、
燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックに接続され、冷却媒体が循環する冷媒循環路と、
前記冷媒循環路に設けられ、前記冷却媒体を循環させる冷媒循環ポンプと、
前記冷媒循環路に調整弁を介して接続されたリザーブタンクと、
前記車両の車速を取得する車速センサと、
前記燃料電池スタックの温度を取得する温度取得手段と、
前記車両の要求駆動力に応じて前記燃料電池スタックの発電量を制御すると共に、前記冷媒循環ポンプを制御する制御装置とを有し、
前記制御装置は、前記燃料電池スタックの温度に基づいて前記冷媒循環ポンプの回転数を上限回転数以下の範囲で設定し、前記車速が停止判定値以下のときに、前記車速が前記停止判定値より高いときよりも前記上限回転数を低く設定する燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記燃料電池スタックの温度が所定の温度閾値以上である場合において、前記燃料電池スタックの発電量が所定の発電量閾値以下のときに、前記燃料電池スタックの発電量が前記発電量閾値より大きいときよりも前記上限回転数を低く設定する請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記車速が前記停止判定値以下である場合に、前記車速が前記停止判定値より高いときよりも前記冷媒循環ポンプの回転数の上昇速度上限値を低く設定する請求項1又は請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記燃料電池スタックが発電を停止し、かつ前記燃料電池スタックの温度が所定の低温閾値以下であるときに、前記冷媒循環ポンプを所定の低温時回転数で駆動する低温時制御を実行し、前記低温時制御において、前記冷媒循環ポンプの回転数の上昇速度を、前記車速が前記停止判定値より高いときの前記冷媒循環ポンプの回転数の上昇速度上限値よりも低く設定する請求項1~請求項3のいずれか1つの項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
車両に搭載された燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックに接続され、冷却媒体が循環する冷媒循環路と、
前記冷媒循環路に設けられ、前記冷却媒体を循環させる冷媒循環ポンプと、
前記冷媒循環路に調整弁を介して接続されたリザーブタンクと、
前記車両の車速を取得する車速センサと、
前記燃料電池スタックの温度を取得する温度取得手段と、
前記車両の要求駆動力に応じて前記燃料電池スタックの発電量を制御すると共に、前記冷媒循環ポンプを制御する制御装置とを有する燃料電池システムの制御方法であって、
前記制御装置が、
前記燃料電池スタックの温度に基づいて前記冷媒循環ポンプの回転数を上限回転数以下の範囲で設定し、
前記車速が所定の停止判定値以下のときに、前記車速が前記停止判定値より高いときよりも前記上限回転数を低く設定する燃料電池システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された燃料電池システム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、燃料電池に接続される循環通路と、循環通路内の冷却水を循環させるポンプと、冷却水を放熱させるラジエータと、循環通路に水量調整弁を介して接続されたリザーブタンクとを有する燃料電池システムを開示している。このような燃料電池システムでは、ポンプの吐出量が、リザーブタンクからの供給量を加えた循環水量よりも大きくなると、ポンプの入口圧が低下し、ポンプにおいてキャビテーションが発生したり、ゴムや樹脂等の弾性部材で形成された循環通路が変形して狭窄化したりするといった問題が生じる。特許文献1に係る燃料電池システムは、これらの問題を解決するために、循環通路内の冷却水量の不足状態を予測し、冷却水量が不足すると判定したときに、ポンプの入口側の冷却水圧力と水量調節弁の流入圧力とが等しくなるようにポンプを所定の強制流入回転数で駆動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、燃料電池の温度に基づかずに、ポンプ入口の冷却水の圧力に基づいてポンプの回転数を制御すると燃料電池の冷却能力が過剰になる又は不足する虞がある。また、車両の走行状態によってはポンプを強制流入回転数で駆動する機会が増え、燃料電池の温度が安定しないという問題がある。
【0005】
本発明は、以上の背景を鑑み、ポンプ入口の負圧を抑制すると共に、燃料電池の温度を安定化させることができる燃料電池システム及びその制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、車両(2)に搭載された燃料電池システム(1)であって、燃料電池スタック(4)と、前記燃料電池スタックに接続され、冷却媒体が循環する冷媒循環路(65)と、前記冷媒循環路に設けられ、前記冷却媒体を循環させる冷媒循環ポンプ(64)と、前記冷媒循環路に調整弁(71)を介して接続されたリザーブタンク(72)と、前記車両の車速を取得する車速センサ(83)と、前記燃料電池スタックの温度を取得する温度取得手段(75、76)と、前記車両の要求駆動力に応じて前記燃料電池スタックの発電量を制御すると共に、前記冷媒循環ポンプを制御する制御装置(8)とを有し、前記制御装置は、前記燃料電池スタックの温度に基づいて前記冷媒循環ポンプの回転数を上限回転数以下の範囲で設定し、前記車速が停止判定値以下のときに、前記車速が前記停止判定値より高いときよりも前記上限回転数を低く設定する。
【0007】
この態様によれば、車速が停止判定値以下のときには、ポンプの回転数が抑制され、ポンプの入口側の圧力の低下が抑制される。車速が停止判定値以下のときには、燃料電池の発電量が低下し、温度が低下することが予想される。そのため、ポンプの回転数が抑制されても燃料電池の温度上昇が抑制される。これにより、ポンプ入口の負圧を抑制すると共に、燃料電池の温度を安定化させることができる燃料電池システムを提供することができる。
【0008】
上記の態様において、前記制御装置は、前記燃料電池スタックの温度が所定の温度閾値以上である場合において、前記燃料電池スタックの発電量が所定の発電量閾値以下のときに、前記燃料電池スタックの発電量が前記発電量閾値より大きいときよりも前記上限回転数を低く設定するとよい。
【0009】
この態様によれば、燃料電池の発電量が発電量閾値以下のときには、ポンプの回転数が抑制され、ポンプの入口側の圧力の低下が抑制される。燃料電池の発電量が発電量閾値以下のときには、温度が低下することが予想される。そのため、ポンプの回転数が抑制されても燃料電池の温度上昇が抑制される。
【0010】
上記の態様において、前記制御装置は、前記車速が前記停止判定値以下である場合に、前記車速が前記停止判定値より高いときよりも前記冷媒循環ポンプの回転数の上昇速度上限値を低く設定するとよい。
【0011】
この態様によれば、車速が停止判定値以下のときには、ポンプの回転数の上昇速度が抑制され、ポンプの入口側の圧力の低下が抑制される。車速が停止判定値以下のときには、燃料電池の発電量が低下し、温度が低下することが予想される。そのため、ポンプの回転数の上昇速度が抑制されても燃料電池の温度上昇が抑制される。
【0012】
上記の態様において、前記制御装置は、前記燃料電池スタックが発電を停止し、かつ前記燃料電池スタックの温度が所定の低温閾値以下であるときに、前記冷媒循環ポンプを所定の低温時回転数で駆動する低温時制御を実行し、前記低温時制御において、前記冷媒循環ポンプの回転数の上昇速度を、前記車速が前記停止判定値より高いときの前記冷媒循環ポンプの回転数の上昇速度上限値よりも低く設定するとよい。
【0013】
この態様によれば、燃料電池が発電を停止しているときには、ポンプの回転数の上昇速度が抑制され、ポンプの入口側の圧力の低下が抑制される。燃料電池が発電を停止しているときには、燃料電池の温度が低下することが予想される。そのため、ポンプの回転数の上昇速度が抑制されても燃料電池の温度上昇が抑制される。
【0014】
本発明の他の態様は、車両(2)に搭載された燃料電池スタック(4)と、前記燃料電池スタックに接続され、冷却媒体が循環する冷媒循環路(65)と、前記冷媒循環路に設けられ、前記冷却媒体を循環させる冷媒循環ポンプ(64)と、前記冷媒循環路に調整弁(71)を介して接続されたリザーブタンク(72)と、前記車両の車速を取得する車速センサ(83)と、前記燃料電池スタックの温度を取得する温度取得手段(75、76)と、前記車両の要求駆動力に応じて前記燃料電池スタックの発電量を制御すると共に、前記冷媒循環ポンプを制御する制御装置(8)とを有する燃料電池システム(1)の制御方法であって、前記制御装置が、前記燃料電池スタックの温度に基づいて前記冷媒循環ポンプの回転数を上限回転数以下の範囲で設定し、前記車速が所定の停止判定値以下のときに、前記車速が前記停止判定値より高いときよりも前記上限回転数を低く設定する。
【0015】
この態様によれば、ポンプ入口の負圧を抑制すると共に、燃料電池の温度を安定化させることができる燃料電池システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上の構成によれば、ポンプ入口の負圧を抑制すると共に、燃料電池の温度を安定化させることができる燃料電池システム及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図4】燃料電池制御装置が実行する冷媒循環ポンプ制御の手順を示すフロー図
【
図5】(A)停止時発電制御、(B)低温時制御の実行時の冷媒循環ポンプの目標回転数を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る燃料電池システム1の実施形態について説明する。燃料電池システム1は、車両2に搭載されている。
図1に示すように、燃料電池システム1は、燃料電池スタック4と、燃料電池スタック4に燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置5と、燃料電池スタック4に酸化剤を供給する酸化剤ガス供給装置6と、燃料電池スタック4に冷媒を供給する冷媒供給装置7と、燃料電池制御装置8とを有する。本実施形態では、燃料ガスは水素ガスであり、酸化剤ガスは空気である。
【0019】
燃料電池スタック4は、互いに積層された複数の発電セル10を有する。各発電セル10は、電解質膜・電極構造体11と、電解質膜・電極構造体11を挟持する第1セパレータ12及び第2セパレータ13とを有する。第1セパレータ12及び第2セパレータ13は、金属又はカーボンから形成されるとよい。
【0020】
電解質膜・電極構造体11は、固体高分子電解質膜15と、固体高分子電解質膜15を挟持するアノード電極16及びカソード電極17とを有する。固体高分子電解質膜15は、水分を含むパーフルオロスルホン酸といったフッ素系電解質の薄膜であるとよい。また、固体高分子電解質膜15は、炭化水素系電解質の薄膜であってもよい。
【0021】
第1セパレータ12と電解質膜・電極構造体11との間には、アノード電極16に水素ガスを供給するための水素ガス流路21が形成される。第2セパレータ13と、電解質膜・電極構造体11との間には、カソード電極17に空気を供給するための空気流路22が形成される。互いに隣接する第1セパレータ12と第2セパレータ13との間には、冷媒が流通する冷媒流路23が形成される。
【0022】
燃料電池スタック4には、水素ガス入口24、水素ガス出口25、空気入口26、空気出口27、冷媒入口28及び冷媒出口29が設けられる。水素ガス入口24は、各水素ガス流路21の供給側に接続している。水素ガス出口25は、各水素ガス流路21の排出側に接続している。空気入口26は、各空気流路22の供給側に接続している。空気出口27は、各空気流路22の排出側に接続している。冷媒入口28は、冷媒流路23の供給側に接続している。冷媒出口29は、各冷媒流路23の排出側に接続している。
【0023】
燃料ガス供給装置5は、高圧水素ガスを貯留する水素タンク31を有する。水素タンク31は、水素ガス供給路32を介して燃料電池スタック4の水素ガス入口24に接続されている。水素ガス供給路32には、インジェクタ33とエゼクタ34が直列に設けられている。エゼクタ34は、内部が負圧になることによって、水素ガス排出路35から水素を吸引する。
【0024】
燃料電池スタック4の水素ガス出口25には、水素ガス排出路35が接続されている。水素ガス排出路35は、アノード電極16で少なくとも一部が使用された水素ガスであるアノードオフガス(排出水素ガス)を、燃料電池スタック4から排出する。水素ガス排出路35はエゼクタ34に接続されている。
【0025】
水素ガス排出路35には、気液分離装置37が設けられている。気液分離装置37は、アノードオフガスから液体を分離し、分離した液体をドレイン排出路38に排出する。ドレイン排出路38にはドレイン弁39が設けられている。気液分離装置37を分離された気体は、水素ガス排出路35を介してエゼクタ34に吸引される。
【0026】
酸化剤ガス供給装置6は、空気供給路41を有する。空気供給路41の一端には、大気から空気を取り込むための空気吸入口42が設けられている。空気供給路41の他端は、燃料電池スタック4の空気入口26に接続されている。空気供給路41には、空気吸入口42側からエアポンプ44、温度調節器45、加湿器46が直列に設けられている。エアポンプ44は、電動モータによって駆動される圧縮機である。温度調節器45は、電熱線を含むヒータであるとよい。
【0027】
燃料電池スタック4の空気出口27には、空気排出路48が接続されている。空気排出路48は、少なくとも一部がカソード電極17で使用された圧縮空気であるカソードオフガスを、燃料電池スタック4から排出する。
【0028】
空気排出路48には、加湿器46が設けられている。加湿器46では、エアポンプ44から供給された圧縮空気とカソードオフガスとが、水分及び熱を交換する。燃料電池スタック4から排出されるカソードオフガスは、空気供給路41を通過する圧縮空気よりも温度が高く、かつ湿度が高い。そのため、エアポンプ44から供給された圧縮空気は加湿器46において、温度及び湿度が上昇する。加湿器46は、中空糸膜を使用した膜透過方式の加湿器46であるとよい。加湿器46は、中空糸膜によって隔離された圧縮空気が通過する流路とカソードオフガスが通過する流路とを有するとよい。
【0029】
空気供給路41の温度調節器45と加湿器46との間の部分と、空気排出路48の加湿器46の下流側部分とは、空気バイパス流路51によって接続されている。空気バイパス流路51には、空気バイパス流路51を流通する空気の流量を調整する空気流量調整弁52が設けられている。空気排出路48の下流には、ドレイン排出路38が接続されている。空気排出路48の出口は、カソードオフガスと、アノードオフガスから分離された液体とを外部に排出する。
【0030】
水素ガス排出路35の気液分離装置37とエゼクタ34との間の部分と、空気供給路41の加湿器46と空気入口26との間の部分はアノードオフガス導入路55によって接続されている。アノードオフガス導入路55には開閉弁56が設けられている。アノードオフガス導入路55は、空気供給路41にアノードオフガスを供給する。
【0031】
冷媒供給装置7は、燃料電池スタック4の冷媒入口28に接続された冷媒供給路61と、燃料電池スタック4の冷媒出口29に接続された冷媒排出路62と、冷媒供給路61と冷媒排出路62とに接続されたラジエータ63とを有する。冷媒供給路61には、冷却媒体を循環させる冷媒循環ポンプ64が設けられている。冷媒供給路61、冷媒排出路62、及びラジエータ63は、冷媒が循環する冷媒循環路65を構成する。冷媒循環路65は燃料電池スタック4に接続されている。
【0032】
冷媒供給路61におけるラジエータ63と冷媒循環ポンプ64との間の部分にはサーモスタット弁67が設けられている。サーモスタット弁67は、冷媒供給路61を流通する冷媒が高温であるときには開状態となり、低温であるときには閉状態となる。冷媒排出路62と冷媒供給路61とは、ラジエータ63及びサーモスタット弁67をバイパスする冷媒バイパス路68によって接続されている。冷媒バイパス路68は、冷媒供給路61においてサーモスタット弁67と冷媒循環ポンプ64の間の部分に接続している。サーモスタット弁67が閉状態にあるときには、冷媒は冷媒排出路62から冷媒バイパス路68を経由して冷媒供給路61に流れる。
【0033】
冷媒供給路61におけるサーモスタット弁67と冷媒循環ポンプ64との間の部分には調整弁71を介してリザーブタンク72が接続されている。詳細には、リザーブタンク72は、冷媒供給路61における冷媒バイパス路68との接続部と冷媒循環ポンプ64との間の部分に、調整弁71を介して接続されているとよい。冷媒供給路61において、冷媒循環ポンプ64の入口に接続された部分の冷媒の圧力をポンプ入口圧という。調整弁71は、ポンプ入口圧が所定の第1圧力以下になったときに開く。これにより、リザーブタンク72から冷媒供給路61に冷媒が供給される。一方、調整弁71は、ポンプ入口圧が第1圧力より高い所定の第2圧力以上になったときに開く。これにより、冷媒供給路61からリザーブタンク72に冷媒が排出される。
【0034】
冷媒供給路61及び冷媒排出路62は、冷却水への金属イオンの溶出を防止し、冷媒の絶縁性を維持するために、樹脂やゴムによって形成されている。
【0035】
冷媒供給路61において、冷媒入口28と冷媒循環ポンプ64との間には冷媒の温度を測定する入口温度センサ75が設けられている。入口温度センサ75は、冷媒入口28に流入する冷媒の温度を測定する。冷媒排出路62において、冷媒出口29と冷媒バイパス路68の間には冷媒の温度を測定する出口温度センサ76が設けられている。出口温度センサ76は、冷媒出口29から流出する冷媒の温度を測定する。入口温度センサ75及び出口温度センサ76は、燃料電池スタック4の温度を取得する温度取得手段として機能する。
【0036】
燃料電池制御装置8は、CPU、不揮発性メモリ(ROM)、及び揮発性メモリ(RAM)等を含む電子制御装置(ECU)である。
図2に示すように、燃料電池制御装置8は、空気ポンプ、インジェクタ33、冷媒循環ポンプ64、開閉弁56、ドレイン弁39、空気流量調整弁52を制御する。
【0037】
燃料電池制御装置8は、車両2の走行を制御する車両制御装置81と接続されている。車両制御装置81は、燃料電池制御装置8と同様に、CPU、不揮発性メモリ及び、揮発性メモリ等を含む電子制御装置(ECU)である。車両制御装置81は、アクセルペダルやブレーキペダル、ステアリングホイール等の運転操作子82や、車速センサ83や温度センサ等の車両センサ84、電源スイッチ85(イグニッションスイッチ)等の各種スイッチ86からの信号に基づいて、駆動源としての電動モータ87や、ブレーキ装置88、操舵装置89を制御する。燃料電池制御装置8と車両制御装置81とは、一体に形成されてもよい。燃料電池制御装置8及び車両制御装置81は、バッテリ91に接続されている。
【0038】
電源スイッチ85は、ユーザによってオン、オフ操作される、車両制御装置81は、電源スイッチ85からの信号に基づいて、車両2の電力供給状態を変更する。具体的には、車両制御装置81は、電源スイッチ85がオンであるときに、電力供給状態をオン状態にし、燃料電池スタック4及びバッテリ91から電動モータ87への電力供給を可能にする。一方、車両制御装置81は、電源スイッチ85がオフであるときに、電力供給状態をオフ状態にし、燃料電池スタック4及びバッテリ91から電動モータ87への電力供給を禁止する。
【0039】
車速センサ83は、車両2の速度を取得するセンサである。車速センサ83は、例えば車輪の回転数を検出するセンサや、電動モータ87の回転数を検出するセンサであってよい。
【0040】
車両制御装置81は、電動モータ87の要求駆動力を決定し、要求駆動力に基づいて電動モータ87を制御する。車両制御装置81は、例えばアクセルペダルの踏込量に基づいて要求駆動力を決定するとよい。また、車両制御装置81は、アクセルペダルの踏込量と車速とに基づいて要求駆動力を決定してもよい。また、車両制御装置81は、自動運転制御を実行し、行動計画に基づいて要求駆動力を決定してもよい。
【0041】
燃料電池制御装置8は、要求駆動力、電力供給状態、及び車速に関する情報を車両制御装置81から受け取る。また、燃料電池制御装置8は、入口温度センサ75及び出口温度センサ76と接続されており、入口温度センサ75及び出口温度センサ76から冷媒の温度に関する信号を受け取る。
【0042】
燃料電池制御装置8は、車両2の走行に必要な電力を供給する走行時発電制御を実行する。燃料電池制御装置8は、走行時発電制御において、要求駆動力に基づいて燃料電池スタック4の目標発電量を決定する。要求駆動力と燃料電池スタック4の目標発電量との関係はマップによって規定されているとよい。また、燃料電池制御装置8は、目標発電量に基づいてインジェクタ33の開度及びエアポンプ44の駆動量を決定する。目標発電量とインジェクタ33の開度及びエアポンプ44の駆動量との関係はマップによって規定されているとよい。燃料電池制御装置8は、インジェクタ33の開度及びエアポンプ44の駆動量に基づいて、インジェクタ33及びエアポンプ44を制御し、燃料電池スタック4に水素及び空気を供給する。燃料電池制御装置8が実行する走行時発電制御によって、燃料電池スタック4は車両2の要求駆動力に応じて発電量を変化させる。
【0043】
燃料電池制御装置8は、車両2が停止しており、かつバッテリ91の残量が所定値以下であるときに、バッテリ91を充電するための停止時発電制御を実行する。燃料電池制御装置8は、車速が停止判定値以下であり、かつバッテリ91のSOCが所定のSOC判定値以下であるときに停止時発電制御を実行する。停止判定値は、車両2が停止しているとみなせる車速に設定されている。SOC判定値は、バッテリ91の充電が必要であると判断するために設定された値である。燃料電池制御装置8は、停止時発電制御において、所定の目標発電量を設定し、目標発電量に基づいてインジェクタ33の開度及びエアポンプ44の駆動量を決定する。燃料電池制御装置8は、インジェクタ33の開度及びエアポンプ44の駆動量に基づいて、インジェクタ33及びエアポンプ44を制御し、燃料電池スタック4に水素及び空気を供給する。これにより、燃料電池スタック4において酸化還元反応が起こり、発電が行われる。
【0044】
燃料電池制御装置8は、燃料電池スタック4の温度と、目標発電量とに基づいて冷媒循環ポンプ64を制御する。燃料電池制御装置8は、入口温度センサ75が検出した冷媒入口28における冷媒温度(冷媒入口温度という)と、出口温度センサ76が検出した冷媒出口29における冷媒温度(冷媒出口温度という)との少なくとも一方に基づいて燃料電池スタック4の温度を推定するとよい。例えば、燃料電池制御装置8は、冷媒出口温度と燃料電池スタック4との関係を規定したマップを用いて燃料電池スタック4の温度を推定するとよい。また、燃料電池制御装置8は、冷媒入口温度と冷媒出口温度との差と燃料電池スタック4との関係を規定したマップを用いて燃料電池スタック4の温度を推定してもよい。他の実施形態では、燃料電池スタック4に温度センサが設けられ、温度センサが燃料電池スタック4の温度を直接に取得してもよい。
【0045】
燃料電池制御装置8は、燃料電池スタック4の温度と、目標発電量とに基づいて冷媒循環ポンプ64の上限回転数(rpm)を設定する。燃料電池スタック4の温度と、目標発電量と、冷媒循環ポンプ64の上限回転数との関係は上限回転数マップによって規定されている。上限回転数マップは条件に応じて複数用意されているとよい。
【0046】
本実施形態では、燃料電池制御装置8は、車速が停止判定値より大きいときに第1マップを使用し、車速が停止判定値以下のときに第2マップを使用する。第1マップ及び第2マップでは、目標発電量が増加すると冷媒循環ポンプ64の上限回転数が増加するように設定され、かつ燃料電池スタック4の温度が増加すると冷媒循環ポンプ64の上限回転数が増加するように設定されている。
【0047】
第2マップに基づいて設定される上限回転数は、第1マップに基づいて設定される上限回転数以下である。すなわち、第2マップを使用して上限回転数を設定すると、第1マップを使用する場合よりも上限回転数が抑制される。
【0048】
また、第2マップでは、燃料電池スタック4の温度が所定の温度閾値以上である場合において、燃料電池スタック4の発電量が所定の発電量閾値以下のときに、燃料電池スタック4の発電量が前記発電量閾値より大きいときよりも上限回転数を低く設定されている。これにより、燃料電池スタック4の温度が同じであっても、発電量が低い場合には上限回転数が低く設定される。
【0049】
図3は、第2マップの例を示す。
図3において、第3上限回転数は第1上限回転数より高く、第4上限回転数は第3上限回転数より高く設定されている。第4上限回転数と第3上限回転数との関係から、燃料電池スタック4の温度が同じであっても、燃料電池スタック4の発電量が低い場合には、上限回転数が低くなることが判る。第2上限回転数は、任意設定されてよい。例えば、第2上限回転数は、第3上限回転数より高く、かつ第4上限回転数より低く設定されてもよい。
【0050】
燃料電池制御装置8は、燃料電池スタック4の温度に基づいて冷媒循環ポンプ64の回転数を上限回転数以下の範囲で設定する。燃料電池制御装置8は、例えば燃料電池スタック4の温度と冷媒循環ポンプ64の回転数とを規定したマップを使用して、燃料電池スタック4の温度に基づいて冷媒循環ポンプ64の回転数を暫定回転数として取得する。そして、暫定回転数が上限回転数以下である場合に暫定回転数を目標回転数として設定し、暫定回転数が上限回転数より大きい場合に上限回転数を目標回転数として設定するとよい。
【0051】
燃料電池制御装置8は、設定された目標回転数に基づいて冷媒循環ポンプ64に供給する電力を制御し、冷媒循環ポンプ64を目標回転数で駆動させる。
【0052】
燃料電池制御装置8は、車両2が停止しており、かつ燃料電池スタック4の温度が所定の低温閾値以下であるときに、冷媒循環ポンプ64を所定の低温時回転数で駆動する低温時制御を実行する。燃料電池制御装置8による低温時制御によって、燃料電池スタック4に冷却媒体が供給され、燃料電池スタック4が冷却媒体によって昇温される。これにより、燃料電池スタック4の凍結が防止される。
【0053】
次に、
図4を参照して、燃料電池制御装置8による冷媒循環ポンプ制御の手順について説明する。燃料電池制御装置8は、所定の時間間隔で冷媒循環ポンプ制御を実行する。最初に、燃料電池制御装置8は、目標発電量を取得する(S1)。目標発電量は、上述したように、燃料電池制御装置8が実行する走行時発電制御や停止時発電制御を実行するときに算出される。
【0054】
次に、燃料電池制御装置8は、車両制御装置81から取得した電源供給状態に関する情報に基づいて、電源供給状態がオンであるか否かを判定する(S2)。
【0055】
電源供給状態がオンである場合(S2の判定結果がYes)、燃料電池制御装置8は車両2が停止中であるか否かを判定する(S3)。燃料電池制御装置8は、車速が停止判定値以下である場合に、車両2が停止していると判定するとよい。
【0056】
車両2が停止中である場合(S3の判定結果がYes)、燃料電池制御装置8は第2マップを使用して、燃料電池スタック4の温度と目標発電量とに基づいて冷媒循環ポンプ64の上限回転数を設定する(S4)。
【0057】
車両2が停止中でない場合(S3の判定結果がNo)、燃料電池制御装置8は第1マップを使用して、燃料電池スタック4の温度と目標発電量とに基づいて冷媒循環ポンプ64の上限回転数を設定する(S5)。
【0058】
燃料電池制御装置8は、ステップS4又はS5において冷媒循環ポンプ64の上限回転数を設定した後、燃料電池スタック4の温度と冷媒循環ポンプ64の上限回転数とに基づいて冷媒循環ポンプ64の目標回転数を設定する(S6)。そして、燃料電池制御装置8は、冷媒循環ポンプ64の目標回転数に基づいて冷媒循環ポンプ64を制御する(S7)。
【0059】
電源供給状態がオンでない場合(S2の判定結果がNo)、燃料電池制御装置8は、停止時発電制御を実行中であるか否かを判定する(S8)。停止時発電制御が実行されている場合(S8の判定結果がYes)、燃料電池制御装置8は、冷媒循環ポンプ64の目標回転数の単位時間当たりの変化量を抑制するための第1レートリミットを設定する(S9)。第1レートリミットは、許容できる冷媒循環ポンプ64の目標回転数の単位時間当たりの変化量として設定されている。続いて、燃料電池制御装置8は、停止時発電制御における冷媒循環ポンプ64のベース回転数と、第1レートリミットとに基づいて冷媒循環ポンプ64の目標回転数を設定する(S10)。停止時発電制御における冷媒循環ポンプ64のベース回転数は、予め設定されたマップに基づいて設定されるとよい。マップでは、停止時発電制御の開始時からの経過時間に対してベース回転数が設定されているとよい。目標回転数は、ベース回転数に基づいて、時間当たりの変化量が第1レートリミット以下になるように設定される。これにより、
図5(A)に示すように、目標回転数の急激な上昇が抑制される。燃料電池制御装置8は、ステップS10で冷媒循環ポンプ64の目標回転数を設定した後、冷媒循環ポンプ64の目標回転数に基づいて冷媒循環ポンプ64を制御する(S7)。
【0060】
停止時発電制御が実行されていない場合(S8の判定結果がNo)、燃料電池制御装置8は、低温時制御を実行中であるか否かを判定する(S11)。低温時制御が実行されている場合(S11の判定結果がYes)、燃料電池制御装置8は、冷媒循環ポンプ64の目標回転数の単位時間当たりの変化量を抑制するための第2レートリミットを設定する(S12)。第2レートリミットは、許容できる冷媒循環ポンプ64の目標回転数の単位時間当たりの変化量として設定されている。第2レートリミットは、第1レートリミットと等しい値であってもよく、第1レートリミットと相違していてもよい。続いて、燃料電池制御装置8は、低温時制御における冷媒循環ポンプ64のベース回転数と、第2レートリミットとに基づいて冷媒循環ポンプ64の目標回転数を設定する(S13)。低温時制御における冷媒循環ポンプ64のベース回転数は、予め設定されたマップに基づいて設定されるとよい。マップでは、低温時制御の開始時からの経過時間に対してベース回転数が設定されているとよい。目標回転数は、ベース回転数に基づいて、時間当たりの変化量が第2レートリミット以下になるように設定される。これにより、
図5(B)に示すように、目標回転数の急激な上昇が抑制される。燃料電池制御装置8は、ステップS13で冷媒循環ポンプ64の目標回転数を設定した後、冷媒循環ポンプ64の目標回転数に基づいて冷媒循環ポンプ64を制御する(S7)。
【0061】
低温時制御が実行されていない場合(S11の判定結果がNo)、燃料電池制御装置8は冷媒循環ポンプ64を停止させる(S14)。
【0062】
以上の構成によれば、電源供給状態がオンであり、かつ車両2が走行中の場合、冷媒循環ポンプ64の上限回転数は第1マップに基づいて設定される。一方、電源供給状態がオンであり、かつ車両2が停止中の場合、冷媒循環ポンプ64の上限回転数は第2マップに基づいて設定される。第2マップでは、第1マップに比較して冷媒循環ポンプ64の上限回転数が低く設定されている。そのため、車両2が停止中の場合、車両2が走行中の場合に比べて、冷媒循環ポンプ64の目標回転数は低く設定される。車両2が停止中(車速が停止判定値以下)のときには、燃料電池スタック4の発電量が低下し、温度が低下することが予想される。そのため、冷媒循環ポンプ64の回転数が抑制されても燃料電池スタック4の温度上昇が抑制される。これにより、冷媒循環ポンプ64の入口における負圧を抑制すると共に、燃料電池の温度を安定化させることができる燃料電池システム1を提供することができる。冷媒循環ポンプ64の入口における負圧が抑制されることによって、冷媒供給路61の変形や冷媒循環ポンプ64におけるキャビテーションが抑制される。
【0063】
また、第2マップでは、燃料電池スタック4の温度が所定の温度閾値以上である場合において、燃料電池スタック4の発電量が所定の発電量閾値以下のときに、燃料電池スタック4の発電量が発電量閾値より大きいときよりも上限回転数を低く設定されている。これにより、燃料電池スタック4の温度が同じであっても、発電量が低い場合には上限回転数が低く設定される。燃料電池スタック4の発電量が発電量閾値以下のときには、温度が低下することが予想される。そのため、冷媒循環ポンプ64の回転数が抑制されても燃料電池の温度上昇が抑制される。
【0064】
また、燃料電池制御装置8は、車速が停止判定値以下である場合に、車速が停止判定値より高いときよりもポンプの回転数の上昇速度上限値を低く設定する。車両2が停止している場合には、要求駆動力に基づいて設定される燃料電池スタック4の発電量が低下するため、冷媒循環ポンプ64の回転数が抑制されても燃料電池の温度上昇が抑制される。
【0065】
電源供給状態がオフであり、かつ停止時発電制御又は低温時制御が実行中の場合、レートリミットが設定され、レートリミットによって目標回転数が抑制される。電源供給状態がオフである場合、電源供給状態がオンである場合に比べて燃料電池スタック4の発電量が低下し、温度が低下することが予想される。そのため、冷媒循環ポンプ64の回転数の上昇速度が抑制されても燃料電池スタック4の温度上昇が抑制される。これにより、冷媒循環ポンプ64の入口における負圧を抑制すると共に、燃料電池の温度を安定化させることができる燃料電池システム1を提供することができる。
【0066】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 :燃料電池システム
4 :燃料電池スタック
7 :冷媒供給装置
8 :燃料電池制御装置
23 :冷媒流路
28 :冷媒入口
29 :冷媒出口
61 :冷媒供給路
62 :冷媒排出路
63 :ラジエータ
64 :冷媒循環ポンプ
65 :冷媒循環路
67 :サーモスタット弁
68 :冷媒バイパス路
71 :調整弁
72 :リザーブタンク
75 :入口温度センサ
76 :出口温度センサ
81 :車両制御装置
83 :車速センサ
85 :電源スイッチ
87 :電動モータ